(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138456
(43)【公開日】2024-10-08
(54)【発明の名称】改変された制御性T細胞
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20241001BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20241001BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20241001BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20241001BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20241001BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20241001BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20241001BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20241001BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20241001BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20241001BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20241001BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20241001BHJP
A61P 17/04 20060101ALI20241001BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20241001BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20241001BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20241001BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20241001BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20241001BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20241001BHJP
C07K 14/715 20060101ALN20241001BHJP
【FI】
C12N5/10
C12N5/0783 ZNA
C07K19/00
C07K16/28
C12N15/12
C12N15/62 Z
A61K35/17
A61P37/06
A61P37/02
A61P37/08
A61P29/00
A61P17/06
A61P17/04
A61P1/04
A61P11/06
A61P19/02
A61P3/10
A61P25/00
A61P13/12
A61P29/00 101
C12N5/0783
C12N5/10 ZNA
C07K14/715
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024111754
(22)【出願日】2024-07-11
(62)【分割の表示】P 2021510710の分割
【原出願日】2019-08-30
(31)【優先権主張番号】1814203.4
(32)【優先日】2018-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】500532757
【氏名又は名称】キングス カレッジ ロンドン
【氏名又は名称原語表記】KINGS COLLEGE LONDON
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】マルティネス‐ローデラ、マーク
(72)【発明者】
【氏名】サンチェス‐フエヨ、アルベルト
(72)【発明者】
【氏名】ロンバルディ、ジョバンナ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】移植に対する寛容の誘導等に用いられる、キメラ抗原受容体(CAR)を含む改変された制御性T細胞(Treg)を提供する。
【解決手段】移植に対する寛容性の誘導における使用のための、移植片対宿主病(GvHD)、自己免疫疾患またはアレルギー疾患の、治療および/または予防における使用のための、組織の修復および/または組織の再生を促進するために使用するための、または、代謝異常の二次的症状である慢性炎症を改善するために使用するための、キメラ抗原受容体(CAR)を含む改変された(engineered)制御性T細胞(Treg)であって、前記CARが、STAT5関連モチーフと、JAK1および/またはJAK2結合モチーフとを含むエンドドメインを含む、CARを含む改変されたTregを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移植に対する寛容性の誘導における使用のための、移植片対宿主病(GvHD)、自己免疫疾患またはアレルギー疾患の治療および/または予防における使用のための、組織の修復および/または組織の再生を促進するために使用するための、または、代謝異常の二次的症状である慢性炎症を改善するために使用するための、キメラ抗原受容体(CAR)を含む改変された(engineered)制御性T細胞(Treg)であって、前記CARが、STAT5関連モチーフと、JAK1および/またはJAK2結合モチーフとを含むエンドドメインを含む、改変された制御性T細胞(Treg)。
【請求項2】
Tregが、Foxp3+Tregである、請求項1に記載の使用のための改変されたTreg。
【請求項3】
前記CARエンドドメインが、STAT3関連モチーフを含まない、請求項1または2に記載の使用のための改変されたTreg。
【請求項4】
前記CARエンドドメインが、アミノ酸配列YXXQ(配列番号52)を含まない、請求項1または2に記載の使用のための改変されたTreg。
【請求項5】
前記CARエンドドメインが、2個以上のSTAT5関連モチーフを含む、先行する請求項のいずれかに記載の使用のための改変されたTreg。
【請求項6】
1個以上のSTAT5関連モチーフが、インターロイキン受容体(IL)受容体エンドドメイン由来である、先行する請求項のいずれかに記載の使用のための改変されたTreg。
【請求項7】
前記1個以上のSTAT5関連モチーフは、IL2Rβ、IL7Rα、IL-3Rβ(CSF2RB)、IL-9R、IL-17Rβ、エリスロポエチン受容体、トロンボポエチン受容体、成長ホルモン受容体、およびプロラクチン受容体由来である、請求項1~6のいずれかに記載の使用のための改変されたTreg。
【請求項8】
前記STAT5関連モチーフは、アミノ酸モチーフYXXF/L(配列番号8)を含み、Xは任意のアミノ酸である、先行する請求項のいずれかに記載の使用のための改変されたTreg。
【請求項9】
前記STAT5関連モチーフは、アミノ酸モチーフYCTF(配列番号9)、YFFF(配列番号10)、YLSL(配列番号11)、および/またはYLSLQ(配列番号12)の1個以上を含む、先行する請求項のいずれかに記載の使用のための改変されたTreg。
【請求項10】
前記STAT5関連モチーフは、アミノ酸モチーフYLSLQ(配列番号12)を含む、請求項9に記載の使用のための改変されたTreg。
【請求項11】
前記エンドドメインは、アミノ酸モチーフYLSLQ(配列番号12)を含む第1のSTAT5関連モチーフと、アミノ酸モチーフYCTF(配列番号9)またはYFFF(配列番号10)を含む第2のSTAT5関連モチーフとを含む、請求項10に記載の使用のための改変されたTreg。
【請求項12】
前記エンドドメインは、下記STAT5関連モチーフ:YLSLQ(配列番号12)、YCTF(配列番号9)、およびYFFF(配列番号10)を含む、請求項11に記載の使用のための改変されたTreg。
【請求項13】
前記JAK結合モチーフが、JAK-1結合モチーフである、先行する請求項のいずれかに記載の使用のための改変されたTreg。
【請求項14】
前記JAK1結合モチーフが、インターロイキン受容体(IL)受容体エンドドメイン由来である、請求項13に記載の使用のための改変されたTreg。
【請求項15】
前記JAK1結合モチーフが、配列番号13~19のいずれか1つとして示されるアミノ酸モチーフ、または、配列番号13~19に対して少なくとも80%の同一性を有する変異体を含む、先行する請求項のいずれかに記載の使用のための改変されたTreg。
【請求項16】
前記JAK1結合モチーフが、配列番号13として示されるアミノ酸モチーフであるか、または、配列番号13に対して少なくとも80%の同一性を有する変異体である、請求項15に記載の使用のための改変されたTreg。
【請求項17】
前記CARエンドドメインが、配列番号1として示されるIL2Rβエンドドメイン、または、配列番号1に対して少なくとも80%の配列同一性を有する変異体を含む、先行する請求項のいずれかに記載の使用のための改変されたTreg。
【請求項18】
前記CARエンドドメインが、配列番号23または24として示される切断型IL2Rβエンドドメイン、または、配列番号23または24のいずれかに対して少なくとも80%の配列同一性を有する変異体を含む、請求項1~17のいずれかに記載の使用のための改変されたTreg。
【請求項19】
前記CARエンドドメインが、JAK3結合モチーフをさらに含む、先行する請求項のいずれかに記載の使用のための改変されたTreg。
【請求項20】
前記JAK3結合モチーフが、配列番号25または26、もしくは、配列番号25または26に対して少なくとも80%の配列同一性を有する変異体を含む、請求項19に記載の使用のための改変されたTreg。
【請求項21】
前記CARエンドドメインが、配列番号45または53、もしくは、配列番号45または53に対して少なくとも80%の配列同一性を有する変異体を含む、請求項19または20に記載の使用のための改変されたTreg。
【請求項22】
移植に対する寛容性の誘導における使用のための、移植片対宿主病(GvHD)、自己免疫疾患またはアレルギー疾患の治療および/または予防における使用のための、組織の修復および/または組織の再生を促進するために使用するための、または、代謝異常の二次的症状である慢性炎症を改善するために使用するための、請求項1~21のいずれか1項で定義される改変されたTregを含む医薬組成物。
【請求項23】
移植に対する寛容を誘導する方法、移植片対宿主病(GvHD)、自己免疫疾患またはアレルギー疾患を治療および/または予防する方法、または組織の修復および/または組織の再生を促進するための方法、または、代謝異常の二次的症状である慢性炎症を改善するための方法であって、前記方法は、請求項1~20のいずれか1項で定義される改変されたTreg、または、請求項1~20のいずれか1項で定義される改変されたTregを含む医薬組成物を、対象に投与する工程を含む方法。
【請求項24】
(i)対象からTreg富化細胞サンプルを単離する、または得る工程と
(ii)ポリヌクレオチド、核酸コンストラクト、または請求項1~20のいずれか1項で定義されるCARをコードするベクターを、前記Treg細胞に形質導入または遺伝子導入する工程と、
(iii)前記対象に、(ii)からの前記細胞を投与する工程を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
移植に対する寛容を誘導するための薬剤、移植の細胞性拒絶反応および/または液性拒絶反応を治療および/または予防するための薬剤、移植片対宿主病(GvHD)、自己免疫疾患またはアレルギー疾患を治療および/または予防するための薬剤、または、組織の修復および/または組織の再生を促進するための薬剤、または、代謝異常の二次的症状である慢性炎症を改善するための薬剤の製造における、請求項1~19で定義された改変されたTregの使用。
【請求項26】
対象が免疫抑制治療を受けている移植レシピエントである、請求項1~22のいずれか1項に記載の使用のための改変されたTregまたは医薬組成物、請求項23または24に記載の方法、または請求項25に記載の使用。
【請求項27】
移植が、肝臓、腎臓、心臓、肺臓、膵臓、小腸、胃、骨髄、血管柄付複合組織移植、および皮膚の移植から選択される、請求項26に記載の使用のための改変されたTregまたは医薬組成物、請求項26に記載の方法、または請求項26に記載の使用。
【請求項28】
移植が、肝臓移植である、請求項27に記載の使用のための改変されたTregまたは医薬組成物、請求項27に記載の方法、または請求項27に記載の使用。
【請求項29】
前記CARは、抗原結合ドメインを含み、
前記抗原結合ドメインは、前記移植された肝臓に存在するが前記レシピエントには存在しないHLA抗原(NTCPなど)の肝臓特異的な抗原、または、拒絶や組織炎症の間に発現が増加する抗原(CCL19、MMP9、SLC1A3、MMP7、HMMR、TOP2A、GPNMB、PLA2G7、CXCL9、FABP5、GBP2、CD74、CXCL10、UBD、CD27、CD48、CXCL11など)から選択される抗原と特異的に結合できる抗原結合ドメインを含む、請求項28に記載の使用のための改変されたTregまたは医薬組成物、請求項28に記載の方法、または請求項28に記載の使用。
【請求項30】
前記CARは、移植ドナーに存在するが移植レシピエントには存在しないHLA抗原と特異的に結合できる抗原結合ドメインを含む、請求項29に記載の使用のための改変されたTregまたは医薬組成物、請求項29に記載の方法、または請求項29に記載の使用。
【請求項31】
前記抗原がHLA-A2である、請求項30に記載の使用のための改変されたTregまたは医薬組成物、請求項30に記載の方法、または請求項30に記載の使用。
【請求項32】
前記CARは、配列番号34、または配列番号34に対して少なくとも80%の同一性を有する変異体を含む抗原結合ドメインを含む、請求項31に記載の使用のための改変されたTregまたは医薬組成物、請求項31に記載の方法、または請求項31に記載の使用。
【請求項33】
前記自己免疫疾患またはアレルギー疾患は、乾癬や皮膚炎(たとえば、アトピー性皮膚炎)などの炎症性皮膚病;炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎など)に関連した反応;皮膚炎;食物アレルギー、湿疹や喘息などのアレルギー症状;慢性関節リュウマチ;全身性エリテマトーデス(SLE)(ループス腎炎、皮膚ループスを含む);真性糖尿病(たとえば、I型真性糖尿病や、インスリン依存性糖尿病);多発性硬化症や若年型糖尿病から選択される、請求項1~25のいずれか1項に記載の使用のための改変されたTregまたは医薬組成物、方法、または使用。
【請求項34】
STAT5関連モチーフと、JAK1および/またはJAK2結合モチーフとを含むが、STAT3関連モチーフを含まないエンドドメインを含む、キメラ抗原受容体(CAR)。
【請求項35】
STAT5関連モチーフと、JAK1および/またはJAK2結合モチーフとを含むが、アミノ酸配列YXXQ(配列番号52)を含まないエンドドメインを含む、CAR。
【請求項36】
STAT5関連モチーフと、JAK1および/またはJAK2結合モチーフと、JAK3結合モチーフとを含むエンドドメインを含む、キメラ抗原受容体(CAR)。
【請求項37】
前記エンドドメインが、STAT3関連モチーフを含まない、請求項36に記載のCAR。
【請求項38】
前記エンドドメインは、アミノ酸配列YXXQ(配列番号52)を含まない、請求項36に記載のCAR。
【請求項39】
前記JAK3結合モチーフが、配列番号25または26、もしくは、配列番号25または26に対して少なくとも80%の配列同一性を有する変異体を含む、請求項36~38のいずれかに記載のCAR。
【請求項40】
前記CARエンドドメインが、配列番号45または53、もしくは、配列番号45または53に対して少なくとも80%の配列同一性を有する変異体を含む、請求項36~39のいずれかに記載のCAR。
【請求項41】
請求項34~40のいずれかに記載のCARをコードするポリヌクレオチド。
【請求項42】
請求項34~40のいずれかに記載のキメラ抗原受容体(CAR)、または請求項41に記載のポリヌクレオチドを含む、改変されたFoxp3+ Treg。
【請求項43】
請求項42に記載の改変されたTregを作製する方法方法であって、
(i)対象から細胞含有サンプルを単離する、または細胞含有サンプルを得る工程、および
(ii)前記細胞含有サンプルに、ポリヌクレオチド、核酸、または前記CARをコードするベクターを形質導入または遺伝子導入し、改変された細胞の集団を提供する工程を含み、
前記細胞含有サンプルが、Tregを含み、および/または、前記方法の工程(ii)の前またはその後に、Tregを富化する、および/または、Tregを前記細胞含有サンプルから生成する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改変された(engineered)制御性T細胞と、かかる細胞の治療目的の使用とに関する。特に、本発明は、インターロイキン-2(IL-2)の獲得が限られている微小環境から影響を受けにくい、改変された制御性T細胞に関する。
【0002】
発明の背景
制御性T細胞(Tregs)は、細胞変性免疫応答を制御し、免疫寛容の維持に必須である、抑制機能を有する免疫細胞である。Tregの抑制性は、たとえば、炎症性障害や自己免疫疾患、移植などにおける免疫介在性の器官損傷を改善および/または防止するためなど、治療目的に利用できる。Treg免疫療法では、通常、Tregを単離し、培養し、増殖させ、その後、患者へ注入する。このプロセスの一部として、Tregの生存率や機能を改善するために、および/または特定の抗原に対する反応性をTregに付与するために、サイトカイン、薬品、他の細胞や抗体と共にTregを培養してもよい。これら目的は、たとえばキメラ抗原受容体(CAR)を介して、所定の抗原を標的とするようにTregを遺伝子改変することにより、達成できる。
【0003】
増殖因子インターロイキン-2(IL-2)は、Tregの恒常性(発生、増殖、生存)、およびその抑制機能と表現型の安定性に、必須である。活性化された通常T細胞(Tcon)は、インビボでのIL-2の主要な発生源である。一方で、TregはIL-2を産生することができず、微小環境に存在するTconが産生したIL-2への傍分泌アクセスに依存している。
【0004】
IL-2の獲得は、インビトロで増殖されて患者に移植されるTregの治療効果への影響が大きい。これは、1)インビトロの増殖プロトコルは、概して、高濃度のIL-2を必要とし、このためTregはこのサイトカインへの依存度が高く、2)免疫抑制剤投与の結果、患者体内でIL-2の濃度が低下することが多く、3)炎症組織の微小組織内では、IL-2へのアクセスが限られていることが多いためである。炎症を起こしている肝臓ではIL-2のレベルが下がることが知られており、カルシニューリン阻害薬の常用でさらにそれが悪化し、TconがIL-2を生成する能力を実質的に減少させることを考えると、肝臓移植は特に困難な徴候を示す。低用量の外因性IL-2の投与は、カルシニューリン阻害薬によって誘発されるTreg機能障害を回復させ、Tregの肝臓における蓄積を促進する。しかしながら、低用量Tregの治療目的の使用については、同時にTconを活性化させ、これが組織損傷を助長しうる危険性が懸念される。
【0005】
WO2017/218850は、産生IL-2シグナルを提供するために、恒常的にSTAT5を発現するTregを改変することを記載している。しかし、このアプローチについてもいくつかの問題点が予想できる。恒常的にSTAT5を発現すると、改変されたTregが非特異的に強力に免疫抑制するかもしれず、改変されたTregの増殖率が高いため、内在性Tregプールを過剰増殖させ、T細胞受容体(TCR)レパートリーを減少させ、その結果、自己免疫ができうるという危険性がある。最後に、STAT5における変異がT細胞前リンパ球性白血病を促進することが知られており、また、STAT5が多くの癌で恒常的に活性化されることを考えると、これら改変されたTregは形質転換の危険性をもたらしうる。
【0006】
したがって、IL-2の獲得が限られている微小環境から影響を受けにくい、改変された制御性T細胞を生成するアプローチが必要であり、免疫抑制剤を投与された対象の中で増殖し生存する改変されたTregの効力を改善するアプローチが必要であることには、変わりが無い。
【0007】
発明の概要
本願の発明者らは、所定の抗原へのTregの結合の際に産生IL-2シグナルを提供することができる、改変された(engineered)制御性T細胞(Treg)を開発した。このように、本発明の改変されたTregは、内因性IL-2の投与を必要とせず、産生IL-2シグナルを抗原特異的な方法で提供することにより、養子移入されたTreg(adoptively transferred Treg)の高IL-2依存性に関連する問題に対処する。
【0008】
このように、第一態様において、本発明は、移植に対する寛容の誘導における使用のための、移植片対宿主病(GvHD)、自己免疫疾患、またはアレルギー疾患の治療および/または予防における使用のための、組織の修復および/または組織の再生を促進するために使用するための、または代謝異常の二次的症状である慢性炎症を改善する(ameliorate)ために使用するための、キメラ抗原受容体(CAR)を含む改変されたTregであって、前記CARが、STAT5関連モチーフと、JAK1および/またはJAK2結合モチーフとを含むエンドドメインを含む、改変されたTregを提供する。
【0009】
他の態様において、本発明は、移植に対する寛容の誘導における使用のための、GvHD、自己免疫疾患、またはアレルギー疾患の治療および/または予防における使用のための、組織の修復および/または組織の再生を促進するために使用するための、または代謝異常の二次的症状である慢性炎症を改善するために使用するための、本発明の第一の態様に係る改変されたTregを含む医薬組成物を提供する。
【0010】
本発明はさらに、移植に対する寛容を誘導する方法、GvHD、自己免疫疾患、またはアレルギー疾患を治療および/または予防する方法、または組織の修復および/または組織の再生を促進するための方法、または代謝異常の二次的症状である慢性炎症を改善するための方法に関し、前記方法は、本発明に係る改変されたTregまたは医薬組成物を、対象に投与する工程を含む。
【0011】
本発明はまた、移植に対する寛容を誘導するための薬剤、移植の細胞性拒絶反応および/または液性拒絶反応(cellular and/or humoral transplant rejection)を治療および/または予防するための薬剤、GvHD、自己免疫疾患、またはアレルギー疾患を治療および/または予防するための薬剤、または組織の修復および/または組織の再生を促進するための薬剤、または代謝異常の二次的症状である慢性炎症を改善するための薬剤の製造における、本発明にかかる改変されたTregの使用を提供する。
【0012】
好適には、対象は移植レシピエントであってもよく、本発明は移植組織(たとえば移植臓器)への寛容の誘導に関する。特に、対象は免疫抑制治療を受けている移植レシピエントであればよい。
【0013】
他の態様では、本発明は、STAT5関連モチーフと、JAK1および/またはJAK2結合モチーフとを含むが、STAT3関連モチーフを含まないエンドドメインを含むCARを提供する。
【0014】
好適には、前記CARエンドドメインは、アミノ酸配列YXXQ(配列番号52)を含まない。好適には、前記CARエンドドメインのIL2Rβ部分は、アミノ酸配列YXXQ(配列番号52)を含まない。
【0015】
さらなる態様では、本発明は、STAT5関連モチーフと、JAK1および/またはJAK2結合モチーフと、JAK3結合モチーフとを含むエンドドメインを含むCARを提供する。
【0016】
本発明はさらに、本発明のCARをコードするポリヌクレオチドと、本発明のCARをコードするベクターとを提供する。
【0017】
さらなる態様では、本発明は、本発明のCARを含む改変されたFoxp3+Treg、および治療に使用するための本発明のCARを含む、改変されたFoxp3+Tregを提供する。
【0018】
本発明は従って、同種抗原に対してCARが結合する時にのみ、CARがSTAT5介在性の生存促進性シグナルをTregへ提供する、CARを含む改変されたTregを提供する。特に、抗原認識後、当該CARが密集し、前記CARの細胞内シグナル伝達ドメイン(エンドドメイン)を介して、改変されたTregへシグナルが伝達される。当該CARが、STAT5関連モチーフとJAK1および/またはJAK2結合モチーフとを含むため、当該CARの密集によってSTAT5ならびにJAK1および/またはJAK2が集められ活性化され、微小環境におけるIL-2の獲得に依存することなく、抗原特異的に、前記改変されたTregの機能と生存とを向上する信号を提供する。
【0019】
本発明の前記改変されたTregは、対象のT細胞母集団(general T cell population)と比較して抗原を認識した後に、前記改変されたCAR-Tregに生存有意性を提供することにおいて、特に効果があればよい。特に、免疫抑制剤を使用してIL-2の獲得が減少する状況、たとえば移植などの状況で、当該CAR-TregのSTAT5シグナリングは、それが無ければ不利な微小環境において、本発明の細胞に対するさらなる生存と機能の効果を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1-本発明のCARコンストラクトを示す図
【
図2】
図2-抗HLA.A2 IL2R CARコンストラクトの設計例IL2Rエンドドメインの様々な組み合わせを含む抗HLA.A2 CARコンストラクトの例の概略図。(A)dCARコンストラクト:HLA.A2 scFv抗原認識ドメイン;CD28ヒンジドメイン;CD28TMおよびeGFP。(B)CD28zコンストラクト:HLA.A2 scFv抗原認識ドメイン;CD28ヒンジドメイン;CD28TM;CD28シグナル伝達ドメイン;CD3zシグナル伝達ドメインおよびeGFP。(C)IL2Rコンストラクト1:HLA.A2 scFv抗原認識ドメイン;CD28ヒンジドメイン;CD28TM;CD28シグナル伝達ドメイン;切断型(truncated)IL2RBエンドドメイン;CD3zシグナル伝達ドメインおよびeGFP。(D)IL2Rコンストラクト1:HLA.A2 scFv抗原認識ドメイン;CD28ヒンジドメイン;CD28TM;CD28シグナル伝達ドメイン;切断型IL2RB;切断型IL2RBエンドドメイン;CD3zシグナル伝達ドメインおよびeGFP。(E)IL2Rコンストラクト1:HLA.A2 scFv抗原認識ドメイン;CD28ヒンジドメイン;CD28TM;CD28シグナル伝達ドメイン;切断型IL2RBエンドドメイン;CD3zシグナル伝達ドメイン;FP2A切断ドメイン(cleavage domain)およびeGFP。
【
図3】
図3-抗HLA.A2 IL2R CAR-Tregの生成抗HLA.A2 IL2R CAR-Tregの生成および増殖をしめす概略図。(A)単離されたCD4+CD25hiCD127low細胞を、単離し抗CD3/CD28ビーズで活性化した。活性化の3日後、Tregを、HLA.A2-CARとGFPレポーター遺伝子とを含むレンチウイルスで形質導入した。新鮮な培地と1000 IU/ml IL-2を2日毎に加えた。形質導入されたTregと形質導入されていないTregとを10日間培養し、GFPを測定して形質導入の効果を調べた。Tregを、新鮮な抗CD3/CD28ビーズを使用してさらに増殖させた。(B)形質導入されていないTregまたは様々なCARコンストラクトで形質導入したTregの、活性化10日目での倍率変化(fold change)-増殖。
【
図4A】
図4-抗HLA.A2 IL2Rコンストラクトの形質導入の効果の経時的定量化CARコンストラクトが形質導入されていないTregと、CARコンストラクトを形質導入したTregとについて、GFP発現を、細胞活性化後の異なる時点で解析した。(A)形質導入後7日のHLA-A2 IL2R CAR TregからのGFP発現の典型的な等高線プロット(contour plot)。
【
図4B】(B)形質導入後7日の生存CD4+細胞中のGFP
+ CAR Tregの定量化。
【
図4C】(C)HLA-A2 IL2R CAR TregからのGFP発現の経時的定量化。
【
図5A】
図5-形質導入されたTregでの抗HLA.A2 IL2R CARコンストラクトの細胞表面発現の定量化形質導入されていないTregでの、および形質導入されたTregでの、CARコンストラクトの膜発現を、PEコンジュゲートHLA-A
*0201/CINGVCWTVデキストラマー(Immudex、デンマーク、コペンハーゲン)によって解析した。(A)形質導入後7日のGFP+Dextramer+ CAR Tregの典型的な等高線プロット。
【
図5B】(B)形質導入後7日のGFP+Treg中のDextramer+細胞の定量化。
【
図6-1】
図6-ポリクローナル細胞増殖後のCAR Tregの表現型の特性評価抗CD3/CD28活性化ビーズおよびIL-2の存在下で15日間、Tregを培養し増殖させた。Treg関連マーカーFOXP3、HELIOS、CTLA4、およびTIGITを、形質導入されていないTreg上と、形質導入されたTreg上とでFACSにより解析し、培養15日目の表現型の系統安定性を調査した。
【
図7A-1】
図7-抗HLA.A2 IL2R CAR Tregの抗原特異性の評価形質導入されていないTregと、形質導入されたTregとを、異なる刺激の存在下で18時間培養した。CD69とCD137活性化マーカーを解析し、特異的な細胞活性化と非特異的な細胞活性化とを調べた。(A)HLA.A1またはHLA.A2分子を形質導入したK562細胞との培養に応じたCD69の発現を示す典型的な等高線プロット。形質導入されたTregを選択するためにGFPシグナルを使用した。
【
図7B】(B)培地のみでの培養(刺激無し)、抗CD3/CD28ビーズを用いた培養(非特異的刺激)、K562-HLA.A1細胞およびK562-HLA.A2細胞を用いた培養の18時間後、TregでのCD69とCD137の発現の定量化。
【
図7C】(C)HLA.A1細胞株およびHLA.A2B細胞株と18時間培養した後のTregでのCD69の発現を示す典型的なヒストグラム。異なる細胞対細胞比を使用した。
【
図8A-1】
図8-IL2R CARシグナリングの指標としてのSTAT5リン酸化解析形質導入されたCAR Tregを、IL2を含まない培地に一晩置いた。培地のみでの培養、1000 IU/ml IL-2での培養、HLA.A2-Ig系人工APC(DOI:10.3791/2801に記載のプロトコルに従い作製)の存在下での培養の10分後および120分後、FACS解析によりTregのSTAT5リン酸化を調べた。(A)培地のみの培養、1:1比率のHLA.A2ビーズとの培養、1000IU/ml IL-2での培養の10分後の形質導入されたCAR-TregでのGFPおよびphosphoSTAT5の発現を示す典型的な等高線プロット。
【
図8B】1:1比率のHLA.A2ビーズと、または培地のみ(刺激無し)で120分間培養したTregのSTAT5のリン酸化を示すヒストグラム。
【
図9A】
図9-IL-2の非存在下での非特異的活性化およびHLA.A2特異的活性化後のTreg生存の評価異なるコンストラクトのCAR形質導入Tregsを、抗CD3/28活性化ビーズおよびK562.A2発現細胞と、IL-2の非存在下で培養した。FACS解析により活性化の7日後に細胞の生存を調べた。(A)IL-2を用いない活性化後7日目の生存率色素染色に基づくGFP
+細胞の細胞生存率を示すCAR-Tregsの典型的なヒストグラム。
【
図9B】(B)IL-2の非存在下で抗CD3/28ビーズおよびK562-HLA.A2細胞との7日間の培養後にGFP
+Tregに生存している細胞の率(
*p<0.05、Tukey's post hoc correctionを使用したANOVA分析)。
【
図10】
図10-Treg抑制能試験:B細胞に対する共刺激分子の調節(modulation)の解析によるTregの免疫調節機能の評価Tregとの共存培養後の、B細胞のCD80およびCD86発現を解析し、抗原提示細胞での共刺激分子の発現を低減するTregの能力を評価した。一定数の生きているA2発現B細胞(20K/well)を滴定による数のTreg製品(A2ネガティブドナー)(200、100、50、25、12.5K)と一晩共存培養した。B細胞でのCD86およびCD80共刺激マーカーのFACS解析。
【0021】
発明の詳細な説明
改変された制御性T細胞(Treg)
本明細書における「改変された細胞」は、細胞によって自然にコードされたわけではないポリヌクレオチドを含むか、または発現するように修飾された(modified)細胞を意味する。細胞を改変する方法は、当該技術分野で周知であり、たとえば、細胞の遺伝子組み換え(genetic modification)があり、それは、たとえば、レトロウイルス形質導入またはレンチウイルス形質導入などの形質導入、リポフェクション法、ポリエチレングリコール法、リン酸カルシウム法およびエレクトロポレーション法などの遺伝子導入(DNAまたはRNAの一過性形質転換など)によるものであるが、これらに限定されるわけではない。核酸配列を細胞に導入するために、いずれかの適切な方法が使用されればよい。本発明によれば、核酸を導入するために両親媒性細胞浸透性ペプチドなどの非ウイルス性技術を使用してもよい。
【0022】
したがって、本明細書に記載のCARをコードするポリヌクレオチドは、対応する未修飾の細胞により自然に発現されてはいない。好適には、改変された細胞は、たとえば形質導入または遺伝子導入により修飾された細胞である。好適には、改変された細胞は、たとえば形質導入または遺伝子導入によって、修飾またはゲノム修飾された細胞である。好適には、改変された細胞は、レトロウイルス形質導入によって、修飾またはゲノム修飾された細胞である。好適には、改変された細胞は、レンチウイルス形質導入によって、修飾またはゲノム修飾された細胞である。
【0023】
本明細書において、「導入された」という用語は、外来DNAまたはRNAを細胞に挿入するための方法のことである。本明細書において、「導入された」という用語は、形質導入法、遺伝子導入法の両方を含む。遺伝子導入は、非ウイルス法により核酸を細胞内に導入するプロセスである。形質導入は、ウイルスベクターを介して細胞に外来のDNAまたはRNAを導入するプロセスである。ウイルスベクターを用いた形質導入や、DNAまたはRNAを用いた遺伝子導入などの多数の手段のうちのひとつによって、本明細書に記載のCARをコードするDNAまたはRNAを導入することにより、本発明に係る改変された細胞が生成されてもよい。本明細書に記載のCARをコードするポリヌクレオチドを導入する前に、または後に、たとえば、抗CD3モノクローナル抗体での処理により、または抗CD3モノクローナル抗体と抗CD28モノクローナル抗体とでの処理により、細胞を活性化および/または増殖させてもよい。また、抗CD3および抗CD28モノクローナル抗体が、IL-2との組み合わせで存在するところで、Tregを増殖してもよい。好適には、IL-2はIL-15と置き換えられてもよい。Treg増殖プロトコルで使用されてもよい別の成分としては、ラパマイシン、全トランス型レチノイン酸(ATRA)およびTGFβがあるが、これらに限定されるわけではない。本明細書において、「活性化される」とは、細胞が刺激されて、細胞の増殖が起こることを意味する。本明細書において、「増殖される」とは、細胞または細胞の集団の増殖が誘導されることを意味する。細胞の集団の増殖は、たとえば、集団に存在する細胞の数をカウントすることにより測定してもよい。細胞の表現型は、フローサイトメトリーなど当該技術分野で周知の方法によって判定してもよい。
【0024】
制御性T細胞(Tregs)は、細胞変性免疫応答を制御し、免疫寛容の維持に必須である、免疫抑制機能を有する免疫細胞である。
【0025】
本明細書において、Tregという用語は、免疫抑制機能を有するT細胞のことである。
【0026】
好適には、免疫抑制機能とは、病原体、同種抗原、または自己抗原など刺激に応答する免疫系によって促進される生理的な細胞の現象が多数ある内の1つ以上を低減または阻害するTregの能力を表してもよい。かかる現象の例には、通常T細胞(Tconv)の増殖、および炎症性サイトカインの分泌などがある。かかる現象はいずれも、免疫応答の強さの指標として使用してもよい。Tregの存在下でTconvによる免疫応答が相対的に弱いことは、Tregの免疫応答を抑制する能力を示すといえる。たとえば、サイトカインの分泌が相対的に低下することは、免疫応答の弱まりを示し、したがって、Tregの免疫応答を抑制する能力を示す。Tregは、B細胞、樹状細胞およびマクロファージなど抗原提示細胞(APC)の共刺激分子の発現を調節することにより、免疫応答を抑制することもできる。CD80およびCD86の発現レベルは、共存培養後のインビトロでの活性化されたTregの抑制能を調査するために使用できる。
【0027】
免疫応答の強度の指標を測定し、それによってTregの抑制能を測定するためのアッセイが、当該技術分野で周知である。特に、抗原特異的なTconv細胞は、Tregと共存培養してもよく、対応する抗原のペプチドを前記共存培養に加えてTconv細胞からの応答を刺激してもよい。Tconv細胞の増殖の度合い、および/または前記ペプチドの追加に応答してTconv細胞が分泌したサイトカインIL-2の量を、共存培養したTregの抑制能の指標として使用してもよい。
本発明のTregと共存培養された抗原特異的なTconv細胞の増殖は、本発明のTregの非存在下で培養された同じTconv細胞の増殖と比較して、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、90%、95%または99%少なくてもよい。
【0028】
本発明のTregと共存培養された抗原特異的なTconv細胞は、本発明のTregの非存在下で培養された対応するTconv細胞と比較して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、または少なくとも60%少ないエフェクターサイトカインを発現してもよい。
エフェクターサイトカインは、IL-2、IL-17、TNFα、GM-CSF、IFN-γ、IL-4、IL-5、IL-9、IL-10、およびIL-13から選択されてもよい。
好適には、エフェクターサイトカインは、IL-2、IL-17、TNFα、GM-CSF、およびIFN-γから選択されてもよい。
【0029】
好適には、Tregは、マーカーCD4、CD25、およびFOXP3(CD4+CD25+FOXP3+)を発現するT細胞である。「FOXP3」は、フォークヘッドボックスP3タンパク質の略称である。FOXP3は、転写因子のFOXタンパク質ファミリーのメンバーであり、制御性T細胞の発生(development)と機能において調節経路のマスターレギュレーターとして機能する。
【0030】
Tregsはまた、CTLA-4(細胞障害性Tリンパ球関連分子4)またはGITR(グルココルチコイド誘導TNF受容体)を発現する。Treg細胞は末梢血、リンパ節、および組織に存在し、胸腺由来の天然のTreg(nTreg)細胞と、末梢で生成され誘導されたTreg(iTreg)細胞とがある。
【0031】
好適には、表面タンパク質CD127の非存在下で細胞表面マーカーCD4およびCD25を使用して、または低レベルで発現した表面タンパク質CD127と細胞表面マーカーCD4およびCD25との組み合わせを使用して(CD4+CD25+CD127-or CD4+CD25+CD127low)、Tregを同定してもよい。かかるマーカーをTregの同定のために使用することは、当該技術分野において周知であり、たとえばLiuら(JEM;2006;203;7(10);1701-1711)に記載されている。
【0032】
Tregは、CD4+CD25+FOXP3+ T細胞であってもよい。
Tregは、CD4+CD25+CD127- T細胞であってもよい。
Tregは、CD4+CD25+FOXP3+CD127-/lowT細胞であってもよい。
Tregは、天然Treg(natural Treg)または胸腺由来Treg(thymus-derived Treg)であってもよいし、適応性Treg(adaptive Treg)または末梢誘導Treg(peripherally-derived Treg)であってもよいし、またはインビトロ誘導Treg(in vitro-induced Treg)であってもよい(Abbas, A.K., et al., 2013. Nature immunology, 14(4), p.307-308)。
【0033】
好適には、Tregは、天然Treg(nTreg)であってもよい。本明細書において、「天然Treg」という用語は、胸腺由来Tregという意味である。天然Tregは、CD4+CD25+FOXP3+Helios+ニューロピリン1+である。iTregと比較して、nTregは、PD-1(プログラム細胞死-1、pdcd1)、ニューロピリン1(Nrp1)、Helios(Ikzf2)、およびCD73を高発現する。Heliosタンパク質またはニューロピリン1(Nrp1)の発現にそれぞれ基づいて、nTregをiTregsから区別してもよい。
【0034】
TregはTreg特異的な脱メチル化領域(TSDR)を有してもよい。TSDRは、Foxp3の発現を制御する、重要なメチル化感受性のあるエレメントである(Polansky, J.K., et al.,2008. European journal of immunology, 38(6), pp.1654-1663)。
【0035】
さらに好適なTregの例としては、Tr1細胞(Foxp3を発現せず、IL-10を高産生する);CD8+FOXP3+ T細胞;およびγδ FOXP3+ T細胞が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0036】
細胞マーカーの存在を判定する方法は、当該技術分野において周知であり、たとえばフローサイトメトリーがある。
【0037】
好適には、Tregなどの細胞は、対象から得られた末梢血単核細胞(PBMC)から単離される。好適には、PBMCが得られる対象は、哺乳動物であり、好ましくはヒトである。好適には、前記細胞は、改変されたTregが投与される対象に適合(たとえば、HLA適合)しているか、または、対象自身のものである。好適には、治療される対象は、哺乳動物であり、好ましくはヒトである。前記細胞は、患者本人の末梢血(第一者)から、またはドナー末梢血(第二者)由来の造血性幹細胞移植の環境において、または無関係のドナー(第三者)由来の末梢血からのいずれかで、エクスビボ(生体外)で生成されてもよい。好適には、前記細胞は、改変されたTregが投与される対象自身のものである。
【0038】
好適には、Tregは、対象から得られた末梢血単核細胞(PBMC)から単離される。好ましい実施形態において、Tregは、対象から得られた末梢血単核細胞(PBMC)から単離され、治療される対象に適合しているか、または、対象自身のものである。
【0039】
好適には、前記Tregは、治療される対象から単離される。
【0040】
好適には、前記Tregは、Tregの集団の一部である。好適には、Tregの集団は、Tregが少なくとも70%であり、たとえばTregが少なくとも75%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%である。かかる集団を、「富化されたTreg集団」と称してもよい。
【0041】
いくつかの態様で、Tregは、誘導性前駆細胞または胚性前駆細胞の、Tregへのエクスビボ分化から由来してもよい。本発明のポリヌクレオチドまたはベクターは、Tregへの分化前または後に誘導性前駆細胞または胚性前駆細胞へ導入されてもよい。
【0042】
本明細書において、「通常T細胞」またはTconは、αβ T細胞受容体(TCR)と、分化抗原群4(CD4)または分化抗原群8(CD8)であってもよい共受容体とを発現し、免疫抑制機能をもたないTリンパ球細胞を意味する。通常T細胞は末梢血、リンパ節、および組織に存在する。好適には、ウイルスベクターを用いた形質導入や、同じまたは異なるベクター上でDNAまたはRNAを用いた遺伝子導入などの多数の手段のうちのひとつによって、本明細書に記載のCARをコードするDNAまたはRNAに加えてFOXP3をコードするDNAまたはRNAを導入することにより、改変されたTregが生成されてもよい。または、改変されたTregは、IL-2およびTGF-βの存在下でCD4+CD25-FOXP3-細胞のインビトロ培養によってTconから生成されてもよい。
【0043】
キメラ抗原受容体(CAR)
本明細書における「キメラ抗原受容体」または「CAR」または「CARs」は、抗原特異性を細胞(たとえばTreg)に付与できる改変された受容体のことである。CARはまた、人工T細胞受容体、キメラT-細胞受容体、またはキメラ免疫受容体として知られている。好ましくは、本発明のCARは、細胞外抗原特異的標的領域と、膜貫通ドメインと、場合によっては1個以上の共刺激ドメインと、細胞内シグナル伝達ドメイン(エンドドメインとも称される)とを含む。
【0044】
CARをコードするポリヌクレオチドを、たとえばレトロウイルスベクターを使用して、Tregへ導入してもよい。このように、多数の抗原特異的T細胞が、養子細胞移入により生成されうる。CARが標的抗原と結合すると、その結果、CARが発現するTregに活性化シグナルが伝達される。このように、CARは、改変されたTregの特異性を、標的抗原を発現する細胞へ向ける。
【0045】
細胞内シグナル伝達ドメイン(エンドドメイン)
当該CARは、STAT5関連モチーフと、JAK1および/またはJAK2結合モチーフとを含むエンドドメインを含む。
【0046】
「シグナル伝達性転写因子5」(STAT5)は、IL-2シグナリング経路に関与する転写因子であり、FOXP3、IL2RAおよびBCLXLなどの遺伝子の発現を促進することによって、Tregの機能、安定性、および生存において鍵となる役割を果たす。機能し、かつ核移行するためには、STAT5はリン酸化する必要がある。IL-2ライゲーションの結果、IL-2Rβ鎖およびIL-2Rγ鎖のそれぞれに存在する特異的なシグナル伝達ドメインを介してJak1/Jak2およびJak3キナーゼを活性化することにより、STAT5がリン酸化する。Jak1(またはJak2)は、Jak3を必要とせずにSTAT5をリン酸化できるが、Jak1/Jak2とJak3との両方のトランスリン酸化によりSTAT5の活性を増加することができ、これにより活性が安定する。
【0047】
本明細書における「STAT5関連モチーフ」とは、チロシンを含みSTAT5ポリペプチドと結合することのできるアミノ酸モチーフのことである。タンパク質-タンパク質相互作用を判定するための当該技術分野において周知の方法を用いて、関連モチーフがSTAT5と結合できるかどうか判定してもよい。たとえば、共免疫沈降の後にウエスタンブロットを行ってもよい。
【0048】
好適には、CARエンドドメインは、本明細書において定義された2個以上のSTAT5関連モチーフを含んでもよい。たとえば、CARエンドドメインは、本明細書において定義された、2個、3個、4個、5個、またはそれ以上のSTAT5関連モチーフを含んでもよい。好ましくは、CARエンドドメインは、本明細書において定義された、2個または3個のSTAT5関連モチーフを含んでもよい。
【0049】
好適には、前記STAT5関連モチーフは、膜貫通タンパク質の細胞質ドメイン中に内在してもよい。たとえば、前記STAT5関連モチーフは、インターロイキン受容体(IL)受容体エンドドメインまたはホルモン受容体由来であってもよい。
【0050】
前記CARエンドドメインは、STAT5が下流成分であるインターロイキン受容体の鎖のいずれかから選択されたアミノ酸配列を含んでもよく、たとえば、IL-2受容体β鎖のアミノ酸番号266~551(米国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)標準配列(REFSEQ):NP_000869.1、配列番号1)、IL-7Rα鎖のアミノ酸番号265~459(NCBI REFSEQ:NP_002176.2、配列番号2)、IL-9R鎖のアミノ酸番号292~521(NCBI REFSEQ:NP_002177.2、配列番号3)、IL-4Rα 鎖のアミノ酸番号257~825(NCBI REFSEQ:NPJD00409.1、配列番号4)、IL-3R(鎖のアミノ酸番号461~897(NCBI REFSEQ:NP_000386.1、配列番号5)、またはIL-17R β鎖のアミノ酸番号314~502(NCBI REFSEQ:NP_061195.2、配列番号6)を含む細胞質ドメインが使用されてもよい。インターロイキン受容体鎖の細胞質ドメインの領域全体が使用されてもよい。
配列番号2-IL7RA(NP_002176.2のアミノ酸番号(AA)265~459)
KKRIKPIVWPSLPDHKKTLEHLCKKPRKNLNVSFNPESFLDCQIHRVDDIQARDEVEGFLQDTFPQQLEESEKQRLGGDVQSPNCPSEDVVITPESFGRDSSLTCLAGNVSACDAPILSSSRSLDCRESGKNGPHVYQDLLLSLGTTNSTLPPPFSLQSGILTLNPVAQGQPILTSLGSNQEEAYVTMSSFYQNQ
配列番号7-IL7RA 2Y切断型
KKRIKPIVWPSLPDHKKTLEHLCKKPRKNLNVSFNPESFLDCQIHRVDDIQARDEVEGFLQDTFPQQPILTSLGSNQEEAYVTMSSFYQNQ
配列番号3-IL9R(NP_002177.2のAA292~521)
KLSPRVKRIFYQNVPSPAMFFQPLYSVHNGNFQTWMGAHGAGVLLSQDCAGTPQGALEPCVQEATALLTCGPARPWKSVALEEEQEGPGTRLPGNLSSEDVLPAGCTEWRVQTLAYLPQEDWAPTSLTRPAPPDSEGSRSSSSSSSSNNNNYCALGCYGGWHLSALPGNTQSSGPIPALACGLSCDHQGLETQQGVAWVLAGHCQRPGLHEDLQGMLLPSVLSKARSWTF
配列番号4-IL4RA(NPJD00409.1のAA257~825)
KIKKEWWDQIPNPARSRLVAIIIQDAQGSQWEKRSRGQEPAKCPHWKNCLTKLLPCFLEHNMKRDEDPHKAAKEMPFQGSGKSAWCPVEISKTVLWPESISVVRCVELFEAPVECEEEEEVEEEKGSFCASPESSRDDFQEGREGIVARLTESLFLDLLGEENGGFCQQDMGESCLLPPSGSTSAHMPWDEFPSAGPKEAPPWGKEQPLHLEPSPPASPTQSPDNLTCTETPLVIAGNPAYRSFSNSLSQSPCPRELGPDPLLARHLEEVEPEMPCVPQLSEPTTVPQPEPETWEQILRRNVLQHGAAAAPVSAPTSGYQEFVHAVEQGGTQASAVVGLGPPGEAGYKAFSSLLASSAVSPEKCGFGASSGEEGYKPFQDLIPGCPGDPAPVPVPLFTFGLDREPPRSPQSSHLPSSSPEHLGLEPGEKVEDMPKPPLPQEQATDPLVDSLGSGIVYSALTCHLCGHLKQCHGQEDGGQTPVMASPCCGCCCGDRSSPPTTPLRAPDPSPGGVPLEASLCPASLAPSGISEKSKSSSSFHPAPGNAQSSSQTPKIVNFVSVGPTYMRVS
配列番号5-IL3RB(NP_000386.1のAA461~897)
RFCGIYGYRLRRKWEEKIPNPSKSHLFQNGSAELWPPGSMSAFTSGSPPHQGPWGSRFPELEGVFPVGFGDSEVSPLTIEDPKHVCDPPSGPDTTPAASDLPTEQPPSPQPGPPAASHTPEKQASSFDFNGPYLGPPHSRSLPDILGQPEPPQEGGSQKSPPPGSLEYLCLPAGGQVQLVPLAQAMGPGQAVEVERRPSQGAAGSPSLESGGGPAPPALGPRVGGQDQKDSPVAIPMSSGDTEDPGVASGYVSSADLVFTPNSGASSVSLVPSLGLPSDQTPSLCPGLASGPPGAPGPVKSGFEGYVELPPIEGRSPRSPRNNPVPPEAKSPVLNPGERPADVSPTSPQPEGLLVLQQVGDYCFLPGLGPGPLSLRSKPSSPGPGPEIKNLDQAFQVKKPPGQAVPQVPVIQLFKALKQQDYLSLPPWEVNKPGEVC
配列番号6-IL17RB(NP_061195.2のAA314~502)
RHERIKKTSFSTTTLLPPIKVLVVYPSEICFHHTICYFTEFLQNHCRSEVILEKWQKKKIAEMGPVQWLATQKKAADKVVFLLSNDVNSVCDGTCGKSEGSPSENSQDLFPLAFNLFCSDLRSQIHLHKYVVVYFREIDTKDDYNALSVCPKYHLMKDATAFCAELLHVKQQVSAGKRSQACHDGCCSL、を含む。
【0051】
前記CARエンドドメインは、配列番号1~7として示されるアミノ酸配列、または配列番号1~7に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有する変異体を含む、STAT5関連モチーフを含んでいてもよい。たとえば、前記変異体は、配列番号1~7の1つとして示されるアミノ酸配列のSTAT5との結合のレベルの、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%のレベルで、STAT5と結合できればよい。前記変異体または誘導体は、配列番号1~7の1つのレベルに近い、または同じレベルでSTAT5と結合できてもよく、または、配列番号1~7の1つとして示されるアミノ酸配列よりも高いレベル(たとえば、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、または少なくとも50%高くなったレベル)でSTAT5と結合できてもよい。
【0052】
たとえば、前記STAT5関連モチーフは、IL2Rβ、IL7Rα、IL-3Rβ(CSF2RB)、IL-9R、IL-17Rβ、エリスロポエチン受容体、トロンボポエチン受容体、成長ホルモン受容体、およびプロラクチン受容体由来であってもよい。
前記STAT5関連モチーフは、アミノ酸モチーフYXXF/L(配列番号8)(Xは任意のアミノ酸)を含んでいてもよい。
【0053】
好適には、前記STAT5関連モチーフは、アミノ酸モチーフYCTF(配列番号9)、YFFF(配列番号10)、YLSL(配列番号11)、またはYLSLQ(配列番号12)を含んでいてもよい。
【0054】
好適には、前記STAT5関連モチーフは、アミノ酸モチーフYLSLQ(配列番号12)を含んでいてもよい。
【0055】
前記CARエンドドメインは、アミノ酸モチーフYCTF(配列番号9)、YFFF(配列番号10)、YLSL(配列番号11)、および/またはYLSLQ(配列番号12)を含む前記STAT5関連モチーフを1個以上含んでいてもよい。
【0056】
前記CARエンドドメインは、アミノ酸モチーフYLSLQ(配列番号12)を含む第1のSTAT5関連モチーフと、アミノ酸モチーフYCTF(配列番号9)またはYFFF(配列番号10)を含む第2のSTAT5関連モチーフとを含んでいてもよい。
【0057】
前記CARエンドドメインは、下記のSTAT5関連モチーフ:YLSLQ(配列番号12)、YCTF(配列番号9)、およびYFFF(配列番号10)を含んでもよい。
【0058】
本明細書における「JAK1および/またはJAK2結合モチーフ」とは、チロシンキナーゼJAK1および/またはJAK2関連付けをもたらすBOXモチーフのことである。好適なJAK1およびJAK2結合モチーフは、たとえば、Ferrao & Lupardus (Frontiers in Endocrinology; 2017; 8(71);この参照により本明細書に援用される)により記載されている。
【0059】
JAK1および/またはJAK2結合モチーフは、膜貫通タンパク質の細胞質ドメイン内に内在的に発生してもよい。
【0060】
たとえば、JAK1-および/またはJAK2結合モチーフは、インターフェロンラムダ受容体1(IFNLR1)、インターフェロンアルファ受容体1(IFNAR)、インターフェロンガンマ受容体1(IFNGR1)、IL10RA、IL20RA、IL22RA、インターフェロンガンマ受容体2(IFNGR2)、またはIL10RB由来であってもよい。
【0061】
JAK1結合モチーフは、JAK1と結合できる、配列番号13~19として示されたアミノ酸モチーフまたはその変異体を含んでもよい。
KVLKCNTPDPSKFFSQLSSEHGGDVQKWLSSPFPSSSFSPGGLAPEISPLEVLERDK(配列番号13)
NPWFQRAKMPRALDFSGHTHPVATFQPSRPESVNDLFLCPQKELT(配列番号14)
GYICLRNSLPKVLNFHNFLAWPFPNLPPLEAMDMVEVIYINR(配列番号15)
PLKEKSIILPKSLISVVRSATLETKPESKYVSLITSYQPFSL(配列番号16)
RRRKKLPSVLLFKKPSPFIFISQRPSPETQDTIHPLDEEAFLK(配列番号17)
YIHVGKEKHPANLILIYGNEFDKRFFVPAEKIVINFITLNISDDS(配列番号18)
RYVTKPPAPPNSLNVQRVLTFQPLRFIQEHVLIPVFDLSGP(配列番号19)
配列番号13~19の変異体は、配列番号13~19のいずれかと比較して1個、2個、または3個のアミノ酸の差異を含んでいてもよく、JAK1と結合する能力を保持しうる。
【0062】
前記変異体は、配列番号13~19のいずれか1つに対して少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有していてもよく、JAK1と結合する能力を保持しうる。
【0063】
好ましい実施形態において、JAK-1結合ドメインは、JAK1と結合できる、配列番号13またはその変異体を含んでもよい。
【0064】
たとえば、前記変異体は、対応する参照配列の結合レベルの、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%のレベルで、JAK1と結合できればよい。前記変異体または誘導体は、対応する参照配列のレベルに近い、または同じレベルでJAK1と結合できてもよく、または、対応する参照配列よりも高いレベル(たとえば、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、または少なくとも50%高くなったレベル)でJAK1と結合できればよい。
【0065】
JAK2結合モチーフは、JAK2と結合できる、配列番号20~22として示されたアミノ酸モチーフまたはその変異体を含んでもよい。
NYVFFPSLKPSSSIDEYFSEQPLKNLLLSTSEEQIEKCFIIEN(配列番号20)
YWFHTPPSIPLQIEEYLKDPTQPILEALDKDSSPKDDVWDSVSIISFPE(配列番号21)
YAFSPRNSLPQHLKEFLGHPHHNTLLFFSFPLSDENDVFDKLSVIAEDSES(配列番号22)
配列番号21~22の変異体は、配列番号20~22のいずれかと比較して1個、2個、または3個のアミノ酸の差異を含んでいてもよく、JAK2と結合する能力を保持しうる。
【0066】
たとえば、前記変異体は、対応する参照配列の結合レベルの、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%のレベルで、JAK2と結合できればよい。前記変異体または誘導体は、対応する参照配列のレベルに近い、または同じレベルでJAK2と結合できてもよく、または、対応する参照配列よりも高いレベル(たとえば、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、または少なくとも50%高くなったレベル)でJAK2と結合できればよい。
【0067】
タンパク質-タンパク質相互作用を判定するための当該技術分野において周知の方法を用いて、JAK1結合モチーフまたはJAK2結合モチーフがJAK1またはJAK2と結合できるかどうか判定してもよい。たとえば、共免疫沈降の後にウエスタンブロットを行ってもよい。
【0068】
好適には、本明細書に記載のCARのエンドドメインは、「シグナル伝達性転写因子3」(STAT3)関連モチーフを含まなくてもよい。
【0069】
STAT3は、Tregの安定と機能のためには有害なシグナルとして記載されてきた。たとえば、STAT3シグナリングは、IL17、IL21、およびIL22などの炎症促進性の遺伝子の発現を促進する。このように、STAT3関連モチーフを含まないCARを使用することは、本発明の改変されたTregにおいて特別な利点をもたらす。
【0070】
STAT3関連モチーフは、STAT3と結合できるアミノ酸配列YXXQ(配列番号52)(Xは任意のアミノ酸)を含んでいてもよい。タンパク質-タンパク質相互作用を判定するための当該技術分野において周知の方法を用いて、STAT3関連モチーフがSTAT3と結合できるかどうか判定してもよい。たとえば、共免疫沈降の後にウエスタンブロットを行ってもよい。
【0071】
好適には、前記CARエンドドメインは、アミノ酸配列YXXQ(配列番号52)(Xは任意のアミノ酸)を含まない。
【0072】
「STAT3関連モチーフ」とは、チロシンを含みSTAT3ポリペプチドと結合することのできるアミノ酸モチーフのことを表してもよい。たとえば、本明細書における「STAT3関連モチーフ」とは、チロシンを含み、Tregの中に存在する時にSTAT3ポリペプチドと機能的に結合することのできる(すなわち、STAT3ポリペプチドの活性化をもたらす)アミノ酸モチーフのことを言う。
【0073】
好適には、CARエンドドメインは、チロシンを含みSTAT3ポリペプチドと結合することのできるアミノ酸モチーフを含まない。たとえば、好適には、CARエンドドメインは、チロシンを含み、Tregの中に存在する時にSTAT3ポリペプチドと機能的に結合することのできる(すなわち、STAT3ポリペプチドの活性化をもたらす)アミノ酸モチーフを含まない。
【0074】
好適には、当該CARのエンドドメインは、Treg中に発現した時に産生STAT3および/またはSTAT1シグナリングを誘発することができなくてもよい。換言すれば、好適には、Treg中に発現した時に、当該CARのエンドドメインは、産生STAT3および/またはSTAT1に機能的に結合できず、および/またはSTAT3および/またはSTAT1のリン酸化と活性化を誘発することができなくてもよい。好適には、当該CARのエンドドメインは、Treg中に発現した時にSTAT3および/またはSTAT1に依存した転写活性化を誘発することができなくてもよい。
好適には、前記CARのIL2Rβエンドドメイン部分は、本明細書において定義されたSTAT3関連モチーフを含んでいなくてもよい。
【0075】
好適には、前記CARエンドドメインは、配列番号1として示されるIL2Rβエンドドメイン、または、配列番号1に対して少なくとも80%の配列同一性を有する変異体を含んでいてもよい。
配列番号1
NCRNTGPWLKKVLKCNTPDPSKFFSQLSSEHGGDVQKWLSSPFPSSSFSPGGLAPEISPLEVLERDKVTQLLLQQDKVPEPASLSSNHSLTSCFTNQGYFFFHLPDALEIEACQVYFTYDPYSEEDPDEGVAGAPTGSSPQPLQPLSGEDDAYCTFPSRDDLLLFSPSLLGGPSPPSTAPGGSGAGEERMPPSLQERVPRDWDPQPLGPPTPGVPDLVDFQPPPELVLREAGEEVPDAGPREGVSFPWSRPPGQGEFRALNARLPLNTDAYLSLQELQGQDPTHLV
前記変異体は、配列番号1に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有してもよい。
【0076】
好適には、前記CARエンドドメインは、配列番号23または24として示される切断型IL2Rβエンドドメイン、または、配列番号23または24のいずれかに対して少なくとも80%の配列同一性を有する変異体を含んでいてもよい。
配列番号23(IL2RB切断型ーY510)
NCRNTGPWLKKVLKCNTPDPSKFFSQLSSEHGGDVQKWLSSPFPSSSFSPGGLAPEISPLEVLERDKVTQLLPLNTDAYLSLQELQGQDPTHLV
配列番号24(IL2RB切断型ーY510&Y392)
NCRNTGPWLKKVLKCNTPDPSKFFSQLSSEHGGDVQKWLSSPFPSSSFSPGGLAPEISPLEVLERDKVTQLLDAYCTFPSRDDLLLFSPSLLGGPSPPSTAPGGSGAGEERMPPSLQERVPRDWDPQPLGPPTPGVPDLVDFQPPPELVLREAGEEVPDAGPREGVSFPWSRPPGQGEFRALNARLPLNTDAYLSLQELQGQDPTHLV
前記変異体は、配列番号23または24に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有してもよい。
【0077】
Jak1/Jak2とJak3との両方のトランスリン酸化によりSTAT5の活性を増加することができ、これにより活性が安定する。好適には、本明細書に記載の前記CARエンドドメインは、さらに、JAK3結合モチーフを含んでいてもよい。本明細書における「JAK3結合モチーフ」とは、チロシンキナーゼJAK3をもたらすBOXモチーフのことである。好適なJAK3結合モチーフは、たとえば、Ferrao & Lupardus(Frontiers in Endocrinology; 2017; 8(71);この参照により本明細書に援用される)により記載されている。
【0078】
タンパク質-タンパク質相互作用を判定するための当該技術分野において周知の方法を用いて、モチーフがJAK3と結合できるかどうか判定してもよい。たとえば、共免疫沈降の後にウエスタンブロットを行ってもよい。
【0079】
JAK3結合モチーフは、膜貫通タンパク質の細胞質ドメイン内に内在的に発生してもよい。
たとえば、前記JAK3モチーフは、IL-2Rγポリペプチド由来であってもよい。
JAK3結合モチーフは、JAK3と結合できる、配列番号25または配列番号26として示されたアミノ酸モチーフ、もしくはその変異体を含んでもよい。
配列番号25
ERTMPRIPTLKNLEDLVTEYHGNFSAWSGVSKGLAESLQPDYSERLCLVSEI
配列番号26
ERTMPRIPTLKNLEDLVTEYHGNFSAWSGVSKGLAESLQPDYSERLCLVSEIPPKGGALGEGPGASPCNQHSPYWAPPCYTLKPET
前記変異体は、配列番号25または配列番号26に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有してもよい。
【0080】
好ましい実施形態において、前記CARエンドドメインは、一個以上のJAK1結合ドメインと、少なくとも1個のJAK3結合ドメインとを含む。
【0081】
本明細書に記載のCARのエンドドメインは、また、エフェクター機能シグナルを変換し、Tregがその特殊機能を抗原結合の際に発揮するよう指示するために必要なモチーフを含む。細胞内シグナル伝達ドメインの例としては、T細胞受容体またはその相同体(たとえば、η鎖、FcεR1γおよびβ鎖、MB1(Igα)鎖、B29(Igβ)鎖など)のζ鎖エンドドメイン、CD3ポリペプチドドメイン(Δ、δ、およびε)、sykファミリーチロシンキナーゼ(Syk、ZAP 70、など)、srcファミリーチロシンキナーゼ(Lck、Fyn、Lyn、など)、ならびに、CD2、CD5およびCD28などのT細胞形質導入に関わるその他の分子があるが、これらに限定されない。前記細胞内シグナル伝達ドメインは、ヒトCD3ゼータ鎖エンドドメイン、FcyRIII、FcsRI、Fc受容体の細胞質側末端、免疫受容体チロシン活性化モチーフ(ITAM)を有する細胞質受容体、またはそれらの組み合わせを含んでいてもよい。
【0082】
好ましくは、前記細胞内シグナル伝達ドメインは、ヒトCD3ゼータ鎖の細胞内シグナル伝達ドメインを含む。
【0083】
一実施形態において、前記ヒトCD3ゼータ鎖の細胞内シグナル伝達ドメインは、下記の配列を含む。
UNIPROT:P20963、CD3Z_HUMAN、31~143位
RVKFSRSADAPAYQQGQNQLYNELNLGRREEYDVLDKRRGRDPEMGGKPQRRKNPQEGLYNELQKDKMAEAYSEIGMKGERRRGKGHDGLYQGLSTATKDTYDALHMQALPPR(配列番号27)
【0084】
一実施形態において、細胞内シグナル伝達ドメインは、配列番号27に対して少なくとも85%、90%、95%、97%、98%、または99%の同一性を有する。
【0085】
CARの細胞内シグナル伝達ドメインは、下記のCD28シグナル伝達ドメインを含んでもよい。
RSKRSRLLHSDYMNMTPRRPGPTRKHYQPYAPPRDFAAYRS(配列番号28)
【0086】
一実施形態において、前記細胞内シグナル伝達ドメインは、配列番号28に対して少なくとも85%、90%、95%、97%、98%、または99%の同一性を有するシグナル伝達モチーフである。
【0087】
CARの細胞内シグナル伝達ドメインは、下記のCD27シグナル伝達ドメインを含んでもよい。QRRKYRSNKGESPVEPAEPCHYSCPREEEGSTIPIQEDYRKPEPACSP(配列番号29).
【0088】
一実施形態において、前記細胞内シグナル伝達ドメインは、配列番号29に対して少なくとも85%、90%、95%、97%、98%、または99%の同一性を有するシグナリングモチーフである。
【0089】
細胞内シグナル伝達ドメインがさらにあってもよいことは、当業者に明らかであり、本発明の代替の実施形態と関連して用いられてもよい。
【0090】
当該CARは、T細胞共刺激分子の細胞内の一部が、たとえばCD3ζなどの一部と融合したものを含む化合物エンドドメインを含んでもよい。かかる化合物エンドドメインは、抗原認識後に同時に活性化および共刺激シグナルを伝送できる第2世代CARと称されてもよい。最も一般的に使用される共刺激ドメインは、CD28の共刺激ドメインである。T細胞増殖を誘発する最も強力な共刺激シグナル、すなわち免疫学的シグナル2を供給する。前記CARエンドドメインは、また、OX40、4-1BB、ICOS、またはTNFRSF25のシグナル伝達ドメインなど、TNF受容体ファミリーのシグナル伝達ドメインを1個以上含んでいてもよい。
【0091】
OX40、4-1BB、ICOS、またはTNFRSF25のシグナル伝達ドメインの配列の例が、配列番号30~33として下記に示される。前記CARエンドドメインはまた、配列番号30~33、または配列番号30~33の変異体の1つ以上を含んでいてもよい。
OX40シグナル伝達ドメイン(配列番号30)
ALYLLRRDQRLPPDAHKPPGGGSFRTPIQEEQADAHSTLAKI
41BBシグナル伝達ドメイン(配列番号31)
KRGRKKLLYIFKQPFMRPVQTTQEEDGCSCRFPEEEEGGCEL
ICOSシグナル伝達ドメイン(配列番号32)
CWLTKKKYSSSVHDPNGEYMFMRAVNTAKKSRLTDVTL
TNFRSF25シグナル伝達ドメイン(配列番号33)
TYTYRHCWPHKPLVTADEAGMEALTPPPATHLSPLDSAHTLLAPPDSSEKICTVQLVGNSWTPGYPETQEALCPQVTWSWDQLPSRALGPAAAPTLSPESPAGSPAMMLQPGPQLYDVMDAVPARRWKEFVRTLGLREAEIEAVEVEIGRFRDQQYEMLKRWRQQQPAGLGAVYAALERMGLDGCVEDLRSRLQRGP
【0092】
前記CARエンドドメインは、配列番号30~33のいずれか1つに対して少なくとも85%、90%、95%、97%、98%、または99%の同一性を有する、配列番号30~33の1つ以上の変異体である。
【0093】
好適には、前記CARエンドドメインは、配列番号45、または、配列番号45に対して少なくとも85%、90%、95%、97%、98%、または99%の同一性を有する変異体を含んでいてもよい。
配列番号45(CD28、IL2RG-T52、IL2RB-Y510、CD3ゼータシグナル伝達ドメインを含むエンドドメイン配列の例)
RSKRSRLLHSDYMNMTPRRPGPTRKHYQPYAPPRDFAAYRSERTMPRIPTLKNLEDLVTEYHGNFSAWSGVSKGLAESLQPDYSERLCLVSEINCRNTGPWLKKVLKCNTPDPSKFFSQLSSEHGGDVQKWLSSPFPSSSFSPGGLAPEISPLEVLERDKVTQLLPLNTDAYLSLQELQGQDPTHLVRVKFSRSADAPAYQQGQNQLYNELNLGRREEYDVLDKRRGRDPEMGGKPRRKNPQEGLYNELQKDKMAEAYSEIGMKGERRRGKGHDGLYQGLSTATKDTYDALHMQALPPR
【0094】
好適には、前記CARエンドドメインは、配列番号53、または、配列番号53に対して少なくとも85%、90%、95%、97%、98%、または99%の同一性を有する変異体を含んでいてもよい。
配列番号53(CD28、IL2RG-T52、IL7RA-2Y、CD3 ゼータシグナル伝達ドメインを含むエンドドメイン配列の例)
RSKRSRLLHSDYMNMTPRRPGPTRKHYQPYAPPRDFAAYRSERTMPRIPTLKNLEDLVTEYHGNFSAWSGVSKGLAESLQPDYSERLCLVSEIKKRIKPIVWPSLPDHKKTLEHLCKKPRKNLNVSFNPESFLDCQIHRVDDIQARDEVEGFLQDTFPQQPILTSLGSNQEEAYVTMSSFYQNQRVKFSRSADAPAYQQGQNQLYNELNLGRREEYDVLDKRRGRDPEMGGKPRRKNPQEGLYNELQKDKMAEAYSEIGMKGERRRGKGHDGLYQGLSTATKDTYDALHMQALPPRGSGATNFSLLKQAGDVEENPG
【0095】
変異体、誘導体、および断片
本明細書で言及されている特異的なタンパク質、ペプチド、およびヌクレオチドに加えて、その誘導体および断片の使用も本発明に包含される。
本発明のタンパク質またはポリペプチドに関連した、本明細書における「誘導体」という用語は、得られたタンパク質またはポリペプチドが所望の機能を保持するのであれば、前記配列からの、または前記配列への1個(またはそれ以上)のアミノ酸残基の置換、変異、修飾、代替、欠失、および/または付加を含む(前記所望の機能は、たとえば、前記誘導体または変異体が抗原結合ドメインの場合、抗原結合ドメインの標的抗原と結合する能力であってもよく、または前記誘導体または変異体がシグナル伝達ドメインの場合、前記所望の機能は前記ドメインが信号を発する(たとえば、下流の分子を活性化または不活性化する)能力であってもよい)。たとえば、前記変異体または誘導体は、対応する参照配列と比較して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%の機能を有していてもよい。前記変異体または誘導体は、対応する参照配列と比較して、近いレベル、または同じレベルの機能を有していてもよく、または、対応する参照配列よりも高いレベル(たとえば、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、または少なくとも50%高くなったレベル)の機能を有していてもよい。
【0096】
典型的には、アミノ酸の置換は、それにより改変された配列が求められる活性または能力を保持するなら、たとえば1個、2個または3個から10個または20個の置換からなっていてもよい。アミノ酸置換は、天然由来ではない類似体の使用を含んでいてもよい。たとえば、前記変異体または誘導体は、対応する参照配列と比較して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%の活性または能力を有していてもよい。前記変異体または誘導体は、対応する参照配列と比較して、近いレベル、または同じレベルの活性または能力を有していてもよく、または、対応する参照配列よりも高いレベル(たとえば、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、または少なくとも50%高くなったレベル)の活性または能力を有していてもよい。
【0097】
本発明で使用されるタンパク質またはペプチドは、また、サイレントな変化を生じ(produce a silent change)、かつ機能的に同等のタンパク質となる、アミノ酸残基の欠失、挿入、または置換を有してもよい。内在的な機能が保持される限り、前記残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性、および/または、両親媒性に基づいて、意図的なアミノ酸置換を行ってもよい。たとえば、負帯電アミノ酸としては、アスパラギン酸およびグルタミン酸などがあり、正帯電アミノ酸としては、リジンおよびアルギニンがあり、同様の親水性値をもつ非荷電の極性先端基を有するアミノ酸としては、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、およびチロシンがある。
【0098】
たとえば下記表にしたがい、同類置換を行ってもよい。第二欄の同じブロックにあるアミノ酸、好ましくは第三欄の同じ列にあるアミノ酸は、互いに置換できうる。
【表1】
【0099】
前記誘導体は、相同体でもよい。本明細書における「相同体」という用語は、野生型アミノ酸配列および野生型塩基配列と、特定の相同性を有した実体を意味する。「相同性」という用語は、「同一性」と同等視することができる。
【0100】
相同配列または変異型配列は、前記対象配列に対して少なくとも50%、55%、65%、75%、85%、または90%、好ましくは少なくとも95%、97%、または99%の同一性を有してもよいアミノ酸配列を含んでもよい。典型的には、前記相同体は、対象のアミノ酸配列と同じ活性部位などを含んでもよい。相同性は、類似(すなわち、類似の化学的特性/機能を有するアミノ酸残基)の観点から考えることもできるが、本発明の文脈においては、配列同一性の観点から相同性を表すことが好ましい。
【0101】
相同性の比較は、目視で、またはより一般には、容易に入手可能な配列比較プログラムを用いて実施することができる。これら市販のコンピュータプログラムは、二つ以上の配列間の百分率相同性または同一性の比率を算出できる。
【0102】
百分率相同性は、連続配列に対して算出してもよい。すなわち、一方の配列を他方の配列と整列させ、一方の配列中の各アミノ酸を他方の配列中の対応するアミノ酸と一残基ずつ直接比較する。これは、「非ギャップ(ungapped)」アライメントと呼ばれる。典型的には、そのような非ギャップアライメントは、比較的短い数の残基にわたってのみ行われる。
【0103】
これは非常に単純で一貫した方法であるが、たとえば、1個の挿入または欠失を除いては同一の配列対において、該塩基配列中のその挿入または欠失が、その後に続くコドンがアラインメントから外されうる、すなわちグローバルアライメントが行われた場合に%相同性の大幅な減少を潜在的に生じるということが考慮されていない。結果として、ほとんどの配列比較方法は、全体的な相同性スコアを過度に不利にすることなく、考えられる挿入および欠失を考慮に入れた最適アライメントを作製するように設計される。これは、配列アライメントに「ギャップ」を挿入して局所相同性を最大にすることによって達成される。
【0104】
しかしながら、これらのより複雑な方法は、アライメント中に生じる各ギャップに「ギャップペナルティ」を割り当て、同じ数の同一アミノ酸について、できるだけ少ないギャップの配列アラインメント(2つの比較した配列間の類似性が高いことを反映する)が、多くのギャップを持つスコアよりも高いスコアを達成するようにする。ギャップの存在に対して比較的高いコストを課し、ギャップ内のそれぞれ後続の残基に対してより小さいペナルティを課す「アフィンギャップコスト」が通常使用される。これは、最も一般的に使用されるギャップスコアリングシステムである。高いギャップペナルティは、当然ながら、ギャップのより少ない最適化アライメントを作製する。ほとんどのアラインメントプログラムは、ギャップペナルティを修正することを可能にする。しかしながら、そのようなソフトウェアを配列比較に使用する際は、デフォルト値を使用することが好ましい。たとえば、GCG Wisconsin Bestfitパッケージを使用する際、アミノ酸配列のデフォルトのギャップペナルティは、ギャップについては-12、それぞれの延長については-4である。
【0105】
最大百分率相同性の算出は、したがって、ギャップペナルティを考慮に入れ、最適アライメントの作製を最初に必要とする。そのようなアラインメントを実行するのに好適なコンピュータプログラムは、GCG Wisconsin Bestfitパッケージ(University of Wisconsin、U.S.A.; Devereux et al. (1984) Nucleic Acids Res. 12: 387)である。配列比較を行うことができる他のソフトウェアの例には、限定されないが、BLASTパッケージ(Ausubel et al. (1999) ibid-Ch. 18を参照)、FASTA(Atschul et al. (1990) J. Mol. Biol. 403-410)およびGENEWORKS比較ツール一式が挙げられる。BLASTおよびFASTAの両方が、オフラインおよびオンライン検索に利用可能である(Ausubel et al. (1999) ibid、pages 7-58 to 7-60を参照)。しかしながら、いくつかのアプリケーションについては、GCG Bestfitプログラムを使用することが好ましい。BLAST2 Sequencesと呼ばれる別のツールも、タンパク質および塩基配列を比較するために利用できる。(FEMS Microbiol. Lett. (1999)174:247-50; FEMS Microbiol. Lett. (1999)177:187-8参照)。
【0106】
最終的な百分率相同性は同一性の観点から測定することができるが、アライメントプロセス自体は、典型的には、オールオアナッシング対比較に基づくものではない。その代わりに、化学的類似性または進化距離に基づいて各対ごとの比較にスコアを割り当てるスケール化類似性スコアマトリクスが一般的に使用される。一般に使用されるそのようなマトリクスの一例は、BLOSUM62マトリクス(一連のBLASTプログラムのデフォルトマトリクス)である。GCG Wisconsinプログラムでは、一般的には、パブリックデフォルト値または供給されるのであればカスタムシンボル比較表のいずれかが使用される(さらに詳しくはユーザーマニュアルを参照されたい)。しかしながら、いくつかのアプリケーションについては、GCGパッケージではデフォルト値を使用することが好ましく、他のソフトウェアの場合は、BLOSUM62のようなデフォルトマトリクスを使用することが好ましい。好適には、百分率同一性は、参照配列および/または問い合わせ配列の全体にわたって判断される。
【0107】
ソフトウェアが最適アライメントを作製すると、百分率相同性、好ましくは百分率配列同一性を計算することが可能である。ソフトウェアは、典型的にはこれを配列比較の一部として行い、数値結果を与える。
【0108】
「断片」は、典型的には、機能の点で、着目のポリペプチドまたはポリヌクレオチドの選択された領域のことである。したがって、「断片」は、全長ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの一部であるアミノ酸または核酸の配列のことである。
【0109】
そのような誘導体および断片は部位特異的変異誘発などの標準的な組換えDNA技術を使用して調製されてもよい。挿入が作製される場合には、挿入位置のどちらか一方の側で天然に発生する配列に対応する5’および3’隣接領域とともに挿入部分をコードする合成DNAが作製されてもよい。前記隣接領域は、前記配列が適切な酵素(または複数の酵素)で切断され合成DNAが切断場所に連結(ligated)され得るように、天然に発生する配列における部位に対応する適当な制限酵素部位を含む。前記DNAは次に、コードされるタンパク質を作製するために本発明に従って発現される。これらの方法はDNA配列操作のための当該技術分野において周知の多数の標準的手法の実例となるだけであり、他の公知の手法もまた使用されてもよい。
【0110】
抗原特異的標的ドメイン
抗原特異的標的ドメインは、結合相手の所定の抗原と結合する能力のあるCARを提供する。前記抗原特異的標的ドメインは、好ましくは臨床的に注目される抗体を標的とする。
【0111】
前記抗原特異的標的ドメインは、生体分子(たとえば、細胞表面受容体またはその構成部分)を特異的に認識しそれと結合する能力を有するタンパク質またはペプチドであってもよい。前記抗原特異的標的ドメインは、結合相手の生体分子用の、天然由来、合成、半合成、または遺伝子組換えにより作製した結合パートナーを含む。抗原特異的標的ドメインの例としては、抗体または抗体断片または誘導体、受容体の細胞外ドメイン、細胞表面分子/受容体用のリガンド、またはその受容体結合ドメイン、および腫瘍結合タンパク質などがある。以下に論ずるように、前記抗原特異的標的ドメインは好ましくは抗体、または抗体由来であってもよく、他の抗原特異的標的ドメインとしては、たとえば、移植、炎症、または疾患の部位で活性なTcon細胞のTCRと結合することが可能な抗原ペプチド/MHCまたはHLAの組み合わせからなる抗原特異的標的ドメインなども含まれる。このような抗原結合ドメインは、たとえばMekalaら、Blood、2005、vol 105、pages 2090-2092に報告されている。
【0112】
好ましい実施形態において、抗原特異的標的ドメインは、抗体であるか、または抗体由来である。抗体由来の標的ドメインは、抗体の断片、または1個以上の前記抗体の断片の遺伝子改変産物であってもよく、該断片は抗原との結合に関与する。その例としては、可変領域(Fv)、相補性決定領域(CDR)、Fab、単鎖抗体(scFv)、重鎖可変領域(VH)、軽鎖可変領域(VL)、ラクダ抗体(VHH)、および単ドメイン抗体(sAb)などがある。
【0113】
好ましい実施形態において、結合ドメインは単鎖抗体(scFv)である。scFVは、マウスscFv、ヒトscFv、またはヒト化scFvであってもよい。
【0114】
抗体またはその抗原結合断片についての「相補性決定領域」または「CDR」とは、抗体の重鎖または軽鎖の可変領域中の超可変ループのことである。CDRは、抗原構造と作用しあうことができ、主として抗原との結合を決定する(ただし、いくつかのフレームワーク領域は、結合に関与していることがわかっている)。重鎖可変領域および軽鎖可変領域はそれぞれ3個のCDRを含んでいる。「重鎖可変領域」または「VH」とは、フレームワーク領域として知られる隣接範囲に挟まれた、3個のCDRを含む、抗体の重鎖の断片のことである。前記隣接範囲は、CDRよりも高度に保存され、CDRを維持する足場を形成する。「軽鎖可変領域」または「VL」とは、フレームワーク領域に挟まれた、3個のCDRを含む、抗体の軽鎖の断片のことである。
【0115】
「Fv」とは、完全な抗原結合部位をもつ、抗体の最も小さい断片のことである。Fv断片は、1個の重鎖の可変領域に結合した1個の軽鎖の可変領域から成る。「単鎖Fv抗体」または「scFv」とは、直接またはペプチドリンカー配列を介して互いに接続された軽鎖可変領域および重鎖可変領域からなる、改変された抗体のことである。
【0116】
所定の抗原と特異的に結合する抗体は、当該技術分野において周知の方法を使用して調製できる。かかる方法には、ファージディスプレイ、ヒト抗体またはヒト化抗体を作製する方法、または、ヒト抗体を作るために改変されたトランスジェニック動物または植物を使用する方法などがある。部分的合成抗体または全長合成抗体のファージディスプレイライブラリが利用可能であり、標的分子に結合できる抗体またはその断片について、前記ライブラリをスクリーニングすることが可能である。ヒト抗体のファージディスプレイライブラリもまた利用可能である。前記抗体をコードするアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列を特定したら、それを単離および/または判定することができる。
【0117】
当該CARによって標的とされる抗原には、移植された臓器、自己免疫疾患、アレルギー疾患、および炎症性疾患に関連する細胞上に発現する抗原があるが、これらに限定されるわけではない。Treg細胞のバイスタンダー効果のため、移植部位、炎症部位、または疾患部位に抗原が単に存在する、および/または発現するということは、当業者に理解されるであろう。
【0118】
臓器移植に関連する抗原、および/または移植された臓器に関連する細胞としては、移植された臓器に存在するが患者には存在しないHLA抗原や、移植拒絶の間に発現が増加する抗原、たとえばCCL19、MMP9、SLC1A3、MMP7、HMMR、TOP2A、GPNMB、PLA2G7、CXCL9、FABP5、GBP2、CD74、CXCL10、UBD、CD27、CD48、CXCL11などが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0119】
例としては、CARは、HLA-A2(HLA-A2は、本明細書においてHLA-A*02、HLA-A02、およびHLA-A*2とも称される)と結合可能な抗原結合ドメインを含んでいてもよい。HLA-A*02は、HLA-A座にある、ある特定のクラスI主要組織適合複合体(MHC)対立遺伝子群である。
【0120】
抗原認識ドメインは、HLA-A2内の1個以上の領域またはエピトープと結合してもよく、好適には特異的に適合してもよい。エピトープは抗原決定基としても知られ、抗原認識ドメイン(たとえば抗体)によって認識される抗原の一部である。つまり、エピトープは抗体が結合する抗原の特定の部分である。好適には、抗原認識ドメインは、HLA-A2内の1個の領域またはエピトープと結合し、好適には特異的に適合する。
【0121】
抗原認識ドメインは、少なくとも1個のCDR(たとえば、CDR3)を含んでもよく、これは抗原と結合する抗体から推測でき、好ましくはHLA-A2(または、かかる予測されたCDRの変異体(たとえば、1個、2個、または3個のアミノ酸置換を有する変異体))と結合する抗体から推測できる。3個以下のCDR領域を含む分子(たとえば、1個のCDR、またはその一部)が、CDRの由来元である抗体の抗原結合活性を保持できるだろうということは、理解されるであろう。2個のCDR領域を含む分子は、たとえばミニボディ(minibody)の形態の標的抗原と結合することができる、と当該技術分野では記載されている(Vaughan and Sollazzo、2001、Combinational Chemistry & High Throughput Screening、4、417-430)。1個のCDRを含む分子は、標的に対して強力な結合活性を発揮することができるという記載がある(Nicaise et al、2004、Protein Science、13: 1882-91)。
【0122】
これに関して、抗原認識ドメインは、1個以上の可変重鎖CDR、たとえば1個、2個または3個の可変重鎖CDRを含んでいてもよい。または/さらに、抗原認識ドメインは、1個以上の可変軽鎖CDR、たとえば1個、2個または3個の可変軽鎖CDRを含んでいてもよい。抗原認識ドメインは、3個の重鎖CDRおよび/または3個の軽鎖CDR(特に、3個のCDRを含む重鎖可変領域および/または3個のCDRを含む軽鎖可変領域)を含んでもよく、少なくとも1個のCDR、好ましくはすべてのCDRが抗原、好ましくはHLA-A2と結合する抗体由来であってもよく、下記に示すCDR配列の一つから選択されてもよい。
【0123】
抗原認識ドメインは、可変重鎖CDRと可変軽鎖CDRとの組み合わせを含んでもよく、たとえば、1個の可変重鎖CDRと1個の可変軽鎖CDRの組み合わせ、2個の可変重鎖CDRと1個の可変軽鎖CDRの組み合わせ、2個の可変重鎖CDRと2個の可変軽鎖CDRとの組み合わせ、3個の可変重鎖CDRと1個または2個の可変軽鎖CDRとの組み合わせ、1個の可変重鎖CDRと2個または3個の可変軽鎖CDRとの組み合わせ、3個の可変重鎖CDRと3個の可変軽鎖CDRとの組み合わせを含んでもよい。好ましくは、抗原認識ドメインは、3個の可変重鎖CDR(CDR1、CDR2、およびCDR3)、または3個の可変軽鎖CDR(CDR1、CDR2、およびCDR3)との組み合わせを含んでもよい。
【0124】
抗原認識ドメインに存在する1個以上のCDRは、すべてが同じ抗体由来でなくてもよく、前記ドメインが上記の結合活性を有すればよい。したがって、あるCDRが抗原、たとえばHLA-A2と結合する抗体の重鎖または軽鎖から推測されてもよく、一方で同じ抗原(たとえばHLA-A2)と結合する別の抗体から別のCDRが推測されてもよい。この場合には、CDR3が、抗原と結合する抗体、たとえはHLA-A2から推測されるのが好ましいだろう。しかしながら、特に1個より多いCDRが抗原認識ドメインに存在すれば、これらCDRが同じ抗原、たとえばHLA-A2に結合する抗体から推測されるのが好ましい。異なる抗体からの、特に同じ所望の領域またはエピトープと結合する抗体からのCDRの組み合わせが使用されてもよい。
【0125】
特に好ましい実施形態において、前記抗原認識ドメインは、抗原、たとえばHLA-A2と結合する抗体の可変重鎖配列から推測される3個のCDR、および/または抗原、たとえばHLA-A2と結合する抗体(好ましくは同じ抗体)の可変軽鎖配列から推測される3個のCDRを含む。
【0126】
いくつかの実施形態において、抗原認識ドメインは抗体であるか、または抗体由来であり(たとえば、Fab、scFv、またはsdAbであり)、前記抗体は配列番号90~146、またはその誘導体から選択される、1個以上のCDR領域を含む。換言すると、いくつかの実施形態において、抗原認識ドメインは、配列番号90~146、またはその誘導体から選択される、1個以上のCDR領域を含む。好適には、抗原認識ドメインは、配列番号90~146、またはその誘導体から選択される、3個のCDR領域を含む。
【表2】
【0127】
好ましくは、抗原結合ドメインは、同じ可変鎖から選択された、CDR(CDR1、CDR2、およびCDR3)、またはその誘導体を含む。たとえば、前記抗原結合ドメインは、配列番号90~92、配列番号93~95、配列番号96~98、配列番号99~101、配列番号102~104、配列番号105~107、配列番号108~110、配列番号111~113、配列番号114~116、配列番号117~119、配列番号120~122、配列番号123~125、配列番号126~128、配列番号129~131、配列番号132~134、配列番号135~137、配列番号138~140、配列番号141~143、および/または配列番号144~146、またはその誘導体を含む。
【0128】
好ましい実施形態において、前記抗原認識ドメインは、下記のような可変重鎖CDRおよび可変軽鎖CDRの組み合わせを含む。
(i)配列番号90~92および配列番号102~104、またはその誘導体;
(ii)配列番号93~95および配列番号105~107、またはその誘導体 ;
(iii)配列番号96~98および配列番号108~110、またはその誘導 体;
(iv)配列番号99~101および配列番号111~113、またはその誘導 体;
(v)配列番号99~101および配列番号114~116、またはその誘導体 ;
(vi)配列番号99~101および配列番号117~119、またはその誘導 体;
(vii)配列番号99~101および配列番号120~122、またはその誘 導体;
(viii)配列番号99~101および配列番号123~125、またはその 誘導体;
(ix)配列番号99~101および配列番号126~128、またはその誘導 体;
(x)配列番号99~101および配列番号129~131、またはその誘導体 ;
(xi)配列番号99~101および配列番号132~134、またはその誘導 体;
(xii)配列番号99~101および配列番号135~137、またはその誘 導体;
(xiii)配列番号99~101および配列番号138~140、またはその 誘導体;
(xiv)配列番号99~101および配列番号141~143、またはその誘 導体;
(xv)配列番号99~101および配列番号144~146、またはその誘導 体;
【0129】
好ましくは、前記抗原認識ドメインは、配列番号93~95および配列番号105~107、またはその誘導体を含む。
【0130】
前記抗原結合ドメインは、配列番号54、55、56、または57から選択される可変重ドメイン、もしくは配列番号54、55、56、または57に対して少なくとも80%の同一性を有する変異体を含んでいてもよい。前記変異体は、配列番号54、55、56、または57に対して少なくとも85%、90%、95%、97%、98%、または99%の同一性を有してもよい。
配列番号54
VQLVQSGGGVVQPGGSLRVSCAASGVTLSDYGMHWVRQAPGKGLEWMAFIRNDGSDKYYADSVKGRFTISRDNSKKTVSLQMSSLRAEDTAVYYCAKNGESGPLDYWYFDLWGRGTLVTV
配列番号55
QVQLVQSGGGVVQPGGSLRVSCAASGVTLSDYGMHWVRQAPGKGLEWVAFIRNDGSDKYYADSVKGRFTISRDNSEKTVSLQMSSLRAEDTAVYYCAKNGESGPLDYWYLDLWGRGT
配列番号56
QVQLVQSGGGVVQPGGSMRVSCAASGVTLSDYGMHWVRQAPGKGLEWVAFIRNDGSDKYYADSVRGRFTISRDNSKKTVFLQMNSLRAEDTAVYYCAKNGESGPLDYWYFDLWGRGT
配列番号57
QVQLVQSGGGVVQPGGSLRVSCAASGVTLSDYGMHWVRQAPGKGLEWMAFIRNDGSDKYYADSVKGRFTISRDNSKKTVSLQMSSLRAEDTAVYYCAKNGESGPLDYWYFDLWGRGT
【0131】
前記抗原結合ドメインは、配列番号58~72から選択される可変軽ドメイン、または配列番号58~72に対して少なくとも80%の同一性を有する変異体を含んでいてもよい。前記変異体は、配列番号58~72に対して少なくとも85%、90%、95%、97%、98%、または99%の同一性を有してもよい。
配列番号58
DVVMTQSPSSLSASVGDRVTITCQASQDISNYLNWYQQKPGKAPKLLIYDASNLETGVPSRFSGSGSGTDFTFTISSLQPEDIATYYCQQYDNLPPTFGGGTKLTVLG
配列番号59
DVVMTQSPSSLSASVGDRVTITCQSSLDISHYLNWYQQKPGKAPKLLIYDASNLETGVPSRFSGSGSGTHFTFTISSLQPEDFATYYCQQYDNLPLTFGGGTKLEIK
配列番号60
DIVLMQSPSFLSASVGDRVTITCRASHGINNYLAWYQQKPGKAPKLLIYAASTLQSGVPSRFSGSGSGTEFTLTISSLQPEDFATYYCQQYDSYPPTFGRTKVEIKR
配列番号61
DVVMTQSPSSLSASVGDRVTITCQASQDISNYLNWYQQKPGKAPKLLIYDASNLETGVPSRFSGSGSGTDFTFTISSLQPEDFATYYCQQYSSFPLTFGGGTKVDIK
配列番号62
DVVMTQSPSSLSASVGDRVTITCQASQDISNYLNWYQQEPGKAPKLLIYDETHLDSGVPSRFTGSRSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQYDSLPPTFGGGTKVDIK
配列番号63
DVVMTQSPSSLSASVGDRVTITCQASQDISNYLNWYQQKPGKAPKLLIYDASNLETGVPSRFSGSGSGTDFTFTISSLQPEDIATYYCQQYDNLPITFGGGTKVDIK
配列番号64
DVVMTQSPSSLSASVGDRVTITCQASQDISNYLNWYQQKPGKAPKLLIYDASNLETGVPSRFSGSGSGTDFTFTISSLQPEDIATYYCQQYDNLPSTFGGGTKVDIK
配列番号65
DVVMTQSPSSLSASVGDRVTITCQASQDISNYLNWYQQKPGKAPKLLIYDASNLETGVPSRFSGSGSGTDFTFTISSLQPEDFGTYYCQQYNTYPLTFGGGTKVDIK
配列番号66
DVVMTQSPSSLTASVGDRVTITCQASQDISNYLNWYQQKPGKAPKLLIYDASNLETGVPSRFSGSGSGTDFTLSIDSLQPEDFATYYCQQYHTYPLTFGGGTKVDIK
配列番号67
DVVMTQSPSSLSASVGDRVTITCQASQDISNYLNWYQQKPGKAPKLLIYDASNLETGVPSRFSGSGSGTDFTFTISSLQPEDIATYYCQQYDNLPLTFGGGTKVDIK
配列番号68
DVVMTQSPSSLSASVGDRVTITCRTSQGISSALAWYQQKPGKAPKLLIYDASSLESGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQFNNYPLTFGGGTKVDIK
配列番号69
DVVMTQSPSSLSASVGDRVTITCQASQDISNYLAWYQQKPGRAPTLLIFAASNLQSGVPSRFSGSGSGTEFTLTISGLQPEDFATYYCLQDSSYPPTFGGGTKVDIK
配列番号70
DVVMTQSPSTLSASVGDRVTITCRASQSISSWLAWYQQKPGRAPTLLIYKASNLQSGVPSRFSGSGSGTEFTLTISSLQPDDFASYYCQQYSNYPLTFGGGTKVDIK
配列番号71
DVVMTQSPSFLSASVGDRVTITCRASHGISNYFAWYQQKPGKAPKLLIYATSTLQSGVPSRFSGSGSGTEFTLTISGLQPEDFATYYCQQYSSYPLTFGGGTKVDIK
配列番号72
DVVMTQSPSTLSAYVGDRITITCRASRGSNYLAWYQQKPGKAPKLLIYATSTLQSGVPLRFSGSGSGTEFTLTISGLQPEDFATYYCQQYDSYPPTFGGGTKVDIK
【0132】
前記抗原結合ドメインは、配列番号34または73~86、もしくは配列番号34または73~86に対して少なくとも80%の同一性を有する変異体を含んでもよく、HLA-A2へ結合できる。前記変異体は、配列番号34または73~86に対して少なくとも85%、90%、95%、97%、98%、または99%の同一性を有してもよい。
配列番号73
QVQLVQSGGGVVQPGGSLRVSCAASGVTLSDYGMHWVRQAPGKGLEWVAFIRNDGSDKYYADSVKGRFTISRDNSEKTVSLQMSSLRAEDTAVYYCAKNGESGPLDYWYLDLWGSSGGGGSGGGGSGGGGSDVVMTQSPSSLSASVGDRVTITCQSSLDISHYLNWYQQKPGKAPKLLIYDASNLETGVPSRFSGSGSGTHFTFTISSLQPEDFATYYCQQYDNLPLTFGGGTKLEIK
配列番号34
QVQLVQSGGGVVQPGGSLRVSCAASGVTLSDYGMHWVRQAPGKGLEWMAFIRNDGSDKYYADSVKGRFTISRDNSKKTVSLQMSSLRAEDTAVYYCAKNGESGPLDYWYFDLWGRGTLVTVSSGGGGSGGGGSGGGGSDVVMTQSPSSLSASVGDRVTITCQASQDISNYLNWYQQKPGKAPKLLIYDASNLETGVPSRFSGSGSGTDFTFTISSLQPEDIATYYCQQYDNLPPTFGGGTKLTVLG
配列番号74
QVQLVQSGGGVVQPGGSMRVSCAASGVTLSDYGMHWVRQAPGKGLEWVAFIRNDGSDKYYADSVRGRFTISRDNSKKTVFLQMNSLRAEDTAVYYCAKNGESGPLDYWYFDLWGRGTSSGGGGSGGGGSGGGGSDIVLMQSPSFLSASVGDRVTITCRASHGINNYLAWYQQKPGKAPKLLIYAASTLQSGVPSRFSGSGSGTEFTLTISSLQPEDFATYYCQQYDSYPPTFGRTKVEIKR
配列番号75
QVQLVQSGGGVVQPGGSLRVSCAASGVTLSDYGMHWVRQAPGKGLEWMAFIRNDGSDKYYADSVKGRFTISRDNSKKTVSLQMSSLRAEDTAVYYCAKNGESGPLDYWYFDLWGRGTSSGGGGSGGGGSGGGGSDVVMTQSPSSLSASVGDRVTITCQASQDISNYLNWYQQKPGKAPKLLIYDASNLETGVPSRFSGSGSGTDFTFTISSLQPEDFATYYCQQYSSFPLTFGGGTKVDIK
配列番号76
QVQLVQSGGGVVQPGGSLRVSCAASGVTLSDYGMHWVRQAPGKGLEWMAFIRNDGSDKYYADSVKGRFTISRDNSKKTVSLQMSSLRAEDTAVYYCAKNGESGPLDYWYFDLWGRGTSSGGGGSGGGGSGGGGSDVVMTQSPSSLSASVGDRVTITCQASQDISNYLNWYQQEPGKAPKLLIYDETHLDSGVPSRFTGSRSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQYDSLPPTFGGGTKVDIK
配列番号77
QVQLVQSGGGVVQPGGSLRVSCAASGVTLSDYGMHWVRQAPGKGLEWMAFIRNDGSDKYYADSVKGRFTISRDNSKKTVSLQMSSLRAEDTAVYYCAKNGESGPLDYWYFDLWGRGTSSGGGGSGGGGSGGGGSDVVMTQSPSSLSASVGDRVTITCQASQDISNYLNWYQQKPGKAPKLLIYDASNLETGVPSRFSGSGSGTDFTFTISSLQPEDIATYYCQQYDNLPITFGGGTKVDIK
配列番号78
QVQLVQSGGGVVQPGGSLRVSCAASGVTLSDYGMHWVRQAPGKGLEWMAFIRNDGSDKYYADSVKGRFTISRDNSKKTVSLQMSSLRAEDTAVYYCAKNGESGPLDYWYFDLWGRGTSSGGGGSGGGGSGGGGSDVVMTQSPSSLSASVGDRVTITCQASQDISNYLNWYQQKPGKAPKLLIYDASNLETGVPSRFSGSGSGTDFTFTISSLQPEDIATYYCQQYDNLPSTFGGGTKVDIK
配列番号79
QVQLVQSGGGVVQPGGSLRVSCAASGVTLSDYGMHWVRQAPGKGLEWMAFIRNDGSDKYYADSVKGRFTISRDNSKKTVSLQMSSLRAEDTAVYYCAKNGESGPLDYWYFDLWGRGTSSGGGGSGGGGSGGGGSDVVMTQSPSSLSASVGDRVTITCQASQDISNYLNWYQQKPGKAPKLLIYDASNLETGVPSRFSGSGSGTDFTFTISSLQPEDFGTYYCQQYNTYPLTFGGGTKVDIK
配列番号80
QVQLVQSGGGVVQPGGSLRVSCAASGVTLSDYGMHWVRQAPGKGLEWMAFIRNDGSDKYYADSVKGRFTISRDNSKKTVSLQMSSLRAEDTAVYYCAKNGESGPLDYWYFDLWGRGTSSGGGGSGGGGSGGGGSDVVMTQSPSSLTASVGDRVTITCQASQDISNYLNWYQQKPGKAPKLLIYDASNLETGVPSRFSGSGSGTDFTLSIDSLQPEDFATYYCQQYHTYPLTFGGGTKVDIK
配列番号81
QVQLVQSGGGVVQPGGSLRVSCAASGVTLSDYGMHWVRQAPGKGLEWMAFIRNDGSDKYYADSVKGRFTISRDNSKKTVSLQMSSLRAEDTAVYYCAKNGESGPLDYWYFDLWGRGTSSGGGGSGGGGSGGGGSDVVMTQSPSSLSASVGDRVTITCQASQDISNYLNWYQQKPGKAPKLLIYDASNLETGVPSRFSGSGSGTDFTFTISSLQPEDIATYYCQQYDNLPLTFGGGTKVDIK
配列番号82
QVQLVQSGGGVVQPGGSLRVSCAASGVTLSDYGMHWVRQAPGKGLEWMAFIRNDGSDKYYADSVKGRFTISRDNSKKTVSLQMSSLRAEDTAVYYCAKNGESGPLDYWYFDLWGRGTSSGGGGSGGGGSGGGGSDVVMTQSPSSLSASVGDRVTITCRTSQGISSALAWYQQKPGKAPKLLIYDASSLESGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQFNNYPLTFGGGTKVDIK
配列番号83
QVQLVQSGGGVVQPGGSLRVSCAASGVTLSDYGMHWVRQAPGKGLEWMAFIRNDGSDKYYADSVKGRFTISRDNSKKTVSLQMSSLRAEDTAVYYCAKNGESGPLDYWYFDLWGRGTSSGGGGSGGGGSGGGGSDVVMTQSPSSLSASVGDRVTITCQASQDISNYLAWYQQKPGRAPTLLIFAASNLQSGVPSRFSGSGSGTEFTLTISGLQPEDFATYYCLQDSSYPPTFGGGTKVDIK
配列番号84
QVQLVQSGGGVVQPGGSLRVSCAASGVTLSDYGMHWVRQAPGKGLEWMAFIRNDGSDKYYADSVKGRFTISRDNSKKTVSLQMSSLRAEDTAVYYCAKNGESGPLDYWYFDLWGRGTSSGGGGSGGGGSGGGGSDVVMTQSPSTLSASVGDRVTITCRASQSISSWLAWYQQKPGRAPTLLIYKASNLQSGVPSRFSGSGSGTEFTLTISSLQPDDFASYYCQQYSNYPLTFGGGTKVDIK
配列番号85
QVQLVQSGGGVVQPGGSLRVSCAASGVTLSDYGMHWVRQAPGKGLEWMAFIRNDGSDKYYADSVKGRFTISRDNSKKTVSLQMSSLRAEDTAVYYCAKNGESGPLDYWYFDLWGRGTSSGGGGSGGGGSGGGGSDVVMTQSPSFLSASVGDRVTITCRASHGISNYFAWYQQKPGKAPKLLIYATSTLQSGVPSRFSGSGSGTEFTLTISGLQPEDFATYYCQQYSSYPLTFGGGTKVDIK
配列番号86
QVQLVQSGGGVVQPGGSLRVSCAASGVTLSDYGMHWVRQAPGKGLEWMAFIRNDGSDKYYADSVKGRFTISRDNSKKTVSLQMSSLRAEDTAVYYCAKNGESGPLDYWYFDLWGRGTSSGGGGSGGGGSGGGGSDVVMTQSPSTLSAYVGDRITITCRASRGSNYLAWYQQKPGKAPKLLIYATSTLQSGVPLRFSGSGSGTEFTLTISGLQPEDFATYYCQQYDSYPPTFGGGTKVDIK
【0133】
前記抗原結合ドメインは、配列番号73、または配列番号73に対して少なくとも80%の同一性を有する変異体を含んでいてもよい。好適には、前記変異体は配列番号73に対して少なくとも85%、90%、95%、97%、98%、または99%の同一性を有してもよい。
【0134】
前記抗原結合ドメインは、配列番号34、または配列番号34に対して少なくとも80%の同一性を有する変異体を含んでいてもよい。好適には、前記変異体は配列番号34に対して少なくとも85%、90%、95%、97%、98%、または99%の同一性を有してもよい。
【0135】
前記抗原結合ドメインは、配列番号74、または配列番号74に対して少なくとも80%の同一性を有する変異体を含んでいてもよい。好適には、前記変異体は配列番号74に対して少なくとも85%、90%、95%、97%、98%、または99%の同一性を有してもよい。
【0136】
前記抗原結合ドメインは、配列番号75、または配列番号75に対して少なくとも80%の同一性を有する変異体を含んでいてもよい。好適には、前記変異体は配列番号75に対して少なくとも85%、90%、95%、97%、98%、または99%の同一性を有してもよい。
【0137】
前記抗原結合ドメインは、配列番号76、または配列番号76に対して少なくとも80%の同一性を有する変異体を含んでいてもよい。好適には、前記変異体は配列番号76に対して少なくとも85%、90%、95%、97%、98%、または99%の同一性を有してもよい。
【0138】
前記抗原結合ドメインは、配列番号77、または配列番号77に対して少なくとも80%の同一性を有する変異体を含んでいてもよい。好適には、前記変異体は配列番号77に対して少なくとも85%、90%、95%、97%、98%、または99%の同一性を有してもよい。
【0139】
前記抗原結合ドメインは、配列番号78、または配列番号78に対して少なくとも80%の同一性を有する変異体を含んでいてもよい。好適には、前記変異体は配列番号78に対して少なくとも85%、90%、95%、97%、98%、または99%の同一性を有してもよい。
【0140】
前記抗原結合ドメインは、配列番号79、または配列番号79に対して少なくとも80%の同一性を有する変異体を含んでいてもよい。好適には、前記変異体は配列番号79に対して少なくとも85%、90%、95%、97%、98%、または99%の同一性を有してもよい。
【0141】
前記抗原結合ドメインは、配列番号80、または配列番号80に対して少なくとも80%の同一性を有する変異体を含んでいてもよい。好適には、前記変異体は配列番号80に対して少なくとも85%、90%、95%、97%、98%、または99%の同一性を有してもよい。
【0142】
前記抗原結合ドメインは、配列番号81、または配列番号81に対して少なくとも80%の同一性を有する変異体を含んでいてもよい。好適には、前記変異体は配列番号81に対して少なくとも85%、90%、95%、97%、98%、または99%の同一性を有してもよい。
【0143】
前記抗原結合ドメインは、配列番号82、または配列番号82に対して少なくとも80%の同一性を有する変異体を含んでいてもよい。好適には、前記変異体は配列番号82に対して少なくとも85%、90%、95%、97%、98%、または99%の同一性を有してもよい。
【0144】
前記抗原結合ドメインは、配列番号83、または配列番号83に対して少なくとも80%の同一性を有する変異体を含んでいてもよい。好適には、前記変異体は配列番号83に対して少なくとも85%、90%、95%、97%、98%、または99%の同一性を有してもよい。
【0145】
前記抗原結合ドメインは、配列番号84、または配列番号84に対して少なくとも80%の同一性を有する変異体を含んでいてもよい。好適には、前記変異体は配列番号84に対して少なくとも85%、90%、95%、97%、98%、または99%の同一性を有してもよい。
【0146】
前記抗原結合ドメインは、配列番号85、または配列番号85に対して少なくとも80%の同一性を有する変異体を含んでいてもよい。好適には、前記変異体は配列番号85に対して少なくとも85%、90%、95%、97%、98%、または99%の同一性を有してもよい。
【0147】
前記抗原結合ドメインは、配列番号86、または配列番号86に対して少なくとも80%の同一性を有する変異体を含んでいてもよい。好適には、前記変異体は配列番号86に対して少なくとも85%、90%、95%、97%、98%、または99%の同一性を有してもよい。
【0148】
膜貫通ドメイン
CARはまた、膜貫通ドメインを含んでもよい。膜貫通ドメインは、I型膜貫通タンパク質、II型膜貫通タンパク質、またはIII型膜貫通タンパク質などの、膜貫通ドメインを有するタンパク質のいずれかからの膜貫通配列を含んでいてもよい。CARの膜貫通ドメインはまた、人工疎水性配列を含んでもよい。CARの膜貫通ドメインは、二量化しないように選択されればよい。膜貫通ドメインがさらにあってもよいことは、当業者に明らかであろう。CAR構築に使用される膜貫通(TM)領域の例を、下記に示す。1)CD28 TM領域(Pule et al、Mol Ther、2005、Nov;12(5):933-41; Brentjens et al、CCR、2007、Sep 15;13(18 Pt 1):5426-35; Casucci et al、Blood、2013、Nov 14;122(20):3461-72.); 2)OX40 TM領域(Pule et al、Mol Ther、2005、Nov;12(5):933-41); 3)41BB TM領域(Brentjens et al、CCR、2007、Sep 15;13(18 Pt 1):5426-35); 4)CD3 zeta TM領域(Pule et al、Mol Ther、2005、Nov;12(5):933-41; Savoldo B、Blood、2009、Jun 18;113(25):6392-402.); 5)CD8a TM領域(Maher et al、Nat Biotechnol、2002、Jan;20(1):70-5.; Imai C、Leukemia、2004、Apr;18(4):676-84; Brentjens et al、CCR、2007、Sep 15;13(18 Pt 1):5426-35; Milone et al、Mol Ther、2009、Aug;17(8):1453-64.).
【0149】
好適には、膜貫通ドメインは配列番号35として示されるアミノ酸配列、または配列番号35にたいして少なくとも80%の同一性を有する変異体を含んでいてもよい。
配列番号35-CD28膜貫通
FWVLVVVGGVLACYSLLVTVAFIIFWV
好適には、前記変異体は、配列番号35に対して少なくとも85%、90%、95%、97%、98%、または99%の同一性を有してもよい。
【0150】
好適には、CARはCD8α膜貫通ドメインを含んでいてもよい。好適には、膜貫通ドメインは配列番号87として示されるアミノ酸配列、または配列番号87に対して少なくとも80%の同一性を有する変異体を含んでいてもよい。
CD8α TMドメイン(AA 183~203)の例(配列番号87):
IYIWAPLAGTCGVLLLSLVIT
好適には、前記変異体は、配列番号87に対して少なくとも85%、90%、95%、97%、98%、または99%の同一性を有してもよい。
【0151】
好適には、CARはCD28ヒンジおよび膜貫通配列を含んでいてもよい。好適には、前記ヒンジおよび膜貫通ドメインは、配列番号36として示されるアミノ酸配列、または配列番号36に対して少なくとも80%の同一性を有する変異体を含んでいてもよい。
配列番号36-CD28膜貫通
IEVMYPPPYLDNEKSNGTIIHVKGKHLCPSPLFPGPSKPFWVLVVVGGVLACYSLLVTVAFIIFWV
好適には、前記変異体は、配列番号36に対して少なくとも85%、90%、95%、97%、98%、または99%の同一性を有してもよい。
【0152】
一実施形態において、膜貫通および細胞内シグナルドメインはどちらもCD28由来である。一実施形態において、膜貫通および細胞内シグナルドメインは下記の配列を含む。
ヒトCD28の膜貫通および細胞内部分(UNIPROT:P10747、CD28_HUMAN、153-220位)
FWVLVVVGGVLACYSLLVTVAFIIFWVRSKRSRLLHSDYMNMTPRRPGPTRKHYQPYAPPRDFAAYRS(配列番号37)
一実施形態において、膜貫通および細胞内シグナルドメインは、配列番号37に対して少なくとも85%、90%、95%、97%、98%、または99%の同一性を有する。
【0153】
一実施形態において、CD28の膜貫通ドメインは配列FWVLVVVGGVLACYSLLVTVAFIIFWV(配列番号38)を含む。
【0154】
好適には、CARは、c-Mycタグ(EQKLISEEDL-配列番号39)などのタグをコードしてもよい。好適には、前記タグは、CARの細胞外ドメイン、たとえば、細胞外ドメインのヒンジ領域などに組み込まれてもよい。c-Mycタグが一体化されているCD28ヒンジ/膜貫通ドメインの例が、配列番号40として示されている。
IEVEQKLISEEDLLDNEKSNGTIIHVKGKHLCPSPLFPGPSKPFWVLVVVGGVLACYSLLVTVAFIIFWV(配列番号40).
【0155】
好適には、CARはCD8αヒンジドメインとCD28膜貫通ドメインとを含んでいてもよい。好適には、前記ヒンジおよび膜貫通ドメインは、配列番号88として示されるアミノ酸配列、または、配列番号88に対して少なくとも80%の同一性を有する変異体を含んでいてもよい。
CD8αヒンジドメインとCD28膜貫通ドメインの例(配列番号88):
TTTPAPRPPTPAPTIASQPLSLRPEACRPAAGGAVHTRGLDFACDFWVLVVVGGVLACYSLLVTVAFIIFWV
好適には、前記変異体は、配列番号88に対して少なくとも85%、90%、95%、97%、98%、または99%の同一性を有してもよい。
【0156】
好適には、CARはCD28ヒンジドメインとCD8α膜貫通ドメインとを含んでいてもよい。好適には、前記ヒンジおよび膜貫通ドメインは、配列番号89として示されるアミノ酸配列、または、配列番号89に対して少なくとも80%の同一性を有する変異体を含んでいてもよい。
CD28ヒンジドメインとCD8α膜貫通ドメインの例(配列番号89):
IEVMYPPPYLDNEKSNGTIIHVKGKHLCPSPLFPGPSKPIYIWAPLAGTCGVLLLSLVIT
好適には、前記変異体は、配列番号89に対して少なくとも85%、90%、95%、97%、98%、または99%の同一性を有してもよい。
【0157】
CARはさらに、細胞表面での発現のための小胞体経路に対してCARを向かわせるリーダー配列を含んでいてもよい。リーダー配列の例としては、MALPVTALLLPLALLLHAARP(配列番号41)がある。
【0158】
本発明に使用するためのCARの例は、配列番号42~44として示される。
配列番号42(HLA-A2 scFV、c-Mycタグ、CD28、IL2RB-Y510、CD3ゼータエンドドメインを含むCAR)
MALPVTALLLPLALLLHAARPQVQLVQSGGGVVQPGGSLRVSCAASGVTLSDYGMHWVRQAPGKGLEWMAFIRNDGSDKYYADSVKGRFTISRDNSKKTVSLQMSSLRAEDTAVYYCAKNGESGPLDYWYFDLWGRGTLVTVSSGGGGSGGGGSGGGGSDVVMTQSPSSLSASVGDRVTITCQASQDISNYLNWYQQKPGKAPKLLIYDASNLETGVPSRFSGSGSGTDFTFTISSLQPEDIATYYCQQYDNLPPTFGGGTKLTVLGAAAIEVEQKLISEEDLLDNEKSNGTIIHVKGKHLCPSPLFPGPSKPFWVLVVVGGVLACYSLLVTVAFIIFWVRSKRSRLLHSDYMNMTPRRPGPTRKHYQPYAPPRDFAAYRSNCRNTGPWLKKVLKCNTPDPSKFFSQLSSEHGGDVQKWLSSPFPSSSFSPGGLAPEISPLEVLERDKVTQLLPLNTDAYLSLQELQGQDPTHLVRVKFSRSADAPAYQQGQNQLYNELNLGRREEYDVLDKRRGRDPEMGGKPRRKNPQEGLYNELQKDKMAEAYSEIGMKGERRRGKGHDGLYQGLSTATKDTYDALHMQALPPRETRGGGATMVSKGEELFTGVVPILVELDGDVNGHKFSVSGEGEGDATYGKLTLKFICTTGKLPVPWPTLVTTLTYGVQCFSRYPDHMKQHDFFKSAMPEGYVQERTIFFKDDGNYKTRAEVKFEGDTLVNRIELKGIDFKEDGNILGHKLEYNYNSHNVYIMADKQKNGIKVNFKIRHNIEDGSVQLADHYQQNTPIGDGPVLLPDNHYLSTQSKLSKDPNEKRDHMVLLEFVTAAGITLGMDELYK
配列番号43(HLA-A2 scFV、c-Mycタグ、CD28、IL2RG-T52、IL2RB-Y510、CD3ゼータエンドドメインを含むCAR)
MALPVTALLLPLALLLHAARPQVQLVQSGGGVVQPGGSLRVSCAASGVTLSDYGMHWVRQAPGKGLEWMAFIRNDGSDKYYADSVKGRFTISRDNSKKTVSLQMSSLRAEDTAVYYCAKNGESGPLDYWYFDLWGRGTLVTVSSGGGGSGGGGSGGGGSDVVMTQSPSSLSASVGDRVTITCQASQDISNYLNWYQQKPGKAPKLLIYDASNLETGVPSRFSGSGSGTDFTFTISSLQPEDIATYYCQQYDNLPPTFGGGTKLTVLGAAAIEVEQKLISEEDLLDNEKSNGTIIHVKGKHLCPSPLFPGPSKPFWVLVVVGGVLACYSLLVTVAFIIFWVRSKRSRLLHSDYMNMTPRRPGPTRKHYQPYAPPRDFAAYRSERTMPRIPTLKNLEDLVTEYHGNFSAWSGVSKGLAESLQPDYSERLCLVSEINCRNTGPWLKKVLKCNTPDPSKFFSQLSSEHGGDVQKWLSSPFPSSSFSPGGLAPEISPLEVLERDKVTQLLPLNTDAYLSLQELQGQDPTHLVRVKFSRSADAPAYQQGQNQLYNELNLGRREEYDVLDKRRGRDPEMGGKPRRKNPQEGLYNELQKDKMAEAYSEIGMKGERRRGKGHDGLYQGLSTATKDTYDALHMQALPPR
配列番号44(HLA-A2 scFV、c-Mycタグ、CD28、IL2RG-T52、IL7RA-2Y、CD3ゼータエンドドメインを含むCAR)
MALPVTALLLPLALLLHAARPQVQLVQSGGGVVQPGGSLRVSCAASGVTLSDYGMHWVRQAPGKGLEWMAFIRNDGSDKYYADSVKGRFTISRDNSKKTVSLQMSSLRAEDTAVYYCAKNGESGPLDYWYFDLWGRGTLVTVSSGGGGSGGGGSGGGGSDVVMTQSPSSLSASVGDRVTITCQASQDISNYLNWYQQKPGKAPKLLIYDASNLETGVPSRFSGSGSGTDFTFTISSLQPEDIATYYCQQYDNLPPTFGGGTKLTVLGAAAIEVEQKLISEEDLLDNEKSNGTIIHVKGKHLCPSPLFPGPSKPFWVLVVVGGVLACYSLLVTVAFIIFWVRSKRSRLLHSDYMNMTPRRPGPTRKHYQPYAPPRDFAAYRSERTMPRIPTLKNLEDLVTEYHGNFSAWSGVSKGLAESLQPDYSERLCLVSEIKKRIKPIVWPSLPDHKKTLEHLCKKPRKNLNVSFNPESFLDCQIHRVDDIQARDEVEGFLQDTFPQQPILTSLGSNQEEAYVTMSSFYQNQRVKFSRSADAPAYQQGQNQLYNELNLGRREEYDVLDKRRGRDPEMGGKPRRKNPQEGLYNELQKDKMAEAYSEIGMKGERRRGKGHDGLYQGLSTATKDTYDALHMQALPPRGSGATNFSLLKQAGDVEENPG
CARは、配列番号42~44のいずれかに対して少なくとも85%、90%、95%、97%、98%、または99%の同一性を有していてもよい。
【0159】
医薬組成物
本発明の改変されたTregまたはCARを含む医薬組成物もまた提供される。
【0160】
医薬組成物は、治療上有効量の医薬的に活性な薬剤、すなわち前記Tregを含む、またはそれから成る、組成物である。好ましくは、医薬組成物は薬学的に許容される担体、希釈剤、または賦形剤(それらの組み合わせを含む)を含む。治療目的の使用のために許容される担体または希釈剤は、薬学的技術分野で周知であり、たとえばRemington's Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Co. (A. R. Gennaro編、1985)に記載されている。薬学的担体、賦形剤、または希釈剤の選択は、意図する投与経路と標準的な薬務とを考慮して選択できる。前記医薬組成物は、担体、賦形剤、または希釈剤として、またはそれらに加えて、適した結合剤、滑剤、懸濁化剤、コーティング剤、または可溶化剤を含んでもよい。
【0161】
「薬学的に許容される」とは、製剤が滅菌済であり、発熱物質(pyrogen)を含まないという意味を含む。担体、希釈剤および/または賦形剤は、前記Tregと親和性があり、レシピエントに対して有害ではないという意味において、「許容可能」でなければならない。典型的には、担体、希釈剤および/または賦形剤は、滅菌済であり、発熱物質を含まない生理的媒体または輸液媒体であるが、他の許容可能な担体、希釈剤、賦形剤を用いてもよい。
【0162】
薬学的に許容される担体の例としては、たとえば、水、塩類溶液、アルコール、シリコーン、蝋、ワセリン、植物油、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、リポソーム、糖、ゼラチン、ラクトース、アミロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、界面活性剤、珪酸、粘性パラフィン、香油、脂肪酸モノグリセリド、脂肪酸ジグリセリド、ペトロエスラル脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどがある。
【0163】
本発明に係るTregまたは医薬組成物は、本明細書に記載の疾患を治療および/または予防するのに適した様式で投与されてもよい。投与量および投与頻度は、対象の状態ならびに対象の疾患の種類および重症度などの要因によって決定されるが、適切な投与量は、臨床試験によって決定されてもよい。前記医薬組成物は、それに従って処方されればよい。
【0164】
本明細書に記載のTregまたは医薬組成物は、非経口投与、たとえば静脈内投与でき、または輸液技術により投与してもよい。前記Tregまたは医薬組成物は、血液と等張にするために、たとえば十分な塩類やグルコースなど、他の物質を含んだ滅菌済水溶液の形態で投与してもよい。前記水溶液は、好適には緩衝してもよい(好ましくはpH3~9)。前記医薬組成物は、適切に処方されればよい。滅菌条件のもとでの好適な非経口製剤の調製は、当業者に周知の標準的な薬学的技術によって容易に成しえる。
【0165】
前記医薬組成物は、輸液媒体、たとえば滅菌済等張溶液中に本発明のTregを含んでもよい。前記医薬組成物は、ガラスまたはプラスチック製の、アンプル、使い捨て注射器、または複数回投与バイアルに封入してもよい。
【0166】
前記Tregまたは医薬組成物は、単回または複数回で投与されてもよい。特に、前記Tregまたは医薬組成物は、単回の使い切りで投与されてもよい。前記医薬組成物は、それに従って処方されればよい。
【0167】
前記医薬組成物は、さらに、1つ以上の活性な薬剤を含んでもよい。
前記医薬組成物はさらに、リンパ球枯渇剤(たとえば、サイモグロブリン、campath-1H、抗CD2抗体、抗CD3抗体、抗CD20抗体、シクロホスファミド、フルダラビン)、mTOR阻害剤(たとえば、シロリムス、エベロリムス)、共刺激経路を阻害する薬剤(たとえば、抗CD40/CD40L、CTAL4Ig)、および/または特異的なサイトカイン(IL-6、IL-17、TNFalpha、IL18)などの、1つ以上の他の治療薬を含んでいてもよい。
【0168】
治療する疾患や対象、投与経路によって、前記Tregまたは医薬組成物が様々な投与量(たとえば、細胞数/kg、または細胞数/対象、などで測定)で投与されてもよい。いずれにしても、医師が個体対象にとって最も適した実際の投与量を判定するものであり、それはその対象の年齢、体重、および反応に応じて変わるであろう。しかしながら典型的には、本発明のTregについては、投与量として一個の対象につき5x107~3x109個の細胞、または108~2x109個の細胞が投与されてもよい。
【0169】
前記Tregは、医薬組成物に使用するために適切に変更されてもよい。たとえば、Tregは、対象に注入される前に、凍結保存されて適切な時間に解凍されてもよい。
【0170】
本発明のTregおよび/または医薬組成物を含むキットの使用も、さらに本発明に含まれる。好ましくは、当該キットは、本明細書に記載の前記方法および使用、たとえば、本明細書に記載の治療方法に用いられるためのものである。好ましくは、当該キットは、キットの構成の使用についての指示書を含む。
【0171】
治療方法
本発明は、移植に対する寛容を誘導し;移植の細胞性拒絶反応および/または液性拒絶反応を治療および/または予防し;移植片対宿主病(GvHD)、自己免疫疾患、またはアレルギー疾患を、治療および/または予防し;または、組織の修復および/または組織の再生を促進し;または、代謝異常の二次的症状である慢性炎症を改善する方法を提供し、前記方法は、本発明の改変されたTregまたは医薬組成物を対象に投与する工程を含む。
【0172】
本明細書において、「移植に対する寛容を誘導する」とは、レシピエントに移植された臓器への寛容を誘導することをいう。換言すれば、移植に対する寛容を誘導するとは、ドナー移植臓器に対するレシピエントの免疫応答のレベルを下げることを意味する。移植臓器に対する寛容を誘導することで、移植レシピエントが必要とする免疫抑制剤の量を減らすか、または、免疫抑制剤の中断を可能にしてもよい。
【0173】
たとえば、黄疸、暗色尿、かゆみ、腹部膨満、圧痛、倦怠、吐き気または嘔吐、および/または食欲不振などの、疾患の症状の少なくとも一つを少なくしたり、軽くしたり、または改善するために、疾患のある対象に改変されたTregを投与してもよい。少なくとも1つの症状を少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、または少なくとも50%少なくしたり、軽くしたり、または改善してもよく、または、少なくとも1つの症状を完全に癒してもよい。
【0174】
疾患の進行を遅めたり、軽減したり、または止めたりするために、疾患のある対象に改変されたTregを投与してもよい。改変されたTregが投与されない対象と比較して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、または少なくとも50%疾患の進行を遅めたり、軽減したり、または止めたりしてもよく、または、前記疾患の進行を完全に止めてもよい。
【0175】
一実施形態において、対象は免疫抑制治療を受けている移植レシピエントである。
好適には、対象は哺乳動物である。好適には、対象はヒトである。
【0176】
移植は、肝臓、腎臓、心臓、肺、膵臓、小腸、胃、骨髄、血管柄付複合組織移植、および皮膚の移植から選択してもよい。
好適には、移植(graft/transplant)ドナーに存在するが、移植(graft/trasplant)レシピエントには存在しないHLA抗原と特異的に結合できる抗原結合ドメインを、前記CARが含んでいてもよい。
【0177】
好適には、移植は肝臓移植である。移植が肝臓移植である実施形態において、抗原としては、移植された臓器に存在するが患者には存在しないHLA抗原や、NTCPなど肝臓特異的な抗原、または、拒絶の間に発現が増加する抗原、たとえばCCL19、MMP9、SLC1A3、MMP7、HMMR、TOP2A、GPNMB、PLA2G7、CXCL9、FABP5、GBP2、CD74、CXCL10、UBD、CD27、CD48、CXCL11などが挙げられる。
好適には、抗原はHLA-A2であってもよい。
【0178】
本発明はさらに、移植片対宿主病(GvHD)、自己免疫疾患、またはアレルギー疾患を、治療および/または予防し;または、組織の修復および/または組織の再生を促進し;または、代謝異常の二次的症状である慢性炎症を改善する方法を提供する。
【0179】
疾患の治療方法は、本発明の細胞の治療目的の使用に関する。これに関して、前記疾患に関連する少なくとも1つの症状を少なくしたり、軽くしたり、または改善するために、および/または前記疾患の進行を遅めたり、軽減したり、または止めたりするために、既存の疾患または病状を持つ対象に、前記細胞を投与してもよい。
【0180】
好適には、移植の細胞性拒絶反応および/または液性拒絶反応を治療および/または予防するというのは、有効量の本発明のTregを投与して、移植レシピエントが必要とする免疫抑制剤の量を減らすか、または、免疫抑制剤の中断を可能にすることであってもよい。
【0181】
疾患の予防は、本発明の細胞を、予防目的で使用することに関連する。これに関して、まだ罹患していない、および/または疾患の症状を示していない対象に対して、前記疾患を予防したり、前記疾患に関連する少なくとも1つの症状を軽くしたり、または予防したりするために、前記細胞を投与してもよい。対象は、前記疾患にかかりやすい体質であったり、または、前記疾患を発症する危険性を教示されているかもしれない。
【0182】
自己免疫疾患またはアレルギー疾患は、乾癬や皮膚炎(たとえば、アトピー性皮膚炎)などの炎症性皮膚病;炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎など)に関連した反応;皮膚炎;食物アレルギー、湿疹や喘息などのアレルギー症状;慢性関節リュウマチ;全身性エリテマトーデス(SLE)(ループス腎炎、皮膚ループスを含む);真性糖尿病(たとえば、I型真性糖尿病や、インスリン依存性糖尿病);多発性硬化症や若年型糖尿病から選択されうる。
【0183】
好適には、本発明の治療方法は、本発明に係る、または本発明に係る方法により獲得可能な(たとえば、獲得された)、改変されたTreg、または本明細書において定義された(たとえば、上述の医薬組成物中の)ポリヌクレオチドまたはベクターを、対象に投与する工程を含んでいてもよい。
【0184】
好適には、疾患の治療および/または予防のための当該方法は、本発明に係る改変されたTreg(たとえば、上述の医薬組成物中の)を、対象に投与する工程を含んでいてもよい。
【0185】
上記方法は、下記の工程を包含していてもよい。
(i)細胞含有サンプルを単離する、または細胞含有サンプルを提供すること;
(ii)本明細書において定義されたポリヌクレオチドまたはベクターを前記細胞に導入すること;および
(iii)対象に、(ii)からの前記細胞を投与すること。
【0186】
好適には、前記細胞は、本明細書において定義されたTregである。
【0187】
好適には、前記方法の工程(ii)の前に、および/またはその後に、前記細胞含有サンプルから、富化されたTreg集団を単離し、および/または生成してもよい。
【0188】
たとえば、単離および/または生成は、工程(ii)の前に、および/またはその後に行い、富化されたTregサンプルを単離し、および/または生成してもよい。本発明のCAR、ポリヌクレオチド、および/またはベクターを含む細胞および/またはTregについて富化を行うために、工程(ii)の後に富化を行ってもよい。
【0189】
好適には、前記ポリヌクレオチドまたはベクターは、形質導入によって導入してもよい。好適には、前記ポリヌクレオチドまたはベクターは、遺伝子導入によって導入してもよい。
【0190】
好適には、前記細胞は、自家細胞である。好適には、前記細胞は、同種細胞である。
好適には、改変されたTregは、1つ以上の他の治療薬と組み合わせて投与してもよく、他の治療薬としては、リンパ球枯渇剤(たとえば、サイモグロブリン、キャンパスー1H、抗CD2抗体、抗CD3抗体、抗CD20抗体、シクロホスファミド、フルダラビン)、mTOR阻害剤(たとえば、シロリムス、エベロリムス)、共刺激経路を阻害する薬剤(たとえば、抗CD40/CD40L、CTAL4Ig)、および/または特異的なサイトカイン(IL-6、IL-17、TNFalpha、IL18)などがある。改変されたTregは、前記1つ以上の他の治療薬と同時にもしくは逐次的に(つまり、その前、または後に)投与してもよい。
好適には、対象は哺乳動物である。好適には、対象はヒトである。
【0191】
本明細書に記載のCARをコードするポリヌクレオチドを導入する前に、または後に、たとえば、抗CD3モノクローナル抗体を使用した処理により、または抗CD3モノクローナル抗体と抗CD28モノクローナル抗体とを使用した処理により、前記Tregを活性化および/または増殖させてもよい。
【0192】
また、抗CD3モノクローナル抗体と抗CD28モノクローナル抗体とが、IL-2との組み合わせで存在するところで、前記Tregを増殖してもよい。好適には、IL-2はIL-15と置き換えられてもよい。Treg増殖プロトコルで使用されてもよい別の成分としては、ラパマイシン、全トランス型レチノイン酸(ATRA)、およびTGFβがあるが、これらに限定されるわけではない。
【0193】
本明細書において、「活性化される」とは、TregまたはTregの集団が刺激されて、Tregの増殖が起こることを意味する。本明細書において、「増殖される」とは、TregまたはTregの集団の増殖が誘導されることを意味する。Tregの集団の増殖は、たとえば、集団に存在するTregの数をカウントすることにより測定してもよい。Tregの表現型は、フローサイトメトリーなど当該技術分野で周知の方法によって判定してもよい。
【0194】
前記Tregは、前記方法の各工程の後に、特に増殖の後に、洗浄してもよい。
【0195】
本発明に係る改変されたTreg細胞の集団は、当業者に周知のいずれかの方法によって、たとえばFACSや磁性ビーズ分離によって、さらに富化されてもよい。
【0196】
作製方法の工程は、閉鎖された無菌の細胞培養系で行われてもよい。
【0197】
ポリヌクレオチド
本発明のポリヌクレオチドは、DNAまたはRNAを含んでもよい。それらは、一本鎖または二本鎖であってもよい。多数の様々なポリヌクレオチドが、遺伝子コードの退化の結果、同じポリペプチドをコードできるポリヌクレオチドが数多く様々あることを、当業者は理解しているであろう。さらに、当業者が常用手技を使用して、本発明のポリヌクレオチドによりコードされたポリペプチド配列に影響を与えないヌクレオチド置換基を作り、本発明のポリペプチドが発現される特定の宿主個体のコドン使用を反映させてもよいことが、理解されるであろう。
【0198】
前記ポリヌクレオチドは、当該技術分野で利用可能な任意の方法で改変してもよい。本発明のポリヌクレオチドのインビボ活性を向上し、または寿命を伸ばすために、かかる改変を行ってもよい。
【0199】
DNAポリヌクレオチドのようなポリヌクレオチドは、遺伝子組換え、合成、または当業者が利用可能な任意の手段によって作製してもよい。標準的な技術でポリヌクレオチドのクローンを作ってもよい。
【0200】
より長いポリヌクレオチドは、一般的に、遺伝子組換え手段を使用して、たとえばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)クローニング技術を使用して作製されるだろう。これは、クローンを作りたい標的配列の横に並べた一対のプライマー(たとえば、約15~30個のヌクレオチドのもの)を作り、前記プライマーを動物またはヒトの細胞から得られたmRNAまたはcDNAと接触させ、所望の領域の増幅をもたらすような条件でポリメラーゼ連鎖反応を行い、増幅された断片を単離し(たとえば、アガロースゲルで反応混合物を精製することにより)、増幅されたDNAを回収することを含むだろう。前記プライマーは、増幅されたDNAが好適なベクターにクローニングされるように、好適な制限酵素認識部位を含むように設計されてもよい。
【0201】
当該ポリヌクレオチドは、選択可能なマーカーをコードする核酸配列を、さらに含んでもよい。好適に選択可能なマーカーは、当該技術分野において周知であり、GFPなどの蛍光蛋白質を含むが、これらに限定されるわけではない。好適には、前記選択可能なマーカーは、たとえばGFP、YFP、RFP、tdTomato、dsRed、またはこれらの変異体などの蛍光蛋白質であってもよい。いくつかの実施形態において、前記蛍光蛋白質は、GFP、またはGFP変異体である。選択可能マーカーをコードする核酸配列は、核酸コンストラクトの形態で当該CARをコードする核酸配列との組み合わせで提供される。かかる核酸コンストラクトは、ベクターに提供されてもよい。
【0202】
好適には、前記選択可能マーカー/レポータードメインは、ルシフェラーゼ系レポーター、PETレポーター(たとえば、ヨウ化ナトリウム共輸送体(NIS)、または膜タンパク質(たとえば、CD34、低親和性神経成長因子受容体(LNGFR))であってもよい。
前記CARをコードする核酸配列と選択可能マーカーとは、共発現部位によって分離されてもよく、それにより各ポリペプチドが個々の実体として発現することが可能になる。好適な共発現部位は当該技術分野で周知であり、たとえば、配列内リボソーム進入部位(IRES)や自己切断ペプチドがある。
【0203】
さらに好適な共発現部位/配列は、自己切断(self-cleaving)ドメイン、または切断(cleavage)ドメインを含む。かかる配列は、タンパク質作製中に自己切断するか、または細胞中に存在する一般的な酵素により切断されてもよい。したがって、ポリペプチド配列中にかかる自己切断(self-cleaving)ドメインまたは切断(cleavage)ドメインを含むことにより、第一および第二のポリペプチドが単一のポリペプチドとして発現されるようにでき、前記単一のポリペプチドがその後切断されて、個々の機能的なポリペプチドになる。
【0204】
好適な自己切断(self-cleaving)ドメインまたは切断(cleavage)ドメインには、配列番号46~51として示されるものがあるが、それらに限定されるわけではない。
(配列番号46)P2Aペプチド-切断ドメイン:GSGATNFSLLKQAGDVEENPGP
(配列番号47)T2Aペプチド-切断ドメイン:GSGEGRGSLLTCGDVEENPGP
(配列番号48)E2Aペプチド-切断ドメイン:GSGQCTNYALLKLAGDVESNPGP
(配列番号49)F2Aペプチド-切断ドメイン:GSGVKQTLNFDLLKLAGDVESNPGP
(配列番号50)フューリン部位-切断ドメイン:RXXR(優先的には、RRKR-配列番号51)
【0205】
選択可能マーカーを使用することにより、本発明のポリヌクレオチドまたはベクターが(コードされているCARが発現するように)導入されているTregを、たとえばフローサイトメトリーなどの一般的な方法を使用して開始細胞集団から選択し単離できるので、選択可能マーカーの使用が有利である。
【0206】
コドン最適化
本発明で使用されるポリヌクレオチドは、コドン最適化されてもよい。コドン最適化は、以前より、WO1999/41397およびWO2001/79518に記載されている。細胞が異なっていれば、特定のコドンの使用も異なる。このコドンバイアスは、細胞タイプにおける特定のtRNAの相対的存在量の偏りに対応している。配列中のコドンを変えて、対応するtRNAの相対的存在量に合うようにコドンを適合させることにより、発現を増加させることが可能である。同様に、対応するtRNAが特定の細胞タイプにおいて少ないとわかっているコドンを故意に選択することによって、発現を減少させることが可能である。このように、翻訳調節の度合いをさらに増やすこともできる。
【0207】
ベクター
ベクターは、1つの環境から別の環境へのある実体の移動を可能にする、または容易にするツールである。本発明によれば、例として、組換え核酸技術に使用されるいくつかのベクターは、核酸のセグメント(たとえば、異種cDNAセグメントなどの異種DNAセグメント)などの実体を、標的細胞に移動させることができる。ベクターは、非ウイルス性であってもよいし、ウイルス性であってもよい。組換え核酸技術に使用されるベクトルの例としては、プラスミド、mRNA分子(たとえば、インビトロ転写mRNA)、染色体、人工染色体およびウイルスが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。ベクターはまた、たとえば、ネイキッド核酸(たとえば、DNA)であってもよい。もっとも単純な形態では、ベクターそれ自体が、目的のヌクレオチドであってもよい。
【0208】
本発明で使用されるベクターは、たとえば、プラスミド、mRNA、またはウイルスベクターであってもよく、ポリヌクレオチドの発現のためのプロモーター、場合によってはそのプロモーターのレギュレーターを含んでもよい。
【0209】
本発明のポリヌクレオチドを含むベクターを、形質転換や形質導入など、当該技術分野で周知の様々な技術を使用して細胞に導入してもよい。いくつかの技術が、当該技術分野で周知である。たとえば、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、バキュロウイルスベクター、単純ヘルペスウイルスベクターなどの組換えウイルスベクターを使用した感染、核酸の直接注入や、遺伝子銃形質転換である。
【0210】
非ウイルス送達システムには、DNA導入法などがあるが、これらに限定されるわけではない。なお、遺伝子導入は、遺伝子を標的細胞へ送達するための非ウイルスベクターを使用したプロセスを含む。非ウイルス送達システムは、リポソームまたは両親媒性細胞浸透性ペプチド、好ましくは、本発明のポリヌクレオチドと複合されたものを含むことができる。
【0211】
典型的な遺伝子導入法としては、エレクトロポレーション、DNA遺伝子銃、脂質媒介トランスフェクション、圧縮DNA媒介トランスフェクション、リポソーム、イムノリポソーム、リポフェクション、カチオン性薬剤媒介トランスフェクション、カチオン性表面両親媒性物質(CFAs)(Nat. Biotechnol. (1996) 14: 556)、および、これらの組み合わせがある。
【0212】
たとえば本発明の異なる複数のCARをコードするベクター、または、本発明のCARと、さらに別のポリペプチドとをコードするベクターなど、複数のベクターが、形質導入/遺伝子導入に使用できるであろう。
【0213】
細胞作製方法
ウイルスベクターを用いた形質導入や、DNAまたはRNAを用いた遺伝子導入などの多数の手段のうちのひとつによって、本明細書で定義されたCARをコードするDNAまたはRNAを導入することにより、本発明の改変されたTregが生成されてもよい。
本発明の細胞は、本明細書において定義されたポリヌクレオチドまたはベクターを細胞に(たとえば、形質導入または遺伝子導入によって)導入することにより、作製される。
好適には、前記細胞は、対象から単離されたサンプル由来であってもよい。
【0214】
本発明の改変されたTregは、下記工程を含む方法によって生成されてもよい。
(i)対象から細胞含有サンプルを単離する、または細胞含有サンプルを得る工 程;および
(ii)前記細胞含有サンプルに、ポリヌクレオチド、核酸、または本発明のCARをコードするベクターを形質導入または遺伝子導入し、改変された細胞の集団を得る工程。
【0215】
好適には、前記方法の工程(ii)の前、および/またはその後に、Treg富化サンプルを、細胞含有サンプルから単離し、富化し、および/または細胞含有サンプルから生成してもよい。たとえば、Tregの単離、富化、および/または生成は、工程(ii)の前に、および/またはその後に行って、Treg富化サンプルを単離し、富化し、および/または生成してもよい。本発明のCAR、ポリヌクレオチド、および/またはベクターを含む細胞および/またはTregについて富化を行うために、工程(ii)の後に単離および/または富化を行ってもよい。
【0216】
Treg富化サンプルは、当業者に周知のいずれかの方法によって、たとえばFACSおよび/または磁性ビーズ分離によって、単離または富化されてもよい。Treg富化サンプルは、当業者に周知のいずれかの方法によって、細胞含有サンプルから生成されてもよく、たとえば、FOXP3をコードするDNAまたはRNAを導入することによりTcon細胞から、および/または誘導性前駆細胞または胚性前駆細胞のエクスビボ分化から、生成されてもよい。
好適には、前記細胞は、本明細書において定義されるようなTregである。
【0217】
好適には、本発明の改変されたTregは、下記工程を含む方法によって生成されてもよい。
(i)対象からTreg富化サンプルを単離する、またはTreg富化サンプルを得る工程;および
(ii)前記Treg富化サンプルに、ポリヌクレオチド、核酸、または本発明のCARをコードするベクターを形質導入または遺伝子導入し、本発明に係る改変されたTreg細胞の集団を提供する工程。
【0218】
この開示は、本明細書に開示する前記例示の方法や材料によって制限されず、本明細書に記載された方法や材料と類似の、または等価の方法や材料を、この開示の実施形態の実施や試験に使用できる。数の範囲は、その範囲を定義する数を含む。特に断らない限り、核酸は左から右へ、5'から3'の方向に、アミノ酸配列は左から右へ、アミノからカルボキシの方向にそれぞれ書く。
【0219】
値の範囲が提供されている場合、文脈において明確に別段の指示がない限り下限値の単位の10分の1まで(to the tenth of the unit of the lower limit)、その範囲の上限値と下限値の間の各中間の値もまた特に開示されていると理解されたい。いずれかの記載された値、または記載された範囲の中間の値と、その他の記載された値、または前記記載の範囲の中間の値との間の、より狭い範囲の各々も、当該開示に包含される。これらのより狭い範囲の上限値および下限値は、その範囲に独立して含まれても、または除外されてもよく、境界値のどちらかがより狭い範囲に含まれる場合、境界値のどちらも含まれない場合、またはどちらも含まれる場合の各範囲も本開示に包含され、示された範囲内でいずれかの明確に除外された境界値に従う。示された範囲が境界値の一方または両方を含む場合、含まれる境界値のいずれかまたは両方を除外する範囲も本開示に含まれる。
【0220】
本明細書および添付の特許請求の範囲で用いられているように、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈において明確に別段の指示がない限り、複数の指示対象を含むことに留意されたい。
【0221】
本明細書における「comprising(含む)」、「comprises(含む)」および「comprised of(含む)」という用語は、「including(含む)」、「includes(含む)」、または「containing(含有する)」、「contains(含有する)」の同義語で、包括的または非限定的であり、記載されていない付加の部材や素子、方法の工程を除外するものではない。「comprising(含む)」、「comprises(含む)」および「comprised of(含む)」という用語はまた、「consisting of(から成る)」という用語も含む。
【0222】
本明細書で論じられる出版物は、本願の出願日の前の開示を単に提供する。本明細書のいずれの記載も、かかる出版物が添付の特許請求の範囲に対する先行技術を構成していると認めるものとして解釈されはしない。
【0223】
本発明を実施例によりさらに説明するが、これは本発明を実施する際に当業者を支援するためのものであり、本発明の範囲を制限することを意図していない。
本発明を実施例によりさらに説明するが、これは本発明を実施する際に当業者を支援するためのものであり、本発明の範囲を制限することを意図していない。
【0224】
実施例
実施例1-抗HLA.A2 IL2R CAR-Tregの生成
CD4+CD25hiCD127low細胞を単離し、抗CD3/CD28ビーズで活性化した。活性化の3日後、TregにHLA.A2-CAR(
図2に図示)とGFPレポーター遺伝子とを含むレンチウイルスを形質導入した。ポリクローナル活性化の後の全Tregの細胞増殖は、形質導入されたTregと形質導入されていないTregとでは、ほとんど差異が示されなかった(
図3)。
【0225】
実施例2-抗HLA.A2 IL2Rコンストラクトの形質導入の効果の経時的定量化
CARコンストラクトが形質導入されていないTregと、CARコンストラクトを形質導入したTregとについて、GFP発現を、細胞活性化後の異なる時点で解析した。
【0226】
GFP+細胞の頻度を解析し、Treg増殖期間にわたって様々なコンストラクトの形質導入の効果と発現の持続性を評価した。dCAR、CD28z、コンストラクト1、2、および3を含むTregは、形質導入後、同様の発現頻度を示した。Treg全体におけるGFP+細胞の割合は、ポリクローナル細胞増殖のあいだ、維持された(
図4)。
【0227】
実施例3-形質導入されたTregの抗HLA.A2 IL2R CARコンストラクトの細胞表面発現の定量化
形質導入されていないTregでの、および形質導入されたTregでの、CARコンストラクトの膜発現を、PEコンジュゲートHLA-A
*0201/CINGVCWTVデキストラマー(Immudex、デンマーク、コペンハーゲン)によって解析した。細胞表面にあるCARタンパク質(HLA-A2デキストラマー
+)を発現するTregの頻度は、コンストラクトすべてにおいて同様であった(
図5)。
【0228】
実施例4-ポリクローナル細胞増殖後のCAR Tregの表現型の特性評価
抗CD3/CD28活性化ビーズおよびIL-2の存在下で15日間、Tregを培養し増殖させた。Treg関連マーカーFOXP3、HELIOS、CTLA4、およびTIGITを、形質導入されていないTregと、形質導入されたTregとについてFACSにより解析し、培養15日目の表現型の系統安定性を調査した。
形質導入されていないものと、CAR形質導入されたものとは、Treg系統に関連したタンパク質の発現レベルとポリクローナル増殖後の機能のレベルが同程度であった(
図6)。
【0229】
実施例5-抗HLA.A2 IL2R CAR Tregの抗原特異性の評価
形質導入されていないTregと、形質導入されたTregとを、異なる刺激の存在下で18時間培養した。CD69とCD137活性化マーカーを解析し、特異的な細胞活性化と非特異的な細胞活性化とを調べた。
CD28z、コンストラクト1、コンストラクト2、コンストラクト3、CARを形質導入したTregは、T細胞活性化マーカーの発現に基づくと、HLA-A2分子に対して同様の特異性を示した。CD69およびCD137の発現は、不活性化細胞で、またはHLA-A1発現細胞との培養後、増加しなかった。dCARコンストラクトは、シグナリングエンドドメインが無いため、活性化を示さなかった(
図7)。
【0230】
実施例6-IL2R CARシグナリングの指標としてのSTAT5リン酸化解析
形質導入されたCAR Tregを、IL2を含まない培地に一晩置いた。培地のみでの培養、1000 IU/ml IL-2での培養、HLA.A2-Ig系人工APC(DOI:10.3791/2801に記載のプロトコルに従い作製)の存在下での培養の10分後および120分後、FACS解析によりTregのSTAT5リン酸化を調べた。
IL2RエンドドメインのCARコンストラクトへの導入は、HLA-A2分子によるCAR活性化後に効率的なSTAT5のリン酸化を示した。HLA-A2ビーズを使用した培養後、IL2Rエンドドメインの無いCAR-Treg上では、pSTAT5の有意の増加は検出されなかった(
図8)。
【0231】
実施例7-IL-2の非存在下での非特異的活性化およびHLA.A2特異的活性化後のTreg生存の評価
抗CD3/28活性化ビーズおよびK562.A2発現細胞を使用して、IL-2の非存在下で、異なるコンストラクトでのCAR形質導入Tregsを培養した。FACS解析により活性化の7日後に細胞の生存を調べた。
HLA-A2発現細胞との細胞培養の後、IL2Rエンドドメインを含むCARコンストラクトを発現したTregsは、基準のCD28zと比較して、細胞の生存率の増大を示した。Tregのポリクローナル活性化後は、この差異が見られず、これは前記効果がCARシグナリングに依存していることを示している(
図9)。
【0232】
実施例8-Treg抑制能試験:B細胞に対する共刺激分子の調節の解析によるTregの免疫調節機能の評価
Tregとの共存培養後の、B細胞のCD80およびCD86発現を解析し、抗原提示細胞での共刺激分子の発現を低減するTregの能力を評価した。
CD28z、コンストラクト1、コンストラクト2、CARを発現するTregは、形質導入されていないTregやdCAR発現Tregと比較して、抑制機能が大きいことを示した。B細胞でのCD80およびCD86の発現は、CAR分子を介してシグナリングするTregと培養した後にのみ、減少している(
図10)。
【0233】
本明細書で言及された刊行物はすべて、この参照により本明細書に援用される。本発明の範囲と趣旨を逸脱しない、本明細書に記載された本発明の方法や機構の様々な変更および変形が、当業者に明らかであろう。本発明は特定の好適な実施形態に関連して記載されているが、請求項に記載されている発明が、かかる特定の実施形態に過度に限定されるべきではないことを理解されたい。分子生物学や関連する分野の当業者に自明である、本発明を実施するための上述の形態の様々な変更は、下記の請求項の範囲内のものとする。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2024-08-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移植に対する寛容性の誘導における使用のための、
移植片対宿主病(GvHD)、自己免疫疾患またはアレルギー疾患の治療および/または予防における使用のための、
組織の修復および組織の再生の少なくとも一方を促進するために使用するための、または、
代謝異常の二次的症状である慢性炎症を改善するために使用するための、組成物であって、
キメラ抗原受容体(CAR)を含む改変された(engineered)制御性T細胞(Treg)を含有し、
前記CARが、STAT5関連モチーフと、JAK1結合モチーフおよびJAK2結合モチーフの少なくとも一方とを含むエンドドメインを含む、組成物。
【請求項2】
前記Tregが、Foxp3+Tregである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
(a)前記CARエンドドメインが、STAT3関連モチーフを含まない、または
(b)前記CARエンドドメインが、アミノ酸配列YXXQ(配列番号52)を含まない、
請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
(a)前記CARエンドドメインが、2個以上のSTAT5関連モチーフを含み、
(b)前記1個以上のSTAT5関連モチーフが、インターロイキン受容体(IL)受容体エンドドメイン由来であり、
(c)前記1個以上のSTAT5関連モチーフが、IL2Rβ、IL7Rα、IL-3Rβ(CSF2RB)、IL-9R、IL-17Rβ、エリスロポエチン受容体、トロンボポエチン受容体、成長ホルモン受容体、およびプロラクチン受容体由来からなる群から選択される少なくとも一つであり、
(d)前記STAT5関連モチーフが、アミノ酸モチーフYXXF/L(配列番号8)を含み、Xは任意のアミノ酸であり、
(e)前記STAT5関連モチーフが、アミノ酸モチーフYCTF(配列番号9)、YFFF(配列番号10)、YLSL(配列番号11)、およびYLSLQ(配列番号12)のうちの1個以上を含み、
(f)前記STAT5関連モチーフが、アミノ酸モチーフYLSLQ(配列番号12)を含み、
(g)前記エンドドメインが、アミノ酸モチーフYLSLQ(配列番号12)を含む第1のSTAT5関連モチーフと、アミノ酸モチーフYCTF(配列番号9)もしくはYFFF(配列番号10)を含む第2のSTAT5関連モチーフとを含み、または
(h)前記エンドドメインが、STAT5関連モチーフYLSLQ(配列番号12)、YCTF(配列番号9)およびYFFF(配列番号10)を含む、
請求項1~3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
(a)前記JAK結合モチーフが、JAK1結合モチーフであり、
(b)前記JAK結合モチーフが、インターロイキン受容体(IL)受容体エンドドメイン由来のJAK1結合モチーフであり、
(c)前記JAK結合モチーフが、配列番号13~19のいずれか1つとして示されるアミノ酸モチーフを含むJAK1結合モチーフ、もしくは、配列番号13~19に対して少なくとも90%の同一性を有する変異体を含むJAK1結合モチーフであり、
(d)前記JAK結合モチーフが、配列番号13として示されるアミノ酸モチーフであるJAK1結合モチーフ、もしくは、配列番号13に対して少なくとも90%の同一性を有する変異体であるJAK1結合モチーフであり、
(e)前記CARエンドドメインが、配列番号1として示されるIL2Rβエンドドメイン、もしくは、配列番号1に対して少なくとも90%の配列同一性を有する変異体を含み、または
(f)前記CARエンドドメインが、配列番号23もしくは24として示される切断型IL2Rβエンドドメイン、または、配列番号23もしくは24のいずれかに対して少なくとも90%の配列同一性を有する変異体を含む、
請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
前記CARエンドドメインが、JAK3結合モチーフをさらに含み、
必要に応じて、
(i)前記JAK3結合モチーフが、配列番号25もしくは26、または配列番号25もしくは26に対して少なくとも90%の配列同一性を有する変異体を含み、または、
(ii)前記CARエンドドメインが、配列番号45もしくは53、または配列番号45もしくは53に対して少なくとも90%の配列同一性を有する変異体を含む、
請求項1~5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
移植に対する寛容性の誘導における使用のための、
移植片対宿主病(GvHD)、自己免疫疾患またはアレルギー疾患の治療および/または予防における使用のための、
組織の修復もしくは組織の再生を促進するために使用するための、または
代謝異常の二次的症状である慢性炎症を改善するために使用するための、
請求項1~6のいずれかに記載の組成物を含む、医薬組成物。
【請求項8】
(a)対象が、免疫抑制治療を受けている移植レシピエントであり、または
(b)前記自己免疫疾患またはアレルギー疾患が、炎症性皮膚病;炎症性腸疾患に関連した反応;皮膚炎;アレルギー症状;慢性関節リュウマチ;全身性エリテマトーデス(SLE);真性糖尿病;多発性硬化症および若年型糖尿病から選択される、
請求項1~6のいずれかに記載の組成物または請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
(a)前記移植が、肝臓、腎臓、心臓、肺、膵臓、小腸、胃、骨髄、血管柄付複合組織移植、および皮膚の移植から選択され、
(b)前記移植が、肝臓移植であり、かつ、前記CARは、前記移植された肝臓に存在するが前記レシピエントには存在しないHLA抗原もしくは肝臓特異的な抗原から選択される抗原と特異的に結合できる抗原結合ドメインを含み、
(c)前記CARは、拒絶もしくは組織炎症の間に発現が増加する抗原と特異的に結合できる抗原結合ドメインを含み、
(d)前記CARは、移植ドナーに存在するが移植レシピエントには存在しないHLA抗原と特異的に結合できる抗原結合ドメインを含み、または
(e)前記CARは、前記移植ドナーに存在するが前記移植レシピエントには存在しないHLA抗原であるHLA-A2と特異的に結合できる抗原結合ドメインを含む、
請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
(a)前記炎症性皮膚病が、乾癬、皮膚炎、もしくはアトピー性皮膚炎であり、
(b)前記炎症性腸疾患が、クローン病、もしくは潰瘍性大腸炎であり、
(c)前記アレルギー症状が、食物アレルギー、湿疹、もしくは喘息であり、
(d)前記SLEが、ループス腎炎、もしくは皮膚ループスであり、または
(e)前記真性糖尿病が、I型真性糖尿病、もしくはインスリン依存性糖尿病である、 請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項11】
(a)前記(b)の肝臓特異的な抗原が、NTCPであり、または
(b)前記(c)のCARに含まれる抗原結合ドメインが、CCL19、MMP9、SLC1A3、MMP7、HMMR、TOP2A、GPNMB、PLA2G7、CXCL9、FABP5、GBP2、CD74、CXCL10、UBD、CD27、CD48、もしくはCXCL11である、
請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項12】
(i)前記CARは、CD8α膜貫通ドメインを含み、または
(ii)前記CARは、配列番号93~95および105~107を含む抗原結合ドメインを含む、
請求項1~6のいずれかに記載の組成物または請求項7~11のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記CARは、配列番号87のアミノ酸配列、または配列番号87のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の同一性を有する変異体を含む、CD8α膜貫通ドメインを含む、請求項12に記載の医薬組成物。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
発明の概要
本願の発明者らは、所定の抗原へのTregの結合の際に産生IL-2シグナルを提供することができる、改変された(engineered)制御性T細胞(Treg)を開発した。このように、本発明の改変されたTregは、外因性IL-2の投与を必要とせず、産生IL-2シグナルを抗原特異的な方法で提供することにより、養子移入されたTreg(adoptively transferred Treg)の高IL-2依存性に関連する問題に対処する。