(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013856
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】アクチュエータモジュール
(51)【国際特許分類】
H02N 10/00 20060101AFI20240125BHJP
F03G 7/06 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
H02N10/00
F03G7/06 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116254
(22)【出願日】2022-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石井 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】鹿野 秀和
(57)【要約】
【課題】応答速度を向上でき、応答速度を自由に制御することができ、更には設計以上の過剰な負荷にも破損しない堅牢性の高いアクチュエータモジュールを提供する。
【解決手段】繊維アクチュエータを備えたアクチュエータモジュールであって、繊維アクチュエータを固定する複数の保持部材を有し、該保持部材の少なくとも1つは貫通した開口を有し、該開口を有した保持部材の開口内に気流を送る冷却器と、該開口を有する保持部材と接続する通気性の伸縮管を有することを特徴とした、アクチュエータモジュール。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維アクチュエータを備えたアクチュエータモジュールであって、該繊維アクチュエータを固定する複数の保持部材を有し、該保持部材の少なくとも1つは貫通した開口を有し、該開口を有する保持部材の開口内に気流を送る冷却器と、該開口を有する保持部材と接続する通気性の伸縮管を有することを特徴とした、アクチュエータモジュール。
【請求項2】
繊維アクチュエータおよび保持部材の少なくとも一部が導電性を有することを特徴とした、請求項1に記載のアクチュエータモジュール。
【請求項3】
保持部材が略円筒形または略円柱形であることを特徴とした、請求項1に記載のアクチュエータモジュール。
【請求項4】
伸縮管内を通るケーブルで保持部材同士が接続されていることを特徴とした、請求項1に記載のアクチュエータモジュール。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれかに記載のアクチュエータモジュールを搭載したアシストウェア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維アクチュエータを用いたアクチュエータモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
アクチュエータは、物理化学的エネルギーを機械的な変位、または力に変える変換装置のことであり、従来から種々の機械を作動させる駆動源として、広く利用されている。特に、電気や磁力、気体の膨張、油圧、空気圧等を駆動のためのエネルギーとして利用するモーターやエンジン、シリンダー等が、非常に大きな変位や力を得られることから、機械の駆動源として大きく発展してきた。
【0003】
近年の動向として、電子情報産業やロボット産業、医薬・バイオ関連産業等の発展により、半導体製造やモジュール組立、医薬品製造、微生物培養等、多様な分野で精密に駆動するアクチュエータが要求されている。また、生産性向上や生活の質の向上に対する意識が世界的に高まっており、人間が着用することで、歩行や作業時に必要な力を支援するロボット・装置等の開発も進んでいる。特にアシストスーツに代表される支援ロボット・装置では、着用する人間への負荷を極力低減することが必要なため、アクチュエータの小型化・軽量化が強く求められている。こうしたアクチュエータへの要求に対して、主にモーターやシリンダー等の小型・微細化により対応がなされてきた。しかしながら、アクチュエータのさらなる精密・小型・軽量化は、従来技術の延長だけでは限界を迎える可能性があり、従来とは異なる次世代型のアクチュエータ材料が求められている。
【0004】
このような背景の下、様々な分野で、次世代型アクチュエータ材料の研究開発が精力的に進められており、中でも、人工筋肉と呼ばれるアクチュエータ材料が注目されている。人工筋肉とは、生体の筋肉のようにエネルギーを消費して、材料の状態変化が生じることで、機械的な動力を得るアクチュエータ材料である。ゴムチューブに空気圧を与えて動作するマッキベン型材料、加熱冷却による収縮伸長する形状記憶合金材料、電圧印加・放電により伸縮動作する高分子ゲル材料、この他にも電気・磁性粘性流体を利用した材料や圧電材料などの人工筋肉が研究開発されている。
【0005】
特に、アクチュエータの小型・軽量化に有利な高分子を用いた材料が注目されているが、発生する変位や力が小さいといった問題や、アクチュエータ材料として研究開発されている高分子ゲル材料の多くは、駆動に電解液が必要となるため、電解液供給槽が必要となり、小型化に制約が生じるという問題があった。
【0006】
他方、ポリマー繊維を二重に撚って作ったコイル状繊維は、加熱により縮み、かつ放熱により復元し、アクチュエータとしての機能を有す繊維アクチュエータとして広く知られている。人間の筋肉のように軽量かつ柔軟な特徴を備えるため、人が行う作業を補助するパワーアシスト用途や家庭用ロボットなど人間に近い場所において動作する機械への活用を目指し期待が大きくなっている。
【0007】
特許文献1では、2本のコイル状ポリマー繊維と、その側面に設けられた網状の発熱体とを具備し、複数の電熱線によって形成されたアクチュエータ単線を使用し組まれ、編まれ、または織られたアクチュエータ装置が提案されている。また、特許文献2では、複数の太さのアクチュエータ繊維を組み合わせて使用し、駆動する太さを選択可能することで求められる応答性に対応できるアクチュエータが提案されている。さらに、特許文献3では、小さく、軽く、柔らかいパワーアシストを実現するために、繊維アクチュエータ(TCPA)を第1部材、第2部材で固定し、さらにファンからの気流でTCPAを冷却し応答速度を改善したアクチュエータユニットを提供している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2021-132415号公報
【特許文献2】特開2017-111772号公報
【特許文献3】特開2019-2302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1では、アクチュエータ単線を編み物などに加工しているためアクチュエータ単線同士の重なりが生じ冷却に時間を要し応答速度が劣るという課題があった。
【0010】
特許文献2の技術では、応答速度を制御するためにアクチュエータ繊維の太さを複数準備し、求められる応答性に応じてアクチュエータ繊維を選択し駆動することが提案されているが、応答性が高い細い繊維では十分な発現力を得られないという課題があった。
【0011】
特許文献3の技術では、ファンからの風を送り繊維アクチュエータを冷却する提案がされている。しかし、ファンから排出される気流の方向と同軸方向に繊維アクチュエータの方向が配置しているため、繊維アクチュエータから排出する熱を帯びた気流が下流側へと移動し、気流の上流側と下流側とで繊維アクチュエータの温度に勾配ができ、応答速度が上がらないという課題があった。さらに、アクチュエータユニットに繊維アクチュエータの伸張を規制する機構がなく、繊維アクチュエータが耐えられないほどの過剰な重量物を負荷として使用した場合は繊維アクチュエータの固定部が外れたり、または繊維アクチュエータが引き千切れたりなど破損してしまうという課題があった。
【0012】
本発明は、前記従来技術の課題を解決するもので、応答速度を向上でき、応答速度を自由に制御することができ、更には設計以上の過剰な負荷でも破損しない堅牢性の高いアクチュエータモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的は以下の手段により達成される。すなわち、
(1)導電性を付与した繊維アクチュエータを備えたアクチュエータモジュールであって、該繊維アクチュエータを固定する複数の保持部材を有し、該保持部材の少なくとも1つは貫通した開口を有し、該開口を有する保持部材の開口内に気流を送る冷却器と、該開口を有する保持部材と接続する通気性の伸縮管を有することを特徴とした、アクチュエータモジュール。
(2)繊維アクチュエータおよび保持部材の少なくとも一部が導電性を有することを特徴とした、前記(1)のアクチュエータモジュール。
(3)保持部材が略円筒形または略円柱形であることを特徴とした、前記(1)のアクチュエータモジュール。
(4)伸縮管内を通るケーブルで保持部材同士が接続されていることを特徴とした、前記(1)のアクチュエータモジュール。
(5)前記(1)~(4)のいずれかに記載のアクチュエータモジュールを搭載したアシストウェア。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高い応答速度を持ち、かつ応答速度を自由に制御することが可能であり、更には設計以上の過剰な負荷でも破損しない堅牢性の高いアクチュエータモジュールを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態にかかるアクチュエータモジュールの概略図。
【
図2】繊維アクチュエータを取り付ける前の状態の、本発明の実施形態にかかるアクチュエータモジュールの概略図。
【
図3】本発明の実施形態にかかるアクチュエータモジュールの繊維アクチュエータと同軸方向の断面概略図(繊維アクチュエータを取り付け前)。
【
図4】本発明の実施形態にかかるアクチュエータモジュールの繊維アクチュエータと直交方向の断面概略図。
【
図5】本発明に好適に使用できる織物状繊維アクチュエータの概略図。
【
図6】本発明の実施形態にかかるアクチュエータモジュールを冷却器方向から投影した概略図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明をについて、図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
本発明のアクチュエータモジュール1は、電力を供給することで収縮方向へ駆動し、また電力の供給を停止することで伸長(復元)する。以下に、その構成要素について詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する範囲に何ら限定されるものではない。
【0018】
本発明のアクチュエータモジュール1は、複数の繊維アクチュエータ11、該繊維アクチュエータを固定する複数の保持部材22、23、該保持部材内に気流を送る冷却器41、および該保持部材22、23と接続する通気性の伸縮管31を備えている必要がある。
【0019】
本発明の繊維アクチュエータ11は、コイルばね形状を有することが必要である。ここで言うコイルばね形状とは、JIS B 0103:2012(ばね用語)で定義されるコイルばねと同様の形状のことであり、繊維がらせん状に成形されたコイル部およびらせん状ではない端部から構成される。このようなコイルばね形状を有することによって、繊維アクチュエータの収縮動作を発生させることが可能となる。さらに、このコイル部は撚りの入った繊維(以下、撚り繊維)から構成されている。熱可塑性樹脂からなる繊維は、分子鎖が結晶部および非晶部の領域を形成して存在しており、一般的に加熱することで、主に非晶部における分子鎖の配向緩和が進行することにより、繊維軸方向に収縮する。この撚りの入っていない繊維に撚りを加えていくと、元の繊維の軸方向は撚り繊維のねじれ角に沿ったらせん状の方向となる。この時、加熱により非晶部における分子鎖の配向緩和が進行すると、撚りによって生じたねじれを解消する方向、すなわち解撚方向に力が働く。ここで、本発明の繊維アクチュエータ11は、同一のねじれ方向をもった撚り繊維から構成されるコイル部を有し、加熱することで非晶部における分子鎖の配向緩和が生じて、コイル部を構成する撚り繊維には解撚方向の力が働く。これにより、互いに隣り合うコイルを引き合わせる力が発生して、繊維アクチュエータの軸方向に引張力が発生する。こうした機構から、本発明の繊維アクチュエータ11の軸方向の引張力を発生させるためには、互いに隣り合うコイルが非接触の状態にある必要がある。特に、繊維アクチュエータ11が初期状態で互いに隣り合うコイルが接触している引張コイルばね形状である場合には、互いに隣り合うコイルの接触が解消し始める荷重(初張力)よりも大きな荷重を、繊維の一端にかけて、互いに隣り合うコイルを非接触状態にする必要がある。この繊維アクチュエータ11を加熱して、引張力を発生させた後に冷却すると、引張力の発生が止まり、再び加熱前の状態に戻る。この加熱冷却を繰り返すことで、本発明の繊維アクチュエータ11は収縮・伸長(復元)動作を発現する。
【0020】
本発明で使用する繊維アクチュエータ11の原料は、繊維(フィラメント)であり、コイル化を施す前の撚りが加えられていない状態の繊維である。熱により伸縮可能な糸であることが、変位量が大きい点、又は、材料が安定かつ安価に入手できるという点から好ましい。例えば、ポリエチレン(低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン)、ナイロン(ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12など)、PVDF、ポリエステル、又は、エラストマー(シリコンゴム)からなる繊維でもよい。また、このような原料に導電性を付与し、導電性の繊維アクチュエータとすることが好ましい。繊維アクチュエータに導電性を付与する方法として、上記繊維原料に導電性のフィラーを含有させたり、繊維表面を金属めっきしたり、コイルばね形状を形成する際に金属線や金属めっきした繊維を合糸するなどして作製することが可能である。このように、導電性を付与することで、繊維アクチュエータに電圧を印加するだけで発熱し容易に収縮動作することが可能となる。
【0021】
本発明の繊維アクチュエータ11は複数本の繊維アクチュエータを略同一の長さに調整し、各繊維アクチュエータの端面が揃うよう並べて配置(並行に配列)して使用する。各繊維アクチュエータを、
図4に示すように繊維アクチュエータと直交する断面方向から観察した場合に各繊維アクチュエータ11が環状に、特に略円形に配置することが好ましく、このようにすることで、各繊維アクチュエータに均等に荷重を掛けられる。また、少なくとも3本以上で構成されていることが略円形に配置する観点で好ましい。また、繊維アクチュエータを略円形に隙間なく配置することで発生力の密度を上げることができるため好ましい。繊維アクチュエータ11は二重円、三重円など多重円の配置とすることもでき、そのようにすることでより発生力の密度を上げることが可能となる。
【0022】
本発明の繊維アクチュエータ11は、予め織物状に加工することで、繊維アクチュエータが整列した状態で保持することが可能となり、アクチュエータモジュールの組み立てが容易となるため好ましい。例えば、
図5のように、繊維アクチュエータを緯糸とし、他の糸を経糸13とした場合、繊維アクチュエータはできるだけ隙間なく配置した方が前記発生力の密度が向上し好ましいが、経糸を隙間なく配置した場合は繊維アクチュエータが駆動する際の抵抗となるため、経糸13のピッチは繊維アクチュエータの整列を保持さえできればよく、数mmから数cm程度でよい。なお、経糸13は一般的に市販された化学繊維または天然繊維などいずれでも良いが、繊維アクチュエータが駆動する際に加熱されることを考慮すれば駆動温度での耐熱性を有することが安全面で好ましい。
【0023】
本発明の保持部材は、並べて配置した繊維アクチュエータ11の両端付近を固定し形状を保持する部材である。そのため、繊維アクチュエータ1本に対して2箇所以上固定できるように少なくとも2つの保持部材で本発明を構成する必要がある(2つの保持部材を、保持部材A及び保持部材Bとする)。繊維アクチュエータが長く、並行な配列が維持できない場合は2つの保持部材間に中継する保持部材を設置することで繊維アクチュエータ11の配列を維持することが可能となる。また、繊維アクチュエータ11の収縮および伸張に伴い、繊維アクチュエータ11の両端付近を固定した保持部材(保持部材A22、保持部材B23)の距離が変化する。保持部材の1つを動かないように固定することで、もう一方の保持部材が直線運動し、本発明のアクチュエータユニット1がアクチュエータとして機能することが可能となる。
【0024】
保持部材の少なくとも1つ(保持部材A22)は、貫通した開口26を有し、気流の発生源である冷却器と直接またはアダプターなどを介して接続し、保持部材の貫通開口内を通気できるようにする必要がある。また、繊維アクチュエータを略円形に配置した場合、略円形に配置した繊維アクチュエータの内側かつ同軸方向に、通気性伸縮管31を設置することで、前記冷却器から発生した気流が通気性伸縮管31を中心とした放射状の気流へと変換され、通気性伸縮管31の外側に位置する繊維アクチュエータ11を繊維軸と交わる方向の気流により、高速かつ均等に効率よく冷却することが可能となる。これによりアクチュエータモジュール1の応答速度を向上することが可能となる。
【0025】
図2は繊維アクチュエータを取り付ける前の状態の本発明のアクチュエータモジュールの概略図、
図3はその断面図である。保持部材(保持部材A22、保持部材B23)の材料は、繊維アクチュエータ11を固定する際に接触する部位が導電性を有していることが好ましい。材料自身が導電性を有してもよいし、導電性を有さない材料に金属めっきや導電性のフィラーを含有するなどで導電性を持たせてもよい。このように保持部材(保持部材A22、保持部材B23)を導電性とすることで保持部材に電圧を印加することで導電性の繊維アクチュエータが加熱し収縮駆動することが可能となる。
【0026】
繊維アクチュエータ11を保持部材(保持部材A22、保持部材B23)へ固定する方法は、接着剤や鑞付けなど接合の材料で固定したり、バンドや金属板などで挟み込むなど、どの方法で固定してもよいが、繊維アクチュエータへ物理的なダメージを与えないよう接着剤(保持部材A22、保持部材B23)などで固定することが好ましい。繊維アクチュエータを固定するための接着剤は、保持部材と繊維アクチュエータ間の電気的な抵抗を小さくするために銀フレークや銀粒子などを含有していることがより好ましい。
【0027】
保持部材(保持部材A22、保持部材B23)の形状としては、繊維アクチュエータ11を環状に配置できるように繊維アクチュエータ11を固定する面が多角形の多角柱や多角形管、固定する面が円形(または略円形)の円柱(または略円柱)または円筒形(略円筒形)などのいずれでもよいが、複数の繊維アクチュエータを等間隔に配置することができるよう略円柱または略円筒形であることが好ましい。なお、冷却器を取り付けない保持部材(保持部材23)は貫通した開口がない略円柱とすることで伸縮管31内の気流漏れをなくすことができ、その結果、伸縮管31内で気圧のムラを少なくすることが可能となる。これにより伸縮管31全体から均一な放射状の気流を発生することが可能となる。
【0028】
本発明においては、繊維アクチュエータ11の端部を固定する2つの保持部材(保持部材A22、保持部材B23)がケーブル24で接続されていることが好ましい。このようにすることで、アクチュエータモジュール1に過剰な負荷がかかった際にケーブルが伸びきった時点でアクチュエータモジュール1の伸張が停止し強度的に弱い繊維アクチュエータ11が破損してしまうことを防止することが可能となる。ケーブル24の材質は金属や耐熱性樹脂など耐熱性に優れるものが好ましく、アクチュエータモジュールの伸張を規制できるものであれば、ケーブル24は伸縮性がないものであっても、バネの様に伸縮性を有するものであっても構わない。
【0029】
本発明の保持部材(保持部材A22、保持部材B23)の1つはアクチュエータモジュール1の構成部材外に固定するための固定部25を有することが好ましい。
【0030】
図6は冷却器方向から投影した概略図である。本発明の固定部25は、アクチュエータモジュールの保持部材(保持部材A22)を固定する部品であり、保持部材をアクチュエータモジュール1の構成部材外に固定できれば形状は規定されない。例えば固定部25をアクチュエータモジュール1の構成部材外にボルトで固定する場合は、ボルトが通る固定用の貫通孔28を設けたり、保持部材(保持部材A22)自体に雄ネジや雌ネジの加工を施したりすることで実現できる。また、保持部材(保持部材A22)の一部が凹形状や凸形状など固定の相手側に合った嵌合とすることで固定することも可能である。
【0031】
固定部25は保持部材(保持部材A22、保持部材B23)を製作する際に切削加工などで同一の部材となるよう製作してもよいし、金属板などを加工し保持部材(保持部材A22、保持部材B23)とは別の部材として製作した後に溶接やネジ止め等で接合し一体化してもよい。また、冷却器を取り付ける側の保持部材(保持部材A22)に設ける場合は冷却器をネジ固定するための貫通孔やネジ加工などを施すことが好ましい。なお、冷却器を取り付ける場合は貫通した開口26との間で冷却器からの気流を阻害しないよう、貫通した開口26の直径と同等またはそれより大きくすることが好ましい。
【0032】
本発明の冷却器41は繊維アクチュエータを冷却するために送風ができるものであればよく、モーターなどの回転エネルギーを得る装置を有し、軸方向と同軸の方向に送風する軸流ファンであることが入手性およびコスト、設計の自由度の観点から好ましく、DCモーターを採用したファンであることがより好ましい。DCモーターを採用したファンとすることにより、低電圧であっても安定した動作が可能となる。
【0033】
本発明の冷却器41は、保持部材A22へ直接またはアダプターなどを介して接続する。通気性の伸縮管31内径より冷却器の口径が大きい場合は冷却器の口径から徐々に伸縮管の内径まで径を減縮するように保持部材の貫通開口やアダプターを設計することで圧損を小さくすることができ効率が良く気流を流すことが可能となる。また、冷却器41の最大風量や最大制圧は繊維アクチュエータ11を冷却する観点から共に大きい方が良く、冷却器の最大風量や最大制圧を十分に大きくした上で冷却器の最大風量や最大制圧を段階的または連続的に変更するための可変装置を具備することで応答速度を自由に制御することが可能となるため好ましい。最大風量や最大制圧の可変装置としては、切り替えスイッチを有したDC/DCコンバーターや抵抗器による分圧によって冷却器41へ供給する電圧を変更することでも実現できるが、冷却器の最大風量や最大制圧を連続的に変更するために、プロセッサやICを搭載し、PWM(Pulse Width Modulation)の制御で回転数を変更できるようにすることがより好ましい。
【0034】
本発明の冷却器41は、アクチュエータモジュール1個に対し1個または2個使用することができる。2個使用する場合は、2つの冷却器41が通気性伸縮管に対して入方向の気流または出方向の気流など同一となるよう気流の向きを合わせる必要がある。
【0035】
本発明の通気性の伸縮管31は、開口を有する保持部材A22において冷却器を取り付けない側の面に接続する。これにより、冷却器から発生した気流が保持部材Aを介し、伸縮管全体から均一な放射状の気流を発生することが可能となる。
【0036】
本発明の通気性の伸縮管31は、繊維アクチュエータの収縮および復元に追従して伸縮する必要がある。通気性の伸縮管31の長さは繊維アクチュエータの長さに応じて抵抗なく伸縮するよう調整することが好ましい。伸縮管の材料はシリコーン系やブタジエン系、ニトリル系、ウレタン系、天然ゴムなど材料自体が柔軟性を持つものや蛇腹状に加工することで伸縮性を持たせるなどでも構わない。
【0037】
本発明の通気性の伸縮管31は、通気性を得るために上記材料の伸縮管に貫通孔を開けることや上記材料を発泡させて伸縮管とすることなどで実現可能である。通気性の伸縮管31の内側に前記冷却器から入方向の気流を発生させることで、断面方向から観察した場合に、通気性の伸縮管31を中心として排出する放射状の気流を発生することができる。逆に冷却器41から出方向の気流を発生することで通気性の伸縮管を中心として吸入する放射状の気流を発生することができる。なお、気流の方向は排出方向でも吸入方向でもどちらでも構わない。
【0038】
本発明のアクチュエータモジュールは、人が行う作業を補助するパワーアシスト用途や家庭用ロボットなどの用途に有用である。特に、本発明のアクチュエータモジュールをアシストウェアに搭載することにより、応答速度が向上し、また応答速度を自由に制御できるアシストウェアとすることができる。更には、本発明のアクチュエータモジュールは設計以上の過剰な負荷でも破損しない堅牢性を有することから、安全性の高いアシストウェアとすることができる。
【実施例0039】
次に、実施例に基づき本発明を、図面を参照して詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0040】
[繊維アクチュエータ11の製造]
ナイロン6,10樹脂(東レ株式会社製“アミラン”ポリアミドCM2001)を1軸型エクストルーダーに連続供給し、温度270℃で溶融押出した。押出された溶融ポリマーをギアポンプで計量して、紡糸パックへ送り込み、丸断面用紡糸口金から紡出した後、延伸することにより直径130.5μmのナイロン6,10製モノフィラメントを作製した。
【0041】
回転モーターを備えた撹拌機の軸の先端に、作製したナイロン6,10製モノフィラメントとナイロン銀めっき繊維(ミツフジ社製“AGposs100d/34f”)を各800mmに切断したものを1本に束ねて上端を結び付けて固定した後、下端に40gのおもりを取り付けて張力をかけた。続いて、撹拌機の回転モーターを200rpmで作動させ繊維全体を二重コイル状とした後に180℃で2分間加熱し熱セットし、約250mm長の導電性の繊維アクチュエータ11を作製した。このようにして、繊維アクチュエータ11を250本準備した。
【0042】
[織物状繊維アクチュエータ12の製造]
機織り機を使用し緯糸として上記繊維アクチュエータ250本を2.8mmピッチとなるよう配置し、経糸として綿製のたこ糸(糸径0.7mm)を5mmピッチで配置し織物を作製し、その後繊維アクチュエータ(緯糸)の長さが200mmとなるよう切り揃えて、200mm×706mmの織物状繊維アクチュエータ12を作製した。
【0043】
[保持部材22、23の製造]
アルミ(A5052)を加工し、直径30mm高さ20mmの円柱部品を2個作製した。そのうち1個の円柱部品に対して冷却器の取り付けやアクチュエータモジュールが完成した後に固定するための金属板を加工し製作した固定部25を円柱部品の一方の底面に溶接し、冷却器からの気流を通せる貫通開口26を追加で加工し保持部材Aとした(保持部材A22)。また、もう1個の円柱部品に対して荷重をぶら下げるためのフック27を円柱部品の一方の底面に取り付け保持部材Bとした(保持部材B23)。
【0044】
[通気性伸縮管31の製造]
ブタジエンゴム製のジャバラ(外径25mm、内径15mm、伸長時長さ180mm)の全体に0.5mmの貫通孔32を144箇所開けて、通気性伸縮管31を作製した。
【0045】
[比較例のアクチュエータモジュールの組み立て]
保持部材A22において、固定部25が溶接されていない底面と保持部材Bにおいてフック27を取り付けていない側の底面が対向し、かつ保持部材A22と保持部材B23の距離が185mmとなるよう固定し、保持部材A22および保持部材B23と前記織物状繊維アクチュエータ12の端部がそれぞれ10mm重なるように巻き付け導電性接着剤(化研テック社製“TKペーストCR-2800“)で固定した。
【0046】
保持部材A22に冷却器としてDC軸流ファン(日本電産社製”U40G-M-A5“)41を取り付け、通気性伸縮管31とケーブル24を有さない比較例のアクチュエータモジュールを作製した。
【0047】
[比較例1]
アクチュエータモジュールの保持部材A22を実験台に固定し保持部材B23のフックに10kgの重りをぶら下げた。この時アクチュエータモジュールの全長が2mm伸びた。次に保持部材A22と保持部材B23との間に24Vの直流電源を接続して通電させ各繊維アクチュエータが180℃となるまで加熱し、アクチュエータモジュールを駆動させた。このとき変位量は27mmで収縮時間は5秒間だった。次に直流電源の通電を止めたところ繊維アクチュエータが徐々に冷却し、初期長まで58秒かけて伸張した。
【0048】
[比較例2]
冷却器を100%で駆動した以外は比較例1と同様の方法で行ったところ、変位量は27mmで収縮時間は6秒間だった。次に直流電源の通電を止めたところ、繊維アクチュエータが冷却され、初期長まで45秒かけて伸張した。
【0049】
比較例1の冷却器を駆動していない場合と比べて繊維アクチュエータの加熱スピードが僅かに低下し、重りを持ち上げる時間が長くなった。一方、冷却の速度が速まり、初期長まで戻る時間が僅かに短縮された。
【0050】
[比較例3]
重りの重さを30kgした以外は比較例1と同様の方法で行った。30kgの重りをぶら下げた際に、アクチュエータモジュールが25mm伸びたところで、保持部材A22と織物状繊維アクチュエータ12との固定部および保持部材B23と織物状繊維アクチュエータ12との固定部が部分的に破断し、アクチュエータモジュールが破損した。
【0051】
[実施例のアクチュエータモジュールの組み立て]
図3のように、通気性伸縮管31とケーブル24を取り付けた。すなわち、保持部材A22において、約200mmの長さに調整したステンレス製のケーブル24の端部を保持部材A22の貫通孔26の内壁にネジ止め固定し、固定部25が溶接されていない底面と通気性の伸縮管31端部を接着剤で固定した。その後、前記ケーブル24が前記通気性の伸縮管31内に配置した。保持部材B23においてフック27を取り付けていない側の底面に、保持部材A22と保持部材B23の距離が185mmとなるよう前記ケーブル24の長さを調整した上でケーブルの端部を保持部材B23にネジ止め固定し、前記通気性伸縮管31の端部を接着剤で固定した。
【0052】
次に、保持部材A22および保持部材B23と前記織物状繊維アクチュエータ12の端部がそれぞれ10mm重なるように巻き付け導電性接着剤(化研テック社製“TKペーストCR-2800“)で固定した。
【0053】
保持部材A22に冷却器としてDC軸流ファン(日本電産社製”U40G-M-A5“)41を取り付け、実施例のアクチュエータモジュール1を完成させた。
【0054】
[実施例1]
アクチュエータモジュールの保持部材A22を実験台に固定し保持部材B23のフックに10kgの重りをぶら下げた。この時アクチュエータモジュールの全長が2mm伸びたが、伸縮管内のケーブルは弛んだ状態であった。次に保持部材A22と保持部材B23との間に24Vの直流電源を接続して通電させ各繊維アクチュエータが180℃となるまで加熱し、アクチュエータモジュールを駆動させた。このとき変位量は27mmで収縮時間は5秒間だった。次に直流電源の通電を止めたところ、繊維アクチュエータが徐々に冷却し、初期長まで58秒かけて伸張した。
【0055】
[実施例2]
アクチュエータに通電するのと同時に冷却器を80%で駆動開始した以外は実施例1と同様の方法で行った。通電したところ、変位量は27mmで収縮時間は8秒間だった。次に直流電源の通電を止めたところ、繊維アクチュエータが冷却され初期長まで40秒かけて伸張した。
【0056】
実施例1の冷却器を駆動していない場合と比べて繊維アクチュエータの加熱スピードが低下し、重りを持ち上げる時間が長くなった。一方、冷却の速度が速まり、初期長まで戻る時間が短縮された。これにより冷却器を駆動することで加熱時および冷却時の温度推移が変化し、応答速度を変わることが確認できた。
【0057】
[実施例3]
アクチュエータに通電するのと同時に冷却器を100%で駆動開始した以外は実施例1と同様の方法で行った。通電したところ、変位量は27mmで収縮時間は10秒間だった。次に直流電源の通電を止めたところ、繊維アクチュエータが冷却され、初期長まで25秒かけて伸張した。
【0058】
比較例2の通気性伸縮管31とケーブル24が取り付けられていない場合と比べて、冷却器をどちらも100%で駆動していたにも関わらず、繊維アクチュエータの加熱スピードが低下し、重りを持ち上げる時間が長くなった。一方、冷却の速度が速まり、初期長まで戻る時間が短縮された。これにより通気性伸縮管31を構成することで繊維アクチュエータが効率よく冷却できることが確認できた。
【0059】
実施例2の冷却器を80%で駆動した場合と比べて繊維アクチュエータの加熱スピードが低下し、重りを持ち上げる時間が長くなった。一方、冷却の速度が速まり、初期長まで戻る時間が短縮された。これにより冷却器の回転速度で加熱時および冷却時の温度推移を任意に変化することができ、必要に応じて応答速度を制御できることが確認できた。
【0060】
[実施例4]
直流電源の通電を止めるのと同時に冷却器を100%で駆動開始した以外は実施例1と同様の方法で行った。通電したところ、変位量は27mmで収縮時間は5秒間だった。直流電源の通電を止めるのと同時に冷却器を100%で駆動したところ、繊維アクチュエータが冷却され、初期長まで25秒かけて伸張した。
【0061】
実施例1の加熱スピードと実施例3の冷却の速度で駆動することが可能となり、最も早い応答速度で駆動できることが確認できた。
【0062】
[実施例5]
重りの重さを30kgした以外は実施例1と同様の方法で行った。30kgの重りをぶら下げた際に、実施例1の場合と同様にアクチュエータモジュールが5mm伸びて伸縮管内のケーブルが張った状態となった。その後、直流電源の通電を行ってもアクチュエータモジュールは駆動しなかった。重りを10kgに交換し直流電源の通電を行ったところ、実施例1と同様に駆動した。このことから設計以上の重量の重りを使用しても伸縮管内のケーブルで繊維アクチュエータの伸張が規制されたため破損せず、本アクチュエータモジュールの堅牢性が確認できた。