(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138566
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】α-トマチンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07J 43/00 20060101AFI20241002BHJP
A23L 19/00 20160101ALI20241002BHJP
A23L 33/105 20160101ALN20241002BHJP
【FI】
C07J43/00
A23L19/00 A
A23L19/00 Z
A23L33/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098718
(22)【出願日】2021-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(71)【出願人】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼山 晃里
(72)【発明者】
【氏名】滑川 明夫
(72)【発明者】
【氏名】神保 有亮
(72)【発明者】
【氏名】角谷 晃司
【テーマコード(参考)】
4B016
4B018
4C091
【Fターム(参考)】
4B016LE02
4B016LG11
4B016LP02
4B016LP11
4B016LP13
4B018LE05
4B018MD01
4B018MD53
4B018ME14
4B018MF01
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4B018MF14
4C091AA01
4C091BB01
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4C091KK01
4C091LL01
4C091MM03
4C091QQ07
4C091QQ09
4C091QQ15
4C091QQ18
4C091RR13
(57)【要約】
【課題】α-トマチンを効率よく製造する方法を提供すること。
【解決手段】α-トマチンの製造方法は、トマトの葉、茎、脇芽、未成熟果実、および根からなる群から選ばれる少なくとも一種以上のトマト植物体と、酸溶液とを混合し、α-トマチンの抽出液を得る工程を含み、前記抽出液のpHが4.5以下であり、温度が45℃以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トマトの葉、茎、脇芽、未成熟果実、および根からなる群から選ばれる少なくとも一種以上のトマト植物体と、酸溶液とを混合し、α-トマチンの抽出液を得る工程を含み、
前記抽出液のpHが4.5以下であり、温度が45℃以下である、
α-トマチンの製造方法。
【請求項2】
前記抽出液のpHを3.5以下、かつ10℃以下に維持しながら保存する工程をさらに含む、
請求項1に記載のα-トマチンの製造方法。
【請求項3】
前記抽出液から、α-トマチンを取り出す工程をさらに含む、
請求項1または2に記載のα-トマチンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α-トマチンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、トマトの成熟果実以外の部分(本明細書では「トマト植物体」とも称する)の活用方法が検討されており、トマトの葉や茎等から得られるトマチジンが注目されている。トマチジンには、筋たんぱく質合成促進効果や、動脈硬化の予防・治療効果、抗ガン作用等があることが知られている。ただし、トマチジンは、糖鎖と結合した状態、すなわちα-トマチンやβ-トマチンの状態でトマト植物体に含まれており、まず、トマト植物体からトマチンを取り出し、これをトマチジンに変化させることが行われている(例えば特許文献1)。
【0003】
一方で、トマチンは哺乳動物に対して毒性があることが知られており、トマチン自体は、従来十分に活用されていなかった。ここで、トマチンには、α-トマチン、β1-トマチン、デヒドロトマチンの3種類がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、トマチンの一種であるα-トマチンが、コレステロールを沈殿させるための試薬や、特定のたんぱく質抗原の免疫補助剤として有用であることが見出された。また、トマト植物体からα-トマチンを高純度で製造できれば、これを分解して、トマチジンを効率よく製造することも可能である。さらに、α-トマチンを分解してトマチジンを製造した際に生成する、リコテトラオースも、様々な用途があると考えられている。
【0006】
ただし、上述の特許文献1に記載の方法等では、α-トマチンを効率よく製造することは難しかった。より具体的には、上記方法で取り出されるトマチンは、α-トマチンの糖が一部分解したβ1-トマチンであり、α-トマチンの状態で取り出されことは難しかった。
【0007】
本発明はこのような課題を鑑みてなされたものであり、α-トマチンを効率よく製造する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、トマトの葉、茎、脇芽、未成熟果実、および根からなる群から選ばれる少なくとも一種以上のトマト植物体と、酸溶液とを混合し、α-トマチンの抽出液を得る工程を含み、前記抽出液のpHが4.5以下であり、温度が45℃以下である、α-トマチンの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のα-トマチンの製造方法によれば、トマト植物体等から効率よくα-トマチンを純度よく取り出すことができる。したがって、α-トマチンを様々な用途に使用することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
前述のように、従来の一般的な方法では、トマト植物体から、α-トマチンを取り出すことは難しく、主に取り出されるトマチンは、β1-トマチンであった。これに対し、本発明者らが鋭意検討したところ、トマト植物体と、酸溶液とを混合し、α-トマチンの抽出液を得る工程(以下、「抽出工程」とも称する)を行う際、抽出工程後の抽出液のpHが4.5以下、かつ温度が45℃以下となるように調整することで、α-トマチン効率よく取り出せること、さらには純度の高いα-トマチンを製造できることが見出された。
【0011】
その理由としては、以下のように考えられる。α-トマチンは、トマチジンとリコテトラオースとが結合した構造を有しており、そして、リコテトラオースの一部が熱分解されたり、酵素によって分解されたりすると、β1-トマチン等になりやすい。ここで、α-トマチンを含む溶液の温度が45℃以上になると、リコテトラオースの一部を分解させる酵素が活発になったり、上記熱分解が生じやすくなる。これに対し、本発明では、抽出液の温度が45℃以下になるように温度制御してα-トマチンを抽出する。したがって、トマト植物体内、もしくは抽出液内でα-トマチンが分解され難い。さらに、抽出液のpHが4.5以下になるようにpHを制御することで、抽出工程でα-トマチンが酸溶液に効率よく溶出する。また、α-トマチンの抽出液中での安定性も高まる。したがって、本発明の方法によれば、効率よくα-トマチンを製造できるだけでなく、不純物(例えばβ1-トマチンや、α-トマチンの分解物等)が少ない、高純度のα-トマチンを製造することが可能となる。
【0012】
なお、本発明のα-トマチンの製造方法は、上記抽出工程の他に、抽出工程後の抽出液を保存する工程(以下、「保存工程」とも称する)や、当該抽出液からα-トマチンを取り出す工程(以下、「取り出し工程」とも称する)等をさらに含んでいてもよい。以下、本発明のα-トマチンの製造方法について、詳しく説明する。
【0013】
・抽出工程
抽出工程では、トマトの葉、茎、脇芽、未成熟果実、および根からなる群から選ばれる少なくとも一種以上のトマト植物体と、酸溶液とを混合し、酸溶液中にα-トマチンを抽出する。その後、抽出液とその他の成分とに分離する。
【0014】
ここで、本発明の製造方法に使用するトマト植物体は、トマトの成熟果実以外の部分であればいずれの部分であってもよく、成熟果実を収穫した後の葉や茎等であってもよく、間引きされた脇芽や未成熟果実(成熟前の青い果実)等であってもよい。なお、トマトの成熟果実にはα-トマチンが含まれず、かつ成熟果実は食用等、他の利用方法が多々ある。したがって、通常、成熟果実を取り除いたトマト植物体を抽出工程に使用することが好ましいが、成熟後の果実が一部に含まれるトマト植物体を抽出工程に使用しても問題ない。
【0015】
また、トマト植物体は、採取直後のものであってもよく、採取から数日程度時間が経過したものであってもよい。ただし、トマト植物体を採取後、当該トマト植物体を高温や多湿の環境で保存すると、雑菌が繁殖したり、熱や菌によってα-トマチンが分解されたりすることがある。したがって、抽出工程には、採取直後のトマト植物体を使用する、もしくは、雑菌の繁殖や熱分解が生じ難い環境で保存したトマト植物体を使用することが好ましい。雑菌の繁殖や熱分解が生じ難い環境での保存の例には、冷蔵庫や冷凍庫内での保存や、乾燥状態での保存(ただし熱をかけずに乾燥)等が含まれる。
【0016】
また抽出工程を行う際、トマト植物体をある程度の大きさに破砕してから酸溶液と混合してもよく、破砕せずに酸溶液と混合してもよい。
【0017】
一方、トマト植物体と混合する酸溶液は、得られる抽出液のpHを4.5にすることが可能な酸性度を有し、かつα-トマチンを十分に抽出することが可能な液体であれば特に制限されない。酸溶液のpHは、所望の抽出液のpH等に応じて適宜選択されるが、通常、トマト植物体と酸溶液とを混合し、酸溶液にトマト植物体のエキス分(α-トマチンを含むジュース分)が抽出されると、そのpHが上昇する。そこで、抽出に使用する酸溶液のpHはあらかじめpH4.5以下に設定しておくことが好ましく、3.5以下がより好ましく、0.6以上2.5以下がさらに好ましく、1.0以上2.3以下が特に好ましい。なお、酸性の液で抽出することによって、トマト植物体中のクロロフィル等の不純物を沈殿させやすくなる、という利点もある。不純物が沈殿すると、例えば濾過等によって不純物を除去しやすくなり、得られるα-トマチンの純度を高めやすくなる。
【0018】
ここで、酸溶液は1種の酸のみを含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。酸溶液が含む酸の例には、リン酸、塩酸、硫酸等の無機酸;酢酸、クエン酸、シュウ酸、乳酸、コハク酸、酒石酸等の有機酸;が含まれる。これらの中でも、塩酸、酢酸、またはクエン酸が好ましい。
【0019】
また、酸溶液は、上記酸を希釈したり溶解させたりするための溶媒を含んでいてもよい。酸溶液が含む溶媒は特に制限されないが、α-トマチンの溶解性の観点から、水;メタノールやエタノール等のアルコール類等が好ましい。酸溶液は、溶媒を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。上記の中でもα-トマチンとの親和性、取り扱いやすさの観点で、水が好ましい。
【0020】
α-トマチンを抽出する際に使用する酸溶液の総量は、トマト植物体の総量100質量部に対して150~1000質量部が好ましく、200~400質量部がより好ましい。トマト植物体の量に対する、酸溶液の量が当該範囲であると、トマト植物体中のα-トマチンを十分に抽出しやすくなる。
【0021】
ここで、トマト植物体および酸溶液は、一度に全てを混合してもよいが、トマト植物体や酸溶液を複数回に分けて混合することが、抽出液中のα-トマチン量を多くできるとの観点で好ましい。具体的には、以下のように混合することが好ましい。まず、トマト植物体の一部および酸溶液の一部を混合して、酸溶液内にα-トマチンを抽出する。その後、不要な成分(破砕物等)を濾過等によって除去する。そして、得られた液体(以下、「中間液」とも称する)にトマト植物体の残部や酸溶液の残部を追加して、追加したトマト植物体から再度α-トマチンを抽出する。このように、既にα-トマチンを含む中間液を用いて、さらなる抽出を行うと、最終的に得られる抽出液中のα-トマチンの濃度が高くなる。なお、上記抽出および濾過は、繰り返し行ってもよい。また、酸溶液の追加は任意であり、中間液のpHに応じて添加量や酸の濃度等を調整してもよい。
【0022】
また、トマト植物体中のα-トマチンを酸溶液(または中間液)によって抽出する方法としては、破砕攪拌による液温の上昇を抑えながら短時間で十分な破砕と攪拌混合が行えればよく、このような機能を持った好適なものとして、例えば愛工社製作所社製カッターミキサー等がある。
【0023】
上記トマト植物体の破砕時間や攪拌時間は特に制限されず、トマト植物体の量や、酸溶液の量等に応じて適宜選択される。通常、2分以上30分以下とすることができ、5分以上20分以下がより好ましい。8分以上破砕や攪拌を行うと、十分な量のα-トマチンを抽出できる。
【0024】
その後、酸溶液およびα-トマチンを含む抽出液と、その他の成分(例えば破砕物等)と、を分離する。分離方法は特に制限されず、例えば公知の濾過布や各種フィルターを用いて濾過してもよい。また、一定時間静置して破砕物等を沈殿させて、上澄み液(抽出液)のみを取り出してもよい。さらに、遠心分離機等を用いてもよい。
【0025】
ここで、本発明では、抽出工程後の抽出液のpHが4.5以下になるように、抽出工程に使用する酸溶液のpHを調整したり、中間液のpHを調整したりすればよい。抽出液のpHは、酸溶液の使用量やpH等によって、調整できる。本発明では、トマト植物体および酸溶液の混合から、抽出液の分離完了までの全ての状態において、トマト植物体やα-トマチンを含む液体(例えば中間液等)のpHを4.5以下になるように調整することが特に好ましい。抽出工程において、トマト植物体を含む酸溶液や中間液のpHが4.5以下であると、α-トマチンが酸溶液や中間液に溶出しやすくなる。また、α-トマチンを含む中間液のα-トマチンを含む液体のpHが4.5以下であると、α-トマチンが分解され難くなる。なお、抽出工程後の抽出液や、上記中間液のpHは0.7以上が好ましい。中間液のpHが低すぎると、α-トマチンの抽出効率が低下することがある。また、抽出液のpHが0.6以下であると、抽出液中でα-トマチンが不安定になることがある。これに対し、抽出液や中間液のpHが0.7以上になるように調整すると、格段にα-トマチンの回収効率が高まる。抽出液および中間液のpHは、0.7以上3.5以下がより好ましく、2.3以上3.2以下がさらに好ましい。なお、本発明では、抽出工程後の抽出液のpHのみを確認してもよいが、抽出工程の間に、酸溶液や中間液のpHを測定してもよい。
【0026】
また、本発明では、抽出液の温度が45℃になるように、トマト植物体および酸溶液の混合や、トマト植物体の破砕、攪拌等を行えばよい。抽出液の温度は、酸溶液やトマト植物体の温度や、抽出工程中の温度管理等によって調整できる。例えば冷却装置によって抽出工程中の温度管理を行ってもよく、冷蔵や冷凍したトマト植物体、酸溶液等を用いて、抽出工程における中間液等の温度を所望の範囲に維持してもよい。なお、本発明では、トマト植物体および酸溶液の混合から、抽出液の分離完了までの全ての状態において、トマト植物体やα-トマチンを含む液体(例えば中間液等)の温度を45℃以下に調整することが特に好ましい。中間液等の温度が45℃以下であると、抽出工程中にα-トマチンを分解する酵素が活性化したり、α-トマチンが熱分解したり、抽出液中で雑菌が繁殖したりすることを抑制できる。中間液や抽出液の温度は、常温より低い温度が好ましく、-10℃以上20℃以下がより好ましく、0℃以上10℃以下がさらに好ましい。本発明では、抽出工程後の抽出液の温度のみを確認してもよいが、抽出工程の間に、酸溶液や中間液の温度を測定してもよい。
【0027】
抽出工程後の抽出液中のα-トマチンの濃度は、0.05%以上であることが好ましく、0.08%以上がさらに好ましい。抽出液中のα-トマチン量が0.05%以上であると、後述の取り出し工程等において、α-トマチンの回収効率が高まる。
【0028】
・保存工程
上記抽出液を調製後、一定期間保存を行う保存工程を行ってもよい。また、保存工程後、必要に応じて再度濾過を行ってもよい。また、必要に応じて抽出液のpHの調整を行ってもよい。
【0029】
ここで、保存時の上記抽出液の温度は10℃以下が好ましく、-20℃以上10℃以下がより好ましく、0℃以上10℃以下がさらに好ましい。保存時の抽出液の温度が10℃以下であると、抽出液中のα-トマチン量が熱分解したり、酵素によって分解されたりし難い。さらに、雑菌の繁殖等も抑制できる。そこで、例えば冷蔵庫等で保管し、十分に冷却することが好ましい。
【0030】
また、保存時の抽出液のpHは3.5以下が好ましい。保存時の抽出液のpHが3.5以下であると、保存時におけるα-トマチンの分解等を抑制でき、純度の高いα-トマチンを得やすくなる。
【0031】
保存工程を行う時間は特に制限されず、例えば温度によって適宜選択される。例えば冷蔵であれば数時間から1週間程度とすることができ、冷凍であれば、例えば半年程度とすることも可能である。
【0032】
・取り出し工程
上述の抽出液からα-トマチンを取り出す工程をさらに行ってもよい。α-トマチンを取り出す方法としては特に制限されない。例えば、以下の方法とすることができる。ただし、当該方法に限定されない。まず、上記抽出液と合成吸着剤とを混合して、α-トマチンを合成吸着剤に吸着させる。そして、合成吸着剤と、例えばメタノール等の有機溶媒とを混合し、α-トマチンを有機溶媒に溶解または分散させる。その後、当該溶液を蒸発乾固させて、α-トマチンを取り出することができる。
【0033】
α-トマチンの純度を高めるため、以下の方法をさらに行ってもよい。蒸発乾固によって取り出したα-トマチンにpH3~3.5の酸溶液を加える。そして、当該溶液にアンモニア水溶液等のアルカリ溶液を加えて、溶液のpHを7~11に調整する。これにより、α-トマチンが析出し、沈殿する。沈殿したα-トマチンを回収し、再度pH3~3.5の酸溶液に溶解させる。この操作を複数回、繰り返し行っても良い。そして、当該溶液をシリカゲルや、イオン交換樹脂等と接触させて脱色、脱塩する。その後、炭酸ナトリウム水溶液等のアルカリ溶液を加えて溶液のpH7~11に調整する。その結果、α-トマチンが析出し、沈殿する。沈殿したα-トマチンを乾燥および回収することで、純度が高く、かつ常温で粉体状のα-トマチンを取り出すことができる。
【0034】
なお、上記いずれの作業を行う際、温度は55℃を超えないように温度調整を行うことが好ましい。また、上記α-トマチンの精製の際、pHを8~10とすることで、回収率を高める効果と共沈する不純物量をより少なく抑える効果がある。
【0035】
上記方法によれば、例えばα-トマチンの純度を85質量%以上とすることができる。すなわち、当該方法によれば、α-トマチンの純度を、市販のα-トマチンを精製した場合より高めることができる。
【実施例0036】
以下、本発明の具体的な実施例を比較例とともに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
[実施例1]
凍結トマト葉(葉柄を含む)3kgを準備し、当該凍結トマト葉にpH1.0の塩酸12kgを加えた。当該塩酸内で、カッターミキサーを用いて、凍結トマト葉を5分間粉砕し、醤油用濾過布で濾過した。得られた濾液(中間液)に、新たな凍結トマト葉を3kg加え、上記と同様に、凍結トマト葉を5分間粉砕した。再度濾過を行い、濾液(中間液)を得た。当該濾液(中間液)に新たな凍結トマト葉3kgを加え、上記と同様に凍結トマト葉を5分間粉砕した。再度濾過を行い、得られた濾液をα-トマチンの抽出液とした。なお、上記工程の開始から終了まで、温度が20℃を超えないように、温度調整を行った。また、得られた抽出液の温度およびpHを測定したところ、温度は8℃であり、pHは2.3であった。その後、一晩冷蔵庫(10℃以下の温度)で保存した。保存後、再度醤油用濾過布で濾過を行い、α-トマチン量およびβ-トマチン量を高速液体クロマトグラフィーで特定した。結果を表1に示す。
【0038】
[実施例2~8、および比較例1、2]
pH1.0の塩酸の代わりに、表1に示す酸溶液を使用した以外は、実施例1と同様にα-トマチンの抽出液を調製した。結果を表1に示す。
【0039】
【0040】
上記表に1に示されるように、トマト植物体と酸溶液とを混合してα-トマチンを抽出する際に、抽出液のpHを4.5以下、かつ温度を45℃以下に調整すると、抽出液中のα-トマチン量が多かった(実施例1~8)。これに対し、得られた抽出液のpHが4.5を超える場合には、α-トマチン量が格段に減少した(比較例1および2)。
【0041】
[実施例9~12、および比較例3]
抽出液を調製する際の最高温度を、表2に示す温度とし、5%酢酸水溶液にて、実施例1と同様に抽出液を調製した。得られた抽出液の温度および抽出液のpHを測定した結果を表2に示す。
【0042】
【0043】
上記表2に示されるように、抽出液の温度が、45℃以下であると、得られたα-トマチンの量が多かった(実施例9~12)。一方で、抽出液の温度が49℃では、実施例9~12と比較して、α-トマチンの量が格段に少なくなった(比較例3)。
【0044】
[実施例13]
凍結トマト葉(葉柄を含む)3kgを準備し、当該凍結トマト葉に1%酢酸水溶液12kgを加えた。当該酢酸水溶液内で、カッターミキサーを用いて、凍結トマト葉を5分間粉砕し、醤油用濾過布で濾過した。得られた濾液(中間液)に、新たな凍結トマト葉を3kg加え、上記と同様に、凍結トマト葉を5分間粉砕した。再度濾過を行い、濾液(中間液)を得た。当該濾液(中間液)に新たな凍結トマト葉3kgを加え、上記と同様に凍結トマト葉を5分間粉砕した。再度濾過を行い、得られた濾液をα-トマチンの抽出液とした。なお、上記工程の開始から終了まで、温度が20℃を超えないように、温度調整を行った。得られた抽出液の温度およびpHを測定したところ、温度は10℃であり、pHは3.4であった。その後、冷蔵庫(10℃以下の温度)で一晩静置し、濾過した。さらに冷蔵庫で数日間保存を行ったときの、α-トマチン量およびβ-トマチン量の変化を表3に示す。
【0045】
[比較例4]
凍結トマト葉(葉柄を含む)3kgを準備し、当該凍結トマト葉に1%酢酸水溶液12kgを加えた。当該酢酸水溶液内で、カッターミキサーを用いて、凍結トマト葉を5分間粉砕し、醤油用濾過布で濾過した。得られた濾液(中間液)に、新たな凍結トマト葉を3kg加え、上記と同様に、凍結トマト葉を5分間粉砕した。再度濾過を行い、濾液(中間液)を得た。当該濾液(中間液)に新な凍結トマト葉3kgを加え、上記と同様に凍結トマト葉を5分間粉砕した。再度濾過を行い、得られた濾液をα-トマチンの抽出液とした。得られた抽出液の温度およびpHを測定したところ、温度は9℃であり、pHは3.7であった。その後、冷蔵庫(10℃以下の温度)で一晩静置し、濾過した。さらに冷蔵庫で数日間保存を行ったときの、α-トマチン量およびβ-トマチン量の変化を表3に示す。
【0046】
【0047】
上記表3に示されるように、保存時の抽出液のpHが3.5以下であると、保存日数が長くなってもα-トマチンの量が減少し難かった(実施例13)。一方で、保存時の抽出液のpHが3.5を超えると、保存時にα-トマチン量が減りやすく、かつβ1-トマチン量が非常に多くなった(比較例4)。α-トマチンが分解されて、β1-トマチンに変換されたりしたと考えられる。
本発明のトマチンの製造方法によれば、効率よく、純度の高いα-トマチンを製造できる。当該α-トマチンや、これから得られるトマチジン、リコテトラオースは、例えば試薬や医薬の分野で非常に有用である。