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特開2024-138582排水処理に用いられる生物膜保持型メンブレン酸素供給装置及び酸素供給方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138582
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】排水処理に用いられる生物膜保持型メンブレン酸素供給装置及び酸素供給方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/22 20060101AFI20241002BHJP
   B01D 65/02 20060101ALI20241002BHJP
   C02F 3/10 20230101ALI20241002BHJP
【FI】
B01D53/22
B01D65/02 500
C02F3/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049129
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】蒲池 一将
(72)【発明者】
【氏名】マハズン ヤヒヤ
(72)【発明者】
【氏名】岡田 滋
(72)【発明者】
【氏名】石川 英之
(72)【発明者】
【氏名】内田 大貴
(72)【発明者】
【氏名】松前 大樹
【テーマコード(参考)】
4D003
4D006
【Fターム(参考)】
4D003CA08
4D003EA15
4D003EA20
4D003EA30
4D006GA41
4D006KA31
4D006KA33
4D006KB22
4D006KB23
4D006KD06
4D006MA01
4D006MA03
4D006MC01
4D006MC22
4D006MC24
4D006MC53
4D006MC65
4D006PA01
4D006PB17
4D006PB62
4D006PC61
(57)【要約】
【課題】酸素供給を目的とした酸素透過膜を使用した好気性生物処理による排水処理において、酸素透過膜の外側の生物膜は維持し、酸素透過膜内部に生成する微生物増殖を抑止、もしくは増殖した微生物を分解し、酸素透過膜の閉塞を防止することができる排水処理における生物膜保持型メンブレン酸素供給装置及び酸素供給方法を提供する。
【解決手段】酸素透過膜11の内部に気体の流通路が形成され、酸素透過膜の表面に生物膜を保持する生物膜保持型酸素透過膜10と、生物膜保持型酸素透過膜10の内部に、気体状又はミスト化された殺菌剤と酸素とを含有する気体を導入する殺菌剤含有気体導入装置20と、を備える排水処理に用いられる生物膜保持型メンブレン酸素供給装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素透過膜の内部に気体の流通路が形成され、酸素透過膜の表面に生物膜を保持する生物膜保持型酸素透過膜と、
当該生物膜保持型酸素透過膜の内部に、気体状又はミスト化された殺菌剤と酸素とを含有する気体を導入する殺菌剤含有気体導入装置と、
を備える排水処理に用いられる生物膜保持型メンブレン酸素供給装置。
【請求項2】
前記殺菌剤含有気体導入装置は、殺菌剤を気化又はミスト化する装置を備えることを特徴とする請求項1に記載の装置
【請求項3】
生物膜保持型メンブレン酸素供給装置の生物膜保持型酸素透過膜を水槽に浸漬し、
気体状又はミスト化された殺菌剤と酸素とを含有する殺菌剤含有気体を生物膜保持型酸素透過膜の内部に導入し、
生物膜保持型酸素透過膜を介して酸素を選択的に透過させ、生物膜に酸素を供給し、気体状又はミスト化された殺菌剤を生物膜保持型酸素透過膜の内部に維持する
ことを特徴とする排水処理における酸素供給方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水処理、特に生物膜による排水処理に用いる生物膜保持型メンブレン酸素供給装置及び酸素供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
排水処理において、活性汚泥槽などの生物処理槽を好気性雰囲気とするために空気などの酸素含有気体を導入することが行われている。酸素含有気体を導入するために、槽底部に散気装置を設けたり、酸素透過膜を設けたりすることが行われている。特に生物膜を利用する生物学的排水処理方法においては、膜分離活性汚泥法(MBR)において用いられる中空糸膜モジュールからなる固液分離膜、担体添加活性汚泥法(MBBR)において用いられる担体表面に生物膜を保持する流動担体、生物膜を酸素透過膜の外側表面に付着成長させる生物膜保持型酸素透過膜(MABR)が利用される。
【0003】
MBRは、図4に示すように、中空糸膜の束や平膜で構成されるモジュールを液体内に浸漬させ、モジュール外部の液体のみをモジュール内部に透過させて固液分離を行うものである。排水処理においては、モジュール外部において、散気装置などにより供給された酸素により活性化された活性汚泥中の微生物が有機物をCOに分解し、及びNH をNO に変換して(硝化)、排水の生物処理が進行し、モジュール内部には処理水のみが透過して、固液分離が行われる。
【0004】
MBBRは、図5に示すように、表面に生物膜を保持している流動担体を液体内に浸漬させ、排水の生物処理を行うものである。流動担体表面に高濃度に保持されている微生物が、散気装置などにより供給された酸素により活性化されて、有機物をCOに分解し、及びNH をNO に変換して(硝化)、排水の生物処理が進行する。
【0005】
MBR、MBBRともに硝化した液を無酸素槽に導入し、BODを消費することでNO をNに変換(脱窒)することができる。
【0006】
MABRは、図3に示すように、酸素を選択的に透過する中空糸膜の束であるモジュールの外表面に生物膜を付着させ、モジュールの内部に酸素を通過させて、モジュールの外表面の生物膜にモジュール内部から酸素を供給して、生物膜の内側領域で硝化、生物膜の外側領域で脱窒を進行させる。
【0007】
生物膜保持型酸素透過膜は、酸素を選択的に透過する中空糸の束である酸素透過膜と酸素透過膜の外側表面に付着した生物膜との2層構造を有し、酸素透過膜の内側に空気などの酸素含有気体を導入することで酸素透過膜の内側から外側の液中に気泡なしに酸素を供給することができ、液体と接触する酸素透過膜の外表面に好気性の生物膜が付着することで微生物担体としての役割を発揮し、好気条件でのBOD酸化反応や硝化反応を進行させることができる。DO(溶存酸素)は生物膜内で消費されるため、生物膜の中でも酸素濃度勾配があり、酸素透過膜に近い生物膜の内側領域は好気部となり硝化反応が進行し、酸素透過膜より遠く液側に面する生物膜の外側領域では無酸素部となり脱窒反応が進行するため、効率的な窒素除去が可能となる。このようにDOは酸素透過膜の内側が最も高く、酸素透過膜外部の液側に向かって減少し、一方、BODやNH-Nといった基質は生物反応の進行に伴い液側から酸素透過膜側に向かって減少することから対向拡散と呼ばれている。
【0008】
酸素透過膜を用いる排水処理では酸素透過膜の内部に空気などの酸素含有気体を導入し続けることで、酸素透過膜内部にてバクテリアや真菌などの微生物が繁殖し、酸素透過膜の閉塞が生じることがある。
【0009】
膜分離活性汚泥法(MBR)において用いられている中空糸膜モジュールからなる固液分離膜のファウリング防止のために行われる洗浄薬液注入法は、固液分離膜の表面に付着した微生物膜などのファウリングを洗浄するものであり、膜の内側の通気部を洗浄するものではない。
【0010】
中空糸膜モジュールの閉塞の対処法として、浸漬薬液洗浄方法及びインライン薬液洗浄方法がある(特許文献1)。浸漬薬液洗浄方法は、洗浄効果は大きいが、薬品使用量が多く、中空糸膜モジュールを脱着し浸漬槽へ移送するか、あるいはユニットごと浸漬槽へ移送する必要があり、作業が煩雑である。インライン薬液洗浄方法は、薬品使用量が少なく煩雑な作業もないが、洗浄薬液を透過膜に流通させるため、酸素含有気体を通気して使用する酸素透過膜の洗浄に適用するには、運転を中断する必要があり、適切ではない。
【0011】
酸素透過膜への給気を行う際、空気中の粉塵などを除去するために、フィルターなどが用いられている。しかし、通常のフィルターは除塵を目的としているため、空気中の微生物を完全に除去することは困難である。そのため、酸素透過膜を長期間使用すると膜内部に微生物が増殖し、供給空気の分配が不均一となり、圧損が高くなることで駆動力が増加し、やがて膜内部の閉塞が発生する。フィルターを通して滅菌してから空気を供給する方法は、圧損が過大となりエネルギー消費が大きくなるため、適用が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2001-300270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、酸素供給を目的とした酸素透過膜を使用した好気性生物処理による排水処理において、酸素透過膜の外側の生物膜は維持し、酸素透過膜内部に生成する微生物増殖を抑止、もしくは増殖した微生物を分解し、酸素透過膜の閉塞を防止することができる排水処理における生物膜保持型メンブレン酸素供給装置及び酸素供給方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、殺菌剤、好ましくは二酸化塩素、銀を含有する化合物、及び有機系薬剤から選択される1種以上を組み合わせた成分を気化もしくはミスト化させて空気とともに生物膜保持型酸素透過膜の内部に供給することにより、酸素透過膜の外側の生物膜を維持したうえで、その酸素透過膜内部に生成する微生物増殖を抑止、もしくは増殖した微生物を分解することができることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0015】
本発明は、酸素透過膜を用いた生物膜保持型メンブレン酸素供給装置の運転にあたり、装置の運転停止を伴うことなく、酸素透過膜内部に殺菌効果のある薬剤を供給し膜内部の微生物増殖を防止することで、供給空気の良好な分配、圧損の増加防止、内部閉塞の防止を達成し、空気供給の動力を増加させることなく安定的な運転が可能となる酸素供給装置及び排水処理における酸素供給方法を提供する。
【0016】
本発明によれば、
酸素透過膜の内部に気体の流通路が形成され、酸素透過膜の表面に生物膜を保持する生物膜保持型酸素透過膜と、
当該生物膜保持型酸素透過膜の内部に、気体状又はミスト化された殺菌剤と酸素とを含有する気体を導入する殺菌剤含有気体導入装置と、
を備える排水処理に用いられる生物膜保持型メンブレン酸素供給装置が供給される。
【0017】
前記殺菌剤含有気体導入装置は、殺菌剤を気化又はミスト化する装置を備えることが好ましい。
【0018】
また、本発明によれば、上記生物膜保持型酸素透過膜を水槽に浸漬し、
気体状又はミスト化された殺菌剤と酸素とを含有する殺菌剤含有気体を生物膜保持型酸素透過膜の内部に導入し、
生物膜保持型酸素透過膜を介して酸素を選択的に透過させ、生物膜に酸素を供給し、気化又はミスト化された殺菌剤を生物膜保持型酸素透過膜の内部に維持する
ことを特徴とする排水処理における酸素供給方法も提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、気体状又はミスト化された殺菌剤を酸素透過膜の内部に導入することにより、洗浄のために運転を中断することなく、酸素透過膜内部のバクテリアや真菌類などの微生物の繁殖を防止することができる。
【0020】
本発明によれば、酸素透過膜内部に殺菌効果のある薬剤を気体状又はミスト化した状態で供給し、酸素透過膜内部のバクテリアや真菌類などの微生物繁殖を防止して閉塞を防止できる上に、生物膜は維持されるため、良好な排水処理を中断することなく行うことができる。
【0021】
また、本発明の生物膜保持型メンブラン酸素供給装置は、一般的な活性汚泥法に用いられる散気管やメンブレン散気装置において必要となる水圧以上の送気圧が不要であり、中空糸膜内部にわずかな圧損が生じるだけであり、気泡発生がないために効率的に酸素供給が可能である。
【0022】
本発明の酸素供給装置において、酸素透過膜表面の生物膜に保持される硝化菌により生成したNO-Nは液側に拡散するが、生物膜の液側や液中の活性汚泥ではBOD濃度が高いため脱窒反応が進行しやすい。すなわちBOD、NH-Nと酸素の対向拡散により、BODは酸化されるより先に脱窒で利用されやすく、効率的な硝化脱窒が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の生物膜保持型メンブラン酸素供給装置の概要を示す概略説明図。
図2】本発明の生物膜保持型メンブラン酸素供給装置の別の実施形態を示す概略説明図。
図3】生物膜保持型酸素透過膜(MABR)の説明図。
図4】膜分離活性汚泥法(MBR)に用いられる固液分離膜の説明図。
図5】流動担体(MBBR)の説明図。
【好ましい実施形態】
【0024】
以下、添付図面を参照しながら本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
本発明の生物膜保持型メンブラン酸素供給装置は、排水処理に用いられる生物膜保持型メンブレン酸素供給装置であって、図1に示すように、生物膜を表面に備える生物膜保持型酸素透過膜10と、生物膜保持型酸素透過膜10に、気体状又はミスト化された殺菌剤と酸素とを含有する気体を導入する殺菌剤含有気体導入装置20と、を備えることを特徴とする。
【0026】
生物膜保持型酸素透過膜10は、図3に示すように、内部に気体流通部を有する酸素透過膜11と、酸素透過膜11の表面に形成される第1生物膜12と、第1生物膜12の表面に形成される第2生物膜13、とを有する。酸素透過膜11は酸素を選択的に透過するが、液体を透過しないため、酸素透過膜11の内部は気体流通部となる。第1生物膜12は、酸素透過膜11内部を流通する酸素含有気体からの酸素が選択的に透過されるため酸素リッチとなり、硝化細菌が多く繁殖し、硝化反応部となる。第2生物膜13は、第1生物膜11にて酸素が消費されて酸素が少なくなり、脱窒細菌が多く繁殖し、脱窒反応部となる。なお、第2生物膜13を設けず第1生物膜12の硝化反応で止めてもよい。
【0027】
酸素透過膜11は、選択的に酸素を透過する材質からなる中空糸膜又は平膜であればよく、シリコン、ジメチルポリシロキサン(PDMS)などの高密度膜、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリエチレンなどの多孔質膜などを単一素材として又は複合素材として用いることができる。
【0028】
生物膜保持型酸素透過膜10は、水槽30に浸漬されている。水槽30には、原水を供給する原水供給ライン31と、処理水を排出する処理水流出ライン33と、生物膜保持型酸素透過膜10に供給される気体を水槽30から排出する排気ライン34と、が接続されている。
【0029】
殺菌剤含有気体の生物膜保持型酸素透過膜10への導入は、生物膜保持型酸素透過膜10の上部からでも下部からでもよいが、図1に示すように、殺菌剤含有気体、生物膜保持型酸素透過膜10の上部から供給され、生物膜保持型酸素透過膜10の下部から排出されることが好ましい。酸素透過膜は材質によっては水蒸気を透過することがあるため、液体が存在する酸素透過膜の外側から、気体が存在する酸素透過膜の内側に水蒸気が透過するため、酸素透過膜の内側で凝縮水が生成することがある。供給する殺菌剤含有気体に含まれる水分から凝縮水が生成することもある。気体の流れ方向が上向きだと凝縮水が重力で落ちてくる向きと逆になるため、中空糸膜の内部が凝縮水で満たされやすく、圧損増加や複数の中空糸膜への気体の分配不良が生じやすくなる。生物膜保持型酸素透過膜10の下部から凝縮水を排出する手段を設けることが好ましい。生物膜保持型酸素透過膜10の下部から殺菌剤含有気体を導入する場合には、酸素透過膜11の内部に凝縮水が停滞しやすいため、殺菌剤含有気体の供給量を一時的に増やして気体とともに凝縮水を排出するか、殺菌剤含有気体の供給量を一時的に減らす、もしくは停止して生物膜保持型酸素透過膜10の下部から凝縮水を排出する手段を設けることが好ましい。
【0030】
本発明の生物膜保持型メンブラン酸素供給装置を具備する排水処理装置は、図2に示すように、生物膜保持型酸素透過膜10を浸漬する水槽30の下部に原水供給ライン31が接続され、原水が水槽30内を上向流で流れるように構成することもできる。この場合、水槽30の上部には、処理水流出ライン33が接続され、処理水流出ライン33への流出口よりも下方に循環ライン32が接続されており、処理中の原水を取水して原水供給ラインに循環させ、排水処理を促進することができる。図2には、循環ライン32に循環ポンプが設けられているが、エアリフトで循環させる構成としてもよい。
【0031】
また、水槽30の底部に洗浄用散気装置35を設けて、生物膜保持型酸素透過膜10を適宜、好ましくは間欠的に洗浄して、酸素透過膜に過剰付着した生物膜を剥離させることが好ましい。洗浄用散気装置35には、空気を供給する洗浄用空気供給ライン36を接続することができる。
【0032】
図1及び2においては、被処理水(原水)を直接供給する水槽30に生物膜保持型酸素透過膜10を浸漬しているが、活性汚泥が含まれる嫌気槽、無酸素槽、好気槽に浸漬してもよいし、水路や配管内など被処理水が流動する箇所に浸漬してもよい。
【0033】
殺菌剤含有気体導入装置20は、殺菌剤22を気化又はミスト化する装置21と、気化又はミスト化された殺菌剤を水槽30に導入する殺菌剤ミスト導入ライン23と、空気などの酸素含有気体を導入する酸素含有気体導入ライン24と、を備える。殺菌剤ミスト導入ライン23と酸素含有気体導入ライン24とは合流して、気化又はミスト化された殺菌剤と酸素含有気体とを混合した後に、水槽30に殺菌剤及び酸素を含有する気体を導入するように構成されていることが好ましい。
【0034】
本発明は、上記の生物膜保持型酸素透過膜を水槽に浸漬し、気体状又はミスト化された殺菌剤と酸素とを含有する殺菌剤含有気体を生物膜保持型酸素透過膜の内部に導入し、生物膜保持型酸素透過膜を介して酸素を選択的に透過させ、生物膜に酸素を供給し、気体状又はミスト化された殺菌剤を生物膜保持型酸素透過膜の内部に維持することを特徴とする排水処理における酸素供給方法も提供する。
【0035】
本発明の酸素供給方法は、排水処理において好適に用いることができる。処理対象となる排水としては、下水、し尿などの家庭排水、食品工場、飲料工場、化学工場などの産業廃水などであり、有機物だけでなく、NH-N、HSなどの還元性無機塩類も対象とすることができる。本発明においては、生物膜保持型酸素透過膜を使用することで、気泡の発生なしに酸素含有気体を供給することができるため、揮発性有機物や臭気物質を含む排水の処理にも適している。
【0036】
有機物とNH-Nを含む排水に対しては、生物膜保持型酸素透過膜における対向拡散となる特性を活かして、酸素透過膜近傍での第1生物膜での硝化、液側での第2生物膜での脱窒を行うことができるため、同一水槽内での同時硝化脱窒処理を行うことができる。
【0037】
殺菌剤としては、二酸化塩素などの塩素系殺菌剤、金属銀、銀を含む化合物、金属銅、銅を含む化合物、有機系薬剤など殺菌効果や微生物抑制効果のある薬品を好適に用いることができる。銀を含む化合物としては、たとえば酸化銀、塩化銀、硝酸銀、硫酸銀、炭酸銀、スルホン酸銀塩などの無機銀塩などの無機系抗菌剤や、蟻酸銀、酢酸銀等の有機銀塩などの有機系抗菌剤が挙げられる。有機系薬剤としては、たとえば3-メチル-4-イソプロピルフェノール(IPMP)、3-ヨード-2-プロピニルブチルカーバメイト(IPBC)、ジデシルジメチルアンモニウムクロリド、o-フェニルフェノール(OPP)、安息香酸ナトリウム、グルタルアルデヒド、ポリヘキサメチレンビグアニジン塩酸塩などが挙げられる。これらは1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。特に酸素透過膜の内部で増殖する微生物を解析したところ、カビなどの真菌類が主であることが確認できたことから、真菌類を効率的に抑制、殺菌する殺菌剤がより適している。
【0038】
二酸化塩素など塩素系殺菌剤の場合、有効成分濃度0.01ppm以上1ppm以下、好ましくは0.1ppm以上1ppm以下となる量で導入することが望ましい。0.01ppm未満だと殺菌の効果が無く、1ppm超過だと特にシリコン系の酸素透過膜は酸化剤によるダメージが発生するおそれがある。銀含有化合物の場合、銀濃度0.01mg/m以上10mg/m以下、好ましくは0.5mg/m以上1mg/m以下となる量で導入することが望ましい。固形物殺菌剤の代表例としてIPMPの場合、ミスト化した固形物濃度が1mg/m以上1000mg/m以下、好ましくは10mg/m以上100mg/m以下となる量で導入することが望ましい。下限未満だと殺菌効果がなく、上限を越えると酸素透過膜内部で固形物殺菌剤による閉塞が発生するおそれがある。導入する殺菌剤の量は、使用する殺菌剤の殺菌効果を踏まえて、有効成分濃度範囲内となるように設定することができる。
【0039】
殺菌剤の供給時間は、排出される凝縮水に含まれる殺菌剤濃度を目安にすることができる。銀含有化合物の場合は、凝縮水中0.01mg/L以上10mg/L以下、好ましくは0.1mg/L以上1mg/L以下、固形物殺菌剤の代表例としてIPMPの場合は、凝縮水中10mg/L以上1000mg/L以下、好ましくは20mg/L以上100mg/L以下を目安とすることができる。凝縮水の殺菌剤濃度は実測してもよいし、導入した殺菌剤が全量凝縮水に補足されるとして日常的に発生する凝縮水の量から算出してもよい。
【0040】
二酸化塩素など常温で気体の殺菌剤はそのままもしくは気化して使用する。常温で液体や固体の殺菌剤は気化もしくはミスト化して使用する。ミスト化する装置として、燻煙器、煙霧器、超音波式ネブライザー、ジェット式ネブライザー、メッシュ式ネブライザーなどを使用することができる。気体状又は気化もしくはミスト化した殺菌剤は、酸素を含有する気体と混合して、生物膜保持型酸素透過膜10の内部の気体流通部に導入する。気体状もしくはミスト化した殺菌剤を空気などの酸素含有気体と混合して導入するため、通常運転の空気供給を停止する必要がなく、殺菌工程において排水処理を中断する必要がない。ミスト化された殺菌剤は、高濃度で生物膜保持型酸素透過膜に付着して殺菌効果を持続することができる。ミスト化された殺菌剤は、粒子径が1μm以上100μm以下、特に1μm以上10μm以下であることが好ましい。実際の排水処理設備では、大型の装置を用いるために、気化又はミスト化装置21と生物膜保持型酸素透過膜10の距離が長くなり、粒子径が大きいと凝集しやすく、途中で液化や固化して、酸生物膜保持型素透過膜10内部に均等分配することが困難となるおそれがある。
【0041】
生物膜保持型酸素透過膜10の内部に微生物が繁殖して閉塞すると、酸素透過膜11内部の気体流通部における気体流通が阻害され、気体状、気化又はミスト化された殺菌剤が微生物と十分に接触できなくなるおそれがある。そのため、気化又はミスト化された殺菌剤の導入は、微生物が多量に増殖する前に定期的に行うことが好ましい。1週間に1回以上1年に1回以下、好ましくは1ヶ月に1回以上6ヶ月に1回以下の頻度で、気化又はミスト化された殺菌剤を導入することが望ましい。もしくは、酸素透過膜内部のバクテリアや真菌類などの微生物繁殖によって生じる酸素透過膜11の気体流入部と排出部の圧損が、微生物繁殖が無い状態と比較した増分が1kPa、より好ましくは0.5kPaを超えた時点で気化又はミスト化された殺菌剤を導入してもよい。
【実施例0042】
酸素透過膜として中空糸膜(PDMS、内径200μm、膜面積0.37m)を用い、カラム内に浸漬して、生物膜を酸素透過膜表面に形成させ、気体状又はミスト化した殺菌剤を含む空気を生物膜保持型酸素透過膜の上部から供給し、下部から排気する。カラムを1.5Lの循環水槽に接続して、約25℃に加温した人工下水処理水を循環させ、6ヶ月間排水処理運転を行ない、酸素透過膜面に過剰付着した生物膜を剥離するため、1日1回の空洗を行なう運転において、本発明の効果を計算により検証する。
【0043】
運転開始時の酸素透過膜における圧力損失は0.5kPa未満、運転開始時の酸素透過速度は8.3g/(m・d)であった。
【0044】
圧力損失は、酸素透過膜の入口と出口で圧力を測定し、差を算出することで求められる。酸素の膜透過速度は、下水試験補法(2012年版)の総括酸素移動容量係数の求め方を参考にして、循環水槽にDO計を設け、亜硫酸ナトリウムを添加してDO変化を記録し、亜硫酸ナトリウムが消費された後のDOの変化から算出することができる。
【0045】
[仮想実施例1]
殺菌剤として気体の二酸化塩素約1ppmを含む空気を月に1回、5分間供給すると、6ヶ月後の圧力損失は0.5kPa未満のままであり、酸素透過速度は11.4g/(m・d)に増加すると予想される。
【0046】
[仮想実施例2]
殺菌剤として塩化銀水溶液を超音波でミスト化した銀を約1mg/m含む空気を月に1回、5分間供給すると、6ヶ月後の圧力損失は0.5kPa未満のままであり、酸素透過速度は10.1g/(m・d)に増加すると予想される。
【0047】
[仮想比較例]
殺菌剤を使用せずに連続運転すると、6ヶ月後の圧力損失は2kPaに増加し、酸素透過速度は4.0g/(m・d)に減少すると予想される。
【0048】
本発明の生物膜保持型メンブラン酸素供給装置を用いて、酸素透過膜の内部の気体の流通部に、気体状又はミスト化された殺菌剤を含む酸素含有気体を流通させることによって、生物膜保持型酸素透過膜におけるバクテリアや真菌などの微生物の繁殖を抑制し、膜の閉塞を防止することができる。
図1
図2
図3
図4
図5