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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138583
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】自動車のサイドシル構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/20 20060101AFI20241002BHJP
【FI】
B62D25/20 F
【審査請求】有
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049134
(22)【出願日】2023-03-27
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-07-17
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083253
【弁理士】
【氏名又は名称】苫米地 正敏
(72)【発明者】
【氏名】石川 俊治
(72)【発明者】
【氏名】樋貝 和彦
(72)【発明者】
【氏名】塩崎 毅
(72)【発明者】
【氏名】中垣内 達也
(72)【発明者】
【氏名】川崎 由康
(72)【発明者】
【氏名】田路 勇樹
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203AA31
3D203AA33
3D203BB04
3D203BB12
3D203BB22
3D203CA02
3D203CA25
3D203CA53
3D203CA55
3D203CA57
3D203CA58
3D203CA62
3D203CB03
3D203CB09
3D203DB07
(57)【要約】
【課題】構造部材による重量増加を抑えつつ、少ない衝突変形量で高い衝突エネルギー吸収特性が得られるサイドシル構造を提供する。
【解決手段】サイドシル1内の閉断面空間3を縦通する仕切部材2を備え、この仕切部材2により閉断面空間3が車両幅方向で2つの閉断面空間3a,3bに仕切られたサイドシル構造において、閉断面空間3a,3b内で、仕切部材2を両側から挟んだ状態で仕切部材2に接合され、仕切部材2との間でそれぞれ閉断面空間5a,5bを形成する1対の断面溝形部材4a,4bと、各閉断面空間5a,5b内に設置される特定の構造および配置形態のバルクヘッド6とで構成される衝撃吸収構造体Aを有し、閉断面空間5a,5b内のバルクヘッド6は仕切部材2を挟んで車両幅方向で対向して設けられ、各バルクヘッド6は少なくとも断面溝形部材4a,4bに接合される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイドシル(1)内の閉断面空間(3)を縦通する仕切部材(2)を備え、該仕切部材(2)により閉断面空間(3)が車両幅方向で2つの閉断面空間(3a),(3b)に仕切られたサイドシル構造において、
閉断面空間(3a),(3b)内において、仕切部材(2)を両側から挟んだ状態で仕切部材(2)に接合されて、仕切部材(2)との間でそれぞれ閉断面空間(5a),(5b)を形成する1対の断面溝形部材(4a),(4b)と、
各閉断面空間(5a),(5b)内に車両幅方向に沿って設けられることで閉断面空間(5a),(5b)をそれぞれ仕切る部材であって、閉断面空間(5a),(5b)内の車両前後方向で間隔をおいた複数箇所に設けられるバルクヘッド(6)とで構成される衝撃吸収構造体(A)を有し、
各バルクヘッド(6)は、並列した複数の隔壁部(60)と、隣り合う隔壁部(60)を、それらの側端部間で連結する連結部(61)を備え、
閉断面空間(5a)内のバルクヘッド(6)と閉断面空間(5b)内のバルクヘッド(6)は、少なくとも1つの連結部(61)どうしが仕切部材(2)を挟んで車両幅方向で対向するように、車両前後方向で同じ位置に設けられるとともに、各バルクヘッド(6)は少なくとも断面溝形部材(4a)または断面溝形部材(4b)に接合され、
車両前後方向で間隔をおいて設けられる複数のバルクヘッド(6)が備える全隔壁部(60)のうち、一部の隔壁部(60)は、車両前後方向におけるフロアクロスメンバの幅内となる領域(x)に配され、残りの隔壁部(60)は、車両前後方向におけるフロアクロスメンバの幅外となる領域(y)に配されており、
領域(x)には2つ以上の隔壁部(60)が配され、車両前後方向において、領域(x)内で隣り合う2つの隔壁部(60)の間隔をw1、当該隔壁部(60)とこれと隣り合う隔壁部(60)との間隔をw2とした場合、w1<w2とすることを特徴とする自動車のサイドシル構造。
【請求項2】
断面溝形部材(4a),(4b)の横方向面部(41A),(41B)に車両幅方向に沿ってビード(64)が形成され、該ビード(64)内に、バルクヘッド(6)の隔壁部(60)に形成された接合用のフランジ部(62)が嵌め込まれていることを特徴とする請求項1に記載の自動車のサイドシル構造。
【請求項3】
バルクヘッド(6)は、仕切部材(2)と相対する連結部(61)の上端および下端にそれぞれ板状延出部(63)が連設され、
断面溝形部材(4a),(4b)と仕切部材(2)との上下の各接合部では、両部材間に上下の板状延出部(63)が挟み込まれた状態で、両部材が接合されていることを特徴とする請求項1に記載の自動車のサイドシル構造。
【請求項4】
各断面溝形部材(4a),(4b)の縦方向面部(40)と、これと相対するサイドシル(1)の縦方向面部(100)とが、(i)直に接合または当接している、(ii)他の部材を介して接合または当接している、(iii)接合または当接することなく、所定の間隙を空けて対向している、のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の自動車のサイドシル構造。
【請求項5】
衝撃吸収構造体(A)は、仕切部材(2)を挟んだインナ側部分とアウタ側部分のうちの一方が他方よりも車両高さ方向に延在していることを特徴とする請求項1に記載の自動車のサイドシル構造。
【請求項6】
サイドシル(1)内の閉断面空間(3)を縦通する仕切部材(2)を備え、該仕切部材(2)により閉断面空間(3)が車両幅方向で2つの閉断面空間(3a),(3b)に仕切られたサイドシル構造において、
車両アウタ側の閉断面空間(3a)内において、仕切部材(2)に接合されて、仕切部材(2)との間で閉断面空間(5a)を形成する断面溝形部材(4a)と、
閉断面空間(5a)および車両インナ側の閉断面空間(3b)内に車両幅方向に沿って設けられることで閉断面空間(5a)および閉断面空間(3b)をそれぞれ仕切る部材であって、閉断面空間(5a)および閉断面空間(3b)内の車両前後方向で間隔をおいた複数箇所に設けられるバルクヘッド(6)とで構成される衝撃吸収構造体(A)を有し、
各バルクヘッド(6)は、並列した複数の隔壁部(60)と、隣り合う隔壁部(60)を、それらの側端部間で連結する連結部(61)を備え、
閉断面空間(5a)内のバルクヘッド(6)と閉断面空間(3b)内のバルクヘッド(6)は、少なくとも1つの連結部(61)どうしが仕切部材(2)を挟んで車両幅方向で対向するように、車両前後方向で同じ位置に設けられるとともに、閉断面空間(5a)内の各バルクヘッド(6)は少なくとも断面溝形部材(4a)に接合され、閉断面空間(3b)内の各バルクヘッド(6)は少なくともサイドシル(1)に接合され、
車両前後方向で間隔をおいて設けられる複数のバルクヘッド(6)が備える全隔壁部(60)のうち、一部の隔壁部(60)は、車両前後方向におけるフロアクロスメンバの幅内となる領域(x)に配され、残りの隔壁部(60)は、車両前後方向におけるフロアクロスメンバの幅外となる領域(y)に配されており、
領域(x)には2つ以上の隔壁部(60)が配され、車両前後方向において、領域(x)内で隣り合う2つの隔壁部(60)の間隔をw1、当該隔壁部(60)とこれと隣り合う隔壁部(60)との間隔をw2とした場合、w1<w2とすることを特徴とする自動車のサイドシル構造。
【請求項7】
断面溝形部材(4a)の横方向面部(41A),(41B)に車両幅方向に沿ってビード(64)が形成され、該ビード(64)内に、バルクヘッド(6)の隔壁部(60)に形成された接合用のフランジ部(62)が嵌め込まれていることを特徴とする請求項6に記載の自動車のサイドシル構造。
【請求項8】
閉断面空間(5a)内のバルクヘッド(6)は、仕切部材(2)と相対する連結部(61)の上端および下端にそれぞれ板状延出部(63)が連設され、
断面溝形部材(4a)と仕切部材(2)との上下の各接合部では、両部材間に上下の板状延出部(63)が挟み込まれた状態で、両部材が接合されていることを特徴とする請求項6に記載の自動車のサイドシル構造。
【請求項9】
断面溝形部材(4a)の縦方向面部(40)と、これと相対するサイドシル(1)の縦方向面部(100)とが、(i)直に接合または当接している、(ii)他の部材を介して接合または当接している、(iii)接合または当接することなく、所定の間隙を空けて対向している、のいずれかであることを特徴とする請求項6に記載の自動車のサイドシル構造。
【請求項10】
車両前後方向において、隣り合うバルクヘッド(6)どうしの間隔をw3とした場合、w1<w3とすることを特徴とする請求項1または6に記載の自動車のサイドシル構造。
【請求項11】
w1、w2およびw3が、それぞれ254mm以下であり、さらに、領域(y)にバルクヘッド(6)が設けられる場合において、当該バルクヘッド(6)における隣り合う隔壁部(60)どうしの間隔をw4とした場合に、w4が254mm以下であることを特徴とする請求項10に記載の自動車のサイドシル構造。
【請求項12】
バルクヘッド(6)の隔壁部(60)と連結部(61)は、平面視で門型形状または角波形状に折り曲げ成形された金属板で構成されることを特徴とする請求項1または6に記載の自動車のサイドシル構造。
【請求項13】
仕切部材(2)と、これと相対するバルクヘッド(6)の連結部(61)とが、(i)直に接合または当接している、(ii)他の部材を介して接合または当接している、(iii)接合または当接することなく、所定の間隙を空けて対向している、のいずれかであることを特徴とする請求項1または6に記載の自動車のサイドシル構造。
【請求項14】
バルクヘッド(6)の隔壁部(60)にビード(62)が形成されていることを特徴とする請求項1または6に記載の自動車のサイドシル構造。
【請求項15】
衝撃吸収構造体(A)に、サイドシル(1)の内面と相対して凹陥部(c)が形成されていることを特徴とする請求項1または6に記載の自動車のサイドシル構造。
【請求項16】
衝撃吸収構造体(A)を構成する金属板は、降伏強度がフロアクロスメンバを構成する金属板の降伏強度以下であることを特徴とする請求項1または6に記載の自動車のサイドシル構造。
【請求項17】
衝撃吸収構造体(A)を構成する金属板は、引張強度が780MPa級以上、または金属板の板厚1/4位置のビッカース硬さ(HV)が250以上であることを特徴とする請求項1または6に記載の自動車のサイドシル構造。
【請求項18】
衝撃吸収構造体(A)を構成する金属板は、
質量%で、
C:0.030%以上0.250%以下、
Si:0.01%以上2.50%以下、
Mn:1.00%以上3.50%未満、
P:0.001%以上0.100%以下、
S:0.0200%以下、
Al:0.010%以上2.000%以下
を含有する鋼板であることを特徴とする請求項1または6に記載の自動車のサイドシル構造。
【請求項19】
衝撃吸収構造体(A)を構成する金属板は、金属板の板厚1/4位置において、フェライトを面積率で0%以上65%以下、マルテンサイトと焼戻しマルテンサイトを面積率の合計で30%以上100%以下、残留オーステナイトを面積率で0%以上15%以下含む鋼組織を有することを特徴とする請求項1または6に記載の自動車のサイドシル構造。
【請求項20】
衝撃吸収構造体(A)を構成する金属板は、引張試験における極限変形能が0.55以上であることを特徴とする請求項1または6に記載の自動車のサイドシル構造。
【請求項21】
衝撃吸収構造体(A)を構成する金属板は、90°V曲げ試験を行った際に亀裂が発生しない限界曲げ半径R(mm)と金属板の板厚t(mm)がR/t≦7.0を満足することを特徴とする請求項1または6に記載の自動車のサイドシル構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車体側部のサイドシル構造であって、特に両サイドシル間のフロアパネルの下方にバッテリーモジュールを備えた自動車に好適なサイドシル構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的にバッテリー式電気自動車(BEV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)等の大容量バッテリーを積載した自動車(以下、これらを総称して「電気自動車」という。)は、フロアパネル下方にバッテリーモジュールが搭載されている。バッテリーモジュールは、バッテリーセル(バッテリーパック)とこれを格納するためのバッテリーケースで構成されている。一般的にバッテリーケースはバッテリーセルを衝撃荷重から保護する役割を持っており、高剛性・高耐力の部材が使用されている。バッテリーケースの周囲には、部材自身が変形することでエネルギーを吸収する役割をもつ部材が配置される。特に側面衝突の場合には、車体側方からの衝撃荷重をサイドシルがエネルギー吸収し、残りの荷重をフロアクロスメンバまたはバッテリーケースサイドメンバで支える。この時、サイドシルのエネルギー吸収に必要な変形量が少なければエネルギー吸収部を縮小でき、代わりにバッテリーモジュールの体積を拡大できるため航続距離の増加につながる。以上のことから、エネルギー吸収性能に優れ、軽量なサイドシル構造が求められている。
【0003】
従来、サイドシルの剛性を高め、側面衝突時のエネルギー吸収性能を高める技術として、以下のような提案がなされている。
特許文献1には、自動車の車両側面を形成する閉断面構造のサイドシルの内部(閉断面空間)に車両幅方向に沿ったバルクヘッドを設け、サイドシルの側面衝突時のサイドシルの断面崩れを防止する技術が開示されている。バルクヘッドの外周にはフランジが形成され、サイドシル内のリィンフォースメントに溶接固定されている。
また、特許文献2、3には、サイドシル内部を縦通する仕切部材を備え、この仕切部材によりサイドシル内の閉断面空間が車両幅方向で2つの閉断面空間に仕切られた構造において、サイドシル内の閉断面空間に車両幅方向に沿った複数のバルクヘッドを配設し、このバルクヘッドと仕切部材との組合せにより、側面衝突時のサイドシルの断面崩れを防止する技術が開示されている。これらの技術において、仕切部材は、側面衝突時にサイドシルが上下方向に開いて断面崩壊するのを防止するために設けられている。特許文献2では、バルクヘッドは、サイドシル内の閉断面空間において仕切部材を挟んだ一方の空間のみに配設される。一方、特許文献3では、バルクヘッドは、サイドシル内の閉断面空間において仕切部材を挟んだ両側に配設される。
【0004】
さらに、特許文献4には、サイドシル内部を縦通する仕切部材を備え、この仕切部材によりサイドシル内の閉断面空間が車両幅方向で2つの閉断面空間に仕切られた構造において、仕切部材の両側(仕切部材の内側及び外側)にハット断面形状の衝撃吸収部材を配置する技術が開示されている。
また、特許文献5には、サイドシル内の閉断面空間に、車両幅方向に沿う稜線部を互いに間隔を空けて複数保有し、車体の前後方向に沿って上下する波形状を有する衝撃吸収部材を配置することで、衝撃吸収能力を保持しつつ局部的な変形を抑制する技術が開示されている。
また、特許文献6には、車両フレーム内の空洞を補強するためのシステムとして、複数の横断リブに相互接続された複数の長手リブを含み、空洞壁内に構造補強をもたらす剛体キャリアと、スチフナに相当する挿入部材と、空洞壁とキャリアとを接合する接合材料とで構成される構造補強システム(図2)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-59218号公報
【特許文献2】特開2009-202620号公報
【特許文献3】特開2013-49378号公報
【特許文献4】特開2017-226353号公報
【特許文献5】特開2021-146973号公報
【特許文献6】特表2011-530450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された技術は、バルクヘッドが車両幅方向に長いために座屈しやすい構造であるため、側面衝突時にバルクヘッドの座屈が容易に発生し、バルクヘッドの座屈が発生し始めると、サイドシルの断面崩れが発生する問題がある。このため適切な衝突エネルギー吸収性能が得られない。
また、特許文献2、3のように、仕切部材を有するサイドシルにおいて、サイドシル内の閉断面空間にバルクヘッドを配設した場合も十分な衝突エネルギー吸収特性が得られない。ここで、特許文献2に開示された技術は、バルクヘッドが仕切部材を挟んだ一方の閉断面空間のみに配設されるため、その一方の閉断面空間の断面形状を維持する機能しか持たず、十分な衝突エネルギー吸収特性が得られない。また、特許文献3に開示された技術のように、仕切部材を挟んだ両方の空間にバルクヘッドが配設される場合も、得られる衝突エネルギー吸収特性は十分なものではない。
【0007】
さらに、特許文献3に開示された技術は、バルクヘッドを差し込むために、仕切部材にスリットを設ける必要があり、サイドシルの長手方向に複数のバルクヘッドを設置する場合、スリットの付与による仕切部材の強度低下を避けるため、バルクヘッドの設置間隔を長くできない。このため、バルクヘッドの設置数が増加して重量増加を招くという問題がある。
また、特許文献4のように、仕切部材を有するサイドシルにおいて、単に仕切部材の両側(仕切部材の内側及び外側)にハット断面形状の衝撃吸収部材を配置しただけでは、十分な衝突エネルギー吸収特性が得られない。
また、特許文献5に開示された技術は、側面衝突時の衝撃荷重を、車幅方向に垂直な断面に分散して一様に伝達できるので、高い衝突エネルギー吸収特性が得られるが、車両前後方向に一定な断面を持つサイドシル内補強材では、補強する必要のない部位にも補強部材が存在するため重量が過剰になる可能性がある。
また、特許文献6に開示された技術は、横断リブおよび長手リブの厚さおよび間隔について、厚さが2~8mm、間隔が20~40mmとしており、特許文献5と同様に補強する必要のない部位にも補強部材が存在するため重量が過剰になる可能性がある。
【0008】
したがって本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決し、構造部材による重量増加を抑えつつ、少ない衝突変形量で高い衝突エネルギー吸収特性が得られるサイドシル構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく検討を重ねた結果、サイドシル内の閉断面空間を縦通する仕切部材を利用し、その閉断面空間内に特定の構造の衝撃吸収構造体を設けることにより、上記の課題を解決できることが判った。具体的には、サイドシルの閉断面空間内に、仕切部材を両側から挟んで接合される1対の断面溝形部材と、これら断面溝形部材と仕切部材との間にそれぞれ形成される閉断面空間内に設置される特定の構造および配置形態のバルクヘッドとで構成され、それらが構造上一体化された衝撃吸収構造体を設けることにより、構造部材による重量増加を抑えつつ、高いエネルギー吸収性能が得られることが判った。また、上記断面溝形部材を車両アウタ側にのみ設けるとともに、この断面溝形部材と仕切部材との間に形成される閉断面空間内と、サイドシルの車両インナ側の閉断面空間内に、特定の構造および配置形態のバルクヘッドを設け、それらが構造上一体化された衝撃吸収構造体とすることによっても、ほぼ同様の効果、すなわち、構造部材による重量増加を抑えつつ、高いエネルギー吸収性能が得られることが判った。
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、以下を要旨とするものである。
【0010】
[1]サイドシル(1)内の閉断面空間(3)を縦通する仕切部材(2)を備え、該仕切部材(2)により閉断面空間(3)が車両幅方向で2つの閉断面空間(3a),(3b)に仕切られたサイドシル構造において、
閉断面空間(3a),(3b)内において、仕切部材(2)を両側から挟んだ状態で仕切部材(2)に接合されて、仕切部材(2)との間でそれぞれ閉断面空間(5a),(5b)を形成する1対の断面溝形部材(4a),(4b)と、
各閉断面空間(5a),(5b)内に車両幅方向に沿って設けられることで閉断面空間(5a),(5b)をそれぞれ仕切る部材であって、閉断面空間(5a),(5b)内の車両前後方向で間隔をおいた複数箇所に設けられるバルクヘッド(6)とで構成される衝撃吸収構造体(A)を有し、
各バルクヘッド(6)は、並列した複数の隔壁部(60)と、隣り合う隔壁部(60)を、それらの側端部間で連結する連結部(61)を備え、
閉断面空間(5a)内のバルクヘッド(6)と閉断面空間(5b)内のバルクヘッド(6)は、少なくとも1つの連結部(61)どうしが仕切部材(2)を挟んで車両幅方向で対向するように、車両前後方向で同じ位置に設けられるとともに、各バルクヘッド(6)は少なくとも断面溝形部材(4a)または断面溝形部材(4b)に接合され、
車両前後方向で間隔をおいて設けられる複数のバルクヘッド(6)が備える全隔壁部(60)のうち、一部の隔壁部(60)は、車両前後方向におけるフロアクロスメンバの幅内となる領域(x)に配され、残りの隔壁部(60)は、車両前後方向におけるフロアクロスメンバの幅外となる領域(y)に配されており、
領域(x)には2つ以上の隔壁部(60)が配され、車両前後方向において、領域(x)内で隣り合う2つの隔壁部(60)の間隔をw1、当該隔壁部(60)とこれと隣り合う隔壁部(60)との間隔をw2とした場合、w1<w2とすることを特徴とする自動車のサイドシル構造。
【0011】
[2]上記[1]のサイドシル構造において、断面溝形部材(4a),(4b)の横方向面部(41A),(41B)に車両幅方向に沿ってビード(64)が形成され、該ビード(64)内に、バルクヘッド(6)の隔壁部(60)に形成された接合用のフランジ部(62)が嵌め込まれていることを特徴とする自動車のサイドシル構造。
[3]上記[1]または[2]のサイドシル構造において、バルクヘッド(6)は、仕切部材(2)と相対する連結部(61)の上端および下端にそれぞれ板状延出部(63)が連設され、
断面溝形部材(4a),(4b)と仕切部材(2)との上下の各接合部では、両部材間に上下の板状延出部(63)が挟み込まれた状態で、両部材が接合されていることを特徴とする自動車のサイドシル構造。
【0012】
[4]上記[1]~[3]のいずれかのサイドシル構造において、各断面溝形部材(4a),(4b)の縦方向面部(40)と、これと相対するサイドシル(1)の縦方向面部(100)とが、(i)直に接合または当接している、(ii)他の部材を介して接合または当接している、(iii)接合または当接することなく、所定の間隙を空けて対向している、のいずれかであることを特徴とする自動車のサイドシル構造。
[5]上記[1]~[4]のいずれかのサイドシル構造において、衝撃吸収構造体(A)は、仕切部材(2)を挟んだインナ側部分とアウタ側部分のうちの一方が他方よりも車両高さ方向に延在していることを特徴とする自動車のサイドシル構造。
【0013】
[6]サイドシル(1)内の閉断面空間(3)を縦通する仕切部材(2)を備え、該仕切部材(2)により閉断面空間(3)が車両幅方向で2つの閉断面空間(3a),(3b)に仕切られたサイドシル構造において、
車両アウタ側の閉断面空間(3a)内において、仕切部材(2)に接合されて、仕切部材(2)との間で閉断面空間(5a)を形成する断面溝形部材(4a)と、
閉断面空間(5a)および車両インナ側の閉断面空間(3b)内に車両幅方向に沿って設けられることで閉断面空間(5a)および閉断面空間(3b)をそれぞれ仕切る部材であって、閉断面空間(5a)および閉断面空間(3b)内の車両前後方向で間隔をおいた複数箇所に設けられるバルクヘッド(6)とで構成される衝撃吸収構造体(A)を有し、
各バルクヘッド(6)は、並列した複数の隔壁部(60)と、隣り合う隔壁部(60)を、それらの側端部間で連結する連結部(61)を備え、
閉断面空間(5a)内のバルクヘッド(6)と閉断面空間(3b)内のバルクヘッド(6)は、少なくとも1つの連結部(61)どうしが仕切部材(2)を挟んで車両幅方向で対向するように、車両前後方向で同じ位置に設けられるとともに、閉断面空間(5a)内の各バルクヘッド(6)は少なくとも断面溝形部材(4a)に接合され、閉断面空間(3b)内の各バルクヘッド(6)は少なくともサイドシル(1)に接合され、
車両前後方向で間隔をおいて設けられる複数のバルクヘッド(6)が備える全隔壁部(60)のうち、一部の隔壁部(60)は、車両前後方向におけるフロアクロスメンバの幅内となる領域(x)に配され、残りの隔壁部(60)は、車両前後方向におけるフロアクロスメンバの幅外となる領域(y)に配されており、
領域(x)には2つ以上の隔壁部(60)が配され、車両前後方向において、領域(x)内で隣り合う2つの隔壁部(60)の間隔をw1、当該隔壁部(60)とこれと隣り合う隔壁部(60)との間隔をw2とした場合、w1<w2とすることを特徴とする自動車のサイドシル構造。
【0014】
[7]上記[6]のサイドシル構造において、断面溝形部材(4a)の横方向面部(41A),(41B)に車両幅方向に沿ってビード(64)が形成され、該ビード(64)内に、バルクヘッド(6)の隔壁部(60)に形成された接合用のフランジ部(62)が嵌め込まれていることを特徴とする自動車のサイドシル構造。
[8]上記[6]または[7]のサイドシル構造において、閉断面空間(5a)内のバルクヘッド(6)は、仕切部材(2)と相対する連結部(61)の上端および下端にそれぞれ板状延出部(63)が連設され、
断面溝形部材(4a)と仕切部材(2)との上下の各接合部では、両部材間に上下の板状延出部(63)が挟み込まれた状態で、両部材が接合されていることを特徴とする自動車のサイドシル構造。
[9]上記[6]~[8]のいずれかのサイドシル構造において、断面溝形部材(4a)の縦方向面部(40)と、これと相対するサイドシル(1)の縦方向面部(100)とが、(i)直に接合または当接している、(ii)他の部材を介して接合または当接している、(iii)接合または当接することなく、所定の間隙を空けて対向している、のいずれかであることを特徴とする自動車のサイドシル構造。
【0015】
[10]上記[1]~[9]のいずれかのサイドシル構造において、車両前後方向において、隣り合うバルクヘッド(6)どうしの間隔をw3とした場合、w1<w3とすることを特徴とする自動車のサイドシル構造。
[11]上記[10]のサイドシル構造において、w1、w2およびw3が、それぞれ254mm以下であり、さらに、領域(y)にバルクヘッド(6)が設けられる場合において、当該バルクヘッド(6)における隣り合う隔壁部(60)どうしの間隔をw4とした場合に、w4が254mm以下であることを特徴とする自動車のサイドシル構造。
[12]上記[1]~[11]のいずれかのサイドシル構造において、バルクヘッド(6)の隔壁部(60)と連結部(61)は、平面視で門型形状または角波形状に折り曲げ成形された金属板で構成されることを特徴とする自動車のサイドシル構造。
[13]上記[1]~[12]のいずれかのサイドシル構造において、仕切部材(2)と、これと相対するバルクヘッド(6)の連結部(61)とが、(i)直に接合または当接している、(ii)他の部材を介して接合または当接している、(iii)接合または当接することなく、所定の間隙を空けて対向している、のいずれかであることを特徴とする自動車のサイドシル構造。
【0016】
[14]上記[1]~[13]のいずれかのサイドシル構造において、バルクヘッド(6)の隔壁部(60)にビード(62)が形成されていることを特徴とする自動車のサイドシル構造。
[15]上記[1]~[14]のいずれかのサイドシル構造において、衝撃吸収構造体(A)に、サイドシル(1)の内面と相対して凹陥部(c)が形成されていることを特徴とする自動車のサイドシル構造。
[16]上記[1]~[15]のいずれかのサイドシル構造において、衝撃吸収構造体(A)を構成する金属板は、降伏強度がフロアクロスメンバを構成する金属板の降伏強度以下であることを特徴とする自動車のサイドシル構造。
[17]上記[1]~[16]のいずれかのサイドシル構造において、衝撃吸収構造体(A)を構成する金属板は、引張強度が780MPa級以上、または金属板の板厚1/4位置のビッカース硬さ(HV)が250以上であることを特徴とする自動車のサイドシル構造。
【0017】
[18]上記[1]~[17]のいずれかのサイドシル構造において、衝撃吸収構造体(A)を構成する金属板は、質量%で、
C:0.030%以上0.250%以下、
Si:0.01%以上2.50%以下、
Mn:1.00%以上3.50%未満、
P:0.001%以上0.100%以下、
S:0.0200%以下、
Al:0.010%以上2.000%以下
を含有する鋼板であることを特徴とする自動車のサイドシル構造。
[19]上記[1]~[18]のいずれかのサイドシル構造において、衝撃吸収構造体(A)を構成する金属板は、金属板の板厚1/4位置において、フェライトを面積率で0%以上65%以下、マルテンサイトと焼戻しマルテンサイトを面積率の合計で30%以上100%以下、残留オーステナイトを面積率で0%以上15%以下含む鋼組織を有することを特徴とする自動車のサイドシル構造。
【0018】
[20]上記[1]~[19]のいずれかのサイドシル構造において、衝撃吸収構造体(A)を構成する金属板は、引張試験における極限変形能が0.55以上であることを特徴とする自動車のサイドシル構造。
[21]上記[1]~[20]のいずれかのサイドシル構造において、衝撃吸収構造体(A)を構成する金属板は、90°V曲げ試験を行った際に亀裂が発生しない限界曲げ半径R(mm)と金属板の板厚t(mm)がR/t≦7.0を満足することを特徴とする自動車のサイドシル構造。
なお、本発明における「領域(x)には2つ以上の隔壁部(60)が配され、車両前後方向において、領域(x)内で隣り合う2つの隔壁部(60)の間隔をw1、当該隔壁部(60)とこれと隣り合う隔壁部(60)との間隔をw2とした場合、w1<w2とする」は、間隔w1を有する2つの隔壁部(60)や、間隔w2を有する隔壁部(60)と隔壁部(60)が、同じバルクヘッド(6)のものかどうかは問わない条件である。
【発明の効果】
【0019】
本発明のサイドシル構造は、サイドシル1内の閉断面空間3を縦通する仕切部材2を利用し、その閉断面空間3内に特定の構造の衝撃吸収構造体Aを設けたため、少ない衝突変形量で高い衝突エネルギー吸収特性が得られる。このため、電気自動車のように両サイドシル間にバッテリーモジュールを備えた自動車に適用した場合、エネルギー吸収に必要なスペースを小さくでき、バッテリーモジュールの体積を拡大できる利点がある。また、衝撃吸収構造体Aは、必要最小限の構成部材で高い曲げ剛性が得られるため、構成部材による車体の重量増加も抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1の形態のサイドシル構造の一実施形態を模式的に示すもので、サイドシルの車両幅方向での縦断面図
図2図1中のII-II線に沿う断面図
図3図1の実施形態において、サイドシルを含む車体側部の車両幅方向での縦断面図
図4】本発明の第1の形態のサイドシル構造の一実施形態の部品展開図
図5】自動車車体の両サイドシル間に配置されるフロアパネル、フロアクロスメンバ、バッテリーケースを展開して示す説明図
図6】本発明の第2の形態のサイドシル構造の一実施形態を模式的に示すもので、サイドシルの車両幅方向での縦断面図
図7図6中のVII-VII線に沿う断面図
図8】本発明のサイドシル構造を構成するバルクヘッドの形状例(平面形状)を模式的に示す説明図
図9】本発明におけるフロアクロスメンバの幅waを説明するための図面
図10】本発明の第1の形態のサイドシル構造におけるバルクヘッドの配置形態例を示す説明図
図11】本発明の第1の形態のサイドシル構造におけるバルクヘッドの他の配置形態例を示す説明図
図12】本発明の第1の形態のサイドシル構造におけるバルクヘッドの他の配置形態例を示す説明図
図13】本発明の第2の形態のサイドシル構造におけるバルクヘッドの配置形態例を示す説明図
図14】本発明の第1の形態のサイドシル構造の他の実施形態を模式的に示すもので、サイドシルの車両幅方向での縦断面図
図15】本発明の第1の形態のサイドシル構造の実施形態に関して、車両幅方向での衝撃吸収構造体Aの幅Weとサイドシル1の幅Wsを説明するための図面(サイドシルの断面図)
図16】本発明の第1の形態のサイドシル構造の他の実施形態を模式的に示すもので、サイドシルの車両幅方向での縦断面図
図17】本発明の第1の形態のサイドシル構造の他の実施形態を模式的に示すもので、サイドシルの車両幅方向での縦断面図
図18】本発明の第1の形態のサイドシル構造の他の実施形態において、車両アウタ側の断面溝形部材4aを外側から見た斜視図
図19図18の断面溝形部材4aにバルクヘッド6が組み付けられた状態を示すもので、図19(a)は断面溝形部材4aを車両幅方向で断面した状態で示す斜視図、図19(b)は断面溝形部材4aおよびバルクヘッド6の背面図
図20図18の断面溝形部材4aにバルクヘッド6が組み付けられた状態を示すもので、断面溝形部材4aおよびバルクヘッド6の斜視図および部分断面図
図21】本発明の第1の形態のサイドシル構造の他の実施形態を模式的に示すもので、サイドシルの車両幅方向での縦断面図
図22図21の実施形態に関して、衝撃吸収構造体Aのインナ側部分とアウタ側部分の車両高さ方向での高さ(厚さ)Hshort、Hlongを説明するための図面(サイドシルの断面図)
図23】本発明の第1の形態のサイドシル構造の他の実施形態を模式的に示すもので、サイドシルの車両幅方向での縦断面図
図24図23の実施形態に関して、衝撃吸収構造体Aのインナ側部分(またはアウタ側部分)の車両高さ方向での高さ(厚さ)Hと車両幅方向での幅W、インナ側部分(またはアウタ側部分)に形成される凹陥部cの車両高さ方向での高さhと車両幅方向での幅(深さ)wを説明するための図面(サイドシルの断面図)
図25】本発明のサイドシル構造の車両幅方向での縦断面において、側面ポール衝突時の変形の様子を模式的に示す説明図
図26】本発明の第1の形態のサイドシル構造が図25に示す側面ポール衝突で変形した際の衝突体(ポール)侵入量と吸収エネルギーとの関係を示すグラフ
図27】本発明の第2の形態のサイドシル構造が図25に示す側面ポール衝突で変形した際の衝突体(ポール)侵入量と吸収エネルギーとの関係を示すグラフ
図28】単一の隔壁部を備えたバルクヘッド6’を、閉断面空間5a,5b内に仕切部材2を挟んで車両幅方向で対向して(すなわち、車両前後方向で同じ位置に)設けた比較例のサイドシル構造を示す水平断面図
図29図28に示す比較例のサイドシル構造について、図25と同様の側面ポール衝突で変形した際の衝突体(ポール)侵入量と吸収エネルギーとの関係を示すグラフ
図30図28に示す比較例のサイドシル構造について、側面衝突があった際の変形挙動をシミュレーションした結果を示す図面
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1図3は、本発明の第1の形態のサイドシル構造の一実施形態を模式的に示すものである。図1はサイドシル構造の車両幅方向での縦断面図、図2図1中のII-II線に沿う断面図、図3はサイドシルを含む車体側部構造の車両幅方向での縦断面図である。また、図4は本発明の第1形態のサイドシル構造の部品展開図、図5は両サイドシル間に配置されるフロアパネル、フロアクロスメンバ、バッテリーケースを展開して示す説明図である。
また、図6および図7は、本発明の第2の形態のサイドシル構造の一実施形態を模式的に示すものであり、図6はサイドシル構造の車両幅方向での縦断面図、図7図6中のVII-VII線に沿う断面図である。
【0022】
<サイドシルおよびその周辺部の基本構造>
サイドシル1は、断面溝形形状のサイドシルアウタ1aとサイドシルインナ1bが間に仕切部材2を挟んだ状態で接合されることで構成されている。したがって、このサイドシル構造は、サイドシル1内の閉断面空間3を仕切部材2が縦通し、この仕切部材2により閉断面空間3が車両幅方向で2つの閉断面空間3a,3bに仕切られた構造となっている。このサイドシル構造の詳細については後述する。
ここで、図3に基づいて、サイドシルを含む自動車の車体下部構造について説明すると、サイドシル1は、車体下部両側に配置される骨格構造部材であり、両サイドシル1間にはフロアパネル7が配置される。このフロアパネル7は、その両フランジ部70を介して両サイドシル1(図3ではサイドシルインナ1bの縦方向面部100の上部)に接合される。さらに、フロアパネル7の上に車両幅方向に沿った骨格構造部材であるフロアクロスメンバ8が配置され、その両端がフロアパネル7(フランジ部70)を介して両サイドシル1(図3ではサイドシルインナ1bの縦方向面部100の上部)に接合(固定)される。フロアクロスメンバ8は、車両前後方向で所定の間隔(例えば300mm程度)をおいた複数箇所に設けられる。なお、上述したフロアパネル7やフロアクロスメンバ8とサイドサイドシル1との接合(固定)は、通常、スポット溶接で行われる。
【0023】
フロアパネル7の下方には、バッテリーパック10を収納したバッテリーケース9が配置され、このバッテリーケース9の側部(バッテリーケースサイドメンバ90)が、所定の間隔をおいてサイドシル1の下部(サイドシルインナ1bの縦方向面部100の下部)と相対している。バッテリーケース9の底部(バッテリーケース底板91)には、サイドシル側に突出するように取付用フランジ92が連設されている。この取付用フランジ92とサイドシル1の下端(サイドシルインナ1bの下側の横方向面部101B)を固定用ボルト11で締結することにより、バッテリーケース9がサイドシル1に保持されている。このような構造により、側面衝突時にサイドシル1に入力された荷重は、フロアクロスメンバ8とバッテリーケース9の両方に入力される。これによって、広い範囲で荷重を受け持つことが可能となるとともに、バッテリーケース9よりも先にフロアクロスメンバ8に入力され、バッテリーケース9に入力する荷重が低減されることになる。
【0024】
サイドシル1を構成するサイドシルアウタ1aとサイドシルインナ1bは、金属板を成形して構成されたものであり、それぞれ、縦方向面部100とその上下端に連成された横方向面部101A,101Bからなる断面溝形形状の本体部と、その両端(横方向面部101A,101Bの端部)に連成されたフランジ部102を備えている。なお、縦方向面部100は垂直状でなくてもよく、適当な傾斜や曲面を有していてもよい。また、横方向面部101A,101Bは水平状でなくてもよく、適当な傾斜や曲面を有していてもよい。
仕切部材2も金属板で構成され、完全な平板ではなく、平板を曲げ成形したものを用いてもよい。
【0025】
サイドシルアウタ1aとサイドシルインナ1bは、それらのフランジ部102どうしを重ね合わせて接合(通常、スポット溶接による接合)されることにより、内部が閉断面空間3となるサイドシル1が構成される。その場合、サイドシルアウタ1aとサイドシルインナ1bの間に仕切部材2を介在させ(挟み込み)、サイドシルアウタ1aとサイドシルインナ1bのフランジ部102が、それらの間に挟み込んだ仕切部材2の上下端部とともに接合される。これにより、仕切部材2はサイドシル1内の閉断面空間3を縦通し、この仕切部材2により閉断面空間3が車両幅方向で2つの閉断面空間3a,3bに仕切られる。
仕切部材2は、その上下端部がサイドシル本体の上下端(サイドシルアウタ1aとサイドシルインナ1bのフランジ部102)に接合されているため、側面衝突時にサイドシル1の断面が上下に開いて崩壊するのを抑制(断面崩壊の抑制)する高い耐力が得られ、衝突特性を高めるのに寄与する。
【0026】
<サイドシル構造が備える衝撃吸収構造体A>
以上のようなサイドシル構造において、本発明は、サイドシル1内の閉断面空間3を縦通する仕切部材2を利用し、その閉断面空間3内に特定の構造の衝撃吸収構造体Aを設けることを特徴とする。
まず、図1図4に示す本発明の第1の形態のサイドシル構造について説明する。このサイドシル構造は、「サイドシル1の閉断面空間3内において、仕切部材2を両側から挟んで接合される1対の断面溝形部材4a,4bと、これら断面溝形部材4a,4bと仕切部材2との間で形成される2つの閉断面空間5a,5b内に設置される特定の構造および配置形態の複数のバルクヘッド6とで構成され、それらが構造上一体化された衝撃吸収構造体A」を設けることが特徴である。これにより、少ない衝突変形量で高い衝突エネルギー吸収特性が得られるサイドシル構造とすることができる。しかも、衝撃吸収構造体Aは、必要最小限の構成部材(特に最小限のバルクヘッド設置数)で高い曲げ剛性が得られるため、構成部材による車体の重量増加も抑えることができる。
この衝撃吸収構造体Aは、車両前後方向においてサイドシルの少なくともバッテリーケースサイドメンバ90に沿った部分に設けられる。
【0027】
断面溝形部材4a,4bは、金属板を曲げ成形して構成されたものであり、それぞれ、縦方向面部40とその上下端に連成された横方向面部41A,41Bからなる断面溝形形状の本体部と、その両端(横方向面部41A,41Bの端部)に連成されたフランジ部42を備えている。断面溝形部材4a,4bは、縦方向面部40が側突荷重を受ける受圧面部、横方向面部41A,41Bが側突荷重により変形して衝突エネルギーを吸収するエネルギー吸収面部を構成する。なお、フランジ部42は、断面溝形部材4a,4bの長手方向の一部にのみ形成(例えば、所定の間隔で間欠的に形成)してもよい。
断面溝形部材4a,4bは、閉断面空間3a,3b内において車両前後方向(サイドシル長手方向)に沿って配置され、仕切部材2を両側から挟んだ状態で、それぞれのフランジ部42を介して仕切部材2に接合(通常、スポット溶接による接合)され、仕切部材2との間でそれぞれ閉断面空間5a,5bを形成する。
【0028】
バルクヘッド6は、各閉断面空間5a,5b内に車両幅方向に沿って設けられることで閉断面空間5a,5bを仕切る部材であり、閉断面空間5a,5b内の車両前後方向で間隔をおいた複数箇所に設けられている。このバルクヘッド6は、好ましくは閉断面空間5a,5bの車両幅方向の断面全体を仕切るようにして設けられる。
バルクヘッド6は、側面衝突時に仕切部材2と協働して断面溝形部材4a,4bの断面崩壊を抑えるとともに、バルクヘッド6自体が座屈して曲げ圧壊して、衝突エネルギーを吸収する。
各バルクヘッド6は、並列した複数の隔壁部60(バルクヘッド部)を備え、隣り合う隔壁部60の側端部間が連結部61で連結された構造を有する。本実施形態のバルクヘッド6は、並列した2つの隔壁部60の側端部間が連結部61で連結されることで、平面門型形状に構成されている。
【0029】
閉断面空間5a内のバルクヘッド6と閉断面空間5b内のバルクヘッド6は、少なくとも1つの連結部61どうしが仕切部材2を挟んで車両幅方向で対向するように、車両前後方向で同じ位置に仕切部材2を挟んで車両幅方向で対向して設けられる。本実施形態のバルクヘッド6は、仕切部材2側に位置する連結部61は1つだけであり、この連結部61どうしが仕切部材2を挟んで車両幅方向で対向するように、車両前後方向で同じ位置に(詳細には平面視で仕切部材2を対称軸として線対称に)設けられている。
これにより、衝撃吸収構造体Aのアウタ側部分とインナ側部分の断面形状を維持する機能が適切に発揮でき、高い衝突エネルギー吸収特性を得ることができる。また、サイドシルアウタ1aからの衝突荷重が、仕切部材2を挟んで車両幅方向で対向するバルクヘッド6からサイドシルアウタ1bを介してフロアクロスメンバ8およびバッテリーケースサイドメンバ90に伝わる荷重伝達経路が形成される。そして、フロアクロスメンバ8およびバッテリーケースサイドメンバ90からの反力により、サイドシル1および衝撃吸収構造体Aが圧壊することで、衝突エネルギーが吸収される。
【0030】
ここで、本発明において、単一の隔壁部を備えた複数のバルクヘッドではなく、「並列した複数の隔壁部60を備え、隣り合う隔壁部60の側端部間が連結部61で連結されたバルクヘッド6」を設ける理由について説明する。
図28(サイドシルの水平断面図)は、単一の隔壁部を備えた複数のバルクヘッド6’を、閉断面空間5a,5b内に仕切部材2を挟んで車両幅方向で対向して(すなわち、車両前後方向で同じ位置に)設けたサイドシル構造を示している。図30は、このようなサイドシル構造について、側面衝突があった際の変形挙動をシミュレーションしたものである。このシミュレーションの結果から、以下のような問題が明らかとなった。すなわち、側面衝突の変形初期の段階で、閉断面空間5a(車両アウタ側)内のバルクヘッド6’の外周縁のフランジ部62’と断面溝形部材4aとのスポット溶接部にせん断応力が発生する。このせん断応力でスポット溶接部から破断が生じると、図30に示すように、バルクヘッド6’(アウタ側)に、その仕切部材側の部分が左右(車両前後方向)に広がるような変形が生じる場合がある。このような変形(車体アウタ側のバルクヘッド6’が左右に逃げるような変形)が生じると、閉断面空間5a内のバルクヘッド6’と閉断面空間5b内のバルクヘッド6’に車両前後方向での位置ずれが生じる。これにより、閉断面空間5a,5b内のバルクヘッド6’が仕切部材2を挟んで車両幅方向で対向することにより形成される荷重伝達経路が損なわれてしまう。この結果、上記荷重伝達経路による荷重伝達量が低下し、衝突エネルギー吸収性能が低下してしまう。
【0031】
これに対して、本発明のように「並列した複数の隔壁部60を備え、隣り合う隔壁部60の側端部間が連結部61で連結されたバルクヘッド6」を設けた場合には、側面衝突の変形初期の段階において、図30に示すようなバルクヘッド6の変形(2つのバルクヘッド6の仕切部材側の部分が左右に広がるような変形)、すなわち、閉断面空間5a内のバルクヘッド6の隣り合う隔壁部60が左右(車両前後方向)に広がるような変形(逃げ)は生じない。これにより、閉断面空間5a,5b内のバルクヘッド6によるサイドシルアウタ1aからフロアクロスメンバ8およびバッテリーケースサイドメンバ90への衝突荷重の荷重伝達経路を維持できるため、サイドシル1および衝撃吸収構造体Aによる高い衝突エネルギー吸収性能を維持できる。
【0032】
各バルクヘッド6は、金属板を成形して構成されたものであり、その隔壁部60の外縁部が、少なくとも断面溝形部材4aまたは断面溝形部材4bに接合され、さらに好ましくは、連結部61(若しくは後述する板状延出部63)が仕切部材2にも接合される。本実施形態では、バルクヘッド6の隔壁部60の外縁部にフランジ部62が形成され、このフランジ部62を介して断面溝形部材4aまたは断面溝形部材4bに接合され、さらに連結部61が仕切部材2に接合されている。通常、この接合はスポット溶接でなされる。なお、フランジ部62は、隔壁部60の外縁部の一部にのみ形成(例えば、所定の間隔で間欠的に形成)してもよい。
バルクヘッド6は、閉断面空間5a,5b内の車両前後方向で等間隔に設けてもよいが、例えば、広い間隔と狭い間隔が交互になるよう設けてもよく、さらに、後述するように、車両前後方向の領域ごとに異なる間隔で設けるようにしてもよい。
【0033】
図8は、バルクヘッド6の形状例を示すもので、バルクヘッドの平面形状を模式的に示したものである。
図8(ア)は、図1図3の実施形態を構成するバルクヘッドであり、並列した2つの隔壁部60と、これらをその側端部間で連結する連結部61からなる平面門型形状に構成されている。このバルクヘッド6の隔壁部60と連結部61は、1枚の金属板を平面視で門型形状に折り曲げる曲げ成形することで構成される。
また、図8(イ)、(ウ)のバルクヘッド6は、並列した3つまたは4つの隔壁部60と、隣り合う隔壁部60をその側端部間で連結する連結部61からなる平面角波形状(矩形波形状)に構成されている。このバルクヘッド6の隔壁部60と連結部61は、1枚の金属板を平面視で角波形状(矩形波形状)に折り曲げる曲げ成形することで構成される。
また、図8(ア)~(ウ)のいずれの場合も、上記金属板の一部を折り曲げる曲げ成形することで隔壁部60の外縁部にフランジ部62が形成されている。
【0034】
本発明では、衝突特性を高めつつ、バルクヘッド6自体またはその隔壁部60の設置数を必要最小限に抑え、車体の重量軽減を図るために、車両前後方向で間隔をおいて設けられる複数のバルクヘッド6の隔壁部60を、以下のような条件で配置する。
本発明のサイドシル構造では、図2に示すように、車両前後方向で間隔をおいて設けられる複数のバルクヘッド6が備える全隔壁部60のうち、一部の隔壁部60は、車両前後方向におけるフロアクロスメンバ8の幅wa内となる領域xに配され、残りの隔壁部60は、車両前後方向におけるフロアクロスメンバ8の幅外となる領域yに配されていることになる。そこで、本発明では、フロアクロスメンバの幅wa内となる領域xには2つ以上の隔壁部60(本実施形態では2つの隔壁部60)を配する。さらに、車両前後方向において、領域x内で隣り合う2つの隔壁部60の間隔をw1、当該隔壁部60とこれと隣り合う隔壁部60(領域yに配される隔壁部60)との間隔をw2とした場合、w1<w2とする。なお、この条件では、間隔w1を有する2つの隔壁部60や、間隔w2を有する隔壁部60と隔壁部60が、同じバルクヘッド6のものかどうかは問わない。
ここで、間隔w1,w2は、図2に示すように、隔壁部60どうしの芯間での距離ではなく、隔壁部60どうしの相対する面間での距離である。
【0035】
このような隔壁部60の配置形態とするのは、フロアクロスメンバ8の幅wa内となる領域xでは、2箇所以上に隔壁部60を配して隔壁部60どうしの間隔を小さくすることにより衝突特性を高めるとともに、その隔壁部60とそれ以外の領域yの隔壁部60との間隔を大きくすることにより、隔壁部60(隔壁部60)の配置数を抑え、重量軽減を図るためである。
ここで、フロアクロスメンバ8の幅waとは、フロアクロスメンバ幅方向における両側壁間の部分の幅とすればよい。図9は、一般的なフロアクロスメンバ8の幅方向断面を模式的に示したものである。この図9のように両縁部にフランジ部を有するフロアクロスメンバ8の場合、フロアクロスメンバ8の幅waとは、フロアクロスメンバ幅方向において、両縁部のフランジ部分を除く部分の幅(骨格部材として機能する主要部の幅)、すなわちフランジ部分のRが始まる箇所間の幅とすればよい。
【0036】
以上のように、衝撃吸収構造体Aは、サイドシル1内の閉断面空間3内に仕切部材2を利用して設置されるものであって、仕切部材2を両側から挟んで接合された1対の断面溝形部材4a,4bと、この断面溝形部材4a,4b内の閉断面空間5a,5bに設置される特定の構造および配置形態のバルクヘッド6とが、仕切部材2とともに一体化した構造を有する。換言すると、車両前後方向で間隔をおいて配置される特定の構造および配置形態のバルクヘッド6を、仕切部材2を介して設けられる断面溝形部材4a,4bが内包し、これらが一体化した構造となる。これにより、バルクヘッド6の隔壁部60の配置数を必要最小限に抑えて重量増加を抑えつつ、後述するような高い衝撃エネルギー吸収特性が得られる。
【0037】
次に、図6および図7に示す本発明の第2の形態のサイドシル構造について説明する。このサイドシル構造は、「車両アウタ側の閉断面空間3a内において、仕切部材2に接合されて仕切部材2との間で閉断面空間5aを形成する断面溝形部材4aと、閉断面空間5および車両インナ側の閉断面空間3b内に設置される特定の構造および配置形態の複数のバルクヘッド6とで構成され、それらが構造上一体化された衝撃吸収構造体A」を設けることが特徴である。これにより、さきに説明した本発明の第1の形態のサイドシル構造と同様、少ない衝突変形量で高い衝突エネルギー吸収特性が得られるサイドシル構造とすることができる。しかも、衝撃吸収構造体Aは、必要最小限の構成部材(特に最小限のバルクヘッド設置数)で高い曲げ剛性が得られるため、構成部材による車体の重量増加も抑えることができる。
断面溝形部材4aの構成は、さきに説明した本発明の第1の形態のサイドシル構造と同様である。この断面溝形部材4aは、フランジ部42を介して仕切部材2に接合(通常、スポット溶接による接合)され、仕切部材2との間で閉断面空間5aを形成する。このサイドシル構造では、車両インナ側には断面溝形部材は設けない。
【0038】
バルクヘッド6は、車両アウタ側では閉断面空間5a内の車両前後方向で間隔をおいた複数箇所に設けられ、車両インナ側では閉断面空間3b内の車両前後方向で間隔をおいた複数箇所に設けられている。これらのバルクヘッド6は、車両幅方向に沿って設けられることで閉断面空間5aおよび閉断面空間3bを仕切る部材であり、好ましくは閉断面空間5aおよび閉断面空間3bの車両幅方向の断面全体を仕切るようにして設けられる。
バルクヘッド6は、側面衝突時に仕切部材2と協働して断面溝形部材4aおよびサイドシルインナ1bの断面崩壊を抑えるとともに、バルクヘッド6自体が座屈して曲げ圧壊して、衝突エネルギーを吸収する。
各バルクヘッド6の構成は、さきに説明した本発明の第1の形態のサイドシル構造と同様である。
【0039】
閉断面空間5a内のバルクヘッド6と閉断面空間3b内のバルクヘッド6は、少なくとも1つの連結部61どうしが仕切部材2を挟んで車両幅方向で対向するように、車両前後方向で同じ位置に仕切部材2を挟んで車両幅方向で対向して設けられる。本実施形態のバルクヘッド6は、仕切部材2側に位置する連結部61は1つだけであり、この連結部61どうしが仕切部材2を挟んで車両幅方向で対向するように、車両前後方向で同じ位置に設けられている。
これにより、衝撃吸収構造体Aのアウタ側部分とインナ側部分の断面形状を維持する機能が適切に発揮でき、高い衝突エネルギー吸収特性を得ることができる。また、サイドシルアウタ1aからの衝突荷重が、仕切部材2を挟んで車両幅方向で対向するバルクヘッド6からサイドシルアウタ1bを介してフロアクロスメンバ8およびバッテリーケースサイドメンバ90に伝わる荷重伝達経路が形成される。そして、フロアクロスメンバ8およびバッテリーケースサイドメンバ90からの反力により、サイドシル1および衝撃吸収構造体Aを圧壊させ、衝突エネルギーを吸収する。
【0040】
ここで、本発明において、単一の隔壁部を備えた複数のバルクヘッドではなく、「並列した複数の隔壁部60を備え、隣り合う隔壁部60の側端部間が連結部61で連結されたバルクヘッド6」を設ける理由は、さきに説明した本発明の第1の形態のサイドシル構造と同様である。
閉断面空間5a内のバルクヘッド6は、その隔壁部60の外縁部が少なくとも断面溝形部材4aに接合され、閉断面空間3b内のバルクヘッド6は、その隔壁部60の外縁部が少なくともサイドシルインナ1bに接合される。さらに好ましくは、各バルクヘッド6の連結部61(若しくは後述する板状延出部63)が仕切部材2にも接合される。本実施形態では、バルクヘッド6の隔壁部60の外縁部にフランジ部62が形成され、このフランジ部62を介して断面溝形部材4aまたはサイドシルインナ1bに接合され、さらに連結部61が仕切部材2に接合されている。
各バルクヘッド6の配置条件は、さきに説明した本発明の第1の形態のサイドシル構造と同様である。また、本実施形態のその他の構成も、さきに説明した本発明の第1形態のサイドシル構造と同様である。
【0041】
以上のように、衝撃吸収構造体Aは、サイドシル1内の閉断面空間3内に仕切部材2を利用して設置されるものであって、仕切部材2に接合されて仕切部材2との間で閉断面空間5aを形成する断面溝形部材4aと、その閉断面空間5aおよび車両インナ側の閉断面空間3bに設置される特定の構造および配置形態のバルクヘッド6とが、仕切部材2とともに一体化した構造を有する。換言すると、車両前後方向で間隔をおいて配置される特定の構造および配置形態のバルクヘッド6を、車両アウタ側では仕切部材2を介して設けられる断面溝形部材4aが内包し、車両インナ側ではサイドシルインナ1bが内包し、これらが一体化した構造となる。これにより、バルクヘッド6の隔壁部60の配置数を必要最小限に抑えて重量増加を抑えつつ、後述するような高い衝撃エネルギー吸収特性が得られる。
【0042】
<衝撃吸収構造体Aの機能・作用効果>
本発明の第1の形態のサイドシル構造が備える衝撃吸収構造体Aは、仕切部材2を両側から挟んで接合された断面溝形部材4a,4bと、この断面溝形部材4a,4b内部の閉断面空間5a,5bに設置される特定の構造および配置形態のバルクヘッド6とが、仕切部材2とともに一体化した構造を有する。換言すると、仕切部材2を介して設けられる断面溝形部材4a,4bが特定の構造および配置形態のバルクヘッド6を内包し、これらが一体化した構造を有する。このような構造により、衝撃吸収構造体A全体が高い曲げ剛性(側面衝突荷重に対する曲げ変形抵抗)を有し、このため側面衝突荷重の入力箇所周辺での局所的な変形が抑制され、側面衝突時に衝撃吸収構造体A全体を変形させることにより、衝突エネルギー吸収(EA)を高めることができる。
【0043】
側面衝突時には、サイドシルアウタ1aを介してアウタ側の断面溝形部材4aの縦方向面部40(受圧面部)が衝突荷重を受け、横方向面部41A(エネルギー吸収面部)がサイドシルアウタ1aの横方向面部101A(エネルギー吸収面部)とともに先に曲げ圧壊して衝突エネルギーを吸収する。その後、インナ側の断面溝形部材4bの横方向面部41B(エネルギー吸収面部)がサイドシルインナ1bの横方向面部101B(エネルギー吸収面部)とともに曲げ圧壊して衝突エネルギーを吸収する。その際に、断面溝形部材4a,4bと一体化したバルクヘッド6は、仕切部材2と協働して断面溝形部材4a,4bの断面崩壊を抑えるとともに、バルクヘッド6自体が座屈(軸圧壊)して衝突エネルギーを吸収する。さらに、断面溝形部材4a,4bと一体化した仕切部材2も曲げ変形して衝突エネルギーを吸収する。また、この衝撃吸収構造体Aでは、バルクヘッド6は仕切部材2を挟んで個別に設置される(すなわち、車両幅方向においてバルクヘッド6が仕切部材2で分割されている)ため、座屈波長が短くなり、バルクヘッド6の耐荷重を向上させることができる。
【0044】
さらに、そのバルクヘッド6として、「並列した複数の隔壁部60を備え、隣り合う隔壁部60の側端部間が連結部61で連結されたバルクヘッド6」を配置したことにより、次のような効果が得られる。すなわち、側面衝突の変形初期の段階において、図30に示すようなバルクヘッド6’の変形(2つのバルクヘッド6’の仕切部材側の部分が左右に広がるような変形)、すなわち、閉断面空間5a内のバルクヘッド6の隣り合う隔壁部60が左右(車両前後方向)に広がるような変形(逃げ)が生じない。このため、閉断面空間5a,5b内のバルクヘッド6によるサイドシルアウタ1aからフロアクロスメンバ8およびバッテリーケースサイドメンバ90への衝突荷重の荷重伝達経路を維持でき、サイドシル1および衝撃吸収構造体Aによる高い衝突エネルギー吸収性能を維持できる。
【0045】
一方において、フロアクロスメンバの幅wa内となる領域xに2つ以上の隔壁部60を配し、領域x内で隣り合う2つの隔壁部60の間隔w1と、当該隔壁部60とこれと隣り合う隔壁部60との間隔w2をw1<w2とすることにより、車体の重量軽減を図りつつ、衝突特性を高めることができる。すなわち、フロアクロスメンバ8の幅wa内となる領域xでは、2箇所以上に隔壁部60を配して隔壁部60どうしの間隔を小さくすることにより衝突特性を高めるとともに、その隔壁部60とそれ以外の領域yの隔壁部60との間隔を大きくすることにより、隔壁部60(隔壁部60)の配置数を抑え、車体の重量軽減を図ることができる。
【0046】
また、本発明の第2の形態のサイドシル構造が備える衝撃吸収構造体Aは、仕切部材2に接合されて仕切部材2との間に閉断面空間5aを形成する断面溝形部材4aと、その閉断面空間5aおよび車両インナ側の閉断面空間3bに設置される特定の構造および配置形態のバルクヘッド6とが、仕切部材2とともに一体化した構造を有する。換言すると、特定の構造および配置形態のバルクヘッド6を、車両アウタ側では仕切部材2を介して設けられる断面溝形部材4aが内包し、車両インナ側ではサイドシルインナ1bが内包し、これらが一体化した構造を有する。このような構造により、衝撃吸収構造体A全体が高い曲げ剛性(側面衝突荷重に対する曲げ変形抵抗)を有し、このため側面衝突荷重の入力箇所周辺での局所的な変形が抑制され、側面衝突時に衝撃吸収構造体A全体を変形させることにより、衝突エネルギー吸収(EA)を高めることができる。
【0047】
側面衝突時には、サイドシルアウタ1aを介してアウタ側の断面溝形部材4aの縦方向面部40(受圧面部)が衝突荷重を受け、横方向面部41A(エネルギー吸収面部)がサイドシルアウタ1aの横方向面部101A(エネルギー吸収面部)とともに先に曲げ圧壊して衝突エネルギーを吸収する。その後、サイドシルインナ1bの横方向面部101B(エネルギー吸収面部)が曲げ圧壊して衝突エネルギーを吸収する。その際に、断面溝形部材4aおよびサイドシルインナ1bと一体化したバルクヘッド6は、仕切部材2と協働して断面溝形部材4aおよびサイドシルインナ1bの断面崩壊を抑えるとともに、バルクヘッド6自体が座屈(軸圧壊)して衝突エネルギーを吸収する。さらに、断面溝形部材4aおよびサイドシルインナ1bと一体化した仕切部材2も曲げ変形して衝突エネルギーを吸収する。また、この衝撃吸収構造体Aでは、バルクヘッド6は仕切部材2を挟んで個別に設置される(すなわち、車両幅方向においてバルクヘッド6が仕切部材2で分割されている)ため、座屈波長が短くなり、バルクヘッド6の耐荷重を向上させることができる。
さらに、そのバルクヘッド6として、「並列した複数の隔壁部60を備え、隣り合う隔壁部60の側端部間が連結部61で連結されたバルクヘッド6」を配置したことにより、さきに説明した本発明の第1の形態のサイドシル構造と同様の効果が得られる。
【0048】
<衝撃吸収構造体Aの好ましい条件および他の実施形態>
以下、衝撃吸収構造体Aの好ましい条件および他の実施形態を、主に本発明の第1の形態のサイドシル構造を例に説明するが、これらは、基本的には本発明の第2の形態のサイドシル構造にも適用可能な条件および実施形態である。例えば、本発明の第1の形態のサイドシル構造の断面溝形部材4a,4b、閉断面空間5a,5b、それらの内部に配置されるバルクヘッド6に関するものであれば、その断面溝形部材4a、閉断面空間5aおよびその内部のバルクヘッド6の構成は、本発明の第2の形態のサイドシル構造に適用可能である。したがって、以下に説明する好ましい条件および実施形態は、特に断りがない限り、本発明の第1および第2の形態のサイドシル構造に共通のものである。
衝突特性を確保しつつ、バルクヘッド6(隔壁部60)の設置数を少なくし、車体の重量軽減を図るため、バルクヘッド6の設置条件や隔壁部60の配置条件は、以下のようにすることが好ましい。すなわち、車両前後方向で隣り合うバルクヘッド6どうしの間隔をw3とした場合、その間隔w3についても、w1<w3とすることが好ましい。この条件は、バルクヘッド6の設置領域(領域x,y)は問わない。また、領域yにバルクヘッド6が設けられる場合において、当該バルクヘッド6における隣り合う隔壁部60どうしの間隔をw4とした場合に、その間隔w4はw1≦w4とすることが好ましい。
ここで、間隔w3,w4は、図2に示すように、バルクヘッド6や隔壁部60どうしの芯間での距離ではなく、バルクヘッド6や隔壁部60どうしの相対する面間での距離である。
【0049】
間隔w1は、側面衝突時の衝撃吸収構造体Aの曲げ剛性を確保するために、254mm以下とすることが好ましい。一方、間隔w2~w4は、衝撃吸収構造体Aの軽量化の観点からは広いほどよいが、側面衝突時の衝撃吸収構造体Aの曲げ剛性を確保するために、これらについても254mm以下とすることが好ましい。この254mmは、側面衝突試験(Euro NCAPで規定する側面ポール衝突試験)で使用する衝突体(ポール)の直径である。間隔w1~w4をこの試験の衝突体(ポール)の直径以下とすることにより、側面衝突時の衝撃吸収構造体Aの曲げ剛性をより適切に確保することができる。
【0050】
また、同様の観点から、間隔w2,w3は、フロアクロスメンバ8の設置間隔(隣り合うフロアクロスメンバ8どうしの間隔wb)の1/4~1/2程度とするのが好ましい。例えば、フロアクロスメンバ8の設置間隔wbが260mmの場合、間隔w2,w3は65mm~130mm程度とするのが好ましい。また、衝撃吸収構造体Aの軽量化の観点から、間隔w2,w3は50mm以上とするのが好ましい。
また、間隔w1が過度に小さいと、フロアクロスメンバ8の幅wa内での衝突特性を高める効果が低下したり、隔壁部60の設置数がいたずらに増加したりすることにつながるので好ましくない。このため隔壁部60は、間隔w1とフロアクロスメンバ8の幅waとの比w1/waが0.4以上1.0以下となるように配置することが好ましい。
【0051】
図10図12は、本発明の第1の形態のサイドシル構造において、車両前後方向におけるバルクヘッド6の配置形態例を示したものである。バルクヘッド6は、車両前後方向で間隔をおいた複数箇所に設けられている。これらバルクヘッド6が備える全隔壁部60は、車両前後方向におけるフロアクロスメンバ8の幅wa内となる領域xに配される隔壁部60と、それ以外の領域y(フロアクロスメンバ8の幅外となる領域)に配される隔壁部60からなる。そして、領域xには2つ以上の隔壁部60が配されている。
図10(ア)~(ウ)は、図8(ア)に示す「2つの並列した隔壁部60を備えた平面門型形状のバルクヘッド6」を領域x,yにそれぞれ配置したものである。
このうち、図10(ア)は、領域xに1つのバルクヘッド6が配置されることで2つの隔壁部60が配されている。領域yには1つのバルクヘッド6(したがって2つの隔壁部60)が配置されている。この配置例は、w1<w2の条件に加えて、w1<w3、w1≦w4を満足している。
【0052】
図10(イ)も、領域xに1つのバルクヘッド6が配置されることで2つの隔壁部60が配されている。フロアクロスメンバ8間での衝撃吸収構造体Aの曲げ剛性をより高めるために、領域yには2つのバルクヘッド6(したがって4つの隔壁部60)が配置されている。この配置例も、w1<w2の条件に加えて、w1<w3、w1≦w4を満足している。
図10(ウ)も、領域xに1つのバルクヘッド6が配置されることで2つの隔壁部60が配されている。フロアクロスメンバ8間での衝撃吸収構造体Aの曲げ剛性をさらに高めるために、領域yに3つのバルクヘッド6(したがって6つの隔壁部60)が配置されている。この配置例も、w1<w2の条件に加えて、w1<w3、w1≦w4を満足している。
【0053】
図11(ア)~(ウ)は、図8(イ)に示す「3つの並列した隔壁部60を備えた平面角波形状のバルクヘッド6」を領域x,yにそれぞれ配置したものである。
このうち、図11(ア)は、領域xに1つのバルクヘッド6が配置されることで3つの隔壁部60が配されている。領域yには1つのバルクヘッド6(したがって3つの隔壁部60)が配置されている。この配置例は、w1<w2の条件に加えて、w1<w3、w1≦w4を満足している。
図11(イ)も、領域xに1つのバルクヘッド6が配置されることで3つの隔壁部60が配されている。フロアクロスメンバ8間での衝撃吸収構造体Aの曲げ剛性をより高めるために、領域yには2つのバルクヘッド6(したがって6つの隔壁部60)が配置されている。この配置例も、w1<w2の条件に加えて、w1<w3、w1≦w4を満足している。
図11(ウ)も、領域xに1つのバルクヘッド6が配置されることで3つの隔壁部60が配されている。フロアクロスメンバ8間での衝撃吸収構造体Aの曲げ剛性をさらに高めるために、領域yには3つのバルクヘッド6(したがって9つの隔壁部60)が配置されている。この配置例も、w1<w2の条件に加えて、w1<w3、w1≦w4を満足している。
【0054】
図12(ア)~(ウ)も、図8(イ)に示す「3つの並列した隔壁部60を備えた平面角波形状のバルクヘッド6」を領域x,yにそれぞれ配置したものであるが、一部のバルクヘッド6が領域xと領域yに跨るように配置されている。このため、当該バルクヘッド6が備える隔壁部60の一部が隔壁部60を構成し、残りが隔壁部60を構成している。
このうち、図12(ア)は、領域xと領域yに跨って1つのバルクヘッド6が配置され、このバルクヘッド6により領域xに2つの隔壁部60が配され、領域yに1つの隔壁部60が配された形になっている。一方、領域yにはバルクヘッド6は配置されておらず、その領域yを挟んで隣り合う2つの領域xに、上記のようなバルクヘッド6がそれぞれ配置されることで、領域yには2つの隔壁部60が配された形になっている。この配置例は、w1<w2の条件に加えて、w1<w3を満足している。
【0055】
図12(イ)も、領域xと領域yに跨って1つのバルクヘッド6が配置され、このバルクヘッド6により領域xに2つの隔壁部60が配され、領域yに1つの隔壁部60が配される形になっている。フロアクロスメンバ8間での衝撃吸収構造体Aの曲げ剛性をより高めるために、2つの領域x間の領域yには、さらに1つのバルクヘッド6が配置されている。したがって、同領域yには合計4つの隔壁部60が配された形になっている。この配置例も、w1<w2の条件に加えて、w1<w3、w1≦w4を満足している。
図12(ウ)も、領域xと領域yに跨って1つのバルクヘッド6が配置され、このバルクヘッド6により領域xに2つの隔壁部60が配され、領域yに1つの隔壁部60が配される形になっている。ただし、そのバルクヘッド6は、領域xとその外側の領域yに跨って配置されており、2つの領域x間の領域yには2つのバルクヘッド6が配置されている。したがって、同領域yには6つの隔壁部60が配されていることになる。この配置例も、w1<w2の条件に加えて、w1<w3、w1≦w4を満足している。
【0056】
なお、以上述べたようなバルクヘッド6の配置形態は、全部のバルクヘッド6を対象としてもよいし、一部のバルクヘッド6のみを対象としてもよい。また、適宜組み合わせて実施してもよい。
図10図12の配置形態例は、そのまま、本発明の第2の形態のサイドシル構造にも適用できるが、その適用例の1つを図13に示す。図13は、本発明の第2の形態のサイドシル構造において、車両前後方向におけるバルクヘッド6の配置形態例を示したものである。図13は、図8(ア)に示す「2つの並列した隔壁部60を備えた平面門型形状のバルクヘッド6」を領域x,yにそれぞれ配置したものであり、領域xに1つのバルクヘッド6が配置されることで2つの隔壁部60が配されている。領域yには2つのバルクヘッド6(したがって4つの隔壁部60)が配置されている。この配置例は、w1<w2の条件に加えて、w1<w3、w1≦w4を満足している。
【0057】
本発明のサイドシル構造において、断面溝形部材4a,4b(縦方向面部40)は、図1に示すようにサイドシルアウタ1a,サイドシルインナ1b(縦方向面部100)との間で適当な間隔(スペース)を有していてもよいし、主に振動を防止するためにサイドシルアウタ1a,サイドシルインナ1b(縦方向面部100)の内側面に当接または接合されてもよい。したがって、具体的な態様としては、断面溝形部材4a,4b(縦方向面部40)とサイドシルアウタ1a,サイドシルインナ1b(縦方向面部100)とが、(i)直に接合または当接している、(ii)他の部材(例えば、振動を減衰させる防振部材)を介して接合または当接している、(iii)接合または当接することなく、所定の間隙を空けて対向している、などが挙げられる。また、衝突初期からフロアクロスメンバに側面衝突荷重が伝達されるようにすることで衝撃吸収性能が向上するので、構造上、衝撃吸収構造体A(EA部材)の幅がサイドシル全幅に近いほど衝撃吸収性能は高くなる。したがって、この点からは上記(i)または(ii)の構造が好ましい。
【0058】
図14は、上記(i)、(ii)の構造とする場合の実施形態を模式的に示すものであり、サイドシルの車両幅方向での縦断面図である。図14(ア)は、断面溝形部材4aと断面溝形部材4bの各縦方向面部40がサイドシルアウタ1aとサイドシルインナ1bの各縦方向面部100の内側面に溶接(通常、スポット溶接)で接合された例(図中、12が接合部)を示している。また、図14(イ)は、断面溝形部材4aと断面溝形部材4bの各縦方向面部40がサイドシルアウタ1aとサイドシルインナ1bの各縦方向面部100の内側面に接着剤13(接着剤層)で接合された例を示している。このように接着剤13で接着する場合、接着剤は接合面の一部のみに塗布するようにしてもよい。この接着剤13(接着剤層)は振動を減衰させる防振部材として機能させてもよい。
【0059】
上記(iii)の構造の場合、断面溝形部材4a,4b(縦方向面部40)とサイドシルアウタ1a,サイドシルインナ1b(縦方向面部100)との間隔が狭すぎると、走行時の振動により両部材が接触し、騒音やさらなる振動が問題となることがあるので、両部材は、走行時の振動により接触しないような間隙を空けて対向することが好ましい。一方において、上述したように衝撃吸収構造体A(EA部材)の幅がサイドシル全幅に近いほど衝撃吸収性能は高くなるので、車両幅方向での衝撃吸収構造体Aの幅We(両断面溝形部材4a,4bの縦方向面部40間の間隔)は、サイドシル1の幅Ws(サイドシルアウタ1a,サイドシルインナ1bの縦方向面部100間の間隔)の60%以上とするのが好ましい。図15に衝撃吸収構造体Aの幅Weとサイドシル1の幅Wsを示す。ここで、衝撃吸収構造体Aの幅Weやサイドシル1の幅Wsが車両高さ方向での位置によって異なる場合には、最も幅が広い高さ位置での幅をWs、Weとする。
なお、断面溝形部材4aと断面溝形部材4bの各横方向面部41A,41Bとサイドシル1(サイドシルアウタ1aとサイドシルインナ1bの各横方向面部101A,101B)の間隔(スペース)は、縦方向面部40とフロアクロスメンバ8およびバッテリーケース9との高さ方向の重なり代を調整し、フロアクロスメンバ8とバッテリーケース9に入力する荷重が適当なバランスとなるように、調整すればよい。
【0060】
また、バルクヘッド6の隔壁部60には、その座屈耐力(剛性)を高めるため、或いは座屈耐力(剛性)を低くするためにビード64を設けてもよい。
図16は、その場合の実施形態を模式的に示すものであり、サイドシルの車両幅方向での縦断面図である。図16(ア)は、座屈耐力を高くするためにバルクヘッド6の隔壁部60に車両幅方向に沿ったビード64を設けたものである。一方、図16(イ)は、逆に座屈耐力を低くするために、バルクヘッド6の隔壁部60に上下方向に沿ったビード64(クラッシュビード)を設けたものである。この図16(イ)のようなビード64を設ける理由については後述する。
バルクヘッド6は、衝突時におけるバルクヘッド6の位置ずれ(車両前後方向で位置ずれ)を抑止するための手段を備えることができる。図17は、バルクヘッド6がそのような手段を備える場合の実施形態を模式的に示すものであり、サイドシルの車両幅方向での縦断面図である。なお、後述する図18図20の実施形態も同様の手段を備えている。
このバルクヘッド6は、仕切部材2と相対する連結部61の上端および下端にそれぞれ板状延出部63が連設されている。そして、断面溝形部材4a,4bと仕切部材2との上下の各接合部では、両部材間に上下の板状延出部63が挟み込まれた状態で、両部材が接合されている。本実施形態では、断面溝形状部材4a,4bの各上下のフランジ部42に、板状延出部63を嵌め込むための溝状の凹部44が上下方向に沿って形成されている(図17および後述する図18図20の実施形態を参照)。板状延出部63は、この溝状の凹部44に嵌め込まれることで断面溝形状部材4a,4b(フランジ部42)と重ねられ、その重ねられた部分(フランジ部42の凹部44と板状延出部63)がスポット溶接で接合されている。このように上下のフランジ部42に形成された溝状の凹部44に板状延出部63が嵌め込まれて接合された断面溝形状部材4a,4bは、各上下のフランジ部42が仕切部材2と重ねられ、このフランジ部42を介して仕切部材2に接合されている。具体的には、重ね合わされた断面溝形部材4aのフランジ部42、断面溝形部材4bのフランジ部42および仕切部材2の3つの部材が、板状延出部63を挟み込んでいない部位においてスポット溶接で接合されている。以上のような構造とすることにより、バルクヘッド6の位置ずれを特に効果的に抑止できるとともに、部材どうしをスポット溶接で確実に接合することができる。
【0061】
断面溝形部材4aと断面溝形部材4bの各横方向面部41A,41Bには、座屈耐力を高くするために車両幅方向に沿ってビード43を形成することができる。
図18図20は、その場合の実施形態を模式的に示すものであり、図18は、ビード43が形成された車両アウタ側の断面溝形部材4a(4b)を外側から見た斜視図である(なお、カッコ付きの符号で示すように、断面溝形部材4bと車体インナ側のバルクヘッド6につても、同様の構造とすることができる。)。図19および図20は、その断面溝形部材4a(4b)にバルクヘッド6が組み付けられた状態を示すものである。このうち、図19(a)は断面溝形部材4a(4b)を車両幅方向で断面した状態で示す斜視図、図19(b)は断面溝形部材4a(4b)およびバルクヘッド6の背面図、図20は同じく斜視図および部分断面図である。
断面溝形部材4a(4b)の横方向面部41A(41B)には、車両幅方向に沿ったビード43(横方向面部41A(41B)の内側に形成される溝)が、車両前後方向で適宜間隔をおいた複数箇所に形成されている。これにより、断面溝形部材4a(4b)の座屈耐力を高くすることができる。また、本実施形態では、隣り合う2つのビード43にバルクヘッド6の隔壁部60に形成された接合用のフランジ部62が嵌め込まれており、これにより、衝突時におけるバルクヘッド6の位置ずれ(車両前後方向で位置ずれ)が抑止されるようにしてある。本実施形態では、バルクヘッド6の連結部61の上下端の板状延出部63が、断面溝形部材4a(4b)と仕切部材2(図示せず)との上下の各接合部において、両部材間に挟み込まれて接合されている。したがって、この構成と相まって、衝突時のバルクヘッド6の位置ずれが特に効果的に抑止される。
【0062】
さきに説明した図1などの実施形態では、衝撃吸収構造体Aのアウタ側部分(断面溝形部材4a)とインナ側部分(断面溝形部材4b)は、車両高さ方向においてほぼ同じ高さ(厚さ)を有し、仕切部材2を挟んで相対している。特にそれらの実施形態では、衝撃吸収構造体Aのインナ側部分とアウタ側部分は、車両幅方向において仕切部材2を挟んでほぼ対称な形状をしている。これに対して、衝撃吸収構造体Aを、インナ側部分とアウタ側部分のうちの一方が他方よりも車両高さ方向に延在した構造(すなわち車両高さ方向に長く形成した構造)とすることができる。この場合、インナ側部分またはアウタ側部分が延在するのは、車両高さ方向の下方向でもよいし、上方向でもよい。また、下方向と上方向の両方に延在するものであってもよい。ここで、そのように延在した部分を「部分e」という。仕切部材2を挟んで部分eと相対する部分には、衝撃吸収構造体Aが占めない空間部sが形成される。
【0063】
図21は、そのような構造を有する本発明のサイドシル構造の実施形態を模式的に示すもので、サイドシルの車両幅方向での縦断面図である。
図21(a)の実施形態は、衝撃吸収構造体Aの下部を、アウタ側部分がインナ側部分よりも下方向に延在した構造(すなわち下方向に長く形成した構造)としたものである。
衝撃吸収構造体Aの上部は、アウタ側部分とインナ側部分が仕切部材2を挟んで相対している。一方、衝撃吸収構造体Aの下部は、アウタ側部分がインナ側部分よりも下方向に延在し、部分eを構成している。そして、仕切部材2を挟んで部分eと相対するインナ側部分には、衝撃吸収構造体Aが占めない空間部s(閉断面空間3b内の空間部)が形成されている。
【0064】
図21(b)の実施形態は、衝撃吸収構造体Aの下部を、インナ側部分がアウタ側部分よりも下方向に延在した構造(すなわち下方向に長く形成した構造)としたものである。
図21(a)の実施形態と同様、衝撃吸収構造体Aの上部は、アウタ側部分とインナ側部分が仕切部材2を挟んで相対している。一方、衝撃吸収構造体Aの下部は、インナ側部分がアウタ側部分よりも下方向に延在し、部分eを構成している。そして、仕切部材2を挟んで部分eと相対するアウタ側部分には、衝撃吸収構造体Aが占めない空間部s(閉断面空間3a内の空間部)が形成されている。
【0065】
図21に示すような衝撃吸収構造体Aの構造では、空間部s周辺の構造による座屈誘発効果によって衝突エネルギー吸収性能が確保されるため、衝撃吸収構造体Aの衝突エネルギー吸収性能を図1の構造よりも低下させることなく、空間部sの分だけ衝撃吸収構造体A(インナ側部分またはアウタ側部分)を軽量化することができる。より具体的に説明すると、例えば、図21(a)の場合には、衝撃吸収構造体Aのインナ側部分における「断面溝形部材4bの下側の横方向面部41Bとフランジ部42とで形成されるコーナーR部f」および「このコーナーR部fに接するバルクヘッド6の角部」が、仕切部材2を介してアウタ側部分のバルクヘッド6に当接している。このため、側面衝突時には、アウタ側部分のバルクヘッド6の当該当接部周辺からも座屈が誘発されるので(座屈誘発効果)、図21(a)のような構造の衝撃吸収構造体Aであっても、図1の構造よりも衝突エネルギー吸収性能が低くなることはない。一方において、空間部sの分だけ衝撃吸収構造体A(インナ側部分)を軽量化することができる。また、図21(b)の場合も同様であり、衝撃吸収構造体Aのアウタ側部分における「断面溝形部材4aの下側の横方向面部41Aとフランジ部42とで形成されるコーナーR部f」および「このコーナーR部fに接するバルクヘッド6の角部」が、仕切部材2を介してインナ側部分のバルクヘッド6に当接している。このため、側面衝突時には、インナ側部分のバルクヘッド6の当該当接部周辺からも座屈が誘発されるので、図21(b)のような構造の衝撃吸収構造体Aであっても、図1の構造よりも衝突エネルギー吸収性能が低くなることはない。一方において、空間部sの分だけ衝撃吸収構造体A(アウタ側部分)を軽量化することができる。以上のような作用効果は、図21の実施形態に限らず、衝撃吸収構造体Aが部分eを有するサイドシル構造であれば、当然に得られる。
【0066】
ここで、図21のような衝撃吸収構造体Aの構造において、アウタ側部分(断面溝形部材4a)とインナ側部分(断面溝形部材4b)のうち高さが小さい方の部分、例えば図21(a)におけるインナ側部分の高さを小さくし過ぎると、側面衝突時に閉断面空間5b内のバルクヘッド6の面剛性が低下し、衝撃吸収構造体Aのインナ側部分の断面形状を維持する機能が低下するので、衝突エネルギー吸収性能が低下する。このため、図22に示す「高さが小さい方の部分」の高さHshortは、下方向に延在した部分eを有する「高さが大きい方の部分」の高さHlongに対して過度に小さくしない方がよく、具体的には、HshortはHlongの40%以上、望ましくは50%以上程度の大きさとするのが好ましい。一方、アウタ側部分(断面溝形部材4a)とインナ側部分(断面溝形部材4b)の高さの差(HshortとHlongの差)が小さ過ぎると、上述したようなバルクヘッド6の座屈誘発効果が相対的に低下する。つまり、図21のような衝撃吸収構造体Aの構造とすることによる座屈誘発効果と軽量化効果が相対的に低下することになる。このため、その効果を十分に享受するには、図22に示す「高さが小さい方の部分」の高さHshortと「高さが大きい方の部分」の高さHlongの差を過度に小さくしない方がよく、具体的には、HshortはHlongの80%以下、望ましくは65%以下程度の大きさとするのが好ましい。ここで、図22に示すように、衝撃吸収構造体Aのアウタ側部分(断面溝形部材4a)やインナ側部分(断面溝形部材4b)の高さが、車両幅方向での位置によって異なる場合には、最も高さが大きい位置での高さを「高さが小さい方の部分」の高さHshort、「高さが大きい方の部分」の高さHlongとする。
【0067】
また、本発明のサイドシル構造を、図3に示すような車体下部構造、すなわち、「車体下部両側に車両長手方向に沿って配置されるサイドシル1と、両サイドシル1間に配置され、両側部が両サイドシル1の上部に固定される(直接またはフロアパネルなどを介して固定される)フロアクロスメンバ8と、このフロアクロスメンバ8の下方に配置され、両側部が両サイドシル1の下部と相対するバッテリーケース9などを備えた車体下部構造」に適用する場合には、衝突エネルギー吸収性能の確保に加えて、バッテリーケースへの入力荷重の軽減効果を得るという観点から、図21の実施形態のように、衝撃吸収構造体Aの下部を、インナ側部分とアウタ側部分のうちの一方が他方よりも下方向に延在した構造(すなわち下方向に長く形成した構造)とすることが好ましい。この場合、衝撃吸収構造体Aの上部は、アウタ側部分とインナ側部分が仕切部材2を挟んで相対するとともに、車両幅方向においてフロアクロスメンバ8(少なくともフロアクロスメンバ8の厚さ方向の一部分)の水平延長上に位置する。一方、下方向に延在した部分eは、車両幅方向においてバッテリーケース9(少なくともバッテリーケース9の高さ方向の一部分)の水平延長上に位置する。
【0068】
図21の実施形態のサイドシル構造が図3に示すような車体下部構造に適用された場合には、車両幅方向の車外側からサイドシル1に衝突荷重が入力する側面衝突時において、以下のような作用効果(バッテリーケースへの入力荷重の軽減効果)が得られる。衝撃吸収構造体Aの下部は、そのアウタ側部分とバッテリーケースサイドメンバ90との間の車両幅方向の並びに空間部sが設けられている(すなわち、車両幅方向において、バッテリーケースサイドメンバ90の水平延長上に空間部sと衝撃吸収構造体Aのアウタ側部分の下部が位置している)ので、バッテリーケースサイドメンバ90に生じる接触反力の立ち上がりを遅くできる。一方、衝撃吸収構造体Aの上部は、インナ側部分とアウタ側部分が仕切部材2を挟んで相対するとともに、サイドシル1を介してフロアクロスメンバ8と車両幅方向に並んでいる(すなわち、車両幅方向においてフロアクロスメンバ8の水平延長上に位置している)ので、サイドシル1に入力した衝突荷重をフロアクロスメンバ8に直接伝達する荷重伝達経路が形成され、フロアサイドメンバ8に生じる接触反力が早く立ち上がる。そして、フロアサイドメンバ8に生じる接触反力により、車両幅方向においてサイドシル1を介してフロアクロスメンバ8の水平延長上に位置する衝撃吸収構造体Aの上部側、特にアウタ側部分が最初に効率よく潰れて、側面衝突荷重を吸収する。その後、側面衝突が進行してサイドシル1(衝撃吸収構造体Aの上部側)が変形した後に、バッテリーケースサイドメンバ90に生じる接触反力が上昇し始めるので、バッテリーケース9に入力するピーク荷重が軽減され、バッテリーケース9の変形も抑制することができる。
【0069】
さきに説明した図1などの実施形態では、衝撃吸収構造体Aのアウタ側部分(断面溝形部材4a)とインナ側部分(断面溝形部材4b)は、車両幅方向での断面形状が四角形状(台形状など)であり、仕切部材2を挟んで相対している。特にそれらの実施形態では、衝撃吸収構造体Aのインナ側部分とアウタ側部分は、車両幅方向において仕切部材2を挟んでほぼ対称な形状をしている。これに対して、衝撃吸収構造体Aに、サイドシル1(サイドシルインナ1bまたはサイドシルアウタ1a)の内面と相対して凹陥部cが形成された構造とすることができる。この場合、衝撃吸収構造体Aとサイドシル1との間に車両幅方向で空間(凹陥部cによる空間)が確保される。
【0070】
凹陥部cは、サイドシル1(サイドシルインナ1bまたはサイドシルアウタ1a)の内面と相対して形成すればよいので、衝撃吸収構造体Aのインナ側部分とアウタ側部分のいずれに設けてもよく、また、インナ側部分とアウタ側部分の両方に設けてもよい。また、衝撃吸収構造体Aの高さ方向における凹陥部cの形成位置も任意であり、基本的に制限はないが、例えば、衝撃吸収構造体Aの高さ方向における下部領域に形成することができる。また、凹陥部cは、衝撃吸収構造体Aの高さ方向における下部領域だけでなく、それよりも上の領域を含むように形成する(すなわち、衝撃吸収構造体Aの高さ方向で下部を含む領域に形成する)こともできる。
【0071】
図23は、衝撃吸収構造体Aに凹陥部cが形成された本発明のサイドシル構造の実施形態を模式的に示すもので、サイドシルの車両幅方向での縦断面図である。
図23の実施形態は、衝撃吸収構造体Aのインナ側部分の下部領域に、サイドシル1(サイドシルインナ1b)の内面と相対して凹陥部cを形成したものである。この凹陥部cは、閉断面空間3b内において衝撃吸収構造体Aとサイドシル1(サイドシルインナ1b)間に車両幅方向で空間(凹陥部cによる空間)が確保されるように、サイドシルインナ1b(縦方向面部100および下側の横方向面部101B)に面した衝撃吸収構造体Aのインナ側部分(断面溝形部材4b)の下部領域を段状に凹陥させることで形成されている。すなわち、この凹陥部cは、衝撃吸収構造体Aのインナ側部分の下部領域において、サイドシルインナ1bの縦方向面部100および下側の横方向面部101Bに面して形成されている。なお、凹陥部cは、衝撃吸収構造体Aの下部領域と、それよりも上の領域を含むように形成する(すなわち、衝撃吸収構造体Aの高さ方向で下部を含む領域に形成する)こともできる。
図21の実施形態と同様、衝撃吸収構造体Aの上部は、アウタ側部分とインナ側部分が仕切部材2を挟んで相対している。
インナ側部分のバルクヘッド6は、凹陥部cが形成されたインナ側部分(断面溝形部材4b)の断面形状に合わせた形状に構成されている。
【0072】
凹陥部cは、衝撃吸収構造体Aのアウタ側部分の高さ方向における下部領域または下部を含む領域に、サイドシル1(サイドシルアウタ1a)の内面と相対して形成してもよい。例えば、図23に準じた形態の凹陥部cを衝撃吸収構造体Aのアウタ側部分の下部領域に形成する場合、凹陥部cは、閉断面空間3a内において衝撃吸収構造体Aとサイドシル1(サイドシルアウタ1a)間に車両幅方向で空間(凹陥部cによる空間)が確保されるように、サイドシルアウタ1a(縦方向面部100および下側の横方向面部101A)に面した衝撃吸収構造体Aのアウタ側部分(断面溝形部材4a)の下部領域を段状に凹陥させることで形成される。すなわち、この凹陥部cは、衝撃吸収構造体Aのアウタ側部分の下部領域において、サイドシルアウタ1aの縦方向面部100および下側の横方向面部101Aに面して形成される。
【0073】
図23のような衝撃吸収構造体Aの構造では、凹陥部c周辺の構造が座屈する座屈誘発効果によって衝突エネルギー吸収性能が確保されるため、衝撃吸収構造体Aの衝突エネルギー吸収性能を図1の構造よりも低下させることなく、凹陥部cの分だけ衝撃吸収構造体A(インナ側部分またはアウタ側部分)を軽量化することができる。これを、凹陥部cが衝撃吸収構造体Aのインナ側部分に形成された図23の場合を例に、より具体的に説明する。凹陥部cの形成により、閉断面空間5b内のバルクヘッド6にも凹陥部cの凹形状に沿った切欠き部が形成される。このため、側面衝突時にバルクヘッド6の当該切欠き部のコーナーR部gが座屈して折れ曲がり、切欠き部のコーナーR部gの周辺部分にも座屈が誘発されて衝突荷重を吸収する(座屈誘発効果)。このため、図23のような構造の衝撃吸収構造体Aであっても、図1の構造よりも衝突エネルギー吸収性能が低くなることはなく、一方において、凹陥部cの分だけ衝撃吸収構造体A(インナ側部分)を軽量化することができる。また、凹陥部cが衝撃吸収構造体Aのアウタ側部分に形成された場合も同様であり、凹陥部cの形成により、閉断面空間5a内のバルクヘッド6にも凹陥部cの凹形状に沿った切欠き部が形成され、側面衝突時にバルクヘッド6の当該切欠き部のコーナーR部gからも座屈が誘発される。このため、凹陥部cが形成された衝撃吸収構造体Aであっても、図1の構造よりも衝突エネルギー吸収性能が低くなることはなく、一方において、凹陥部cの分だけ衝撃吸収構造体A(アウタ側部分)を軽量化することができる。以上のような作用効果は、図23の実施形態に限らず、衝撃吸収構造体Aが凹陥部cを有するサイドシル構造であれば、当然に得られる。
【0074】
ここで、図23のような衝撃吸収構造体Aの構造において、凹陥部cの車両高さ方向(衝撃吸収構造体Aの高さ方向)での高さ(幅)が大き過ぎると、フロアクロスメンバ等と相対するインナ側部分の受圧面部(断面溝型部材4bの縦方向面部40)が狭くなり、衝撃吸収構造体Aの上部における衝突特性が低下する。このため、図24に示す凹陥部cの車両高さ方向における高さhは、衝撃吸収構造体Aのインナ側部分(またはアウタ側部分)の車両高さ方向における高さ(厚さ)Hに対して過度に大きくしない方がよく、具体的には、衝撃吸収構造体Aのインナ側部分(またはアウタ側部分)の車両高さ方向における高さ(厚さ)Hの90%以下、望ましくは75%以下程度とするのが好ましい。一方、凹陥部cの車両高さ方向での高さ(幅)が小さ過ぎると、フロアクロスメンバ等と相対するインナ側部分の受圧面部(断面溝型部材4bの縦方向面部40)が広くなり、衝突荷重が分散されることになる。これにより、凹陥部cに対応するバルクヘッド6の切欠き部のコーナーR部gにおける座屈が生じにくくなるので、凹陥部cを設けることによる衝突エネルギー吸収性能の向上効果が得られにくくなる。つまり、図23のような衝撃吸収構造体Aの構造とすることによる座屈誘発効果と軽量化効果が相対的に低下することになる。このため、その効果を十分に享受するには、図24に示す凹陥部cの車両高さ方向における高さhは、衝撃吸収構造体Aのインナ側部分(またはアウタ側部分)の車両高さ方向における高さ(厚さ)Hに対して過度に小さくしない方がよく、具体的には、衝撃吸収構造体Aのインナ側部分(またはアウタ側部分)の車両高さ方向における高さ(厚さ)Hの20%以上、望ましくは50%以上程度とするのが好ましい。
【0075】
また、図23のような衝撃吸収構造体Aの構造において、凹陥部cの車両幅方向における幅(深さ)が大き過ぎると、凹陥部cに対応するバルクヘッド6の切欠き部のコーナーR部gが仕切部材2に近づき、コーナーR部gの周辺部分の座屈が生じにくくなるので、衝突エネルギー吸収性能が低下する。このため、図24に示す凹陥部cの車両幅方向における幅wは、衝撃吸収構造体Aのインナ側部分(またはアウタ側部分)の車両幅方向における幅Wに対して過度に大きくしない方がよく、具体的には、衝撃吸収構造体Aのインナ側部分(またはアウタ側部分)の車両幅方向における幅Wの90%以下程度とするのが好ましい。一方、凹陥部cの車両幅方向における幅(深さ)を小さくし過ぎると、凹陥部cで座屈して折れ曲がり、衝撃吸収構造体Aとサイドシル1間の空間が塞がれてサイドシル1に当接するため、バッテリーケース等に生じる接触反力を低く抑えることができない。このため、凹陥部cの車両幅方向における幅wは、衝撃吸収構造体Aのインナ側部分(またはアウタ側部分)の車両幅方向における幅Wに対して過度に小さくしない方がよく、具体的には、衝撃吸収構造体Aのインナ側部分(またはアウタ側部分)の車両幅方向における幅Wの20%程度以上とするのが好ましい。
【0076】
ここで、図24に示すように、衝撃吸収構造体Aのアウタ側部分(断面溝形部材4a)やインナ側部分(断面溝形部材4b)の高さが車両幅方向での位置によって異なる場合には、最も高さが大きい位置での高さを高さHとする。また、アウタ側部分(断面溝形部材4a)やインナ側部分(断面溝形部材4b)の幅が車両高さ方向での位置によって異なる場合には、最も幅が大きい位置での幅を幅Wとする。また、凹陥部cの高さが車両幅方向での位置によって異なる場合には、最も高さが大きい位置での高さを凹陥部cの高さhとする。また、凹陥部cの幅が車両高さ方向での位置によって異なる場合には、最も幅が大きい位置での幅を凹陥部cの幅wとする。
【0077】
また、本発明のサイドシル構造を、図3に示すような車体下部構造、すなわち、「車体下部両側に車両長手方向に沿って配置されるサイドシル1と、両サイドシル1間に配置され、両側部が両サイドシル1の上部に固定される(直接またはフロアパネルなどを介して固定される)フロアクロスメンバ8と、このフロアクロスメンバ8の下方に配置され、両側部が両サイドシル1の下部と相対するバッテリーケース9などを備えた車体下部構造」に適用する場合には、衝突エネルギー吸収性能の確保に加えて、バッテリーケースへの入力荷重の軽減効果を得るという観点から、図23の実施形態のように、衝撃吸収構造体Aの高さ方向における下部領域(または下部を含む領域)であって、仕切部材2を挟んだインナ側部分とアウタ側部分のうちのいずれか一方に、サイドシル1(サイドシルインナ1bまたはサイドシルアウタ1a)の内面と相対して凹陥部cが形成された構造とすることが好ましい。この場合、衝撃吸収構造体Aの下部とサイドシル1との間に車両幅方向で空間(凹陥部cによる空間)が確保される。
【0078】
図23の実施形態のサイドシル構造が図3に示すような車体下部構造に適用された場合には、車両幅方向の車外側からサイドシル1に衝突荷重が入力する側面衝突時において、以下のような作用効果(バッテリーケースへの入力荷重の軽減効果)が得られる。衝撃吸収構造体Aの下部は、そのインナ側部分に凹陥部cが設けられているので、バッテリーケースサイドメンバ90に生じる接触反力の立ち上がりを遅くできる。さらに、凹陥部cに対応するバルクヘッド6の切欠き部のコーナーR部gが座屈して折れ曲がり、コーナーR部gの周辺部分にも座屈が誘発されて衝突荷重を吸収し続けるので、側面衝突が進行してサイドシル1が変形しても、バッテリーケースサイドメンバ90に生じる接触反力を低く抑え続けることができ、バッテリーケース9に入力する荷重を大幅に低減することができる。このため、バッテリーケース9の変形を抑制することができる。
衝撃吸収構造体Aの凹陥部cは、図6および図7に示すような本発明の第2の形態のサイドシル構造にも適用することができる。さきに説明したように、凹陥部cは、衝撃吸収構造体Aのアウタ側部分(断面溝形部材4a及び内部のバルクヘッド6)に、サイドシル1(サイドシルアウタ1a)の内面と相対して形成することができる。また、本発明の第2の形態のサイドシル構造では、衝撃吸収構造体Aのインナ側部分(インナ側の構成部分)は、閉断面空間3bに設置されるバルクヘッド6であるが、この衝撃吸収構造体Aの構成部分であるバルクヘッド6に、サイドシル1(サイドシルインナ1b)の内面と相対して凹陥部c(切欠き部)を形成することができる。また、この本発明の第2の形態の場合も、凹陥部cは衝撃吸収構造体Aのアウタ側部分とインナ側部分の両方に設けてもよい。そして、凹陥部cをいずれの形態で設けた場合でも、さきに本発明の第1の形態に関して述べたのと同様の作用効果が得られる。
【0079】
以下、衝撃吸収構造体Aを構成する金属板(通常「鋼板」である)の好ましい材質について説明する。
衝撃吸収構造体A(断面溝形部材4a,4bおよびバルクヘッド6)を構成する金属板の降伏強度は、フロアクロスメンバ8を構成する金属板の降伏強度以下であることが好ましい。これは、側面衝突時に、衝撃吸収構造体Aが確実にフロアクロスメンバ8よりも先に変形して衝突エネルギーを吸収し、フロアクロスメンバ8の変形が抑えられるようにするためである。このため、衝撃吸収構造体Aを構成する金属板の降伏強度が、フロアクロスメンバ8を構成する金属板の降伏強度と同じである場合には、衝撃吸収構造体Aを構成するバルクヘッド6に、図16(イ)に示すようなビード60(クラッシュビート)等を付与して、衝撃吸収構造体Aの座屈耐力(=部材自体が座屈変形を開始する荷重。以下同様)を、フロアクロスメンバ8の座屈耐力よりも低くすることが好ましい。
【0080】
衝撃吸収構造体A(断面溝形部材4a,4bおよびバルクヘッド6)を構成する金属板は、引張強度が780MPa級以上であることが好ましい。衝撃吸収構造体Aの衝突特性としては、側面衝突時における衝撃吸収構造体Aの変形開始直後の弾性変形を経て塑性変形に転じる際の荷重(以下「耐力」という。)が高いほど、衝突時の変形が生じにくく、衝突特性は良好となる。耐力は、衝撃吸収構造体Aに用いる金属板の降伏強度が高いほど高くなるで、普通鋼よりも降伏強度が高い引張強度780MPa級以上の金属板とするのが好ましい。また、同様の観点から、引張強度980MPa級以上の金属板とするのがより好ましく、引張強度1470MPa級以上の金属板とするのが特に好ましい。
また、引張強度の約1/3がビッカース硬さHVに相当することが知られている(例えば、JISハンドブック(1)鉄鋼I、日本規格協会編、SAE-J-417硬さ換算表)。したがって、衝撃吸収構造体Aを構成する金属板は、金属板の板厚1/4位置のビッカース硬さHVが250以上であることが好ましく、310以上であることがより好ましく、440以上であることが特に好ましい。
【0081】
衝撃吸収構造体Aを構成する金属板は、質量%で、C:0.030%以上0.250%以下、Si:0.01%以上2.50%以下、Mn:1.00%以上3.50%未満、P:0.001%以上0.100%以下、S:0.0200%以下、Al:0.010%以上2.000%以下を含有する鋼板であることが好ましい。
C量が0.030%未満では、一般に金属板の引張強度を高くする(例えば780MPa級以上)ことが難しくなる。金属板の引張強度が低いと、側面衝突時における衝撃吸収構造体Aの耐力の確保が難しくなり、衝突特性が低下する。一方、C量が0.250%を超えると、後述する硬質相であるマルテンサイトが脆化し、延性が低下するので曲げ特性が低下しやすく、衝撃吸収構造体Aの圧壊時に金属板の破断が生じやすくなる。このためC量は0.030%以上0.250%以下が好ましい。また、上述した観点から、より好ましいC量は0.100%以上0.250%以下であり、さらに好ましいC量は0.150%以上0.250%以下である。
【0082】
Siは、鋼を固溶強化して引張強度と伸び(延性)のバランスを向上させ、後述する残留オーステナイトを生成させるのに有効な元素である。こうした効果を得るには、Si量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Si量が2.50%を超えると、脆化による延性の低下により曲げ特性が低下しやすくなり、衝撃吸収構造体Aの圧壊時に金属板の破断が生じやすくなる。このためSi量は0.01%以上2.50%以下が好ましい。
Mnは、鋼の強化に有効であり、硬質相であるマルテンサイトの生成を促進する元素である。こうした効果を得るには、Mn量を1.00%以上とすることが好ましい。Mn量が1.00%未満では、マルテンサイトの生成が促進されず、一般に金属板の引張強度を高くする(例えば780MPa級以上)ことが難しくなる。一方、Mn量が3.50%を超えると、延性の低下により曲げ特性が低下しやすくなり、衝撃吸収構造体Aの局所的な変形の際に金属板の破断が生じやすくなる。このためMn量は1.00%以上3.50%以下が好ましい。
【0083】
Pは、鋼の強化に有効な元素である。こうした効果を得るには、Pを0.001%以上とすることが好ましい。一方、P量が0.100%を超えると、粒界偏析により鋼が脆化し、耐衝撃特性が低下しやすい。このためP量は0.001%以上0.100%以下が好ましい。
Sは、MnSなどの介在物として存在して耐衝撃特性や溶接性を劣化させるため、その量は極力低減することが好ましいが、製造コストを考慮し、S量は0.0200%以下とするのが好ましい。
Alは、フェライトを生成させ、TS-Elバランスを向上させるのに有効な元素である。こうした効果を得るには、Al量を0.010%以上とすることが好ましい。一方、Al量が2.000%を超えると、連続鋳造時のスラブ割れの危険性が生じる。このためAl量は0.010%以上2.000%以下が好ましい。
【0084】
この鋼板は、さらに、質量%で、N:0.0100%以下、Nb:0.200%以下、Ti:0.200%以下、V:0.200%以下、B:0.0100%以下、Cr:1.000%以下、Ni:1.000%以下、Mo:1.000%以下、Sb:0.200%以下、Sn:0.200%以下、Cu:1.000%以下、Ta:0.100%以下、W:0.500%以下、Mg:0.0200%以下、Zn:0.0200%以下、Co:0.0200%以下、Zr:0.1000%以下、Ca:0.0200%以下、Se:0.0200%以下、Te:0.0200%以下、Ge:0.0200%以下、As:0.0500%以下、Sr:0.0200%以下、Cs:0.0200%以下、Hf:0.0200%以下、Pb:0.0200%以下、Bi:0.0200%以下、REM:0.0200%以下のなかから選ばれる少なくとも1種の元素を含有してもよい。鋼成分の残部はFe及び不可避的不純物である。
【0085】
衝撃吸収構造体Aを構成する金属板は、金属板の板厚1/4位置において、フェライトを面積率で0%以上65%以下、マルテンサイトと焼戻しマルテンサイトを面積率の合計で30%以上100%以下、残留オーステナイトを面積率で0%以上15%以下を含む鋼組織であることが好ましい。
軟質相であるフェライトは、金属板(鋼板)の延性を高めるため適宜含有できるが、その面積率が65%を超えると、一般に金属板の引張強度を高くする(例えば780MPa級以上)ことが難しくなる。このためフェライトの面積率は0%以上65%以下とするのが好ましい。
マルテンサイトと焼戻しマルテンサイトは、金属板(鋼板)の強化に寄与し、高い引張強度(例えば780MPa級以上)を獲得する観点からは、必要な組織である。このような効果を得るためには、マルテンサイトと焼戻しマルテンサイトの面積率は、合計で30%以上100%以下とするのが好ましい。
残留オーステナイトは、延性向上を目的に含有してもよいが、面積率で15%を超えると、プレス成形後に硬質なマルテンサイトに変態して延性(曲げ特性)の低下を招き、衝撃吸収構造体Aの局所的な変形の際の耐曲げ破断特性(衝突特性)が低下しやすい。このため残留オーステナイトの面積率は0%以上15%以下とするのが好ましい。
【0086】
このような鋼組織を得るには、例えば、上記成分を有するスラブに熱間圧延、冷間圧延を施して冷延鋼板とし、この冷延鋼板に適切な焼鈍条件で焼鈍を施すことが有効である。焼鈍条件としては、冷延鋼板をAc変態点以上の温度域に加熱し、必要に応じて保持してオーステナイト変態させた後、オーステナイトからマルテンサイトへの変態が開始する温度(Ms点)以下の温度域まで冷却し、マルテンサイト、未変態オーステナイトおよびフェライトの組織とする。その後、Ms点以上Ac変態点未満の温度域に再加熱して必要に応じて保持する。これにより、マルテンサイトが焼き戻しマルテンサイトとなり、未変態オーステナイトがマルテンサイトまたは残留オーステナイトとなる。
【0087】
また、本発明のサイドシル構造の側面から衝突荷重が入力し、衝撃吸収構造体Aが座屈耐力を越えて圧壊する過程において、衝撃吸収構造体A(断面溝形部材4a,4bおよびバルクヘッド6)は、折れ曲がりながら蛇腹状に座屈変形を繰り返し発生させることで衝突エネルギーを吸収する。この過程において、衝撃吸収構造体Aが割れずに座屈変形すれば、衝突エネルギーは最も吸収されやすい。
このような効果を得るために、衝撃吸収構造体Aの金属板は、引張試験における破断時のひずみである極限変形能εlが0.55以上であることが好ましい。これにより、圧壊による局所的に厳しい変形に対しても破断が生じにくく、サイドドシル構造全体の強度が十分に確保され、高い衝突エネルギー吸収性能を得ることができる。材質のばらつきを考慮すると、金属板の極限変形能εlは0.75以上がより好ましく、0.88以上が特に好ましい。
【0088】
ここで、極限変形能εlは、JIS Z2241に準拠して室温引張試験を行い、この引張試験後の引張試験片の破断面における板幅Wと板厚Tを計測し、引張試験前の引張試験片の板幅Wと板厚Tとともに、下記(1)式により算出する。
εl=-{ln(W/W)+ln(T/T)} …(1)
但し W:引張試験後の引張試験片の破断面における板幅(mm)
:引張試験前の引張試験片の板幅(mm)
T:引張試験後の引張試験片の破断面における板厚(mm)
:引張試験前の引張試験片の板厚(mm)
金属板の極限変形能εlを高めるには、例えば、金属板の極限変形能を高めながら高強度化を図る上で有効な第二相である焼き戻しマルテンサイトとマルテンサイトの面積率のバランスを適切にするために、焼鈍時の冷却条件(冷却停止温度、冷却速度)、再加熱条件(再加熱温度、保持時間)等を調整することが有効である。
【0089】
また、衝撃吸収構造体Aが蛇腹状に座屈変形した蛇腹形状の曲がり部分は、曲がりの外面に応力が集中して割れが発生しやすい。そこで、衝撃吸収構造体Aの金属板には、曲げ加工性に優れたものを用いるのが好ましい。具体的には、JIS Z2248のVブロック法に基づく90°V曲げ試験において、亀裂(割れ)が発生しない限界曲げ半径R(すなわち亀裂(割れ)が発生しない最小のV型パンチの先端R)(mm)と板厚t(mm)の比R/tが7.0以下である、曲げ加工性に優れた金属板を用いることが好ましい。また、材質のばらつきを考慮すると、R/tが3.5以下の金属板がより好ましく、2.0以下の金属板が特に好ましい。
金属板の曲げ加工性を高め、上記のようなR/tを得るには、例えば、残留オーステナイトの面積率を適切にするために、焼鈍時の冷却条件(冷却停止温度、冷却速度)、再加熱条件(再加熱温度、保持時間)等を調整することが有効である。
衝撃吸収構造体Aを構成する金属板としては、例えば、冷延鋼板、冷延鋼板に亜鉛めっきを施した溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板などを用いることができるが、これらに限定されない。
【0090】
<サイドシル構造の側面衝突時の衝突変形形態>
本発明のサイドシル構造の側面衝突時の衝突変形形態について説明する。
側面ポール衝突時の変形の様子を、参考のために衝突開始からの時間(秒数)を例示しながら段階的に説明する。なお、この衝突開始からの時間(秒数)はあくまで一例である。
まず、サイドシル1自体の断面変形の形態を説明すると、最初に、サイドシルアウタ1aの上下の横方向面部101A(エネルギー吸収部)が外側に広がるように曲げ圧壊して潰れて衝突エネルギーを吸収する(0.002sec~)。このサイドシルアウタ1aが圧壊する過程において、仕切部材2によってサイドシル1の断面が上下に開いて崩壊(断面崩壊)するのが抑えられるので、以降0.006~0.014secまで、サイドシルアウタ1aの上下の横方向面部101A(エネルギー吸収部)は曲げ変形を継続して、完全につぶれるまで衝突エネルギーを吸収し続ける。
上記のようなサイドシルアウタ1aの潰れ変形に伴い、サイドシル1のフランジ部102を介してサイドシルインナ1bに衝突荷重が伝達され、仕切部材2によって断面が上下方向に開いて崩壊することなく、0.004sec以降、サイドシルインナ1bの上下の横方向面部101B(エネルギー吸収部)のフランジ部側がサイドシル1の閉断面の内側に凸状に曲げ圧壊する。
【0091】
このようなサイドシル1自体の断面変形に伴い、衝撃吸収構造体Aが以下のように断面変形する。潰れたサイドシルアウタ1aと断面溝形部材4aの縦方向面部40とが接触して、衝突吸収構造体Aに衝突荷重が伝達され、そのアウタ側部分(断面溝形部材4aとバルクヘッド6)が蛇腹状に変形する圧壊(軸圧壊)が開始される(0.002sec~)。ここで、本発明のサイドシル構造では、「並列した複数の隔壁部60を備え、隣り合う隔壁部60の側端部間が連結部61で連結されたバルクヘッド6」を設けているため、このアウタ側部分(断面溝形部材4aとバルクヘッド6)が圧壊(軸圧壊)する際に、側面衝突の変形初期の段階において、図30に示すようなバルクヘッド6’の変形(2つのバルクヘッド6’の仕切部材側の部分が左右に広がるような変形)、すなわち、閉断面空間5a内のバルクヘッド6の隣り合う隔壁部60が左右(車両前後方向)に広がるような変形(逃げ)は生じない。これにより、衝突吸収構造体Aのアウタ側部分(断面溝形部材4aとバルクヘッド6)から仕切部材2を介した衝撃吸収構造体Aのインナ側部分(断面溝形部材4bとバルクヘッド6)への衝突荷重の荷重伝達経路(さらにはフロアクロスメンバ8およびバッテリーケースサイドメンバ90への衝突荷重の荷重伝達経路)が維持される。したがって、衝突吸収構造体Aのアウタ側部分(断面溝形部材4aとバルクヘッド6)の圧壊に伴い、仕切部材2を介して連続する衝撃吸収構造体Aのインナ側部分(断面溝形部材4bとバルクヘッド6)は、サイドシルインナ1bを介してバッテリーケース9側に押し付けられ(0.004~0.006sec)、衝突吸収構造体Aのインナ側部分(断面溝形部材4bとバルクヘッド6)も圧壊を開始する(0.008~0.018sec)。
【0092】
図25は、図1図3に示す実施形態(第1の形態)の本発明のサイドシル構造に対して、下記の条件で側面ポール衝突試験を実施した際に、側面ポール衝突時の車両幅方向での縦断面における変形の様子を模式的に示したものである。図25(イ)に示すように、アウタ側部分(断面溝形部材4aとバルクヘッド6)に比べてインナ側部分(断面溝形部材4bとバルクヘッド6)の圧壊は小さい。図26は、この側面ポール衝突試験で変形した際の衝突体侵入量と吸収エネルギーとの関係を示したものである(本発明例1)。また、図27は、図6および図7に示す実施形態(第2の形態)の本発明のサイドシル構造に対して、同様の側面ポール衝突試験を実施し、この衝突試験で変形した際の衝突体侵入量と吸収エネルギーとの関係を示したものである(本発明例2。なお、比較のために図26の本発明例1も併せて表してある)。一方、図29は、比較例である図28のサイドシル構造について、同様の側面ポール衝突試験を実施し、この衝突試験で変形した際の衝突体侵入量と吸収エネルギーとの関係を示したものである。
衝突体:R127mm(直径254mm相当)の剛体ポール
衝突速度:30.9km/h
衝突エネルギー:32kJ
衝突体侵入量100mmでの吸収エネルギーは、図29に示す比較例では26.6kJであるのに対して、図26の本発明例1では28.6kJであり、吸収エネルギーが7.5%向上している。
【0093】
また、図27の本発明例2では、本発明例1よりも3mm短い衝突体侵入量97mmで本発明例1と同じ28.6kJに到達している。この理由は、次のように考えられる。図25(イ)に示す通り、本発明例1(図1~3)の側面ポール衝突時の衝突エネルギー吸収は、圧壊量の大きいアウタ側部分(断面溝形部材4aとバルクヘッド6)が支配的である。したがって、インナ側の断面溝形部材4bを備えていない本発明例2(図6、7)も、本発明例1と同等の衝突エネルギー吸収特性が得られたものと考えられる。一方、本発明例1のインナ側部分は、断面溝型部材4bの縦方向面部40と、これと相対するサイドシルインナ1bの縦方向面部100とが、接合または当接することなく所定の間隙を空けて対向している。これに対し、本発明例2のインナ側部分は、サイドシルインナ1bの縦方向面部100の内側に、バルクヘッド6がフランジ部62を介して接合されている。このため、サイドシルアウタ1aに入力される衝突荷重が「仕切部材2を挟んで車両幅方向で対向するバルクヘッド6」と「サイドシルインナ1b」を経てフロアクロスメンバ8およびバッテリーケースサイドメンバ90に伝わる荷重伝達経路が、本発明例1よりも本発明例2の方が早く形成され、衝撃吸収構造体Aおよびサイドシル1の圧壊が、本発明例1よりも本発明例2の方が早く開始される。このため、本発明例2では、本発明例1よりも3mm短い衝突体侵入量97mmで本発明例1と同じ28.6kJに到達したものと考えられる。
【0094】
以上のような側面衝突時のサイドシル構造の断面変形では、仕切部材2を介してサイドシル1内に設置され、断面溝形部材4a,4bと特定の構造および配置形態のバルクヘッド6が仕切り部材2とともに一体化した構造を有する衝撃吸収構造体Aが高い変形抵抗を有する。このためサイドシル1は、入力荷重に対して局所的に変形する(例えば、衝突部から折れ曲がるように変形する)ことなく、全体が一体となって変形するため、衝突エネルギーが効果的かつ適切に吸収されることになる。
したがって、本発明のサイドシル構造では、図3に示すように両サイドシル1間のフロアパネル7の下方にバッテリーモジュールを備えた自動車(特に電気自動車)において、衝撃吸収構造体Aが側面衝突時に車両幅方向から入力された荷重によって圧壊してエネルギー吸収しつつ、フロアクロスメンバ8やバッテリーケース9に荷重を伝達することで、バッテリーパック10に荷重が伝達しないようにし、衝突の衝撃から保護することができる。
【符号の説明】
【0095】
1 サイドシル
1a サイドシルアウタ
1b サイドシルインナ
2 仕切部材
3,3a,3b 閉断面空間
4a,4b 断面溝形部材
5a,5b 閉断面空間
6 バルクヘッド
7 フロアパネル
8 フロアクロスメンバ
9 バッテリーケース
10 バッテリーパック
11 固定用ボルト
12 接合部
13 接着剤
40 縦方向面部
41A,41B 横方向面部
42 フランジ部
43 ビード
44 凹部
60,60,60 隔壁部
61 連結部
62 フランジ部
63 板状延出部
64 ビード
70 フランジ部
90 バッテリーケースサイドメンバ
91 バッテリーケース底板
92 取付用フランジ
100 縦方向面部
101A,101B 横方向面部
102 フランジ部
A 衝撃吸収構造体
e 部分
c 凹陥部
s 空間部
f,g コーナーR部
x,y 領域
図1
図2
図3
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図6
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