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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138606
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】潤滑剤封入装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/029 20120101AFI20241002BHJP
   F16J 15/10 20060101ALI20241002BHJP
   F16H 57/031 20120101ALI20241002BHJP
【FI】
F16H57/029
F16J15/10 C
F16H57/031
F16J15/10 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049160
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】布施谷 尚也
【テーマコード(参考)】
3J040
3J063
【Fターム(参考)】
3J040AA17
3J040BA02
3J040FA05
3J040HA03
3J040HA09
3J063AB01
3J063AC01
3J063BA01
3J063CD46
3J063CD53
3J063XA03
3J063XA37
(57)【要約】
【課題】ケーシング間でのシール性の確保と装置のコンパクト化を図る。
【解決手段】歯車装置1は、第1ケーシング24と、第1ケーシング24と連結される第2ケーシング25と、第1ケーシング24と第2ケーシング25を連結するための連結ボルト29と、第1ケーシング24と第2ケーシング25の合わせ面に配置されるOリング32と、を有する。第1ケーシング24は、連結ボルト29が挿通される第1ボルト穴24aと、Oリング32を配置するOリング溝24bと、を有する。Oリング溝24bは、第1ボルト穴24aに開口する。Oリング溝24bは、Oリング29が当該Oリング溝24bに配置され第1ケーシング24と第2ケーシング25が連結ボルト29により連結された状態において、Oリング32が連結ボルト29に当接しないように構成されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑剤が封入される潤滑剤封入装置であって、
第1ケーシングと、前記第1ケーシングと連結される第2ケーシングと、前記第1ケーシングと前記第2ケーシングを連結するための連結ボルトと、前記第1ケーシングと前記第2ケーシングの合わせ面に配置されるシールリングと、を有し、
前記第1ケーシングは、前記連結ボルトが挿通される第1ボルト穴と、前記シールリングを配置するシールリング配置部と、を有し、前記シールリング配置部は、前記第1ボルト穴に開口し、
前記シールリング配置部は、前記シールリングが当該シールリング配置部に配置され前記第1ケーシングと前記第2ケーシングが前記連結ボルトにより連結された状態において、前記シールリングが前記連結ボルトに当接しないように構成されている、
潤滑剤封入装置。
【請求項2】
前記シールリング配置部は、前記シールリングが前記第1ボルト穴に近づく方向へ変形するのを阻害する阻害部を有する、
請求項1に記載の潤滑剤封入装置。
【請求項3】
前記第1ケーシングと前記第2ケーシングが前記連結ボルトにより連結された状態における前記シールリング配置部の断面積は、当該潤滑剤封入装置に組み込む前の状態における前記シールリングの断面積よりも大きい、
請求項1に記載の潤滑剤封入装置。
【請求項4】
前記第1ケーシングと前記第2ケーシングを連結するときに、前記シールリング配置部に配置された前記シールリングに前記第2ケーシングが初めに当接した状態から、前記第1ケーシングと前記第2ケーシングが前記連結ボルトにより連結された状態までに、前記第1ケーシングと前記第2ケーシングが相対的に近づく距離をΔdとすると、前記シールリング配置部は、前記第1ケーシングと前記第2ケーシングが前記連結ボルトにより連結される前の状態において、前記シールリングと前記連結ボルトのねじ山部との間に2Δd以上の距離が確保されている、
請求項1に記載の潤滑剤封入装置。
【請求項5】
前記連結ボルトを前記第1ボルト穴に挿入するときに、前記連結ボルトを前記シールリングから遠ざける方向に保持するための保持治具を配置する治具配置部を有する、
請求項1に記載の潤滑剤封入装置。
【請求項6】
前記治具配置部は、前記連結ボルトの頭部が位置する部位に設けられる、
請求項5に記載の潤滑剤封入装置。
【請求項7】
前記第2ケーシングは、前記連結ボルトが締結される雌ねじ穴と、前記第1ボルト穴と連通する第2ボルト穴とを有し、前記第1ボルト穴と前記第2ボルト穴は、前記雌ねじ穴よりも内径が大きい、
請求項1に記載の潤滑剤封入装置。
【請求項8】
前記連結ボルトは、鋭先または丸先のボルトである、
請求項1に記載の潤滑剤封入装置。
【請求項9】
前記連結ボルトは、細目ねじである、
請求項1に記載の潤滑剤封入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に潤滑剤が封入される潤滑剤封入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の減速機では、ケース部材のインロー面にOリング溝を設けるとともに、2つのケース部材を締結するためのボルト穴をOリング溝に近接させている。これにより、2つのケース部材間でのシール性の確保と装置のコンパクト化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-41679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の減速機では、Oリング溝がボルト穴に開口している。そのため、ボルトがOリングに接触してしまい、Oリングが損傷してシール性を失うおそれがある。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、ケーシング間でのシール性の確保と装置のコンパクト化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、潤滑剤が封入される潤滑剤封入装置であって、
第1ケーシングと、前記第1ケーシングと連結される第2ケーシングと、前記第1ケーシングと前記第2ケーシングを連結するための連結ボルトと、前記第1ケーシングと前記第2ケーシングの合わせ面に配置されるシールリングと、を有し、
前記第1ケーシングは、前記連結ボルトが挿通される第1ボルト穴と、前記シールリングを配置するシールリング配置部と、を有し、前記シールリング配置部は、前記第1ボルト穴に開口し、
前記シールリング配置部は、前記シールリングが当該シールリング配置部に配置され前記第1ケーシングと前記第2ケーシングが前記連結ボルトにより連結された状態において、前記シールリングが前記連結ボルトに当接しないように構成されている。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ケーシング間でのシール性の確保と装置のコンパクト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態に係る歯車装置の断面図である。
図2】実施形態に係る第1ケーシングと第2ケーシングの間のシール構造を説明するための図であり、(a)は第2ケーシングがOリングに初めに当接した状態、(b)は第1ケーシングと第2ケーシングが連結ボルトにより連結された状態を示す。
図3】実施形態に係る歯車装置の変形例1を説明するための図である。
図4】実施形態に係る歯車装置の変形例1を説明するための図である。
図5】実施形態に係る歯車装置の変形例2を説明するための図である。
図6】実施形態に係る歯車装置の他の変形例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0009】
[歯車装置の全体構成]
図1は、本実施形態に係る歯車装置1の断面図である。
以下では、図中の中心軸Axに沿った方向を「軸方向」、中心軸Axに垂直な方向を「径方向」、中心軸Axを中心とする回転方向を「周方向」という。半径方向の内側(外側)を「内径側(外径側)」又は「内周側(外周側)」という。また、軸方向のうち、外部の被駆動部材と連結される側(図1の左側)を「負荷側」といい、負荷側とは反対側(図1の右側)を「反負荷側」という。
【0010】
図1に示すように、本実施形態に係る歯車装置1は、本発明に係る潤滑剤封入装置の一例であり、センタークランク型の偏心揺動型減速機である。
具体的に、歯車装置1は、偏心体軸21と、外歯歯車22A,22Bと、出力軸23と、第1ケーシング24と、第2ケーシング25と、カバー部材28とを備える。
偏心体軸21には、複数(本実施形態では2つ)の偏心体21a、21bが設けられている。偏心体軸21には、図示しないモータの出力軸が接続される。
【0011】
外歯歯車22A,22Bは、中心軸Axからオフセットされた位置に周方向に離間して設けられた複数の内ピン孔と、偏心体軸21が挿通される中央の貫通孔とを有する。外歯歯車22A,22Bは、偏心体21a,21bとの間にそれぞれ配置された偏心体軸受26a,26bにより、偏心体21a,21bに対して回転自在に支持されており、偏心体21a,21bの回転により揺動する。
【0012】
出力軸23は、偏心体軸21の外周側であって外歯歯車22A,22Bの負荷側に配置され、図示しない被駆動部材に固定される。出力軸23には、軸方向に沿って反負荷側へ立設された複数の内ピン23aが固定されている。内ピン23aは、外歯歯車22A,22Bの内ピン孔に挿通される。内ピン23aの反負荷側には、キャリア体235が固定される。キャリア体235と出力軸23は、偏心体軸21との間に配置された軸受26c、26dにより、偏心体軸21を回転自在に支持している。
【0013】
第1ケーシング24は、外歯歯車22A,22B及びキャリア体235の外周側に配置される。第1ケーシング24の内周部には、内歯歯車24gが設けられている。内歯歯車24gは、内歯となる複数の外ピンを有し、外歯歯車22A,22Bと内接噛合する。
第2ケーシング25は、出力軸23の外周側に配置される。第2ケーシング25は、出力軸23との間に配置された主軸受27により、出力軸23を回転自在に支持している。
カバー部材28は、第1ケーシング24及びキャリア体235の反負荷側に配置される。カバー部材28の内周部は、軸受26cの外輪に隣接しており、当該軸受26cの外輪の回転を妨げない。
【0014】
第1ケーシング24、第2ケーシング25及びカバー部材28は、反負荷側から軸方向に挿通される複数の連結ボルト29により締結(連結)される。具体的に、各連結ボルト29は、カバー部材28のザグリ穴28a及び貫通孔(ボルト穴)28bと、第1ケーシング24の第1ボルト穴(貫通孔)24aとに反負荷側から挿通されて、第2ケーシング25の雌ねじ穴25aに螺合される。
【0015】
このような構成により、歯車装置1では、偏心体軸21の回転に伴って、偏心体21a,21bcが外歯歯車22A,22Bの内側で回転し、これにより外歯歯車22A,22Bが互いに異なる位相で揺動する。外歯歯車22A,22Bは、揺動により中心軸Axから最も離れた外歯が内歯歯車24gと噛合し、この噛合位置は揺動に伴って周方向に変化する。具体的には、偏心体軸21が一回転するごとに、内歯歯車24gと外歯歯車22A,22Bとの噛合位置が周方向に一周する。外歯歯車22A,22Bと内歯歯車24gとには歯数差があり、内歯歯車24gとの噛合位置が一周するごとに外歯歯車22A,22Bは上記の歯数差分だけ自転する。この自転が、内ピン23aを介して出力軸23に伝達される。これにより、偏心体軸21の回転運動が減速され、出力軸23に連結された被駆動部材から取り出される。
【0016】
また、歯車装置1では、2つのOリング31,32と3つのオイルシール33~35で閉塞された内部空間S内にグリース(潤滑剤)が封入されている。
Oリング31は、第1ケーシング24とカバー部材28との間(合わせ面)に配置され、これらの間で潤滑剤が移動することを抑制する。Oリング32は、第1ケーシング24と第2ケーシング25との間(合わせ面)に配置され、これらの間で潤滑剤が移動することを抑制する。
オイルシール33は、反負荷側の端部で、偏心体軸21とカバー部材28との間に配置され、反負荷側への潤滑剤の流出を抑制する。オイルシール34は、負荷側の端部で、偏心体軸21と出力軸23との間に配置され、負荷側への潤滑剤の流出を抑制する。オイルシール35は、第2ケーシング25と出力軸23との間に配置され、この部分からの潤滑剤の流出を抑制する。
【0017】
[ケーシング間のシール構造]
Oリング32による第1ケーシング24と第2ケーシング25の間のシール構造について説明する。
図2は、当該シール構造を説明するための図であり、このうち(a)は第2ケーシング25がOリング32に初めに当接した状態を示し、(b)は第1ケーシング24と第2ケーシング25が連結ボルト29により連結された状態(組立状態)を示す。なお、(b)におけるOリング32の位置及び形状は想像である。また、(b)には、(a)における第2ケーシング25及びOリング32の状態を二点鎖線で示している。
【0018】
図2(a),(b)に示すように、Oリング32は、第1ケーシング24に設けられたOリング溝(シールリング配置部)24b内に配置される。
Oリング溝24bは、第1ケーシング24の負荷側の内周端に突設された突出部241の外周側の基端部に設けられている。突出部241は、内周面が内歯歯車24gの一部となっており、外周面241aが第2ケーシング25の内周面25bと嵌め合うインロー面となっている。
【0019】
Oリング溝24bは、第1ボルト穴24aよりも内周側に位置しており、当該Oリング溝24bの外周側が当該第1ボルト穴24aに開口(連通)している。より詳しくは、Oリング溝24bの外周側の面は、外周側に向かうに連れて次第に負荷側に位置するテーパ状の傾斜面24cとなっており、当該傾斜面24cのうちOリング溝24bよりも外周側に第1ボルト穴24aが開口している。傾斜面24cのうち内周側の一部は、Oリング32が外周側(第1ボルト穴24aに近づく方向)へ変形するのを阻害する阻害部として機能する。
【0020】
また、Oリング溝24bは、組立状態における断面積(図2(b)の太線で囲んだ部分)が、歯車装置1に組み込む前の状態におけるOリング32の断面積よりも大きい。
Oリング32は、ニトリルゴム等の一般的な材質の場合、ポアソン比が0.49程度のため、変形時に体積変化を殆ど生じない。そのため、上述のとおり、組立状態でのOリング溝24bの断面積を変形前のOリング32の断面積よりも大きくすることにより、組立状態においてOリング32をOリング溝24a内に好適に収容できる。
ここで、「組立状態」とは、(Oリング32がOリング溝24bに配置されて)第1ケーシング24と第2ケーシング25が連結ボルト29により連結された状態をいう。組立状態では、第2ケーシング25の反負荷側の端面25cと第1ケーシング24の負荷側の端面24fとが当接する。このとき、Oリング溝24b内のOリング32は、Oリング溝24bの反負荷側の底面と第2ケーシング25の端面25cとにより軸方向に圧縮され、第1ケーシング24と第2ケーシング25の間をシールする。
【0021】
また、Oリング溝24bは、組立前の状態において、当該Oリング溝24b内のOリング32と連結ボルト29のねじ山部との間に、Oリング32の潰し代Δdの2倍以上の距離が確保されている。
ここで、「組立前」とは、第1ケーシング24と第2ケーシング25が連結ボルト29により連結される前の状態である。また、Oリング32の「潰し代Δd」は、すなわち、第1ケーシング24と第2ケーシング25を連結するときに、Oリング溝24bに配置されたOリング32に第2ケーシング25が初めに当接した状態から、第1ケーシング24と第2ケーシング25が連結ボルト29により連結された状態までに、第1ケーシング24と第2ケーシング25が相対的に近づく距離に等しい。
【0022】
つまり、Oリング32を潰し代Δdで軸方向に潰したときの径方向への変形量は、最大でも潰し代Δdの2倍を超えないと考えられる。そこで、以下の条件式(1)が成立するように内周側側面24e、第1ボルト穴24aおよび/または雌ねじ穴25aの位置や寸法などを設定する。
L≧φD+2Δd ・・・(1)
ここで、Lは、Oリング溝24aの内周側側面24eから連結ボルト29の外形(ねじ山部)までの径方向の距離である。φDは、変形前のOリング32の断面の直径である。
これにより、組立状態においてOリング32をOリング溝24a内に好適に収容できる。ひいては、組立状態におけるOリング32と連結ボルト29との当接(接触)を回避できる。
なお、本実施形態の内周側側面24eは、インロー面である突出部241の外周面241aから内周側に逃げてある。
また、Oリング溝24bは、Oリング32が当該Oリング溝24bに配置されて第1ケーシング24と第2ケーシング25が連結ボルト29により連結された状態において、Oリング32が連結ボルト29に当接しないように構成されていればよい。
【0023】
[実施形態の技術的効果]
以上のように、本実施形態によれば、Oリング溝24bは、組立状態においてOリング32が連結ボルト29に当接(接触)しないように構成されている。
これにより、Oリング溝24bが第1ボルト穴24aに近接して当該第1ボルト穴24aに開口している場合であっても、Oリング32と連結ボルト29の当接を回避できる。
ひいては、第1ケーシング24と第2ケーシング25の間でのシール性を好適に確保し、かつ、連結ボルト29をより内周側に配置して装置のコンパクト化を図ることができる。
【0024】
また、本実施形態によれば、Oリング溝24bの外周側の傾斜面24cは、Oリング32が第1ボルト穴24aに近づく方向へ変形するのを阻害する阻害部として機能する。
これにより、Oリング32と連結ボルト29の当接をより確実に回避できる。
【0025】
また、本実施形態によれば、組立状態におけるOリング溝24bの断面積は、歯車装置1に組み込む前の状態におけるOリング32の断面積よりも大きい。
これにより、組立状態においてOリング32がOリング溝24bからはみ出して連結ボルト29に近づく側へ変形する可能性を低減できる。ひいては、Oリング32と連結ボルト29の当接をより確実に回避できる。
【0026】
また、本実施形態によれば、Oリング溝24bは、組立前の状態において、Oリング32と連結ボルト29のねじ山部との間に、Oリング32の潰し代Δdの2倍以上の距離が確保されている。
これにより、Oリング32が連結ボルト29に近づく側に潰し代Δdの2倍だけ変形した場合であっても、Oリング32と連結ボルト29の当接を回避できる。
【0027】
[変形例1]
上記実施形態では、専ら組立状態においてOリング32と連結ボルト29が当接しない構成例について説明した。
しかし、歯車装置1の組立時においても、連結ボルト29がOリング溝24b内のOリング32に当接しないように当該連結ボルト29を締結できるのが好ましい。なお、組立状態においてOリング32と連結ボルト29が当接しない状態を実現する手段として、後述するような、組立時におけるOリング32と連結ボルト29の当接を回避する構成を採用してもよい。
【0028】
例えば図3及び図4に示すように、連結ボルト29を第1ボルト穴24aに挿入するときに、連結ボルト29をOリング32から遠ざける方向(外周側)に保持するための保持治具40を用いてもよい。
この場合、保持治具40は、ザグリ穴28aに配置されて、第1ボルト穴24a及び雌ねじ穴25aに対して径方向及び周方向(又は接線方向)に位置決めされる。つまりこの場合、ザグリ穴28aは、保持治具40を径方向に位置決めする面と、周方向(又は接線方向)に位置決め面と、を有する形状に加工される。
【0029】
保持治具40は、ザグリ穴28aの位置決め面と接触する外側面40aと、連結ボルト29の頭部29aの内周側を支持する内側面40bとが、所定の精度で位置決めされている。これにより、保持治具40は、ザグリ穴28aに配置されたときに、内側面40bで支持する連結ボルト29を第1ボルト穴24a及び雌ねじ穴25aに対して所定の精度で芯出しできる。保持治具40は組立後(連結ボルト29の締結後)に歯車装置1から取り外される。
また、保持治具40は、第1ボルト穴24aに挿入した連結ボルト29の先端がOリング溝24bに至る(径方向から見て重なる)前に、連結ボルト29の頭部29aが内側面40bに支持されるように、所定以上の軸方向長さを有している。
内側面40bの形状は、連結ボルト29の頭部29aを回転可能に支持できるのが好ましく、例えば多角柱状(図4(a))又は円柱状(図4(b))である。また、内側面40bは軸方向に緩やかに傾斜していてもよい。
【0030】
なお、上記説明では、連結ボルト29の頭部29aが位置するザグリ穴28aに、保持治具40を配置する部分(治具配置部)が設けられることとしたが、保持治具40を配置する部分はザグリ穴28aに限定されない。
また、保持治具40は、連結ボルト29をOリング32から遠ざける方向に保持できればよく、例えば連結ボルト29の頭部29aでなく首を保持(支持)してもよい。また、連結ボルト29をOリング32から「遠ざける方向」は、軸方向に直交する面内において連結ボルト29とOリング32の相対距離が大きくなる方向(側)であればよく、外周側でなくともよい。
【0031】
[変形例2]
また、連結ボルト29を挿通するボルト穴を、Oリング溝24bから遠ざける方向に広げてもよい。
例えば図5(a)、(b)に示すように、第1ケーシング24の第1ボルト穴24aとカバー部材28の貫通孔28bとを、外周側(図中の上側)に伸ばした長穴状に形成してもよい。これにより、連結ボルト29をボルト穴に挿入するときに当該連結ボルト29(特に先端面)がOリング32に当接する可能性をより低減できる。
【0032】
またこの場合、第2ケーシング25は、雌ねじ穴25aよりも反負荷側に、第1ケーシング24の第1ボルト穴24aと連通する第2ボルト穴25eを有するのがより好ましい。第2ボルト穴25eは、第1ケーシング24の第1ボルト穴24aに対応する長穴状に形成される。これにより、連結ボルト29をボルト穴に挿入するときに当該連結ボルト29(特に先端面)がOリング32に当接する可能性をより確実に低減できる。
なお、この場合における第1ボルト穴24aと第2ボルト穴25eは、雌ねじ穴25aよりも内径が大きければ(Oリング溝24bから遠ざける方向に広げられていれば)よく、長穴状に限定されない。
【0033】
[変形例3]
また、連結ボルト29は、先端面が中央側ほど膨出している鋭先または丸先(あるいはこれに準じる先端形状)のボルトであるのが好ましい。連結ボルト29を鋭先または丸先のボルトとすることにより、先端面の角部(外周部)が略垂直な平先のボルトに比べて、第1ボルト穴24aへの挿通時におけるOリング32との当接の可能性(又は当接時のOリング32のダメージ)を低減できる。
【0034】
また、連結ボルト29は、細目ねじであるのが好ましい。連結ボルト29を細目ねじとすることにより、締結時における連結ボルト29の進み量が少なくなる。これにより、連結ボルト29が締結時にOリング32と当接した場合でも、ピッチがより大きい場合に比べて相互の摩擦を抑制でき、ひいてはOリング32の損傷を低減できる。
【0035】
[その他]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限られない。
例えば、上記実施形態では、Oリング溝24bのうち、Oリング32が外周側(ボルト穴に近づく方向)へ変形するのを阻害する傾斜面24cが、テーパ状の面であることとした。しかし、傾斜面24cのうち少なくとも阻害部として機能する内周部を含む部分は、断面直線状のC面でなく、断面凹円弧状のR面等であってもよい。
また、図6に示すように、組立状態においてOリング32を押圧する第2ケーシング25の端面25cのうち、傾斜面24cと対向する部分に、阻害部として機能する第2傾斜面25fを設けてもよい。第2傾斜面25fは、外周側に向かうに連れて次第に反負荷側に位置する傾斜面であり、断面直線状のC面でも、断面凹円弧状のR面等でもよい。これにより、組立状態でのOリング32と連結ボルト29との当接をより確実に回避できる。
【0036】
また、上記実施形態では、本発明に係るシールリングとしてOリングを例示した。しかし、本発明に係るシールリングはOリングに限定されず、2つのケーシング間に配置されてシール機能を発揮するシール材(スクイーズパッキン、リップパッキン)に広く適用でき、例えばXリングやVリング等を含む。
【0037】
また、上記実施形態では、本発明に係る潤滑剤封入装置として歯車装置を例示した。しかし、本発明に係る潤滑剤封入装置は、シールリングを用いて内部に潤滑剤を封入するものであれば特に限定されず、例えば、トラクションドライブ、油浴(油浸)モータ、湿式ブレーキ等を含む。
その他、上記実施形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0038】
1 歯車装置(潤滑剤封入装置)
22A 外歯歯車
22B 外歯歯車
24 第1ケーシング
24a 第1ボルト穴
24b Oリング溝(シールリング配置部)
24c 傾斜面(阻害部)
24e 内周側側面
24f 端面
24g 内歯歯車
25 第2ケーシング
25a 雌ねじ穴
25b 内周面
25c 端面
25e 第2ボルト穴
25f 第2傾斜面
28 カバー部材
28a ザグリ穴
28b 貫通孔
29 連結ボルト
29a 頭部
32 Oリング(シールリング)
40 保持治具
241 突出部
241a 外周面
L (Oリング溝の内周側側面から連結ボルトのねじ山部までの径方向の)距離
Δd (Oリングの)潰し代
図1
図2
図3
図4
図5
図6