(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138625
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】融雪屋根構造、屋根融雪装置、屋根、および建築物
(51)【国際特許分類】
E04H 9/16 20060101AFI20241002BHJP
E04D 13/00 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
E04H9/16 M
E04D13/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049205
(22)【出願日】2023-03-27
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】309015019
【氏名又は名称】地方独立行政法人青森県産業技術センター
(71)【出願人】
【識別番号】523110776
【氏名又は名称】有限会社キーポイントホーム
(74)【代理人】
【識別番号】100119264
【弁理士】
【氏名又は名称】富沢 知成
(72)【発明者】
【氏名】赤平 亮
(72)【発明者】
【氏名】阿保 勝之
【テーマコード(参考)】
2E139
【Fターム(参考)】
2E139AA03
2E139DA12
2E139DB04
2E139DB16
(57)【要約】 (修正有)
【課題】屋根下に設けられた閉鎖空間を温める方式の屋根融雪装置において、環境温度に近い低温の未利用熱を熱源とし、施工性や建物強度を損なうことなく、屋根裏面から表面へ効率よく熱を伝えることができる屋根の融雪方式を提供すること。
【解決手段】融雪屋根構造5は、建築物の屋根下の閉鎖空間に融雪用気体を供給しその伝熱により屋根に積もった雪を融かす方式の融雪屋根構造であり、閉鎖空間を形成する伝熱室2と、屋根表裏間の熱抵抗を減らすために伝熱室2に備えられている熱抵抗低減構造3から構成される。熱抵抗低減構造3としてはグレーチングを好適に用いることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の屋根下の閉鎖空間に融雪用気体を供給しその伝熱により屋根に積もった雪を融かす方式の融雪屋根構造であって、
該閉鎖空間を形成する伝熱室と、
屋根表裏間の熱抵抗を減らすために該伝熱室に備えられている熱抵抗低減構造とからなることを特徴とする、融雪屋根構造。
【請求項2】
前記熱抵抗低減構造が、屋根を構成する所定部材に替えて設けられた該所定部材よりも熱抵抗の小さい小熱抵抗部材を用いたものであることを特徴とする、請求項1に記載の融雪屋根構造。
【請求項3】
前記小熱抵抗部材が金属製であることを特徴とする、請求項2に記載の融雪屋根構造。
【請求項4】
前記小熱抵抗部材がグレーチング、またはその他の通気口具備の板状部材であることを特徴とする、請求項2に記載の融雪屋根構造。
【請求項5】
前記所定部材が木製の野地板である請求項2、3、4のいずれかに記載の融雪屋根構造。
【請求項6】
前記融雪用気体は、本融雪屋根構造が設けられる建築物における換気排熱、または地中熱であることを特徴とする、請求項1、2、3、4のいずれかに記載の融雪屋根構造。
【請求項7】
請求項1、2、3、4のいずれかに記載の融雪屋根構造と、該融雪屋根構造の伝熱室に融雪用気体を供給する気体供給構造とからなることを特徴とする、屋根融雪装置。
【請求項8】
前記気体供給構造は、本屋根融雪装置が設けられる建築物における換気排熱、または地中熱を供給することを特徴とする、請求項7に記載の屋根融雪装置。
【請求項9】
請求項1、2、3、4のいずれかに記載の融雪屋根構造を備えていることを特徴とする、屋根。
【請求項10】
勾配があり、前記融雪屋根構造が軒先部に設けられていることを特徴とする、請求項9に記載の屋根。
【請求項11】
請求項7に記載の屋根融雪装置を備えていることを特徴とする、建築物。
【請求項12】
前記気体供給構造は、本建築物における換気排熱、または地中熱を供給することを特徴とする、請求項11に記載の建築物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は融雪屋根構造、屋根融雪装置、屋根、および建築物に係り、特に、建築物の屋根に積もった雪を、環境温度に近い低温熱源を用いて融雪可能な屋根の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人口10万人以上の都市の中で年間降雪量が世界一の青森市がある青森県を初め、東北・北海道などの積雪寒冷地では、冬期の除雪作業や雪下ろし作業は避けられない。中でも屋根の雪下ろし作業は滑落の危険性があり、例年のように死亡事故も発生している。この作業を不要とすること、ないしは軽減できることが求められる。
【0003】
屋根融雪装置は、屋根上に設置された電熱線の発熱により雪を融かす方式、温水などの熱媒体が循環する配管を設置し熱源にはボイラなどを利用する方式、複数の穴が開いた配管から地下水等を散水する方式、などが一般的である。また、屋根上や屋根下に閉鎖空間を設置して温風を供給する方式(特許文献1)、屋根金属板(トタン板)の下にある垂木部にダクトを蛇行状に設置して暖房機から得られる温風を送り込む方式(特許文献2)、外装板と野地板の間に駒材を用いて通気空間を作り、暖房機から得られる温風を送り込む方式(特許文献3)なども開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63-165657号公報「屋根の融雪装置」
【特許文献2】特開平11-125029号公報「屋根温風融雪工法」
【特許文献3】特開昭62-133260号公報「建物の融雪屋根構造」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、電熱利用方式や配管内温水循環方式、地下水などの散水方式は、電気代や温水を作り出すための燃料費が負担となる上、配管内での凍結の可能性があるという問題がある。一方、建物内部や屋根上面に閉鎖空間を設けて内部から加温する方式の場合、構造物としての強度を確保しつつ、内部から屋根表面に効率よく熱を伝えられる構造であること、そしてそれが施工の容易な構造であることが必要である。
【0006】
また、地球温暖化防止・環境保護の観点、および昨今の化石燃料価格の高騰を踏まえると、CO2排出の問題がある化石燃料に頼らない、排熱のような未利用熱を活用できることが望ましい。一般家庭における未利用熱は、たとえば換気排熱や地中熱のように環境温度に近い熱源がほとんどであるが、このような低い温度の熱であっても、これを融雪面である屋根表面に効率よく伝えられる技術を開発できれば、未利用熱利用による新たな屋根融雪方式を提供することができる。
【0007】
そこで本発明が解決しようとする課題は、かかる従来技術の問題点を踏まえ、屋根下に設けられた閉鎖空間を温める方式の屋根融雪装置において、化石燃料に頼らず、環境温度に近い低温の未利用熱を熱源として有効活用し、施工性や建物強度を損なうことなく、屋根裏面から表面へ効率よく熱を伝えることができる、屋根の融雪方式を提供することである。特に、冬期、屋根の雪下ろし作業を行う必要がない程度の融雪能力を発揮できる、屋根の融雪方式を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは上記課題について、放熱機構の検討や、非公開の実証試験棟を用いた屋外実証試験などを通し、検討を行った。融雪方式としては、屋根下の閉鎖空間に温風を供給して屋根に積もった雪を融かす方式を採り、屋根裏面から屋根表面までの熱抵抗を減らして低温熱源による融雪を可能にすることに主眼をおいて、研究を進めた。低温熱源としては、多量に存在するが活用方法がなく捨てられている未利用熱を前提とし、低温熱源による融雪が可能なシステムの開発に関する研究を、両出願人共同で実施した。
【0009】
現在の建物では、2時間に1回の割合で建物内の空気を入れ替えるよう義務付けられており、したがって換気排熱は24時間常に発生している。このような環境温度に近い換気排熱、あるいは地中熱を用い、それを屋根裏の一部に設けられた閉鎖空間に供給することにより、内側から屋根を温めて雪を融かす方法とした。しかし、室温と同等かそれ以下である換気排熱を用いる場合、屋根裏面と屋根表面の温度差は小さく熱が伝わりにくくなることから、熱の伝わりにくさを示す熱抵抗を減らす必要がある。
【0010】
そこで、屋根裏面から屋根表面へ熱が伝わりやすく、強度も確保でき、施工が容易な構造についての検討に力を入れた。その結果、軒先部分に放熱部を設置し、その屋根裏面に設けられた閉鎖空間に換気排熱等の温風を供給することとし、屋根裏面から屋根表面へ熱を伝える上で大きな抵抗となっている部分、すなわち熱伝導率が低い部分である木材の野地板を、放熱部では撤去することとした。
【0011】
だが、野地板を除去したそのままでは屋根としての強度を確保できず、積雪などにより屋根が変形する可能性がある。そこで、道路の溝蓋として利用されている金属製の格子状の蓋・グレーチングを、放熱部の補強用として設置することとした。一般に市販されているグレーチングを利用することで、施工が容易で、かつ強度も確保できる構造を得ることができ、これらの研究成果に基づいて本発明を完成するに至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0012】
〔1〕 建築物の屋根下の閉鎖空間に融雪用気体を供給しその伝熱により屋根に積もった雪を融かす方式の融雪屋根構造であって、該閉鎖空間を形成する伝熱室と、屋根表裏間の熱抵抗を減らすために該伝熱室に備えられている熱抵抗低減構造とからなることを特徴とする、融雪屋根構造。
〔2〕 前記熱抵抗低減構造が、屋根を構成する所定部材に替えて設けられた該所定部材よりも熱抵抗の小さい小熱抵抗部材を用いたものであることを特徴とする、〔1〕に記載の融雪屋根構造。
〔3〕 前記小熱抵抗部材が金属製であることを特徴とする、〔2〕に記載の融雪屋根構造。
〔4〕 前記小熱抵抗部材がグレーチング、またはその他の通気口具備の板状部材であることを特徴とする、〔2〕に記載の融雪屋根構造。
【0013】
〔5〕 前記所定部材が木製の野地板である〔2〕、〔3〕、〔4〕のいずれかに記載の融雪屋根構造。
〔6〕 前記融雪用気体は、本融雪屋根構造が設けられる建築物における換気排熱、または地中熱であることを特徴とする、〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕のいずれかに記載の融雪屋根構造。
〔7〕 〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕のいずれかに記載の融雪屋根構造と、該融雪屋根構造の伝熱室に融雪用気体を供給する気体供給構造とからなることを特徴とする、屋根融雪装置。
〔8〕 前記気体供給構造は、本屋根融雪装置が設けられる建築物における換気排熱、または地中熱を供給することを特徴とする、〔7〕に記載の屋根融雪装置。
【0014】
〔9〕 〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕のいずれかに記載の融雪屋根構造を備えていることを特徴とする、屋根。
〔10〕 勾配があり、前記融雪屋根構造が軒先部に設けられていることを特徴とする、〔9〕に記載の屋根。
〔11〕 〔7〕に記載の屋根融雪装置を備えていることを特徴とする、建築物。
〔12〕 前記気体供給構造は、本建築物における換気排熱、または地中熱を供給することを特徴とする、〔11〕に記載の建築物。
【発明の効果】
【0015】
本発明の融雪屋根構造、屋根融雪装置、屋根、および建築物は上述のように構成されるため、これらによれば、屋根下に設けられた閉鎖空間を温める方式の屋根融雪装置において、化石燃料に頼らず環境温度に近い低温の未利用熱を熱源とし、施工性や建物強度を損なうことなく、屋根裏面から表面へ効率よく熱を伝えることができ、冬期、屋根の雪下ろし作業を行う必要がない程度の融雪効果を提供することができる。雪下ろし以外にも屋根上での作業が必要な場合はあるが、そのような作業時に屋根上を人が歩く場合、また積雪により荷重が生じた場合でも、屋根が変形することはない。
【0016】
本発明は、従来使われずに捨てられていた換気排熱などの環境温度に近い低温の熱源を活用することで熱の有効活用を促せるとともに、電気や化石燃料の使用量を削減し、環境負荷の低減も可能となる。青森県を初めとする寒冷地では、冬期の化石燃料の使用量・経費が問題となっているが、本発明を用いることで、燃料使用量の削減も可能となる。もちろん、屋根の雪下ろし作業に伴う危険の回避や負担軽減にも貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明融雪屋根構造の基本構成を示す側断面視の説明図である。
【
図2】
図1に示した融雪屋根構造の作用を示す斜視の説明図である。
【
図3】本発明融雪屋根構造および屋根の構成例を示す側断面視の要部説明図である。
【
図3-2】
図3に示した融雪屋根構造および屋根形成の基礎とする屋根の側断面視の要部説明図である。
【
図4】本発明に係る小熱抵抗部材としてグレーチングを用いる例の側断面視の要部説明図である。
【
図5】冷凍室内試験の結果得られた、本発明融雪屋根構造等の効果を示すグラフである。
【
図6】本発明屋根融雪装置の基本構成を概念的に示す説明図である。
【
図7】実施例1で用いた実証試験棟の外観を示す写真図である。
【
図7-2】
図7に示した実証試験棟の内部構成概略を示す側断面視の説明図である。
【
図8】実施例1における本発明融雪屋根構造の融雪効果を示す写真図である。
【
図9】実施例2で用いた実証試験棟の積雪下の外観を示す写真図である。
【
図10】実施例2における本発明融雪屋根構造の放熱量を示すグラフである。
【
図11】実施例2における本発明融雪屋根構造の融雪効果(残雪量)を示す写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面により本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明融雪屋根構造の基本構成を示す側断面視の説明図である。また、
図2は、
図1に示した融雪屋根構造の作用を示す斜視の説明図である。これらに示すように本融雪屋根構造5は、建築物の屋根下の閉鎖空間に融雪用気体を供給しその伝熱により屋根に積もった雪を融かす方式の融雪屋根構造であり、閉鎖空間を形成する伝熱室2と、屋根表裏間の熱抵抗を減らすために伝熱室2に備えられている熱抵抗低減構造3とからなることを、主たる構成とする。
【0019】
図2に示すように、かかる構成の本融雪屋根構造5においては、閉鎖空間を形成する伝熱室2に熱源からの熱すなわち融雪用気体が供給され、伝熱室2に供給された融雪用気体の熱は、伝熱室2の天井部分を通してその上方にある屋根方向へと伝熱、放熱され、屋根上に積もっている雪を融かすのであるが、この伝熱室2の天井部分には熱抵抗低減構造3が備えられているため、屋根表裏間の熱抵抗が減らされ、融雪用気体の熱の伝熱はより良好に、効果的になされる。それにより、屋根に積もった雪は、より良好に、効果的に融かされることとなる。
【0020】
図3は、本発明融雪屋根構造および屋根の構成例を示す側断面視の要部説明図である。また、
図3-2は、
図3に示した融雪屋根構造および屋根形成の基礎とする屋根の側断面視の要部説明図である。屋根材には、瓦、スレート、アスファルトシングル、金属等さまざまなものがあるが、積雪寒冷地における融雪屋根としてはトタン板等の金属屋根板材が特に適しており、以降はこれを主として説明する。
図3に示すように本融雪屋根構造35は、これに設けられる熱抵抗低減構造33として、小熱抵抗部材を用いることができるが、この小熱抵抗部材とは、屋根を構成する所定部材に替えて、かかる所定部材よりも熱抵抗が小さい部材である。そして、所定部材とは野地板38である。
【0021】
ここで
図3-2を参照して屋根の構造を確認する。本発明融雪屋根構造35を設置する前の屋根p340はいくつかの層から形成されており、通常、上からトタン板等の金属屋根部材37、防水シート36、そして木材を用いた野地板38からなり、その下には垂木39がある。屋根p340の構造中、野地板38の熱抵抗が大きく、屋根表裏間の熱抵抗の大きさの主因となっている。そこで本融雪屋根構造35は、
図3に示すように、これを設置する箇所の野地板38を取り除き、熱抵抗を小さくすることとした。だが、野地板38を取り除いたままでは屋根としての強度を保つことはできない。
【0022】
そこで、野地板38が存在しないことにより必要となる屋根としての強度の保持のために、野地板38よりも熱抵抗が小さい部材である小熱抵抗部材33を、取り除いた野地板38の箇所に設けることとした。これにより、屋根340としての強度を保ちつつ、環境温度に近い低温熱源による屋根雪の融雪が可能となった。小熱抵抗部材33としては、木材である野地板38よりも熱抵抗ができるだけ小さい素材を適宜用いることができる。たとえば金属製の板状部材などである。
【0023】
図3に示すように本融雪屋根構造35は、屋根裏に当たるその天井部は小熱抵抗部材33によって構成するとともに、側壁部などそれ以外の囲繞構造部分は適宜の断熱材を用いて形成するものとすることができる。供給される融雪用気体の熱を、できる限り外部に漏らさずに屋根方向へと伝熱させるためである。また、同じ理由で、融雪用気体を供給するダクト31は伝熱室32に隙間なく接続されるようにすることが望ましい。
【0024】
図3に示すように本融雪屋根構造35は、できるだけ屋根340の軒先に近い箇所に設けることが望ましい。図では屋根面を水平に表しているが、通常は軒先に下る勾配が付けられる。屋根に積もった雪の融雪は、できるだけ位置エネルギーの低い箇所で行うことによってその効果を高めることができるからである。
【0025】
図4は、本発明に係る小熱抵抗部材としてグレーチングを用いる例の側断面視の要部説明図であり、図中(a)は小熱抵抗部材、(b)は小熱抵抗部材に替える前の状態を示す。図示するように本融雪屋根構造45においては、その小熱抵抗部材43としてグレーチングを用いるものとすることができる。グレーチングは、道路の側溝などに利用されている格子状の蓋製品であり、金属製のものやその他の材料製のものがあるが、コストその他を勘案し、適宜の物を用いればよい。
【0026】
グレーチング43は、図中(a)に示すように格子状の構造であり、いわば複数の通気口が規則的に配列している構造である。したがって、融雪用気体はその複数の通気口を通して円滑に屋根裏へと届き、伝熱がなされる。よって、グレーチング43の素材における熱抵抗の大小にはさほど影響されることがない。そして、その上部に設けられる屋根裏面から屋根表面への構成部材を、アスファルトルーフィング等の防水シート46と、トタン板のような金属屋根部材47のみとできるため、図中(b)のように野地板48がある場合と比較して、熱抵抗を、ほぼ10分の1にまですることも可能となる。
【0027】
野地板48を取り除いた後にグレーチング43を組み込むことで、屋根としての強度を容易に確保することができ、屋根上での作業時に人が歩く際や、積雪により荷重が生じても、屋根が変形することはない。したがってグレーチング43は、図中(b)に示した木材製の野地板48のように熱抵抗を大きくすることがなく、本融雪屋根構造45の小熱抵抗部材43として最適である。
【0028】
このようなグレーチングの利点は要するに、融雪用気体の通気口として機能できる格子状の構造にある。したがって、グレーチングに限らず、融雪用気体の通気口として機能し得、かつ屋根の強度を確保し得る構造の板状部材であれば、本発明に係る小熱抵抗部材として特段の限定なく用いることができ、それらの場合も本発明の範囲内である。また、伝熱室に供給された融雪用気体を、何らの固体構造を通すことなく通気口により直接屋根裏へと伝熱できることに鑑みれば、グレーチングや通気口具備板状部材は「小熱抵抗部材」というよりも、「直接的通気部材」または「熱抵抗フリー部材」といえる。
【0029】
なお、下表1は、屋根を構成する各部材における熱伝導率、厚さ、熱抵抗について例示したものである。この表から、本発明融雪屋根構造の無い屋根(既存方式)と、有る屋根―特にグレーチングのような通気口具備板状部材を備える屋根―における熱抵抗値を算出すると、次のようになる。
・既存方式の熱抵抗合計値=金属屋根板材+防水シート+野地板=0.0716020[m2K/W]
・発明方式の熱抵抗合計値=金属屋根板材+防水シート=0.0091020[m2K/W]
【0030】
【0031】
この例でも示される通り、野地板を取り除きグレーチング等を替わりに備えることとする本発明によれば、熱抵抗を大幅に小さくすることができる。ちなみに、表1に示す仕様の金属屋根板材、防水シート等を用いて、既存方式と発明方式の融雪屋根構造モデルを作製し、室温0℃の冷凍室内に両者を置き、同じ温度の温風を供給して試験した。
【0032】
図5は、冷凍室内試験の結果得られた、本発明融雪屋根構造等の効果を示すグラフである。図示するように、発明方式では既存方式に比べて、1~2℃ほど屋根面温度を高められることが確認できた。
【0033】
図6は、本発明屋根融雪装置の基本構成を概念的に示す説明図である。図示するように本屋根融雪装置630は、以上述べたいずれかの構成の融雪屋根構造65と、融雪屋根構造65の伝熱室62に融雪用気体を供給する気体供給構造620とからなることを、主たる構成とする。気体供給構造620は、低温熱源による融雪用気体の伝熱室62への送気を駆動する給気機能部626と、送気駆動された融雪用気体を伝熱室62まで流通させる送気管628とにより構成することができる。
【0034】
かかる構成の本屋根融雪装置630によれば、気体供給構造620の給気機能部626において、低温熱源による融雪用気体の伝熱室62への送気が駆動され、送気駆動された融雪用気体は送気管628内を流通して伝熱室62に供給され、融雪用気体を供給された融雪屋根構造65は上述した作用によって屋根へと熱を伝え、屋根上の雪を融かす。
【0035】
図4までを用いて説明した各構成のものも含む本発明融雪屋根構造65、および屋根融雪装置630に用いられる融雪用気体としては、化石燃料に頼らない環境温度に近い低温の未利用熱として、本融雪屋根構造55が設けられる建築物における換気排熱、または地中熱を好適に用いることができる。この場合、気体供給構造620は、本屋根融雪装置630が備えられる建築物における換気排熱または地中熱を、融雪屋根構造65に供給する。
【0036】
以上説明したいずれかの構成の融雪屋根構造5等を備えている屋根40等もまた、本発明の範囲内である。勾配のある屋根40等においては、融雪屋根構造5等は軒先部またはその近くに設ける構成が、特に望ましい。また、
図6により説明した屋根融雪装置630を備えている建築物自体も、本発明の範囲内である。
【実施例0037】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。なお、本発明完成に至る経過の概要記述をもって実施例とする。
= = = = = = = = = = = =
【0038】
研究テーマ 未利用熱エネルギー活用型融雪システム
1.背景と目的
積雪寒冷地である青森県に多く存在する融雪システムのほとんどは化石燃料を用いている。この化石燃料を未利用熱に転換することができれば、低炭素・脱炭素社会の実現に貢献できる。本研究では、熱エネルギーの中でも、換気排熱や地中熱のように利用されていない熱、もしくは十分に利用されていない熱を活用可能な、融雪システムの開発を目的とする。具体的には、10℃前後の熱を活用可能な融雪システムの開発に取り組む。そして、除雪作業からの解放や雪害の回避による快適な雪国生活の実現に資することを目指す。
【0039】
2.実施例1_実証試験棟による屋外試験
下記に示す特徴の融雪屋根構造を備えた実証試験棟を屋外(地方独立行政法人青森県産業技術センター工業総合研究所敷地内・青森県青森市)に設置し、降雪期の60日間に亘り、建物の換気排熱相当の温風すなわち8~17℃の温風を用いて、融雪屋根構造の効果の有無・程度を確かめる屋外試験を行った。
試験した融雪屋根構造:建築物の屋根下の閉鎖空間に融雪用気体を供給しその伝熱により屋根に積もった雪を融かす方式の融雪屋根構造において、その閉鎖空間を形成する伝熱室と、屋根表裏間の熱抵抗を減らすために伝熱室に備えられている熱抵抗低減構造とからなることを特徴とする。
【0040】
図7は、実施例1で用いた実証試験棟の外観を示す写真図である。また、
図7-2は
図7に示した実証試験棟の内部構成概略を示す側断面視の説明図、
図8は、実施例1における本発明融雪屋根構造の融雪効果を示す写真図である。実証試験棟における試験区構成は次の通りである。
1)試験区 本融雪屋根構造を備えた屋根部分
2)対照区 電気ヒータ方式の融雪屋根構造を備えた屋根部分
3)対照区 融雪屋根構造(融雪用の熱源)が何ら設置されていない屋根部分
図7-2に示すように、実証試験棟の室内は熱源729を備えた一部屋だが、屋根裏は上記3区画に分かれており、1)試験区のみに熱源からの温風を供給するようにした。また、融雪屋根構造75を備える1)試験区、および電気ヒータ方式の2)対照区では、軒先近傍の一定領域の屋根裏にこれらの融雪屋根構造を備える配置とした。
【0041】
図8は、実施例1における本発明融雪屋根構造の融雪効果を示す写真図である。図示するように本試験の結果、熱源設置の無い3)対照区では積雪によって屋根面が覆われているところ、1)試験区では積雪が相当に少なく、電気ヒータ方式の2)対照区にさほど遜色ない融雪効果が得られることがわかった。また、本試験の実施期間中、外気温が-8℃の場合でも1)試験区の屋根表面温度は0℃以上を維持した。これは、融雪機能のない3)対照区と比較し、平均で約2℃高い値であった。以上より、本融雪屋根構造の融雪効果を確認することができた。
【0042】
3.実施例2_改良実証試験棟による屋外試験
実施例1の実証試験棟について、放熱部である伝熱室の空間容積の検討を行い、得られた所定の結果に基づき改良実証試験棟を作製した。これを用い、降雪期の15日間に亘り屋外試験を行った。ただし、換気排熱相当の温風としては実施例1よりも低温帯である7~12℃の温風を用いた。また、試験区構成は次の通りとした。
4)試験区 本融雪屋根構造を備えた屋根部分
5)対照区 何らの融雪屋根構造も備えていない屋根部分
【0043】
また、本試験では、4)試験区における放熱量の測定を行った。測定方法の概要は次の通りである。
・使用機器 :白金測温抵抗体、熱線式風速計
・測定箇所 :融雪構造(伝熱室)に供給される温風の出入口(温度)
温風の供給配管(風速)
・その他条件:出入口の温度差と風速を用いて下記の式より算出
(放熱量)=(風速)×(配管面積)×(密度)×(比熱)×(出入口温度差)/(放熱部面積)
本試験ではさらに、屋根上に設置したスチール定規の目盛りを画像認識することによって、屋根上の残雪量の把握を試みた。
【0044】
図9は、実施例2で用いた実証試験棟の積雪下の外観を示す写真図である。また、
図10は、実施例2における本発明融雪屋根構造(4)試験区)の放熱量を示すグラフである。
図10に示すように、本融雪屋根構造を備えた4)試験区においては、50W/m
2程度の放熱量が得られた。なお、試算によればこのレベルの放熱量は、降雪期を通して屋根の除雪作業を不要とするレベルである。
【0045】
図11は、実施例2における本発明融雪屋根構造の融雪効果(残雪量)を示す写真図であり、試験期間中のある時点における、4)試験区および5)対照区の残雪量測定結果を示す。なお、当該時点の外気温は-1.2℃、降雪は無い状況であった。図示するようにこの時点での4)試験区の残雪量は、5)対照区よりも5cm程度少なく、この残雪量の差はその後、時間の経過とともに開いていくことが確認できた。以上のことから、本発明の融雪効果を確認することができた。
【0046】
4.まとめ
a)本発明は、屋根構造において強度を確保するために必要不可欠でありながら最も熱抵抗の大きい野地板を除去し、失われた強度を金属等製の格子状の蓋(グレーチング)で確保することにより、屋根としての強度を確保しつつ環境温度に近い低温熱源を用いた融雪を可能とする屋根構造である。
b)屋内試験や実証試験棟を用いた屋外試験により、既存の屋根と比較して熱抵抗が低減し、降雪期を通して屋根の雪下ろしを不要とすることができると考えられる50W/m2程度の放熱量を得られ、融雪効果を確認できた。
c)本融雪屋根構造は、新築・既築を問わず無落雪タイプの屋根を備える住宅に活用可能であり、また、三角屋根タイプの住宅やカーポートなどへの応用も期待できる。
本発明の融雪屋根構造、屋根融雪装置、屋根、および建築物によれば、屋根下に設けられた閉鎖空間を温める方式の屋根融雪装置において、化石燃料に頼らず環境温度に近い低温の未利用熱を熱源とし、施工性や建物強度を損なうことなく、屋根裏面から表面へ効率よく熱を伝えることができ、冬期、屋根の雪下ろし作業を行う必要がない程度の融雪効果を提供することができる。したがって、住宅その他の建築分野、および関連する全分野において、産業上利用性が高い発明である。