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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138677
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】落石防護用保護構造物
(51)【国際特許分類】
   E01F 7/04 20060101AFI20241002BHJP
【FI】
E01F7/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049273
(22)【出願日】2023-03-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.令和5年1月28日に「土木学会北海道支部年次技術研究発表会」の予稿集に掲載 2.令和5年1月29日に開催された「土木学会北海道支部年次技術研究発表会」で発表
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100174425
【弁理士】
【氏名又は名称】水崎 慎
(74)【代理人】
【識別番号】100203932
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 克宗
(72)【発明者】
【氏名】小島 克仁
(72)【発明者】
【氏名】河野 克哉
(72)【発明者】
【氏名】岸良 竜
【テーマコード(参考)】
2D001
【Fターム(参考)】
2D001PA06
2D001PB04
2D001PC03
2D001PD05
2D001PD06
2D001PD12
(57)【要約】
【課題】大型化せずに耐衝撃性を向上させた落石防護用保護構造物を提供する。
【解決手段】落石防護用保護構造物10は、擁壁1の防護面2に衝撃構造体6が取り付けられたものである。衝撃構造体6は、150N/mm2以上の圧縮強度を有するセメント質硬化体である超高強度繊維補強コンクリートの正面パネル7と、この正面パネル7と防護面2との間に設置された緩衝材8とを有し、緩衝材8は、発泡体、ゴム状体又はハニカム構造である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
擁壁のうち、衝突物が衝突する防護面に、衝撃構造体が設置され、
前記衝撃構造体が、
150N/mm2以上の圧縮強度を有するセメント質硬化体である超高強度繊維補強コンクリートの正面パネルと、
前記正面パネルと前記防護面との間に設置された緩衝材と、を有する、
ことを特徴とする落石防護用保護構造物。
【請求項2】
前記緩衝材が、
発泡スチロール、発泡ウレタン、発泡ポリエチレン、発泡スポンジゴム、発泡シリコン及び発泡塩化ビニールから選択される一つの発泡体、
クロロプレンゴム、ブチルゴム、スチレンゴム、ニトリルゴム、エチレン-プロピレンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム及び天然ゴムから選択される一つのゴム状体、又は、
クラフト紙、アルミニウム及びアラミド繊維から選択される一つの材料からなるハニカム構造であり、
前記緩衝材の圧縮弾性率が、200~2000N/cm2である、
ことを特徴とする請求項1に記載された落石防護用保護構造物。
【請求項3】
前記衝撃構造体が、前記防護面における上部にある、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載された落石防護用保護構造物。
【請求項4】
前記擁壁の天端に、前記超高強度繊維補強コンクリートの天端パネルが設置された、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載された落石防護用保護構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、山岳の道路沿い等に設置される落石防護用保護構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、山岳の道路沿いや海岸線沿い等には、落石等の防災対策として、防護壁が設置されている。防護壁のほとんどは、無筋コンクリート構造であるところ、落石が衝突することにより、局部破壊が生じる可能性があることから、防護壁の耐衝撃性の向上が課題となっている。特に近年では、山岳斜面の経年劣化のみならず、温暖化に伴う気候変動により、落石の規模が増大している傾向にあるため、課題の解決策を確立することが急務となっている。
【0003】
例えば、下記特許文献1に記載された防護壁(以下、文献公知1発明と記す。)は、落石の衝撃エネルギーを吸収するために、山側の面に、発泡スチロール等の発泡体ブロックと、土砂等が詰められた金属製の籠体とが積層されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-84918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
仮に、文献公知1発明において、耐衝撃性の向上を試みれば、発泡体ブロックの厚みを増すことや、籠体の増強を図ることが考え得るが、体積が増えると、防護壁を設置するための広いスペースを要するこことなる。すなわち、擁壁が設置されるのは、山間部で狭隘な場所であるため、大型の擁壁を設置することができないうえ、大型の擁壁は、設置作業に要するスペースの確保を妨げる。
【0006】
本発明は、この様な実情に鑑みて提案されたものであり、大型化せずに耐衝撃性を向上させた落石防護用保護構造物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る落石防護用保護構造物は、擁壁のうち、衝突物が衝突する防護面に、衝撃構造体が設置され、前記衝撃構造体が、150N/mm2以上の圧縮強度を有するセメント質硬化体である超高強度繊維補強コンクリートの正面パネルと、前記正面パネルと前記防護面との間に設置された緩衝材と、を有する、ことを特徴とする。
【0008】
本発明に係る落石防護用保護構造物は、前記緩衝材が、発泡スチロール、発泡ウレタン、発泡ポリエチレン、発泡スポンジゴム、発泡シリコン及び発泡塩化ビニールから選択される一つの発泡体、クロロプレンゴム、ブチルゴム、スチレンゴム、ニトリルゴム、エチレン-プロピレンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム及び天然ゴムから選択される一つのゴム状体、又は、クラフト紙、アルミニウム及びアラミド繊維から選択される一つの材料からなるハニカム構造であり、前記緩衝材の圧縮弾性率が、200~2000N/cm2である、ことを特徴とする。
【0009】
本発明に係る落石防護用保護構造物は、前記衝撃構造体が、前記防護面における上部にある、ことを特徴とする。
【0010】
前記擁壁の天端に、前記超高強度繊維補強コンクリートの天端パネルが設置されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る落石防護用保護構造物は、擁壁のうち、衝突物が衝突する防護面に、衝撃構造体が設置され、衝撃構造体が、150N/mm2以上の圧縮強度を有するセメント質硬化体である超高強度繊維補強コンクリートの正面パネルと、正面パネルと防護面との間に設置された緩衝材とを有している。すなわち、超高強度繊維補強コンクリートは、一般的なコンクリートと比較して高い強度特性を有しているため、落石防護用保護構造物としての耐衝撃性が向上する。また、強度特性が高い分、厚みを抑えることができ、過剰な表層材も不要となる。取り換えが容易でない擁壁のコンクリート部分の損傷は防止され、正面パネルが損傷した際、正面パネルの交換も可能である。
【0012】
本発明に係る落石防護用保護構造物は、緩衝材が、発泡スチロール、発泡ウレタン、発泡ポリエチレン、発泡スポンジゴム、発泡シリコン及び発砲塩化ビニールから選択される一つの発泡体、クロロプレンゴム、ブチルゴム、スチレンゴム、ニトリルゴム、エチレン-プロピレンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム及び天然ゴムから選択される一つのゴム状体、又は、クラフト紙、アルミニウム及びアラミド繊維から選択される一つの材料からなるハニカム構造であり、緩衝材の圧縮弾性率が、200~2000N/cm2、より好ましくは400~1000N/cm2である。緩衝材の圧縮弾性率が所定の数値範囲であることで、正面パネルにおいて、優れた荷重分散性が実現する。
【0013】
本発明に係る落石防護用保護構造物は、衝撃構造体が、防護面における上部にある。よって、防護面の全面に衝撃構造体が設置された場合と比較して、衝撃構造体の交換が容易である。また、土砂によって埋まるのは防護面の下部であるため、防護面の上部にある衝撃構造体は、機能を果たすことができる。
【0014】
本発明に係る落石防護用保護構造物は、擁壁の天端に、超高強度繊維補強コンクリートの天端パネルが設置されている。仮に、衝突物の衝撃が擁壁の防護面に加わり、ひび割れが擁壁の天端に至った場合であっても、天端の局部破壊が超高強度繊維補強コンクリートの天端パネルによって抑圧される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の第一実施形態に係る落石防護用保護構造物の概略図である。(a)は(b)のI-I断面であって、落石防護用保護構造物の側面断面図であり、(b)は落石防護用保護構造物の正面図である。
図2図2は、本発明の第二実施形態に係る落石防護用保護構造物の概略側面断面図である。
図3図3は、本発明の第三実施形態に係る落石防護用保護構造物の概略図である。(a)は(b)のIII-III断面であって、落石防護用保護構造物の側面断面図であり、(b)は落石防護用保護構造物の正面図である。
図4図4は、本発明の第四実施形態に係る落石防護用保護構造物の概略側面断面図である。
図5図5は、本発明の第五実施形態に係る落石防護用保護構造物の概略側面断面図である。
図6図6は、本発明の第六実施形態に係る落石防護用保護構造物の概略側面断面図である。
図7図7は、本発明の第七実施形態に係る落石防護用保護構造物の概略側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施形態に係る落石防護用保護構造物を図面に基づいて説明する。図1には、本発明の第一実施形態に係る落石防護用保護構造物10が示されている。
【0017】
図1に示おいて、第一実施形態に係る落石防護用保護構造物10は、山岳の道路沿いや海岸線沿い等に、落石等の防災対策として設置されるものであり、擁壁1の正面に衝撃構造体6が取り付けられたものである。擁壁1は、現場打ちコンクリートによって構築され、又はプレキャストコンクリートとして製造される。擁壁1は、重力式であり、下部に向かうにしたがって上部よりも厚みが増し、側面視において概ね台形である(同図(a)参照)。擁壁1の正面は、落石等の衝突物が衝突することが想定される防護面2であり、擁壁1の背面は、下部に向かうにしたがって背面側に向けて傾斜した反対面3である。擁壁1の上面は天端面4であり、擁壁1の下面は基礎面5である。防護面2には、衝撃構造体6が設置されている。
【0018】
衝撃構造体6は、超高強度繊維補強コンクリートの正面パネル7と、この正面パネル7と防護面2との間に設置された緩衝材8とを有している。衝撃構造体6は、防護面2において、全面に渡って設置され、アンカー11及びアンカープレート12等で固定されている。正面パネル7の厚みは、20~100mm、好ましくは30~80mmである。緩衝材8の厚みは、100~1000mm、好ましくは200~500mmである。
【0019】
緩衝材8は、発泡体、ゴム状体又はハニカム構造である。発泡体は、例えば、発泡スチロール、発泡ウレタン、発泡ポリエチレン、発泡スポンジゴム、発泡シリコン及び発砲塩化ビニールから選択される。ゴム状体は、クロロプレンゴム、ブチルゴム、スチレンゴム、ニトリルゴム、エチレン-プロピレンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム及び天然ゴムから選択される。ハニカム構造は、クラフト紙、アルミニウム及びアラミド繊維から選択される。緩衝材8の圧縮弾性率は、200~2000N/cm2、より好ましくは400~1000N/cm2、さらに好ましくは450~600N/cm2である。
【0020】
超高強度繊維補強コンクリートは、150N/mm2以上の圧縮強度を有するセメント質硬化体である。具体的には、セメント質硬化体に用いられるセメント組成物は、セメント、BET比表面積が15~25m2/gのシリカフューム(以下、「シリカフューム」と略すことがある。)、50%累積粒径が0.8~5μmの無機粉末(以下、「無機粉末」と略すことがある。)、最大粒径が1.2mm以下の骨材A、高性能減水剤、消泡剤及び水を含むものであって、セメント、シリカフューム及び無機粉末の合計量100体積%中、セメントの割合が55~65体積%、シリカフュームの割合が5~25体積%、無機粉末の割合が15~35体積%である。
【0021】
セメントの種類は、特に限定されるものではなく、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメントを使用することができる。中でも、セメント組成物の流動性を向上させる観点から、中庸熱ポルトランドセメントまたは低熱ポルトランドセメントを使用することが好ましい。
【0022】
シリカフュームのBET比表面積は、15~25m2/g、好ましくは17~23m2/g、特に好ましくは18~22m2/gである。該比表面積が15m2/g未満の場合、セメント組成物の強度発現性が低下する。該比表面積が25m2/gを超える場合、硬化前のセメント組成物の流動性が低下する。
【0023】
50%累積粒径が0.8~5μmの無機粉末としては、例えば、石英粉末(珪石粉末)、火山灰、フライアッシュ(分級または粉砕したもの)、スラグ粉末、石灰石粉末、長石類粉末、ムライト類粉末、アルミナ粉末、シリカゾル、炭化物粉末、窒化物粉末、エメリー砂(人工または天然)の粉砕物等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、セメント組成物の流動性及び強度発現性を向上させる観点から、石英粉末またはフライアッシュを使用することが好ましい。なお、本明細書中、50%累積粒径が0.8~5μmの無機粉末には、セメントは含まれないものとする。
【0024】
上記無機粉末の50%累積粒径は、0.8~5μm、好ましくは1~4μm、より好ましくは1.1~3.5μm、特に好ましくは1.2μm以上、3μm未満である。該粒径が0.8μm未満の場合、セメント組成物の流動性が低下する。該粒径が5μmを超える場合、セメント組成物の強度発現性が低下する。なお、本明細書中、無機粉末の50%累積粒径は、体積基準である。無機粉末の50%累積粒径は、市販の粒度分布測定装置(例えば、日機装社製、製品名「マイクロトラックHRA モデル9320-X100」)を用いて求めることができる。具体的には、粒度分布測定装置を用いて、累積粒度曲線を作成し、該累積粒度曲線から50%累積粒径を求めることができる。この際、試料を分散させる溶媒であるエタノール20cm3に対して、試料0.06gを添加し、90秒間、超音波分散装置(例えば、日本精機製作所社製、製品名「US300」)を用いて超音波分散したものを測定する。
【0025】
上記無機粉末の最大粒径は、セメント組成物の強度発現性を向上させる観点から、好ましくは15μm以下、より好ましくは14μm以下、特に好ましくは13μm以下である。上記無機粉末の95%累積粒径は、セメント組成物の強度発現性を向上させる観点から、好ましくは8μm以下、より好ましくは7μm以下、特に好ましくは6μm以下である。
【0026】
上記無機粉末としては、SiO2を主成分とするものが好ましい。上記無機粉末中のSiO2の含有率が、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、特に好ましくは70質量%以上であれば、セメント組成物の強度発現性をより向上させることができる。
【0027】
セメント組成物において、セメント、シリカフューム及び上記無機粉末の合計量100体積%中、セメントの割合は55~65体積%(好ましくは、57~63体積%)、シリカフュームの割合は5~25体積%(好ましくは、7~23体積%)、上記無機粉末の割合は15~35体積%(好ましくは17~33体積%)である。セメントの割合が55体積%未満の場合、セメント組成物の強度発現性が低下する。セメントの割合が65体積%を超える場合、セメント組成物の流動性が低下する。シリカフュームの割合が5体積%未満の場合、セメント組成物の強度発現性が低下する。シリカフュームの割合が25体積%を超える場合、セメント組成物の流動性が低下する。上記無機粉末の割合が15体積%未満の場合、セメント組成物の強度発現性が低下する。上記無機粉末の割合が35体積%を超える場合、セメント組成物の流動性が低下する。
【0028】
骨材Aとしては、川砂、山砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂、天然エメリー砂、人工細骨材(例えば、スラグ細骨材や、フライアッシュ等を焼成してなる焼成細骨材や、人工エメリー砂や、アルミナまたは炭化物(例えば、炭化ケイ素、炭化ホウ素)の粗砕物等)、再生細骨材またはこれらの混合物等が挙げられる。骨材Aの最大粒径は、1.2mm以下、好ましくは1.1mm以下、より好ましくは1.0mm以下である。該最大粒径が1.2mm以下であれば、セメント組成物の強度発現性をより向上させることができ、300N/mm2以上(好ましくは400N/mm2以上)の圧縮強度を発現することができる場合がある。骨材Aの粒度分布は、セメント組成物の流動性及び強度発現性を向上させる観点から、0.6mm以下の粒径の骨材の割合が、95質量%以上、0.3mm以下の粒径の骨材の割合が、40~50質量%、及び、0.15mm以下の粒径の骨材の割合が、6質量%以下であることが好ましい。セメント組成物中の骨材Aの割合は、好ましくは20~40体積%、より好ましくは22~39体積%、さらに好ましくは25~38体積%、さらに好ましくは30~37体積%、特に好ましくは32~36体積%である。該割合が20体積%以上であれば、セメント組成物の流動性を向上させることができると共に、セメント組成物の発熱量が小さくなり、かつ、セメント質硬化体の収縮量が小さくなる。該割合が40体積%以下であれば、セメント組成物の強度発現性を向上させることができる。
【0029】
高性能減水剤としては、ナフタレンスルホン酸系、メラミン系、ポリカルボン酸系等の高性能減水剤を使用することができる。中でも、セメント組成物の流動性及び強度発現性を向上させる観点から、ポリカルボン酸系の高性能減水剤が好ましい。高性能減水剤の配合量は、セメント、シリカフューム及び無機粉末の合計量100質量部に対して、固形分換算で、好ましくは0.2~1.5質量部であり、より好ましくは0.4~1.2質量部である。該量が0.2質量部以上であれば、減水性能が向上し、セメント組成物の流動性が向上する。該量が1.5質量部以下であれば、セメント組成物の強度発現性が向上する。
【0030】
消泡剤としては、市販品を使用することができる。消泡剤の配合量は、セメント、シリカフューム及び無機粉末の合計量100質量部に対して、好ましくは0.001~0.1質量部、より好ましくは0.01~0.07質量部、特に好ましくは0.01~0.05質量部である。該量が0.001質量部以上であれば、セメント組成物の強度発現性が向上する。該量が0.1質量部を超えると、セメント組成物の強度発現性の向上効果が頭打ちとなる。
【0031】
セメント組成物は、長期強度の低下を避ける等の観点から、通常、ガラス繊維を含まない。また、セメント組成物は、セメント組成物を硬化してなる硬化体(セメント質硬化体)の曲げ強度や破壊エネルギー等を向上させる観点から、金属繊維、有機繊維及び炭素繊維からなる群より選ばれる一種以上の繊維を含んでもよい。セメント組成物中の繊維の割合は、好ましくは3体積%以下、より好ましくは0.3~2.5体積%、さらに好ましくは0.4~2.3体積%、特に好ましくは0.5~2.0体積%である。該割合が3体積%以下であれば、セメント組成物の流動性や作業性を低下させることなく、硬化体の曲げ強度や破壊エネルギー等を向上させることができる。
【0032】
金属繊維としては、鋼繊維、ステンレス繊維、アモルファス繊維等が挙げられる。中でも、鋼繊維は、強度に優れており、また、コストや入手のし易さの観点から好適である。金属繊維の寸法は、セメント組成物中における金属繊維の材料分離の防止や、硬化体の曲げ強度の向上の観点から、直径が0.01~1.0mm、長さが2~30mmであることが好ましく、直径が0.05~0.5mm、長さが5~25mmであることがより好ましい。また、金属繊維のアスペクト比(繊維長/繊維直径)は、好ましくは20~200、より好ましくは40~150である。さらに、金属繊維の形状は、直線状よりも、何らかの物理的付着力を付与する形状(例えば、螺旋状や波形)であることが好ましい。螺旋状等の形状であれば、金属繊維とマトリックスとが、引き抜けながら応力を担保するため、硬化体の曲げ強度が向上する。
【0033】
有機繊維としては、後述するセメント質硬化体の製造方法における加熱に耐えうるものであればよく、例えば、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ポリエチレン繊維、ポリアリート繊維、ポリプロピレン繊維等が挙げられる。炭素繊維としては、PAN系炭素繊維やピッチ系炭素繊維が挙げられる。有機繊維及び炭素繊維の寸法は、セメント組成物中におけるこれらの繊維の材料分離の防止や、硬化体の破壊エネルギーの向上の観点から、直径が0.005~1.0mm、長さ2~30mmであることが好ましく、直径が0.01~0.5mm、長さが5~25mmであることがより好ましい。また、有機繊維及び炭素繊維のアスペクト比(繊維長/繊維直径)は、好ましくは20~200、より好ましくは30~150である。
【0034】
水としては、水道水等を使用することができる。水の配合量は、セメント、シリカフューム及び無機粉末の合計量100質量部に対して、好ましくは10~20質量部、より好ましくは12~18質量部、特に好ましくは14~16質量部である。該量が10質量部以上であれば、セメント組成物の流動性が向上する。該量が20質量部以下であれば、セメント組成物の強度発現性が向上する。
【0035】
上記セメント組成物からなるモルタル(後述する骨材Bを含まないもの)の硬化前のフロー値は、「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)11.フロー試験」に記載される方法において15回の落下運動を行わないで測定した値(以下、「0打ちフロー値」ともいう。)として、好ましくは200mm以上、より好ましくは210mm以上、特に好ましくは220mm以上である。また、上記セメント組成物からなるモルタル(後述する骨材Bを含まないもの)を硬化してなるセメント質硬化体の圧縮強度は、好ましくは320N/mm2以上、より好ましくは350N/mm2以上、さらに好ましくは400N/mm2以上、特に好ましくは450N/mm2以上である。なお、上記骨材Aとして、修正モース硬度が9以上(好ましくは9~14、より好ましくは9~13、さらに好ましくは10~13、特に好ましくは11~13)のもの(例えば、天然または人工(人造)のエメリー砂、アルミナや炭化物の粗砕物等)を使用したセメント組成物からなるモルタル(後述する骨材Bを含まないもの)によれば、450N/mm2以上(特に、エメリー砂を用いる場合、500N/mm2以上)の圧縮強度を発現させることが可能である。
【0036】
セメント組成物は、最大粒径が1.2mmを超え、13mm以下の骨材Bを含むことができる。骨材Bとしては、川砂、山砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂、天然エメリー砂、人工細骨材(例えば、人工エメリー砂や、スラグ細骨材や、フライアッシュ等を焼成してなる焼成細骨材)、再生細骨材、川砂利、山砂利、陸砂利、砕石、人工粗骨材(例えば、スラグ粗骨材や、フライアッシュ等を焼成してなる焼成粗骨材)、再生粗骨材またはこれらの混合物等が挙げられる。骨材Bの最大粒径は、13mm以下、好ましくは12mm以下、より好ましくは11mm以下、特に好ましくは10mm以下である。該最大粒径が13mm以下であれば、セメント組成物の強度発現性が向上し、例えば、300N/mm2以上の圧縮強度を発現することができる。また、骨材Bの最大粒径は、コストの低減等の観点から、1.2mmを超える値であり、好ましくは3mm以上、より好ましくは5mm以上、特に好ましくは7mm以上である。なお、本明細書中、骨材Bの最大粒径が5mm以上の場合における「最大粒径」とは、骨材B全体の90質量%以上が通るふるいのうち、最小寸法のふるいの呼び寸法で示される骨材Bの粒径(一般に、粗骨材の最大粒径の定義として知られているもの)をいう。
【0037】
骨材Bの最小粒径は、好ましくは骨材Aの最大粒径を超える値であり、より好ましくは2mm以上、さらに好ましくは3mm以上、さらに好ましくは4mm以上、特に好ましくは5mm以上(この場合、粗骨材に該当する。)である。なお、本明細書中、骨材Bの最小粒径とは、骨材Bの中の最も粒径が小さいものから粒径が大きなものに向かって累積していった場合において、骨材B全体の15質量%に達したときの骨材Bの粒径をいう。
【0038】
セメント組成物中の骨材Aと骨材Bの合計量の割合は、好ましくは25~40体積%、より好ましくは30~38体積%、特に好ましくは32~36体積%である。該割合が25体積%以上であれば、セメント組成物の発熱量が小さくなり、かつ、セメント質硬化体の収縮量が小さくなる。該割合が40体積%以下であれば、セメント組成物の強度発現性を向上させることができる。骨材Aと骨材Bの合計量に対する骨材Bの割合は、好ましくは40体積%以下、より好ましくは30体積%以下である。該割合が40体積%以下であれば、セメント組成物の強度発現性(例えば、圧縮強度)を向上させることができる。骨材Bを含むセメント組成物(例えば、コンクリート)を硬化してなるセメント質硬化体の圧縮強度は、好ましくは300N/mm2以上、より好ましくは320N/mm2以上、特に好ましくは340N/mm2以上である。
【0039】
以下、セメント組成物を硬化してなるセメント質硬化体の製造方法について詳説する。セメント質硬化体の製造方法の一例は、上述したセメント組成物を型枠内に打設して、未硬化の成形体を得る成形工程と、未硬化の成形体を、10~40℃で24時間以上、封緘養生または気中養生した後、型枠から脱型し、硬化した成形体を得る常温養生工程と、硬化した成形体について、70℃以上100℃未満で1時間以上の、蒸気養生もしくは温水養生と、100~200℃で1時間以上のオートクレーブ養生のいずれか一方または両方を行い、加熱養生後の硬化体を得る加熱養生工程と、加熱養生後の硬化体を、150~200℃で24時間以上、加熱(ただし、オートクレーブ養生による加熱を除く。)して、セメント質硬化体を得る高温加熱工程を含むものである。
【0040】
[成形工程]
本工程は、セメント組成物を型枠内に打設して、未硬化の成形体を得る工程である。打設を行う前に、本発明のセメント組成物を混練する方法としては、特に限定されるものではない。また、混練に用いる装置も特に限定されるものではなく、オムニミキサ、パン型ミキサ、二軸練りミキサ、傾胴ミキサ等の慣用のミキサを使用することができる。さらに、打設(成形)方法も特に限定されるものではない。なお、本工程における未硬化の成形体は、セメント組成物中の気泡を低減又は除去したセメント組成物からなるものであってもよい。セメント組成物中の気泡を低減又は除去することで、セメント組成物の強度発現性をより向上させることができる。セメント組成物中の気泡を低減又は除去する方法としては、(1)セメント組成物の混練を減圧下で行う方法、(2)混練後のセメント組成物を、型枠内に打設する前に減圧して脱泡させる方法、(3)セメント組成物を型枠内に打設した後、減圧して脱泡させる方法等が挙げられる。
【0041】
[常温養生工程]
本工程は、未硬化の成形体を、10~40℃(好ましくは15~30℃)で24時間以上(好ましくは24~72時間、より好ましくは24~48時間)、封緘養生または気中養生した後、型枠から脱型し、硬化した成形体を得る工程である。養生温度が10℃以上であれば、養生時間を短くすることができる。養生温度が40℃以下であれば、セメント質硬化体の圧縮強度を向上させることができる。養生時間が24時間以上であれば、脱型の際に、硬化した成形体に欠けや割れ等の欠陥が生じにくくなる。また、本工程において、硬化した成形体が、好ましくは20~100N/mm2、より好ましくは30~80N/mm2の圧縮強度を発現した時に、硬化した成形体を型枠から脱型することが好ましい。該圧縮強度が20N/mm2以上であれば、脱型の際に、硬化した成形体に欠けや割れ等の欠陥が生じにくくなる。該圧縮強度が100N/mm2以下であれば、後述する吸水工程において、少ない労力で、硬化した成形体に吸水させることができる。
【0042】
[加熱養生工程]
本工程は、前工程で得られた硬化した成形体について、70℃以上100℃未満(好まくは75~95℃、より好ましくは80~92℃)で1時間以上の、蒸気養生もしくは温水養生と、100~200℃(好ましくは160~190℃)で1時間以上のオートクレーブ養生のいずれか一方または両方を行い、加熱養生後の硬化体を得る工程である。本工程において、蒸気養生または温水養生のみを行う場合、その養生時間は、好ましくは12時間以上、より好ましくは24~96時間、特に好ましくは36~72時間である。オートクレーブ養生のみを行う場合、その養生時間は、好ましくは2時間以上、より好ましくは3~60時間、特に好ましくは4~48時間である。蒸気養生もしくは温水養生とオートクレーブ養生の両方を行う場合(例えば、蒸気養生もしくは温水養生を行った後、さらにオートクレーブ養生を行う場合)、蒸気養生もしくは温水養生における養生時間は、好ましくは1~72時間、より好ましくは2~48時間であり、オートクレーブ養生における養生時間は、好ましくは1~24時間、より好ましくは2~18時間である。本工程において、養生温度が前記範囲内であれば、養生時間を短くすることができ、また、セメント質硬化体の圧縮強度を向上させることができる。また、本工程において、養生時間が前記範囲内であれば、セメント質硬化体の圧縮強度を向上させることができる。
【0043】
[高温加熱工程]
本工程は、加熱養生後の硬化体を、150~200℃(好ましくは170~190℃)で24時間以上(好ましくは24~72時間、より好ましくは36~48時間)、加熱(ただし、オートクレーブ養生による加熱を除く。)して、セメント質硬化体を得る工程である。本工程における加熱は、通常、乾燥雰囲気下(換言すると、水や水蒸気を人為的に供給しない状態)で行われる。加熱温度が150℃以上であれば、加熱時間を短くすることができる。加熱温度が200℃以下であれば、セメント質硬化体の圧縮強度を向上させることができる。加熱時間が24時間以上であれば、セメント質硬化体の圧縮強度を向上させることができる。
【0044】
[吸水工程]
常温養生工程と加熱養生工程の間に、常温養生工程において得られた硬化した成形体に吸水させる吸水工程を含んでもよい。硬化した成形体に吸水させる方法としては、該成形体を水中に浸漬させる方法が挙げられる。また、該成形体を水中に浸漬させる方法において、短時間で吸水量を増やし、セメント質硬化体の圧縮強度を大きくする観点から、(1)該成形体を、減圧下の水の中に浸漬させる方法、(2)該成形体を、沸騰している水の中に浸漬させた後、該成形体を浸漬させたまま、水温を40℃以下に低下させる方法、(3)該成形体を、沸騰している水の中に浸漬させた後、該成形体を沸騰している水から取り出して、次いで、40℃以下の水に浸漬させる方法、(4)該成形体を、加圧下の水の中に浸漬させる方法、又は(5)該成形体への水の浸透性を向上させる薬剤を溶解させた水溶液の中に、該成形体を浸漬させる方法、が好ましい。
【0045】
上記成形体を、減圧下の水の中に浸漬させる方法としては、真空ポンプや大型の減圧容器等の設備を利用する方法が挙げられる。上記成形体を、沸騰している水の中に浸漬させる方法としては、高温高圧容器や熱温水水槽等の設備を利用する方法が挙げられる。硬化した成形体を、減圧下の水または沸騰している水の中に浸漬させる時間は、吸水率を高くする観点から、好ましくは3分間以上、より好ましくは8分間以上、特に好ましくは20分間以上である。該時間の上限は、セメント質硬化体の圧縮強度をより高くする観点から、好ましくは60分間、より好ましくは45分間である。
【0046】
吸水工程における吸水率は、セメント組成物が粗骨材を含まない場合(セメント組成物が骨材Bを含まない、あるいは、セメント組成物中の骨材Bが粗骨材に該当しない場合)、φ50×100mmの硬化した成形体100体積%に対する水の割合として、好ましくは0.2体積%以上、より好ましくは0.3~2.0体積%、特に好ましくは0.35~1.7体積%であり、セメント組成物が粗骨材を含む場合(セメント組成物中の骨材Bが粗骨材に該当する場合)、φ100×200mmの硬化した成形体100体積%に対する水の割合として、好ましくは0.2体積%以上、より好ましくは0.3~2.0体積%、特に好ましくは0.35~1.7体積%である。これらの吸水率が0.2体積%以上であれば、セメント質硬化体の圧縮強度をより高めることができる。
【0047】
以上のとおり、衝撃構造体6の正面パネル7は、一般的なコンクリートと比較して高い強度特性を有しているため、落石防護用保護構造物10としての耐衝撃性が向上する。また、強度特性が高い分、厚みを抑えることができ、過剰な表層材も不要となる。正面パネル7が損傷した際、正面パネル7の交換も可能となる。また、緩衝材8の圧縮弾性率が所定の数値範囲(200~2000N/cm2、より好ましくは400~1000N/cm2、さらに好ましくは450~600N/cm2)であることで、正面パネル7において、優れた荷重分散性が実現し、擁壁1のコンクリート部分の損傷が防止される。
【0048】
次に、本発明の他の実施形態を図面に基づいて説明する。図2には、第二実施形態に係る落石防護用保護構造物20が示され、図3には、第三実施形態に係る落石防護用保護構造物30が示され、図4には、第四実施形態に係る落石防護用保護構造物40が示され、図5には、第五実施形態に係る落石防護用保護構造物50が示され、図6には、第六実施形態に係る落石防護用保護構造物60が示され、図7には、第七実施形態に係る落石防護用保護構造物70が示されている。なお、以下では、主に第一実施形態と異なる構成が説明され、第一実施形態と同様の構成は説明が適宜省略されている。
【0049】
図2に示されているとおり、第二実施形態に係る落石防護用保護構造物20は、支持層に打たれた杭13を有している点において、第一実施形態に係る落石防護用保護構造物10と異なる。本実施形態であっても、落石防護用保護構造物10と同じ効果を奏するし、擁壁21の形状を直方体とすることも可能となる。
【0050】
図3に示されているとおり、第三実施形態に係る落石防護用保護構造物30は、衝撃構造体36が、擁壁31の防護面32における上部にのみ設置され、下部に設置されておらず、下部では防護面32が露出している点において、第一実施形態に係る落石防護用保護構造物10と異なる。
【0051】
衝撃構造体36は、防護面32において、概ね上半分の大きさであり、例えば鋼製治具14を介して設置されている。この場合、衝撃構造体36を防護面32に固定するためのアンカー等は不要である。鋼製治具14は、形鋼等から構成されており、衝撃構造体36の側縁に沿って伸びた側面フレーム15と、衝撃構造体36の下縁に沿って伸びた下面フレーム16とを有している。本実施形態であっても、落石防護用保護構造物10と同じ効果を奏するし、防護面2の全面に渡って衝撃構造体6が設置された落石防護用保護構造物10と比較して、衝撃構造体36の交換が容易である。また、土砂によって埋まるのは防護面32の下部であるため、防護面32の上部にある衝撃構造体36は、落石に対して機能を果たすことができる。
【0052】
図4に示されているとおり、第四実施形態に係る落石防護用保護構造物40は、擁壁41の天端面44に、超高強度繊維補強コンクリートの天端パネル49が設置されている点において、第一実施形態に係る落石防護用保護構造物10と異なる。天端パネル49は、アンカーや接着剤によって天端面44に固定され、天端パネル49と天端面44との間には、緩衝材48が設置されていない。本実施形態であっても、落石防護用保護構造物10と同じ効果を奏するし、仮に、衝突物の衝撃が防護面42に加わり、ひび割れが天端面44に至った場合であっても、天端面44の局部破壊が天端パネル49によって抑圧される。
【0053】
図5に示されているとおり、第五実施形態に係る落石防護用保護構造物50は、擁壁51の天端面54及び衝撃構造体56の上面に、超高強度繊維補強コンクリートの天端パネル59が設置されている点において、第一実施形態に係る落石防護用保護構造物10と異なる。第四実施形態に係る落石防護用保護構造物40と同様に、天端パネル59は、アンカーや接着剤によって天端面54に固定され、天端パネル59と天端面54との間には、緩衝材58が設置されていない。本実施形態であっても、落石防護用保護構造物10と同じ効果を奏するし、落石防護用保護構造物40と同様に、仮に、衝突物の衝撃が防護面52に加わり、ひび割れが天端面54に至った場合であっても、天端面54の局部破壊が天端パネル59によって抑圧されるうえ、正面パネル57や緩衝材58が天端面54側から張り出すことも抑圧される。なお、本実施形態の変形例では、天端パネル59がアンカー等で天端面54に強固に固定されれば、正面パネル57は、アンカー等を要さず、接着剤等で固定されればよい。天端パネル59と正面パネル57とが接着等で一体化され、アンカー等で天端面54に強固に固定されれば、アンカー等の使用数が少なくなり、衝撃構造体56の交換も容易となる。
【0054】
図6に示されているとおり、第六実施形態に係る落石防護用保護構造物60は、第三実施形態に係る落石防護用保護構造物30と同様に、衝撃構造体66が、擁壁61の防護面62における上部にのみ設置され、下部に設置されておらず、下部では防護面62が露出している点、及び、第四実施形態に係る落石防護用保護構造物40と同様に、擁壁61の天端面64に、超高強度繊維補強コンクリートの天端パネル69が設置されている点において、第一実施形態に係る落石防護用保護構造物10と異なる。衝撃構造体66は、鋼製治具14を介して設置されている。
【0055】
本実施形態であっても、落石防護用保護構造物10と同じ効果を奏するし、防護面2の全面に渡って衝撃構造体6が設置された落石防護用保護構造物10と比較して、落石防護用保護構造物30と同様に、衝撃構造体66の交換が容易である。また、落石防護用保護構造物30と同様に、土砂によって埋まるのは防護面62の下部であるため、防護面62の上部にある衝撃構造体66は、落石に対して機能を果たすことができる。また、落石防護用保護構造物40と同様に、仮に、衝突物の衝撃が防護面62に加わり、ひび割れが天端面64に至った場合であっても、天端面64の局部破壊が天端パネル69によって抑圧される。
【0056】
なお、落石防護用保護構造物60の変形例では、第五実施形態に係る落石防護用保護構造物50と同様に、擁壁61の天端面64及び衝撃構造体66の上面に、天端パネル69が設置される。この場合、天端パネル69と正面パネル67とが一体であってもよい。この場合、天端パネル69がアンカー等で天端面64に強固に固定されれば、正面パネル67は、アンカー等を要さず、接着剤等で固定されればよい。
【0057】
図7に示されているとおり、第七実施形態に係る落石防護用保護構造物70は、第二実施形態に係る落石防護用保護構造物20と同様に、支持層に打たれた杭13を有している点、第四実施形態に係る落石防護用保護構造物40と同様に、擁壁71の天端面74に、超高強度繊維補強コンクリートの天端パネル79が設置されている点において、第一実施形態に係る落石防護用保護構造物10と異なる。本実施形態であっても、落石防護用保護構造物10と同じ効果を奏するし、落石防護用保護構造物20と同様に、擁壁71の形状を直方体とすることも可能となるうえ、落石防護用保護構造物40と同様に、仮に、衝突物の衝撃が防護面72に加わり、ひび割れが天端面74に至った場合であっても、天端面74の局部破壊が天端パネル79によって抑圧される。
【0058】
なお、落石防護用保護構造物70の変形例では、第五実施形態に係る落石防護用保護構造物50と同様に、擁壁71の天端面74及び衝撃構造体76の上面に、天端パネル79が設置される。この場合、天端パネル79と正面パネル77とが一体であってもよい。この場合、天端パネル79がアンカー等で天端面74に強固に固定されれば、正面パネル77は、アンカー等を要さず、接着剤等で固定されればよい。
【0059】
次に、本発明の実施例を説明する。
【0060】
実施例の超高強度繊維補強コンクリートでは、セメント組成物は、水結合材比(W/B)を14%とし、鋼繊維の混入率は体積の外割で3.0%とした。圧縮強度は311N/mm2であった。実施例の圧縮弾性率は、それぞれ、200N/cm2、500N/cm2、850N/cm2、2000N/cm2であった。擁壁は、幅3000mm、高さ2000mm、奥行1300mmとした。正面パネルの厚みは20mm、50mm、100mm、緩衝材の厚みは100mm、250mm、1000mmとした。正面パネルは、防護面ならびに天端面に設置した。緩衝材は防護面にのみ設置した。防護面に設置する際は鋼製治具により固定した(第六実施形態、図6参照)。比較例は、衝撃構造体を有さず、擁壁のみである。
【0061】
【表1】
【0062】
実施例1~9の擁壁の防護面(衝撃構造体)及び比較例の防護面に重錘を衝突させた。重錘は質量890kgの鋼製であり、直径500mm、全長690mmの円柱状である。重錘は、2台のクレーンを用いた振り子運動によって擁壁に衝突させ、落下高さは10mとした。実験の結果、補強を行わなかった比較例は衝突荷重の作用により損傷し、衝突位置を中心に上下左右にひび割れが進展し、擁壁の半分の中心部よりも先にひび割れが生じて破壊状態となった。一方、実施例は、衝撃構造体で防護面を補強することで、擁壁の破壊を防ぐことができた。
【0063】
以上、本発明の実施形態を詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。そして本発明は、特許請求の範囲に記載された事項を逸脱することがなければ、種々の設計変更を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0064】
1、21、31、41、51、61、71 擁壁
2、22、32、42、52、62、72 防護面
3、23、33、43、53、63、73 反対面
4、24、34、44、54、64、74 天端面
5、25、35、45、55、65、75 基礎面
6、26、36、46、56、66、76 衝撃構造体
7、27、37、47、57、67、77 正面パネル
8、28、38、48、58、68、78 緩衝材
10、20、30、40、50、60、70 落石防護用保護構造物
11 アンカー
12 アンカープレート
13 杭
14 鋼製治具
15 側面フレーム
16 下面フレーム
49、59、69、79 天端パネル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7