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  • 特開-ヘアピン核酸を製造する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138694
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】ヘアピン核酸を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/00 20060101AFI20241002BHJP
【FI】
C12N15/00 100Z
C12N15/00 ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049298
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】523043142
【氏名又は名称】東京核酸合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 晃充
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 愛美
(72)【発明者】
【氏名】松井 雅章
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、余分な第3の核酸を使用することなく、比較的長い配列を有するヘアピン核酸を効率的に製造する方法を提供することである。
【解決手段】第1連結部、及び連結末端から順にステム第1領域、ループ領域、ステム第2領域及び突出領域を含む第1の核酸と第2の核酸を連結することによって、突出領域を有するヘアピン核酸を製造する方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の核酸と第2の核酸を連結することによって突出領域を有するヘアピン核酸を製造する方法であって、
前記第1の核酸は、第1連結部、及び連結末端から順にステム第1領域、ループ領域、ステム第2領域及び突出領域を含み、
前記連結末端は前記第1連結部により近い末端であり、
前記ステム第1領域及び前記ステム第2領域は分子内で互いにハイブリダイズ可能であり、
前記第2の核酸は、第2連結部、及び一本鎖構造からなる対合領域を含み、
前記対合領域は前記第2連結部を含むか、前記第2連結部と連続し、
前記対合領域は前記突出領域の全部又は一部とハイブリダイズ可能であり、
前記第1の核酸の前記突出領域と前記第2の核酸の前記対合領域とがハイブリダイズするハイブリダイゼーション工程、及び
前記第1の核酸の前記第1連結部と前記第2の核酸の前記第2連結部を酵素反応によって連結する連結工程
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記連結工程の後又は同時に、伸長されたヘアピン核酸を未反応の前記第1の核酸及び前記第2の核酸から分離する分離工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ハイブリダイゼーション工程が0℃~40℃の温度で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記連結工程が0℃~40℃の温度で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ステム第1領域が2塩基以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記対合領域が5塩基以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ハイブリダイズする2つの核酸領域が以下の(1)~(3)のいずれか一の塩基配列からなる、請求項1に記載の方法:
(1)互いに完全に相補的な塩基配列、
(2)(1)に対して1個又は2個の非相補的な塩基を連続して含む塩基配列、又は
(3)(1)又は(2)に対して1個又は数個の非相補的な塩基を不連続に含む塩基配列。
【請求項8】
前記第1の核酸において、ヘアピン構造形成反応の自由エネルギー変化量が-20kcal/mol~-10kcal/molである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記第2の核酸が一本鎖構造からなる核酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の核酸の連結部と前記第2の核酸の連結部がリン酸基と水酸基で連結される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
ヘアピン構造を形成する第1の核酸と第2の核酸を連結してヘアピン核酸を伸長する方法であって、
前記第1の核酸は、第1連結部、及び連結末端から順にステム第1領域、ループ領域、ステム第2領域及び突出領域を含み、
前記連結末端は前記第1連結部により近い末端であり、
前記ステム第1領域及び前記ステム第2領域は分子内で互いにハイブリダイズ可能であり、
前記第2の核酸は、第2連結部、及び一本鎖構造からなる対合領域を含み、
前記対合領域は前記第2連結部を含むか、前記第2連結部と連続し、
前記対合領域は前記突出領域の全部又は一部とハイブリダイズ可能であり、
前記第1の核酸の前記突出領域と前記第2の核酸の前記対合領域とがハイブリダイズするハイブリダイゼーション工程、及び
前記第1の核酸の前記第1連結部と前記第2の核酸の前記第2連結部を酵素反応によって連結する連結工程
を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘアピン核酸を製造する方法及びヘアピン核酸を伸長する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸医薬は、核酸分子に基づき、標的の核酸やタンパク質に特異的に結合して機能を抑制する分子標的治療薬である。核酸医薬は、従来治療が困難であった疾病に対する新たな医薬品として注目を集めており、実際に2010年代には、Givlaari等の肝臓を疾病部位とする画期的新薬が国内外で誕生している(非特許文献1)。また、本発明の発明者らにより、ヘアピン構造を形成する核酸分子(以下、本明細書においてはしばしば「ヘアピン核酸」と略称する)について医薬用途への応用も提案されている(非特許文献2、特許文献1)。このように、多様な核酸医薬が開発され、その実用化が期待されている。
【0003】
核酸医薬の実用化に向けて、大量の核酸を製造するニーズが今後急激に増加すると予想される中で、核酸の製造効率の改善が大きな課題となっている。一般に、核酸の合成はホスホロアミダイト法等の化学合成により行われるが、その効率は塩基数が増えるに従って低くなる。これは、核酸の合成効率が、1塩基分の伸長反応の効率を塩基の数だけ掛け合わせた値((核酸の合成効率)=(1塩基分の伸長反応の効率)^(塩基の数))となるためである。そのため、1塩基分の伸長反応の効率を改善しても、ヘアピン核酸の様な比較的長い核酸の製造効率の劇的な改善は容易ではない。
【0004】
この課題に対処するために、長い核酸の製造方法として、最終産物である長い核酸を比較的短い核酸断片に分割して合成し、それらを連結する方法が広く採用されている。この方法(図1)では、2つの核酸(図1中、第1の核酸及び第2の核酸)を連結する際に、連結部分の塩基配列に相補的な第3の核酸が使用される(図1のステップ1の前の状態)。まず、第1の核酸及び第2の核酸が第3の核酸にハイブリダイズすることにより、第3の核酸を足場として2つの核酸の末端が接近する(図1のステップ1)。次に、接近した第1の核酸及び第2の核酸の末端を連結し(図1のステップ2)、第3の核酸を除去することにより(図1のステップ3)、ヘアピン核酸等の長い核酸が製造される。
【0005】
しかしながら、この製造方法では、最終産物に含まれない第3の核酸を余分に合成する必要があると共に、連結反応後にはそれを除去する必要がある。そのため、第3の核酸の利用が、長い核酸の製造効率を低減させる原因の一つとなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO 2023/013329
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】承認された核酸医薬品(2021年5月時点)、国立医薬品食品衛生研究所 遺伝子医薬部 第2室
【非特許文献2】K. Morihiro et al., J. Am. Chem. Soc. 2023, 145, 1, 135-142
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、余分な第3の核酸を使用することなく、比較的長い配列を有するヘアピン核酸を効率的に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明者らが鋭意研究を行った結果、核酸断片の設計を工夫することにより、第3の核酸を使用することなく、ヘアピン核酸を製造できることを見出した。本発明は、当該新規知見等に基づくものであり、以下を提供する。
[1]第1の核酸と第2の核酸を連結することによって突出領域を有するヘアピン核酸を製造する方法であって、前記第1の核酸は、第1連結部、及び連結末端から順にステム第1領域、ループ領域、ステム第2領域及び突出領域を含み、前記連結末端は前記第1連結部により近い末端であり、前記ステム第1領域及び前記ステム第2領域は分子内で互いにハイブリダイズ可能であり、前記第2の核酸は、第2連結部、及び一本鎖構造からなる対合領域を含み、前記対合領域は前記第2連結部を含むか、前記第2連結部と連続し、前記対合領域は前記突出領域の全部又は一部とハイブリダイズ可能であり、前記第1の核酸の前記突出領域と前記第2の核酸の前記対合領域とがハイブリダイズするハイブリダイゼーション工程、及び前記第1の核酸の前記第1連結部と前記第2の核酸の前記第2連結部を酵素反応によって連結する連結工程を含む、前記方法。
[2]前記連結工程の後又は同時に、伸長されたヘアピン核酸を未反応の前記第1の核酸及び前記第2の核酸から分離する分離工程をさらに含む、[1]に記載の方法。
[3]前記ハイブリダイゼーション工程が0℃~40℃の温度で実施される、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]前記連結工程が0℃~40℃の温度で実施される、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]前記ステム第1領域が2塩基以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]前記対合領域が5塩基以上である、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]前記ハイブリダイズする2つの核酸領域が以下の(1)~(3)のいずれか一の塩基配列からなる、[1]~[6]のいずれかに記載の方法:(1)互いに完全に相補的な塩基配列、(2)(1)に対して1個又は2個の非相補的な塩基を連続して含む塩基配列、又は(3)(1)又は(2)に対して1個又は数個の非相補的な塩基を不連続に含む塩基配列。
[8]前記第1の核酸において、ヘアピン構造形成反応の自由エネルギー変化量が-20kcal/mol~-10kcal/molである、[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9]前記第2の核酸が一本鎖構造からなる核酸である、[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10]前記第1の核酸の連結部と前記第2の核酸の連結部がリン酸基と水酸基で連結される、[1]~[9]のいずれかに記載の方法。
[11]ヘアピン構造を形成する第1の核酸と第2の核酸を連結してヘアピン核酸を伸長する方法であって、前記第1の核酸は、第1連結部、及び連結末端から順にステム第1領域、ループ領域、ステム第2領域及び突出領域を含み、前記連結末端は前記第1連結部により近い末端であり、前記ステム第1領域及び前記ステム第2領域は分子内で互いにハイブリダイズ可能であり、前記第2の核酸は、第2連結部、及び一本鎖構造からなる対合領域を含み、前記対合領域は前記第2連結部を含むか、前記第2連結部と連続し、前記対合領域は前記突出領域の全部又は一部とハイブリダイズ可能であり、前記第1の核酸の前記突出領域と前記第2の核酸の前記対合領域とがハイブリダイズするハイブリダイゼーション工程、及び前記第1の核酸の前記第1連結部と前記第2の核酸の前記第2連結部を酵素反応によって連結する連結工程を含む、前記方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のヘアピン核酸の製造方法によれば、効率的にヘアピン核酸を製造することができる。
【0011】
本発明のヘアピン核酸の伸長方法によれば、ヘアピン核酸を伸長することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】比較的短い核酸鎖の連結による従来のヘアピン核酸の製造方法の工程を模式的に示す図である。
図2】本発明のヘアピン核酸の製造方法の工程を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.ヘアピン核酸を製造する方法
1-1.概要
本発明の第1の態様はヘアピン核酸を製造する方法である。本態様の方法は、ハイブリダイゼーション工程及び連結工程を必須工程として含む。本態様の方法によれば、高効率にヘアピン核酸を製造することができる。
【0014】
1-2.定義
本明細書において「ヘアピン核酸」とは、ヘアピン構造を形成し得る一本鎖核酸を指す。本明細書における「ヘアピン構造」は、一本鎖核酸により形成される、ステム構造、ループ構造及び突出領域を1組含む核酸の二次構造を指す。
【0015】
本明細書において「5'末端突出型」とは、5'末端に突出領域を含むヘアピン核酸の型を指す。5'末端突出型のヘアピン核酸は、5'末端から順に、突出領域、ステム第2領域、ループ領域及びステム第1領域を含む。また、本明細書において「3'末端突出型」とは、3'末端に突出領域を含むヘアピン核酸の型を指す。3'末端突出型のヘアピン核酸は、5'末端から順に、ステム第1領域、ループ領域、ステム第2領域及び突出領域を含む。
【0016】
「ステム構造」は、互いにハイブリダイズ可能な塩基配列を含む2つのステム領域(Y及びY’)が二本鎖を形成してなる構造である。
【0017】
「ループ構造」は、一本鎖核酸からなるループ領域(Z)によって形成されるループ状の構造である。
【0018】
本明細書において「突出領域(X)」とは、ヘアピン核酸の末端部分に位置し、ヘアピン構造形成時においても一本鎖状態で存在する核酸領域を指す。「突出末端」とは、ステム領域の遊離末端(ループ領域との非隣接末端)のいずれか又は両方に隣接する一本鎖からなる核酸領域を指す。
【0019】
本明細書において「ステム領域(Y及びY')」とは、分子内で互いにハイブリダイズしてステム構造を形成する核酸領域を指す。各ステム領域の少なくとも両末端は互いに相補的な塩基からなる。「ステム第1領域(Y)」とは、突出領域に隣接しないステム領域を指す。また、「ステム第2領域(Y')」とは、突出領域に隣接するステム領域を指す。
【0020】
本明細書において「ループ領域(Z)」とは、一本鎖核酸中で前記2つのステム領域間に位置する核酸領域を指す。
【0021】
本明細書において「連結」とは、2つの分子を共有結合することにより1分子とすることを指す。本明細書において「連結部(図中、丸部分)」とは、2つの核酸鎖を連結させるための官能基を有する部分を指す。本明細書において「連結末端」とは、核酸鎖の2つの末端のうち、連結部により近い末端を指す。
【0022】
「相補的」とは、核酸塩基が水素結合を介して、互いに塩基対合を形成し得る関係をいう。いわゆるワトソン-クリック塩基対(天然型塩基対)又はフーグスティーン型塩基対が該当する。
【0023】
「ハイブリダイズする」又は「ハイブリダイズ可能」とは、互いに相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドが塩基対合して、完全に又は部分的に相補的な二本鎖を形成することを指す。本明細書においてハイブリダイズ可能であるとは、特に、ハイブリダイゼーション工程及び/又は連結工程の反応条件下においてハイブリダイズ可能であることを指す。本明細書において2つの核酸領域がハイブリダイズする場合、その2つの核酸領域は例えば以下の(1)~(3)のいずれか一の塩基配列からなる:
(1)互いに完全に相補的な塩基配列、
(2)(1)に対して1個又は2個の非相補的な塩基を連続して含む塩基配列、又は
(3)(1)又は(2)に対して1個又は数個の非相補的な塩基を不連続に含む塩基配列。
【0024】
本明細書において「複数個」とは、2以上の個数を指す。具体的には、例えば、2~60個、2~45個、2~30個、2~14個、2~10個、2~8個、2~6個、2~5個、2~4個又は2~3個を指す。本明細書において「数個」は2~3個を指す。
【0025】
本明細書において「ヘアピン構造形成反応」とは、ヘアピン核酸において、一本鎖核酸が直鎖形態からヘアピン形態に変化してヘアピン構造が形成される反応を指す。
【0026】
本明細書において「自由エネルギー変化量」とは、温度及び圧力条件が一定の場合において、ある反応を通じて外部環境から反応系へ供給される正味のエネルギー量を指す。本明細書においては、特に、ヘアピン構造形成反応において外部環境から供給される正味のエネルギー量が該当する。例えば、出発物質と比較して反応生成物がより熱力学的に安定であれば、反応を通じて反応系がエネルギーを失うため、自由エネルギー変化量は負となる。本発明の自由エネルギー変化量には、例えば、ギブズの自由エネルギー変化量(ΔG)及びヘルムホルツの自由エネルギー変化量(ΔF)等のいずれも含まれる。
【0027】
1-3.方法
本態様の方法は、第1の核酸と第2の核酸を連結することによって突出領域を有するヘアピン核酸を製造する方法であり、ハイブリダイゼーション工程及び連結工程を必須工程として含み、核酸合成工程、リン酸化工程、分離工程及び精製工程を任意工程として含む。
【0028】
本発明の方法は、従来の比較的長い核酸の製造方法(図1)と異なり、足場として第3の核酸を使用しない。
【0029】
上述の通り、従来の方法では、まず、連結対象である2つの核酸分子(第1の核酸及び第2の核酸)に加え、第3の核酸を用意する(図1のステップ1の前の状態)。次に、第1の核酸及び第2の核酸が第3の核酸にハイブリダイズすることにより、第3の核酸を足場として2つの核酸の末端が接近する(図1のステップ1)。この接近した第1の核酸及び第2の核酸の末端を連結し(図1のステップ2)、第3の核酸を除去することにより(図1のステップ3)、ヘアピン核酸等の長い核酸が製造される。
【0030】
これに対し、本発明の方法では、まず、連結対象である2つの核酸分子(第1の核酸及び第2の核酸)のみを用意する(図2のステップ1の前の状態)。次に、第2の核酸が第1の核酸の一本鎖部分にハイブリダイズすることにより、第1の核酸の一部を足場として、2つの核酸の末端が接近する(図2のステップ1)。この接近した第1の核酸及び第2の核酸の末端を連結することにより(図2のステップ2)、ヘアピン核酸が製造される。
【0031】
このように、本発明の製造方法によれば、第3の核酸の合成も、第3の核酸の除去も行うことなく、ヘアピン核酸を合成することができる。以下、各工程について具体的に説明をする。
【0032】
1-3-1.核酸合成工程
「核酸合成工程(図2のステップ1の前の状態)」は任意工程であり、第1の核酸及び第2の核酸を合成する工程である。
【0033】
核酸の合成は酵素を用いて及び/又は化学合成によって行うことができる。第1の核酸と第2の核酸は互いに異なる方法によって合成されてもよく、同じ方法によって合成されてもよい。
【0034】
オリゴヌクレオチドの合成方法は、当該分野では公知の技術を用いればよい。例えば、酵素を用いた方法としては、鋳型鎖に基づいたポリメラーゼによる伸長合成反応、より短い核酸鎖同士のリガーゼによる連結合成反応、又はこれらの組合せ等が挙げられる。例えば、化学合成であれば、ホスホロアミダイト法に基づく固相合成法等を用いて合成することができる。具体的には、例えば、Current Protocols in Nucleic Acid Chemistry, Vol. 1, Section 3, Verma S. and Eckstein F., 1998, Annul. Rev. Biochem., 67, 99-134に記載された合成方法を利用することができる。また、例えば、核酸合成機を用いて、又はメーカーの受託製造サービスを利用して合成することができる。
【0035】
合成後の核酸は精製することが好ましい。精製方法としては、当該技術分野において公知の任意の方法を用いることができる。具体的な精製方法としては、例えば、ゲル精製法、アフィニティーカラム精製法、HPLC法等が挙げられる。
【0036】
1-3-2.ハイブリダイゼーション工程
「ハイブリダイゼーション工程(図2のステップ1)」は、必須工程であり、第1の核酸の突出領域と第2の核酸の対合領域とがハイブリダイズする工程である。本工程は、核酸合成工程を行う場合には、その後に行うことができる。核酸合成工程を行わない場合には、既に合成された核酸を用いて、本工程を行うことができる。本工程により、第1の核酸及び第2の核酸がハイブリダイズし部分的に二本鎖構造を形成する。
【0037】
<第1の核酸>
第1の核酸は、第1連結部、及び連結末端から順にステム第1領域、ループ領域、ステム第2領域及び突出領域を含む核酸である。
【0038】
第1の核酸を構成する核酸の種類はDNA、RNA又はその組合せのいずれであってもよい。好ましくは、第1の核酸はDNAを含む核酸又はDNAからなる核酸である。また、第1の核酸は天然ヌクレオチド、非天然ヌクレオチド、非修飾ヌクレオチド、修飾ヌクレオチド、ヌクレオチド類似体又はこれらの組合せを含むことができる。
【0039】
第1の核酸は任意の標識を含むことができる。標識の目的は特に限定しないが、例えば、検出のため及び/又は精製のために標識することができる。標識の種類は特に限定しない。例えば、放射性同位体(32P等)、蛍光物質(TAMRA、Cy3等)、吸着性分子(ビオチン、ストレプトアビジン等)、抗原、磁気ビーズ等により標識することができる。
【0040】
第1の核酸の全長は特に限定しない。例えば、9塩基以上、10塩基以上、11塩基以上、12塩基以上、13塩基以上、14塩基以上、15塩基以上、16塩基以上、17塩基以上、18塩基以上、19塩基以上又は20塩基以上とすることができる。また、上限は特に限定しない。例えば、本態様の方法を複数回連続して実施することにより長いステム構造を有するヘアピン核酸を製造する場合、回を追うごとに第1の核酸の全長は長くなる。第1の核酸は、例えば、100塩基以下、90塩基以下、80塩基以下、70塩基以下、60塩基以下、50塩基以下、40塩基以下、30塩基以下、29塩基以下、25塩基以下、20塩基以下、19塩基以下又は18塩基以下とすることができる。
【0041】
連結末端は第1の核酸の2つの末端のうち、第1連結部により近い末端を指す。第1連結部は第2連結部と連結可能な官能基を含む。第1連結部及び第2連結部を構成する官能基の組合せは、連結工程の項で後述する。第1の核酸の連結末端が5'末端である場合には第2の核酸の連結末端は3'末端であり、逆に第1の核酸の連結末端が3'末端である場合には第2の核酸の連結末端は5'末端である。
【0042】
ステム第1領域及びステム第2領域は分子内で互いにハイブリダイズ可能である。第1の核酸における各ステム領域は、目的のヘアピン核酸のステム構造の一部を構成する。ステム第1領域及びステム第2領域の塩基配列は連結工程の反応条件下においてハイブリダイズ可能であれば特に限定しない。
【0043】
ステム第1領域及びステム第2領域の塩基配列が互いにハイブリダイズ可能であるかどうかは、第1の核酸のヘアピン構造形成反応の自由エネルギー変化量に基づいて判断することができる。ヘアピン構造形成反応の自由エネルギー変化量は特に限定しない。一般に、ヘアピン構造形成反応の自由エネルギー変化量は、低い程ヘアピン構造が開裂しにくく、高い程ヘアピン構造が開裂しやすい。自由エネルギー変化量は、例えば、-20kcal/mol~-10kcal/molである。具体的には、例えば、-20kcal/mol以上、-19kcal/mol以上、-18kcal/mol以上、-17.5kcal/mol以上、-17kcal/mol以上又は-16.5kcal/mol以上である。また、自由エネルギー変化量は、例えば、-10kcal/mol以下、-11kcal/mol以下、-12kcal/mol以下、-12.5kcal/mol以下、-13kcal/mol以下、-13.5kcal/mol以下、-14kcal/mol以下、-14.5kcal/mol以下又は-15kcal/mol以下である。自由エネルギー変化量は、NUPACK等の核酸の高次構造の安定性予測に使用される公知のソフトウェアを使用して知ることができる。
【0044】
また、例えば、定義の項にも記載した通り、2つのステム領域は以下の(1)~(3)のいずれか一の塩基配列からなる:
(1)互いに完全に相補的な塩基配列、
(2)(1)に対して1個又は2個の非相補的な塩基を連続して含む塩基配列、又は
(3)(1)又は(2)に対して1個又は数個の非相補的な塩基を不連続に含む塩基配列。
【0045】
第1の核酸における各ステム領域の長さは、連結工程の反応条件で第1連結部及び第2連結部を連結可能な位置に配置可能であれば特に限定しない。例えば、それぞれ独立に2塩基以上、3塩基以上、4塩基以上、5塩基以上、6塩基以上又は7塩基以上である。また、各ステム領域の長さは、それぞれ独立に、例えば、20塩基以下、19塩基以下、18塩基以下、17塩基以下、16塩基以下、15塩基以下、14塩基以下、13塩基以下、12塩基以下、11塩基以下、10塩基以下、9塩基以下又は8塩基以下とすることができる。具体的には、ステム領域の長さは、それぞれ独立に2~20塩基、3~15塩基、5~8塩基とすることができる。なお、各ステム領域の末端はいずれも、互いに相補的な塩基である。
【0046】
第1の核酸のループ領域は目的のヘアピン核酸のループ構造を構成する。第1の核酸におけるループ領域の長さは特に限定しない。例えば、3塩基以上、4塩基以上、5塩基以上、6塩基以上、7塩基以上又は8塩基以上である。また、例えば、50塩基以下、40塩基以下、30塩基以下、25塩基以下、20塩基以下、19塩基以下、18塩基以下、17塩基以下、16塩基以下、15塩基以下、14塩基以下、13塩基以下、12塩基以下、11塩基以下、10塩基以下、9塩基以下又は8塩基以下とすることができる。具体的には、ループ領域の長さは、3~50塩基、3~30塩基、3~20塩基、3~15塩基又は5~10塩基とすることができる。
【0047】
第1の核酸の突出領域は第2の核酸の対合領域の全部又は一部とハイブリダイズ可能である。第1の核酸の突出領域は対合領域とハイブリダイズすることにより、目的のヘアピン核酸におけるステム構造の一部を構成する。第1の核酸の突出領域の長さは特に限定しない。例えば、3塩基以上、4塩基以上、5塩基以上、6塩基以上又は7塩基以上である。また、突出領域は、例えば、20塩基以下、19塩基以下、18塩基以下、17塩基以下、16塩基以下、15塩基以下、14塩基以下、13塩基以下、12塩基以下、11塩基以下、10塩基以下、9塩基以下又は8塩基以下とすることができる。具体的には、突出領域の長さは、3~20塩基、4~20塩基、5~15塩基又は5~10塩基とすることができる。
【0048】
第1の核酸の突出領域は第2の核酸の対合領域とハイブリダイズ可能な配列の他に1以上の塩基を追加で含むことができる。これらの追加の塩基は目的のヘアピン核酸における突出領域を構成する。具体的な塩基数は特に限定しない。例えば、1塩基以上、2塩基以上、3塩基以上、4塩基以上、5塩基以上、6塩基以上、7塩基以上又は8塩基以上とすることができる。また、追加の塩基は、例えば、20塩基以下、19塩基以下、18塩基以下、17塩基以下、16塩基以下、15塩基以下、14塩基以下、13塩基以下、12塩基以下、11塩基以下、10塩基以下、又は9塩基以下とすることができる。
【0049】
<第2の核酸>
第2の核酸は第2連結部及び一本鎖構造からなる対合領域を含む。
第2の核酸を構成する核酸の種類はDNA、RNA又はその組合せのいずれであってもよい。好ましくは、第2の核酸はDNAを含む核酸又はDNAからなる核酸である。また、第2の核酸は天然ヌクレオチド、非天然ヌクレオチド、非修飾ヌクレオチド、修飾ヌクレオチド、ヌクレオチド類似体又はこれらの組合せを含むことができる。
【0050】
第2の核酸は任意の標識を含むことができる。標識の目的は特に限定しないが、例えば、検出のため及び/又は精製のために標識することができる。標識の種類は特に限定しない。例えば、放射性同位体(32P等)、蛍光物質(TAMRA、Cy3等)、吸着性分子(ビオチン、ストレプトアビジン等)、抗原、磁気ビーズ等により標識することができる。
【0051】
第2の核酸はその一部が二本鎖構造を形成していてもよく、一本鎖構造からなってもよい。好ましくは、本明細書における第2の核酸は一本鎖構造からなる核酸である。
【0052】
第2の核酸の長さは特に限定しない。例えば、5塩基以上、6塩基以上、7塩基以上、8塩基以上、9塩基以上、10塩基以上、11塩基以上、12塩基以上、13塩基以上、14塩基以上、15塩基以上、16塩基以上又は17塩基以上とすることができる。また、例えば、30塩基以下、29塩基以下、25塩基以下、20塩基以下、19塩基以下又は18塩基以下とすることができる。
【0053】
第2連結部は第1連結部と連結可能な官能基を含む。第1連結部及び第2連結部を構成する官能基の組合せは、連結工程の項で後述する。第2の核酸の2つの末端のうち、第2連結部により近い末端を連結末端とする。
【0054】
対合領域は第2連結部を含むか、第2連結部と連続しており、第1の核酸の突出領域の全部又は一部とハイブリダイズ可能である。対合領域は第1の核酸とハイブリダイズすることにより、目的のヘアピン核酸におけるステム構造の一部を構成する。対合領域の末端はいずれも第1の核酸の突出領域と相補的な塩基である。
【0055】
例えば、定義の項にも記載した通り、対合領域と第1の核酸の突出領域は以下の塩基配列からなる:
(1)互いに完全に相補的な塩基配列、
(2)(1)に対して1個又は2個の非相補的な塩基を連続して含む塩基配列、
(3)(1)又は(2)に対して1個又は数個の非相補的な塩基を不連続に含む塩基配列。
【0056】
対合領域は第2連結部と連続している場合、対合領域と第2連結部の間に1以上の追加の塩基を含む。具体的な塩基数は特に限定しない。例えば、1塩基以上、2塩基以上、3塩基以上又は4塩基以上とすることができる。また、追加の塩基は、例えば、11塩基以下、10塩基以下、9塩基以下、8塩基以下、7塩基以下、6塩基以下又は5塩基以下とすることができる。
【0057】
対合領域の長さは、連結工程の反応条件において、第1連結部及び第2連結部を連結可能な位置に配置可能であれば特に限定しない。具体的な対合領域の長さは、例えば、3塩基以上、4塩基以上、5塩基以上、6塩基以上又は7塩基以上である。また、対合領域は、例えば、20塩基以下、19塩基以下、18塩基以下、17塩基以下、16塩基以下、15塩基以下、14塩基以下、13塩基以下、12塩基以下、11塩基以下、10塩基以下、9塩基以下又は8塩基以下とすることができる。具体的には、対合領域の長さは、3~20塩基、4~20塩基、5~15塩基又は5~10塩基とすることができる。好ましくは5塩基以上である。
【0058】
第2の核酸は対合領域の他に1以上の塩基を追加で含むことができる。これらの追加の塩基は目的のヘアピン核酸における突出領域を構成する。具体的な塩基数は特に限定しない。例えば、1塩基以上、2塩基以上、3塩基以上、4塩基以上、5塩基以上、6塩基以上、7塩基以上又は8塩基以上とすることができる。また、追加の塩基は、例えば、20塩基以下、19塩基以下、18塩基以下、17塩基以下、16塩基以下、15塩基以下、14塩基以下、13塩基以下、12塩基以下、11塩基以下、10塩基以下、又は9塩基以下とすることができる。また、例えば、追加の塩基は4~20塩基とすることができる。
【0059】
<反応条件>
本工程は、水性溶媒中で第1の核酸及び第2の核酸を共にインキュベートすることにより行うことができる。本工程の反応条件は、第1の核酸の突出領域と第2の核酸の対合領域がハイブリダイズ可能な条件であれば特に限定しない。図2のステップ1の前の状態では、典型として、第1の核酸のステム第1領域とステム第2領域も互いにハイブリダイズしている様子を示している。ただし、本工程では、第1の核酸の突出領域と第2の核酸の対合領域がハイブリダイズしていれば、必ずしも第1の核酸が分子内で二本鎖を形成していなくてもよい。
【0060】
本明細書において「水性溶媒」とは水又は水溶液を指す。水性溶媒の種類は特に限定しないが、好ましくは水又は緩衝液である。緩衝液の種類は特に限定せず、当該技術分野において公知の任意の緩衝液を使用することができる。例えば、連結工程において例示される緩衝液を使用することができる。
【0061】
第1の核酸と第2の核酸の濃度は特に限定しない。各核酸の濃度は、10μM以上、40μM以上、100μM以上、150μM以上、200μM以上、300μM以上、400μM以上又は500μM以上とすることができる。また、例えば、20mM以下、15mM以下、12mM以下、11mM以下、10mM以下、9mM以下、8mM以下、5mM以下、4mM以下、3mM以下、2mM以下又は1mM以下とすることができる。第1の核酸及び第2の核酸の濃度は、それぞれ一定であってもよく、連続的及び/又は断続的に増加又は減少してもよい。
【0062】
第1の核酸と第2の核酸は特に限定しない。例えば、第1の核酸と第2の核酸を、1:10~10:1のモル比で、より具体的には、1:5~5:1、1:4~4:1、1:3~3:1、1:2~2:1、1:1.9~1.9:1、1:1.5~1.5:1、1:1.4~1.4:1、1:1.3~1.3:1、1:1.2~1.2:1、1:1.1~1.1:1又は1:1のモル比でインキュベートすることができる。
【0063】
水性溶媒のpHは特に限定しない。例えば5~9の範囲であればよく、連結工程において例示されるpH範囲を使用することができる。
【0064】
反応温度は、突出領域と対合領域の塩基配列及び長さ等に基づいて適宜決定することができる。例えば、これらの領域のTm未満の温度でインキュベートすることができる。例えば、反応温度はTm値-1℃以下、Tm値-2℃以下、Tm値-5℃以下、Tm値-10℃以下、Tm値-15℃以下等とすることができる。あるいは、0℃~40℃の範囲等、連結工程において例示される温度範囲でインキュベートしてもよい。
【0065】
通常、静置することによってもハイブリダイズ反応は進行するが、適宜、撹拌、振とう等により混和してもよい。また、上述の反応条件は本工程中で一定である必要はなく、連続的及び/又は断続的に変化してもよい。この場合、各条件は人為的に変化させてもよく、自然に変化してもよい。
【0066】
反応時間は特に限定しない。例えば、1分以上、2分以上、3分以上、5分以上、10分以上、30分以上、1時間以上、2時間以上の時間にわたりインキュベートすることができる。また、例えば、12時間以下、10時間以下、8時間以下、6時間以下、5時間以下、4時間以下又は3時間以下の時間インキュベートすることができる。
【0067】
1-3-3.リン酸化工程
「リン酸化工程」は任意工程であり、第1の核酸及び/又は第2の核酸の5'末端をリン酸化する工程である。ハイブリダイゼーション工程の前、それと同時、又はその後に行うことができる。
【0068】
本工程は、通常、第1の核酸又は第2の核酸の5'側の連結末端にリン酸基が存在しない場合にその連結末端をリン酸化し、連結可能にするために行う。また、それ以外の目的、例えば、5'末端に目的のリン酸基(例えば、32Pを含むリン酸基)を導入するために本工程を行ってもよい。
【0069】
リン酸化は通常ヌクレオチドキナーゼを使用して行われる。使用されるヌクレオチドキナーゼは特に限定しない。例えば、T4ポリヌクレオチドキナーゼ等を使用することができる。
【0070】
リン酸基の供与体は特に限定しない。例えば、ATP、その修飾体又は誘導体等を使用することができる。
【0071】
また、反応条件は使用するキナーゼが機能可能であれば特に限定しない。使用するキナーゼ等によって適宜決定することができる。例えば、pHが7~9の緩衝液中で20~50℃の温度範囲で1分間~24時間にわたって行うことができる。
【0072】
1-3-4.連結工程
「連結工程(図2のステップ2)」は、必須工程であり、第1の核酸の第1連結部と第2の核酸の第2連結部を酵素反応により連結する工程である。本工程はハイブリダイゼーション工程と同時に又は別々に行うことができる。
【0073】
本工程では、水性溶媒中で第1の核酸及び第2の核酸を1種類又は複数種類の酵素と共にインキュベートする。本工程により、第1連結部と第2連結部が共有結合し、第1の核酸及び第2の核酸が連結されて目的のヘアピン核酸が形成される(図2)。
【0074】
<目的のヘアピン核酸>
目的のヘアピン核酸は、第1の核酸及び第2の核酸が連結してなる核酸分子である。本明細書において、単に「ヘアピン核酸」と記載される場合、目的のヘアピン核酸を指すものとする。
【0075】
目的のヘアピン核酸は突出領域を有し、ヘアピン構造を形成する。つまり、目的のヘアピン核酸は突出領域の他に、ループ構造及びステム構造を構成する核酸領域を含む。目的のヘアピン核酸における突出領域は第1の核酸の突出領域の一部及び/又は第2の核酸の一部で構成される。第1の核酸の突出領域が第2の核酸との対合領域の他に追加の塩基を含み、かつ、第2の核酸が対合領域の他に追加の塩基を含む場合、目的のヘアピン核酸はその両末端に突出領域を含む。
【0076】
目的のヘアピン核酸のステム構造は、互いにハイブリダイズした第1の核酸のステム第1領域とステム第2領域、及び互いにハイブリダイズした第1の核酸の突出領域の全部又は一部と第2の核酸の対合領域により構成される。
目的のヘアピン核酸のループ構造は第1の核酸のループ領域で構成される。
【0077】
上述の通り、目的のヘアピン核酸は突出領域を有する。突出領域の長さは特に限定せず、目的の用途等に応じて適宜決定することができる。具体的な突出領域の長さは、例えば、1塩基以上、2塩基以上、3塩基以上、4塩基以上、5塩基以上、6塩基以上、7塩基以上又は8塩基以上である。また、突出領域は、例えば、20塩基以下、19塩基以下、18塩基以下、17塩基以下、16塩基以下、15塩基以下、14塩基以下、13塩基以下、12塩基以下、11塩基以下、10塩基以下、又は9塩基以下とすることができる。また、例えば、突出領域の長さは4~20塩基とすることができる。
【0078】
限定するものではないが、目的のヘアピン核酸は、pH6.8~pH7.8で35℃~40℃の水性緩衝液中においてヘアピン構造を形成することが好ましい。
【0079】
<連結部>
第1連結部及び第2連結部を構成する官能基は特に限定せず、使用する酵素等によって適宜選択することができる。
【0080】
通常、第1連結部は水酸基であり第2連結部はリン酸基であるか、逆に第1連結部はリン酸基であり第2連結部は水酸基であり、酵素反応によってホスホジエステル結合が形成される。
【0081】
<酵素>
連結に使用される酵素として、任意のリガーゼを使用することができる。リガーゼは、天然に存在するものであっても人工のものであってもよい。本工程に使用される酵素として、1種類又は複数種類のリガーゼを使用することができる。また、本工程では、必要に応じて他の酵素を追加で使用してもよい。
【0082】
例えば、第1連結部及び第2連結部がDNAヌクレオチドである場合、DNAリガーゼが使用される。具体的なDNAリガーゼは特に限定しないが、例えば、T4バクテリオファージ由来のT4 DNAリガーゼ2、E.Coli DNAリガーゼ、Ampligase DNAリガーゼ、T3 DNAリガーゼ、T7 DNAリガーゼ及びTaq DNAリガーゼ、哺乳動物由来のDNAリガーゼ(例えば、DNAリガーゼI、DNAリガーゼII、DNAリガーゼIII及びDNAリガーゼIV等)、9°N(商標)DNAリガーゼ、Tfi DNAリガーゼ又はこれらの改変体等が挙げられる。
【0083】
例えば、第1連結部及び第2連結部がRNAヌクレオチドである場合、RNAリガーゼが使用される。具体的なRNAリガーゼは特に限定しないが、例えば、T4バクテリオファージ由来のT4 RNAリガーゼ1、T4 RNAリガーゼ2、KVP40由来のリガーゼ2、Rnl2ファミリーのリガーゼ、RtcBリガーゼ、AmEPVリガーゼ、AcNPVリガーゼ、XcGVリガーゼ、M. thermoautotrophicumリガーゼ、Trypanosoma brucei RNAリガーゼ、Deinococcus radiodurans RNAリガーゼ、Leishmania tarentolae RNAリガーゼ又はこれらの改変体等が挙げられる。
【0084】
これらのDNAリガーゼ及びRNAリガーゼの取得方法は特に限定しない。例えば、市販のリガーゼを使用してもよく、天然のリガーゼをそのまま又は適宜改変をして使用してもよい。リガーゼの改変は通常、遺伝子工学によりなされるが、改変の方法は特に限定しない。改変の目的は特に限定しないが、例えば、反応効率、熱安定性、反応特異性等の一以上の特徴を改善するために行うことができる。
【0085】
<反応条件>
上述の通り、本工程では、水性溶媒中で第1の核酸及び第2の核酸を1種類又は複数種類の酵素と共にインキュベートする。この際に、酵素と各核酸の添加の方法及び順序等は特に限定しない。例えば、両方の核酸の存在下に酵素を後から添加してもよく、全てを同時に水性溶媒に添加してもよく、核酸及び酵素が別々に存在する空間に水性溶媒を添加してもよく、酵素及び/又は核酸をそれぞれ複数回に分けて又は連続的に水性溶媒に添加してもよい。
【0086】
反応条件は、使用する酵素が機能可能な条件であり、第1の核酸のステム第1領域とステム第2領域がハイブリダイズ可能であり、かつ、第1の核酸の突出領域と第2の核酸の対合領域がハイブリダイズ可能であれば特に限定しない。このように第1の核酸がステム構造を形成し、第1の核酸と第2の核酸がハイブリダイズすることにより、第1連結部及び第2連結部が近接し、本工程による連結がより容易になる(図2のステップ1)。
【0087】
反応条件はハイブリダイゼーション工程と同じであってもよく、異なってもよい。いずれの場合でも、ハイブリダイゼーション工程で使用した水性溶媒の全部又は一部をそのまま本工程で使用してもよく、ハイブリダイゼーション工程で使用した水性溶媒を本工程で使用する水性溶媒に置き換えてもよい。リン酸化工程を行った場合、溶媒をそのまま本工程で用いても、本工程で使用する水性溶媒に置き換えてもよい。ここで、溶媒等を「置き換える」操作とは、ある性質から別の性質に変化させる操作を指す。したがって、「溶媒を置き換える」操作には、例えば、実質的に元の溶媒の性質が失われるように、元の溶媒とそれに対して大過剰の新たな溶媒とを混合する操作が含まれる。
【0088】
本工程は水溶液中で行うことができる。水溶液としては緩衝液を使用することができる。具体的な緩衝液としては、例えば、リン酸緩衝液、Tris緩衝液、炭酸緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液等が挙げられる。緩衝液の塩濃度は特に限定しないが、例えば、750mM以下の低い塩濃度(例えば、15mM~750mM、15mM~500mM、15mM~300mM、15mM~200mM、50mM~200mM、75mM~150mM等)、又は750mMを超える高い塩濃度(例えば、750mM~1500mM、800mM~1400mM、1000mM~1300mM、1100mM~1200mM等)のいずれであってもよい。
【0089】
第1の核酸と第2の核酸の濃度は特に限定しない。各核酸の濃度は、10μM以上、40μM以上、100μM以上、150μM以上、200μM以上、300μM以上、400μM以上又は500μM以上とすることができる。また、例えば、20mM以下、15mM以下、12mM以下、11mM以下、10mM以下、9mM以下、8mM以下、5mM以下、4mM以下、3mM以下、2mM以下又は1mM以下とすることができる。第1の核酸及び第2の核酸の濃度は、それぞれ一定であってもよく、連続的及び/又は断続的に増加又は減少してもよい。
【0090】
第1の核酸と第2の核酸は特に限定しない。例えば、第1の核酸と第2の核酸を、1:10~10:1のモル比で、より具体的には、1:5~5:1、1:4~4:1、1:3~3:1、1:2~2:1、1:1.9~1.9:1、1:1.5~1.5:1、1:1.4~1.4:1、1:1.3~1.3:1、1:1.2~1.2:1、1:1.1~1.1:1又は1:1のモル比でインキュベートすることができる。
【0091】
リガーゼの濃度(ユニット(U))は特に限定しない。例えば、0.01U/μL以上、0.02U/μL以上、0.08U/μL以上、0.2U/μL以上又は0.35U/μL以上の濃度とすることができる。また、例えば、10U/μL以下、1U/μL以下又は0.5U/μL以下の濃度とすることができる。
【0092】
リガーゼの核酸に対する濃度は特に限定しない。例えば、第1の核酸及び第2の核酸のうち少ない方の核酸の濃度(nmol)に対して、0.001U/nmol以上、0.01U/nmol以上、0.1U/nmol以上、0.2U/nmol以上又は1U/nmol以上とすることができる。また、例えば、第1の核酸及び第2の核酸のうち少ない方の核酸の濃度(nmol)に対して、10U/nmol以下、5U/nmol以下、4U/nmol以下、2U/nmol以下又は1U/nmol以下とすることができる。
【0093】
インキュベートに際して、酵素の機能を補助するための補助剤を追加で含めることができる。具体的は補助剤としては、例えば、Tris-HCl、アデノシン三リン酸(ATP)、ポリアミン、ニコチンアミノアデニン(NAD)、動物血清タンパク質、ジチオスレイトール(DTT)、二価金属イオン又はこれらの組合せ等が挙げられる。補助剤の濃度は特に限定しない。例えば、モル濃度で1μM以上、2μM以上、5μM以上、10μM以上、50μM以上、100μM以上、200μM以上、500μM以上、1mM以上、2mM以上、3mM以上、4mM以上、5mM以上又は6mM以上とすることができ、例えば、1mM~20mM、2mM~10mM、3mM~8mM、4mM~7mMの濃度で添加することができる。例えば、質量パーセント濃度で0.0001質量%以上、より具体的には0.01~0.05質量%とすることができる。
【0094】
二価金属イオンとしては、例えば、マグネシウムイオン(Mg2+)、マンガンイオン(Mn2+)、カルシウムイオン(Ca2+)等が挙げられる。これらの二価金属イオンは、任意の塩の形態で添加することができる。例えば、水酸化物、フッ化物、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、ホウ酸塩、炭酸塩又は有機酸塩等を添加することができる。
【0095】
動物血清タンパク質としては、例えば、ウサギ、ウシ、マウス等の哺乳動物に由来する、アルブミン、グロブリン等の血清タンパク質が挙げられる。
【0096】
pHは特に限定せず、核酸濃度及びリガーゼの種類に従って適宜設定することができる。例えば、5~9、6~8、6.5~8、7~8、7~7.9、7.3~8、7.3~7.9、7.4~8、7.4~7.9、7.5~8、7.5~7.9とすることができる。例えば、核酸濃度が高い場合には、高めのpH(例えば、7.5~9.0、8.0~8.5)とすることができる。
【0097】
緩衝液には、必要に応じて添加剤を含めることができる。具体的は添加剤としては、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ポリエチレングリコール(PEG)、1,2-プロパンジオール、グリセロール、Tween(登録商標)-20又はこれらの組合せ等が挙げられる。ポリエチレングリコールの具体的な種類は特に限定しない。例えば、PEG6000、PEG8000、PEG20000等を使用することができる。添加剤の濃度は特に限定しない。例えば、モル濃度で1μM~40mM、10μM~30mM、100μM~20mM、1mM~15mM、5mM~10mMとすることができる。また、例えば質量体積パーセント濃度で3~30w/v%、5~20w/v%、5~15w/v%又は10~30w/v%とすることができる。
【0098】
本工程の温度は、使用するリガーゼが機能を発揮し得る温度であれば特に限定せず、リガーゼの種類により適宜設定することができる。例えば、0℃以上、4℃以上、10℃以上、15℃以上、16℃以上とすることができる。また、例えば、60℃以下、50℃以下、40℃以下、37℃以下、35℃以下、33℃以下、30℃以下、27℃以下、26℃以下、20℃以下、22℃以下、18℃以下又は16℃以下とすることができる。例えば、0℃~40℃、4℃~37℃又は4℃~16℃の温度で行うことができるが、使用するリガーゼによっては0℃~4℃又は0℃で行うこともできる。
【0099】
通常、静置することによっても連結反応は進行するが、適宜、撹拌、振とう等により混和してもよい。また、上述の反応条件は本工程中で一定である必要はなく、途中で変化してもよい。この場合、各条件は人為的に変化させてもよく、自然に変化してもよい。
【0100】
インキュベートの時間は連結反応が起こるのに十分な時間であれば特に限定せず、使用するリガーゼの種類や温度条件によって適宜設定することができる。例えば、5分以上、10分以上、30分以上、1時間以上、2時間以上、3時間以上、4時間以上、5時間以上、6時間以上、8時間以上、9時間以上、10時間以上又は12時間以上の時間インキュベートすることができる。また、上限は特に限定しない。例えば、48時間以下、36時間以下、30時間以下、24時間以下、20時間以下、19時間以下、18時間以下、17時間以下又は16時間以下の時間インキュベートすることができる。
【0101】
反応条件は連結効率に基づいて決定することができる。ここで、連結効率は以下の式で算出される。
連結効率(%)=(目的のヘアピン核酸の濃度)/(目的のヘアピン核酸と未反応の核酸の合計濃度)×100
【0102】
連結効率は、当該技術分野において公知の核酸の定量方法によって算出することができる。例えば、クロマトグラフィー、電気泳動、吸光度測定又はその組合せにより算出することができる。例えば、反応条件は、連結効率が80%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上又は90%以上となるように決定することができる。また、例えば、連結効率が90%超となるように決定してもよい。
【0103】
インキュベート後は、連結反応を停止させることなく、そのままの溶液を目的のヘアピン核酸試料として使用するか、次の工程を開始することができる。また、必要に応じて連結反応を停止させてもよい。連結反応の停止は、任意の方法、例えば、リガーゼを加熱処理や変性剤の添加により失活させることによって、又は洗浄や希釈等によりリガーゼの濃度を低下させることによって行うことができる。
【0104】
本工程は複数回行うことができる。その場合、使用する反応条件は毎回同じでも、その度に異なってもよい。
【0105】
1-3-5.分離工程
「分離工程」は任意工程であり、伸長されたヘアピン核酸を未反応の第1の核酸及び第2の核酸から分離する工程である。本工程は連結工程の後又は同時に行うことができる。本工程により、不純物として未反応の第1の核酸及び第2の核酸を含まないヘアピン核酸試料を調製することができる。
【0106】
「未反応」とは、連結反応が起きなかった核酸を指す。具体的には、第1の核酸と連結しなかった第2の核酸及び第2の核酸と連結しなかった第1の核酸である。
【0107】
分離方法は未反応の核酸と目的のヘアピン核酸を分離可能であれば特に限定しない。例えば、分子サイズ及び/又は極性に基づく方法、標識に基づく方法又はその組合せにより分離することができる。
【0108】
分子サイズ及び/又は極性に基づく方法は特に限定しないが、例えば、高速液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ除去クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、親水性相互作用クロマトグラフィー等のクロマトグラフィー、電気泳動又はこれらの組合せ等を使用することができる。
【0109】
標識に基づく方法は特に限定しないが、例えば、アフィニティークロマトグラフィー等のクロマトグラフィー、磁気ビーズによる捕捉、密度勾配遠心分離又はこれらの組合せ等を使用することができる。
【0110】
1-3-6.精製工程
「精製工程」は任意工程であり、伸長されたヘアピン核酸を精製する工程である。本工程は連結工程の後又はそれと同時に行うことができる。分離工程を行う場合には、本工程を、その前、それと同時及び/又はその後に行うことができる。
【0111】
本工程において使用される精製方法は特に限定しない。当該技術分野において多くの精製方法が知られている。具体的には、例えば、フェノール-クロロホルム抽出、エタノール沈殿、磁気ビーズによる捕捉、シリカ膜への吸着、クロマトグラフィー(逆相クロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)、超高速液体クロマトグラフィー(UHPLC)、イオン交換クロマトグラフィー等)、ゲル濾過、カラム精製、電気泳動(ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)等)、及びこれらの組合せが挙げられる。
【0112】
使用する精製方法が、核酸の分子サイズや標識に基づいた分離にも使用可能な方法であれば、その方法を使用することにより、分離工程と精製工程を同時に行うことができる。
【0113】
1-4.効果
本発明の方法によれば、ヘアピン核酸の全長にわたって一度の合成するのと比較して、極めて高効率にヘアピン核酸を製造することができる。本発明の方法では、通常の核酸鎖の連結(図1)に必要とされる第3の核酸が必要ない。そのため、第3の核酸の合成及び連結後における第3の核酸の除去が不要となり、より効率的にヘアピン核酸を製造することができる。
【0114】
例えば、本発明の方法で製造されたヘアピン核酸を第1の核酸として、別の第2の核酸を用いて本発明の方法を行うことにより、より長いステム構造を有するヘアピン核酸を製造することができる。この場合、第1の核酸と1つ目の第2の核酸を使用して本発明の方法を行った後に、その産物と2つ目以降の第2の核酸を使用して本発明の方法を繰り返し行ってもよいし、第1の核酸、1つ目の第2の核酸、及び2つ目以降の第2の核酸を一度に使用して本発明の方法を行ってもよい。
【0115】
2.ヘアピン核酸の伸長方法
2-1.概要
本発明の第2の態様はヘアピン構造を形成する第1の核酸と第2の核酸を連結してヘアピン核酸を伸長する方法である。ハイブリダイゼーション工程及び連結工程を必須工程として含み、リン酸化工程を任意工程として含む。本態様の方法によれば、簡便にヘアピン核酸を伸長することができる。
【0116】
2-2.方法
2-2-1.ハイブリダイゼーション工程
「ハイブリダイゼーション工程」は、必須工程であり、第1の核酸の突出領域と第2の核酸の対合領域とがハイブリダイズする工程である。
本工程は第1態様の記載に準じて行えばよい。
【0117】
2-2-2.リン酸化工程
「リン酸化工程」は、第1の核酸及び/又は第2の核酸の5'末端をリン酸化する工程である。ハイブリダイゼーション工程の前、それと同時、又はその後に行うことができる。
【0118】
2-2-3.連結工程
「連結工程」は、第1の核酸の第1連結部と第2の核酸の第2連結部を酵素反応により連結する工程である。本工程はハイブリダイゼーション工程と同時に又は別々に行うことができる。リン酸化工程を行う場合は、その後に本工程を行うことができる。
【0119】
本工程は第1態様の記載に準じて行えばよい。
【実施例0120】
<実施例1.ヘアピン核酸の製造>
(目的)
配列番号1で表される塩基配列を有するヘアピン核酸(HP)と、その部分配列(配列番号2及び3)を有する核酸(それぞれhp-1及びhp-2)を用いて、本願発明のヘアピン核酸の製造方法の効率について検証する。
【0121】
(方法)
1.核酸の化学合成
表1に記載の配列を有する3種類の核酸分子をホスホロアミダイト法により化学合成した。
【0122】
【表1】
【0123】
核酸はDNA合成機(日本テクノサービス社製)を用いてメーカーのプロトコルに従って合成した。なお、hp-2(第2の核酸に相当)の5'末端はこの合成過程でリン酸化された。
【0124】
合成された核酸分子の濃度は、分光光度計を用いて波長260nmの吸光度を測定することにより測定した。
【0125】
2.核酸の連結
合成されたhp-1(第1の核酸に相当)とhp-2(第2の核酸に相当)をそれぞれ0.5μMの濃度で連結用緩衝液に添加し、室温(16℃)で16時間インキュベートした。連結用溶液としては、終濃度500U/μLのT4 DNAリガーゼ、終濃度50mMのTris-HCl、20mMのDTT、10mMのMgCl2及び1mMのATP等を含む緩衝液(pH7.5~7.9)を用いた。
【0126】
3.核酸の分離及び精製
製造されたヘアピン核酸を未反応の核酸から以下の手順で分離し精製した。
分離及び精製は、ゲル電気泳動又は高速液体クロマトグラフィーを用いた。
【0127】
ゲル電気泳動は、TBE緩衝液(89mM Tris/Tris-borate、2mM EDTA)中、8%ポリアクリルアミドゲルを用いて、150Vの電圧下、30分間の変性条件下での泳動条件にて実施した。
【0128】
高速液体クロマトグラフィーは、20mMのTEAA緩衝液(酢酸-トリエチルアミン緩衝液)とアセトニトリルを溶媒として使用して、オリゴヌクレオチドの分離に使用される通常の条件により行った。
【0129】
ヘアピン核酸の濃度は、精製前の試料及び精製した試料において、分光光度計を用いて波長260nmの吸光度を測定することにより測定した。
【0130】
連結反応の効率は以下の式で算出した。
連結効率(%)=(精製したヘアピン核酸の吸光度)/(連結ヘアピン核酸の吸光度+連結しなかった核酸原料(反応せずに残ったhp-1及びhp-2)の吸光度)×100
【0131】
(結果)
合成効率の結果を表1に示す。
予想通り、全長が最も長いHPの合成効率が最も低く(0.0108%)、全長が最も短いhp-2が最も高かった(0.0729%)。
【0132】
hp-1(第1の核酸に相当)とhp-2(第2の核酸に相当)の連結を行った場合の反応の効率は90.2%であった。
【0133】
これらの結果に基づいて、全長を化学合成する場合と比較した、本発明のヘアピン核酸の製造方法による効率の改善率を計算した。
【0134】
まず、全長を化学合成した場合の全体の効率はHPの合成効率であり、0.0108%であった。
次に、本発明のヘアピン核酸の製造方法による効率は以下の手順で算出した。
【0135】
hp-1とhp-2のうち、hp-1及びhp-2の合成効率のうち、より低い方を核酸合成反応の効率とした。ここでは、より低かったhp-1の合成効率0.0551%を核酸合成反応の効率とした。
【0136】
本発明の製造方法を使用した場合の全体の効率は核酸合成反応の効率と連結反応の効率の積として算出した。核酸合成反応の効率は0.0551%であり、連結反応の効率は90.2%であったため、本発明の製造方法による効率は0.0497%(=0.0551%×0.902)となった。
【0137】
本発明の製造方法を用いることにより、同じヘアピン核酸(HP)を製造する際の効率は0.0108%から0.0497%に劇的に改善し、効率は4.6倍となった。
【0138】
以上から、本発明の製造方法により、最終産物に不要な核酸分子を合成することなく、高い効率で核酸分子を製造可能であることが示された。
図1
図2
【配列表】
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