(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001387
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】衛生マスク
(51)【国際特許分類】
A41D 13/11 20060101AFI20231227BHJP
【FI】
A41D13/11 Z
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099978
(22)【出願日】2022-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000201490
【氏名又は名称】前田工繊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】西尾 彰浩
(72)【発明者】
【氏名】田中 紘一朗
(72)【発明者】
【氏名】花田 彩佳
(57)【要約】
【課題】高い形状保持性によって口元を衛生的に保ち快適な着用感を確保可能な衛生マスクを提供すること。
【解決手段】本発明の衛生マスク1は、内層10が、ポリプロピレン製のスパンボンド不織布からなり、目付が20g/m
2以上であり、ハートループ法(JIS L 1096 D)による繊維横方向(CD)の剛軟度が75mm以下であり、外層20が、ポリプロピレン製のスパンボンド不織布からなり、目付が30g/m
2以上であり、0.05~5w%のフィラーを含み、ハートループ法による繊維横方向(CD)の剛軟度が65mm以下であることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも内層及び外層を備える衛生マスクであって、
前記内層が、ポリプロピレン製のスパンボンド不織布からなり、目付が20g/m2以上であり、ハートループ法(JIS L 1096 D)による繊維横方向(CD)の剛軟度が75mm以下であり、
前記外層が、ポリプロピレン製のスパンボンド不織布からなり、目付が30g/m2以上であり、0.05~5w%のフィラーを含み、ハートループ法による繊維横方向(CD)の剛軟度が65mm以下であることを特徴とする、
衛生マスク。
【請求項2】
前記内層の目付が、30g/m2以上であり、ハートループ法による繊維横方向(CD)の剛軟度が、65mm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の衛生マスク。
【請求項3】
前記フィラーが顔料を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の衛生マスク。
【請求項4】
前記フィラーがタルクであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の衛生マスク。
【請求項5】
前記内層及び/又は前記外層のエンボス溶着面積が、全体の5~30%の範囲内にあることを特徴とする、請求項1又は2に記載の衛生マスク。
【請求項6】
前記内層及び前記外層を含む全ての層を重ねた状態で上下方向に折り返してなるプリーツを備えることを特徴とする、請求項1又は2に記載の衛生マスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は衛生マスクに関し、特に高い形状保持性によって、口元を衛生的に保ち快適な着用感を確保可能な衛生マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウィルス、インフルエンザウィルス等の感染症予防や、花粉症対策の用途で衛生マスクが用いられている。衛生マスクには、織布、不織布、紙等の種々の材料を用いたものが存在するが、中でも製造コストが安価で、かつウィルスや花粉等の飛沫物の捕捉能力に優れる、不織布製の衛生マスクが広く普及している。
従来技術の衛生マスクは、例えば外層、中間層、及び内層を備え、フィルタ機能を備える中間層を外層と内層で挟み、外周部を溶着することで三層を一体に形成している。
衛生マスクは、生地が柔らかすぎると、内層の内面が着用者の唇に触れることで、唾液や口紅が付着して雑菌が繁殖するおそれがある。また、呼吸時に内層が口元に貼り付くことで、呼吸が妨げられ、息がしにくくなるという問題点がある。
【0003】
以上のような課題に対し、例えば特許文献1及び2のような発明が提示されている。
特許文献1には、着用者の口を覆う部分に溶融固化部を設け、溶融固化部を前方側に膨出させた衛生マスクが開示されている。この構成によれば、溶融固化部と着用者の唇との間に広い空間を確保することができるとされている。
特許文献2には、内面にテープ状の膏体を貼着した衛生マスクが開示されている。この構成によれば、マスクの形態を補強することで着用者の唇との間に空間を確保することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-233307号公報
【特許文献2】特開2012-187332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術には下記のような問題点がある。
<1>溶融固化部や膏体等によってマスクを部分的に補強する構成であるため、補強部以外の部分は依然として形状保持性が低く、呼吸で吸引されたり外側から押されることで内側に凹んで口元に接触しやすい。
<2>プリーツ部の溶融や膏体の接着などの加工が必要であるため生産性が悪く、製造コストが高い。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決可能な衛生マスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の衛生マスクは、少なくとも内層及び外層を備え、内層が、ポリプロピレン製のスパンボンド不織布からなり、目付が20g/m2以上であり、ハートループ法(JIS L 1096 D)による繊維横方向(CD)の剛軟度が75mm以下であり、外層が、ポリプロピレン製のスパンボンド不織布からなり、目付が30g/m2以上であり、0.05~5w%のフィラーを含み、ハートループ法による繊維横方向(CD)の剛軟度が65mm以下であることを特徴とする。
【0008】
本発明の衛生マスクは、内層の目付が、30g/m2以上であり、ハートループ法による繊維横方向(CD)の剛軟度が、65mm以下であってもよい。
【0009】
本発明の衛生マスクは、フィラーが顔料を含んでいてもよい。
【0010】
本発明の衛生マスクは、フィラーがタルクであってもよい。
【0011】
本発明の衛生マスクは、内層及び/又は外層のエンボス溶着面積が、全体の5~30%の範囲内にあってもよい。
【0012】
本発明の衛生マスクは、内層及び外層を含む全ての層を重ねた状態で上下方向に折り返してなるプリーツを備えていてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の衛生マスクは以上の構成を備えるため、次の効果のうち少なくとも一つを備える。
<1>ポリプロピレン製不織布の目付とフィラーの組み合わせによって、複層構造の内、最も外側の外層の剛軟性を高めることで、内層や中間層を外側から保持し、これを剛軟性の高い内層が内側から支持することで、着用者の口元と内層の間に呼吸空間を確保することができる。これによって、口元を衛生的に保つと共に、着用時の呼吸の快適性を高めることができる。
<2>従来技術のようにマスクを部分的に補強して支持するのではなく、外層全体の剛軟性を高めて内層等を面状に保持する構造であるため、形状保持性が高く、呼吸による吸引や外層への加圧が生じても内層が口元に接触しにくい。
<3>外層の剛軟性を目付とフィラーの組み合わせで達成しており、目付のみに依存しないため、通気性を損ないにくく、高い剛軟性と優れた通気性を同時に確保することができる。
<4>外層及び内層の材料選定と加工のみによって呼吸の快適性を確保できるため、生産性が高く製造コストが安い。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の衛生マスクについて詳細に説明する。
【0016】
[衛生マスク]
<1>全体の構成(
図1)
本発明の衛生マスク1は、主として感染症予防や花粉症対策の用途で用いられるマスクであって、少なくとも内層10及び外層20を備える。本例では、内層10と外層20の間に、中間層30を更に備える。
内層10、中間層30、及び外層20は、重ね合わせて、外周部を溶着する等の公知の手段で一体化し、幅方向両側にそれぞれ装着用の耳紐40等を付設する。
衛生マスク1は、例えば外層20の上縁に沿って、補強ワイヤ50等の補強部材を付設してもよい。なお、この場合には、後述する剛軟度等のパラメータは、これらの補強部材を取り外した場合の数値であることに留意されたい。
本発明の衛生マスク1は、複層構造の内、目付とフィラーの組み合わせによって、最も外側に位置する外層20の剛軟度を高めることで、内層10等を保持して全体の形状保持性を向上させ、着用者の口元と内層10の間に呼吸空間を確保した点に一つの特徴を有する。
【0017】
<1.1>プリーツ
本例では、内層10、中間層30、及び外層20を重ねた状態で上下方向に折り返して階段型のプリーツPを形成する。
プリーツPによって各層が一体に織り込まれることで、複層全体の一体性が高まり、外層20による内層10の保持機能が向上する。
ただしプリーツPは階段型に限らず、いわゆるオメガ型、立体型、又はいわゆるクリスタル型であってもよい。また、プリーツPを設けないこともできる。
【0018】
<2>内層
内層10は、着用時に最も内側、すなわち口に最も近い側に位置する層である。
内層10は、ポリプロピレン製のスパンボンド不織布である。
内層10の目付は、少なくとも20g/m2以上であり、より好適には30g/m2以上である。
内層10の厚さは、目付との関係において概ね0.1~0.7mm程度である。
内層10の繊維径は、10~50μmであることが望ましい。
本例では内層10の繊維構造として断面略円形を採用する。
ただし、内層10の繊維構造は断面略円形に限らず、例えば、断面扁平形、断面星形、断面Y字形、中空構造等であってもよい。また、異素材からなる芯鞘構造やマルチフィラメントからなってもよい。
【0019】
<2.1>内層の剛軟度
本発明の衛生マスク1は、内層10が、少なくとも素材と目付の組み合わせによって、高い剛軟度を備える。
内層10の剛軟度は、[JIS L 1096 D] によるハートループ法によって測定する。なお、本発明では剛軟度を不織布の繊維横方向(CD)に測定する。
ハートループ法は、ハートの環状に貼り合わせた20cmの試験片を試験器から吊り下げ、1分間放置後に枠の上端とループの下端との距離を測定することで、繊維の剛軟性(繊維を曲げた時の硬さの性質)を測定する方法である。従って、測定値(cm)が小さいほど剛軟度が高いことを示す。
内層10の目付が20g/m2以上の場合、ハートループ法による剛軟度として、75mm以下を確保する。
内層10の目付が30g/m2以上の場合、ハートループ法による剛軟度として、65mm以下を確保する。
【0020】
<3>外層
外層20は、着用時に最も外側、すなわち口から最も遠い側に位置する層であって、衛生マスク1の形状保持性を担保する支持層である。
外層20は、ポリプロピレン製のスパンボンド不織布である。ポリプロピレンは、ポリエステルやナイロンより比重が小さいため、ポリプロピレン製の不織布は、同一の目付であっても他の素材に比べて嵩高性に優れ、後述するフィラーとの組み合わせによって高い形状保持性を発揮することができる。
外層20は、0.05~5w%のフィラー(filler)を含む。
外層20の目付は、少なくとも30g/m2以上である。
外層20の厚さは、目付との関係において概ね0.1~0.7mm程度である。
外層20の繊維径は、10~50μmであることが望ましい。
本例では外層20の繊維構造として断面略円形を採用する。ただし、外層20の繊維構造は断面略円形に限らず、例えば、断面扁平形、断面星形、断面Y字形、中空構造等であってもよい。また、異素材からなる芯鞘構造やマルチフィラメントからなってもよい。
【0021】
<3.1>フィラー
フィラーは、外層20の機械的強度を向上させる混和材である。
フィラーの混和によって、目付のみに依存せずに不織布の剛軟度を高めることができる。
フィラーの含有量を増やすほど、不織布の剛軟度は高くなるが、概ね5w%を超えると、不織布が硬くなりすぎて糸が切れる等の不都合が生じ、不織布の生産に支障が生じる。よって、フィラーの含有量は0.05~5w%が至適である。
本例ではフィラーとして、タルク(滑石)を採用する。タルクは、水酸化マグネシウムとケイ酸塩からなる粘土鉱物であって、白色の粉末状を呈する。
外層20のポリプロピレン不織布にタルクを混和することで、外層20の機械的強度を高め、後述する所定の剛軟度を確保することが可能となる。
フィラーは、例えばスパンボンド製法による不織布の製造時に、ペレット状のマスターバッチとして製造装置内に投入することで、不織布内に均一に混和することができる。
ただしフィラーはタルクに限らず、例えば炭酸カルシウム、セルロースナノファイバー、水酸化アルミニウム等の体質顔料や、亜鉛華、黄鉛、鉛丹、ウルトラマリンその他の無機顔料、有機顔料等であってもよい。要は、外層20の素材及び目付との関係において、所定の剛軟度を確保できればよい。
【0022】
<3.2>剛軟度
本発明の衛生マスク1は、外層20が、少なくとも素材、目付、及びフィラーの組み合わせによって、高い剛軟度を備える。
外層20の剛軟度は、[JIS L 1096 D] によるハートループ法によって測定する。
外層20の目付は、30g/m2以上であり、ハートループ法による剛軟度として、65mm以下を確保する。
【0023】
<4>中間層
中間層30は、外層20と内層10の間に介在する層であって、細菌や花粉の透過を防ぐフィルタ層である。
本例では中間層30として、ポリプロピレン製のメルトブローン不織布を採用する。
ただし、中間層30の製法はメルトブローンに限らず、例えば、スンパンボンド、スパンレース、エアレイ、エアスルー、湿式等であってもよい。また、中間層30の素材はポリプロピレンに限らず、例えば、ポリエステル、ポリエチレン、ポリアミド、ウレタン、ナイロン、テフロン(登録商標)等であってもよい。
中間層30の目付は、5~40g/m2であることが望ましい。より好適には10~35g/m2、さらに好適には10~25g/m2である。
中間層30の厚さは、目付との関係において概ね0.1~0.7mm程度である。より好適には0.1~0.3mm程度である。
中間層30の繊維径は、0.5~8μmであることが望ましい。より好適には1.0~5μmである。
本例では中間層30の繊維構造として断面略円形を採用する。
ただし、中間層30の繊維構造は断面略円形に限らず、例えば、断面扁平形、断面星形、断面Y字形、中空構造等であってもよい。また、異素材からなる芯鞘構造やマルチフィラメントからなってもよい。
【0024】
<4.1>エレクレット加工
本例では、中間層30の不織布にエレクレット加工を施す。
エレクレット加工とは、不織布へ強電荷をかけて帯電させ、半永久的に電気分極を保持するエレクトレット(電石)性を付与する加工である。
エレクレット加工により、不織布の繊維内に微粒子を吸着させ、捕集効率を高めることができる。
【0025】
<5>実施例と比較例
以下に実施例1~6と比較例1~8を提示する(
図2)。
【0026】
[実施例1]
以下に衛生マスクの実施例1を開示する。
(1)内層
素材:ポリプロピレン
不織布:スパンボンド
目付:20g/m2
厚さ:0.17mm
繊維径:26μm
(2)外層
素材:ポリプロピレン
不織布:スパンボンド
目付:30g/m2
厚さ:0.23mm
繊維径:22μm
フィラー:1.5w%
(3)中間層
素材:ポリプロピレン
不織布:メルトブローン
目付:25g/m2
厚さ:0.1mm
繊維径:3μm
【0027】
[実施例2]
以下に衛生マスクの実施例2を開示する。
実施例2は、実施例1における内層の目付を、30g/m2に変更したものである。その他の構成は実施例1と同じである。
【0028】
[実施例3]
以下に衛生マスクの実施例3を開示する。
実施例3は、実施例1における外層の目付を、40g/m2に変更したものである。その他の構成は実施例1と同じである。
【0029】
[実施例4]
以下に衛生マスクの実施例4を開示する。
実施例4は、実施例1における内層の目付を、40g/m2に変更したものである。その他の構成は実施例1と同じである。
【0030】
[実施例5]
以下に衛生マスクの実施例5を開示する。
実施例5は、実施例1における外層のフィラーの含有量を、0.05w%に変更したものである。その他の構成は実施例1と同じである。
【0031】
[実施例6]
以下に衛生マスクの実施例6を開示する。
実施例6は、実施例1における外層のフィラーの含有量を、5.0w%に変更したものである。その他の構成は実施例1と同じである。
【0032】
[比較例1]
以下に衛生マスクの比較例1を開示する。
比較例1は、実施例1における内層の目付を10g/m2に、外層の目付を20g/m2に、それぞれ変更したものである。その他の構成は実施例1と同じである。
【0033】
[比較例2]
以下に衛生マスクの比較例2を開示する。
比較例2は、実施例1における内層の目付を、10g/m2に変更したものである。その他の構成は実施例1と同じである。
【0034】
[比較例3]
以下に衛生マスクの比較例3を開示する。
比較例3は、実施例1における外層の目付を、20g/m2に変更したものである。その他の構成は実施例1と同じである。
【0035】
[比較例4]
以下に衛生マスクの比較例4を開示する。
比較例4は、実施例1における外層のフィラーの含有量を0w%に変更したものである。その他の構成は実施例1と同じである。
【0036】
[比較例5]
以下に衛生マスクの比較例5を開示する。
比較例5は、実施例1における内層と外層との素材をナイロンとし、外層のフィラーの含有量を0w%に変更したものである。その他の構成は実施例1と同じである。
【0037】
[比較例6]
以下に衛生マスクの比較例6を開示する。
比較例6は、比較例5における内層の目付を30g/m2に、外層の目付を40g/m2に、それぞれ変更したものである。その他の構成は比較例5と同じである。
【0038】
[比較例7]
以下に衛生マスクの比較例7を開示する。
比較例6は、比較例5における内層の目付を、40g/m2に、外層の目付を40g/m2に、それぞれ変更したものである。その他の構成は比較例5と同じである。
【0039】
<6>試験結果(
図2)
実施例1~6と比較例1~7について、それぞれ内層及び外層の剛軟度と、衛生マスク全体の装着感を試験した。
外層及び内層の剛軟度は、[JIS L 1096 D] によるハートループ法によって測定した。
装着感は着用者による官能試験とした。
試験結果を、
図2に示す。なお、中間層は全例において同一であるため記載を省略している。
(実施例1~4)
本願発明に係る、素材、内層の剛軟度、外層の剛軟度、及び外層のフィラーの含有量を確保した実施例である。
特に実施例1、2では、目付とフィラーの組み合わせによって、外層の剛軟性を高めることで内層や中間層を外側から保持し、これを剛軟性の高い内層が内側から支持することで、着用者の口元と内層の間に呼吸空間を確保している。これによって、内層の内面が頬などの肌にフィットしつつ、口元では隙間を確保できることで、内層の内面が口元に触れず、極めて良好な着用感を達成している。
なお、外層の剛軟度が特に高い実施例3や、内層の剛軟度が特に高い実施例4では、衛生マスク全体の形状保持性が極めて高くなるため、内層の内面との間に若干の空隙が生じ、実施例1や2に比べると頬等へのフィット性が実施例1、2より若干劣った。だが内層の内面が口元に触れることはなく、着用感は概ね良好であった。
(実施例5、6)
実施例1からフィラーの含有量を増減した例である。
これらの実施例から、フィラーの含有量を増加することによって外層の剛軟度が高くなることが確認できる。
いずれもフィラーの含有量の最適化により、内層の剛軟度75mm以下と外層の剛軟度65mm以下を満たし、衛生マスク全体が高い形状保持性を発揮する。
このため、内層の内面が頬などの肌にフィットしつつ、口元では隙間を確保できることで、内層の内面が口元に触れず、良好な着用感を達成している。
(比較例1~3)
内層及び外層の少なくとも一方が、本願発明の数値範囲から外れた例である。
いずれも本願発明に係る目付の組み合わせを満たさない結果、内層の剛軟度75mm以下及び外層の剛軟度65mm以下のいずれか又は両方を確保できない。
このため、衛生マスク全体が柔らかすぎて形状保持性を保つことができず、内層の内面が着用者の口元に触れてしまっている。
(比較例4)
外層がフィラーを含まない例である。
本例は外層が本願発明に係る目付(外層:30g/m
2以上)を満たさない結果、外層の剛軟度が65mm以下を確保できない。
このため、衛生マスク全体が柔らかすぎて形状保持性を保つことができず、息をする際に内層の内面が吸い込まれて、着用者の口元に触れてしまっている。
(比較例5~7)
内層及び外層の素材をナイロンとした例である。
いずれも素材の剛性が低く、内層の剛軟度75mm以下、外層の剛軟度65mm以下を確保できないため、衛生マスク全体が柔らかすぎて形状保持性を保つことができず、内層の内面が着用者の口元に触れてしまっている。
(結論)
以上の試験結果から、本願発明の衛生マスクは、ポリプロピレン製不織布の目付とフィラーの組み合わせによって、高い形状保持性を発揮し、内層の内面と着用者の口元の間に呼吸空間を確保して快適な着用感を達成可能なことが理解できる。
【0040】
[エンボス溶着面積を最適化した例]
本例では、外層のエンボス溶着面積を最適化することで、外層の剛軟度を更に向上させる。
不織布のエンボス溶着とは、樹脂製不織布の製造工程において、熱ロールの周面に設けたエンボスによって繊維を融着することで、繊維を点状に溶融することをいう。溶着部分の繊維が溶けて樹脂化することで、不織布の表面に微小な凹凸が形成され、これによって不織布の剛軟度が高まる。
本例では外層20の製造時にエンボス溶着を施す。
エンボス溶着面積は、全体の5~30%の範囲内であることが望ましい。より好適には10~20%の範囲内、更に好適には12~18%の範囲内である。
これによって、外層20の剛軟度を高め、衛生マスク1全体の形状保持性を高めることができる。
ただし、本例は外層20のみに限らず、内層10のみ、又は外層20と内層10の両方のエンボス溶着面積を最適化してもよい。
【符号の説明】
【0041】
1 衛生マスク
10 内層
20 外層
30 中間層
40 耳紐
50 補強ワイヤ
P プリーツ
【手続補正書】
【提出日】2023-10-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも内層及び外層を備える衛生マスクであって、
前記内層が、ポリプロピレン製のスパンボンド不織布からなり、目付が20g/m2以上であり、フィラーを含まず、ハートループ法(JIS L 1096 D)による繊維横方向(CD)の剛軟度が75mm以下かつ57mm以上であり、
前記外層が、ポリプロピレン製のスパンボンド不織布からなり、目付が30g/m2以上40g/m
2
未満であり、0.05~5w%のフィラーを含み、ハートループ法による繊維横方向(CD)の剛軟度が前記内層の剛軟度より高く65mm以下かつ58.3mm以上であることを特徴とする、
衛生マスク。
【請求項2】
前記フィラーが顔料を含むことを特徴とする、請求項1に記載の衛生マスク。
【請求項3】
前記フィラーがタルクであることを特徴とする、請求項1に記載の衛生マスク。
【請求項4】
前記内層及び/又は前記外層のエンボス溶着面積が、全体の5~30%の範囲内にあることを特徴とする、請求項1に記載の衛生マスク。
【請求項5】
前記内層及び前記外層を含む全ての層を重ねた状態で上下方向に折り返してなるプリーツを備えることを特徴とする、請求項1に記載の衛生マスク。