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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138746
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】ダイカストマシンの射出装置
(51)【国際特許分類】
   B22D 17/32 20060101AFI20241002BHJP
【FI】
B22D17/32 B
B22D17/32 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049407
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】300041192
【氏名又は名称】UBEマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【弁理士】
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(74)【代理人】
【識別番号】100203046
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 聖子
(72)【発明者】
【氏名】松原 典明
(72)【発明者】
【氏名】鹿田 昌稔
(57)【要約】
【課題】複数台のピストン型のアキュムレータを並行して駆動させることでダイカストマシンの大型化に対応できる射出装置を提供すること。
【解決手段】射出部30は、鋳造キャビティ15に向けて溶湯を押し出す射出シリンダ40と、溶湯の射出充填の際に射出シリンダ40に向けてそれぞれが作動液を同時に供給する複数台の充填用アキュムレータ61A,61Bと、充填用アキュムレータ61A,61Bに作動液をチャージする作動液供給源46と、複数台の充填用アキュムレータ61A,61Bのそれぞれのピストンの位置を検知可能な第1センサPS1および第2センサPS2と、を備える。第1センサPS1は、充填用アキュムレータ61A,61Bへの作動液のチャージが開始された後の蓄油期間において、ピストン64を検知可能である。第2センサPS2は、射出シリンダ40に向けて充填用アキュムレータ61A,61Bから作動液を供給する射出充填期間において、ピストン64を検知可能である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造キャビティに向けて溶湯を押し出す射出シリンダと、
前記溶湯の射出充填の際に前記射出シリンダに向けてそれぞれが作動液を同時に供給する複数台のピストン型の充填用アキュムレータと、
前記充填用アキュムレータに前記作動液をチャージする作動液供給源と、
複数台の前記充填用アキュムレータのそれぞれのピストンを検知可能なセンサと、を備え、
前記センサは、
前記充填用アキュムレータへの前記作動液のチャージが開始されてから射出充填が開始される前までの蓄油期間および前記射出シリンダに向けて前記充填用アキュムレータから前記作動液を供給して前記射出充填をする射出充填期間の一方または双方において、前記ピストンを検知可能である、
ダイカストマシンの射出装置。
【請求項2】
前記センサは、
前記蓄油期間において前記ピストンを検知可能な第1センサと、
前記第1センサよりも低い位置に配置され、前記射出充填期間において前記ピストンを検知可能な第2センサと、を備える、
請求項1に記載のダイカストマシンの射出装置。
【請求項3】
前記蓄油期間において、前記第1センサから取得する検知信号に基づいてそれぞれの前記ピストンの底打ちの可能性を判定し、
前記射出充填期間において、前記第2センサから取得する検知信号に基づいてそれぞれの前記ピストンの底打ちの可能性を判定する、コントローラを備える、
請求項2に記載のダイカストマシンの射出装置。
【請求項4】
前記コントローラは、
前記蓄油期間において、以下のパターンAについては前記ピストンの底打ちの可能性はないと判定し、以下のパターンBおよびパターンCについては前記ピストンの底打ちの可能性があると判定する、
請求項3に記載のダイカストマシンの射出装置。
パターンA:前記作動液のチャージを開始してから前記第1センサが前記ピストンを検知し、その後に前記第1センサによる前記ピストンの検知が外れ、前記作動液のチャージが完了する。
パターンB:前記作動液のチャージを開始してから前記第1センサが前記ピストンを検知し、その後も前記作動液のチャージが完了するまで前記第1センサが前記ピストンを検知し続ける。
パターンC:前記作動液のチャージを開始してから前記作動液のチャージが完了するまでの間、前記第1センサが前記ピストンを検知しない。
【請求項5】
前記コントローラは、
前記射出充填期間において、以下のパターンIについては前記ピストンの底打ちの可能性はないと判定し、以下のパターンIIおよびパターンIIIについては前記ピストンの底打ちの可能性があると判定する、
請求項3または請求項4に記載のダイカストマシンの射出装置。
パターンI:前記射出充填を開始してから前記射出充填が完了するまでの間、前記第2センサは前記ピストンを検知しない。
パターンII:前記射出充填を開始してから前記第2センサが前記ピストンを検知し、その後も前記射出充填が完了するまで前記第2センサが前記ピストンを検知し続ける。
パターンIII:前記射出充填を開始してから前記第2センサが前記ピストンを検知し、その後に前記第2センサによる前記ピストンの検知が外れ、前記射出充填が完了する。
【請求項6】
前記底打ちの可能性を判定した前記コントローラは、
前記底打ちの可能性を視覚的方法および聴覚的方法の一方または双方で通知するか、または、
前記充填用アキュムレータによる前記作動液の前記射出シリンダへの供給を停止させる、
請求項3に記載のダイカストマシンの射出装置。
【請求項7】
前記底打ちの可能性を判定した前記コントローラは、
前記底打ちの可能性が判定された前記充填用アキュムレータの前記ピストンの位置を高くする補正動作を当該ピストンについて行う、
請求項3に記載のダイカストマシンの射出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストン型のアキュムレータにより溶湯の射出充填を行うダイカストマシンの射出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイカストマシンの射出装置は、射出スリーブを介して一対の金型の間に形成される鋳造キャビティに溶湯を射出して充填する。この射出充填をするのに射出シリンダが用いられ、通常、低速射出、高速射出および増圧という段階を経る。この射出シリンダを駆動するのに例えば特許文献1に記載されるように、ピストン型アキュムレータが用いられている。特許文献1は、アシスト用アキュムレータと射出用アキュムレータの二つのピストン型アキュムレータを備える射出装置を開示する。アシスト用アキュムレータの蓄圧可能な圧力は、射出用アキュムレータの蓄圧可能な圧力よりも低い。低速射出ではボールネジ機構とアシスト用アキュムレータにより射出シリンダが駆動され、高速射出では射出用アキュムレータにより射出シリンダが駆動される。このように、特許文献1の射出装置は高速射出の際には射出用アキュムレータだけを駆動させる。なお、低速射出は、アキュムレータの代わりに、油圧ポンプにより射出シリンダを駆動させることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-193093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、より大きなダイカスト成形品を製造したいという需要があり、ダイカストマシンの大型化が望まれている。ダイカストマシンの大型化に伴って射出装置を構成するアキュムレータの大型化が必要であるが、ダイカストマシンの大型化に対応できるアキュムレータを入手することが困難であるか、価格が極めて高額になる。
【0005】
以上より、本発明は、複数台のピストン型のアキュムレータを並行して駆動させることでダイカストマシンの大型化に対応できる射出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のダイカストマシンの射出装置は、
鋳造キャビティに向けて溶湯を押し出す射出シリンダと、
溶湯の射出充填の際に射出シリンダに向けてそれぞれが作動液を同時に供給する複数台の充填用アキュムレータと、
充填用アキュムレータに作動液をチャージする作動液供給源と、
複数台の充填用アキュムレータのそれぞれのピストンの位置を検知可能なセンサと、を備える。
本発明におけるセンサは、
充填用アキュムレータへの作動液のチャージが開始されてから射出充填が開始される前までの蓄油期間および射出シリンダに向けて充填用アキュムレータから作動液を供給して射出充填をする射出充填期間の一方または双方において、前記ピストンの位置を検知可能である。
【0007】
センサは、好ましくは、
蓄油期間においてピストンを検知可能な第1センサと、
第1センサよりも低い位置に配置され、射出充填期間においてピストンを検知可能な第2センサと、を備える。
【0008】
本発明の射出装置において、好ましくは、コントローラを備える。
このコントローラは、蓄油期間において、第1センサから取得する検知信号に基づいてそれぞれのピストンの底打ちの可能性を判定し、
射出充填期間において、第2センサから取得する検知信号に基づいてそれぞれのピストンの底打ちの可能性を判定する。
【0009】
コントローラは、好ましくは、
蓄油期間において、以下のパターンAについてはピストンの底打ちの可能性はないと判定し、以下のパターンBおよびパターンCについてはピストンの底打ちの可能性があると判定する。
パターンA:作動液のチャージを開始してから第1センサがピストンを検知し、その後に第1センサによるピストンの検知が外れ、作動液のチャージが完了する。
パターンB:作動液のチャージを開始してから第1センサがピストンを検知し、その後も作動液のチャージが完了するまで第1センサがピストンを検知し続ける。
パターンC:作動液のチャージを開始してから作動液のチャージが完了するまでの間、第1センサがピストンを検知しない。
【0010】
コントローラは、好ましくは、
射出充填期間において、以下のパターンIについてはピストンの底打ちの可能性はないと判定し、以下のパターンIIおよびパターンIIIについてはピストンの底打ちの可能性があると判定する。
パターンI:射出充填を開始してから射出充填が完了するまでの間、第2センサはピストンを検知しない。
パターンII:射出充填を開始してから第2センサがピストンを検知し、その後も射出充填が完了するまで第2センサがピストンを検知し続ける。
パターンIII:射出充填を開始してから第2センサがピストンを検知し、その後に第2センサによるピストンの検知が外れ、射出充填が完了する。
【0011】
本発明の射出装置において、
底打ちの可能性を判定したコントローラは、
底打ちの可能性を視覚的方法および聴覚的方法の一方または双方で警告を発するか、または、
充填用アキュムレータによる作動液の射出シリンダへの供給を停止させることができる。
【0012】
本発明の射出装置において、
底打ちの可能性を判定したコントローラは、
底打ちの可能性が判定された充填用アキュムレータのピストンの位置を上げる補正動作を当該ピストンについて行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の射出装置によれば、複数台のピストン型の充填用アキュムレータを備えることにより作動液の供給量を多くできることで、ダイカストマシンの大型化に対応できる。しかも、本発明の射出装置によれば、それぞれのピストン型アキュムレータのピストンの位置を検知できるセンサを設けるので、当該ピストンがアキュムレータ底面に衝突する底打ちを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係るダイカストマシンの構成を示す図である。
図2】実施形態に係るダイカストマシンのコントローラの構成を示す図である。
図3】実施形態に係るダイカストマシンにおいて、充填用アキュムレータに圧力ガスをチャージする際の作動液の流れを示す図である。
図4】実施形態に係るダイカストマシンにおいて、増圧用アキュムレータに圧力ガスをチャージする際の作動液の流れを示す図である。
図5】実施形態に係るダイカストマシンにおいて、溶湯を射出充填する際の作動液の流れを示す図である。
図6】実施形態に係るダイカストマシンにおいて、溶湯を増圧する際の作動液の流れを示す図である。
図7】実施形態に係る射出装置において、溶湯の射出充填の後にシリンダロッド42を後退させる際の作動液の流れを示す図である。
図8】ピストン型の充填用アキュムレータに生じ得るピストンの底打ちを説明する図である。
図9】蓄油期間において、第1センサによるピストンの検知パターンを示す図である。
図10】射出充填期間において、第2センサによるピストンの検知パターンを示す図である。
図11】ピストン型の充填用アキュムレータにおいて、位置センサによりピストンが検知されたときの対処例を示す図である。
図12】ピストン型の充填用アキュムレータにおいて、位置センサによりピストンが検知されたときの他の対処例であってピストンの位置補正を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら、実施形態に係るダイカストマシン1について説明する。このダイカストマシン1の射出部30は、複数台、一例として2台のピストン型の充填用アキュムレータ61A,61Bを備えることで大型のダイカスト成形品を鋳造することができる。加えてダイカストマシン1は、充填用アキュムレータ61A,61Bのそれぞれのピストン64の位置を検知できる第1センサPS1および第2センサPS2を備えることにより、ピストン64が充填用アキュムレータ61A,61Bの密閉容器65の底面に衝突する底打ちが生ずるのを防ぐことができる。
【0016】
[ダイカストマシン1の構成:図1
以下、ダイカストマシン1の構成について、図1を参照して説明する。
図1に示すダイカストマシン1は、ダイカスト成形品が鋳造される鋳造キャビティ15を有する金型部10と、金型部10の鋳造キャビティ15に溶湯を射出充填させる射出部30と、射出部30の動作を制御して鋳造キャビティ15内への溶湯の射出充填を行うコントローラ90と、を備える。なお、ダイカストマシン1において、図1に示すように、後述する可動金型13が設けられる側を前方Fと定義し、その反対の側を後方Rと定義する。前方Fおよび後方Rは相対的に捉えることができるものとし、例えば固定金型11と可動金型13についていえば固定金型11は可動金型13よりも後方Rにある。
【0017】
[金型部10:図1参照]
金型部10は、図示が省略される型締装置に取り付けられる固定金型11と可動金型13を備える。固定金型11と可動金型13とが型締されることで固定金型11と可動金型13の間に鋳造キャビティ15が形成される。固定金型11には、円筒状の射出スリーブ21が取り付けられており、鋳造キャビティ15はゲート17を介して射出スリーブ21の内部と繋がっている。
【0018】
金型部10は、前述の射出スリーブ21の内部に前進または後退(進退)可能に配置されるプランジャ22と、プランジャ22と射出シリンダ40を連結するロッド23と、を備える。射出スリーブ21には溶湯の注湯口24が設けられており、この注湯口24を介して溶湯が射出スリーブ21の内部に供給される。なお、図1などにおいて、注湯口24からすでに溶湯が供給された後にプランジャ22が注湯口24を通過して前進した状態が示されている。射出スリーブ21およびプランジャ22には、必要に応じて、冷却媒体、例えば冷却水が流れる流路を含む図示が省略される冷却機構が設けられる。また、プランジャ22の摩耗損傷の防止や摺動状態の安定化および溶湯残渣物の付着抑制等のため、射出スリーブ21とプランジャ22との摺動面に潤滑剤を塗布することが好ましい。また、射出スリーブ21に図示しない真空吸引経路等を設けて、射出スリーブ21および鋳造キャビティ15の内部の真空吸引と溶湯の射出充填を組み合わせることもできる。
【0019】
注湯口24から供給された射出スリーブ21の内部の溶湯は、プランジャ22の前進動作により、ゲート17を経由して鋳造キャビティ15内に射出充填される。射出充填の後の増圧工程を経た後にプランジャ22は注湯口24よりも後方Rに後退動作して待機している間に、射出スリーブ21の内部に溶湯が供給される。例えば位置センサによりプランジャ22またはロッド23の位置を計測し、この計測結果に基づいてコントローラ90がプランジャ22の進退動作を制御することで溶湯の射出充填を制御することができる。
【0020】
[射出部30:図1参照]
射出部30は、ロッド23を介してプランジャ22を進退移動させる射出シリンダ40と、射出シリンダ40に作動液を供給する蓄圧機構50と、を備える。蓄圧機構50は、複数台、一例として2台のピストン型の充填用アキュムレータ61A,61Bを備える充填用蓄圧部60を設けることで、射出シリンダ40への作動液の供給量を多くすることができる。作動液は典型的には作動油である。
【0021】
射出シリンダ40は、円筒状のシリンダ容器41と、シリンダ容器41の内部において進退移動するシリンダロッド42と、シリンダロッド42の後方Rの端部に設けられるシリンダロッド42とともに進退移動するシリンダヘッド44と、を備える。シリンダロッド42の前端部は、適宜の手段でロッド23と脱着可能に連結され、射出シリンダ40によりプランジャ22の進退動作を行う。
シリンダ容器41の内部の空間は、シリンダヘッド44よりも前方Fのロッド側油圧室43とシリンダヘッド44よりも後方Rのヘッド側油圧室45とを備える。射出シリンダ40は油圧駆動式の装置であり、ロッド側油圧室43とヘッド側油圧室45への作動液の流れを制御することで、プランジャ22の前進動作時の前進速度(射出速度)と前進圧力(射出圧力)、後退動作時の後退速度を制御することができる。また、シリンダロッド42、またはシリンダヘッド44の動作位置を、図示しない位置センサ等で計測して、プランジャ22の動作位置とすることもできる。
【0022】
射出シリンダ40は、シリンダ容器41のロッド側油圧室43とヘッド側油圧室45のそれぞれに作動液を供給するポンプなどを含む作動液供給源46を備える。
ロッド側油圧室43には作動液給排経路51が接続されている。作動液給排経路51には接続点CS2を介してロッド側作動液供給経路48の一端が接続されている。ロッド側作動液供給経路48は、他端が接続点CS5を介して増圧用作動液供給経路79に接続され、かつ、一端と他端の間において、接続点CS1を介してヘッド側作動液供給経路47に接続されている。ロッド側作動液供給経路48には、接続点CS2の側から第2チェック弁CV2、第3開閉弁OCV3、接続点CS1、第5開閉弁OCV5、第3チェック弁CV3および接続点CS5が順に設けられる。作動液給排経路51には、接続点CS2よりも下流に流量調整弁FRVが設けられている。
【0023】
ヘッド側油圧室45と作動液供給源46とはヘッド側作動液供給経路47で接続される。ヘッド側作動液供給経路47には、作動液供給源46に接続される上流側から順に第1開閉弁OCV1、第1チェック弁CV1および第2開閉弁OCV2が設けられている。
ヘッド側油圧室45には、作動液排出経路49が接続されており、この作動液排出経路49には第4開閉弁OCV4が設けられている。なお、ヘッド側作動液供給経路47および以降に登場する経路について、上流および下流は作動液の流れる向きを基準として定められる。また、これら経路は配管部材やマニホールドブロックにより構成される。
【0024】
[蓄圧機構50:図1参照]
蓄圧機構50は、溶湯の射出充填の際に射出シリンダ40に作動液を供給する充填用蓄圧部60と、鋳造キャビティ15に射出充填された溶湯の増圧の際に射出シリンダ40に作動液を供給する増圧用蓄圧部70を備える。
【0025】
[充填用蓄圧部60:図1参照]
充填用蓄圧部60は、2台のピストン型の充填用アキュムレータ61A,61Bと、充填用アキュムレータ61A,61Bのそれぞれに供給される圧力ガスを貯留するガスボトル66A,66Bと、を備える。充填用アキュムレータ61A,61Bとガスボトル66A,66Bとは充填用ガス供給経路67で接続されており、充填用ガス供給経路67の途上にはガス室63における圧力ガスの圧力を検知する圧力センサ68が設けられている。なお、ここでは充填用アキュムレータ61Aについて1台のガスボトル66Aを設け、充填用アキュムレータ61Bについて1台のガスボトル66Bを設けているが、1台のアキュムレータに複数台のガスボトルを設けることもできる。
【0026】
充填用アキュムレータ61A,61Bのそれぞれは、射出シリンダ40に供給する作動液を貯蔵する作動液室62と、ガスボトル66A,66Bから供給される加圧ガスが充填されるガス室63と、作動液室62とガス室63を気密に仕切る気密部材としてのピストン64と、を備える。ピストン64は、作動液室62の作動液とガス室63の圧力ガスとの間に自由状態で設けられるフリーピストンである。充填用アキュムレータ61A,61Bにおいて、以上の要素が密閉容器65の内部に設けられる。なお、充填用アキュムレータ61Aと充填用アキュムレータ61Bは同じ仕様で作成されているため、各構成要素はA,Bといった区別をしていない。
【0027】
充填用アキュムレータ61A,61Bのそれぞれには、好ましい形態として、ピストン64の位置を検知する第1センサPS1および第2センサPS2が設けられている。ピストン64の位置を検知できる限り位置センサの種別は問われないが、第1センサPS1および第2センサPS2は密閉容器65の外側に設けられるのが好ましい。この観点からすると、透過型のセンサ、例えば超音波センサ、透過型のレーザセンサ、透過型の光電センサおよび近接センサなどを用いることができる。これらのセンサはピストン64の位置を直接的に検知することを主旨とするが、例えば作動液室62に貯留される作動液の量を計測することによりピストン64の位置を間接的に検知することもできる。第1センサPS1および第2センサPS2の検知結果はコントローラ90に送られる。
【0028】
第1センサPS1および第2センサPS2は、検知したピストン64が底打ちする可能性があるか否かの判定に用いられる。その中で、第1センサPS1は蓄油期間においてピストン64の底打ちの可能性の判定に供され、第2センサPS2は射出充填期間においてピストン64の底打ちの可能性の判定に供される。第1センサPS1と第2センサPS2が配置される位置を比べると、第2センサPS2は充填用アキュムレータ61A,61Bの底面の近くに配置され、第1センサPS1は第2センサPS2よりも高い位置に配置される。第1センサPS1は底打ちしない最低限の量の作動液をチャージする第1基準位置に配置され、第2センサPS2は、そのままではピストン64が早期に底打ちすると推測される第2基準位置に配置される。なお、第1センサPS1の第1基準位置は充填用アキュムレータ61A,61Bにおけるガスの温度やチャージ完了圧力に応じて変更することがあるが、第2センサPS2の第2基準位置は通常はガスの温度やチャージ完了圧力の影響を受けない絶対的な位置である。第1センサPS1と第2センサPS2の双方を設けることが好ましいが、ピストン64がより早期に底打ちする可能性を示唆することのできる第2センサPS2だけを設けてもよい。
【0029】
それぞれの作動液室62には、分岐経路69A,69Bを介して充填用作動液供給経路69が接続されている。分岐経路69A,69Bと充填用作動液供給経路69とは、接続点CS3を介して接続される。充填用作動液供給経路69は、作動液の流れる向きを基準にした下流側の接続点CS6においてヘッド側作動液供給経路47に接続される。充填用作動液供給経路69には充填用アキュムレータ61A,61Bから作動液が供給されるが、この作動液の射出シリンダ40への流れはヘッド側作動液供給経路47に設けられる第2開閉弁OCV2により制御される。第2開閉弁OCV2は、接続点CS6と接続点CS4の間に設けられる。
【0030】
[増圧用蓄圧部70:図1参照]
増圧用蓄圧部70は、1台のピストン型の増圧用アキュムレータ71と、増圧用アキュムレータ71に供給される圧力ガスを貯留するガスボトル76と、を備える。増圧用アキュムレータ71とガスボトル76とは増圧用ガス供給経路77で接続されており、増圧用ガス供給経路77の途上にはガス室73における圧力ガスの圧力を検知する圧力センサ78が設けられている。
【0031】
増圧用アキュムレータ71は、射出シリンダ40に供給する作動液を貯蔵する作動液室72と、ガスボトル76から供給される加圧ガスが充填されるガス室73と、作動液室72とガス室73を気密に仕切る気密部材としてのピストン74と、を備える。ピストン74は、作動液室72の作動液とガス室73の圧力ガスとの間に自由状態で設けられるフリーピストンである。以上の要素が密閉容器75の内部に設けられる。
【0032】
作動液室72には増圧用作動液供給経路79が接続されている。増圧用作動液供給経路79は、下流側の接続点CS4においてヘッド側作動液供給経路47と接続されることでヘッド側油圧室45に接続される。増圧用作動液供給経路79には増圧用アキュムレータ71からの作動液の射出シリンダ40への流れを制御する第6開閉弁OCV6が設けられている。第6開閉弁OCV6は、接続点CS4と接続点CS5との間に設けられる。
【0033】
[コントローラ90:図1図2
次に、コントローラ90について説明する。
コントローラ90は、射出部30および蓄圧機構50の動作を制御することで、金型部10への溶湯の射出充填を実行する。
コントローラ90は、図2に示すように、送受信部91、記憶部93、処理部95および入力/表示部97を備える。この機能の区分は一例であり、さら機能を細分化したり、機能を統合したりすることができる。コントローラ90は、CPU(Central Processing Unit)、ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)、ソリッドステートドライブ(SSD:Solid State Drive)などの補助記憶装置(ストレージ)、ランダム・アクセス・メモリ(RAM:Random Access Memory)などの主記憶装置(メインメモリ)およびディスプレイなどを備えるコンピュータ装置により構成される。
【0034】
[送受信部91]
送受信部91は、射出部30および蓄圧機構50に対して動作を指示する信号を送信する。具体的には、第1開閉弁OCV1~第6開閉弁OCV6にその開閉を指示する信号および流量調整弁FRVにその作動液の流量の調整のための信号を送信する。また、送受信部91は作動液供給源46からの射出シリンダ40への作動液の供給に関する制御信号を送信する。さらに、送受信部91は、センサPSからのピストン64の検知信号および圧力センサ68からの圧力値に関する信号を受信する。
【0035】
[記憶部93,処理部95,入力/表示部97]
記憶部93は、送受信部91から送信する第1開閉弁OCV1~第6開閉弁OCV6への開閉指示信号に関するデータおよび流量調整弁FRVへの作動液の流量調整信号に関するデータを記憶する。これらデータは、入力/表示部97から入力される。また、これらデータは、処理部95が記憶部93から読み出して送受信部91から送信される。
記憶部93は、送受信部91を介して第1センサPS1および第2センサPS2からのピストン64の検知信号を取得したときの対応に関するデータを記憶する。処理部95は、この対応データを読み出して所定の対応を実行する。具体的な対応内容は後述されるが、第1センサPS1および第2センサPS2がピストン64の検知信号を取得した旨のメッセージを入力/表示部97に表示させることができる。また、記憶部93には後述されるパターンA~パターンCを特定するデータ、パターンI~パターンIIIを特定するデータが記憶され、第1センサPS1および第2センサPS2がピストン64の検知信号を取得すると、これらパターンに関するデータと対比される。
【0036】
[射出充填手順:図3図4図5図6図7
以下、図3図7を参照して、ダイカストマシン1による溶湯の射出充填手順を説明する。この手順は、充填用アキュムレータ61A,61Bへの作動液のチャージ(図3)、増圧用アキュムレータ71への作動液のチャージ(図4)、溶湯の射出充填(図5)、溶湯の増圧(図6)、射出シリンダの後退(図7)を含む。図3図7において、作動液が流れる経路は実線で示され、作動液の流れが止められている経路は破線で示される。
【0037】
ダイカストマシン1は、第1センサPS1および第2センサPS2によるピストン64の位置検知による底打ちの可能性の判定を行う。第1センサPS1による判定は充填用アキュムレータ61A,61Bへの作動液のチャージが開始されてから射出充填が開始される前までの蓄油期間において行われる。第2センサPS2による判定は、蓄油期間の後であって充填用アキュムレータ61A,61Bから射出シリンダ40に作動液が供給される射出充填期間において行われる。
【0038】
[充填用アキュムレータへの作動液チャージ:図3
ダイカストマシン1において溶湯の射出を行う準備として、充填用アキュムレータ61A,61Bに作動液をチャージする。作動液のチャージは、充填用アキュムレータ61A,61Bのそれぞれの作動液室62に作動液供給源46から作動液を供給することにより行われる。2つの充填用アキュムレータ61A,61Bはそれぞれ同時に作動液を供給する。なお、増圧用アキュムレータ71への作動液のチャージは充填用アキュムレータ61A,61Bへのチャージとは個別に行われる。これは、充填用アキュムレータ61A,61Bと増圧用アキュムレータ71とでは、必要な作動液の量やチャージ完了圧力が異なるためである。
【0039】
この作動液のチャージにおいて、作動液供給源46、ヘッド側作動液供給経路47、充填用作動液供給経路69、分岐経路69A,69Bの順に作動液(AO)が流れる。このとき、第1開閉弁OCV1は開(ON)とされるが、他の開閉弁は閉(OFF)とされている。なお、図3などにおいて、開(ON)とされている開閉弁について開(ON)が併記されている。この作動液のチャージの最中に図示が省略される油圧センサにより充填用作動液供給経路69において検知される圧力実測値を取得したコントローラ90において、処理部95が予め記憶部93に記憶されている圧力閾値に圧力実測値が達したか否かを判断する。圧力閾値に圧力実測値が達すれば、処理部95は作動液供給源46の停止、第1開閉弁OCV1の閉を指示して、充填用アキュムレータ61A,61Bへの作動液のチャージが終了する。
【0040】
充填用アキュムレータ61A,61Bの作動液チャージの開始時にはピストン64は密閉容器65の中の低い位置(破線)にあるが、作動液の供給が進むのに伴って原則としてピストン64は上昇する。第1センサPS1との関係でいえば、作動液チャージの途中においてピストン64は第1センサPS1で検知し得るが、作動液チャージが終了すると第1センサPS1よりもピストン64が上に位置し、第1センサPS1はピストン64を検知できなくなる。しかし、経年によるパッキンの摩耗等により、作動液がピストン64からガス室63に漏れ出ることによって、作動液チャージが終了してもピストン64が低い位置にあると第1センサPS1により検知され得る。この第1センサPS1による検知は、ピストン64に底打ちが生ずる可能性があることを示している。第1センサPS1によるピストン64の検知パターンは複数あり得るが、具体的には後述される。
【0041】
[増圧用アキュムレータ71への作動液チャージ:図4参照]
充填用アキュムレータ61A,61Bへの作動液のチャージが終了すると、増圧用アキュムレータ71への作動液のチャージを開始する。この作動液のチャージは、増圧用アキュムレータ71の作動液室72に作動液供給源46から作動液を供給することにより行われる。なお、ここでは増圧用アキュムレータ71への作動液のチャージを充填用アキュムレータ61A,61Bへのチャージを終えた後に行う例を示したが、チャージの順番を逆にしてもよい。
【0042】
この作動液のチャージにおいて、作動液供給源46から接続点CS1まではヘッド側作動液供給経路47を作動液が流れ、接続点CS1から接続点CS5まではロッド側作動液供給経路48を作動液が流れる。さらに、接続点CS5から増圧用アキュムレータ71までは増圧用作動液供給経路79を作動液が流れる。このとき、第5開閉弁OCV5は開(ON)とされるが、他の開閉弁は閉(OFF)とされている。この作動液のチャージの最中に図示が省略される油圧センサにより増圧用作動液供給経路79において検知された圧力実測値を取得したコントローラ90において、処理部95が予め記憶部93に記憶されている圧力閾値に圧力実測値が達したか否かを判断する。圧力閾値に圧力実測値が達すれば、処理部95は作動液供給源46の停止、第5開閉弁OCV5の閉を指示して、増圧用アキュムレータ71への作動液のチャージが終了する。
なお、増圧用アキュムレータ71については、より高圧な作動液をチャージする必要がある場合には、作動液供給源46と作動液室72の間に図示が省略される油圧ブースターを設置することが好ましい。この油圧ブースターによって圧力をより高めて作動液室72に非常に高圧な作動液をチャージすることができる。
【0043】
[射出充填:図5参照]
蓄圧機構50(充填用蓄圧部60,増圧用蓄圧部70)への作動液チャージを終えると、溶湯の鋳造キャビティ15への射出充填が充填用蓄圧部60を用いて行われる。
第2開閉弁OCV2が開(ON)とされる。そうすると、充填用アキュムレータ61A,61Bのそれぞれの作動液室62に所定の圧力をもって蓄えられていた作動液が分岐経路69A,69B、充填用作動液供給経路69を通ってヘッド側油圧室45に供給され、シリンダヘッド44を押す。そうするとシリンダヘッド44が前方Fに移動するのに伴って、プランジャ22が前方Fに移動することで溶湯がゲート17を介して鋳造キャビティ15に射出充填される。シリンダヘッド44が前方Fに移動することにより、ロッド側油圧室43に蓄えられている作動液が作動液給排経路51を通って排出される。
【0044】
射出充填は、溶湯を相対的に遅い速度で射出充填する低速射出および低速射出よりも相対的に速い速度で射出充填する高速射出を含む。低速射出は溶湯が金型のゲート17に届く前段階で空気を巻き込まないようにするために高速射出に先行して行われる。低速射出と高速射出は、作動液給排経路51の接続点CS2よりも下流に設けられる流量調整弁FRVの動作をコントローラ90が制御することにより行われる。つまり、流量調整弁FRVを流れる作動液の量を少なくすれば低速射出となり、多くすれば高速射出となる。低速射出および高速射出を通じて所定量の溶湯が充填されると、ダイカストマシン1は射出充填の工程を終える。
【0045】
射出充填の間には、充填用アキュムレータ61A,61Bのそれぞれに対応して設けられる第2センサPS2によりピストン64の位置を継続して検知される。コントローラ90は、第2センサPS2から検知結果を取得して底打ちの可能性を判定する。第2センサPS2によるピストン64の検知パターンは複数あり得るが、具体的には後述される。次の増圧工程においても同様である。
【0046】
[増圧:図6参照]
射出充填を終えると、ダイカストマシン1は増圧用蓄圧部70を用いて増圧工程が以下のようにして行われる。
第6開閉弁OCV6が開(ON)とされる。そうすると、増圧用アキュムレータ71の作動液室72に射出充填よりも高い圧力をもって蓄えられていた作動液が増圧用作動液供給経路79を通ってヘッド側油圧室45に供給され、シリンダヘッド44を押す。そうするとシリンダヘッド44が前方Fに移動するのに伴って、プランジャ22がゲート17を介して鋳造キャビティ15に射出充填されていた溶湯を押す。このときのシリンダヘッド44の移動距離は射出充填に比べると短い。シリンダヘッド44が前方Fに移動することにより、ロッド側油圧室43に蓄えられている作動液が作動液給排経路51の流量調整弁FRVを通って排出される。必要な圧力を付与すると、ダイカストマシン1は増圧の工程を終える。
【0047】
[シリンダ機構の後退:図7参照]
射出充填、増圧の各工程を終えると、作動液供給源46を作動させて、射出シリンダ40のシリンダヘッド44を射出開始位置まで後退させる。この後退は以下のようにして実現される。
作動液供給源46の側から第3開閉弁OCV3および第4開閉弁OCV4が開(ON)される。そして、作動液供給源46から作動液AOがロッド側作動液供給経路48および作動液給排経路51を通ってロッド側油圧室43に供給されるので、シリンダヘッド44は後退する。これに伴ってヘッド側油圧室45の作動液は作動液排出経路49を通って排出される。シリンダヘッド44が射出開始位置まで後退する。そうすると、次のダイカスト製品の製造のために、充填用アキュムレータ61A,61Bへの作動液チャージが行われる。
【0048】
[ピストン64の底打ち:図8参照]
シリンダヘッド44を開始位置まで後退させた後に、ダイカストマシン1は、以上で説明した蓄圧機構50への作動液チャージ、射出充填、増圧およびシリンダ機構の後退を含む一連の工程を繰り返す。そして、これらの工程を繰り返す過程において、ピストン64が底打ちするのを未然に防ぐために、蓄圧機構50は第1センサPS1および第2センサPS2を備える。図8を参照しながら底打ちおよび底打ちが生じる要因を説明した後に、図9および図10を参照しながら第1センサPS1および第2センサPS2を備えることによる底打ちの可能性の判定手法を説明する。なお、図8には第1センサPS1および第2センサPS2の記載が省略されている。
【0049】
底打ちは、図8(a)に示されるように、ピストン64と密閉容器65の摺動面を通って作動液室62からガス室63に作動液(ドレンDR)が漏れ出ることが典型的な要因である。例えば、2つの充填用アキュムレータ61A,61Bの一方の充填用アキュムレータ61Aのピストン64の上にドレンDRが溜まると、両者のピストン64の位置に差が生ずる。この例では充填用アキュムレータ61Aのピストン64の位置が低くなる。この状態で射出充填のために第2開閉弁OCV2を開(ON)にすると、図8(b)に示されるように、位置の低い充填用アキュムレータ61Aのピストン64が密閉容器65の底面に衝突する底打ちが生じ得る。底打ちが生じると射出シリンダ40の動作速度が遅くなり、成形品に不良が生ずる可能性がある。もしくは、射出シリンダ40の動作速度が速い設定の場合には、底打ちに気づかずにピストン64が損傷する可能性もある。そこで、充填用アキュムレータ61A,61Bの蓄油期間および射出充填期間において、ピストン64の底打ちの可能性を判定する。この判定結果は、充填用アキュムレータ61A,61Bの保守点検の起点となる。なお、ピストン型のアキュムレータにおいて、ピストン64と密閉容器65の間の摺動面から作動液が漏れ出ることを完全にシールすることは困難であり、ドレンDRは不可避的に生じ得る。
複数台、例えば2つの充填用アキュムレータ61A,61Bを備える場合、一方の充填用アキュムレータ61Aのピストン64が底打ちしたとしても、底打ちしたことを特定しにくい。これは、底打ちしていない方のピストン64を含む充填用アキュムレータ61Bにより射出シリンダ40が正常に動作してしまうからである。したがって、複数台の充填用アキュムレータを備える場合に、底打ちを検知することの必要性が大きい。
【0050】
底打ちは、上述した作動液のドレンDRが生じることの他に、充填用アキュムレータ61A,61Bのそれぞれのガス室63のガス圧力に差があること、充填用アキュムレータ61A,61Bのそれぞれのピストン64と密閉容器65の間の摺動抵抗が異なること、なども要因となりうる。
なお、図8において、センサPSは一つだけ示されている。図11図12においても同様である。
【0051】
[センサによるピストン検知パターン:図9図10参照]
蓄油期間における第1センサPS1によるピストン64の検知パターンについて図9を参照して説明した後に、射出充填期間における第2センサPS2によるピストン64の検知パターンについて図10を参照して説明する。なお、図9には第2センサPS2の記載は省略され、図10には第1センサPS1の記載が省略されているが、図1などに示すように、第1センサPS1と第2センサPS2の両方を備えることができる。
【0052】
[第1センサPS1による検知パターン:図9参照]
蓄油期間における第1センサPS1によるピストン64の検知にはパターンA,パターンBおよびパターンCの少なくとも3つのパターンがある。コントローラ90は、これら3つのパターンがあり得ることを前提として、第1センサPS1からの検知情報を取得することにより、底打ちの可能性を判定する。
なお、蓄油期間における検知においては、充填用アキュムレータ61A,61Bに作動液がチャージされることから、第1センサPS1はそのチャージに見合った高い位置に配置される。少なくとも、第1センサPS1は第2センサPS2よりも高い位置に配置される。また、図9において、作動液のチャージが始まる前の初期状態が最上段に示され、初期状態の下にパターンA、パターンBおよびパターンCが順に示されている。
【0053】
パターンA:作動液チャージを開始するとピストン64が上昇し、パターンAの左側に示されるように、第1センサPS1がピストン64を検知する。ピストン64がさらに上昇し、第1センサPS1よりも高い位置まで上昇すると、パターンAの右側に示されるように、第1センサPS1による検知を外れ、そのままの状態で作動液のチャージが完了する。このパターンAは、ピストン64が第1センサPS1よりも高い位置にあるので、コントローラ90は底打ちの可能性はないと判定することができる。
【0054】
パターンB:作動液チャージを開始するとピストン64が上昇し、パターンBの左側の図に示されるように、第1センサPS1がピストン64を検知する。ここまでは、パターンAと同じである。パターンBは、パターンBの右側の図に示されるように、作動液のチャージが完了するまで第1センサPS1がピストン64を検知し続ける。このパターンBは、ピストン64が低い位置にあるので、コントローラ90はピストン64が底打ちする可能性があるものと判定する。
【0055】
パターンC:作動液チャージを開始してから作動液チャージが完了するまでの間、第1センサPS1がピストン64を検知しないというのがパターンCである。このパターンCについてもピストン64の位置が低いので、コントローラ90はピストン64が底打ちする可能性があるものと判定する。パターンBに比べてパターンCの方がピストン64の位置が低いから、コントローラ90はパターンCの方がピストン64の底打ちの可能性が高いと判定できる。
【0056】
[第2センサPS2による検知パターン:図10参照]
射出充填期間における第2センサPS2によるピストン64の検知にはパターンI,パターンIIおよびパターンIIIの少なくとも3つのパターンがある。コントローラ90は、これら3つのパターンがあり得ることを前提として、第2センサPS2からの検知情報を取得することにより、底打ちの可能性を判定する。
なお、射出充填期間における検知においては、充填用アキュムレータ61A,61Bから作動液が射出シリンダ40に向けて供給されその量が減少することから、第2センサPS2はその減少に応じて充填用アキュムレータ61A,61Bの底に近い位置に配置される。少なくとも、第2センサPS2は第1センサPS1よりも低い位置に配置される。また、図10において、作動液の供給が始まる前の初期状態が最上段に示され、初期状態の下にパターンI、パターンIIおよびパターンIIIが順に示されている。この初期状態は、充填用アキュムレータ61A,61Bへの作動液のチャージが完了した状態といえる。
【0057】
パターンI:射出充填を開始するとピストン64が下降する。しかし、パターンIは左側の図に示されるように第2センサPS2に検知され得るところまでピストン64は下降しない。その後もパターンIの右側の図に示されるように、射出充填の完了までピストン64は第2センサPS2に検知され得るところまで下降しない。つまり、射出充填を開始してから射出充填が完了するまでの間、第2センサPS2はピストン64を検知しない。このように、パターンIは、射出充填期間において、ピストン64が第2センサPS2よりも高い位置に留まっているものとみなされるため、コントローラ90は底打ちの可能性がないと判定することができる。
【0058】
パターンII:射出充填を開始するとピストン64が下降し、パターンIIの左側の図に示されるように、第2センサPS2がピストン64を検知する。パターンIIは、パターンIIの右側の図に示されるように、射出充填が完了するまで第2センサPS2がピストン64を検知し続ける。このパターンIIは、ピストン64が低い位置にあるので、コントローラ90はピストン64が底打ちする可能性があるものと判定する。
【0059】
パターンIII:射出充填を開始するとピストン64が下降し、パターンIIIの左側の図に示されるように、第2センサPS2がピストン64を検知する。ここまではパターンIIと同じである。パターンIIIは、パターンIIIの右側の図に示されるように、射出充填が完了するまでの間、第2センサPS2よりも低い位置までピストン64が下降してしまい、第2センサPS2によるピストン64の検知が外れる。パターンIIに比べてパターンIIIの方がピストン64の位置が低いから、コントローラ90はパターンIIIの方がピストン64の底打ちの可能性が高いと判定できる。
【0060】
[検知結果に基づく警告機能:図11参照]
ダイカストマシン1は、第1センサPS1または第2センサPS2によりピストン64が検知されたときにダイカストマシン1の作業員などに通知、警告する機能を備えることができる。なお、前述したように、充填用アキュムレータ61A,61Bが蓄油期間にあるときに、コントローラ90は第1センサPS1によるピストン64の検知結果を取得、判定する。
【0061】
コントローラ90は、第1センサPS1がピストン64を検知すると、図11に示されるように、入力/表示部97に警告を表示させる。ここでは、一例として、「充填用アキュムレータ61Aのピストン64の位置が低くなっています」というメッセージが表示されている。メッセージの表示に加えて、音声によりピストン64の位置が低くなっていることを警告することもできる。つまり、コントローラ90は、底打ちの可能性を視覚的方法および聴覚的方法の一方または双方で通知できる。
【0062】
また、コントローラ90は警告を表示するのに加えて、以後の充填用アキュムレータ61A,61Bの動作が行われないように、ダイカストマシン1の動作を制御する。この動作の制御は、充填用アキュムレータ61A,61Bの保守点検のために行われる。この動作の制御としては、少なくとも二つの選択肢がある。
【0063】
一つ目の選択肢は、以後のダイカストマシン1を構成する全ての要素の動作を停止させることである。
例えば、充填用アキュムレータ61A,61Bにおける作動液のチャージを終えて第1開閉弁OCV1を閉(OFF)とした時点で第1センサPS1がピストン64を検知したとする。次の工程は増圧用アキュムレータ71への作動液のチャージであるが、この作動液のチャージはもちろん、その次以降の工程が行われないように、一切の動作を停止させる。一切の動作の停止は、図9に示されるように、入力/表示部97に表示させることができる。
【0064】
二つ目の選択肢は、充填用アキュムレータ61A,61Bの動作を停止させるが、他の要素の動作を妨げないことである。
例えば、充填用アキュムレータ61A,61Bにおける作動液のチャージを終えて第1開閉弁OCV1を閉(OFF)とした時点で第1センサPS1がピストン64を検知したとする。ここまでは一つ目の選択肢と同じであるが、二つ目の選択肢は次の工程である増圧用アキュムレータ71への作動液のチャージのための動作を許容する。増圧用アキュムレータ71へ作動液をチャージしたとしても、充填用アキュムレータ61A,61Bの保守点検の妨げにはならないからである。
ここでは第1センサPS1について説明したが、射出充填期間に第2センサPS2による検知結果を取得すると、コントローラ90は以上で説明したのと同様に底打ちの可能性の通知および動作の制御を行うことができる。
【0065】
[ピストンの位置補正機能:図12参照]
ダイカストマシン1は、図12に示されるように、位置が低くなったピストン64を補正することができる。このダイカストマシン1は、ガスボトル66A,66Bのそれぞれにガス排出経路81を接続するとともに、ガス排出経路81のそれぞれの途上に開閉弁83を設ける。開閉弁83はコントローラ90によりその開度が制御される。
【0066】
図12(a)に示すようにセンサPSが充填用アキュムレータ61Aのピストン64を検知したとする。また、この検知時点では充填用アキュムレータ61Aにおいてピストン64に負荷される圧力と充填用アキュムレータ61Bにおいてピストン64に負荷される圧力とが一致しているものとする。このままの状態で充填用アキュムレータ61A,61Bのそれぞれから作動液を射出充填のために射出シリンダ40に向けて供給すると、充填用アキュムレータ61Aのピストン64は底打ちするおそれがある。そこで、ダイカストマシン1は、図12(b)に示すように、充填用アキュムレータ61Aに関わる開閉弁83を開放することでピストン64の位置が高くなるように補正する。この補正は、好ましくは、充填用アキュムレータ61Aのピストン64が充填用アキュムレータ61Bのピストン64と同じ高さになるようにする。
【0067】
[効 果]
ダイカストマシン1によれば、複数台の充填用アキュムレータ61A,61Bのいずれかのピストン64が基準の低位置に達したことを検知することができる。したがって、作動液のチャージ後の射出充填のための作動液の射出シリンダ40へ供給するのに伴ってピストン64が底打ちするのを防止することができる。
【0068】
特に第1センサPS1と第2センサPS2を備える好ましい形態のダイカストマシン1によれば、蓄油期間と射出充填期間の双方において、ピストン64の底打ちの可能性を判定できる。つまり、ダイカストマシン1によれば、充填用アキュムレータ61A,61Bが使用される幅広い期間に応じて、ピストン64の底打ちの可能性を判定できる。
さらに、ダイカストマシン1によれば、第1センサPS1によりピストン64を検知するパターンA~Cを設定し、また、第2センサPS2によりピストン64を検知するパターンI~IIIを設定する。したがって、ダイカストマシン1によれば、第1センサPS1または第2センサPS2でピストン64を検知したこととこれらパターンを比較することにより、蓄圧期間または射出充填期間において、ピストン64の底打ちの可能性を適切に判定することができる。
【0069】
ピストン64の底打ちの防止は、人為的な行為を伴うこともできるが、ダイカストマシン1によればピストン64が低位置に達すると、以後の充填用アキュムレータ61A,61Bの動作を自動的に停止させることができる。したがって、好ましいダイカストマシン1によれば、より確実にピストン64が底打ちするのを防止することができる。
【0070】
ダイカストマシン1によれば、ピストン64が底打ちする可能性があると判定すると、その旨の警告をする。したがって、ダイカストマシン1のオペレータ、その他の関係者は、この警告に触れることで底打ちの可能性があることを認識し、必要な行動、例えば充填用アキュムレータ61A,61Bの保守点検のための部品取り揃えなどの準備、この準備の後の保守点検を適時に行うことができる。
【0071】
ダイカストマシン1によれば、ピストン64が基準の低位置に達したことを検知すると、当該ピストン64を他方の正常な位置のピストン64の位置に一致するように位置補正することができる。したがって、ダイカストマシン1によれば、底打ちするまでの期間を長く伸ばすことができる。
【0072】
上記以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【0073】
図1などに記載されるダイカストマシン1の構成は一例にすぎず、本発明を実施するために他の構成を採用することができる。
例えば、ダイカストマシン1のサイズに応じて3台以上の充填用アキュムレータを設けることができる。また、複数台の充填用アキュムレータにおいて仕様が同じであることが好ましい。これは、複数台のそれぞれについての動作の制御を同じにできるという制御の便宜のためである。しかし、動作の制御が可能であれば、異なる仕様の複数台の充填用アキュムレータを用いることができる。
【0074】
以上の射出充填手順はあくまで一例である。
例えば、充填用アキュムレータ61A,61Bへの作動液チャージと増圧用アキュムレータ71の作動液チャージの順番を入れ替えることができる。また、作動液供給源46が複数あれば、充填用アキュムレータ61A,61Bへの作動液チャージと増圧用アキュムレータ71への作動液チャージを並行して行うこともできる。
また、射出シリンダ40の後退が完了した後に充填用アキュムレータ61A,61Bへの作動液チャージが行われる例を説明した。しかし、増圧用アキュムレータ71による増圧の工程が行われている最中に充填用アキュムレータ61A,61Bを開始することもできる。
【符号の説明】
【0075】
1 ダイカストマシン
10 金型部
11 固定金型
13 可動金型
15 鋳造キャビティ
17 ゲート
21 射出スリーブ
22 プランジャ
23 ロッド
24 注湯口
30 射出部
40 射出シリンダ
41 シリンダ容器
42 シリンダロッド
43 ロッド側油圧室
44 シリンダヘッド
45 ヘッド側油圧室
46 作動液供給源
47 ヘッド側作動液供給経路
48 ロッド側作動液供給経路
49 作動液排出経路
50 蓄圧機構
51 作動液給排経路
60 充填用蓄圧部
61A,61B 充填用アキュムレータ
62 作動液室
63 ガス室
64 ピストン
65 密閉容器
66A,66B ガスボトル67 充填用ガス供給経路
68 圧力センサ
69 充填用作動液供給経路
69A,69B 分岐経路
70 増圧用蓄圧部
71 増圧用アキュムレータ
72 作動液室
73 ガス室
74 ピストン
75 密閉容器
76 ガスボトル
77 増圧用ガス供給経路
78 圧力センサ
79 増圧用作動液供給経路
81 ガス排出経路
83 開閉弁
90 コントローラ
91 送受信部
93 記憶部
95 処理部
97 入力/表示部
PS1 第1センサ
PS2 第2センサ
CS1,CS2,CS3,CS4,CS5 接続点
CV1 第1チェック弁
CV2 第2チェック弁
CV3 第3チェック弁
FRV 流量調整弁
OCV1 第1開閉弁
OCV2 第2開閉弁
OCV3 第3開閉弁
OCV4 第4開閉弁
OCV5 第5開閉弁
OCV6 第6開閉弁
AO 作動液
DR ドレン
R 後方
F 前方
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12