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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138750
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】染色されたナイロン繊維構造物
(51)【国際特許分類】
   D06P 1/94 20060101AFI20241002BHJP
   D06P 1/16 20060101ALI20241002BHJP
   D06P 3/04 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
D06P1/94
D06P1/16 Z
D06P3/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049415
(22)【出願日】2023-03-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構、「NEDO先導研究プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム/無水・CO2無排出染色加工技術の開発」、委託研究、産業技術力強化法17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】591243055
【氏名又は名称】ウラセ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000158817
【氏名又は名称】紀和化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】322000270
【氏名又は名称】サステナテック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(71)【出願人】
【識別番号】000219794
【氏名又は名称】東海染工株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591030020
【氏名又は名称】株式会社フジックス
(74)【代理人】
【識別番号】110003203
【氏名又は名称】弁理士法人大手門国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大塩 康平
(72)【発明者】
【氏名】米澤 弘修
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】堀 照夫
(72)【発明者】
【氏名】廣垣 和正
(72)【発明者】
【氏名】武藤 真理子
(72)【発明者】
【氏名】伴野 統哉
【テーマコード(参考)】
4H157
【Fターム(参考)】
4H157AA01
4H157AA02
4H157BA07
4H157BA08
4H157CA29
4H157CB49
4H157CC02
4H157DA01
4H157DA22
4H157HA07
4H157JA10
4H157JA14
4H157JB02
(57)【要約】
【課題】本発明は、超臨界二酸化炭素流体を用いた染色処理により染色された良好な着色及び堅牢度を備えたナイロン繊維構造物を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る染色されたナイロン繊維構造物は、超臨界二酸化炭素流体を染色媒体として用いて反応分散染料により染色されており、色濃度を示すΣK/S値が10~75で、洗濯堅牢度試験(JIS L 0844)、昇華堅牢度試験(JIS L 0854)、ドライクリーニング堅牢度試験(JIS L 0860)、水堅牢度試験(JIS L 0846)、汗堅牢度試験(JIS L 0848)及び摩擦堅牢度試験(JIS L 0849)においていずれも堅牢度が4-5級以上である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超臨界二酸化炭素流体を染色媒体として用いて反応分散染料により染色されたナイロン繊維構造物。
【請求項2】
洗濯堅牢度試験(JIS L 0844)、昇華堅牢度試験(JIS L 0854)、ドライクリーニング堅牢度試験(JIS L 0860)、水堅牢度試験(JIS L 0846)、汗堅牢度試験(JIS L 0848)及び摩擦堅牢度試験(JIS L 0849)においていずれも堅牢度が4-5級以上である請求項1に記載の染色されたナイロン繊維構造物。
【請求項3】
被染物の反射率Rに基づいて下記数式(1)により算出されるK/S値を所定の波長毎に求めて加算したΣK/S値が10~75である請求項1又は2に記載の染色されたナイロン繊維構造物。
K/S値=(1-R)2/2R・・・(1)
【請求項4】
前記反応分散染料は、反応基としてモノクロロトリアジン基を有する染料である請求項1に記載の染色されたナイロン繊維構造物。
【請求項5】
超臨界二酸化炭素流体からなる染色媒体に反応分散染料を溶解させた染液によりナイロン繊維構造物を染色する染色方法。
【請求項6】
前記染液には、共溶媒が添加されている請求項5に記載の染色方法。
【請求項7】
前記共溶媒の添加量は、前記染色媒体に対して0.1モル%~5モル%である請求項6に記載の染色方法。
【請求項8】
前記反応分散染料は、反応基としてモノクロロトリアジン基を有する染料である請求項5に記載の染色方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超臨界二酸化炭素流体を染色媒体として用いて染色されたナイロン繊維構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
超臨界流体を染色媒体として用いる染色技術は、水を全く使用しない染色技術であり、超臨界流体を状態変化させることで循環・再利用することができ、きわめて環境負荷の少ない技術として注目されている。
【0003】
例えば、二酸化炭素(CO2)の場合には、超臨界又は亜超臨界の状態に設定された超臨界流体で染料を溶解し、染色槽内に配置した布帛に対して超臨界流体を通過させて染色を行い、染色完了後に超臨界流体を開放することで乾いた状態で布帛を取り出し、気体に戻ったCO2は加圧・圧縮することで液体として回収して再利用することができる。
【0004】
そのため、超臨界二酸化炭素流体を染色媒体として用いて様々な種類の繊維材料について染色処理を行うことが検討されている。例えば、特許文献1では、超臨界二酸化炭素流体を用いてポリプロピレン繊維構造物を染色処理を行うことが提案されており、優れた染色堅牢度を有する赤色で染色されたポリプロピレン繊維構造物が開示されている。
【0005】
また、非特許文献1には、ポリエステル、ナイロン、シルク及びウールといった各種繊維材料について超臨界二酸化炭素流体を用いて染色処理を行い、染色状態を色濃度及び固着率に基づいて分析した点が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6671729号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】M. van der Kraan et al., "Dyeing of natural and synthetic textiles in supercritical carbondioxide with disperse reactive dyes", THE JOURNAL OF Supercritical Fluids, 40(2007), 470-476
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ナイロン6、ナイロン66に代表されるポリアミド系繊維は、柔軟な風合いで摩耗に強いといった優れた特性を有しており、衣料等に単独で使用されたり、ポリエステル系繊維といった他の繊維と併用され、一般に広く普及している繊維材料である。
【0009】
ポリアミド系繊維は、染色処理を行う場合、繊維の表面反射光量が多いために十分な染色濃度を得ることが難しく、十分な染色濃度が得られた場合でも染色堅牢度に難点があり、実用化の点で課題があった。そのため、染色処理を行った後にタンニンや金属塩により後処理を行うことが提案されているが、実用化の観点からは不十分であった。
【0010】
染色技術では、所望の色が所望の濃度で均一に染まる着色が行われるとともに着色された色が変退色しない堅牢度を備えていることが求められているが、上述したように、ポリアミド系繊維の1つであるナイロン繊維では、着色及び堅牢度において実用上十分なレベルの染色物は実現されていないのが現状である。
【0011】
非特許文献1では、染色処理されたナイロン繊維に関して着色状態を分析しているものの堅牢度については言及されておらず、実用化の点で課題があると言わざるを得ない。
【0012】
そこで、本発明は、超臨界二酸化炭素流体を用いた染色処理により染色された良好な着色及び堅牢度を備えたナイロン繊維構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る染色されたナイロン繊維構造物は、超臨界二酸化炭素流体を染色媒体として用いて反応分散染料により染色されたものである。さらに、洗濯堅牢度試験(JIS L 0844)、昇華堅牢度試験(JIS L 0854)、ドライクリーニング堅牢度試験(JIS L 0860)、水堅牢度試験(JIS L 0846)、汗堅牢度試験(JIS L 0848)及び摩擦堅牢度試験(JIS L 0849)においていずれも堅牢度が4-5級以上である。さらに、被染物の反射率Rに基づいて下記数式(1)により算出されるK/S値を所定の波長毎に求めて加算したΣK/S値が10~75である。
K/S値=(1-R)2/2R・・・(1)
【発明の効果】
【0014】
本発明は、超臨界二酸化炭素流体を染色媒体として用いて反応分散染料により染色されたナイロン繊維構造物であり、染色処理に関連して別の処理を行うことなく、染色処理された状態で良好な着色及び堅牢度を備えている。
【0015】
具体的には、色濃度として、K/S値を所定の波長毎に求めて加算したΣK/S値が10~75であり、染色堅牢度として、洗濯堅牢度試験(JIS L 0844)、昇華堅牢度試験(JIS L 0854)、ドライクリーニング堅牢度試験(JIS L 0860)、水堅牢度試験(JIS L 0846)、汗堅牢度試験(JIS L 0848)及び摩擦堅牢度試験(JIS L 0849)においていずれも堅牢度が4-5級以上である。
【0016】
そのため、染色処理以外の関連処理を行うことなく、実用上十分なレベルの染色されたナイロン繊維構造物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例で用いた染色装置に関する概略構成図である。
図2】染色容器の内部構造を示す概略断面図である。
図3】測定結果及び算出結果を示す表である。
図4】試験結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
実施形態に係る染色されたナイロン繊維構造物は、超臨界二酸化炭素流体を染色媒体として用いて反応分散染料により染色されたものであり、染色処理以外の関連処理を行うことなく、良好な着色及び堅牢度を備えている。
【0019】
本発明におけるナイロン繊維構造物は、ナイロン繊維を含むものであればよく、ナイロン繊維としては、ナイロン樹脂単独から構成される繊維の他に、ナイロン樹脂に他のポリマー成分を含む繊維を用いることもできる。また、こうしたナイロン繊維単独で、又はナイロン繊維とポリエステル繊維等の他の合成繊維を混合してナイロン繊維構造物を製造することもできる。
【0020】
ナイロン繊維構造物としては、例えば、糸状構造物(フィラメント糸、紡績糸、スリット糸、スプリット糸)、綿(わた)状構造物、紐状構造物、布状構造物(織物、編物、不織布、フェルト、タフト)といった公知の形態が挙げられ、これらの構造物を組み合わせた構造物も含まれる。
【0021】
本発明に係る染色されたナイロン繊維構造物は、超臨界二酸化炭素流体を染色媒体として用い、染色媒体に反応分散染料を溶解した染液によりナイロン繊維構造物を処理し、染色処理以外に染色に関連する処理を行うことなく、製造することができる。
【0022】
すなわち、得られた染色物は、後述するように、堅牢度評価において、洗濯堅牢度試験(JIS L 0844)、昇華堅牢度試験(JIS L 0854)、ドライクリーニング堅牢度試験(JIS L 0860)、水堅牢度試験(JIS L 0846)、汗堅牢度試験(JIS L 0848)及び摩擦堅牢度試験(JIS L 0849)においていずれも堅牢度が4-5級以上であり、着色評価において、被染物の反射率Rに基づいて算出されるK/S値を所定の波長毎に求めて加算したΣK/S値が10~75であり、実用に十分耐えうる染色特性を備えている。
【0023】
ここで、ΣK/S値の具体的な算出値としては、例えば、測定装置の波長範囲(360nm~740nm)において、10nm毎に測定した反射率Rに基づいて以下の数式(1)で算出したK/S値を加算して合計した値を用いることができる。
K/S値=(1-R)2/2R・・・(1)
【0024】
染色処理に用いる反応分散染料としては、反応基としてモノクロロトリアジン基を有する染料が挙げられる。モノクロロトリアジン基を有する染料は、ジクロロトリアジン基を有する染料に比べて、反応性が低く染色温度が高温域であるといった特性を備えていることが知られている。そして、モノクロロトリアジン基を有する染料は、後述するように、ナイロン繊維に対して優れた吸着特性を備えており、超臨界二酸化炭素流体による染色処理の際の耐熱性にも優れた特性を備えている。また、反応分散染料は、減法混色三原色に対応して各色を着色する染料を揃えることができ、こうした各色に関する染料を組み合せて使用することも可能である。
【0025】
染色媒体として使用する超臨界二酸化炭素流体は、公知の方法で生成することができ、例えば、染色容器内の液化二酸化炭素を加熱加圧して臨界点(31℃、7.4MPa)を超えた状態に設定することで、亜臨界から超臨界状態となって染色容器内に超臨界流体が生成される。予め染色容器に繊維構造物及び染料を設置しておくことで、染色処理を行うことができる。
【0026】
染色媒体には、共溶媒を添加することで、染色処理において着色及び堅牢度の向上を図ることができる。共溶媒としては、例えば、水、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、メチルエチルケトン(MEK)が挙げられる。共溶媒の添加量は、染色媒体に対して0.1モル%~5.0モル%であることが好ましく、より好ましくは、0.2モル%~2.0モル%である。添加量が0.1モル%より少ない場合には、着色及び堅牢度への影響が小さく、5.0モル%より多い場合には、染色物の風合いが硬化するおそれがある。
【0027】
共溶媒とともに有機塩基物を添加するようにしてもよい。添加する有機塩基物としては、例えば、ピリジン、2-メチルピリジン(αピコリン)、3-メチルピリジン、4-メチルピリジン、2,6-ルチジン、2-アミノピリジン3-アミノピリジン、4-アミノピリジン、エチレンジアミン、1,4-フェニレンジアミン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、第4級アンモニウム塩が挙げられる。有機塩基物の添加量は、30ミリモル/リットル~100ミリモル/リットルであることが好ましい。
【0028】
図1は、ナイロン繊維構造物の染色処理を行う染色装置の一例を示す概略構成図である。この例では、ナイロン繊維構造物として布状構造物である布帛を染色する装置構成となっている。
【0029】
染色装置1は、反応分散染料及び染色用布帛を収容する染色容器10と、染色容器10内に染色媒体を供給する供給ポンプ50とを備えており、供給ポンプ50に接続された共通供給管51及び共通排出管52の間において、配管された管路を通して染色容器10が接続されている。
【0030】
共通供給管51と染色容器10との間の導入管路には、導入バルブ20が接続されており、染色容器10と共通排出管52との間の排出管路には、排出調整バルブ21及び排出バルブ22が直列して接続されている。また、導入管路には、導入バルブ20の染色容器10側において分岐した管路に、圧力センサ23及び安全弁24が直列して接続されており、安全弁24の排出側は共通排出管52に接続されている。
【0031】
染色容器10の周囲には、ヒータ25が取り付けられて容器全体を保温材(点線で表示)で被覆しており、排出調整バルブ21及び排出バルブ22が直列して接続した部分の周囲にはヒータ26が取り付けられて染色容器10の排出側の管路からヒータ26の取付箇所までの部分全体を保温材(点線で表示)で被覆している。
【0032】
染色容器10の上方には、容器内部に充填される染色媒体を撹拌する撹拌装置30が設けられており、撹拌装置30は、染色容器10に内蔵された撹拌体31及び撹拌体31を動作させる駆動機構32を備えている。
【0033】
染色容器10は、上側が開口した容器本体11と、容器本体11の開口を密封する封止体12と、封止体12を覆うように形成された蓋体13とを備えており、蓋体13を容器本体11の開口の周囲に螺着することで、封止体12が開口に圧着して密封されるようになっている。
【0034】
染色容器10内に充填される染色媒体の圧力は、供給ポンプ50から供給される高圧の染色媒体を、導入バルブ20、排出調整バルブ21及び排出バルブ22を動作させて、所定の圧力に調整する。また、染色容器10内の染色媒体の温度は、周囲に設けられたヒータ25を加熱させて所定の温度に調整する。
【0035】
制御部100は、染色容器10内の染色媒体の圧力に対応して管路内の圧力を検出する圧力センサ23、染色容器10内の温度を検出する温度センサ(図示せず)、ヒータ25及び26の加熱温度を検出する温度センサ(図示せず)等の各種センサからの検出信号に基づいて、染色容器10内の染色媒体の圧力及び温度を制御して、染色部10内の染色媒体を超臨界流体の状態で染色処理を行うようになっている。
【0036】
供給部より高圧の二酸化炭素液体を染色容器10内に供給する場合には、二酸化炭素は、サイホン式液化二酸化炭素ボンベから冷却器(チラー)を通して送液ポンプで供給し、制御部100で設定した圧力まで加圧する。加圧動作中に液化二酸化炭素は臨界点(31℃、7.4MPa)を超え、亜臨界から超臨界状態となって染色容器10内に超臨界二酸化炭素流体が生成される。
【0037】
図2は、染色容器10の内部構造を示す概略断面図であり、撹拌体31の回動により染色媒体が流動する様子を矢印により示している。染色容器10の容器本体11内には、筒状の支持体14が所定間隔を空けて配置されており、支持体14の下側には、内筒体15及び外筒体16が略同心円状に配置されて支持されている。
【0038】
内筒体15は、メッシュ状の素材から筒状に形成されて通液性を有しており、染色用布帛が周囲に巻き付けられるようになっている。内筒体15は、外筒体16との間に所定間隔を空けて支持体14の下側に取り付けられており、下端部は、台座部材17に取り付けられて容器本体11の底面に保持されている。
【0039】
支持体14の内側には、内筒体15の上端に当接して染料を収容する収容体18が取り付けられており、収容体18は、支持体14の内側に嵌め込まれた上下2枚のメッシュ材からなり、メッシュ材の間に反応分散染料が収容されるようになっている。染色媒体に共溶媒及び有機塩基物を添加する場合には、所定の添加量の共溶媒及び有機塩基物を含浸させた布片等の含浸体を染色媒体の導入前に予め容器本体11内に収容しておくとよい。
【0040】
撹拌体31の回動により筒状の支持体14の上側では、下向き又は上向きに染色媒体が流動するようになる。染色媒体が下向きに流動する場合、染色媒体が収容体18を通過して内筒体15内に流入し、内筒体15を通過して外筒体16内に流入するように流動する。
【0041】
収容体18を通過する染色媒体には染料が溶解するようになり、染料が溶解した染液は内筒体15内に流入する。そして、内筒体15の底部は台座部材17により閉鎖されているため、内部に流入した染液は、内筒体15の外周面から放射状に流出して巻き付けられた布帛全体に対して満遍なく接触するようになり、均一な染色処理が行われるようになる。
【0042】
外筒体16内に流入した染液は、外筒体16の下端と台座部材17との間から流出して容器本体11の内周面との間の隙間を上昇するように流動し、上昇した染液は、内周面に沿って上昇して支持体14の上端から支持体14の内側に流入するようになる。支持体14及び外筒体16を外周面が面一に形成されているため、上昇流はほとんど乱れることなく流動する。
【0043】
この場合、容器本体11の中心(内筒体15の内側)で下降流が発生して、周辺(外筒体16の外側)で上昇流が発生するようになり、対流のような流れが発生し、染色媒体が対流しながら収容体18を繰り返し通過して容器本体内に染液が均一に拡散するようになる。
【0044】
また、撹拌体31の回動により染色媒体が上向きに流動する場合、下向きに流動する場合と反対方向に流動するようになり、周辺(外筒体16の外側)で下降流が発生して、中心(内筒体15の内側)で上昇流が発生するようになる。内筒体15は、底部が台座部材17に接続されているため、染液は、内筒体15の周囲から内筒体15内に収束するように流入して周面全体を通過するようになる。そのため、内筒体15の周囲に巻き付けられた布片全体に対して染液が外側から内側に通過して満遍なく接触し、均一な染色処理が行われる。
【0045】
したがって、撹拌体31の回動方向を制御して、下向きの流動動作及び上向きの流動動作を適宜組み合わせることで、布片全体に対して内側から外側への流動又は外側から内側への流動が繰り返し行われて、染液を全体に満遍なく接触させて均一な染色処理を行うことが可能となる。
【実施例0046】
(材 料)
ナイロン繊維構造物として、ナイロン6により製造された市販のナイロンタフタを所定のサイズに裁断した布帛を用いた。反応分散染料として、紀和化学工業株式会社製の三原色に対応する試作合成品(黄色染料、青色染料、赤色染料;いずれも反応基としてモノクロロトリアジン基を有する反応分散染料)を用いた。
【0047】
添加する共溶媒には、水(工業用水からイオン成分を除去したもの)を用い、添加する有機塩基物には、2-メチルピリジン(富士フィルム和光純薬株式会社製)を用いた。
【0048】
(染色試験)
図1に示す染色装置を用いた。染色容器10内の内筒体15の周囲に染色用の布帛(縦10cm×横30cm;重さ2g)を巻き付けて、設定濃度に応じた量の反応分散染料を収容体18に収容した後、染色容器10内に挿入した。共溶媒及び有機塩基物を添加する場合には、予め添加物を含浸させた含浸体を染色容器10内に挿入しておく。支持体14内に撹拌体31を挿入するとともに封止体12で染色容器10の開口を密閉した後蓋体13を螺着した。
【0049】
次に、ヒータを加熱制御して容器内温度が設定温度(120℃)に到達した後、導入バルブ20を開放して、染色容器10内に液化二酸化炭素を導入するとともに撹拌装置の動作を開始した。
【0050】
圧力センサ23の圧力値が設定値(25MPa)に到達した後、設定温度で容器内圧力が設定圧力で安定した状態となってから導入バルブ20を閉鎖した。設定圧力を維持するため、設定圧力よりも高くなった場合には、排出バルブ22を開放して排出調整バルブ21により排出量を調整し、設定圧力よりも低くなった場合には、導入バルブ20を短時間開放して二酸化炭素を導入して圧力調整を行った。設定温度及び設定圧力で所定時間(60分)染色処理を行った。染色処理中に撹拌体31を適宜動作させて染液を対流させた。
【0051】
染色処理後、ヒータの加熱及び撹拌装置の駆動を停止し、供給ポンプ50の駆動を停止した後、排出バルブ22を開放して排出調整バルブ21により徐々に減圧した。常圧に戻ったことを確認した後、導入バルブ20を開放し、容器内温度が常温になったことを確認した後、染色容器10内から染色処理された布帛を取り出して評価を行った。
【0052】
<実施例1>
黄色染料、赤色染料及び青色染料をそれぞれ濃度が1%owfとなる量(布帛の重量に対して1%の量)を染色容器に収容して染色処理を行った。染色に用いる布帛は、染色前の予備処理は行わず、染色処理後は、表面上の染料を除去して乾燥させる処理のみ行い、固着処理等の染色に関連する後処理は行わなかった。
【0053】
(着色評価)
得られた染色布帛に対して分光測色計(コニカミノルタ株式会社製;CM-3700d、光源D65(10度視野)))を用いて着色状態を測定した。測定は、色差式(CIE 1976Lab)に基づいて布帛の全域にわたって分布する10箇所の測定位置で行い、各測定位置における色濃度K/S値、L値、a値及びb値を求めた。
【0054】
K/S値については、波長範囲(360nm~740nm)において10nm毎に測定した布帛の反射率Rに基づいて以下の数式(1)により算出し、算出した各波長のK/S値を加算したΣK/S値を算出した。
K/S値=(1-R)2/2R・・・(1)
【0055】
また、10箇所の測定位置のうち1箇所の測定位置で求められた値を基準として差分を算出して色差ΔEを以下の数式(2)により算出した。
ΔE={(ΔL)2+(Δa)2+(Δb)2}1/2・・・(2)
【0056】
測定結果及び算出結果を図3に示す。いずれの染料においても色濃度を示すΣK/S値が大きくバラツキの少ないことが確認された。また、色差ΔEについても1.0以下の値となっており、高い色濃度で均一に染色されていることが確認された。
【0057】
<実施例2>
黄色染料、赤色染料及び青色染料をそれぞれ濃度が1%owfとなる量(布帛の重量に対して1%の量)を染色容器に収容して染色処理を行った。また、各色の染料を1%owfとなる量とともに共溶媒として水を染色媒体に対して1モル%添加して染色処理を行った。染色に用いる布帛は、染色前の予備処理は行わず、染色処理後は、表面上の染料を除去して乾燥させる処理のみ行い、固着処理等の染色に関連する後処理は行わなかった。
【0058】
(着色評価)
得られた染色物に対して実施例1と同様に測定を行い、ΣK/S値を算出した。算出結果は、黄色染料では、染料のみの場合27.36で、染料及び共溶媒の場合65.21であった。共溶媒の添加により色濃度が2.38倍に向上したことが確認された。赤色染料では、染料のみの場合22.80で、染料及び共溶媒の場合50.38であった。共溶媒の添加により色濃度が2.21倍に向上したことが確認された。青色染料では、染料のみの場合10.83で、染料及び共溶媒の場合17.35であった。共溶媒の添加により色濃度が1.60倍に向上したことが確認された。
【0059】
したがって、各色の染料において高い色濃度で着色されており、共溶媒の添加により色濃度が格段に向上したことがわかる。
【0060】
(堅牢度評価)
得られた染色物に対して、洗濯堅牢度試験(JIS L 0844)、昇華堅牢度試験(JIS L 0854)、ドライクリーニング堅牢度試験(JIS L 0860)、水堅牢度試験(JIS L 0846)、汗堅牢度試験(JIS L 0848)及び摩擦堅牢度試験(JIS L 0849)を行った。試験結果を図4に示す。
【0061】
各色の染料により染色された染色物は、いずれも堅牢度が4-5級以上であることが確認された。したがって、いずれの染色物も実用性の高い堅牢度を備えていることがわかる。
【0062】
<実施例3>
黄色染料を濃度が1%owfとなる量(布帛の重量に対して1%の量)を染色容器に収容して染色処理を行った。また、黄色染料を1%owfとなる量とともに共溶媒として水を染色媒体に対して0.2モル%、1.0モル%及び2.0モル%となる量をそれぞれ添加して染色処理を行った。
【0063】
また、有機塩基物としてαピコリンを黄色染料を1%owfとなる量とともに30ミリモル/リットル及び100ミリモル/リットルをそれぞれ添加して染色処理を行った。また、黄色染料とともに水1.0モル%及びαピコリン30ミリモル/リットルを添加して染色処理を行った。
【0064】
染色に用いる布帛は、染色前の予備処理は行わず、染色処理後は、表面上の染料を除去して乾燥させる処理のみ行い、固着処理等の染色に関連する後処理は行わなかった。
【0065】
(着色評価)
いずれの染色物も実施例1と同様に染色されており、高い色濃度で均一に着色されていることが確認された。
【0066】
<実施例4>
黄色染料を濃度が1%owfとなる量(布帛の重量に対して1%の量)を染色容器に収容して染色処理を行った。また、黄色染料を1%owfとなる量とともに共溶媒として、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)及びメチルエチルケトン(MEK)を染色媒体に対して1.0モル%となる量をそれぞれ添加して染色処理を行った。
【0067】
(着色評価)
得られた染色物に対して実施例1と同様に測定を行い、ΣK/S値を算出した。算出結果は、黄色染料では、染料のみの場合27.36で、染料及び共溶媒(NMP)の場合39.97であった。共溶媒の添加により色濃度が1.46倍に向上したことが確認された。染料及び共溶媒(MEK)の場合29.78で、共溶媒の添加により色濃度が1.09倍に向上したことが確認された。
【0068】
いずれの共溶媒を用いた場合でも色濃度の向上が確認され、共溶媒の効果があることがわかる。
【符号の説明】
【0069】
1・・・染色用試験装置、10・・・染色容器、11・・・容器本体、12・・・封止体、13・・・蓋体、14・・・支持体、15・・・内筒体、16・・・外筒体、17・・・台座部材、18・・・収容体、20・・・導入バルブ、21・・・排出調整バルブ、22・・・排出バルブ、23・・・圧力センサ、24・・・安全弁、25,26・・・ヒータ、30・・・撹拌装置、31・・・撹拌体、32・・・駆動機構、50・・・供給ポンプ、51・・・共通供給管、52・・・共通排出管
図1
図2
図3
図4