(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138752
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】軽量気泡コンクリート原料、及び軽量気泡コンクリートの製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/18 20060101AFI20241002BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20241002BHJP
C04B 38/02 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
C04B28/18
C04B22/06 Z
C04B38/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049418
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000185949
【氏名又は名称】クリオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137970
【弁理士】
【氏名又は名称】三原 康央
(72)【発明者】
【氏名】山口 貴也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 敬信
(72)【発明者】
【氏名】中川 清之
【テーマコード(参考)】
4G019
4G112
【Fターム(参考)】
4G019HA01
4G019HC02
4G112MA00
4G112PB03
(57)【要約】
【課題】本発明は、従来の製造設備を用いることができ、特別な設備も必要とせず、品質管理が容易で、乾燥収縮率が小さく、すぐれた亀裂防止性能を有し、従来品と同程度の圧縮強度を安定して保持できる、ALCの原料、及びこれを用いたALCの製造法の提供を課題とする。
【解決手段】貝殻由来の生石灰のCaO成分の重量が、石灰石由来の生石灰中CaO成分の重量に対して20%~100%の割合である軽量気泡コンクリート用生石灰混合原料、を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貝殻由来の生石灰のCaO成分の重量が、石灰石由来生石灰中のCaO成分の重量に対して20%~100%の割合である軽量気泡コンクリート用生石灰混合原料。
【請求項2】
ホタテ貝を粗粉砕した粗粉を、800℃~1150℃で加熱処理と、63μm篩残分が50質量%以下となるまで微細化処理をして、貝殻由来の生石灰とする請求項1に記載のALC用生石灰混合原料の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は、請求項2に記載のALC用生石灰混合原料を用いた軽量気泡コンクリートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量気泡コンクリート原料、及び軽量気泡コンクリートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、軽量気泡コンクリート(以下、ALC)は、珪酸質原料として、天然の珪石、珪砂等と、石灰質原料として、石灰石からの生石灰、セメント、石膏を主原料とし、水を加え、これらの混合スラリーに金属アルミニウム添加して発泡させ、半硬化状態とする1次養生で得られたグリーンケーキをピアノ線で所定寸法に切断した後に2次養生としてオートクレーブを用いた高温高圧下での水蒸気養生をすることによって得られる。
【0003】
得られたALCは、各種成形品へと所定寸法に切削加工することによって、ALCパネルなどの建築材料として、各種外壁、間仕切り、屋根、床などに広い用途を有する。
【0004】
そして、ALCパネルは、なんらかの原因で亀裂が生ずることがある。例えば、特許文献1では、乾燥収縮率を小さくすることに注目して、安価な小粒径の珪酸質原料と、他の珪酸質原料の石英の結晶粒径と、両者の混合割合を調整して亀裂発生の制御をしている。
【0005】
特許文献2には、炭酸化養生する大型ALCにおいて、製鋼スラグ粉体を用いて亀裂を制御する方法が記載される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-19571号公報
【特許文献2】特開2005-281087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、先行特許文献1の方法は、産業廃棄物を利用する環境保全に寄与がなかった。また、先行特許文献2は、ALCの吸放湿性能を付与するための炭酸化工程を有する製造法に関する収縮低減策であり、ALC本来の製造方法に関しては直ちに応用できなかった。
【0008】
そこで、本発明は、従来の製造設備を用いることができ、特別な設備も必要とせず、品質管理が容易で、乾燥収縮率が小さく、すぐれた亀裂防止性能を有し、従来品と同程度の圧縮強度を安定して保持できる、ALCの原料、及びこれを用いたALCの製造法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、鋭意検討の結果、次発明を提供するものである。
[1] 貝殻由来生石灰のCaO成分の重量が、石灰石由来生石灰中のCaO成分の重量に対して20%~100%の割合である軽量気泡コンクリート用生石灰混合原料、を提供する。
[2] ホタテ貝を粗粉砕した粗粉を、800℃~1150℃で加熱処理と、63μm篩残分が50質量%以下となるまで微細化処理して、貝殻由来生石灰とする[1]記載のALC用生石灰混合原料の製造方法、を提供する。
[3] [1]、[2]記載のALC用生石灰混合原料を用いた軽量気泡コンクリートの製造方法を、提供する。
【0010】
貝殻について
ここで、貝殻とは、ホタテ貝、ホッキ貝、はまぐり、牡蠣、真珠貝等々であり、貝殻の大型のものが好ましい。特にホタテ貝が好ましい。
【0011】
貝殻の焼成微細化方法
粗砕した貝殻を攪拌しながら、800℃~1150℃に制御した焼成温度で焼成して生石灰化された焼成貝粉末とできる。貝殻の投入コンベア付き粗砕機と、粗砕機から投入される粗砕した貝殻を攪拌しながら、800℃~1150℃程度に制御した焼成温度で連続的に焼成してロータリーキルンや、電気炉が好ましい。
【0012】
粗砕機は、ジョークラッシャー、ハンマークラッシャー、等の粗砕手段を有する破砕機が好ましい。
【0013】
貝殻の電気炉焼成方法
粗砕した貝殻を微粉砕したのち、800℃~1150℃程度に制御した焼成温度で、電気炉で、静置状態で焼成することが好ましい。焼成時にローターによる摺動がないからである。
【0014】
焼成後の解砕機は、ボールミル、チューブミル、振動ミル等の、粉砕条件を緩和できる微粉砕機を用いた解解砕機が好ましい。
【0015】
ロータリーキルンでは、牡蠣、ホタテ貝、真珠貝等の各種の貝殻は、原料タンクに貯留されてその所定量が粗砕機に供給され、例えば8mmφ、長さ10mm程度に粗く破砕された後、粗砕された貝殻は、ロータリーキルンに所定の速度で連続的に投入焼成して解砕し、微粉化することができる。
【0016】
更に、粗砕機には、前記タンブリング方式に加えて、竪型ミル又はフレットミルのローラー方式を用いて、粗砕したものを用いることができる。このとき、ローラーミル方式で過粉砕気味となる傾向がある。
【0017】
例えば、ロータリーキルンでは、粗砕した貝殻でも、適度の低速回転で攪拌しながら、800℃~1150℃程度に制御した焼成温度で焼成する。粗砕した貝殻は、適度の低速回転で連続的に回転されながら焼成され、解砕され、細かい粒子に解砕されながら焼成されて生石灰化される。
【0018】
さらに、電気炉では、静置状態で焼成されるため、電気炉から取り出し後、微粉砕機等で解砕することができる。
【0019】
生石灰化焼成貝パウダーにおいて、貝殻は石灰石(硬質の鉱物)で製造した生石灰に比べ有害な不純物を含有しておらず生物質で軟質かつポーラスな材質であるため、貝殻を適度に粗砕して炉に投入すると、石灰石(焼成温度1200℃~1300℃程度)製の生石灰に比べ比較的に低温で適度に粉砕されやすい粉末状となる。この焼成貝粉末は、格別に有害な不純物を含有しておらず、例えば、ホタテ貝の場合、PH11以上の高アルカリ性で、CaO(96wt%程度)が主成分でMgOや、その他に微量のSiO2 やAl2 O3 、FeO及びSを含有した成分となる。
【0020】
電気炉で、粗粉を800℃~1150℃で加熱処理をするが、850℃~1100℃未満での温度が好ましい。加熱処理時間の例は、800℃で、3時間、1000℃で1.5時間、1100℃で1時間と、加熱温度が高いほど、恒量前か、ほぼ恒量になってから短時間で終了することが好ましい。
【0021】
TG-DTA
図1に、ホタテ貝のTG-DTAの室温から950℃までの毎分10℃での昇温による、TG-DTA図を示した。600℃までに有機物燃焼に伴う2.25%の減量と600℃から799℃までの脱炭酸の減量が認められる。800℃を越えると0.07%の減量に止まる。
【0022】
解砕
上記条件下で加熱後の貝殻由来生石灰をボールミル、チューブミル等のタンブリング方式の解砕機で軽く、解砕し、63μm残分(篩上)が、50質量%以下とし、原料とすることができる。好ましくは63μm残分が20質量%~45質量%である。63μm残分が50%を越えると、圧縮強度が低下する。また、63μm残分が20質量%未満で、過解砕気味となり、収縮率が大きくなる傾向が認められたが、未置換生石灰よりも優位であった。表1に、焼成前の貝殻粉末と焼成後に解砕した貝殻粉末の300μm篩、150μm篩、63μm篩で篩ったときの、篩上の残分の重量%を例示した。
【0023】
【0024】
図2、
図3に、焼成前ホタテ貝殻粉末と、解砕後の焼成後ホタテ貝殻粉末のSEM像を比較して示した。直径63μmアンダー域の微細粉末では、焼成後では、20μmより小さな微粒子、特に針状粒子がほとんど消えて、30μm程度から60μm程度の集合粒子へと解砕された粒子が多く、集合粒子は、個々の粒子間に間隙があり、その領域にひとつのピークがあるように観察できる。直径63μm以上域の粒子で比較すると、100μm程度を中心とするブロック状の未解砕粒子も比較的多く散見される。一方、焼成前は、貝殻が縦に割れた針状の微細粒子から比較的大きな破片まで、粒度の分布領域が広い。通常用いる生石灰のSEM像を比較のため、
図4に示す。微細粒は、針状ではなく球状で、小粒子から多数に亘り、大粒子も多く、粒度分布が広い。
【0025】
焼成、解砕されたホタテ貝殻由来生石灰X線回折チャ-ト例を
図5に示した。800℃で加熱処理した貝殻の処理前後のチャートある。焼成前には、カルサイトが多く、少量のアラゴナイトを含む炭酸カルシウム質であるが、焼成後は、結晶質部分はほとんど生石灰で、微量の水酸化カルシウムが認められ、純度の高いことが判る。
【0026】
以上、貝殻由来生石灰の本願発明への適性は、所定の粗粉砕、加熱、解砕を、この順番で所定の粗粉砕条件、加熱条件、解砕条件で行って得られるのもので、この適性を有する貝殻由来生石灰を、その構造又は特性のみにより直接特定することが不可能である。
【0027】
原料 調合
貝殻生石灰の所定量を用いて、ALCを製造した。製造には、余剰ALCも、用いた。余剰ALCは、特許第6644184号公報に記載の要件を満たすものを用いた。原料の混合割合は、余剰ALCと珪石を合わせて48質量%とし、原料の混合割合は、珪石28~40質量%、生石灰6~10質量%、セメント12~22質量%、石膏2~4質量%、クラスト(オートクレーブ養生前の半硬化体をピアノ線で切断したときに発生する余剰端部を水で解砕した物)配合20~30質量%(乾燥重量から算出)とし、この混合物全体に対してアルミニウム粉0.06質量%と水とを加えてスラリーを調整した。
【0028】
そして、前記生石灰を所定量の20質量%から100質量%を貝殻由来生石灰に置換する。このとき、水を後添加することが好ましい。特に、珪石は乾式であることが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明は、特別な測定装置が不要で工程管理が簡便であり、特別な焼成設備も必要とせず、品質管理が容易で、貝殻由来生石灰原料を内割固形分で20質量%から100質量%程度まで使用して、従来品と同程度の圧縮強度を安定して保持できる収縮率の小さなALCの製造法を提供することが可能となる。また、この貝が生存中に吸収した二酸化炭素と焼成により発生した二酸化炭素が等しくなり、大気中の二酸化炭素は、この間では、増減しない。即ち、実質的な二酸化炭素発生量は、この反応プロセスにおいては、ゼロになる。焼成に用いる熱エネルギーは、太陽光発電などの二酸化炭素が排出されないものとすれば、生石灰の生産プロセス全体としても実質的な二酸化炭素発生量がゼロになり、温室効果ガスの発生を抑える結果となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】ホタテ貝のTG-DTAの室温から950℃までのTG-DTAを示した図である。
【
図2】焼成前ホタテ貝殻粉末のSEM像を示す図である。
【
図3】焼成後ホタテ貝殻粉末のSEM像を示す図である。
【
図4】従来の生石灰粉末のSEM像を示す図である。
【
図5】解砕されたホタテ貝殻由来の生石灰原料のX線回折チャ-ト等を示した図である。
【
図6】本願発明の乾燥収縮率の合否判定のグラフを示した図である。
【
図7】本願発明の圧縮強度試験の合否判定のグラフを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
原料と組成について
JFEミネラル社製珪石と、特許第6644184号公報に規定するALC製造工程で得られた切削片を余剰ALCとして、合わせて48質量%とし、原料の混合割合は、余剰ALCを8~20質量%、珪石を28~40質量%、吉澤社製生石灰の、内割り20~100%を貝殻由来生石灰とする混合生石灰を6~10質量%、太平洋セメント社製早強ポルトランドセメントを12~22質量%、コクサイ商事社製二水石膏を2~4質量%、前記クラストを20~30質量%配合して、合計で100質量%にした。この混合物に対してアルミニウム粉0.06質量%を加え混合した。
【0032】
粗粉砕
粗粉砕にはハンマークラッシャーを用いた。
【0033】
加熱方法
熱処理用加熱器には電気炉を用いた。
【0034】
解砕方法
解砕機には回転数を小さくした小型ボールミルを用いた。
【0035】
材料として、解砕工程を施した余剰ALCの他に、珪石、石英などの粉末のケイ酸質原料と、前記貝殻由来生石灰、従来の生石灰、ポルトランドセメントなどの粉末の石灰質原料、石膏、発泡剤を用い、これらに水を混合して混合スラリーと成し、これを型枠に入れる。次に発泡させるが、その方法はアルミニウムなどの金属粉末から成る発泡剤を用い、そのガス発生によって発泡させた。
【0036】
しかる後に、所定の寸法に切断した後、オートクレーブ蒸気養生で水熱反応させ、トバモライトを生成させる。なお、オートクレーブ養生条件は180℃、10気圧で行った。
【0037】
以上のような原料、条件、範囲、方法を適宜組み合わせることにより、本発明のような優れた収縮特性を有する軽量気泡コンクリートを得ることができる。
【0038】
貝殻由来生石灰を作製するに当たり、原料の貝殻はホタテ貝を選定した。ホタテ貝を粗砕し、比表面積6,578(cm2/cm3)の試料を作製した。1,000℃に設定した電気炉(株式会社 共栄電気炉製作所製 型式:YK-15B型)を用いて試料を2時間焼成し、目的の軽量気泡コンクリート原料である貝殻由来の生石灰を作製した。この生石灰のCaO純度を測定したところ、95.0%であった。また、石灰石由来生石灰におけるCaO純度は96.0%であった。
【0039】
表2の示す、貝殻由来生石灰と石灰石由来の生石灰の割合条件で置換した生石灰、水、珪石、早強セメント、二水石膏、水、アルミ粉末、整泡剤を所定の割合ミキサーで混錬し、スラリーを得た。得られたスラリーを型枠に流し込み、石灰質原料の水和反応によって約4時間硬化させた後、オートクレーブにより高温高圧蒸気下で養生し、試験体を作製した。
【0040】
【0041】
得られた試験体は、中央部分をカッターによって40mm×40mm×160mm及び100mm×100mm×100mmの寸法に切断し、前者を乾燥収縮率試験体、後者を圧縮強度試験体とした。以上の手順によって得られた試験体をJIS A 5416に準じて乾燥収縮率および圧縮強度試験を行った。表2に乾燥収縮率と圧縮強度試験の測定結果を示す。
図6には、乾燥収縮率の判定のグラフ、
図7には、圧縮強度試験の判定のグラフを示した。
【0042】
よって、貝殻由来のCaO割合が20%以上、100%以下では、表2の乾燥収縮率が比較例1より小さく、亀裂に対して抵抗力が高い。さらに、圧縮強度がJIS A 5416を満足していることから、ALC部材として十分な強度を有する。