(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138756
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】ガラス溶融炉のスタートアップリング
(51)【国際特許分類】
C03B 5/02 20060101AFI20241002BHJP
F27B 14/14 20060101ALI20241002BHJP
F27D 11/06 20060101ALI20241002BHJP
G21F 9/16 20060101ALI20241002BHJP
G21F 9/30 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
C03B5/02
F27B14/14
F27D11/06 A
G21F9/16 541L
G21F9/30 519K
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049425
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100118267
【弁理士】
【氏名又は名称】越前 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】酒井 泰二
【テーマコード(参考)】
4K046
4K063
【Fターム(参考)】
4K046CD02
4K046CD11
4K063AA04
4K063BA06
4K063FA34
(57)【要約】
【課題】始動時における電源のインターロックを回避することができる、ガラス溶融炉のスタートアップリングを提供する。
【解決手段】
スタートアップリング10は、径の大きさが異なる複数の環状部12と、複数の環状部12を径方向に連結する連結部13と、を備えている。環状部12は、例えば、径の大きい順に、第一環状部12a、第二環状部12b及び第三環状部12cを含み、同一平面上に配置されている。連結部13は、例えば、十字形状に配置されており、第一環状部12a~第三環状部12cとの交点はそれぞれ溶接により通電可能に接続されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波コイルを用いた高周波誘導加熱により放射性廃棄物及びガラス原料を溶融させるガラス溶融炉のスタートアップリングであって、
径の大きさが異なる複数の環状部と、
前記複数の環状部を径方向に連結する連結部と、
を備えることを特徴とするスタートアップリング。
【請求項2】
前記連結部は、前記環状部と同じ素材で前記環状部より太く形成されている、請求項1に記載のガラス溶融炉のスタートアップリング。
【請求項3】
前記連結部は、前記環状部より耐熱温度の高い素材により構成されている、請求項1に記載のガラス溶融炉のスタートアップリング。
【請求項4】
前記複数の環状部は、径方向外側に配置された環状部から順に破断するように同じ素材で異なる太さに形成されている、請求項1に記載のガラス溶融炉のスタートアップリング。
【請求項5】
前記複数の環状部は、径方向外側に配置された環状部から順に破断するように異なる素材により構成されている、請求項1に記載のガラス溶融炉のスタートアップリング。
【請求項6】
前記複数の環状部は、同一平面又は異なる平面に配置されている、請求項1に記載のガラス溶融炉のスタートアップリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス溶融炉のスタートアップリングに関し、特に、ガラス溶融炉の始動時にガラス原料を溶融させるスタートアップリングに関する。
【背景技術】
【0002】
コールドクルーシブル誘導炉(CCIM:Cold Crucible Induction Melter)は、金属製の容器内に放射性廃棄物とガラス原料を供給し、高周波コイルを用いた高周波誘導加熱により、放射性廃棄物とガラス原料を高温で溶融させ、ガラス固化するガラス溶融炉の一つである(例えば、特許文献1参照)。かかるCCIMは、炉壁を水冷することで炉壁表面温度が低下し、炉壁がガラスの低温層(スカル層)で覆われ、炉壁の腐食速度を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような高周波誘導加熱を利用したガラス溶融炉では、始動(スタートアップ)時に炉内に投入されたガラス原料を加熱する必要があり、炉内に高周波コイルにより発熱可能なスタートアップリングと呼ばれる治具が配置される。かかるスタートアップリングは、例えば、特許文献1に記載されたようなチタン環であり、発熱反応及び酸化反応により焼損し、最終的には炉内で消失するように構成されている。
【0005】
しかしながら、始動時の途中でスタートアップリングが破断すると、スタートアップリングに電流が流れなくなり、電源の負荷インピーダンスが急激に変動してインターロックが作動し、電源が遮断されてしまうという問題がある。この電源遮断時には電源の再起動が必要となり、ガラス原料の溶融が不十分な場合には新しいスタートアップリングを炉内に再配置する作業が発生することとなる。
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑み創案されたものであり、始動時における電源のインターロックを回避することができる、ガラス溶融炉のスタートアップリングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、高周波コイルを用いた高周波誘導加熱により放射性廃棄物及びガラス原料を溶融させるガラス溶融炉のスタートアップリングであって、径の大きさが異なる複数の環状部と、前記複数の環状部を径方向に連結する連結部と、を備えることを特徴とするスタートアップリングが提供される。
【0008】
前記連結部は、前記環状部と同じ素材で前記環状部より太く形成されていてもよい。
【0009】
前記連結部は、前記環状部より耐熱温度の高い素材により構成されていてもよい。
【0010】
前記複数の環状部は、径方向外側に配置された環状部から順に破断するように同じ素材で異なる太さに形成されていてもよい。
【0011】
前記複数の環状部は、径方向外側に配置された環状部から順に破断するように異なる素材により構成されていてもよい。
【0012】
前記複数の環状部は、同一平面又は異なる平面に配置されていてもよい。
【発明の効果】
【0013】
上述した本発明に係るガラス溶融炉のスタートアップリングは、複数の環状部とこれらを連結する連結部とを備えていることから、高周波誘導加熱による焼損により外側の環状部が破断したとしても内側の環状部及び連結部を介して通電可能であり、電源の負荷インピーダンスの急激な変動を抑制し、始動時における電源のインターロックを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施形態に係るスタートアップリングを使用したガラス溶融炉を示す断面図である。
【
図2】従来のスタートアップリングの破断履歴を示す平面図である。
【
図3】
図1に示したスタートアップリングの破断履歴の一例を示す平面図である。
【
図4】
図1に示したスタートアップリングの破断履歴の異なる一例を示す平面図である。
【
図5】スタートアップリングの変形例を示す図であり、(a)は第一変形例、(b)は第二変形例、(c)は第三変形例、(d)は第四変形例、を示している。
【
図6】スタートアップリングの変形例を示す図であり、(a)は第五変形例、(b)は第六変形例、(c)は第七変形例、(d)は第八変形例、を示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について
図1~
図6(d)を用いて説明する。ここで、
図1は、一実施形態に係るスタートアップリングを使用したガラス溶融炉を示す断面図である。
図2は、従来のスタートアップリングの破断履歴を示す平面図である。
図3は、
図1に示したスタートアップリングの破断履歴の一例を示す平面図である。
【0016】
図1に示したガラス溶融炉1は、いわゆるコールドクルーシブル誘導炉(CCIM:Cold Crucible Induction Melter)である。ガラス溶融炉1は、例えば、金属製の容器を形成する炉壁2と、炉内に放射性廃棄物及びガラス原料を供給する供給ノズル3と、炉内に酸素を供給する酸素インジェクタ4と、炉内のガスを排気する排気ノズル5と、炉壁2の外周に沿って配置された高周波コイル6と、溶融ガラス層をバブリングするバブラー7と、溶融ガラスを炉外に排出する流下ノズル8と、を備えている。
【0017】
かかるガラス溶融炉1は、高周波コイル6を用いた高周波誘導加熱により、炉内に供給された放射性廃棄物及びガラス原料を高温で溶融させ、ガラス固化するガラス溶融炉の一つである。ガラス溶融炉1の炉壁2内には水冷ジャケットが埋設されており水冷可能に構成されている。したがって、炉壁2の表面温度を低下させることができ、炉壁2をガラスの低温層(スカル層)で覆うことができ、炉壁2の腐食速度を低減することができる。
【0018】
なお、ガラス溶融炉1は、図示した構成に限定されるものではなく、高周波コイル6を用いた高周波誘導加熱により、炉内に供給された放射性廃棄物及びガラス原料を高温で溶融させ、ガラス固化するガラス溶融炉であればよい。
【0019】
ガラス溶融炉1の始動(スタートアップ)時には、炉内にガラス原料(例えば、ガラスビーズ)を投入してガラス原料層9を形成し、その上部にスタートアップリング10が配置される。スタートアップリング10はガラス原料層9の内部に配置されていてもよい。
【0020】
例えば、
図2に示したように、従来のスタートアップリング11は、チタン製の単環部品である。かかるスタートアップリング11は、高周波コイル6の通電により発生した交番磁束と鎖交するようにガラス原料層9に配置される。
【0021】
スタートアップリング11は、鎖交した交番磁束により、
図2の上段に点線の矢印で示したように、電流が流れてジュール熱により発熱する。このスタートアップリング11によりガラス原料層9が加熱されて溶融し、導電性を帯び、自身で発熱可能な状態となる。スタートアップリング11は、自身の発熱反応と酸化反応により焼損し、最終的に消失するように構成されている。
【0022】
ところで、スタートアップリング11の使用中に、
図2の下段に示したように環状部の一部に破断部xが生じることがある。スタートアップリング11が破断すると、スタートアップリング11に電流が流れなくなり、電源の負荷インピーダンスが急激に変動してインターロックが作動し、電源が遮断されることとなる。電源遮断時には電源の再起動が必要となり、ガラス原料層9の溶融が不十分な場合には新しいスタートアップリング11を炉内に再配置する作業も発生する。
【0023】
本実施形態に係るスタートアップリング10は、例えば、
図3に示したように、径の大きさが異なる複数の環状部12と、複数の環状部12を径方向に連結する連結部13と、を備えている。
【0024】
環状部12は、例えば、図示したように、径の大きい順に、第一環状部12a、第二環状部12b及び第三環状部12cを含み、同一平面上に配置されている。第一環状部12a~第三環状部12cは同じ素材(例えば、チタン合金等)により構成されている。
【0025】
連結部13は、例えば、十字形状に配置されており、第一環状部12a~第三環状部12cとの交点はそれぞれ溶接により通電可能に接続されている。連結部13は、第一環状部12a~第三環状部12cと同じ素材で第一環状部12a~第三環状部12cより太く構成されている。したがって、連結部13は環状部12よりも耐熱性が高く、連結部13よりも先に環状部12を破断させることができる。
【0026】
かかるスタートアップリング10をガラス原料層9の上部に配置し、高周波コイル6を通電すると、
図3の上段に点線の矢印で示したように、最も外側の環状部12である第一環状部12aに電流が流れる。
【0027】
その後、第一環状部12aに破断部xが生じた場合には、
図3の中段に点線の矢印で示したように、スタートアップリング10には破断部xを迂回して第一環状部12a・第二環状部12b・連結部13により構成される最も外側の経路を通過する電流回路が形成される。したがって、スタートアップリング10に鎖交する磁束の通過面積の変化を小さくすることができ、電源のインターロックの作動を回避することができる。
【0028】
さらに、第二環状部12bに破断部xが生じた場合であっても、
図3の下段に点線の矢印で示したように、第一環状部12a・第三環状部12c・連結部13により構成される電流回路が形成され、電源のインターロックの作動を回避することができる。
【0029】
なお、図示した破断部xの発生箇所は一例であり、破断部xの発生箇所に応じて、最も外側の経路を通過するように、異なる電流回路が形成される。
【0030】
ここで、
図4は、
図1に示したスタートアップリングの破断履歴の異なる一例を示す平面図である。左上段の初期状態から第一環状部12aに破断部xが生じると、左下段に示したように、第一環状部12a・第二環状部12b・連結部13による電流回路が形成される。
【0031】
その後、右上段に示したように、第一環状部12aに二つ目の破断部xが生じると、二つの破断部xを回避した最も外側の経路を通過する電流回路(第一環状部12a・第二環状部12b・連結部13)が形成される。
【0032】
続いて、右中段に示したように、第一環状部12aに三つ目の破断部xが生じると、三つの破断部xを回避した最も外側の経路を通過する電流回路(第一環状部12a・第二環状部12b・連結部13)が形成される。
【0033】
さらに、右下段に示したように、第一環状部12aに四つ目の破断部xが生じると、四つの破断部xを回避した最も外側の経路を通過する電流回路(第一環状部12a・第二環状部12b・連結部13)が形成される。
【0034】
次に、スタートアップリング10の変形例について、
図5(a)~
図6(d)を参照しつつ説明する。ここで、
図5は、スタートアップリングの変形例を示す図であり、(a)は第一変形例、(b)は第二変形例、(c)は第三変形例、(d)は第四変形例、を示している。
図6は、スタートアップリングの変形例を示す図であり、(a)は第五変形例、(b)は第六変形例、(c)は第七変形例、(d)は第八変形例、を示している。
【0035】
図5(a)に示した第一変形例は、連結部13の本数を減らして、
図3に示した第一実施形態に係るスタートアップリング10のメッシュ(分割された領域)を大きくしたものである。具体的には、連結部13をI字形状に形成したものである。
【0036】
図5(b)に示した第二変形例は、連結部13の本数を増やして、
図3に示した第一実施形態に係るスタートアップリング10のメッシュ(分割された領域)を小さくしたものである。具体的には、連結部13を放射状に八本配置したものである。第一変形例及び第二変形例のように、連結部13は必要に応じて任意の本数に設定することができる。
【0037】
図5(c)に示した第三変形例は、環状部12の個数を増やして、
図3に示した第一実施形態に係るスタートアップリング10のメッシュ(分割された領域)を小さくしたものである。具体的には、第三環状部12cの内側に第四環状部12dを配置したものである。なお、環状部12の個数は3~4個に限定されるものではなく、必要に応じて任意の個数に設定することができる。
【0038】
図5(d)に示した第四変形例は、
図3に示した第一実施形態に係るスタートアップリング10の連結部13の交差部を省略したものである。第四変形例では、第三環状部12cが破断した場合にはスタートアップリング10に電流が流れなくなるが、第三環状部12cに電流回路が形成されている段階で、ガラス原料層9は導電性を有する程度まで溶融ガラス層に遷移しているものと推測され、電源のインターロックの作動を抑制することができる。
【0039】
図6(a)に示した第五変形例は、連結部13を環状部12より耐熱温度の高い素材により構成したものである。なお、説明の便宜上、図では耐熱温度の高低をグレースケールの濃淡で表示している。かかる構成によっても連結部13よりも先に環状部12を破断させることができる。
【0040】
図6(b)に示した第六変形例は、環状部12を径方向外側に配置された第一環状部12aから順に破断するように同じ素材で異なる太さに形成したものである。具体的には、第一環状部12a~第三環状部12cは同じ素材により構成され、第二環状部12bは第一環状部12aより太く形成され、第三環状部12cは第二環状部12bよりも太く形成されている。また、連結部13は第二環状部12bよりも太く形成されている。
【0041】
図6(c)に示した第七変形例は、環状部12を径方向外側に配置された第一環状部12aから順に破断するように異なる素材で構成したものである。具体的には、第二環状部12bは第一環状部12aより耐熱温度が高い素材により構成され、第三環状部12cは第二環状部12bより耐熱温度が高い素材により構成されている。なお、説明の便宜上、図では耐熱温度の高低をグレースケールの濃淡で表示している。
【0042】
図6(d)に示した第八変形例は、スタートアップリング10を三次元形状に構成したものである。具体的には、第一環状部12a~第三環状部12cは異なる平面に配置されており、互いに連結部13により接続されている。なお、第八変形例ではスタートアップリング10の外形を円錐台形状に形成しているが、円錐形状に形成してもよい。
【0043】
本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0044】
1 ガラス溶融炉
2 炉壁
3 供給ノズル
4 酸素インジェクタ
5 排気ノズル
6 高周波コイル
7 バブラー
8 流下ノズル
9 ガラス原料層
10 スタートアップリング
11 従来のスタートアップリング
12 環状部
12a 第一環状部
12b 第二環状部
12c 第三環状部
12d 第四環状部
13 連結部