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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138787
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】印刷システム
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20241002BHJP
   B41J 2/165 20060101ALI20241002BHJP
   B41J 2/21 20060101ALI20241002BHJP
   B41J 2/17 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
B41J2/01 301
B41J2/01 401
B41J2/01 129
B41J2/165 207
B41J2/21
B41J2/17 207
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049468
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096703
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 俊之
(72)【発明者】
【氏名】森山 隆司
(72)【発明者】
【氏名】百瀬 嘉彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 洋一
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA19
2C056EA20
2C056EB06
2C056EB36
2C056EB58
2C056EC14
2C056EC28
2C056EC54
2C056EE17
2C056FA10
2C056HA37
2C056HA44
2C056HA60
(57)【要約】
【課題】脱臭が過剰であったり逆に不十分であったりして、状況に応じた適切な脱臭ができているとは言い難かった。
【解決手段】印刷システムは、複数のノズルからUV硬化インクを媒体へ吐出する印刷ヘッドを有して印刷を実行する印刷部と、前記UV硬化インクから発生する臭気を吸引する脱臭部と、前記印刷部と前記脱臭部とを制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記印刷部の動作と、前記印刷のために外部から入力された印刷用データと、ユーザーによる前記印刷部に対する操作と、のいずれかに応じて前記脱臭部による吸引を制御する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルからUV硬化インクを媒体へ吐出する印刷ヘッドを有して印刷を実行する印刷部と、
前記UV硬化インクから発生する臭気を吸引する脱臭部と、
前記印刷部と前記脱臭部とを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記印刷部の動作と、前記印刷のために外部から入力された印刷用データと、ユーザーによる前記印刷部に対する操作と、のいずれかに応じて前記脱臭部による吸引を制御する、ことを特徴とする印刷システム。
【請求項2】
前記印刷部は、前記印刷ヘッドにより前記媒体へ吐出された前記UV硬化インクに紫外線を照射可能な照射部を有し、
前記制御部は、前記印刷ヘッドによる前記UV硬化インクの吐出と前記照射部による照射とを同時に行う第1動作の実行時よりも、前記印刷ヘッドによる前記UV硬化インクの吐出と前記照射部による照射とのうち前記照射のみを行う第2動作の実行時に、前記脱臭部の吸引力を強くする、ことを特徴とする請求項1に記載の印刷システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記印刷部による印刷が終了した場合、前記印刷の終了から所定期間内は前記脱臭部による吸引を継続させ、前記所定期間経過後は、前記所定期間内よりも前記脱臭部の吸引力を弱くする、ことを特徴とする請求項1に記載の印刷システム。
【請求項4】
前記印刷部および前記脱臭部は、開閉可能なカバーを有する筐体内に配設されており、
前記制御部は、
前記印刷部による印刷が終了した場合、前記印刷の終了から所定期間内は前記脱臭部による吸引を継続させ、
前記所定期間中は、前記カバーを開けることを待機すべき旨を外部へ報知する、ことを特徴とする請求項1に記載の印刷システム。
【請求項5】
前記印刷部は、前記印刷ヘッドが前記ノズルの機能回復のために前記ノズルから吐出する前記UV硬化インクを受容するメンテナンスボックスを有し、
前記制御部は、前記印刷ヘッドを前記メンテナンスボックスの位置へ移動させた上で前記印刷ヘッドに前記機能回復のために前記ノズルから前記UV硬化インクを吐出させることが可能であり、前記印刷ヘッドが前記メンテナンスボックスの位置において前記機能回復のために前記ノズルから前記UV硬化インクを吐出するフラッシング期間は、前記フラッシング期間とは異なる期間よりも、前記脱臭部の吸引力を強くする、ことを特徴とする請求項1に記載の印刷システム。
【請求項6】
前記印刷部および前記脱臭部は、共通の筐体内に配設されており、
前記脱臭部としてそれぞれ機能する第1脱臭部と第2脱臭部とを有し、
前記印刷部は、前記印刷ヘッドが前記ノズルの機能回復のために前記ノズルから吐出する前記UV硬化インクを受容するメンテナンスボックスを有し、
前記制御部は、前記印刷ヘッドを前記メンテナンスボックスの位置へ移動させた上で前記印刷ヘッドに前記機能回復のために前記ノズルから前記UV硬化インクを吐出させることが可能であり、前記印刷ヘッドが前記メンテナンスボックスの位置において前記機能回復のために前記ノズルから前記UV硬化インクを吐出するフラッシング期間は、前記第1脱臭部と前記第2脱臭部とのうち前記メンテナンスボックスに近い方の脱臭部の吸引力を、前記第1脱臭部と前記第2脱臭部とのうち前記メンテナンスボックスから遠い方の脱臭部の吸引力よりも弱くする、ことを特徴とする請求項1に記載の印刷システム。
【請求項7】
前記印刷ヘッドは、前記媒体に対する所定の主走査方向および前記主走査方向に交差する副走査方向のそれぞれに沿って往復移動可能であり、
前記制御部は、前記印刷ヘッドの位置に応じて前記脱臭部の吸引力を変更する、ことを特徴とする請求項1に記載の印刷システム。
【請求項8】
前記印刷ヘッドは、前記印刷用データに従って前記UV硬化インクとしてのカラーインクおよびバーニッシュインクを吐出可能であり、
前記制御部は、前記印刷ヘッドが前記バーニッシュインクを吐出せずに印刷を実行する場合よりも、前記印刷ヘッドが前記バーニッシュインクを吐出して印刷を実行する場合に前記脱臭部の吸引力を強くする、ことを特徴とする請求項1に記載の印刷システム。
【請求項9】
前記制御部は、前記印刷用データが示す印刷対象の画像のデータサイズおよび当該画像の濃度に基づいて算出した前記UV硬化インクのインク量の多さに応じて、前記脱臭部の吸引力を強める、ことを特徴とする請求項1に記載の印刷システム。
【請求項10】
前記印刷部および前記脱臭部は、開閉可能なカバーを有する筐体内に配設されており、
前記制御部は、ユーザーによる前記操作により前記カバーが開けられたとき、前記カバーが閉じているときよりも前記脱臭部の吸引力を強くする、ことを特徴とする請求項1に記載の印刷システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、UV硬化インクを用いて印刷する印刷システムに関する。
【背景技術】
【0002】
UV硬化インクを用いるインクジェットプリンターでは、印刷ヘッドにより媒体へ吐出したUV硬化インクに紫外線を照射することで、インクを硬化させ媒体へ定着させる。UVは、Ultra Viоletの略である。UV硬化インクは、独特な臭気を発生させるため、この臭気を脱臭することが必要とされている。
【0003】
関連技術として、印刷対象に印刷を実行する印刷部と、印刷部を収容する筐体と、気体を清浄化する気体清浄部と、前記筐体と気体清浄部とを連結し前記筐体内の気体を気体清浄部に排出する排出部と、を有する印刷装置が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018‐140530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、インクから発生する臭気を脱臭するための換気や気体清浄は、脱臭を担う装置をユーザーが手動で運転状態にするだけであった。あるいは、ユーザーが、そのような脱臭を担う装置による吸引力や時間の設定を手動で行うことはあった。しかしながら、印刷や印刷に関連する様々な動作、状況を鑑みたときに、実行される脱臭動作が、過剰であったり、逆に不十分であったり、合理的でなかったりしていた。そのため、状況に応じた適切な脱臭ができているとは言い難かった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
印刷システムは、複数のノズルからUV硬化インクを媒体へ吐出する印刷ヘッドを有して印刷を実行する印刷部と、前記UV硬化インクから発生する臭気を吸引する脱臭部と、前記印刷部と前記脱臭部とを制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記印刷部の動作と、前記印刷のために外部から入力された印刷用データと、ユーザーによる前記印刷部に対する操作と、のいずれかに応じて前記脱臭部による吸引を制御する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1Aは第1タイプの印刷システムを簡易的に示す図、図1Bは第2タイプの印刷システムを簡易的に示す図、図1Cは第3タイプの印刷システムを簡易的に示す図。
図2】印刷装置の構成を簡易的に示す図。
図3】印刷ヘッドと媒体を含む構成を上方からの視点により簡易的に示す図。
図4図4Aは媒体に対するキャリッジの動きの例を説明するための図、図4Bは印刷装置の筐体内に第1および第2脱臭部が配設された構成を上方からの視点により簡易的に示す図。
図5】第1実施例を示すフローチャート。
図6】第2実施例を示すフローチャート。
図7】第5実施例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、各図を参照しながら本発明の実施形態を説明する。なお各図は、本実施形態を説明するための例示に過ぎない。各図は例示であるため、比率や形状が正確でなかったり、互いに整合していなかったり、一部が省略されていたりする場合がある。
【0009】
1.システム構成:
本実施形態にかかる印刷システム10は、複数のノズルからいわゆるUV硬化インクを媒体へ吐出する印刷ヘッドを有して印刷を実行する印刷部20と、UV硬化インクから発生する臭気を吸引する脱臭部40と、印刷部20と脱臭部40とを制御する制御部12と、を備える。以下では、UV硬化インクを、単にインクとも呼ぶ。
【0010】
図1Aは、第1タイプの印刷システム10を簡易的に示している。図1Aによれば、脱臭部40は、印刷部20および制御部12と共に同じ筐体13内に配設されている。つまり、第1タイプの印刷システム10は一台の印刷装置11であり、この印刷装置11の筐体13に脱臭部40が内蔵されている。脱臭部40は、筐体13内の臭気を含んだ空気を吸引するための吸引ファンや、吸引ファンにより脱臭部40内に吸引した空気を脱臭、清浄化するためのフィルターや脱臭剤を備える。脱臭部40により脱臭された空気は外部へ排出される。
【0011】
制御部12は、印刷部20、脱臭部40のそれぞれと通信可能に接続している。印刷部20は、制御部12による制御下で印刷やその他の動作を行う。また、脱臭部40の吸引ファンの駆動が制御部12により制御されることで、脱臭部40の吸引力は可変となる。
【0012】
図1Bは、第2タイプの印刷システム10を簡易的に示している。第2タイプおよび後述の第3タイプについては、主に第1タイプと異なる点を説明する。図1Bによれば、印刷装置11の筐体13には、印刷部20と、印刷部20を制御する第1制御部12aとが収容されている。筐体13とは別の筐体15には、脱臭部40と、脱臭部40を制御する第2制御部12bとが収容されており、筐体15および筐体15内部を一台の脱臭装置14と見ることができる。
【0013】
つまり、第2タイプの印刷システム10は、印刷装置11と脱臭装置14とを有する。図1Bによれば、印刷装置11の筐体13内部と脱臭装置14の筐体15内部とが一部で連通しており、このような空間の連通を通じて、筐体13内部の臭気が脱臭部40により脱臭される。脱臭部40の吸引ファンは、第2制御部12bにより駆動されて、脱臭部40の吸引力は可変である。第1制御部12aと第2制御部12bとは、有線または無線により通信可能に接続されている。第1制御部12aは印刷装置11側の様々な状況に応じて、第2制御部12bへ脱臭部40の吸引の制御を指示し、第2制御部12bは、第1制御部12aから送信された指示に従って脱臭部40の吸引を制御する。
【0014】
図1Cは、第3タイプの印刷システム10を簡易的に示している。図1Cによれば、ある室内16に、印刷装置11が設置されている。印刷装置11は、印刷部20と、印刷部20を制御する第1制御部12aとを含んでいる。第3タイプの印刷システム10では、印刷装置11は、印刷ヘッド等を含んだ印刷部20を覆う筐体を有していない。そのため、印刷部20から発生する臭気は、そのまま室内16に漂い、この臭気を吸引するために、室内16には脱臭部40が設置されている。第3タイプにおける脱臭部40は、室内16の空気を吸って室外へ排気するための換気装置と解してよい。第3タイプでも脱臭部40は第2制御部12bを介して第1制御部12aにより制御される。第1制御部12aと第2制御部12bとの関係性は、第2タイプで説明した通りである。
【0015】
第2タイプや第3タイプの印刷システム10では、第1制御部12aおよび第2制御部12bが本実施形態の制御部12に該当する。以下では、第1制御部12aと第2制御部12bとを特に分けずに、まとめて制御部12として説明する。
【0016】
印刷システム10は、第1、第2、第3タイプのいずれであってもよいため、基本的にはいずれのタイプであるかを特定せずに本実施形態を説明する。ただし、必要に応じて、採用する印刷システム10のタイプを特定して説明することもある。
【0017】
図2は、印刷装置11の構成を簡易的に示している。印刷装置11は、上述したように制御部12や印刷部20を含んでいる。印刷システム10が第2タイプや第3タイプであれば、印刷装置11の制御部12は第1制御部12aである。印刷装置11は、表示部21、操作受付部22、通信IF23、記憶部24、搬送部25、キャリッジ26、印刷ヘッド27、照射部29等を含む。IFは、インターフェイスの略である。印刷システム10が第1タイプであれば、図2には記載していないが印刷装置11は脱臭部40を当然含む。
【0018】
制御部12は、プロセッサーとしてのCPU121、ROM122、RAM123等を有する一つ又は複数のICや、その他の不揮発性メモリー等を含んで構成される。制御部12では、プロセッサーつまりCPU121が、ROM122や、その他のメモリー等に保存された一つ以上のプログラム124に従った演算処理を、RAM123等をワークエリアとして用いて実行することにより、印刷システム10を制御する。なお、プロセッサーは、一つのCPUに限られることなく、複数のCPUや、ASIC等のハードウェア回路により処理を行う構成であってもよいし、CPUとハードウェア回路とが協働して処理を行う構成であってもよい。
【0019】
表示部21は、視覚情報を表示するための手段であり、例えば、液晶ディスプレイや、有機ELディスプレイ等により構成される。表示部21は、ディスプレイと、ディスプレイを駆動するための駆動回路とを含む構成であってもよい。操作受付部22は、ユーザーによる操作を受け付けるための手段であり、例えば、物理的なボタンや、タッチパネルや、マウスや、キーボード等によって実現される。むろん、タッチパネルは、表示部21の一機能として実現されるとしてもよい。
【0020】
通信IF23は、印刷装置11が公知の通信規格を含む所定の通信プロトコルに準拠して有線又は無線で外部装置と接続するための一つまたは複数のIFの総称である。外部装置とは、例えば、パーソナルコンピューター、サーバー、スマートフォン、タブレット型端末といった各種通信装置である。第2タイプや第3タイプであれば、脱臭部40や第2制御部12bも、印刷装置11から見れば外部装置の一種に該当する。
【0021】
記憶部24は、例えば、ハードディスクドライブや、ソリッドステートドライブといった記憶装置により構成される。記憶部24は、制御部12が有するメモリーの一部であってもよい。また、記憶部24を制御部12の一部と解してもよい。記憶部24には、印刷システム10の制御に必要な各種情報が記憶される。
【0022】
図2の例では、印刷部20は、搬送部25、キャリッジ26、印刷ヘッド27および照射部29を含んでいる。
搬送部25は、所定の搬送方向へ媒体を搬送するための手段であり、例えば、回転するローラーや、ローラー等を回転させるモーターを含む。媒体は、代表的には用紙であるが、用紙の他、生地やフィルム等、インクによる印刷の対象となり得る様々な素材を媒体として採用可能である。搬送方向を副走査方向とも呼ぶ。搬送部25は、媒体をベルトやパレットやトレイに載せて搬送する機構であってもよい。
【0023】
キャリッジ26は、不図示のキャリッジモーターによる動力を受けて所定の主走査方向に沿って往復移動可能な機構である。主走査方向と副走査方向とは交差している。主走査方向と副走査方向との交差は、直交あるいはほぼ直交と解してよい。キャリッジ26は印刷ヘッド27を搭載している。従って、印刷ヘッド27はキャリッジ26とともに、主走査方向に沿って往復移動する。印刷ヘッド27の移動とキャリッジ26の移動とは同義である。
【0024】
印刷ヘッド27は、インクを吐出可能な複数のノズル28を有する。ノズル28は、液滴であるドットを吐出する。印刷ヘッド27は、制御部12による制御下で、画像を印刷するための印刷データに基づいてインク吐出を行う。知られているように、制御部12は、各ノズル28が備える不図示の駆動素子への駆動信号の印加を、印刷データに従って制御することで、各ノズル28からドットを吐出させたり吐出させなかったりして媒体へ画像を印刷する。
【0025】
印刷ヘッド27は、例えば、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)等の各色のカラーインクを吐出可能である。むろん、印刷ヘッド27が吐出するインクの色はCMYKに限定されない。さらに印刷ヘッド27は、バーニッシュインクと呼ばれる、保護剤や仕上げ剤としての透明なインクを吐出することも可能である。印刷データは、画素毎かつインクの種類毎のドットの吐出または非吐出を規定したデータである。ドットの吐出をドットオンとも言い、ドットの非吐出をドットオフとも言う。
【0026】
照射部29は、印刷ヘッド27により媒体へ吐出されたインクに紫外線を照射可能なライトである。照射部29は、例えばLEDライトである。紫外線の照射を受けたインクは、硬化して媒体に定着する。照射部29が紫外線を発してインクに紫外線を照射することを、以下では単に照射とも言う。
【0027】
図3は、印刷ヘッド27と媒体30とを含む構成を上方からの視点により簡易的に示している。キャリッジ26は、主走査方向D1と平行なレール31に支持された状態で、レール31に沿って移動する。これにより、キャリッジ26に搭載された印刷ヘッド27は、キャリッジ26とともに主走査方向D1に沿って往復移動する。図3では、ノズル面27aにおける複数のノズル28を、ごく簡単に各黒点で示している。ノズル面27aは印刷ヘッド27の下面であり、各ノズル28はノズル面27aにおいて開口している。印刷ヘッド27は、複数のノズル28が副走査方向D2に並ぶノズル列を、複数列有する。複数のノズル列のそれぞれは、CMYKインクやバーニッシュインクといった何れかのインクの吐出に対応している。
【0028】
主走査方向D1に沿ったキャリッジ26の移動と共に印刷ヘッド27がインクを吐出する動作を、主走査と呼ぶ。主走査をパスと呼んでもよい。また、パスとパスとの間に印刷ヘッド27と媒体30とが副走査方向D2において相対移動することを副走査と呼ぶ。つまり、搬送部25が媒体30を予め決められた距離だけ副走査方向D2へ搬送することにより副走査が行われる。制御部12は、キャリッジ26、印刷ヘッド27、搬送部25を制御することでパスと副走査とを実行して、媒体30に2次元の画像を印刷することができる。
【0029】
印刷部20において、媒体30を搬送する搬送部25は無くてもよい。キャリッジ26が主走査方向D1だけでなく、副走査方向D2に沿って往復移動可能であってもよい。例えば、レール31を媒体30よりも上方位置に支持する支持部32が、不図示の移動機構により副走査方向D2に沿って往復移動する構成であるとする。つまり、支持部32、レール31、キャリッジ26および印刷ヘッド27が一体となって副走査方向D2に沿って往復移動する。媒体30が搬送される替わりに、静止する媒体30上でこのようなキャリッジ26が副走査方向D2において移動することで副走査が行われてもよい。
【0030】
図3の例では、照射部29は印刷ヘッド27と共にキャリッジ26に搭載されている。従って、照射部29も印刷ヘッド27と媒体30との関係性と同様に、媒体30と相対的に位置を変更させて、媒体30の各位置を照射することができる。図3では、照射部29は、印刷ヘッド27に対して主走査方向D1の一端側にのみ搭載されているが、照射部29は、主走査方向D1において印刷ヘッド27を両側から挟むように2か所に搭載されていてもよい。むろん、照射部29がキャリッジ26に搭載された構成は一例である。印刷部20が搬送部25を有する構成であれば、印刷ヘッド27よりも搬送の下流の位置に照射部29を設けることで、照射部29が印刷ヘッド27による印刷後の媒体30を照射することができる。
【0031】
2.脱臭部の制御:
制御部12は、印刷部20の動作と、印刷のために外部から入力された印刷用データと、ユーザーによる印刷部20に対する操作と、のいずれかに応じて脱臭部40による吸引を制御する。以下に、脱臭部40の制御についての各実施例を説明する。複数の実施例の組み合わせも当然に本実施形態の開示範囲に含まれる。
【0032】
2‐1.第1実施例:
上述したように、印刷部20は照射部29を有する。制御部12は、印刷ヘッド27によるインクの吐出と照射部29による照射とを同時に行う第1動作の実行時よりも、印刷ヘッド27によるインクの吐出と照射部29による照射とのうち照射のみを行う第2動作の実行時に、脱臭部40の吸引力を強くする。つまり、第1動作と第2動作のそれぞれが印刷部20の動作の一種であり、第1動作、第2動作に応じて脱臭部40の制御を異ならせる。
【0033】
図4Aは、1枚の媒体30に対するキャリッジ26の動きの例を、図3と同様の視点により説明するための図である。図4Aの例では、媒体30は搬送されず、上述したようにキャリッジ26が副走査方向D2においても移動可能であるとする。符号33は、処理対象の媒体30が置かれるテーブル33を示している。テーブル33には1枚の媒体30が置かれている。破線の矩形で示す所定位置P0は、キャリッジ26の初期位置P0であり、印刷や照射等の不実行時、キャリッジ26は初期位置P0に待機する。初期位置P0は、例えば、テーブル33に対して副走査方向D2の下流側であり、かつ主走査方向D1における一端側または他端側のどちらかの位置である。
【0034】
制御部12は、印刷や照射を開始する場合、キャリッジ26を、初期位置P0から所定の開始位置P1へ移動させる。開始位置P1は、例えば、初期位置P0から見て副走査方向D2の上流側であり、媒体30の副走査方向D2の上流側の端部に対して印刷ヘッド27からインクを吐出可能な位置である。開始位置P1へ移動したキャリッジ26は、その後、図4Aにおいて破線の矢印で概略示すように、主走査方向D1に沿う移動と、副走査方向D2に沿う移動との組み合わせにより、媒体30上を満遍なく移動し、最終的に初期位置P0へ戻る。
【0035】
図5は、第1実施例をフローチャートにより示している。制御部12は、ユーザーによる操作受付部22の操作を通じた指示や、外部装置からの通信IF23を通じた指示に応じて、1枚の媒体30への処理を開始する場合に、図5のフローチャートを実行する。
ステップS100では、制御部12は、キャリッジ26を初期位置P0から開始位置P1へ移動させる。
ステップS110では、制御部12は、第1動作をすべきか否か、つまり第1動作と第2動作のどちらを実行するかを判定する。第1動作の実行指示を受けていれば、ステップS110において“Yes”と判定し、ステップS120へ進む。一方、第2動作の実行指示を受けていれば、ステップS110において“Nо”と判定し、ステップS122へ進む。
【0036】
ステップS120では、制御部12は、脱臭部40の吸引力を80%に決定する。
一方、ステップS122では、制御部12は、脱臭部40の吸引力を100%に決定する。100%の吸引力とは、例えば、脱臭部40の吸引ファンの回転速度を最大値とした状態を指す。100%未満の吸引力は、この100%を基準とした数値であり、吸引ファンの回転速度を数値に応じて落とすことで実現される。むろん、100%や80%といった数値は例に過ぎない。ステップS120で決定する吸引力<ステップS122で決定する吸引力、であればよい。
【0037】
ステップS120を経たステップS130では、制御部12は、第1動作を実行すると共に、ステップS120で決定した、例えば80%といった吸引力に応じた回転速度で吸引ファンを駆動させて脱臭部40に臭気の脱臭をさせる。第1動作は、図4Aで説明したように開始位置P1からキャリッジ26を移動させながら、パスすなわち印刷ヘッド27からのインク吐出による印刷と、照射とを行う処理である。印刷ヘッド27がパスを実行すると同時に、主走査方向D1に沿うキャリッジ26の進行方向において印刷ヘッド27の後方に位置する照射部29が照射を実行することで、媒体30に着弾したインクのドットが即座に紫外線を受けて硬化する。
【0038】
一方、ステップS122を経たステップS132では、制御部12は、第2動作を実行すると共に、ステップS122で決定した、例えば100%といった吸引力に応じた回転速度で吸引ファンを駆動させて脱臭部40に臭気の脱臭をさせる。第2動作は、図4Aで説明したように開始位置P1からキャリッジ26を移動させながら、印刷ヘッド27からのインク吐出は実行せず、照射のみを行う処理である。従って、第2動作はインクによる印刷済みの媒体30がテーブル33に在ることが前提である。
【0039】
言うまでもなくキャリッジ26の移動は、図4Aの例に限定されない。媒体30に対する印刷や照射を問題なく実行できればよく、例えば、初期位置P0や開始位置P1は図示の通りでなくてもよい。また、副走査がキャリッジ26の移動ではなく、媒体30の搬送により行われる構成であれば、初期位置P0を開始位置と解せばよく、ステップS100は不要とも言える。その場合は、ステップS130やステップS132の最中におけるキャリッジ26の移動は、当然、主走査方向D1に沿う往復移動のみである。
【0040】
このように第1実施例によれば、第1動作の実行時に比べて、第2動作の実行時に、脱臭部40の吸引力を強くする。印刷ヘッド27によるインクの吐出と並行して前記吸引力を強くすると、インクのミストが脱臭部40の方へ流れ易くなり、印刷結果の品質に悪影響が出る虞がある。第1実施例では、このような不都合を回避しつつ、インクに対する紫外線の照射で生じる臭気を脱臭することができる。
【0041】
2‐2.第2実施例:
制御部12は、印刷部20による印刷が終了した場合、印刷の終了から所定期間内は脱臭部40による吸引を継続させ、所定期間経過後は、この所定期間内よりも脱臭部40の吸引力を弱くする、としてもよい。印刷は上述したように照射を伴うことがあるため、以下では逐一言わないが、印刷の終了は、印刷および照射の終了と解してもよい。
【0042】
図6は、第2実施例をフローチャートにより示している。
ステップS140では、制御部12は、印刷が終了したか否かを繰り返し判定する。制御部12は、例えば、印刷ヘッド27が媒体30への最後のパスを終えて、第1実施例で説明したようにキャリッジ26が初期位置P0へ戻った場合に、印刷終了と判定する。あるいは、制御部12は、印刷ヘッド27が媒体30に対する最後のパスを終えた時点で、印刷終了と判定してもよい。制御部12は、印刷終了と判定したら、ステップS140の“Yes”からステップS150へ進む。
【0043】
ステップS150では、制御部12は、印刷終了後の所定期間のための脱臭部40の吸引力を決定する。印刷中も脱臭部40の吸引ファンは駆動しているため、制御部12は、例えば、当該所定期間のための吸引力を、印刷中と同じ吸引力に決定する。あるいは、制御部12は、当該所定期間のための吸引力を、印刷中の吸引力よりも強い吸引力に決定してもよい。第1実施例のように、印刷中の脱臭部40の吸引力が80%であれば、当該所定期間のための吸引力を例えば100%にする。
【0044】
ステップS160では、制御部12は、ステップS150で決定した吸引力に応じた回転速度で吸引ファンを駆動させて脱臭部40に臭気の脱臭をさせる。つまり、印刷終了後も脱臭部40の吸引ファンの駆動を継続する。なお、ステップS150で決定した吸引力が印刷中の吸引力と同じであれば、ステップS160における吸引ファンの駆動と印刷中の吸引ファンの駆動は、何も変わらない。
【0045】
ステップS170では、制御部12は、印刷が終了してから、つまりステップS140で“Yes”と判定してから所定期間が経過したか否かを判定し、所定期間が経過していなければステップS160を継続し、一方、所定期間が経過したら“Yes”の判定からステップS180へ進む。所定期間とは予め長さが決められた期間である。あるいは、制御部12は、後述するように印刷に用いた印刷用データに基づいて所定期間の長さを決定し、決定した長さの所定期間が経過したか否かをステップS170で判定してもよい。
【0046】
ステップS180では、制御部12は、脱臭部40の吸引力を上述の所定期間における吸引力よりも弱める。つまり、脱臭部40の吸引ファンの回転速度を落とす。ステップS180において、脱臭部40の吸引力を弱めることには、脱臭部40を停止させること、つまり吸引ファンの回転を止めることも含む。
ステップS180において、吸引ファンの回転を止めずに弱めた場合、その後どの程度の期間、吸引ファンの回転を継続するかは本実施形態では特に問わない。単純に、ユーザーから脱臭部40の停止が指示されたときに、制御部12は吸引ファンを止めればよい。
【0047】
このように第2実施例によれば、印刷終了後、少なくとも所定期間は脱臭部40による吸引を継続し、その後は脱臭部40の吸引力を弱くする。そのため、印刷終了後に残る臭気を的確に脱臭できるとともに、電力消費を抑制することができる。
【0048】
2‐3.第3実施例:
第3実施例は、印刷システム10が第1タイプまたは第2タイプであることを前提とする。印刷部20および脱臭部40は、開閉可能なカバー13aを有する筐体内に配設されている。図1A,1Bに示すように、カバー13aは印刷装置11の筐体13の一部分であり、ユーザーは、このカバー13aを手動で開閉することができる。図1Bによれば、印刷装置11の筐体13と脱臭装置14の筐体15とは一部で連通しているため、第2タイプにおいても、カバー13aは、印刷部20および脱臭部40が内部に配設された筐体の一部を開閉するカバーと解釈する。
【0049】
制御部12は、印刷部20による印刷が終了した場合、印刷の終了から所定期間内は脱臭部40による吸引を継続させる。これは第2実施例で説明した。制御部12は、この所定期間中は、カバー13aを開けることを待機すべき旨を外部へ報知するとしてもよい。報知の具体的方法は、表示部21によるメッセージやイラストや動画の表示、不図示のインジケーターの点灯、点滅、不図示のスピーカーによる音声での警告、これらの組み合わせ等、様々である。
【0050】
このような第3実施例によれば、印刷終了後の所定期間中にユーザーがカバー13aを開けてしまい臭気が筐体外へ漏れ出ることを、できるだけ防ぐことができる。
制御部12は、カバー13aの開閉を検知可能である。そこで、制御部12は、印刷終了後の所定期間中にカバー13aが開けられたことを検知したら、この所定期間が経過するまではカバー13aを閉じるべきである旨を外部へ報知するとしてもよい。
【0051】
筐体13は、カバー13aを開けることを禁止、解除するロック機構を有するとしてもよい。制御部12はロック機構を制御する。つまり、制御部12は、印刷中はもちろんのこと、印刷終了後の所定期間中も、カバー13aが開くことをロック機構により強制的に禁止し、所定期間が経過したら、ロック機構を解除して、カバー13aを開けることを可能にするとしてもよい。
【0052】
なお、第1実施例で説明したように、印刷部20は、媒体30に対して印刷を伴わない照射を実行することもある。そのため、第2実施例や第3実施例における“印刷”を“照射”と読み替えて、照射部29による照射が終了した後の所定期間を対象として、第2実施例や第3実施例を適用してもよい。
【0053】
2‐4.第4実施例:
印刷部20は、印刷ヘッド27がノズル28の機能回復のためにノズル28から吐出するインクを受容するメンテナンスボックス34を有する。ノズル28の機能回復とは、ノズル28の詰まりを解消することを指す。メンテナンスボックス34を、以下ではMTB34と略す。制御部12は、印刷ヘッド27をMTB34の位置へ移動させた上で、印刷ヘッド27に前記機能回復のためにノズル28からインクを吐出させる、いわゆるフラッシングを実行可能である。フラッシングや、印刷ヘッド27の移動は、印刷部20の動作の一種である。制御部12は、印刷ヘッド27がMTB34の位置において機能回復のためにノズルからインクを吐出するフラッシング期間は、フラッシング期間とは異なる期間よりも、脱臭部40の吸引力を強くするとしてもよい。
【0054】
図4Aには、MTB34の位置を例示している。MTB34は、媒体30が置かれたり通過したりする範囲とは別の範囲であって、キャリッジ26が移動可能な範囲内に配設されている。図4Aの例では、MTB34はテーブル33の外の所定位置に配設されている。印刷ヘッド27のノズル面27aがMTB34と対向している状態のキャリッジ26の位置を、便宜上、フラッシング位置と呼ぶ。
【0055】
制御部12は、ユーザーによる操作受付部22の操作や外部装置からの通信IF23を介した通信によりフラッシングの実行指示を受けたり、予め定めたフラッシングの実行タイミングが到来したりしたとき、フラッシングを行う。図4Aを参照すると、制御部12は、フラッシングを実行するには、先ずキャリッジ26を初期位置P0からMTB34の位置すなわちフラッシング位置へ移動させる。そして、制御部12は、キャリッジ26をフラッシング位置に停止させた状態でフラッシングを実行し、フラッシング終了後、キャリッジ26を初期位置P0へ戻す。
【0056】
従って、キャリッジ26がフラッシング位置に停止している期間をフラッシング期間と捉えることができる。また、キャリッジ26が初期位置P0からフラッシング位置へ移動する期間や、キャリッジ26がフラッシング位置から初期位置P0へ移動する期間は、フラッシング期間とは異なる期間の一種と捉えることができる。
このように第4実施例によれば、制御部12は、フラッシング期間はフラッシング期間と異なる期間よりも脱臭部40の吸引力を強くすることで、フラッシングにより発生する強い臭気を的確に脱臭することができると共に、全体的に電力消費を抑制することができる。
【0057】
2‐5.第5実施例:
第5実施例は、印刷システム10が第1タイプであることを前提とする。印刷システム10は、脱臭部40を複数有するとしてもよい。ここでは、印刷システム10は、脱臭部40としてそれぞれ機能する第1脱臭部40aと第2脱臭部40bとを有するものとする。ただし、脱臭部40の数は2つより多くてもよい。
【0058】
第4実施例と同様に第5実施例においても、印刷部20は、印刷ヘッド27がノズル28の機能回復のためにノズル28から吐出するインクを受容するMTB34を有し、制御部12は、印刷ヘッド27をMTB34の位置へ移動させた上で印刷ヘッド27に前記機能回復のためにノズル28からインクを吐出させるフラッシングを実行可能である。そして、制御部12は、印刷ヘッド27がMTB34の位置において前記機能回復のためにノズル28からインクを吐出するフラッシング期間は、第1脱臭部40aと第2脱臭部40bとのうちMTB34に近い方の脱臭部の吸引力を、第1脱臭部40aと第2脱臭部40bとのうちMTB34から遠い方の脱臭部の吸引力よりも弱くするとしてもよい。
【0059】
図4Bは、印刷装置11の筐体13内に第1脱臭部40aと第2脱臭部40bとが配設された構成を、図4Aと同様の視点により簡易的に示している。図4Bに関して、図4Aと共通する説明は省略する。図4Bによれば、テーブル33の4辺のうち2つ以上の辺と筐体13の内壁との間のそれぞれに、脱臭部40が配設されている。ここでは、テーブル33よりも副走査方向D2の下流側に在る脱臭部40を第1脱臭部40aと呼び、第1脱臭部40bよりも副走査方向D2において上流側であって、MTB34に比較的近い位置の脱臭部40を第2脱臭部40bと呼ぶ。つまり図4Bの例では、第2脱臭部40bの方が、第1脱臭部40aよりもMTB34に近い。
【0060】
図7は、第5実施例をフローチャートにより示している。制御部12は、フラッシングを開始する場合に図7のフローチャートを実行する。
ステップS200では、制御部12は、第1脱臭部40aの吸引力を80%と決定し、第2脱臭部40bの吸引力を80%と決定し、第1脱臭部40a、第2脱臭部40bそれぞれの吸引ファンを、決定した吸引力に応じた回転速度で駆動開始して臭気を脱臭させる。なお、図7のフローチャートに示す各数値も、図5に示す数値と同様にあくまで一例である。
【0061】
ステップS210では、制御部12は、キャリッジ26を初期位置P0からフラッシング位置へ移動させる。
ステップS220では、制御部12は、各脱臭部40の吸引力を変更する。例えば、第1脱臭部40aの吸引力を100%に変更し、第2脱臭部40bの吸引力を30%に変更し、第1脱臭部40a、第2脱臭部40bそれぞれの吸引ファンを、変更後の吸引力に応じた回転速度で駆動させる。
【0062】
ステップS230では、制御部12は、印刷ヘッド27にフラッシングを実行させる。つまり、ステップS220による変更後の吸引力は、フラッシング期間の吸引力となる。
フラッシングの終了後、ステップS240では、制御部12は、各脱臭部40の吸引力を変更する。例えば、第1脱臭部40aの吸引力を80%に変更し、第2脱臭部40bの吸引力を70%に変更し、第1脱臭部40a、第2脱臭部40bそれぞれの吸引ファンを、変更後の吸引力に応じた回転速度で駆動させる。
ステップS250では、制御部12は、キャリッジ26をフラッシング位置から初期位置P0へ移動させる。
【0063】
このような図7のステップS220やステップS240によれば、MTB34に近い第2脱臭部40bの吸引力を、MTB34から遠い第1脱臭部40aに比べて弱くする。特に、ステップS220によれば、フラッシング期間は、MTB34に近い第2脱臭部40bの吸引力が、MTB34から遠い第1脱臭部40aに比べて大きく劣ることになる。
【0064】
印刷ヘッド27からMTB34に向けて強制的にインクが吐出されるフラッシング期間において、MTB34に近い位置の脱臭部40で強く臭気を吸引すると、臭気が印刷装置11の筐体13外部へ漏れ易いことが確認された。第5実施例では、このような問題に対処するために、フラッシング期間は、第1脱臭部40aと第2脱臭部40bとのうちMTB34に近い方の脱臭部40の吸引力を、第1脱臭部40aと第2脱臭部40bとのうちMTB34から遠い方の脱臭部40の吸引力よりも弱くする。この結果、臭気が筐体13外部へ漏れ出ることを、抑制することができる。
【0065】
なお、図7のフローチャートによれば、第1脱臭部40aの吸引力の変化に注目すると、フラッシング期間よりも前の期間は80%、フラッシング期間は100%、フラッシング期間の後の期間は80%となっている。これは、フラッシング期間はフラッシング期間と異なる期間よりも脱臭部40の吸引力を強くする第4実施例を、具体的に示していると言える。つまり図7のフローチャートは、第4実施例および第5実施例を併せて具体的に示している。また、第2脱臭部40bの吸引力の変化に注目すると、フラッシング期間よりも前の期間は80%、フラッシング期間は30%、フラッシング期間の後の期間は70%となっている。これは、フラッシング期間はフラッシング期間と異なる期間よりも脱臭部40の吸引力を弱くする実施例を具体的に示していると言える。
【0066】
なお、フラッシングには、インクの初期充填時のフラッシングという処理も有る。初期充填時、つまり、インクカートリッジやインクタンク、インクボトル等と呼ばれるインク供給手段が新しく印刷ヘッド27に対して装着されたり接続されたりしたとき、印刷部20の初期動作の一つとして、インク供給手段から充填されたインクを印刷ヘッド27がフラッシングする。この初期充填時のフラッシングに関しても、制御部12は、フラッシングを実行する期間と、その前後の期間とで、脱臭部40の吸引力に差を設けて、フラッシング時に発生する臭気を効果的に脱臭するようにしてもよい。
【0067】
2‐6.第6実施例:
上述したように、印刷ヘッド27は、媒体30に対する所定の主走査方向D1および主走査方向D1に交差する副走査方向D2のそれぞれに沿って往復移動可能である。制御部12は、印刷ヘッド27の位置に応じて脱臭部40の吸引力を変更するとしてもよい。
【0068】
制御部12は、キャリッジ26の位置を印刷ヘッド27の位置として把握し、例えば、初期位置P0を離れてから開始位置P1に着くまでの位置を第1位置、開始位置P1から初期位置P0に着く直前までの位置を第2位置、開始位置P1から戻った初期位置P0を第3位置と捉える。そして制御部12は、印刷ヘッド27の現在位置が第1位置、第2位置、第3位置のいずれであるかに応じて、脱臭部40の吸引ファンの回転速度を変えて、吸引力を変更する。制御部12は、例えば、第1位置であるときの吸引力<第2位置であるときの吸引力<第3位置であるときの吸引力、とする。また、制御部12は、印刷ヘッド27の位置が、フラッシング位置に在るときと無いときで、脱臭部40の吸引力を変更することができる。
【0069】
このような第6実施例による脱臭部40の制御は、結果だけを見ると、第2~第4実施例と一部で共通し得る。ただし、第6実施例は、あくまで印刷部20の動作結果としての印刷ヘッド27の位置に応じて脱臭部40の吸引力を変更する点を特徴としている。第6実施例によれば、印刷ヘッド27の位置に応じて脱臭部40の吸引力を変更することで、脱臭部40の吸引力を最適化し、脱臭のための吸引が必要以上に強かったり逆に弱かったりする事態を回避することができる。
【0070】
2‐7.第7実施例:
印刷ヘッド27は、印刷用データに従ってUV硬化インクとしてのカラーインクおよびバーニッシュインクを吐出可能である。印刷用データとは、印刷データを含むデータであり、通信IF23を介して外部装置から入力されたり、不図示の外部のメモリーから入力されたりする。あるいは、印刷用データには、印刷対象の画像を表現する画像データが含まれており、制御部12が、画像データに対して色変換処理やハーフトーン処理等を適宜施して印刷データを生成するとしてもよい。いずれにしても印刷用データによれば、印刷ヘッド27が吐出するインクの種類や、印刷する画像のデータサイズ等が分かる。また、印刷用データには、例えば、照射部29の発光強度を指定する情報や、印刷を実行せず照射のみ実行すべき旨の指示が含まれている。照射は、印刷物を完成させるために必要な処理であるから、印刷を実行せず照射のみ実行すべき旨の指示も、印刷用データの一種と捉える。
【0071】
制御部12は、印刷ヘッド27がバーニッシュインクを吐出せずに印刷を実行する場合よりも、印刷ヘッド27がバーニッシュインクを吐出して印刷を実行する場合に脱臭部40の吸引力を強くする、としてもよい。制御部12は、これから媒体30へ印刷する画像を表現する印刷用データを解析し、バーニッシュインクを吐出する必要か有るか否かを判定する。そして、バーニッシュインクの吐出が必要な場合は、バーニッシュインクの吐出が不要な場合と比較して、印刷中、例えば図5のステップS130の期間における、脱臭部40の吸引力を強くする。
【0072】
一例であるが、制御部12は、ステップS130の印刷でCMYKのカラーインクを吐出し、バーニッシュインクを吐出しないのであれば、ステップS120では図5の通り、吸引力を80%に決定する。一方、ステップS130の印刷でカラーインクに加えてバーニッシュインクも吐出するのであれば、ステップS120では吸引力を90%や95%に決定することが考えられる。バーニッシュインクは、他のカラーインクよりも臭気が強い。このような第7実施例により、バーニッシュインクから発生する強い臭気を的確に脱臭することができる。
【0073】
2‐8:第8実施例:
制御部12は、印刷用データが示す印刷対象の画像のデータサイズおよび当該画像の濃度に基づいて算出したインクのインク量の多さに応じて、脱臭部40の吸引力を強めるとしてもよい。上述したように、印刷用データには印刷対象の画像を表現する画像データまたは印刷データが含まれている。画像のデータサイズは縦横の画素数であり、画像の濃度は各画素の色の階調値やドットオン・オフの情報から把握できる。そのため、制御部12は、画像のデータサイズおよび濃度から、印刷ヘッド27が当該画像を印刷するために吐出すべきインク量を算出する。そして、制御部12は、この算出したインク量が多いほど、脱臭部40の吸引力をより強い値に決定し、印刷中の脱臭部40の吸引ファンを、この決定した吸引力に対応する回転速度で駆動する。
【0074】
このような第8実施例によれば、画像の印刷のために吐出されるインク量に応じて脱臭部40の吸引力を制御するため、インク量に応じて程度が異なる臭気を的確に脱臭することができる。第8実施例は、当然、図5のステップS120,S130に適用可能である。
【0075】
脱臭部40の吸引力を強めるという概念には、吸引ファンを駆動させる期間を長くすることも含まれる。そのため、制御部12は、上述のように算出したインク量が多いほど、印刷が終了した後の脱臭部40の吸引力をより強い値に決定して、印刷終了後も脱臭部40に脱臭させるとしてもよい。つまり、第2実施例や第3実施例で説明した印刷終了後の“所定期間”における脱臭部40の吸引ファンの回転速度や、所定期間の長さを、画像の印刷のために吐出したインク量に応じて決定し、採用してもよい。
【0076】
2‐9.第9実施例:
第9実施例は、第3実施例と同様に、印刷システム10が第1タイプまたは第2タイプであることを前提とする。印刷部20および脱臭部40は、開閉可能なカバー13aを有する筐体内に配設されている。制御部12は、ユーザーによる操作によりカバー13aが開けられたとき、カバー13aが閉じているときよりも脱臭部40の吸引力を強める、としてもよい。カバー13aは、印刷部20を外部に対して覆うカバーと捉えることができるため、ユーザーがカバー13aを開けたり閉めたりする操作は、ユーザーによる印刷部20に対する操作の一種である。
【0077】
これまで説明したように、制御部12は、印刷および照射の実行中、照射のみの実行中、フラッシング期間、フラッシング期間の前後の期間、印刷終了後の所定期間等、様々なタイミングや期間において脱臭部40の吸引ファンを駆動する。このような脱臭部40の駆動中に、カバー13aが開けられことを検知したら、制御部12は、脱臭部40の吸引力をそれまでの吸引力よりも強くして脱臭部40の駆動を続ける。このような第9実施例によれば、ユーザーがカバー13aを開けたときに筐体外へ漏れ出る臭気の量をできるだけ抑制することができる。
【0078】
制御部12は、脱臭部40の駆動中に、カバー13aが開いた状態から閉められたことを検知したら、脱臭部40の吸引力をそれまでの吸引力よりも弱くして、電力消費を抑えるようにしてもよい。
ユーザーによる印刷部20に対する操作は、当然、カバー13aの開け閉めだけではない。制御部12は、例えば、印刷部20の電源がユーザーにより投入されたことを検知したら、脱臭部40の駆動を開始してもよい。また、ユーザーによる操作受付部22の操作として入力される印刷、照射、フラッシング等といった様々な指示に応じて、制御部12は、脱臭部40の駆動を開始したり、その吸引力を変更したりしてもよい。
【0079】
3.まとめ:
このように本実施形態によれば、印刷システム10は、複数のノズル28からUV硬化インクを媒体30へ吐出する印刷ヘッド27を有して印刷を実行する印刷部20と、UV硬化インクから発生する臭気を吸引する脱臭部40と、印刷部20と脱臭部40とを制御する制御部12と、を備え、制御部12は、印刷部20の動作と、印刷のために外部から入力された印刷用データと、ユーザーによる印刷部20に対する操作と、のいずれかに応じて脱臭部40による吸引を制御する。
【0080】
前記構成によれば、制御部12は、印刷部20の動作、印刷用データ、ユーザーによる印刷部20に対する操作といった要素のいずれかに応じて脱臭部40による吸引を制御する。そのため、各実施例でも説明したように、脱臭部40による吸引を状況に応じて柔軟に変更し、最適化することができる。その結果、過剰な脱臭により印刷品質に影響が出たり不必要に電力を消費したり、逆に脱臭が不十分となったりすることを、従来よりも回避することができる。
【0081】
なお、特許請求の範囲においては、請求項同士の組み合わせの一部のみを記載しているが、本実施形態は、独立請求項と従属請求項との一対一の組み合わせだけでなく、当然に、複数の従属請求項の各種組み合わせを開示範囲に含める。
本実施形態は、印刷システム10以外にも、印刷システム10が実行する工程やステップによる方法、当該方法をプロセッサーと協働して実現するためのプログラム124、印刷装置11、脱臭装置14といった各カテゴリーの発明を開示する。
【符号の説明】
【0082】
10…印刷システム、11…印刷装置、12…制御部、12a…第1制御部、12b…第2制御部、13,15…筐体、13a…カバー、14…脱臭装置、16…室内、20…印刷部、21…表示部、22…操作受付部、23…通信IF、24…記憶部、25…搬送部、26…キャリッジ、27…印刷ヘッド、28…ノズル、29…照射部、30…媒体、33…テーブル、34…MTB、40…脱臭部、40a…第1脱臭部、40b…第2脱臭部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7