(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138802
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】リン脂質又はその塩の製造方法、並びに、リン脂質又はその塩
(51)【国際特許分類】
C12P 9/00 20060101AFI20241002BHJP
C07F 9/09 20060101ALI20241002BHJP
C12N 9/14 20060101ALI20241002BHJP
C12P 13/02 20060101ALI20241002BHJP
A61K 47/24 20060101ALN20241002BHJP
【FI】
C12P9/00
C07F9/09 U CSP
C12N9/14
C12P13/02
A61K47/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049493
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000231497
【氏名又は名称】日本精化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼下 朋之
(72)【発明者】
【氏名】深田 尚文
(72)【発明者】
【氏名】前田 典之
(72)【発明者】
【氏名】黒崎 寿夫
【テーマコード(参考)】
4B064
4C076
4H050
【Fターム(参考)】
4B064AE63
4B064CA21
4B064CD06
4B064CD12
4B064CD15
4B064DA01
4B064DA20
4C076AA95
4C076BB11
4C076DD63
4C076FF70
4H050AA01
4H050AA02
4H050AB20
4H050AC70
4H050BA35
(57)【要約】 (修正有)
【課題】薬物を脂質粒子に封入することができ、デリバリーシステムに用いることができるリン脂質又はその塩の製造方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)
で表されるリン脂質又はその塩の製造方法であって、例えば下記反応式で示すように、ストレプトマイセス属由来ホスホリパーゼDの存在下で反応させる工程を含む、製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】
(式中、mは9~25の自然数を示し、nは10~15の自然数を示し、X
1、X
2、X
3は、同一又は異なって、H又はOHを示す。R
1は、酸素原子、窒素原子を含んでいてもよい炭素数1~10の炭化水素基を示す。)
で表されるリン脂質又はその塩の製造方法であって、
下記一般式(A)
【化2】
(式中、m、n、X
1、X
2、X
3は前記一般式(1)と同一である。)
で表される化合物と、下記一般式で表される第1級アルコール又は第2級アルコール
【化3】
(R
1は前記一般式(1)と同一である。)
とを、ストレプトマイセス(Streptomyces)属由来ホスホリパーゼDの存在下で反応させる工程を含む、リン脂質又はその塩の製造方法。
【請求項2】
前記mは13~21の自然数を示し、前記nは11~12の自然数を示す、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記リン脂質は、下記一般式(2)
【化4】
(式中、R
1は前記と同一である。)
で表されるリン脂質である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記R
1が下記一般式(i)、(ii)で表される基、又は、炭素数1~10の炭化水素基である請求項1に記載の製造方法。
【化5】
(式中、*は結合手を示し、pは0~8の自然数を示し、X
4は、-OR
2、-NR
3R
4、-C(=O)YR
5、ハロゲン、又は、アリール基を示し、R
2、R
3、及び、R
4は同一又は異なって、水素、炭素数1~5の炭化水素基、又は、保護基を示し、YはO、又は、NHを示し、R
5は、水素、炭素数1~5の炭化水素基、又は、保護基を示す。)
【化6】
(式中、*は結合手を示し、qは0~7の自然数を示し、X
5及びX
6は、同一又は異なって、-OR
6、-NR
7R
8、又は、-C(=O)YR
9を示し、R
6は、水素、炭素数1~5の炭化水素基、又は、保護基を示し、R
7及びR
8は、同一又は異なって、水素、炭素数1~5の炭化水素基、又は、保護基を示し、YはO、又は、NHを示し、R
9は、水素、炭素数1~5の炭化水素基、又は、保護基を示す。R
6~R
9が炭素数1~5の炭化水素基、又は、保護基であるとき、X
5とX
6とが結合して結合して環状となっていてもよい。)
【請求項5】
前記R
1は、下記式で示される基のいずれかである、請求項1に記載の製造方法。
【化7】
【請求項6】
下記一般式(2)
【化8】
で表され、式中、前記R
1は、下記式で示される基のいずれかである、リン脂質又はその塩。
【化9】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン脂質又はその塩の製造方法、並びに、リン脂質又はその塩に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、small interfering RNA(siRNA)を含有する医薬品やmessenger RNA(mRNA)を含有する遺伝子ワクチンの開発が行われている。外部から投与したRNAが生体内で本来の活性を示すには極めて高度なデリバリーシステムを必要とする。これは、RNAが速やかに酵素分解を受けることや細胞膜をほとんど通過しないことなどに起因する。そのため、RNAを含有する医薬品やワクチンの実用化には、必然的にデリバリーシステムの開発が伴う。
【0003】
RNA等の薬物のデリバリーシステムとしては、薬物を脂質粒子に封入した状態で投与することが知られている(特許文献1)。しかしながら、その他にも、薬物を脂質粒子に封入することができ、デリバリーシステムに用いることができるリン脂質又はその塩を製造することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】日本国特開2016-023147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、薬物を脂質粒子に封入することができ、デリバリーシステムに用いることができるリン脂質又はその塩の製造方法を提供することを目的とする。好ましくは、本発明は、さらに、薬物を内封でき、薬物の送達に用いることができる脂質粒子を形成するためのリン脂質又はその塩を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意研究を進めた結果、特定の構造の化合物と、特定の構造第1級アルコール又は第2級アルコールとを、ストレプトマイセス(Streptomyces)属由来ホスホリパーゼDの存在下で反応させる工程を含むリン脂質又はその塩の製造方法によれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、下記のリン脂質又はその塩の製造方法、並びに、リン脂質又はその塩に関する。
1.下記一般式(1)
【化1】
(式中、mは9~25の自然数を示し、nは10~15の自然数を示し、X
1、X
2、X
3は、同一又は異なって、H又はOHを示す。R
1は、酸素原子、窒素原子を含んでいてもよい炭素数1~10の炭化水素基を示す。)
で表されるリン脂質又はその塩の製造方法であって、
下記一般式(A)
【化2】
(式中、m、n、X
1、X
2、X
3は前記一般式(1)と同一である。)
で表される化合物と、下記一般式で表される第1級アルコール又は第2級アルコール
【化3】
(R
1は前記一般式(1)と同一である。)
とを、ストレプトマイセス(Streptomyces)属由来ホスホリパーゼDの存在下で反応させる工程を含む、リン脂質又はその塩の製造方法。
2.前記mは13~21の自然数を示し、前記nは11~12の自然数を示す、項1に記載の製造方法。
3.前記リン脂質は、下記一般式(2)
【化4】
(式中、R
1は前記と同一である。)
で表されるリン脂質である、請求項1に記載の製造方法。
4.前記R
1が下記一般式(i)、(ii)で表される基、又は、炭素数1~10の炭化水素基である項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【化5】
(式中、*は結合手を示し、pは0~8の自然数を示し、X
4は、-OR
2、-NR
3R
4、-C(=O)YR
5、ハロゲン、又は、アリール基を示し、R
2、R
3、及び、R
4は同一又は異なって、水素、炭素数1~5の炭化水素基、又は、保護基を示し、YはO、又は、NHを示し、R
5は、水素、炭素数1~5の炭化水素基、又は、保護基を示す。)
【化6】
(式中、*は結合手を示し、qは0~7の自然数を示し、X
5及びX
6は、同一又は異なって、-OR
6、-NR
7R
8、又は、-C(=O)YR
9を示し、R
6は、水素、炭素数1~5の炭化水素基、又は、保護基を示し、R
7及びR
8は、同一又は異なって、水素、炭素数1~5の炭化水素基、又は、保護基を示し、YはO、又は、NHを示し、R
9は、水素、炭素数1~5の炭化水素基、又は、保護基を示す。R
6~R
9が炭素数1~5の炭化水素基、又は、保護基であるとき、X
5とX
6とが結合して結合して環状となっていてもよい。)
5.前記R
1は、下記式で示される基のいずれかである、項1に記載の製造方法。
【化7】
6.下記一般式(2)
【化8】
で表され、式中、前記R
1は、下記式で示される基のいずれかである、リン脂質又はその塩。
【化9】
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法は、薬物を脂質粒子に封入することができ、デリバリーシステムに用いることができるリン脂質又はその塩を製造することができる。また、本発明のリン脂質又はその塩は、薬物を内封でき、薬物の送達に用いることができる脂質粒子を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0010】
1.リン脂質又はその塩
本発明は、その一態様において、一般式(1):
【0011】
【0012】
(式中、mは9~25の自然数を示し、nは10~15の自然数を示し、X1、X2、X3は、同一又は異なって、H又はOHを示す。R1は、酸素原子、窒素原子を含んでいてもよい炭素数1~10の炭化水素基を示す。)
で表されるリン脂質又はその塩(本明細書において、「本発明のリン脂質等」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0013】
上記一般式(1)において、式中、mは9~25の自然数を示し、nは10~15の自然数を示す。mは13~21の自然数であることが好ましく、14~18の自然数であることがより好ましく、15であることが更に好ましい。また、nは11~12の自然数であることが好ましく、12であることがより好ましい。また、mは13~21の自然数であり、且つ、nは11~12の自然数であることが更に好ましい。
【0014】
上記一般式(1)において、式中、X1、X2、X3は、同一又は異なって、H又はOHを示す。X1、X2、X3は、Hを示すことが好ましい。
【0015】
本発明のリン脂質等は、下記一般式(2)で表わされる化合物又はその塩であることが好ましい。
【化11】
【0016】
上記一般式(2)において、R1は上記一般式(1)のR1と同一である。
【0017】
上記一般式(1)及び(2)において、R1は、下記一般式(i)、(ii)で表される基、又は、炭素数1~10の炭化水素基であることが好ましい。
【0018】
【0019】
【0020】
上記一般式(i)中、*は結合手を示し、pは0~8の自然数を示し、X4は、-OR2、-NR3R4、-C(=O)YR5、ハロゲン、又は、アリール基を示し、R2、R3、及び、R4は同一又は異なって、水素、炭素数1~5の炭化水素基、又は、保護基を示し、YはO、又は、NHを示し、R5は、水素、炭素数1~5の炭化水素基、又は、保護基を示す。
【0021】
上記一般式(ii)中、*は結合手を示し、qは0~7の自然数を示し、X5及びX6は、同一又は異なって、-OR6、-NR7R8、又は、-C(=O)YR9を示し、R6は、水素、炭素数1~5の炭化水素基、又は、保護基を示し、R7及びR8は、同一又は異なって、水素、炭素数1~5の炭化水素基、又は、保護基を示し、YはO、又は、NHを示し、R9は、水素、炭素数1~5の炭化水素基、又は、保護基を示す。R6~R9が炭素数1~5の炭化水素基、又は、保護基であるとき、X5とX6とが結合して結合して環状となっていてもよい。
【0022】
上記炭素数1~10の炭化水素基としては、炭素数が1~10であれば特に限定されず、上記一般式(i)、(ii)で表される基以外の炭化水素基が挙げられる。
【0023】
上記保護基としては、カーバメート系保護基、シリル系保護基、ベンジル系保護基、アシル系保護基、又はアセタール系保護基等が挙げられるが、官能基を不活性化させられるものであれば特に限定されない。カーバメート系保護基の例としては、tert-ブトキシカルボニル(Boc)基、アリルオキシカルボニル(Alloc)基、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)基、ベンジルオキシカルボニル(Cbz)基等が挙げられる。シリル系保護基としては、トリメチルシリル(TMS)基、トリエチルシリル(TES)基、tert-ブチルジメチルシリル(TBS)基、tert-ブチルジフェニルシリル(TBDPS)基、トリイソプロピルシリル(TIPS)基等が挙げられる。ベンジル系保護基としては、ベンジル基、パラメトキシベンジル基、ナフチルメチル基が挙げられる。アシル系保護基としてはアセチル基、ベンゾイル基、ピバロイル基等が挙げられる。アセタール系保護基としてはメトキシメチル基、テトラヒドロピラニル(THP)基、ベンジルオキシメチル(BOM)基等が挙げられ、環状となる保護基としてはベンジリデンアセタール基、ジメチルアセタール基等が挙げられる。
【0024】
R1は、下記式で示される基のいずれかであることが好ましい。
【0025】
【0026】
これらの中でも、R1は、下記式で示される基のいずれかであることがより好ましい。
【0027】
【0028】
また、本発明のリン脂質等は、上記一般式(2)で表され、且つ、R1が、上記式で示される基のいずれかであることが好ましい。
【0029】
一般式(1)のリン脂質には、塩の形態も包含される。塩としては、酸性塩、塩基性塩のいずれも採用することができる。酸性塩の例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩;酢酸塩、プロピオン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩等の有機酸塩が挙げられ、塩基性塩の例としては、ナトリウム塩、及びカリウム塩等のアルカリ金属塩;並びにカルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩; アンモニアとの塩;ピリジン、モルホリン、ピペリジン、ピロリジン、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、モノ(ヒドロキシアルキル)アミン、ジ(ヒドロキシアルキル)アミン、トリ(ヒドロキシアルキル)アミン等の有機アミンとの塩等が挙げられる。
【0030】
2.リン脂質又はその塩の製造方法
本発明のリン脂質又はその塩の製造方法は、
下記一般式(1)
【0031】
【化16】
(式中、mは9~25の自然数を示し、nは10~15の自然数を示し、X
1、X
2、X
3は、同一又は異なって、H又はOHを示す。R
1は、酸素原子、窒素原子を含んでいてもよい炭素数1~10の炭化水素基を示す。)
で表されるリン脂質又はその塩の製造方法であって、
下記一般式(A)
【0032】
【化17】
(式中、m、n、X
1、X
2、X
3は上記一般式(1)と同一である。)
で表される化合物と、下記一般式で表される第1級アルコール又は第2級アルコール(以下、纏めて「第1,2級アルコール」とも示す。)
【0033】
【化18】
(R
1は前記一般式(1)と同一である。)
とを、ストレプトマイセス(Streptomyces)属由来ホスホリパーゼD(以下、単に「ホスホリパーゼD」とも示す。)の存在下で反応させる工程を含む、リン脂質又はその塩の製造方法である。
【0034】
上記一般式(1)中、m、n、X1、X2、X3は、及び、R1は上記と同一である。
【0035】
上記一般式(A)中、m、n、X1、X2、X3は上記一般式(1)と同一である。
【0036】
上記第1級アルコール又は第2級アルコールを表す一般式中、R1は上記一般式(1)と同一である。
【0037】
本発明の製造方法では、上記一般式(A)で表される化合物と、上記一般式で表される第1級アルコール又は第2級アルコールとを、ストレプトマイセス(Streptomyces)属由来ホスホリパーゼDの存在下で反応させる工程を含む。
【0038】
本発明で用いられるストレプトマイセス(Streptomyces)属由来ホスホリパーゼDは、下記の理化学的性質を示す、ストレプトマイセス(Streptomyces)属に属する細菌より得られる酵素であることが好ましい。
(1)基質特異性としてレシチンに作用し、リゾレシチンおよびスフィンゴミエリンに対して、相対活性がレシチンを基質とした場合の5%以下である。
(2)酵素作用は、下記反応式で示される。
レシチン+H2O→ホスファチジン酸+コリン
(3)分子量:約46000(バイオゲル・ゲルろ過法による)
(4)最適pH:5.5付近
(5)pH安定性:pH4.2-8.5付近
(6)等電点:pH4.2付近
【0039】
上記(1)~(6)の理化学的性質を示す、ストレプトマイセス(Streptomyces)属由来ホスホリパーゼDは、市販品を用いることができ、このような市販品としては、旭化成ファーマ製 商品名PLDPが挙げられる。
【0040】
上記工程では、上記一般式(A)で表される化合物と一般式R1OHで表される第1,2級アルコールとを、ホスホリパーゼDの存在下で反応させることで、一般式(1)で表される化合物を得ることができる。以下、当該反応を「本反応」とも示す。
【0041】
ホスホリパーゼDの添加量は、リン脂質1g当たり10~5000ユニットを添加するのが好ましい。酵素の副反応防止と経済性の観点から、リン脂質1g当たり10~1000ユニットの添加がより好ましい。なお、1ユニット(U)は、指摘条件下(温度30℃で、最も化学反応が進む酸性度)で毎分1マイクロモル(μmol)の基質を変化させることができる酵素量(1マイクロモル毎分)と定義される。
【0042】
第1,2級アルコールの使用量は、収率等の観点から、一般式(A)で表される化合物1モルに対して、1モル以上が好ましく、2モル以上がより好ましく、4モル以上が更に好ましく、8モル以上が特に好ましい。また、第1,2級アルコールの使用量は、収率等の観点から、一般式(A)で表される化合物1モルに対して、20モル以下が好ましく、16モル以下がより好ましく、14モル以下が更に好ましい。
【0043】
本反応は、溶媒の存在下で行われることが好ましい。溶媒としては、酵素の活性を発揮できる溶媒である限り特に制限されない。溶媒としては、各種緩衝液が好適に使用される。緩衝液としては、リン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等の緩衝液を用いることができるが、好ましくは酢酸ナトリウムが挙げられる。溶媒のpHは、好ましくは4~7、より好ましくは5~6である。本反応系においては、上記水系溶媒の他にも、一般式(A)で表される化合物を溶解させるために各種有機溶媒(例えば、クロロホルムや酢酸エチル等)を含んでいてもよい。
【0044】
本反応は、典型的には、一般式(A)で表される化合物の有機溶媒溶液と、一般式R1OHで表される第1,2級アルコールと、水系溶媒溶液とを混合し、ホスホリパーゼDを添加することにより行われることが好ましい。
【0045】
本反応においては、上記成分以外にも、反応の進行を著しく損なわない範囲で、適宜添加剤を使用することもできる。
【0046】
反応温度は、ホスホリパーゼDの活性を発揮できる温度である限り特に制限されず、通常20~50℃、好ましくは35~45℃である。
【0047】
反応時間は、ホスホリパーゼDの活性を発揮できる時間である限り特に制限されず、通常6時間~72時間、好ましくは12時間~24時間である。
【0048】
反応終了後、溶媒を留去し、生成物をクロマトグラフィー法、再結晶法等の通常の方法で単離し、精製することができる。また、生成物の構造は、元素分析、MS(FD-MS)分析、IR分析、1H-NMR、13C-NMR等により同定することができる。
【0049】
3.脂質粒子
本発明のリン脂質等(本明細書において、「リン脂質A」と示すこともある。)を用いて、本発明のリン脂質等を含有する脂質粒子を製造することができる。以下に、これについて説明する。
【0050】
脂質粒子は、粒子構成脂質として本発明のリン脂質等(リン脂質A)を用いる粒子である限り特に制限されない。脂質粒子に含まれる本発明のリン脂質等は1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。脂質粒子としては、例えば本発明のリン脂質等を含む両親媒性の脂質が外層を構成し、且つ該脂質が親水性部分を外側に向けて並んでいる粒子が挙げられる。該粒子としては、例えば外層が脂質一重膜からなる粒子、外層が脂質二重膜からなる粒子が挙げられ、好ましくは外層が脂質一重膜からなる粒子が挙げられ、より好ましくは外層の脂質一重膜において両親媒性脂質が親水性部分を外側に向けて並んでいる粒子が挙げられる。粒子の内層は、水相又は油相の均一な相からなるものでもよいが、1又は複数の逆ミセルを含むことが好ましい。
【0051】
脂質粒子は、本発明のリン脂質等以外に、粒子構成脂質として、他の脂質を含み得る。脂質の具体例としては、リン脂質、糖脂質、ステロール、飽和又は不飽和の脂肪酸等が例示される。
【0052】
リン脂質の具体例としては、ジラウロイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジリノレオイルホスファチジルコリン、ミリストイルパルミトイルホスファチジルコリン、ミリストイルステアロイルホスファチジルコリン、パルミトイルステアロイルホスファチジルコリン等のホスファチジルコリン;ジラウロイルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、ジオレオイルホスファチジルグリセロール、ジリノレオイルホスファチジルグリセロール、ミリストイルパルミトイルホスファチジルグリセロール、ミリストイルステアロイルホスファチジルグリセロール、パルミトイルステアロイルホスファチジルグリセロール等のホスファチジルグリセロール;ジラウロイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ジリノレオイルホスファチジルエタノールアミン、ミリストイルパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ミリストイルステアロイルホスファチジルエタノールアミン、パルミトイルステアロイルホスファチジルエタノールアミン等のホスファチジルエタノールアミン;ホスファチジルセリン;ホスファチジン酸;ホスファチジルイノシトール;スフィンゴミエリン;カルジオリピン;卵黄レシチン;大豆レシチン;及びこれらの水素添加物等が例示される。これらは、PEG等の水溶性高分子で修飾されたものであってもよい。
【0053】
糖脂質の具体例としては、ジグリコシルジグリセリド、ジガラクトシルジグリセリド、ガラクトシルジグリセリド、グリコシルジグリセリド等のグリセロ糖脂質;ガラクトシルセレブロシド、ガングリオシド等のスフィンゴ糖脂質;ステアリルグルコシド、エステル化ステアリルグリコシド等が例示される。
【0054】
ステロールの具体例としては、コレステロール、コレステリルヘミスクシネート、ラノステロール、ジヒドロラノステロール、デスモステロール、ジヒドロコレステロール、フィトステロール、スチグマステロール、チモステロール、エルゴステロール、シトステロール、カンペステロール、ブラシカステロール等が例示される。特に、当該ステロールには、リポソーム膜を安定化させたり、リポソーム膜の流動性を調節したりする作用があるため、リポソーム膜の構成脂質として含まれていることが望ましい。
【0055】
飽和又は不飽和の脂肪酸の具体例としては、デカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキドン酸、オレイン酸、ドコサン酸等の炭素数10~22の飽和又は不飽和の脂肪酸が例示される。
【0056】
上記脂質は、1種単独で使用してもよいが、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0057】
脂質粒子は、好ましくは薬物を内包する。薬物としては、特に制限されず、例えば、ポリヌクレオチド、ペプチド、タンパク質、糖、低分子化合物等が挙げられる。薬物は、負電荷を有するものが好ましく、また水溶性のものが好ましい。このような薬物としては、ポリヌクレオチドを好適に採用できる。薬物の対象疾患としては、特に制限されないが、例えばがん(特に、固形がん)が挙げられる。
【0058】
薬物は、脂質粒子の内層に含まれることが好ましい。薬物がポリヌクレオチドである場合、薬物は、内層における逆ミセル内に含まれることが好ましい。
【0059】
抗酸化剤は、膜の酸化防止のために含有させることができ、膜の構成成分として必要に応じて使用される。膜の構成成分として使用される抗酸化剤としては、例えば、ブチル化ヒドロキシトルエン、没食子酸プロピル、トコフェロール、酢酸トコフェロール、濃縮混合トコフェロール、ビタミンE、アスコルビン酸、L-アスコルビン酸ステアリン酸エステル、パルミチン酸アスコルビン酸、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、エリソルビン酸、クエン酸等が例示される。
【0060】
膜タンパク質は、膜への機能付加又は膜の構造安定化を目的として含有させることができ、膜構成成分として必要に応じて使用される。膜タンパク質としては、例えば、膜表在性タンパク質、膜内在性タンパク質、アルブミン、組換えアルブミン等が挙げられる。
【0061】
脂質粒子は、脂質粒子の公知の製造方法に従って又は準じて製造することができる。
【0062】
上記脂質粒子は、凍結物、凍結乾燥物等であることができる。
【0063】
4.脂質粒子の用途
上記脂質粒子の用途としては、脂質粒子を含有する医薬が挙げられる。また、上記脂質粒子は、試薬としても利用することができる。
【0064】
脂質粒子は、より効率的に薬物(例えば、siRNA等のポリヌクレオチドや低分子化合物)の効果を発揮することができる。このため、上記脂質粒子は、薬物のキャリアとして好適に利用することができる。
【実施例0065】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0066】
(実施例1)2-bromoethyl((2S,3R)-3-hydroxy-2-stearamidooctadecyl)phosphateの合成
【0067】
【0068】
ジヒドロスフィンゴミエリン(200mg)をクロロホルム(4.0mL)に40℃で溶解させた後、ブロモエタノール(351mg)のクロロホルム溶液(4.0mL)を添加した。得られた溶液にストレプトマイセス(Streptomyces)属由来ホスホリパーゼD(0.7mg、255U/mg)の酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5、4.0mL)を添加し、40℃で20時間撹拌した。得られた溶液にクロロホルムを加えた後、メタノールおよび塩化ナトリウム水溶液を用いて有機層を洗浄した。得られた有機層から溶媒を減圧留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール/水)で精製することで、標題の化合物(26mg)を得た。
質量分析(ESI):[M-H]-= 752
1H NMR(300MHz, 溶媒 CDCl3/CD3OD=2/1)δ= 4.20-3.85(m, 5H), 3.55-3.33(m, 3H),2.24-2.20(m,2H), 1.65-1.53(m, 4H), 1.50-1.10(m,54H), 0.88(t,J=6.6Hz,6H).
【0069】
(実施例2)1-phenylethyl((2S,3R)-3-hydroxy-2-stearamidooctadecyl)phosphateの合成
【0070】
【0071】
ブロモエタノールに代えて、フェネチルアルコール(337mg)を用いた以外は実施例1と同様に合成して、標題の化合物(42mg)を得た。
質量分析(ESI):[M-H]- = 751
1H NMR(300MHz, 溶媒CDCl3/CD3OD=2/1)δ=7.29-7.20(m,5H), 4.20-3.51(m, 6H), 2.94-2.91(m,2H), 2.24-2.20(m,2H), 1.65-1.50(m,2H), 1.50-1.10(m,56H), 0.88(t,J=6.6Hz,6H).
【0072】
(実施例3)Ethyl((2S,3R)-3-hydroxy-2-stearamidooctadecyl)phosphateの合成
【0073】
【0074】
ブロモエタノールに代えて、エタノール(127mg)を用いた以外は実施例1と同様に合成して、標題の化合物(42mg)を得た。
質量分析(ESI):[M-H]- = 675
1H NMR(300MHz,溶媒CDCl3/CD3OD=2/1)δ=4.25-3.37(m,6H), 2.32-2.24(m,2H), 1.77-1.60(m,4H), 1.35-1.00(m,57H), 0.88(m,6H).
【0075】
(実施例4)Nonyl((2S,3R)-3-hydroxy-2-stearamidooctadecyl)phosphateの合成
【0076】
【0077】
ブロモエタノールに代えて、1-ノナノール(389mg)を用いた以外は実施例1と同様に合成して、標題の化合物(42mg)を得た。
質量分析(ESI):[M-H]- = 773
1H NMR(300MHz, 溶媒CDCl3/CD3OD=2/1)δ=4.25-3.50(m,6H), 2.25-2.20(m,2H), 1.70-1.50(m,4H), 1.50-0.95(m,68H), 0.89(t,J=6.3Hz,9H).
【0078】
(実施例5)1-methylethyl ((2S,3R)-3-hydroxy-2-stearamidooctadecyl)phosphateの合成
【0079】
【0080】
ブロモエタノールに代えて、2-プロパノール(162mg)を用いた以外は実施例1と同様に合成して、標題の化合物(42mg)を得た。
質量分析(ESI):[M-H]- = 689
1H NMR(300 MHz, 溶媒CDCl3/CD3OD=2/1)δ=4.25-4.17(m,1H), 3.91-3.76(m,2H), 3.67-3.56(m,2H), 2.22(t,J=7.2Hz,2H), 1.70-1.45(m,4H), 1.45-1.00(m,54H), 0.99-0.78(m,12H).
【0081】
(実施例6)2,3-dihydroxypropyl((2S,3R)-3-hydroxy-2-stearamidooctadecyl)phosphateの合成
【0082】
【0083】
ジヒドロスフィンゴミエリン(2.20g)を酢酸エチル(18.0mL)およびクロロホルム(36.0mL)に50℃で溶解させた後、グリセリン(2.76g)を添加した。得られた溶液にストレプトマイセス(Streptomyces)属由来ホスホリパーゼD(7.9mg、255U/mg)の酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5、36.0mL)を添加し、40℃で20時間撹拌した。得られた溶液にクロロホルムを加えた後、メタノール、塩化ナトリウム水溶液を用いて有機層を洗浄した。また、得られた有機層から溶媒を減圧留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール/水)で精製することで、標題の化合物(0.53g)を得た。
質量分析(ESI):[M-H]- = 721
1H NMR(300MHz, 溶媒CDCl3/CD3OD=2/1)δ=4.25-4.17(m,1H), 4.00-3.70(m,5H), 3.65-3.59(m,3H), 2.22(t,J=7.8Hz,2H), 1.66-1.41(m,4H), 1.40-1.00(m,54H), 0.89(t,J=6.6Hz,6H).
【0084】
(実施例7)2-aminoethyl ((2S,3R)-3-hydroxy-2-stearamidooctadecyl)phosphateの合成
【0085】
【0086】
2-アミノエタノール(1.83g)を酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5、30mL)に溶解させた後、酢酸(1.88g)を滴下し、さらに撹拌することで、アミン入り酢酸緩衝液を調製した。ジヒドロスフィンゴミエリン(2.20g)およびクロロホルム(60mL)を50℃で混合させた後、上記アミン入り酢酸緩衝液に溶解させたストレプトマイセス(Streptomyces)属由来ホスホリパーゼD(8.1mg、255U/mg)を添加し、さらに40℃で1日撹拌させた。得られた溶液にクロロホルムおよびメタノールを添加して抽出をした。続いて、得られた有機層を塩化ナトリウム水溶液およびメタノールで洗浄した。さらに塩酸とメタノールで洗浄した後、塩化ナトリウム水溶液およびメタノールでも洗浄した。得られた有機層にトルエンを加えた後、溶媒を減圧留去した。得られた粗体にクロロホルム/メタノール/水(容積比率60/30/5、55.0mL)を添加し、60℃に加温して溶解させた。得られた溶液を室温下で静置放冷させたことで析出した固体を濾取した。その固体を真空乾燥させることで、標題の化合物(1.20g)を得た。
質量分析(ESI):[M+Na]+ = 714
1H NMR(300MHz, 溶媒CDCl3/CD3OD=2/1)δ=4.20-4.11(m,1H), 4.00-3.78(m,4H), 3.58-3.54(m,1H), 3.05(t,J=4.5Hz,2H), 2.16(t,J=4.5Hz,2H), 1.62-1.35(m,4H), 1.35-0.85(m,54H), 0.83(t,J=6.3Hz,6H).