IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-長繊維不織布およびその製造方法 図1
  • 特開-長繊維不織布およびその製造方法 図2
  • 特開-長繊維不織布およびその製造方法 図3
  • 特開-長繊維不織布およびその製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138804
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】長繊維不織布およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D04H 3/14 20120101AFI20241002BHJP
   D04H 3/16 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
D04H3/14
D04H3/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049500
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】戸田 樹
(72)【発明者】
【氏名】松浦 博幸
【テーマコード(参考)】
4L047
【Fターム(参考)】
4L047AA13
4L047AA19
4L047AA21
4L047AB03
4L047BA01
4L047BA03
4L047BA08
4L047BA24
4L047CB01
4L047CC15
(57)【要約】
【課題】 敷設された際に土壌に十分な水分を保持しつつ、敷設されたままでも植物の生長を阻害しない長繊維不織布を提供すること。
【解決手段】 熱可塑性樹脂を主成分とする繊維で構成されてなる長繊維不織布であって、融着部の面積割合が5%以上25%以下であり、前記長繊維不織布の非融着部における厚みTNE(μm)に対する前記長繊維不織布の融着部における厚みT(μm)の比T/TNEが0.05以上0.15以下であり、前記長繊維不織布の見かけ密度が0.10g/cm以上0.25g/cm以下である、長繊維不織布。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を主成分とする繊維で構成されてなり、融着部と非融着部とを有する長繊維不織布であって、前記融着部の面積割合が5%以上25%以下であり、前記非融着部における厚みTNE(μm)に対する前記融着部における厚みT(μm)の比T/TNEが0.05以上0.15以下であり、前記長繊維不織布の見かけ密度が0.10g/cm以上0.25g/cm以下である、長繊維不織布。
【請求項2】
前記長繊維不織布の最大引張応力σmax(N/5cm)に対する前記長繊維不織布の3%伸長時の引張応力σ3%(N/5cm)の比σ3%/σmaxが0.80以上0.97以下である、請求項1に記載の長繊維不織布。
【請求項3】
前記非融着部における厚みTNE(μm)が800μm以上1500μm以下である、請求項1または2に記載の長繊維不織布。
【請求項4】
前記融着部の長辺の長さT(μm)に対する前記融着部の短辺の長さT(μm)の比T/Tが0.10以上0.80以下である、請求項1または2に記載の長繊維不織布。
【請求項5】
前記融着部を複数有し、かつ、該融着部の間の平均最短距離T(μm)に対する前記融着部の短辺の長さT(μm)の比T/Tが0.01以上0.30以下である、請求項1または2に記載の長繊維不織布。
【請求項6】
前記長繊維不織布の目付が100g/m以上200g/m以下である、請求項1または2に記載の長繊維不織布。
【請求項7】
熱可塑性樹脂を紡糸口金の吐出孔から紡出し、吸引延伸して、繊維を形成する工程と、
移動するネットコンベア上に前記繊維を捕集して、繊維ウェブを形成する工程と、
前記繊維ウェブの両面に加熱面を接触させて一次融着させ、仮融着シートを形成する工程と、
前記仮融着シートに機械的交絡を施して、交絡シートを形成する工程と、
前記交絡シートを一対のロールで熱融着する工程と、
を順次施す、請求項1または2に記載の長繊維不織布の製造方法であって、
前記吸引延伸における紡糸速度が3000m/分以上6000m/分以下であり、
前記一次融着する際の加熱面の温度が、前記熱可塑性樹脂の融点よりも60℃以上120℃以下低い温度で、かつ、前記加熱面の線圧が100N/cm以上900N/cm以下であって、
前記熱融着する際の一対のロールの表面温度が融点よりも5℃以上70℃以下低い温度で、かつ、該一対のロールの線圧が100N/cm以上900N/cm以下である、
長繊維不織布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は長繊維不織布およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題が強く叫ばれており、その中でも砂漠化は、様々な社会問題が繋がって引き起こされるため、特に解決すべき問題である。
【0003】
この砂漠化の解決のために、緑地化活動が行われているが、農作物の発芽や育苗を行うにあたり、砂地からの水分の蒸発や天候、動物による成長阻害が課題である。
【0004】
従来から、発芽や育苗を促し、栽培中の農作物を霜・雨・雹等から守る等の目的で、土壌および農作物や苗の上に直接シートで被覆する、べたがけ栽培が行われている。そして、この目的で用いられる「べたがけシート」は、緑地化活動の目的だけではなく、農作物の成長速度や出荷時期を調整する目的にも用いられ、覆っていたべたがけシートを剥がしたり、また覆ったりして、農作物の状況を確認しながら、適宜、べたがけシートを取り付けたり取り外したりする。
【0005】
このようなべたがけシートとしては、通気性や通水性があり、かつ、透光性・保温性にも優れるという理由から連続繊維からなる不織布が多く用いられている。このようなものとして、例えば、特許文献1には、芯部にポリエステル系重合体、鞘部にポリプロピレン系重合体であり、特定の単繊維繊度の芯鞘型複合連続繊維により構成される、特定の目付の不織布からなる農業用被覆資材であって、特定のエンボス加工によって形成された熱圧着部を有する農業用被覆資材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-223152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されたシートは、鞘部の樹脂の融点が芯部の樹脂の融点よりも低い鞘芯構造糸を表層に配した、比較的太い繊度の繊維により構成される不織布からなることで、一定の耐摩耗性を得ることができるものと考えられる。しかしながら、植物が発芽した際にその生長を阻害しないよう、ある程度時間が経過したところでシートを外さなければならない。植物が発芽することを見越して、切れ込みを入れておくことも考えられるが、その場合には、土壌の乾燥などを十分に防ぐことができないといった課題がある。
【0008】
そこで、本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、敷設された際に土壌に十分な水分を保持しつつ、敷設されたままでも植物の生長を阻害しない長繊維不織布を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するべく鋭意検討を重ねた結果、長繊維不織布の融着部の面積割合、見かけ密度を特定の範囲とし、さらに、非融着部の厚みに対する融着部の厚みの比率を特定の範囲とすることで、敷設されている際、土壌に十分な水分を保持できるだけの性能を有するというだけではなく、長繊維不織布の貫入抵抗を、植物が長繊維不織布を突き破って芽を出せる程度にまで低くできることを見出した。
【0010】
本発明は、これら知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
【0011】
[1] 熱可塑性樹脂を主成分とする繊維で構成されてなり、融着部と非融着部とを有する長繊維不織布であって、前記融着部の面積割合が5%以上25%以下であり、前記非融着部における厚みTNE(μm)に対する前記融着部における厚みT(μm)の比T/TNEが0.05以上0.15以下であり、前記長繊維不織布の見かけ密度が0.10g/cm以上0.25g/cm以下である、長繊維不織布。
【0012】
[2] 前記長繊維不織布の最大引張応力σmax(N/5cm)に対する前記長繊維不織布の3%伸長時の引張応力σ3%(N/5cm)の比σ3%/σmaxが0.80以上0.97以下である、前記[1]に記載の長繊維不織布。
【0013】
[3] 前記非融着部における厚みTNE(μm)が800μm以上1500μm以下である、前記[1]または[2]に記載の長繊維不織布。
【0014】
[4] 前記融着部の長辺の長さT(μm)に対する前記融着部の短辺の長さT(μm)の比T/Tが0.10以上0.80以下である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の長繊維不織布。
【0015】
[5] 前記融着部を複数有し、かつ、該融着部の間の平均最短距離T(μm)に対する前記融着部の短辺の長さT(μm)の比T/Tが0.01以上0.30以下である、前記[1]~[4]のいずれかに記載の長繊維不織布。
【0016】
[6] 前記長繊維不織布の目付が100g/m以上200g/m以下である、前記[1]~[5]のいずれかに記載の長繊維不織布。
【0017】
[7] 熱可塑性樹脂を紡糸口金の吐出孔から紡出し、吸引延伸して、繊維を形成する工程と、
移動するネットコンベア上に前記繊維を捕集して、繊維ウェブを形成する工程と、
前記繊維ウェブの両面に加熱面を接触させて一次融着させ、仮融着シートを形成する工程と、
前記仮融着シートに機械的交絡を施して、交絡シートを形成する工程と、
前記交絡シートを一対のロールで熱融着する工程と、
を順次施す、前記[1]~[6]のいずれかに記載の長繊維不織布の製造方法であって、
前記吸引延伸における紡糸速度が3000m/分以上6000m/分以下であり、
前記一次融着する際の加熱面の温度が、前記熱可塑性樹脂の融点よりも60℃以上120℃以下低い温度で、かつ、前記加熱面の線圧が100N/cm以上900N/cm以下であって、
前記熱融着する際の一対のロールの表面温度が融点よりも5℃以上70℃以下低い温度で、かつ、該一対のロールの線圧が100N/cm以上900N/cm以下である、
長繊維不織布の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、敷設された際に土壌に十分な水分を保持しつつ、敷設されたままでも植物の生長を阻害しないような長繊維不織布が得らえる。特に、本発明の長繊維不織布は、上記のような効果を奏することから、例えば、べたがけシートなどの育苗シートに好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の長繊維不織布の一実施態様において、融着部における厚みT、非融着部における厚みTNEを説明する図である。
図2図2は、本発明の長繊維不織布の融着部が平行四辺形である実施態様の一例において、融着部の長辺の長さTLなどを説明する上面概念図である。
図3図3は、本発明の長繊維不織布の融着部が長方形である実施態様の一例において、融着部の長辺の長さTLなどを説明する上面概念図である。
図4図4は、本発明の長繊維不織布の融着部が菱形である実施態様の一例において、融着部の長辺の長さTLなどを説明する上面概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の長繊維不織布は、熱可塑性樹脂を主成分とする繊維で構成されてなり、融着部と非融着部とを有する長繊維不織布であって、前記融着部の面積割合が5%以上25%以下であり、前記非融着部における厚みTNE(μm)に対する前記融着部における厚みT(μm)の比T/TNEが0.05以上0.15以下であり、前記長繊維不織布の見かけ密度が0.10g/cm以上0.25g/cm以下である。以下に、その構成要素について詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する範囲に何ら限定されるものではなく、そして、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0021】
[熱可塑性樹脂]
まず、本発明の不織布は、熱可塑性樹脂を主成分とする繊維で構成されてなる。この熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、あるいは、これらの混合物や共重合体等を挙げることができる。なかでも、ポリエステルが機械的強度や耐熱性、耐水性、耐薬品性等の耐久性に優れることから好ましく用いられる。
【0022】
ポリエステルは、酸成分とジオール成分とをモノマーとする高分子重合体である。本発明において、酸成分としては、テレフタル酸(オルト体)、イソフタル酸およびテレフタル酸等の芳香族カルボン酸、アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸等を用いることができる。また、ジオール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール等を用いることができる。
【0023】
前記のポリエステルの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート等が挙げられる。また、後述する高融点重合体として用いられるポリエステルとしては、より融点が高く耐熱性に優れ、かつ、剛性にも優れた、ポリエチレンテレフタレート(PET)が最も好ましく用いられる。
【0024】
これらのポリエステルには、本発明の効果を損なわない範囲で、結晶核剤や艶消し剤、滑剤、顔料、防カビ剤、抗菌剤、難燃剤、金属酸化物、脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミド、そして、親水剤等の添加剤を添加することができる。なかでも、酸化チタン等の金属酸化物は、繊維の表面摩擦を低減し繊維同士の融着を防ぐことにより紡糸性を向上し、また不織布の熱ロールによる融着成形の際、熱伝導性を増すことにより不織布の融着性を向上させる効果がある。また、エチレンビスステアリン酸アミド等の脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドは、熱ロールと不織布ウェブとの間の離型性を高め、搬送性を向上させる効果がある。
【0025】
[繊維]
本発明に係る繊維としては、前記の熱可塑性樹脂を主成分とする。ここで、本発明において「熱可塑性樹脂を主成分とする」とは、繊維全体の質量に対して、当該熱可塑性樹脂の質量が50質量%より多いことを指す。そして、本発明に係る繊維は、単成分繊維でも、高融点重合体の周りに当該高融点重合体の融点よりも低い融点を有する低融点重合体を配した複合繊維でも良い。前記のような複合繊維の場合には、繊維が不織布内において強固に融着されやすくなり、その結果、貫入抵抗の低い不織布となる。一方、単成分繊維の場合には、機械的交絡による繊維のダメージが小さく、交絡しやすくなるため、不織布シートの強度が高い嵩高不織布となる。
【0026】
上記の繊維が複合繊維である場合において、高融点重合体の融点と低融点重合体の融点との間の差(以降、単に融点の差と略記することがある)としては、10℃以上140℃以下が好ましい。換言すれば、高融点重合体の融点よりも、10℃以上140℃以下の範囲で低い融点を有する低融点重合体であることが好ましい。融点の差が10℃以上、より好ましくは20℃以上、さらに好ましくは30℃以上であることで、各繊維間の融着性の高い長繊維不織布となる。また、140℃以下、より好ましくは120℃以下、さらに好ましくは100℃以下であることで、繊維のフィルム化が抑制された長繊維不織布となる。
【0027】
前記の高融点重合体の融点は、120℃以上320℃以下の範囲であることが好ましい。好ましくは120℃以上、より好ましくは150℃以上、さらに好ましくは180℃以上であることで、砂地の地面のような、高温になるような場所で使用されたとしてもその形態が維持できるような、形態安定性に優れた長繊維不織布となる。また、320℃以下、より好ましくは300℃以下、さらに好ましくは280℃以下であることで、繊維のフィルム化を抑制し、適度な強度を有する長繊維不織布となる。
【0028】
一方、前記の低融点重合体の融点は、前記の融点の差を確保した上で、100℃以上310℃以下の範囲であることが好ましい。100℃以上、より好ましくは130℃以上、さらに好ましくは160℃以上であることで、熱が加わるような加工を行ったとしてもその形態が維持できるような、形態安定性に優れた長繊維不織布となる。また、310℃以下、より好ましくは290℃以下、さらに好ましくは270℃以下であることで、繊維のフィルム化を抑制し、適度な通気性を有する長繊維不織布となる。
【0029】
なお、本発明において、熱可塑性樹脂の融点は、示差走査型熱量計(例えば、パーキンエルマー社製「DSC-2」型)を用い、昇温速度20℃/分、測定温度範囲30℃から350℃の条件で測定し、得られた融解吸熱曲線において極値を与える温度を当該熱可塑性樹脂の融点とする。また、示差走査型熱量計において融解吸熱曲線が極値を示さない樹脂については、ホットプレート上で加熱し、顕微鏡観察により樹脂が溶融した温度を融点とする。
【0030】
また、前記の繊維が単成分繊維である場合においては、熱可塑性樹脂の融点は、120℃以上320℃以下の範囲であることが好ましい。好ましくは120℃以上、より好ましくは150℃以上、さらに好ましくは180℃以上であることで、砂地の地面のような、高温になるような場所で使用されたとしてもその形態が維持できるような、形態安定性に優れた長繊維不織布となる。また、320℃以下、より好ましくは300℃以下、さらに好ましくは280℃以下であることで、繊維のフィルム化を抑制し、適度な強度を有する長繊維不織布となる。
【0031】
上記の繊維が複合繊維である場合において、熱可塑性樹脂がポリエステルのとき、高融点重合体と低融点重合体の組み合わせ(以下、高融点重合体/低融点重合体の順に記載することがある)としては、例えば、PET/PBT、PET/PTT、PET/ポリ乳酸、そして、PET/共重合PET等の組み合わせを挙げることができる。これらの中でも、紡糸性に優れることからPET/共重合PETの組み合わせが好ましく用いられる。また、共重合PETの共重合成分としては、特に紡糸性に優れることから、イソフタル酸共重合PETが好ましく用いられる。
【0032】
上記の繊維が複合繊維である場合において、その複合形態については、例えば、同心芯鞘型、偏心芯鞘型および海島型等が挙げられ、なかでも、繊維同士を均一かつ強固に融着させることができることから同心芯鞘型のものが好ましい。さらに、その複合繊維の断面形状としては、円形断面、扁平断面、多角形断面、多葉断面および中空断面等の形状が挙げられる。なかでも、複合繊維の断面形状としては円形断面の形状のものを用いることが好ましい態様である。
【0033】
また、上記の繊維が複合繊維である場合において、高融点重合体と低融点重合体との含有比率は、質量比で90:10~60:40の範囲であることが好ましく、85:15~70:30の範囲がより好ましい態様である。高融点重合体を60質量%以上90質量%以下とすることにより、長繊維不織布の耐久性を優れたものとすることができる。一方、低融点重合体を10質量%以上40質量%以下とすることにより、長繊維不織布を構成する繊維同士が強固に融着され、機械的強度に優れた長繊維不織布とすることができる。
【0034】
本発明の長繊維不織布を構成する繊維の平均単繊維径は、10.0μm以上30.0μm以下の範囲であることが好ましい。平均単繊維径が10.0μm以上、より好ましくは12.0μm以上、さらに好ましくは14.0μm以上であることで、機械的強度に優れた長繊維不織布となる。一方、平均単繊維径が30.0μm以下、より好ましくは28.0μm以下、さらに好ましくは26.0μm以下であることで、より均一性の高い、ムラの小さな長繊維不織布となる。
【0035】
なお、本発明においては、上記の繊維の平均単繊維径(μm)は、以下の手順によって測定、算出される値を採用するものとする。
(1)長繊維不織布からランダムに小片サンプル(100mm×100mm)10個を採取する。
(2)走査型電子顕微鏡(SEM、例えば、株式会社キーエンス製「VHX-D500」など)で500倍以上3000倍以下の表面写真を撮影し、各サンプルからランダムに10本ずつ、計100本の単繊維の直径を測定する。
(3)測定した100本の値の算術平均値を、小数点以下第二位を四捨五入して平均単繊維径(μm)を算出する。
【0036】
[長繊維不織布]
本発明の長繊維不織布は、前記の繊維で構成されてなり、融着部と非融着部とを有する長繊維不織布である。そして、その融着部の面積割合が5%以上25%以下である。前記の融着部の面積割合が5%以上、より好ましくは6%以上、さらに好ましくは8%以上であれば、長繊維不織布の強度が十分に得られ、さらに表面が毛羽立ちやすくなることがない。一方、融着部の面積割合が25%以下、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは18%以下であれば、繊維間の空隙が少なくなって通気性が向上する。
【0037】
なお、本発明において、長繊維不織布の融着部とは、長繊維不織布の表面でくぼみを形成しており、長繊維不織布を構成する熱可塑性繊維同士が融着して形成されている部分、すなわち、他の部分に比べて熱可塑性繊維が融着して凝集している部分であり、そうでない部分を非融着部とする。また、本発明において、長繊維不織布が融着部を複数有してもよいし、上記の面積割合を満たすのであれば、融着部を1つのみ有してもよい。
【0038】
ここで本発明における長繊維不織布の融着部の面積割合は、以下のように得られた値とする。
(1) 長繊維不織布からランダムに1cm×1cmの試験片を5枚採取する。
(2) デジタルマイクロスコープ(例えば、株式会社キーエンス製「VHX-5000」など)を用い、融着部と非融着部とが写るようにして、長繊維不織布のいずれか一方の表面から20倍~100倍で10箇所の写真を撮影する。
(3) 撮影された10箇所の領域それぞれについて、当該領域内の融着部の面積、そして、当該領域の実面積を測定して、計50個での算術平均値を算出する。
(4) 融着部の面積を前記の領域の実面積で割り、百分率にして小数点以下第一位を四捨五入したものを融着部の面積割合(%)とする。
【0039】
融着部の面積割合(%)=融着部の面積(mm)/矩形枠の面積(mm)×100。
【0040】
また、融着部の1個あたりの面積としては、0.3mm以上10.0mm以下が好ましい。0.3mm以上、より好ましくは0.4mm以上であることで、十分な機械的強度を有し、さらに、表面の毛羽立ちを抑制された長繊維不織布となる。10.0mm以下、より好ましくは8.0mm以下、さらに好ましくは6.0mm以下であることで、通気性に優れた長繊維不織布となる。
【0041】
次に、本発明において、長繊維不織布の非融着部における厚みTNE(μm)に対する長繊維不織布の融着部における厚みT(μm)の比T/TNEが0.05以上0.15以下である。前記の比T/TNEが0.05以上、より好ましくは0.06以上であることで、より強度の高い長繊維不織布となる。一方、前記の比T/TNEが0.15以下、より好ましくは0.13以下、さらに好ましくは0.11以下であることで、より貫入抵抗が低く、柔軟性に富んだ長繊維不織布となる。
【0042】
なお、本発明において、長繊維不織布の非融着部における厚みTNE(μm)、長繊維不織布の融着部における厚みT(μm)、厚みの比T/TNEは以下の方法によって測定・算出された値のことを指す。
(i)長繊維不織布から断面が観察できる小片サンプル(5mm×20mm)をランダムに10個、ハサミやカミソリ刃等の刃物を用いて採取する。
(ii)採取した小片サンプルの断面を、走査型電子顕微鏡(SEM、例えば、株式会社キーエンス製「VHX-D500」など)を用いて、融着部と非融着部とが写るようにして、50倍~500倍で写真を撮影する。
(iii)各小片サンプルから撮影した写真上で図1に例示するように非融着部の厚みを1点測定し、その値をTNE(μm)、同様に融着部の厚みを1点測定し、その値をT(μm)とする。
(iv)測定したTNEとTの値を用いて、T/TNEを算出する。
(v)全ての小片サンプルについて(ii)~(iv)を繰り返し、全ての小片サンプルのT/TNEの算術平均値の小数点以下第三位を四捨五入する。
【0043】
長繊維不織布の非融着部における厚みTNE(μm)を800μm以上、より好ましくは850μm以上、さらに好ましくは900μm以上であることで、柔軟な長繊維不織布となる。一方で、1500μm以下、より好ましくは1450μm以下であることで、ハンドリング性に優れた長繊維不織布となる。
【0044】
また、本発明において、融着部の長辺の長さT(μm)に対する融着部の短辺の長さT(μm)の比T/Tが0.10以上0.80以下であることが好ましい。T/Tが好ましくは0.10以上、より好ましくは0.15以上であることで、機械的強度の異方性が抑制された長繊維不織布となる。一方、T/Tを好ましくは0.80以下、より好ましくは0.70以下、さらに好ましくは0.60以下であることで折り畳みやすく、ハンドリング性に優れた長繊維不織布となる。
【0045】
なお、融着部の長辺の長さT(μm)、融着部の短辺の長さT(μm)、そして、前記の比T/Tは、以下の方法によって測定、算出された値のことを指す。
(i)長繊維不織布から、融着部を1個以上含むようにしながら、ランダムに10個、小片サンプルを採取する。
(ii)採取した小片サンプルの表面を、走査型電子顕微鏡(SEM、例えば、株式会社キーエンス製「VHX-D500」など)を用いて、融着部と非融着部とが写るようにして、50倍~500倍で写真を撮影する。
(iii)各小片サンプルから撮影した写真上で、図2図4に例示するように融着部の上下両端をMD方向、CD方向と平行な接線を引き、接線の距離で長い方をT’(μm)、短い方をT’(μm)とする。なお、ここで言う「MD方向」、「CD方向」とは、後述する方法によって決定される方向のことを指す。
(iv)全てのサンプルについて、(ii)(iii)を繰り返し、T’の算術平均値を算出し、小数点以下第一位を四捨五入した値をTとする。TもTと同様に算出する。
(v)算出したTとTの値を用いて、T/Tを算出し、小数点以下第三位を四捨五入する。
【0046】
そして、本発明において、融着部を複数有し、かつ、該融着部の間の平均最短距離T(μm)に対する融着部の短辺の長さT(μm)の比T/Tが0.01以上0.30以下であることが好ましい。T/Tが好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、さらに好ましくは0.10以上であることで、より強度の高い長繊維不織布となる。一方、T/Tが好ましくは0.30以下、より好ましくは0.25以下、さらに好ましくは0.20以下であることで、通気性に優れた長繊維不織布となる。
【0047】
なお、融着部の間の平均最短距離T(μm)、そして、前記の比T/Tは、以下の方法によって測定、算出された値のことを指す。
(i)長繊維不織布から、融着部を5個以上含むようにしながら、ランダムに10個、小片サンプルを採取する。
(ii)採取した小片サンプルの表面を、走査型電子顕微鏡(SEM、例えば、株式会社キーエンス製「VHX-D500」など)を用いて、融着部と非融着部とが写るようにして、50倍~500倍で写真を撮影する。
(iii)各小片サンプルから撮影した写真上で、図2図4に例示するように隣り合う融着部同士の最短距離をとり、その距離をT’(μm)とする。
(iv)全てのサンプルについて、(ii)(iii)を繰り返し、T’の算術平均値を算出し、小数点以下第一位を四捨五入した値をTとする。
(v)算出したTとTの値を用いて、T/Tを算出し、小数点以下第三位を四捨五入する。
【0048】
そして、本発明の長繊維不織布においては、その見かけ密度が0.10g/cm以上0.25g/cm以下である。この見かけ密度が0.10g/cm以上、より好ましくは0.11g/cm以上、さらに好ましくは0.12g/cm以上であることで、シートの機械的強度の高い不織布となる。一方で、0.25g/cm以下、より好ましくは0.23g/cm以下、さらに好ましくは0.21g/cm以下であることで、シートが硬く、ハンドリング性が悪い不織布となることを防ぐことができる。
【0049】
なお、本発明において、長繊維不織布の見かけ密度は、以下の式によって算出された値の小数点以下第三位を四捨五入して得られる値のことを指す
見かけ密度(g/cm)=目付(g/m)/厚みTNE(μm)
ここで、厚みは前述の非融着部における厚みTNE(μm)を用い、目付(g/m)は、後述の方法によって測定される値を用いることとする。
【0050】
また、本発明の長繊維不織布の目付は、100g/m以上200g/m以下の範囲であることが好ましい。目付が100g/m以上、より好ましくは110g/m以上、さらに好ましくは120g/m以上であることで、より強度の高い長繊維不織布となる。一方、目付が200g/m以下、好ましくは190g/m以下、より好ましくは180g/m以下であることで、ハンドリング性が良い長繊維不織布となる。
【0051】
なお、本発明において、長繊維不織布の目付は、以下の方法によって測定、算出された値のことを指す。
(i)縦25cm×横25cmのサイズの試料を、ランダムに3個採取して各質量をそれぞれ測定する。
(ii)得られた値(g)の算術平均値(g)を単位面積当たり(1m)に換算した値(g/m)を算出し、その値の小数点以下第一位を四捨五入する。
【0052】
本発明において、長繊維不織布の最大引張応力σmax(N/5cm)に対する長繊維不織布の3%伸長時の引張応力σ3%(N/5cm)の比σ3%/σmaxが0.80以上0.97以下であることが好ましい。この比σ3%/σmaxが0.80以上、より好ましくは0.82以上、さらに好ましくは0.84以上であることで、容易に変形し、植物の生長を阻害しないような長繊維不織布となる。一方、前記の比σ3%/σmaxが0.97以下、より好ましくは0.96以下、さらに好ましくは0.95以下であることで、容易に破断することのない長繊維不織布となる。
【0053】
なお、本発明において、最大引張応力σmax(N/5cm)に対する3%伸長時の引張応力σ3%(N/5cm)の比σ3%/σmaxは、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の、6.3「引張強さ及び伸び率」の6.3.1「標準時」に準拠して、以下の手順によって測定される値を採用するものとする。
(i)長繊維不織布のMD方向、CD方向について、長さ300mm×幅50mmの試験片を3点採取する。ここで、本発明において、MD方向とは不織布製造時のシート搬送方向、すなわち、長繊維不織布の長手方向あるいは不織布ロールにおける巻き取り方向を指すものであり、後述するCD方向はシート搬送方向、すなわち、長繊維不織布の長手方向あるいは不織布ロールにおける巻き取り方向に対して垂直に交差する方向を指すものである。なお、長繊維不織布が切断された場合などでロール状態にない場合は、以下の手順によってMD方向、CD方向を決定することとする。
(a)長繊維不織布の面内において、任意の1方向を定め、その方向に沿って、長さ300mm×幅50mmの試験片を採取する。
(b)採取した方向から30度、60度、90度回転させた方向においても、同様に長さ300mm×幅50mmの試験片を採取する。
(c)各方向の試験片について後述する長繊維不織布の最大引張応力の測定方法に基づいて、各試験片の最大引張応力を測定する。
(d)測定により得られた値が最も高い方向をその長繊維不織布のMD方向とし、これに直交する方向をCD方向とする。
(ii)MD方向、CD方向のそれぞれの試験片について、定速伸長型引張試験機にて、つかみ間隔200mm、引張速度100±10mm/minで引張試験を実施する。
(iii)破断するまでの最大荷重時の強さ(N)を0.1Nの位まで求め、これを最大引張応力σmax(N/5cm)とし、3%伸長時の引張応力を3%伸長時の引張応力σ3%(N/5cm)とする。
(iv4)測定した最大引張応力σmax(N/5cm)と、3%伸長時の引張応力σ3%(N/5cm)を用いて、σ3%/σmaxを算出する。
(v)MD方向の3点の試験片、CD方向の3点の試験片それぞれで、最大引張応力σmax(N/5cm)の算術平均値について小数点以下第三位を四捨五入した値、3%伸長時の引張応力σ3%(N/5cm)の算術平均値について小数点以下第三位を四捨五入した値、σ3%/σmaxの算術平均値について小数点以下第三位を四捨五入した値を求め、MD方向のσ3%/σmaxと、CD方向のσ3%/σmaxとでより大きい値を当該長繊維不織布の比σ3%/σmaxとする。ただし、MD方向とCD方向とで同一の値を示した場合には、MD方向の値を当該長繊維不織布の比σ3%/σmaxとする。
【0054】
また、本発明において、比σ3%/σmaxを上記の範囲内とするためには、長繊維不織布の製造方法の交絡シートを形成する工程における、針伸度や針密度を後述する範囲に調整することで達成することができる。
【0055】
本発明の長繊維不織布の用途は特に限定されるものではない。しかしながら、貫入抵抗が低いという特徴を有するため、とりわけ、育苗シートとして好適に使用することができる。この育苗シートは、種子を植えた箇所に被せることで、水の蒸発を抑制して土壌に十分な水分を保持しつつ、決まった箇所で発育しなくても、種子自らシートを破ることができるため、敷設されたままでも植物の生長を阻害しない。もちろん、用途はこれに限られず、育苗シート以外にも包帯、果樹包材、座椅子カバー、靴カバー等に用いることもできる。
【0056】
[長繊維不織布の製造方法]
本発明の長繊維不織布を製造する方法の好ましい態様について具体的に説明する。
【0057】
(1)繊維を形成する工程
まず、この工程では、前記の熱可塑性樹脂を紡糸口金の吐出孔から紡出する。単成分繊維の場合には、((熱可塑性樹脂の)融点+70℃)以下で溶融し、口金温度が融点以上、(融点+70℃)以下の紡糸口金で、その吐出孔から紡出することが好ましい。一方、熱可塑性樹脂を主成分とする繊維として、高融点重合体の周りに当該高融点重合体の融点よりも低い融点を有する低融点重合体を配した複合繊維を用いる場合には、高融点重合体と、低融点重合体とを、それぞれ融点以上、(融点+70℃)以下で溶融し、高融点重合体の周りに、その高融点重合体の融点に対して、10℃以上140℃以下低い融点を有する低融点重合体を配した複合繊維として、口金温度が融点以上、(融点+70℃)以下の紡糸口金で、その吐出孔から紡出することができる。
【0058】
また、前記の紡糸口金の吐出孔の形状は、前記の繊維の断面形状に合わせ、円形、楕円形、多角形、多葉形、あるいは、これらの組み合わせの形状が挙げられる。なかでも、円形の断面形状であることがより好ましい。例えば、円形の断面形状のものを用いたときには、効率的に繊維同士の接着点を得られ、熱融着により繊維同士を強固に接着させることができる。
【0059】
そして、前記のように紡出した該熱可塑性樹脂を、エジェクターなどにより吸引延伸して、繊維を形成する。この際の紡糸速度は、3000m/分以上6000m/分以下であることが好ましい。
【0060】
(2)繊維ウェブを形成する工程
続いて、この工程では、移動するネットコンベア上に前記の繊維を捕集して、繊維ウェブを形成する。ここで言う「移動するネットコンベア上に前記の繊維を捕集」とは、回転しているネットコンベア上に前記の長繊維を順次堆積させていくことを指し、さらに、このネットコンベアとは、ベルトコンベアのベルト部分が、パンチングプレート、網状物、あるいは、多孔質体になっているものを指すものとする。ただし、捕集された長繊維が、網状物の貫通部分、あるいは、パンチングプレート、多孔質体の孔部分(以降、これらを「孔部分等」と略記する)からネットコンベア内部へ落下したり、孔部分等に目詰まりしたりすることがないよう、長繊維を構成する樹脂や長繊維の繊維径等を考慮して、孔部分等の大きさを適宜設定することが好ましい。なお、ベルト部分は、金属製であっても合成樹脂製であってもよい。また、開繊板により繊維の配列を規制することも好ましい。
【0061】
(3)仮融着シートを形成する工程
そして、この工程では、前記の繊維ウェブの両面に加熱面を接触させて一次融着させ、仮融着シートを形成する。具体的には、上下一対の加熱されたフラットロールにより融着させる方法が好ましく用いられる。上下一対の加熱されたフラットロールによる一次融着は、長繊維不織布の強度を向上させる点から最も好ましいものである。
【0062】
これらの方法で用いられる「フラットロール」とは、ロールの表面に凹凸のない金属製ロールや弾性ロールのことであり、さらに、上下一対のフラットロールとは、金属製ロールと金属製ロールとを対にしたもの、あるいは、金属製ロールと弾性ロールを対にしたものなどのことである。ここで、弾性ロールとは、金属製ロールと比較して、弾性を有する材質からなるロールのことである。弾性ロールとしては、ペーパー製、コットン製、アラミドペーパー製などのいわゆるペーパーロール、あるいは、ウレタン系樹脂、エポキシ樹脂、シリコン系樹脂、ポリエステル系樹脂および硬質ゴム等や、これらの混合物からなる樹脂製ロールなどが挙げられる。
【0063】
この仮融着シートを形成する工程において、繊維ウェブを加熱する温度、例えば、上下一対の加熱されたフラットロールを用いる場合の当該フラットロールの表面温度(加熱面の温度)は、前記の熱可塑性樹脂の融点(複数の熱可塑性樹脂が用いられる場合には、最も融点が低いものの融点)に対して60℃以上120℃以下低いことが好ましい。前記の表面温度を、好ましくは繊維ウェブを構成する繊維の表面に存在する最も融点の低い熱可塑性樹脂の融点に対して60℃以上低く、より好ましくは70℃以上低くすることで、仮融着シートの強度を高めることができ、工程通過性に優れる長繊維不織布を得ることができる。一方、前記の表面温度(加熱面の温度)を、好ましくは前記の融点に対して120℃以下低く、より好ましくは110℃以下低くすることによって、繊維の結晶化を最低限に留め、後述する融着工程において、より高い融着性を有する仮融着シートを得ることができる。
【0064】
また、例えば、上下一対の加熱されたフラットロールにより融着させる場合において、この一対のフラットロールの線圧は290N/cm以上890N/cm以下であることが好ましい。この一対のフラットロールの線圧を、好ましくは290N/cm以上、より好ましくは390N/cm以上とすることで、シートを搬送するうえで、十分な機械的強度を有する長繊維不織布を得ることができる。一方、前記の一対のフラットロールの線圧を890N/cm以下、より好ましくは790N/cm以下とすることで、過度の融着を防ぐことができる。
【0065】
(4)交絡シートを形成する工程
さらに、この工程では、前記仮融着シートに機械的交絡を施して、交絡シートを形成する。この機械的交絡の方法としてはウォータージェットパンチ法やニードルパンチ法などが挙げられ、なかでも大量の水資源を使用することのないことや交絡の均一性が高いことから、ニードルパンチ法が好ましい。
【0066】
ニードルパンチの針密度は針の形状、種類によって異なるが、針深度を5mm~20mmとし、針密度を45本/cm~200本/cmとして、仮融着シートの片面あるいは表裏両面に対してパンチすることが好ましく、針密度は、50本/cm~120本/cmであればより好ましい。なお、ここで言う針深度とは、ニードルパンチ加工時のベッドプレート表面からさらに突き刺した針の先端までの距離である。
【0067】
(5)交絡シートを熱融着する工程
加えて、この工程では、前記の交絡シートを一対のロールで熱融着する。具体的には、熱エンボスロールによる融着を行うものであり、長繊維不織布の強度を向上させる点から特に好ましい。
【0068】
前記の熱エンボスロールによる融着の温度は、交絡シートの繊維表面に存在する最も融点の低いポリマーの融点に対して5℃以上70℃以下低いことが好ましく、10℃以上60℃以下低いことがより好ましい。熱エンボスロールによる融着の温度と交絡シートの繊維表面に存在する最も融点の低いポリマーの融点の温度差を5℃以上、より好ましくは10℃以上とすることで、過度の融着を防ぐことができる。一方、前記の温度差を70℃以下、より好ましくは60℃以下とすることによって、交絡シート内において均一な融着を行うことができる。
【0069】
また、融着する際の一対のロールの線圧は294N/cm以上882N/cm以下であることが好ましい。上記の線圧を294N/cm以上、より好ましくは392N/cm以上とすることで、貫入抵抗の低い長繊維不織布を得ることができる。一方、上記の線圧を882N/cm以下、より好ましくは784N/cm以下とすることで、シートがフィルム状になってしまうことを防ぐことができる。
【0070】
本発明の熱融着する方法として、熱エンボスロールによる融着を採用した場合には、エンボスロールの凸部により熱可塑性繊維が融着して凝集している部分が融着部となる。例えば、上側または下側のみに所定のパターンの凹凸を有するロールを用いて、他のロールは凹凸の無いフラットロールを用いる場合においては、融着部とは凹凸を有するロールの凸部とフラットロールとで融着されて長繊維不織布の熱可塑性繊維が凝集された部分をいう。また、例えば、表面に複数の平行に配置された直線的溝が形成されている一対の上側ロールと下側ロールからなり、その上側ロールの溝とその下側ロールの溝とがある角度で交叉するように設けられているエンボスロールを用いる場合、融着部とは上側ロールの凸部と下側ロールの凸部とで融着されて長繊維不織布の熱可塑性繊維が凝集された部分をいう。この場合、上側の凸部と下側の凹部あるいは上側の凹部と下側の凸部とで融着される部分はここでいう融着部には含まれない。
【0071】
本発明の長繊維不織布における融着部の形状は特に規定されるものではなく、上側または下側のみに所定のパターンの凹凸を有するロールを用いて、他のロールは凹凸の無いフラットロールを用いる場合や表面に複数の平行に配置された直線的溝が形成されている一対の上側ロールと下側ロールからなり、その上側ロールの溝とその下側ロールの溝とがある角度で交叉するように設けられているエンボスロールにおいて、上側ロールの凸部と下側ロールの凸部とで融着された場合においても、その融着部の形状は円形、三角形、四角形、平行四辺形、楕円形、菱形などでもよい。これらの融着部分の配列は、特に規定されるものではなく、等間隔に規則的に配されたもの、ランダムに配されたもの、異なる形状が混在したものでもよい。なかでも、長繊維不織布の均一性の点から、融着部分が等間隔に配されるものが好ましい。さらに長繊維不織布を剥離することなく部分的な融着をする点で、表面に複数の平行に配置された直線的溝が形成されている一対の上側ロールと下側ロールからなり、その上側ロールの溝とその下側ロールの溝とがある角度で交叉するように設けられているエンボスロールを用い、上側ロールの凸部と下側ロールの凸部とで融着され形成される平行四辺形の融着部が好ましい。
【実施例0072】
次に、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0073】
[測定方法]
実施例で用いた評価方法とその測定条件について説明する。なお、各物性の測定において、特段の記載がないものは、前記の方法に基づいて測定を行ったものである。
【0074】
(1)ポリエステルの融点(℃)
示差走査型熱量計として、株式会社パーキンエルマージャパン製「DSC-2型」を用いて測定した。
【0075】
(2)ポリエステルの固有粘度(IV)
ポリエステルの固有粘度(IV)は、次の方法で測定、算出した。
(i) オルソクロロフェノール100mLに対し試料8gを溶解させた。
(ii) 溶液を温度25℃の雰囲気においた後、オストワルド粘度計を用いて相対粘度ηを、下記式により求めた
η=η/η=(t×d)/(t×d
(ここで、ηはポリマー溶液の粘度、ηはオルソクロロフェノールの粘度、tは溶液の落下時間(秒)、dは溶液の密度(g/cm)、tはオルソクロロフェノールの落下時間(秒)、dはオルソクロロフェノールの密度(g/cm)を、それぞれ表す。)
(iii) 次いで、相対粘度ηから、下記式により固有粘度(IV)を算出した
固有粘度(IV)=0.0242η+0.2634。
【0076】
(3)長繊維不織布の目付(g/m
長繊維不織布の目付は前記の方法で測定、算出した。
【0077】
(4)長繊維不織布の非融着部における厚みTNE(μm)、長繊維不織布の融着部における厚みT(μm)、厚みの比T/TNE
長繊維不織布の非融着部における厚みTNE(μm)、長繊維不織布の融着部における厚みT(μm)、厚みの比T/TNEは、走査型電子顕微鏡として株式会社キーエンス製「VHX-D500」を用いて前記の方法で測定、算出した。
【0078】
(5)長繊維不織布の見かけ密度(g/cm
長繊維不織布の見かけ密度は、前記の方法で測定、算出した。
【0079】
(6)融着部の面積割合(%)
不織布における融着部の面積割合は、デジタルマイクロスコープとして株式会社キーエンス製「VHX-5000」を用いて前記の方法で測定、算出した。
【0080】
(7)融着部の長辺の長さT(μm)、融着部の短辺の長さT(μm)、前記の比T/T
融着部の長辺の長さT(μm)、融着部の短辺の長さT(μm)、そして、前記の比T/Tは、株式会社キーエンス製「VHX-D500」を用いて前記の方法で測定、算出した。
【0081】
(8)融着部の間の平均最短距離T(μm)、前記の比T/T
長繊維不織布の融着部間の平均最短距離T(μm)、そして、前記の比T/Tは、株式会社キーエンス製「VHX-D500」を用いて前記の方法で測定、算出した。
【0082】
(9)最大引張応力に対する3%伸長時の引張応力の比σ3%/σmax
最大引張応力σmax(N/5cm)に対する3%伸長時の引張応力σ3%(N/5cm)の比σ3%/σmaxは、測定装置として株式会社エー・アンド・デイ製テンシロン万能試験機「RTG-1250」を用いて、前記の方法で測定、算出した。
【0083】
(10)貫入抵抗(N)
長繊維不織布から直径8.0cmの円形の試験片をランダムに3個採取し、定速伸長型引張試験機の取付架台に配置した。そして、直径0.5mmの棒を2本、速度100mm/minの条件で垂直に突き刺し破断するまで荷重を加え、試験片の破断時の荷重を測定し、算術平均値を小数点以下第二位で四捨五入した値をその長繊維不織布の貫入抵抗値とした。
【0084】
(11)水分保持率(%)
長繊維不織布から、8.0cm×8.0cmの正方形の試験片をランダムに3枚採取し、100mLの水を入れた直径7.3cmのカップに固定した。また、ブランクとして試験片無しの水入りコップも用意した。そして、ヤマト科学株式会社製「Vacuum Drying Oven DP41」に70℃、湿度30%条件下で7時間静置し、水の残量の算術平均値V(mL)(試験片有:V、ブランク:Vとする)を測定し、下記式より試験片の水分保持率(%)を算出した
水分保持率(%)=(1-(100―V)/(100―V))×100。
【0085】
(12)耐摩耗性
有限会社折原製作所製の学振型摩擦試験機「G―2(学振型)」を使用し、測定を行った。長繊維不織布から長さ220mm、幅30mmの試験片をランダムに3個採取し、摩擦子の荷重が1000g、摩擦子側には「リンレイクロス 重梱包用 No.314」布粘着テープを使用し、50回動作させて摩耗試験後の見た目より以下の5段階で評価した。
・5:毛羽が全く出ていない状態
・4:ほとんど見えないが、一部が毛羽立っている状態
・3:毛羽立っており、一部で毛玉になっている状態
・2:全体的に、毛玉が目立つ状態
・1:全体的に、毛玉が目立ち、サンプルが破れ始めている状態。
【0086】
[使用した樹脂]
次に、実施例・比較例において使用した樹脂について、その詳細を記載する。
・ポリエステル系樹脂A:水分率50質量ppm以下に乾燥した、固有粘度(IV)が0.65で融点が260℃の、ポリエチレンテレフタレート(PET)。
・ポリエステル系樹脂B:水分率50質量ppm以下に乾燥した、固有粘度(IV)が0.64、イソフタル酸共重合率が11mol%で融点が230℃の、共重合ポリエチレンテレフタレート(CO-PET)。
【0087】
[実施例1]
(繊維を形成する工程)
前記のポリエステル系樹脂Aを295℃の温度で溶融させた。その後、口金温度を295℃とした紡糸口金の円形の吐出孔から紡出した。そして、紡出されたポリエステル系樹脂Aを、紡糸速度4500m/分でエジェクターにより吸引延伸して、繊維を形成した。
【0088】
(繊維ウェブを形成する工程)
得られた繊維について、開繊板から噴射させることで繊維配列を規制し、得られる不織布の目付が狙い目付の5%以下となるように移動速度が調整された、移動するネットコンベア上に捕集して、繊維ウェブを形成した。
【0089】
(仮融着シートを形成する工程)
得られた不織ウェブについて、上下一対の加熱されたフラットロールの表面温度をともに170℃にし、前記のフラットロールの線圧を539N/cmとし、その上下一対のロールを通過させることで繊維ウェブの両面に加熱面を接触させて一次融着させ、仮融着シートを形成した。
【0090】
(交絡シートを形成する工程)
得られた仮融着シートを、針深度9mmで、針本数が表裏それぞれ68本/cmの条件でニードルパンチし、交絡シートを得た。
【0091】
(交絡シートを熱融着する工程)
得られた交絡シートを融着部の面積割合10%である一対の彫刻ロールからなるエンボスロールを用い、上下のエンボスロールの表面温度をともに200℃とし、前記のエンボスロールの線圧が686N/cmとして熱融着し、目付が160g/mの長繊維不織布を得た。得られた不織布の物性を表1に示す。
【0092】
[実施例2]
(繊維を形成する工程)
前記のポリエステル系樹脂Aと前記のポリエステル系樹脂Bを、それぞれ295℃と280℃の温度で溶融させた。その後、ポリエステル系樹脂Aを芯成分とし、ポリエステル系樹脂Bを鞘成分として、口金温度を295℃にして、芯:鞘=80:20の質量比率で、円形の吐出孔から紡出した。そして、紡出されたポリエステル系樹脂A、Bを、紡糸速度4500m/分でエジェクターにより吸引延伸して、同心芯鞘型の複合繊維である繊維を形成した。
(繊維ウェブを形成する工程)
得られた繊維について、開繊板から噴射させることで繊維配列を規制し、得られる不織布の目付が狙い目付の5%以下となるように移動速度が調整された、移動するネットコンベア上に捕集して、繊維ウェブを形成した。
(仮融着シートを形成する工程)
得られた不織ウェブについて、上下一対の加熱されたフラットロールの表面温度をともに150℃にし、前記のフラットロールの線圧を539N/cmとし、その上下一対のロールを通過させることで繊維ウェブの両面に加熱面を接触させて一次融着させ、仮融着シートを形成した。
(交絡シートを形成する工程)
得られた仮融着シートを針深度9mmで針本数が表裏それぞれ68本/cmの条件でニードルパンチし、交絡シートを得た。
(交絡シートを熱融着する工程)
得られた交絡シートを融着部の面積割合10%である一対の彫刻ロールからなるエンボスロールを用い、上下のエンボスロールの表面温度をともに200℃とし、前記のエンボスロールの線圧が686N/cmとして熱融着し、目付が160g/mの長繊維不織布を得た。得られた不織布の物性を表1に示す。
【0093】
[実施例3]
(交絡シートを熱融着する工程)において、融着部の面積割合が10%であったところを18%に変更したところ、さらにエンボスロールの表面温度が200℃であったところを210℃に変更したところ以外は、実施例1と同じ条件で長繊維不織布を得た。得られた不織布の物性を表1に示す。
【0094】
[実施例4]
(繊維ウェブを形成する工程)において、得られる不織布の目付が160g/mとなるようにネットコンベアの移動速度を調整していたところを、180g/m2となるようにネットコンベアの移動速度を調整するように変更したこと以外は実施例1と同じ条件で長繊維不織布を得た。得られた不織布の物性を表1に示す。
【0095】
[実施例5]
(繊維ウェブを形成する工程)において、得られる不織布の目付が160g/mとなるようにネットコンベアの移動速度を調整していたところを、130g/m2となるようにネットコンベアの移動速度を調整するように変更したこと以外は実施例1と同じ条件で長繊維不織布を得た。得られた不織布の物性を表1に示す。
【0096】
【表1】
【0097】
[比較例1]
(交絡シートを熱融着する工程)を実施しなかったこと以外は、実施例1と同じ条件で長繊維不織布を得た。得られた不織布の物性を表2に示す。
【0098】
[比較例2]
(交絡シートを形成する工程)後に、実施例1における融着部の面積割合である10%分の穴を開けたこと以外は、比較例1と同じ条件で長繊維不織布を得た。得られた不織布の物性を表2に示す。
【0099】
[比較例3]
(交絡シートを形成する工程)を実施しなかったこと以外は、実施例1と同じ条件で長繊維不織布を得た。得られた不織布の物性を表2に示す。
【0100】
[比較例4]
(交絡シートを形成する工程)を実施しなかったこと以外は、実施例2と同じ条件で長繊維不織布を得た。得られた不織布の物性を表2に示す。
【0101】
[比較例5]
(交絡シートを熱融着する工程)において、繊維ウェブにかかる線圧が686N/cmであったところを250N/cmに変更したところ以外は、実施例1と同じ条件で長繊維不織布を得た。得られた不織布の物性を表2に示す。
【0102】
[比較例6]
(交絡シートを熱融着する工程)において、融着部の面積割合が10%であったところを30%に変更したところ以外は、実施例1と同じ条件で長繊維不織布を得た。得られた不織布の物性を表2に示す。
【0103】
【表2】
【0104】
得られた不織布の特性は表1、2に示したとおりであり、実施例1~5の不織布は、貫入抵抗が低く、水分保持性があり、耐摩耗性があり、育苗シートのようなべたがけシートとして良好な特性を示したものであった。
【0105】
一方で、比較例1~6の不織布は、貫入抵抗が高く(比較例1~6)、さらに水分保持率が低く、摩耗性に優れないもの(比較例1、2)となった。
【符号の説明】
【0106】
1:融着部
2:非融着部
3:不織布
4:融着部(平行四辺形)
5:融着部のMD方向の接線
6:融着部のCD方向の接線
7:融着部(長方形)
8:融着部(菱形)
図1
図2
図3
図4