(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138805
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】海苔網
(51)【国際特許分類】
A01G 33/02 20060101AFI20241002BHJP
D01F 8/14 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
A01G33/02 102
D01F8/14 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049501
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】的場 兵和
(72)【発明者】
【氏名】土屋 匠平
(72)【発明者】
【氏名】荻原 由嗣
【テーマコード(参考)】
2B026
4L041
【Fターム(参考)】
2B026AA01
2B026JA05
4L041BA21
4L041BA32
4L041BA55
4L041BA57
4L041BC06
4L041BD20
4L041CA05
4L041CB11
4L041CB25
4L041DD18
4L041EE05
(57)【要約】
【課題】良好な力学特性に加えて、優れた海苔胞子の付着性と魚類等による食害抑制性能を両立する海苔網を提供する。
【解決手段】繊維表面に凸部を有し繊維表面の算術平均粗さが1μm以上10μm未満であり、繊維表層より深度5μm以内に空孔が少なくとも存在しており、空孔の平均円相当径が5nm以上80nm以下、空孔率が2%以上15%以下である、ポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる、海苔網。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維表面に凸部を有し繊維表面の算術平均粗さが1μm以上10μm未満であり、繊維表層より深度5μm以内に空孔が少なくとも存在しており、空孔の平均円相当径が5nm以上80nm以下、空孔率が2%以上15%以下である、ポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる、海苔網。
【請求項2】
溶出処理により、繊維表面に有する凸部を溶出させることなくポリエステル繊維中に空孔形成を行うことを特徴とする請求項1に記載の海苔網の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海苔網に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、海苔網は海苔の採苗性、成育性に優れていることからビニロン繊維が主に使用されている。ビニロン繊維が海苔の採苗性、成育性に優れる理由の一つとしては、繊維表面に微細な凹凸を有していることから、海苔胞子を付着しやすいことが挙げられる。しかし、良質な海苔を得るには、海苔成育時に適度な乾燥が必要である。具体的には、潮の干満差の小さい海域での養殖では干潮時に海苔網を乾燥させる必要があるが、ビニロン繊維は短時間で乾燥しにくいため、海苔の成育に悪影響を与え、結果、良質な海苔を採取することが難しい。
【0003】
また、ビニロン繊維は乾燥状態では優れた繊維物性を有しているものの、海水に浸漬された状態においては繊維強度が低下するため、網地の強力が低下し、破網しやすくなる。
【0004】
これらの点を改良すべく、乾燥しやすく、優れた力学特性を有したポリエステル繊維を用いた海苔網の検討が行われている。
【0005】
例えば、ビニロン繊維とポリエステル繊維の混撚糸を使用することにより、ビニロン繊維を単独で使用するよりも、乾燥しやすく、力学特性に優れた海苔網が得られることが提案されている(特許文献1)。
【0006】
また、ポリエステル樹脂中に発泡剤を混合し、発泡により繊維の表面に凸部を形成することで、海苔網として使用した際の海苔胞子の付着性を向上させる技術が提案されている(特許文献2)。
【0007】
さらに、ポリエステル樹脂中にポリオキシルアルキレン化合物を混合することにより、海苔網の親水性を高めるとともに、製造工程中や使用中において、ポリオキシアルキレン化合物が繊維外に自然溶出する際に、繊維表面に凹部が形成され、海苔網として使用した際の海苔胞子の付着性を向上させる技術が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平04-335835号公報
【特許文献2】特開2004-019013号公報
【特許文献3】特開昭56-061930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1には、ビニロン繊維の海水浸漬時の強度低下を補うべく、ビニロン繊維に対して力学特性に優れたポリエステル繊維を混撚する旨が記載されており、この結果、ビニロン繊維を単独で編網した海苔網よりも網地の破網やしなりの少ない海苔網が得られる旨が記載されている。しかしながら、疎水性であるポリエステル繊維と親水性のビニロン繊維を混撚した場合には、海苔網内で水分率差が生じ、海苔胞子の付着率にムラが生じることから、良質の海苔を得ることができなくなるという課題がある。
【0010】
また、特許文献2で提案された技術では、ポリエステル樹脂中に発泡剤を混練することにより、繊維の表面に発泡による凸部を形成することで、海苔胞子の付着性を向上させることができる。しかしながら、発泡剤により繊維表面に形成される凸部のサイズはコントロールが難しいため、繊維軸方向で凸部のサイズにムラが生じ、海苔網内での海苔の成育状態に班が生じるという課題がある。
【0011】
また、特許文献3で提案されているような技術では、ポリエステル樹脂中に易溶出ポリマーを混練することで、製造工程中や使用中に前記ポリマーが繊維表面から自然溶出する際に表面に微細な凹部を形成できる旨が記載されており、この結果、海苔胞子の付着性を向上させることができる旨が記載されている。しかしながら、表面に微細な凹部を形成することにより繊維の光反射率が低下することで、魚類等による食害の発生確率が高まるという課題が生じる。
【0012】
そこで、本発明の目的は、良好な力学特性に加えて、優れた海苔胞子の付着性と魚類等による食害抑制性能を両立する海苔網を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らが検討を進めたところ、従来、海苔網に用いられているビニロン繊維の優れた海苔胞子付着性は、ビニロン繊維の表面の微細凹凸によるアンカー効果により発現することが分かった。
【0014】
さらに、本発明者らが検討を進めたところ、魚類等は海中で高反射物質や高光沢物質を認知しやすく、また、両物質に対する反応が異なることが分かった。具体的には、高反射物質に対しては警戒心が強い一方で、高光沢物質は餌として認知しやすいため、海苔網の高光沢部分が食害の起点となることが分かった。
【0015】
ところが、海苔胞子付着性の向上には繊維表面への微細な凹凸形成が有効であるものの、繊維表面に微細な凹凸を形成した場合には、繊維の表面反射率が低下し、上記のように、得られる海苔網に対する魚類等の警戒心が薄れるため、食害が生じやすく、両者は相反する傾向にある。
【0016】
そこで、本発明者らがさらに検討を進めた結果、繊維表面にマイクロサイズの凸部を形成することと同時に、繊維内部に特定サイズの空孔を形成し、内部乱反射により海苔網の光沢を抑制することを着想した。
【0017】
そして、本発明者らは、この知見を基にして上記の課題を達成するために鋭意検討した結果、ポリエステル繊維の表面粗さを特定の範囲とすることで、付着した海苔胞子間の結合力が強くなり、かつ凸部での物理的な引っ掛かり効果により海苔胞子の付着性に優れ、さらに、繊維表層に空孔を形成し、空孔サイズおよび空孔率を特定の範囲とすることで、低光沢の海苔網となり、結果、優れた海苔胞子の付着性と魚類等による食害抑制性能を両立し、優れた力学特性を有する海苔網となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0018】
本発明は、上記の課題を解決せんとするものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
【0019】
[1]繊維表面に凸部を有し繊維表面の算術平均粗さが1μm以上10μm未満であり、繊維表層より深度5μm以内に空孔が少なくとも存在しており、空孔の平均円相当径が5nm以上80nm以下、空孔率が2%以上15%以下である、ポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる、海苔網。
【0020】
[2]溶出処理により、繊維表面に有する凸部を溶出させることなくポリエステル繊維中に空孔形成を行うことを特徴とする、[1]に記載の海苔網の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明の海苔網は、優れた力学特性を有することに加え、海苔網を構成する繊維の表面にマイクロサイズの凸部を有することで、付着した海苔胞子間の結合力が強くなり、かつ凸部での物理的な引っ掛かり効果により海苔胞子の海苔網への付着が促進され、さらに、繊維表層に空孔を有し、前記の空孔サイズおよび空孔率を特定の範囲とすることで、海苔網の光沢度を低減することができ、魚類等の食害抑制性能を発現するものである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の海苔網は、ポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなり、ポリエステル繊維は、繊維表面に凸部を有し繊維表面の算術平均粗さが1μm以上10μm未満であり、繊維表面より深度5μm以内に空孔が少なくとも存在しており、空孔の平均円相当径が5nm以上80nm以下、空孔率が2%以上15%以下である。
【0023】
以下に、本発明の海苔網について詳細を説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する範囲に何ら限定されるものではなく、そして、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0024】
本発明の海苔網の少なくとも一部に用いられるポリエステル繊維は、繊維表面の算術平均粗さが1μm以上10μm未満である。前記の繊維表面の算術平均粗さについて、この下限が1nm以上、好ましくは1.5μm以上、より好ましくは、2μm以上であることで、付着した海苔胞子間の結合力が強くなり、かつ凸部で物理的な引っ掛かり効果が生じ海苔胞子が脱落しにくくなる。一方、前記の繊維表面の算術平均粗さについて、その上限が10μm未満、好ましくは、9μm以下、より好ましくは、8μm以下であることで、海苔網の比表面積が向上することにより、種付け時の海苔胞子の付着率が向上する。
【0025】
なお、本発明において、前記の繊維表面の算術平均粗さは、実施例の欄のA項に記載の方法によって、測定、算出される値のことを指す。
【0026】
本発明の海苔網の少なくとも一部に用いられるポリエステル繊維は、繊維横断面において、繊維表面より深度5μm以内の部分に空孔が少なくとも存在している。繊維表面より深度5μm以内に全空孔数の1%以上が存在していない場合には繊維内部の乱反射が弱くなり、光沢を抑制することができず、魚類等による食害抑制性能を発現することができない。
【0027】
本発明の海苔網の少なくとも一部に用いられるポリエステル繊維は、繊維横断面における空孔の平均円相当径が5nm以上80nm以下である。前記の繊維断面における空孔の平均円相当径について、この下限が5nm以上、好ましくは10nm以上、より好ましくは、15nm以上であることで、繊維内部の乱反射を強めることができ、海苔網の光沢を抑えることができることから、魚類等による食害抑制性能を発現することができる。一方、前記の繊維断面における空孔の平均円相当径について、その上限が80nm以下、好ましくは、70nm以下、より好ましくは、60nm以下であることで、十分な繊維強度を発現することでき、破網しにくく、十分な力学特性を有した海苔網となる。
【0028】
本発明の海苔網の少なくとも一部に用いられるポリエステル繊維は、空孔率が2%以上15%以下である。前記の空孔率について、この下限が2%以上、好ましくは3%以上、より好ましくは、5%以上であることで、繊維断面における空孔数が増加することとなり、繊維内部の乱反射を強めることができ、海苔網の光沢を抑えることができることから、魚類等による食害抑制性能を発現することができる。一方、前記の空孔率について、その上限が15%以下、好ましくは12%以下、より好ましくは、10%以下であることで、繊維の空孔率が過度に増加することを抑制し、十分な繊維強度を発現することでき、破網しにくく、十分な力学特性を有した海苔網となる。
【0029】
なお、本発明において前記の繊維横断面における空孔の存在、空孔の平均円相当径および空孔率は実施例の欄のB項に記載の方法によって、測定、算出される値のことを指す。
【0030】
本発明における海苔網の少なくとも一部に用いられるポリエステル繊維は、その形態に関しても特に制限がなく、モノフィラメント、マルチフィラメントなどのいずれの形態であってもよい。また、一般の繊維と同様に仮撚や撚糸などの加工が可能である。
【0031】
本発明における海苔網の少なくとも一部に用いられるポリエステル繊維の繊度は、100dtex以上3000dtex以下であることが好ましい。前記のポリエステル繊維の繊度について、この下限が好ましくは、100dtex以上、より好ましくは300dtex以上、さらに好ましくは、500dtex以上であることで、紡糸時の生産性が向上することに加え、網糸作製時に必要な繊維の本数が少なくなるため、編網時の作業効率が向上する。一方、前記のポリエステル繊維の繊度について、その上限が好ましくは、3000dtex以下、より好ましくは2500dtex以下、さらに好ましくは、2000dtex以下であることで、紡出後の冷却工程で均一な冷却性を得ることでき、繊維物性の悪化等による海苔網の品位の低下を抑制することができる。
【0032】
本発明の海苔網の少なくとも一部に用いられるポリエステル繊維の断面形状は、本発明の効果を損ねない限り特に限定されるものではなく、丸断面はもとより、三角や扁平、六角形、中空などの異形断面であっても良いが、比表面積が高く、生産性に優れることから、丸断面が好ましい。
【0033】
本発明の海苔網の少なくとも一部に用いられるポリエステル繊維は、1種類のポリマーからなる単成分繊維であっても、2種類以上のポリマーを複合した複合繊維であっても良いが、本発明の効果を奏しやすいことから複合繊維が好ましい。複合繊維は、芯鞘型や海島型、サイドバイサイド型、偏心芯鞘型、などから適宜選択することができるが、生産性に優れ、管理の容易性から芯鞘型が好ましい。
【0034】
本発明の海苔網は、上述のポリエステル繊維を含んだ網糸を製網したものであっても、網糸とは別に上述のポリエステル繊維を含んだ網としてもかまわない。上述のポリエステル繊維を網糸として用いる場合は、単独で用いても良いが、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維およびポリエチレン繊維等の疎水性繊維と混撚して用いても良い。
【0035】
本発明における海苔網の編網形態について特に制限はないが、無結節編網、蛙又編網、ラッセル網等が好ましい。
【0036】
本発明の海苔網から切り取って得られる網糸の繊度は600dtex以上18000dtex以下であることが好ましい。前記のポリエステル繊維の繊度について、この下限が好ましくは、600dtex以上、より好ましくは1200dtex以上、さらに好ましくは、1800dtex以上であることで、海苔胞子の付着面積が向上し、海苔の生産性が向上する。一方、前記の網糸の繊度について、その上限が好ましくは、18000dtex以下、より好ましくは15000dtex以下、さらに好ましくは、12000dtex以下であることで、海苔網が軽量化し、取り扱い性が向上する。
【0037】
本発明の海苔網から切り取って得られる網糸の引張強度は、2.0cN/dtex以上12.0cN/dtex以下であることが好ましい。前記の網糸の引張強度について、この下限が好ましくは、2.0cN/dtex以上、より好ましくは2.5cN/dtex以上、さらに好ましくは、3.0cN/dtex以上であることで、破網しにくく、十分な力学特性を有した海苔網となる。一方、前記の網糸の引張強度について、その上限が好ましくは12.0cN/dtex以下、より好ましくは11.0cN/dtex以下、さらに好ましくは、10.0cN/dtex以下であることで、切断が容易となり、廃棄や再利用がしやすくなる。
【0038】
なお、本発明において、前記の網糸の引張強度は実施例の欄のF項に記載の方法によって、測定、算出される値のことを指す。
【0039】
次に本発明における海苔網および海苔網の少なくとも一部に用いられるポリエステル繊維の製造方法について説明するが、製造方法は特に限定されず公知の方法を採用することができるものの、低コスト、かつ長期間の生産において、毛羽が少ない状態を維持しながら量的生産が可能な溶融紡糸を採用することが好ましいことから、以下に一例を説明する。
【0040】
本発明における海苔網の少なくとも一部に用いられるポリエステル繊維は、芯にポリエステル系ポリマーと水溶性物質を混練してアロイポリマー化した成分を配し、鞘にポリエステル系ポリマーに凸部形成のための微粒子を混錬した成分から構成され、公知の溶融紡糸法にて繊維を得たのちに、溶出処理により水溶性物質を繊維中から除去することによって得ることができる。なお、ポリエステル系ポリマーと水溶性物質を混練する際は必要に応じて、相溶化剤を併用してもよい。なお、前記の空孔率は、ポリエステル系ポリマー中の前記の水溶性物質の混練割合により制御することができる。例えば、水溶性物質の混練割合を高くすることにより、前記の空孔率は大きくなる。
【0041】
本発明における海苔網の少なくとも一部に用いられるポリエステル繊維の製造で用いられるポリエステル系ポリマーは、モノマーの連結がエステル結合でなされているポリマーであれば特に制限はない。具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PPT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などの芳香族ポリエステルやポリ乳酸などの脂肪族ポリエステルが挙げられる。汎用性、繊維成形性が優れるという観点から芳香族ポリエステルが好ましい。
【0042】
本発明における海苔網の少なくとも一部に用いられるポリエステル繊維の製造で用いられる水溶性物質の種類は、溶出処理液への溶解性が高く、ポリエステル系ポリマー中でナノサイズに分散したアロイポリマーとすることができれば、特に制限はない。具体的にはポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリグリセリンおよびそれらの誘導体等の水溶性高分子、塩化ナトリウム、酸化カルシウムおよび酸化マグネシウム等の無機塩等が挙げられる。紡糸性の観点から、水溶性高分子が好ましく、中でも耐熱性、溶出処理液への溶解度の観点から数平均分子量が6000~40000のポリエチレングリコールが特に好ましい。なお、前記の空孔の平均円相当径は、ポリエステル系ポリマー中での水溶性物質の分散径により制御することができる。水溶性物質としてポリエチレングリコール等の水溶性高分子を用いた場合には、数平均分子量により分散径を制御することができるため、例えば、ポリエチレングリコールの数平均分子量を高くすることにより、前記の分散径が大きくなり、前記の空孔の平均円相当径も大きくなる。
【0043】
本発明における海苔網の少なくとも一部に用いられるポリエステル繊維の製造で用いられる凸部形成のための微粒子は、前期水溶性物質の溶出時に溶出挙動を示さなければ特に制限はない。具体的には酸化チタン、炭酸カルシウム、シリカ、カオリン、クレー等の無機系微粒子および樹木由来の粉体等の天然由来の微粒子等が挙げられるが、環境負荷低減の観点から樹木由来の粉体が好ましい。紡糸性の観点から、粒子径は1μm以上20μm以下であることが好ましい。前記の粒子径について、この下限が好ましくは1.5μm以上、より好ましくは2μm以上であることで、凸部での物理的な引っ掛かり効果が生じやすくなる。一方、前記の粒子径について、その上限が好ましくは18μm以下、より好ましくは16μm以下であることで十分な力学特性を有した海苔網となる。
【0044】
本発明における海苔網の少なくとも一部に用いられるポリエステル繊維の製造で用いられるアロイポリマー中のポリエステル系ポリマーの含有量は50重量%以上であれば特に制限されるものではなく、任意の含有量を取ることができる。繊維物性の観点から、アロイポリマー中におけるポリエステル系ポリマーの含有量は85重量%以上であることが好ましい。
【0045】
本発明における海苔網の少なくとも一部に用いられるポリエステル繊維の製造で用いられるポリエステル系ポリマー、水溶性物質および凸部形成のための微粒子との混練法に制限はない。重縮合を終えたポリエステル系ポリマーを溶融状態のまま水溶性物質および凸部形成のための微粒子を混練してもよく、ポリエステル系ポリマーを一旦冷却固化後再溶融した状態で水溶性物質および凸部形成のための微粒子を混練してもよい。また、ポリエステル系ポリマーと水溶性物質および凸部形成のための微粒子を直接ブレンドしてもよいが、本発明の効果を奏し易くするためには、ポリエステル系ポリマーと水溶性物質、ポリエステル系ポリマーと凸部形成のための微粒子混錬を別々に行うことが好ましい。なお、各成分を強制的に混練する観点から、2軸押出機を用いて混練するのが好ましい。
【0046】
本発明における海苔網の少なくとも一部に用いられるポリエステル繊維の製造で用いられるポリエステル系ポリマーと水溶性物質および凸部形成のための微粒子と混合物質は公知の溶融紡糸法、延伸法により繊維として有用なものとなる。
【0047】
本発明における海苔網は溶出処理を行う。溶出処理により水溶性物質が処理液へ溶出し、繊維内に空孔が形成される。
【0048】
前記溶出処理に用いる処理液としては、公知の水溶液を用いることが好ましいが、凸部を溶出させることなくポリエステル繊維中に空孔形成を行うためには温水を用いることが好ましい。温水減量処理により、繊維内部の水溶性物質を溶出しつつ、繊維表面を構成するポリエステル系ポリマーを維持することができ、繊維表面にはマイクロサイズの凸部を形成、制御し易くなる。なお、アルカリ溶液についても繊維表層のポリエステル系ポリマーを減量させることなく凸部形成の阻害とならない温度、時間、濃度等の制御を行うことで用いることは可能である。温水を処理液として用いた場合、その処理液の温度は、好ましくは、100℃以下、より好ましくは、80℃以下であることで、繊維内の空孔が形成され、繊維内部の乱反射と繊維表面の光沢を両立し、魚類等による食害抑制性能を発現することができる。処理温度の下限については特に制限はないが、内部の水溶性物質を十分に溶出させるためには、25℃以上とすることが好ましい。
【0049】
また、温水を処理液として用いた場合、その処理時間は、好ましくは、30分以内、より好ましくは、20分以内とすることにより、繊維内の空孔が十分に形成される。処理時間の下限については特に制限はないが、内部の水溶性物質を十分に溶出させるためには、処理時間を10分以上とすることが好ましい。
【0050】
本発明における海苔網は、前記のポリエステル繊維をビーム整経後、撚糸することで網糸を作製し、編網機で編網することで、編地を得ることができる。続いて、得られた編地に対して溶出処理を行い、繊維内部に空孔を形成した後に、水洗い、風乾を行うことで本発明の海苔網を得ることができる。
【実施例0051】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。なお、実施例中の各特性値は、以下の方法で求めたものである。
【0052】
A.繊維表面の算術平均粗さ
海苔網から無作為に繊維を100本取り出し、各繊維について、シリコンウェハ面に対して繊維の長手方向が平行となるようにエポキシ樹脂でシリコンウェハに固定した。この試料をBruker AXS社製走査型プローブ顕微鏡(SPM)「NanoScopeV Dimension Icon」を用いて測定した。測定条件は、走査範囲5μm角、走査速度0.4Hz、室温大気条件下でタッピングモードにした。繊維長手方向をX軸、シリコンウェハ面に平行でかつX軸に直交する方向をY軸とし、X軸およびY軸のいずれにも直交する方向をZ軸となるよう定義した。固定した繊維のZ軸方向の頂点部を、繊維の長手方向(X軸)に対して垂直になるようにシリコンカンチレバーを走査した。得られたAFM画像について繊維の丸みを補正し、画像解析ソフト「NanoScope Analysis 1.40」を用いて、定量面の高さプロファイルにおける中心面から表面までの偏差の絶対値の平均を算出した。取り出した繊維100本について、前述の測定・算出を行い、その算出平均値の小数点以下第1位を四捨五入し、繊維表面の算術平均粗さとして採用した。
【0053】
B.繊維横断面における繊維表面より深度5μm以内の空孔存在有無、空孔率、空孔の平均円相当径
海苔網から無作為に繊維を100本取り出し、各繊維について、EOL社製イオンミリング装置「IB-19520CCP」を用いて、液体窒素で冷却しながらArレーザーにて繊維横断面方向の切片を作製した。得られた切片を金属微粒子でスパッタコートした。この試料を日立ハイテクノロジーズ社製電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)「SU8020」にて加速電圧1.5kVの条件下で測定し、空孔および繊維表面より深度5μm以内の空孔存在有無を観察した。観察した画像を画像解析ソフトImage-Jに取り込み、二値化して空孔領域のみを抽出した。この際、二値化の閾値は画像を見ながら手動で調整し、空孔領域のみが抽出されるように設定した。このようにして空孔領域を抽出した後、繊維横断面1μm2当たりの全ての空孔の総面積の割合から空孔率を算出した。取り出した繊維100本について、前述の測定・算出を行い、その算出平均値の小数点以下第1位を四捨五入し、空孔率として採用した。また、各空孔の空孔面積より円相当径(直径)をそれぞれ算出し、繊維横断面1μm2当たりの全ての空孔の円相当径の平均値を求めた。取り出した繊維100本について、前述の測定・算出を行い、その算出平均値の小数点以下第1位を四捨五入し、繊維表面の空孔の平均円相当径として採用した。
【0054】
C.ポリエステル系ポリマーの固有粘度(IV)
試料0.8gに、o-クロロフェノール(以下OCPと略記する)10mlを添加する。そして160℃、30分間で溶解した後、徐冷し測定溶液を得た。該測定溶液について、25℃にてオストワルド粘度計を用いて、相対粘度ηrを下式により求め、固有粘度を算出した。
ηr=η/η0=(t×d)/(t0×d0)
固有粘度=0.0242ηr+0.2634
ここで、η:ポリマー溶液の粘度、η0:OCPの粘度、t:溶液の落下時間(秒)、d:溶液の密度(g/cm3)、t0:OCPの落下時間(秒)、d0:OCPの密度(g/cm3)。
【0055】
D.ポリエチレングリコールの数平均分子量
使用するポリエチレングリコール500mgを0.1M塩化ナトリウム水溶液5mLに溶かし、0.45μmのセルロース製フィルターで濾過して得られた濾液をGPC測定用試料とした。この試料を用い、以下の条件にてWaters製GPC装置「Alliance2690」で測定を行い、数平均分子量を算出した。
検出器:Waters製2410示差屈折率検出器、感度 128x
カラム:東ソー製TSKgelG3000PWXLI
溶媒:0.1M 塩化ナトリウム水溶液
注入量:200μL
カラム温度:40℃
標準物質:ポリエチレングリコール(エーエムアル株式会社製 Mw106~10100)。
【0056】
E.網糸繊度
温度20℃、湿度65%RHの環境下において、海苔網から無作為に繊維を1m採取し、重量を測定し、下記式を用いて繊度(dtex)を算出した。
【0057】
繊度(dtex)=網糸1mの重量(g)×10000
なお、測定は1試料につき5回行い、その算出平均値の小数点以下第1位を四捨五入し、繊度(dtex)として採用した。
【0058】
F.網糸の引張強度
海苔網の任意の場所から長さ40cmの網糸試料を5本採取し、各網糸について、温度20℃、湿度65%RHの環境下において、株式会社オリエンテック製「UTM-III-100」を用いて、初期試料長25cm、引張速度30cm/分の条件で引張試験を行った。なお、試料の取り付け方は1節1脚を採用した。各試料の最大荷重を示す点の応力(cN)を網糸繊度(dtex)で除して算出し、各試料のその算出平均値の小数点以下第2位を四捨五入し、網糸の引張強度(cN/dtex)として採用した。
【0059】
G.単位面積当たりの海苔胞子の付着数(海苔胞子の付着性)
海水と海苔胞子保有種貝(牡蠣)を入れた500mLビーカーを16℃に保持したインキュベーター中に入れ、縦10cm、横10cmの大きさに裁断した海苔網試料をビーカー内の海水に浸るように吊した。次いで前記ビーカーに4000ルックスのデイライト光を1日に8時間照射することを5日間行なった後、海苔網試料を取り出し、株式会社キーエンス製マイクロスコープ「VHX-2000」により、光学透過モードにて、100倍の対物レンズを用いて、試料表面の1mm×1mmの領域をランダムに5箇所観察し、各領域に付着した海苔胞子の個数の平均値より次のように判定した。
A:1mm×1mmの領域内に10個以上の海苔胞子が付着
B:1mm×1mmの領域内に1視野中に5~9個の海苔胞子が付着
C:1mm×1mmの領域内に4個以下の海苔胞子が付着。
【0060】
H.クロダイの海苔網への接触回数(食害抑制性能)
海水と養殖クロダイ100匹を入れた、縦100m、横100m、深さ5.0mの生け簀に、海苔胞子を付着させた、縦1.0m、横1.0mのサイズの海苔網を海面と平行になるように設置した。設置後、24時間の海苔網付近のクロダイの行動を定点カメラで観察し、クロダイの海苔網への接触回数をカウントした。接触回数が5000回未満の場合は食害抑制性能有りと判定した。
【0061】
実施例1
芯成分としてIVが1.3のポリエステルペレットと数平均分子量20000のポリエチレングリコール(三洋化成社製PEG20000)を90重量%と10重量%の比率で、2軸混練機(日本製工所製TEX30α)にて、シリンダー温度290℃、吐出量8kg/h、スクリュー回転数110rpmで混練した。混練生成物を冷水中へストランド状に吐出して冷却し、直ちにカッティングしてペレット状の混練生成ペレットAを得た。また、鞘成分としてIVが1.3のポリエステルペレットにトドマツ由来の粉体(平均粒径:10μm)を5重量%添加したペレットBをペレットAと同様の混錬方法で得た後、ペレットA、ペレットBをそれぞれ150℃、12時間真空乾燥した。その後、エクストルーダー型押出機に連続的に供給し、290℃の温度で溶融し、吐出量825g/分で芯鞘複合紡糸口金(吐出孔数84H、丸孔)から芯鞘比率(面積比)80:20で紡出した。
【0062】
紡出した糸条は口金直下に設けられた筒内雰囲気温度が200℃である加熱筒を通過させた後、環状型チムニーを用いて40℃の冷風を30m/分の速度で吹き付け糸条を冷却固化した。次に冷却後、給油ロールにより繊維油剤を付与し、得られた糸条を505m/minの速度を有する1GR(75℃)で巻き取り、連続して延伸工程を供した。引き続き1GRを通過させた糸条を一旦巻き取ることなく、表面温度が101℃、速度が535m/minの2GR、110℃で速度1818m/minの3GR、225℃で速度2651m/minの4GRおよび非加熱で速度2700m/minである5GRに連続して供することによる延伸を実施した。糸条の集束性付与処理は2GR-3GR間、交絡処理は5GR-巻取装置間で施し、それぞれ0.4MPa、0.5MPaの高圧空気を噴射することにより、処理を施したのちに、巻取装置にて巻き取ることにより1100dtex-84fのポリエチレンテレフタレート繊維を製造した。
【0063】
続いて、得られた延伸糸2本をビーム整経し、ストランドを作製した。続いて、前記ストランド3本からなる3子撚りの網糸を作製し、無結節編網法により、目合い100mm×100mmに編網した。続いて、得られた無結節網を水中に浸し、80℃で20分間溶出処理を行った後、水洗い、風乾を行い、海苔網を得た。繊維特性および海苔網特性の評価結果を表1に示す。海苔網を構成する繊維には、平均円相当径が9nmで空孔率が9%の空孔が形成されていること、繊維横断面の繊維表層より深度5μm以内に空孔が存在していることが確認できた。また、繊維表面は凸部を有し、繊維表面の算術平均粗さは5μmであった。海苔網の網糸強度は5.3cN/dtex、海苔胞子の付着数は30個/mm2、クロダイの海苔網への接触回数は1500回となり、得られた海苔網は優れた力学特性を有し、海苔胞子付着性は高く、食害抑制性能も確認した。
【0064】
実施例2
編網後の溶出処理温度を30℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして、繊維および海苔網を得た。繊維特性および海苔網特性の評価結果を表1に示す。海苔網を構成する繊維には、平均円相当径が7nmで空孔率が6%の空孔が形成されていること、繊維横断面の繊維表層より深度5μm以内に空孔が存在していることが確認できた。また、繊維表面は凸部を有し、繊維表面の算術平均粗さは5μmであった。海苔網の網糸強度は6.0cN/dtex、海苔胞子の付着数は18個/mm2、クロダイの海苔網への接触回数は1800回となり、得られた海苔網は優れた力学特性を有し、海苔胞子付着性は高く、食害抑制性能も確認した。
【0065】
実施例3
編網後40分間溶出処理をしたこと以外は実施例1と同様にして、繊維および海苔網を得た。繊維特性および海苔網特性の評価結果を表1に示す。海苔網を構成する繊維には、平均円相当径が9nmで空孔率が12%の空孔が形成されていること、繊維横断面の繊維表層より深度5μm以内に空孔が存在していることが確認できた。また、繊維表面は凸部を有し、繊維表面の算術平均粗さは5μmであった。海苔網の網糸強度は5.3cN/dtex、海苔胞子の付着数は10個/mm2、クロダイの海苔網への接触回数は1500回となり、得られた海苔網は優れた力学特性を有し、海苔胞子付着性は高く、食害抑制性能も確認した。
【0066】
実施例4
鞘成分としてIVが1.3のポリエステルペレットにトドマツ由来の粉体(平均粒径:10μm)を10重量%添加したこと以外は実施例1と同様にして、繊維および海苔網を得た。繊維特性および海苔網特性の評価結果を表1に示す。海苔網を構成する繊維には、平均円相当径が9nmで空孔率が9%の空孔が形成されていること、繊維横断面の繊維表層より深度5μm以内に空孔が存在していることが確認できた。また、繊維表面は凸部を有し、繊維表面の算術平均粗さは9μmであった。海苔網の網糸強度は4.5cN/dtex、海苔胞子の付着数は21個/mm2、クロダイの海苔網への接触回数は1500回となり、得られた海苔網は優れた力学特性を有し、海苔胞子付着性は高く、食害抑制性能も確認した。
【0067】
実施例5
使用するポリエチレングリコールの数平均分子量を6000(三洋化成社製PEG60000S)に変更した以外は実施例1と同様にして繊維および海苔網を得た。繊維特性および海苔網特性の評価結果を表1に示す。海苔網を構成する繊維には、平均円相当径が5nmで空孔率が9%の空孔が形成されていること、繊維横断面の繊維表層より深度5μm以内に空孔が存在していることが確認できた。また、繊維表面は凸部を有し、繊維表面の算術平均粗さは5μmであった。海苔網の網糸強度は7.0cN/dtex、海苔胞子の付着数は30個/mm2、クロダイの海苔網への接触回数は1300回となり、得られた海苔網は優れた力学特性を有し、海苔胞子付着性は高く、食害抑制性能も確認した。
【0068】
実施例6
使用するポリエチレングリコールの数平均分子量を40000(三洋化成社製PEG40000S)に変更した以外は実施例1と同様にして繊維および海苔網を得た。繊維特性および海苔網特性の評価結果を表1に示す。海苔網を構成する繊維には、平均円相当径が25nmで空孔率が9%の空孔が形成されていること、繊維横断面の繊維表層より深度5μm以内に空孔が存在していることが確認できた。また、繊維表面は凸部を有し、繊維表面の算術平均粗さは5μmであった。海苔網の網糸強度は4.0cN/dtex、海苔胞子の付着数は30個/mm2、クロダイの海苔網への接触回数は2800回となり、得られた海苔網は優れた力学特性を有し、海苔胞子付着性は高く、食害抑制性能も確認した。
【0069】
実施例7
数平均分子量20000のポリエチレングリコールの添加量を3wt%に変更した以外は実施例1と同様にして繊維および海苔網を得た。繊維特性および海苔網特性の評価結果を表1に示す。海苔網を構成する繊維には、平均円相当径が9nmで空孔率が3%の空孔が形成されていること、繊維横断面の繊維表層より深度5μm以内に空孔が存在していることが確認できた。また、繊維表面は凸部を有し、繊維表面の算術平均粗さは5μmであった。海苔網の網糸強度は8.0cN/dtex、海苔胞子の付着数は30個/mm2、クロダイの海苔網への接触回数は2500回となり、得られた海苔網は優れた力学特性を有し、海苔胞子付着性は高く、食害抑制性能も確認した。
【0070】
実施例8
使用するポリエステルペレットのIVを0.7に変更して空孔の平均円相当径を変更した以外は実施例1と同様にして繊維および海苔網を得た。繊維特性および海苔網特性の評価結果を表1に示す。海苔網を構成する繊維には、平均円相当径が9nmで空孔率が9%の空孔が形成されていること、繊維横断面の繊維表層より深度5μm以内に空孔が存在していることが確認できた。また、繊維表面は凸部を有し、繊維表面の算術平均粗さは5μmであった。海苔網の網糸強度は2.8cN/dtex、海苔胞子の付着数は30個/mm2、クロダイの海苔網への接触回数は1500回となり、得られた海苔網は優れた力学特性を有し、海苔胞子付着性は高く、食害抑制性能も確認した。
【0071】
比較例1
編網後の溶出処理をしなかったこと以外は実施例1と同様にして、繊維および海苔網を得た。繊維特性および海苔網特性の評価結果を表1に示す。海苔網を構成する繊維には空孔が存在していなかった。また、繊維表面は凸部を有し、繊維表面の算術平均粗さは5μmであった。海苔網の網糸強度5.8cN/dtex、海苔胞子の付着数は4個/mm2、クロダイの海苔網への接触回数は10000回となり、得られた海苔網は海苔胞子の付着性は低く、食害抑制性能も確認されなかった。
【0072】
比較例2
数平均分子量20000のポリエチレングリコールの添加量を20wt%に変更した以外は実施例1と同様にして繊維および海苔網を得た。繊維特性および海苔網特性の評価結果を表1に示す。海苔網を構成する繊維には、平均円相当径が9nmで空孔率が24%の空孔が形成されていること、繊維横断面の繊維表層より深度5μm以内に空孔が存在していることが確認できた。また、繊維表面は凸部を有し、繊維表面の算術平均粗さは5μmであった。海苔網の網糸強度は1.5cN/dtex、海苔胞子の付着数は30個/mm2、クロダイの海苔網への接触回数は1300回となり、得られた海苔網は海苔胞子付着性が高く、食害抑制性能も確認できたものの、力学特性に劣るものであった。
【0073】
比較例3
使用するポリエチレングリコールの数平均分子量を60000(三洋化成社製PEG60000S)に変更した以外は実施例1と同様にして繊維および海苔網を得た。繊維特性および海苔網特性の評価結果を表1に示す。海苔網を構成する繊維には、平均円相当径が90nmで空孔率が9%の空孔が形成されていること、繊維横断面の繊維表層より深度5μm以内に空孔が存在していることが確認できた。また、繊維表面は凸部を有し、繊維表面の算術平均粗さは5μmであった。海苔網の網糸強度は1.8cN/dtex、海苔胞子の付着数は30個/mm2、クロダイの海苔網への接触回数は1500回となり、得られた海苔網の海苔胞子付着性は高く、食害抑制性能も確認できたものの、力学特性に劣るものであった。
【0074】
比較例4
使用するポリエチレングリコールの数平均分子量を4000(三洋化成社製PEG40000S)に変更した以外は実施例1と同様にして繊維および海苔網を得た。繊維特性および海苔網特性の評価結果を表1に示す。海苔網を構成する繊維には、平均円相当径が3nmで空孔率が9%の空孔が形成されていること、繊維横断面の繊維表層より深度5μm以内に空孔が存在していることが確認できた。また、繊維表面は凸部を有し、繊維表面の算術平均粗さは5μmであった。海苔網の網糸強度は5.5cN/dtex、海苔胞子の付着数は30個/mm2、クロダイの海苔網への接触回数は7000回となり、得られた海苔網は力学特性に優れ、海苔胞子付着性も高かったものの、食害抑制性能は確認されなかった。
【0075】
比較例5
数平均分子量20000のポリエチレングリコールの添加量を1wt%に変更した以外は実施例1と同様にして繊維および海苔網を得た。繊維特性および海苔網特性の評価結果を表1に示す。海苔網を構成する繊維には、平均円相当径が9nmで空孔率が1.3%の空孔が形成されていること、繊維横断面の繊維表層より深度5μm以内に空孔が存在していることが確認できた。また、繊維表面は凸部を有し、繊維表面の算術平均粗さは5μmであった。海苔網の網糸強度は5.0cN/dtex、海苔胞子の付着数は30個/mm2、クロダイの海苔網への接触回数は6000回となり、得られた海苔網は力学特性に優れ、海苔胞子付着性も高かったものの、食害抑制性能は確認されなかった。
【0076】