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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138814
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】細胞回収具
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20241002BHJP
   C12M 1/26 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
C12M1/00 Z
C12M1/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049512
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096116
【弁理士】
【氏名又は名称】松原 等
(72)【発明者】
【氏名】高城 誠太郎
(72)【発明者】
【氏名】日野 清香
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029AA27
4B029BB11
4B029CC02
4B029DG08
4B029HA02
4B029HA10
(57)【要約】
【課題】足場を破損せずに、細胞を高回収率で回収することができる細胞回収具を提供する。
【解決手段】足場に培養した細胞を回収する細胞回収具において、足場に対向した姿勢で押し当てる先端面2を備え、該先端面2から凹んだ分散状の複数個の凹所3又はネットワーク状に繋がった凹所を有する先端部1と、前記先端部1の後側に設けられた、厚さが2mm以上であり、25%圧縮応力が0.5~300kPaである柔軟部4と、前記柔軟部の後側に設けられた、指で摘める摘み部5とを含んでなる細胞回収具。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
足場に培養した細胞を回収する細胞回収具において、
足場に対向した姿勢で押し当てる先端面を備え、該先端面から凹んだ分散状の複数個の凹所又はネットワーク状に繋がった凹所を有する先端部と、
前記先端部の後側に設けられた、厚さが2mm以上であり、25%圧縮応力が0.5~300kPaである柔軟部と、
前記柔軟部の後側に設けられた、指で摘める摘み部と
を含んでなり、
前記先端面の面積が、前記足場の面積の0.8倍以下である
ことを特徴とする細胞回収具。
【請求項2】
前記先端面が、平らな面である請求項1記載の細胞回収具。
【請求項3】
前記先端面の形状が、直線又は内側へ凹んだ曲線である辺を少なくとも一つ有する有辺形である請求項1記載の細胞回収具。
【請求項4】
前記先端面の面積が、前記足場の面積の0.35倍以上である請求項1記載の細胞回収具。
【請求項5】
前記凹所が、30~500μmのいずれかの直径をもつ仮想球体が嵌入しうる凹所である請求項1記載の細胞回収具。
【請求項6】
前記柔軟部が、高分子発泡体からなる請求項1記載の細胞回収具。
【請求項7】
前記先端部が、前記柔軟部と一体であり、前記先端面が、前記柔軟部の切断端面である請求項6記載の細胞回収具。
【請求項8】
前記摘み部が、棒状体からなる請求項1記載の細胞回収具。
【請求項9】
前記摘み部の中心軸線が、前記先端部に対して垂直をなすか又は垂直から15°以内の傾斜をなす請求項8記載の細胞回収具。
【請求項10】
前記摘み部の断面形状が、円、楕円又は角数が5以上の多角形である請求項9記載の細胞回収具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、足場に培養した細胞を回収する細胞回収具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
創薬、再生医療などの種々の分野で、細胞の培養が行われている。足場依存性の細胞を培養するには、足場に細胞を着け、栄養となる培地を加えて細胞を培養し、培養した細胞を細胞回収具で足場からはがして回収するのが一般的である。足場の回りは囲壁に囲まれていることか多い。
【0003】
細胞回収具としては、特許文献1に記載されたような、セルスクレーパーと呼ばれるかき取り具が一般的に使用されている。セルスクレーパーは、ゴム状弾性体材料からなるブレード及びその支持体からなるかき取り部と、それを保持する柄とで構成されている。そして、作業者が柄を持ち、ブレードを足場の一方から他方へ極力長くかき動かすという操作をすることにより、該ブレードで細胞を足場からかき取って回収する。
【0004】
しかし、このセルスクレーパーによるかき取りには、次のような問題があった。
(ア)足場が膜のように弱いものである場合に、ブレードから過大な力をかけてしまって足場が破損することがあり、コンタミ(破損物の混入)が起こりうる。
(イ)また、ブレードは弾性材料ではあるが細胞との比較では相当に硬いものであるため、前記操作時に、物理的な刺激により細胞にダメージを与え、細胞の回収率が低下することがある。
(ウ)操作法は前述のとおり(ブレードを極力長くかき動かす)なので、足場の回りが囲壁に囲まれている場合に、囲壁にブレードが当たってその動きが邪魔され、足場の広範囲から細胞をかき取ることが難しく、細胞の回収率が悪くなる。
【0005】
その他の細胞回収具として、特許文献2には、複数枚の合成樹脂のリボンが長辺方向に沿って互いに結合されたモノファーバーの異形繊維からなる採取部を備えた細胞採取具が開示されている。また、特許文献3には、支持体の側面から突出する複数の突刺部によってシート状移植片を突刺すようにした移送デバイスが開示されている。しかし、これらは一般的に使用されるには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実願平4-10788号(実開平5-80300号)のCD-ROM
【特許文献2】特開2021-132574号公報
【特許文献3】特開2013-198442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、足場を破損せずに、細胞を回収することができる細胞回収具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]足場に培養した細胞を回収する細胞回収具において、
足場に対向した姿勢で押し当てる先端面と、該先端面から凹んだ分散状の複数個の凹所又はネットワーク状に繋がった凹所とを有する先端部と、
前記先端部の後側に設けられた、厚さが2mm以上であり、25%圧縮応力が0.5~300kPaである柔軟部と、
前記柔軟部の後側に設けられた、指で摘める摘み部とを含んでなり、
前記先端面の面積が、前記足場の面積の0.8倍以下であることを特徴とする細胞回収具。
ここで、「先端面の面積」は、凹所の面積も包含する、先端面の輪郭内の面積である。
【0009】
[作用]
摘み部を指で摘み、先端面を足場に対向した姿勢で軽く押し当ててから、先端部を回転させたり短くスライドさせたりして足場の面方向に動かす。この操作により、凹所により表面積が増大している先端面に、細胞が付着する。また、先端部の回りにも、細胞がぬぐい取られて付着する。こうして、足場の広範囲の細胞を付着させることができる。
(ア)この操作時に、前記厚さ及び圧縮応力の柔軟部が適度に圧縮してクッションとなるため、物理的な刺激により細胞に与えるダメージが小さく、細胞の回収率が低下しない、
(イ)また、足場が膜のように弱いものである場合でも、足場への負荷が前記クッションで緩和されるため、足場が破損しにくい。
(ウ)操作法は前述のとおり(先端面を足場に対向した姿勢で軽く押し当ててから回転・短くスライドさせる)なので、足場の回りが囲壁で囲まれている場合でも、囲壁に先端部及び柔軟部の動きがほとんど邪魔されず、足場の広範囲から細胞をぬぐい取ることができ、細胞の回収率が良くなる。
等の作用が得られる。
【0010】
柔軟部の厚さが2mm未満であると、柔軟部の圧縮代が不足して足場への負荷が大きくなる。柔軟部の厚さは3mm以上がより好ましい。柔軟部の厚さの上限は、特にないが、敢えていえば15mmである。
柔軟部の25%圧縮応力が0.5~300kPaであることにより、細胞をぬぐい取るための力が確保され、かつ、足場を破損しにくい。柔軟部の25%圧縮応力が、0.5kPa未満であると細胞をぬぐい取るための力が弱くなり、300kPaを超えると足場への負荷が大きくなり膜を破損してしまう場合がある。柔軟部の25%圧縮応力は0.5~200kPaであることが、足場をさらに破損しにくい点で望ましい。
先端面の面積が足場の面積の0.8倍以下であることにより、前記のとおり先端部を回転・スライドさせて足場の面方向に動かしやすい。
【0011】
先端部に細胞が付着したら、摘み部を引き上げ、細胞を足場からはがして回収する。
【0012】
[2]前記先端面が、平らな面である[1]記載の細胞回収具。
足場は一般的に平らな面であるから、先端面も平らな面であることにより、細胞を付着させやすい。
【0013】
[3]前記先端面の形状が、直線又は内側へ凹んだ曲線である辺を少なくとも一つ有する有辺形である[1]又は[2]記載の細胞回収具。
先端部を回転させたときに、この辺が回転軌跡に交差するため、細胞をぬぐい取りやすい。
【0014】
[4]前記先端面の面積が、前記足場の面積の0.35倍以上である[1]~[3]のいずれか一項に記載の細胞回収具。
この倍率が、0.35倍以上であると細胞の付着料が多くなる。
【0015】
[5]前記凹所が、30~500μmのいずれかの直径をもつ仮想球体が嵌入しうる凹所である[1]~[4]のいずれか一項に記載の細胞回収具。
ここで、仮想球体は、凹所の大きさを特定するための仮想の球体であって、使用時に嵌入させるものではない。また、嵌入は、少なくとも凹所の二方から挟まれるようにほぼぴったりと嵌り入ることを意味する。
直径30μm以上の仮想球体が嵌入しうる凹所であると、細胞の表面が凹所に係止して付着しやすく、直径500μm以下の仮想球体が嵌入する凹所であると、細胞が凹所に完全に入り込むことが少ない。
【0016】
[6]前記柔軟部が、高分子発泡体からなる[1]~[5]のいずれか一項に記載の細胞回収具。
高分子発泡体は、品質を一定に保ちやすく、コンタミが起きにくく、安価にできる。
【0017】
[7]前記先端部が、前記柔軟部と一体であり、前記先端面が、前記柔軟部の切断端面である[6]記載の細胞回収具。
これにより、先端部と柔軟部とを一体のものにできる。
【0018】
[8]前記摘み部が、棒状体からなる[1]~[7]のいずれか一項に記載の細胞回収具。
これにより、摘み部を中心軸線の回りに回転させやすい。
【0019】
[9]前記摘み部の中心軸線が、前記先端面に対して垂直をなすか又は垂直から15°以内の傾斜をなす[8]記載の細胞回収具。
これにより、摘み部を中心軸線の回りに回転させることと、中心軸線に交差する方向に動かすことの両方を行いやすい。
【0020】
[10]前記摘み部の断面形状が、円、楕円又は角数が5以上の多角形である[9]記載の細胞回収具。
これにより、摘み部を指で摘んで中心軸線の回りに回転させやすい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の細胞回収具によれば、足場を破損せずに、細胞を回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は実施例の細胞回収具とそれを使用する細胞の培養器を示す分解斜視図である。
図2図2は細胞培養時の同培養器を示す断面図である。
図3図3は同細胞回収具を示し、(a)は斜視図、(b)は先端面の拡大図、(c)は拡大断面図である。
図4図4は同細胞回収具の使用方法を示し、(a)は先端面を足場に当てたときの断面図、(b)は同じく平面図、(c)は先端部を回転させたときの断面図、(d)は同じく平面図、(e)は細胞回収具を持ち上げるときの断面図、(f)は同じく平面図である。
図5図5は足場の上面にCaco-2細胞を培養し核染色して足場の下面から撮影した写真である。
図6図6は続いて同Caco-2細胞を本実施例の細胞回収具でぬぐい取った後に足場の下面から撮影した写真である。
図7図7は実施例2の細胞回収具の先端面の形状(a)~(e)を例示する図である。
図8図8(a)は実施例3の先端面の拡大図、(b)は同じく拡大断面図、(c)は実施例4の先端面の拡大図、(d)は同じく拡大断面図、(e)は実施例5の先端面の拡大図、(f)は同じく拡大断面図、(g)は実施例6の先端面の拡大図、(h)は同じく拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
1.足場
足場の形態としては、特に限定されないが、膜、板状体、繊維等を例示できる。
足場の材料としては、特に限定されないが、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリウレタン、コラーゲンビトリゲル等を例示できる。
【0024】
2.囲壁
足場の回りは、特に限定されないが、囲壁で囲まれている場合に本発明の細胞回収具が特に有用である。本発明の細胞回収具の操作法は、前述のとおり(先端部を足場に対向した姿勢で軽く押し当ててから回転・スライドさせる)なので、従来のセルスクレーパーのように囲壁が小さくても細胞を回収しやすいからである。
囲壁としては、特に限定されないが、(ウェルプレートに挿入する)インサートの筒状囲壁、シャーレの側壁部等を例示できる。
【0025】
3.先端部
先端面は、前記のとおり平らな面であることが好ましいが、先側へ緩い凸(曲率半径20mm以上が好ましい)に湾曲した曲面(部分筒状面や部分球状面)であってもよいし、また先端面の中央部が平らな面で端部のみが湾曲した曲面であってもよい。
【0026】
前記「直線又は内側へ凹んだ曲線である辺を少なくとも一つ有する有辺形」としては、多角形、部分円形等を例示できる。
(ア)多角形は、内角が180°を超える頂点を持たない一般的な多角形のほか、当該頂点を持つ凹多角形でもよい。
・一般的な多角形の場合は、角数が3~6の多角形が好ましく、四角形が最も好ましい。角数が7角以上の多角形であると(すなわち円に近いほど)、辺が回転軌跡に交差する角度が小さくなり、細胞のぬぐい取りやすさが減少する。
・凹多角形の場合は、辺が回転軌跡に交差する角度が小さくなりやすく、角数が4~12の多角形が好ましい。
(イ)部分円形は、円の一部を前記辺で切除した形状であり、半円形、扇形を例示できる。
【0027】
前記「凹所」(好ましくは「30~500μmのいずれかの直径をもつ仮想球体が嵌入しうる凹所」)を備える先端部としては、特に限定されないが、次のものを例示できる。
(ア)高分子発泡体の切断面:高分子発泡体については、次の柔軟部についての説明を援用できる。
(イ)凹所を複数分散状に賦形した高分子シート体:後述する図8(a)(b)参照。
(ウ)ネットワーク状に連なった凹所を賦形した高分子シート体:後述する図8(c)(d)参照。
(エ)目が凹所となった織布:後述する図8(e)(f)参照。
(オ)繊維の隙間が凹所となった綿状体の表面部:後述する図8(g)(h)参照。
【0028】
4.柔軟部
前記「断面形状が先端部と同一であり、厚さが2mm以上であり、25%圧縮応力が0.5~300kPa(望ましくは0.5~200kPa)である柔軟部」としては、特に限定されないが、次のものを例示できる。
(ア)高分子発泡体:高分子には、樹脂、ゴム、エラストマーが含まれる。高分子発泡体の切断面は切断気泡による凹所を備えるため、該切断端部を前記先端部とし、該切断面を前記先端面とすることができる。発泡は、独立気泡でも連続気泡でもよいが、連続気泡の方が前記圧縮応力を満たしやすい。
・樹脂としては、特に限定されないが、ポリウレタン(PUR)、ポリエチレン(PE)、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、ポリプロピレン等を例示できる。
・ゴムとしては、特に限定されないが、エチレン・プロピレン・ジエン共重合ゴム(EPDM)、天然ゴム(NR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、シリコーンゴム、ウレタンゴム等を例示できる。
・エラストマーとしては、特に限定されないが、動的架橋型熱可塑性エラストマー(TPV)、オレフィン系エラストマー(TPO)、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPEE、TPC)、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)等を例示できる。
(イ)繊維製綿状体:繊維を綿状体に成形したものである。この繊維製綿状体の先端面が前記凹所を備える場合、該先端面を先端部とすることができる。
【0029】
柔軟部の断面形状は、特に限定されないが、少なくとも前記先端部に繋がる部分では先端面の形状と同一であることが好ましく、全体にわたり先端面の形状と同一であることがより好ましい。先端部全体を均一に支えるためである。
【0030】
5.摘み部
摘み部の形状は、前記のとおり棒状体が好ましいが、板状等でもよい。
棒状体は、直径が長さ方向に一定であるものに限定されず、変化するものでもよい。
摘み部と柔軟部との接合手段としては、特に限定されないが、接着、溶着、挟着、握着等を例示できる。
また、摘み部の先端部が、柔軟部に進入して接合されている態様でもよい。
【実施例0031】
次に、本発明の実施例について図面を参照して説明する。なお、実施例の各部の構造、材料、形状及び寸法は例示であり、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更できる。
【0032】
まず、細胞の培養器の一例について、簡単に説明する。図1及び図2に示す培養器は、ウェルプレート10と、各ウェル11に挿入するインサート13と、各ウェル11及びインサート13に注入された培地18とからなる。ウェルプレート10は、複数(例えば、6,12,24,96等)の円筒状のウェル11がプレート12上に付いたものである。インサート13は、ウェル11よりも一回り小さい円筒状の囲壁14と、囲壁14の底面に固定された足場15としての多孔膜と、囲壁14の上方のフランジ16と、囲壁14とフランジ16とを繋ぐ複数のステー17とからなる。インサート13の囲壁14及び足場15をウェル11内に挿入すると、フランジ16がウェル11の上端に係止し、足場15とプレート12とが離間するようになっている。
【0033】
足場15の上面に細胞Cを着け(さらに足場15の下面にも細胞Cを着けることができる)、栄養となる培地18を加えると、図2に示すように、足場15の上面に広がるように細胞Cが培養される。実施例で使用したインサート13は、足場15の面積(囲壁14で囲まれた範囲)は33.2mm2 である(直径6.5mm)。
【0034】
[実施例1]
図1図3図4図5(a)に示す実施例1の細胞回収具は、
足場15に対向した姿勢で押し当てる先端面2と、該先端面2から凹んだ分散状の複数個の凹所3とを有する先端部1と、
先端部1の後側に設けられた、厚さが2mm以上であり、25%圧縮応力が0.5~300kPa(望ましくは0.5~200kPa)である柔軟部4と、
前記柔軟部4の後側に設けられた、指で摘める摘み部5とを含んでなる。
【0035】
本実施例では、先端部1と柔軟部4とが、高分子発泡体からなり両者で直方体をなす一体のものである。高分子発泡体の切断面は切断気泡による凹所3を備えるため、該切断端部を先端部1とし、該切断面を先端面としている。
【0036】
先端面2は、平らな面である。先端面2の形状(対峙して見た形状)は正方形である。柔軟部4の断面形状もこれと同一かつ一定である。正方形の一辺は3.4~5.2mmであり、従って先端面2の面積は、前記足場15の面積の0.35~0.8倍である。
【0037】
凹所3は、前記のとおり切断気泡によるものであり、30~500μmのいずれかの直径をもつ仮想球体が嵌入しうる凹所である。気泡は独立気泡又は連続気泡であり、図3(b)(c)には連続気泡を図示している。本例のように先端部1と柔軟部4とが一体のものである場合、その境界は先端面に開口する凹所3の凹底あたりである。
【0038】
摘み部5は、断面形状が円の棒状体からなる。摘み部5の中心軸線は、先端面2に対して垂直をなしている。摘み部5の先端部は、柔軟部4に進入して接着剤により接合されている。
【0039】
以上のように構成された本実施例の細胞回収具を使用して、足場15に培養した細胞を回収するには、次のようにして行う。
図4(a)(b)に示すように、摘み部5を指で摘み、先端面2を足場15に対向した姿勢で軽く押し当てる。
図4(c)(d)に示すように、摘み部5を指で回し、先端部1を回転させたり短くスライドさせたりして足場15の面方向に動かす。この操作により、凹所3により表面積が増大している先端面2に、細胞Cが付着する。また、先端部1と柔軟部4の回りにも、細胞Cがぬぐい取られて付着する。こうして、足場15の広範囲の細胞Cを付着させることができる。
図4(e)(f)に示すように、摘み部5を引き上げ、細胞Cを足場15からはがして回収する。
【0040】
図5は、足場の上面にCaco-2細胞を培養した後、DAPIにて核を染色し、本実施例の細胞回収具で細胞をぬぐい取る前に、足場の下面から撮影した写真である。図6は、続いて本実施例の細胞回収具で細胞をぬぐい取った後に、足場の下面から撮影した写真であり、ぬぐい取りによって、膜の一部より細胞の回り込みが観察された。
【0041】
以上のとおり、本実施例の細胞回収具によれば、前述した作用が得られ、足場を破損せずに、細胞を回収することができる。
【0042】
次に、本実施例に至るまでに行った検討について説明する。
まず、次の表1に示す市販品の高分子発泡体を入手した。グレード欄の「E-7010、E-8000、N-148、N-149、C-4205、C-4215、C-4505、C-4600、E-4070、E-4188、E-4288、E-4390、E-4408、NBR-4112E、TT-4102、TT-4103、A-050F、A-8、HD-80、A-080、RP-300S、RP-300FRE、RP-300S、RP-300FRND、A-082」は、それぞれイノアックコーポレーション社の商品名である。「バリュースポンジNo.845521」は、ロージーローザ社の商品名である。「PORON LE-20、PORON TR-24、PORON L-24、PORON TM-2」は、ロジャースイノアック社の商品名である。
【0043】
【表1】
【0044】
これらの高分子発泡体を、先端面4.5mm×4.5mm、厚さ(高さ)3mmの直方体に切断し、上記実施例1のように摘み部5を接合して細胞回収具とした。そして、上記実施例1のように足場に培養した細胞の回収実験を行った。表1に、細胞のぬぐい取り結果を示す。記号の意味は次のとおりである。
〇:細胞のぬぐい取りができた
×:足場(多孔膜)が破損した又は空気の圧により足場が抜けた
この結果から、25%圧縮応力が300kPa以下のものはぬぐい取りができ、300kPaを超えものはぬぐい取りができないことが判明した。なお、材質の違いによって、ぬぐい取りの可否が左右されることはなかった。
【0045】
次に、表1における「EPDM系 E-7010」を使用し、次の表2に示すように、先端面の形状を正方形と円形とに変え、それぞれ一辺長さ又は直径を変えて「先端面の面積/足場の面積」(表では面積比)を変えた直方体に切断し(但し厚さ(高さ)は3mm一定)、上記実施例1のように摘み部5を接合して細胞回収具とした。
【0046】
【表2】
【0047】
そして、上記実施例1のように足場に培養した細胞の回収実験を行った。表1に、細胞のぬぐい取り結果を示す。記号の意味は次のとおりである。
〇:全面に渡って均一にぬぐい取れている(95%以上)
△:端部がきれいにぬぐい取れかった(~10%程度ぬぐえない部分がある)
×:足場(多孔膜)が破損した又は空気の圧により足場が抜けた
この結果から、面積比が0.8以下であれば、ある程度のぬぐい取りができることが分かる。
【0048】
[実施例2]
図7に示す実施例2の細胞回収具は、先端面2の形状及び同図に現れない柔軟部の断面形状を変更した点においてのみ実施例1と相違し、その他は実施例1と共通である。すなわち、(a)は実施例1の正方形であるが、(b)は辺を内側へ凹んだ曲線とした正方形、(c)は凹八角形、(d)は円の一部を一辺で切除した部分円形、(e)は円の一部を二辺で切除した扇形である。
【0049】
[実施例3]
図8(a)(b)に示す実施例3の細胞回収具は、先端面2に凹所3を複数分散状に賦形した高分子シート体を先端部1とし、この先端部1に実施例1の柔軟部4を接合した点において実施例1と相違し、その他は実施例1と共通である。
【0050】
[実施例4]
図8(c)(d)に示す実施例4の細胞回収具は、先端面2にネットワーク状に繋がった凹所3を賦形した高分子シート体を先端部1とし、この先端部1に実施例1の柔軟部4を接合した点において実施例1と相違し、その他は実施例1と共通である。
【0051】
[実施例5]
図8(e)(f)に示す実施例5の細胞回収具は、先端面2が糸でその目が凹所3となった織布を先端部1とし、この先端部1に実施例1の柔軟部4を接合した点において実施例1と相違し、その他は実施例1と共通である。
【0052】
[実施例6]
図8(g)(h)に示す実施例6の細胞回収具は、先端面2が繊維でその隙間が凹所3となった綿状体の表面部を先端部1とし、表面部に一体に連続する該綿状体の他部を柔軟部4とした点において実施例1と相違し、その他は実施例1と共通である。
【0053】
これらの実施例2~6によっても、足場を破損せずに、細胞を高回収率で回収することができる。
【0054】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 先端部
2 先端面
3 凹所
4 柔軟部
5 摘み部
10 ウェルプレート
11 ウェル
12 プレート
13 インサート
14 囲壁
15 足場
16 フランジ
17 ステー
18 培地
C 細胞
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8