(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138817
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】耐SCC性に優れた高強度アルミニウム合金材及び製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 21/10 20060101AFI20241002BHJP
C22F 1/053 20060101ALI20241002BHJP
B21C 23/00 20060101ALI20241002BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20241002BHJP
B22D 11/00 20060101ALN20241002BHJP
【FI】
C22C21/10
C22F1/053
B21C23/00 A
C22F1/00 602
C22F1/00 604
C22F1/00 611
C22F1/00 612
C22F1/00 624
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 640A
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 684C
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 694B
B22D11/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049515
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000100791
【氏名又は名称】アイシン軽金属株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(74)【代理人】
【識別番号】100222324
【弁理士】
【氏名又は名称】西野 千明
(72)【発明者】
【氏名】濱高 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】柴田 果林
(72)【発明者】
【氏名】松田 健二
【テーマコード(参考)】
4E029
【Fターム(参考)】
4E029AA01
4E029AC07
(57)【要約】
【課題】引張強さ650MPa以上の高強度でありながら、耐SCC性に優れるアルミニウム合金材及び製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】以下質量%で、Zn:8.0%~10.0%,Mg:1.5~3.5%,Cu:0.20~2.50%,Zr:0.15~0.25%及び残部がAlと不可避的不純物からなるアルミニウム合金を用いた鋳造材であって、均質化処理により平均結晶粒径が50μm以下に制御されていることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下質量%で、Zn:8.0%~10.0%,Mg:1.5~3.5%,Cu:0.20~2.50%,Zr:0.15~0.25%及び残部がAlと不可避的不純物からなるアルミニウム合金を用いた鋳造材であって、
均質化処理により平均結晶粒径が50μm以下に制御されていることを特徴とするアルミニウム合金鋳造材。
【請求項2】
請求項1記載のアルミニウム合金鋳造材を用いて押出加工した押出材を450~550℃にて溶体化処理及び焼き入れ処理を行い、その後に3段時効処理を行うことを特徴とする耐SCC性に優れた高強度アルミニウム合金材の製造方法。
【請求項3】
金属組織の高倍率観察にて、結晶粒内におけるnmレベルの分散粒子の数密度が13000個/μm2以上であり、かつ粒界における分散粒子の数密度は0.01個/nm以下であることを特徴とする請求項2記載の耐SCC性に優れた高強度アルミニウム合金材の製造方法。
【請求項4】
引張強さ650MPa以上、0.2%耐力600MPa以上であることを特徴とする請求項3記載の耐SCC性に優れた高強度アルミニウム合金材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐応力腐食割れ性(耐SCC性)に優れるとともに、高強度を有するアルミニウム合金材及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両や産業機械等の分野では、軽量化が要求されていることから、Al-Zn-Mg系の高強度材が検討されている。
また、車両や産業機械に用いられる構造部材等にあっては、部材に大きな応力が負荷されることもあり、優れた耐応力腐食割れ性(耐SCC性)も要求される。
しかし、Al-Zn-Mg系合金材においては、高強度になればなる程、耐SCC性の低下を招く恐れがあった。
【0003】
例えば、特許文献1には、Al-Zn-Mg系の合金を用いた押出材であって、表面再結晶の厚さが肉厚の7%以下、表面再結晶の平均粒径を150μm以下にすることで、耐応力腐食割れ性を改善している。
しかし、強度は約450MPaレベルであり、充分に高強度とは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、引張強さ650MPa以上の高強度でありながら、耐SCC性に優れるアルミニウム合金材及び製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明において、押出加工に用いるためのアルミニウム合金鋳造材は、以下質量%で、Zn:8.0%~10.0%,Mg:1.5~3.5%,Cu:0.20~2.50%,Zr:0.15~0.25%及び残部がAlと不可避的不純物からなるアルミニウム合金を用いた鋳造材であって、均質化処理により平均結晶粒径が50μm以下に制御されていることを特徴とする。
このように、平均結晶粒径が50μm以下の鋳造材を用いて押出加工すると、以下に説明する加工条件にて耐SCC性に優れた高強度のアルミニウム合金材が得られる。
【0007】
このような鋳造材は、上記組成からなる710~750℃の溶湯を用いて、丸棒形状(ビレット)に金型鋳造し、その後に450~500℃×10~30hrの均質化処理をすることで得られる。
【0008】
本発明に係る耐SCC性に優れた高強度アルミニウム合金材の製造方法は、請求項1記載のアルミニウム合金鋳造材を用いて押出加工した押出材を450~550℃にて溶体化処理及び焼き入れ処理を行い、その後に3段時効処理を行うことを特徴とする。
【0009】
ここで、溶体化処理は、押出加工時に析出した晶出物を充分に再固溶させつつ、平均結晶粒径を50μm以下に維持するのが目的であり、その後に水冷等による焼き入れ処理を行い、次に100~180℃の温度域にて3段時効処理(人工時効処理)を施す。
例えば、1段目は100~130℃レベルの相対的に低温にて微細な核を形成し、次に140~180℃の高温で2段目の熱処理を行い、さらに100~130℃にて3段目の熱処理を行うのが好ましい。
【0010】
本発明において、押出加工されたアルミニウム合金材は、金属組織の高倍率観察にて、結晶粒内におけるnmレベルの分散粒子の数密度が13000個/μm2以上であり、かつ粒界における分散粒子の数密度は0.01個/nm以下である点に特徴があり、これにより引張強さ650MPa以上、0.2%耐力600MPa以上が得られる。
【0011】
アルミニウム合金の組成について説明する。
<Zn及びMg成分>
Znは比較的高濃度でも押出性が低下することがなく、強度の向上に寄与し、Mgの添加により、組織中にMgZn2が折出し、強度アップする。
しかし、Mgは添加量が多くなると押出性が低下するとともに、MgZn2の析出量が多くなりすぎ靭性が低下する恐れがある。
そこで、Zn:8.0~10.0%,Mg:1.5~3.5%の範囲の組み合せがよい。
<Cu成分>
Cu成分の添加は固溶効果により強度向上を図るのに有効であるが、添加量が多くなると一般的な耐食性が低下するので、Cu:0.20~2.50%の範囲がよい。
<Zr成分>
Zr成分は、遷移元素であり、押出加工時に押出材の表面に形成される再結晶深さを抑制するとともに結晶粒の微細化に効果がある。
これにより、耐応力腐食割れ性が向上する。
本発明は、Zr:0.15~0.25%添加する。
<その他>
Ti成分は、押出加工に用いるためのビレットを鋳造する際に結晶粒の微細化に効果があり、一般的にはBもごく微量添加される。
Ti:0.005~0.05%のわずかな添加量でよい。
7000系のアルミニウム合金の鋳造過程等にて、Fe成分及びSi成分が不純物として含まれることが多いが、その量が多くなると、押出性,耐応力腐食割れ性等に影響を与えるので、Fe:0.2%以下,Si:0.1%以下に抑えるのが好ましい。
本発明において、不可避的不純物とは、耐SCC性及び強度に影響を与えない程度に混入してもよい他の成分をいい、0.1%以下で含有してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、所定の化学組成のアルミウム合金からなる鋳造材を用いて、溶体化処理,焼き入れ処理後に3段のステップからなる時効処理を行うことで、優れた耐SCC性を確保しつつ、高強度のアルミニウム合金材が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】試験評価に用いたアルミニウム合金の組成を示し、
図1の表に示した成分の残部がアルミニウムと不可避的不純物である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1の表に示した組成のアルミニウム合金の溶湯を調成し、
図2の表に示した丸棒素形材を金型鋳造し、比較評価した。
図1の表に示した各成分は、アルミニウム合金中の含有量を質量%で示したものであり、残部がAlと不可避的不純物である。
【0015】
図2の表に示すように、溶湯温度を720℃に調整し、金型に流し込み、重力鋳造を行った。
押出加工用の素材が得られれば、この重力鋳造に限定されない。
今回評価に用いた丸棒は、直径が30mmで長さ40mmのものを用い、HOMO(均質化)保持温度470℃,HOMO保持時間24時間の均質化処理を行った。
本発明に係る合金組成を用いると、丸棒素形材の結晶粒径は平均で50μm以下であった。
【0016】
次に、
図3の表に示した条件にて、肉厚2mm,幅20mmの押出材に押出加工し、その後に溶体化処理及び焼き入れ処理、人工時効処理をした。
押出条件は、丸棒素形材温度を370℃に予熱し、押し出した。
その際の押し出しされた形材(押出材)温度は、
図2の表のとおりであった。
溶体化処理条件は、押出材を475℃×60minの保持後に、水冷(WQ)による焼き入れを行った。
【0017】
実施例1,2は、1段目(1stp)として120℃×100minの熱処理、2段目(2stp)として170℃×30minの熱処理、3段目(3stp)として120℃×100minの熱処理を行う、3段人工時効処理を実施した。
比較例1~12は、
図3の表に示した条件にて、1段又は2段人工時効処理を行った。
【0018】
図4の表に、評価結果を示す。
評価方法は、次のとおりである。
<機械的性質>
JIS-Z2241に基づいて、JIS-5号試験片を作製し、JIS規格に準拠した引張試験機を用いて、引張強さ,σ
0.2耐力,伸びを計測した。
<ミクロ組織>
サンプル表面を鏡面研磨仕上げし、ケラー試薬にてエッチングを行った。
これを光学顕微鏡観察により金属組織を観察し、100倍の画像を画像処理し、平均結晶粒径を求めた。
<耐応力腐食割れ性(SCC性)>
試験片に耐力の80%の応力を負荷した状態で、次の条件を1サイクルとして720サイクルにて割れが発生しなかったものを目標達成とした。
なお、途中で割れが発生したものは、そのサイクル数を表示した。
[1サイクル]
3.5%NaCl水溶液中に25℃,10min浸漬し、その後に25℃,湿度40%中に50min放置し、その後に自然乾燥する。
<ナノ組織>
TEM等を用いて、1万倍以上の高倍率で組織観察を行い、結晶粒内に分散しているナノメートルレベルの粒子の数密度(個数/μm
2)と、結晶粒界に存在するナノメートルレベルの粒子の数密度(個数/nm)を測定した。
【0019】
図4の表は、各評価項目における本発明の目標値を示す。
実施例1,2は、引張強さ650MPa以上、0.2%耐力600MPa以上の高強度を有しながら、耐SCC性は720サイクル以上を有していた。
このナノ組織は、粒内数密度130000個/μm
2以上で、粒界数密度0.01個/nm以下であった。
これに対して、比較例1はZn成分が少なく、Zrが添加されていなく、比較例2はZnが少ないため、強度も耐SCC性も目標未達であった。
比較例3はZn成分が少なく、2段人工時効にて強度も耐SCC性も目標未達であった。
比較例4はZnが添加されていなく、強度が目標未達であった。
比較例5はCu,Zrが添加されていなく、耐力,耐SCC性が目標未達であった。
比較例6~10は合金組成は本発明の範囲になっているものの、人工時効処理が1段又は2段なので耐SCC性が目標未達であった。
比較例11,12はZn成分の含有量が多く、強度はあるものの、耐SCC性が目標未達であった。