(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138827
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】自己修復機能を有する塗料組成物、積層塗膜、塗膜付き構造物及び塗装システム
(51)【国際特許分類】
C09D 201/06 20060101AFI20241002BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20241002BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20241002BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20241002BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20241002BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
C09D201/06
C09D133/00
C09D7/20
C09D7/63
C09D5/00 D
B32B27/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049529
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115440
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 光子
(72)【発明者】
【氏名】古橋 幸子
【テーマコード(参考)】
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
4F100AH06A
4F100AK25A
4F100AK53B
4F100AK80A
4F100AL05A
4F100BA01
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100CA13A
4F100CA30A
4F100CC00A
4F100CC00B
4F100CC00C
4F100EJ67A
4J038CG141
4J038CG201
4J038JA25
4J038JC32
4J038JC37
4J038KA06
4J038NA01
4J038PB06
4J038PB09
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】カテコール基を含む自己修復性樹脂を用いてなる自己修復機能を有する塗料組成物、該塗料組成物を含む積層塗膜、塗膜付き構造物及び塗装システムを提供する。
【解決手段】3,4-ジヒロドロキシフェニル基を側鎖に有するポリマー(A)と、1,4-フェニレンジボロン酸(B)とから構成される自己修復機能を有するポリマー、および、有機溶剤を含み、前記有機溶剤は、グリコールエーテル系溶剤および沸点80℃以上のアルコール系溶剤から選ばれる少なくとも1種を含む、自己修復機能を有する塗料組成物、それから形成される自己修復性の塗膜、該塗膜(下塗り塗膜)とエポキシ樹脂系中塗り塗膜と耐候性上塗り塗膜からなる積層塗膜、及び、積層塗膜の塗装システム。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3,4-ジヒロドロキシフェニル基を側鎖に有するポリマー(A)と、1,4-フェニレンジボロン酸(B)とから構成される自己修復機能を有するポリマー、および、有機溶剤を含み、
前記有機溶剤は、グリコールエーテル系溶剤および沸点80℃以上のアルコール系溶剤から選ばれる少なくとも1種を含む、自己修復機能を有する塗料組成物。
【請求項2】
さらに、シランカップリング剤を含む、請求項1に記載の自己修復機能を有する塗料組成物。
【請求項3】
さらに、顔料、増粘剤、沈降防止剤、分散剤、揺変剤、タレ止め剤、色別れ防止剤から選択される1種以上の塗料用添加剤を含む、請求項1に記載の自己修復機能を有する塗料組成物。
【請求項4】
前記ポリマー(A)が、3,4-ジヒドロキシフェニル基を含むビニル系モノマー(a)5~90モル%と、その他の重合性不飽和モノマー(b)10~95モル%との共重合体であり、前記その他の重合性不飽和モノマー(b)が、アクリル系モノマーから選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の自己修復機能を有する塗料組成物。
【請求項5】
前記塗料組成物により形成される塗膜は、
前記ポリマー(A)の3,4-ジヒドロキシフェニル基と、1,4-フェニレンジボロン酸(B)との架橋によるネットワーク構造を有する、請求項1に記載の自己修復機能を有する塗料組成物。
【請求項6】
請求項1~5いずれかに記載の自己修復機能を有する塗料組成物から形成された下塗り塗膜と、エポキシ樹脂系の中塗り塗膜と、上塗り塗膜との積層塗膜。
【請求項7】
請求項6に記載の積層塗膜を有する構造物。
【請求項8】
下記工程1、2及び3を含む、塗装システム。
工程1:構造物に、請求項1~5いずれかに記載の自己修復機能を有する塗料組成物を塗装し、下塗り塗膜を形成する工程
工程2:下塗り塗膜上に、エポキシ樹脂系塗料を塗装し、中塗り塗膜を形成する工程
工程3;中塗り塗膜上に、耐候性塗料を塗装し、上塗り塗膜を形成する工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己修復機能を有する塗料組成物、積層塗膜、塗膜付き構造物及び塗装システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電力設備に使用される金属材料は、外部環境により腐食が生じるのを防ぐため、塗装処理が施されている。物理的衝撃等による損傷や外部環境劣化等により塗装に傷や剥離が生じると、通常は補修あるいは塗り替えが行われるが、これらは人的作業が必要となる。また、特に送電鉄塔塗装の場合等は、高所作業となり危険を伴う。したがって、コスト面と安全面の観点から、塗装処理周期の延伸が望まれている。
【0003】
これまでに、金属イオン間と錯体形成するカテコール基を側鎖に含む樹脂を主体とすることにより、傷が小さなうちに自己修復する塗料を開発した(特許文献1、非特許文献1参照)。
【0004】
しかし、既存の塗料は物理的衝撃等による損傷や外部因子による劣化により、比較的短期間で傷や剥離が生じる。また、特許文献1に開示されているカテコール基を含む自己修復性樹脂から構成される塗料を単体で屋外使用する場合、傷の発生に関しては、既存塗料よりは防止できるが、塗料製品としての性能、例えば塗りやすさを含めた施工性や外観に課題がある。カテコール基が耐候性に劣るため、他の既存塗料と比べて短期間で劣化を引き起こすという欠点もある。そのため、自己修復機能を有する塗料特性を活かした塗装の検討が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Jincai Li, Hirotaka Ejima, Naoko Yoshie:”Seawater-assisted self-healing of catechol polymers via hydrogen bonding and coordination interactions”, ACS Appl. Mater. Interfaces, 2016,8(29),pp19047-19053.)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、カテコール基を含む自己修復性樹脂を用いてなる自己修復機能を有する塗料組成物、該塗料組成物を含む積層塗膜、塗膜付き構造物及び塗装システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明者等は、カテコール基を側鎖に導入した自己修復機能を有する塗料の特性(亜鉛めっき鋼板への付着力、自己修復機能、耐紫外線性)を検討することで、下塗塗料として有用な自己修復機能を有する塗料組成物が得られることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0009】
(1)3,4-ジヒロドロキシフェニル基を側鎖に有するポリマー(A)と、1,4-フェニレンジボロン酸(B)とから構成される自己修復機能を有するポリマー、および、有機溶剤を含み、
前記有機溶剤は、グリコールエーテル系溶剤および沸点80℃以上のアルコール系溶剤から選ばれる少なくとも1種を含む、自己修復機能を有する塗料組成物。
(2)さらに、シランカップリング剤を含む、前記(1)に記載の自己修復機能を有する塗料組成物。
(3)さらに、顔料、増粘剤、沈降防止剤、分散剤、揺変剤、タレ止め剤、色別れ防止剤から選択される1種以上の塗料用添加剤を含む、前記(1)に記載の自己修復機能を有する塗料組成物。
(4)前記ポリマー(A)が、3,4-ジヒドロキシフェニル基を含むビニル系モノマー(a)5~90モル%と、その他の重合性不飽和モノマー(b)10~95モル%との共重合体であり、前記その他の重合性不飽和モノマー(b)が、アクリル系モノマーから選択される少なくとも1種である、前記(1)に記載の自己修復機能を有する塗料組成物。
(5)前記塗料組成物により形成される塗膜は、
前記ポリマー(A)の3,4-ジヒロドロキシフェニル基と、1,4-フェニレンジボロン酸(B)との架橋によるネットワーク構造を有する、前記(1)に記載の自己修復機能を有する塗料組成物。
(6)前記(1)~(5)いずれかに記載の自己修復機能を有する塗料組成物から形成された下塗り塗膜と、エポキシ樹脂系の中塗り塗膜と、上塗り塗膜との積層塗膜。
(7)前記(6)に記載の積層塗膜を有する構造物。
(8)下記工程1、2及び3を含む、塗装システム。
工程1:構造物に、前記(1)~(5)いずれかに記載の自己修復機能を有する塗料組成物を塗装し、下塗り塗膜を形成する工程
工程2:下塗り塗膜上に、エポキシ樹脂系塗料を塗装し、中塗り塗膜を形成する工程
工程3;中塗り塗膜上に、耐候性塗料を塗装し、上塗り塗膜を形成する工程
【発明の効果】
【0010】
本発明の自己修復機能を有する塗料組成物は、発生したキズが自然に修復する自己修復機能と優れた金属接着性により腐食反応が自然に止まる機能とを併せ持つ、カテコール基を有する樹脂を塗料の主成分としているため、塗膜の自己修復性に優れている。そのため、各種構造物、特に鉄塔等の金属製構造物の下塗り塗料として用いることで、構造物のさび等による劣化の進行を大幅に抑制することができる。
また、本発明の自己修復機能を有する塗料組成物に、エポキシ樹脂塗料及びシリコン系塗料等の耐久性塗料を組合せることで、従来の防錆塗料よりも耐候性及び防錆性が高く、塗装の補修回数の削減が期待できる、長寿命の積層塗膜ならびに長寿命塗装システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】自己修復前後での塗膜の引張試験結果を示す図。
【
図2】自己修復塗膜の修復性確認試験結果を示す図。
【
図3】加速劣化試験前後の塗膜付着力測定結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の自己修復機能を有する塗料組成物は、3,4-ジヒロドロキシフェニル基を側鎖に有するポリマー(A)と、1,4-フェニレンジボロン酸(B)とから構成される自己修復機能を有するポリマー、および、有機溶剤を含み、前記有機溶剤は、プロピレングリコールエーテル系溶剤および沸点80℃以上のアルコール系溶剤から選ばれる少なくとも1種を含む。前記塗料組成物は、さらに望ましくは、シランカップリング剤を含む。すなわち、本発明の自己修復機能を有するポリマーは、上記ポリマー(A)が、ボロン酸により架橋してネットワーク化した構造を有する。
【0013】
本発明の自己修復機能を有する塗料組成物を構成するポリマー(A)は、特許第6850973号公報に記載されている。側鎖に3,4-ジヒドロキシフェニル基(カテコール基)を有していれば、その構造は特に限定されないが、ポリマー(A)としては、3,4-ジヒドロキシフェニル基(カテコール基)を含むビニル系モノマー(a)の単独重合体、または、前記モノマー(a)と他の重合性不飽和モノマー(b)との共重合体が挙げられている。中でも、N-(2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)エチル)アクリルアミド(a)を構成単位として含むポリマーP(DA-co-BA)が、合成の簡便性、原料としての入手容易性の点で好ましいことが記載されている。
【0014】
前記のN-(2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)エチル)アクリルアミド(ドーパミンアクリルアミド)は、非特許文献1等に報告されている。非特許文献1によれば、トリエチルアミンの存在下でアクリル酸と塩化アクリルの反応によりアクリル酸無水物を得た後、アクリル酸無水物を2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)エチルアミン塩酸塩と反応させることにより、得ることができる。また、2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)エチルアミン塩酸塩は、ドーパミン塩酸塩として市販されているものを用いることもできる。
【0015】
【0016】
ポリマー(A)は、好ましくは、N-(2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)エチル)アクリルアミド等の3,4-ジヒドロキシフェニル基(カテコール基)を含むビニル系モノマー(a)と、その他の重合性不飽和モノマー(b)との共重合体として得られるものである。N-(2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)エチル)アクリルアミド(a)の単独重合体は、ガラス転移温度(示差走査熱量測定(DSC)法)よりも低い温度でポリマーが変性し、架橋が生じて熱硬化するため、良好な塗膜を形成し難いが、その他のガラス転移温度が低い重合性不飽和モノマーと共重合することにより、塗膜形成性を付与することができる。
【0017】
ポリマー(A)における、3,4-ジヒドロキシフェニル基を含むビニル系モノマー(a)の比率は、5~90モル%が好ましく、より好ましくは10~50モル%、特に好ましくは10~30モル%である。(a)の比率が、5モル%以上であれば、ポリマー(A)にホウ素化合物(ボロン酸)を添加することによって自己修復機能を付与することが可能となり、90モル%以下であれば、ポリマー(A)に塗膜形成性を付与することが可能となる。
【0018】
ポリマー(A)における、その他の重合性不飽和モノマー(b)の割合は、10~95モル%が好ましく、より好ましくは50~90モル%、特に好ましくは70~90モル%である。その他の重合性不飽和モノマー(b)は、1種又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0019】
その他の重合性不飽和モノマー(b)としては、例えば、(メタ)アクリル酸の炭素数1~22のアルキルエステル、(メタ)アクリル酸の炭素数2~18のアルコキシアルキルエステル、アミノアクリル系モノマー、アクリルアミド系モノマー、エポキシ基含有モノマー、水酸基含有モノマー、アルキレンオキシド基含有モノマー等を使用することができる。
上記(メタ)アクリル酸の炭素数1~22のアルキルエステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。(メタ)アクリル酸の炭素数2~18のアルコキシアルキルエステルとしては、例えば、メトキシブチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
アミノアクリル系モノマーとしては、例えば、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N-t-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
アクリルアミド系モノマーとしては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、N-ブチルアクリルアミド、N-ブチルメタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド等が挙げられる。
エポキシ基含有モノマーとしては、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等が挙げられる。
水酸基含有モノマーとしては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の炭素数2~20のグリコールと(メタ)アクリル酸とのモノエステル化物等の1分子中に水酸基及び重合性不飽和結合をそれぞれ1個以上有する水酸基含有モノマーが挙げられる。
アルキレンオキシド基含有モノマーとしては、例えば、ポリオキシエチレンアルコキシ(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレンアルコキシ(メタ)アクリレート等の1分子中にエチレンオキシド及び/またはプロピレンオキシド基と重合性不飽和結合をそれぞれ1個以上有するモノマー等が挙げられる。
また、上記のアクリル系モノマー以外のモノマーとして、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、メサコン酸、及びこれらの無水物やハーフエステル化物等のカルボキシル基含有モノマーを使用することもできる。
さらに、その他の重合性不飽和モノマーとしては、例えば、スチレン、α - メチルスチレン、ビニルトルエン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、塩化ビニル等を使用することもできる。
上記の不飽和モノマーの中でも、ドーパミンアクリルアミドとの反応性、入手容易性等の点でアクリル系モノマーが好ましく、アクリル系モノマーから選ばれる1種または2種以上を用いることができる。そのなかでも、塗膜形成性の点で、n-ブチルアクリレートを含むことが特に好ましい。
【0020】
ポリマー(A)は、公知の重合方法、例えば溶液重合等により製造することができる。ポリマー(A)は、数平均分子量(Mn)が10,000~1,000,000の範囲が好ましく、より好ましくは30,000~500,000の範囲である。
【0021】
ポリマー(A)のガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)により求めた値が、20℃以下であることが好ましく、より好ましくは-10℃以下である。ポリマー(A)に、1,4-フェニレンジボロン酸(B)を添加した際に、前記ホウ素化合物が架橋剤として働き、ポリマー(A)が弾性的な力学強度を発現することで、自己修復機能が得られるが、ガラス転移温度が20℃を超えると、ポリマー(A)が弾性挙動を発現しなくなる。ポリマー(A)のガラス転移温度の下限値は特に限定されないが、-60℃以上であることが好ましい。
【0022】
3,4-ジヒドロキシフェニル基(カテコール基)を側鎖に有するポリマー(A)と、ホウ素化合物(B)としての1,4-フェニレンジボロン酸(化1)を混合することにより、カテコール基とホウ素原子あるいはジボロン酸化合物間の相互作用により、カテコール基と金属イオン間で生じる錯形成反応と類似の結合状態を生じさせることで、自己修復機能を有するポリマーを得ることができる。具体的には、前記ポリマー(A)および1,4-フェニレンジボロン酸(化1)を、其々、有機溶剤に溶解させておき、両者を室温で十分撹拌することにより調製する。1,4-フェニレンジボロン酸(化1)は、20℃で固体状の粉末であり、メタノール可溶性、水難溶性(溶解度2.5%)の物質であるが、富士フィルム和光純薬株式会社、東京化成工業株式会社等から入手可能である。
【化1】
【0023】
ポリマー(A)に対する1,4-フェニレンジボロン酸(B)の割合(モル比)は、ポリマー(A)中の3,4-ジヒドロキシフェニル基に対して、0.01~0.2の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.01~0.1、特に好ましくは0.05~0.1の範囲である。ポリマー(A)と1,4-フェニレンジボロン酸(B)の割合を前記範囲内とすることで、塗膜に良好な自己修復機能を付与することができる。
【0024】
本発明の自己修復機能を有する塗料組成物は、ポリマー(A)と1,4-フェニレンジボロン酸(B)とから構成される自己修復機能を有するポリマーに、有機溶剤およびその他の成分を公知の方法に従って混合することにより、調製することができる。
例えば、ポリマー(A)を有機溶剤に溶解した溶液に、1,4-フェニレンジボロン酸(B)を有機溶剤に溶解した溶液、および、触媒としてトリエチルアミン等の塩基性化合物等を添加し、これらを撹拌する方法;
あるいは、ポリマー(A)と1,4-フェニレンジボロン酸(B)を有機溶剤に溶解した溶液に、トリエチルアミン等の塩基性化合物を添加し、撹拌する方法;
等が挙げられる。
また、各成分の混合時には、必要に応じて、有機溶剤を加えてもよい。
【0025】
撹拌しては、12~24時間程度が好ましく、短すぎると十分に均一な自己修復機能を有するポリマーが得られなくなり、長すぎると作業性が悪化する。 また、塩基性化合物は、トリエチルアミン以外の化合物、例えば、N,N-ジイソプロピルエチルアミンであってもよい。塩基性化合物の添加量は、ポリマー(A)のカテコール含量1モルに対し、0.3~0.5モル使用するのがよい。
【0026】
本発明の自己修復性塗料組成物において、有機溶剤の含有量は、得られる塗膜の乾燥性及び塗膜の外観や物性等を考慮して決定するのが良い。
【0027】
前記のポリマー(A)及び1,4-フェニレンジボロン酸(B)を溶解する有機溶剤としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジオキサン等のエーテル系溶剤;メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、イソブタノール、n-ペンタノール等のアルコール系溶剤;が挙げられる。これらの有機溶剤を用いることにより、自己修復機能を有する塗料組成物の塗工性、製膜性、塗膜特性(自己修復性)が良好になる。
自己修復機能を有するポリマーの調製は時間を要する(12時間以上)。そのため、できるだけ常温における揮発性が低い有機溶剤を用い、ポリマー(A)と、1,4-フェニレンジボロン酸(B)の反応を充分進行させることにより、自己修復機能の高いポリマーを合成することができる。かかる観点より、沸点が高く(100℃以上)、かつポリマー(A)の溶解性に優れている点で、グリコールエーテル系溶剤が好ましく、プロピレングリコールエーテル系溶剤がより好ましい。また、アルコール系溶剤を用いる場合は、沸点が高い方が好ましく、沸点が80℃以上である、プロパノール、ブタノール等がより好ましい。
【0028】
本発明の自己修復機能を有する塗料組成物は、本発明による効果を阻害しない範囲でシランカップリング剤を含むことが好ましい。シランカップリング剤を含むことで、前記塗料組成物の基材に対する密着性、塗膜の耐水性を向上させることができる。
【0029】
前記シランカップリング剤としては、たとえばメチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3-(グリシジルオキシ)プロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-トリメトキシシリルプロピルイソシアネート、3-トリエトキシシリルプロピルイソシアネート、メチルトリス(エチルメチルケトオキシム)シラン等があげられる。
前記シランカップリング剤の中でも、イソシアネート基等の反応性基を有するものが自己修復性樹脂のアミノ基と反応させることができるため好ましい。特にエポキシ樹脂塗料との付着性に優れている点より、3-トリメトキシシリルプロピルイソシアネート、3-トリエトキシシリルプロピルイソシアネート等のイソシアネート基を含有する化合物が好ましい。シランカップリング剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0030】
本発明の自己修復機能を有する塗料組成物における、シランカップリング剤の配合量としては、前記塗料組成物100質量部に対して、0.1~10質量部とすることが好ましい。耐水性と防食性向上の点からは、より好ましくは0.2~6質量部、特に好ましくは0.5~4質量部である。シランカップリング剤を配合することにより、構造物に対する塗膜の密着性など、防食塗膜の性能を向上させることができる。
【0031】
本発明の自己修復機能を有する塗料組成物は、上記諸成分の他に、必要に応じて、本発明による効果を阻害しない範囲で、有機溶剤、顔料、増粘剤、タレ止め剤、沈降防止剤、分散剤、揺変剤、色別れ防止剤、その他添加剤(消泡剤、粘性調整剤、表面調整剤、可塑剤、造膜助剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、レベリング剤等)をさらに含んでいてもよい。これらの添加剤は、それぞれ1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸メトキシブチル、酢酸アミル、酢酸メチルセロソルブ、セロソルブアセテート、酢酸ジエチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸カルビトール等のエステル系溶剤;ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤等が挙げられる。これらの有機溶剤は1種または2種以上組み合わせて使用できる。配合量は特に限定されない。
【0033】
体質顔料としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、カオリン、クレー、タルク、マイカ、シリカ等が挙げられる。着色顔料としては、例えば、酸化チタン、ベンガラ、カーボンブラック、鉄黒、亜鉛華等の無機顔料;モリブデンレッド、プルシアンブルー、コバルトブルー、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリン系顔料、スレン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサジン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料等の有機顔料が挙げられる。前記着色顔料の中でも、比較的少量の使用で着色でき、かつ、パテ用途での研磨作業性や仕上り性の面から、無機顔料が好ましく、酸化チタンが好ましい。
本発明の自己修復機能を有する塗料組成物における、顔料の配合量は、特に限定されないが、得られる塗膜の着色力及び塗膜の外観の観点から、塗料組成物100質量部に対し、好ましくは1~30質量部、より好ましくは5~25質量部である。
【0034】
タレ止め剤(沈降防止剤)としては、例えば、アマイドワックス系、水添ヒマシ油系、酸化ポリエチレン系等の有機系揺変剤、ベントナイト等の粘土鉱物、合成微粉シリカ等の無機系揺変剤が挙げられる。
本発明の自己修復機能を有する塗料組成物における、タレ止め剤(沈降防止剤)の配合量は、塗料組成物100質量部に対し、好ましくは0.1~10質量部であり、安定性の点より、より好ましくは0.5~10質量部である。タレ止め剤を1種または2種以上配合することにより、塗料の塗装性、塗膜形成性、塗膜性能(柔軟性等)を向上させることができる。タレ止め剤は配合することが好ましい。
【0035】
上記の方法によって、本発明の自己修復性塗料組成物が得られる。塗料組成物は、有機溶剤型塗料組成物とし、塗料組成物の固形分含量は、通常、15~80質量%程度、好ましくは15~50質量%とするのがよい。
【0036】
塗布対象物としては、鉄塔(特に送電用鉄塔)あるいはその部材、自動車等の各種構造物等が挙げられる。また、これら鉄塔等を形成する冷延鋼板、亜鉛めっき鋼板、亜鉛合金めっき鋼板、ステンレス鋼板、錫めっき鋼板等の鋼板、アルミニウム板、アルミニウム合金板等の金属基材;各種プラスチック基材;等であってもよい。とりわけ、鋼板に好適であり、特に亜鉛めっき鋼板に好適である。
また、塗布対象物としては、金属基材の金属表面に、リン酸塩処理、クロメート処理等の化成処理が施されたものであってもよい。
【0037】
本発明では、さびを有しない鋼板等、あるいは、さびを有する鋼板等をケレン処理した後、前記鋼板等に本発明の自己修復性塗料組成物を塗布することが好ましい。自己修復性塗料組成物の塗布は、刷毛塗り塗装、ローラー塗装またはスプレー塗装により行うことが好ましい。塗布時のウエット膜厚は50~200μmが好ましく、より好ましくは50~100μmである。薄く塗布した場合には、充分な自己修復機能を有する塗膜を形成することができず、厚く塗布した場合には、刷毛目等で表面張力に差異が生じた場合に、表面張力の弱い部分から決壊して面だれ現象をおこし易くなる。
【0038】
亜鉛めっき鋼板の表面に塗料後、1~8時間程度放置することにより、塗料に含まれている有機溶剤が揮発して乾燥塗膜が形成され、その後の塗装に好適な塗膜を得ることができる。こうして得られる乾燥塗膜の膜厚は、10~100μm程度が好ましく、より好ましくは15~80μm、特に好ましくは15~60μmである。膜厚が10μm未満では十分な自己修復機能が得られない恐れがあり、膜厚が100μmを超えると、塗膜の乾燥性が低下するため作業性が低下するだけでなく、経済性も悪化する。
【0039】
自己修復性機能を有する塗料組成物の塗膜が形成された鋼板等の表面には、カテコール基が紫外線で分解するのを防止する観点より、防食用及び耐候性の塗料(中塗り及び上塗り)を塗装することが望ましい。
前記防食用及び耐候性の塗料としては、一般に使用されているフッ素樹脂系、アクリル樹脂系、アクリルシリコン系樹脂、シリコン樹脂系、ウレタン樹脂系、エポキシ樹脂系等の防食塗料を用いることができる。
これらの複層塗装を施した後の乾燥塗膜(積層塗膜)の総膜厚は特に制限されないが、通常は50~500μm、好ましくは100~400μmである。塗装方法は通常の方法で良い。塗装方法は通常の方法で良い。
【0040】
中塗り塗料としては、自己修復性塗膜に対する接着性に優れる点で、エポキシ樹脂塗料が好ましい。
上塗り塗料としては、耐候性及び耐紫外線性等の点で、フッ素樹脂、アクリル樹脂、アクリルシリコン樹脂、シリコン樹脂を含む耐候性塗料が好ましい。
【0041】
本発明に係る積層塗膜は、本発明の自己修復性機能を有する塗料組成物から形成された下塗り塗膜と、エポキシ樹脂系の中塗り塗膜と、上塗り塗膜との積層塗膜である。このような積層塗膜は、自己修復性機能を有する塗料組成物を用いて、下塗り塗膜を形成し、該下塗り塗膜上に中塗り塗膜、上塗り塗膜を順に形成することで作製することができる。
具体的には、構造物に、自己修復性機能を有する塗料組成物を塗装し、塗装された該塗料を乾燥させて下塗り塗膜を形成する工程、下塗り塗膜上にエポキシ系樹脂塗料を塗装した後、乾燥、硬化させて中塗り塗膜を形成する工程、中塗り塗膜上に耐候性塗料を塗装し、上塗り塗膜を形成する工程を含む方法により、作製することができる。
【0042】
自己修復性機能を有する塗料組成物及び他の塗料の塗装方法としては、特に制限されず、スプレー塗装、ハケ塗り、ローラー塗りなど従来公知の方法が利用できる。塗装の際には、必要に応じて各種溶剤にて希釈してから塗装してもよい。また、用途や塗装現場の状況等にもよるが、下塗り防食塗膜を形成してから、自己修復性機能を有する塗料組成物を塗装してもよい。
【0043】
本発明の自己修復性機能を有する塗料組成物及び塗装システムは、送電用の鉄塔の補修作業にも用いることができる。送電用の鉄塔では、ケレン処理が不要になるだけでなく、従来はさびの進行を防止できないレベルであるとして取替えていた劣化進行部材について、本発明の塗料の塗布によりさびの発生や進行を止めることができるので、送電設備の延命化、線路停止期間の短縮、コスト削減を図ることができる。
【実施例0044】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0045】
(製造例1)
特許第6850973号公報の(参考製造例)に記載した方法で、N-(2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)エチル)アクリルアミド(以下、「ドーパミンアクリルアミド」と称する。)を製造した。
【0046】
ドーパミンアクリルアミドとn-ブチルアクリレートの共重合体(以下、「P(DA-co-n-BA)」と略記する。)を次のようにして製造した。
即ち、窒素置換した200mLのシュレンクフラスコに、8.0gのドーパミンアクリルアミド(38.6mmol)、222mgの2,2´-アゾビス(イソ酪酸メチル)(0.964mmol)、22.0mLのブチルアクリレート(19.8g、154mmol)、96mLのエタノール(脱水)を加えた。凍結-減圧-解凍サイクルを3回繰り返すことで脱気し、再び窒素を導入した。75℃のオイルバス中で24時間加熱して反応させた。反応容器を液体窒素に漬けることで反応を止め、ロータリーエバポレーターで50mL程度に濃縮し、30mLのテトラヒドロフランを加えてよく溶かした後、テフロン(登録商標)製のビーカー中で0℃のヘキサン中に加えて再沈殿させた。沈殿物をろ過で回収し、減圧乾燥し、淡黄色固体状のP(DA-co-n-BA)26.4g(収率95%)を得た。
得られたP(DA-co-n-BA)は、1H-NMRを用いた解析よりドーパミンアクリルアミドとブチルアクリレートのモル比が1:4であることを確認した。また、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定(溶離液:10mMの塩化リチウムを溶解したDMF、標準物質:ポリスチレン)より、数平均分子量Mn=78,000、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比 Mw/Mn=2.1であった。
【0047】
(実施例1)
製造例1で得られたP(DA-co-n-BA)4.7g(ポリマー中に存在する3,4-ジヒドロキシフェニル基は6.5mmol)をプロピレングリコールモノメチルエーテル40.0mlに溶解した(溶液A)。1,4-フェニレンジボロン酸108mg(0.65mmol)をプロピレングリコールモノメチルエーテル6.6mlに溶解した(溶液B)。溶液Aと溶液Bを十分に撹拌し、自己修復性樹脂の溶媒溶液を調製した。
【0048】
<自己修復性評価>
調製した自己修復性樹脂の溶媒溶液のキャストフィルム(厚み:約60μm)を作製した。
フィルムを切断した後、切断フィルムの端部同士を重ね、その上に、水もしくは海水を100μL滴下して24時間静置し、さらに24時間減圧乾燥させた後、フィルムを引張試験した。結果を
図1に示す。
図1より、切断前のフィルム伸び率が330%であるのに対し、水滴下後に修復したフィルム伸び率は230%、海水滴下後に修復したフィルム伸び率は130%であり、海水が付着した場合でもフィルム特性が回復することを確認できた。
【0049】
また、ガラス板に塗布した塗膜にナイフで切込みを入れ、フィルムに水を滴下し室温で放置したところ、24時間後に傷が消失し、自己修復性が確認された。
【0050】
(実施例2)
実施例1で作製した自己修復性樹脂溶液A、Bに、表1に示す成分を所定量配合することにより、自己修復機能を有する塗料組成物(以下、自己修復性塗料組成物)を調製した。
【0051】
【0052】
<自己修復性評価>
自己修復性塗料組成物を鋼板に塗布した塗装に、カッター刃で表層に0.38mm幅の傷を薄く入れたところ、50℃湿度99%の環境下で2日後に自己修復性が確認された。修復性確認試験結果を
図2に示す。
【0053】
<塗装性能評価>
自己修復性塗料組成物を刷毛(ラボランハケ・ブラシ、Cat.No.9-829-01)を用いて、亜鉛めっき鋼板(150×70×3mm)に塗布し、一昼夜放置して乾燥した。得られた塗膜について、膜厚を測定した。膜厚は、電磁式膜厚計(SDM-3000、(株)サンコウ電子研究所製)を用い、各試験片の長さ方向6か所で測定して平均値を求めた(膜厚;約30μm)。
【0054】
塗料を塗布した試験片をサイクル腐食試験及び耐候性試験に供して塗膜性能を評価するとともに、塗膜性能の評価終了後、亜鉛めっき鋼板に対する塗膜の付着力を、下記の方法で評価した。樹脂の架橋ネットワーク構造を形成する金属カチオンは、ボロン酸、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、ニッケルを使用した。
【0055】
(1)サイクル腐食試験
JIS K5600-7-9のサイクル腐食試験方法-塩水噴霧/乾燥/湿潤のサイクルAに準拠して実施した。塩水として、50±10g/Lの塩化ナトリウム水溶液、pH6.0~7.0(25℃)を用い、35±1℃で2時間塩水噴霧、60±1℃、20~30%RHで4時間乾燥、50±1℃、95%RH以上で2時間湿潤、のサイクルを2回(計16時間)繰り返した。サイクル腐食試験の塗膜について、(a)さびの発生状況、(b)塗膜の膨れ、(c)塗膜の割れ、(d)塗膜のはがれ、を評価した。
【0056】
(a)さびの発生状況;
JIS K5600-8-3に準拠し、さびの面積、さびの大きさを評価した。
(b)塗膜の膨れ;
JIS K5600-8-2に準拠し、附属書A(規定)校正画像を参照して、膨れの量(密度)を0~5の6段階、膨れの大きさをS0~S5の6段階で評価した。
(c)塗膜の割れ;
JIS K5600-8-4に準拠し、割れの密度及び割れの大きさを評価した。
(d)塗膜のはがれ;
JIS K5600-8-5に準拠し、はがれの面積及びはがれの大きさを評価した。
【0057】
(2)耐候性試験
JIS A6909、キセノンランプ法に準拠し、500時間後の付着力を評価した。
【0058】
(3)付着力の測定
JIS K5600-5-7(プルオフ法)に準拠して測定した。各試験片につき、長さ方向に3か所の付着力を測定し平均値を求めた。試験片に試験円筒を接着する接着剤として無溶剤二液型エポキシ樹脂を用い、測定機器はオートマチックアドヒージョンテスター(POSITEST AT-A(DeFelskoCorporation製))を使用した。試験前、サイクル腐食試験(16時間)後、耐候性試験後の付着力を、
図3に示す。
【0059】
自己修復性塗料について加速劣化試験前後のさびの発生状況を試験した結果、現行下塗塗料に比べてさびの発生度合が多いものの(図示を省略する)、
図3に示すように、塗膜の付着力は、サイクル試験の前後ならびに耐候性試験後ともに、ボロン酸を用いた(Bで結合した)自己修復性塗料が最も高い値を示し、付着力は高いことがわかった。すなわち、Bで結合した自己修復性樹脂の付着力は、試験前の付着力の97%であったのに対し、Na、Ca、Mgで結合した自己修復性樹脂の付着力は、Na、Caが試験前の約70%、Mgが試験前の約93%に低下していた。
【0060】
(実施例3;塗装システム1)
実施例2で調製した自己修復性塗料を、刷毛(ラボランハケ・ブラシ、Cat.No.9-829-01)を用いて、2枚の亜鉛めっき鋼板(150×70×3mm)に塗布し、一昼夜放置して乾燥した。得られた塗膜について、膜厚を測定した後、1枚はそのまま試験片とした(仕様1)。
残りの1枚は、塗料の上に更に変性エポキシ塗料、その上に上塗り塗料(ウレタン樹脂塗料)を塗布して乾燥し試験片とした(仕様2)。
比較例として、変性エポキシ塗料を、同様に2枚の亜鉛めっき鋼板に塗布し、一昼夜放置して乾燥した。得られた塗膜について、膜厚を測定した後、1枚はそのまま試験片とした(比較仕様1)。
残りの1枚は、変性エポキシ塗料の上に更に変性エポキシ塗料、その上に上塗り塗料(ウレタン樹脂塗料)を塗布して乾燥し試験片とした(比較仕様2)。
【0061】
各試験片について、塗膜の中央部に直線状の傷をつけてからサイクル腐食試験に供し、試験終了後の傷の回復状況から自己修復機能を判定した。塗膜の傷は、カッターを用いて、亜鉛めっき鋼板に達しない程度の深さで、長さ約7mmの傷を付けた。
【0062】
試験結果を表2に示す。
【0063】
【0064】
表2より、自己修復性塗料を塗布した試験片(仕様1)の耐食性は、変性エポキシ単膜(比較仕様1)と比べて劣っている。しかしながら、自己修復性塗料に、変性エポキシ塗料及びウレタン樹脂塗料を上塗りした自己修復型システム膜(仕様2)は、変性エポキシ塗料にウレタン塗料を上塗りした変性エポキシシステム膜(比較仕様2)と比べ、良好な耐食性を示すことが分かる。
【0065】
(実施例4;塗装システム2)
実施例2で調製した自己修復性塗料(付着付与剤なし、ありの2種類)を、基材面に、乾燥膜厚60μmで塗布し、その上にエポキシ樹脂塗料(3種類)を、乾燥膜厚300μmで上塗りした試験片を作成し、サイクル腐食試験を実施した。実施例3と同様、塗膜に傷を付け、30サイクル(240時間)後、90サイクル(720時間)後における、塗膜の外観(付着性、膨れの有無)、傷の片側最大膨れ幅(耐水性)で修復度合いを評価した。
【0066】
基材としては、軟鋼板「SPCC-SB」(商品名、日本テストパネル(株)製、平面寸法150mm×75mm、厚さ3.2mm)を用い、この表面を耐水ペーパー#240で軽く研磨し、基材面とした。
【0067】
結果を表3に示す。
【0068】
【0069】
表3より、下塗塗料として付着付与剤(シランカップリング剤)を添加した自己修復性塗料を用いることで、ハイソリッド型エポキシ樹脂塗料では、耐水性において有意差が認められる。ガラスフレーク含有エポキシ樹脂塗料(重防食用塗料)では、外観及び耐水性において明確な差が認められる。無溶剤形エポキシ樹脂塗料では有意差が認められない。
また、エポキシ樹脂塗料の中では、自己修復性塗料とハイソリッド型エポキシ樹脂塗料の組合せ、自己修復性塗料と無溶剤形エポキシ樹脂塗料の組合せが良好な結果を示すことが分かる。
【0070】
(実施例5)
実施例2で調製した自己修復性塗料(実施例と同様の付着付与剤を0.5質量%添加)を、基材面に、乾燥膜厚360μmで塗布し、その上に下記4種類の市販のエポキシ樹脂塗料(塗料1~4;参照例)を、其々、乾燥膜厚100~300μmで上塗りした試験片(各3枚)を作成した。
【0071】
塗料1;エポキシフッ素系塗料
塗料2;エポキシシリコン系塗料
塗料3;エポキシシリコン系塗料
塗料4;エポキシウレタンポリウレア系イオンシーリング塗料
【0072】
基材としては、軟鋼板「SPCC-SB」(商品名、日本テストパネル(株)製、平面寸法150mm×75mm、厚さ3.2mm)を用い、この表面を耐水ペーパー#240で軽く研磨し、基材面とした。2枚はクロスカット無し:一般部(No.1、2)、1枚はクロスカット有り:カット部(No.3)とした。
【0073】
<促進防錆試験>
サイクル腐食試験は、JIS K5600-7-9のサイクル腐食試験方法-塩水噴霧/乾燥/湿潤のサイクルAに準拠して実施した。
塩水として、5%塩化ナトリウム水溶液を用い、35±1℃で2時間塩水噴霧、60±1℃、20~30%RHで4時間乾燥、50±2℃、95%RHで2時間湿潤のサイクル試験を実施した。
【0074】
各試験片について、表面のさび、膨れ、割れ、はがれを評価した。
【0075】
<塗膜の防食性>
JIS K 5600-8-3に準拠し、下記の評価基準に従って、さびの面積及びさびの大きさを評価した。
(評価基準)
Ri0(0);さびの面積0%
Ri1;さびの面積0.05%
Ri2;さびの面積0.5%
Ri3;さびの面積1%
Ri4;さびの面積8%
Ri5;さびの面積40~50%
【0076】
<塗膜の膨れ>
JIS K5600-8-2に準拠し、附属書A(規定)校正画像を参照して、膨れの量(密度)と、膨れの大きさを評価した。
(評価基準)
0;試験後の塗膜に膨れが発生していない
【0077】
<塗膜の割れ>
JIS K5600-8-4に準拠し、割れの密度(1~2dm2の試験表面に関して)及び割れの大きさを評価した。
(評価基準)
0;10倍に拡大しても視感できない。
【0078】
<塗膜のはがれ>
JIS K5600-8-5 に準拠し、はがれの面積及びはがれの大きさを評価した。
(評価基準)
0;はがれの面積0%。
【0079】
評価結果をまとめて表4に示す。
【0080】
【0081】
表4より、クロスカット無しの一般部では、自己修復性塗料=塗料3≦塗料4<塗料1<塗料2の順に発錆が多くなる傾向がある。
また、クロスカット有りのカット部では、自己修復性塗料=塗料4<塗料3<塗料1<塗料2の順に発錆が多くなる傾向がある。
すなわち、自己修復性塗料は、従来のエポキシ系、シリコン系、ウレタン系の塗料に比べて、良好な防錆性を示し、特にクロスカット有りの試験片ではクロスカット部周辺の発錆を抑制できることを確認した。
【0082】
<塗膜の耐候性評価>
耐候性試験は、JIS K5400に準拠し、サンシャインウェザオメータ(スガ試験機(株)製)を用い、600時間の促進耐候性試験を行った後、外観観察した。
【0083】
結果を表5に示す。
【0084】
【0085】
表5より、本発明の自己修復性塗料(シランカップリング剤添加)は、耐候性試験で良好な結果を示すことが分かる。
【0086】
すなわち、防錆試験及び耐候性試験の結果(表4、表5)より、発生したキズが自然に回復する自己修復機能と、優れた金属接着性により腐食反応が自然に止まるという機能を併せ持つカテコール基を有する樹脂を塗料の原料とし、エポキシ系やシリコン系塗料と組み合わせることにより、従来の防錆塗料より、耐候性及び防錆性の高い塗装の長寿命化が実現でき、塗装の補修回数の削減が期待される。
本発明の自己修復性塗料及び塗装システムは、鉄塔下塗り塗装、洞道等の補修材、各種コーティング材、火力発電所の煙突塗装、水圧(海水)配管の外面・内面塗装等に広く適用することができる。本発明の自己修復性塗料は、特に下塗り用塗料として有用である。