(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138844
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】正極合剤のスラリーの製造方法及び正極の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/1391 20100101AFI20241002BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20241002BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20241002BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20241002BHJP
【FI】
H01M4/1391
H01M4/62 Z
H01M4/525
H01M4/505
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049548
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 晃
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA02
5H050DA11
5H050DA18
5H050EA24
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA22
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA11
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】スラリーがゲル状になることを抑制できる正極合剤のスラリーの製造方法を提供する。
【解決手段】正極合剤のスラリーは、下記式(I)で表される活物質と、重量平均分子量が100万以上であるポリフッ化ビニリデンの変性体とを含む。スラリーの製造方法は、N-メチル-2-ピロリドン中に二酸化炭素を供給する工程(S1)と、工程(S1)の後のN-メチル-2-ピロリドン、活物質、及びポリフッ化ビニルデンの変性体を混練する工程(S2)とを含む。工程(S2)で用いるN-メチル-2-ピロリドンの二酸化炭素の濃度は70ppm以上である。
Li
(1+x)Ni
yMe
(1-y)O
2 (I)
[式中、0≦x≦0.1及び0.8≦y<1であり、Meは、Mn、Co、Al、及びTiからなる群より選ばれる2種以上を含む。]
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極合剤のスラリーの製造方法であって、
前記スラリーは、下記式(I)で表される活物質と、重量平均分子量が100万以上であるポリフッ化ビニリデンの変性体と、を含み、
前記製造方法は、
N-メチル-2-ピロリドン中に二酸化炭素を供給する工程(S1)と、
前記工程(S1)の後のN-メチル-2-ピロリドン、前記活物質、及び前記ポリフッ化ビニルデンの変性体を混練する工程(S2)と、を含み、
前記工程(S2)で用いるN-メチル-2-ピロリドンの二酸化炭素の濃度は、70ppm以上である、スラリーの製造方法。
Li(1+x)NiyMe(1-y)O2 (I)
[式中、0≦x≦0.1及び0.8≦y<1であり、Meは、Mn、Co、Al、及びTiからなる群より選ばれる2種以上を含む。]
【請求項2】
前記工程(S2)で用いるN-メチル-2-ピロリドンの二酸化炭素の濃度は、100ppm以上300ppm以下である、請求項1に記載のスラリーの製造方法。
【請求項3】
前記工程(S2)は、50℃以下の温度条件下で行う、請求項1に記載のスラリーの製造方法。
【請求項4】
前記工程(S2)は、二酸化炭素の濃度が10体積%以上の雰囲気下で行う、請求項1に記載のスラリーの製造方法。
【請求項5】
前記工程(S1)は、N-メチル-2-ピロリドンを二酸化炭素でバブリングする工程である、請求項1に記載のスラリーの製造方法。
【請求項6】
正極合剤のスラリーの製造方法であって、
前記スラリーは、下記式(I)で表される活物質と、重量平均分子量が100万以上であるポリフッ化ビニリデンの変性体と、を含み、
前記製造方法は、二酸化炭素の濃度が10体積%以上の雰囲気下で、N-メチル-2-ピロリドン、前記活物質、及び前記ポリフッ化ビニルデンの変性体を混練する工程(S3)を含む、スラリーの製造方法。
Li(1+x)NiyMe(1-y)O2 (I)
[式中、0≦x≦0.1及び0.8≦y<1であり、Meは、Mn、Co、Al、及びTiからなる群より選ばれる2種以上を含む。]
【請求項7】
前記工程(S3)は、50℃以下の温度条件下で行う、請求項6に記載のスラリーの製造方法。
【請求項8】
集電体と、前記集電体上に形成された活物質層と、を有する正極板の製造方法であって、
請求項1~7のいずれか1項に記載の正極合剤のスラリーの製造方法によってスラリーを製造する工程と、
前記集電体上に、前記スラリーを塗布し乾燥する工程と、を含む、正極板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極合剤のスラリーの製造方法及び正極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池では、正極板の活物質層に含まれる正極活物質として、リチウムとニッケル等の遷移金属との複合酸化物を用いることがある。正極板の活物質層を形成する際には、複合酸化物及びバインダを含むスラリーを調製する。複合酸化物の粒子表面に含まれるLiO2は、水と反応してLiOHを形成するため、スラリーがアルカリ性となり、バインダが三次元化してスラリーがゲル化することが知られている(例えば、特許文献1及び2)。
【0003】
特許文献1には、スラリーのゲル化を抑制するために、乾燥条件下で複合酸化物と二酸化炭素とを接触させてLiOHを中和することが開示されている。特許文献2には、水に分散したときのpHが特定の範囲内となる複合酸化物を用いることにより、スラリーのpHがアルカリ性になることを抑制することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-3891号公報
【特許文献2】特開2000-90917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されている方法では、複合酸化物の表面のLiOHと二酸化炭素とが反応するが、複合酸化物の内部に存在するリチウム(Li)も二酸化炭素と反応してしまう。この反応の生成物として炭酸リチウム(LiCO3)及び水が多く発生することになるため、特許文献1に記載のスラリーを用いて作製した電池セルは、ガスが発生しやすい。特許文献2に開示されている方法では、水に分散したときのpHが特定の範囲となる複合酸化物を選定する必要がある。
【0006】
本開示は、スラリーがゲル状になることを抑制できる新規な正極合剤のスラリーの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
〔1〕 正極合剤のスラリーの製造方法であって、
前記スラリーは、下記式(I)で表される活物質と、重量平均分子量が100万以上であるポリフッ化ビニリデンの変性体と、を含み、
前記製造方法は、
N-メチル-2-ピロリドン中に二酸化炭素を供給する工程(S1)と、
前記工程(S1)の後のN-メチル-2-ピロリドン、前記活物質、及び前記ポリフッ化ビニルデンの変性体を混練する工程(S2)と、を含み、
前記工程(S2)で用いるN-メチル-2-ピロリドンの二酸化炭素の濃度は、70ppm以上である、スラリーの製造方法。
Li(1+x)NiyMe(1-y)O2 (I)
[式中、0≦x≦0.1及び0.8≦y<1であり、Meは、Mn、Co、Al、及びTiからなる群より選ばれる2種以上を含む。]
〔2〕 前記工程(S2)で用いるN-メチル-2-ピロリドンの二酸化炭素の濃度は、100ppm以上300ppm以下である、〔1〕に記載のスラリーの製造方法。
〔3〕 前記工程(S2)は、50℃以下の温度条件下で行う、〔1〕又は〔2〕に記載のスラリーの製造方法。
〔4〕 前記工程(S2)は、二酸化炭素の濃度が10体積%以上の雰囲気下で行う、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のスラリーの製造方法。
〔5〕 前記工程(S1)は、N-メチル-2-ピロリドンを二酸化炭素でバブリングする工程である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のスラリーの製造方法。
〔6〕 正極合剤のスラリーの製造方法であって、
前記スラリーは、下記式(I)で表される活物質と、重量平均分子量が100万以上であるポリフッ化ビニリデンの変性体と、を含み、
前記製造方法は、二酸化炭素の濃度が10体積%以上の雰囲気下で、N-メチル-2-ピロリドン、前記活物質、及び前記ポリフッ化ビニルデンの変性体を混練する工程(S3)を含む、スラリーの製造方法。
Li(1+x)NiyMe(1-y)O2 (I)
[式中、0≦x≦0.1及び0.8≦y<1であり、Meは、Mn、Co、Al、及びTiからなる群より選ばれる2種以上を含む。]
〔7〕 前記工程(S3)は、50℃以下の温度条件下で行う、〔6〕に記載のスラリーの製造方法。
〔8〕 集電体と、前記集電体上に形成された活物質層と、を有する正極板の製造方法であって、
〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の正極合剤のスラリーの製造方法によってスラリーを製造する工程と、
前記集電体上に、前記スラリーを塗布し乾燥する工程と、を含む、正極板の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、正極合剤のスラリーがゲル状になることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態の正極合剤のスラリーの製造方法を示すフローチャートである。
【
図2】他の実施形態の正極合剤のスラリーの製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔実施形態1〕
(正極合剤のスラリーの製造方法(1))
図1は、実施形態の正極合剤のスラリーの製造方法を示すフローチャートである。本実施形態の正極合剤のスラリー(以下、「スラリー(1)」ともいう。)の製造方法は、非水電解質二次電池(以下、「電池」ともいう。)用の正極合剤のスラリーを製造する方法である。スラリー(1)は、電池の正極板の活物質層を形成するために用いることができる。
【0011】
スラリー(1)は、式(I)で表される活物質(以下、「活物質(I)」ともいう。)と、重量平均分子量が100万以上であるポリフッ化ビニリデンの変性体(以下、「PVDF変性体」ともいう。)と、を含む。
Li(1+x)NiyMe(1-y)O2 (I)
[式中、0≦x≦0.1及び0.8≦y<1であり、Meは、Mn、Co、Al、及びTiからなる群より選ばれる2種以上を含む。]
【0012】
スラリー(1)の製造方法は、
N-メチル-2-ピロリドン(以下、「NMP」ともいう。)中に二酸化炭素(以下、「CO2」ともいう。)を供給する工程(S1)と、
工程(S1)の後のNMP、活物質(I)、及びPVDF変性体を混練する工程(S2)と、を含む。工程(S2)で用いるN-メチル-2-ピロリドンのCO2の濃度は、70ppm以上である。
【0013】
活物質(I)は、正極板の活物質に用いられることにより電池の高容量化を図ることができる。活物質(I)の粒子表面には不純物としてLiO2が存在することがある。このLiO2がスラリー中に存在する水分と反応すると水酸化リチウム(LiOH)が形成され、スラリーがアルカリ性になりやすい。PVDF変性体はアルカリ性のスラリー中でゲル化しやすい。スラリー(1)の製造方法では、工程(S1)においてNMPにCO2を供給し、工程(S2)において、CO2の濃度が70ppm以上であるNMP、活物質(I)、及びPVDF変性体を混練している。これにより、LiOHがNMP中のCO2と反応し、炭酸リチウム(LiCO3)及び水が生成されるため、スラリー(1)がアルカリ性になりにくい。その結果、PVDF変性体がゲル化することを抑制し、スラリー(1)がゲル状になり、高粘度化することを抑制できる。
【0014】
活物質(I)表面のLiOHを中和する方法として、後述する比較例に示すように、CO2が供給されたNMPを用いることに代えて、混練前の活物質(I)をCO2雰囲気下に置く方法も考えられる。しかし、この方法では、CO2が活物質(I)内部のリチウム(Li)とも反応しやすくなり、比較的多くのLiCO3及び水が生成するため、電池からガスが発生しやすくなると考えられる。これに対し、スラリー(1)は、CO2を含むNMPと活物質(I)とを混練して製造されるため、活物質(I)表面のLiOHがCO2と反応するが、活物質(I)の内部のLiとは反応しにくいと考えられる。そのため、スラリー(1)を用いて正極板を作成し、この正極板を電池に適用した場合に、電池からガスが発生することを抑制することができる。
【0015】
工程(S1)は、NMP中にCO2を供給することができればその方法は特に限定されない。例えば、NMPをCO2でバブリングする方法であってもよく、NMP中にCO2を供給しながら撹拌する方法であってもよい。工程(S1)でNMP中に供給するCO2の量は、活物質(I)の種類、PVDF変性体の種類、及びスラリー(1)中のこれらの含有量等に応じて設定すればよい。例えば、工程(S2)の混練に用いるNMPに含まれるCO2の濃度が後述する範囲となるように、NMPにCO2を供給してもよい。NMP中のCO2の濃度は、例えばCO2の供給量、供給速度、及び供給時間等によって調整することができる。
【0016】
工程(S2)で用いるNMP中のCO2の濃度は、70ppm以上であってもよく、好ましくは100ppm以上300ppm以下であり、120ppm以上280ppm以下であってもよく、150ppm以上250ppm以下であってもよい。NMP中のCO2の濃度が上記した範囲内であることにより、PVDF変性体がゲル化することを抑制しやすくなるため、スラリー(1)がゲル状になることを抑制しやすい。
【0017】
工程(S2)を行う温度条件は、好ましくは50℃以下であり、45℃以下であってもよく、40℃以下であってもよく、通常15℃以上である。工程(S2)を行う温度条件を上記の範囲とすることにより、PVDF変性体が熱劣化することを抑制できる。
【0018】
工程(S2)を行う雰囲気のCO2の濃度は、10体積%以上であってもよく、20体積%以上100体積%以下であってもよく、30体積%以上50体積%以下であってもよい。工程(S2)を行う雰囲気は、例えば混練を行う混練釜内の雰囲気である。工程(S2)を行う雰囲気のCO2の濃度は、例えば、後述する実施形態で説明する方法によって調整することができる。CO2の濃度は、二酸化炭素濃度計を用いて測定することができる。
【0019】
工程(S2)は、活物質(I)とPVDF変性体とを乾式で混合して混合物(1)を得る工程、及び、工程(S1)の後のNMPと混合物(1)とを混練して混練物(1)を得る工程と、を含んでいてもよい。
【0020】
スラリー(1)の製造方法は、さらに、NMPと導電材とを混合して導電ペースト(1)を得る工程を含んでいてもよい。この場合、スラリー(1)の製造方法は、上記した混練物(1)と導電ペースト(1)とを混練する工程を含んでいてもよい。導電ペースト(1)を得るために用いるNMPは、好ましくは工程(S1)の後のNMPである。
【0021】
活物質(I)は、上記式(I)で表される化合物であればよい。式(I)中、xは、0.01≦x≦0.09であってもよく、0.03≦x≦0.08であってもよく、0.05≦x≦0.07であってもよい。式(I)中、yは、0.81≦y≦0.98であってもよく、0.82≦y≦0.95であってもよく、0.83≦y≦0.90であってもよい。式(I)中、Meは、好ましくはMn、Co、及びAlからなる群より選ばれる2種以上であり、より好ましくはMn、Co、及びAlの3つを含む、又は、Mn及びCoの2つを含む。活物質(I)の組成は、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分析により求めることができる。
【0022】
活物質(I)は例えば、Li(1+0.07)Ni0.81Co0.05Mn0.12Al0.02O2及びLi(1+0.01)Ni0.83Co0.12Mn0.05O2のうちの少なくとも一方が挙げられる。
【0023】
工程(S2)の混練を行う前の活物質(I)中のLiOHの含有量は、例えば0.01質量%以上0.4質量%以下であってもよく、0.05質量%以上0.25質量%以下であってもよく、0.1質量%以上0.23質量%以下であってもよい。活物質(I)中のLiOHの含有量は、中和滴定によって求めることができる。
【0024】
スラリー(1)は、1種又は2種以上の活物質(I)を含んでいてもよく、活物質(I)以外の正極活物質を含んでいてもよい。スラリー中の活物質(I)の含有量は、スラリー中の正極活物質の総量に対して、好ましくは95質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは95質量%以上99質量%以下であり、96質量%以上98質量%以下であってもよい。2種以上の活物質(I)を含む場合、活物質(I)の含有量はその合計量をいう。
【0025】
スラリー(1)中の正極活物質(活物質(I)を含む。)の含有量は、スラリー(1)の固形分に対して、例えば80質量%以上99質量%以下であり、85質量%以上98質量%以下であってもよく、90質量%以上97質量%以下であってもよい。2種以上の正極活物質を含む場合、正極活物質の含有量はその合計量をいう。
【0026】
PVDF変性体の重量平均分子量は、100万以上であればよく、105万以上200万以下であってもよく、110万以上150万以下であってもよい。PVDF変性体の重量平均分子量は、GPC法(gel permeation chromatography)によって測定することができる。重量平均分子量が上記の範囲にあるPVDF変性体を用いることにより、少量でスラリー(1)にチクソ性を付与することができ、スラリー(1)中に分散又は溶解させやすい。また、集電体にスラリー(1)を塗布したときの密着強度を確保できる。
【0027】
PVDF変性体は、ポリフッ化ビニリデン(以下、「PVDF」ともいう。)を脱フッ素化して極性官能基等の官能基を導入したものである。PVDFは、単独重合体であってもよく、フッ化ビニリデンと、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン等のフッ化ビニリデン以外のフッ素化合物と共重合体であってもよい。極性官能基は、例えば、水酸基(-OH)、フッ化カルボニル基(-COF)、カルボキシル基(-COOH)、酸無水物基、アクリレート基(-CH2=CHCOOH)、及び、グリシジルメタクリレート基(-CH2C(CH3)COOCH2(CHCH2O))からなる群より選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
【0028】
スラリー(1)中のPVDF変性体の含有量は、スラリー(1)の固形分に対して、例えば0.5質量%以上10質量%以下であり、1質量%以上8質量%以下であってもよく、1質量%以上5質量%以下であってもよい。
【0029】
スラリー(1)中のNMPの含有量は、スラリー(1)の総量に対して、例えば3質量%以上40質量%以下であり、5質量%以上30質量%以下であってもよく、8質量%以上20質量%以下であってもよい。
【0030】
スラリー(1)は、活物質(I)等の正極活物質のほか、上記した導電材、及び、PVDF変性体以外のバインダ等を含んでいてもよい。
【0031】
導電材は、例えば炭素材料が挙げられる。炭素材料は、例えば繊維状炭素、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック等)、コークス、及び、活性炭からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。繊維状炭素としては、カーボンナノチューブ(CNT)が挙げられる。CNTは、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)であってもよく、2層カーボンチューブ(DWCNT)等の多層カーボンナノチューブであってもよい。導電材は、スラリー(1)の固形分に対して、例えば1質量%以上5質量%以下であってもよく、1.5質量%以上3質量%以下であってもよい。
【0032】
バインダは、例えばスチレンブタジエンゴム(SBR)、未変性のPVDF、及び、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
【0033】
〔実施形態2〕
(正極合剤のスラリーの製造方法(2))
図2は、他の実施形態の正極合剤のスラリーの製造方法を示すフローチャートである。本実施形態の正極合剤のスラリー(以下、「スラリー(2)」ともいう。)の製造方法は、電池用の正極合剤のスラリーを製造する方法である。スラリー(2)は、電池の正極板の活物質層を形成するために用いられる。
【0034】
スラリー(2)は、活物質(I)及び重量平均分子量が100万以上であるPVDF変性体を含む。活物質(I)及びPVDF変性体としては上記したものが挙げられる。活物質(I)中のLiOHの含有量及びPVDF変性体の重量平均分子量は、例えば上記した範囲である。スラリー(2)中の活物質(I)、PVDF変性体、及びNMPの含有量は、スラリー(1)で説明したこれらの含有量の範囲とすることができる。
【0035】
スラリー(2)の製造方法は、CO2の濃度が10体積%以上の雰囲気下で、NMP、活物質(I)、及びPVDF変性体を混練する工程(S3)を含む。
【0036】
上記したように、活物質(I)を用いるとスラリーがアルカリ性になりやすく、PVDF変性体のゲル化を引き起こしやすい。スラリー(2)の製造方法では、CO2の濃度が10体積%以上の雰囲気下において、NMP、活物質(I)、及びPVDF変性体を混練するため、スラリー中に発生したLiOHとCO2とが反応することができる。これにより、LiOHが消費されてLiCO3及び水が生成されるため、PVDF変性体がゲル化することを抑制し、スラリー(1)がゲル状になることを抑制できる。また、スラリー(2)を用いて作製した正極板を有する電池セルにおいて、ガスが発生することを抑制することもできる。
【0037】
工程(S3)を行う雰囲気のCO2の濃度は、10体積%以上であってもよく、10体積%以上100体積%以下であってもよく、20体積%以上90体積%以下であってもよく、30体積%以上50体積%以下であってもよく、100体積%であってもよい。工程(S3)を行う雰囲気は、例えば混練を行う混練釜内の雰囲気である。CO2の濃度は、二酸化炭素濃度計を用いて測定することができる。
【0038】
工程(S3)を行う雰囲気は、例えば、混練釜内を減圧又は真空にした後、混練釜内にCO2を供給することによって調整することができる。混練釜内のCO2の濃度は、例えば、混練釜内を減圧したときの混練釜内の圧力を調整することによって調整することができる。
【0039】
工程(S3)を行う温度条件は、好ましくは50℃以下であり、45℃以下であってもよく、40℃以下であってもよく、通常15℃以上である。工程(S3)を行う温度条件を上記の範囲とすることにより、PVDF変性体が熱劣化することを抑制できる。
【0040】
工程(S3)は、活物質(I)とPVDF変性体とを乾式で混合して混合物(2)を得る工程、及び、NMPと混合物(2)とを混練して混練物(2)を得る工程と、を含んでいてもよい。工程(S3)で用いるNMPは、上記した実施形態で説明したCO2を供給する処理を行っていなくてもよく、行われていてもよい。
【0041】
スラリー(2)の製造方法は、さらに、NMPと導電材とを混合して導電ペースト(2)を得る工程を含んでいてもよい。この場合、スラリー(2)の製造方法は、上記した混練物(2)と導電ペースト(2)とを混練する工程を含んでいてもよい。導電ペースト(2)を得るために用いるNMPは、上記した実施形態で説明したCO2を供給する処理を行っていなくてもよく、行われていてもよい。
【0042】
スラリー(2)は、活物質(I)等の正極活物質のほか、導電材、及び、PVDF変性体以外のバインダ等を含んでいてもよい。導電材及びバインダについては、上記したものが挙げられる。
【0043】
(正極板の製造方法)
上記した製造方法で製造されたスラリー(1)及び(2)は、正極板の活物質層を形成するために用いることができる。正極板の製造方法は、集電体と、前記集電体上に形成された活物質層と、を有する正極板の製造方法であり、例えば、
上記したスラリーの製造方法で製造したスラリー(1)又は(2)を得る工程と、
集電体上に、スラリー(1)又は(2)を塗布し、乾燥する工程と、を含むことができる。
【0044】
スラリー(1)又は(2)は、集電体の片面に塗布してもよく、両面に塗布してもよい。集電体上に塗布し、乾燥したスラリー(1)又は(2)は、必要に応じて圧縮されてもよい。
【0045】
スラリー(1)及び(2)はゲル状になりにくく高粘度化しにくいため、集電体上に塗布する際の取り扱い性に優れる。上記の製造方法によって製造された正極板を用いることにより、ガスの発生が抑制された電池セルを得ることができる。
【0046】
(非水電解質二次電池)
電池は、上記したスラリーの製造方法で製造したスラリー(1)又は(2)を用いて形成された正極板を備えることができる。正極板は、例えば上記した製造方法によって製造することができる。
【0047】
電池は通常、電極体と電解質とを含む。電池はさらに、電極体と電解質とを収容するケースを含むことができる。電極体とケースとの間には、電極ホルダーとしての樹脂シートが配置されていてもよい。
【0048】
電極体は、上記した正極板、負極板、正極板と負極板との間に介在するセパレータを有することができる。電極体は、巻回型であってもよく、積層型であってもよい。
【0049】
負極は、負極集電体と、負極集電体上に形成された負極活物質層とを有することができる。負極集電体は、例えば、銅及び銅合金等の銅材料を用いて構成された金属箔である。負極活物質層は、負極活物質を含み、さらに結着材及び導電助剤のうちの一方又は両方を含んでいてもよい。
【0050】
負極活物質としては、黒鉛(グラファイト)等の炭素(C)原子を含む炭素系活物質;ケイ素(Si)、錫(Sn)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)からなる群から選択される元素を含む金属単体又は金属酸化物等の金属元素を含む金属系活物質が挙げられる。結着材としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)等のセルロース系結着材、スチレンブタジエンゴム(SBR)、等が挙げられる。導電助剤としては、繊維状炭素、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック)、コークス、活性炭等の炭素材料が挙げられる。繊維状炭素は、上記で説明したものが挙げられる。
【0051】
セパレータとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂からなる多孔質シート(フィルム、不織布等)が挙げられる。多孔質シートは、単層構造であってもよく、2層以上の多層構造であってもよい。セパレータは、多孔質シートの表面に機能層を有していてもよい。機能層は、耐熱層、並びに、正極板及び負極板に接着するための接着層のうちの少なくとも一方が挙げられる。
【0052】
電解質は、非水電解液が挙げられ、例えば、有機溶媒等の非水溶媒中に支持塩を含有させたものが挙げられる。非水溶媒としては例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、及びジエチルカーボネート(DEC)等が挙げられる。支持塩としては例えば、過塩素酸リチウム(LiClO4)及び六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)等が挙げられる。
【0053】
ケースは、電極体を収容する筐体である。ケースは、好ましくは金属製であり、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、鉄、又は鉄合金等を用いて形成できる。
【実施例0054】
以下、実施例及び比較例を示して本開示をさらに具体的に説明する。
〔比較例1〕
(スラリーの調製)
活物質(I)として、Li(1+0.07)Ni0.81Co0.05Mn0.12Al0.02O2及びLi(1+0.01)Ni0.83Co0.12Mn0.05O2を、7:3の質量比で準備した。この活物質(I)及びPVDF変性体(重量平均分子量:110万)を密閉式の混練釜中で乾式混合した後、25~50℃の条件下で、NMPを添加して、固形分比率が87~92%の範囲となるように混練した。次に、導電材がNMP中に分散されている導電ペーストを加えて混練し、スラリーを得た。
【0055】
(正極板の作製)
集電体の両面に、上記で調製したスラリーを塗布して乾燥し、圧縮することにより活物質層を形成し、集電体及び活物質層を含む正極板を得た。
【0056】
(負極板の作製)
負極集電体上に、負極活物質として天然黒鉛を含む負極活物質層を形成して負極板を得た。
【0057】
(電池セルの作製)
上記で作製した正極板及び負極板、並びにセパレータを用いて電極体を作成した。電極体及び電解質を用いて、エネルギー密度が650Wh/Lとなる電池セルを作製した。
【0058】
〔比較例2及び実施例1~3〕
NMPをCO2でバブリングすることにより、表1に示すCO2の濃度のNMPを得た。NMP中のCO2の濃度は、1LのNMPに対して、CO2を100cc/minで供給しながらバブリングする時間を調整することにより調整した。バブリングする時間は、1分間(比較例2)、2分間(実施例1)、5分間(実施例2)、10分間(実施例3)とした。NMPとして、表1に示すCO2の濃度に調整したNMPを用いたこと以外は、比較例1に記載の方法と同様にして、正極合剤のスラリーを得、正極板、負極板、及び電池を作製した。
【0059】
〔比較例3及び参考例1〕
CO2雰囲気下に活物質(I)を置き、活物質(I)表面のLiOHを中和し、表1に示すLiOH及びLi2CO3の含有量を調整した。表1に示すLiOH及びLi2CO3の含有量に調整した活物質を用いたこと以外は、比較例1に記載の方法と同様にして、正極合剤のスラリーを得、正極板、負極板、及び電池を作製した。
【0060】
〔比較例4、実施例4及び5〕
混練釜を減圧した後、CO2を供給することにより、混練釜内をCO2雰囲気とした。混練釜中のCO2の濃度は、混練釜を減圧したときの混練釜内の圧力を、大気圧に対してそれぞれ-1kPa(比較例5)、-10kPa(実施例4、混練釜の圧力は絶対値で90kPa)、-100kPa(実施例5、混練釜の圧力は絶対値で1kPa)に調整することによって調整した。表1に示すCO2濃度に調整した混練釜内で混練を行ったこと以外は、比較例1に記載の方法と同様にして、正極合剤のスラリーを得、正極板、負極板、及び電池を作製した。
【0061】
[活物質の組成]
活物質(I)の組成は、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分析により求めた。
【0062】
[活物質のLiOH及びLi2CO3の含有量]
PVDF変性体及びNMPと混練する前の活物質(比較例3及び参考例1については、CO2で中和した活物質)について、中和滴定によりLiOH及びLi2CO3の含有量を求めた。結果を表1に示す。
【0063】
[重量平均分子量の測定]
PVDF変性体の重量平均分子量は、GPC法(gel permeation chromatography)によって測定した。
【0064】
[NMP中のCO2の濃度]
PVDF変性体及び活物質と混練する前のNMP(比較例2及び実施例1~3については、バブリング後のNMP)中のCO2の濃度は次の手順で算出した。密閉容器内に入れたNMPに塩酸を加えることにより、NMP中に溶存したCO2を脱離させ、密閉容器の空間中のガスをガスクロマトクロフィーを用いて分析し、CO2の濃度を算出した。25℃において、密閉容器内のNMPの体積を100としたとき、密閉容器内の残りの空間(NMPが占有していない空間)の体積を500とし、塩酸の体積を1とした。結果を表1に示す。
【0065】
[混練釜中のCO2の濃度]
混練釜中のCO2の濃度は、二酸化炭素濃度計を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0066】
[スラリーの評価]
スパイラル粘度計を用い、25℃において調製直後のスラリーの粘度を測定し、これを初期の粘度とした。調製から7日後のスラリーについて、上記と同様にして粘度を測定し、これを保管後の粘度とした。保管後の粘度が、初期の粘度に対して±20%以内である場合を「A」と評価し、初期の粘度に対して±20%を超える場合を「B」と評価した。結果を表1に示す。
【0067】
[ガスの発生量の測定]
実施例及び比較例で作製した電池セルを活性化し、電池セルを定寸に拘束して内圧を測定した。電圧を4.2V、温度を60℃とした状態で60日間保存する保存耐久試験後の電池セルの内圧を、比較例1の保存耐久試験後の電池セルの内圧を100(基準)としたときの相対値として算出した。結果を表1に示す。
【0068】
【0069】
表1より、実施例1~3で得たスラリーは、NMPにCO2を供給した後、活物質(I)及びPVDF変性体と混練しているため、ゲル状になりにくく、電池からのガスの発生量を抑制できたと考えられる。これに対し、比較例1は、CO2を供給していないNMPを用い、比較例2はCO2を供給したものの供給量が少なかったため、ゲル状になったと考えられる。比較例3及び参考例1では、混練前の活物質(I)中のLiOHをCO2で中和する処理を行ったため、参考例1ではスラリーがゲル状になることを抑制できたが、比較例3及び参考例1のいずれにおいても電池からガスが発生した。
【0070】
表1より、実施例4及び5で得たスラリーは、CO2の濃度が10体積%以上である混練釜中で混練を行ったため、ゲル状になりにくく、電池からのガスの発生量を抑制できたと考えられる。これに対し、比較例4で得たスラリーは、CO2の濃度が1体積%である混練釜中で混練を行ったため、ゲル状になったと考えられる。