(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138851
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】無糖炭酸飲料
(51)【国際特許分類】
A23L 2/00 20060101AFI20241002BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
A23L2/00 T
A23L2/52
A23L2/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049561
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】596126465
【氏名又は名称】アサヒ飲料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】松岡 修平
(72)【発明者】
【氏名】山田 彩子
(72)【発明者】
【氏名】岡 慶太
【テーマコード(参考)】
4B117
【Fターム(参考)】
4B117LC03
4B117LC14
4B117LE10
4B117LK04
4B117LK06
4B117LP18
(57)【要約】
【課題】β-ダマセノンを含有する柑橘風味の無糖炭酸飲料において、飲んだときに感じられる人工感を低減できる新規な技術を提供する。
【解決手段】 β-ダマセノンと、オクタナールとを含有し、β-ダマセノンの含有量をX ppt、オクタナールの含有量をY ppbとする場合に(a) 20 ≦ Xおよび(b) 1 ≦ Y/X ≦100の関係を満足する、柑橘風味を有する無糖炭酸飲料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
β-ダマセノンと、
オクタナールとを含有し、
β-ダマセノンの含有量をX ppt、オクタナールの含有量をY ppbとする場合に以下の(a)および(b)の関係を満足する、柑橘風味を有する無糖炭酸飲料。
(a)20 ≦ X
(b)1 ≦ Y/X ≦100
【請求項2】
レモン風味を有する、請求項1に記載の無糖炭酸飲料。
【請求項3】
(c)X≦200をさらに満足する、請求項1または2に記載の無糖炭酸飲料。
【請求項4】
β-ダマセノンを20 ppt以上含有し、柑橘風味を有する無糖炭酸飲料において、β-ダマセノンの含有量をX ppt、オクタナールの含有量をY ppbとする場合に1 ≦ Y/X ≦100を満足するようにオクタナールを含有させることを含む、人工感を低減させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は糖類を実質的に含有しない炭酸飲料(無糖炭酸飲料)に関し、特に柑橘風味の無糖炭酸飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸飲料は、飲料に二酸化炭素(炭酸ガス)を溶存させた飲料であり、飲用時には溶存している炭酸ガスが発泡し、刺激感や爽快感を感じさせる。この特徴から、炭酸飲料は、嗜好性の高い飲料として広く認知されている。
【0003】
近年は、健康志向の高まりから、糖類を含まない無糖炭酸飲料も販売されている。一般的には、糖類を含まない無糖炭酸飲料は、炭酸水とも称されている。
【0004】
また、無糖炭酸飲料の中には、柑橘風味(柑橘の果実を想起させる味や香り)を有する無糖炭酸飲料が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、β-ダマセノンを含有する柑橘風味の無糖炭酸飲料において、飲んだときに感じられる人工感を低減できる新規な技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
無糖炭酸飲料では炭酸由来の苦味が感じられる傾向があるが、β-ダマセノンを一定濃度配合することで苦味を抑制することができる。一方で、β-ダマセノンを20 ppt以上配合すると、柑橘風味を有する無糖炭酸飲料において人工感が感じられるようになった。
なお、本明細書でいう人工感とは、柑橘風味を有することを前提として飲用した際に、柑橘果実を食したときには感じられない香水、シャンプー等のフレグランスのような異味が感じられることをいう。
本発明者は鋭意研究の結果、オクタナールをβ-ダマセノンとの所定の関係を満足するようにして含有させることで、飲んだときに感じられる人工感を低減できることを見出した。
【0008】
本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]
β-ダマセノンと、
オクタナールとを含有し、
β-ダマセノンの含有量をX ppt、オクタナールの含有量をY ppbとする場合に以下の(a)および(b)の関係を満足する、柑橘風味を有する無糖炭酸飲料。
(a)20 ≦ X
(b)1 ≦ Y/X ≦100
[2]
レモン風味を有する、[1]に記載の無糖炭酸飲料。
[3]
(c)X≦200をさらに満足する、[1]または[2]に記載の無糖炭酸飲料。
[4]
β-ダマセノンを20 ppt以上含有し、柑橘風味を有する無糖炭酸飲料において、
β-ダマセノンの含有量をX ppt、オクタナールの含有量をY ppbとする場合に1 ≦ Y/X ≦100を満足するようにオクタナールを含有させることを含む、人工感を低減させる方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、β-ダマセノンを含有する柑橘風味の無糖炭酸飲料において、飲んだときに感じられる人工感を低減できる新規な技術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の1つの実施形態について、詳細に説明する。
本実施形態は柑橘風味を有する無糖炭酸飲料(以下、単に柑橘無糖炭酸飲料、ともいう)に関する。本実施形態の柑橘無糖炭酸飲料は、β-ダマセノンと、オクタナールとを含有し、β-ダマセノンの含有量をX ppt、オクタナールの含有量をY ppbとする場合に以下の(a)および(b)の関係を満足する。
(a)20 ≦ X
(b)1 ≦ Y/X ≦100
【0011】
本明細書において炭酸飲料とは、飲料中に溶存している二酸化炭素(炭酸ガス)を含有する飲料をいう。
本明細書において無糖炭酸飲料とは、糖類を実質的に含まない炭酸飲料をいう。無糖炭酸飲料は、炭酸水とも称されている。
健康増進法に基づく栄養表示基準においては、飲料100mlあたり0.5g未満であれば無糖と表示することができる。本明細書においても当該規定と同様に糖類の含有量が100mlあたり0.5g未満を無糖炭酸飲料といい、好ましくは飲料100mL中0.0gである。糖類とは、果糖ぶどう糖液糖や砂糖などの単糖類および二糖類をいう。なお、特に限定されないが、糖類以外の甘味料、例えばアスパルテームなどの高甘味度甘味料についても含有しないことが好ましい。
【0012】
また、本明細書において、柑橘風味を有する無糖炭酸飲料とは、飲んだときに柑橘果実を想起させる風味(味および香り)を有する無糖炭酸飲料を意味する。
なお、特に限定されるものではないが、本実施形態の無糖炭酸飲料は、柑橘風味とは異なる他の風味を有していないことが好ましい。柑橘風味とは異なる他の風味としては、例えば、スパイス風味、乳風味、柑橘果実以外の果実を想起させる風味等を挙げることができる。
【0013】
本明細書において柑橘類とは、ミカン科ミカン亜科に属する植物の果実を意味する。具体的な柑橘類としては、ライム、オレンジ、レモン、グレープフルーツ、スウィーティー、みかん、ゆず、かぼす、すだち、シークヮーサーなどが挙げられる。
柑橘風味は、例えば無糖炭酸飲料に柑橘香料(柑橘フレーバー)を添加することで付与することができる。具体的な柑橘フレーバーとしては、ライムフレーバー、オレンジフレーバー、レモンフレーバー、グレープフルーツフレーバー、スウィーティーフレーバー、みかんフレーバー、ゆずフレーバー、かぼすフレーバー、すだちフレーバー、シークヮーサーフレーバーなどが例示される。
【0014】
ここで、本発明の構成を適用することで他の柑橘風味と比較して人工感をより低減できるため、本実施形態の無糖炭酸飲料はレモン風味を有することが好ましい。上述のとおりレモン風味は例えばレモンフレーバーの添加により付与することができ、レモンフレーバーとしては、シトラールなどを例示できる。
【0015】
本実施形態の柑橘無糖炭酸飲料は、β-ダマセノンを含有する。
β-ダマセノンは、1-(2,6,6-トリメチルシクロヘキサ-1,3-ジエン-1-イル)-2-ブテン-1-オンとも称される化合物である。
本実施形態の柑橘無糖炭酸飲料において、β-ダマセノンは20 ppt以上含有される。また、人工感低減の観点からβ-ダマセノンの含有量は200 ppt以下が好ましく、さらに飲料のおいしさの観点から100 ppt以下が好ましい。
【0016】
また、本実施形態の柑橘無糖炭酸飲料は、β-ダマセノンに加えてオクタナールを含有する。
オクタナールとは、カプリルアルデヒドとも称される化合物である。
本実施形態の柑橘無糖炭酸飲料において、オクタナールの含有量は特に限定されず、当業者が適宜設定できるが、人工感低減の観点から50 ppb以上4000 ppb以下が好ましく、より好ましくは80 ppb以上4000 ppb以下、さらにより好ましくは400 ppb以上2000 ppb以下である。
【0017】
また、本実施形態の柑橘無糖炭酸飲料は、β-ダマセノンの含有量をX ppt、オクタナールの含有量をY ppbとする場合に1 ≦ Y/X ≦100との関係を満足する。また、人工感低減およびおいしさの観点から、5≦ Y/X ≦70 を満足することが好ましい。
【0018】
なお、β-ダマセノンおよびオクタナールの含有量は例えば飲料の原材料から算出することで得ることができる。
また、β-ダマセノンの含有量は、例えばGC/MS測定によって得ることもできる。条件の一例を以下に示す。
GERSTEL社製MPSとTwisterを用いるSBSE(Stir Bar Sorptive Extraction)法によるGC/MS測定
GC:Agilent Technologies社製 7890B
MS:Agilent Technologies社製 5977B
カラム:DB-WAX UI 0.25mm×30m×0.25μm
MS条件:SIMモード
定量イオン:β-damascenone m/z=190
温度条件:35℃(2分)→10℃/分→240℃(5分)
キャリアガス流量:He 1ml/分
注入法:溶媒ベント
イオン源温度:230℃
【0019】
また、オクタナールの含有量も、例えばGC/MS測定によって得ることができる。条件の一例を以下に示す。
SPME-Arrow法によるGC/MS測定
GC:Agilent Technologies社製 8890
MS:Agilent Technologies社製 5977B
SPME-Arrowファイバー:DVB/PDMS
カラム:DB-WAX UI 0.25mm×60m×0.25μm
MS条件:Scanモード
定量イオン:octanal m/z=84
温度条件:40℃(5分)→8℃/分→240℃(5分)
キャリアガス流量:He 1ml/分
注入法:スプリット
イオン源温度:230℃
【0020】
本実施形態の柑橘無糖炭酸飲料は、二酸化炭素(炭酸ガス)、β-ダマセノンおよびオクタナールに加え、本発明の目的を達成することができる範囲内において他の成分を含んでもよく、特に限定されない。
他の成分としては、例えば、消泡剤、酸味料、炭酸水素ナトリウムやクエン酸ナトリウムやリン酸ナトリウムや塩化ナトリウムなどのナトリウム塩、硫酸マグネシウムなどのマグネシウム塩、リン酸カリウムなどのカリウム塩、塩化カルシウムなどのカルシウム塩、香料、pH調整剤、保存料、抗酸化剤、甘味料、アミノ酸、機能性素材(難消化性デキストリン等の水溶性食物繊維、乳酸菌など)などを挙げることができる。
【0021】
本実施形態の柑橘無糖炭酸飲料は、例えば、原料水に、柑橘フレーバーなどの柑橘風味を飲料に付与する成分、β-ダマセノン、オクタナール、および必要に応じて添加される他の成分を上述の(a)および(b)の関係を満足するようにして含有させる処理と、得られた溶液中に二酸化炭素を溶存させる処理とを行うことで製造することができる。
飲料に含有される成分を添加する方法や順序などは特に限定されず、当業者が適宜設定できる。上記の原料水は、水自体のほか、含有されるその他の成分の溶液等であってもよい。柑橘風味を飲料に付与する成分、β-ダマセノン、オクタナールはそれぞれ単独で配合されてもよく、他の成分と共に配合されるようにしてもよい。
【0022】
また、飲料中に二酸化炭素を溶存させる処理も特に限定されず、例えば、原料水に含有成分を溶解させて得られる溶液に二酸化炭素を溶存させた水を混合して炭酸飲料とする方法(ポストミックス法)や、上述の溶液に二酸化炭素を直接噴き込んで溶解させる方法(プレミックス法)が挙げられる。
【0023】
本実施形態の無糖炭酸飲料についてそのガスボリュームは特に限定されず当業者が適宜設定でき、例えば、2.0以上5.5以下とすることができる。
本明細書において、ガスボリュームとは、1気圧、0℃における容器詰飲料中に溶解している炭酸ガスの容積と飲料の容積比をいう。
ガスボリュームは、試料を20℃とした後、ガス内圧力計を取り付け、一度活栓を開いてガス抜き(スニフト)操作を行い、直ちに活栓を閉じてから激しく振とうし、圧力が一定になった時の値として得ることができる。
【0024】
本実施形態の無糖炭酸飲料は、容器に封入された容器詰飲料とすることができる。
容器への封入方法などは特に限定されず、例えば常法に従って行うことができる。
容器も炭酸飲料に用いられる公知のものを適宜選択して用いることができ、素材や形状など特に限定されない。容器の具体例としては、例えば、ビン、PETボトル等のプラスチック容器、スチール缶やアルミニウム缶等の金属缶などが挙げられる。
【0025】
以上、本実施形態によれば、柑橘風味の無糖炭酸飲料においてβ-ダマセノンを20ppt以上含む場合の、飲んだときに感じられる人工感を低減できる。その結果、柑橘無糖炭酸飲料について嗜好性を高めることができ、商品価値の向上に寄与することが可能である。
【実施例0026】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0027】
[試験1(参考)]
レモンフレーバーとしてシトラールを用い、純水に表1に示す値となるように含有成分および炭酸ガスの添加を行い、ペットボトル入りレモン風味無糖炭酸飲料を調製した。
得られた各飲料サンプルについて、7名の専門のパネリストにより、以下に示す7段階の基準に従って飲んだときに感じられる人工感および苦味に関する官能評価を行った。その評点の平均値を表1に示す。
評価基準:
7点・・・基準と比較して、非常に強く感じる。
6点・・・基準と比較して、強く感じる
5点・・・基準と比較して、やや強く感じる。
4点・・・基準と同等
3点・・・基準と比較して、やや弱く感じる。
2点・・・基準と比較して、弱く感じる。
1点・・・基準と比較して、非常に弱く感じる。
【0028】
【0029】
表1から理解できるとおり、β-ダマセノンの含有量が20 ppt以上となると、β-ダマセノンを含まない基準品1に比べて人工感が感じられるようになった。
【0030】
[試験2]
レモンフレーバーとしてシトラールを用い、純水に表2、3に示す値となるように含有成分および炭酸ガスの添加を行い、ペットボトル入りレモン風味無糖炭酸飲料を調製した。
得られた各飲料サンプルについて、7名の専門のパネリストにより官能評価を行った。具体的には、試験2では、人工感と苦味について試験1と同様の以下に示す7段階の基準に従って評価を行い、さらにおいしさについても以下に示す7段階の基準に従って評価を行った。
その評点の平均値を表2、3に示す。
評価基準:
7点・・・基準と比較して、非常に強く(おいしく)感じる。
6点・・・基準と比較して、強く(おいしく)感じる
5点・・・基準と比較して、やや強く(おいしく)感じる。
4点・・・基準と同等
3点・・・基準と比較して、やや弱く(まずく)感じる。
2点・・・基準と比較して、弱く(まずく)感じる。
1点・・・基準と比較して、非常に弱く(まずく)感じる。
【0031】
【0032】
【0033】
表2から理解できるとおり、β-ダマセノンの含有量Xについて20≦Xであり、さらにβ-ダマセノンの含有量X、オクタナールの含有量Yについて1≦Y/X≦100である実施例のレモン風味無糖炭酸飲料はいずれも人工感が低減していた。
表3に示す結果においても、実施例のレモン風味無糖炭酸飲料はいずれも、同量のβ-ダマセノンを含有し、オクタナールを含まない比較例のレモン風味無糖炭酸飲料と比較して、人工感の低減が認められた。