(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138859
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】撮像素子、撮像装置、撮像素子の制御方法、および撮像装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
H04N 25/70 20230101AFI20241002BHJP
H04N 25/771 20230101ALI20241002BHJP
H04N 25/77 20230101ALI20241002BHJP
H04N 25/17 20230101ALI20241002BHJP
H01L 27/146 20060101ALI20241002BHJP
H04N 23/88 20230101ALI20241002BHJP
【FI】
H04N25/70
H04N25/771
H04N25/77
H04N25/17
H01L27/146 E
H04N23/88
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049570
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000131326
【氏名又は名称】株式会社シグマ
(72)【発明者】
【氏名】高倉 稜平
(72)【発明者】
【氏名】村上 雄祐
(72)【発明者】
【氏名】横地 貴紀
【テーマコード(参考)】
4M118
5C024
5C066
【Fターム(参考)】
4M118AA01
4M118AA02
4M118AA05
4M118AA10
4M118AB01
4M118BA07
4M118BA14
4M118CA03
4M118CA14
4M118CA22
4M118CA27
4M118DD04
4M118DD09
4M118FA06
4M118GC08
5C024CX41
5C024EX43
5C024GX03
5C024GX07
5C024GX16
5C024GX18
5C024GY31
5C024GY39
5C024HX51
5C066AA01
5C066CA13
5C066EA15
5C066GA01
5C066KE03
5C066KM02
(57)【要約】
【課題】1画素に複数の受光部を積層して備える画素を有する撮像素子において、開口率を低下させることなく層毎に電荷保持部の静電容量を調整することで読み出し回路に入力する電圧を補正することにより、各層について低光量下におけるノイズを低減することと高光量下における電荷保持部の飽和を防止することを両立した撮像素子を提供する。
【解決手段】本発明に係る撮像素子は、複数の画素を備える撮像素子であって、画素は、複数の光電変換層を積層してなる光電変換部と、光電変換層と同じ数の電荷転送部と、1つの電荷保持部と、1つ以上の付加容量部と、電荷保持部と付加容量部との接続を切り替える付加容量部と同じ数のスイッチを備えることを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の画素を備える撮像素子であって、前記画素は、
複数の光電変換層を積層してなる光電変換部と、前記光電変換層と同じ数の電荷転送部と、1つの電荷保持部と、1つ以上の付加容量部と、前記電荷保持部と前記付加容量部との接続を切り替える前記付加容量部と同じ数のスイッチを備えることを特徴とする撮像素子。
【請求項2】
前記光電変換部は前記光電変換層を3つ積層してなり、3つの前記光電変換層の光電変換波長域がそれぞれ異なることを特徴とする請求項1に記載の撮像素子。
【請求項3】
前記1つの電荷保持部と前記1つ以上の付加容量部は並列に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の撮像素子。
【請求項4】
前記1つ以上の付加容量部の容量はそれぞれ異なることを特徴とする請求項3に記載の撮像素子。
【請求項5】
請求項1乃至4に記載の撮像素子を備える撮像装置であって、
前記撮像素子が出力する画像信号から画像信号の特徴量を取得する特徴量取得部と、前記特徴量から被写体の分光特性を推定する機能を備える分光特性推定部と前記分光特性推定部の推定結果に基づいて前記スイッチの制御を行う読み出し制御部を備える撮像装置。
【請求項6】
前記複数の光電変換層が生成した電荷量に対応する色信号値を取得する色信号取得部を備え、
前記特徴量取得部は、前記色信号取得部であり、前記特徴量は、前記色信号値であることを特徴とする請求項5に記載の撮像装置。
【請求項7】
ホワイトバランスゲインを算出可能なホワイトバランス制御部を備え、
前記特徴量取得部は、前記ホワイトバランス制御部であり、前記特徴量は、前記ホワイトバランスゲインであることを特徴とする請求項5に記載の撮像装置。
【請求項8】
複数の光電変換層を積層してなる光電変換部と、前記光電変換層と同じ数の電荷転送部と、1つの電荷保持部と、1つ以上の付加容量部と、前記電荷保持部と前記付加容量部との接続を切り替える前記付加容量部と同じ数のスイッチを備えた画素を複数備える撮像素子の制御方法であって、
前記電荷保持部と前記付加容量部との接続を切り替えるステップと、
前記電荷転送部のうち1つを選択し、対応する前記光電変換層が生成した電荷を前記電荷保持部と前記電荷保持部に接続された前記付加容量部に転送し、電荷を電圧に変換するステップを有することを特徴とする撮像素子の制御方法。
【請求項9】
複数の光電変換層を積層してなる光電変換部を備え、前記複数の光電変換層が取得する電荷からの電荷電圧変換効率を変更可能な撮像素子と、前記撮像素子が出力する画像信号から画像信号の特徴量を取得する特徴量取得部と、前記特徴量から被写体の分光特性を推定する分光特性推定部と、前記分光特性推定部の推定結果に基づいて前記複数の光電変換層が生成した電荷の電荷電圧変換効率を変更する読み出し制御部を備える撮像装置の制御方法であって、
前記複数の光電変換層が取得した電荷からの電荷電圧変換効率を初期値に変更するステップと、
前記特徴量取得部が前記撮像素子の出力する画像信号から前記特徴量を取得するステップと、
前記分光特性推定部が前記特徴量から被写体の分光特性を推定するステップと、
分光特性の推定結果に基づいて前記複数の光電変換層が取得する電荷からの電荷電圧変換効率を変更するステップを有することを特徴とする撮像装置の制御方法。
【請求項10】
前記複数の光電変換層が生成した電荷量に対応する色信号値を取得する色信号取得部を備え、
前記特徴量取得部は、前記色信号取得部であり、
前記特徴量取得部が前記撮像素子の出力する画像信号から前記特徴量を取得するステップは、前記色信号を取得するステップを含むことを特徴とする請求項9に記載の撮像装置の制御方法。
【請求項11】
ホワイトバランスゲインを算出可能なホワイトバランス制御部を備え、
前記特徴量取得部は、前記ホワイトバランス制御部であり、
前記特徴量取得部が前記撮像素子の出力する画像信号から前記特徴量を取得するステップは、前記ホワイトバランスゲインを算出するステップを含むことを特徴とする請求項9に記載の撮像装置の制御方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像素子、撮像装置、撮像素子の制御方法、および撮像装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、デジタルカメラやビデオカメラなどの撮像装置に利用される撮像素子として、CMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)イメージセンサが実用に供されている。
【0003】
また、CMOSイメージセンサの一種として、1画素に複数のフォトダイオードを積層して備えた撮像素子が知られている。
【0004】
1画素に複数のフォトダイオードを積層して備える撮像素子においては、フォトダイオードの材料として用いられるシリコンの特性である波長が短い光を吸収しやすい性質を利用して光電変換を行っている。例えば、3層に重ねたフォトダイオードの上部層で青い光を吸収し、中間層で緑の光を吸収し、下部層で赤の光を吸収し、それぞれ光を電気信号に変換することで、1画素から青(B)、緑(G)、赤(R)の色信号を検出することができる。このような光電変換方式を採用したイメージセンサは、垂直色分離型センサと呼ばれている。
【0005】
前述のように、積層して配置したフォトダイオードの各層によって色信号を検出する場合、各層の形状は所望の分光特性を得るために異なることがある。例えば、厚みを変えることによって特定の波長範囲の光を多く吸収するということがある。各層の形状が異なると、各層が蓄積可能な電荷の最大量(飽和容量)は層毎に異なることになる。
【0006】
このように、1画素に飽和容量の異なる複数のフォトダイオードが存在する場合、各フォトダイオードに合わせた画素回路を用意するか、画素回路の出力電圧範囲の上限を最も飽和容量の大きいフォトダイオードに合わせて共通化することで画素から信号を取得することが考えられる。
【0007】
各フォトダイオードに合わせた画素回路を用意する場合、1画素に各層毎のトランジスタを配置することになり、画素の開口率が低下することから感度の低下に繋がり好ましくない。
【0008】
画素回路の出力電圧範囲の上限を最も飽和容量の大きいフォトダイオードに合わせて共通化する場合、飽和容量の小さいフォトダイオードは、画素回路の出力電圧範囲を使い切ることができないので、SN比の観点で不利である。
【0009】
また、一般的にCMOSイメージセンサにおいては、フォトダイオードで発生した電荷について、電荷保持部であるフローティングディフュージョンに転送し、フローティングディフュージョンはフォトダイオードから流入した電荷を電圧に変換し、電圧を読み出し回路が読み出すことで光電変換を行っている。
【0010】
フローティングディフュージョンにおける電荷を電圧に変換する際の効率、すなわち電子1個がフローティングディフュージョンに流入した際に発生する電圧のことを、電荷電圧変換効率あるいは単に変換効率と呼ぶ。変換効率は、フローティングディフュージョンの静電容量(キャパシタンス)によって決まり、静電容量が大きいほど変換効率が低い。
【0011】
ここで、フォトダイオードで発生した電荷が少ない場合、変換効率が高ければ画素回路から読み出し回路への出力電圧は大きくなるが、変換効率が高すぎるとフォトダイオードが飽和しない場合においてもフローティングディフュージョンが飽和してしまう。また、フォトダイオードで発生した電荷が少ない場合で変換効率が低い場合、フローティングディフュージョンで得られる電圧に対して回路上で発生するノイズが相対的に大きくなってしまい、良好な画像信号を得られない。
【0012】
一方、フォトダイオードで発生した電荷が多い場合、変換効率が低くなければ変換効率が高すぎる場合と同様にフローティングディフュージョンが飽和してしまう。
【0013】
特許文献1には、半導体の厚さ方向に沿う方向に4層以上の光電変換層を積層して形成した光電変換部を備え、4層以上の光電変換層は、少なくとも2層が略同等の第1の分光特性を有し、少なくとも1層が第1の分光特性と異なる第2の分光特性を有し、少なくとも1層が第1の分光特性及び第2の分光特性と異なる第3の分光特性を有する固体撮像装置が開示されている。特許文献1に開示された固体撮像装置によれば、固体撮像装置において広ダイナミックレンジを実現しつつ、画素レベルで空間的や時間的なズレを生じさせずに済むとされている。
【0014】
また、特許文献2には、4つ以上の光電変換部のうちの2つ以上の光電変換部の出力にそれぞれ基づく各信号を異なるタイミングで受ける垂直信号線と、垂直信号線の信号又はこれに応じた信号を増幅する可変ゲインアンプと、可変ゲインアンプのゲインを、可変ゲインアンプが増幅する信号が対応する光電変換部の分光感度特性に応じて制御するゲイン制御部と、を備えた固体撮像装置が開示されている。特許文献2に開示された固体撮像素子によれば、解像度を落とすことなく色再現を優先した撮像を行うことができる固体撮像素子を提供することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2019-091733号公報
【特許文献2】特許第5146499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、特許文献1に開示された技術は、層毎の飽和容量の差や、飽和容量の差による信号レベルの違いを調整することについては考慮されていない。
【0017】
また、特許文献2に開示された回路構成においては、可変ゲインアンプに信号が到達する前にソースフォロワトランジスタ(SFトランジスタ)などで混入するノイズについても可変ゲインアンプによって増幅されてしまうため、低光量下におけるSN比を改善するには不十分である。
【0018】
また、いずれの文献においても、被写体の分光特性に基づく変換効率の制御については課題が残る。例えば、夕焼けのシーンを撮影する場合において、赤色に対応するフォトダイオードからは十分な信号量が得られるが、緑色と青色に対応するフォトダイオードからは十分な信号量を得られない場合がある。各撮影環境において被写体の分光特性に基づく変換効率の制御を行うことで最適な画像信号を取得することが可能な撮像素子が望まれる。
【0019】
本発明は前述のような課題に鑑みてなされたものであり、1画素に複数の光電変換層を積層して備える画素を有する撮像素子において、開口率を低下させることなく層毎に電荷保持部の静電容量を調整することで読み出し回路に入力する電圧を補正することにより、各層について低光量下におけるノイズを低減することと高光量下における電荷保持部の飽和を防止することを両立した撮像素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記課題を解決するため、本発明に係る撮像素子は、複数の画素を備える撮像素子であって、画素は、複数の光電変換層を積層してなる光電変換部と、光電変換層と同じ数の電荷転送部と、1つの電荷保持部と、1つ以上の付加容量部と、電荷保持部と付加容量部との接続を切り替える付加容量部と同じ数のスイッチを備えることを特徴とする。
【0021】
また、前記課題を解決するため、本発明に係る撮像素子の制御方法は、複数の光電変換層を積層してなる光電変換部と、光電変換層と同じ数の電荷転送部と、1つの電荷保持部と、1つ以上の付加容量部と、電荷保持部と付加容量部との接続を切り替える付加容量部と同じ数のスイッチを備えた画素を複数備える撮像素子の制御方法であって、電荷保持部と付加容量部との接続を切り替えるステップと、電荷転送部のうち1つを選択し、対応する光電変換層が生成した電荷を電荷保持部と電荷保持部に接続された付加容量部に転送し、電荷を電圧に変換するステップを有することを特徴とする。
【0022】
また、前記課題を解決するため、本発明に係る撮像装置の制御方法は、複数の光電変換層を積層してなる光電変換部を備え、複数の光電変換層が取得する電荷からの電荷電圧変換効率を変更可能な撮像素子と、撮像素子が出力する画像信号から画像信号の特徴量を取得する特徴量取得部と、特徴量から被写体の分光特性を推定する分光特性推定部と、分光特性推定部の推定結果に基づいて複数の光電変換層が生成した電荷の電荷電圧変換効率を変更する読み出し制御部を備える撮像装置の制御方法であって、複数の光電変換層が取得した電荷からの電荷電圧変換効率を初期値に変更するステップと、特徴量取得部が撮像素子の出力する画像信号から特徴量を取得するステップと、分光特性推定部が特徴量から被写体の分光特性を推定するステップと、分光特性の推定結果に基づいて複数の光電変換層が取得する電荷からの電荷電圧変換効率を変更するステップを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、1画素に複数の光電変換層を積層して備える画素を有する撮像素子において、開口率を低下させることなく層毎に電荷保持部の静電容量を調整することで読み出し回路に入力する電圧を補正することにより、各層について低光量下におけるノイズを低減することと高光量下における電荷保持部の飽和を防止することを両立した撮像素子を提供することが可能となる。さらには、被写体の分光特性に基づく変換効率の制御を行えるため、各撮影環境において最適な画像信号を取得可能な撮像装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】第1の実施形態に係る撮像素子10を説明する概略図
【
図2】第1の実施形態に係る撮像素子10が備える画素11の画素回路を示す図
【
図3】第1の実施形態に係る撮像素子10の構成を示すブロック図
【
図4】第1の実施形態に係る撮像素子10の画素11から色信号を読み出す動作を示すタイミングチャート
【
図5】第1の実施形態に係る撮像素子10を備える撮像装置20のシステム要部ブロック図
【
図6】撮像装置20が分光特性に応じて変換効率を制御する動作を示すフローチャート
【
図7】
図6のステップS02において色信号値を取得する場合のフローチャート
【
図8】
図6のステップS02において色信号値からホワイトバランスゲインを算出する場合のフローチャート
【
図9】第2の実施形態に係る撮像素子10が備える画素11の画素回路を示す図
【
図10】第2の実施形態に係る撮像素子10の読み出し動作を示すタイミングチャート
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付の図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0026】
[第1の実施形態]
図1は第1の実施形態に係る撮像素子10を説明する概略図である。
【0027】
図1(a)は、撮像素子10が備える画素11を説明する概略図である。本実施形態に係る画素11は、撮像素子10の厚さ方向に沿って複数の光線変換層であるところのフォトダイオードPD1,PD2,PD3を積層して形成した光電変換部12を備えており、いわゆる垂直色分離型センサの構成をとっている。以下、光電変換部12のフォトダイオードPD1より上を上層、光電変換部12のフォトダイオードPD3より下を下層と呼ぶ。
【0028】
光電変換部12は、不図示の基板上に形成されている。また、上層側から下層側へフォトダイオードPD1、PD2、PD3の順に積層されている。光電変換部12の上層には、マイクロレンズを形成して集光率を向上させてもよい。
【0029】
フォトダイオードPD1は、青色の光を主に吸収する分光特性を有している。より具体的には、フォトダイオードPD1の主たる光電変換波長域は青色の光であり、430nm付近の波長の光を多く吸収する分光特性を有している。以下、フォトダイオードPD1をB層と呼ぶ場合がある。
【0030】
フォトダイオードPD2は、緑色の光を主に吸収する分光特性を有している。より具体的には、フォトダイオードPD2の主たる光電変換波長域は緑色の光であり、540nm付近の波長の光を多く吸収する分光特性を有している。以下、フォトダイオードPD2をG層と呼ぶ場合がある。
【0031】
フォトダイオードPD3は、赤色の光を主に吸収する分光特性を有している。より具体的には、フォトダイオードPD3の主たる光電変換波長域は赤色の光であり、600nm付近の波長の光を多く吸収する分光特性を有している。以下、フォトダイオードPD3をR層と呼ぶ場合がある。
【0032】
フォトダイオードPD1,PD2,PD3は、所望の分光特性を有する材料であれば、特に限定されることなく使用可能である。本実施形態においては、シリコン系の材料を用いている。
【0033】
フォトダイオードPD1,PD2,PD3によって、各画素11における入射光に対する色信号をそれぞれ取得することができる。撮像素子10全体の各画素11における色信号を取得することで、画像信号を取得することができる。色信号および画像信号の取得方法についての詳細は後述する。
【0034】
図1(b)は、撮像素子10を被写体側から見た面を表す概略図である。撮像素子10はM×N個の画素11を備えている。
図1(a)で説明したように、B層は上層側に配置されているため、被写体側から撮像素子10を見るとB層だけが見えているが、下層側にG層、R層が積層されている。
【0035】
図2は第1の実施形態に係る撮像素子10が備える画素11の画素回路を示す図である。画素11は、
図2に示されるように複数の光電変換層であるところのフォトダイオードPD1,PD2,PD3と、光電変換層と同じ数の電荷転送部であるところの転送トランジスタTX1,TX2,TX3と、電荷保持部FDと、付加容量部Cと、電荷保持部FDと付加容量部Cとの接続を切り替えるスイッチSWを備えている。
【0036】
フォトダイオードPD1~PD3は、入射光に応じた電荷を生成して蓄積する。転送トランジスタTX1~TX3は、フォトダイオードPD1~PD3が蓄積した電荷を電荷保持部FDに転送する。
【0037】
電荷保持部FDは、転送トランジスタTX1~TX3から転送された電荷を電圧に変換する、いわゆるフローティングディフュージョンである。また、電荷保持部FDは、スイッチSWを介して付加容量部Cに接続されており、スイッチSWのオンまたはオフによって電荷保持部FDと付加容量部Cとの接続が切り替え可能に構成されている。スイッチSWをオンにすることによって、電荷保持部FDの静電容量を付加容量部Cの静電容量分増やすことができる。付加容量部Cは、例えば基板上に形成されたMOSキャパシタや、配線層に形成されるMIMキャパシタなどである。その他、配線の寄生容量などを用いてもよい。
【0038】
さらに画素11は、電荷保持部FDの電位をリセットするリセットトランジスタRSTと、電荷保持部FDが変換した電圧を出力するソースフォロワトランジスタSFと、当該画素11が所在する行を選択するための行選択ゲートSELとを備えている。
【0039】
画素11において、転送トランジスタTX1~TX3と、電荷保持部FDと、付加容量部Cと、スイッチSWと、リセットトランジスタRSTと、ソースフォロワトランジスタSFと、行選択ゲートSELは、各フォトダイオードに入射する光の光路を避けて配置されている。なお
図2において、VDDは電源である。
【0040】
本実施形態の画素11が備える画素回路は
図2に示すように、各フォトダイオードと各転送トランジスタの組に対して、共通の構成要素が接続される回路構成としている。画素11に配置する部品点数を削減することで開口率を確保し、フォトダイオードの受光感度の向上を図っている。
【0041】
次に、画素11が備える画素回路と撮像素子10が備える回路部との接続について説明する。
図3は第1の実施形態に係る撮像素子10の構成を示すブロック図である。
【0042】
撮像素子10は画素11の他に、IM制御部13と、垂直駆動部14と、アナログデジタル変換部ADCと、水平駆動部16と、信号処理部18を備えている。
【0043】
IM制御部13は、各画素11から色信号を読み出すための制御全般を行う。IM制御部13は、垂直駆動部14と水平駆動部16に接続されている。
【0044】
垂直駆動部14には、画素11が備える転送トランジスタTX1~TX3と、スイッチSWと、リセットトランジスタRSTと、行選択ゲートSELが接続されている。
図3においては、画素11と垂直駆動部14を接続する垂直制御配線15は一本の線で表されているが、実際には
図2に示すように複数の垂直制御配線15によって垂直駆動部14に接続されている。
【0045】
垂直駆動部14は、IM制御部13からの制御信号によって、撮像素子10の1~M行のうち任意の行番号が指定され、指定された行の各画素11における行選択ゲートSELをオン状態にする。行選択ゲートSELがオン状態になると、ソースフォロワトランジスタSFからは電荷保持部FDによって変換された電圧が出力配線17に出力される。
【0046】
水平駆動部16は、IM制御部13からの制御信号によって、撮像素子10の1~N列から色信号を読み出す。具体的には、垂直駆動部14が指定した1~M行のうちの任意の行について、1~N個の画素11における出力配線17から出力される電圧をアナログデジタル変換部ADCがデジタル値に変換し、信号処理部18にデジタル値を転送する制御を行う。
【0047】
信号処理部18がデジタル値を周期的に出力することで、撮像素子10から各画素11の色信号が出力される。各画素11の色信号を取得することで、撮像素子10全体に対応する一枚の画像信号を取得することができる。以下、画素11が備える構成によって形成される画素回路と区別するために、撮像素子10が備えるIM制御部13、垂直駆動部14、水平駆動部16、アナログデジタル変換部ADC、信号処理部18によって形成される回路部を読み出し回路と呼ぶことがある。
【0048】
次に、第1の実施形態に係る撮像素子10の画素11から色信号を読み出す動作について
図4のタイミングチャートを参照しながら説明する。ここでは、所望の分光特性を得るためにフォトダイオードPD1のみ飽和容量が大きくなるように設計した場合を例にして説明する。
【0049】
図4中の各信号がハイレベルのときに、その信号に対応する構成要素がオン状態になり、ローレベルのときにオフ状態になる。信号レベルがハイまたはローになるタイミングをT1~T20で示している。ΦSELは行選択ゲートSELに、ΦRSTはリセットトランジスタRSTに、ΦSWはスイッチSWに、ΦTX1~ΦTX3は転送トランジスタTX1~TX3に対応しており、垂直駆動部14によって垂直制御配線15を経由して各構成の制御が行われる。ΦSは読み出し回路が画素回路側が出力する電圧を読み出すタイミングに対応しており、水平駆動部16の制御によって、アナログデジタル変換部ADCが出力配線17から出力される電圧をデジタル値に変換する制御が行われる。
【0050】
タイミングT1において、ΦSELがハイレベルにされ、行選択ゲートSELがオン状態となり、ソースフォロワトランジスタSFからは電荷保持部FDに対応した電圧が出力される。
【0051】
この時、ΦSWも同時にハイレベルにされ、スイッチSWがオン状態となる。スイッチSWがオン状態であるので、電荷保持部FDと付加容量部Cは接続されている状態となり、電荷保持部FDの静電容量は付加容量部C分拡大される。
【0052】
タイミングT1~T2において、ΦRSTをハイレベルにした後ローレベルにすることで、リセットトランジスタRSTがオンになった後オフ状態となる。タイミングT2においてリセットトランジスタRSTがオフ状態になることで、画素回路側からは電荷保持部FDおよび付加容量部Cにおける電荷がリセットされた状態に基づく電圧が出力される。
【0053】
タイミングT3~T4において、ΦSをハイレベルにした後ローレベルにすることで、読み出し回路は画素回路側が出力する電圧を読み出す。この時の電圧は、タイミングT1~T2においてリセットトランジスタRSTによって電荷がリセットされた状態のものである。
【0054】
タイミングT5~T6において、ΦTX1をハイレベルにした後ローレベルにすることで、転送トランジスタTX1をオン状態にし、フォトダイオードPD1に蓄積された電荷を電荷保持部FDに転送する。画素回路側からは、電荷保持部FDおよび付加容量部CにおけるフォトダイオードPD1から転送されてきた電荷に基づく電圧が出力される。
【0055】
タイミングT6~T7において、ΦSをハイレベルにした後ローレベルにすることで、読み出し回路は画素回路側が出力する電圧を読み出す。これによって、フォトダイオードPD1の信号読み出しが完了する。
【0056】
タイミングT7~T8において、ΦRSTをハイレベルにした後ローレベルにすることで、リセットトランジスタRSTがオンになった後オフ状態となる。タイミングT8においてリセットトランジスタRSTがオフ状態になることで、画素回路側からは電荷保持部FDおよび付加容量部Cにおける電荷がリセットされた状態に基づく電圧が出力される。
【0057】
また、タイミングT8において、ΦSWをローレベルにすることで、スイッチSWをオフ状態にする。スイッチSWがオフ状態になることで、電荷保持部FDと付加容量部Cの接続は切り離される。
【0058】
タイミングT9~T10において、ΦSをハイレベルにした後ローレベルにすることで、読み出し回路は画素回路側が出力する電圧を読み出す。この時の電圧は、タイミングT7~T8においてリセットトランジスタRSTによって電荷がリセットされた状態のものである。
【0059】
タイミングT11~T12において、ΦTX2をハイレベルにした後ローレベルにすることで、転送トランジスタTX2をオン状態にし、フォトダイオードPD2に蓄積された電荷を電荷保持部FDに転送する。画素回路側からは、電荷保持部FDにおけるフォトダイオードPD2から転送されてきた電荷に基づく電圧が出力される。
【0060】
タイミングT12~T13において、ΦSをハイレベルにした後ローレベルにすることで、読み出し回路は画素回路側が出力する電圧を読み出す。これによって、フォトダイオードPD2の信号読み出しが完了する。
【0061】
タイミングT13~T14において、ΦRSTをハイレベルにした後ローレベルにすることで、リセットトランジスタRSTがオンになった後オフ状態となる。タイミングT14においてリセットトランジスタRSTがオフ状態になることで、画素回路側からは電荷保持部FDにおける電荷がリセットされた状態に基づく電圧が出力される。以下、フォトダイオードPD3の信号読み出しについても、タイミングT9~T14と同様の処理によって行われる。以上のシーケンスによって画素11における色信号が取得される。
【0062】
このように、飽和容量の大きいフォトダイオードPD1から信号を読み出す場合には、電荷保持部FDと付加容量部Cを接続することで変換効率を低めることにより、フォトダイオードPD1が飽和しない場合においても電荷保持部FDが飽和してしまうこと防ぐ。また、フォトダイオードPD2,PD3から信号を読み出す場合には電荷保持部FDと付加容量部Cとの接続を切り離すことで変換効率を高め、良好な信号を得ることができる。
【0063】
一例としてフォトダイオードPD1のみ飽和容量が大きい場合を想定して説明したが、任意の層の読み出しにおいて電荷保持部FDと付加容量部Cとの接続を切り替え可能である。そのため、各フォトダイオードの飽和容量に応じて電荷保持部FDの静電容量を調整可能となり、低光量下におけるノイズを低減することと高光量下における電荷保持部FDの飽和を防止することの両立ができる。
【0064】
また、電荷を電圧に変換する際の変換効率を切り替えることで出力される電圧の大きさを調整しているため、ソースフォロワトランジスタSFからアナログデジタル変換部ADCの間に増幅器を含めない構成を取れる。このため、増幅によってアナログデジタル変換までに回路上で発生するノイズを増大させることが無く、SN比の改善に有利である。
【0065】
以上に示したように、本発明の第1の実施形態に係る撮像素子10によれば、各フォトダイオードの飽和容量に応じて電荷保持部FDの静電容量を調整可能である。この撮像素子10を備えることにより、被写体の分光特性に基づいて変換効率を制御する撮像装置を構成することができる。
図5は第1の実施形態に係る撮像素子10を備える撮像装置20のシステム要部ブロック図である。ここでは本発明に係る主要な部分についてのみ説明するが、その他の部分については撮像装置に関する周知技術を適宜用いて構成することができる。
【0066】
撮像装置20は、光学系を含むレンズ装置30と、撮像素子10を含むカメラ本体40によって構成されている。カメラ本体40は、撮像素子10と、カメラ制御部41を備えている。レンズ装置30とカメラ本体40は一体型であってもよいし、着脱可能に構成されていてもよい。
【0067】
レンズ装置30を通して入射した光を撮像素子10は画像信号として出力する。画像信号とは、前述の通り撮像素子10全体に対応する各画素11からの色信号を読み出すことで得られる一枚の画像であり、信号処理部18からデジタル値で出力される。
【0068】
カメラ制御部41は、カメラ本体40およびレンズ装置30を含む撮像装置20全体の包括的な制御を行う処理装置である。例えば、DSP(Digital Signal Processor)やCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサや、FPGA(Field-Programmable Gate Array)のようなプログラマブルロジックデバイス、あるいはそれらの組み合わせによって構成されている。カメラ制御部41には、画像処理ブロック50と、プログラムやデータの保存領域であるROM60と、作業領域であるRAM70が含まれている。
【0069】
画像処理ブロック50は、撮像素子10からの画像信号を取得し、各種処理を行う。画像処理ブロック50は、色信号取得部51と、ホワイトバランス制御部52と、分光特性推定部53と、読み出し制御部54を備えている。
【0070】
色信号取得部51は、撮像素子10から出力される画像信号から各画素11における色信号値を取得する。
【0071】
画像信号における各画素11の色信号値は、フォトダイオードPD1~PD3が光電変換することによって得られたアナログ信号を、アナログデジタル変換部ADCがデジタル値に変換したものであり、(B,G,R)=(a,b,c)のような数値で表されるものである。色信号値(B,G,R)は、アナログデジタル変換部ADCの分解能に応じてそれぞれ0から上限値までの値を取る。例えば、アナログデジタル変換部ADCの分解能が8ビットであれば(B,G,R)=(0,0,0)~(255,255,255)の範囲の値を取る。
【0072】
電荷保持部FDが付加容量部Cと接続されているか否かによって変化する変換効率に対応する色信号値は、撮像素子10製造時の評価によって予め把握されており、ROM60に記憶されている。例えば、各フォトダイオードからの電荷転送時に付加容量部Cが接続されていない状態で電荷保持部FDが飽和している状態の色信号値が200であるといったデータが記憶されている。この信号値は、各フォトダイオードに対して別々に設定されてもよい。
【0073】
また、各フォトダイオードが電荷を蓄積しない場合にも出力される色信号値、すなわち画素回路および読み出し回路で発生するノイズによって出力される色信号値についても、撮像素子10製造時の評価によって予め把握されており、ROM60に記憶されている。例えば、画素回路および読み出し回路で発生するノイズによって出力される色信号値が10であるといったデータが記憶されている。ノイズによって出力される色信号値が10であるので、実際に各フォトダイオードが蓄積した電荷を電荷保持部FDが変換して電圧として出力した色信号値が(B,G,R)=(10,10,10)以下である場合、実際の色信号は撮影環境において光量が不足している等の理由によりノイズに埋もれている状態になる。
【0074】
ホワイトバランス制御部52は、色信号取得部51が取得した色信号値に対応するホワイトバランスゲインの値を算出し、色信号値に算出したホワイトバランスゲインを乗ずることで画像信号のホワイトバランスを制御する。ホワイトバランスゲインの算出方法には公知の技術を用いればよい。例えば、画像信号全体のうちの白色部分の色信号を推定し、当該色信号値を無彩色(B=G=R)に補正する値を算出することでホワイトバランスゲインを決定する方法などがある。
【0075】
分光特性推定部53は、被写体の分光特性に係る特徴量を用いて分光特性を推定する。被写体の分光特性に係る特徴量には、色信号取得部51が取得した画像信号における色信号値やホワイトバランス制御部52が算出したホワイトバランスゲインが含まれる。
【0076】
読み出し制御部54は、撮像素子10が備えるIM制御部13に各画素11の読み出し指示を行う。読み出し指示には、各画素11について、どのフォトダイオードからの信号を取得する際にスイッチSWをオンまたはオフにするかを指示する制御が含まれている。また、分光特性推定部53の推定結果によって読み出し指示の内容を変更する機能を有している。
【0077】
図6は撮像装置20が分光特性に応じて変換効率を制御する動作を示すフローチャートである。
【0078】
ステップS01において、読み出し制御部54はIM制御部13に対して、各画素11における各フォトダイオードからの信号読み出し時の変換効率を揃えた状態で色信号を出力するように指示する。変換効率を揃えた状態とは、各画素11における各フォトダイオードからの信号読み出し時にスイッチSWをオン状態とする、または、オフ状態とする制御である。
【0079】
ステップS02において、画像処理ブロック50は撮像素子10が出力する画像信号を取得し、画像信号の特徴量を抽出する。
【0080】
撮像素子10が出力する画像信号からは、被写体の分光特性に関する種々の特徴量を抽出することができる。ステップS02においては、後述する光源推定時のしきい値をどのような特徴量に関するものとして設定するかに応じて、抽出する特徴量を設定する。ここではしきい値として設定する特徴量の例として、画像信号における各画素11の色信号値を用いる場合と、色信号値に対応して算出されるホワイトバランスゲインの値を用いる場合について説明する。
図7はステップS02において色信号取得部51が色信号値を取得する動作を示すフローチャートである。
【0081】
ステップS11において、色信号取得部51が撮像素子10から出力される画像信号における各画素11の色信号値を取得する。前述の通り、色信号値は(B,G,R)=(a,b,c)のような数値データとして取得される。ステップS11で色信号値を取得完了すると、ステップS03に進む。
【0082】
ステップS11では、取得した色信号値について、撮像素子10が備える画素11全体あるいは一部における色信号値(B,G,R)の平均値を算出する処理を含んでもよい。撮像素子10が備える画素11の一部を指定する際、オートフォーカスの測距領域に基づいて範囲を指定したり、機械学習による物体認識の結果に基づいて範囲を指定したりすることが可能である。
【0083】
図8はステップS02においてホワイトバランス制御部52がホワイトバランスゲインを算出する動作を示すフローチャートである。
【0084】
ステップS21において、ステップS11と同様に色信号取得部51が撮像素子10から出力される画像信号における各画素11の色信号値を取得する。
【0085】
ステップS22において、ホワイトバランス制御部52が色信号取得部51が取得した各画素11の色信号値に対してホワイトバランスゲインを算出する。ホワイトバランスゲインの算出が完了するとステップS03に進む。
【0086】
ホワイトバランスゲインは色信号値を無彩色(B=G=R)に補正する値であり、(kB,kG,kR)で表す。例えば、画像信号において白色であると推定した部分の色信号値が(B,G,R)=(100,50,50)であった場合、ホワイトバランスゲイン(kB,kG,kR)=(1,2,2)とし、ホワイトバランスゲインを色信号値に掛けることでホワイトバランスを補正する。本実施形態においては、一番大きな色信号値(B値)を基準として他の色信号値(G値、R値)に対応するホワイトバランスゲインを算出している。基準となる色信号値の選択は、各フォトダイオードの感度や飽和容量および撮影環境等に応じて決定する方法を取ってもよい。
【0087】
ステップS03において、分光特性推定部53が被写体の分光特性を推定する。分光特性の推定は、画像信号における特徴量がしきい値の範囲内であるか否かによって行われる。ここでは、色信号取得部51が取得あるいは算出した色信号値がしきい値の範囲内であるか、または、ホワイトバランス制御部52が算出したホワイトバランスゲインの値がしきい値の範囲内であるかを判定する。しきい値の範囲内である場合、ステップS05に進む。しきい値の範囲外である場合はステップS04に進む。
【0088】
ここで、ステップS03で判定するしきい値について説明する。
【0089】
まず、色信号取得部51が取得した色信号値から分光特性を推定する場合について説明する。
【0090】
色信号値から分光特性を推定する場合、しきい値の下限は、ROM60に記憶された画素回路および読み出し回路で発生するノイズによって出力される色信号値である。つまり、取得した色信号がノイズに埋もれていないかどうかを判定する。前述の例において、しきい値の下限は10である。
【0091】
一方、しきい値の上限は、ROM60に記憶された付加容量部Cが接続されていない状態の電荷保持部FDが飽和している状態の色信号の値である。つまり、各フォトダイオードが飽和しない場合においても電荷保持部FDが飽和していないかどうかを判定する。前述の例において、しきい値の上限は200である。
【0092】
次に、ホワイトバランス制御部52が算出したホワイトバランスゲインの値から分光特性を推定する場合について説明する。
【0093】
前述のように、画像信号において白色であると推定した部分の色信号値が(B,G,R)=(100,50,50)であったとする。この場合、ホワイトバランスゲインの値は(kB,kG,kR)=(1,2,2)となる。
【0094】
B層の色信号値が大きいことから、対応するフォトダイオードPD1は、飽和容量が大きいあるいは光電変換時の感度が高いことによって蓄積電荷量が多くなっていることがわかる。これにより、G層に対応するフォトダイオードPD2およびR層に対応するフォトダイオードPD3からの信号値との差が生まれている。
【0095】
フォトダイオードの飽和容量が小さい、あるいは、光電変換時の感度が低い場合、電荷保持部FDの変換効率を高めることで画素回路から読み出し回路への出力電圧を大きくすることができる。出力電圧を大きくすることで、電荷保持部FDで得られる電圧に対して回路上で発生するノイズを相対的に小さくすることができ、良好な画像信号を得られる。一方で、(kB,kG,kR)=(1,2,2)のように大きいホワイトバランスゲインを掛けることでフォトダイオード間の信号レベルの差を補正する場合には、読み出し回路上で発生するノイズも同時に増幅される。従って、各フォトダイオード間の信号レベルの差を可能な限りホワイトバランスゲインで吸収しないようにすることで、良好な画像信号を得られる。つまり、ホワイトバランスゲインの値が(kB,kG,kR)=(1,1,1)に近づくように各フォトダイオードから得られる色信号値を制御することで、色信号値におけるノイズを相対的に小さくすることが可能となることを意味している。
【0096】
そのため、しきい値は色信号値の各成分に対応するホワイトバランスゲインの値kB,kG,kRのうち基準となる層の値といずれかの層の値との比によって定める。典型的には、スイッチSWのオンまたはオフによって電荷保持部FDの変換効率が変化する際に増減する出力電圧の比に等しい値を含む範囲として定める。
【0097】
例えば、電荷保持部FDに対して付加容量部Cを非接続状態にすることで変換効率を変更した際に、出力電圧が2倍になることがわかっているとする。ここで、各フォトダイオードからの色信号読み出しの際にスイッチSWがオンの状態であり、画像信号において白色であると推定した色信号値が(B,G,R)=(100,50,50)であった場合、ホワイトバランスゲインの値は(kB,kG,kR)=(1,2,2)となる。G値に対応するフォトダイオードPD2とR値に対応するフォトダイオードPD3を読み出す際に付加容量部Cを非接続状態にすることで変換効率を変更すると、色信号値は(B,G,R)=(100,100,100)になることから、G値とR値に対応するホワイトバランスゲインの値の比はkB=1を基準として2倍であることがわかる。この場合、しきい値は2以上となる。
【0098】
このように、付加容量部Cを非接続状態にすることで出力電圧がn倍になる、または、付加容量部Cを接続状態にすることで出力電圧が1/m倍になることがわかっているとき、基準となるkB,kG,kRに対してホワイトバランスゲインの値がn倍以上または1/m倍以下のホワイトバランスゲインの有無を判定する。付加容量部Cの有無によって変化する変換効率は、撮像素子10の製造時の評価によってあらかじめ把握されている。
【0099】
また、ホワイトバランスゲインの値(kB,kG,kR)が(1,1,1)に近づくように変換効率を変更することで色信号値の出力を制御すればよいことから、付加容量部Cの有無によって出力電圧がn倍または1/m倍になる場合において、nより小さい値または1/mより大きい値をしきい値の境界としてもよい。
【0100】
前述の条件と同じで、画像信号において白色であると推定した色信号値が(B,G,R)=(100,60,60)であったとする。この時、ホワイトバランスゲインの値は(kB,kG,kR)=(1,1.66,1.66)となる。しきい値を2以上と設定すると、しきい値を超えない判断をするが、G値に対応するフォトダイオードPD2とR値に対応するフォトダイオードPD3を読み出す際に付加容量部Cを非接続状態にすることで出力電圧を2倍すると、色信号値は(B,G,R)=(100,120,120)となり、この色信号値に対応するホワイトバランスゲインは(kB,kG,kR)=(1.2,1,1)あるいは(kB,kG,kR)=(1,0.84,0.84)となる。変換効率を変更したほうがホワイトバランスゲインの値(kB,kG,kR)が(1,1,1)に近づくので、しきい値を2以下である1.6と定めてもよい。この場合、しきい値として許容される幅は経験によって定められる。
【0101】
ステップS04において、読み出し制御部54はIM制御部13に対して、分光特性推定部53が判定した結果に基づき、しきい値の範囲外である色信号値に対応するフォトダイオードを読み出す際の変換効率を切り替える。具体的には、読み出し制御部54はIM制御部13に対して、ステップS03においてしきい値の範囲外である値を出力していた色信号に対応する各画素11のフォトダイオードを読み出す際に、スイッチSWをオン状態またはオフ状態とする制御を行うように指示する。変換効率の切り替えが完了したらステップS02に進み、再度画像信号を取得する。
【0102】
スイッチSWがオンの状態で変換効率が低い場合、スイッチSWをオフ状態にすることで、当該フォトダイオードに対する電荷保持部FDの変換効率は高くなる。電荷保持部FDの変換効率を高くすることで、低光量下において電荷保持部FDが変換する電圧値を大きくし、画素回路および読み出し回路で発生するノイズを相対的に小さくする。
【0103】
スイッチSWがオフの状態で変換効率が高い場合、スイッチSWをオン状態にすることで、当該フォトダイオードに対する電荷保持部FDの変換効率は低くなる。電荷保持部FDの変換効率を低くすることで、高光量下において電荷保持部FDが変換する電圧値を小さくし、各フォトダイオードが飽和しない場合においても電荷保持部FDが飽和してしまうことを防ぐ。
【0104】
ホワイトバランスゲイン値の比をしきい値の判定に用いる場合は、電荷保持部FDが飽和状態または色信号がノイズに埋もれている状態である二極の状態から変換効率を変更するよりも、被写体の分光特性や各フォトダイオードの感度に応じて柔軟に変換効率の制御が可能である。
【0105】
ステップS05において、撮像装置20の電源がオフになる等によって撮影が継続されているか否かを判定する。撮影が継続されている場合は、ステップS02に進み、再度画像信号を取得する。撮影が継続されている限り撮像素子10が備える電荷保持部FDの変換効率を変更する制御を続けることで、画面が変わった際にも都度変換効率を変更することが可能となり、画面毎に最適な設定で画像信号を取得することができる。
【0106】
このように、被写体の分光特性に基づいて電荷保持部FDの変換効率を制御できるため、種々の撮影環境においてノイズの低減と画像信号の飽和防止を両立する撮像装置を構成することが可能となる。
【0107】
[第2の実施形態]
第2の実施形態において、付加容量部を複数備えることとスイッチを複数備えることを除くと、前述した第1の実施形態と同様であるため、共通する構成には同じ符号を付すこととし、詳細な説明は省略する。
【0108】
図9は、第2の実施形態に係る撮像素子10が備える画素11の画素回路を示す図である。本実施形態の画素11は、
図9に示されるように複数の光電変換層であるところのフォトダイオードPD1,PD2,PD3と、光電変換層と同じ数の電荷転送部であるところの転送トランジスタTX1,TX2,TX3と電荷保持部FDと、付加容量部C1,C2と、電荷保持部FDと付加容量部C1,C2との接続を切り替えるスイッチSW1,SW2を備えている。
【0109】
電荷保持部FDと付加容量部C1,C2は、並列に接続されている。電荷保持部FDと付加容量部C1,C2との接続を切り替える手段としてのスイッチSW1,SW2を付加容量部と同じ数備えることにより、電荷保持部FDにおける静電容量を段階的に上下させる組み合わせを実現できる。
【0110】
この時、付加容量部C1,C2の静電容量は互いに異なっていることが好ましい。電荷保持部FDの静電容量をCap_fd、付加容量部C1の静電容量をCap_c1、付加容量部C2の静電容量をCap_c2とし、Cap_c1よりもCap_c2の静電容量を大きくした時、電荷保持部FDにおける実現可能な静電容量の組み合わせは静電容量が大きい順にCap_fd+Cap_c1+Cap_c2、Cap_fd+Cap_c2、Cap_fd+Cap_c1、Cap_fdの4通りとなる。
【0111】
付加容量を増やすほど実現可能な静電容量の組み合わせは増える。そのため、付加容量は開口率の低下による感度の低下につながらない範囲で適宜増やしてもよい。
【0112】
第2の実施形態に係る撮像素子10の画素11から色信号を読み出す動作について
図10のタイミングチャートを参照しながら説明する。ここでは、所望の分光特性を得るためにフォトダイオードPD1の飽和容量が最も大きく、次いでフォトダイオードPD2の飽和容量が大きくなるように設計した場合を例にして説明する。
【0113】
図10中の各信号がハイレベルのときに、その信号に対応する構成要素がオン状態になり、ローレベルのときにオフ状態になる。信号レベルがハイまたはローになるタイミングをT1~T20で示している。ΦSELは行選択ゲートSELに、ΦRSTはリセットトランジスタRSTに、ΦSW1はスイッチSW1に、ΦSW2はスイッチSW2に、ΦTX1~ΦTX3は転送トランジスタTX1~TX3に対応しており、垂直駆動部14によって垂直制御配線15を経由して各構成の制御が行われる。ΦSは読み出し回路が画素回路側が出力する電圧を読み出すタイミングに対応しており、水平駆動部16の制御によって、アナログデジタル変換部ADCが出力配線17から出力される電圧をデジタル値に変換する制御が行われる。
【0114】
タイミングT1において、ΦSELがハイレベルにされ、行選択ゲートSELがオン状態となり、ソースフォロワトランジスタSFからは電荷保持部FDに対応した電圧が出力される。
【0115】
この時、ΦSW1およびΦSW2も同時にハイレベルにされ、スイッチSW1およびスイッチSW2がオン状態となる。スイッチSW1およびスイッチSW2がオン状態であるので、電荷保持部FDは付加容量部C1および付加容量部C2と接続されている状態となり、電荷保持部FDの静電容量は付加容量部C1と付加容量部C2分拡大される。
【0116】
タイミングT1~T2において、ΦRSTをハイレベルにした後ローレベルにすることで、リセットトランジスタRSTがオンになった後オフ状態となる。タイミングT2においてリセットトランジスタRSTがオフ状態になることで、画素回路側からは電荷保持部FDおよび付加容量部C1ならびに付加容量部C2における電荷がリセットされた状態に基づく電圧が出力される。
【0117】
タイミングT3~T4において、ΦSをハイレベルにした後ローレベルにすることで、読み出し回路は画素回路側が出力する電圧を読み出す。この時の電圧は、タイミングT1~T2においてリセットトランジスタRSTによって電荷がリセットされた状態のものである。
【0118】
タイミングT5~T6において、ΦTX1をハイレベルにした後ローレベルにすることで、転送トランジスタTX1をオン状態にし、フォトダイオードPD1に蓄積された電荷を電荷保持部FDに転送する。画素回路側からは、電荷保持部FDおよび付加容量部C1ならびに付加容量部C2におけるフォトダイオードPD1から転送されてきた電荷に基づく電圧が出力される。
【0119】
タイミングT6~T7において、ΦSをハイレベルにした後ローレベルにすることで、読み出し回路は画素回路側が出力する電圧を読み出す。これによって、フォトダイオードPD1の信号読み出しが完了する。
【0120】
タイミングT7~T8において、ΦRSTをハイレベルにした後ローレベルにすることで、リセットトランジスタRSTがオンになった後オフ状態となる。タイミングT8においてリセットトランジスタRSTがオフ状態になることで、画素回路側からは電荷保持部FDおよび付加容量部C1ならびに付加容量部C2における電荷がリセットされた状態に基づく電圧が出力される。
【0121】
また、タイミングT8において、ΦSW2をローレベルにすることで、スイッチSW2をオフ状態にする。スイッチSW2がオフ状態になることで、電荷保持部FDと付加容量部C2の接続は切り離される。
【0122】
タイミングT9~T10において、ΦSをハイレベルにした後ローレベルにすることで、読み出し回路は画素回路側が出力する電圧を読み出す。この時の電圧は、タイミングT7~T8においてリセットトランジスタRSTによって電荷がリセットされた状態のものである。
【0123】
タイミングT11~T12において、ΦTX2をハイレベルにした後ローレベルにすることで、転送トランジスタTX2をオン状態にし、フォトダイオードPD2に蓄積された電荷を電荷保持部FDに転送する。画素回路側からは、電荷保持部FDおよび付加容量部C1におけるフォトダイオードPD2から転送されてきた電荷に基づく電圧が出力される。
【0124】
タイミングT12~T13において、ΦSをハイレベルにした後ローレベルにすることで、読み出し回路は画素回路側が出力する電圧を読み出す。これによって、フォトダイオードPD2の信号読み出しが完了する。
【0125】
タイミングT13~T14において、ΦRSTをハイレベルにした後ローレベルにすることで、リセットトランジスタRSTがオンになった後オフ状態となる。タイミングT14においてリセットトランジスタRSTがオフ状態になることで、画素回路側からは電荷保持部FDおよび付加容量部C1における電荷がリセットされた状態に基づく電圧が出力される。
【0126】
また、タイミングT14において、ΦSW1をローレベルにすることで、スイッチSW1をオフ状態にする。スイッチSW1がオフ状態になることで、電荷保持部FDと付加容量部C1の接続は切り離される。
【0127】
タイミングT15~T16において、ΦSをハイレベルにした後ローレベルにすることで、読み出し回路は画素回路側が出力する電圧を読み出す。この時の電圧は、タイミングT13~T14においてリセットトランジスタRSTによって電荷がリセットされた状態のものである。
【0128】
タイミングT17~T18において、ΦTX3をハイレベルにした後ローレベルにすることで、転送トランジスタTX3をオン状態にし、フォトダイオードPD3に蓄積された電荷を電荷保持部FDに転送する。画素回路側からは、電荷保持部FDにおけるフォトダイオードPD3から転送されてきた電荷に基づく電圧が出力される。
【0129】
タイミングT18~T19において、ΦSをハイレベルにした後ローレベルにすることで、読み出し回路は画素回路側が出力する電圧を読み出す。これによって、フォトダイオードPD3の信号読み出しが完了する。
【0130】
タイミングT19~T20において、ΦRSTとΦSW1とΦSW2をハイレベルにした後ローレベルにし、タイミングT20においてΦSELをローレベルにすることで、画素11における色信号の取得が完了する。
【0131】
このように、複数の付加容量部の接続状態を適宜切り替えることにより、各フォトダイオードの飽和容量に対応して変換効率を柔軟に設定することができ、低光量下においても高光量下においても良好な画像信号を取得することができる。
【0132】
また、第2の実施形態の撮像素子10を備える撮像装置20を構成することにより、第1の実施形態と同様に、種々の撮影環境においてノイズの低減と画像信号の飽和防止を両立する撮像装置を構成することが可能となる。第1の実施形態と比較すると、第2の実施形態における撮像素子10は複数の付加容量部を備える構成であり、電荷保持部FDにおける静電容量を段階的に上下させることができることから、各撮影環境においてより最適な画像信号を取得することが可能となる。
【0133】
本発明は、以下のような構成を取ることもできる。
【0134】
読み出し制御部54の読み出し指示は、使用者によって任意に行える構成としてもよい。例えば、撮像装置20において、使用者がモードBを選択するとフォトダイオードPD1(B層)の信号を取得する際にスイッチSWがオンされるといった処理を行う。複数の付加容量部を備える場合は、モードBにおける段階の設定を可能とし、段階に応じて複数の付加容量部の接続状況を変更するといった処理を行う。その他、撮像装置20における撮影カラーモードの変更時やマニュアル操作でのホワイトバランス変更時に読み出し制御部54の読み出し指示を含めることも可能である。これにより、使用者が所望の画作りに対して最適な画像信号を得ることが可能となる。
【0135】
以上が本発明の実施形態であるが、各実施形態において示した各部の形状や回路等は、いずれも本技術を実施するための一例である。また、各実施形態により開示される技術は、実施形態の説明に限定されず様々な変形実施が可能であり、いずれも本発明の均等の範囲内である。
【符号の説明】
【0136】
10 撮像素子
11 画素
12 光電変換部
PD1、PD2、PD3 フォトダイオード
TX1、TX2、TX3 転送トランジスタ
FD 電荷保持部
C、C1、C2 付加容量部
SW、SW1、SW2 スイッチ
RST リセットトランジスタ
SF ソースフォロワトランジスタ
SEL 行選択ゲート
VDD 電源
ADC アナログデジタル変換部
13 IM制御部
14 垂直駆動部
15 垂直制御配線
16 水平駆動部
17 出力配線
18 信号処理部
20 撮像装置
30 レンズ装置
40 カメラ本体
41 カメラ制御部
50 画像処理ブロック
51 色信号取得部
52 ホワイトバランス制御部
53 分光特性推定部
54 読み出し制御部
60 ROM
70 RAM