(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138888
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】カルバミン酸アリール-2-テトラゾリルエチルエステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 257/04 20060101AFI20241002BHJP
C12P 17/10 20060101ALI20241002BHJP
C12P 7/22 20060101ALI20241002BHJP
C12P 7/62 20220101ALI20241002BHJP
C07C 43/178 20060101ALI20241002BHJP
C07C 41/26 20060101ALI20241002BHJP
C07C 69/734 20060101ALI20241002BHJP
C07C 69/732 20060101ALI20241002BHJP
C07C 67/31 20060101ALI20241002BHJP
C07C 67/22 20060101ALI20241002BHJP
A61K 31/41 20060101ALI20241002BHJP
A61P 25/08 20060101ALI20241002BHJP
C12N 9/88 20060101ALN20241002BHJP
【FI】
C07D257/04 A
C12P17/10
C12P7/22
C12P7/62
C07C43/178 A
C07C41/26
C07C69/734 Z
C07C69/732 Z
C07C67/31
C07C67/22
A61K31/41
A61P25/08
C12N9/88
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049603
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】515157758
【氏名又は名称】公立大学法人 富山県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】浅野 泰久
(72)【発明者】
【氏名】チャクラボルティ ジョイ
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 源司
【テーマコード(参考)】
4B064
4C086
4H006
【Fターム(参考)】
4B064AC17
4B064AD70
4B064AE48
4B064CA21
4B064DA01
4C086AA04
4C086BC62
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA20
4C086ZA06
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC41
4H006AC43
4H006AC48
4H006BB11
4H006BB14
4H006BE01
4H006BJ50
4H006BM30
4H006BM72
4H006BN30
4H006BP30
4H006GN08
4H006GP01
4H006GP10
4H006KA17
4H006KA31
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ラセミ体の生成と光学活性体の分離工程なく目的物を製造する方法を提供する。
【解決手段】保護基を有する(R)-アルコール化合物を1Hテトラゾールと反応させて、(R)-テトラゾール化合物を得る工程、次いで脱保護する工程、更にクロルスルホニルイソシアネートと反応させて化合物(1)を得る工程を含む、カルバミン酸アリール-2-テトラゾリルエチルエステル(1)の製造方法。
(式中、R
1及びR
2は、独立して、水素原子またはハロゲン原子である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(4)で表される(R)-アルコール化合物を1Hテトラゾールと反応させて、一般式(3)で表される(R)-テトラゾール化合物を得る工程(1-1)、
一般式(3)で表される(R)-テトラゾール化合物を脱保護して一般式(2)で表される(R)-テトラゾール化合物を生成させる工程(1-2)、及び
一般式(2)で表される(R)-テトラゾール化合物をクロルスルホニルイソシアネートと反応させて一般式(1)で表される(R)-カルバミン酸アリール-2-テトラゾリルエチルエステルを得る工程(1-3)を含む、
カルバミン酸アリール-2-テトラゾリルエチルエステルの製造方法。
【化1】
(式(1)~(4)中、R
1及びR
2は、独立して、水素原子またはハロゲン原子であり、R
3は保護基である。)
【請求項2】
R1は水素原子であり、R2はハロゲン原子である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
ハロゲン原子は塩素原子であり、フェニル基の2位に位置する請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
保護基がベンジル基、2,4,6-トリメチルベンゾイル基またはベンゾイル基である請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
工程(1-1)における1Hテトラゾール化合物との反応が、酸触媒共存下で実施されるか、または光延反応により実施される請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
一般式(9)で表される(R)-ヒドロキシアセトニトリル化合物から、一般式(7)で示される(R)-ヒドロキシアルキルエステル化合物を得る工程(2-2)、
一般式(7)で表されるヒドロキシアルキルエステル化合物のヒドロキシ基を保護して、一般式(6)で表されるアルキルエステル化合物を得る工程(2-3)、及び
一般式(6)で表されるアルキルエステル化合物を還元して、一般式(4)で表される(R)-立体配置のアルコール化合物を得る工程(2-4)を含む、(R)-立体配置のアルコール化合物の製造方法。
【化2】
(式(4)、(6)、(7)、(9)中、R
1及びR
2は、独立して、水素原子またはハロゲン原子であり、R
3は保護基であり、R
4は炭素数1~6のアルキル基である。)
【請求項7】
工程(2-2)が、一般式(9)で表される(R)-ヒドロキシアセトニトリル化合物にR4-OHで表されるアルキルアルコールを反応させて、一般式(7)で示される(R)-ヒドロキシアルキルエステル化合物を得る工程(2-2a)である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
工程(2-2)が、一般式(9)で表される(R)-ヒドロキシアセトニトリル化合物に酸化合物を反応させるか、またはニトリラーゼを作用させて、一般式(8)で示される(R)-ヒドロキシカルボン酸化合物を得、さらに一般式(8)で示される(R)-ヒドロキシカルボン酸化合物にR
4-OHで表されるアルキルアルコールを反応させて、一般式(7)で示される(R)-ヒドロキシアルキルエステル化合物を得る工程(2-2b)である、請求項6に記載の製造方法。
【化3】
(式(8)中、R
1及びR
2は、独立して、水素原子またはハロゲン原子である。)
【請求項9】
一般式(10)で表されるベンズアルデヒド化合物とシアン化合物を(R)-ヒドロキシニトリルリアーゼの存在下で反応させて、一般式(9)で表される(R)-ヒドロキシアセトニトリルを得る工程(2-1)を工程(2-2)の前に含む、請求項6に記載の製造方法。
【化4】
(式(10)中、R
1及びR
2は、独立して、水素原子またはハロゲン原子である。)
【請求項10】
R1は水素原子であり、R2はハロゲン原子である請求項6に記載の製造方法。
【請求項11】
ハロゲン原子は塩素原子であり、フェニル基の2位に位置する請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
保護基R3がベンジル基、2,4,6-トリメチルベンゾイル基またはベンゾイル基である請求項7に記載の製造方法。
【請求項13】
ヒドロキシニトリルリアーゼがPlamHNL-N65Y変異体である請求項9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルバミン酸アリール-2-テトラゾリルエチルエステルの製造方法及びその合成中間体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(R)-1-(2-クロロフェニル)-2-(2H-テトラゾール-2-イル)カルバミン酸エチルは、てんかん治療薬として、2019年11月に米国でFDAの承認を受けている。合成方法は、特許文献1及び非特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2013-507911号公報
【特許文献2】WO2017/150560
【特許文献3】WO2020/009168
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Andrew C. Flick et al.,J.Med.Chem.2021,64,3604-3657
【非特許文献2】M.Dadashipour and Y.Asano,ACS Catal.2011,1,1121-1149
【非特許文献3】浅野 泰久、生化学誌、Vol.94、No.5,第681~689頁、2022年
【非特許文献4】Т.Yamaguchi他、Sci.Rep.Vol.8,第3051頁~、2018年
【非特許文献5】A.Nuylert他、ACS Omega、Vol.5、No.43、第27896~27908、2020年
【非特許文献6】Z.-Y. Zhai他、Journal of Industrial Microbiology and Biotechnology、Vol.46、No.7、第887~898頁、2019年
【非特許文献7】N. Adebar 他、European Journal of Organic Chemistry、第6062~6067頁、2020年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び非特許文献1に記載の(R)-1-(2-クロロフェニル)-2-(2H-テトラゾール-2-イル)カルバミン酸エチルの製造方法では、下記反応スキームに記載のように、最初の段階で、2-ブロモ-2’-クロロアセトフェノン(式中のX=Br)に1H-テトラゾールを反応させてケトン化合物を得る。得られたケトン化合物は、1N-ケトンと2N-ケトンであり、2N-ケトンから1N-ケトンを分離除去した後、2N-ケトンをエナンチオ選択的に還元して、アルコール化合物(1N-アルコール)とし、得られた1N-アルコールにクロルスルホニルイソシアネートを反応させて、目的とする(R)-1-(2-クロロフェニル)-2-(2H-テトラゾール-2-イル)カルバミン酸エチルを得ている。
【0006】
【0007】
上記特許文献1及び非特許文献1に記載の(R)-1-(2-クロロフェニル)-2-(2H-テトラゾール-2-イル)カルバミン酸エチルの製造方法では、1H-テトラゾールを反応させて得られるケトン化合物は、1N-ケトンと2N-ケトンの2種類であり、これを分離生成して2N-ケトンとした後に2N-ケトンをエナンチオ選択的に還元し、かつクロルスルホニルイソシアネートと反応させて、目的化合物を得る。1N-ケトンと2N-ケトンの生成比はほぼ1:1であるために、目的物の生産性に劣り、かつ2N-ケトンをエナンチオ選択的還元するために、酸化還元酵素を必要とする。
【0008】
本発明は、目的物製造の工程で、ラセミ体の生成と一方の光学活性体を分離する工程を経ることなく、目的物を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ハロゲン化ベンズアルデヒドから酵素を用いて光学活性ハロゲン化マンデロニトリルをエナンチオ選択的に製造し、光学活性ハロゲン化マンデロニトリルから目的物であるできる方法を利用し、(R)-1-(2-クロロフェニル)-2-(2H-テトラゾール-2-イル)カルバミン酸エチルを含む化合物を、光学分割を要することなく、合成できることを見いだして、本発明を完成させた。
【0010】
本発明は以下の通りである。
[1]
一般式(4)で表される(R)-アルコール化合物を1Hテトラゾールと反応させて、一般式(3)で表される(R)-テトラゾール化合物を得る工程(1-1)、
一般式(3)で表される(R)-テトラゾール化合物を脱保護して一般式(2)で表される(R)-テトラゾール化合物を生成させる工程(1-2)、及び
一般式(2)で表される(R)-テトラゾール化合物をクロルスルホニルイソシアネートと反応させて一般式(1)で表される(R)-カルバミン酸アリール-2-テトラゾリルエチルエステルを得る工程(1-3)を含む、
カルバミン酸アリール-2-テトラゾリルエチルエステルの製造方法。
【化2】
(式(1)~(4)中、R
1及びR
2は、独立して、水素原子またはハロゲン原子であり、R
3は保護基である。)
[2]
R
1は水素原子であり、R
2はハロゲン原子である[1]に記載の製造方法。
[3]
ハロゲン原子は塩素原子であり、フェニル基の2位に位置する[2]に記載の製造方法。
[4]
保護基がベンジル基、2,4,6-トリメチルベンゾイル基またはベンゾイル基である[1]~[3]のいずれか1項に記載の製造方法。
[5]
工程(1-1)における1Hテトラゾール化合物との反応が、酸触媒共存下で実施されるか、または光延反応により実施される[1]~[4]のいずれか1項に記載の製造方法。
[6]
一般式(9)で表される(R)-ヒドロキシアセトニトリル化合物から、一般式(7)で示される(R)-ヒドロキシアルキルエステル化合物を得る工程(2-2)、
一般式(7)で表されるヒドロキシアルキルエステル化合物のヒドロキシ基を保護して、一般式(6)で表されるアルキルエステル化合物を得る工程(2-3)、及び
一般式(6)で表されるアルキルエステル化合物を還元して、一般式(4)で表される(R)-立体配置のアルコール化合物を得る工程(2-4)を含む、(R)-立体配置のアルコール化合物の製造方法。
【化3】
(式(4)、(6)、(7)、(9)中、R
1及びR
2は、独立して、水素原子またはハロゲン原子であり、R
3は保護基であり、R
4は炭素数1~6のアルキル基である。)
[7]
工程(2-2)が、一般式(9)で表される(R)-ヒドロキシアセトニトリル化合物にR
4-OHで表されるアルキルアルコールを反応させて、一般式(7)で示される(R)-ヒドロキシアルキルエステル化合物を得る工程(2-2a)である、[6]に記載の製造方法。
[8]
工程(2-2)が、一般式(9)で表される(R)-ヒドロキシアセトニトリル化合物に酸化合物を反応させるか、またはニトリラーゼを作用させて、一般式(8)で示される(R)-ヒドロキシカルボン酸化合物を得、さらに一般式(8)で示される(R)-ヒドロキシカルボン酸化合物にR
4-OHで表されるアルキルアルコールを反応させて、一般式(7)で示される(R)-ヒドロキシアルキルエステル化合物を得る工程(2-2b)である、[6]に記載の製造方法。
【化4】
(式(8)中、R
1及びR
2は、独立して、水素原子またはハロゲン原子である。)
[9]
一般式(10)で表されるベンズアルデヒド化合物とシアン化合物を(R)-ヒドロキシニトリルリアーゼの存在下で反応させて、一般式(9)で表される(R)-ヒドロキシアセトニトリルを得る工程(2-1)を工程(2-2)の前に含む、[6]~[8]のいずれか1項に記載の製造方法。
【化5】
(式(10)中、R
1及びR
2は、独立して、水素原子またはハロゲン原子である。)
[10]
R
1は水素原子であり、R
2はハロゲン原子である[6]~[9]のいずれか1項に記載の製造方法。
[11]
ハロゲン原子は塩素原子であり、フェニル基の2位に位置する[10]に記載の製造方法。
[12]
保護基R
3がベンジル基、2,4,6-トリメチルベンゾイル基またはベンゾイル基である[6]~[11]のいずれか1項に記載の製造方法。
[13]
ヒドロキシニトリルリアーゼがPlamHNL-N65Y変異体である[9]~[12]のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、(R)-1-(2-クロロフェニル)-2-(2H-テトラゾール-2-イル)カルバミン酸エチルを含む化合物を、光学分割を要することなく、合成することができる。さらに本発明によれば、光学分割を要することなく、(R)-1-(2-クロロフェニル)-2-(2H-テトラゾール-2-イル)カルバミン酸エチルを含む化合物を合成するために用いることができる合成中間体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<カルバミン酸アリール-2-テトラゾリルエチルエステルの製造方法>
本発明の第1の態様は、カルバミン酸アリール-2-テトラゾリルエチルエステルの製造方法であり、以下の工程(1-1)~(1-3)を含む。式(1)~(4)中のR1及びR2は、独立して、水素原子またはハロゲン原子であり、R3は保護基である。好ましくは、R1は水素原子であり、R2はハロゲン原子である。ハロゲン原子は、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子であり、好ましくは塩素原子である。R2は、好ましくはフェニル基の2位に位置する。保護基R3は、例えば、ベンジル基、2,4,6-トリメチルベンゾイル基またはベンゾイル基などであることができる。
【0013】
工程(1-1):一般式(4)で表される(R)-アルコール化合物を1Hテトラゾールと反応させて、一般式(3)で表される(R)-テトラゾール化合物を得る。
【化6】
【0014】
(R)-アルコール化合物と1Hテトラゾールとの反応は、例えば、酸触媒共存下で実施されるか、光延反応により実施される。これらの条件下で実施することで、1Hテトラゾールを位置選択的に導入することができる。酸触媒共存下での反応は、例えば、塩酸、硫酸などの鉱酸、BF3などのルイス酸等により実施できる。光延反応は、トリフェニルホスフィン及びアゾジカルボン酸ジイソプロピルの存在下で行うことができる。1Hテトラゾールの使用量は、例えば、(R)-アルコール化合物に対して1当量から3当量倍の範囲、好ましくは1.2~2.0当量倍の範囲で用いることができる。トリフェニルホスフィン及びアゾジカルボン酸ジイソプロピルの存在量は、それぞれ、例えば、(R)-アルコール化合物に対して1当量から5当量倍の範囲、好ましくは1.2~3.0当量倍の範囲で用いることができる。反応温度及び反応時間は適宜決定することができるが、反応温度は例えば、-10℃~10℃の範囲、反応時間は10分から6時間の範囲とすることができる。光延反応においては、1N-テトラゾールと2N-テトラゾールが得られるが、1N-テトラゾールと2N-テトラゾールの物性の違いにより両者の分離は容易に行うことができる。
【0015】
工程(1-2):一般式(3)で表される(R)-テトラゾール化合物を脱保護して一般式(2)で表されるテトラゾール化合物を生成させる。
【化7】
【0016】
脱保護は、保護基R3の種類に応じて適宜選択することができる。保護基R3が、ベンジル基、2,4,6-トリメチルベンゾイル基またはベンゾイル基の場合は、還元、例えば、触媒の存在下で水素還元することで実施できる。触媒としては、例えば、Pd触媒を用いることができる。反応温度及び反応時間は適宜決定することができるが、反応温度は例えば、0℃~30℃の範囲、反応時間は10分から6時間の範囲とすることができる。
【0017】
工程(1-3):一般式(2)で表される(R)-テトラゾール化合物をクロルスルホニルイソシアネートと反応させて一般式(1)で表される(R)-カルバミン酸アリール-2-テトラゾリルエチルエステルを得る。
【化8】
【0018】
(R)-テトラゾール化合物をクロルスルホニルイソシアネートとの反応は、テトラヒドロフランなどの極性有機溶媒中で実施することができる。クロルスルホニルイソシアネートの使用量は、例えば、(R)-テトラゾール化合物に対して1当量から3当量倍の範囲、好ましくは1.2~2.0当量倍の範囲で用いることができる。反応温度及び反応時間は適宜決定することができるが、反応温度は例えば、-25℃~0℃の範囲、反応時間は10分から6時間の範囲とすることができる。
【0019】
<(R)-立体配置のアルコール化合物の製造方法>
本発明の第2の態様は、目的物である(R)-1-(2-クロロフェニル)-2-(2H-テトラゾール-2-イル)カルバミン酸エチルなどの化合物の中間原料となる(R)-立体配置のアルコール化合物の製造方法に関し、工程(2-2)、(2-3)及び(2-4)を含む方法である。工程(2-2)は、(2-2a)または(2-2b)であることができ、工程(2-2)の原料である一般式(9)で表されるヒドロキシアセトニトリルは、例えば、工程(2-1)で製造することができる。
【0020】
式(4)、(6)~(10)中、R1及びR2は、独立して、水素原子またはハロゲン原子であり、R3は保護基であり、R4は炭素数1~6のアルキル基である。好ましくは、R1は水素原子であり、R2はハロゲン原子である。ハロゲン原子は、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子であり、好ましくは塩素原子である。R2は、好ましくはフェニル基の2位に位置する。保護基R3は、例えば、ベンジル基、2,4,6-トリメチルベンゾイル基またはベンゾイル基などであることができる。炭素数1~6のアルキル基R4は、好ましくはメチル基、エチル基、イソプロピ基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基などである。
【0021】
工程(2-1):一般式(10)で表されるベンズアルデヒド化合物とシアン化合物を(R)-ヒドロキシニトリルリアーゼの存在下で反応させて、一般式(9)で表されるヒドロキシアセトニトリルを得る。
【化9】
【0022】
ヒドロキシニトリルリアーゼ(HNL)は、シアノヒドリン(ヒドロキシアセトニトリル)の合成及び分解の可逆反応を触媒する酵素であり、(S)選択性および(R)選択性の2つのグループに分けられる。その中で(R)-HNLは、酸性条件下においてケトンまたはアルデヒドとシアニドドナーから(R)-シアノヒドリンを生成する反応を触媒する。(R)-HNLは、オビヤスデ目(Polydesmida)に分類されるヤンバルトサカヤスデ(Chamberlinius hualienensis)、タンバアカヤスデ(Nedyopus tambanus tambanus)、ミドリババヤスデ(Parafontaria tonominea)、エパネルコデウス属(Epanerchodus sp.)、エパネルコデウス フルヴス(Epanerchodus fulvus Haga)、キシャヤスデ(Parafontaria laminate armigera)、ヤケヤスデ(Oxidus gracilis)、オオギヤスデ属(Cryptocorypha sp.)、ヤマトオビヤスデ(Epanerchodus japonicas Carl)、アマビコヤスデ(Riukiaria semicircularis semicircularis)、ヤマトアカヤスデ(Nedyopus patrioticus patrioticus)などの節足動物から得ることができる(特許文献2及び特許文献3、非特許文献2、非特許文献3及び非特許文献4参照)。
【0023】
(R)-HNLは、例えば、特許文献3及び非特許文献5に記載のヤスデ由来の(R)-ヒドロキシニトリルリアーゼまたはヤスデ由来の(R)-ヒドロキシニトリルリアーゼのタンパク質の1種類以上のアミノ酸を置換した変異体タンパク質であることもできる。好ましい(R)-HNLは、エナンチオ選択性に優れるという観点からPlamHNLの変異体タンパク質である、例えば、N65Y、N65M、N65V、N65L、N65W、T75A、I69G、N65Y/T75A、N65Y/I69Gなどの変異体である。(R)-HNL変異体タンパク質としては、精製したタンパク質を使用することもできるし、菌体粉砕物またはその粗生成物を使用することもできる。(R)-HNLとしては、酵母Pichia pastorisを用いて高収率で異種生産した(R)-HNLを用いることもできる(非特許文献6)。(R)-HNLを大腸菌などで異種発現し、可溶性・活性型で得られにくい場合には、タンパク質を一度変性させ、リフォールディングして活性のあるネイティブ構造へ巻き戻した(R)-HNLを用いることもできる。
【0024】
工程(2-1)で用いる(R)-HNL酵素量は、反応を触媒できる酵素量であれば特に制限されるものではないが、例えば、1~100U、1~50U、1~10U、2~8U、3~5Uとすることができる。
【0025】
一般式(10)で表されるベンズアルデヒド化合物は、市販品を入手であるか、公知の方法で合成することができる化合物である。シアン化合物は、例えば、KCN、NaCN、LiCNなどの無機シアン化合物であることができ、KCNであることが適当である。使用するシアン化合物の量は、例えば、0.1mM~10M、0.2mM~2M、又は2mM~200mMとすることができる。シアン化合物は、例えば、ベンズアルデヒド化合物に対して1当量から5当量倍の範囲、好ましくは1.5~2.5当量倍の範囲で用いることができる。反応は、水系、水-有機溶媒二相系、有機溶媒-微水系、または有機溶媒系等で実施することができ、使用するヒドロキシニトリルリアーゼに応じて適当なpHを示す緩衝溶液中で実施することもできる。クエン酸緩衝液の場合のpHは、例えば、2~7、2~6、2~5、3.5~5、及び3.5~4とすることができる。反応温度や時間も、使用するヒドロキシニトリルリアーゼの種類や量に応じて適宜決定、選択することができる。反応温度は、具体的には、酵素反応に依存しないラセミ体のシアノヒドリンの生成が抑制され、かつ、酵素反応に適した温度が好ましく、例えば、0~50℃、15~35℃とすることができる。
【0026】
工程(2-1)で用いる(R)-HNL変異体タンパク質の存在下で、アルデヒド化合物とシアン化合物とを反応させることを含む、シアノヒドリン(ヒドロキシアセトニトリル)の製造方法に関しては、例えば、非特許文献2を参照することができる。具体的には、例えば、(R)-HNL変異体タンパク質を、アルデヒド化合物及びシアン化合物を含有する、クエン酸緩衝液に添加して混合し、25℃で3分間反応させ、n-ヘキサン及び2-プロパノールと激しく混合することにより有機相中にシアノヒドリンを得ることができる。 必要に応じてクエン酸緩衝液(pH4.0)中に有機溶媒を添加して反応させることもできる。このような有機溶媒としては、酢酸エチル(EA)、ジエチルエーテル(DEE)、メチル-t-ブチルエーテル(MTBE)、2-イソプロピルエーテル(DIPE)、ジブチルエーテル(DBE)、メタノール(Met)、及びヘキサン(Hex)を挙げることができ、好ましくは、DIPE、DEE、MTBE、DBE及びHexであり、より好ましくは、DIPE、DEE、MTBE、及びDBEEである。
【0027】
工程(2-1)は回分(バッチ)法でも、フロー法でも実施できる。フロー法では微小流路の中で反応を行うマイクロリアクターを用いることができる。シアン源や有機溶媒などの危険な試薬を用いる反応の安全性を向上させ、優れた熱伝達性、後処理の簡便性、およびスケールアップの容易さなどの利点がある。非特許文献7に示されるように、フロー法を用いることで、立体選択性の向上、酸素の抑制による酵素の安定利用などが期待できる。フロー法では、非常に高い反応効率で、酵素と基質を反応させることができる。また、固定化された(R)-HNLを用いることもでき、それらは回収等の必要がなく、再利用できるので、また反応の際に投入されるエネルギーを非常に低くすることができる。
【0028】
溶液状あるいは固定化した(R)HNLを使用して対応するアルデヒド化合物とシアン化合物から生成する、例えば、(R)-2-クロロマンデロニトリルや(R)-マンデロニトリルなどの(R)-ヒドロキシアセトニトリル化合物を回収する。得られた(R)-ヒドロキシアセトニトリル化合物の変換及びエナンチオマー過剰率(ee)をキラルHPLCによって分析することができる。対応する基質の標準曲線を用いて変換を計算することができる。eeは、非特許文献1を参照して、2つのエナンチオマーのピーク面積を計算することによって決定することができる。
【0029】
反応終了後に、(R)-ヒドロキシアセトニトリルを反応溶液から常法により分離し、必要により、キラルHPLCなどにより精製して(R)-ヒドロキシアセトニトリルを得る。
【0030】
(R)-ヒドロキシアセトニトリル[(R)-シアノヒドリン]の一例である(R)-マンデロニトリルや(R)-2-クロロマンデロニトリルなどは、医薬を合成するための中間体として有用である。安価な基質から医薬および化成品中間体として利用価値の高い光学活性体を生産することのできる生体触媒として(R)-HNLは、極めて有用である。
【0031】
工程(2-2)は、一般式(9)で表される(R)-ヒドロキシアセトニトリル化合物から、一般式(7)で示される(R)-ヒドロキシアルキルエステル化合物を得る工程であり、具体的には以下の工程(2-2a)または(2-2b)であることができる。
工程(2-2a):一般式(9)で表される(R)-ヒドロキシアセトニトリル化合物にR
4-OHで表されるアルキルアルコールを反応させて、一般式(7)で示されるヒドロキシアルキルエステル化合物を得る。
工程(2-2b):一般式(9)で表される(R)-ヒドロキシアセトニトリル化合物に酸化合物を反応させて、一般式(8)で示されるヒドロキシカルボン酸化合物を得、さらに一般式(8)で示されるヒドロキシカルボン酸化合物にR
4-OHで表されるアルキルアルコールを反応させて、一般式(7)で示されるヒドロキシアルキルエステル化合物を得る。
【化10】
【0032】
工程(2-2a):(R)-ヒドロキシアセトニトリル化合物に酸の存在下でR4-OHで表されるアルキルアルコールを反応させて、一般式(7)で示される(R)-ヒドロキシアルキルエステル化合物を得る。アルキルアルコールは、アルキル基R4に応じて適宜選択でき、例えば、メタノールであることができ、酸としては無機酸を用いることができ、無機酸としては例えば、塩酸を用いることができる。但し、これらに限定される意図ではない。この反応は、酸水溶液中で行うことができ、反応温度及び反応時間は適宜決定することができるが、反応温度は例えば、30℃~80℃の範囲、反応時間は10分から10時間の範囲とすることができる。
【0033】
工程(2-2b)では、第一段階として、(R)-ヒドロキシアセトニトリル化合物に酸化合物を反応させて、一般式(8)で示される(R)-ヒドロキシカルボン酸化合物を得る。酸化合物としては、無機酸を挙げることができ、例えば、塩酸であることができる。この反応では、シアノ基がカルボキシル基に変換される。酸化合物を用いる代りに、ニトリラーゼを用いて、(R)-ヒドロキシカルボン酸化合物、例えば、(R)-2-クロロマンデル酸および(R)-マンデル酸を合成することもできる。ニトリラーゼは、文献既知のものを使うことが可能であるが、さらにSchewanella woodi由来のニトリラーゼ(SwoNIT)などのように、in silicoクリーニングしたニトリラーゼを使うことが可能である(R. Inoue, S. Nakano, S. Shinoda, Y. Asano, In silico screening of nitrilase by INTMSAlign_Angler, 第70回生物工学会大会、2018.9.5-7(大阪))。
【0034】
次いで、ヒドロキシカルボン酸化合物を酸の存在下でR4-OHで表されるアルキルアルコールを反応させて、一般式(7)で示される(R)-ヒドロキシアルキルエステル化合物を得る。アルキルアルコールはアルキル基R4に応じて適宜選択でき、例えば、メタノールであることができ、酸としては無機酸を用いることができ、無機酸としては例えば、硫酸を用いることができる。但し、これらに限定される意図ではない。この反応は、アルキルアルコール溶液中で行うことができ、反応温度及び反応時間は適宜決定することができるが、反応温度は例えば、30℃~80℃の範囲、反応時間は10分から10時間の範囲とすることができる。
【0035】
工程(2-3):一般式(7)で表される(R)-ヒドロキシアルキルエステル化合物のヒドロキシ基を保護して、一般式(6)で表される(R)-アルキルエステル化合物を得る。
【化11】
【0036】
保護基R3の導入に用いる試薬は、保護基の種類に応じて、適宜選択することができる。保護基がベンジル基の場合には、保護基導入用試薬として、例えば、2,2,2-トリクロロアセチトイデートを用いることができる。保護基導入用試薬の使用量は、(R)-ヒドロキシアルキルエステル化合物に対して1当量から5当量倍の範囲、好ましくは1.5~2.5当量倍の範囲で用いることができる。反応温度及び反応時間は適宜決定することができるが、反応温度は例えば、-10℃~10℃の範囲、反応時間は1時間から24時間の範囲とすることができる。
【0037】
工程(2-4):一般式(6)で表される(R)-アルキルエステル化合物を還元して、一般式(4)で表される(R)-立体配置のアルコール化合物を得る。
【化12】
【0038】
(R)-アルキルエステル化合物の還元には、例えば、水素化アルミニウムリチウムを用いることができるが、水素化アルミニウムリチウム以外の還元剤を用いることもできる。反応温度及び反応時間は適宜決定することができるが、反応温度は例えば、-10℃~30℃の範囲、反応時間は1時間から24時間の範囲とすることができる。
以上の工程で、一般式(4)で表される(R)-立体配置のアルコール化合物を得る。
以上の工程で得られた、一般式(4)で表される(R)-立体配置のアルコール化合物は、本発明の第1の態様の工程(1-1)の出発原料として用いられる。
【実施例0039】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。但し、実施例は本発明の例示であって、本発明は実施例に限定される意図ではない。
【0040】
【0041】
【0042】
(R)-2-(2-クロロフェニル)-2-ヒドロキシアセトニトリル(2)の合成
50mMの2-クロロベンズアルデ及び100mMのKCNを含有する300mMクエン酸バッファー(pH3.5)100mLに4Uのヒドロキシニトリルリアーゼ(HNL)N65Y変異体を加え、25℃で30分間反応させた。反応混合物を酢酸エチル(2×150 mL)で抽出し、最後に合わせた有機層をブラインで洗浄し、MgSO4で乾燥させた。次に、溶液を減圧下で濃縮して、2-クロロマンデロニトリル 2(6 g, 95%, 98.2%ee)を無色液体として得て、さらに精製せずに次回に使用した。
【0043】
Rf = 0.40 (EtOAc/hexane, 1:3). 1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ 7.74-7.71 (m, 1H), 7.47-7.44 (m, 1H), 7.41-7.38 (m, 2H), 5.88 (s, 1H). 13C NMR (125 MHz, CDCl3): δ 132.8, 132.7, 131.2, 130.2, 128.5, 127.8, 117.7, 61.1.
【0044】
【0045】
メチル(R)-2-(2-クロロフェニル)-2-ヒドロキシアセテート(4)の合成
MeOH(1.5 mL)中の2-クロロマンデロニトリル 2(1.04 g, 6.23 mmol)の撹拌溶液に、35% HCl(1.55 mL, 18.68 mmol)を0℃で添加した。氷浴を取り除き、すべての出発物質が完全に消費されるまで、反応混合物を65℃で3時間加熱した。反応混合物を冷却し、酢酸エチル(40 mL)で希釈し、NaHCO3の飽和溶液を加えてクエンチした。層を分離し、水層を酢酸エチル(2×40 mL)で抽出した。合わせた有機部分をブラインで洗浄し、無水MgSO4上で乾燥させた。次に、溶液を減圧下で濃縮し、フラッシュカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:10)で精製して、化合物4(980 mg、80%)を無色液体として得た。
【0046】
Rf = 0.40 (EtOAc/hexane, 1:5). [α]D
25 = -129.9 (c 0.2, CHCl3). 95.3% ee [HPLC condition: Chiracel OJ-H column, n-hexane/i-PrOH = 92:8, flow rate = 1.0 mL/min, wavelength = 220 nm, tR = 15.4 min for R isomer, tR = 18.3 min for S isomer]. 1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ 7.40 - 7.38 (m, 2H), 7.29 - 7.27 (m, 2H), 5.57 (d, J = 4.9 Hz, 1H), 3.77 (s, 3H), 3.58 - 3.56 (m, 1H). 13C NMR (125 MHz, CDCl3): δ 173.7, 136.0, 133.5, 130.0, 129.8, 128.8, 127.2, 70.3, 53.2. HRMS (ESI) for C9H9ClO3Na [M+Na]+, calculated: 223.0132, found: 223.0132.
【0047】
【0048】
(R)-2-(2-クロロフェニル)-2-ヒドロキシ酢酸(3)の合成
2-クロロマンデロニトリル2(5 g, 30 mmol)とトルエン(2 mL)の氷冷した溶液に、35% HCl(10mL)をゆっくりと加えた。氷浴を取り除き、反応混合物をすべての出発物質が完全に消費されるまで60℃で3時間加熱した。反応混合物を冷却し、酢酸エチル(70 mL)で希釈し、NaHCO3の飽和溶液を加えてクエンチした。水層を酢酸エチル(2×100mL)で抽出した。合わせた有機部分を食塩水で洗浄し、無水MgSO4で乾燥し、減圧下で濃縮して粗2-クロロマンデル酸を白色固体として得た。この白色固体をクロロホルム(15 mL)およびヘプタン(30 mL)から再結晶し、結晶を濾過、洗浄、乾燥して、2-クロロマンデル酸 3(4.3 g, 80%)を結晶として得た。
【0049】
Rf = 0.20 (EtOAc/hexane, 1:2). [α]D
25 = -153.9 (c 0.5, CHCl3). 1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ 7.43-7.40 (m, 2H), 7.32 - 7.28 (m, 2H), 5.65 (s, 1H). 13C NMR (125 MHz, CDCl3): δ 176.6, 135.3, 133.5, 130.1, 130.0, 128.8, 127.3, 70.2.
【0050】
【0051】
メチル(R)-2-(2-クロロフェニル)-2-ヒドロキシアセテート(4)の合成
結晶性 2-クロロマンデル酸 3(3.5 g, 19.02 mmol)をMeOH (35 mL)に溶かし、触媒量のH2SO4(96%, 0.25 mL, 3.8 mmol)を0℃で滴下して加えた。氷浴を取り除き、すべての出発物質が完全に消費されるまで、反応混合物を65 ℃で4時間加熱した。反応混合物を冷却し、酢酸エチル(80 mL)で希釈し、NaHCO3の飽和溶液を加えてクエンチした。層を分離し、水層を酢酸エチル(3×90mL)で抽出した。合わせた有機部分をブラインで洗浄し、無水MgSO4上で乾燥させた。次に、溶液を減圧下で濃縮し、フラッシュカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:10)で精製して、化合物4(3.5g、92%)を無色液体として得た。
【0052】
Rf = 0.40 (EtOAc/hexane, 1:5). [α]D
25 = -129.9 (c 0.2, CHCl3). 99.1% ee [HPLC condition: Chiracel OJ-H column, n-hexane/i-PrOH = 19:1, flow rate = 1.0 mL/min, wavelength = 200 nm, tR = 22.17 min for R isomer, tR = 26.60 min for S isomer].
【0053】
【0054】
メチル(R)-2-(ベンジルオキシ)-2-(2-クロロフェニル)アセテート(5)の合成
磁気撹拌棒を備えた 200mL二口丸底フラスコに、不活性雰囲気下、調製したばかりの2,2,2-trichloroacetimidate(4.5 mL, 24.2 mmol)および4(2.4 g, 12.12 mmol)を入れ、75 mL 2:1 混合シクロヘキサンおよびCH2Cl2を添加した。得られた溶液を0℃に冷却し、この溶液に触媒量のトリフリックアシッド(215μL, 2.42 mmol)を加えた。この反応混合物を、TLCで示されるように出発物質4が完全に消費されるまで12時間室温で攪拌した。反応混合物を、20 mL H2Oを加えることによってクエンチし、層を分離した。水層をCH2Cl2(2×80mL)で抽出し、合わせた有機層をブラインで洗浄し、MgSO4上で乾燥させた。次に、溶液を減圧下で濃縮し、フラッシュカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:12)で精製して、化合物5(3.2 g、90%)を無色液体として得た。
【0055】
Rf = 0.60 (EtOAc/hexane, 1:5). [α]D
26 = -39.9 (c 0.5, CHCl3). 1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ 7.64 - 7.55 (m, 1H), 7.41 - 7.33 (m, 5H), 7.32 - 7.28 (m, 3H), 5.44 (s, 1H), 4.93 - 4.53 (m, 2H), 3.73 (s, 3H). 13C NMR (125 MHz, CDCl3): δ 170.6, 136.9, 134.4, 133.8, 129.9, 129.6, 129.0, 128.4, 128.2, 128.0, 127.2, 76.1, 71.7, 52.4. HRMS (ESI) for C16H15ClO3Na [M+Na]+, calculated: 313.0602, found: 313.0602.
【0056】
【0057】
(R)-2-(ベンジルオキシ)-2-(2-クロロフェニル)エタン-1-オール(6)の合成
THF(30 mL)中のLAH(600 mg, 15.6 mmol)の氷冷した懸濁液に、THF(10 mL)中の化合物5(3 g, 10.41 mmol)をゆっくりと添加した。反応混合物を0℃で2時間撹拌し、Na2SO4の飽和溶液を加えてクエンチした。得られた沈殿物をセライトのパッドでろ過して除去し、沈殿物を酢酸エチル(150mL)で洗浄した。合わせた有機相をMgSO4 上で乾燥させ、減圧下で濃縮した。フラッシュクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=1:8)による精製により、一級アルコール6(2.5g、92%)を透明な油として得た。
【0058】
Rf = 0.4 (EtOAc/hexane, 1:5). [α]D
26 = -31.2 (c 0.4, CHCl3). 1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 7.58 (dd, J = 7.6, 1.8 Hz, 1H), 7.41 - 7.27 (m, 8H), 5.07 (dd, J = 8.1, 3.3 Hz, 1H), 4.58 - 4.39 (m, 2H), 3.79 (dd, J = 11.8, 3.3 Hz, 1H), 3.65 (dd, J = 11.8, 8.1 Hz, 1H). 13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 137.6, 135.8, 133.2, 129.6, 129.1, 128.5, 127.9, 127.9, 127.1, 78.8, 71.3, 65.7. HRMS (ESI) for C15H15ClO2Na [M+Na]+, calculated: 285.0653, found: 285.0644.
【0059】
【0060】
(R)-2-(2-(ベンジルオキシ)-2-(2-クロロフェニル)エチル)-2H-テトラゾール(7)の合成
窒素雰囲気下、THF(40 mL)中のアルコール6(2.5 g, 9.54 mmol)およびトリフェニルホスフィン(3.75 g, 14.31 mmol)の磁気撹拌溶液に、アゾジカルボン酸ジイソプロピル(2.45 mL, 12.4 mmol)を0℃で添加した。次に、同温度で上記攪拌溶液に1Hテトラゾール(868.7 mg, 12.4 mmol)を添加すると、溶液は直ちに白色に変化した。TLCで示されるように出発物質が完全に消費されるまで室温で3時間撹拌した後、反応混合物を減圧下で濃縮し、こうして得られた残渣を直接フラッシュクロマトグラフィー(EtOAc/ヘキサン=1:15)に付し、化合物7a(2.4g、80%)を透明な油として、7b(400mg、13%)を白色の固体として得た。
【0061】
Rf = 0.65 (2N異性体、化合物7a), 0.1(1N 異性体、化合物7b) (EtOAc/hexane = 1:5). 化合物7a [α]D
25 = -49.9 (c 0.2, CHCl3).
【0062】
2N異性体、化合物7a
1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ 8.50 (s, 1H), 7.63 (dd, J = 7.6, 1.9 Hz, 1H), 7.44 (dd, J = 7.7, 1.5 Hz, 1H), 7.40 - 7.32 (m, 2H), 7.27 (dd, J = 4.2, 2.6 Hz, 3H), 7.16 - 6.99 (m, 2H), 5.48 (dd, J = 9.0, 3.4 Hz, 1H), 4.92 (dd, J = 13.8, 9.1 Hz, 1H), 4.81 (dd, J = 13.8, 3.4 Hz, 1H), 4.51 (d, J = 11.8 Hz, 1H), 4.22 (d, J = 11.8 Hz, 1H). 13C NMR (125 MHz, CDCl3): δ 152.8, 136.8, 134.9, 133.1, 129.9, 129.9, 128.3, 127.9, 127.8, 127.6, 127.6, 75.4, 71.3, 56.9. HRMS (ESI) for C16H15ClN4ONa [M+Na]+, calculated: 337.0827, found: 337.0809.
【0063】
1N異性体、化合物7b
1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ 8.66 (s, 1H), 7.46-7.43 (m, 2H), 7.35-7.31 (m, 5H), 7.14 - 7.12 (m, 2H), 5.20 (dd, J = 5.5, 3.0 Hz, 1H), 4.79 (dd, J = 11.5, 3.0 Hz, 1H), 4.52-4.47 (m, 2H), 4.23 (d, J = 11.5 Hz, 1H). 13C NMR (125 MHz, CDCl3) : δ 143.4, 136.3, 134.1, 133.0, 130.1, 128.7, 128.3, 128.0, 127.6, 127.4, 75.4, 71.5, 52.2. HRMS (ESI) for C16H15ClN4ONa [M+Na]+, calculated: 337.0827, found: 337.0809.
【0064】
【0065】
(R)-1-(2-クロロフェニル)-2-(2H-テトラゾール-2-イル)エタン-1-オール(8)の合成
化合物7a(2.3 g, 7.32 mmol)を丸底フラスコに取り、アルゴン媒体中で乾燥 EtOAc(15 mL)およびエタノール(15 mL)を添加し、続いてPd(OH)2/C(100 mg, 10 mol %)を添加することにより行った。その後、大気圧の水素ガスを 室温で3時間かけた。反応完了後、溶液をセライトパッドでろ過し、EtOAc(2×100 mL)で洗浄した。結合した有機濾液を次に真空中で蒸発させ、残留物をフラッシュカラムクロマトグラフィー(EtOAc/ヘキサン=1:4)により精製して、アルコール8(1.35g、82%)を透明な油として得た。
【0066】
Rf = 0.2 (EtOAc/hexane = 1:5). [α]D
25 = -43.9 (c 0.1, CHCl3). 1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ 8.51 (s, 1H), 7.62 (dd, J = 7.6, 2.0 Hz, 1H), 7.39 (dd, J = 7.7, 1.6 Hz, 1H), 7.36 - 7.24 (m, 2H), 5.72 (ddd, J = 8.8, 4.2, 2.7 Hz, 1H), 4.96 (dd, J = 13.9, 2.8 Hz, 1H), 4.78 (dd, J = 13.9, 8.7 Hz, 1H), 3.44 (d, J = 4.3 Hz, 1H). 13C NMR (126 MHz, CDCl3): δ 152.8, 136.6, 131.7, 129.7, 129.6, 127.4, 127.3, 69.1, 58.0. HRMS (ESI) for C9H9ClN4ONa [M+Na]+, calculated: 247.0357, found: 247.0356.
【0067】
【0068】
R)-1-(2-クロロフェニル)-2-(2H-テトラゾール-2-イル)カルバミン酸エチル(セノバミン酸)の合成
アルコール8(1g, 4.44 mmol)を丸底フラスコに取り、THF (15 mL)に溶解させた。この溶液を-15℃に冷却し、クロロスルホニルイソシアネート(0.56 mL, 6.7 mmol)をゆっくりと加え、反応混合物を-10℃で3時間攪拌した。TLCで示されるようにすべての出発物質の消費後、水(5 mL)を上記反応混合物にゆっくりと加え、反応を終了させた。得られた溶液を減圧下で濃縮し、濃縮物を酢酸エチル(80mL)に溶解し、層を分離した。水層を酢酸エチル(2×80mL)で抽出し、合わせた有機層をブラインで洗浄し、MgSO4 で乾燥させた。次に、溶液を真空中で蒸発させ、フラッシュカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:2)で精製して、Xcopri 9(975mg、82%)を白色結晶性固体として得た。
【0069】
Rf = 0.30 (EtOAc/hexane, 1:1). [α]D
26 = -1.0 (c 1.0, MeOH). 99.2% ee [HPLC condition: Chiralpak AD-H column, n-hexane/i-PrOH = 9:1, flow rate = 1.0 mL/min, wavelength = 210 nm, tR = 22.01 min for R isomer, tR = 25.96 min for S isomer].
1H NMR (500 MHz, Acetone): δ 8.74 (s, 1H), 7.67 - 7.49 (m, 2H), 7.48 - 7.40 (m, 2H), 6.60 (dd, J = 7.7, 4.2 Hz, 1H), 6.32 (br s, 1H), 6.02 (br s, 1H), 5.15-5.07 (m, 2H). 13C NMR (125 MHz, Acetone): δ 156.1, 154.3, 136.5, 133.0, 131.3, 130.9, 128.9, 128.8, 71.5, 56.6. HRMS (ESI) for C10H10ClN5O2Na [M+Na]+, calculated: 290.0415, found: 290.0409.
【0070】
【0071】
2-(2-((4-クロロベンジル)オキシ)-2-(2,4-ジクロロフェニル)エチル)-2H-テトラゾールの合成
窒素雰囲気下、THF(10 mL)中の出発物質 (530 mg, 1.67 mmol)およびトリフェニルホスフィン(578.3 mg, 2.204 mmol)の磁気撹拌溶液にアゾジカルボン酸ジイソプロピル(0.402 mL, 2.05 mmol)を0℃で添加した。次に、同温度で上記攪拌溶液に1Hテトラゾール(132.3 mg, 1.88 mmol)を添加すると、溶液は直ちに白色に変化した。TLCで示されるように出発物質が完全に消費されるまで室温で2時間撹拌した後、反応混合物を減圧下で濃縮し、こうして得られた残留物をフラッシュクロマトグラフィー(EtOAc/ヘキサン=1:15~1:1)に直接かけ、化合物2Nレジオ-アイソマー(480mg、77%)を透明油、1Nレジオ-アイソマー(80mg、13%)を白い固体として得ることができた。
【0072】
Rf = 0.7 (2N isomer), 0.15(1N isomer) (EtOAc/hexane = 1:5).
1H NMR (500 MHz, CDCl3) for 2N regio-isomer: δ 8.49 (s, 1H), 7.51 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 7.45 (d, J = 2.0 Hz, 1H), 7.35 (dd, J = 8.5, 2.0 Hz, 1H), 7.24 (d, J = 8.5 Hz, 2H), 6.97 (d, J = 8.5 Hz, 2H), 5.40 (dd, J = 9.0, 3.5 Hz, 1H), 4.91 (dd, J = 14.0, 9.0 Hz, 1H), 4.79 (dd, J = 14.0, 3.5 Hz, 1H), 4.45 (d, J = 12.0 Hz, 1H), 4.19 (d, J = 12.0 Hz, 1H). 13C NMR (125 MHz, CDCl3) for 2N regio-isomer: δ 152.8, 135.4, 135.0, 134.0, 133.7, 133.4, 129.8, 129.0, 128.7, 128.6, 128.1, 75.2, 70.7, 56.6.
【0073】
1H NMR (500 MHz, CDCl3) for 1N regio-isomer: δ 8.65 (s, 1H), 7.47 (s, 1H), 7.32-7.28 (m, 4H), 7.03 (d, J = 8.5 Hz, 2H), 5.14 (dd, J = 8.0, 3.0 Hz, 1H), 4.77 (dd, J = 14.0, 3.0 Hz, 1H), 4.51 (dd, J = 14.5, 8.5 Hz, 1H), 4.45 (d, J = 12.0 Hz, 1H), 4.19 (d, J = 11.5 Hz, 1H). 13C NMR (125 MHz, CDCl3) for 1N regio-isomer: δ 143.4, 135.6, 134.5, 134.3, 133.7, 132.5, 130.0, 129.3, 128.9, 128.3, 128.1, 75.1, 70.8, 51.9.
【0074】
【0075】
2-(2-(ベンジルオキシ)-2-フェニルエチル)-2H-テトラゾルの合成
窒素雰囲気下、THF(6 mL)中の出発物質(250 mg, 1.1 mmol)およびトリフェニルホスフィン(403 mg, 1.54 mmol)の磁気撹拌溶液に、アゾジカルボン酸ジイソプロピル(0.28 mL, 1.43 mmol)を0℃で添加した。次に、同温度で上記撹拌溶液に1Hテトラゾール(92.4 mg, 1.32 mmol)を加えたところ、溶液は直ちに白色となった。TLCで示されるように出発物質が完全に消費されるまで室温で3時間撹拌した後、反応混合物を減圧下で濃縮し、こうして得られた残留物をフラッシュクロマトグラフィー(EtOAc/ヘキサン=1:15)に直接供して、化合物2Nレジオ-アイソマー(245mg、80%)を透明油として、1Nレジ-アイソマー(37mg、12%)を透明液体として得た。
【0076】
Rf = 0.65 (2N isomer), 0.1(1N isomer) (EtOAc/hexane = 1:5).
1H NMR (500 MHz, CDCl3) for 2N regio-isomer: δ 8.48 (s, 1H), 7.42-7.38 (m, 5H), 7.26-7.24 (m, 3H), 7.02 - 7.00 (m, 2H), 5.04-4.97 (m, 2H), 4.71 (dd, J = 11.5, 2.0 Hz, 1H), 4.51 (d, J = 12.0 Hz, 1H), 4.20 (d, J = 12.0 Hz, 1H). 13C NMR (125 MHz, CDCl3) for 2N regio-isomer: δ 152.7, 137.3, 137.2, 129.0, 129.0, 128.3, 127.8, 127.5, 126.9, 78.7, 70.6, 58.5.
【0077】
1H NMR (400 MHz, CDCl3) for 1N regio-isomer: δ 8.65 (s, 1H), 7.45-7.41 (m, 3H), 7.38-7.35 (m, 2H), 7.31 - 7.29 (m, 3H), 7.09-7.07 (m, 2H), 4.77-4.63 (m, 2H), 4.62-4.51 (m, 1H), 4.50 (d, J = 11.2 Hz, 1H), 4.19 (d, J = 11.2 Hz, 1H). 13C NMR (100 MHz, CDCl3) for 1N regio-isomer: δ 143.5, 136.7, 136.6, 129.2, 129.2, 128.6, 128.2, 127.9, 126.7, 78.7, 70.9, 54.0.
【0078】
参考例1-1
シャヤスデ(Parafontaria laminata armigera)、PlamHNL遺伝子(N85Y変異型酵素)の異種宿主による発現と生産は、非特許文献5に記載の方法によって、大腸菌及び酵母Pichia pastorisで培養・精製した。
(大腸菌および酵母P. pastorisにおける組換えPlamHNLの発現ベクターの構築)
組換え株大腸菌SHuffle T7 express (ニューイングランドバイオラボ、イプスウィッチ、マサチューセッツ州、米国)を発現宿主として使用し、pET28a(+)ベクター(Novagen;ダルムシュタット、ドイツ)を発現ベクターとして使用した。DNAインサートを、PlamHNL cDNAを鋳型DNAとして用いてPCR増幅した。
P. pastoris GS115細胞においてPlamHNLの組換え遺伝子を発現させるために、遺伝子インサートを増幅し、pPICZαAに挿入しpPICZαA-PlamHNLを作成した。次に、N末端の6x-Hisタグのコード配列とTEVプロテアーゼ認識配列を導入し、pPICZαA-TEV-His PlamHNLを構築した。ベクターpPICZαA-TEV-His PlamHNLをSacIによる消化により線形化し、Pichia発現キット(サーモフィッシャーサイエンティフィック)を使用してP. pastoris GS115細胞にエレクトロポレーションした。
【0079】
参考例1-2
(大腸菌での酵素の生産)
単一のコロニーでPlamHNL遺伝子を含むpET28a-PlamHNLプラスミドで形質転換した大腸菌 SHuffle T7 expressの単一コロニーをカナマイシン(80μg /mL)を含むLB培地5mLに接種した。30℃で300rpmの振とう速度で一晩培養した。この種培養(5mL)を2Lのフラスコに、カナマイシン(80μg/ mL)を含むLB培地(500mL)で、30℃で150rpmの振とう速度で振とう培養した。12時間後、イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)を0.5mMの濃度で添加し、細胞を18℃で24時間培養した。大腸菌細胞を遠心分離し(8500×g、15分間)、イミダゾール(25mM)及び塩化ナトリウム(0.5M)を含むリン酸カリウム緩衝液(KPB;20mM、pH7.0)に懸濁した。細胞を超音波処理により破砕し、溶解液を遠心分離(15,000×g、4℃、15分)した。上澄み液はNi Sepharose 6 Fast Flow(GE Healthcare,Little Chalfont.英国)カラム(内径25mm、カラム容量20mL)に吸着させ、50 mMイミダゾール液で洗浄後、50~300mMイミダゾール及び塩化ナトリウム(0.5M)を含むリン酸カリウム緩衝液(KPB;20mM、pH7.0)で、0.5 mL/minのリニアグラジエントで溶出した。酵素活性は、ベンズアルデヒドとシアン化カリウムから文献既知の方法で測定し、活性画分をプールし、透析後、濃縮した。1Lの大腸菌形質転換株培養物からは、2,190U/mgの活性を示す精製PlamHNLが1.75mg生産できた。
【0080】
(酵母P. pastorisでの酵素の生産)
P. pastoris形質転換体を、ゼオシン(100μg/mL)を含む5mLのYPD培地(1%酵母エキス、2%ペプトン、および2%デキストロース)に接種した。300rpmで振とうしながら30℃で一晩前培養した後、接種材料を緩衝最小グリセロール培地(BMGH;100-mMリン酸カリウム緩衝液(pH 6.0)、アミノ酸を含まない1.34% yeast nitrogen base、4×10-5 %ビオチン、0.004%ヒスチジン、および1.0%グリセロール)に移し、200rpmで振とうしながら30℃で培養した。48時間の培養後、細胞を遠心分離によって回収し、500 mL発現培地に再懸濁し、緩衝した最小メタノール培地(BMMH;BMGHと同じだが、1%(v/v)グリセロールの代わりに0.5%(v/v)メタノールを添加し)、および24時間ごとに誘導物質として0.5%メタノールを添加した。
【0081】
細胞外HNL活性が培養6日後に最大となった時に、上清を3000×gで10分間遠心分離して回収し、中空糸限外フィルター(Microza;旭化成)で25倍に濃縮した。上清に硫酸アンモニウム(30% w/v)を添加し、平衡化バッファー(20 mM KPB(pH 7.0)および硫酸アンモニウム(30% w/v))で予め平衡化したトヨパールブチル-650-Mカラム(東ソー、内径25 mm、カラム容量30 mL)に直接吸着させた。吸収した酵素を10倍量の平衡化バッファーで洗浄し、同じバッファーで30%から0%の硫酸アンモニウムの勾配で溶出し、活性画分を20 mM KPB(pH 7.0)に対して透析した。全ての精製工程は4℃で行った。1Lの酵母P. pastoris形質転換株培養物からは、2,100 U/mgの活性を示す精製PlamHNLが0.16mg生産できた。
【0082】
実施例4-1
(大腸菌で製造したPlamHNL-N85Yを用いるバッチ法による (R)-2-クロロマンデロニトリル合成)
以下の組成の反応液600 mLをメジューム瓶に作製し、撹拌子で反応液を混合しながら室温で4時間反応を行った。HNLの合成活性は、ベンズアルデヒドからの(R)-マンデロニトリルの生成量を測定し、1分間に1μmolの(R)-マンデロニトリルの生成を触媒する酵素量を1Uと定義した。
【0083】
1M クエン酸緩衝液(pH 2.5) 240 mL(最終濃度0.4 M)
1M KCN 60 mL(最終濃度100 mM)
PlamHNL-N85Y 10,200 U
1.25 M 2-クロロベンズアルデヒドを含むDMSO 24 mL(最終濃度50 mM (4.23 g))
蒸留水 246 mL(合計600 mL)
【0084】
4時間後、反応液を酢酸エチルで抽出後、溶媒を留去し、98% eeの(R)-2-クロロマンデロニトリルを95%の収率で得た。濃塩酸を加えて35%の濃度とし、65℃で3時間加熱した。(R)-2-クロロマンデル酸は、酸性条件下エーテル抽出し、クロロフォルムに溶解後ヘプタンを加えることにより白色結晶を92%の収率で得た。
【0085】
実施例4-2
(PlamHNLおよびCLEA-SwoNITを生体触媒として用いた(R)-2-クロロマンデル酸のバッチ合成)
ニトリラーゼ(SwoNIT)は、CLEA法を用いて固定化すると安定性が著しく増加した。CLEA法で固定化した酵素をSwoNIT CLEAと呼ぶ。最適化した条件では、ニトリラーゼ溶液に対して、40%飽和となるよう硫酸アンモニウムを添加して凝集させ、次にグルタルアルデヒド(5 mM)を添加して架橋しSwoNIT CLEAを得た。
PlamHNL-N85Y (0.22U), CLEA-SwoNIT(1.12U)クエン酸緩衝液 (300 mM, pH 4.6), トリメチルシリルシアニド(TMSCN 、150 mM)を10mLの混合物とし、合計200mMとなるように50mLの濃度の2-クロロベンズアルデヒドのヘキサン溶液を加え二層系で反応させたところ、190mMの濃度の(R)-2-クロロマンデル酸が生成した(収率95%)。ニトリラーゼは、1分間に1μmolの(R)-マンデロニトリルから(R)-マンデル酸の生成を触媒する酵素量を1Uと定義した。
【0086】
実施例4-3
(PlamHNL-N85Yの併用による液-液セグメントフロー(流路)合成による(R)-2-クロロマンデル酸の合成)
の流路に、PlamHNL-N85Y (0.32U), クエン酸緩衝液 (300 mM, pH 4.6), トリメチルシリルシアニド(TMSCN 、150 mM)、およびニトリラーゼ(SwoNIT、0.22U)の混合物を流し、一方、Bの流路には、 2-クロロベンズアルデヒド(50mM、ヘキサン溶液)を流す。A及びBの2つの流路はYミキサー(ID = 1 mm)に供給し、そこで空気を間に含むセグメントが生成され、管状のポリ(フルオレニレンエチンレン)(PFE)に導いた。反応混合物の画分を容器に集めた(反応混合物の即時クエンチのための濃HCl溶液を含む)。デカンテーションによる相分離を行い、ヘキサン層を減圧下溶媒除去し、以後の処理なしで生成物である(R)-2-クロロマンデル酸を得た。
【0087】
有機溶媒を用いた二相系は、pH 5.0を超えるpHの反応に適用した場合でも、HNL(PlamHNL)のシアノヒドリン合成中の非酵素反応によるeeの低下を抑制することができた。別途スクリーニングしたSchewanella woodi由来のニトリラーゼ(SwoNIT)は、HNLと活性で、1:1で併用した場合、pH 4.6-5.0で活性が高かった。液-液セグメントフロープロセスに適用し、(R)-2-クロロマンデル酸や(R)-マンデル酸を16.8%の収率、98.2 eeで得た。