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特開2024-138889(S)-立体配置のチエノピリジンアセテート化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138889
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】(S)-立体配置のチエノピリジンアセテート化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 495/04 20060101AFI20241002BHJP
   C12P 13/00 20060101ALI20241002BHJP
   A61K 31/4365 20060101ALI20241002BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20241002BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20241002BHJP
   C12N 9/88 20060101ALN20241002BHJP
【FI】
C07D495/04 105
C12P13/00
A61K31/4365
A61P9/00
A61P9/10 101
A61P9/10
C12N9/88
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049604
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】515157758
【氏名又は名称】公立大学法人 富山県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】浅野 泰久
(72)【発明者】
【氏名】チャクラボルティ ジョイ
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 源司
【テーマコード(参考)】
4B064
4C071
4C086
【Fターム(参考)】
4B064AD27
4B064AE01
4B064CA21
4B064CB30
4B064DA16
4C071AA01
4C071BB01
4C071CC01
4C071CC21
4C071DD14
4C071EE13
4C071FF06
4C071GG06
4C071JJ01
4C071LL01
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086AA04
4C086CB29
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA20
4C086ZA36
4C086ZA45
(57)【要約】      (修正有)
【課題】(S)-立体配置のチエノピリジンアセテート化合物をより高い光学純度で得られる方法を提供すること。
【解決手段】(R)-ヒドロキシアセトニトリル化合物から、(R)-ヒドロキシアルキルエステル化合物を得る工程、前記(R)-ヒドロキシアルキルエステル化合物のヒドロキシ基を保護して、アルキルエステル化合物(下記反応式中の化合物10)を得る工程、及び前記アルキルエステル化合物にチエノピリジン化合物を反応させて、(S)-立体配置のチエノピリジンアセテート化合物(下記反応式中の化合物11)を得る工程、を含む、(S)-立体配置のチエノピリジンアセテート化合物の製造方法。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(9)で表される(R)-ヒドロキシアセトニトリル化合物から、一般式(7)で示される(R)-ヒドロキシアルキルエステル化合物を得る工程(1-2)、
一般式(7)で表されるヒドロキシアルキルエステル化合物のヒドロキシ基を保護して、一般式(6)で表されるアルキルエステル化合物を得る工程(1-3)、及び
一般式(6)で表されるアルキルエステル化合物に式(4)または(5)で表されるチエノピリジン化合物を反応させて、一般式(1)で表される(S)-立体配置のチエノピリジンアセテート化合物を得る工程(1-4)、
を含む、(S)-立体配置のチエノピリジンアセテート化合物の製造方法。
【化1】
(式(1)、(6)、(7)、(9)中、R1及びR2は、独立して、水素原子またはハロゲン原子であり、R3は保護基であり、R4は炭素数1~6のアルキル基である。)
【請求項2】
一般式(10)で表されるベンズアルデヒド化合物とシアン化合物を(R)-ヒドロキシニトリルリアーゼの存在下で反応させて、一般式(9)で表される(R)-ヒドロキシアセトニトリルを得る工程(1-1)を工程(1-2)の前に含む、請求項1に記載の製造方法。
【化2】
(式(10)中、R1及びR2は、独立して、水素原子またはハロゲン原子である。)
【請求項3】
ヒドロキシニトリルリアーゼがPlamHNL-N65Y変異体である請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
工程(1-2)が、一般式(9)で表される(R)-ヒドロキシアセトニトリル化合物にR4-OHで表されるアルキルアルコールを反応させて、一般式(7)で示される(R)-ヒドロキシアルキルエステル化合物を得る工程(1-2a)である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
工程(1-2)が、一般式(9)で表される(R)-ヒドロキシアセトニトリル化合物に酸化合物を反応させるか、またはニトリラーゼを作用させて、一般式(8)で示される(R)-ヒドロキシカルボン酸化合物を得、さらに一般式(8)で示される(R)-ヒドロキシカルボン酸化合物にR4-OHで表されるアルキルアルコールを反応させて、一般式(7)で示される(R)-ヒドロキシアルキルエステル化合物を得る工程(1-2b)である、請求項1に記載の製造方法。
【化3】
(式(8)中、R1及びR2は、独立して、水素原子またはハロゲン原子である。)
【請求項6】
1は水素原子であり、R2はハロゲン原子である請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
ハロゲン原子は塩素原子であり、フェニル基の2位に位置する請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
保護基R3がノシル基である請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
一般式(6)で表されるアルキルエステル化合物が、メチル(R)-2-(2-クロロフェニル)-2-((4-ニトロフェニル)スルホニル)オキシ)アセテートであり、一般式(1)で表される(S)-立体配置のチエノピリジンアセテート化合物が式(11)で示されるクロピドグレルである、請求項1に記載の製造方法。
【化4】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(S)-立体配置のチエノピリジンアセテート化合物の製造方法に関する。(S)-立体配置のアセテート化合物は、クロピドグレルを含む。
【背景技術】
【0002】
クロピドグレル(Clopidogrel)は、チエノピリジン系の抗血小板剤の1つであり、虚血性心疾患、閉塞性動脈硬化症、脳血管障害での血栓生成抑制ならびに心筋梗塞予防に用いられる。クロピドグレルは分子内にキラル中心を1つ持っているため1組の鏡像異性体が存在し、S体のみがクロピドグレルとして用いられる。
【0003】
クロピドグレルの合成方法としては種々の経路が提案されている。クロロフェニルヒドロキシカルボン酸にチエノピリジン化合物を反応させる方法として、非特許文献1~3に示される方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2017/150560
【特許文献2】WO2020/009168
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Aamer Saeed et al.,Chirality.2017;29:684-707.
【非特許文献2】Shou-Fei Zhu et al.,NATURE CHEMISTRY|VOL 2|JULY p.546(2010)
【非特許文献3】D.Chen et al.,Synlett 2019,30,A‐E
【非特許文献4】M.Dadashipour and Y.Asano,ACS Catal.2011,1,1121-1149
【非特許文献5】浅野 泰久、生化学誌、Vol.94、No.5,第681~689頁、2022年
【非特許文献6】Т.Yamaguchi他、Sci.Rep.Vol.8,第3051頁~、2018年
【非特許文献7】A.Nuylert他、ACS Omega、Vol.5、No.43、第27896~27908、2020年
【非特許文献8】Z.-Y. Zhai他、Journal of Industrial Microbiology and Biotechnology、Vol.46、No.7、第887~898頁、2019年
【非特許文献9】N. Adebar 他、European Journal of Organic Chemistry、第6062~6067頁、2020年
【0006】
非特許文献1に記載の反応スキームは以下の通りである。
【化1】
【0007】
非特許文献2に記載の反応スキームは以下の通りである。
【化2】
【0008】
非特許文献3に記載の反応スキームは以下の通りである。
【化3】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
S体のみがクロピドグレルとして用いられることから、高い光学純度でクロピドグレルを合成することが望まれる。非特許文献1~3に示される方法で得られるクロピドグレルの光学純度は、90%ee程度である。しかし、さらに高い光学純度でクロピドグレルを合成する方法が望まれている。
【0010】
そこで本発明は、クロピドグレルを含む(S)-立体配置のチエノピリジンアセテート化合物をより高い光学純度で得られる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
2-クロロベンズアルデヒドからヒドロキシニトリルリアーゼを用いて高エナンチオ選択的に(R)-ヒドロキシアセトニトリル化合物を調製し、この(R)-ヒドロキシアセトニトリル化合物を出発原料として高い光学純度のクロピドグレルを含む(S)-立体配置のチエノピリジンアセテート化合物を製造できることを完成させた。
【0012】
本発明は以下の通りである。
[1]
一般式(9)で表される(R)-ヒドロキシアセトニトリル化合物から、一般式(7)で示される(R)-ヒドロキシアルキルエステル化合物を得る工程(1-2)、
一般式(7)で表されるヒドロキシアルキルエステル化合物のヒドロキシ基を保護して、一般式(6)で表されるアルキルエステル化合物を得る工程(1-3)、及び
一般式(6)で表されるアルキルエステル化合物に式(4)または(5)で表されるチエノピリジン化合物を反応させて、一般式(1)で表される(S)-立体配置のチエノピリジンアセテート化合物を得る工程(1-4)、
を含む、(S)-立体配置のチエノピリジンアセテート化合物の製造方法。
【化4】
(式(1)、(6)、(7)、(9)中、R1及びR2は、独立して、水素原子またはハロゲン原子であり、R3は保護基であり、R4は炭素数1~6のアルキル基である。)
[2]
一般式(10)で表されるベンズアルデヒド化合物とシアン化合物を(R)-ヒドロキシニトリルリアーゼの存在下で反応させて、一般式(9)で表される(R)-ヒドロキシアセトニトリルを得る工程(1-1)を工程(1-2)の前に含む、[1]に記載の製造方法。
【化5】
(式(10)中、R1及びR2は、独立して、水素原子またはハロゲン原子である。)
[3]
ヒドロキシニトリルリアーゼがPlamHNL-N65Y変異体である[2]に記載の製造方法。
[4]
工程(1-2)が、一般式(9)で表される(R)-ヒドロキシアセトニトリル化合物にR4-OHで表されるアルキルアルコールを反応させて、一般式(7)で示される(R)-ヒドロキシアルキルエステル化合物を得る工程(1-2a)である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の製造方法。
[5]
工程(1-2)が、一般式(9)で表される(R)-ヒドロキシアセトニトリル化合物に酸化合物を反応させるか、またはニトリラーゼを作用させて、一般式(8)で示される(R)-ヒドロキシカルボン酸化合物を得、さらに一般式(8)で示される(R)-ヒドロキシカルボン酸化合物にR4-OHで表されるアルキルアルコールを反応させて、一般式(7)で示される(R)-ヒドロキシアルキルエステル化合物を得る工程(1-2b)である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の製造方法。
【化6】
(式(8)中、R1及びR2は、独立して、水素原子またはハロゲン原子である。)
[6]
1は水素原子であり、R2はハロゲン原子である[1]~[5]のいずれか1項に記載の製造方法。
[7]
ハロゲン原子は塩素原子であり、フェニル基の2位に位置する[6]に記載の製造方法。
[8]
保護基R3がノシル基である[1]~[7]のいずれか1項に記載の製造方法。
[9]
一般式(6)で表されるアルキルエステル化合物が、メチル(R)-2-(2-クロロフェニル)-2-((4-ニトロフェニル)スルホニル)オキシ)アセテートであり、一般式(1)で表される(S)-立体配置のチエノピリジンアセテート化合物が式(11)で示されるクロピドグレルである、[1]~[8]のいずれか1項に記載の製造方法。
【化7】
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高い光学純度のクロピドグレルを含む(S)-立体配置のチエノピリジンアセテート化合物を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<(S)-立体配置のチエノピリジンアセテート化合物の製造方法>
本発明の(S)-立体配置のチエノピリジンアセテート化合物の製造方法は、
一般式(9)で表される(R)-ヒドロキシアセトニトリル化合物から、一般式(7)で示される(R)-ヒドロキシアルキルエステル化合物を得る工程(1-2)、
一般式(7)で表されるヒドロキシアルキルエステル化合物のヒドロキシ基を保護して、一般式(6)で表されるアルキルエステル化合物を得る工程(1-3)、及び
一般式(6)で表されるアルキルエステル化合物に式(4)または(5)で表されるチエノピリジン化合物を反応させて、一般式(1)で表される(S)-立体配置のチエノピリジンアセテート化合物を得る工程(1-4)、
を含む。
【0015】
【化8】
(式(1)、(6)、(7)、(9)中、R1及びR2は、独立して、水素原子またはハロゲン原子であり、R3は保護基であり、R4は炭素数1~6のアルキル基である。)
【0016】
式(1)、(6)~(10)中、R1及びR2は、独立して、水素原子またはハロゲン原子であり、R3は保護基であり、R4は炭素数1~6のアルキル基である。好ましくは、R1は水素原子であり、R2はハロゲン原子である。ハロゲン原子は、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子であり、好ましくは塩素原子である。R2は、好ましくはフェニル基の2位に位置する。保護基R3は、例えば、ノシル基などであることができる。炭素数1~6のアルキル基R4は、好ましくはメチル基、エチル基、イソプロピ基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基などである。
【0017】
本発明の製造方法においては、一般式(10)で表されるベンズアルデヒド化合物とシアン化合物を(R)-ヒドロキシニトリルリアーゼの存在下で反応させて、一般式(9)で表される(R)-ヒドロキシアセトニトリルを得る工程(1-1)を工程(1-2)の前に含むことが、高エナンチオ選択的に(R)-ヒドロキシアセトニトリル化合物を調製することができるという観点で好ましい。
【0018】
【化9】
(式(10)中、R1及びR2は、独立して、水素原子またはハロゲン原子である。)
【0019】
工程(1-1)において、ヒドロキシニトリルリアーゼ(HNL)は、
シアノヒドリン(ヒドロキシアセトニトリル)の合成及び分解の可逆反応を触媒する酵素であり、(S)選択性および(R)選択性の2つのグループに分けられる。その中で(R)-HNLは、酸性条件下においてケトンまたはアルデヒドとシアニドドナーから(R)-シアノヒドリンを生成する反応を触媒する。(R)-HNLは、オビヤスデ目(Polydesmida)に分類されるヤンバルトサカヤスデ(Chamberlinius hualienensis)、タンバアカヤスデ(Nedyopus tambanus tambanus)、ミドリババヤスデ(Parafontaria tonominea)、エパネルコデウス属(Epanerchodus sp.)、エパネルコデウス フルヴス(Epanerchodus fulvus Haga)、キシャヤスデ(Parafontaria laminate armigera)、ヤケヤスデ(Oxidus gracilis)、オオギヤスデ属(Cryptocorypha sp.)、ヤマトオビヤスデ(Epanerchodus japonicas Carl)、アマビコヤスデ(Riukiaria semicircularis semicircularis)、ヤマトアカヤスデ(Nedyopus patrioticus patrioticus)などの節足動物から得ることができる(特許文献1及び特許文献2、非特許文献4、非特許文献5及び非特許文献6参照)。
【0020】
(R)-HNLは、例えば、特許文献2及び非特許文献7に記載のヤスデ由来の(R)-ヒドロキシニトリルリアーゼまたはヤスデ由来の(R)-ヒドロキシニトリルリアーゼのタンパク質の1種類以上のアミノ酸を置換した変異体タンパク質であることもできる。好ましい(R)-HNLは、エナンチオ選択性に優れるという観点からPlamHNLの変異体タンパク質である、例えば、N65Y、N65M、N65V、N65L、N65W、T75A、I69G、N65Y/T75A、N65Y/I69Gなどの変異体である。(R)-HNL変異体タンパク質としては、精製したタンパク質を使用することもできるし、菌体粉砕物またはその粗生成物を使用することもできる。(R)-HNLとしては、酵母Pichia pastorisを用いて高収率で異種生産した(R)-HNLを用いることもできる(非特許文献8)。(R)-HNLを大腸菌などで異種発現し、可溶性・活性型で得られにくい場合には、タンパク質を一度変性させ、リフォールディングして活性のあるネイティブ構造へ巻き戻した(R)-HNLを用いることもできる。
【0021】
工程(2-1)で用いる(R)-HNL酵素量は、反応を触媒できる酵素量であれば特に制限されるものではないが、例えば、1~100U、1~50U、1~10U、2~8U、3~5Uとすることができる。
【0022】
一般式(10)で表されるベンズアルデヒド化合物は、市販品を入手であるか、公知の方法で合成することができる化合物である。シアン化合物は、例えば、KCN、NaCN、LiCNなどの無機シアン化合物であることができ、KCNであることが適当である。使用するシアン化合物の量は、例えば、0.1mM~10M、0.2mM~2M、又は2mM~200mMとすることができる。シアン化合物は、例えば、ベンズアルデヒド化合物に対して1当量から5当量倍の範囲、好ましくは1.5~2.5当量倍の範囲で用いることができる。反応は、水系、水-有機溶媒二相系、有機溶媒-微水系、または有機溶媒系等で実施することができ、使用するヒドロキシニトリルリアーゼに応じて適当なpHを示す緩衝溶液中で実施することもできる。クエン酸緩衝液の場合のpHは、例えば、2~7、2~6、2~5、3.5~5、及び3.5~4とすることができる。反応温度や時間も、使用するヒドロキシニトリルリアーゼの種類や量に応じて適宜決定、選択することができる。反応温度は、具体的には、酵素反応に依存しないラセミ体のシアノヒドリンの生成が抑制され、かつ、酵素反応に適した温度が好ましく、例えば、0~50℃、15~35℃とすることができる。
【0023】
工程(2-1)で用いる(R)-HNL変異体タンパク質の存在下で、アルデヒド化合物とシアン化合物とを反応させることを含む、シアノヒドリン(ヒドロキシアセトニトリル)の製造方法に関しては、例えば、非特許文献4を参照することができる。具体的には、例えば、(R)-HNL変異体タンパク質を、アルデヒド化合物及びシアン化合物を含有する、クエン酸緩衝液に添加して混合し、25℃で3分間反応させ、n-ヘキサン及び2-プロパノールと激しく混合することにより有機相中にシアノヒドリンを得ることができる。 必要に応じてクエン酸緩衝液(pH4.0)中に有機溶媒を添加して反応させることもできる。このような有機溶媒としては、酢酸エチル(EA)、ジエチルエーテル(DEE)、メチル-t-ブチルエーテル(MTBE)、2-イソプロピルエーテル(DIPE)、ジブチルエーテル(DBE)、メタノール(Met)、及びヘキサン(Hex)を挙げることができ、好ましくは、DIPE、DEE、MTBE、DBE及びHexであり、より好ましくは、DIPE、DEE、MTBE、及びDBEEである。
【0024】
工程(2-1)は回分(バッチ)法でも、フロー法でも実施できる。フロー法では微小流路の中で反応を行うマイクロリアクターを用いることができる。シアン源や有機溶媒などの危険な試薬を用いる反応の安全性を向上させ、優れた熱伝達性、後処理の簡便性、およびスケールアップの容易さなどの利点がある。非特許文献9に示されるように、フロー法を用いることで、立体選択性の向上、酸素の抑制による酵素の安定利用などが期待できる。フロー法では、非常に高い反応効率で、酵素と基質を反応させることができる。また、固定化された(R)-HNLを用いることもでき、それらは回収等の必要がなく、再利用できるので、また反応の際に投入されるエネルギーを非常に低くすることができる。
【0025】
溶液状あるいは固定化した(R)HNLを使用して対応するアルデヒド化合物とシアン化合物から生成する、例えば、(R)-2-クロロマンデロニトリルや(R)-マンデロニトリルなどの(R)-ヒドロキシアセトニトリル化合物を回収する。得られた(R)-ヒドロキシアセトニトリル化合物の変換及びエナンチオマー過剰率(ee)をキラルHPLCによって分析することができる。対応する基質の標準曲線を用いて変換を計算することができる。eeは、非特許文献4を参照して、2つのエナンチオマーのピーク面積を計算することによって決定することができる。
【0026】
反応終了後に、(R)-ヒドロキシアセトニトリルを反応溶液から常法により分離し、必要により、キラルHPLCなどにより精製して(R)-ヒドロキシアセトニトリルを得る。
【0027】
(R)-ヒドロキシアセトニトリル[(R)-シアノヒドリン]の一例である(R)-マンデロニトリルや(R)-2-クロロマンデロニトリルなどは、医薬を合成するための中間体として有用である。安価な基質から医薬および化成品中間体として利用価値の高い光学活性体を生産することのできる生体触媒として(R)-HNLは、極めて有用である。
【0028】
工程(1-2)は、一般式(9)で表される(R)-ヒドロキシアセトニトリル化合物から、一般式(7)で示される(R)-ヒドロキシアルキルエステル化合物を得る工程であり、具体的には以下の工程(1-2a)または(1-2b)であることができる。
【0029】
工程(1-2a):一般式(9)で表される(R)-ヒドロキシアセトニトリル化合物にR4-OHで表されるアルキルアルコールを反応させて、一般式(7)で示される(R)-ヒドロキシアルキルエステル化合物を得る工程(1-2a)、
工程(1-2b):一般式(9)で表される(R)-ヒドロキシアセトニトリル化合物に酸化合物を反応させて、一般式(8)で示される(R)-ヒドロキシカルボン酸化合物を得、さらに一般式(8)で示される(R)-ヒドロキシカルボン酸化合物にR4-OHで表されるアルキルアルコールを反応させて、一般式(7)で示される(R)-ヒドロキシアルキルエステル化合物を得る工程。
【0030】
【化10】
(式(8)中、R1及びR2は、独立して、水素原子またはハロゲン原子である。)
【0031】
工程(1-2a):(R)-ヒドロキシアセトニトリル化合物に酸の存在下でR4-OHで表されるアルキルアルコールを反応させて、一般式(7)で示される(R)-ヒドロキシアルキルエステル化合物を得る。アルキルアルコールは、アルキル基R4に応じて適宜選択でき、例えば、メタノールであることができ、酸としては無機酸を用いることができ、無機酸としては例えば、塩酸を用いることができる。但し、これらに限定される意図ではない。この反応は、酸水溶液中で行うことができ、反応温度及び反応時間は適宜決定することができるが、反応温度は例えば、30℃~80℃の範囲、反応時間は10分から10時間の範囲とすることができる。
【0032】
工程(1-2b)では、第一段階として、(R)-ヒドロキシアセトニトリル化合物に酸化合物を反応させて、一般式(8)で示される(R)-ヒドロキシカルボン酸化合物を得る。酸化合物としては、無機酸を挙げることができ、例えば、塩酸であることができる。この反応では、シアノ基がカルボキシル基に変換される。酸化合物を用いる代りに、ニトリラーゼを用いて、(R)-ヒドロキシカルボン酸化合物、例えば、(R)-2-クロロマンデル酸および(R)-マンデル酸を合成することもできる。ニトリラーゼは、文献既知のものを使うことが可能であるが、さらにSchewanella woodi由来のニトリラーゼ(SwoNIT)などのように、in silicoクリーニングしたニトリラーゼを使うことが可能である(R. Inoue, S. Nakano, S. Shinoda, Y. Asano, In silico screening of nitrilase by INTMSAlign_Angler, 第70回生物工学会大会、2018.9.5-7(大阪))。
【0033】
次いで、ヒドロキシカルボン酸化合物を酸の存在下でR4-OHで表されるアルキルアルコールを反応させて、一般式(7)で示される(R)-ヒドロキシアルキルエステル化合物を得る。アルキルアルコールはアルキル基R4に応じて適宜選択でき、例えば、メタノールであることができ、酸としては無機酸を用いることができ、無機酸としては例えば、硫酸を用いることができる。但し、これらに限定される意図ではない。この反応は、アルキルアルコール溶液中で行うことができ、反応温度及び反応時間は適宜決定することができるが、反応温度は例えば、30℃~80℃の範囲、反応時間は10分から10時間の範囲とすることができる。
【0034】
工程(1-3):一般式(7)で表される(R)-ヒドロキシアルキルエステル化合物のヒドロキシ基を保護して、一般式(6)で表される(R)-アルキルエステル化合物を得る。
【化11】
【0035】
保護基R3の導入に用いる試薬は、保護基の種類に応じて、適宜選択することができる。保護基がノシル基の場合には、保護基導入用試薬として、例えば、4-ニトロベンゼンスルホニルクロリドを用いることができる。保護基導入用試薬の使用量は、(R)-ヒドロキシアルキルエステル化合物に対して1当量から5当量倍の範囲、好ましくは1.5~2.5当量倍の範囲で用いることができる。反応温度及び反応時間は適宜決定することができるが、反応温度は例えば、-10℃~10℃の範囲、反応時間は1時間から12時間の範囲とすることができる。
【0036】
工程(1-4):一般式(6)で表されるアルキルエステル化合物に式(4)または(5)で表されるチエノピリジン化合物を反応させて、一般式(1)で表される(S)-立体配置のチエノピリジンアセテート化合物を得る。式(4)または(5)で表されるチエノピリジン化合物は既知化合物であり、公知の方法で入手することができる。一般式(6)で表されるアルキルエステル化合物と式(4)で表されるチエノピリジン化合物との反応は、K2CO3の存在下、例えば、ジクロロメタンなどの有機溶媒中で還流することで実施することができる。反応時間は、例えば、1~12時間の範囲とすることができる。一般式(6)で表されるアルキルエステル化合物と式(5)で表されるチエノピリジン化合物との反応は、例えば、アセトン中で行い、反応時間は、例えば、0~40℃の範囲、反応時間は例えば、1~12時間の範囲とすることができる。
【0037】
一般式(6)で表されるアルキルエステル化合物が、メチル(R)-2-(2-クロロフェニル)-2-((4-ニトロフェニル)スルホニル)オキシ)アセテートである場合、一般式(1)で表される(S)-立体配置のチエノピリジンアセテート化合物は下記式(11)で示されるクロピドグレルである。
【化12】
【実施例0038】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。但し、実施例は本発明の例示であって、本発明は実施例に限定される意図ではない。
【0039】
クロピドグレルの合成スキーム
【化13】
【0040】
実施例1
工程1
【化14】
【0041】
(R)-2-(2-クロロフェニル)-2-ヒドロキシアセトニトリル(2)の合成
50mMの2-クロロベンズアルデ及び100mMのKCNを含有する300mMクエン酸バッファー(pH3.5)100mLに4Uのヒドロキシニトリルリアーゼ(HNL)N65Y変異体を加え、25℃で30分間反応させた。
反応混合物を酢酸エチル (2×150 mL) で抽出し、最後に合わせた有機層をブラインで洗浄し、MgSO4 で乾燥させた。次に、溶液を減圧下で濃縮して、2-クロロマンデロニトリル 2 (6 g, 95%, 98.2%ee) を無色液体として得て、さらに精製せずに次回に使用した。
【0042】
Rf = 0.40 (EtOAc/hexane, 1:3). 1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ 7.74-7.71 (m, 1H), 7.47-7.44 (m, 1H), 7.41-7.38 (m, 2H), 5.88 (s, 1H). 13C NMR (125 MHz, CDCl3): δ 132.8, 132.7, 131.2, 130.2, 128.5, 127.8, 117.7, 61.1.
【0043】
工程2a
【化15】
【0044】
メチル(R)-2-(2-クロロフェニル)-2-ヒドロキシアセテート(4)の合成
MeOH(1.5 mL)中の 2-クロロマンデロニトリル 2(1.04 g, 6.23 mmol)の撹拌溶液に、35% HCl(1.55 mL, 18.68 mmol)を0℃で添加した。氷浴を取り除き、すべての出発物質が完全に消費されるまで、反応混合物を65℃で3時間加熱した。反応混合物を冷却し、酢酸エチル(40 mL) で希釈し、NaHCO3の飽和溶液を加えてクエンチした。層を分離し、水層を酢酸エチル(2× 40mL)で抽出した。合わせた有機部分をブラインで洗浄し、無水MgSO4上で乾燥させた。次に、溶液を減圧下で濃縮し、フラッシュカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:10)で精製して、化合物4(980 mg、80%)を無色液体として得た。
【0045】
Rf = 0.40 (EtOAc/hexane, 1:5). [α]D 25 = -129.9 (c 0.2, CHCl3). 95.3% ee [HPLC condition: Chiracel OJ-H column, n-hexane/i-PrOH = 92:8, flow rate = 1.0 mL/min, wavelength = 220 nm, tR = 15.4 min for R isomer, tR = 18.3 min for S isomer]. 1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ 7.40 - 7.38 (m, 2H), 7.29 - 7.27 (m, 2H), 5.57 (d, J = 4.9 Hz, 1H), 3.77 (s, 3H), 3.58 - 3.56 (m, 1H). 13C NMR (125 MHz, CDCl3): δ 173.7, 136.0, 133.5, 130.0, 129.8, 128.8, 127.2, 70.3, 53.2. HRMS (ESI) for C9H9ClO3Na [M+Na]+, calculated: 223.0132, found: 223.0132.
【0046】
工程2b
【化16】
【0047】
(R)-2-(2-クロロフェニル)-2-ヒドロキシ酢酸(3)の合成
2-クロロマンデロニトリル2(5 g, 30 mmol)とトルエン(2 mL)の氷冷した溶液に、35% HCl(10 mL)をゆっくりと加えた。氷浴を取り除き、反応混合物をすべての出発物質が完全に消費されるまで60℃ で3時間加熱した。反応混合物を冷却し、酢酸エチル(70 mL)で希釈し、NaHCO3の飽和溶液を加えてクエンチした。水層を酢酸エチル(2×100 mL)で抽出した。合わせた有機部分を食塩水で洗浄し、無水MgSO4で乾燥し、減圧下で濃縮して粗2-クロロマンデル酸を白色固体として得た。この白色固体をクロロホルム(15 mL)およびヘプタン(30 mL)から再結晶し、結晶を濾過、洗浄、乾燥して、2-クロロマンデル酸 3(4.3 g, 80%)を結晶として得た。
【0048】
Rf = 0.20 (EtOAc/hexane, 1:2). [α]D 25 = -153.9 (c 0.5, CHCl3). 1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ 7.43-7.40 (m, 2H), 7.32 - 7.28 (m, 2H), 5.65 (s, 1H). 13C NMR (125 MHz, CDCl3): δ 176.6, 135.3, 133.5, 130.1, 130.0, 128.8, 127.3, 70.2.
【0049】
工程2c
【化17】
【0050】
メチル(R)-2-(2-クロロフェニル)-2-ヒドロキシアセテート(4)の合成
結晶性 2-クロロマンデル酸 3(3.5 g, 19.02 mmol)を MeOH(35 mL)に溶かし、触媒量のH2SO4(96%, 0.25 mL, 3.8 mmol)を 0℃で滴下して加えた。氷浴を取り除き、すべての出発物質が完全に消費されるまで、反応混合物を65℃で4時間加熱した。反応混合物を冷却し、酢酸エチル(80 mL)で希釈し、NaHCO3の飽和溶液を加えてクエンチした。層を分離し、水層を酢酸エチル(3×90 mL)で抽出した。合わせた有機部分をブラインで洗浄し、無水MgSO4 上で乾燥させた。次に、溶液を減圧下で濃縮し、フラッシュカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:10)で精製して、化合物4(3.5g、92%)を無色液体として得た。
【0051】
Rf = 0.40 (EtOAc/hexane, 1:5). [α]D 25 = -129.9 (c 0.2, CHCl3). 99.1% ee [HPLC condition: Chiracel OJ-H column, n-hexane/i-PrOH = 19:1, flow rate = 1.0 mL/min, wavelength = 200 nm, tR = 22.17 min for R isomer, tR = 26.60 min for S isomer].
【0052】
工程3
【化18】
【0053】
メチル(R)-2-(2-クロロフェニル)-2-((4-ニトロフェニル)スルホニル)オキシ)アセテート(10)の合成
CH2 Cl2 (8 mL)中の化合物 4(450 mg, 2.27 mmol), トリエチルアミン(200μL, 2.95 mmol)および DMAP(30 mg, 10 mol%)の撹拌溶液に、0℃で4-ニトロベンゼンスルホニルクロリド(603 mg, 2.72 mmol)を追加した。反応混合物を同温度で3時間、TLCで示されるように出発物質4が完全に消費されるまで攪拌した。反応混合物をH2O(2 mL)を加えることによってクエンチし、CH2 Cl2(20 mL)で希釈し、層を分離した。水層をCH2Cl2(2×30mL)で抽出し、合わせた有機層をブラインで洗浄し、MgSO4で乾燥させた。次に、溶液を減圧下で濃縮し、フラッシュカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:6)で精製して、化合物10(620 mg、72%)を淡黄色オイルとして得た。
【0054】
Rf = 0.35 (EtOAc/hexane, 1:5). [α]D 26 = -57.4 (c 0.2, CHCl3). 1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ 8.30 (d, J = 8.9 Hz, 2H), 8.07 (d, J = 8.9 Hz, 2H), 7.48 - 7.13 (m, 4H), 6.38 (s, 1H), 3.75 (s, 3H). 13C NMR (125 MHz, CDCl3): δ 166.8, 150.6, 142.0, 133.8, 131.4, 130.3, 129.9, 129.7, 129.3, 127.4, 124.1, 76.5, 53.3. HRMS (ESI) for C15H12ClNO7SNa [M+Na]+, calculated: 407.9915, found: 407.9898.
【0055】
工程4
【化19】
【0056】
メチル(S)-2-(2-クロロフェニル)-2-(6,7-ジヒドロチエノ[3,2-c]ピリジン-5(4H)-イル)アセテート(クロピドグレル11)の合成
4,5,6,7-テトラヒドロチエノ[3,2-c]ピリジン14(262 mg, 1.88 mmol)を丸底フラスコに取り、CH2Cl2(3 mL)を、続いてK2CO3(750 mg, 5.5 mmol)の30%水溶液を添加した。次に、CH2Cl2(1mL)の上記溶液に化合物10(600 mg, 1.56 mmol)をゆっくりと加え、溶液を3時間還流させた。反応完了後、反応混合物を室温まで冷却し、CH2Cl2(20 mL)水層をCH2Cl2(2×30 mL)で抽出し、合わせた有機層をブラインで洗浄し、MgSO4上で乾燥させた。次に、溶液を真空中で蒸発させ、残留物をフラッシュカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:10)で精製して、クロピドグレル11(350mg、70%)を淡黄色オイルとして得た。
【0057】
Rf = 0.5 (EtOAc/hexane, 1:5). [α]D 25 = +38.98 (c 1.0, MeOH). 98.1% ee [HPLC condition: Chiralpak AD-H column, n-hexane/i-PrOH = 92:8, flow rate = 1.0 mL/min, wavelength = 254 nm, tR = 5.82 min for R isomer, tR = 6.63 min for S isomer]. 1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ 7.71 (dd, J = 7.4, 2.1 Hz, 1H), 7.41 (dd, J = 7.4, 1.9 Hz, 1H), 7.34 - 7.21 (m, 2H), 7.06 (d, J = 5.2 Hz, 1H), 6.67 (d, J = 5.1 Hz, 1H), 4.93 (s, 1H), 3.77 (dd, J = 14.1, 1.6 Hz, 1H), 3.73 (s, 3H), 3.69 - 3.59 (m, 1H), 2.89 (q, J = 2.5 Hz, 4H). 13C NMR (125 MHz, CDCl3): δ 171.3, 134.6, 133.8, 133.2, 133.2, 129.9, 129.7, 129.3, 127.1, 125.2, 122.7, 67.8, 52.1, 50.6, 48.2, 25.5. HRMS (ESI) for C16H17ClNO2S [M+H]+, calculated: 322.0663, found: 322.0650.
【0058】
工程5
【化20】
【0059】
4,5,6,7-テトラヒドロチエノ[3,2-c]ピリジン HCl塩(13)の合成
ディーンスターク装置を備えた200 mL丸底フラスコに、トルエン(30 mL)中の 2-(チオフェン-2-イル)エチルアミン(2 g, 15.72 mmol)を入れ、この溶液に不活性雰囲気下でパラホルムアルデヒド(0.525 g, 17.29 mmol)を添加した。この混合物を水の共沸除去をしながら2時間還流加熱し、その後、反応物を室温まで冷却させた。この溶液をマグネチックスターラーを備えた別の丸底フラスコにゆっくりと移し、不活性雰囲気下、酢酸エチル中の4M塩化水素(6mL)を加えた。その後、反応混合物を65℃でさらに40 mint 攪拌し、室温まで冷却した。固体を濾過し、ジエチルエーテルで数回洗浄し、オーブン乾燥し、13(2.12 g, 97%)をHCl塩の淡黄色固体として得た。
【0060】
1H NMR (500 MHz, DMSO): δ 9.80 (br s, 2H), 7.43 (d, J = 5.2 Hz, 1H), 6.91 (d, J = 5.2 Hz, 1H), 4.13 (s, 2H), 3.37 - 3.30 (m, 2H), 3.03 (t, J = 6.1 Hz, 2H). 13C NMR (125 MHz, DMSO): δ 132.1, 128.8, 125.9, 125.0, 42.5, 41.2, 21.9.
【0061】
工程6
【化21】
【0062】
4,5,6,7-テトラヒドロチエノ[3,2-c]ピリジン, free base (14)の合成
4,5,6,7-テトラヒドロチエノ[3,2-c]ピリジンのHCl 塩(1 g, 5.7 mmol)を100 mL丸底フラスコに取り、22 mL H2Oに入れた。この撹拌溶液に2N NaOH(18 mL)をpH=12-14まで低温でゆっくりと加えた。次に、この反応混合物をCH2 Cl2(100 mL)で希釈し、層を分離した。水層をCH2Cl2(2×100 mL)で抽出し、合わせた有機層をブラインで洗浄し、MgSO4上で乾燥させた。次に、溶液を減圧下で濃縮して、化合物14(800mg, 100%)を淡黄色液体として得て、さらに精製することなく次の反応に使用した。
【0063】
1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ 7.07 (d, J = 5.5 Hz, 1H), 6.74 (d, J = 5.1 Hz, 1H), 3.92 (t, J = 1.8 Hz, 2H), 3.15 (t, J = 5.7 Hz, 2H), 2.80 (t, J = 5.7, 2.9 Hz, 2H), 1.74 (br s, 1H).
【0064】
参考例1-1
キシャヤスデ(Parafontaria laminata armigera)、PlamHNL遺伝子(N85Y変異型酵素)の異種宿主による発現と生産は、非特許文献7に記載の方法によって、大腸菌及び酵母Pichia pastorisで培養・精製した。
(大腸菌および酵母P. pastorisにおける組換えPlamHNLの発現ベクターの構築)
組換え株大腸菌SHuffle T7 express (ニューイングランドバイオラボ、イプスウィッチ、マサチューセッツ州、米国)を発現宿主として使用し、pET28a(+)ベクター(Novagen;ダルムシュタット、ドイツ)を発現ベクターとして使用した。DNAインサートを、PlamHNL cDNAを鋳型DNAとして用いてPCR増幅した。
P. pastoris GS115細胞においてPlamHNLの組換え遺伝子を発現させるために、遺伝子インサートを増幅し、pPICZαAに挿入しpPICZαA-PlamHNLを作成した。次に、N末端の6x-Hisタグのコード配列とTEVプロテアーゼ認識配列を導入し、pPICZαA-TEV-His PlamHNLを構築した。ベクターpPICZαA-TEV-His PlamHNLをSacIによる消化により線形化し、Pichia発現キット(サーモフィッシャーサイエンティフィック)を使用してP. pastoris GS115細胞にエレクトロポレーションした。
【0065】
参考例1-2
(大腸菌での酵素の生産)
単一のコロニーでPlamHNL遺伝子を含むpET28a-PlamHNLプラスミドで形質転換した大腸菌 SHuffle T7 expressの単一コロニーをカナマイシン(80μg /mL)を含むLB培地5mLに接種した。30℃で300rpmの振とう速度で一晩培養した。この種培養(5mL)を2Lのフラスコに、カナマイシン(80μg/ mL)を含むLB培地(500mL)で、30℃で150rpmの振とう速度で振とう培養した。12時間後、イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)を0.5mMの濃度で添加し、細胞を18℃で24時間培養した。大腸菌細胞を遠心分離し(8500×g、15分間)、イミダゾール(25mM)及び塩化ナトリウム(0.5M)を含むリン酸カリウム緩衝液(KPB;20mM、pH7.0)に懸濁した。細胞を超音波処理により破砕し、溶解液を遠心分離(15,000×g、4℃、15分)した。上澄み液はNi Sepharose 6 Fast Flow(GE Healthcare,Little Chalfont.英国)カラム(内径25mm、カラム容量20mL)に吸着させ、50 mMイミダゾール液で洗浄後、50~300mMイミダゾール及び塩化ナトリウム(0.5M)を含むリン酸カリウム緩衝液(KPB;20mM、pH7.0)で、0.5 mL/minのリニアグラジエントで溶出した。酵素活性は、ベンズアルデヒドとシアン化カリウムから文献既知の方法で測定し、活性画分をプールし、透析後、濃縮した。1Lの大腸菌形質転換株培養物からは、2,190U/mgの活性を示す精製PlamHNLが1.75mg生産できた。
【0066】
(酵母P. pastorisでの酵素の生産)
P. pastoris形質転換体を、ゼオシン(100μg/mL)を含む5mLのYPD培地(1%酵母エキス、2%ペプトン、および2%デキストロース)に接種した。300rpmで振とうしながら30℃で一晩前培養した後、接種材料を緩衝最小グリセロール培地(BMGH;100-mMリン酸カリウム緩衝液(pH 6.0)、アミノ酸を含まない1.34% yeast nitrogen base、4×10-5 %ビオチン、0.004%ヒスチジン、および1.0%グリセロール)に移し、200rpmで振とうしながら30℃で培養した。48時間の培養後、細胞を遠心分離によって回収し、500 mL発現培地に再懸濁し、緩衝した最小メタノール培地(BMMH;BMGHと同じだが、1%(v/v)グリセロールの代わりに0.5%(v/v)メタノールを添加し)、および24時間ごとに誘導物質として0.5%メタノールを添加した。
【0067】
細胞外HNL活性が培養6日後に最大となった時に、上清を3000×gで10分間遠心分離して回収し、中空糸限外フィルター(Microza;旭化成)で25倍に濃縮した。上清に硫酸アンモニウム(30% w/v)を添加し、平衡化バッファー(20 mM KPB(pH 7.0)および硫酸アンモニウム(30% w/v))で予め平衡化したトヨパールブチル-650-Mカラム(東ソー、内径25 mm、カラム容量30 mL)に直接吸着させた。吸収した酵素を10倍量の平衡化バッファーで洗浄し、同じバッファーで30%から0%の硫酸アンモニウムの勾配で溶出し、活性画分を20 mM KPB(pH 7.0)に対して透析した。全ての精製工程は4℃で行った。1Lの酵母P. pastoris形質転換株培養物からは、2,100 U/mgの活性を示す精製PlamHNLが0.16mg生産できた。
【0068】
実施例2-1
(大腸菌で製造したPlamHNL-N85Yを用いるバッチ法による (R)-2-クロロマンデロニトリル合成)
以下の組成の反応液600 mLをメジューム瓶に作製し、撹拌子で反応液を混合しながら室温で4時間反応を行った。HNLの合成活性は、ベンズアルデヒドからの(R)-マンデロニトリルの生成量を測定し、1分間に1μmolの(R)-マンデロニトリルの生成を触媒する酵素量を1Uと定義した。
【0069】
1M クエン酸緩衝液 (pH 2.5) 240 mL(最終濃度0.4 M)
1M KCN 60 mL(最終濃度100 mM)
PlamHNL-N85Y 10,200 U
1.25 M 2-クロロベンズアルデヒドのDMSO溶液 24 mL(最終濃度50 mM (4.23 g))
蒸留水 246 mL(合計600 mL)
【0070】
4時間後、反応液を酢酸エチルで抽出後、溶媒を留去し、98% eeの(R)-2-クロロマンデロニトリルを95%の収率で得た。濃塩酸を加えて35%の濃度とし、65℃で3時間加熱した。(R)-2-クロロマンデル酸は、酸性条件下エーテル抽出し、クロロフォルムに溶解後ヘプタンを加えることにより白色結晶を92%の収率で得た。
【0071】
実施例2-2
(PlamHNLおよびCLEA-SwoNITを生体触媒として用いた(R)-2-クロロマンデル酸のバッチ合成)
ニトリラーゼ(SwoNIT)は、CLEA法を用いて固定化すると安定性が著しく増加した。CLEA法で固定化した酵素をSwoNIT CLEAと呼ぶ。最適化した条件では、ニトリラーゼ溶液に対して、40%飽和となるよう硫酸アンモニウムを添加して凝集させ、次にグルタルアルデヒド(5 mM)を添加して架橋しSwoNIT CLEAを得た。
PlamHNL-N85Y (0.22U), CLEA-SwoNIT(1.12U)クエン酸緩衝液(300 mM, pH 4.6), トリメチルシリルシアニド(TMSCN、150 mM)を10mLの混合物とし、合計200mMとなるように50mLの濃度の2-クロロベンズアルデヒドのヘキサン溶液を加え二層系で反応させたところ、190mMの濃度の(R)-2-クロロマンデル酸が生成した(収率95%)。ニトリラーゼは、1分間に1μmolの(R)-マンデロニトリルから(R)-マンデル酸の生成を触媒する酵素量を1Uと定義した。
【0072】
実施例2-3
(PlamHNL-N85Yの併用による液-液セグメントフロー(流路)合成による(R)-2-クロロマンデル酸の合成)
Aの流路に、PlamHNL-N85Y (0.32U), クエン酸緩衝液(300 mM, pH 4.6), トリメチルシリルシアニド(TMSCN、150 mM)、およびニトリラーゼ(SwoNIT、0.22U)の混合物を流し、一方、Bの流路には、2-クロロベンズアルデヒド(50mM、ヘキサン溶液)を流す。A及びBの2つの流路はYミキサー(ID = 1 mm)に供給し、そこで空気を間に含むセグメントが生成され、管状のポリ(フルオレニレンエチンレン)(PFE)に導いた。反応混合物の画分を容器に集めた(反応混合物の即時クエンチのための濃HCl溶液を含む)。デカンテーションによる相分離を行い、ヘキサン層を減圧下溶媒除去し、以後の処理なしで生成物である(R)-2-クロロマンデル酸を得た。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、(S)-立体配置のチエノピリジンアセテート化合物の製造に関連する分野に有用である。