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特開2024-138890酢酸アニリド誘導体(ミラベグロン)の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138890
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】酢酸アニリド誘導体(ミラベグロン)の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 277/40 20060101AFI20241002BHJP
   A61K 31/426 20060101ALI20241002BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241002BHJP
   A61P 13/10 20060101ALI20241002BHJP
   C12P 13/00 20060101ALI20241002BHJP
   C07C 269/06 20060101ALI20241002BHJP
   C07C 271/28 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
C07D277/40
A61K31/426
A61P43/00 111
A61P13/10
C12P13/00
C07C269/06
C07C271/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049605
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】515157758
【氏名又は名称】公立大学法人 富山県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】浅野 泰久
(72)【発明者】
【氏名】チャクラボルティ ジョイ
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 源司
【テーマコード(参考)】
4B064
4C086
4H006
【Fターム(参考)】
4B064AE01
4B064CA19
4B064CA21
4B064CA22
4B064CC24
4B064DA01
4C086AA04
4C086BC82
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA20
4C086ZA81
4C086ZC41
4H006AA02
4H006AC56
4H006RA38
4H006RB34
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ミラベグロンを得る方法、及びミラベグロンの合成中間体である光学活性アミノアルコール体を得る方法を提供すること。
【解決手段】イミン誘導体を得たのち、得られたイミン誘導体を還元、ついで、脱保護反応して得られた化合物に、2-アミノチアゾール-4-イルを反応させて、酢酸アニリド誘導体23(ミラベグロン)を得る工程を含む、ミラベグロンの製造方法。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(10)で示される化合物と一般式(11)で示される化合物をピロリジンの存在下で反応させてイミン誘導体を得、得られたイミン誘導体を還元して一般式(1)で示される化合物を得る工程(1)、
一般式(1)で示される化合物を脱保護反応に供して一般式(2)で示される化合物を得る工程(2)、及び
一般式(2)で示される化合物に2-アミノチアゾール-4-イルを反応させて一般式(3)で示される酢酸アニリド誘導体を得る工程(3)を含む、酢酸アニリド誘導体(ミラベグロン)の製造方法。
【化1】
(一般式(1)及び(11)中、R1は保護基である。)
【請求項2】
保護基R1は、tert-ブトキシカルボニル基 (Boc)、ベンジルオキシカルボニル基(Cbz)またはフルオレニルメトキシカルボニル基(Fmoc)である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
式(10)で示される化合物と一般式(11)で示される化合物をピロリジンの存在下で反応させてイミン誘導体を得、得られたイミン誘導体を還元して反応させて一般式(1)で示される化合物を得ることを含む、酢酸アニリド誘導体(ミラベグロン)合成中間体の製造方法。
【請求項4】
ベンズアルデヒドとシアン化合物を(R)-ヒドロキシニトリルリアーゼの存在下で反応させて(R)-マンデロニトリルを得る工程、及び
(R)-マンデロニトリルを還元して式(10)で示される化合物((R)-2-ヒドロキシ-2-フェニルアセトニトリル)を得る工程をさらに含む、請求項1または3に記載の製造方法。
【請求項5】
(R)-マンデロニトリルを還元して式(10)で示される化合物((R)-2-ヒドロキシ-2-フェニルアセトニトリル)を得る工程はBH3・THF法により実施する、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
ヒドロキシニトリルリアーゼがPlamHNL-N65Y変異体である請求項4に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酢酸アニリド誘導体(ミラベグロン)の製造方法及び合成中間体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ミラベグロンは、アステラス製薬が開発したアドレナリンβ3受容体作動薬の1つであり、過活動膀胱の治療に使用されている。ミラベグロンは、特許文献1の実施例41において合成された化合物として記載されている(R)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-4’-[2-[(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)アミノ]エチル]酢酸アニリド 2塩酸塩である。さらに、特許文献2に別の合成ルートでの製造方法が記載されている。ミラベクロンの結晶に関しては特許文献3に記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO99/20607
【特許文献2】WO03/037881
【特許文献3】特開2011-105685号公報
【特許文献4】CN103232352A
【特許文献5】WO2017/150560
【特許文献6】WO2020/009168
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】M.Dadashipour and Y.Asano,ACS Catal.2011,1,1121-1149
【非特許文献2】浅野 泰久、生化学誌、Vol.94、No.5,第681~689頁、2022年
【非特許文献3】Т.Yamaguchi他、Sci.Rep.Vol.8,第3051頁~、2018年
【非特許文献4】A.Nuylert他、ACS Omega、Vol.5、No.43、第27896~27908、2020年
【非特許文献5】Z.-Y. Zhai他、Journal of Industrial Microbiology and Biotechnology、Vol.46、No.7、第887~898頁、2019年
【非特許文献6】N. Adebar 他、European Journal of Organic Chemistry、第6062~6067頁、2020年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
いずれの特許文献においても、(R)-2-[[2-(4-アミノフェニル)エチル)アミノ]-1-フェニルエタノール(以下、原料フェニルエタノールと呼ぶ)に2-アミノチアゾール-4-イル酢酸を縮合させて、ミラベクロンを合成している。原料フェニルエタノールは、特許文献2では、(R)-2-[[2-(4-ニトロフェニル)エチル)アミノ]-1-フェニルエタノール(以下、ニトロ体と呼ぶ)を水素還元して得ている。ニトロ体は、(R)-マンデル酸と4-ニトロフェニルエチルアミンを反応させ、(R)-2-ヒドロキシ-N-[2-(4-ニトロフェニル)エチル]-2-フェニルアセタミドを得、さらにフェニルアセタミドをボラン還元することで得ている。
【0006】
【化1】
【0007】
ニトロ体を水素還元して原料フェニルエタノールを得るには、高圧の接触還元法を用いており、ラネーニッケルを触媒として用いる必要があり、危険性を伴うという問題がある。
【0008】
特許文献4には、原料フェニルエタノールを、ニトロ体を経由せずに合成する方法が開示されている。
【0009】
【化2】
【0010】
この方法では、tert-ブトキシカルボニル基 (Boc)でアミノ基保護された2-(4-アミノフェニル)エタノールがKMnO4で酸化され、次いで光学活性アミノアルコール化合物と反応させて、Bocでアミノ基保護された(R)-2-[[2-(4-アミノフェニル)エチル)アミノ]-1-フェニルエタノールを得、脱保護することで原料フェニルエタノールを得ている。
【0011】
しかし、この方法では、アルコール化合物をアルデヒドに変換するのにKMnO4を用いており、収率が低いことが予測される。
【0012】
そこで本発明は、Bocでアミノ基保護された(R)-2-[[2-(4-アミノフェニル)エチル)アミノ]-1-フェニルエタノールを、上記問題を回避して調製して、原料フェニルエタノールを得、その上で、2-アミノチアゾール-4-イル酢酸を縮合させてミラベクロンを得る方法を提供することを目的とする。
【0013】
さらに、特許文献4では、中間原料である光学活性アミノアルコール体は既存の方法で得られたものであり、高い光学活性のものを得ることは容易ではなかった。
【0014】
そこで本発明は、光学活性アミノアルコール体を高い光学収率で得られる方法も提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は以下の通りである。
[1]
式(10)で示される化合物と一般式(11)で示される化合物をピロリジンの存在下で反応させてイミン誘導体を得、得られたイミン誘導体を還元して一般式(1)で示される化合物を得る工程(1)、
一般式(1)で示される化合物を脱保護反応に供して一般式(2)で示される化合物を得る工程(2)、及び
一般式(2)で示される化合物に2-アミノチアゾール-4-イルを反応させて一般式(3)で示される酢酸アニリド誘導体を得る工程(3)を含む、酢酸アニリド誘導体(ミラベグロン)の製造方法。
【化3】
(一般式(1)及び(11)中、R1は保護基である。)
[2]
保護基R1は、tert-ブトキシカルボニル基 (Boc)、ベンジルオキシカルボニル基(Cbz)またはフルオレニルメトキシカルボニル基(Fmoc)である[1]に記載の製造方法。
[3]
式(10)で示される化合物と一般式(11)で示される化合物をピロリジンの存在下で反応させてイミン誘導体を得、得られたイミン誘導体を還元して反応させて一般式(1)で示される化合物を得ることを含む、酢酸アニリド誘導体(ミラベグロン)合成中間体の製造方法。
[4]
ベンズアルデヒドとシアン化合物を(R)-ヒドロキシニトリルリアーゼの存在下で反応させて(R)-マンデロニトリルを得る工程、及び
(R)-マンデロニトリルを還元して式(10)で示される化合物((R)-2-ヒドロキシ-2-フェニルアセトニトリル)を得る工程をさらに含む、[1]または[3]に記載の製造方法。
[5]
(R)-マンデロニトリルを還元して式(10)で示される化合物((R)-2-ヒドロキシ-2-フェニルアセトニトリル)を得る工程はBH3・THF法により実施する、[4]に記載の製造方法。
[6]
ヒドロキシニトリルリアーゼがPlamHNL-N65Y変異体である[4]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ミラベクロンを得る新たな方法を提供することができる。
さらに、本発明によれば、ミラベクロンの合成中間体である光学活性アミノアルコール体を高い光学収率で得られる新たな方法も提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<酢酸アニリド誘導体(ミラベグロン)の製造方法>
本発明の第一の態様である酢酸アニリド誘導体(ミラベグロン)の製造方法は、
式(10)で示される化合物と一般式(11)で示される化合物をピロリジンの存在下で反応させてイミン誘導体を得、得られたイミン誘導体を還元して一般式(1)で示される化合物を得る工程(1)、
一般式(1)で示される化合物を脱保護反応に供して一般式(2)で示される化合物を得る工程(2)、及び
一般式(2)で示される化合物に2-アミノチアゾール-4-イルを反応させて一般式(3)で示される酢酸アニリド誘導体を得る工程(3)を含む。
【0018】
【化4】
【0019】
一般式(1)及び(11)中、R1は保護基である。保護基R1は、例えば、tert-ブトキシカルボニル基(Boc)、ベンジルオキシカルボニル基(Cbz)またはフルオレニルメトキシカルボニル基(Fmoc)であることができる。
【0020】
式(10)で示される(R)-2-ヒドロキシ-2-フェニルアセトニトリルの製造方法は後述する。
【0021】
工程(1)
式(10)で示される化合物と一般式(11)で示される化合物は、ピロリジンの存在下で反応させてイミン誘導体を得る。式(10)で示される化合物と一般式(11)で示される化合物の反応は、等モル量での反応であるので、式(10)で示される化合物1モルに対して一般式(11)で示される化合物を例えば、0.5~1.5モルの範囲で用いることができる。ピロリジンの使用量は触媒量でよく、例えば、式(10)で示される化合物1モルに対して、例えば、0.001~0.2モルの範囲とすることができる。ピロリジンに加えて脱水剤として、例えば、モレキュラーシーブを共存させることができる。反応温度は、例えば、0~30℃の範囲とすることができ、反応時間は、例えば、10分~10時間の範囲とすることができる。
【0022】
次いで、得られたイミン誘導体を還元して一般式(1)で示される化合物を得る。イミン誘導体の還元には、例えば、ヒドリド還元剤を用いることができ、ヒドリド還元剤としては、例えば、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)、水酸化ホウ素リチウム(LiBH4)、水素化アルミニウムリチウム(LiAlH4)、ボラン(BH3)などを用いることができる。還元剤の使用量は、被還元物質であるイミン誘導体1モルに対して、例えば、1~1.5モルの範囲とすることができる。還元反応温度は、例えば、0~30℃の範囲とすることができ、反応時間は、例えば、10分~10時間の範囲とすることができる。
【0023】
還元により生成した物質はそのまま次の工程に用いるか、常法により精製した後に次の工程に用いることができる。
【0024】
工程(2)
一般式(1)で示される化合物を脱保護反応に供して一般式(2)で示される化合物を得る。保護基がBocである場合、酸性条件では不安定であるので、酸性で脱保護して、一般式(2)で示されるアミン化合物を得る。保護基がCbzである場合は、接触還元条件下で脱保護することができ、保護基がFmocである場合は、塩基性条件下で脱保護することができる。反応温度は、例えば、0~30℃の範囲とすることができ、反応時間は、例えば、10分~24時間の範囲とすることができる。
【0025】
脱保護により生成した物質はそのまま次の工程に用いるか、常法により精製した後に次の工程に用いることができる。
【0026】
工程(3)
一般式(2)で示される化合物に2-アミノチアゾール-4-イルを反応させて一般式(3)で示される酢酸アニリド誘導体を得る。式(3)で示される化合物と2-アミノチアゾール-4-イルの反応は、等モル量での反応であるので、式(3)で示される化合物1モルに対して2-アミノチアゾール-4-イルを例えば、0.5~1.5モルの範囲で用いることができる。反応は酸性条件下で行うことが好ましく、例えば、塩酸などの鉱酸の存在下で行う。反応は反応液にアルカリを加えることで停止する。反応温度は、例えば、30~80℃の範囲とすることができ、反応時間は、例えば、10分~12時間の範囲とすることができる。
【0027】
反応生成物である酢酸アニリド誘導体(ミラベグロン)は、常法により精製することができる。
【0028】
<酢酸アニリド誘導体(ミラベグロン)合成中間体の製造方法>
本発明の第2の態様は、式(10)で示される化合物と一般式(11)で示される化合物をピロリジンの存在下で反応させてイミン誘導体を得、得られたイミン誘導体を還元して反応させて一般式(1)で示される化合物を得る工程(1)を含む、酢酸アニリド誘導体(ミラベグロン)合成中間体の製造方法に関する。
【0029】
この製造方法は、上記工程(1)と同様に実施できる。
【0030】
本発明の第一の態様である酢酸アニリド誘導体(ミラベグロン)の製造方法、及び第二の態様である酢酸アニリド誘導体(ミラベグロン)合成中間体の製造方法は、ベンズアルデヒドとシアン化合物を(R)-ヒドロキシニトリルリアーゼの存在下で反応させて(R)-マンデロニトリルを得る工程(4)、及び
(R)-マンデロニトリルを還元して式(10)で示される化合物((R)-2-ヒドロキシ-2-フェニルアセトニトリル)を得る工程(5)をさらに含むことができる。
【0031】
工程(4)
ベンズアルデヒドとシアン化合物を(R)-ヒドロキシニトリルリアーゼの存在下で反応させて、(R)-マンデロニトリルを得る。ヒドロキシニトリルリアーゼ(HNL)は、シアノヒドリン(ヒドロキシアセトニトリル)の合成及び分解の可逆反応を触媒する酵素であり、(S)選択性および(R)選択性の2つのグループに分けられる。その中で(R)-HNLは、酸性条件下においてケトンまたはアルデヒドとシアニドドナーから(R)-シアノヒドリンを生成する反応を触媒する。(R)-HNLは、オビヤスデ目(Polydesmida)に分類されるヤンバルトサカヤスデ(Chamberlinius hualienensis)、タンバアカヤスデ(Nedyopus tambanus tambanus)、ミドリババヤスデ(Parafontaria tonominea)、エパネルコデウス属(Epanerchodus sp.)、エパネルコデウス フルヴス(Epanerchodus fulvus Haga)、キシャヤスデ(Parafontaria laminate armigera)、ヤケヤスデ(Oxidus gracilis)、オオギヤスデ属(Cryptocorypha sp.)、ヤマトオビヤスデ(Epanerchodus japonicas Carl)、アマビコヤスデ(Riukiaria semicircularis semicircularis)、ヤマトアカヤスデ(Nedyopus patrioticus patrioticus)などの節足動物から得ることができる(特許文献5及び特許文献6、非特許文献1、非特許文献2及び非特許文献3参照)。
【0032】
(R)-HNLは、例えば、特許文献6及び非特許文献1に記載のヤスデ由来の(R)-ヒドロキシニトリルリアーゼまたはヤスデ由来の(R)-ヒドロキシニトリルリアーゼのタンパク質の1種類以上のアミノ酸を置換した変異体タンパク質であることもできる。好ましい(R)-HNLは、エナンチオ選択性に優れるという観点からPlamHNLの変異体タンパク質である、例えば、N65Y、N65M、N65V、N65L、N65W、T75A、I69G、N65Y/T75A、N65Y/I69Gなどの変異体である。(R)-HNL変異体タンパク質としては、精製したタンパク質を使用することもできるし、菌体粉砕物またはその粗生成物を使用することもできる。(R)-HNLとしては、酵母Pichia pastorisを用いて高収率で異種生産した(R)-HNLを用いることもできる(非特許文献5)。(R)-HNLを大腸菌などで異種発現し、可溶性・活性型で得られにくい場合には、タンパク質を一度変性させ、リフォールディングして活性のあるネイティブ構造へ巻き戻した(R)-HNLを用いることもできる。
【0033】
工程(2-1)で用いる(R)-HNL酵素量は、反応を触媒できる酵素量であれば特に制限されるものではないが、例えば、1~100U、1~50U、1~10U、2~8U、3~5Uとすることができる。
【0034】
一般式(10)で表されるベンズアルデヒド化合物は、市販品を入手であるか、公知の方法で合成することができる化合物である。シアン化合物は、例えば、KCN、NaCN、LiCNなどの無機シアン化合物であることができ、KCNであることが適当である。使用するシアン化合物の量は、例えば、0.1mM~10M、0.2mM~2M、又は2mM~200mMとすることができる。シアン化合物は、例えば、ベンズアルデヒド化合物に対して1当量から5当量倍の範囲、好ましくは1.5~2.5当量倍の範囲で用いることができる。反応は、水系、水-有機溶媒二相系、有機溶媒-微水系、または有機溶媒系等で実施することができ、使用するヒドロキシニトリルリアーゼに応じて適当なpHを示す緩衝溶液中で実施することもできる。クエン酸緩衝液の場合のpHは、例えば、2~7、2~6、2~5、3.5~5、及び3.5~4とすることができる。反応温度や時間も、使用するヒドロキシニトリルリアーゼの種類や量に応じて適宜決定、選択することができる。反応温度は、具体的には、酵素反応に依存しないラセミ体のシアノヒドリンの生成が抑制され、かつ、酵素反応に適した温度が好ましく、例えば、0~50℃、15~35℃とすることができる。
【0035】
工程(2-1)で用いる(R)-HNL変異体タンパク質の存在下で、アルデヒド化合物とシアン化合物とを反応させることを含む、シアノヒドリン(ヒドロキシアセトニトリル)の製造方法に関しては、例えば、非特許文献1を参照することができる。具体的には、例えば、(R)-HNL変異体タンパク質を、アルデヒド化合物及びシアン化合物を含有する、クエン酸緩衝液に添加して混合し、25℃で3分間反応させ、n-ヘキサン及び2-プロパノールと激しく混合することにより有機相中にシアノヒドリンを得ることができる。 必要に応じてクエン酸緩衝液(pH4.0)中に有機溶媒を添加して反応させることもできる。このような有機溶媒としては、酢酸エチル(EA)、ジエチルエーテル(DEE)、メチル-t-ブチルエーテル(MTBE)、2-イソプロピルエーテル(DIPE)、ジブチルエーテル(DBE)、メタノール(Met)、及びヘキサン(Hex)を挙げることができ、好ましくは、DIPE、DEE、MTBE、DBE及びHexであり、より好ましくは、DIPE、DEE、MTBE、及びDBEEである。
【0036】
工程(2-1)は回分(バッチ)法でも、フロー法でも実施できる。フロー法では微小流路の中で反応を行うマイクロリアクターを用いることができる。シアン源や有機溶媒などの危険な試薬を用いる反応の安全性を向上させ、優れた熱伝達性、後処理の簡便性、およびスケールアップの容易さなどの利点がある。非特許文献6に示されるように、フロー法を用いることで、立体選択性の向上、酸素の抑制による酵素の安定利用などが期待できる。フロー法では、非常に高い反応効率で、酵素と基質を反応させることができる。また、固定化された(R)-HNLを用いることもでき、それらは回収等の必要がなく、再利用できるので、また反応の際に投入されるエネルギーを非常に低くすることができる。
【0037】
溶液状あるいは固定化した(R)HNLを使用して対応するアルデヒド化合物とシアン化合物から生成する、例えば、(R)-マンデロニトリルなどの(R)-ヒドロキシアセトニトリル化合物を回収する。得られた(R)-ヒドロキシアセトニトリル化合物の変換及びエナンチオマー過剰率(ee)をキラルHPLCによって分析することができる。対応する基質の標準曲線を用いて変換を計算することができる。eeは、非特許文献1を参照して、2つのエナンチオマーのピーク面積を計算することによって決定することができる。
【0038】
反応終了後に、(R)-ヒドロキシアセトニトリルを反応溶液から常法により分離し、必要により、キラルHPLCなどにより精製して(R)-ヒドロキシアセトニトリルを得る。
【0039】
(R)-ヒドロキシアセトニトリル[(R)-シアノヒドリン]の一例である(R)-マンデロニトリルなどは、医薬を合成するための中間体として有用である。安価な基質から医薬および化成品中間体として利用価値の高い光学活性体を生産することのできる生体触媒として(R)-HNLは、極めて有用である。
【0040】
工程(5)
(R)-マンデロニトリルを還元して式(10)で示される化合物((R)-2-ヒドロキシ-2-フェニルアセトニトリル)を得る。この還元反応には、ヒドリド還元剤を用いることができ、ヒドリド還元剤としては、例えば、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)、水酸化ホウ素リチウム(LiBH4)、水素化アルミニウムリチウム(LiAlH4)、ボラン(BH3)などを用いることができる。例えば、BH3・THF法により実施することができる。還元剤の使用量は、被還元物質であるイミン誘導体1モルに対して、例えば、1~1.5モルの範囲とすることができる。還元反応温度は、例えば、30~90℃の範囲とすることができ、反応時間は、例えば、10分~10時間の範囲とすることができる。
【0041】
還元により生成した(R)-2-ヒドロキシ-2-フェニルアセトニトリルは、さらに保護基を付して、本発明の第一の態様及び第二の態様の原料として用いることができる。
【実施例0042】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。但し、実施例は本発明の例示であって、本発明は実施例に限定される意図ではない。
【0043】
実施例1
【化5】
【0044】
工程1a
【化6】
【0045】
(R)-2-ヒドロキシ-2-フェニルアセトニトリル(16)の合成
50mMのベンズアルデヒド及び100mMのKCNを含有する300mMクエン酸バッファー(pH3.5)100mLに4Uのヒドロキシニトリルリアーゼ(HNL)N65Y変異体を加え、25℃で30分間反応させた。反応混合物を酢酸エチル (2×100 mL)で抽出し、最後に合わせた有機層をブラインで洗浄し、MgSO4で乾燥させた。次に、溶液を減圧下で濃縮して、マンデロニトリル16(3 g, 94% 99.5%ee)を無色液体として得、さらに精製せずに次回に使用した。
【0046】
Rf = 0.40 (EtOAc/hexane, 1:3). 99.5% ee [HPLC condition: Chiracel OJ-H column, n-hexane/i-PrOH = 9:1, flow rate = 1.0 mL/min at 30 oC, wavelength = 200 nm, tR = 15.6 min for R isomer, tR = 20.0 min for S isomer]. 1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 7.55 - 7.51 (m, 2H), 7.46-7.42 (m, 3H), 5.54 (s, 1H), 3.12 (br s, 1H).
【0047】
工程2a
【化7】
【0048】
(R)-2-アミノ-1-フェニルエタン-1-オール(17)の合成
THF(18 mL)中のマンデロニトリル 16(1.5 g, 11.26 mmol)の撹拌溶液に、BH3 .THF complex, (22 mL, 1M in THF)を0℃で添加した。氷浴を取り除き、反応混合物を2時間還流まで加熱し、その後、室温で12時間攪拌を続けた。反応混合物をMeOH(2mL)の添加によりクエンチし、THFを減圧下で蒸発させてから酢酸エチル(20mL)で希釈した。2N HCl(10mL)を上記溶液にpH=2まで加え、沈殿した塩をETOAc(100mL)で2回洗浄した。水層を2N NaOH(16mL)でpH=10~12まで塩基性化し、CH2 Cl2(3×100mL)で抽出した。合わせた有機部分をブラインで洗浄し、無水MgSO4、蒸発させてアミノアルコール17(1.3g、85%)を白色結晶として得ることができた。
【0049】
Rf = 0.1 (MeOH/CH2Cl2 = 1:3). [α]D 25 = -40.98 (c 1.0, MeOH). 1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ 7.34-7.26 (m, 5H), 4.62 (dd, J = 7.7, 3.9 Hz, 1H), 2.97 (dd, J = 12.8, 3.9 Hz, 1H), 2.80 (dd, J = 12.8, 7.7 Hz, 1H), 2.11 (br s, 2H). 13C NMR (125 MHz, CDCl3): δ 142.5, 128.4, 127.5, 125.8, 74.3, 49.2. HRMS (ESI) for C8H11NONa [M+Na]+, calculated: 160.0733, found: 160.0727.
【0050】
HPLC分析:
エナンチオ純度:99.7%[カラム.Chiracel OJ-H, 溶媒: n-hexane/i-PrOH = 92:8, 流量 = 0.5 mL/min at 25℃, 波長 = 200 nm, tR = 27.1 min for R isomer, tR = 31.7 min for S isomer].
【0051】
サンプル調製: 25 mgのエナンチオピュアアミノアルコールをCH2Cl2(1mL)に溶解し、Et3N(44μL)を溶液に加え,次に塩化ベンゾイル(24μL)を加えた。反応混合物を室温で12時間撹拌した後、カラムクロマトグラフィーで精製した。上記の反応生成物3mgを5 mLのi-PrOHに溶解し、5μLをHPLC分析のために注入した。
【0052】
1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ 7.74 - 7.67 (m, 2H), 7.59 - 7.27 (m, 8H), 6.70 (br s, 1H), 4.93 (dd, J = 8.1, 3.4 Hz, 1H), 3.89 (ddd, J = 14.1, 6.9, 3.4 Hz, 1H), 3.51 (ddd, J = 13.5, 8.1, 4.9 Hz, 1H). 13C NMR (125 MHz, CDCl3): δ 168.7, 141.8, 134.0, 131.6, 128.6, 128.5, 127.9, 127.0, 125.8, 73.7, 47.8. HRMS (ESI) for C15H15NO2Na [M+Na]+, calculated: 264.0995, found: 264.1026.
【0053】
【化8】
【0054】
工程1b
【化9】
【0055】
tert-ブチル(4-(2-ヒドロキシエチル)フェニル)カルバミン酸(19)の合成
THF(25 mL)中の 2-(4-アミノフェニル)エタノール 18(1.2g, 8.7mmol)の磁気撹拌溶液に、水酸化ナトリウム水溶液 (6.1mL, 2M) を室温で加えた。次に、ジ-tert-ブチルジカーボネート(2.28g, 10.45mmol)を同じ温度で上記の撹拌溶液に加え、出発物質がTLCで示されるように完全に消費されるまで、12時間撹拌した。次に、反応混合物を濾過し、濾液を減圧下で濃縮した。こうして得られた残渣を酢酸エチル(100 mL)で希釈し、H2O(20mL)で抽出した。有機層をブラインで洗浄し、さらに無水MgSO4、蒸発させて、19(1.95 g、95%)を白色固体として得た。
【0056】
Rf = 0.4 (EtOAc/hexane = 1:1). 1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ 7.29 (d, J = 8.0 Hz, 2H), 7.14 (d, J = 8.5 Hz, 2H), 6.50 (br s, 1H), 3.81 (q, J = 6.2 Hz, 2H), 2.81 (t, J = 6.6 Hz, 2H), 1.51 (s, 9H). 13C NMR (125 MHz, CDCl3): δ 152.8, 136.7, 133.0, 129.5, 118.9, 80.4, 63.7, 38.4, 28.3.
【0057】
工程2b
【化10】
【0058】
tert-ブチル(4-(2-オクソエチル)フェニル)カルバミン酸(20)の合成
DMSO(15mL)中のアルコール19(1g、4.22mmol)の撹拌溶液に、IBX(1.42g、5.1mmol)を室温で添加した。反応混合物をTLCで示されるように反応が完了するまで室温で3時間攪拌した。H2O (10 mL) を反応混合物に加え、得られた沈殿物をセライトパッド焼結漏斗下で濾過し、酢酸エチル(50mL)で洗浄した。層を分離し、水性部分を酢酸エチル(70 mL)で洗浄し、合わせた有機部分をH2O(2×20)で洗浄した。最後に、有機溶液をブラインで洗浄し、無水MgSO4、蒸発させて粗固体化合物を得、これをフラッシュカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:10)でさらに精製して化合物20(690mg、70%)を白色の固体として得た。
【0059】
Rf = 0.40 (EtOAc/hexane, 1:5).1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 9.70 (t, J = 2.4 Hz, 1H), 7.36 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 7.12 (d, J = 8.5 Hz, 2H), 3.62 (d, J = 2.4 Hz, 2H), 1.52 (d, J = 5.5 Hz, 9H). 13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 199.5, 137.7, 130.1, 126.1, 119.0, 49.8, 28.3.
【0060】
工程3
【化11】
【0061】
tert-ブチル(R)-(4-(2-((2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)アミノ)エチル)カルバミン酸(21)の合成
磁気撹拌棒を備えた100mLの2首丸底フラスコに、乾燥CH2Cl2(5 mL)中、不活性雰囲気下、新鮮な乾燥4Aモレキュラーシーブ(1g/mmol)およびアルデヒド20(615 mg, 2.62 mmol) を装入した。この溶液に触媒量のピロリジン(22μL, 0.26 mmol)を加え、5 分間攪拌した。得られた溶液を0 ℃に冷却し、この溶液に乾燥CH2Cl2(3mL)中のアミノアルコール17(300mg, 2.19mmol)を添加した。この反応混合物を、NMRによって示されるように、出発物質17が完全に消費されるまで、室温で1時間撹拌した。アミノアルコール17およびアルデヒド20が対応するイミンに変換された1時間後、NaBH4(107 mg, 2.84 mmol)を上記反応混合物に添加し、続いて0℃でMeOH (4 mL)を追加した。反応混合物を室温で3時間撹拌し続け、その後、H2O(5mL)を添加した。反応混合物を濾過し、濾液をCH2Cl2(50 mL)を加えることにより希釈した。層を分離し、水層をCH2Cl2(3×60mL)で抽出し、合わせた有機層をブラインで洗浄し、MgSO4で乾燥させた。次に、溶液を減圧下で濃縮し、フラッシュカラムクロマトグラフィー(MeOH:CH2Cl2=1:10)で精製して、化合物21(504 mg、65%)を白色固体として得た。
【0062】
Rf = 0.50 (MeOH/ CH2Cl2, 1:6). [α]D 26 = -12.99 (c 0.2, MeOH). 1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ 7.37 - 7.27 (m, 7H), 7.11 (dd, J = 8.3, 1.6 Hz, 2H), 6.49 (br s, 1H), 4.73 (dd, J = 9.2, 3.5 Hz, 1H), 3.48 (d, J = 1.7 Hz, 1H), 3.11 - 2.84 (m, 3H), 2.82 - 2.70 (m, 4H), 1.52 (s, 9H). 13C NMR (125 MHz, CDCl3): δ 152.8, 142.3, 136.6, 134.1, 129.2, 128.4, 127.5, 125.8, 118.9, 80.4, 71.4, 56.8, 50.5, 35.4, 28.3. HRMS (ESI) for C21H28N2O3Na [M+Na]+, calculated: 379.1992, found: 379.1989.
【0063】
工程4
【化12】
【0064】
(R)-2-((4-アミノフェネチル)アミノ)-1-フェニルエタン-1-オル, HCl塩(22)の合成
化合物21(410 mg, 1.15 mmol)を丸底フラスコに取り、0℃で乾燥 EtOAc(4 mL)を加えた。EtOAC中の4N HCl(2 mL)を反応容積にゆっくりと加え、冷却浴を除去した。反応混合物を室温で12時間撹拌させた後、析出した塩をろ紙でろ過し、酢酸エチルで洗浄した。この塩をオーブンで60℃、6時間乾燥し、白色粉末の22を得た(295mg、90%)。
【0065】
[α]D 26 = -25.99 (c 0.2, MeOH). 1H NMR (500 MHz, DMSO-d6): δ 10.19 (br s, 2H), 9.40 (br s, 1H), 8.97 (br s, 1H), 7.47 - 7.35 (m, 9H), 5.04 (dd, J = 10.3, 2.8 Hz, 1H), 3.24-3.18 (m, 3H), 3.15 - 3.05 (m, 3H). 13C NMR (125 MHz, DMSO-d6): δ 142.6, 130.7, 129.3, 128.7, 126.8, 123.8, 69.1, 54.3, 48.7, 31.7. HRMS (ESI) for C16H20N2ONa [M+Na]+, calculated: 279.1468, found: 279.1470.
【0066】
工程5
【化13】
【0067】
R)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-N-(4-(2-((2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)アミノ)エチル)フェニル)アセトアミド(ミラベグロン23)の合成
H2O3mL中の(R)-2-((4-アミノフェネチル)アミノ)-1-フェニルエタノール塩酸塩22(250 mg, 0.85 mmol)および2-アミノチアゾール-4-イル酢酸(150 mg, 0.95 mmol)の混合物に、20℃でpH =2まで濃HCl(0.15 mL)を加え、反応混合物をこの温度で15分間攪拌させた。1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(360 mg, 1.87 mmol)水溶液(2 mL)を上記の反応混合物に加え、混合物をその後3時間攪拌を続けた。TLCによって示される反応の完了後、1N NaOH(5mL)の水溶液をpH=9~10まで反応物に加えた。析出したミラベグロン固体を濾過し、水で洗浄し、60℃で6時間乾燥させた。上記乾燥固体をさらにメタノールと水の混合液(1:2)から結晶化させ、ミラベグロン(235mg、70%)を無色固体として得た。
【0068】
Rf = 0.25 (MeOH/ CH2Cl2, 1:2). [α]D 26 = -18.99 (c 0.2, EtOH). 1H NMR (400 MHz, DMSO-d6): δ 10.03 (s, 1H), 7.53 (d, J = 8.5 Hz, 2H), 7.39 - 7.32 (m, 4H), 7.28 - 7.22 (m, 1H), 7.15 (d, J = 8.5 Hz, 2H), 6.93 (s, 2H), 6.33 (s, 1H), 5.26 (br s, 1H), 4.63 (dd, J = 7.6, 5.0 Hz, 1H), 3.48 (s, 2H), 2.82 - 2.74 (m, 2H), 2.72 - 2.64 (m, 4H). 13C NMR (100 MHz, DMSO-d6): δ 168.7, 168.3, 146.4, 145.1, 137.6, 135.60 129.2, 128.4, 127.2, 126.3, 119.5, 103.0, 71.9, 58.0, 51.3, 35.9. HRMS (ESI) for C21H24N4O2SNa [M+Na]+, calculated: 419.1512, found: 419.1512.
【0069】
参考例1-1
キシャヤスデ(Parafontaria laminata armigera)、PlamHNL遺伝子(N85Y変異型酵素)の異種宿主による発現と生産は、非特許文献4に記載の方法によって、大腸菌及び酵母Pichia pastorisで培養・精製した。
(大腸菌および酵母P. pastorisにおける組換えPlamHNLの発現ベクターの構築)
組換え株大腸菌SHuffle T7 express (ニューイングランドバイオラボ、イプスウィッチ、マサチューセッツ州、米国)を発現宿主として使用し、pET28a(+)ベクター(Novagen;ダルムシュタット、ドイツ)を発現ベクターとして使用した。DNAインサートを、PlamHNL cDNAを鋳型DNAとして用いてPCR増幅した。
P. pastoris GS115細胞においてPlamHNLの組換え遺伝子を発現させるために、遺伝子インサートを増幅し、pPICZαAに挿入しpPICZαA-PlamHNLを作成した。次に、N末端の6x-Hisタグのコード配列とTEVプロテアーゼ認識配列を導入し、pPICZαA-TEV-His PlamHNLを構築した。ベクターpPICZαA-TEV-His PlamHNLをSacIによる消化により線形化し、Pichia発現キット(サーモフィッシャーサイエンティフィック)を使用してP. pastoris GS115細胞にエレクトロポレーションした。
【0070】
参考例1-2
(大腸菌での酵素の生産)
単一のコロニーでPlamHNL遺伝子を含むpET28a-PlamHNLプラスミドで形質転換した大腸菌 SHuffle T7 expressの単一コロニーをカナマイシン(80μg/mL)を含むLB培地5mLに接種した。30℃で300rpmの振とう速度で一晩培養した。この種培養(5mL)を2Lのフラスコに、カナマイシン(80μg/ mL)を含むLB培地(500mL)で、30℃で150rpmの振とう速度で振とう培養した。12時間後、イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)を0.5mMの濃度で添加し、細胞を18℃で24時間培養した。大腸菌細胞を遠心分離し(8500×g、15分間)、イミダゾール(25mM)及び塩化ナトリウム(0.5M)を含むリン酸カリウム緩衝液(KPB;20mM、pH7.0)に懸濁した。細胞を超音波処理により破砕し、溶解液を遠心分離(15,000×g、4 ℃、15分)した。上澄み液はNi Sepharose 6 Fast Flow(GE Healthcare,Little Chalfont.英国)カラム(内径25mm、カラム容量20mL)に吸着させ、50 mMイミダゾール液で洗浄後、50~300mMイミダゾール及び塩化ナトリウム(0.5M)を含むリン酸カリウム緩衝液(KPB;20mM、pH7.0)で、0.5 mL/minのリニアグラジエントで溶出した。酵素活性は、ベンズアルデヒドとシアン化カリウムから文献既知の方法で測定し、活性画分をプールし、透析後、濃縮した。1Lの大腸菌形質転換株培養物からは、2,190U/mgの活性を示す精製PlamHNLが1.75mg生産できた。
【0071】
(酵母P. pastorisでの酵素の生産)
P. pastoris形質転換体を、ゼオシン(100μg/mL)を含む5mLのYPD培地(1%酵母エキス、2%ペプトン、および2%デキストロース)に接種した。300rpmで振とうしながら30°Cで一晩前培養した後、接種材料を緩衝最小グリセロール培地(BMGH;100-mMリン酸カリウム緩衝液(pH 6.0)、アミノ酸を含まない1.34% yeast nitrogen base、4×10-5 %ビオチン、0.004%ヒスチジン、および1.0%グリセロール)に移し、200rpmで振とうしながら30℃で培養した。48時間の培養後、細胞を遠心分離によって回収し、500 mL発現培地に再懸濁し、緩衝した最小メタノール培地(BMMH;BMGHと同じだが、1%(v/v)グリセロールの代わりに0.5%(v/v)メタノールを添加し)、および24時間ごとに誘導物質として0.5%メタノールを添加した。
【0072】
細胞外HNL活性が培養6日後に最大となった時に、上清を3000×gで10分間遠心分離して回収し、中空糸限外フィルター(Microza;旭化成)で25倍に濃縮した。上清に硫酸アンモニウム(30% w/v)を添加し、平衡化バッファー(20 mM KPB(pH 7.0)および硫酸アンモニウム(30% w/v))で予め平衡化したトヨパールブチル-650-Mカラム(東ソー、内径25 mm、カラム容量30 mL)に直接吸着させた。吸収した酵素を10倍量の平衡化バッファーで洗浄し、同じバッファーで30%から0%の硫酸アンモニウムの勾配で溶出し、活性画分を20 mM KPB(pH 7.0)に対して透析した。全ての精製工程は4℃で行った。1Lの酵母P. pastoris形質転換株培養物からは、2,100 U/mgの活性を示す精製PlamHNLが0.16mg生産できた。
【0073】
実施例2-1
(大腸菌で製造したPlamHNL-N85Yを用いるバッチ法による (R)-マンデロニトリル合成)
以下の組成の反応液600 mLをメジューム瓶に作製し、撹拌子で反応液を混合しながら室温で4時間反応を行った。HNLの合成活性は、ベンズアルデヒドからの(R)-マンデロニトリルの生成量を測定し、1分間に1μmolの(R)-マンデロニトリルの生成を触媒する酵素量を1Uと定義した。
【0074】
1M クエン酸緩衝液 (pH 2.5)240 mL (最終濃度0.4 M)
1M KCN 60 mL(最終濃度100 mM)
PlamHNL-N85Y 10,200 U
1.25 M ベンズアルデヒドDMSO溶液 24 mL(最終濃度50 mM (4.23 g))
蒸留水 246 mL(合計600 mL)
【0075】
4時間後、反応液を酢酸エチルで抽出後、溶媒を留去し、98% eeの(R)-マンデロニトリルを95%の収率で得た。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、ミラベクロンの製造に関連する分野に有用である。