(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138897
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】樹脂組成物、ワニス、フィルム、積層体および金属張積層体
(51)【国際特許分類】
C08L 47/00 20060101AFI20241002BHJP
C08K 9/06 20060101ALI20241002BHJP
C08K 5/14 20060101ALI20241002BHJP
C08F 236/20 20060101ALI20241002BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20241002BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20241002BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20241002BHJP
C08K 3/014 20180101ALI20241002BHJP
【FI】
C08L47/00
C08K9/06
C08K5/14
C08F236/20
B32B15/08 J
B32B15/08 U
H05K1/03 610J
H05K1/03 610R
H05K1/03 630H
C08K3/013
C08K3/014
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049614
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】平原 賢志
(72)【発明者】
【氏名】朝比奈 浩太郎
(72)【発明者】
【氏名】竹内 文人
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4F100AA00A
4F100AA08A
4F100AA14A
4F100AA19A
4F100AB33B
4F100AC03A
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4F100AC10A
4F100AG00A
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4F100EJ08A
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4F100GB43
4F100JA02A
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4J100FA19
4J100GC17
4J100JA01
4J100JA43
(57)【要約】
【課題】低誘電特性、低熱膨張性および熱伝導性の性能バランスの向上したフィルム、積層体および金属張積層体を得ることのできる樹脂組成物およびワニス、並びに、低誘電特性、低熱膨張性および熱伝導性の性能バランスの向上したフィルム、積層体および金属張積層体を提供する。
【解決手段】架橋性基を有する熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)と、ラジカル重合開始剤(B)と、酸化防止剤(C)と、無機充填材(D)と、を含む樹脂組成物であって、無機充填材(D)が、平均アスペクト比が2以上170以下である板状の無機充填材(D1)を含み、無機充填材(D1)の含有量が、熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)100質量部に対して、30質量部以上300質量部以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋性基を有する熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)と、ラジカル重合開始剤(B)と、酸化防止剤(C)と、無機充填材(D)と、を含む樹脂組成物であって、
前記無機充填材(D)が、平均アスペクト比が2以上170以下である板状の無機充填材(D1)を含み、
前記無機充填材(D1)の含有量が、前記熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)100質量部に対して、30質量部以上300質量部以下である、樹脂組成物。
【請求項2】
前記無機充填材(D1)の23℃における体積抵抗値が、1.0×108Ω・cm以上である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記無機充填材(D1)のレーザー回折式粒度分布測定法により測定される体積基準の平均粒径D50が0.1μm以上30.0μm以下である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記無機充填材(D1)が窒化ホウ素、タルク、マイカ、クレー、ガラスフレーク、炭酸カルシウム、アルミナ、ワラストナイト、セリサイト、ハイドロタルサイト、モンモリロナイオ、および絶縁性黒鉛からなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項1~3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記無機充填材(D1)が窒化ホウ素を含む、請求項1~3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記無機充填材(D1)がシランカップリング剤で表面処理されている、請求項1~5のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記シランカップリング剤が、ビニル基を有するシランカップリング剤を含む、請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)、前記ラジカル重合開始剤(B)、前記酸化防止剤(C)および前記無機充填材(D)の含有量の合計が、前記樹脂組成物の固形分の総量を100質量%としたときに、50質量%以上100質量%以下である、請求項1~7のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)は、下記式(I)で表される1種以上のオレフィン由来の繰り返し単位(a)と、下記式(III)で表される1種以上の環状非共役ジエン由来の繰り返し単位(b)と、下記式(V)で表される1種以上の環状オレフィン由来の繰り返し単位(c)と、を含む、請求項1~8のいずれかに記載の樹脂組成物。
【化1】
前記式(I)において、R
300は水素原子又は炭素原子数1~29の直鎖状又は分岐状の炭化水素基を示す。
【化2】
前記式(III)中、uは0又は1であり、vは0又は正の整数であり、wは0又は1であり、R
61~R
76並びにR
a1およびR
b1は互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基又は炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基であり、R
104は水素原子又は炭素原子数1~10のアルキル基であり、tは0~10の正の整数であり、R
75およびR
76は、互いに結合して単環又は多環を形成していてもよい。
【化3】
上記式(V)中、uは0又は1であり、vは0又は正の整数であり、wは0又は1であり、R
61~R
78並びにR
a1およびR
b1は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基又は炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基であり、R
75~R
78は互いに結合して単環又は多環を形成していてもよい。
【請求項10】
前記熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)中の繰り返し単位の合計モル数を100モル%とした場合に、前記オレフィン由来の繰り返し単位(a)の含有量が10モル%以上80モル%以下であり、前記環状非共役ジエン由来の繰り返し単位(b)の含有量が1モル%以上40モル%以下であり、前記環状オレフィン由来の繰り返し単位(c)の含有量が4モル%以上60モル%以下である、請求項1~9のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1~10の樹脂組成物と、溶媒と、を含むワニス。
【請求項12】
請求項1~10に記載の樹脂組成物を硬化してなる硬化物を含む、フィルム。
【請求項13】
請求項12のフィルムを含む積層体。
【請求項14】
請求項13の積層体の少なくとも片面に金属箔を含む金属張積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、ワニス、フィルム、積層体および金属張積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波用プリント配線基板等の中間基材として用いられる金属張積層体は、樹脂とガラスクロスの複合体板表面に、金属箔を貼り合わせた積層構造で構成されている。金属張積層体に用いられる樹脂には、基本特性として、絶縁性や低熱膨張性が求められる。このような金属張積層体の技術として、特許文献1に記載のものが挙げられる。
【0003】
特許文献1には、誘電特性が低く、熱伝導率が高く、かつ、ピール強度に優れた硬化物を得ることができる樹脂組成物を提供することを目的として、ポリフェニレンエーテル化合物と、ポリフェニレンエーテル化合物と反応可能な硬化剤と、窒化ホウ素フィラーを含む無機充填剤とを含有し、無機充填剤の粒度分布において、レーザー回折式粒度分布測定法で測定される粒度分布のピークが、粒径0.8~30.0μm範囲に少なくとも二つ存在し、そのピークが、粒径0.8~5.0μm範囲に少なくとも一つと粒径5.0~30.0μm範囲に少なくとも一つ存在する、樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、金属張積層体に用いられる樹脂は、低誘電特性、低熱膨張性および熱伝導性の性能バランスについて改善の余地があることが明らかとなった。
本発明は、上記事情を鑑み、低誘電特性、低熱膨張性および熱伝導性の性能バランスの向上したフィルム、積層体および金属張積層体を得ることのできる樹脂組成物およびワニス、並びに、低誘電特性、低熱膨張性および熱伝導性の性能バランスの向上したフィルム、積層体および金属張積層体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、樹脂組成物において、架橋性基を有する熱硬化性環状オレフィン系共重合体を用いるとともに、平均アスペクト比が所定の範囲内である無機充填材を用い、無機充填材の含有量を所定の範囲内とすることにより、得られるフィルム、積層体および金属張積層体の、低誘電特性、低熱膨張性および熱伝導性の性能バランスを向上できることを見出し、本発明を完成させた。
本発明によれば、以下に示す樹脂組成物、ワニス、フィルム、積層体および金属張積層体が提供される。
【0007】
[1]
架橋性基を有する熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)と、ラジカル重合開始剤(B)と、酸化防止剤(C)と、無機充填材(D)と、を含む樹脂組成物であって、
前記無機充填材(D)が、平均アスペクト比が2以上170以下である板状の無機充填材(D1)を含み、
前記無機充填材(D1)の含有量が、前記熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)100質量部に対して、30質量部以上300質量部以下である、樹脂組成物。
[2]
前記無機充填材(D1)の23℃における体積抵抗値が、1.0×10
8Ω・cm以上である、[1]に記載の樹脂組成物。
[3]
前記無機充填材(D1)のレーザー回折式粒度分布測定法により測定される体積基準の平均粒径D
50が0.1μm以上30.0μm以下である、[1]または[2]に記載の樹脂組成物。
[4]
前記無機充填材(D1)が窒化ホウ素、タルク、マイカ、クレー、ガラスフレーク、炭酸カルシウム、アルミナ、ワラストナイト、セリサイト、ハイドロタルサイト、モンモリロナイオ、および絶縁性黒鉛からなる群から選択される少なくとも一種を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5]
前記無機充填材(D1)が窒化ホウ素を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[6]
前記無機充填材(D1)がシランカップリング剤で表面処理されている、[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[7]
前記シランカップリング剤が、ビニル基を有するシランカップリング剤を含む、[6]に記載の樹脂組成物。
[8]
前記熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)、前記ラジカル重合開始剤(B)、前記酸化防止剤(C)および前記無機充填材(D)の含有量の合計が、前記樹脂組成物の固形分の総量を100質量%としたときに、50質量%以上100質量%以下である、[1]~[7]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[9]
前記熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)は、下記式(I)で表される1種以上のオレフィン由来の繰り返し単位(a)と、下記式(III)で表される1種以上の環状非共役ジエン由来の繰り返し単位(b)と、下記式(V)で表される1種以上の環状オレフィン由来の繰り返し単位(c)と、を含む、[1]~[8]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【化1】
前記式(I)において、R
300は水素原子又は炭素原子数1~29の直鎖状又は分岐状の炭化水素基を示す。
【化2】
前記式(III)中、uは0又は1であり、vは0又は正の整数であり、wは0又は1であり、R
61~R
76並びにR
a1およびR
b1は互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基又は炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基であり、R
104は水素原子又は炭素原子数1~10のアルキル基であり、tは0~10の正の整数であり、R
75およびR
76は、互いに結合して単環又は多環を形成していてもよい。
【化3】
上記式(V)中、uは0又は1であり、vは0又は正の整数であり、wは0又は1であり、R
61~R
78並びにR
a1およびR
b1は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基又は炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基であり、R
75~R
78は互いに結合して単環又は多環を形成していてもよい。
[10]
前記熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)中の繰り返し単位の合計モル数を100モル%とした場合に、前記オレフィン由来の繰り返し単位(a)の含有量が10モル%以上80モル%以下であり、前記環状非共役ジエン由来の繰り返し単位(b)の含有量が1モル%以上40モル%以下であり、前記環状オレフィン由来の繰り返し単位(c)の含有量が4モル%以上60モル%以下である、[1]~[9]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[11]
[1]~[10]の樹脂組成物と、溶媒と、を含むワニス。
[12]
[1]~[10]に記載の樹脂組成物を硬化してなる硬化物を含む、フィルム。
[13]
[12]のフィルムを含む積層体。
[14]
[13]の積層体の少なくとも片面に金属箔を含む金属張積層体。
【発明の効果】
【0008】
本発明の樹脂組成物によれば、低誘電特性、低熱膨張性および熱伝導性の性能バランスが向上したフィルム、積層体および金属張積層体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施形態に基づいて説明する。なお、本実施形態では、数値範囲を示す「A~B」は特に断りがなければ、A以上B以下を表す。また、数値範囲が段階的に記載されている場合、各数値範囲の上限および下限は任意に組み合わせることができる。さらに、「Aおよび/又はB」の記載は、Aの場合、Bの場合、および、AとBの両方の場合のいずれをも含む概念である。
【0010】
[樹脂組成物]
本実施形態の樹脂組成物は、架橋性基を有する熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)と、ラジカル重合開始剤(B)と、酸化防止剤(C)と、無機充填材(D)と、を含み、無機充填材(D)が、平均アスペクト比が2以上170以下である板状の無機充填材(D1)を含み、無機充填材(D1)の含有量が、熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)100質量部に対して、30質量部以上300質量部以下である。
【0011】
金属張積層体に用いられる樹脂には、基本特性として絶縁性、低熱膨張性が必要であることに加え、様々な使用用途に応じて、さらに低誘電性、熱伝導性、トラッキング性、難燃性等が必要となる。例えば、樹脂は低熱伝導性であるが、添加剤を配合することにより高熱伝導化することができ、パワーアンプ用ボードにも適用できる可能性がある。この場合、低熱膨張性および低誘電特性において、更に高度な性能バランスが求められる。
【0012】
本実施形態の樹脂組成物によれば、低誘電特性、低熱膨張性および熱伝導性の性能バランスが向上したフィルム、積層体および金属張積層体を得ることができる。
この理由は下記のように考えられる。
無機充填材(D1)の平均アスペクト比が所定の値以上であることにより、無機充填材(D1)の板状面と熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)との接触面積が増加し、熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)の熱膨張を抑制することができると考えられる。この理由は、無機充填材(D1)の板状面は、端面と比較して極性基が少ないため、極性の低い熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)と親和性があるためと推測される。
また、無機充填材(D1)の平均アスペクト比が所定の範囲であることにより、ワニス中の無機充填剤の分散性および塗工性を両立できるため、熱伝導性が向上すると考えられる。
また、無機充填材(D1)の板状面は熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)に対して化学的に不活性であるため、熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)の架橋阻害を起こしにくい。したがって、得られる熱硬化フィルムが均質となり、熱伝導性が向上すると考えられる。
また、板状の無機充填材(D1)の含有量を所定の値以上とすることにより、フィルムとしたときに、無機充填材(D1)をフィルムの面内方向に配向させることができ、結果として、膜厚方向の低誘電特性および面内方向の低熱膨張性を両立することができると考えられる。
また、板状の無機充填材(D1)の含有量を所定の値以上とすることにより、樹脂組成物内全体に無機充填材(D1)が充填され、無機充填材同士の間で熱が通るパスが形成されることにより、熱伝導性が向上すると考えられる。
【0013】
<熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)>
本実施形態の樹脂組成物は、架橋性基を有する熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)(以下、単に「共重合体」とも言う。)を含む。
熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)は、熱硬化性を有し、かつ環状オレフィン由来の繰り返し単位を含む共重合体であれば特に制限なく使用することができる。
また、熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)は、架橋構造を形成することにより得られる硬化物の耐熱性が向上する観点から、架橋性基を有する。架橋性基としては、例えばビニル基;ビニリデン基;ビニレン基;アルキル基、フェニル基又はアルキルフェニル基で置換されたビニル基;アルキル基、フェニル基又はアルキルフェニル基で置換されたビニリデン基;アルキル基、フェニル基又はアルキルフェニル基で置換されたビニレン基;マレイミド基;チオール基;チエニル基;シリル基;エポキシ基;オキサゾリン基;(メタ)アクリル基;カルボキシル基等の架橋性官能基が挙げられ、好ましくはビニル基である。熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)が架橋性基を有することにより、後述するシランカップリング剤で表面処理された無機充填剤(D1)との間に架橋構造を形成することができ、耐熱性をより向上させることができる。
以下、熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)について詳細に説明するが、本実施形態で用いられる熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)は以下の態様に限定されない。
【0014】
熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)は、得られる硬化物の誘電特性および耐熱性の性能バランスをより向上させる観点から、(a)下記式(I)で表される1種以上のオレフィン由来の繰り返し単位と、(b)下記式(III)で表される1種以上の環状非共役ジエン由来の繰り返し単位と、(c)下記式(V)で表される1種以上の環状オレフィン由来の繰り返し単位と、を含むことが好ましい。
【0015】
【0016】
上記式(I)において、R300は水素原子又は炭素原子数1~29の直鎖状又は分岐状の炭化水素基を示す。
【0017】
【0018】
上記式(III)中、uは0又は1であり、vは0又は正の整数、好ましくは0以上2以下の整数、より好ましくは0又は1であり、wは0又は1であり、R61~R76並びにRa1およびRb1は互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基又は炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基であり、R104は水素原子又は炭素原子数1~10のアルキル基であり、tは0~10の正の整数であり、R75およびR76は、互いに結合して単環又は多環を形成していてもよい。
【0019】
【0020】
上記式(V)中、uは0又は1であり、vは0又は正の整数、好ましくは0以上2以下の整数、より好ましくは0又は1であり、wは0又は1であり、R61~R78並びにRa1およびRb1は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基又は炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基であり、R75~R78は互いに結合して単環又は多環を形成していてもよい。
【0021】
熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)において、熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)中の繰り返し単位の合計モル数を100モル%とした場合に、それぞれの繰り返し単位の各含有量は以下のようにすることができる。
オレフィン由来の繰り返し単位(a)の含有量が好ましくは10モル%以上、より好ましくは15モル%以上、さらに好ましくは20モル%以上、さらに好ましくは30モル%以上、さらに好ましくは35モル%以上、さらに好ましくは40モル%以上であり、そして好ましくは80モル%以下、より好ましくは75モル%以下、さらに好ましくは72モル%以下、さらに好ましくは68モル%以下、さらに好ましくは65モル%以下、さらに好ましくは60モル%以下である。
また、環状非共役ジエン由来の繰り返し単位(b)の含有量が、好ましくは1モル%以上、より好ましくは3モル%以上、さらに好ましくは5モル%以上、さらに好ましくは8モル%以上であり、そして好ましくは40モル%以下、より好ましくは37モル%以下、さらに好ましくは33モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下、さらに好ましくは20モル%以下、さらに好ましくは15モル%以下である。
さらに、環状オレフィン由来の繰り返し単位(c)の含有量が、好ましくは4モル%以上、より好ましくは6モル%以上、さらに好ましくは8モル%以上、さらに好ましくは10モル%以上、さらに好ましくは20モル%以上、さらに好ましくは25モル%以上、さらに好ましくは30モル%以上であり、そして好ましくは60モル%以下、より好ましくは50モル%以下、さらに好ましくは40モル%以下である。
熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)中の繰り返し単位の各含有量が上記範囲内であると、フィルムとしたときに、誘電特性および耐熱性の性能バランスをより向上させることができる。さらに、フィルムの機械特性、透明性およびガスバリア性の性能バランスをより向上させることができる。言い換えればこれらの物性のバランスに優れたフィルムを得ることができる。
【0022】
熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)の共重合原料の一つであるオレフィンモノマーは、付加共重合して上記式(I)で表される骨格を与えるモノマーであり、下記式(Ia)で表されるオレフィンである。
【0023】
【0024】
上記式(Ia)中、R300は水素原子又は炭素原子数1~29の直鎖状又は分岐状の炭化水素基を示す。式(Ia)で表されるオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等が挙げられる。フィルムとしたときに、耐熱性、機械的特性、誘電特性、透明性およびガスバリア性の性能バランスをより向上させる観点から、これらの中でも、エチレンおよびプロピレンからなる群から選択される少なくとも一種が好ましく、エチレンがより好ましい。上記式(Ia)で表されるオレフィンモノマーは二種類以上を用いてもよい。また、オレフィンとして、少なくとも1種のバイオマス由来モノマー(バイオマス由来エチレン、バイオマス由来プロピレンなど)を含んでもよい。
【0025】
熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)の共重合原料の一つである環状非共役ジエン単量体は付加共重合して上記式(III)で表される繰り返し単位を形成するものである。例えば、上記式(III)に対応する下記式(IIIa)で表される環状非共役ジエンが用いられる。上記環状非共役ジエンとして、バイオマス由来モノマー(環状非共役ジエン)に由来する構成単位を含んでもよい。
【0026】
【0027】
上記式(IIIa)中、uは0又は1であり、vは0又は正の整数、好ましくは0以上2以下の整数、より好ましくは0又は1であり、wは0又は1であり、R61~R76並びにRa1およびRb1は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基又は炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基であり、R104は水素原子又は炭素原子数1~10のアルキル基であり、tは0~10の正の整数であり、R75およびR76は、互いに結合して単環又は多環を形成していてもよい。
【0028】
上記式(IIIa)で表される環状非共役ジエンとしては、特に限定されるものではないが、例えば、下記化学式で表される環状非共役ジエンを挙げることができる。これらの中でも、上記式(IIIa)で表される環状非共役ジエンとしては、5-ビニル-2-ノルボルネンおよび8-ビニル-9-メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンからなる群から選択される少なくとも一種が好ましく、5-ビニル-2-ノルボルネンがより好ましい。
【0029】
【0030】
【0031】
上記式(IIIa)で表される環状非共役ジエンは、例えば、下記式(IIIb)で表すこともできる。
【0032】
【0033】
上記式(IIIb)中のnは0~10の整数であり、R1は水素原子又は炭素原子数1~10のアルキル基であり、R2は水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基である。
【0034】
熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)は、上記式(III)で表される環状非共役ジエン由来の繰り返し単位を含むことにより、側鎖部分、すなわち共重合の主鎖以外の部分に二重結合を有することが特徴である。
【0035】
熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)の共重合原料の一つである環状オレフィンモノマーは付加共重合して上記式(V)で表される繰り返し単位を形成するものである。例えば、上記式(V)に対応する下記式(Va)で表される環状オレフィンモノマーが用いられる。
【0036】
【0037】
上記式(Va)中、uは0又は1であり、vは0又は正の整数、好ましくは0以上2以下の整数、より好ましくは0又は1であり、wは0又は1であり、R61~R78並びにRa1およびRb1は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基、又は炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基であり、R75~R78は、互いに結合して単環又は多環を形成していてもよい。
【0038】
上記式(Va)で表される環状オレフィンの具体例については国際公開第2006/118261号に記載の化合物を用いることができる。
上記式(Va)で表される環状オレフィンとしては、ビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテン(「ノルボルネン」ともいう)およびテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン(「テトラシクロドデセン」ともいう)からなる群から選択される少なくとも一種が好ましく、ビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテンがより好ましい。これらの環状オレフィンは剛直な環構造を有するため共重合体および硬化物の弾性率が保持され易く、また異種二重結合構造を含まないため架橋の制御をし易くなる利点がある。上記式(Va)で表される環状オレフィンとして、バイオマス由来モノマー(環状オレフィン)に由来する構成単位を含んでもよい。
【0039】
共重合成分として、上記式(Ia)で表されるオレフィンモノマーおよび前記式(Va)で表される環状オレフィンモノマーを用いることにより、熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)の溶媒への溶解性がより向上するため成形性が良好となり、製品の歩留まりが向上する。
【0040】
熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)は、(a)上記式(I)で表される1種以上のオレフィン由来の繰り返し単位、(b)上記式(III)で表される環状非共役ジエン由来の繰り返し単位および(c)上記式(V)で表される1種以上の環状オレフィン由来の繰り返し単位に加えて、上記式(III)で表される環状非共役ジエンおよび前記式(V)で表される環状オレフィン以外の環状オレフィン由来の繰り返し単位、および鎖状ポリエン由来の繰り返し単位からなる群から選択される少なくとも一種の繰り返し単位をさらに含んでもよい。
この場合、熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)の共重合原料として、式(Ia)で表されるオレフィンモノマー、式(IIIa)で表される環状非共役ジエンモノマー、式(Va)で表される環状オレフィンモノマーに加えて、式(IIIa)で表される環状非共役ジエンモノマーおよび式(Va)で表される環状オレフィンモノマー以外の環状オレフィンモノマー、および/又は鎖状ポリエンモノマーを用いることができる。
このような環状オレフィンモノマーおよび鎖状ポリエンモノマーとしては、例えば、下記式(VIa)で表される環状オレフィン、下記式(VIIa)で表される環状オレフィン、下記式(VIIIa)で表される鎖状ポリエン等が挙げられる。これらの環状オレフィンや鎖状ポリエンは異なる二種以上を用いてもよい。
【0041】
【0042】
上記式(VIa)中、xおよびdは0又は1以上の整数、好ましくは0以上2以下の整数、より好ましくは0又は1であり、yおよびzは0、1又は2であり、R81~R99は互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基もしくは炭素原子数3~15のシクロアルキル基である脂肪族炭化水素基、炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基又はアルコキシ基であり、R89およびR90が結合している炭素原子と、R93が結合している炭素原子又はR91が結合している炭素原子とは、直接あるいは炭素原子数1~3のアルキレン基を介して結合していてもよく、またy=z=0のとき、R95とR92又はR95とR99とは互いに結合して単環又は多環の芳香族環を形成していてもよい。
【0043】
【0044】
上記式(VIIa)中、R100およびR101は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子又は炭素原子数1~5の炭化水素基を示し、fは1≦f≦18である。
【0045】
【0046】
上記式(VIIIa)中、R201からR206は互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、又は炭素原子数1~20の炭化水素基であり、Pは炭素原子数1~20の直鎖又は分岐状の炭化水素基で、二重結合および/又は三重結合を含んでいてもよい。
【0047】
上記式(VIa)および上記式(VIIa)で表される環状オレフィンの具体例については国際公開第2006/118261号の段落0037~0063に記載の化合物を用いることができる。
【0048】
上記式(VIIIa)で表される鎖状ポリエンとしては、例えば、1,4-ヘキサジエン、3-メチル-1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、4,5-ジメチル-1,4-ヘキサジエン、7-メチル-1,6-オクタジエン、DMDT、1,3-ブタジエン,1,5-ヘキサジエン等が挙げられる。また1,3-ブタジエン、1,5-ヘキサジエン等のポリエンから環化した環化性のポリエンを用いてもよい。
【0049】
熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)が、上記式(VIIIa)で表される鎖状ポリエン由来の繰り返し単位、あるいは上記式(III)で表される環状非共役ジエンおよび上記式(V)で表される環状オレフィン以外の環状オレフィン〔例えば、上記式(VIa)、上記式(VIIa)〕に由来する繰り返し単位を含む場合は、繰り返し単位の含有量は、上記式(I)で表される1種以上のオレフィン由来の繰り返し単位、上記式(III)で表される1種以上の環状非共役ジエン由来の繰り返し単位、上記式(V)で表される1種以上の環状オレフィン由来の繰り返し単位の合計モル数に対して、例えば0.1モル%以上100モル%以下、好ましくは0.1モル%以上50モル%以下である。
【0050】
共重合成分として、前述した上記式(I)で表されるオレフィンモノマー、式(VIa)又は(VIIa)で表される環状オレフィンおよび式(VIIIa)で表される鎖状ポリエンを用いることにより、本実施形態に係る効果が得られるとともに、熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)の溶媒への溶解性がより向上するため成形性が良好となり、製品の歩留まりが向上する。これらのうちでも式(VIa)又は(VIIa)で表される環状オレフィンが好ましい。これらの環状オレフィンは剛直な環構造を有するため熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)およびフィルムの弾性率が保持され易く、また異種二重結合構造を含まないため架橋の制御をし易くなる利点がある。
【0051】
熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)のゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定されるポリスチレン換算による数平均分子量(Mn)は、誘電特性、耐熱性および機械的特性の性能バランスをより向上させる観点から、好ましくは1,000以上、より好ましくは3,000以上、さらに好ましくは5,000以上、さらに好ましくは6,000以上であり、また、プリント配線基板作製時の繊維基材への含浸性や配線埋め込み性等の成形性をより向上させる観点から、好ましくは100,000以下、より好ましくは80,000以下、さらに好ましくは60,000以下、さらに好ましくは40,000以下、さらに好ましくは30,000以下、さらに好ましくは10,000以下である。
熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)の数平均分子量(Mn)は、重合触媒、助触媒、H2添加量、重合温度等の重合条件により制御することが可能である。
【0052】
熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)は目的とする用途に応じて、モノマーの仕込み比により、そのコモノマー含有量、およびガラス転移温度(Tg)をコントロールできる。熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)のTgは、例えば300℃以下、好ましくは280℃以下、より好ましくは260℃以下、さらに好ましくは240℃以下、さらに好ましくは220℃以下、さらに好ましくは200℃以下、さらに好ましくは170℃以下、さらに好ましくは150℃以下である。Tgが上記上限値以下であると、熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)の溶融成形性およびワニス化するときの溶媒への溶解性が向上する。
【0053】
熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)の、135℃中デカリン中で測定した極限粘度[η]は、例えば0.10dl/g以上、好ましくは0.15dl/g以上であり、そして例えば15dl/g以下、好ましくは5dl/g以下、より好ましくは3dl/g以下の範囲である。極限粘度[η]が上記上限値以下であると、成形性をより向上させることができる。また、極限粘度[η]が上記下限値以上であると、硬化物の耐熱性や機械的特性をより向上させることができる。
熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)の極限粘度[η]は、重合触媒、助触媒、H2添加量、重合温度等の重合条件により制御することが可能である。
【0054】
本実施形態の樹脂組成物中の熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)の含有量は、樹脂組成物全体を100質量%としたとき、硬化物の耐熱性、機械的特性および低誘電特性の性能バランスをより向上させる観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは12質量%以上、さらに好ましくは14質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは25質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上であり、そして好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは55質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下である。
【0055】
<熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)の製造方法>
本実施形態に係る熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)は、例えば、国際公開第2012/046443号の段落0075~0219に記載の環状オレフィン共重合体の製造方法にしたがって製造することができる。ここでは詳細は省略する。
【0056】
<ラジカル重合開始剤(B)>
本実施形態の樹脂組成物は、ラジカル重合開始剤(B)を含む。
ラジカル重合開始剤(B)による架橋は、ポリオレフィン等で適用されている通常のラジカル重合開始剤による架橋方法をそのまま適用できる。すなわち熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)にジクミルパーオキシドのようなラジカル重合開始剤を配合し、加熱、架橋する。
【0057】
ラジカル重合開始剤(B)としては、公知の熱ラジカル重合開始剤、光ラジカル重合開始剤およびこれらを併用することができる。これらのラジカル重合開始剤のうち、熱ラジカル重合開始剤を使用する場合は、保存安定性の観点から10時間半減期温度が例えば80℃以上、好ましくは120℃以上のものである。このような熱ラジカル重合開始剤として、例えば、ジクミルパーオキシド、t-ブチルクミルパーオキシド、2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)2,5-ジメチルヘキサン、2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)2,5-ジメチルヘキシン-3、ジ-t-ブチルパーオキシド、イソプロピルクミル-t-ブチルパーオキシド、ビス(α-t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン等のジアルキルパーオキシド類;1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロドデカン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)バレレート、エチル-3,3-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブチレート、3,3,6,6,9,9-ヘキサメチル-1,2,4,5-テトラオキシシクロノナン等のパーオキシケタール類;ビス(t-ブチルパーオキシ)イソフタレート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシアセテート等のパーオキシエステル類;t-ブチルハイドロパーオキシド、t-ヘキシルハイドロパーオキシド、クミンハイドロパーオキシド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキシド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキシド、p-メンタンハイドロパーオキシド等のハイドロパーオキシド類;2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタン等のビベンジル化合物類;3,3,5,7,7-ペンタメチル-1,2,4-トリオキセパン等が挙げられる。
【0058】
ラジカル重合開始剤(B)のうち、光ラジカル重合開始剤としては、例えば、ベンゾインアルキルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、ベンゾフェノン、メチルベンゾイルフォーメート、イソプロピルチオキサントンおよびこれらの2種以上の混合物等が挙げられる。また、これらの光ラジカル重合開始剤とともに増感剤を使用することもできる。増感剤としては、例えば、アントラキノン、1,2-ナフトキノン、1,4-ナフトキノン、ベンズアントロン、p,p'-テトラメチルジアミノベンゾフェノン、クロラニル等のカルボニル化合物;ニトロベンゼン、p-ジニトロベンゼン、2-ニトロフルオレン等のニトロ化合物;アントラセン、クリセン等の芳香族炭化水素;ジフェニルジスルフィド等の硫黄化合物;ニトロアニリン、2-クロロ-4-ニトロアニリン、5-ニトロ-2-アミノトルエン、テトラシアノエチレン等の窒素化合物等を挙げることができる。
【0059】
本実施形態の樹脂組成物中のラジカル重合開始剤(B)の含有量は、熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)100質量部に対して、得られる硬化物の低誘電特性および耐熱性の性能バランスをより向上させる観点から、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1.0質量部以上、さらに好ましくは1.5質量部以上、さらに好ましくは1.8質量部以上、さらに好ましくは2.0質量部以上、さらに好ましくは3.0質量部以上、さらに好ましくは4.0質量部以上であり、そして好ましくは8.0質量部以下、より好ましくは7.5質量部以下、さらに好ましくは7.0質量部以下、さらに好ましくは6.5質量部以下、さらに好ましくは6.0質量部以下、さらに好ましくは5.0質量部以下、さらに好ましくは4.5質量部以下である。
【0060】
本実施形態に係る樹脂組成物は、架橋助剤をさらに含むことができる。架橋助剤の制限はないが、例えば、p-キノンジオキシム、p,p'-ジベンゾイルキノンジオキシム等のオキシム類;エチレンジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、アクリル酸/酸化亜鉛混合物、アリルメタクリレート等のアクリレートもしくはメタクリレート類;ジビニルベンゼン、ビニルトルエン、ビニルピリジン等のビニルモノマー類;ヘキサメチレンジアリルナジイミド、ジアリルイタコネート、ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等のアリル化合物類;N,N'-m-フェニレンビスマレイミド、N,N'-(4,4'-メチレンジフェニレン)ジマレイミド等のマレイミド化合物類等が挙げられる。これらの架橋助剤は単独で用いてもよいし、組み合わせて使用することもできる。
【0061】
<酸化防止剤(C)>
本実施形態の樹脂組成物は、酸化防止剤(C)を含む。酸化防止剤(C)としては制限されず、公知の酸化防止剤を用いることができ、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤等を用いることができる。
【0062】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2-t-ブチル-6-(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、2,4-ジ-t-アミル-6-(1-(3,5-ジ-t-アミル-2-ヒドロキシフェニル)エチル)フェニルアクリレート等の特開昭63-179953号公報や特開平1-168643号公報に記載されるアクリレート系フェノール化合物;2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2'-メチレン-ビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4'-ブチリデン-ビス(6-t-ブチル-m-クレゾール)、4,4'-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、ビス(3-シクロヘキシル-2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)メタン、3,9-ビス(2-(3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ)-1,1-ジメチルエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ペンタエリトリトール=テトラキス[3-(3',5'-ジ-tert-ブチル-4'-ヒドロキシフェニル)プロピオナート、トリエチレングリコールビス(3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート)、トコフェノール等のアルキル置換フェノール系化合物;6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルアニリノ)-2,4-ビスオクチルチオ-1,3,5-トリアジン、6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルアニリノ)-2,4-ビスオクチルチオ-1,3,5-トリアジン、6-(4-ヒドロキシ-3-メチル-5-t-ブチルアニリノ)-2,4-ビスオクチルチオ-1,3,5-トリアジン、2-オクチルチオ-4,6-ビス-(3,5-ジ-t-ブチル-4-オキシアニリノ)-1,3,5-トリアジン等のトリアジン基含有フェノール系化合物等が挙げられる。これらの中でも、アクリレート系フェノール化合物やアルキル置換フェノール系化合物が好ましく、アルキル置換フェノール系化合物がより好ましい。
【0063】
リン系酸化防止剤としては、例えば、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2-t-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト、トリス(シクロヘキシルフェニル)ホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド、10-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド、10-デシロキシ-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン等のモノホスファイト系化合物;4,4'-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル-ジ-トリデシルホスファイト)、4,4'-イソプロピリデン-ビス(フェニル-ジ-アルキル(C12~C15)ホスファイト)、4,4'-イソプロピリデン-ビス(ジフェニルモノアルキル(C12~C15)ホスファイト)、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ジ-トリデシルホスファイト-5-t-ブチルフェニル)ブタン、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)-4,4'-ビフェニレンジホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(イソデシルホスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(ノニルフェニルホスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニルホスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4-ジメチルフェニルホスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6-ジ-t-ブチルフェニルホスファイト)等のジホスファイト系化合物等が挙げられる。これらの中でも、モノホスファイト系化合物が好ましく、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト等がより好ましい。
【0064】
イオウ系酸化防止剤としては、例えば、ジラウリル3,3-チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3'-チオジプロピオネート、ジステアリル3,3-チオジプロピオネート、ラウリルステアリル3,3-チオジプロピオネート、ペンタエリスリトール-テトラキス-(β-ラウリル-チオ-プロピオネート)、3,9-ビス(2-ドデシルチオエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン等が挙げられる。
【0065】
チオエーテル系酸化防止剤としては、例えば、テトラキス{メチレン-3-(ラウリルチオ)プロピオネート}メタン、ビス〔メチル-4-{3-n-アルキル(C12又はC14)チオプロピオニオジル}-5-t-ブチルフェニル〕スルフィド、ジトリデシル-3,3'-チオジプロピオネート等が挙げられる。
【0066】
本実施形態の樹脂組成物中の酸化防止剤(C)の含有量は、熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)100質量部に対して、得られる硬化物の低誘電特性および耐熱性の性能バランスをより向上させる観点から、好ましくは0.1質量部以下、より好ましくは0.08質量部以下、さら好ましくは0.07質量部以下であり、そして好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.03質量部以上、さらに好ましくは0.05質量部以上である。
【0067】
<無機充填材(D)>
本実施形態の樹脂組成物は、無機充填材(D)を含み、無機充填材(D)は、板状の無機充填材(D1)を含む。板状とは、薄片状やフレーク状であることを表し、無機充填剤の厚さに対して、板状形状面内の長軸方向の寸法が長い形状である。
板状の無機充填材は、機械的強度、寸法安定性および配向性の性能バランスを向上させることができる。
無機充填材(D1)の平均アスペクト比は、2以上であり、好ましくは5以上、より好ましくは10以上、さらに好ましくは30以上、さらに好ましくは40以上である。また、無機充填材(D)の平均アスペクト比は170以下であり、好ましくは150以下、より好ましくは140以下、さらに好ましくは130以下、さらに好ましくは120以下、さらに好ましくは110以下、さらに好ましくは100以下、さらに好ましくは80以下、さらに好ましくは60以下、さらに好ましくは50以下である。
ここで、平均アスペクト比とは、後述するレーザー回折散乱法で測定される平均粒径D50、JIS R1620:1995準拠のピクノメーター法により測定される真密度ρ、JIS Z8830:2013準拠のBET比表面積法により測定される比表面積Sを用いて、下記式(1)および(2)により表される、無機充填剤(D1)の粒子が円板状であると仮定した場合の平均円板状粒子1個あたりの厚みtと平均粒径D50の比(D50/t)で表されるものである。
式(1):粒子厚みt=2×D50/(S×ρ×D50-4)
式(2):平均アスペクト比=0.5×S×ρ×D50-2
無機充填材(D1)の平均アスペクト比が上記上限値以下であることにより、無機充填剤の嵩を適度に下げることができ、本実施形態の樹脂組成物の成形性を向上できる。また、無機充填材(D1)の平均アスペクト比が上記下限値以上であることにより、短軸径に対して長軸径を有する(球状ではない)形状となるため粒子の配向が容易になり、低誘電特性を向上できる。
【0068】
無機充填材(D1)は、絶縁性の無機充填剤であり、好ましくは窒化ホウ素、タルク、マイカ、クレー、ガラスフレーク、炭酸カルシウム、アルミナ、ワラストナイト、セリサイト、ハイドロタルサイト、モンモリロナイオ、および絶縁性黒鉛らなる群から選択される少なくとも一種を含み、より好ましくは窒化ホウ素を含む。
窒化ホウ素の板状面は熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)に対して化学的に不活性であるため、熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)の架橋阻害を起こしにくい。したがって、得られる熱硬化フィルムが均質となり、熱伝導率が向上する。
【0069】
窒化ホウ素は、窒素とホウ素からなる化合物であり、例えば、常圧相の六方晶系窒化ホウ素(h-BN)が挙げられる。六方晶系窒化ホウ素においては、正六角形の各頂点において窒素とホウ素が交互に並んだものが連続して平面を構成し、さらに、上下の層において同じ場所に位置する正六角形の頂点が、窒素とホウ素が交互になるように、平面が積層している。
【0070】
本実施形態の無機充填材(D1)は、好ましくはシランカップリング剤で表面処理されているのがよい。
シランカップリング剤としては、例えば、エポキシシラン、メルカプトシラン、フェニルアミノシラン等のアミノシラン、アルキルシラン、ウレイドシラン、ビニルシラン、メタクリルシラン等の各種シラン系化合物等の公知のシランカップリング剤から選択される1種類または2種類以上を含むことができる。中でもビニル基を有するビニルシランが好ましい。ビニルシランとしては、好ましくは7-オクテニルトリメトキシシラン、6-ヘプテニルトリエトキシシラン、6-ヘプテニルトリメトキシシラン、5-ヘキセニルトリエトキシシラン、5-ヘキセニルトリメトキシシラン、4-ペンテニルトリエトキシシラン、4-ペンテニルトリメトキシシラン、3-ブテニルトリエトキシシラン、3-ブテニルトリメトキシシラン、2-プロペニルトリエトキシシラン、2-プロペニルトリメトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、炭素数16までの長鎖アルキル基、分岐アルキル基または分岐アルコキシ基を有するビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシランおよびp-スチリルトリエトキシシランからなる群から選択される1または2以上の化合物を含み、より好ましくは7-オクテニルトリメトキシシランを含む。
板状の無機充填剤(D1)の表面、特に端面は、少量ながら極性基が存在するため、シランカップリング剤のような無極性剤で表面処理することにより、低誘電特性を維持しながら、熱伝導性をさらに向上させることができる。また、シランカップリング剤で無極性化することにより、無機充填剤(D1)の板状面が、熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)の架橋阻害することをより抑制できる。
中でもビニルシランを用いて表面処理することにより、無機充填剤(D1)と熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)とが直接化学結合することが可能となり、厚み方向の熱伝導性をより向上させることができ、さらに耐熱性およびピール強度をより向上させることができる。
【0071】
無機充填材(D1)をシランカップリング剤で表面処理する方法は、制限されず、公知の方法を用いることができる。溶媒を用いた湿式法により無機充填材(D1)をシランカップリング剤で表面処理する方法としては、例えば、無機充填材(D1)をトルエン等の溶媒に分散させ、80℃で10分加熱攪拌する。次いで、シランカップリング剤を、トルエン等の溶媒に溶解させた希釈溶液を分散液に滴下し、分散液を80℃で3時間程度、加熱攪拌する。その後室温まで冷却し、トルエンおよびアセトンにて洗浄することで、シランカップリング剤で表面処理された無機充填剤を得ることができる。
溶媒を用いた湿式法により無機充填材(D1)をシランカップリング剤で表面処理する際の、シランカップリング剤の添加量は、反応を十分に行う観点から、無機充填材(D1)100質量部に対して、好ましくは50質量部以上、より好ましくは80質量部以上、さらに好ましくは90質量部以上であり、そして好ましくは150質量部以下、より好ましくは120質量部以下、さらに好ましくは110質量部以下である。
【0072】
無機充填材(D1)の平均粒径D50は、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.3μm以上、さらに好ましくは0.5μm以上、さらに好ましくは0.8μm以上、さらに好ましくは1.0μm以上、さらに好ましくは3.0μm以上、さらに好ましくは5.0μm以上であり、そして好ましくは30.0μm以下、より好ましくは20.0μm以下、さらに好ましくは15.0μm以下、さらに好ましくは10.0μm以下、さらに好ましくは9.0μm以下、さらに好ましくは8.0μm以下、さらに好ましくは7.0μm以下である。
ここで、無機充填材(D1)の平均粒径D50は、JIS Z8825:2013に準拠して、レーザー回折式粒度分布測定法により測定される、体積基準の累積度数分布曲線において累積度数が50%である粒径を表す。
無機充填材(D1)の平均粒径D50が上記上限値以下であることにより、低熱膨張性および熱伝導性の性能バランスをより向上させることができる。また、無機充填材(D1)の平均粒径D50が上記下限値以上であることにより、ワニスとする際に、樹脂組成物をより均一に溶媒へ分散させることができる。また、無機充填材(D1)の平均粒径D50が上記下限値を下回ると、無機充填材(D1)がナノマテリアルの扱いとなるため、製造現場において設備上の制約が大きくなる。
【0073】
無機充填材(D1)の23℃における体積抵抗値は、樹脂組成物の絶縁性をより向上させる観点から、好ましくは1.0×108Ω・cm以上、より好ましくは1.0×1010Ω・cm以上、さらに好ましくは1.0×1012Ω・cm以上、さらに好ましくは1.0×1013Ω・cm以上である。
無機充填材(D1)の23℃における体積抵抗値の上限に制限は無いが、たとえば、1.0×1018Ω・cm以下であってもよく、1.0×1017Ω・cm以下であってもよく、1.0×1016Ω・cm以下であってもよい。
【0074】
本実施形態の樹脂組成物中の無機充填材(D1)の含有量は、熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)100質量部に対して、30質量部以上であり、好ましくは40質量部以上、より好ましくは60質量部以上、さらに好ましくは80質量部以上、さらに好ましくは90質量部以上である。また、本実施形態の樹脂組成物中の無機充填材(D1)の含有量は、熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)100質量部に対して、300質量部以下であり、好ましくは280質量部以下、より好ましくは250質量部以下、さらに好ましくは230質量部以下、さらに好ましくは210質量部以下である。
無機充填材(D1)の含有量が上記上限値以下であることにより、低熱膨張性と熱伝導率の性能バランスをより向上させることができる。また無機充填材(D1)の含有量が上記下限値以上であることにより、樹脂組成物の成形性を向上でき、またフィルム化した場合のフィルムの外観をより良好とすることができる。
また、本実施形態の樹脂組成物中の無機充填材(D1)の含有量は公知の分析方法により特定することができ、例えば、熱重量分析(TGA)により測定することができる。例えば、熱重量分析装置(TGA)を用いて、空気中、900℃で5mgのサンプルを1時間保持した後の残渣の質量分率を無機充填材(D1)の含有量とすることができる。
【0075】
無機充填材(D)として、無機充填材(D1)以外の無機充填剤を用いることができる。
無機充填材(D1)以外の無機充填剤として、例えば、シリカ、アルミナ、ケイ藻土、酸化チタン、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ドロマイト、硫酸カルシウム、チタン酸カリウム、硫酸バリウム、亜硫酸カルシウム、アスベスト、ケイ酸カルシウム、モンモリロナイト、ベントナイト、グラファイト、アルミニウム粉、硫化モリブデン、ボロン繊維、炭化ケイ素繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維等が挙げられる。
本実施形態の樹脂組成物中の、無機充填材(D1)以外の無機充填剤の含有量は、低熱膨張性、熱伝導率およびフィルム成形性の性能バランスをより向上させる観点から、熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)100質量部に対して、好ましくは200質量部以下、より好ましくは180質量部以下、さらに好ましくは150質量部以下、さらに好ましくは130質量部以下、さらに好ましくは110質量部以下である。
本実施形態の樹脂組成物中の、無機充填材(D1)以外の無機充填剤の含有量の下限に制限はないが、例えば、熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)100質量部に対して、0質量部以上であってもよく、30質量部以上であってもよく、50質量部以上であってもよく、80質量部以上であってもよく、100質量部以上であってもよい。
【0076】
本実施形態の樹脂組成物において、熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)、ラジカル重合開始剤(B)、酸化防止剤(C)および無機充填材(D)の含有量の合計は、樹脂組成物の固形分の総量(硬化物としたときに固形物として残存する成分の総量)を100質量%としたときに、低誘電特性、低熱膨張性および熱伝導性の性能バランスをより向上させる観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、そして好ましくは100質量%以下である。
【0077】
<その他の成分>
本実施形態の樹脂組成物は、本実施形態の発明の効果を妨げない範囲で、その他の成分を含有してもよい。
その他の成分としては、例えば、耐熱安定剤、耐候安定剤、耐放射線剤、可塑剤、滑剤、離型剤、核剤、摩擦磨耗性向上剤、難燃剤、発泡剤、帯電防止剤、着色剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、耐衝撃剤、表面ぬれ改善剤、充填材、塩酸吸収剤および金属不活性化剤からなる群から選択される少なくとも一種の添加剤や、エポキシ樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂等の熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)以外の樹脂が挙げられる。
【0078】
<樹脂組成物の調製方法>
本実施形態の樹脂組成物は、熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)、ラジカル重合開始剤(B)、酸化防止剤(C)および無機充填材(D)と、必要に応じてその他の成分を混合することにより調製できる。混合方法としては、押出機等で溶融ブレンドする方法、または適当な溶媒、例えばヘプタン、ヘキサン、デカン、シクロヘキサンのような飽和炭化水素;トルエン、ベンゼン、キシレンのような芳香族炭化水素等に溶解、分散させて行う溶液ブレンド法等を採用することができる。
【0079】
以下、本実施形態の樹脂組成物の硬化物における物性について説明する。
【0080】
本実施形態の樹脂組成物の硬化物における、誘電正接Dfは、低誘電特性および耐熱性の性能バランスをより向上させる観点から、10GHzの周波数において、好ましくは0.0010以下、より好ましくは0.0009以下、さらに好ましくは0.0008以下である。
誘電正接Dfの下限に制限は無いが、例えば0.0001以上であってもよく、0.0003以上であってもよく、0.0005以上であってもよい。
本実施形態の樹脂組成物の硬化物における誘電正接Dfは、樹脂組成物の硬化物から長さ50mm、幅50mm、厚さ約50μmの試験片を切り出し、当該試験片について、23±2℃、50±5%RH条件で円筒空洞共振器法により測定される、10GHzにおける誘電正接Dfである。
【0081】
本実施形態の樹脂組成物の硬化物における線膨張係数は、熱膨張性をより低下させる観点から、好ましくは45ppm/K以下、より好ましくは40ppm/K以下、さらに好ましくは35ppm/K以下、さらに好ましくは30ppm/K以下、さらに好ましくは25ppm/K以下、さらに好ましくは20ppm/K以下である。
本実施形態の樹脂組成物の硬化物における線膨張係数の下限に制限は無いが、例えば1ppm/K以上であってもよく、5ppm/K以上であってもよく、10ppm/K以上であってもよく、15ppm/K以上であってもよい。
線膨張係数は、次のように測定される。
本実施形態の樹脂組成物の硬化物を、長さ20mm、幅4mm、厚さ約50μmの試験片に切り出し、熱機械分析装置を用いて、測定温度範囲5~300℃、昇温速度5℃/分、試験荷重:5kgf、窒素雰囲気下、フィルム伸長モードの条件で測定を行い、25~90℃における線膨張係数を算出する。線膨張係数の単位はppm/Kである。
【0082】
本実施形態の樹脂組成物の硬化物における面内方向の熱伝導率は、面内方向の熱伝導性をより向上させる観点から、好ましくは1.0W/(m・K)以上、より好ましくは1.5W/(m・K)以上、さらに好ましくは2.0W/(m・K)以上、さらに好ましくは2.5W/(m・K)以上である。
樹脂組成物の硬化物における面内方向の熱伝導率の上限に制限はないが、例えば15.0W/(m・K)以下であってもよく、10.0W/(m・K)以下、5.0W/(m・K)以下または4.0W/(m・K)以下であってもよい。
【0083】
本実施形態の樹脂組成物の硬化物における厚み方向の熱伝導率は、厚み方向の熱伝導性をより向上させる観点から、好ましくは0.20W/(m・K)以上、より好ましくは0.30W/(m・K)以上、さらに好ましくは0.40W/(m・K)以上、さらに好ましくは0.50W/(m・K)以上、さらに好ましくは0.60W/(m・K)以上である。
樹脂組成物の硬化物における厚み方向の熱伝導率の上限に制限はないが、例えば8.0W/(m・K)以下であってもよく、5.0W/(m・K)以下であってもよく、2.0W/(m・K)以下であってもよく、1.0W/(m・K)以下であってもよい。
【0084】
本実施形態の樹脂組成物の硬化物における面内方向および厚み方向の熱伝導率は下記のとおり測定される。
樹脂組成物の硬化物から、長さ30mm、幅5mm、厚さ約50μmの試験片を切り出す。次いで、得られた試験片について、23℃における熱拡散率、比熱容量および密度を測定し、下記式(3)によって面内方向および厚み方向の熱伝導率を算出する。
式(3):熱伝導率(κ)=熱拡散率(α)×比熱容量(Cp)×密度(ρ)
なお、樹脂組成物の硬化物の面内方向の熱拡散率は光交流法、樹脂組成物の硬化物の厚み方向の熱拡散率は温度波熱分析法を用いて測定し、比熱は示差走査熱量法を用いて測定する。
【0085】
上記各種物性の測定に用いられる本実施形態の樹脂組成物の硬化物は、下記の条件で作製されるものである。
本実施形態の樹脂組成物を、熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)100質量部に対して400質量部となるトルエンに分散させ、ワニスを調製する。得られたワニスを、離型処理されたPETフィルム上に、自動塗工機を用いて、室温下、アプリケーターギャップ:200μm、10mm/秒の速度で塗工する。次いで、窒素雰囲気下で、150℃で4分間乾燥してフィルムを形成する。次いでフィルムを次いでフィルムを2枚重ね、真空プレスにより、真空度:1.2kPa以下の条件にて、3.5MPaに加圧し、25℃から一定速度で昇温し、180℃で120分保持し、厚み約50μmの硬化物を得る。
【0086】
[ワニス]
本実施形態の樹脂組成物は、溶媒と混合することによりワニスとすることができる。
ワニスを調製するための溶媒としては、熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)、ラジカル重合開始剤(B)、酸化防止剤(C)および無機充填材(D)に対して溶解性または親和性を損なわないものであれば制限されない。溶媒として好ましくは、ヘプタン、ヘキサン、オクタン、デカン等の飽和炭化水素;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン等の脂環状炭化水素;トルエン、ベンゼン、キシレン、メシチレン、プソイドクメン等の芳香族炭化水素;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、プロパンジオール、フェノール等のアルコール;アセトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、ペンタノン、ヘキサノン、シクロヘキサノン、イソホロン、アセトフェノン等のケトン系溶媒;メチルセルソルブ、エチルセルソルブ等のセルソルブ類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、ギ酸ブチル等のエステル類;トリクロルエチレン、ジクロルエチレン、クロルベンゼン等のハロゲン化炭化水素等が用いられる。樹脂組成物の溶解性および入手の容易性をより向上させる観点から、より好ましくはヘプタン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、トルエン、ベンゼン、キシレン、メシチレン、プソイドクメンが用いられる。これらの溶媒は単独で、または2種以上を任意の割合で混合して用いることができる。
樹脂組成物に加える溶媒の量としては、ワニスの取り扱い性および塗工性をより向上させる観点から、樹脂組成物全体を100質量部としたときに、好ましくは100質量部以上であり、より好ましくは120質量部以上であり、そして好ましくは400質量部以下、より好ましくは300質量部以下、さらに好ましくは250質量部以下である。
また、当該ワニス中の前記熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)、前記ラジカル重合開始剤(B)、前記酸化防止剤(C)および前記無機充填材(D)の含有量の合計は、好ましくは15質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上であり、そして好ましくは100質量%未満である。
なお、本実施形態の樹脂組成物において、無機充填材(D1)の平均粒径D50が所定の上限値以下であるために、樹脂組成物の溶媒への分散性をより良好とすることができる。
【0087】
本実施形態において、ワニスを作製する方法としては、いかなる方法で実施してもよいが、例えば、樹脂組成物と溶媒とを混合する工程を含む。各成分の混合については、その順序に制限はなく、一括または分割等のいかなる方式でも実施することができる。ワニスを調製する装置としても制限はなく、撹拌、混合が可能な、バッチ式、もしくは連続式の、いかなる装置で実施してもよい。ワニスを調製する際の温度は、室温から溶媒の沸点までの範囲で任意に選択することができる。
なお、熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)が得られた際の反応溶液をそのまま溶媒として用いることによりワニスを調製してもよい。
【0088】
[硬化物]
硬化物は、本実施形態の樹脂組成物中の熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)を架橋することにより得ることができる。架橋は、樹脂組成物を、20kPa以下の真空下で、150℃以上で架橋する架橋工程により行うことができる。
架橋工程における架橋温度は、得られる硬化物の耐熱性をより向上させる観点から、好ましくは150℃以上、より好ましくは160℃以上、さらに好ましくは170℃以上であり、熱硬化性環状オレフィン系共重合体(A)および硬化物の熱分解を抑制する観点から、好ましくは250℃以下、より好ましくは230℃以下、更に好ましくは220℃以下、更に好ましくは200℃以下である。
架橋工程における真空度は、得られる硬化物の誘電特性および耐熱性の性能バランスをより向上させる観点から、20kPa以下の真空下、好ましくは10kPa以下の真空下、より好ましくは5kPa以下の真空下、更に好ましくは2kPa以下の真空下で行う。
【0089】
架橋工程は、本実施形態に係る樹脂組成物を溶融状態で行うこともできるし、樹脂組成物を溶媒に溶解、または分散させた溶液状態で行うこともできる。また、架橋工程は、樹脂組成物を溶媒に溶解した溶液状態から溶媒を揮発させフィルム、コーティング等任意の形に成形した後にさらに架橋反応を進行させることによってもできる。
溶融状態で反応を行う場合はミキシングロール、バンバリーミキサー、押出機、ニーダ、連続ミキサー等の混練装置を用いて、原料の混合物を溶融混練して反応させる。また、任意の手法で成形した後に更に架橋反応を進行させることもできる。
溶液状態で反応を行う場合に使用する溶媒としては上記溶液ブレンド法で用いた溶媒と同様の溶媒が使用できる。
【0090】
[フィルム]
本実施形態に係る樹脂組成物を硬化してなる硬化物を、フィルムに成形して各種用途に用いることができる。本実施形態に係る樹脂組成物を硬化して硬化物とし、フィルムに成形する方法としては、各種公知の方法が適用可能である。例えば、熱可塑性樹脂フィルム等の支持基材上に上述したワニスを塗布して乾燥後、加熱処理等して樹脂組成物を架橋することにより硬化物を得て、本実施形態に係る樹脂組成物からなるフィルムを形成する方法が挙げられる。熱可塑性樹脂フィルムとしては、PETフィルム、ポリイミド樹脂フィルム等を用いることができる。ワニスの支持基材への塗布方法は特に限定されないが、例えば、スピンコーターを用いた塗布、スプレーコーターを用いた塗布、バーコーターを用いた塗布等を挙げることができる。
また、本実施形態に係る樹脂組成物を溶融成形してフィルムを得た後に、加熱処理等して樹脂組成物を架橋することにより硬化物とし、本実施形態に係る樹脂組成物からなるフィルムを形成する方法も挙げることができる。
【0091】
[積層体]
本実施形態に係るフィルムは基材に積層することにより、積層体として各種用途に用いることができる。例えば、低誘電性を必要とする有機絶縁フィルムや、接着剤層を有するデバイス用の硬化性接着シートとして用いることもできる。
本実施形態に係る積層体を形成する方法は各種公知の方法が適用可能である。例えば、基材に対し、上述の方法により製造したフィルムを積層し、必要に応じてプレス等により加熱硬化することにより積層体を作製することができる。
また、導体層に対して、前述した硬化物を含む電気絶縁層を積層することにより積層体を作製することもできる。
【0092】
[多層成形体又は多層積層フィルム]
本実施形態に係る樹脂組成物を硬化してなる硬化物は、各種の多層成形体または多層積層フィルムの表層に形成してもよい。
各種の多層成形体または多層積層フィルムとしては、例えば、樹脂光学レンズ表面に本実施形態に係るフィルムが形成された光学レンズ用多層成形体や、PETフィルムやPEフィルム等の樹脂フィルム表面にガスバリア性付与のために本実施形態に係るが形成された多層ガスバリアフィルム等が挙げられる。
【0093】
[プリプレグ]
プリプレグは、本実施形態に係る樹脂組成物とシート状繊維基材とを複合して形成されたものである。
プリプレグの製造方法としては特に限定されず、各種公知の方法が適用可能である。例えば、上述したワニスをシート状繊維基材に含浸し含浸体を得る工程と、得られた含浸体を加熱しワニスに含まれる溶媒を乾燥する工程とを含む方法が挙げられる。
ワニスのシート状繊維基材への含浸は、例えば、所定量のワニスを、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、カーテンコート法、ダイコート法、スリットコート法等の公知の方法によりシート状繊維基材に塗布し、必要に応じてその上に保護フィルムを重ね、上側からローラー等で押圧することにより行うことができる。
また、上記含浸体を加熱し、ワニスに含まれる溶媒を乾燥する工程は特に限定されないが、例えば、バッチ式で送風乾燥機により空気中あるいは窒素中で乾燥する、あるいは、連続工程で加熱炉を通すことによって乾燥する、等の方法を挙げることができる。
ワニスをシート状繊維基材に含浸させた後、得られた含浸体を所定温度に加熱することにより、ワニスに含まれる溶媒が蒸発し、プリプレグが得られる。
【0094】
シート状繊維基材を構成する繊維としては無機系あるいは有機系の繊維が使用でき、特に限定されないが、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)繊維、ポリスチレン繊維、アラミド繊維、超高分子ポリエチレン繊維、ポリアミド(ナイロン)繊維、液晶ポリエステル繊維等の有機繊維;ガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、タングステン繊維、モリブデン繊維、チタン繊維、スチール繊維、ボロン繊維、シリコンカーバイド繊維、シリカ繊維等の無機繊維;等を挙げることができる。これらの中でも、好ましくは有機繊維およびガラス繊維からなる群から選択される少なくとも一種であり、より好ましくはアラミド繊維、液晶ポリエステル繊維およびガラス繊維からなる群から選択される少なくとも一種である。ガラス繊維としては、例えば、Eガラス、NEガラス、Sガラス、Dガラス、Hガラス、Tガラス等を挙げることができる。
シート状繊維基材へのワニスの含浸は、例えば、浸漬および塗布によって実施される。含浸は必要に応じて複数回繰り返してもよい。
これらのシート状繊維基材は、それぞれ単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その使用量は、所望により適宜選択されるが、プリプレグあるいは積層体中の、例えば10質量%以上、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上であり、また例えば90質量%以下、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下の範囲である。この範囲にあれば、得られる積層体の誘電特性と機械強度が高度にバランスされ、好適である。
【0095】
プリプレグの厚みは、使用目的に応じて適宜選択されるが、例えば0.001mm以上、好ましくは0.005mm以上、より好ましくは0.01mm以上であり、また例えば10mm以下、好ましくは1mm以下、より好ましくは0.5mm以下である。この範囲にあれば、積層時の賦形性や、硬化して得られる積層体の機械強度や靭性等の特性が充分に発揮され好適である。
【0096】
[金属張積層体]
本実施形態に係る積層体は、本実施形態に係る積層体の少なくとも一方の面に金属箔を積層して積層プレス等により加熱硬化することにより金属張積層体としてもよい。また、金属箔は、積層体の両面に貼り合わせられていてもよい。
金属箔としては、例えば、銅箔、アルミニウム箔、ニッケル箔、金箔、銀箔、ステンレス箔等が挙げられる。経済性、プロセス性、熱伝導率、導電率の観点から、好ましくは電解銅箔である。
本実施形態に係る金属張積層体を作製する方法は各種公知の方法が適用可能である。
例えば、本実施形態に係る積層体に対し、金属箔を積層し、必要に応じてプレス等により加熱硬化することにより金属張積層体を作製することができる。
【0097】
本実施形態に係る金属張積層体は、本実施形態に係る樹脂組成物を硬化してなる硬化物を用いるものであるため、プリント配線基板に好適な、低誘電特性、低熱膨張性および熱伝導性の性能バランスに優れている。
そのため、本実施形態に係る金属張積層体は、プリント配線基板の絶縁層用材料として好適に使用することができる。
【0098】
[プリント配線基板]
本実施形態に係る樹脂組成物を硬化してなる硬化物は、低誘電特性、低熱膨張性および熱伝導性の性能バランスに優れるため、プリント配線基板に好適に用いることができる。
プリント配線基板の製造方法としては一般的に公知の方法を採用でき、特に限定されないが、例えば、前述の方法により製造したフィルムまたは積層体を積層プレス等により加熱硬化し、電気絶縁層を形成する。次いで、得られた電気絶縁層に導体層を公知の方法で積層し、積層体を作製する。その後、積層体中の導体層を回路加工等することにより、プリント配線基板を得ることができる。
【0099】
導体層となる金属としては、例えば、銅、アルミニウム、ニッケル、金、銀、ステンレス等を用いることができる。導体層の形成方法としては、例えば、上記金属類を箔等にして電気絶縁層上に熱融着させる方法、上記金属類を箔等にして電気絶縁層上に接着剤を用いて張り合わせる方法、あるいはスパッタ、蒸着、めっき等の方法で電気絶縁層上に上記金属類からなる導体層を形成する方法等が挙げられる。プリント配線基板の態様としては、片面板、両面板のいずれでもよい。
【0100】
このようなプリント配線基板は、例えば、半導体素子等の電子部品を搭載することにより、電子機器として使用することができる。電子機器は公知の情報に基づいて作製することができる。
このような電子機器としては、例えば、サーバ、ルータ、スーパーコンピューター、メインフレーム、ワークステーション等のICTインフラ機器;GPSアンテナ、無線基地局用アンテナ、ミリ波アンテナ、RFIDアンテナ等のアンテナ類;携帯電話、スマートフォン、PHS、PDA、タブレット端末等の通信機器;パーソナルコンピューター、テレビ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、POS端末、ウェアラブル端末、デジタルメディアプレーヤー等のデジタル機器;電子制御システム装置、車載通信機器、カーナビゲーション機器、ミリ波レーダー、車載カメラモジュール等の車載電子機器;半導体試験装置、高周波計測装置等;等が挙げられる。
【0101】
[硬化物の用途]
本実施形態に係る樹脂組成物を硬化してなる硬化物は、低誘電特性、低熱膨張性および熱伝導性の性能バランスが良好であるので、例えば、光ファイバー、光導波路、光ディスク基盤、光フィルター、レンズ、光学用接着剤、PDP用光学フィルター、有機EL用コーティング材料、航空宇宙分野における太陽電池のベースフィルム基材、太陽電池や熱制御システムのコーティング材、半導体素子、発光ダイオード、各種メモリー類等の電子素子、ハイブリッドIC、MCM、プリント配線基板、プリント配線基板の絶縁層を形成するために用いられるプリプレグや積層体、表示部品等のオーバコート材料あるいは層間絶縁材料、液晶ディスプレイや太陽電池の基板、医療用器具、自動車用部材、樹脂改質剤、ディスプレイ用透明基板、ガスバリアコート材、電線被服材、自動車用部材、航空宇宙用部材、半導体用プロセス材、電線被覆材、リチウムイオン電池用部材、燃料電池用部材、コンデンサーフィルム、フレキシブルディスプレイ部材、アンカーコート材、透明接着剤、、ハードコート材といった用途で使用することができる。
特に、本実施形態に係る樹脂組成物を硬化してなる硬化物は、低誘電特性、低熱膨張性および熱伝導性の性能バランスが向上し、絶縁性および機械特性等の性能バランスも良好であるので、回路基板に好適に用いることができ、高周波回路基板等の高周波用途により好適に用いることができる。
【0102】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
また、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を損なわない範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【実施例0103】
以下、本実施形態を、実施例等を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0104】
(原材料)
・熱硬化性環状オレフィン共重合体1:後述の合成例1
・ラジカル重合開始剤1:ジクミルパーオキシド、製品名:パークミルD、日本油脂社製
・酸化防止剤1:フェノール系酸化防止剤(ペンタエリトリトール=テトラキス[3-(3',5'-ジ-tert-ブチル-4'-ヒドロキシフェニル)プロピオナート)、製品名:Irganox1010、BASF社製)
・無機充填剤1:非晶質シリカ、製品名:アドマファインSC2300-SVJ、アドマテックス社製、平均粒径D50:0.5μm、平均アスペクト比:1、体積抵抗値:1.0×1014Ω・cmを超える
・無機充填剤2:窒化ホウ素、製品名:デンカボロンナイトライド GP、デンカ株式会社製、平均粒径D50:6μm、平均アスペクト比:46、体積抵抗値:1.0×1014Ω・cmを超える
・無機充填剤3:修飾窒化ホウ素(後述の合成例2)、平均粒径D50:6μm、平均アスペクト比:46、体積抵抗値:1.0×1014Ω・cmを超える
・シランカップリング剤1:7-オクテニルトリメトキシシラン、製品名:KBM-1083、信越化学工業社製
【0105】
熱硬化性環状オレフィン共重合体1の合成には以下の原材料を用いた。
【0106】
遷移金属化合物(1):
特開2004-331965号公報の合成例1に記載の方法により合成した。
【0107】
【0108】
・修飾メチルアルミノキサン(MMAO、東ソー・ファインケム社製)
・トルエン(富士フイルム和光純薬工業社製:和光特級)
・ビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテン(以下、NBとも呼ぶ)(東京化成工業社製)
・5-ビニル-2-ノルボルネン(以下、VNBとも呼ぶ)(東京化成工業社製)
・アセトン(富士フイルム和光純薬工業社製:和光特級)
・メタノール(富士フイルム和光純薬工業社製:和光特級)
【0109】
[無機充填材の平均粒径D50および平均アスペクト比の算出]
無機充填材の平均粒径D50を、JIS Z8825:2013に準拠して、レーザー回折式粒度分布測定法により測定した。平均粒径D50は体積基準の累積度数分布曲線において累積度数が50%である粒径を表す。
次いで、JIS R1620:1995に準拠したピクノメーター法による真密度ρおよびJIS Z8830:2013に準拠したBET比表面積法による比表面積Sを測定した。
得られた平均粒径D50、真密度ρおよび比表面積Sを用いて、下記式(1)により、無機充填剤の粒子が円板状であると仮定した場合の平均円板状粒子1個あたりの厚みtを算出した。次いで厚みtと、と平均粒径D50の比(D50/t)で表した下記式(2)により、平均アスペクト比を算出した。
式(1):粒子厚みt=2×D50/(S×ρ×D50―4)
式(2):平均アスペクト比=0.5×S×ρ×D50―2
【0110】
[熱硬化性環状オレフィン共重合体1における各繰り返し単位の含有量の測定]
熱硬化性環状オレフィン共重合体1における繰り返し単位(a)、繰り返し単位(b)および繰り返し単位(c)の含有量は、日本電子社製「EXcalibur270」核磁気共鳴装置を用い、下記条件で測定した。
積算回数:16~64回
測定温度:室温
上記測定で得られた1H-NMRスペクトルから、二重結合炭素に直接結合している水素由来のピークとそれ以外の水素のピークの強度により、繰り返し単位(a)、繰り返し単位(b)および繰り返し単位(c)の含有量をそれぞれ算出した。
【0111】
[数平均分子量(Mn)]
ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)を使用して、o-ジクロロベンゼンに溶解したポリマーの数平均分子量(Mn)を以下の条件で、単分散ポリスチレンスタンダード(東ソー社製)によって分子量を較正して測定した。
測定装置:東ソー社製ゲル浸透クロマトグラフ HLC-8321 GPC/HT型
データ処理ソフト:Waters社製Empower3
検出器:東ソー社製ブライス型ダブルパス、デュアルフロー方式RI検出器(装置内蔵型)
カラム:東ソー社製TSKgel GMH6-HT、TSKgel GMH6-HTL
カラム温度:140℃
試料濃度:0.1%(w/v)
注入量:400μL
サンプリング間隔:0.5秒
流量:1.0ml/分
【0112】
〔合成例1:熱硬化性環状オレフィン共重合体1〕
十分に窒素置換した内容積1LのSUS製オートクレーブに、トルエン447mL、VNB14.7mL、NBの6.75Mトルエン溶液38.8mL、MMAOのヘキサン溶液をアルミニウム原子換算で1.35mmol、水素1488mLを挿入した後、系中にエチレンを全圧0.78MPa(ゲージ圧)になるまで導入した。トルエンに溶解した遷移金属化合物(1)4μmolを添加し重合を開始した。35℃で40分間反応させた後、遷移金属化合物(1)4μmolを追加し、さらに30分ごとに遷移金属化合物(1)4μmolを追加する工程を2回繰り返し、合計130分間重合を行った。その後、少量のメタノールを添加することにより重合を停止した。
重合終了後、得られたポリマー溶液にイオン交換水を添加して1時間攪拌した後に、有機層を濾紙でろ過した。この有機層をアセトンに投入してポリマーを析出させ、攪拌後濾紙でろ過した。得られたポリマーを80℃、10時間で減圧乾燥し、熱硬化性環状オレフィン共重合体1であるエチレン/NB/VNB共重合体を得た。1H-NMRより決定した熱硬化性環状オレフィン共重合体1中のNB由来構造の繰り返し単位の含有量は34mol%、VNB由来構造の繰り返し単位の含有量は10mol%、GPC測定より求めた数平均分子量(Mn)は7,000であった。
【0113】
〔合成例2:無機充填剤3(修飾窒化ホウ素)〕
無機充填剤2の粉体10.0gを、二口フラスコ中でトルエン70mlに分散させ、80℃で10分加熱攪拌した。シランカップリング剤1 10gをトルエン10mlに溶解させた希釈溶液を、滴下漏斗を用いて10分かけて分散液に滴下した。分散液を80℃、3時間加熱攪拌した後、室温まで水冷した。分散液を吸引濾過し、濾過物をトルエンで3回洗浄した後、アセトンで3回洗浄し、修飾窒化ホウ素を得た。得られた修飾窒化ホウ素を80℃、1時間減圧乾燥した。
【0114】
[実施例1]
(ワニスの調製)
合成例1で得られた熱硬化性環状オレフィン共重合体1およびその他の材料を表1の配合組成に従い秤量した。秤量したサンプルを、トルエンに十分に溶解するまで撹拌し、ワニスを得た。なお、表1中における各原料の配合割合の単位は質量部である。
【0115】
(熱硬化フィルムの作製)
得られたワニスを、離型処理されたPETフィルム上に、自動フィルム塗工機(テスター産業社製、PI-1210)を用いて、アプリケーターギャップ:200μmの条件で、10mm/秒の速度で塗工した後、窒素気流下(30L/分)送風乾燥機(エスペック社製、STPH-102M)により、150℃で4分乾燥した後PETフィルムを剥離した。得られたフィルムを2枚重ね、真空プレスにより、真空度:1.2kPa以下にて、3.5MPaに加圧し、室温(25℃)から一定速度で昇温し、180℃で120分保持し、熱硬化フィルムを得た。フィルム厚みは約50μmになるように調整した。
【0116】
[実施例2~3および比較例1~4]
樹脂組成物について、表1の配合に従った以外は、実施例1と同様にワニスおよび熱硬化フィルムを作製した。
【0117】
得られた熱硬化フィルムについて、下記の方法に従い、誘電正接Df、線膨張係数CTE、および熱伝導性の評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0118】
[誘電正接Df]
各例の熱硬化フィルムを長さ50mm、幅50mm、厚さ約50μmの試験片に切り出した。次いで、得られた試験片について、円筒空洞共振器(YHP社製、シンセサイズドスイーパー8340BおよびYHP社製、ネットワークアナライザー8510B)を用いて、円筒空洞共振器法により、23±2℃、50±5%RH、10GHzにおける誘電正接Dfを測定した。
誘電正接Dfが0.0010以下の場合を合格とした。
【0119】
[線膨張係数CTE]
各例の熱硬化フィルムについて、線膨張係数CTEを、次のように測定した。
熱硬化フィルムを、長さ20mm、幅4mm、厚さ約50μmの試験片に切り出した。次いで、得られた試験片について、熱機械分析装置(日立ハイテク社製、TMA7100C)を用いて、測定温度範囲5~300℃、昇温速度5℃/分、試験荷重:5kgf、窒素雰囲気下、フィルム伸長モードの条件で測定を行った。この測定結果から、25~90℃における線膨張係数CTEを算出した。線膨張係数CTEの単位はppm/Kである。
線膨張係数50ppm/K以下を合格とした。
【0120】
[熱伝導率(面内方向および厚み方向)]
各例の熱硬化フィルムから、長さ30mm、幅5mm、厚さ約50μmの試験片を切り出した。次いで、得られた試験片について、23℃における熱拡散率を測定した。また、直径6mm円形状、厚さ50μmの試験片を10枚積層して比熱容量を測定した。さらに、長さ50mm、幅50mm、厚さ約50μmの試験片を用いて密度を測定し、下記式(3)によって面内方向および厚み方向の熱伝導率を算出した。
式(3):熱伝導率(κ)=熱拡散率(α)×比熱容量(Cp)×密度(ρ)
なお、熱硬化性フィルムの面内方向の熱拡散率は光交流法、熱硬化性フィルムの厚み方向の熱拡散率は温度波熱分析法を用いて測定し、比熱は示差走査熱量法を用いて測定した。
面内方向の熱伝導率は1.0W/(m・K)以上、厚み方向の熱伝導率は0.20W/(m・K)以上を合格とした。
【0121】