IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JFEエンジニアリング株式会社の特許一覧

特開2024-138906橋梁の制振システム、及び橋梁の制振方法
<>
  • 特開-橋梁の制振システム、及び橋梁の制振方法 図1
  • 特開-橋梁の制振システム、及び橋梁の制振方法 図2
  • 特開-橋梁の制振システム、及び橋梁の制振方法 図3
  • 特開-橋梁の制振システム、及び橋梁の制振方法 図4
  • 特開-橋梁の制振システム、及び橋梁の制振方法 図5
  • 特開-橋梁の制振システム、及び橋梁の制振方法 図6
  • 特開-橋梁の制振システム、及び橋梁の制振方法 図7
  • 特開-橋梁の制振システム、及び橋梁の制振方法 図8
  • 特開-橋梁の制振システム、及び橋梁の制振方法 図9
  • 特開-橋梁の制振システム、及び橋梁の制振方法 図10
  • 特開-橋梁の制振システム、及び橋梁の制振方法 図11
  • 特開-橋梁の制振システム、及び橋梁の制振方法 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138906
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】橋梁の制振システム、及び橋梁の制振方法
(51)【国際特許分類】
   E01D 1/00 20060101AFI20241002BHJP
   E01D 11/04 20060101ALI20241002BHJP
   E01D 19/16 20060101ALI20241002BHJP
   E01D 11/02 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
E01D1/00 K
E01D11/04
E01D19/16
E01D11/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049627
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉本 晃輔
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA41
2D059BB06
2D059BB08
2D059GG06
(57)【要約】
【課題】橋桁を支える並列のワイヤロープの長さに因らず、発生する振動を確実に抑制する。
【解決手段】主塔と橋桁との間で、橋桁を主塔で支える並列に配置された複数のワイヤロープと、を有する橋梁の制振システムは、主塔又は橋桁に配置され、風向及び風速を測定する風向風速センサと、ワイヤロープのそれぞれに配置され、ワイヤロープの振動の変位を測定する振動センサと、ワイヤロープの各々の表面に複数配置されたプラズマアクチュエータと、プラズマアクチュエータを駆動する駆動部と、制御部と、を有し、制御部は、振動センサの測定結果に基づき、複数のワイヤロープの中から変位が所定の閾値を超えた第1ワイヤロープを特定し、風向風速センサの測定結果に基づいて第1ワイヤロープより風上に配置された第2ワイヤロープを特定し、第2ワイヤロープに配置されたプラズマアクチュエータの少なくとも一つを駆動部で駆動する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主塔と、橋桁と、前記主塔と橋桁との間で、前記橋桁を前記主塔で支える並列に配置された複数のワイヤロープと、を有する橋梁の制振システムであって、
前記主塔又は前記橋桁に配置され、風向及び風速を測定する風向風速センサと、
前記複数のワイヤロープのそれぞれに配置され、前記ワイヤロープの振動の変位を測定する振動センサと、
複数の前記ワイヤロープの各々の表面に複数配置されたプラズマアクチュエータと、
前記複数配置されたプラズマアクチュエータを駆動する駆動部と、
制御部と、を有し、
前記制御部は、前記振動センサで測定された測定結果に基づき、複数の前記ワイヤロープの中から変位が所定の閾値を超えた第1ワイヤロープを特定し、前記風向風速センサの測定結果に基づいて前記第1ワイヤロープより風上に配置された第2ワイヤロープを特定し、特定された前記第2ワイヤロープに配置された前記プラズマアクチュエータの少なくとも一つを前記駆動部で駆動する、
橋梁の制振システム。
【請求項2】
前記駆動部は、前記プラズマアクチュエータを間欠駆動する
請求項1に記載の橋梁の制振システム。
【請求項3】
前記駆動部は、前記ワイヤロープに配置されたプラズマアクチュエータのうち、気流の剥離点に近いプラズマアクチュエータを駆動する
請求項1に記載の橋梁の制振システム。
【請求項4】
前記制御部は、前記振動センサで取得した変位に基づいて、前記ワイヤロープの振動の腹の変位を特定し、特定した腹の変位が閾値を超えたワイヤロープを前記第1ワイヤロープとして特定する請求項1に記載の橋梁の制振システム。
【請求項5】
主塔と、橋桁と、前記主塔と橋桁との間で、前記橋桁を前記主塔で支える並列に配置された複数のワイヤロープと、複数の前記ワイヤロープのそれぞれの表面に複数配置されたプラズマアクチュエータと、を有する橋梁の制振方法であって、
複数の前記ワイヤロープへの風向及び風速を測定する風測定ステップと、
複数の前記ワイヤロープそれぞれの振動の変位を測定する変位測定ステップと、
前記変位測定ステップの測定結果に基づいて、複数の前記ワイヤロープの中から変位が所定の閾値を超えた第1ワイヤロープを特定し、前記風測定ステップの測定結果に基づいて前記第1ワイヤロープより風上に配置された第2ワイヤロープを特定するワイヤロープ特定ステップと、
特定された前記第2ワイヤロープに配置されたプラズマアクチュエータの少なくとも一つを駆動する駆動ステップと、
を備える橋梁の制振方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁の制振システム、及び橋梁の制振方法に関する。
【背景技術】
【0002】
斜張橋において主塔と橋桁との間に配されるケーブルの振動を抑制する発明として、例えば特許文献1、2に開示された発明がある。特許文献1に開示された並列ケーブル用制振装置は、並列のケーブルに固定される固定金具と、並列の一方のケーブルに固定された固定金具と他方のケーブルに固定された固定金具との間に設けられたゴムダンパと、ゴムダンパと固定金具とを接続する連結ロッドとを有している。この並列ケーブル用制振装置においては、一方の連結ロッドは、ケーブルの長さ方向と直角な面内において二本のケーブルを継ぐX方向に伸縮する伸縮手段と、ゴムダンパと固定金具との間をX方向に付勢する補助バネ手段を備えており、一方のケーブルからのカルマン渦によって他方のケーブルに生じる振動をゴムダンパと補助バネ手段により減衰させる。
【0003】
特許文献2に開示されたケーブル制振装置は、斜張橋のケーブルと橋桁との間に設けられ、ケーブルに固着されるクランプと、クランプの下方に設けられた粘弾性ゴムからなるダンパーと、ダンパーとクランプとの間を連結するワイヤーを有している。このケーブル制振装置においては、ケーブルが振動するとワイヤロープを介して粘弾性ゴムに振動力が伝達され、粘弾性ゴムに振動が生じる。粘弾性ゴムの振動によってケーブルの振動エネルギーが減衰され、ケーブルの振動が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-136508号公報
【特許文献2】特開平10-37127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
斜張橋に配される並列のケーブルや吊橋に配される並列のハンガーロープなどのワイヤロープにおいては、風下側のワイヤロープが風向に直角な方向に振動するウェイクギャロッピング(WG:Wake Galloping)や楕円軌道で振動するウェイクインデューストフラッター(WIF:Wake Induced Flatter)と呼ばれる励振力が高い振動現象が発生することが知られている。特許文献1に開示された発明は並列したケーブル同士を連結ケーブルにより固定することでWGやWIFによる振動を抑制するものであるが、この方法では連結ケーブルの面外方向の振動を抑制できない他、連結部が節となる振動が新たに発生するケースがあるため、十分な対策効果を得られない。また特許文献2に開示された発明は橋桁にダンパーを設置してケーブルと連結することで減衰を付加してWGやWIGによる振動を抑制するものであるが、このような桁位置に設置するダンパーでは、ケーブルが長大化した際に十分な制振効果を得ることが難しい。これらの事例から、長大ケーブルにおいてもWGやWIFによる振動を抑制可能な技術が望まれている。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、橋桁を支える並列のワイヤロープの長さに因らず、発生する振動を確実に抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係る橋梁の制振システムは、主塔と、橋桁と、前記主塔と橋桁との間で、前記橋桁を前記主塔で支える並列に配置された複数のワイヤロープと、を有する橋梁の制振システムであって、前記主塔又は前記橋桁に配置され、風向及び風速を測定する風向風速センサと、前記複数のワイヤロープのそれぞれに配置され、前記ワイヤロープの振動の変位を測定する振動センサと、複数の前記ワイヤロープの各々の表面に複数配置されたプラズマアクチュエータと、前記複数配置されたプラズマアクチュエータを駆動する駆動部と、制御部と、を有し、前記制御部は、前記振動センサで測定された測定結果に基づき、複数の前記ワイヤロープの中から変位が所定の閾値を超えた第1ワイヤロープを特定し、前記風向風速センサの測定結果に基づいて前記第1ワイヤロープより風上に配置された第2ワイヤロープを特定し、特定された前記第2ワイヤロープに配置された前記プラズマアクチュエータの少なくとも一つを前記駆動部で駆動する。
【0008】
本発明に係る制振システムにおいては、前記駆動部は、前記プラズマアクチュエータを間欠駆動する。
【0009】
本発明に係る制振システムにおいては、前記駆動部は、前記ワイヤロープに配置されたプラズマアクチュエータのうち、気流の剥離点に近いプラズマアクチュエータを駆動する。
【0010】
本発明に係る制振システムにおいては、前記制御部は、前記振動センサで取得した変位に基づいて、前記ワイヤロープの振動の腹の変位を特定し、特定した腹の変位が閾値を超えたワイヤロープを前記第1ワイヤロープとして特定する。
【0011】
本発明の一側面に係る制振方法は、主塔と、橋桁と、前記主塔と橋桁との間で、前記橋桁を前記主塔で支える並列に配置された複数のワイヤロープと、複数の前記ワイヤロープのそれぞれの表面に複数配置されたプラズマアクチュエータと、を有する橋梁の制振方法であって、複数の前記ワイヤロープへの風向及び風速を測定する風測定ステップと、複数の前記ワイヤロープそれぞれの振動の変位を測定する変位測定ステップと、前記変位測定ステップの測定結果に基づいて、複数の前記ワイヤロープの中から変位が所定の閾値を超えた第1ワイヤロープを特定し、前記風測定ステップの測定結果に基づいて前記第1ワイヤロープより風上に配置された第2ワイヤロープを特定するワイヤロープ特定ステップと、特定された前記第2ワイヤロープに配置されたプラズマアクチュエータの少なくとも一つを駆動する駆動ステップと、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、橋桁を支える並列のワイヤロープの長さに因らず、発生する振動を確実に抑制することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明に係る制振システムが設置される橋の模式図である。
図2図2は、ハンガーロープの固定方法の一例を示す模式図である。
図3図3は、ハンガーロープの表面の模式図である。
図4図4は、ハンガーロープの水平方向の断面の模式図である。
図5図5は、プラズマアクチュエータの構成を示す模式図である。
図6図6は、図5のA-A線断面図である。
図7図7は、制振システムの構成を示すブロック図である。
図8図8は、制御装置10の機能ブロック図である。
図9図9は、制御装置が実行する処理の流れを示すフローチャートである。
図10図10は、風速の推定方法を説明するための図である。
図11図11は、プラズマアクチュエータに印加する交流電圧の波形の一例を示す図である。
図12図12は、本発明に係る制振システムが設置される橋の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態により本発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一又は対応する要素には適宜同一の符号を付している。さらに、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係などは、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0015】
図1は、本発明に係る制振システムが設置される橋1000Aの模式図である。橋1000Aは、吊橋であり、主塔1、アンカレイジ2、補剛桁3、メインケーブル4、及びハンガーロープ5を備えている。主塔1は、メインケーブル4を支え、メインケーブル4からの鉛直力を主塔1の図示省略した基礎に伝える。アンカレイジ2は、メインケーブル4を固定するためのコンクリートブロックである。補剛桁3は、道路面を載せる例えばトラス構造の橋桁である。メインケーブル4は、主塔1に架けられ、ハンガーロープ5を通じて補剛桁3をつり下げる。ハンガーロープ5は、補剛桁3を支えるためにメインケーブル4から鉛直に垂らされたワイヤロープである。なお、説明の便宜上、橋1000Aの橋軸方向の一方を第1方向と称し、第1方向とは正反対の方向(逆方向)を第2方向と称する場合がある。
【0016】
橋1000Aには、ハンガーロープ5の振動を抑える制振システムを構成する複数の風向風速計20と、複数の振動センサ30が配置されている。風向風速計20は、橋1000Aに向かって吹く風の風向と風速を測定する測定器である。風向風速計20は、主塔1の上下方向に上部から下方に所定間隔で複数設置されている。図1では風向風速計20が上部、中央部、下部の3箇所に設置されているものを示している。風向風速計20は、例えばプロペラと尾翼を備えた飛行機型ものであるが、超音波を用いる風向風速計であってもよい。また、ハンガーロープ5に向かって吹く風の風向及び風速を測定する風向風速計として例えばドップラーライダーを用いてもよい。風向風速計20としてドップラーライダーを用いる場合、風向風速計20は、補剛桁3上において橋1000Aの橋軸方向に所定の間隔で配置される。風向風速計20としてドップラーライダーを用いることにより、振幅が大きいハンガーロープ5の長手方向中央部の風向と風速を測定することができる。
【0017】
振動センサ30は、例えば加速度センサである。振動センサ30は、複数のハンガーロープ5の各々設けられており、ハンガーロープ5の振動の変位を測定する。振動センサ30が加速度センサである場合、振動センサ30は、振幅の大きいハンガーロープ5の中央部付近に設けるのが良いが、ハンガーロープ5に設置する作業や点検の作業を容易にするという観点では、補剛桁3の近傍に設置されるのが好ましい。なお、ハンガーロープ5の振動を測定するために非接触式の光学式変位計を振動センサ30として補剛桁3に設置してもよい。非接触式の光学式変位計でハンガーロープ5の長手方向中央部を測定することにより、振幅が大きいハンガーロープ5の長手方向中央部の変位を測定することができる。
【0018】
図2は、ハンガーロープ5の固定方法の一例を示す模式図である。ケーブルバンド6は、橋1000Aにおいて補剛桁3を吊るハンガーロープ5をメインケーブル4に固定するための部材である。ケーブルバンド6は、メインケーブル4に取り付けられ、ハンガーロープ5の荷重をメインケーブル4に伝える。ケーブルバンド6においては、メインケーブル4の長手方向に所定の間隔で二本のハンガーロープ5が鞍掛される。
【0019】
図3は、ハンガーロープ5の表面の模式図である。ハンガーロープ5の表面には、複数のプラズマアクチュエータ40が配置されている。プラズマアクチュエータ40は、誘電体バリア放電を用いて気体の流れを誘起し、気体の流れを制御するデバイスである。プラズマアクチュエータ40は、ハンガーロープ5において、ケーブルバンド6と補剛桁3との間の中心を基準にしてケーブルバンド6から補剛桁3までの距離の少なくとも75%の長さで配置される。なお、プラズマアクチュエータ40は、ハンガーロープ5の中心軸方向に所定の間隔で複数配置してもよい。
【0020】
図4は、ケーブルバンド6に鞍掛された二本のハンガーロープ5の水平方向の断面の模式図である。図4においては、説明の便宜上、一つのケーブルバンド6に鞍掛された二本のハンガーロープ5のうち前述した橋軸方向における第1方向側で補剛桁3の橋軸直角方向の一方側である第3方向側に垂らされたものをハンガーロープ511と称し、第1方向側で補剛桁3の橋軸直角方向の他方側である第4方向側に垂らされたものをハンガーロープ512と称する。また、一つのケーブルバンド6に鞍掛された二本のハンガーロープ5のうち前述した橋軸方向における第2方向側で且つ第3方向側に垂らされたものをハンガーロープ521と称し、第2方向側で且つ第4方向側(第3方向とは正反対の方向)に垂らされたものをハンガーロープ522と称する。
【0021】
プラズマアクチュエータ40は、ハンガーロープ5の表面において円周方向に所定の間隔で配置されている。本実施形態においては、四つのプラズマアクチュエータ40がハンガーロープ5の表面に配置されている。説明の便宜上、ハンガーロープ511、512、521、522のそれぞれにおいて、第1方向側に配置されたプラズマアクチュエータ40をプラズマアクチュエータ4011、第2方向側に配置されたプラズマアクチュエータ40をプラズマアクチュエータ4012、第3方向側に配置されたプラズマアクチュエータ40をプラズマアクチュエータ4021、第4方向側に配置されたプラズマアクチュエータ40をプラズマアクチュエータ4022と称する。
【0022】
図5は、プラズマアクチュエータ40の構成を示す模式図であり、図6は、図5のA-A線断面図である。プラズマアクチュエータ40は、第1電極401、第2電極402、402、誘電体層403、及び絶縁層404を有する。誘電体層403は、例えば誘電体セラミックであって帯状に形成されている。第1電極401及び第2電極402、402は、例えばチタンを白金でコーティングしたチタン電極であり、帯状に形成されている。第1電極401は、誘電体層403の表面に配置されており、第2電極402、402は、上下方向にみて第1電極401と重ならないように誘電体層403の裏面に配置されている。絶縁層404は、絶縁体で形成されており、誘電体層403の裏面と第2電極402、402を覆っている。
【0023】
第1電極401は交流電圧を出力する交流電源200に接続されている。第2電極402、402は、スイッチ201に接続されている。スイッチ201は、交流電源200と第2電極402、402に接続されており、後述する制御装置10により制御される。スイッチ201が制御装置10によって制御されることにより、交流電源200と第2電極402を接続して第1電極401と第2電極402に交流電圧を印可する状態、交流電源200と第2電極402を接続して第1電極401と第2電極402に交流電圧を印可する状態、交流電源200を第2電極402、402に接続せず、第1電極401と第2電極402、402に交流電圧を印可しない状態のいずれかの状態に切り替えることができる。
【0024】
交流電源200から第1電極401と第2電極402へ交流電圧が印加されると、第1電極401と誘電体層403とに挟まれた部分で放電が生じ、誘電体層403の表面で第1電極401から右方向へ気体の流れが誘起される。また、交流電源200から第1電極401と第2電極402へ交流電圧が印加されると、第1電極401と誘電体層403とに挟まれた部分で放電が生じ、誘電体層403の表面で第1電極401から左方向へ気体の流れが誘起される。交流電源200が出力する交流電圧は、誘電体層403の表面で気体の流れを誘起できるものであり、一定の振幅で数kVの電圧であって、周波数は数kHzである。
【0025】
図7は、本発明に係る制振システム100の構成の一例を示すブロック図である。制御装置10は、CPU(Central Processing Unit)101、ROM102(Read Only Memory)102、RAM(Random Access Memory)103、及びインターフェース104を有している。ROM102は、不揮発性の半導体メモリ等によって構成され、CPU101が実行するプログラムを格納している。RAM103は、半導体メモリ等によって構成され、CPU101がプログラムを実行する際に用いる情報を記憶する。インターフェース104は、スイッチ201を制御する信号をCPU101からの指示に応じて出力する。また、インターフェース104は、風向風速計20が出力する風向の情報と風速の情報を取得し、振動センサ30が測定したハンガーロープ5の変位を取得する。制御装置10においては、CPU101がROM102からプログラムを読み出して実行することで、ハンガーロープ5の振動を抑制する機能が実現する。
【0026】
図8は、CPU101がプログラムを実行することにより制御装置10において実現する機能を示す機能ブロック図である。取得部101Aは、風向風速計20が測定した風向及び風速と、振動センサ30が測定したハンガーロープ5の変位の測定結果を、インターフェース104を介して取得する。特定部101Bは、取得部101Aが取得した変位の測定結果に基づいて、変位があらかじめ定められた閾値を超えたハンガーロープ5を特定し、取得部101Aが取得した風向に基づいて、変位が閾値を超えたハンガーロープ5より風上側に隣接するハンガーロープ5を特定する。駆動部101Cは、この特定部101Bが特定した、あらかじめ定められた閾値を超えたハンガーロープ5より風上側に隣接するハンガーロープに設置されているプラズマアクチュエータ40を駆動するために、当該プラズマアクチュエータ40に接続されているスイッチ201を制御する。
【0027】
次に制御装置10が実行する処理について、図9に示すフローチャートを用いて説明する。まず制御装置10は、振動センサ30の測定結果を取得し(ステップS101)、風向風速計20の測定結果を取得する(ステップS102)。次に制御装置10は、複数のハンガーロープ5のそれぞれについて振動の腹の変位を特定する(ステップS103)。ハンガーロープ5の振動の腹の変位の特定については、例えば「斜張橋ケーブルの振動モニタリングデータの活用手法について 沿岸技術研究センター論文集 No.18(2018) pp27-30」に記載された方法で特定することができる。
【0028】
次に制御装置10は、複数の振動センサ30から取得した変位のうちあらかじめ定められた閾値を超えた変位があるか判断する(ステップS104)。ここで閾値は、例えばハンガーロープ5の補剛桁3からケーブルバンド6までの長さや、ハンガーロープ5の直径に基づいて決定される。なお閾値は、例えば上記の論文に記載されている粘性せん断ダンパーの許容値を用いてもよい。制御装置10は、複数の振動センサ30から取得した変位のうちあらかじめ定められた閾値を超えた変位がない場合(ステップS104でNO)、処理の流れをステップS101へ戻す。
【0029】
制御装置10は、複数の振動センサ30から取得した変位のうちあらかじめ定められた閾値を超えた変位がある場合(ステップS104でYES)、変位が閾値を超えたハンガーロープ5に向かって流れる風の風向と風速を特定する(ステップS105)。ここで制御装置10は、風向風速計20から取得した測定結果に基づいて、変位が閾値を超えたハンガーロープ5に向かって流れる風の風向を特定する。また、制御装置10は、主塔1の上下方向に設置された風向風速計20で測定された風速に基づいて、ハンガーロープ5に向かって流れる風の風速の分布を推定する。
【0030】
図10は、ハンガーロープ5に向かって流れる風の風速の推定方法の一例を説明するための図である。図10に示す例では、主塔1の上下方向の複数個所に設置された風向風速計20で測定した風速から鉛直方向における対数分布で風速を推定し、補剛桁3からメインケーブル4までの間でハンガーロープ5の振動の腹の位置における風速Uを特定する。なお、風速の推定方法の一例として対数分布を用いる方法を説明したが、風速の推定は、橋1000Aの立地や地表付近の粗度、及び過去の実測データにより推定してもよい。また、風向風速計20としてドップラーライダーを用いる場合は、鉛直方向における風速の分布を測定し、ハンガーロープ5の振動の腹の位置における風速Uを特定してもよい。
【0031】
次に制御装置10は、閾値を超える変位が特定されたハンガーロープ5の風上側で隣接するハンガーロープ5に設けられたプラズマアクチュエータ40を駆動する(ステップS106)。ここで制御装置10は、以下のルールに従ってプラズマアクチュエータ40を駆動する。なお、以下のルールではケーブルバンド6で折り返されて並列となったハンガーロープ5のそれぞれ一本とし、風上から風下に並ぶハンガーロープ5の本数をnとする。
(1)並列なハンガーロープ5について、風上側から順に1番目、2番目、・・・、n-1番目、n番目とした場合、n番目に位置するケーブルとn-1番目に位置するハンガーロープ5の両方で、特定した変位が閾値を超えていない場合、n-1番目およびn番目のハンガーロープ5に設けられたプラズマアクチュエータ40を駆動しない。
(2)風上側からn番目のケーブルにのみ閾値を超えた変位が検出された場合には、n―1番目のハンガーロープ5に設置されたプラズマアクチュエータ40のみを駆動する。
(3)n番目に位置するケーブルとn-1番目に位置するハンガーロープ5の両方の変位が閾値を超えた場合、最も風下側であるハンガーロープ5(ここではn番目のハンガーロープ5)を除き、それよりも風上側のn-1番目のハンガーロープ5と、変位が閾値を超えたn-1番目のハンガーロープよりも更に風上側のn-2番目のハンガーロープ5との、2つのハンガーロープ5に設けられたプラズマアクチュエータ40を駆動する。即ち、変位の閾値を超えた互いに隣接配置されたハンガーロープがN本(N>2)あった場合、その中で最も風下のハンガーロープを除き、それよりも風上側にある互いに隣接するハンガーロープ(N-1本)と、このN-1本の中で最も風上側のハンガーロープより、更に風上側に隣接配置されたハンガーロープ1本の、計N本に設けられたプラズマアクチュエータを駆動する。
(4)ハンガーロープ5の表面で風による気流の剥離点に近いプラズマアクチュエータ40を駆動する。
【0032】
例えば、図4で風向が第3方向であり、ハンガーロープ512、522の変位が閾値を超えておらず、ハンガーロープ511、521の変位が閾値を超えた場合、制御装置10は、ハンガーロープ12、522に配置されたプラズマアクチュエータ40を駆動し、ハンガーロープ11、521に配置されたプラズマアクチュエータ40を駆動しない。なお、制御装置10は、風向が第3方向である場合、空気の流れの剥離点P1がプラズマアクチュエータ4011、4012の風下側になるため、剥離点P1に近いプラズマアクチュエータ4011、4012を駆動し、プラズマアクチュエータ4021、4022を駆動しない。制御装置10は、プラズマアクチュエータ40の駆動に際し、プラズマアクチュエータ4011、4012より風下側に気流が発生するようにスイッチ201を制御して交流電圧を印可する。
【0033】
また、例えば、図4で風向が第1方向であり、ハンガーロープ521、522の変位が閾値を超えておらず、ハンガーロープ511、512の変位が閾値を超えた場合、制御装置10は、ハンガーロープ521、522に配置されたプラズマアクチュエータ40を駆動し、ハンガーロープ11、512に配置されたプラズマアクチュエータ40を駆動しない。なお、制御装置10は、風向が第1方向である場合、空気の流れの剥離点P2がプラズマアクチュエータ4021、4022の風下側になるため、剥離点P2に近いプラズマアクチュエータ4021、4022を駆動し、プラズマアクチュエータ4011、4012を駆動しない。制御装置10は、プラズマアクチュエータ40の駆動に際し、プラズマアクチュエータ4021、4022より風下側に気流が発生するようにスイッチ201を制御して交流電圧を印可する。
【0034】
なお、制御装置10は、プラズマアクチュエータ40の駆動に際し、スイッチ201を制御することにより、交流電圧が印可される状態と交流電圧が印可されない状態を交互に繰り返すバースト制御を行う。これによりプラズマアクチュエータ40は、間欠的に駆動される。プラズマアクチュエータ40のバースト制御は、例えば、「プラズマアクチュエータの間欠的バースト駆動による駆動時間削減と空力性能改善 流体力学講演会/航空宇宙数値シミュレーション技術シンポジウム 2020 オンライン論文集」に記載されている制御方法である。
【0035】
図11は、このバースト制御によりプラズマアクチュエータ40に印加される交流電圧の波形の一例を示す図である。図11に示したTonはプラズマアクチュエータ40に交流電圧が印可される時間であり、Toffはプラズマアクチュエータ40に交流電圧が印可されない時間である。バースト制御の周波数をfpとした場合、fp=1/(Ton+Toff)である。制御装置10は、ステップS105で特定した風速をU、ハンガーロープ5の直径をdとした場合、fp=0.2U/dとしてバースト制御の周波数を決定する。交流電圧をプラズマアクチュエータ40に印加し続ける場合と比較すると、バースト制御を行うことにより、プラズマアクチュエータ40の駆動時間を短くして電力消費を抑え、ハンガーロープ5の表面からの流れの剥離を抑制することができる。制御装置10は、プラズマアクチュエータ40の駆動を開始した後、処理の流れをステップS101へ戻す。
【0036】
以上説明したように本実施形態によれば、変位が大きいハンガーロープ5へ流れる空気の流れをプラズマアクチュエータ40によって変えるため、ハンガーロープ5の変位を小さくし、WGやWIFの発生を抑えることができる。なお、上述した実施形態では、ハンガーロープ511、512をそれぞれ一本とした見た場合、二本が補剛桁3に向かって並列にメインケーブル4から垂らされているが、三本以上で並列にメインケーブル4から垂らす構成としてもよい。複数本の並列なハンガーロープで補剛桁3を支持することにより橋1000Aの強度を確保することができ、複数本のハンガーロープを垂らす構成としても、制振システム100によりWGやWIFの発生が抑えることができる。
【0037】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、他の様々な形態で実施可能である。例えば上述の実施形態を以下のように変形して本発明を実施してもよい。なお、上述した実施形態及び以下の変形例は、各々を組み合わせてもよい。上述した各実施形態及び各変形例の構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施の形態や変形例に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【0038】
上述した実施形態では、制振システム100は、吊橋である橋1000Aのハンガーロープ5の制振を行っているが、図12に示す斜張橋である橋1000Bにおいて、ケーブル7の振動抑制に適用してもよい。ケーブル7は、主塔1と人や車が通行する主桁8を繋ぎ主桁8を支えるワイヤロープである。ケーブル7は、例えば主桁8の幅方向の一端側で二本が並列に設けられ、幅方向の他端側でも二本が並列に設けられている。ケーブル7の表面には、図示省略した複数のプラズマアクチュエータ40が配置されている。橋1000Bに制振システム100を適用し、振動センサ30が加速度センサである場合、振動センサ30は、例えば主桁8の近傍に設置される。制振システム100を橋1000Bに適用することにより、風向や風速に応じてプラズマアクチュエータ40を駆動し、並列に設けられたケーブル7においてWGやWIFが発生するのを抑えることができる。
【0039】
上述した実施形態においては、ハンガーロープ5の表面に四つのプラズマアクチュエータ40が配置されているが、四つ以上のプラズマアクチュエータ40をハンガーロープ5の表面に配置してもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 主塔
2 アンカレイジ
3 補剛桁
4 メインケーブル
5 ハンガーロープ
6 ケーブルバンド
7 ケーブル
10 制御装置
20 風向風速計
30 振動センサ
40 プラズマアクチュエータ
100 制振システム
200 交流電源
201 スイッチ
401 第1電極
402、402 第2電極
403 誘電体層
404 絶縁層
1000A、1000B 橋
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12