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特開2024-138909ピッチ系炭素繊維含有ビスマレイミド系樹脂成形体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138909
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】ピッチ系炭素繊維含有ビスマレイミド系樹脂成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20241002BHJP
【FI】
C08J5/04 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049631
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬上 幸太
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 和伸
(72)【発明者】
【氏名】小林 祐介
【テーマコード(参考)】
4F072
【Fターム(参考)】
4F072AA02
4F072AA07
4F072AB10
4F072AB27
4F072AD11
4F072AD23
4F072AG05
4F072AH04
4F072AH23
4F072AJ04
4F072AJ22
4F072AK04
4F072AK14
4F072AL02
4F072AL04
4F072AL11
4F072AL17
(57)【要約】
【課題】マトリックス樹脂として付加反応型ポリイミド樹脂を用いた繊維強化樹脂成形体と同様の形状安定性、耐熱性、機械的強度、摺動性能等を有すると共に、経済性をも兼ね備えたピッチ系炭素繊維強化ビスマレイミド系樹脂成形体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ビスマレイミド系樹脂をマトリックス樹脂とする樹脂成形体であって、ビスマレイミド系樹脂中にピッチ系炭素繊維が均一に含有されていることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスマレイミド系樹脂に、ピッチ系炭素繊維が含有されていることを特徴とする樹脂成形体。
【請求項2】
前記ピッチ系炭素繊維が、前記ビスマレイミド系樹脂100質量部に対して17~43質量部の範囲で含有されている請求項1記載の樹脂成形体。
【請求項3】
樹脂成形体の反り量t(mm)の、樹脂成形体の平面方向の最長部寸法D(mm)に対する割合(t/D×100)が0.25%未満である請求項1又は2記載の樹脂成形体。
【請求項4】
前記ピッチ系炭素繊維が、平均繊維長が50~6000μm及び平均繊維径が5~20μmの範囲にあるピッチ系炭素繊維である請求項1又は2記載の樹脂成形体。
【請求項5】
前記ピッチ系炭素繊維が、メゾフェーズ型のピッチ系炭素繊維である請求項1又は2記載の樹脂成形体。
【請求項6】
ビスマレイミド系樹脂のプレポリマーとピッチ系炭素繊維を混合し、該混合物をビスマレイミド系樹脂の融点以上且つ増粘開始温度以下の温度で保持し、前記ピッチ系炭素繊維にビスマレイミド系樹脂を含浸させる含浸工程、該含浸物をビスマレイミド系樹脂の増粘開始温度以上の温度で保持し、それにより得られた該含浸物の粉砕物0.5gを圧接することでφ12mmのタブレットを作製しそのタブレットを加圧軸上になるように平行平板間に配置させ、60Nの荷重をかけた状態で120℃に加温し3分間保持した後、160℃に加温し5分保持したときの該含浸物の面積が200以上2000mm以下となるまで該含浸物の粘度を上昇させる予備硬化工程を有し、該予備硬化物を粉砕混合する工程、該粉砕物を前記ビスマレイミド系樹脂の熱硬化開始温度以上の温度条件で賦形する賦形工程を有することを特徴とする樹脂成形体の製造方法。
【請求項7】
前記予備硬化工程において、前記含浸物を160~180℃の温度範囲で15~70分間保持する請求項6記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項8】
前記賦形工程が、圧縮成形により賦形する請求項6又は7記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項9】
前記ピッチ系炭素繊維の含有率が前記ビスマレイミド系樹脂100質量部に対して17~43質量部である請求項6又は7記載の樹脂成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピッチ系炭素繊維含有ビスマレイミド系樹脂成形体及びその製造方法に関するものであり、より詳細には、反りの発生が有効に防止され、成形時の形状安定性に優れていると共に、経済性にも優れたピッチ系炭素繊維含有ビスマレイミド系樹脂成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より炭素繊維等の機能性繊維を樹脂に配合して成る繊維強化樹脂から成る成形体は、耐候性、機械的強度、耐久性等の特性に優れていることから、自動車、航空機等の輸送機材、土木・建設材料、スポーツ用品等の用途に広く使用されている。
例えば、下記特許文献1には、特定のピッチ系炭素短繊維混合物及びマトリックス樹脂から成る炭素繊維強化樹脂成形体が記載されており、各種電子部品に好適に使用されることが記載されている。
また下記特許文献2には、炭素繊維等のバインダーとして特定の芳香族ポリイミドオリゴマーを用いた摩擦材用樹脂組成物から成る摩擦材が提案されており、この摩擦材においては、従来、摩擦材のバインダーとして好適に使用されていたフェノール樹脂を用いた場合に比べて、バインダー自身の耐熱性や機械的特性が優れ、成形性が良好であることが記載されている。
【0003】
このような繊維強化樹脂成形体を軸受け等の摺動性部材として用いる場合には、強度、剛性等の機械的強度が高いこと、動摩擦係数が小さく摩耗量が少ないこと、更に限界PV値が高いこと等の特性が要求されており、機械的強度、耐熱性及び耐久性に優れ、また樹脂の含浸性に優れた付加反応型ポリイミド樹脂をマトリックス樹脂として用いることが望まれている。
付加反応型ポリイミド樹脂として、トランスファー成形(RTM)と樹脂圧入(RI)によって炭素繊維強化コンポジットを製造可能な高機能の付加反応型ポリイミド樹脂も提案されている(特許文献3)。
しかしながら、繊維強化樹脂成形体のマトリックス樹脂として、付加反応型ポリイミド樹脂を用いる場合、優れた耐熱性、耐久性及び機械的強度が得られるとしても、得られた成形体に反りが生じてしまい、摺動性部材としては実用に供することができないという問題があった。
【0004】
このような問題を解決するものとして、本発明者等は、機能性繊維に付加反応型ポリイミド樹脂が含浸して成る成形前駆体であって、前記付加反応型ポリイミド樹脂の増粘開始温度より5~20℃低い温度で1~10分間で保持する条件下における溶融粘度が300~3200kPa・sである成形前駆体及びその製造方法を提案した(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4538502号
【特許文献2】特開2009-242656号公報
【特許文献3】特表2003-526704号公報
【特許文献4】国際公開2020/116658
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献4によれば、付加反応型ポリイミド樹脂中に機能性繊維が均一に分散された機能性繊維強化樹脂前駆体を成形することが可能であり、この樹脂前駆体から成形された樹脂成形体は、反りなどの歪みがなく形状安定性に優れていると共に、耐熱性、機械的強度、摺動性能にも優れている。
しかしながら、付加反応型ポリイミド樹脂は硬化温度が高いことから、成形温度を高くする必要がある。そのため、成形に用いる圧縮成形機等にも高い耐熱性が要求されるため、設備コストがかかると共に、成形に要するエネルギーコストも高くなるため、経済性の点で満足するものではなかった。
【0007】
従って本発明の目的は、マトリックス樹脂として付加反応型ポリイミド樹脂を用いた場合と同様の形状安定性、耐熱性、機械的強度、摺動性能等を有すると共に、経済性をも兼ね備えた繊維強化樹脂成形体及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、ビスマレイミド系樹脂に、ピッチ系炭素繊維が含有されていることを特徴とする樹脂成形体が提供される。
【0009】
本発明の樹脂成形体によれば、
1.前記ピッチ系炭素繊維が、前記ビスマレイミド系樹脂100質量部に対して17~43質量部の範囲で含有されていること、
2.樹脂成形体の反り量t(mm)の、樹脂成形体の平面方向の最長部寸法D(mm)に対する割合(t/D×100)が0.25%未満であること、
3.前記ピッチ系炭素繊維が、平均繊維長が50~6000μm及び平均繊維径が5~20μmの範囲にあるピッチ系炭素繊維であること、
4.前記ピッチ系炭素繊維が、メゾフェーズ型のピッチ系炭素繊維であること、
が好適である。
【0010】
本発明によればまた、ビスマレイミド系樹脂のプレポリマーとピッチ系炭素繊維を混合し、該混合物をビスマレイミド系樹脂の融点以上且つ増粘開始温度以下の温度で保持し、前記ピッチ系炭素繊維にビスマレイミド系樹脂を含浸させる含浸工程、該含浸物をビスマレイミド系樹脂の増粘開始温度以上の温度で保持し、それにより得られた該含浸物の粉砕物0.5gを圧接することでφ12mmのタブレットを作製しそのタブレットを加圧軸上になるように平行平板間に配置させ、60Nの荷重をかけた状態で120℃に加温し3分間保持した後、160℃に加温し5分保持したときの該含浸物の面積が200以上2000mm以下となるまで該含浸物の粘度を上昇させる予備硬化工程、該予備硬化物を粉砕混合する工程、該粉砕物を前記ビスマレイミド系樹脂の熱硬化開始温度以上の温度条件で賦形する賦形工程、を有することを特徴とする樹脂成形体の製造方法が提供される。
【0011】
本発明の樹脂成形体の製造方法においては、
1.前記予備硬化工程において、前記含浸物を160~180℃の温度範囲で15~70分間保持すること、
2.前記賦形工程が、圧縮成形により賦形すること、
3.前記ピッチ系炭素繊維の含有率が前記マレイミド系樹脂100質量部に対して17~43質量部であること、
が好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の樹脂成形体においては、マトリックス樹脂としてビスマレイミド系樹脂を使用することにより、付加反応型ポリイミド樹脂を用いた場合と同程度の、優れた形状安定性、耐熱性、機械的強度及び摺動性能を有することができる。またビスマレイミド系樹脂は、付加反応型ポリイミド樹脂に比して硬化温度が低く、成形設備に高い耐熱性が要求されないことから、設備コストを低減することが可能となる。また成形に要するエネルギーコストも低減することが可能となる。
また本発明の樹脂成形体においては、ピッチ系炭素繊維を上記範囲で含有することにより、滑り摩耗試験による摩耗量を低減することが可能となり、反り等の歪みのない形状安定性に優れた樹脂成形体であることと相俟って、耐久性に優れた摺動部材として好適に使用することが可能となる。
更に本発明の樹脂成形体の製造方法においては、賦形工程の前に、予備硬化工程においてビスマレイミド系樹脂が適度に架橋硬化され、炭素繊維がマトリックス樹脂中で沈降することなく均一に存在する予備硬化物を形成しており、賦形工程においてその分散状態を維持した状態で架橋硬化されて賦形されることから、炭素繊維が均一に分散し、反り等の歪みのない形状安定性に優れた樹脂成形体を歩留まりよく成形することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】樹脂成形体の反り量の測定方法の説明図であり、(A)は反り量tの測定位置を示す図であり、(B)は樹脂成形体の平面方向の最長部寸法を示す図である。
図2】滑り摩耗試験の方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(ビスマレイミド系樹脂)
本発明の樹脂成形体のマトリックス樹脂として用いるビスマレイミド系樹脂は、付加反応型ポリイミド樹脂と同様に、耐熱性、機械的強度及び摺動性能などの特性に優れている一方、付加反応型ポリイミド樹脂に比して硬化温度が低いことから、付加反応型ポリイミド樹脂を用いた場合よりも成形温度を低減させることが可能となり、前述した通り、経済性の点でも優れている。
本発明に用いるビスマレイミド系樹脂においては、分子内に少なくとも2つのマレイミド基を有するビスマレイミド化合物を用いることが好ましい。
【0015】
ビスマレイミド化合物としては、これに限定されないが、4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、m-フェニレンビスマレイミド、p-フェニレンビスマレイミド、2,2-ビス[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス-(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド、N,N’-エチレンジマレイミド、N,N’-ヘキサメチレンジマレイミド、ビス(4-マレイミドフェニル)エーテル、ビス(4-マレイミドフェニル)スルホン、3,3-ジメチル-5,5-ジエチル-4,4-ジフェニルメタンビスマレイミド、ビスフェノールAジフェニルエーテルビスマレイミド等の分子内に2つのマレイミド基を有するビスマレイミド化合物の他、ビフェニルアラルキル型マレイミド、ポリフェニルメタンマレイミド等の分子内に3つ以上のマレイミド基を有するポリマレイミド化合物を例示できる。
本発明においては特に、ポリフェニルメタンマレイミド等のポリマレイミド化合物を好適に使用することができる。
【0016】
本発明に用いるビスマレイミド系樹脂においては、上記ビスマレイミド化合物と共に、他の熱硬化性樹脂、硬化剤等を必要により含有することができ、これにより樹脂成形体としたときの機械的強度や耐熱性等を調整することができる。
このような熱硬化性樹脂等としては、従来よりビスマレイミド系樹脂に使用されていたものを使用することができ、これに限定されないが、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、ベンゾオキサジン化合物等を例示することができる。
本発明においては特に、エポキシ樹脂及びベンゾオキサジン化合物を含有していることが好適であり、エポキシ樹脂はマレイミド化合物100質量部に対して5~100質量部の範囲で含有されていることが好適であり、ベンゾオキサジン化合物はマレイミド化合物100質量部に対して10~100質量部の範囲で含有されていることが好適である。
このようなビスマレイミド系樹脂としては、プリンテック社製HR3070を好適に使用することができる。
【0017】
[炭素繊維]
本発明において、上述したビスマレイミド系樹脂中に分散させる炭素繊維は、ピッチ系の炭素繊維(以下、単に「炭素繊維」ということがある)、中でもメゾフェーズ型のピッチ系炭素繊維を好適に用いることができる。ピッチ系炭素繊維はPAN系炭素繊維に比して、高弾性率であると共に、耐摩耗性に優れていることから、樹脂成形体を摺動部材としたときに特に有利である。
炭素繊維は、平均繊維長が50~6000μm及び平均繊維径が5~20μmの範囲にあるものを好適に使用することができる。上記範囲よりも平均繊維長が短い場合には、炭素繊維の強化材としての効果を充分に得ることができず、その一方上記範囲よりも長いとビスマレイミド系樹脂中での分散性に劣るようになる。また上記範囲よりも平均繊維径が細い場合には、取扱い性に劣ると共に高価であり、一方上記範囲よりも平均繊維径が太い場合には炭素繊維の沈降速度が増大して、炭素繊維が偏在しやすくなるおそれがあると共に、炭素繊維の強度が低下する傾向があり、強化材としての効果を充分に得られないおそれがある。
【0018】
炭素繊維の含有量は、樹脂成形体の摺動性能及び成形時の反り発生に重大な影響を有しており、本発明においては、炭素繊維は、ビスマレイミド樹脂100質量部に対して17~43質量部、特に25~33質量部の量で含有されていることが、耐摩耗性に優れ、長期にわたって優れた摺動性能を発現できると共に、反りがなく優れた形状安定性を有する成形体を得る上で好適である。すなわち、ピッチ系炭素繊維の含有量が少ない場合だけでなく、多い場合においても、炭素繊維が上記範囲にある場合に比して耐摩耗性は低下する。また炭素繊維の量が上記範囲よりも少ないと、樹脂成形体の反りの発生が増大するおそれがある。一方上記範囲よりも炭素繊維の量が多いと、過度の増粘が生じ、賦型できないおそれがある。
【0019】
本発明においては、上記炭素繊維と共に、グラファイト、PTFE、二硫化モリブデン、カーボンブラック等の微細炭素系材料、アルミ粉、銅粉等の金属粉等の無機材料の少なくとも一種を更に含有することもできる。上記無機材料は、ビスマレイミド100質量部に対して5~40質量部、特に5~30質量部の量で含有されていることが好適である。上記範囲よりも無機材料の量が少ないと無機材料を配合することにより得られる効果が充分得られず、一方上記範囲よりも無機材料の量が多いと摩擦係数の増大や耐摩耗性の低下等、かえって摺動性能を損なうおそれがある。
【0020】
(樹脂成形体の製造方法)
本発明の樹脂成形体の製造方法は、ビスマレイミド系樹脂のプレポリマーとピッチ系炭素繊維を混合し、該混合物をビスマレイミド系樹脂の融点以上且つ増粘開始温度以下の温度で保持し、前記ピッチ系炭素繊維にビスマレイミド系樹脂を含浸させる含浸工程、該含浸物をビスマレイミド系樹脂の増粘開始温度以上の温度で保持し、それにより得られた該含浸物の粉砕物0.5gを圧接することでφ12mmのタブレットを作製しそのタブレットを加圧軸上になるように平行平板間に配置させ、60Nの荷重をかけた状態で120℃に加温し3分間保持した後、160℃に加温し5分保持したときの該含浸物の面積が200以上2000mm以下となるまで該含浸物の粘度を上昇させる予備硬化工程、該予備硬化物を粉砕混合する工程、該粉砕物を前記ビスマレイミド系樹脂の熱硬化開始温度以上の温度条件で賦形する賦形工程を有している。
【0021】
増粘開始温度は以下のとおり定義される。
レオメータでパラレルプレートを用い、角周波数100rad/sにおいて、4℃/minで昇温し、所定の目標温度に到達後、その目標温度で一定時間保持する条件下で、未反応状態のビスマレイミド系樹脂の粘度を測定する。昇温することによって溶融し、粘度が低下する。測定中に最も低い粘度を最低溶融粘度とし、目標温度到達後120分経過するまでの溶融粘度を求める。目標温度を5の倍数の温度で低い温度から高い温度に向かって設定してそれぞれ溶融粘度の計測を行う。最低溶融粘度を示す時間を0分とし、横軸を時間(min)、縦軸を溶融粘度(Pa・s)とした片対数グラフにプロットし、表計算ソフトにより指数近似式を求める。下記式(1)に示される近似式のBの値がはじめて0.041を超える温度を増粘開始温度とする。
Y=Aexp(Bx)・・・(1)
Y:溶融粘度(Pa・s)、x:時間(min)、A及びB:定数
【0022】
ビスマレイミド系樹脂は、架橋硬化前のプレポリマーの状態では低粘度であることから、賦形工程において増粘させないと炭素繊維が沈降してしまい、その結果、炭素繊維がプレポリマー中に均一に分散されず、得られる樹脂成形品に反りが発生するおそれがある。その一方、樹脂成形体の賦形工程で、プレポリマーを増粘させると、プレポリマーが熱分解して発泡・膨張し、その後の圧縮成形による加圧によって気泡が潰れて樹脂が流動して炭素繊維が配向することに起因して樹脂成形体に反りが生じてしまう。
本発明においては、上記含浸工程の後に、上記予備硬化工程により含浸物を、該含浸物の粘度を、該含浸物の粉砕物0.5gを圧接することでφ12mmのタブレットを作製しそのタブレットを加圧軸上になるように平行平板間に配置させ、60Nの荷重をかけた状態で120℃に加温し3分間保持した後、160℃に加温し5分保持したときの該含浸物の面積が200以上2000mm以下となるように予め硬化させておくことにより、炭素繊維が均一分散した状態を維持すると共に、賦形工程での完全硬化を不要とし、炭素繊維が均一に分散した状態で均等に収縮して反りのない成形体を成形することが可能になる。
【0023】
[含浸工程]
含浸工程においては、まずビスマレイミド系樹脂のプレポリマーと炭素繊維を混合した後、この混合物を、ビスマレイミド系樹脂のプレポリマーの融点以上増粘開始温度以下の温度、具体的には、増粘開始温度より5~20℃低い温度範囲で一定時間保持することにより、プレポリマーを溶融して炭素繊維に含浸させる。この際、前述したとおり、ビスマレイミド系樹脂100質量部に対して炭素繊維を17~43質量部、特に25~33質量部の量で用いる。また上述した無機材料を上述した量で配合することもできる。
プレポリマー及び炭素繊維の混合は、ヘンシェルミキサー、タンブラーミキサー、リボンブレンダ―等の従来公知の混合機を用いることもできるが、炭素繊維の破断を抑制すると共に分散させることが重要であることから、バッチ式の加圧ニーダー(混練機)を用いることが特に好適である。
【0024】
[予備硬化工程]
予備硬化工程においては、上記含浸工程を経たプレポリマーを炭素繊維に含浸させた含浸物を、ビスマレイミド系樹脂の増粘開始温度以上の温度で一定時間保持することにより、プレポリマーを完全に架橋硬化することなく、所望の粘度範囲となるように部分的に架橋硬化させることが重要である。具体的には、増粘開始温度より30~50℃高い温度範囲で19~93分間保持することによって、該含浸物の粉砕物0.5gを圧接することでφ12mmのタブレットを作製しそのタブレットを加圧軸上になるように平行平板間に配置させ、60Nの荷重をかけた状態で120℃に加温し3分間保持した後、160℃に加温し5分保持したときの該含浸物の面積が200以上2000mm以下となるように架橋硬化させた予備硬化物を得る。
尚、用いるビスマレイミド系樹脂の種類によって予備硬化の条件は異なるが、含浸物におけるビスマレイミド系樹脂の粘度が上記範囲内にあることにより、炭素繊維の沈降が防止され、炭素繊維が均一に分散した予備硬化物を形成することが可能となる。
具体的には、後述する実施例に示すように、ポリフェニルメタンマレイミドを主成分とするビスマレイミド系樹脂においては、160~180℃の温度範囲で15~70分間保持することが好ましい。
【0025】
[粉砕工程]
予備硬化工程を経た後、冷却(放冷を含む)固化することにより得られた予備硬化物は、炭素繊維がプレポリマー中に均一に分散した所定の大きさの塊状のバルクモールドコンパウンド(BMC)であることから、この状態で経時保管も可能であるが、これをロールミル、グラインダー等の粉砕機を用いて、粉砕混合して粒子径が0.1~1000μmの粉体状に粉砕する。
【0026】
[賦形工程]
粉砕工程で粉砕された粉体状の予備硬化物は、成形型内に導入され、必要により成形型内で若干溶融された状態で、用いるビスマレイミド系樹脂の熱硬化開始温度以上の温度条件下の温度で賦形することにより、所望の樹脂成形体として成形される。この際、本発明においてはビスマレイミド系樹脂とピッチ系炭素繊維の混合物の粘度が、該混合物の粉砕物0.5gを圧接することでφ12mmのタブレットを作製しそのタブレットを加圧軸上になるように平行平板間に配置させ、60Nの荷重をかけた状態で120℃に加温し3分間保持した後、160℃に加温し5分保持したときの該含浸物の面積が200以上2000mm以下となるように予備硬化していることから、圧縮成形等により加圧圧縮しても樹脂の流動が低減されており、炭素繊維の配向も低減されているので、加熱硬化により反りの発生が有効に抑制されている。また、加熱前の常温の段階から圧力がかけられるので、加熱圧縮時の均熱化が図れ、硬化反応が均一に進行し残留応力、ひずみの発生が低減されるため反りの発生が抑制される。
具体的には、後述する実施例で用いるポリフェニルメタンマレイミドを主成分とするビスマレイミド系樹脂においては、粘度が上記範囲にある予備硬化物を230~250℃の温度範囲で60~240分間保持して賦形することが好ましい。
尚、賦形は、成形型に導入された混合物を加圧圧縮して成形する圧縮成形やトランスファー成形によることが好適であるが、射出成形や押出成形によっても成形することができる。
【0027】
(樹脂成形体)
上述したように、予備硬化工程を経た後、賦形工程で成形されて成る本発明の樹脂成形体は、ビスマレイミド系樹脂をマトリックスとし、ピッチ系炭素繊維がマトリックス中に均一に分散した、反り等の歪みの少ない樹脂成形体であり、下記式(2)
R(%)=(t/D)×100 ・・・(2)
式中、tは、図1(A)に示すように樹脂成形体の反り量t(mm)であり、Dは、図1(B)に示すように樹脂成形体の平面方向の最長部の寸法D(mm)をそれぞれ表す。
樹脂成形体の反り量の平面方向の最長部に対する割合が0.25%未満である本発明の樹脂成形体は、反りの発生が有効に防止されていることから、歩留まりが良く、生産性及び経済性にも優れており、ディスク状、リング状等、用途に応じた形状に成形されている。また耐熱性、耐久性、及び機械的強度に優れていると共に、優れた摺動性能を有している。
【実施例0028】
(予備硬化物の溶融粘度の測定)
ビスマレイミド系樹脂とピッチ系炭素繊維の予備硬化物の溶融粘度は、平行平板間に一定量の予備硬化物を所望の圧力および温度条件下で一定時間保持することで得られた流動体の面積を計測することで確認した。粉砕した予備硬化物0.5gを圧接することでφ12mmのタブレットを作製する。そのタブレットを加圧軸上になるように平行平板間に配置させる。60Nの荷重をかけた状態で120℃に加温し3分間保持した後、160℃に加温し5分保持した後に急冷し、流動した混合物を取り出す。
取り出した流動後の混合物を撮影し、ソフト(ImageJ)を用いて面積を測定した。合否の判定基準は成形したときに漏れや気泡内包がないこと、反り/直径比[%]が0.25未満とした。
【0029】
(増粘開始温度の測定)
増粘開始温度をレオメータにより計測した。目標温度への到達速度を4℃/minとし、目標到達温度到達後120分保持する温度条件下で、パラレルプレートを用い、角周波数100rad/s、ひずみ10%として溶融粘度を測定し、最低溶融粘度を示す時間を0分とし、横軸を時間(min)、縦軸を溶融粘度(Pa・s)とした片対数グラフにプロットし、指数近似式より前記式(1)の係数Bを求める。ビスマレイミド系樹脂(プリンテック社製HR3070)において、目標温度が125℃の時のB値が0.033であり、目標温度が130℃の時のB値が0.0413であり、増粘開始温度を130℃とした。
【0030】
(摩耗体積の測定)
JIS K 7218(プラスチックの滑り摩耗試験方法)に適合したスラスト型摩耗試験機(エー・アンド・デイ社製 摩擦摩耗試験機 EFM-III-F)を用い、図2に示すようなリングオンディスク方式にて、荷重(W)300N、速度0.5m/s、すべり距離(L)108km(試験時間60時間)、相手材S45C(表面粗さRa=0.8μm)の条件で、すべり摩耗試験を行い、3次元輪郭形状測定器(東京精密社製 サーフコム2000SD3)にて試験片の溝の断面積Sを測定し、下記式(3)から摩耗体積Vを算出した。
V=2πgs ・・・(3)
式中、gは、リング外径と内径の中間点を表す。
【0031】
(実施例1)
ビスマレイミド系樹脂(プリンテック社製HR3070)100質量部に対して、平均繊維長さ200μmのメゾフェーズ型ピッチ系炭素繊維(三菱樹脂製K223HM)17.6質量部を配合して、ドライブレンドし、電気炉内で120℃、20分保持、続けて160℃、70分保持した。その後、急冷し、室温まで冷却された混合物(バルクモールディングコンパウンド、以下BMC)を得た。得られたBMCを粉砕機で粉砕混合してから圧縮成形金型に供給し、常温で3.0MPaに加圧しながら昇温速度4.3℃/minで150℃まで昇温、10分間保持後、2.7℃/minで230℃まで昇温、240分間保持後、徐冷してφ200mm厚さ3mmの板を得た。
【0032】
(実施例2)
平均繊維長さ200μmのメゾフェーズ型ピッチ系炭素繊維(三菱樹脂製K223HM)の配合量を25質量部に、160℃保持時間を60分に変更した以外は実施例1と同じとした。
【0033】
(実施例3)
平均繊維長さ200μmのメゾフェーズ型ピッチ系炭素繊維(三菱樹脂製K223HM)の配合量を33.3質量部に変更した以外は実施例2と同じとした。
【0034】
(実施例4)
平均繊維長さ200μmのメゾフェーズ型ピッチ系炭素繊維(三菱樹脂製K223HM)の配合量を42.9質量部に変更した以外は実施例2と同じとした。
【0035】
(実施例5)
平均繊維長さ200μmのメゾフェーズ型ピッチ系炭素繊維(三菱樹脂製K223HM)の配合量を42.9質量部に、160℃保持時間を50分に変更した以外は実施例1と同じとした。
【0036】
(実施例6)
平均繊維長さ200μmのメゾフェーズ型ピッチ系炭素繊維(三菱樹脂製K223HM)の配合量を42.9質量部に、変更した以外は実施例1と同じとした。
【0037】
(比較例1)
平均繊維長さ200μmのメゾフェーズ型ピッチ系炭素繊維(三菱樹脂製K223HM)の配合量を11.1質量部に、変更した以外は実施例1と同じとした。
【0038】
(比較例2)
平均繊維長さ200μmのメゾフェーズ型ピッチ系炭素繊維(三菱樹脂製K223HM)の配合量を66.7質量部に、160℃保持時間を50分に変更した以外は実施例1と同じとした。
【0039】
(比較例3)
平均繊維長さ200μmのメゾフェーズ型ピッチ系炭素繊維(三菱樹脂製K223HM)の配合量を42.9質量部に、160℃保持時間を40分に変更した以外は実施例1と同じとした。
【0040】
(比較例4)
平均繊維長さ200μmのメゾフェーズ型ピッチ系炭素繊維(三菱樹脂製K223HM)の配合量を42.9質量部に、160℃保持時間を80分に変更した以外は実施例1と同じとした。なお樹脂粘度が高く、樹脂成形体に巣が発生した。
【0041】
実施例1~6、比較例1~5にて得られた樹脂成形体の摩耗体積、反り/直径比、賦形性の評価結果を表1、2に示す。
尚、表中、樹脂成形体の摩耗体積が29mm未満の場合を「〇」、29mm以上を「×」で表し、反り/直径比が0.25%未満の場合を「〇」、0.25%以上の場合を「×」で表す。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の樹脂成形体は、従来摺動部材などの用途に好適に用いられていた付加反応型ポリイミド樹脂を用いて成る樹脂成形体と同等の優れた耐熱性、耐久性、機械的強度、摺動性能を有しているため、自動車、電気・電子分野の摺動性部材として種々の用途に使用できる。またマトリックス樹脂となるビスマレイミド系樹脂は硬化温度が付加反応型ポリイミド樹脂に比して低いことから、成形設備に高い耐熱性が不要であり、エネルギーコストの点でも有利であり、高い経済性が要求される摺動部材にも好適に使用できる。
図1
図2