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特開2024-138930浮遊幼生飼育器具、浮遊幼生飼育装置および浮遊幼生の飼育方法
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  • 特開-浮遊幼生飼育器具、浮遊幼生飼育装置および浮遊幼生の飼育方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138930
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】浮遊幼生飼育器具、浮遊幼生飼育装置および浮遊幼生の飼育方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 63/04 20060101AFI20241002BHJP
   A01K 63/00 20170101ALI20241002BHJP
   A01K 61/00 20170101ALI20241002BHJP
【FI】
A01K63/04 C
A01K63/00 Z
A01K61/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049659
(22)【出願日】2023-03-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果最適展開支援プログラムA-STEP企業主導フェーズNexTEP-Aタイプ課題事業「マダコ完全養殖と高度食品加工技術」委託研究、産業技術力強化法第1 7 条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】515171880
【氏名又は名称】有限会社グルメイト
(71)【出願人】
【識別番号】599132007
【氏名又は名称】株式会社ホットランド
(71)【出願人】
【識別番号】000125369
【氏名又は名称】学校法人東海大学
(71)【出願人】
【識別番号】509298012
【氏名又は名称】公立大学法人宮城大学
(74)【代理人】
【識別番号】100136674
【弁理士】
【氏名又は名称】居藤 洋之
(72)【発明者】
【氏名】阿部 正美
(72)【発明者】
【氏名】松原 圭史
(72)【発明者】
【氏名】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴村 優太
(72)【発明者】
【氏名】西川 正純
(72)【発明者】
【氏名】片山 亜優
【テーマコード(参考)】
2B104
【Fターム(参考)】
2B104AA13
2B104BA06
2B104CA01
2B104EB04
2B104EB11
2B104EB19
2B104EB20
(57)【要約】
【課題】餌を効果的に舞い上がらせることができるとともに、水質悪化を抑制できる、浮遊幼生飼育器具、浮遊幼生飼育装置および浮遊幼生の飼育方法を提供する。
【解決手段】浮遊幼生飼育装置を構成する浮遊幼生飼育器具14は、円弧状に湾曲した底面32を有する筒状の飼育器具本体20と、第1噴水手段26と、第2噴水手段28と、第1蓋22と、第2蓋24とを備える。第1噴水手段26は、飼育水を底面32の最下部32aに向けて周方向から噴射する第1噴水ノズル38a~38eを有し、第2噴水手段28は、飼育水を上方に向けて噴射する第2噴水ノズル54a~54cを有する。飼育器具本体20の開口端部20a,20bに設けられる第1蓋22および第2蓋24には、飼育水は通すが浮遊幼生は通さない大きさの複数の通水孔が設けられる。飼育者は、飼育器具本体20の内側空間S1に飼育水を溜め、その中に浮遊幼生および餌を投入する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水生生物の浮遊幼生を飼育するための飼育水の水中に設置される浮遊幼生飼育器具であって、
円弧状に湾曲した底面を有し、内側空間に飼育水が溜められる筒状の飼育器具本体と、
前記飼育器具本体の内面に沿って設けられ、飼育水を前記底面の最下部に向けて周方向から噴射する第1噴水ノズルを有する第1噴水手段と、
前記飼育器具本体の一方の開口端部に設けられ、前記飼育器具本体の内側空間の浮遊幼生が外側空間に流出することを防止する第1蓋と、
前記飼育器具本体の他方の開口端部に設けられ、前記飼育器具本体の内側空間の浮遊幼生が外側空間に流出することを防止する第2蓋とを備え、
前記第1蓋および前記第2蓋の少なくとも一方には、飼育水は通すが浮遊幼生は通さない大きさの複数の通水孔が設けられる、浮遊幼生飼育器具。
【請求項2】
前記飼育器具本体の内面の位置を、前記底面の円弧の軸を中心とする時計の短針の位置で示すとき、前記第1噴水ノズルは、6時の位置から外れた位置に設けられる、請求項1に記載の浮遊幼生飼育器具。
【請求項3】
前記第1噴水ノズルは、4時の位置から5時の位置までの間に設けられる、請求項2に記載の浮遊幼生飼育器具。
【請求項4】
前記通水孔は、前記第1蓋および前記第2蓋の両方に設けられる、請求項2に記載の浮遊幼生飼育器具。
【請求項5】
前記通水孔は、浮遊幼生の餌を通さない大きさに形成される、請求項4に記載の浮遊幼生飼育器具。
【請求項6】
前記第1蓋および前記第2蓋の少なくとも一方は、柔軟性を有する網状に形成される、請求項5に記載の浮遊幼生飼育器具。
【請求項7】
前記第1噴水手段は、前記飼育器具本体の軸方向に間隔を隔てて設けられた複数の前記第1噴水ノズルを有する、請求項6に記載の浮遊幼生飼育器具。
【請求項8】
飼育水を前記飼育器具本体の内面に沿うように上方に向けて噴射する第2噴水ノズルを有する第2噴水手段を備え、
前記第2噴水ノズルは、6時の位置を挟んで前記第1噴水ノズルとは反対側の位置に設けられる、請求項7に記載の浮遊幼生飼育器具。
【請求項9】
前記第2噴水手段は、前記飼育器具本体の軸方向に間隔を隔てて設けられた複数の前記第2噴水ノズルを有する、請求項8に記載の浮遊幼生飼育器具。
【請求項10】
前記第2噴水ノズルの数は、前記第1噴水ノズルの数よりも少なく定められる、請求項9に記載の浮遊幼生飼育器具。
【請求項11】
前記飼育器具本体の上部には、前記飼育器具本体の内側空間を開放する開口を構成する開口部が設けられる、請求項10に記載の浮遊幼生飼育器具。
【請求項12】
前記第1噴水手段は、
前記飼育器具本体の壁部に設けられた貫通孔と、
前記貫通孔に挿通されるとともに、先端部に前記第1噴水ノズルが接続された給水管と、
前記給水管および前記第1噴水ノズルを保持する保持部とを有し、
前記保持部は、前記給水管および前記第1噴水ノズルの前記飼育器具本体の内面に対する傾斜角度を調整可能に構成される、請求項11に記載の浮遊幼生飼育器具。
【請求項13】
水槽と、
請求項1ないし12のいずれか1項に記載の浮遊幼生飼育器具とを備え、
少なくとも1つの前記浮遊幼生飼育器具が前記水槽に溜められた飼育水の水中に設けられる、浮遊幼生飼育装置。
【請求項14】
前記飼育器具本体の外側空間に溜められた飼育水の水中に空気を供給する給気装置を備える、請求項13に記載の浮遊幼生飼育装置。
【請求項15】
前記飼育器具本体の外側空間に溜められた飼育水を浄化する浄化装置を備える、請求項14に記載の浮遊幼生飼育装置。
【請求項16】
請求項1ないし12のいずれか1項に記載の浮遊幼生飼育器具を用いた浮遊幼生の飼育方法であって、
飼育水の水中に前記浮遊幼生飼育器具を設ける工程と、
前記第1噴水ノズルから飼育水を噴射して前記飼育器具本体の内側空間に水流を生じさせる工程と、
前記飼育器具本体の内側空間に浮遊幼生を投入する工程と、
前記飼育器具本体の内側空間に浮遊幼生の餌を投入する工程とを備える、浮遊幼生の飼育方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タコなどの水生生物の浮遊幼生を飼育するための浮遊幼生飼育器具、浮遊幼生飼育装置および浮遊幼生の飼育方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水産物であるタコの消費量は、和食ブームの広がりに伴って世界的に増加傾向にある。このような背景下で、タコの養殖への関心が高まっているが、タコは、浮遊幼生の時期を経ることから、その養殖は容易ではない。
【0003】
下記非特許文献1には、マダコの養殖における課題として、「マダコの浮遊幼生が沈降して死亡すること」が記載されており、その解決策として、「下降流を生じさせるエアレーション設備を幼生飼育水槽から離れたサーバー水槽に設けた水流飼育装置を用いること」が記載されている。
【0004】
下記特許文献1~3には、水生生物の飼育に用いられる水槽が開示されている。つまり、下記特許文献1には、水槽本体の内側空間にエリア形成部材が設けられ、エリア形成部材の外側空間にエアレーション設備が設けられた水槽が開示されている。この水槽において、エリア形成部材の内側空間と外側空間とは、エリア形成部材に形成された複数の水流通用孔部で連通されており、内側空間の汚れた飼育水は、複数の水流通用孔部を通して外側空間に排出される。
【0005】
下記特許文献2には、水槽部の内側空間にパネル部材からなる水槽が設けられた飼育用水槽が開示されている。この飼育用水槽において、水槽の内側空間と外側空間とは、パネル部材に形成された複数の吸込み孔で連通されており、内側空間の汚れた飼育水は、複数の吸込み孔を通して外側空間に排出される。外側空間に排出された飼育水は、仕切板に形成された連通孔を通して濾過部に与えられ、濾過装置で濾過された後、吸込み孔の上方に設けられた供給パイプから内側空間に戻される。
【0006】
下記特許文献3には、水槽と濾過槽が並べて設けられた飼育水槽装置が開示されている。この飼育水槽装置において、水槽の底部には、吸込口と噴出口が互いに近接して形成されている。吸込口には、濾過槽に設けられたエアリフトポンプが接続されており、噴出口には、濾過槽に設けられた水中ポンプが接続されている。水槽の内側空間の汚れた飼育水は、吸込口およびエアリフトポンプを通して濾過槽に排出される。濾過槽で濾過された飼育水は、水中ポンプおよび噴出口を通して水槽に戻される。
【0007】
非特許文献1に開示された水流飼育装置では、サーバー水槽と幼生飼育水槽とが互いに離れて設けられているため、構成が複雑であるという問題があった。また、人工飼料、生物のミンチ、生きていないガザミゾエアなどを餌とする場合には、生きたガザミゾエアを餌とする場合に比べて舞い上がらせることが困難であり、これらを餌として用いることは事実上できなかった。さらに、幼生飼育水槽の飼育水を排出するためのホースが細いため、当該飼育水の水質が悪化し易いという問題があった。なお、浮遊幼生が水中に漂っている餌しか食べないことは、広く知られた事実である。
【0008】
非特許文献1に開示された水流飼育装置に特許文献1~3に開示された構成を組み合わせれば、水流飼育装置の構成を簡素化できると考えられる。つまり、特許文献1および2に開示された構成を組み合わせれば、サーバー水槽の内側空間に幼生飼育水槽が設けられた構成となり、送水ホースなどを省略して構成を簡素化できると考えられる。一方、特許文献3に開示された構成を組み合わせれば、サーバー水槽と幼生飼育水槽とが横並びで一体化された構成となり、送水ホースなどを省略して構成を簡素化できると考えられる。しかしながら、これらの組合せの構成でも、浮遊幼生の餌(特に、生きていない餌)を効果的に舞い上がらせることができず、浮遊幼生の餌の捕食を促すことができなかった。また、飼育水の水質悪化を十分に抑制することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】実用新案登録第3045058号公報
【特許文献2】特開2014-204695号公報
【特許文献3】特開2010-57383号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】團重樹,“マダコ幼生の行動特性に基づいた種苗生産技術の開発”,日本水産学会誌/87巻(2021)5号p.453-456,[online],2021年,日本水産学会,[令和5年3月17日検索],インターネット <https://www.fra.affrc.go.jp/topics/20180216/01.pdf>
【発明の概要】
【0011】
本発明は上記問題に対処するためになされたものであり、浮遊幼生の餌を効果的に舞い上がらせることができるとともに、飼育水の水質悪化を十分に抑制できる、浮遊幼生飼育器具、浮遊幼生飼育装置および浮遊幼生の飼育方法を提供することを目的とする。
【0012】
上記目的を達成するため、本発明に係る浮遊幼生飼育器具の特徴は、水生生物の浮遊幼生を飼育するための飼育水の水中に設置される浮遊幼生飼育器具であって、円弧状に湾曲した底面を有し、内側空間に飼育水が溜められる筒状の飼育器具本体と、前記飼育器具本体の内面に沿って設けられ、飼育水を前記底面の最下部に向けて周方向から噴射する第1噴水ノズルを有する第1噴水手段と、前記飼育器具本体の一方の開口端部に設けられ、前記飼育器具本体の内側空間の浮遊幼生が外側空間に流出することを防止する第1蓋と、前記飼育器具本体の他方の開口端部に設けられ、前記飼育器具本体の内側空間の浮遊幼生が外側空間に流出することを防止する第2蓋とを備え、前記第1蓋および前記第2蓋の少なくとも一方には、飼育水は通すが浮遊幼生は通さない大きさの複数の通水孔が設けられることにある。
【0013】
この構成によれば、第1噴水ノズルから噴射された飼育水が飼育器具本体の円弧状に湾曲した底面に沿って周方向へ流れるため、飼育器具本体の内側空間で浮遊幼生や浮遊幼生の餌を効果的に舞い上がらせることができる。したがって、浮遊幼生が沈降して死亡することを防止できるとともに、浮遊幼生の餌の捕食を促すことができる。なお、浮遊幼生には、タコの浮遊幼生のほか、エビまたはカニなどの甲殻類の浮遊幼生または魚類(例えば、ヒラメ、カレイ、マダイ、カワハギ、タツノオトシゴなど)が含まれる。
【0014】
飼育器具本体の開口端部で構成された開口の全領域に通水孔を設けることができるので、通水孔の総面積を広く確保できる。これにより、飼育器具本体の内側空間と外側空間との間の換水を十分に行うことが可能であり、飼育水の水質悪化を十分に抑制できる。また、飼育器具本体の内側空間の飼育水を複数の通水孔の全体から緩やかに排水できるので、第1蓋および第2蓋に浮遊幼生や浮遊幼生の餌が張り付くことがなく、安定して排水できる。
【0015】
第1噴水ノズルによる飼育水の噴射を停止したときには、浮遊幼生の糞や餌を飼育器具本体の底面の最下部に溜めることができるので、これらを吸引装置などで回収し易い。さらに、飼育器具本体を既存の塩ビ管などを切断して簡単に作ることができる。
【0016】
本発明に係る浮遊幼生飼育器具の他の特徴は、前記飼育器具本体の内面の位置を、前記底面の円弧の軸を中心とする時計の短針の位置で示すとき、前記第1噴水ノズルは、6時の位置から外れた位置に設けられることにある。
【0017】
6時の位置に第1噴水ノズルが設けられた場合には、第1噴水ノズルの周囲に浮遊幼生の糞や餌が滞留するおそれがある。上記構成では、6時の位置から外れた位置に第1噴水ノズルが設けられるので、浮遊幼生の糞や餌の滞留を抑制できる。
【0018】
本発明に係る浮遊幼生飼育器具の他の特徴は、前記第1噴水ノズルは、4時の位置から5時の位置までの間に設けられることにある。
【0019】
この構成によれば、第1噴水ノズルから噴射された飼育水の水流を飼育器具本体の底面の最下部に勢いよく与えることが可能であり、浮遊幼生や浮遊幼生の餌を効果的に舞い上がらせることができる。
【0020】
本発明に係る浮遊幼生飼育器具の他の特徴は、前記通水孔は、前記第1蓋および前記第2蓋の両方に設けられることにある。
【0021】
この構成によれば、第1蓋の通水孔から飼育器具本体の内側空間へ流入した飼育水の水流を、第2蓋の通水孔から飼育器具本体の外側空間へ向かわせることができるので、飼育器具本体の内側空間と外側空間との間の換水を十分に行うことが可能であり、飼育水の水質悪化を効果的に抑制できる。
【0022】
本発明に係る浮遊幼生飼育器具の他の特徴は、前記通水孔は、浮遊幼生の餌を通さない大きさに形成されることにある。
【0023】
この構成によれば、飼育器具本体の内側空間に投入された浮遊幼生の餌が通水孔から外側空間へ流出することを防止でき、外側空間における飼育水や設備(浄化装置および給気装置など)の汚れを抑制できる。
【0024】
本発明に係る浮遊幼生飼育器具の他の特徴は、前記第1蓋および前記第2蓋の少なくとも一方は、柔軟性を有する網状に形成されることにある。
【0025】
この構成によれば、第1蓋および第2蓋の少なくとも一方を、入手が容易な市販の網で構成できるので、製造コストを低減できる。また、第1蓋および第2蓋の取付作業、交換作業およびメンテナンス作業を容易に行うことができる。
【0026】
本発明に係る浮遊幼生飼育器具の他の特徴は、前記第1噴水手段は、前記飼育器具本体の軸方向に間隔を隔てて設けられた複数の前記第1噴水ノズルを有することにある。
【0027】
この構成によれば、複数の第1噴水ノズルによって飼育器具本体の内側空間の広い領域で水流を生じさせることができる。
【0028】
本発明に係る浮遊幼生飼育器具の他の特徴は、飼育水を前記飼育器具本体の内面に沿うように上方に向けて噴射する第2噴水ノズルを有する第2噴水手段を備え、前記第2噴水ノズルは、6時の位置を挟んで前記第1噴水ノズルとは反対側の位置に設けられることにある。
【0029】
この構成によれば、第1噴水ノズルから噴射された飼育水によって、飼育器具本体の底面に沿って周方向に流れる水流を生じさせることができるとともに、第2噴水ノズルから噴射された飼育水によって、飼育器具本体の内面に沿って上方に流れる水流を生じさせることができる。したがって、浮遊幼生および浮遊幼生の餌を効果的に舞い上がらせることができる。
【0030】
本発明に係る浮遊幼生飼育器具の他の特徴は、前記第2噴水手段は、前記飼育器具本体の軸方向に間隔を隔てて設けられた複数の前記第2噴水ノズルを有することにある。
【0031】
この構成によれば、複数の第2噴水ノズルによって飼育器具本体の内側空間の広い領域で水流を生じさせることができる。
【0032】
本発明に係る浮遊幼生飼育器具の他の特徴は、前記第2噴水ノズルの数は、前記第1噴水ノズルの数よりも少なく定められることにある。
【0033】
この構成によれば、飼育器具本体の上部に向けて流れる水流の勢いを抑えることができるので、上部から下部へ向かう水流、すなわち浮遊幼生や浮遊幼生の餌の沈降を促す水流の発生を抑制できる。
【0034】
本発明に係る浮遊幼生飼育器具の他の特徴は、前記飼育器具本体の上部には、前記飼育器具本体の内側空間を開放する開口を構成する開口部が設けられることにある。
【0035】
この構成によれば、開口から飼育器具本体の内側空間に対して浮遊幼生の出し入れを行うことができるとともに、餌を投入することができる。また、浮遊幼生飼育器具の全体を逆さにすることによって、飼育器具本体の内側空間の浮遊幼生や浮遊幼生から育った水生生物(稚ダコなど)を開口から落とし出すことができる。
【0036】
本発明に係る浮遊幼生飼育器具の他の特徴は、前記第1噴水手段は、前記飼育器具本体の壁部に設けられた貫通孔と、前記貫通孔に挿通されるとともに、先端部に前記第1噴水ノズルが接続された給水管と、前記給水管および前記第1噴水ノズルを保持する保持部とを有し、前記保持部は、前記給水管および前記第1噴水ノズルの前記飼育器具本体の内面に対する傾斜角度を調整可能に構成されることにある。
【0037】
この構成によれば、給水管の先端部および第1噴水ノズルと壁部の内面との間隔を保持部で調整することによって、第1噴水ノズルの向きを調整できる。
【0038】
上記目的を達成するため、本発明に係る浮遊幼生飼育装置の特徴は、水槽と、上記のいずれかの浮遊幼生飼育器具とを備え、少なくとも1つの前記浮遊幼生飼育器具が前記水槽に溜められた飼育水の水中に設けられることにある。
【0039】
この構成によれば、水槽に溜められた飼育水の水中に浮遊幼生飼育器具が設置されるので、浮遊幼生を陸上で飼育したり、管理したりすることができ、また、浮遊幼生を浮遊幼生飼育装置と共に車両等で運搬することができる。
【0040】
本発明に係る浮遊幼生飼育装置の他の特徴は、前記飼育器具本体の外側空間に溜められた飼育水の水中に空気を供給する給気装置を備えることにある。
【0041】
この構成によれば、飼育水の水中に空気を供給することができるので、飼育水の溶存酸素を増やすことができる。飼育水の水中に空気を供給する際に生じる水流は、飼育器具本体の外側空間で生じるため、内側空間には影響しない。
【0042】
本発明に係る浮遊幼生飼育装置の他の特徴は、前記飼育器具本体の外側空間に溜められた飼育水を浄化する浄化装置を備えることにある。
【0043】
この構成によれば、飼育器具本体の外側空間に溜められた飼育水を浄化することによって、飼育水の全体を浄化することができる。飼育水を浄化する際に生じる水流は、飼育器具本体の外側空間で生じるため、内側空間には影響しない。
【0044】
上記目的を達成するため、本発明に係る浮遊幼生の飼育方法の特徴は、上記のいずれかの浮遊幼生飼育器具を用いた浮遊幼生の飼育方法であって、飼育水の水中に前記浮遊幼生飼育器具を設ける工程と、前記第1噴水ノズルから飼育水を噴射して前記飼育器具本体の内側空間に水流を生じさせる工程と、前記飼育器具本体の内側空間に浮遊幼生を投入する工程と、前記飼育器具本体の内側空間に浮遊幼生の餌を投入する工程とを備えることにある。
【0045】
この構成によれば、第1噴水ノズルから噴射された飼育水が飼育器具本体の円弧状に湾曲した底面に沿って周方向へ流れるため、飼育器具本体の内側空間で浮遊幼生や浮遊幼生の餌を効果的に舞い上がらせることができる。したがって、浮遊幼生が沈降して死亡することを防止できるとともに、浮遊幼生の餌の捕食を促すことができる。また、飼育器具本体の開口端部で構成された開口の全領域に通水孔を形成できるので、飼育器具本体の内側空間と外側空間との間の換水を十分に行うことが可能であり、飼育水の水質悪化を十分に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】本発明の実施形態に係る浮遊幼生飼育装置の構成を示す正面図である。
図2】本発明の実施形態に係る浮遊幼生飼育器具の構成を示す斜視図である。
図3】(A)は、飼育器具本体、第1噴水手段および第2噴水手段の構成を示す正面から見た断面図であり、(B)は、(A)におけるIIIB-IIIB線断面図である。
図4】(A)は、第1噴水手段の構成を示す正面から見た部分断面図であり、(B)は、(A)に対応する平面図である。
図5】本発明の変形例に係る浮遊幼生飼育器具の構成を示す斜視図である。
図6】本発明の他の実施形態に係る浮遊幼生飼育装置の構成を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明に係る浮遊幼生飼育器具、浮遊幼生飼育装置および浮遊幼生の飼育方法の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0048】
図1は、本発明の実施形態に係る浮遊幼生飼育装置10の構成を示す正面図である。図2は、本発明の実施形態に係る浮遊幼生飼育器具14の構成を示す斜視図である。図3(A)は、飼育器具本体20、第1噴水手段26および第2噴水手段28の構成を示す正面から見た断面図であり、図3(B)は、図3(A)におけるIIIB-IIIB線断面図である。
図4(A)は、第1噴水手段26の構成を示す正面から見た部分断面図であり、図4(B)は、図4(A)に対応する平面図である。
【0049】
図1に示す浮遊幼生飼育装置10は、マダコの浮遊幼生を飼育することを目的として設計されたものであり、浮遊幼生を飼育するための飼育水Wを溜める水槽12と、水槽12に溜められた飼育水Wの水中に設置される浮遊幼生飼育器具14と、給気装置16と、浄化装置18とを備えている。
【0050】
水槽12は、少なくとも1つの浮遊幼生飼育器具14を収容できる大きさを有する平面視で四角形の容器であり、FRP(繊維強化プラスチック)で形成されている。水槽12の高さは、飼育水Wを溜めたときの水深が浮遊幼生飼育器具14の上下方向長さとほぼ同じか、それよりも深くなるように定められている。
【0051】
なお、水槽12は、FRP以外の樹脂材(例えば、アクリルやポリカーボネイトなど)、ガラス材またはコンクリート材などで構成されていてもよい。また、水槽12は、シート材で構成することもできる。また、水槽12の平面視形状は、四角形に限定されるものではなく、円形、楕円形および六角形などに形成されてもよい。
【0052】
図2に示すように、浮遊幼生飼育器具14は、水槽12に溜められた飼育水W(図1)の水中で浮遊幼生を飼育するための器具であり、飼育器具本体20と、第1蓋22と、第2蓋24と、第1噴水手段26と、第2噴水手段28とを有している。
【0053】
図3(A)に示すように、飼育器具本体20は、内側空間S1に飼育水Wが溜められる筒状の部材である。本実施形態では、飼育器具本体20の全体が、塩ビ管を切断することによって、円筒状に形成されている。したがって、本実施形態の飼育器具本体20は、円筒状の内面30を有しており、内面30の下部が、円弧状に湾曲した底面32となっている。飼育器具本体20の大きさは、特に限定されるものではないが、本実施形態では、内径395mm、外径420mm、軸方向長さ200mmに定められている。
【0054】
図3(A)に示すように、飼育器具本体20の上部には、内側空間S1を開放する平面視で四角形の開口Qを構成する開口部34が設けられている。飼育器具本体20の内側空間S1は、すなわち浮遊幼生の飼育空間である。開口部34の大きさは、特に限定されるものではないが、本実施形態では、周方向長さ200mm、軸方向長さ120mmに定められている。
【0055】
なお、開口部34の平面視形状は、四角形に限定されるものではなく、円形および楕円形などに形成されてもよい。
【0056】
図2に示す第1蓋22は、飼育器具本体20の一方の開口端部20aに設けられ、飼育器具本体20の内側空間S1(図3(A))の浮遊幼生が外側空間S2に流出することを防止するものである。第1蓋22には、飼育水Wは通すが浮遊幼生および浮遊幼生の餌は通さない大きさの複数の通水孔36が設けられている。本実施形態の第1蓋22は、合成樹脂によって、柔軟性を有する円形の網状に形成されており、細かな網目が通水孔36として機能する。
【0057】
本実施形態で使用される浮遊幼生の餌は、人工飼料、生物のミンチ、死んだゾエア(冷凍ゾエア)および活きゾエアなどであり、通水孔(網目)36の目合は、これらを通さない大きさ(例えば、75μm)に定められている。第1蓋22の直径は、飼育器具本体20の外径よりも大きく定められており、第1蓋22の外周部が飼育器具本体20の一方の開口端部20aの端面および外周面に接着剤で接着されている。なお、通水孔(網目)36の目合が餌を通さないとは、給餌した餌(換言すれば餌の原形)を通さないのであって、餌の形が崩れて細分化した餌の断片は通すこともあり得るものであることは当然である。
【0058】
図2に示す第2蓋24は、飼育器具本体20の他方の開口端部20bに設けられ、飼育器具本体20の内側空間S1(図3(A))の浮遊幼生が外側空間S2に流出することを防止するものである。第2蓋24は、第1蓋22と同様に構成されており、第2蓋24の外周部が飼育器具本体20の他方の開口端部20bの端面および外周面に接着剤で接着されている。
【0059】
図1に示す第1噴水手段26は、飼育器具本体20の内側空間S1(図3(A))で浮遊幼生および浮遊幼生の餌を舞い上がらせるための水流を生じさせる手段である。
【0060】
図3(B)に示すように、第1噴水手段26は、5つの第1噴水ノズル38a~38eと、飼育器具本体20の壁部20cに設けられた5つの貫通孔40a~40eと、5本の給水管42a~42eとを有している。また、図1に示すように、第1噴水手段26は、ヘッダ44と、ヘッダ44に飼育水Wを供給するポンプ46とを有している。
【0061】
図3(B)に示す第1噴水ノズル38a~38eは、給水管42a~42eから供給された飼育水Wを飼育器具本体20の底面32の最下部32aに向けて周方向から噴射するための部材であり、鉄等の金属によって円管状に形成されている。第1噴水ノズル38a~38eは、飼育器具本体20の軸方向に間隔を隔てて、飼育器具本体20の内面30に対して周方向に沿って設けられている。飼育器具本体20の底面32は内面30の下部である。したがって、第1噴水ノズル38a~38eは、底面32に対して周方向に沿って設けられているとも言える。
【0062】
図3(A)に示すように、飼育器具本体20の内面30の位置を、底面32の円弧の軸Pを中心とする時計の短針の位置で示すとき、第1噴水ノズル38a~38eは、6時の位置から外れた位置に設けられている。より詳細には、4時の位置から5時の位置までの間に設けられている。
【0063】
給水管42a~42eは、弾性を有する合成樹脂で形成されており、壁部20cに設けられた貫通孔40a~40eに水密的に挿通されている。そして、給水管42a~42eの一方端部に、第1噴水ノズル38a~38eの基端部が挿し込まれて接続されており、給水管42a~42eの他方端部に、ヘッダ44の分岐部が挿し込まれて接続されている。ヘッダ44の入口部には、飼育水Wを供給するためのポンプ46が接続されている。
【0064】
また、図3(B)に示すように、第1噴水手段26は、給水管42a~42eおよび第1噴水ノズル38a~38eを保持する5つの保持部48a~48eを有している。以下では、保持部48a~48eの構成について、1つの保持部48aに着目して説明する。
【0065】
図4(A),(B)に示すように、本実施形態の保持部48aは、1本の線状の部材で構成されている。図4(B)に示すように、飼育器具本体20の壁部20cには、給水管42aの先端部と第1噴水ノズル38aとの接続部分に対応して、保持部48aが挿通される2つの貫通孔50が形成されている。図4(A)に示すように、保持部48aは、上記接続部分に引掛けられた状態でU字状に曲げられ、両端部が貫通孔50を通して外側空間S2に引き出される。そして、保持部48aのうち内側空間S1に位置する部分の長さを適宜調整した後、両端部を互いに繋いで固定する。なお、保持部48aの材質は、特に限定されるものではないが、鉄等の金属である場合には、両端部をねじるだけで簡単に繋ぐことができる。
【0066】
保持部48aは、壁部20cの内面30に対する給水管42aおよび第1噴水ノズル38aの傾斜角度を調整可能なように構成されている。つまり、保持部48aのうち内側空間S1に位置する部分の長さは、保持部48aの両端部を互いに繋ぐ位置を変えることによって調整可能であり、当該長さを長くすると、給水管42aの先端部および第1噴水ノズル38aは壁部20cの内面30から遠ざかり、上記傾斜角度は大きくなる。一方、図4(A)中に二点鎖線で示すように、当該長さを短くすると、給水管42aの先端部および第1噴水ノズル38aは壁部20cの内面30に近づき、上記傾斜角度は小さくなる。
【0067】
図1に示す第2噴水手段28は、第1噴水手段26が生じさせた水流を上方へ導くための補助水流を生じさせる手段である。
【0068】
図3(B)に示すように、第2噴水手段28は、3つの第2噴水ノズル54a~54cと、飼育器具本体20の壁部20cに設けられた3つの貫通孔56a~56cと、3本の給水管58a~58cと、3つの保持部60a~60cとを有している。また、図1に示すように、第2噴水手段28は、ヘッダ62と、ポンプ64とを有している。
【0069】
図3(B)に示す第2噴水ノズル54a~54cは、給水管58a~58cから供給された飼育水Wを飼育器具本体20の内面30に沿うように上方に向けて噴射するための部材であり、鉄等の金属によって円管状に形成されている。第2噴水ノズル54a~54cは、飼育器具本体20の軸方向に間隔を隔てて、飼育器具本体20の内面30に対して周方向に沿って設けられている。図3(A)に示すように、第2噴水ノズル54a~54cは、6時の位置を挟んで第1噴水ノズル38a~38eとは反対側の位置に設けられている。より詳細には、7時の位置から8時の位置までの間に設けられている。第2噴水ノズル54a~54cの数(本実施形態では3本)は、第1噴水ノズル38a~38eの数(本実施形態では5本)よりも少なく定められている。
【0070】
第2噴水手段28の貫通孔56a~56c、給水管58a~58c、保持部60a~60c、ヘッダ62およびポンプ64は、第1噴水手段26の給水管42a~42e、保持部48a~48e、ヘッダ44およびポンプ46と同様に構成されているので、これらの説明は省略する。
【0071】
給気装置16は、飼育器具本体20の外側空間S2に溜められた飼育水Wの水中に空気を供給する装置であり、ポンプ66と、空気吐出具68と、これらを互いに連通させるホース70とを有している。ポンプ66が駆動されると、ポンプ66からホース70を通して空気吐出具68に空気が供給され、この空気が空気吐出具68から飼育水Wの水中に吐出される。
【0072】
浄化装置18は、飼育器具本体20の外側空間S2に溜められた飼育水Wを浄化する装置であり、ポンプ72と、浄化部74と、ポンプ72に接続された吸入管76と、浄化部74に接続された吐出管78とを有している。ポンプ72が駆動されると、吸入管76から飼育水Wが吸引されて浄化部74に与えられる。そして、この飼育水Wが浄化部74で浄化された後、吐出管78を通して外側空間S2に戻される。
【0073】
(浮遊幼生の飼育方法)
次に、浮遊幼生の飼育方法について説明する。浮遊幼生飼育装置10(浮遊幼生飼育器具14を含む)を用いて浮遊幼生を飼育する際には、飼育者は、まず、水槽12に溜められた飼育水Wの水中に浮遊幼生飼育器具14を設ける工程を実行する。この工程では、飼育器具本体20の上部に設けられた開口部34が水面から上方に出るように、浮遊幼生飼育器具14を水槽12内で位置決めする。この場合、浮遊幼生飼育器具14は、ブロック(図示せず)などを用いて水槽12内で動かないように固定するとよい。
【0074】
続いて、飼育者は、第1噴水ノズル38a~38eおよび第2噴水ノズル54a~54cから飼育水Wを噴射して、飼育器具本体20の内側空間S1に水流を生じさせる工程を実行する。この工程では、飼育対象である浮遊幼生の種類や餌の種類に応じて、各ノズルの噴射量や噴射方向を適宜調整することが望ましい。
【0075】
その後、飼育者は、飼育器具本体20の内側空間S1に、浮遊幼生を投入する工程と、浮遊幼生の餌を投入する工程とを実行する。飼育器具本体20の上部には、開口部34が設けられているので、飼育者は、開口部34で構成された開口Qから浮遊幼生および餌を投入し易い。
【0076】
飼育器具本体20の内側空間S1で浮遊幼生が十分に育つ(例えば、着底するまで育つ)と、飼育者は、内側空間S1から育った水生生物(稚ダコなど)を取り出す。このとき、飼育者は、浮遊幼生飼育器具14を逆さにすることによって、水生生物(稚ダコなど)を開口Qから落とし出すことができる。
【0077】
(実施形態に係る浮遊幼生飼育装置の効果)
本実施形態によれば、上記構成により以下の各効果を奏することができる。すなわち、第1噴水ノズル38a~38eから噴射された飼育水Wによって、飼育器具本体20の円弧状に湾曲した底面32に沿って周方向へ流れる水流を生じさせることができ、さらに、第2噴水ノズル54a~54cから噴射された飼育水Wによって、飼育器具本体20の内面30に沿って上方に流れる水流を生じさせることができる。したがって、飼育器具本体20の内側空間S1で浮遊幼生や浮遊幼生の餌を効果的に舞い上がらせることができ、浮遊幼生が沈降して死亡することを防止できるとともに、浮遊幼生の餌の捕食を促すことができる。
【0078】
飼育器具本体20の開口端部20a,20bで構成された開口の全領域に通水孔36を設けることができるので、通水孔36の総面積を広く確保できる。これにより、飼育器具本体20の内側空間S1と外側空間S2との間の換水を十分に行うことが可能であり、飼育水Wの水質悪化を十分に抑制できる。また、飼育器具本体20の内側空間S1の飼育水Wを複数の通水孔36の全体から緩やかに排水できるので、第1蓋22および第2蓋24に浮遊幼生や浮遊幼生の餌が張り付くことがなく、安定して排水できる。
【0079】
第1噴水ノズル38a~38eおよび第2噴水ノズル54a~54cによる飼育水Wの噴射を停止したときには、浮遊幼生の糞や餌を飼育器具本体20の底面32の最下部32aに溜めることができるので、これらを吸引装置などで回収し易い。さらに、飼育器具本体20を既存の塩ビ管などを切断して簡単に作ることができる。
【0080】
第1噴水ノズル38a~38eおよび第2噴水ノズル54a~54cは、6時の位置から外れた位置に設けられるので、浮遊幼生の糞や餌の滞留を抑制できる。第1噴水ノズル38a~38eは、4時の位置から5時の位置までの間に設けられるので、第1噴水ノズルから噴射された飼育水Wの水流を飼育器具本体20の底面32の最下部32aに勢いよく与えることが可能であり、浮遊幼生や浮遊幼生の餌を効果的に舞い上がらせることができる。
【0081】
第1蓋22の通水孔36から飼育器具本体20の内側空間S1へ流入した飼育水Wの水流を、第2蓋24の通水孔36から飼育器具本体20の外側空間S2へ向かわせることができるので、内側空間S1と外側空間S2との間の換水を十分に行うことが可能であり、飼育水Wの水質悪化を効果的に抑制できる。
【0082】
通水孔36は、浮遊幼生および浮遊幼生の餌を通さない大きさに形成されるので、内側空間S1の浮遊幼生および浮遊幼生の餌が通水孔36から外側空間S2へ流出することを防止でき、外側空間S2における飼育水Wや設備(浄化装置18および給気装置16など)の汚れを抑制できる。
【0083】
第1蓋22および第2蓋24は、入手が容易な市販の網で構成できるので、製造コストを低減できる。また、第1蓋22および第2蓋24の取付作業、交換作業およびメンテナンス作業を容易に行うことができる。
【0084】
複数の第1噴水ノズル38a~38eと複数の第2噴水ノズル54a~54cによって飼育器具本体20の内側空間S1の広い領域で水流を生じさせることができる。
【0085】
第2噴水ノズル54a~54cの数は、第1噴水ノズル38a~38eの数よりも少なく定められるので、飼育器具本体20の上部に向けて流れる水流の勢いを抑えることができ、上部から下部へ向かう水流、すなわち浮遊幼生や浮遊幼生の餌の沈降を促す水流の発生を抑制できる。
【0086】
飼育器具本体20の上部の開口Qから飼育器具本体20の内側空間S1に対して浮遊幼生の出し入れを行うことができるとともに、餌を投入することができる。また、浮遊幼生飼育器具14の全体を逆さにすることによって、飼育器具本体20の内側空間S1の浮遊幼生や浮遊幼生から育った水生生物(稚ダコなど)を開口Qから落とし出すことができる。
【0087】
第1噴水手段26では、給水管42a~42eの先端部および第1噴水ノズル38a~38eと壁部20cの内面30との間隔を保持部48a~48eで調整することによって、第1噴水ノズル38a~38eの向きを調整できる。第2噴水手段28では、給水管58a~58cの先端部および第2噴水ノズル54a~54cと壁部20cの内面30との間隔を保持部60a~60cで調整することによって、第2噴水ノズル54a~54cの向きを調整できる。
【0088】
水槽12に溜められた飼育水Wの水中に浮遊幼生飼育器具14が設置されるので、浮遊幼生を陸上で飼育したり、管理したりすることができ、また、浮遊幼生を浮遊幼生飼育装置10と共に車両等で運搬することができる。
【0089】
給気装置16によって、飼育水Wの水中に空気を供給することができるので、飼育水Wの溶存酸素を増やすことができる。飼育水Wの水中に空気を供給する際に生じる水流は、飼育器具本体20の外側空間S2を流れるため、内側空間S1には影響しない。
【0090】
浄化装置18によって、飼育器具本体20の外側空間S2に溜められた飼育水Wを浄化することができ、ひいては飼育水Wの全体を浄化することができる。飼育水Wを浄化する際に生じる水流は、飼育器具本体20の外側空間S2を流れるため、内側空間には影響しない。
【0091】
(変形例)
図5は、変形例に係る浮遊幼生飼育器具80の構成を示す斜視図である。図6は、他の実施形態に係る浮遊幼生飼育装置82の構成を示す正面図である。本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されず、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0092】
上記実施形態では、浮遊幼生飼育装置10がマダコの浮遊幼生を飼育することを目的として設計されているが、飼育対象は、マダコの浮遊幼生に限定されるものではない。水生生物の浮遊幼生の中には、餌を捕食しないものが存在するが、そのような浮遊幼生についても沈降による死亡が課題になることから、飼育対象とすることができる。飼育対象を変更する場合には、飼育対象(浮遊幼生)の種類に応じて、第1噴水ノズル38a~38eおよび第2噴水ノズル54a~54cの噴射量や噴射方向が調整されてもよい。
【0093】
上記実施形態では、浮遊幼生飼育器具14の飼育器具本体20が円筒状に形成されているが、飼育器具本体20の形状は、円弧状に湾曲した底面32を有する筒状であればよく、円筒状に限定されるものではない。例えば、飼育器具本体20の形状は、全体が半円筒状であってもよいし、一部に平坦面を有する異形断面の筒状であってもよい。
【0094】
上記実施形態では、第1蓋22および第2蓋24の両方が網状に形成されているが、第1蓋22および第2蓋24の一方だけが網状に形成され、他方は、通水孔を有さないシート状または板状に形成されてもよい。また、通水孔36は、第1蓋22および第2蓋24の一部にだけ形成されてもよい。さらに、第1蓋22および第2蓋24は、複数の通水孔36を有する金網や不織布で構成されてもよい。
【0095】
上記実施形態では、第1噴水手段26および第2噴水手段28の両方が用いられているが、第2噴水手段28は省略されてもよい。例えば、図5に示す浮遊幼生飼育器具80のように、第2蓋84が通水孔を有さないシート状に形成されるとともに、第2噴水手段28が省略されてもよい。
【0096】
上記実施形態では、保持部48a~48e,60a~60cが1本の線状の部材で構成されているが、保持部は、ネジ部材とフック部材の組み合わせなど、引掛け機能と長さ調整機能とを有する複合部材(図示省略)で構成されてもよい。
【0097】
上記実施形態では、1つの水槽12に溜められた飼育水Wの水中に1つ浮遊幼生飼育器具14が設けられているが、1つの水槽12に溜められた飼育水Wの水中に2つ以上の浮遊幼生飼育器具14が設けられてもよい。例えば、図6に示す浮遊幼生飼育装置82のように、1つの水槽12に溜められた飼育水Wの水中に2つの浮遊幼生飼育器具14が水平な径方向に並べられた縦列で設けられてもよい。また、浮遊幼生飼育器具14は、軸方向に並べられた並列で設けられてもよい。また、沿岸地域においては、飼育水Wとしての天然の海水中に筏などを用いて1つまたは複数の浮遊幼生飼育器具14が設けられてもよい。この場合、給気装置16や浄化装置18は省略されてもよい。
【0098】
上記実施形態では、浮遊幼生飼育器具14は、開口部34が水槽12内の水面から上方に位置するように設置した。しかし、浮遊幼生飼育器具14は、開口部34が水槽12内の水中に水没するように設置することもできる。この場合、開口部34は、通水孔を有する網状(第1蓋22および第2蓋24と同様のもの)または通水孔を有さないシート状または板状の開閉自在な蓋体で塞ぐとよい。
【符号の説明】
【0099】
P…軸、Q…開口、S1…内側空間、S2…外側空間、10,82…浮遊幼生飼育装置、12…水槽、14…浮遊幼生飼育器具、16…給気装置、18…浄化装置、20…飼育器具本体、20a,20b…開口端部、20c…壁部、22…第1蓋、24…第2蓋、26…第1噴水手段、28…第2噴水手段、30…内面、32a…最下部、32…底面、34…開口部、36…通水孔、38a~38e…第1噴水ノズル、40a~40e…貫通孔、42a~42e…給水管、44,62…ヘッダ、46,64,66…ポンプ、48a~48e…保持部、50…貫通孔、54a~54c…第2噴水ノズル、56a~56c…貫通孔、58a~58c…給水管、60a~60c…保持部、68…空気吐出具、70…ホース、72…ポンプ、74…浄化部、76…吸入管、78…吐出管。
図1
図2
図3
図4
図5
図6