(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138941
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】糸巻取機
(51)【国際特許分類】
D02J 1/22 20060101AFI20241002BHJP
B65H 57/16 20060101ALI20241002BHJP
B65H 57/28 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
D02J1/22 F
D02J1/22 C
B65H57/16
B65H57/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049674
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】松井 崇倫
(72)【発明者】
【氏名】荒木 峻平
【テーマコード(参考)】
3F110
4L036
【Fターム(参考)】
3F110CA04
3F110DA02
3F110DB04
3F110DB12
4L036PA49
(57)【要約】
【課題】糸掛機構に設けられた保持部を小さな力で位置調節可能にする。
【解決手段】紡糸引取機1は、複数の支点ガイド20への糸掛けを行うことが可能に構成された糸掛機構21を備える。糸掛機構21は、保持部22と、エアシリンダ57を有する前後駆動機構45と、を有する。エアシリンダ57は、シリンダ本体66とピストンロッド68とを有し、加力状態と非加力状態との間で状態を変更可能である。前後駆動機構45は、ラック81と、ピニオン82と、移動体99を含む伝達機構83とを有する。伝達機構83は、保持部22が所定の位置から第1距離D1移動させられたときに、保持部22の移動に伴ってピニオン82を回転させることにより、ピニオン82を前後方向において移動体99が移動する側と同じ側へ第1距離D1よりも短い第2距離D2移動させる。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の配列方向に並べて配置された複数のボビンに走行中の複数の糸をそれぞれ巻き取る糸巻取機であって、
前記複数のボビンに対応してそれぞれ設けられ、前記配列方向に並べて配置された複数の糸ガイドと、
前記複数の糸ガイドへの糸掛けを行うことが可能に構成された糸掛機構と、を備え、
前記糸掛機構は、
前記複数の糸ガイドに掛けられる前の前記複数の糸を互いに分けて保持可能に構成された保持部と、
駆動源を含み、前記配列方向の成分を有する第1方向において前記保持部を移動駆動可能に構成された駆動機構と、を有し、
前記駆動源は、
固定部と、前記固定部に対して動くことが可能な可動部と、を有し、且つ、前記可動部を介して前記保持部に対して前記第1方向に推力を加える加力状態と、前記保持部への前記推力の付与を解除する非加力状態との間で状態を変更可能に構成され、
前記駆動機構は、
設置位置が固定され、前記第1方向に延びた延在部材と、
前記可動部に回転自在に支持され、前記延在部材に接触して転がることにより前記延在部材に対して前記第1方向に移動可能に構成された回転部材と、
前記保持部と共に移動可能且つ前記第1方向に移動可能に構成された移動体を含み、前記推力の伝達方向において前記回転部材と前記保持部との間に配置された伝達機構と、を有し、
前記伝達機構は、
前記移動体が所定の位置から前記第1方向において所定の第1距離移動させられたときに、前記移動体の移動に伴って前記回転部材を回転させることにより、前記回転部材を前記第1方向において前記移動体が移動する側と同じ側へ前記第1距離よりも短い第2距離移動させるように構成されている、糸巻取機。
【請求項2】
前記糸掛機構は、
前記駆動源の状態が前記非加力状態であるときに、前記保持部の前記第1方向における位置を、所定の捕捉準備位置と、前記捕捉準備位置よりも前記第1方向における一方側の、前記複数の糸を捕捉可能な捕捉位置との間で手動調節可能に構成され、
前記駆動源の状態が前記加力状態であるときに、前記保持部を、前記捕捉位置から、前記捕捉位置よりも前記第1方向における前記一方側の糸掛開始位置へ移動させ、さらに、前記糸掛開始位置よりも前記第1方向における他方側の糸掛完了位置へ移動させることにより、前記保持部によって保持された前記複数の糸を前記複数の糸ガイドにそれぞれ掛けることが可能に構成されている請求項1に記載の糸巻取機。
【請求項3】
前記駆動源は、圧縮空気の圧力によって前記可動部を前記固定部に対して移動させるエアシリンダを有し、
前記エアシリンダは、前記固定部としてのシリンダ本体と、前記可動部としてのピストンと、を有し、
前記シリンダ本体は、第1ピストン室と、前記ピストンを隔てて前記第1ピストン室とは反対側に設けられた第2ピストン室と、を有し、
前記第1ピストン室及び前記第2ピストン室の両方から前記圧縮空気が排出されることにより、前記エアシリンダの状態が前記非加力状態になる請求項2に記載の糸巻取機。
【請求項4】
前記伝達機構は、
前記可動部と一体的に移動可能に設けられたベース部材と、
前記伝達方向において前記回転部材の下流側に配置され、前記ベース部材に回転自在に支持された第1従動回転部材と、
前記第1方向において前記第1従動回転部材と並べて配置され、前記ベース部材に回転自在に支持された第2従動回転部材と、
前記第1方向に延び且つ前記移動体が固定された延在部分を有し、前記第1従動回転部材及び前記第2従動回転部材に巻き掛けられることが可能に構成された巻掛部材と、を有する請求項1~3のいずれかに記載の糸巻取機。
【請求項5】
前記伝達機構は、
前記回転部材と一体的に回転可能に設けられ、且つ、前記伝達方向において前記第1従動回転部材及び前記第2従動回転部材よりも上流側に配置された第3従動回転部材、を有し、
前記第1方向及び前記第3従動回転部材の回転軸方向の両方と直交する所定の第2方向において、前記第3従動回転部材の回転軸中心は、前記第1従動回転部材の回転軸中心及び前記第2従動回転部材の回転軸中心と異なる位置に配置されている請求項4に記載の糸巻取機。
【請求項6】
前記第3従動回転部材のピッチ円直径は、前記回転部材のピッチ円直径と等しい請求項5に記載の糸巻取機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸巻取機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、所定の配列方向に並べて配置された複数のボビンに複数の糸をそれぞれ巻き取る糸巻取機が開示されている。より具体的には、糸巻取機は、複数のボビンに対応して設けられた複数の支点ガイド(糸ガイド)を有する。さらに、糸巻取機は、複数の糸を複数の糸ガイドにそれぞれ掛けるための糸掛部材(糸掛機構)を備える。より具体的には、糸掛機構は、複数の糸を互いに分けて保持する保持部を有する。作業者は、走行している複数の糸を保持部に保持させた後、保持部を少なくとも配列方向に移動させる。これにより、複数の糸が複数の糸ガイドに順次掛けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明者は、上述した糸掛けの簡易化、及び糸掛けに要する時間の短縮化を目的として、糸掛機構の改良を行っている。より具体的には、第1に、複数の糸を保持した保持部を人手によらず移動させる駆動機構の開発が行われている。第2に、複数の糸を保持部に保持させる際に作業者が保持部を手動で位置調節するための調節機構の開発が行われている。
【0005】
さらに、駆動機構が作動していないときに作業者が保持部を手で動かすことができるようにするための検討が行われている。このような構成においては、駆動機構の少なくとも一部が調節機構として兼用される。これに関して、保持部の操作性の改善が課題の1つとなっている。
【0006】
本発明の目的は、糸掛機構に設けられた保持部を小さな力で位置調節可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明の糸巻取機は、所定の配列方向に並べて配置された複数のボビンに走行中の複数の糸をそれぞれ巻き取る糸巻取機であって、前記複数のボビンに対応してそれぞれ設けられ、前記配列方向に並べて配置された複数の糸ガイドと、前記複数の糸ガイドへの糸掛けを行うことが可能に構成された糸掛機構と、を備え、前記糸掛機構は、前記複数の糸ガイドに掛けられる前の前記複数の糸を互いに分けて保持可能に構成された保持部と、駆動源を含み、前記配列方向の成分を有する第1方向において前記保持部を移動駆動可能に構成された駆動機構と、を有し、前記駆動源は、固定部と、前記固定部に対して動くことが可能な可動部と、を有し、且つ、前記可動部を介して前記保持部に対して前記第1方向に推力を加える加力状態と、前記保持部への前記推力の付与を解除する非加力状態との間で状態を変更可能に構成され、前記駆動機構は、設置位置が固定され、前記第1方向に延びた延在部材と、前記可動部に回転自在に支持され、前記延在部材に接触して転がることにより前記延在部材に対して前記第1方向に移動可能に構成された回転部材と、前記保持部と共に移動可能且つ前記第1方向に移動可能に構成された移動体を含み、前記推力の伝達方向において前記回転部材と前記保持部との間に配置された伝達機構と、を有し、前記伝達機構は、前記移動体が所定の位置から前記第1方向において所定の第1距離移動させられたときに、前記移動体の移動に伴って前記回転部材を回転させることにより、前記回転部材を前記第1方向において前記移動体が移動する側と同じ側へ前記第1距離よりも短い第2距離移動させるように構成されている。
【0008】
本発明では、駆動機構において駆動源の状態を非加力状態にすることで、保持部と接続された可動部が手動で動かされることが可能になる。より具体的には、駆動源の状態が非加力状態であるときに作業者が保持部(及び移動体)に力を加えると、可動部に支持された回転部材が、伝達機構を介して回転しつつ、延在部材に沿って第1方向に移動できる。すなわち、保持部の第1方向における手動移動が許可される。ここで、可動部を移動させるためには、可動部と固定部との間に作用する抵抗力(例えば摩擦力)よりも大きな力を可動部に加える必要がある。例えば、保持部と可動部が一体的に移動可能な構成では、上記抵抗力よりも大きな力を保持部に加える必要がある。
【0009】
この点、本発明の駆動機構は、以下のように、公知の動滑車の原理を応用した機構になっている。すなわち、回転部材が動滑車に相当する。抵抗力が、動滑車に吊るされたおもりに作用する重力に相当する。延在部材が、天井に支えられ動滑車に巻き掛けられるひもに相当する。回転しようとしている回転部材を延在部材が支える力が、天井が動滑車を支える力に相当する。第1方向において保持部及び移動体に加えられる力が、作業者が手でひもを引く力に相当する。第1距離が、作業者が手でひもを引く距離に相当する。第2距離が、動滑車の移動距離に相当する。この原理により、第1距離が長くなる代わりに、保持部に加えるべき力を低減できる(より詳細については、後述の実施形態において説明する)。以上により、糸掛機構に設けられた保持部を小さな力で位置調節できる。
【0010】
第2の発明の糸巻取機は、前記第1の発明において、前記糸掛機構は、前記駆動源の状態が前記非加力状態であるときに、前記保持部の前記第1方向における位置を、所定の捕捉準備位置と、前記捕捉準備位置よりも前記第1方向における一方側の、前記複数の糸を捕捉可能な捕捉位置との間で手動調節可能に構成され、前記駆動源の状態が前記加力状態であるときに、前記保持部を、前記捕捉位置から、前記捕捉位置よりも前記第1方向における前記一方側の糸掛開始位置へ移動させ、さらに、前記糸掛開始位置よりも前記第1方向における他方側の糸掛完了位置へ移動させることにより、前記保持部によって保持された前記複数の糸を前記複数の糸ガイドにそれぞれ掛けることが可能に構成されている。
【0011】
本発明では、保持部を捕捉準備位置から捕捉位置に移動させる際には、駆動源の状態を非加力状態にすることで、手動で保持部の微妙な位置調節を行うことができる。また、その後に駆動源の状態を加力状態にすることで、糸掛機構を用いて人手によらず糸掛けを行うことができる。したがって、糸掛けに要する手間を軽減できる。
【0012】
第3の発明の糸巻取機は、前記第2の発明において、前記駆動源は、圧縮空気の圧力によって前記可動部を前記固定部に対して移動させるエアシリンダを有し、前記エアシリンダは、前記固定部としてのシリンダ本体と、前記可動部としてのピストンと、を有し、前記シリンダ本体は、第1ピストン室と、前記ピストンを隔てて前記第1ピストン室とは反対側に設けられた第2ピストン室と、を有し、前記第1ピストン室及び前記第2ピストン室の両方から前記圧縮空気が排出されることにより、前記エアシリンダの状態が前記非加力状態になる。
【0013】
本発明では、例えば電動シリンダ、油圧シリンダ等と比べて一般的に安価なエアシリンダを用いて、駆動機構及び調節機構を形成できる。したがって、糸巻取機の部材コストを低減できる。
【0014】
第4の発明の糸巻取機は、前記第1~第3のいずれかの発明において、前記伝達機構は、前記可動部と一体的に移動可能に設けられたベース部材と、前記伝達方向において前記回転部材の下流側に配置され、前記ベース部材に回転自在に支持された第1従動回転部材と、前記第1方向において前記第1従動回転部材と並べて配置され、前記ベース部材に回転自在に支持された第2従動回転部材と、前記第1方向に延び且つ前記移動体が固定された延在部分を有し、前記第1従動回転部材及び前記第2従動回転部材に巻き掛けられることが可能に構成された巻掛部材と、を有する。
【0015】
調節機構は、例えば、回転部材として設けられたピニオンと、延在部材として設けられた第1ラックと、伝達機構の一部として設けられた、第1方向に延び且つ保持部と一体的に移動可能な第2ラックとを有していても良い。しかし、このような構成では、第1方向において第2ラックの移動距離が長いため、第2ラックの先端が第1方向において意図せず第1ラックの先端よりも突出するおそれがある。このため、第1方向において第2ラックが移動可能な領域を広く確保する必要が生じ、糸巻取機が大型化してしまう可能性がある。
【0016】
本発明では、第1従動回転部材及び第2従動回転部材がベース部材に回転自在に支持されている。さらに、巻掛部材が、第1従動回転部材及び第2従動回転部材に巻き掛けられている。このような構成において、第1従動回転部材、第2従動回転部材、巻掛部材及び移動体を、第1方向において、ベース部材が延びる範囲と概ね同じ大きさの領域内に収まるように配置できる。また、ベース部材の第1方向における移動距離は、可動部の第1方向における移動距離と等しい。これにより、第1方向において伝達機構の移動範囲を小さく抑えることができる。したがって、糸巻取機の第1方向における大型化を抑制できる。
【0017】
第5の発明の糸巻取機は、前記第4の発明において、前記伝達機構は、前記回転部材と一体的に回転可能に設けられ、且つ、前記伝達方向において前記第1従動回転部材及び前記第2従動回転部材よりも上流側に配置された第3従動回転部材、を有し、前記第1方向及び前記第3従動回転部材の回転軸方向の両方と直交する所定の第2方向において、前記第3従動回転部材の回転軸中心は、前記第1従動回転部材の回転軸中心及び前記第2従動回転部材の回転軸中心と異なる位置に配置されている。
【0018】
本発明では、第3従動回転部材の第2方向における配置位置をある程度自由に設定できる。これにより、回転部材及び延在部材の第2方向における配置位置をある程度自由に設定できる。したがって、伝達機構と延在部材とが互いに干渉することを容易に回避できる。
【0019】
第6の発明の糸巻取機は、前記第5の発明において、前記第3従動回転部材のピッチ円直径は、前記回転部材のピッチ円直径と等しい。
【0020】
第3従動回転部材のピッチ円直径が回転部材のピッチ円直径と比べて小さすぎると、保持部を手動で移動させるために必要な力が大きくなりすぎるおそれがある。逆に、第3従動回転部材のピッチ円直径が回転部材のピッチ円直径と比べて大きすぎると、保持部を駆動源によって移動させるために必要な力が大きくなりすぎるおそれがある。この点、本発明では、保持部を手動で移動させるために必要な力の軽減と、保持部を駆動源によって移動させるために必要な力の増大の抑制とを容易に両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本実施形態に係る紡糸引取機の正面図である。
【
図2】(a)及び(b)は、紡糸引取機の側面図である。
【
図3】(a)は、糸掛機構の平面図であり、(b)は、糸掛機構の側面図である。
【
図6】(a)は、揺動アームの後端部及びその近傍を示す説明図であり、(b)は、エアシリンダと圧縮空気の経路との関係を示す模式図である。
【
図7】(a)及び(b)は、糸間隔増大部を示す説明図である。
【
図8】前後駆動機構を斜め後方から見た斜視図である。
【
図9】(a)は、前後駆動機構の側面図であり、(b)は、前後駆動機構の一部の拡大図であり、(c)は、(b)のIX(c)-IX(c)線断面図である。
【
図10】(a)~(c)は、保持部が保持部退避位置に位置している様子を示す説明図である。
【
図11】(a)~(f)は、紡糸引取機への糸掛けのうち、分繊ローラに糸が押し当てられるまでの作業を示す説明図である。
【
図12】(a)~(c)は、保持部の捕捉準備位置への移動を示す説明図である。
【
図13】(a)~(c)は、保持部の位置の微調整を示す説明図である。
【
図14】(a)及び(b)は、前後駆動機構において各部に加えられる力を示す説明図である。
【
図15】(a)~(c)は、保持部が後退する様子を示す説明図である。
【
図16】(a)~(c)は、保持部の糸掛開始位置への移動を示す説明図である。
【
図17】(a)~(c)は、保持部の糸掛完了位置への移動を示す説明図である。
【
図18】複数の支点ガイドに複数の糸がそれぞれ掛けられる様子を示す説明図である。
【
図19】(a)~(d)は、変形例に係る前後駆動機構を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施の形態について説明する。説明の便宜上、
図1~
図2(a)に示す方向を上下方向、左右方向及び前後方向と定義する。上下方向(本発明の第2方向)は、重力が作用する鉛直方向である。左右方向(本発明の第3方向)は、上下方向と直交する方向であり、一対の巻取部5が互いに対向する方向である。前後方向(本発明の配列方向及び第1方向)は、上下方向及び左右方向の両方と直交する方向であり、複数のボビンB(後述)が並べて配置される方向である。後側が、本発明の第1方向における一方側に相当する。前側が、本発明の第1方向における他方側に相当する。また、糸Y(後述)が走行する方向を糸走行方向とする。
【0023】
(紡糸引取機)
本実施形態に係る紡糸引取機1(本発明の糸巻取機)の概略について、
図1及び
図2(a)を参照しつつ説明する。
図1は、紡糸引取機1の正面図である。
図2(a)は、紡糸引取機1の側面図である。
図2(a)においては、後述する一対の巻取部5のうち一方(巻取部5A)が図示されている。
【0024】
紡糸引取機1は、紡糸装置2から紡出される複数(例えば、本実施形態では32本)の糸Yを引き取って複数のボビンBにそれぞれ巻き取り、複数のパッケージPを同時に形成するように構成されている。各糸Yは、例えば複数のフィラメント(不図示)を有するマルチフィラメント糸である。或いは、各糸Yを構成するフィラメントの数は1本でも良い。各フィラメントは、例えばポリエステルからなる合成繊維である。
【0025】
紡糸引取機1は、例えば、第1ゴデットローラ3と、第2ゴデットローラ4と、一対の巻取部5(巻取部5A、5B)と、制御装置6とを備える。第1ゴデットローラ3及び第2ゴデットローラ4は、複数の糸Yを引き取って糸走行方向における下流側へ送るように構成されている。第1ゴデットローラ3及び第2ゴデットローラ4は、例えば支持体7に支持されている。支持体7は、例えば、一対の巻取部5の前端部の上側の位置から斜め後ろ上側へ延びている。
【0026】
第1ゴデットローラ3は、回転軸方向が左右方向と略平行なローラである。第1ゴデットローラ3は、例えば支持体7の前端部に取り付けられている。第1ゴデットローラ3は、不図示のモータによって回転駆動される。紡糸装置2から紡出された複数の糸Yは、左右方向に並べて第1ゴデットローラ3に巻きかけられた状態で第2ゴデットローラ4へ送られる。
【0027】
第2ゴデットローラ4は、回転軸方向が左右方向と略平行なローラである。第2ゴデットローラ4は、例えば第1ゴデットローラ3の上側且つ後側に配置されている。第2ゴデットローラ4は、不図示のモータによって回転駆動される。第2ゴデットローラ4は、例えば支持体7に取り付けられている。第2ゴデットローラ4は、例えば支持体7の延在方向に沿って移動可能に構成されている。第2ゴデットローラ4は、例えばローラ移動機構9によって、
図2(a)の二点鎖線で示されたローラ前側位置と実線で示されたローラ後側位置との間で移動可能である。ローラ前側位置は、ローラ後側位置よりも前側且つ下側の位置であり、ローラ後側位置よりも第1ゴデットローラ3に近接する位置である。ローラ前側位置は、第2ゴデットローラ4への糸掛けが行われるときの第2ゴデットローラ4の位置である。ローラ後側位置は、後述する巻取動作が行われるときの第2ゴデットローラ4の位置である。
【0028】
複数の糸Yの各々は、第1ゴデットローラ3から第2ゴデットローラ4に送られ、さらに、一対の巻取部5のいずれかへ送られる。複数の糸Yのうち半分は巻取部5Aへ送られ、残り半分は巻取部5Bへ送られる。第1ゴデットローラ3から第2ゴデットローラ4へ走行する糸Yが通る糸道は、斜め後ろ上側へ延びている。
【0029】
糸走行方向において、第1ゴデットローラ3と第2ゴデットローラ4との間には、例えば規制ガイド8が設けられている。規制ガイド8は、複数の糸Yを左右方向に並べて保持し、複数の糸Yの左右方向における間隔を所定間隔に規定するガイドである。
【0030】
一対の巻取部5(巻取部5A及び巻取部5B)の各々は、複数の糸Yを複数のボビンBにそれぞれ巻き取って、複数のパッケージPを形成するように構成されている。巻取部5A及び巻取部5Bは、第1ゴデットローラ3及び第2ゴデットローラ4の下側に配置されている。巻取部5Aと巻取部5Bは、左右方向において略対称(面対称)に配置されている(
図1参照)。一対の巻取部5の各々は、第2ゴデットローラ4から送られる複数の糸Yを半分ずつ(例えば、本実施形態では16本ずつ)巻き取るように構成されている。より具体的には、巻取部5Aが左側の16本の糸YAを巻き取り、巻取部5Bが右側の16本の糸YBを巻き取る。
【0031】
制御装置6は、例えば一般的なコンピュータ装置であり、紡糸引取機1全体を制御するように構成されている。制御装置6は、紡糸引取機1の各部と電気的に接続されている。制御装置6は、作業者によって操作されることが可能に構成された操作部(不図示)と電気的に接続されている。操作部は、例えば不図示の複数の操作ボタンを有する。制御装置6は、所定のプログラムに従って各部を制御するように構成されている。制御装置6は、例えば作業者による操作部の操作に応じて各部を制御可能に構成されている。
【0032】
(巻取部の構成)
一対の巻取部5の構成について、
図1~
図2(b)を参照しつつ説明する。
図2(b)は、後述する複数の支点ガイド20の移動を示す説明図である。
図1に示すように、一対の巻取部5の各々は、支持フレーム11と、ターレット12と、2つのボビンホルダ13とを備える。上述したように、巻取部5Aと巻取部5Bは左右略対称に構成されている。以下、特に断らない限り、各構成要素に関する説明は、巻取部5A及び巻取部5Bのいずれにも当てはまる。
【0033】
支持フレーム11は、前後方向に延びた部材である。支持フレーム11は、立設された機台14に片持ち支持されている。支持フレーム11は、機台14から前方へ突出している(
図2(a)参照)。ターレット12は、回転軸方向が前後方向と略平行な円板状の部材である。ターレット12は、機台14に回転可能に支持されている。ターレット12は、不図示のターレットモータによって回転駆動される。2本のボビンホルダ13の各々は、ターレット12に回転自在に支持され、ターレット12の前面から前側に延びている。各ボビンホルダ13の回転軸方向は、前後方向と略平行である。前後方向から見たときに、2本のボビンホルダ13は、ターレット12の中心点を対称点として点対称に配置されている(
図1参照)。各ボビンホルダ13には、複数の糸Yにそれぞれ対応する複数のボビンBが前後方向に並べて装着されている。複数のボビンBは、ボビンホルダ13に回転可能に支持されている。2つのボビンホルダ13の各々は、不図示の巻取モータによって個別に回転駆動される。
【0034】
本実施形態では、一対の巻取部5の各々が機台14を有している(
図1参照)。但し、これには限られない。例えば、巻取部5A、5Bにそれぞれ含まれる2つの支持フレーム11及び2つのターレット12が、共通の機台(不図示)に取り付けられていても良い。
【0035】
一対の巻取部5の各々は、複数のガイドユニット15と、複数のトラバースガイド16と、コンタクトローラ17とを備える。より詳しくは、例えば支持フレーム11の上側に、前後方向に延びたガイド支持体18が設けられている(
図2(a)及び
図2(b)参照)。複数のガイドユニット15は、ガイド支持体18に装着され、前後方向に沿って移動可能に構成されている。複数のガイドユニット15は、複数のボビンBにそれぞれ対応して設けられ、前後方向に沿って配列されている。複数のガイドユニット15の各々は、本体19と、支点ガイド20(本発明の糸ガイド)とを有する。本体19は、ガイド支持体18に移動可能に取り付けられている。支点ガイド20は、本体19に固定されている。支点ガイド20は、糸Yが各トラバースガイド16によって綾振りされる際の支点となる。
【0036】
複数のガイドユニット15は、糸YがボビンBに巻き取られるときの巻取位置(離隔位置。
図2(a)参照)と、離隔位置と比べて前後方向において互いに近接した近接位置(
図2(b)参照)との間で移動可能に構成されている。より具体的には、例えば、前後方向において互いに隣接するガイドユニット15は、不図示のベルトによって互いに連結されている。最も後側のガイドユニット15は、例えば不図示のリニアスライダによって前後方向に移動可能となっている。リニアスライダが動作することにより、複数のガイドユニット15は、離隔位置と、離隔位置と比べて前側に集合した近接位置との間で移動可能である。複数の支点ガイド20への糸掛け(後述)は、複数の支点ガイド20が近接位置に位置しているときに行われる。
【0037】
複数のトラバースガイド16は、前後方向に並べて配置されている。複数のトラバースガイド16の各々は、例えば不図示のトラバースモータによって駆動され、対応する糸Yを前後方向に綾振りする。コンタクトローラ17は、回転軸方向が前後方向と略平行なローラである。コンタクトローラ17は、上側のボビンホルダ13のすぐ上方に配置されている。コンタクトローラ17は、上側のボビンホルダ13に支持された複数のパッケージPの表面に接触することで、各パッケージPの表面に接圧を付与して各パッケージPの形状を整える。
【0038】
以上の構成を有する一対の巻取部5の各々において、上側のボビンホルダ13が回転駆動されると、トラバースガイド16によって綾振りされた糸YがボビンBに巻き取られて、パッケージPが形成される。また、パッケージPが満巻きになった場合、ターレット12が回転させられることにより、2本のボビンホルダ13の上下の位置が入れ換わる。これにより、下側に位置していたボビンホルダ13が上側に移動し、このボビンホルダ13に装着されたボビンBに糸Yを巻き取ってパッケージPを形成することができる。また、満巻になったパッケージPが装着されたボビンホルダ13は下側に移動する。満巻になったパッケージPは、例えば不図示のパッケージ回収装置によって回収される。
【0039】
(糸掛機構)
次に、複数の支点ガイド20に複数の糸Yをそれぞれ掛けるための糸掛機構21の構成について、
図3(a)~
図7(b)を参照しつつ説明する。
図3(a)は、糸掛機構21の平面図である。
図3(b)は、糸掛機構21の側面図である。
図4は、糸掛機構21を斜め後方から見た斜視図である。
図5は、後述する保持部22及びその近傍の平面図である。
図6(a)は、後述する揺動アーム43の後端部及びその近傍を示す説明図である。
図6(b)は、後述するエアシリンダ56及び57と圧縮空気の経路との関係を示す模式図である。
図6(b)においては、エアシリンダ56及び57を共通の図面で示している。
図7(a)及び
図7(b)は、後述する糸間隔増大部24を示す説明図である。
図7(a)は、糸間隔増大部24の側面図である。
図7(b)は、
図7(a)のVII(b)矢視図である。
【0040】
図3(a)~
図7(b)に示すように、一対の巻取部5は糸掛機構21を有する。糸掛機構21は、保持部22(
図3(a)~
図5参照)と、駆動部23(
図3(a)~
図4参照)と、糸間隔増大部24(
図7(a)及び
図7(b)参照)とを有する。糸掛機構21は、糸間隔増大部24によって複数の糸Yを左右方向に互いに離隔させ、且つ、保持部22によって複数の糸Yを互いに分けて保持することが可能である。さらに、駆動部23が制御装置6からの指令に従って保持部22を所定の手順で移動させることによって、複数の支点ガイド20に複数の糸Yがそれぞれ掛けられる。保持部22及び駆動部23は、各巻取部5に設けられている。巻取部5Aと巻取部5Bとの間で、保持部22及び駆動部23は、左右方向において略対称である。糸間隔増大部24は、巻取部5Aに設けられており、一対の巻取部5において共通に用いられる。以下、巻取部5Aに設けられた糸掛機構21についてのみ説明する。
【0041】
(保持部)
保持部22は、走行中の複数の糸Yをそれぞれ分けて保持可能に構成されている。より具体的には、巻取部5Aの保持部22は、複数の糸YA(
図1参照)を保持可能に構成されている。
【0042】
保持部22は、駆動部23を介して巻取部5Aに取り付けられている。より具体的な例として、上下方向において、支持フレーム11とガイド支持体18との間に、位置が固定された支持部材26(
図2~
図4参照)が設けられている。支持部材26は、例えば、
図3(a)及び
図3(b)に示すように、前後方向に延びた棒部材27と、棒部材27の前側部分に固定された板部材28とを有する。保持部22は、駆動部23を介して支持部材26に取り付けられている。
【0043】
保持部22は、例えば、櫛ガイド31と、介在部材32とを有する(
図5参照)。櫛ガイド31は、概ね櫛状の平板部材である。櫛ガイド31は、本体部33と接続部34とを有する。本体部33には、複数の糸Yを1本ずつ保持する複数の保持溝35が形成されている。複数の保持溝35は、少なくとも左右方向に並べて配置されている。各保持溝35の入口は、例えば本体部33の後端部に形成されている。複数の保持溝35の入口の、複数の保持溝35が並ぶ方向における間隔は、規制ガイド8によって規定される複数の糸Yの左右方向における間隔(所定間隔)と略等しい。また、本体部33の前後方向における中間部分には、例えば貫通孔36が形成されている。貫通孔36は、例えば本体部33を上下方向に貫通し且つ左右方向に延びている。これにより、例えば本体部33の前端部には、作業者が手で持つことが可能な持手部分37が形成されている。接続部34は、本体部33の後端部の左側端部に接続された部分である。接続部34は、上下方向に延びた軸38を介して介在部材32に接続されている。接続部34の介在部材32に対する位置は、例えば不図示のボルト等の固定具によって固定されている。なお、固定具が緩められているとき、櫛ガイド31が軸38を揺動軸中心として揺動されることが可能であっても良い。介在部材32は、例えば、上下方向から見たときに概ねL字型の部材である。介在部材32は、駆動部23の支持アーム41(後述)に固定されている。
【0044】
また、保持部22は、所定の条件下で、作業者によって前後方向に位置調節されることが可能である。より詳細については後述する。
【0045】
(駆動部)
駆動部23は、保持部22を移動駆動するように構成されている。駆動部23は、支持部材26に取り付けられている。
図3(a)及び
図3(b)に示すように、駆動部23は、支持アーム41と、案内レール42と、揺動アーム43と、揺動駆動源44と、前後駆動機構45(本発明の駆動機構及び調節機構)とを有する。なお、
図3(a)及び
図3(b)において、前後駆動機構45は、単に長方形状に示されている。概要として、保持部22が取り付けられた支持アーム41が、前後駆動機構45の動作によって、案内レール42に沿って少なくとも前後方向に移動する。案内レール42は、揺動駆動源44の動作によって揺動アーム43と一体的に揺動することにより、支持アーム41及び保持部22の移動方向を変更可能である。
【0046】
支持アーム41は、少なくとも前後方向に延びた長尺部材である。例えば支持アーム41の前端部には、保持部22が固定されている。また、支持アーム41の前端部には、例えば案内レール42に沿って摺動可能な摺動部46が設けられている。摺動部46は、例えば上下方向に延びたピンであっても良い。摺動部46は、案内レール42が揺動したときに、案内レール42に追従して移動可能である。例えば支持アーム41の後端部には、貫通孔47(
図3(a)及び
図6(b)参照)が形成されている。貫通孔47は、支持アーム41の後端部を上下方向に貫通している。貫通孔47は、例えば前後方向にやや長く延びている。支持アーム41の後端部は、上下方向に延び且つ貫通孔47に挿通されたピン48を介して、前後駆動機構45の移動体99(詳細については後述)に揺動可能に取り付けられている。これにより、支持アーム41は、移動体99に対して揺動可能且つ前後方向に多少移動可能となっている。つまり、支持アーム41は、移動体99に対して、所定のアーム前側位置と、アーム前側位置よりも後側のアーム後側位置との間で移動可能である。言い換えると、支持アーム41は、保持部22を少なくとも前後方向にスライド可能に支持している。
【0047】
案内レール42は、少なくとも前後方向に延びた略直線状のレールである。案内レール42は、支持アーム41を少なくとも前後方向に案内するように配置されている。案内レール42は、摺動部46と係合している。案内レール42は、例えば不図示の固定具(例えばボルト及びナット)によって揺動アーム43の右端部に固定されている。或いは、案内レール42は、例えば溶接等により揺動アーム43と一体的に形成されていても良い。
【0048】
揺動アーム43は、例えば、少なくとも前後方向に延びた板状のアームである。揺動アーム43は、例えば、
図3(a)及び
図4に示すように、駆動部23の前側部分に配置されている。揺動アーム43の後端部は、上下方向を軸方向とした揺動軸49を介して支持部材26に接続されている。これにより、揺動アーム43は、案内レール42と一体的に揺動可能である。揺動アーム43には、ガイド孔51が形成されている。ガイド孔51は、揺動アーム43を上下方向に貫通し、少なくとも前後方向に延びた孔である。ガイド孔51には、エアシリンダ56(後述)に取り付けられたピン52が挿通される。ガイド孔51は、前側へ向かうほど左側へ延びている。
【0049】
説明の便宜上、上下方向及びガイド孔51の延びる方向の両方と直交する方向を直交方向と呼ぶ。ガイド孔51の前端部以外の部分の直交方向における大きさ(以下、幅と称する)は、ピン52の外径よりもほんのわずかに大きい。これにより、ピン52はガイド孔51の延びる方向に沿って移動可能である。また、
図6(a)に示すように、ガイド孔51の前端部におけるガイド孔51の幅は、ピン52の外径と比べてやや大きい。言い換えると、ガイド孔51の前端部には、揺動アーム43をピン52に対してある程度自由に揺動可能にするための遊び部分53が設けられている。
【0050】
揺動駆動源44は、揺動アーム43及び案内レール42を揺動させるための駆動源である。揺動駆動源44は、例えば圧縮空気によって動作するエアシリンダ56(
図3(b)及び
図4参照)を有する。
図6(b)に示すように、エアシリンダ56は、例えば、シリンダ本体61と、ピストン62と、ピストンロッド63とを有する。シリンダ本体61は、例えば前後方向に延びている。シリンダ本体61は、例えば支持部材26の前側部分に固定されている。シリンダ本体61は、例えば、ピストン62の前側に形成されたピストン室61Fと、ピストン62の後側に形成されたピストン室61Rとを有する。ピストン室61Fは、例えば公知の五方向電磁弁である電磁弁EV1を介して、圧縮空気の供給ポートPs及び排出ポートPe2と接続されている。ピストン室61Rは、電磁弁EV1を介して、供給ポートPs及び排出ポートPe1と接続されている。ピストン62は、シリンダ本体61の内部に移動可能に設けられている。ピストンロッド63は、ピストン62に固定されている。ピストンロッド63は、例えばピストン62から後方へ延びている。ピストンロッド63の先端部にはロッドエンド64が設けられている。ロッドエンド64の上端には、ピン52(
図3(a)及び
図6(a)参照)が設けられている。ピン52は、例えば上下方向に延び、揺動アーム43のガイド孔51に挿通されている。ピン52の上端部には、ピン52がガイド孔51から外れることを防止するために、例えば、ピン52の径よりも大きい径を有する円板部材54が取り付けられている。
【0051】
ピストンロッド63は、シリンダ本体61への圧縮空気の供給及びシリンダ本体61からの圧縮空気の排出によって伸縮可能に構成されている。供給ポートPsからピストン室61Fに圧縮空気が供給され且つピストン室61Rから排出ポートPe1に圧縮空気が排出されたとき、ピストン62がピストン室61F内の圧縮空気によって後側へ押される。これにより、ピストン62及びピストンロッド63が一体的に後側へ移動する。供給ポートPsからピストン室61Rに圧縮空気が供給され且つピストン室61Fから排出ポートPe2に圧縮空気が排出されたとき、ピストン62がピストン室61R内の圧縮空気によって前側へ押される。これにより、ピストン62及びピストンロッド63が一体的に前側へ移動する。
【0052】
エアシリンダ56の代わりに、流体によって駆動される他の流体圧シリンダ、又は電動式の駆動機構(例えばボールねじ機構又はラックアンドピニオン機構など)が設けられていても良い。
【0053】
前後駆動機構45は、支持アーム41及び移動体99を前後方向に移動させるための機構である。前後駆動機構45は、例えば、エアシリンダ56と同様の構成を有するエアシリンダ57(本発明の駆動源)を含む。
図6(b)に示すように、エアシリンダ57は、例えば、シリンダ本体66と、ピストン67と、ピストンロッド68とを有する。シリンダ本体66が、本発明の固定部に相当する。ピストン67及びピストンロッド68が、本発明の可動部に相当する。シリンダ本体66は、例えば前後方向に延びている。シリンダ本体66は、例えば支持部材26の後側部分に固定されている。シリンダ本体66は、ピストン67の前側に形成されたピストン室66Fと、ピストン67の後側に形成されたピストン室66Rとを有する。ピストン室66Fは、例えば公知の五方向電磁弁である電磁弁EV2を介して、上述の供給ポートPs及び排出ポートPe2と接続されている。ピストン室66Rは、電磁弁EV2を介して、供給ポートPs及び排出ポートPe1と接続されている。ピストン室66F及びピストン室66Rのうち、一方が本発明の第1ピストン室に相当し、他方が本発明の第2ピストン室に相当する。電磁弁EV2は、電磁弁EV1とは別の電磁弁である。エアシリンダ57の動作は、エアシリンダ56の動作とは独立して制御されることが可能である。ピストン67は、シリンダ本体66の内部に設けられている。ピストンロッド68は、ピストン67に固定されている。ピストンロッド68は、例えばピストン67から後方へ突出するように延びている。ピストンロッド68の先端部にはロッドエンド69が設けられている。
【0054】
ピストンロッド68は、シリンダ本体66への圧縮空気(本発明の流体)の供給及びシリンダ本体66からの圧縮空気の排出によって伸縮可能である。供給ポートPsからピストン室66Fに圧縮空気が供給され且つピストン室66Rから排出ポートPe1に圧縮空気が排出されたとき、ピストン67及びピストンロッド68が一体的に後側へ移動する。供給ポートPsからピストン室66Rに圧縮空気が供給され且つピストン室66Fから排出ポートPe2に圧縮空気が排出されたとき、ピストン67及びピストンロッド68が一体的に前側へ移動する。ピストン室66F及びピストン室66Rのうちいずれか一方に圧縮空気が供給されたエアシリンダ57の状態を、説明の便宜上、加力状態と呼ぶ。エアシリンダ57の状態が加力状態であるとき、保持部22に対して少なくとも前後方向に(つまり、少なくとも前側又は後側への)推力が加えられている。
【0055】
また、ピストン室66F及びピストン室66Rの両方から圧縮空気が排出されたとき、ピストン室66F及びピストン室66Rの両方の圧力が大気圧になる。このときのエアシリンダ57の状態を、説明の便宜上、非加力状態と呼ぶ。ピストン室66F及びピストン室66Rの両方から圧縮空気が排出されることにより、エアシリンダ57の状態が非加力状態になることが可能である。このとき、ピストン67及びピストンロッド68には前後方向において力が加えられていない(言い換えると、エアシリンダ57による保持部22への推力の付与が解除されている)。これにより、保持部22と接続されているピストンロッド68が手動で伸縮可能になる。したがって、作業者が保持部22を手で少なくとも前後方向に移動させることが可能になる。言い換えると、前後駆動機構45は、保持部22を手動で前後方向において位置調節するための調節機構を含む。前後駆動機構45は、エアシリンダ57の状態が非加力状態であるときに、調節機構として機能する。
【0056】
前後駆動機構45のより詳細な構成については後述する。
【0057】
(糸間隔増大部)
糸間隔増大部24は、糸掛けの際に、第2ゴデットローラ4の糸走行方向における下流側(言い換えると、規制ガイド8の糸走行方向における下流側)の複数の糸Y同士の左右方向における間隔を広げるためのものである。糸間隔増大部24は、例えば巻取部5Aに設けられている。より具体的には、
図7(a)に示すように、例えばガイド支持体18の上側にフレーム71が設けられている。フレーム71の設置位置は固定されている。糸間隔増大部24は、フレーム71に設けられている。糸間隔増大部24は、例えば回動アーム72と、持手部73と、分繊ローラ74とを有する。
【0058】
回動アーム72は、左右方向に沿って延びた回動軸75を介して、フレーム71に回動可能に取り付けられている。左右方向から見たときに、回動アーム72は、例えば、第1ゴデットローラ3の後側に位置している(
図7(a)参照)。また、回動アーム72は、例えば、ローラ前側位置に位置している第2ゴデットローラ4の下側に位置している(
図7(a)参照)。持手部73は、作業者が回動アーム72を回動させる際に手で持つための部分である。分繊ローラ74は、回動アーム72の先端部に回転可能に取り付けられたローラである。分繊ローラ74は、例えば回動アーム72に片持ち支持されている。分繊ローラ74の回転軸は、左右方向に沿って延びている。走行している複数の糸Yが分繊ローラ74の外周面と接触しているとき、分繊ローラ74は、外周面と複数の糸Yとの間に作用する摩擦力によって従動回転する。
【0059】
回動アーム72が作業者によって回動させられることにより、分繊ローラ74は、所定のローラ退避位置(
図7(a)の二点鎖線参照)とローラ接触位置(
図7(a)の実線参照)との間で移動可能である。分繊ローラ74は、例えば、左右方向において規制ガイド8及び第2ゴデットローラ4と略同じ位置に配置されている。
【0060】
ここで、上記したように、糸掛機構21においては、前後駆動機構45が調節機構を含む。これに関して、保持部22の操作性の改善が課題の1つとなっている。そこで、糸掛機構21は、より詳細には以下のように構成されている。
【0061】
(糸掛機構の詳細構成)
糸掛機構21のより詳細な構成について、
図8~
図9(c)を参照しつつ説明する。
図8は、前後駆動機構45を斜め後方から見た斜視図である。
図9(a)は、前後駆動機構45の側面図である。
図9(b)は、
図9(a)の一部の拡大図である。
図9(c)は、
図9(b)のIX(c)-IX(c)線断面図である。
図9(a)及び
図9(b)においては、紙面左側が本実施形態の後側に相当し、紙面右側が本実施形態の前側に相当することに留意されたい。また、
図9(c)においては、図示が省略されているが、紙面左側が本実施形態の右側に相当し、紙面右側が本実施形態の左側に相当することに留意されたい。
【0062】
前後駆動機構45は、上述したエアシリンダ57と、ラック81(本発明の延在部材)と、ピニオン82(本発明の回転部材)と、伝達機構83とを有する。ラック81、ピニオン82及び伝達機構83は、作業者が保持部22を手動で移動させるために必要な力を低減するためのものである。概要として、ラック81、ピニオン82及び伝達機構83が、公知の動滑車の原理を応用した機構を構成している。これによって、作業者がエアシリンダ57のピストンロッド68を動かすために必要な力が低減される。結果として、作業者が保持部22を小さい力で動かすことが可能になる。以下、より具体的に説明する。
【0063】
ラック81は、前後方向に平行移動しているピニオン82を回転させるための長尺の部材である。ラック81は、前後方向に並べて配置された複数の歯81aを有する。複数の歯81aの各々は、例えば左右方向に沿って延びている。複数の歯81aは、例えばラック81の上面に設けられている。複数の歯81aは、ピニオン82の複数の歯82a(後述)と噛み合うように構成されている。ラック81は、例えば、左右方向と直交する所定の仮想平面VPA上に延びるように配置されている。
【0064】
ピニオン82は、例えば公知の平歯車状の部材である。ピニオン82は、ピストンロッド68に平行移動可能に支持され、且つ、ピストンロッド68に回転自在に支持されている。ピニオン82は、例えば前後方向に平行移動可能である。ピニオン82の回転軸方向は、例えば左右方向と略平行である。ピニオン82は、例えばラック81の上側に配置されている。ピニオン82は、ラック81と同様、仮想平面VPA上に配置されている。ピニオン82は、ピニオン82の周方向に並べて配置された複数の歯82aを有する。複数の歯82aは、ラック81の複数の歯81aと噛み合うように構成されている。ピニオン82は、エアシリンダ57の推力の伝達方向において、ピストンロッド68の下流側且つ伝達機構83の上流側に配置されている。以下、エアシリンダ57の推力の伝達方向を単に伝達方向と呼ぶ。伝達方向において、ピストン67に近い側を上流側と定義し、ピストン67から遠い側を下流側と定義する。
【0065】
伝達機構83は、エアシリンダ57の推力を保持部22に伝達するように構成されている。また、伝達機構83は、保持部22が作業者によって動かされるときに、作業者が保持部22に加える力をピストンロッド68に伝えるように構成されている。伝達機構83は、伝達方向において、ピニオン82の下流側且つ保持部22の上流側に配置されている。伝達機構83は、ベース部材91と、案内レール92と、摺動部材93と、第1プーリ94と、第2プーリ95と、第3プーリ96と、第4プーリ97と、無端ベルト98と、上述した移動体99とを有する。ピストンロッド68と一体的に移動可能なベース部材91に、第1プーリ94~第4プーリ97が回転自在に支持されている。無端ベルト98が第1プーリ94~第3プーリ96に巻き掛けられている。無端ベルト98は、第4プーリ97によって屈曲させられている。移動体99は、無端ベルト98に固定されており、且つ、保持部22と接続されている。
【0066】
ベース部材91は、例えば略平板状の部材である。例えば左右方向が、ベース部材91の厚み方向である。ベース部材91は、例えば、左右方向から見たときに略L字状である。ベース部材91は、例えば、左右方向においてラック81と第1プーリ94~第4プーリ97との間に配置されている(
図9(c)参照)。ベース部材91は、例えば長尺部91aと短尺部91bとを有する。長尺部91aは、例えば前後方向に長く延びた部分である。言い換えると、長尺部91aは、例えばベース部材91の前端から後端に亘って延びた部分である。長尺部91aは、例えばエアシリンダ57よりも上側に配置されている。短尺部91bは、例えば、長尺部91aの後端部から下側に延びた部分である。短尺部91bは、例えばロッドエンド69に固定されている。これにより、ベース部材91は、ピストンロッド68と一体的に前後方向に移動可能である。ベース部材91は、摺動部材93と一体的に、案内レール92に沿って前後方向に移動可能である。ベース部材91は、第1プーリ94~第4プーリ97を回転自在に支持している。
【0067】
案内レール92は、レール状の部材である。案内レール92は、例えば前後方向に沿って延びている。案内レール92は、例えば支持部材26に固定されている。
図9(c)に示すように、案内レール92は、左右方向において、例えばラック81及びピニオン82と略同じ位置に配置されている。言い換えると、案内レール92は、例えば、左右方向においてラック81と少なくとも部分的に重なるように配置されている。案内レール92は、ラック81と同様、仮想平面VPA上に延びるように配置されている。案内レール92は、摺動部材93を前後方向に摺動可能に支持している。摺動部材93(
図9(b)及び
図9(c)参照)は、例えば前後方向に延びている。摺動部材93は、案内レール92に摺動可能に支持されている。摺動部材93は、ベース部材91に固定されている。
【0068】
第1プーリ94~第4プーリ97に共通の構成について説明する。第1プーリ94~第4プーリ97の各々は、ベース部材91に回転自在に支持されている。第1プーリ94~第4プーリ97の各々のベース部材91に対する位置は固定されている。第1プーリ94~第4プーリ97の各々の回転軸方向は、例えば、左右方向と略平行である。第1プーリ94~第4プーリ97は、例えば、左右方向においてベース部材91を隔ててラック81及びピニオン82と反対側に配置されている。
【0069】
第1プーリ94(本発明の第1従動回転部材)は、無端ベルト98が巻き掛けられるプーリである。第1プーリ94は、例えばベース部材91の長尺部91aの前端部に回転自在に支持されている。第1プーリ94は、例えばエアシリンダ57よりも上側に配置されている。
【0070】
第2プーリ95(本発明の第2従動回転部材)は、第1プーリ94と同様、無端ベルト98が巻き掛けられるプーリである。第2プーリ95は、例えばベース部材91の長尺部91aの後端部に回転自在に支持されている。第2プーリ95は、例えば、上下方向において第1プーリ94と略同じ位置に配置されている。
【0071】
第3プーリ96(本発明の第3従動回転部材)は、第1プーリ94及び第2プーリ95と同様、無端ベルト98が巻き掛けられるプーリである。第3プーリ96は、ピニオン82と一体的に回転可能に構成されている。より具体的には、第3プーリ96は、ピニオン82と同軸に構成されている。第3プーリ96は、伝達方向において第1プーリ94及び第2プーリ95よりも上流側に配置されている。第3プーリ96のピッチ円直径は、ピニオン82のピッチ円直径と略等しい。第3プーリ96は、例えばベース部材91の短尺部91bに回転自在に支持されている。第3プーリ96は、例えば第2プーリ95の真下に配置されている。つまり、第3プーリ96は、例えば前後方向において第2プーリ95と略同じ位置に配置されている。第3プーリ96の回転軸中心は、例えば、上下方向において第1プーリ94の回転軸中心及び第2プーリ95の回転軸中心と異なる位置に配置されている。第3プーリ96は、例えばエアシリンダ57のロッドエンド69の真後ろに配置されている。
【0072】
第4プーリ97(本発明の第4従動回転部材)は、無端ベルト98がエアシリンダ57と干渉しないように無端ベルト98を屈曲させるための部材である。第4プーリ97は、例えばベース部材91の短尺部91bに回転自在に支持されている。第4プーリ97は、例えば前後方向において第1プーリ94と第2プーリ95との間に配置されている。第4プーリ97は、例えば第2プーリ95及び第3プーリ96よりも前側に配置されている。第4プーリ97は、例えば上下方向において、第1プーリ94及び第2プーリ95と、第3プーリ96との間に配置されている。第4プーリ97は、例えばエアシリンダ57のロッドエンド69のすぐ上側に配置されている。
【0073】
無端ベルト98(本発明の巻掛部材)は、例えば公知の歯付ベルトである。無端ベルト98は、例えば第1プーリ94~第3プーリ96に巻き掛けられている(より詳細には、例えば平行掛けされている)。言い換えれば、無端ベルト98の内周面が第1プーリ94~第3プーリ96に接触している。無端ベルト98のうち前後方向において第1プーリ94と第2プーリ95との間に配置され且つ略直線状に延びた部分を、説明の便宜上、延在部分98e(
図9(a)、
図9(b)参照)と呼ぶ。延在部分98eには、移動体99が固定されている。
図9(c)に示すように、無端ベルト98は、左右方向においてエアシリンダ57と少なくとも部分的に重なるように配置されている。より具体的には、例えば無端ベルト98の長手方向における全域が、例えば左右方向と直交し且つ仮想平面VPAとは別の仮想平面VPB上に広がるように配置されている。無端ベルト98の外周面は、第4プーリ97に接触している。無端ベルト98は、第4プーリ97によって、エアシリンダ57と干渉しないように屈曲させられている。
【0074】
移動体99は、無端ベルト98の延在部分98eに固定された部材である。移動体99は、例えば無端ベルト98の厚み方向において無端ベルト98を挟むように構成されている。移動体99は、例えば不図示のボルト等の固定具によって無端ベルト98に固定されている。或いは、移動体99は、例えば接着等によって無端ベルト98に固定されていても良い。移動体99は、無端ベルト98が第1プーリ94~第4プーリ97に対して動くときに、無端ベルト98の延在部分98eと共に前後方向に移動可能である。つまり、移動体99は、前後方向において、ベース部材91の平行移動に伴ってラック81に対して移動するとともに、第1プーリ94~第4プーリ97に対しても移動する。移動体99は、例えば上述した支持アーム41等を介して、保持部22と接続されている(
図3(a)参照)。これにより、保持部22は、移動体99の前後方向における移動に伴い、少なくとも前後方向に移動可能である。
【0075】
(伝達機構の動作)
以上の構成を有する伝達機構83の動作について、
図9(b)を参照しつつ説明する。特に、作業者が保持部22を手で移動させるときに伝達機構83に作用する力等について説明する。
【0076】
エアシリンダ57の状態が、上述した非加力状態である場合を想定する。例えば、作業者が保持部22に対して後方への力を加えたとき、その力と実質的に同じ大きさの所定の力F1(
図9(b)参照)が、移動体99及び無端ベルト98に加えられる。無端ベルトが動くことによって、第1プーリ94~第4プーリ97が回転する。第1プーリ94~第4プーリ97にも、力F1と略等しい大きさの力が加えられる。また、第3プーリ96と一体的にピニオン82が回転する。上述したように、ピニオン82のピッチ円直径は第3プーリ96のピッチ円直径と略等しい。このため、ピニオン82の歯82aにも力F1と略等しい大きさの(但し、前後方向において力F1とは逆向きの)力が加えられる。ピニオン82の歯82aはラック81の歯81aと噛み合っているので、ピニオン82はラック81からの反力(力F2)を受け、回転しつつ後方へ移動しようとする。力F1の大きさと力F2の大きさは略等しい。これにより、力F1と力F2との合力(すなわち、力F1の2倍の大きさを有する後方への力)がエアシリンダ57のピストンロッド68に作用する。この力が、ピストンロッド68に作用する抵抗力(力F3)よりも大きいとき、ピストン67及びピストンロッド68は後方へ移動する。この抵抗力は、主として、シリンダ本体66とピストン67(
図6(b)参照)との間に作用する摩擦力を含む。言い換えると、作業者が力F3よりも小さい力(より具体的には、力F3の半分の大きさの力)を保持部22に加えるだけで、保持部22を移動させることができる。ここで、説明の便宜上、移動体99の前後方向における移動距離を第1距離D1(
図9(b)参照)と呼ぶ。また、移動体99が前後方向に第1距離D1移動したときに、前後方向において移動体99が移動する側と同じ側へピストンロッド68(及びピニオン82)が移動する距離を、説明の便宜上、第2距離D2(
図9(b)参照)と呼ぶ。第2距離D2は、第1距離D1よりも短い。より具体的には、本実施形態において、第2距離D2は第1距離D1の半分である。
【0077】
以下、伝達機構83の構成要素と、公知の動滑車の構成要素との対応関係について説明する。ピニオン82が動滑車に相当する。抵抗力が、動滑車に吊るされたおもりに作用する重力に相当する。ラック81が、天井に支えられたひもに相当する。回転しようとしているピニオン82をラック81が支える(押し返す)力が、天井が動滑車を支える力に相当する。前後方向において保持部22(及び移動体99)に加えられる力が、作業者が手でひもを引く力に相当する。第1距離D1が、作業者が手でひもを引く距離に相当する。第2距離D2が、動滑車の移動距離に相当する。この原理により、第1距離D1が長くなる代わりに、保持部22に加えるべき力を低減できる。このようにして、保持部22の操作性を改善できる。
【0078】
(糸掛け方法)
次に、上述した糸掛機構21を用いて複数の支点ガイド20に糸Yを掛ける方法について、
図10(a)~
図18を参照しつつ説明する。
図10(a)~
図10(c)は、保持部22が保持部退避位置に位置している様子を示す説明図である。
図11(a)~
図11(f)は、紡糸引取機1への糸掛けのうち、分繊ローラ74に複数の糸Yが押し当てられるまでの作業を示す説明図である。
図12(a)~
図12(c)は、保持部22の捕捉準備位置(後述)への移動を示す説明図である。
図13(a)~
図13(c)は、保持部22の位置の微調整を示す説明図である。
図13(b)は、
図13(a)に示す領域Rの拡大図である。
図14(a)及び
図14(b)は、前後駆動機構45において各部に加えられる力を示す説明図である。より具体的には、
図14(a)は、作業者による保持部22の手動操作時に前後駆動機構45の各部に加えられる力を示す。
図14(b)は、圧縮空気による前後駆動機構45の動作時に前後駆動機構45の各部に加えられる力を示す図である。
図14(a)及び
図14(b)において、紙面左側が本実施形態の前側に相当し、紙面右側が本実施形態の後側に相当する。
図15(a)~
図15(c)は、保持部22が後退する様子を示す説明図である。
図16(a)~
図16(c)は、保持部22の糸掛開始位置への移動を示す説明図である。
図17(a)~
図17(c)は、保持部22の糸掛完了位置への移動を示す説明図である。
図18は、複数の支点ガイド20に複数の糸Yがそれぞれ掛けられる様子を示す説明図である。
【0079】
後の説明の便宜上、エアシリンダ56のピストンロッド63が完全に伸びているときのロッドエンド64及びピン52の前後方向における位置を「伸長位置」と呼ぶ。ピストンロッド63が完全に縮んでいるときのロッドエンド64及びピン52の前後方向における位置を「収縮位置」と呼ぶ。また、前後駆動機構45において、エアシリンダ57のピストンロッド68が完全に伸びているときの移動体99の前後方向における位置を「後端位置」と呼ぶ。ピストンロッド68が完全に縮んでいるときの移動体99の前後方向における位置を「前端位置」と呼ぶ。
【0080】
本実施形態における糸掛けの概略は、以下のとおりである。まず、作業者によって、第1ゴデットローラ3、規制ガイド8及び第2ゴデットローラ4に糸Yが掛けられる。次に、作業者によって、分繊ローラ74に一時的に糸Yが押し当てられる。さらに、作業者によって、複数の糸Yが保持部22に保持される。最後に、糸掛機構21が制御装置6の制御によって動作し、保持部22を後述の捕捉位置から糸掛開始位置へ移動させ、さらに、糸掛完了位置へ移動させる。これにより、保持部22に保持された複数の糸Yが、複数の支点ガイド20にそれぞれ掛けられる。
【0081】
以下、糸掛けの詳細について説明する。糸掛けが開始される前には、エアシリンダ56のピストンロッド63は、伸長位置(
図10(b)参照)に位置している。移動体99は、上述した前端位置(
図10(c)参照)に位置している。これにより、一対の保持部22の各々は、所定の保持部退避位置(
図3(a)及び
図10(a)参照)に位置している。また、分繊ローラ74は、ローラ退避位置(
図7(a)の二点鎖線参照)に位置している。
【0082】
糸掛けを開始する際、作業者は制御装置6の入力部(不図示)に対して所定の入力操作を行う。制御装置6は、入力された信号に従って紡糸引取機1の各部を制御し、紡糸引取機1の状態を以下のような糸掛け準備状態にする。すなわち、制御装置6は、第2ゴデットローラ4を前側位置(
図11(a)等参照)に移動させる。また、制御装置6は、複数の支点ガイド20を近接位置(
図10(a)等参照)に移動させる。
【0083】
次に、作業者は、糸間隔増大部24の持手部73を操作して回動アーム72を回転させ、分繊ローラ74をローラ退避位置からローラ接触位置(
図7(a)の実線及び
図11(a)参照)に移動させる。
【0084】
次に、作業者は、複数の糸Yを吸引保持可能に構成されたサクションガンSG(
図11(a)参照)を用いて、複数の糸Y(具体的には、32本の糸YA、YBの全て)を吸引保持する。作業者は、サクションガンSGを操作して、複数の糸Yを第1ゴデットローラ3、規制ガイド8及び第2ゴデットローラ4にこの順番で掛ける(
図11(a)参照)。
【0085】
次に、作業者は、サクションガンSGを操作して、サクションガンSGの先端部を分繊ローラ74の下側且つ右側に移動させる(
図11(b)、(c)参照)。これにより、作業者は、複数の糸Yを分繊ローラ74のすぐ後側に移動させる(
図11(d)参照)。このとき、規制ガイド8からサクションガンSGへ向かって走行している複数の糸Y同士の間隔は、サクションガンSGに近づくにつれて狭くなっている。
【0086】
次に、作業者は、サクションガンSGの先端部を前側へ移動させ、複数の糸Yを分繊ローラ74の周面に接触させる(
図11(e)、(f)参照)。これにより、走行している複数の糸Yとの摩擦力によって分繊ローラ74が従動回転する。このとき、分繊ローラ74に接触している複数の糸Yの左右方向における間隔は、規制ガイド8によって規定されている複数の糸Yの左右方向における間隔と同程度まで広げられる(
図11(f)参照)。これにより、左右方向に並べられた略平行な複数の糸道が形成される。一般的に、回転しているローラに接触している複数の糸Y同士の間隔は、当該ローラの糸走行方向におけるすぐ上流側で規定された間隔と略等しくなるためである。当該原理の詳細については、例えば特開2012-021240号公報を参照されたい。
【0087】
複数の糸Y同士の間隔が分繊ローラ74によって広げられた後、作業者は、制御装置6の入力部に対して、糸掛機構21の動作を開始するための入力操作を行う。制御装置6は、入力された信号に従って、糸掛機構21の各部を制御する。以下、巻取部5Aにおける糸掛機構21の動作についてのみ説明する。
【0088】
まず、制御装置6は、エアシリンダ56の動作を制御して、エアシリンダ56のピストンロッド63を伸長位置(
図10(b)参照)から収縮位置(
図12(b)参照)に移動させる。これにより、ピン52が前側へ移動すると、揺動アーム43のガイド孔51がピン52に追従するように、揺動アーム43及び案内レール42が従動的に揺動する(
図12(a)参照)。すると、支持アーム41の前端部及び保持部22が、案内レール42に追従して右側に揺動する(
図12(a)参照)。これにより、保持部22は、保持部退避位置から、複数の糸YAを捕捉することが可能な捕捉位置(後述)の近傍に移動する。より具体的には、保持部22は、保持部退避位置から、作業者が複数の糸YAを保持部22に捕捉させる作業を行うための捕捉準備位置(
図12(a)参照)に移動する。捕捉準備位置は、捕捉位置よりも少なくとも前側の位置である。図示は省略するが、保持部22の捕捉準備位置は、分繊ローラ74の左側部分のすぐ上側且つ複数の糸YAのすぐ前側の位置である。
【0089】
制御装置6は、この状態で糸掛機構21の動作をいったん停止させる。また、制御装置6は、電磁弁EV2(
図6(b)参照)を制御して、エアシリンダ57のピストン室66F及びピストン室66Rの両方から圧縮空気を排出させる。
【0090】
次に、作業者は、捕捉準備位置に位置している保持部22の位置を調節する。まず、上述したように、揺動アーム43にはガイド孔51が設けられている。ガイド孔51の前端部以外の部分の幅は、ピン52の外径よりもほんのわずかに大きい。このため、ピン52がガイド孔51の前端部以外の部分に挿通されているときには、揺動アーム43を手動で揺動させることはほとんどできない。一方、ガイド孔51の前端部には遊び部分53が設けられている。このため、ピン52がガイド孔51の前端部に挿通されているとき(つまり、ピストンロッド63が収縮位置に位置しているとき)、ピン52は遊び部分53に遊嵌されている。このため、作業者は、揺動アーム43を手で左右方向に揺動させることができる(
図13(a)及び
図13(b)参照)。
【0091】
また、作業者は、上述したように、エアシリンダ57の状態が非加力状態であるときに、保持部22(及び移動体99)を前後方向に移動させることができる。作業者は、例えば、持手部分37を手で持って櫛ガイド31を動かす。移動体99に加えられる力が上述した力F1(
図9(b)及び
図14(a)参照)よりも大きいとき、保持部22を後方へ移動させることができる。作業者は、保持部22を手で動かし、保持部22を捕捉準備位置から捕捉位置に移動させ、複数の糸YAを保持部22に捕捉させる(
図13(c)参照)。保持部22は、複数の糸YAを例えば左右方向に分けて保持する。
【0092】
ここで、保持部22が複数の糸YAを保持しているとき、複数の糸YAに付与される張力に起因して、保持部22が前方へ押し返される。これにより、移動体99にも前方への力が加えられる(より具体的には、
図14(b)に記載の力F4を参照)。また、これとともに、上述した原理と同様の原理により、ピニオン82にも前方への力が加えられる(より具体的には、
図14(b)に記載の力F5を参照)。すると、ピストンロッド68に対して、力F4と力F5との合力(すなわち、力F4の2倍の力)が加えられる。この合力は、ピストンロッド68が後方へ移動することを妨げようとする抵抗力である。
【0093】
作業者は、複数の糸YAを保持部22に捕捉させた後、制御装置6の入力部に対して、糸掛けを続行させるための入力操作を行う。制御装置6は、入力された信号に従って糸掛けを続行する。
【0094】
制御装置6は、エアシリンダ57の動作を制御して、移動体99を前端位置から後端位置へ移動させる。つまり、制御装置6は、エアシリンダ57の状態を加力状態にする。より具体的には、制御装置6は、ピストン室66Fに圧縮空気を供給するよう電磁弁EV2を制御する。ピストン室66F内の圧縮空気によってピストン67が後方へ押圧され、ピストン67及びピストンロッド68に所定の力(より具体的には、
図14(b)に記載の力F6を参照)が加えられる。なお、上述した原理と同様の原理によれば、力F6の大きさは、力F4の大きさの2倍よりも大きいことが求められる。ピストンロッド68が後方へ伸びることにより、支持アーム41の後端部が後側へ移動し、支持アーム41の前端部が案内レール42に沿って例えば斜め後ろ左側へ移動する(
図15(a)参照)。その結果、保持部22が、糸YAを保持した状態で案内レール42に沿って斜め後ろ左側へ移動する。なお、制御装置6は、電磁弁EV2を上記のように制御する前に、第2ゴデットローラ4をローラ後側位置へ戻しても良い。或いは、制御装置6は、複数の支点ガイド20への糸掛けが完了した後で第2ゴデットローラ4をローラ後側位置へ戻しても良い。
【0095】
次に、制御装置6は、エアシリンダ56の動作を制御して、ピストンロッド63を収縮位置から伸長位置に移動させる(
図16(b)参照)。これにより、ピン52が後側へ移動し、それに追従して揺動アーム43が左側へ揺動する。すると、案内レール42の前後方向に対する傾き角度が変更され、保持部22の傾き角度も変更される(
図16(a)参照)。より具体的には、案内レール42は、巻取部5Aの最も後側の支点ガイド20の近傍から、最も前側の支点ガイド20の近傍に向かって斜め前左側へ延びている。このとき、保持部22は、本発明の糸掛開始位置に位置している。糸掛開始位置は、捕捉位置よりも後側の位置である。
【0096】
さらに、制御装置6は、エアシリンダ57の動作を制御して、移動体99を後端位置から前端位置へ移動させる(
図17(c)参照)。これにより、支持アーム41の前端部がシリンダ本体66に沿って前側へ移動し、支持アーム41の前端部が案内レール42に沿って斜め前左側へ移動する(
図17(a)及び
図18参照)。これにより、保持部22の複数の保持溝35にそれぞれ保持された複数の糸YAが、対応する支点ガイド20にそれぞれ掛けられる(
図18参照)。保持部22は、糸掛開始位置よりも少なくとも前側の位置である糸掛完了位置まで移動する(
図17(a)の実線参照)。保持部22が糸掛開始位置から糸掛完了位置へ移動することにより、複数の糸YAの全てが、対応する支点ガイド20にそれぞれ掛けられる。このようにして、複数の支点ガイド20への糸掛けが完了する。なお、上述した保持部退避位置と糸掛完了位置は、同じ位置である。その後、制御装置6は、複数の支点ガイド20を巻取位置(離隔位置)に戻す。
【0097】
巻取部5Bが有する複数の支点ガイド20への糸掛けも、同様にして行われる。
【0098】
制御装置6は、さらに、一対の巻取部5の各部を制御して、複数のボビンBへの糸掛け等を実行する(詳細な説明は省略する)。これにより、複数のボビンBの各々に糸Yを巻き取り始めることが可能となる。
【0099】
以上のように、エアシリンダ57の状態を非加力状態にすることで、保持部22と接続されたピストンロッド68が手動で動かされることが可能になる。本実施形態の前後駆動機構45(調節機構)は、動滑車の原理を応用した機構になっている。この原理により、第1距離D1が長くなる代わりに、保持部22に加えるべき力を低減できる。以上により、糸掛機構21に設けられた保持部22を小さな力で位置調節できる。
【0100】
また、糸掛機構21は、エアシリンダ57の状態が非加力状態であるときに、保持部22の前後方向における位置を捕捉準備位置と捕捉位置との間で手動調節可能に構成されている。また、糸掛機構21は、エアシリンダ57の状態が加力状態であるときに、保持部22を捕捉位置から糸掛開始位置へ移動させ、さらに糸掛完了位置へ移動させることにより、保持部22によって保持された複数の糸Yを複数の支点ガイド20にそれぞれ掛けることが可能に構成されている。これにより、保持部22を捕捉準備位置から捕捉位置に移動させる際には、エアシリンダ57の状態を非加力状態にすることで、手動で保持部22の微妙な位置調節を行うことができる。また、その後にエアシリンダ57の状態を加力状態にすることで、糸掛機構21を用いて人手によらず糸掛けを行うことができる。したがって、糸掛けに要する手間を軽減できる。
【0101】
また、エアシリンダ57は、ピストン室66F及びピストン室66Rの両方から圧縮空気が排出されることにより非加力状態になる。すなわち、例えば電動シリンダ又は油圧シリンダ等の流体圧シリンダと比べて一般的に安価なエアシリンダを用いることにより、前後駆動機構45(駆動機構)を形成できる。したがって、紡糸引取機1の部材コストを低減できる。
【0102】
また、第1プーリ94及び第2プーリ95がベース部材91に回転自在に支持されている。さらに、無端ベルト98が、第1プーリ94及び第2プーリ95に巻き掛けられている。このような構成において、第1プーリ94、第2プーリ95、無端ベルト98及び移動体99を、前後方向において、ベース部材91が延びる範囲と概ね同じ大きさの領域内に収まるように配置できる。また、ベース部材91の前後方向における移動距離は、ピストンロッド68の前後方向における移動距離(伸縮距離)と等しい。これにより、前後方向において伝達機構83の移動範囲を小さく抑えることができる。したがって、紡糸引取機1の前後方向における大型化を抑制できる。
【0103】
また、第3プーリ96の回転軸中心は、上下方向において第1プーリ94の回転軸中心及び第2プーリ95の回転軸中心と異なる位置に配置されている。このため、第3プーリ96の上下方向における配置位置をある程度自由に設定できる。これにより、ピニオン82及びラック81の上下方向における配置位置をある程度自由に設定できる。したがって、伝達機構83とラック81とが互いに干渉することを容易に回避できる。
【0104】
また、第3プーリ96のピッチ円直径がピニオン82のピッチ円直径と比べて小さすぎると、保持部22を手動で移動させるために必要な力が大きくなりすぎるおそれがある。逆に、第3プーリ96のピッチ円直径がピニオン82のピッチ円直径と比べて大きすぎると、保持部22をエアシリンダ57によって移動させるために必要な力が大きくなりすぎるおそれがある。この点、本実施形態では、第3プーリ96のピッチ円直径は、ピニオン82のピッチ円直径と略等しい。このため、保持部22を手動で移動させるために必要な力の軽減と、保持部22をエアシリンダ57によって移動させるために必要な力の増大の抑制とを容易に両立できる。
【0105】
本実施形態において得られる他の効果についても以下説明する。第3プーリ96は、前後方向において第2プーリ95と略同じ位置に配置されている。したがって、第3プーリ96によって伝達機構83が前後方向に大型化することを回避できる。
【0106】
また、伝達機構83は、第4プーリ97を有する。無端ベルト98を左右方向においてエアシリンダ57と少なくとも部分的に重なるように配置することにより、紡糸引取機1の左右方向における大型化を抑制できる。但し、エアシリンダ57と無端ベルト98との位置関係によっては、無端ベルト98がエアシリンダ57に干渉しうる。この点、本実施形態では、第4プーリ97によって無端ベルト98の形状をある程度自由に設定できる。これにより、紡糸引取機1の左右方向における大型化を抑制し、且つ、エアシリンダ57と無端ベルト98との干渉を容易に回避できる。
【0107】
また、第4プーリ97は、前後方向において第1プーリ94と第2プーリ95との間に配置されている。また、第4プーリ97は、上下方向において、第1プーリ94及び第2プーリ95と、第3プーリ96との間に配置されている。したがって、第4プーリ97によって伝達機構83が前後方向及び/又は上下方向に大型化することを回避できる。
【0108】
また、案内レール92が左右方向においてラック81と少なくとも部分的に重なるように配置されている。したがって、案内レール92によって糸掛機構21が左右方向に大型化することを抑制できる。
【0109】
また、糸掛機構21はラック81とピニオン82とを有する。つまり、糸掛機構21において、シンプルな構造を有する一般的なラックアンドピニオン機構が用いられる。したがって、糸掛機構21の構造の複雑化を抑制できる。
【0110】
次に、前記実施形態に変更を加えた変形例について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0111】
(1)前記実施形態において、糸掛機構21はラック81とピニオン82とを有するものとした。しかしながら、これには限られない。ラック81の代わりに、チェーン又は歯付ベルト(いずれも不図示)が本発明の延在部材として設けられていても良い。チェーンが本発明の延在部材として設けられている場合、ピニオン82の代わりにスプロケット(不図示)が本発明の回転部材として設けられていても良い。歯付ベルトが本発明の延在部材として設けられている場合、ピニオン82の代わりにプーリ(不図示)が本発明の回転部材として設けられていても良い。
【0112】
(2)前記までの実施形態において、エアシリンダ57のピストンロッド68はピストン67よりも後側へ突出しているものとした。しかしながら、これには限られない。ピストンロッド68がピストン67よりも前側に突出していても良い。すなわち、例えば、伝達機構83の代わりに、伝達機構83と前後方向に関して対称な伝達機構(不図示)が設けられていても良い。
【0113】
(3)前記までの実施形態において、伝達機構83は第4プーリ97を有するものとした。しかしながら、これには限られない。例えば、
図19(a)に示すように、伝達機構83の代わりに伝達機構101が設けられていても良い。伝達機構101においては、第4プーリ97が設けられていなくても良い。例えば、第1プーリ94及び第2プーリ95に無端ベルト98Aが巻き掛けられていても良い。不図示のプーリが第2プーリ95と同軸に設けられていても良い。当該不図示のプーリ及び第3プーリ96に無端ベルト98Bが巻き掛けられていても良い。なお、この場合、第3プーリ96は左右方向において第1プーリ94及び第2プーリ95と異なる位置に配置される。
【0114】
(4)前記までの実施形態において、伝達機構83(及び伝達機構101)は第3プーリ96を有するものとした。しかしながら、これには限られない。例えば、
図19(b)に示すように、伝達機構102が設けられていても良い。伝達機構102において、第1プーリ94及び第2プーリ95に無端ベルト98Aが巻き掛けられていても良い。さらに、公知のギアであるギア111が第2プーリ95と同軸に設けられていても良い。ギア111は、例えば公知のギアであるギア112を介してピニオン82と連結されていても良い。
【0115】
或いは、例えば、
図19(c)に示すように、伝達機構103が設けられていても良い。伝達機構103において、第1プーリ94及び第2プーリ95に無端ベルト98Aが巻き掛けられていても良い。さらに、ピニオン82が第2プーリ95と同軸に設けられ、ピニオン82の配置位置に応じてラック81が配置されていても良い。なお、この場合、ラック81が案内レール92に干渉することを回避するため、ラック81は左右方向において案内レール92と異なる位置に配置される必要が生じうる。
【0116】
(5)前記までの実施形態において、伝達機構83等は第1プーリ94及び第2プーリ95を有するものとした。しかしながら、これには限られない。例えば、
図19(d)に示すように、伝達機構104が設けられていても良い。伝達機構104は、第1プーリ94及び第2プーリ95を有していなくても良い。伝達機構104は、例えば、ラック81と、ピニオン82Mと、ラック113とを有していても良い。ピニオン82Mのピッチ円直径は、ピニオン82のピッチ円直径と異なっていても良い。ピニオン82Mは、ロッドエンド69Aに回転自在に取り付けられていても良い。ラック113は、例えば上下方向においてピニオン82Mを隔ててラック81と反対側に配置され、前後方向に延びていても良い。移動体99の代わりに移動体99Aが設けられていても良い。移動体99Aはラック113の前端部に固定されていても良い。但し、このような構成において、ラック113の後端と移動体99Aとの前後方向における相対位置は変化しない。このため、移動体99Aが後端位置に移動したとき、ラック113の後端部がラック81よりも後側に突出しうる。したがって、この変形例においては、前後方向において紡糸引取機1の設置領域を広くする必要が生じうる。
【0117】
(6)前記までの実施形態において、前後駆動機構45はエアシリンダ57を有するものとした。しかしながら、これには限られない。エアシリンダ57の代わりに、例えば公知のマグネット式ロッドレスシリンダが設けられていても良い。
【0118】
或いは、エアシリンダ57の代わりに、圧縮空気とは別の流体によって駆動される流体圧シリンダ(例えば油圧シリンダ)が設けられていても良い。この場合も、流体圧シリンダのシリンダ本体(不図示)の前後方向における両側に設けられたピストン室(不図示)から流体を排出することにより、流体圧シリンダの状態が非加力状態になる。
【0119】
或いは、エアシリンダ57の代わりに、公知のステッピングモータ等の、電気によって駆動される駆動源が設けられていても良い。この場合でも、駆動源の状態が非加力状態となることにより、保持部22を手動で移動させることが可能である。モータが設けられた前後駆動機構(不図示)においては、モータのステータ(不図示)が本発明の固定部に相当する。モータのロータ及び回転軸(不図示)が本発明の可動部に相当する。但し、モータの設置位置は固定されていなくても良い。例えば、モータの回転軸にピニオン82が連結されていても良い。この場合、モータはピニオン82と共にラック81に対して平行移動可能に構成されていても良い。
【0120】
(7)前記までの実施形態において、伝達機構83等は複数のプーリと無端ベルト98とを有するものとした。しかしながら、これには限られない。複数のプーリの代わりに、公知の複数のスプロケット(不図示)が本発明の第1~第4従動回転部材として設けられていても良い。この場合、無端ベルト98の代わりに公知のチェーン(不図示)が設けられていても良い。
【0121】
(8)前記までの実施形態において、糸掛機構21は、駆動部23によって保持部22を捕捉位置から糸掛開始位置へ移動させ、さらに糸掛完了位置へ移動させるように構成されているものとした。しかしながら、これには限られない。例えば、これらの一連の移動工程の一部が作業者によって行われるように糸掛機構21が構成されていても良い。
【0122】
(9)前記までの実施形態において、ガイド孔51の前端部に形成された遊び部分53が、保持部22の位置調整に寄与するものとした。しかしながら、これには限られない。例えば、上述した介在部材32に対して櫛ガイド31が揺動可能に構成されていても良い。或いは、例えば、櫛ガイド31が、介在部材32の代わりに不図示のばね(圧縮コイルバネ、引張コイルバネ及び/又はねじりコイルばね等)を介して支持アーム41に接続されていても良い。
【0123】
(10)前記までの実施形態において、エアシリンダ56が案内レール42を揺動させるように構成されているものとした。しかしながら、これには限られない。例えば、案内レール42を平行移動させる機構が設けられていても良い。
【0124】
(11)前記までの実施形態において、案内レール42が直線状であり、目的に応じて案内レール42の位置が変更されるものとした。しかしながら、これには限られない。例えば、保持部22を移動させるための軌道に沿って形成された、移動不要の案内レール(不図示)が設けられていても良い。
【0125】
(12)前記までの実施形態において、複数の支点ガイド20が離隔位置と近接位置との間で移動可能であるものとした。しかしながら、これには限られない。複数の支点ガイド20は、移動不能であっても良い。但し、この場合には、駆動部23が前後方向に大型化しうる。
【0126】
(13)前記までの実施形態において、保持部22が保持部退避位置から捕捉位置へ移動させられるものとした。しかしながら、これには限られない。保持部22が邪魔にならないのであれば、保持部22は、初めから捕捉準備位置に位置していても良い。
【0127】
(14)前記までの実施形態において、糸掛機構21が糸間隔増大部24を有するものとした。しかしながら、これには限られない。糸掛機構21は糸間隔増大部24を有していなくても良い。
【0128】
(15)ピストン室66F、66Rの両方から圧縮空気を排出させるための構成は、
図6(b)に示されたものに限られない。例えば、電磁弁EV2の代わりに2つの三方向電磁弁(不図示)を設け、圧縮空気の供給及び排出のための経路を適切に設けることによって、ピストン室66F、66Rの両方から圧縮空気を排出させても良い。
【0129】
(16)エアシリンダ56と供給ポートPs及び排出ポートPe1、Pe2とを接続する経路は、
図6(b)に示すものに限られない。エアシリンダ57についても同様である。
【0130】
(17)前記までの実施形態において、エアシリンダ57のシリンダ本体66が支持部材26に固定されているものとした。しかしながら、これには限られない。例えば、上下方向に沿って延びた揺動軸(不図示)がシリンダ本体66の後端部に設けられており、シリンダ本体66が揺動軸を軸中心として揺動可能に構成されていても良い。この場合、案内レール42及びシリンダ本体66が一体的に揺動する。また、このような構成において、支持アーム41が移動体99に固定されていても良い。
【0131】
(18)前記までの実施形態において、糸掛機構21は複数の支点ガイド20に複数の糸Yを掛けるように構成されているものとした。しかしながら、これには限られない。例えば、前後方向に並べて配置された他の複数の糸ガイド(不図示)が紡糸引取機1に設けられている場合、このような複数の糸ガイドに複数の糸Yをそれぞれ掛けるように構成された糸掛機構(不図示)が設けられていても良い。
【0132】
(19)紡糸引取機1は、一対の巻取部5(巻取部5A、5B)を備えるものとしたが、これには限られない。紡糸引取機1は、例えば、巻取部5A、5Bのうち巻取部5Aのみを備えていても良い。
【0133】
(20)前記までの実施形態において、前後方向が本発明の第1方向に相当し、上下方向が本発明の第2方向に相当し、左右方向が本発明の第3方向に相当するものとした。しかしながら、これには限られない。第1方向は、前後方向に対して傾いていても良い。第2方向は、上下方向に対して傾いていても良い。第3方向は、左右方向に対して傾いていても良い。
【0134】
(21)本発明は、紡糸引取機1に限られず、複数の糸Yを巻き取るように構成された様々な糸巻取機に適用されることが可能である。
【符号の説明】
【0135】
1 紡糸引取機(糸巻取機)
20 支点ガイド(糸ガイド)
21 糸掛機構
22 保持部
45 前後駆動機構(駆動機構)
57 エアシリンダ(駆動源)
66 シリンダ本体(固定部)
66F ピストン室(第1ピストン室)
66R ピストン室(第2ピストン室)
67 ピストン(可動部)
68 ピストンロッド(可動部)
81 ラック(延在部材)
82 ピニオン(回転部材)
83 伝達機構
91 ベース部材
92 案内レール
94 第1プーリ(第1従動回転部材)
95 第2プーリ(第2従動回転部材)
96 第3プーリ(第3従動回転部材)
98 無端ベルト(巻掛部材)
98e 延在部分
99 移動体
B ボビン
D1 第1距離
D2 第2距離
Y 糸