(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138949
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】覆砂材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 5/02 20060101AFI20241002BHJP
C04B 5/06 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
C04B5/02 Z
C04B5/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049685
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 文隆
(72)【発明者】
【氏名】高野 元志
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112JK01
4G112JL02
4G112JM01
(57)【要約】
【課題】二酸化炭素をより効率良く固定化させ、かつ、水域環境中に置かれた場合であっても、アルカリ分の溶出を防止すること。
【解決手段】本発明は、製鋼スラグを用いた、覆砂材の製造方法であって、平均粒径が7mm以下の前記製鋼スラグに対して二酸化炭素を固定させて、前記製鋼スラグを炭酸化させる炭酸化工程と、炭酸化された前記製鋼スラグに対して、バインダー成分として水溶性樹脂を添加した上で、当該水溶性樹脂が添加された前記製鋼スラグを造粒して、覆砂材とする造粒工程と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鋼スラグを用いた、覆砂材の製造方法であって、
平均粒径が7.00mm以下の前記製鋼スラグに対して二酸化炭素を固定させて、前記製鋼スラグを炭酸化させる炭酸化工程と、
炭酸化された前記製鋼スラグに対して、バインダー成分として水溶性樹脂を添加した上で、当該水溶性樹脂が添加された前記製鋼スラグを造粒して、覆砂材とする造粒工程と、
を含む、覆砂材の製造方法。
【請求項2】
得られた前記覆砂材における、粒径が2mm以下の前記覆砂材が占める質量割合は、前記覆砂材の全質量に対して、30質量%以下である、請求項1に記載の覆砂材の製造方法。
【請求項3】
前記水溶性樹脂は、水溶性アクリル樹脂、水溶性ポリウレタン樹脂、水溶性ポリエステル樹脂、水溶性エポキシ樹脂、水溶性セラミック樹脂、又は、水溶性シリコン樹脂の少なくとも何れかである、請求項1又は2に記載の覆砂材の製造方法。
【請求項4】
前記炭酸化工程に供される前記製鋼スラグの平均粒径は、1.00mm以下である、請求項1又は2に記載の覆砂材の製造方法。
【請求項5】
前記炭酸化工程に供される前記製鋼スラグの遊離CaO及びCa(OH)2の合計含有量は、0.9質量%超である、請求項1又は2に記載の覆砂材の製造方法。
【請求項6】
得られる前記覆砂材の平均粒径は、1.0mm~5.0mmの範囲内である、請求項1又は2に記載の覆砂材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、覆砂材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼生産プロセスの副産物として発生する製鋼スラグは、酸化カルシウムを多く含有することから、温室効果ガスである二酸化炭素を炭酸カルシウムとして固定する効果があることが期待されている。近年、このような製鋼スラグを用いた二酸化炭素の固定化技術に関して、様々な技術が提案されている。
【0003】
当初、上記のような固定化技術によって得られた、炭酸塩化された製鋼スラグの利用方法については、従来の主要用途である道路用路盤材が候補に挙げられる。ここで、道路用路盤材は、求められる強度を保持するために、所定以上の粒度が求められる。一方、製鋼スラグに二酸化炭素をより多く固定するためには、製鋼スラグの比表面積が大きい方が好ましいことから、微細化した製鋼スラグを用いる方が好ましい。このような二酸化炭素が固定化された製鋼スラグを道路用路盤材に用いるには、二酸化炭素固定に好ましい粒度と路盤材として必要な強度を両立する必要があり、現実困難な問題があった。
【0004】
微細な製鋼スラグを用いて二酸化炭素を固定化させたものの用途の一つとして、例えば以下の特許文献1~特許文献3では、覆砂材、埋め戻し材、環境保全材等のような、水域環境での用途が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-131651号公報
【特許文献2】特開2005-320230号公報
【特許文献3】特開2021- 80111号公報
【特許文献4】特開2007- 31220号公報
【特許文献5】特開2008-100893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1~特許文献3で提案されているような水域環境での利用(特に、海域での利用)に関して、本発明者は、以下のような点を懸念した。
【0007】
すなわち、粒径の小さな製鋼スラグは、海域投入時において沈降速度が遅いために、広い範囲にわたって拡散することとなり、海水に長時間の濁りを生じさせることが懸念される。また、製鋼スラグは、沈降したとしても、長期間にわたり潮流により流されることで、製鋼スラグ同士が摩耗していく。その結果、炭酸化した表層部が削られることで新生面が生じ、製鋼スラグの成分であるアルカリ分(例えば、水酸化物イオン)が溶出してしまう懸念がある。海水中でアルカリ分が溶出すると、海水のpHが上昇し、海水中のマグネシウムイオンが、白色の固形物である水酸化マグネシウムとして析出する。これにより、海水が白濁してしまう。
【0008】
上記特許文献1~特許文献3では、このような摩耗に伴うアルカリ分溶出への対策について、言及されていない。
【0009】
また、上記特許文献4では、鉄鋼製造プロセスで発生する粉状スラグを、各種骨材や路盤材の一部として利用したり、天然砂の代替原料として利用したりするにあたって、篩下粒径5mm以下のものを20質量%以上含む粉状スラグを所定の水分量に調整し、炭酸ガスを供給しながら、機械的な攪拌を付与することで造粒する技術が提案されている。スラグを造粒することによって、スラグの粒径は大きくなることから、かかるスラグが海域に投入された際には、沈降速度も速くなるものと期待される。
【0010】
しかしながら、篩下粒径5mm以下のものを20質量%以上含む粉状スラグでは、二酸化炭素を効率的に固定化できる粒径を有しているとも言い切れず、二酸化炭素の固定化効率の向上という点で、未だに改善の余地がある。
【0011】
また、炭酸ガス(二酸化炭素)は、スラグの表面から浸透していくことで、スラグ中の酸化カルシウムと反応が進行し、固定化される。しかしながら、造粒しながら炭酸ガスを供給した場合には、造粒物の表層部分では固定化が進むものの、造粒物の内部では反応が十分に進行しない可能性があり、摩耗に伴うアルカリ分溶出への対策という点で、未だに改善の余地がある。
【0012】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、二酸化炭素をより効率良く固定化させることが可能であり、かつ、水域環境中に置かれた場合であっても、アルカリ分の溶出を防止することが可能な、覆砂材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明者が鋭意検討を行った結果、製鋼スラグに二酸化炭素を固定させて、製鋼スラグを炭酸化する工程と、製鋼スラグを造粒する工程と、を分離させること、及び、製鋼スラグを造粒するにあたって、アルカリ分の溶出を防止可能な物質を、含有させることに想到し、本発明を完成するに至った。
かかる知見に基づき完成された本発明の要旨は、以下の通りである。
【0014】
(1)製鋼スラグを用いた、覆砂材の製造方法であって、平均粒径が7.00mm以下の前記製鋼スラグに対して二酸化炭素を固定させて、前記製鋼スラグを炭酸化させる炭酸化工程と、炭酸化された前記製鋼スラグに対して、バインダー成分として水溶性樹脂を添加した上で、当該水溶性樹脂が添加された前記製鋼スラグを造粒して、覆砂材とする造粒工程と、
を含む、覆砂材の製造方法。
(2)得られた前記覆砂材における、粒径が2mm以下の前記覆砂材が占める質量割合は、前記覆砂材の全質量に対して、30質量%以下である、(1)に記載の覆砂材の製造方法。
(3)前記水溶性樹脂は、水溶性アクリル樹脂、水溶性ポリウレタン樹脂、水溶性ポリエステル樹脂、水溶性エポキシ樹脂、水溶性セラミック樹脂、又は、水溶性シリコン樹脂の少なくとも何れかである、(1)又は(2)に記載の覆砂材の製造方法。
(4)前記炭酸化工程に供される前記製鋼スラグの平均粒径は、1.00mm以下である、(1)又は(2)に記載の覆砂材の製造方法。
(5)前記炭酸化工程に供される前記製鋼スラグの遊離CaO及びCa(OH)2の合計含有量は、0.9質量%超である、(1)又は(2)に記載の覆砂材の製造方法。
(6)得られる前記覆砂材の平均粒径は、1.0mm~5.0mmの範囲内である、(1)又は(2)に記載の覆砂材の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように本発明によれば、二酸化炭素をより効率良く固定化させることが可能であり、かつ、水域環境中に置かれた場合であっても、アルカリ分の溶出を防止することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る覆砂材の製造方法の流れの一例を示した流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0018】
(覆砂材の製造方法について)
本実施形態に係る覆砂材の製造方法は、鉄鋼製造プロセスで発生する製鋼スラグを用いて、覆砂材を製造する方法に関する。かかる覆砂材の製造方法は、
図1に模式的に示したように、炭酸化工程(ステップS11)と、造粒工程(ステップS13)と、を含む。
【0019】
<炭酸化工程(ステップS11)>
本実施形態に係る覆砂材の製造方法における炭酸化工程(ステップS11)は、製鋼スラグに対して二酸化炭素を固定させて、製鋼スラグを炭酸化させる工程である。かかる工程により、炭酸化された製鋼スラグ(以下、単に「炭酸化スラグ」と称することがある。)を得ることができる。
【0020】
ここで、製鋼スラグとしては、例えば、転炉スラグ、予備処理スラグ、脱炭スラグ、脱燐スラグ、脱硫スラグ、脱珪スラグ、電気炉還元スラグ、電気炉酸化スラグ、二次精錬スラグ、造塊スラグ等を挙げることができる。本実施形態に係る炭酸化工程(ステップS11)では、上記のような各種の製鋼スラグを、単独で用いることも可能であるし、複数種類を組み合わせて用いることも可能である。
【0021】
本実施形態に係る炭酸化工程(ステップS11)において、用いる製鋼スラグの平均粒径は、7.00mm以下とする。用いる製鋼スラグの平均粒径が7.00mm超となって、微細ではなくなる場合には、製鋼スラグの比表面積が小さすぎるために、二酸化炭素との反応効率を向上させることができず、ひいては、二酸化炭素の固定化効率を向上させることができない。用いる製鋼スラグの平均粒径が7.00mm以下となることで、製鋼スラグの比表面積を十分に大きな値とすることができ、二酸化炭素の固定化効率を向上させることが可能となる。本実施形態に係る炭酸化工程において、用いる製鋼スラグの平均粒径は、1.00mm以下であることが好ましい。用いる製鋼スラグの平均粒径が1.00mm以下となることで、製鋼スラグのより多くの部分で二酸化炭素との反応を生じさせることが可能となる結果、二酸化炭素の固定化効率をより一層向上させることができる。
【0022】
一方、用いる製鋼スラグの平均粒径の下限値は、特に規定するものではない。ただし、用いる製鋼スラグの平均粒径が小さいほど、後段の造粒工程において造粒しやすくなり、それと同時に、小さい平均粒径に調整するための粉砕や篩い分け処理において、費用が増大する。また、平均粒径が小さいほど、発塵性が高くなり、作業環境を著しく悪化させることから、取り扱い時の粉塵対策に多大の費用を要する。かかる点も考慮すると、用いる製鋼スラグの平均粒径の下限値は、実質的には15μm程度となる。
【0023】
なお、上記のような製鋼スラグの平均粒径は、例えば以下のようにして測定することが可能である。すなわち、レーザー回折・散乱法(JIS Z8825:2022)に準拠して測定を行い、平均粒径を求めることが出来る。ただし、製鋼スラグの粒径が大きく、レーザー回折・散乱法での測定範囲を超える場合は、ふるい分け試験(JIS Z8815:1994)に準拠して粒度分布測定を行い、平均粒径を求めることが出来る。本実施形態では、粒子径測定結果の表現(JIS Z8819:2019)のモーメント表記法による重み付き体積基準平均径を、平均粒径として求める。
【0024】
また、本実施形態に係る炭酸化工程(ステップS11)に供される製鋼スラグは、遊離CaO及びCa(OH)2の合計含有量が0.9質量%超となっていることが好ましい。炭酸化工程では、以下の反応式(1)で表されるような化学反応により、製鋼スラグ中のカルシウム分と二酸化炭素とが反応することで、二酸化炭素が固定化される。かかる反応により、製鋼スラグの表面から内部に向かって炭酸塩を含む層が形成されていく。
Ca2++CO3
2- → CaCO3 ・・・反応式(1)
【0025】
従って、炭酸化工程に供される製鋼スラグが、より多くのカルシウム分を含有することで、より多くの二酸化炭素を固定化することが可能となるため、好ましい。このような効果は、炭酸化工程に供される製鋼スラグ中の遊離CaO及びCa(OH)2の合計含有量が0.9質量%超となった際に、顕著に発現させることができる。かかる観点から、炭酸化工程に供される製鋼スラグの遊離CaO及びCa(OH)2の合計含有量は、0.9質量%超であることが好ましい。炭酸化工程に供される製鋼スラグの遊離CaO及びCa(OH)2の合計含有量は、より好ましくは2.0質量%以上である。
【0026】
ここで、上記の「遊離CaO及びCa(OH)2」とは、製鋼スラグの内部に分散して存在するCaO及びCa(OH)2を意味している。遊離CaO及びCa(OH)2の合計含有量は、エチレングリコール法やトリブロムフェノール法等といった測定方法により測定が可能である。
【0027】
上記のような製鋼スラグを炭酸化する具体的な手法については、特に限定されるものではなく、上記特許文献1~特許文献3、特許文献5に開示されている方法を含め、各種の炭酸化処理法を用いることが可能である。また、これらの炭酸化処理法における具体的な処理条件についても、特に限定されるものではない。
【0028】
かかる工程を経ることで製造された炭酸化スラグは、後段の造粒工程に供される。なお、得られた炭酸化スラグは、含有している水分が抜けきる前に、後段の造粒工程に供されることが好ましい。
【0029】
<造粒工程(ステップS13)>
本実施形態に係る覆砂材の製造方法における造粒工程(ステップS13)は、炭酸化された製鋼スラグを造粒して、覆砂材とする工程である。なお、製鋼スラグを造粒するにあたって、造粒機による造粒に先立って、各種の混練機等を用いて、造粒対象物を事前に混練しておいてもよい。
【0030】
ここで、本実施形態に係る造粒工程(ステップS13)では、炭酸化された製鋼スラグを造粒するにあたって、かかる製鋼スラグに対して、バインダー成分として水溶性樹脂を添加する。
【0031】
造粒時に炭酸化された製鋼スラグに添加される水溶性樹脂は、造粒時には液体であるが、造粒が終了して乾燥した後では固体化し、新たに水分を添加したとしても液体に戻ることが無い、という不可逆性を有する樹脂である。すなわち、水溶性樹脂は、ひとたび固化すると、長期間にわたって水に溶出することのない成分であると言える。
【0032】
例えば上記特許文献3では、製鋼スラグに対して、リグニンスルホン酸やその金属塩、糖蜜、澱粉等の補助材を添加する旨が開示されているが、これらの物質は、上記のような不可逆性を有している訳ではなく、固化した状態にあったとしても、新たに水分が添加されると、溶出する可能性がある。そのため、このような物質をバインダー成分として用いた場合には、バインダー成分を仲立ちに造粒された製鋼スラグが、バインダー成分の溶出に伴って崩壊してしまうことが懸念される。
【0033】
しかしながら、バインダー成分として水溶性樹脂を用いると、造粒時には、水溶性樹脂が液架橋を形成して、造粒対象である微細な炭酸化スラグを結び付けて、造粒されやすい状況を実現できる。加えて、造粒が終了して水溶性樹脂が乾燥・固化すると、固架橋を形成して、非常に強固な造粒物を得ることができる。これにより、得られた造粒物(すなわち、覆砂材)は、海水に浸漬後であっても長期間崩壊することはなく、微細な炭酸化スラグ同士が造粒された形態を長期間維持することができ、摩耗を生じにくい造粒物を得ることが可能となる。
【0034】
このようにして得られた造粒物(すなわち、覆砂材)は、その表面が水溶性樹脂によって被覆されているため、製鋼スラグのアルカリ分の溶出を防止することができる。また、かかる樹脂コーティングにより摩耗にも強い状態となっているため、長期間、水域環境中に置かれた場合であっても、アルカリ分の溶出を防止することができ、海水の白濁化を防止することができる。
【0035】
上記のようなバインダー成分として利用可能な水溶性樹脂としては、例えば、水溶性アクリル樹脂、水溶性ポリウレタン樹脂、水溶性ポリエステル樹脂、水溶性エポキシ樹脂、水溶性セラミック樹脂、又は、水溶性シリコン樹脂の少なくとも何れかを挙げることができる。また、上記のような複数種類の水溶性樹脂を、水溶性を消失しないように重合させたものを用いてもよい。また、環境影響への配慮から、樹脂成分が生分解性の性質を有することが好ましい。
【0036】
上記で例示したような各種の樹脂をはじめとする水溶性樹脂を用いることで、作業効率性の向上を図ることができる。また、水溶性樹脂に加えて、必要に応じて水分も添加することで、より均一化された覆砂材を得ることが可能となる。
【0037】
また、造粒物の乾燥を十分に行うために、乾燥時間を長く確保することが考えうる。だが、乾燥時間の長期化に伴い造粒時間も長期化してしまうため、乾燥のための敷地面積を確保する必要が生じて、生産効率が向上しない可能性がある。あるいは、造粒物の乾燥を十分に行うために、乾燥温度を高い温度とすることも考えうる。しかしながら、乾燥温度を高い温度とするためには、より多くのエネルギーが消費されてしまい、環境的に好ましくない。しかしながら、上記で例示したような各種の樹脂をはじめとする水溶性樹脂は、速乾性を有しているため、乾燥温度や乾燥時間を過度に確保する必要はなく、生産効率の向上を図ることができる。
【0038】
更に、上記で例示したような各種の樹脂をはじめとする水溶性樹脂を用いることで、水環境中での覆砂材の強度を保持することが可能となる。先だって言及したように、水溶性樹脂は、固化していない状態では水に溶解する一方で、乾燥した後は、水で分散されていた樹脂が接近、融着していき、炭酸化スラグ粒子間で固架橋を形成するために、水溶性の機能を消失する。これにより、バインダー成分である樹脂成分が水環境中で溶解、拡散することはなく、微細な炭酸化スラグ同士を結合した状態で保持することが可能となる。
【0039】
本実施形態に係る造粒工程において、工程に供される炭酸化スラグは、造粒後得られる覆砂材において、粒径が2mm以下の覆砂材が占める質量割合が、覆砂材の全質量の30質量%以下まで減少するように、造粒されることが好ましい。
【0040】
ここで、上記のような水溶性樹脂の添加量は、一義的に定めることは困難であり、造粒対象である炭酸化スラグの含有水分量や平均粒径、炭酸化スラグの全体量、必要に応じて添加する水分量、造粒後の覆砂材に求める平均粒径、許容される混練時間の範囲等に応じて変化する。従って、事前に、実際の操業に用いる炭酸化スラグと造粒機とを用いて検証を行い、用いる炭酸化スラグの粒子同士を過度な過不足なく固着できる程度の添加量と、上記のような各種の造粒パラメータの具体的な値とを、予め最適化しておくことが好ましい。
【0041】
ここで、かかる造粒工程に用いる造粒機については、特に限定されるものではなく、例えば、ブリケットマシン、パンペレタイザー、ドラムミキサー、ロータリーミキサー等といった、各種の転動造粒機を用いることが可能である。
【0042】
なお、かかる造粒工程に先だって実施される炭酸化工程において、製鋼スラグの一部が造粒されてしまったとしても、炭酸化工程終了後、造粒物の固化反応が進まぬよう約1時間以内に造粒工程において炭酸化スラグが混練されることで、造粒状態にある炭酸化スラグは造粒状態が解消される。そのため、炭酸化スラグは、水溶性樹脂で被覆されながら造粒されるようになる。
【0043】
<覆砂材の平均粒径>
本実施形態に係る覆砂材の製造方法において、上記のような工程を経て製造される覆砂材は、その平均粒径が、1.0mm~5.0mmの範囲内であることが好ましい。覆砂材の平均粒径が1.0mm以上となることで、水中投入時の沈降速度が速くなり、濁りの防止を抑制し、潮流等によって流されることを防止しながら、覆砂材の摩耗をより一層防止することが可能となる。得られる覆砂材の平均粒径は、より好ましくは1.2mm以上であり、更に好ましくは1.5mm以上である。一方、覆砂材の平均粒径が5.0mm以下となることで、生物が潜砂し易くなり、生物増加の観点で良好となる。得られる覆砂材の平均粒径は、より好ましくは4.0mmmm以下であり、更に好ましくは3.5mm以下である。
【0044】
ここで、得られた覆砂材の平均粒径は、既述の製鋼スラグの平均粒径と同様に測定することが可能である。
【0045】
また、得られる覆砂材は、その平均粒径が上記のような範囲内となるとともに、粒径が2mm以下の覆砂材が占める質量割合が、覆砂材の全質量に対して、30質量%以下であることが好ましい。粒径2mm以下のものが全体の30質量%以下まで減少することで、摩耗によって崩壊しうる覆砂材の割合を、より減少させることが可能となる。粒径が2mm以下の覆砂材が占める質量割合は、覆砂材の全質量に対して、より好ましくは20質量%以下である。
【0046】
なお、粒径が2mm以下の覆砂材が占める質量割合は、ふるい分け試験(JIS Z8815:1994)に準拠して測定可能である。
【0047】
以上、本実施形態に係る覆砂材の製造方法について、詳細に説明した。
【実施例0048】
続いて、実施例及び比較例を示しながら、本実施形態に係る覆砂材の製造方法について、具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本実施形態に係る覆砂材の製造方法の一例に過ぎず、本実施形態に係る覆砂材の製造方法が下記の例に限定されるものではない。
【0049】
以下に示す試験例では、遊離CaOが1.6質量%、又は、0.7質量%の粒径0~25mmの製鋼スラグ、及び、かかる製鋼スラグを分級し、以下の表1に示すような平均粒径を有するものとなった製鋼スラグを用いた。
A:遊離CaO及びCa(OH)2の合計含有量が1.6質量%である製鋼スラグ
B:遊離CaO及びCa(OH)2の合計含有量が0.7質量%である製鋼スラグ
【0050】
準備した各製鋼スラグを用い、製鋼スラグ10kgと水1Lとを、容量55Lのモルタルミキサーに投入した。その後、4L/分の流量で、純度95%の炭酸ガスをモルタルミキサー内に連続導入し、モルタルミキサーを4時間稼働(撹拌)させて、炭酸化処理を実施した。
【0051】
本試験例では、バインダー成分として、以下の4種類のものを準備した。
a1:水溶性ポリウレタンアクリル樹脂である、水性VATONトップクリヤー(大谷塗料株式会社製)
a2:液水性セラミックシリコン樹脂系塗料である、水性セラミシリコン(エスケー化研株式会社製)
b:糖蜜
c:澱粉
d:パルプ廃液
【0052】
上記のようにして準備した炭酸化スラグに対し、炭酸化スラグの質量の8%に相当するバインダー成分を加え、更に、炭酸化スラグの5~10%に相当する水を加えて、混練機にて10分間混練した。混練後の炭酸化スラグを、直径400mmのパンペレタイザーへ投入し、散水機で適宜に水を加えながら、転動造粒した。得られた造粒物を、温度105℃に設定した乾燥機により6時間乾燥させて、覆砂材とした。得られた各覆砂材の平均粒径、及び、粒径が2mm以下の覆砂材が占める質量割合について、先だって説明した方法に即して測定した。
【0053】
得られた各覆砂材について、固定化された二酸化炭素、及び、耐摩耗性の観点から評価した。得られた結果は、以下の表1にまとめて示した。
【0054】
[二酸化炭素の固定化効率の評価方法]
二酸化炭素の固定化効率については、「せっこうの化学分析方法(JIS R9101:2018)」の二酸化炭素の定量方法に従って炭酸化前後の二酸化炭素を定量し、炭酸化処理前後の定量値の差から、炭酸化処理によって固定化された二酸化炭素の質量濃度を求めた。二酸化炭素の質量濃度が0.5質量%未満となったものを不合格とした。
【0055】
[耐摩耗性の評価方法]
耐摩耗性については、以下のようにして評価を行った。
得られた各覆砂材100gを、2Lのポリ容器に投入し、pHを8.5に調整した人工海水を1L注入した。各ポリ容器について、振とう機により200rpmの速度で1時間攪拌し、ポリ容器内の覆砂材を激しく流動、摩耗させた。
【0056】
攪拌終了後、ポリ容器内の人工海水のpHを測定した。また、覆砂材及び人工海水を篩目2mmの篩にかけた後、篩下の覆砂材及び人工海水を、孔径1μmのガラス繊維ろ紙にてろ過し、乾燥後の質量を測定して浮遊物質量(Suspended Solids:SS)を求めた。得られた浮遊物質量が200mg/L以上であったもの、攪拌後のpHが9.5以上となったもの、及び、得られた浮遊物質量が200mg/L以上であり、かつ、攪拌後のpHが9.5以上となったものは、不合格とした。
【0057】
【0058】
上記表1から明らかなように、本発明の実施例に該当する覆砂材は、優れた二酸化炭素の固定化効率を示すとともに、耐摩耗性に優れる一方で、本発明の比較例に該当する覆砂材は、二酸化炭素の固定化効率、又は、耐摩耗性の少なくとも何れかが十分ではないことがわかる。
【0059】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0060】
今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではない。上記の実施形態は、添付の特許請求の範囲、後述するような本発明の技術的範囲に属する構成及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。例えば、上記実施形態の構成要件は、その効果を損なわない範囲内で、任意に組み合わせることが可能である。また、当該任意の組み合せからは、組み合わせにかかるそれぞれの構成要件についての作用及び効果が当然に得られるとともに、本明細書の記載から当業者には明らかな他の作用及び他の効果が得られる。
【0061】
また、本明細書に記載された効果は、あくまで説明的又は例示的なものであって、限定的ではない。つまり、本発明に係る技術は、上記の効果とともに、又は、上記の効果に代えて、本明細書の記載から当業者には明らかな他の効果を奏しうる。
【0062】
なお、以下のような構成も、本発明の技術的範囲に属する。
(1)
製鋼スラグを用いた、覆砂材の製造方法であって、
平均粒径が7.00mm以下の前記製鋼スラグに対して二酸化炭素を固定させて、前記製鋼スラグを炭酸化させる炭酸化工程と、
炭酸化された前記製鋼スラグに対して、バインダー成分として水溶性樹脂を添加した上で、当該水溶性樹脂が添加された前記製鋼スラグを造粒して、覆砂材とする造粒工程と、
を含む、覆砂材の製造方法。
(2)
得られた前記覆砂材における、粒径が2mm以下の前記覆砂材が占める質量割合は、前記覆砂材の全質量に対して、30質量%以下である、(1)に記載の覆砂材の製造方法。
(3)
前記水溶性樹脂は、水溶性アクリル樹脂、水溶性ポリウレタン樹脂、水溶性ポリエステル樹脂、水溶性エポキシ樹脂、水溶性セラミック樹脂、又は、水溶性シリコン樹脂の少なくとも何れかである、(1)又は(2)に記載の覆砂材の製造方法。
(4)
前記炭酸化工程に供される前記製鋼スラグの平均粒径は、1.00mm以下である、(1)~(3)の何れか1つに記載の覆砂材の製造方法。
(5)
前記炭酸化工程に供される前記製鋼スラグの遊離CaO及びCa(OH)2の合計含有量は、0.9質量%超である、(1)~(4)の何れか1つに記載の覆砂材の製造方法。
(6)
得られる前記覆砂材の平均粒径は、1.0mm~5.0mmの範囲内である、(1)~(5)の何れか1つに記載の覆砂材の製造方法。