(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138951
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】cBN焼結体
(51)【国際特許分類】
C04B 35/5835 20060101AFI20241002BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20241002BHJP
B23B 27/20 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
C04B35/5835
B23B27/14 B
B23B27/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049687
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100208568
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 孔一
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 強
【テーマコード(参考)】
3C046
【Fターム(参考)】
3C046FF35
3C046FF38
3C046FF40
3C046FF42
3C046FF43
3C046FF44
3C046FF45
3C046FF48
3C046FF50
3C046FF51
3C046FF57
3C046HH04
(57)【要約】
【課題】高硬度鋼の高速切削加工のための切削工具として用いても、耐摩耗性および耐欠損性をより向上させたcBN焼結体の提供
【解決手段】立方晶窒化硼素粒子と結合相を有するcBN焼結体であって、
前記結合相は、Tiを含む硼化物と、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびWの少なくとも1種と硼素が結合したTiを含まない硼化物と、Al窒化物とを含み、
前記Tiを含む硼化物が前記結合相に占める面積率(%)をSaとし、
前記Tiを含まない硼化物に接する前記Tiを含む硼化物が前記結合相に占める面積率(%)をSbとし、
前記Al窒化物が前記結合相に占める面積率(%)をScとするとき、
0.09≦Sb/Sa≦0.78
0.20≦Sc/Sa≦0.80
であるcBN焼結体
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
立方晶窒化硼素粒子と結合相を有するcBN焼結体であって、
前記結合相は、Tiを含む硼化物と、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびWの少なくとも1種と硼素が結合したTiを含まない硼化物と、Al窒化物とを含み、
前記Tiを含む硼化物が前記結合相に占める面積率(%)をSaとし、
前記Tiを含まない硼化物に接する前記Tiを含む硼化物が前記結合相に占める面積率(%)をSbとし、
前記Al窒化物が前記結合相に占める面積率(%)をScとするとき、
0.09≦Sb/Sa≦0.78
0.20≦Sc/Sa≦0.80
であることを特徴とするcBN焼結体。
【請求項2】
前記Tiを含まない硼化物が前記結合相に占める面積率(%)をSdとするとき、0.5≦Sd≦20.0であることを特徴とする請求項1に記載のcBN焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬質複合材料である立方晶窒化硼素(以下、cBNということがある)焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
cBN焼結体は、ダイヤモンドに比して硬度は劣るものの、Fe系やNi系材料との反応性が低いという性質を有しているため、切削工具として用いられている。そして、この切削工具の寿命を向上させるべく、種々の提案がなされており、例えば、Al化合物の含有割合や粒径の制御、結合相中へのTi化合物、Al化合物の添加が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、立方晶窒化硼素を30~95体積%含有し、残部がTiと周期表第4~6族元素(Tiを除く)を含む硼化物固溶体と、AlNと、Tiの炭化物、窒化物、炭窒化物、Tiと周期表第4~6族元素(Tiを除く)を含む炭化物固溶体,窒化物固溶体、炭窒化物固溶体の群から選ばれる少なくとも一種と、不可避不純物とからなるcBN焼結体が記載され、該cBN焼結体は結合相が強化され、焼結体の耐摩耗性と靭性が向上しているとされている。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、cBN:30~80体積%、残りが周期表4~6族元素の炭化物、窒化物、硼化物、酸化物、Alの窒化物、酸化物、Siの炭化物、窒化物およびこれらの相互固溶体の中の少なくとも1種からなる結合相と不可避不純物とからなり、結合相は、(1)V、Nb、Taの中の少なくとも1種とTiとからなる複合窒化物および複合炭窒化物の中の少なくとも1種の複合化合物:結合相全体に対して30~80体積%と、(2)V、Nb、Taの中の少なくとも1種の斜方晶硼化物:結合相全体に対して5~40体積%と、(3)AlN:結合相全体に対して5~30体積%と、(4)Al2O3:結合相全体に対して2~20体積%とを含有するcBN焼結体が記載され、該cBN焼結体は従来のcBN焼結体に比して高硬度鋼の断続切削で約2倍の寿命を達成できるとされている。
【0005】
さらに、例えば、特許文献3には、cBNの含有割合が60~80体積%であり、結合相の含有割合は、20体積%以上40体積%以下であり、前記結合相は、0体積%を超え5体積%未満のAlの酸化物、窒化物、および硼化物からなる群より選ばれる少なくとも1種のAl化合物と、Ti窒化物とを含み、その断面において、前記cBNと前記結合相との界面の長さに対する、前記cBNと前記Al化合物との界面の長さが特定の割合であるcBN焼結体が記載され、該cBN焼結体は耐摩耗性と耐欠損性が向上しているとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8-91936号公報
【特許文献2】特許第4830571号公報
【特許文献3】特許第7047503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記事情や前記提案を鑑みてなされたものであって、例えば、高硬度鋼の高速切削加工のための切削工具として用いたときであっても、耐摩耗性と耐欠損性に優れ切削工具寿命を向上させたcBN焼結体を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態に係る立方晶窒化硼素焼結体は、
立方晶窒化硼素粒子と結合相を有し、
前記結合相は、Tiを含む硼化物と、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびWの少なくとも1種と硼素が結合したTiを含まない硼化物と、Al窒化物とを含み、
前記Tiを含む硼化物が前記結合相に占める面積率(%)をSaとし、
前記Tiを含まない硼化物に接する前記Tiを含む硼化物が前記結合相に占める面積率(%)をSbとし、
前記Al窒化物が前記結合相に占める面積率(%)をScとするとき、
0.09≦Sb/Sa≦0.78
0.20≦Sc/Sa≦0.80
である。
【0009】
また、前記実施形態に係る立方晶窒化硼素焼結体は、以下の事項(1)を満足してもよい。
【0010】
(1)前記Tiを含まない硼化物が前記結合相に占める面積率(%)をSdとするとき、0.5≦Sd≦20.0であること。
【発明の効果】
【0011】
前記立方晶窒化硼素焼結体は、切削工具として用いると耐摩耗性と耐欠損性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係るcBN焼結体の組織の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者は、前述の目的を達成するために鋭意検討を行った。その結果、結合相中に硼化物を分散させれば、cBN焼結体のある程度の靭性の向上は得られるものの、さらなる靭性の向上のためには、この硼化物の分散形態を制御し、加えて、Al窒化物も分散させることが好ましいことを知見した。
【0014】
以下では、本発明の実施形態に係るcBN焼結体について詳述する。
なお、本明細書、特許請求の範囲の記載において、数値範囲を「A~B」(A、Bは共に数値)と表現する場合、「A以上B以下」と同義であって、その範囲は上限値(B)と下限値(A)を含むものである。また、上限値と下限値の単位は同じである。
さらに、数値には測定誤差を含む。
【0015】
本実施形態では、
図1に示すように、cBN粒子(1)と結合相を有しており、結合相中には、結合相粒子(2)、Tiを含む硼化物(3)、Tiを含まない硼化物(4)、Al窒化物(5)が存在する。
本実施形態では、立方晶窒化硼素粒子と結合相以外は実質的に存在しないと扱って差し支えない。以下、これらについて説明する。
【0016】
1.立方晶窒化硼素粒子
立方晶窒化硼素粒子(cBN粒子ということがある)の平均粒径と、cBN焼結体に占めるcBN粒子の含有割合について説明する。
【0017】
(1)平均粒径
本実施形態で用いるcBN粒子の平均粒径は、特に限定されるものではないが、0.5~8.0μmの範囲にあることが好ましい。
【0018】
その理由は、cBN粒子が焼結体内に含まれることにより耐欠損性が高められることに加えて、平均粒径が0.5~8.0μmであれば、切削工具として使用されても工具表面のcBN粒子が脱落して生じる刃先の凹凸形状を起点とする欠損、チッピングをより確実に抑制するだけでなく、切削加工中に刃先に加わる応力により生じるcBN粒子と結合相との界面から進展するクラック、あるいはcBN粒子が割れて進展するクラックの伝播がより抑制され、より優れた耐欠損性を有することができるためである。平均粒径は2.0~6.0μmがより好ましく、3.0~5.0μmがより一層好ましい。
【0019】
(2)平均粒径の測定方法
ここで、cBN粒子の平均粒径は、以下の1)~5)の手順により求めることができる。
1)cBN焼結体の表面または断面を鏡面加工し、鏡面加工した面に対して走査型電子顕微鏡(SEM)による組織観察を実施し、二次電子像を得る。次に、得られた画像内のcBN粒子の部分を画像処理にて抜き出す。
【0020】
2)ここで、画像内のcBN粒子の部分を画像処理にて抜き出すにあたり、cBN粒子と結合相とを明確に判断するため、cBN粒子の輝度値を0、その他の輝度値を255として二値化処理を行う。二値化処理における閾値はcBN粒子とそれ以外が明確に区別できるように設定すればよい。
【0021】
3)2値化処理後はcBN粒同士が接触していると考えられる部分を切り離すような処理、例えば、ウォーターシェッド(watershed)処理を用いて接触していると思われるcBN粒同士を分離する。
【0022】
4)得られた画像内のcBN粒子にあたる部分(黒の部分)を画像解析し、求めた各粒子の最大フェレ径を各cBN粒子の直径とする。
【0023】
5)各cBN粒子をこの直径を有する理想球体と仮定して、計算より求めた体積を各粒子の体積として累積体積を求め、この累積体積を基に縦軸を体積百分率(%)、横軸を直径(μm)としてグラフ描画させ、体積百分率が50%のときの直径をcBN粒子の平均粒径とする。これを任意の3以上の観察領域に対して行い、その平均値をcBN粒子の平均粒径(μm)とする。
【0024】
この粒子解析を行う際には、あらかじめSEMにより分かっているスケールの値を用いて、1ピクセル当たりの長さ(μm)を設定しておく。画像処理に用いる観察領域として、cBN粒子の平均粒径が4.0μm程度の場合、40μm(縦)×40μm(横)程度の視野領域が好ましい。
【0025】
なお、二値化処理、ウォーターシェッド画像処理、最大フェレ径の測定は同一の画像処理ソフトウェアで行ってもよいし、それぞれ、別の画像ソフトウェアで行ってもよい。使用する画像処理ソフトウェアは特段の制約はないが、例えば、Image Jが使用できる。
【0026】
(3)含有割合
cBN焼結体に占めるcBN粒子の含有割合(面積%)は特に限定されるものではないが、40~80面積%が好ましい。
【0027】
その理由は、40面積%未満では、cBN焼結体中に硬質物質が少なく、切削工具として使用した場合に、耐欠損性が低下することがあり、一方、80面積%を超えると、cBN焼結体中にクラックの起点となる空隙が生成し、耐欠損性が低下することがあるためである。cBN粒子の含有割合は、50~75面積%がより好ましい。
ここで、この面積%は、面積を測定した面の厚さ方向にも同じ面積%で存在すると扱って、等価な体積%と扱うことができるものであるが、面積%で表記する。
【0028】
(4)含有割合の測定方法
cBNの含有割合は次のようにして求める。
cBN粒子の平均粒径を求めるときと同様に、cBN焼結体の鏡面加工した表面または断面をSEMによって(例えば、倍率5000倍)観察し、観察領域内のcBN粒子の部分を画像処理ソフトウェアの二値化処理によって抽出し、二値化処理後はcBN粒同士が接触していると考えられる部分を切り離すような処理、例えば、ウォーターシェッド(watershed)画像処理を用いて接触していると思われるcBN粒同士を分離してから、cBN粒子が占める面積を算出し、観察領域においてcBN粒子が占める面積割合を求め、これを任意の3以上の観察領域に対して行い、各観察領域で求めた値の平均値をcBN粒子の含有割合とする。
【0029】
なお、観察領域の大きさは、cBN粒子の平均粒径を求めるときと同じ大きさが好ましい。なお、cBNが占める面積割合も画像処理ソフトウェアで求めることができ、二値化処理、ウォーターシェッド画像処理、面積割合は同一の画像処理ソフトウェアで行ってもよいし、別のソフトウェアで行ってもよい。
【0030】
2.結合相
(1)成分
結合相には、Tiを含む硼化物と、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびWの少なくとも1種と硼素が結合したTiを含まない硼化物(複合硼化物を含んでよい)と、Al窒化物とを含んでいる。結合相に含まれるその他の成分は、Alの硼化物、酸化物の1以上、およびTiの窒化物、炭化物、炭窒化物の1以上を例示することができる。そして、このその他の成分は結合相粒子を構成する。
なお、各硼化物、Alの硼化物、酸化物およびTiの窒化物、炭化物、炭窒化物も不可避不純物を含むものである。そして、これらの硼化物、酸化物等の化合物の組成は化学量論的組成に限定されない。
【0031】
(2)含有割合
cBN焼結体に占める結合相の含有割合(面積%)は特に限定されるものではないが、その含有割合はcBN粒子の含有割合(面積%)の残部と扱い、20面積%以上60面積%以下が好ましい。
その理由は、20面積%未満では、cBN焼結体中にクラックの起点となる空隙が生成し、耐欠損性が低下することがあり、一方、60面積%を超えると、cBN焼結体中に硬質物質が少なく、切削工具として使用した場合に、耐欠損性が低下することがあるためである。結合相の割合は、25面積%以上50面積%以下がより好ましい。
【0032】
(3)Tiを含む硼化物
結合相内のTiを含む硼化物は、結合相の全体に対して面積率(%)Saで存在し、このTiを含む硼化物のうち後述するTiを含まない硼化物に接する前記Tiを含む硼化物が前記結合相に占める面積率(%)をSbとするとき、Sb/Saが0.09以上、0.78以下であることが好ましい。
【0033】
その理由は、Sb/Saが0.09未満であると、Tiを含まない硼化物の周囲にTiを含む硼化物が少なすぎるため結合相の靭性が低下し、一方、0.78を超えると、cBNと結合相界面のTiを含む硼化物が少なくなって、この界面の剪断応力に対する強度が減少し切削加工時にcBN脱粒が発生し耐摩耗性が低下するためである。
ここで、Tiを含まない硼化物に接することの説明は後述する。
【0034】
(4)Tiを含まない硼化物
結合相内のZr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびWの少なくとも1種と硼素が結合したTiを含まない硼化物(複合硼化物を含んでよい)は、結合相の全体に対して面積率(%)Sdで存在し、Sdは0.5面積%以上20.0面積%以下であることがより好ましい。
その理由は、Sdが0.5面積%未満である場合には、靭性に優れるTiを含まない硼化物、さらに焼結後に生じるTiを含む硼化物の量が不足するため、結合相の耐摩耗性・耐欠損性十分でないときがあり、切削加工時に発生する亀裂がTiを含まない硼化物に到達しづらくなって、亀裂伝播を十分抑制できず、結合相の靭性が低下することがあり、一方、20.0面積%を超える場合には、Tiを含まない硼化物が過剰となり靭性が低下することがあるためである。
【0035】
(5)Al窒化物
結合相内のAl窒化物は、結合相の全体に対して面積率(%)Scで存在し、0.20≦Sc/Sa≦0.80であることが好ましい。なお、Scの絶対値は、Sc/Saがこの範囲であれば、特段の制約はない。
【0036】
その理由は、Sc/Saが0.20未満であると、Tiを含む硼化物が過剰となり、または焼結時に主にcBNと結合相界面に生成するAl窒化物が過少であるため、靭性が低下し、cBNと結合相界面の強度低下による耐摩耗性が低下し、一方、0.80を超えると、Tiを含む硼化物が過少またはAl窒化物が過剰となり、結合相の耐摩耗性と靭性が低下するためである。
【0037】
(6)測定方法
Sa、Sb、Sc、Sdは、以下のようにして測定する。
【0038】
1)後述する方法で鑑別するTiを含まない硼化物が3個以上含まれるような、例えば、5μm(縦)×5μm(横)以上の大きさを有する正方形の3以上の観察領域を設定する。各観察領域領域の設定に当たってcBN含有割合が、前記で求めたcBN含有割合に対して±10面積%となるように観察領域を選定する。各観察領域の中心(正方形の対角線の交点)同士の直線距離は100μm以上離れるようにする。
【0039】
2)前述のようにcBN粒子を特定し、cBN粒子以外の部分を結合相とする。この扱いをするのは、前述のとおりcBN粒子と結合相以外は実質的に存在しないとみなして差し支えないためである。
【0040】
3)前記2)で鑑別した結合相に対して、オージェ電子分光法により、B、N、Al、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Wの元素のマッピング像を取得し、TiとBが重なる領域をTiを含む硼化物、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、WとBとがそれぞれ重なる領域をTiを含まない硼化物と、AlとNが重なる領域をAl窒化物と扱う処理を行い、Tiを含む硼化物、Tiを含まない硼化物、Al窒化物のそれぞれの界面を画定する。
【0041】
4)前記3)で鑑別したTiを含む硼化物、Tiを含まない硼化物およびAl窒化物のそれぞれが結合相に占める面積率、Sa、SdおよびScを求める。
【0042】
5)前記3)で画定したTiを含まない硼化物の界面上に、中心をもつ半径10nmの円を前記界面に沿って移動させ、この円内に少なくともその一部(円の円周に一点で接していているものも該当する)が存在するTiを含む硼化物に対して、このTiを含む硼化物全体の面積を求め、その総和の面積が結合相に占める面積率Sbを求める。
すなわち、本明細書および特許請求の範囲において、Tiを含まない硼化物に接するTiを含む硼化物とは、この半径10nmの円内に、少なくともその一部が含まれるTiを含む硼化物をいう。
【0043】
ここで、前記3)の界面の画定や、面積率Sa、Sb、ScおよびSdの算出は公知の画像処理ソフトウェア(例えば、Image J)と市販の図形描画ソフトウェアを組み合わせることにより容易に行うことができる。
なお、上記面積率Sa、Sb、ScおよびSdの算出は、前述の3以上の観察領域にてそれぞれ得た測定値の平均値とする。
【0044】
2.被覆層
本実施形態のcBN焼結体は、切削工具として用いるとき、公知の被覆層を公知の方法によって被覆してもよい。
【0045】
3.製造方法
本実施形態のcBN焼結体は、例えば、次の手順によって製造することができる。
【0046】
(1)結合相成分の原料粉末の用意
結合相の主原料粉末として、Ti化合物粉末(例:TiC粉末、TiN粉末、TiCN粉末、TiO2粉末)、Al化合物粉末(例:TiAl3粉末、Al2O3粉末)、
結合相の副原料として、Tiを含まない硼化物粉末(例:ZrB2粉末、CrB2粉末、NbB2粉末、TaB2粉末)を用意する。
【0047】
(2)前粉砕
前記結合相の副原料を超硬合金で内張りされた容器内に超硬合金製ボールとアセトンと共に充填し、ボールミルにより粉砕を実施する。粉砕後、得られた混合したスラリーを乾燥させて、遠心分離装置を用いて分級し前粉砕副成分粉末を得る。
【0048】
(3)結合相用原料の混合・粉砕
前記(2)の前粉砕副成分粉末と前記(1)の結合相の主原料粉末とを、超硬合金で内張りされたボールミル容器内に超硬合金製ボールとアセトンと共に充填を行い、ボールミルによる混合・粉砕を実施する。このボールミルによる混合・粉砕は前粉砕副成分粉末が主原料粉末と十分混合・粉砕されるまで、例えば4時間以上かけて実施する。その後、得られたスラリーを乾燥させ、焼結前結合相混合原料粉末を得る。
【0049】
(4)cBN粉末との混合・粉砕
前記(3)焼結前結合相混合原料粉末を硬質相用原料であるcBN粉末と共に、超硬合金で内張りされたボールミル容器内に超硬合金製ボールとアセトンと共に充填を行い、ボールミルによる混合・粉砕を実施する。その後、得られたスラリーを乾燥させ、焼結前混合原料粉末を得る。
【0050】
(5)成形・焼結
前記(4)で得られた焼結前混合原料粉末を、所定の圧力で成形した成形体を作製し、この成形体を、真空雰囲気中の所定の温度で仮焼結する。その後、超高圧焼結装置にて、例えば、圧力:4~6GPa、温度:1200~1600℃の範囲内の所定の条件で焼結することにより、本実施形態のcBN焼結体を作製する。
なお、焼結までの各工程では、原料粉末の酸化を防止するために、非酸化性の保護雰囲気中で実施することが好ましい。
【実施例0051】
次に、実施例について説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0052】
以下の手順で、実施例を製造した。
(1)結合相の主原料粉末として、TiC粉末、TiCN粉末、TiN粉末、TiAl3粉末を、結合相の副原料粉末としてZrB2粉末、NbB2粉末、TaB2粉末を、それぞれ用意し、表1に示す配合割合で配合した。
【0053】
(2)副原料粉末を超硬合金で内張りされた容器内に超硬合金製ボールとアセトンと共に充填し、ボールミルにより前粉砕を実施し、スラリーを乾燥させ遠心分離装置により分級させることにより、平均粒径が200nmの前粉砕副成分粉末を得た。
【0054】
(3)前記(2)の前粉砕副成分粉末と前記(1)の主原料粉末とを、超硬合金で内張りされたボールミル容器内に超硬合金製ボールとアセトンと共に充填を行い、ボールミルによる混合・粉砕を5時間かけて実施し、そのスラリーを乾燥させ、焼結前結合相混合原料粉末を得た。
【0055】
(4)前記(3)の焼結前結合相混合原料粉末と硬質相用原料であるcBN粉末とを内張りされた容器内に超硬合金製ボールとアセトンと共に充填し、ボールミルによる混合・粉砕を実施し、乾燥させて焼結前混合原料粉末を得た。
【0056】
(5)前記(4)で得られた焼結前混合原料粉末を、成形圧1MPaで直径:50mm×厚さ:1.5mmの寸法にプレス成形し、ついでこの成形体を、圧力:1Pa以下の真空雰囲気中、1000℃に保持して仮焼結した。仮焼結後、超高圧焼結装置にて、圧力6GPa、温度1400℃の条件で高圧焼結することにより、実施例1~7を得た。
【0057】
なお、上記工程では非酸化雰囲気中にて実施した。
【0058】
比較のため、以下の手順で比較例を作製した。
(1)結合相の主原料粉末として、TiC粉末、TiCN粉末、TiN粉末、TiAl3粉末を、結合相の副原料粉末としてNbB2粉末、TaB2粉末をそれぞれ用意し、表1に示す配合割合で配合した。
【0059】
(2)副原料粉末であるNbB2粉末、TaB2粉末を、超硬合金で内張りされた容器内に超硬合金製ボールとアセトンと共に充填し、ボールミルにより前粉砕を実施し、スラリーを乾燥させ遠心分離装置により分級させることにより、平均粒径が200nmの前粉砕副成分粉末を得た。
【0060】
(3)結合相用原料である前記(2)の前粉砕副成分粉末及び前記(1)の主原料粉末と、硬質相用原料であるcBN粉末とを、超硬合金で内張りされたボールミル容器内に超硬合金製ボールとアセトンと共に充填を行い、ボールミルによる混合・粉砕を実施し、乾燥させて焼結前混合原料粉末を得た。
【0061】
(4)前記(3)の焼結前混合原料粉末を、成形圧1MPaで直径:50mm×厚さ:1.5mmの寸法にプレス成形し、ついでこの成形体を、圧力:1Pa以下の真空雰囲気中、1000℃に保持して仮焼結した。仮焼結後、超高圧焼結装置にて、圧力6GPa、温度1400℃の条件で高圧焼結することにより、比較例1’~6’を得た。
【0062】
なお、前記比較例焼結体の各工程でも非酸化雰囲気中にて実施した。
【0063】
これら実施例1~7および比較例1’~6’について、前述のとおりの測定を行った。まず、SEM観察を行い、得られた二次電子像に対して、画像処理ソフトウェアとしてImageJ(バージョン1.44p)を使用して、大津の二値化法による二値化処理を行って、cBN平均粒径、cBN面積率、結合相面積率を求め、さらに、オージェ電子分光法をつかって、各硼化物を特定し、同様にImageJ(バージョン1.44p)を使用して、Sa、Sb、ScおよびSdを算出した。結果を表2に示す。
【0064】
【0065】
表1において、「-」は、配合していないことを示す。
【0066】
【0067】
表1および2においてTiを含まない硼化物の組成は代表組成であり、この表記されたもの以外の原子比で金属成分と硼素が結合しているものを含んでいる。
【0068】
次に、前記で作製した実施例1~7、比較例1’~6’を、ワイヤー放電加工機で所定寸法に切断し、Co:5質量%、TaC:5質量%、WC:残りの組成を有し、ISO規格CNGA120408のインサート形状をもったWC基超硬合金製インサート本体のろう付け部(コーナー部)に、Agろう材(Cu:26質量%、Ti:5質量%、Ag:残りからなる組成を有する)を用いてろう付けし、上下面および外周研磨、ホーニング処理を施すことにより、ISO規格CNGA120408のインサート形状をもつ実施例切削工具1~7、および、比較例切削工具1’~6’を製造した。
【0069】
次いで、実施例切削工具1~7と比較例切削工具1’~6’に対して、以下の切削条件で乾式切削加工試験を実施し、結果を表3に示す。
【0070】
乾式切削加工試験の試験条件
被削材:浸炭焼き入れ鋼(JIS・SCR420、硬さ:HRC58~62)の丸棒
切削速度:200 m/min
切り込み:0.2 mm
送り:0.1 mm/rev
欠損に至るまでを工具寿命とし、切削時間30秒毎に刃先を観察して刃先の欠損の有無を観察し、欠損に至るまでの切削時間(表3では、「工具寿命(秒)」と記載している)を測定した。
【0071】
【0072】
表3から明らかなように、実施例切削工具は耐摩耗性、耐欠損性に優れ、いずれも高硬度鋼の高速切削において工具寿命が長いが、比較例切削工具はいずれも短時間で寿命に至っている。