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特開2024-13896光送受信機、光伝送装置、光伝送システム、及びサブキャリア数決定方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013896
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】光送受信機、光伝送装置、光伝送システム、及びサブキャリア数決定方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/073 20130101AFI20240125BHJP
   H04J 14/02 20060101ALI20240125BHJP
   H04B 10/40 20130101ALI20240125BHJP
【FI】
H04B10/073
H04J14/02 198
H04B10/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116310
(22)【出願日】2022-07-21
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業/ポスト5G情報通信システムの開発/ポスト5G情報通信システムにおけるテラビット光伝送システムの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】前田 泰三
【テーマコード(参考)】
5K102
【Fターム(参考)】
5K102AA01
5K102AD01
5K102AD05
5K102AH24
5K102AH26
5K102AL13
5K102KA02
5K102KA05
5K102KA06
5K102KA31
5K102KA39
5K102MH03
5K102MH12
5K102PH11
5K102PH42
5K102RB12
5K102RD26
5K102RD28
(57)【要約】      (修正有)
【課題】サブキャリア変調が適用される光伝送システムにおいて、伝送路の状態に応じた適切なサブキャリア数を決定する方法並びにその光伝送システム、光送受信機及び光伝送装置を提供する。
【解決手段】サブキャリア変調が適用される光送受信機30は、伝送路の群遅延時間差と偏波変動を一定時間モニタする信号処理部33と、伝送路の群遅延時間差をモニタした結果と伝送路の偏波変動をモニタした結果とに基づいて信号処理部33の性能で定まり、光送受信機に設定可能なサブキャリアの候補の中から、光送受信機に設定される設定用のサブキャリア数を決定する制御部38と、を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サブキャリア変調が適用される光送受信機において、
伝送路の群遅延時間差と偏波変動を一定時間モニタする信号処理部と、
前記群遅延時間差をモニタした結果と前記偏波変動をモニタした結果とに基づいて、前記信号処理部の性能で定まる前記光送受信機に設定可能なサブキャリア数の候補の中から、前記光送受信機に設定される設定用のサブキャリア数を決定する制御部と、
を有する光送受信機。
【請求項2】
前記制御部は、モニタされた最大の群遅延時間差に対応可能なサブキャリア数を含む第1候補グループの中から、モニタされた最大偏波変動に対応可能、かつ最小のサブキャリア数を、前記設定用のサブキャリア数として決定する、
請求項1に記載の光送受信機。
【請求項3】
前記信号処理部は、前記群遅延時間差と前記偏波変動に加えて前記伝送路の波長分散値を前記一定時間モニタし、
前記制御部は、前記第1候補グループの中から最大波長分散値に対応可能なサブキャリア数を第2候補グループとし、前記第2候補グループの中で、前記最大偏波変動に対応可能、かつ最小のサブキャリア数を、前記設定用のサブキャリア数として決定する、
請求項2に記載の光送受信機。
【請求項4】
前記信号処理部は、前記群遅延時間差と、前記偏波変動とともに、波長分散値を一定時間モニタし、
前記制御部は、前記第1候補グループの中から、モニタされた最大波長分散値に対応可能なサブキャリア数を第2候補グループとし、前記第2候補グループの中で、最大偏波変動に対応可能なサブキャリア数のうち、最小のサブキャリア数、または受信Q値が最も高いサブキャリア数のいずれかを前記設定用のサブキャリア数として決定する、
請求項2に記載の光送受信機。
【請求項5】
前記信号処理部は、前記受信Q値をモニタし、
前記制御部は、前記第2候補グループの中で、最大偏波変動に対応可能、かつ受信Q値が最も高いサブキャリア数を前記設定用のサブキャリア数として決定する、
請求項4に記載の光送受信機。
【請求項6】
前記信号処理部は等化回路)を有し、
前記等化回路は、適応等化フィルタと、前記適応等化フィルタのフィルタ係数を計算する演算部と、前記フィルタ係数の計算結果から偏波変動速度を求めるモニタ部と、を有する、
請求項1に記載の光送受信機。
【請求項7】
前記等化回路は、前記モニタ部のモニタ結果に基づいて前記演算部のフィルタ係数計算のステップサイズを決定するステップサイズ決定部を有する、
請求項6に記載の光送受信機。
【請求項8】
請求項1に記載の光送受信機を含む光伝送装置であって、
前記制御部によって決定された前記設定用のサブキャリア数を、光監視チャネルを用いて、前記伝送路をはさんで対向する別の光伝送装置に通知するノード制御部、
を備える光伝送装置。
【請求項9】
第1の光伝送装置と、
第2の光伝送装置と、
前記第1の光伝送装置と前記第2の光伝送装置とを接続する伝送路と、
を含み、
前記第1の光伝送装置で光送受信機が増設または再起動されるときに、前記第2の光伝送装置の対向光送受信機は前記伝送路の群遅延時間差と偏波変動を一定時間モニタし、前記群遅延時間差をモニタした結果と前記偏波変動をモニタした結果とに基づいて、前記第1の光伝送装置の前記光送受信機の信号処理性能で定まる前記光送受信機に設定可能なサブキャリア数の候補の中から、前記光送受信機に設定される設定用のサブキャリア数を決定し、
前記第2の光伝送装置は、決定した前記サブキャリア数を光監視チャネルで前記第1の光伝送装置に通知し、
前記第1の光伝送装置は、前記サブキャリア数を前記光送受信機に設定する、
光伝送システム。
【請求項10】
サブキャリア変調が適用される光送受信機において、
信号処理部で、伝送路の群遅延時間差と偏波変動を一定時間モニタし、
制御部にて、前記信号処理部による前記群遅延時間差と前記偏波変動のモニタ結果に基づいて、前記信号処理部の性能で定まる前記光送受信機に設定可能なサブキャリア数の候補の中から、前記光送受信機に設定される設定用サブキャリア数を決定する、
サブキャリア数決定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光送受信機、光伝送装置、光伝送システム、及びサブキャリア数決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ネットワークトラフィックに対する要求が益々高くなり、光伝送システムにおいて、チャネルあたりの伝送容量のさらなる向上が求められている。これを実現するための方法として、直交振幅変調(QAM:Quadrature Amplitude Modulation)の多値度の向上と、伝送信号のボーレートの向上が考えられる。QAM変調の多値度を上げると、雑音の影響が顕著になり、信号処理で高い演算精度が必要になる。ボーレートを高くすると、高多値化と比較して雑音や演算精度の影響は少ないが、伝送路の群遅延時間差(DGD:Differential Group Delay)や波長分散に対する耐力が低下する。DGDや波長分散に対する耐力を維持するためには、信号処理回路中の有限インパルス応答(FIR:Finite Impulse Response)フィルタの回路規模を大きくする必要があり、消費電力が増える。
【0003】
FIRフィルタの回路規模の増大を抑えながら高いボーレートを実現するために、デジタル信号処理で伝送信号を複数のサブキャリアに分割して送信するサブキャリア変調の適用が検討されている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-193266号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コヒーレントデジタル信号プロセッサ(DSP:Digital Signal Processor)を用いた従来の光送受信機では、ネットワークのラインレートを満たすボーレートと変調方式(多値度)、及び前方誤り訂正(FEC:Forward Error Correction)冗長度を決定すれば、動作モードが確定する。新たにサブキャリア変調を適用する場合、ボーレート、多値度、FEC冗長度に加えて、サブキャリア数を決定する必要がある。サブキャリア数と、伝送路の波形歪み要因(DGD、偏波変動、波長分散など)に対する耐力との関係は、波形歪み要因の種類によって異なる。サブキャリア数を増やすことでDGD耐力は向上するが、偏波変動耐力は低下し、偏波変動に起因する信号対雑音比(SNR:Signal-to-Noise Ratio)の劣化が大きくなる。このようなトレードオフにより、伝送路の状態に応じた最適なサブキャリア数を選ぶことが難しい。また、伝送路の状態は常に変化し、伝送路設計時の情報とリアルタイムの実測値が一致しない場合が多い。伝送路の変化を考慮して伝送路の設計にある程度の余裕を持たせると、本来の伝送路性能を十分に発揮できない場合がある。
【0006】
一つの側面で、サブキャリア変調が適用される光伝送システムにおいて、伝送路の状態に応じた適切なサブキャリア数を決定する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ひとつの実施形態において、サブキャリア変調が適用される光送受信機は、
伝送路の群遅延時間差と偏波変動を一定時間モニタする信号処理部と、
前記群遅延時間差をモニタした結果と前記偏波変動をモニタした結果とに基づいて、前記信号処理部の性能で定まる前記光送受信機に設定可能なサブキャリア数の候補の中から、前記光送受信機に設定される設定用のサブキャリア数を決定する制御部と、
を有する。
【発明の効果】
【0008】
サブキャリア変調が適用される光伝送システムにおいて、伝送路の状態に応じた適切なサブキャリア数を決定できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態の光伝送システムの模式図である。
図2図1のシステムで用いられる光送受信機のブロック図である。
図3図2の光送受信機内のDSPの模式図である。
図4】サブキャリア変調の信号帯域をシングルキャリア伝送の信号帯域と比較して示す図である。
図5】サブキャリア数と、DGD耐力、偏波変動耐力、及びSNR劣化との関係を示す図である。
図6】異なるサブキャリア数でのDGDとSNRの関係を示す図である。
図7】異なるサブキャリア数での偏波変動量とSNRの関係を示す図である。
図8】サブキャリア変調で偏波変動追従性が低下する理由を示す図である。
図9】第1実施形態のサブキャリア数決定方法のフローチャートである。
図10】動的等化回路の構成例を示す図である。
図11図10の動的等化回路で用いられる適応等化フィルタの模式図である。
図12】偏波変動耐力のステップサイズ依存性を示す図である。
図13】サブキャリア数と、サブキャリアあたりのボーレート(「サブキャリアボーレート」と呼ぶ)、DGD耐力、及び偏波変動耐力の関係を示す図である。
図14】机上設計によるサブキャリア数の決定結果と、第1実施形態の方法によるサブキャリア数の決定結果を比較する図である。
図15】第1実施形態のサブキャリア数決定方法による偏波変動耐力の向上を示す図である。
図16】机上設計によるサブキャリア数の決定結果と、第1実施形態の方法によるサブキャリア数の決定結果を比較する別の例である。
図17図16の机上設計と第1実施形態の方法によるネットワーク構成の違いを示す図である。
図18】第2実施形態のサブキャリア数決定方法のフローチャートである。
図19】サブキャリア数と、サブキャリアボーレート、DSPのDGD耐力、偏波変動耐力、及び波長分散の関係を示す図である。
図20】机上設計によるサブキャリア数の決定結果と、第2実施形態の方法によるサブキャリア数の決定結果を比較する図である。
図21】サブキャリア数と、DGD耐力、偏波変動耐力、及びSNR劣化との関係を示す図である。
図22】第3実施形態のサブキャリア数決定方法のフローチャートである。
図23】サブキャリア数と、サブキャリアボーレート、DSPのDGD耐力、偏波変動耐力、及び波長分散の関係を示す図である。
図24】劣化要因による受信Q値劣化のトレードオフを示す図である。
図25】机上設計によるサブキャリア数の決定結果と、第3実施形態の方法によるサブキャリア数の決定結果を比較する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
サブキャリア変調におけるサブキャリア数と、伝送路の波形歪み要因(DGD、偏波変動、波長分散など)に対する耐力との関係は、波形歪み要因の種類によって異なる。サブキャリア数と、非線形光学効果に対する耐力の間にも相関関係がある。実施形態では、光送受信機のDSPのモニタ機能を利用して、少なくともDGDと偏波変動を含む伝送路の波形歪み要因を一定時間モニタし、モニタ結果に基づいてサブキャリア数の候補を絞り込み、絞り込んだサブキャリア数の中から最適なサブキャリア数を決定する。
【0011】
外気温の変化や光ファイバにかかる圧力、振動などの影響で、伝送路の偏波状態は変化する。DGDと偏波変動を一定時間、たとえば24時間(1日)モニタし、モニタ期間中の最大のDGDの値を基準とする。光送受信機に設定可能なサブキャリア数、たとえば、1、2、4、8、…、2の中で、最大DGDに対応可能なサブキャリア数を第1候補グループとして選択する。第1候補グループの中で、最大偏波変動に対応可能、かつ最小のサブキャリア数を設定用のサブキャリア数として決定する。
【0012】
DGDと偏波変動に加えて波長分散を一定時間、たとえば1日モニタする場合は、光送受信機に設定可能なサブキャリア数の中で、最大DGDに対応可能なサブキャリア数を第1候補グループとして選択し、第1候補グループの中で、最大の波長分散値に対応可能なサブキャリア数を第2候補グループとして選択し、第2候補グループの中で最大偏波変動に対応可能なサブキャリア数のうち、最小のサブキャリア数、または受信Q値が最も高いサブキャリア数を、設定用のサブキャリア数として決定する。
【0013】
上記のサブキャリア数決定方式の根拠を、図面を参照してより詳しく説明する。図中で同じ構成要素には同じ符号を付けて、重複する説明を省略する場合がある。以下の説明で単に「偏波変動」というときは、特段の断りがない限り、「偏波変動速度」(kHz)を指すものとする。
【0014】
<システム構成>
図1は、実施形態の光伝送システム1の模式図である。光伝送システム1は、波長多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)伝送システムであり、ファイバオプティクスの伝送路4、6で接続された光伝送装置10-1と、光伝送装置10-2を含む。伝送路4、6に中継ノード5が挿入されていてもよい。光伝送装置10-1と10-2は、たとえば、特定波長の信号を追加または分岐する光アド/ドロップ(OADM:Optical Add/Drop Multiplexer)機能を有する伝送装置であり、図中でそれぞれ「OADMノード1」、「OADMノード2」と表記されている。光伝送装置10-1と10-2は同じ構成を有し、「光伝送装置10」と総称する場合がある。
【0015】
光伝送装置10は双方向の伝送が可能である。光伝送装置10で、図の左側から入って右側に出るチャネルを「上り方向」、図の右側から入って左側に出るチャネルを「下り方向」とする。中継ノード5は、上り方向の伝送路4と下り方向の伝送路6のそれぞれで、通過する光信号を増幅する。図示の便宜上、1つの中継ノード5が描かれているが、光伝送装置10-1と10-2の間に複数の中継ノード5が設けられていてもよい。
【0016】
光伝送装置10は、上り方向で光アッテネータ11、プリアンプ12、光アド/ドロップマルチプレクサ(図中で「OADM部」と表記)13、ポストアンプ14、及びノード制御部20Uを有する。OADM部13に複数の光送受信機30a、30b、…、30iが接続されている。光送受信機30a、30b、…、30iは、たとえば光信号と電気信号の変換機能を有するトランスポンダであり、図中で「TRP」と表記されている。光伝送装置10は、下り方向で、光アッテネータ21、プリアンプ22、OADM部23、ポストアンプ24、及びノード制御部20Dを有する。OADM部23に複数の光送受信機30が接続されている。上り方向のノード制御部20Uと、下り方向のノード制御部20Dは、ひとつのプロセッサで実現されてもよい。
【0017】
光伝送装置10は、上り方向で、光監視チャネル(OSC:Optical Supervisory Channel)処理部15、16を有する。OSC処理部15は、OADM部13への入力から分岐された光監視信号を復調する。OSC処理部16は、OADM部13の出力に重畳される光監視信号を生成する。光伝送装置10は、下り方向で、OSC処理部25、26を有する。OSC処理部25は、OADM部23の入力から分岐された光監視信号を復調する。OSC処理部26は、OADM部23の出力に重畳される光監視信号を生成する。中継ノード5は、OSC処理部55、56、57、58を有し、光監視信号を光電気変換または電気光変換して、光監視信号を所定の方向に中継する。
【0018】
上り方向で、光伝送装置10-1のOADM部13に入力されたWDM信号の一部は別の方路へと分岐され、光伝送装置10-1で終端される光信号は、OADM部13でドロップされて対応する光送受信機30(たとえば光送受信機30a)に入力される。光伝送装置10-1をそのまま上り方向に通過するWDM信号に、たとえば光送受信機30iからの光信号がアドされ、ポストアンプ14で増幅されて、伝送路4に出力される。
【0019】
伝送路4を伝搬するWDM信号は、中継ノード5の光アッテネータ51でパワー調整され、インラインアンプ53で増幅されて、伝送路4を上り方向に伝搬する。光伝送装置10-2で受信されたWDM信号は、光アッテネータ11でパワー調整され、プリアンプ12で増幅されてOADM部13に入力される。OADM部13に入力されたWDM信号の一部は別の方路へと分岐され、光伝送装置10-2で終端される光信号は、OADM部13でドロップされて対応の光送受信機30(たとえば光送受信機30p)に入力される。光伝送装置10-2をそのまま上り方向に通過するWDM信号に、たとえば光送受信機30rからの光信号がアドされて、伝送路4に出力される。下り方向では、上述した動作が逆向きに行われる
【0020】
光伝送装置10-1で、波長が増設、すなわちサブキャリア変調方式の新たな光送受信機30iが追加される場合を考える。光送受信機30iに、伝送路4の偏波状態に応じた適切なサブキャリア数を設定する必要がある。この場合、光伝送装置10-2の光送受信機30pのDSPのモニタ機能を使って、伝送路4を一定時間モニタする。光送受信機30pは、モニタ結果に基づいて、光送受信機30iに設定されるべき最適なサブキャリア数を決定する。光送受信機30pで決定されたサブキャリア数は、ノード制御部20Uを介してOSC処理部26に送られ、OSC信号として伝送路6で光伝送装置10-1に通知される。
【0021】
OSC信号に含まれるサブキャリア数の通知は、中継ノード5により、光伝送装置10-1へと中継される。光伝送装置10-1で受信されたOSC信号は、OSC処理部25で復調され、ノード制御部20Uによって光送受信機30iに通知される。光送受信機30iは、通知されたサブキャリア数をDSPに設定する。
【0022】
<光送受信機の構成>
図2は、図1の光送受信機30のブロック図である。光送受信機30は、DSP33と、制御部38と、クライアント側に接続されるフレーマ31と、ネットワーク側に接続される光モジュール39とを有する。DSP33は、信号処理部の一例である。フレーマ31とDSP33は、個別の大規模集積回路(LSIC:Large-Scaled Integrated Circuit)で形成されていてもよい。光モジュール39は光集積回路(PIC:Photonic Integrated Circuit)で形成されていてもよい。制御部38は、マイクロプロセッサ、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、その他のロジックデバイスで形成されていてもよい。制御部38と、光伝送装置10のノード制御部20の間で、制御信号が送受信される。
【0023】
フレーマ31は複数のOTU(Optical-channel Transport Unit)フレーマ32a、32b、…、32i(適宜、「OTUフレーマ32」と総称する)を有する。各OTUフレーマ32は、対応するクライアント信号を、ネットワークで用いられているOTUフレームに符号変換(コーディング/デコーディング)する。DSP33は、送信側(図中で「Tx」と表記)の信号回路34と、受信側(図中で「Rx」と表記)の信号回路35と、デジタルアナログコンバータ(DAC)36と、アナログデジタルコンバータ(ADC)37を含む。信号回路34で生成された信号は、DAC36でアナログ電気信号に変換され、光モジュール39の送信側の光フロントエンドモジュール(図中で「光Mod.」と表記)392で光信号に変換されてネットワークに出力される。ネットワーク容量「N×100Gbps」のNは、クライアント信号の接続数を表す。100Gbpsの伝送速度は一例であって、200Gbpsであってもよい。ネットワークから受信した光信号は、受信側の光フロントエンドモジュール394で電気信号に変換され、DSP33のADC37でデジタル変換されて信号回路35で復号される。光モジュール39で用いられる搬送波用の光源(図中で「LD」と表記)391と検波用の光源393は、同一の光源であってもよい。
【0024】
DSP33の送信側の信号回路34は、サブキャリア変調(分割)機能を有する。受信側の信号回路35はサブキャリア結合機能と、伝送路のモニタ機能を有する。ネットワークに新たな光送受信機30i(図1参照)が導入される場合、伝送路を介して新たな光送受信機30iと対向する光送受信機30pのDSP33の信号回路35は、伝送路4をモニタする。制御部38は、DSP33によるモニタ結果に基づいて、対向する光送受信機に設定される適切なサブキャリア数を決定する。
【0025】
図3は、DSP33の模式図である。図中で、実線の矢印は信号線を示し、太線の矢印は制御線を示す。送信側の信号回路34と受信側の信号回路35は、制御線によって制御部38と接続されている。制御部38はメモリ381を内蔵するロジックデバイスであってもよい。
【0026】
送信側の信号回路34は、ディストリビューションマッチャー341、FEC符号化回路342、及び予等化回路343を有する。ディストリビューションマッチャー341は入力されるデータ信号に確率振幅整形を施して、シンボル振幅の発生確率を伝送路に適した分布に変換する。FEC符号化回路342は、確率振幅整形後の信号に誤り訂正符号化処理を行う。予等化回路343は、波長分散、周波数オフセット、非線形特性などを補償する。非線形特性とは、DAC36や光フロントエンドモジュール392のアナログ入出力に現れる非線形電気特性である。予等化回路343は、これらの補償動作に加えて、送信信号を設定された数のサブキャリアに分割する。サブキャリア数が1の場合は、分割せずにシングルキャリアの信号帯域を用いる。
【0027】
受信側の信号回路35は、固定等化回路351、動的等化回路352、FEC復号回路353、ディストリビューションデマッチャー354、波長分散推定回路355、及び受信Q値モニタ356と357を有する。固定等化回路351は、入力されたサブキャリアを結合し、周波数軸上で等化処理を行う。波長分散推定回路355は、波長分散、すなわち波長による伝搬速度差を推定し、補償する。対向する新たな光送受信機30iがネットワークに導入される場合、波長分散推定回路355の波長分散モニタ機能を用いて、一定時間、伝送路の波長分散をモニタしてもよい。
【0028】
動的等化回路352は、波長分散補償された信号に対して、時間軸上で周波数オフセット補償、偏波モード分散補償、搬送波位相復元などを行う。対向する新たな光送受信機30iがネットワークに導入される場合、動的等化回路352のモニタ機能を用いて、一定時間、伝送路の偏波変動とDGDをモニタする。
【0029】
受信Q値モニタ356は、動的等化を受けた信号のFEC復号前のQ値をモニタする。受信Q値モニタ357は、FEC復号回路353によってFEC復号された後のQ値をモニタする。ディストリビューションデマッチャー354は、確率振幅整形前の振幅値を推定する。
【0030】
図4は、サブキャリア変調の信号帯域を、シングルキャリア伝送の信号帯域と比較して示す。上述したように、DSP33の信号回路34は送信信号を1以上のサブキャリアに分割し、周波数多重で送信する。信号回路35は、各種処理に先立って、周波数多重されたサブキャリアを分離し、結合する。複数の送受信機を使って複数のキャリアを構成するスーパーチャネル伝送とは異なり、一つの光送受信機30で、与えられた信号帯域を分割、及び結合する。
【0031】
図4の(A)は4つのサブキャリア#0、#1、#2、及び#3に分割する例を示す。1サブキャリア当たりのボーレートをAとする。伝送性能確保のため、隣接するサブキャリア間に間隔Bをとるため、サブキャリアのトータルの信号帯域は、図4の(B)のシングルキャリアの信号帯域よりも若干拡がる。シングルキャリア信号帯域は、図4の(A)の1サブキャリア当たりのボーレートの4倍(A×4)に相当する。サブキャリア伝送の場合、図4の(B)に比べて、サブキャリア間隔(B×3)だけ信号帯域が広くなる。
【0032】
送信信号をサブキャリアに分割することで、DGD耐力と波長分散耐力が向上し、長距離、低多値度の信号伝送で、非線形光学効果に対する耐力が改善される。一方で、偏波変動追従性が低下する。以下で発明者が見出したサブキャリア数と伝送特性のトレードオフの関係をより詳しく説明する。
【0033】
<サブキャリア数と伝送特性のトレードオフ>
図5は、サブキャリア数と、DGD耐力、偏波変動耐力、非線形光学効果耐力、及びSNR劣化の関係を示す。サブキャリア数が1、4、8と増えるほど、DGD耐力は向上するが、DGDによるSNR劣化は、サブキャリア数にかかわらず、いずれも微小である。一方、サブキャリア数が増えるほど、偏波変動耐力は低下し、偏波変動によるSNR劣化が大きくなる。非線形光学効果によるSNRの劣化は、サブキャリア数が小さいほど大きい。ただし、非線形光学効果に対する耐力について、1サブキャリアあたりのボーレート(サブキャリアボーレート)には下限があり、10Gbaud程度が下限となる。
【0034】
図6は、異なるサブキャリア数でのDGD(ピコ秒)とSNR(dB)の関係を示す。サブキャリア数が1のときと4のときで、いずれも確率的コンステレーションシェイピング(PCS:Probabilistic Constellation Shaping)された16QAM信号である。伝送レートとボーレートは、ともに600Gbps、128Gbaudである。1サブキャリアでのDGD耐力は60~70ps程度であるのに対し、4サブキャリアでは、DGD耐力は250ps以上、約4倍に向上する。
【0035】
この理由は、DGD耐力はボーレートまたはシンボルレートに反比例するからである。同一のサンプリング率(1シンボルあたりのサンプリング数)で比較すると、シンボルレート(シンボル/秒)が1/2になると、サンプリングレート(サンプル/秒)も半分になる。DGDはFIRフィルタで補償されるが、FIRフィルタのタップ数が一定の場合に、サンプリングレートが半分になると、FIRフィルタの補償範囲(タイムウィンドウ)は2倍となる。このため、約2倍のDGD量が補償可能になる。図6のように、サブキャリア変調で4サブキャリアの場合、シングルキャリアと比較して各サブキャリアのシンボルレートは1/4となり、DGD耐力はシングルキャリアと比較して約4倍になる。2サブキャリアの場合、シングルキャリアと比較して各サブキャリアのシンボルレートは1/2となり、DGD耐力はシングルキャリアと比較して約2倍になる。
【0036】
図7は、異なるサブキャリア数での偏波変動量(kHz)とSNR(dB)の関係を示す。サブキャリア数が1のときと4のときで、いずれも確率的コンステレーションシェイピングされた16QAM信号である。伝送レートとボーレートは、ともに600G、128Gbaudである。同じ偏波変動量のときに、4サブキャリアはシングルキャリアと比較してSNR劣化が顕著になり、偏波変動追従性が劣化する。
【0037】
図8は、サブキャリア変調で偏波変動追従性が低下する理由を示す。サブキャリア変調では、サブキャリアボーレートAは、シングルキャリアと比較して低くなる。たとえば、2サブキャリアの場合、サブキャリアボーレートはシングルキャリアボーレートの1/2となる。伝送符号、すなわちシンボルの流れを時間軸で表すと、偏波変動追従に使用される制御のパイロットシンボルPSが、一定間隔でデータシンボルDS中に挿入される。サブキャリア数が2の場合、シングルキャリアと比較して、パイロットシンボルPSの間隔が2倍になり、偏波変動追従速度が低下する。
【0038】
これらのトレードオフにより、適切なサブキャリア数を決めるのは容易ではない。実施形態では、一定時間伝送路をモニタし、互いにトレードオフの関係にある複数の波形歪み要因に対処できる最適なサブキャリア数を決定する。
【0039】
<第1実施形態>
図9は、第1実施形態のサブキャリア数決定方法のフローチャートである。この動作フローは、光送受信機30、たとえば、図1の光送受信機30pで実行される。光送受信機30は、DSP33の信号回路35のモニタ機能を用いて、伝送路のDGDと偏波変動速度を一定時間モニタする(S11)。このとき、ネットワークに新たに導入される光送受信機30i(図1参照)は、既知のトレーニング系列が付加されたテスト信号を伝送路4に送信してもよい。伝送路の状態自体はサブキャリア数に依存しないので、テスト信号は新たな光送受信機30iにデフォルトで設定されているサブキャリア数で送信されてもよいし、サブキャリア分割なしにシングルキャリアで送信されてもよい。信号回路35での伝送路の測定に先立ってサブキャリアは結合されるので、テスト信号のサブキャリア数は伝送路の測定結果に影響しない。
【0040】
伝送路のDGDと偏波変動は時間とともに変動する。偏波変動は外部要因(振動、温度変化など)によっても変化する。そのため、伝送路の変動が把握できる一定時間、たとえば24時間程度、伝送路をモニタする。伝送路のDGDと偏波変動速度は、信号回路35の動的等化回路352でモニタ可能である。動的等化回路352は、適応等化フィルタのフィルタ係数から偏波変動速度、DGDを求める。
【0041】
図10は、動的等化回路352の構成例を示す。動的等化回路352は、搬送波周波数・位相同期部3521、適応等化フィルタ3522、適応等化係数演算部3523、偏波変動モニタ部3524、ステップサイズ
決定部3525、及びサンプリングクロック同期部3526を有する。波長分散補償された受信信号は、搬送波周波数・位相同期部3521で周波数オフセット補償され、適応等化フィルタ3522で偏波モード分散、および偏波変動が補償され、サンプリングクロック同期部3526で搬送波の位相が復元される。
【0042】
適応等化フィルタ3522は、たとえばFIRフィルタである。適応等化係数演算部3523は、適応等化フィルタ3522のフィルタ係数を計算する。偏波変動モニタ部3524は、フィルタ係数から偏波変動速度のモニタ値を取得する。ステップサイズ決定部3525は、偏波変動モニタ値に対する最適なステップサイズを選択する。
【0043】
図11は適応等化フィルタ3522の模式図である。図12は偏波変動耐力のステップサイズ依存性を示す。適応等化フィルタ3522への入力信号をr、適応等化フィルタ3522の出力信号をyで表す。時刻mにおいて、適応等化フィルタ3522に、X偏波とY偏波の信号が入力される。適応等化係数演算部3523は、下記の演算式にしたがって、適応等化フィルタ3522のタップ係数を計算する。
【0044】
【数1】
ここで、Wは時刻mにおけるフィルタタップ係数ベクトル、rはフィルタ入力信号、yはフィルタ出力信号、μはステップサイズ、γは定数である。ステップサイズμは、フィードバックの強度を示す。
【0045】
図12を参照すると、ステップサイズが大きいほど高速な偏波変動への追従性が向上するが、雑音耐力が低下する。ステップサイズ決定部3525は、偏波変動モニタ部2524のモニタ結果と、図12の特性に基づいて、偏波変動速度に応じて最適なステップサイズを選択する。図12の特性は、ルックアップテーブルあるいは関数として、ステップサイズ決定部3525のメモリ領域に保存されていてもよい。
【0046】
適応等化係数演算部3523は、選択されたステップサイズに基づいてタップ係数を計算する。偏波変動速度に応じて最適なステップサイズに切り替えることで、偏波変動モニタ部3524は、より正確に偏波変動をモニタすることができる。最適なステップサイズが選択されていても、偏波変動が大きくなるとSNR劣化が増加、すなわちOSNR耐力が低下する傾向にある。偏波変動モニタ部3524は、制御線(図3参照)を介して偏波変動速度とDGDを制御部38に供給する。
【0047】
図9に戻って、制御部38は、DGDと偏波変動速度のモニタ結果から、モニタ期間内のDGDの最大値、及び偏波変動速度の最大値を求め(S13)、最大のDGD値に対応可能なサブキャリア数の候補グループ(A)を求める(S14)。光送受信機30の設計で、サブキャリア数ごとに、対応可能なDGD値と偏波変動耐力があらかじめ決められている。
【0048】
図13は、DSP33の性能で決まる、サブキャリア数と、サブキャリアボーレート、DSPのDGD耐力、及び偏波変動耐力の関係を示す。動作モードは600Gbps、PCS-16QAM、128Gbaudである。サブキャリア数が4のときは、サブキャリアボーレートは32Gbaud、DGD耐力は180ps、偏波変動耐力は260kHzとなる。サブキャリア数が1のときは、サブキャリアボーレートは128Gbaud、DGD耐力は50ps、偏波変動耐力は600kHzである。ここでは、サブキャリア数が1と4のときのみを例示しているが、サブキャリア数が2(nは0以上の整数)のとき、各サブキャリア数によって、サブキャリアボーレート、DGD耐力、偏波変動耐力がDSP33の性能によって決まる。
【0049】
図9に戻って、サブキャリア数の候補グループ(A)の中から、伝送路の最大偏波変動速度に対応可能であり、かつ、サブキャリア数が最も小さいサブキャリア数を選択する(S15)。最小のサブキャリア数を選択することで、図5に示したように、SNR劣化を最小にして、受信品質を高く維持することができる。この段階で、新たに導入される光送受信機30iに設定されるべきサブキャリア数が決定される。決定されたサブキャリア数を、光送受信機30iが接続される光伝送装置10-1にOSCで通知する(S16)。
【0050】
図14は、机上設計によるサブキャリア数の決定結果と、第1実施形態の方法によるサブキャリア数の決定結果を比較して示す。(a)の机上設計は、伝送路のモニタなしに机上計算でサブキャリア数を決定する方法である。(b)のモニタ値による設計は、第1実施形態の方法により一定時間伝送路をモニタし、伝送路の最大DGDと最大偏波変動の双方に対処してSNR劣化を最小にする設計法である。
【0051】
机上設計では、伝送路の最大DGDを55psとおいて計算されるが、モニタ結果によると、最大DGDは50psである。最大の偏波変動は、机上設計、モニタ値による設計ともに、250kHzである。図13のDSP性能を参照すると、偏波変動については、サブキャリア数が1のときも4のときも250kHzを超える偏波変動耐力をもち、いずれのサブキャリア数を選択してもよい。DGD耐力をみると、サブキャリア数が1のときのDGD耐力は50psであり、机上設計で用いられた55psの最大DGDに対応することができない。そのため、サブキャリア数4が選択されることになる。
【0052】
これに対し、第1実施形態の方法によると、まず、最大DGDに対応することのできるサブキャリア数の候補グループ(A)が選択される。図13の場合、サブキャリア数1とサブキャリア数4の両方が、候補グループ(A)に含まれる。次に、候補グループ(A)の中から、最大偏波変動に対処可能、かつ最小のサブキャリア数が選択される。サブキャリア数1,4の双方ともに最大偏波変動250kHzに対応可能であるため、最小のサブキャリア数1が選択される。
【0053】
図15は、第1実施形態のサブキャリア数決定方法による偏波変動耐力の向上を示す。机上設計によりサブキャリア数4が選択された場合、偏波変動量が260kHzを超えるとSNRペナルティの許容値(たとえば2.0dB)を超えてしまう。一方、サブキャリア数1が選択されると、偏波変動量260kHzでは、SNRペナルティに対して1dBのマージンがある。このマージンを、伝送容量の増加に割り振ることができる。たとえば伝送速度600Gbpsを650Gbpsに向上することができる。
【0054】
図16は、机上設計によるサブキャリア数の決定結果と、第1実施形態の方法によるサブキャリア数の決定結果を比較する別の例である。サブキャリア数で決まるDSP性能は図13と同じである。図16において、机上設計(a-1)では、伝送路の偏波変動を300kHz、DGDは100psとして設計される。この場合、解なしのため、机上設計(a-2)で伝送路に再生中継器REGを配置して、再計算する。
【0055】
再計算、すなわち机上設計(a-2)で、DGDを50ps、偏波変動を300Hzとして設計すると、図13のDSP性能で、サブキャリア数4のときに偏波変動に対応することができず、必然的にサブキャリア数1が選択される。
【0056】
これに対し、第1実施形態の方法でモニタ値に基づいて設計すると、伝送路の最大DGDは100ps、最大偏波変動は260Hzである。図13のDSP性能によると、サブキャリア数1では、伝送路の最大DGDである100Hzに対応することができない。したがって、サブキャリア数4が候補グループ(A)として選択される。サブキャリア数4は、モニタされた最大偏波変動にも対応可能であり、最終的にサブキャリア数4が選択される。
【0057】
図17は、図16の机上設計と第1実施形態の方法によるネットワーク構成の違いを示す。図17において、ROADMは光伝送装置10の一例であり、ILAはインラインアンプ53(図1参照)に相当する。送信器は、光伝送装置10に接続される光送受信機30の送信側の構成に相当し、受信器は受信側の構成に相当する。机上設計(a-1)で偏波変動が300kHz、DGD100psで設計すると解なしのため、図17の(A)のように再生中継器REGを配置して、DGD50psで再計算する。DGD耐力が50psと小さいため、伝送路に再生中継器REGが必要になる。
【0058】
これに対し、図17の(B)で偏波変動のモニタ結果が260kHz、最大DGDが100psとすると、サブキャリア数4が選択されて、伝送路のDGDと偏波変動の双方に対処できる。4サブキャリアではDGD耐力が向上するため(図5参照)、再生中継器REGが不要になる。逆にいうと、伝送距離が2倍になる。波長増設時(すなわち新たな光送受信機の導入時)や、既存の光送受信機の再起動時に、再生中継器REGなしに最適なサブキャリア数を設定できる。
【0059】
<第2実施形態>
図18は、第2実施形態のサブキャリア数決定方法のフローチャートである。この動作フローは、光送受信機30、たとえば、図1の光送受信機30pで実行される。第2実施形態では、伝送路のDGDと偏波変動に加えて、波長分散を一定時間モニタする。まず、最大DGDに対応可能なサブキャリア数を第1候補グループとして絞り込み、第1候補グループの中で最大の波長分散値に対応可能なサブキャリア数を第2候補グループとして選択し、第2候補グループの中で、最大偏波変動に対応可能、かつ最小のサブキャリア数を設定用のサブキャリア数として決定する。
【0060】
光送受信機30は、DSP33の信号回路35の波長分散推定回路355を用いて、伝送路の波長分散値を一定時間モニタし(S21)、動的等化回路352を用いて、DGDと偏波変動速度を一定時間モニタする(S22)。光送受信機30の制御部38は、DGDと偏波変動速度のモニタ結果から、モニタ期間内のDGDの最大値と偏波変動速度の最大値を求め(S23)、最大のDGD値に対応可能なサブキャリア数の候補グループ(A)を求める(S24)。
【0061】
候補グループ(A)の中から、モニタされた波長分散値に対応可能なサブキャリア数を候補グループ(B)として選択する(S25)。候補グループ(B)の中で、最大偏波変動速度に対応可能であり、かつ最小のサブキャリア数を、設定用のサブキャリア数として選択する(S26)。決定されたサブキャリア数を、対向する光送受信機30iが接続されている光伝送装置10-1にOSCで通知する(S27)。
【0062】
図19は、DSP33の性能で決まる、サブキャリア数と、サブキャリアボーレート、DGD耐力、偏波変動耐力、及び波長分散との関係を示す。動作モードは、第1実施形態と同様に、600Gbps、PCS-16QAM、128Gbaudである。サブキャリア数が4のときは、サブキャリアボーレートは32Gbaud、DGD耐力は180ps、偏波変動耐力は260kHz、波長分散は80,000ps/nmとなる。サブキャリア数が1のときは、サブキャリアボーレートは128Gbaud、DGD耐力は50ps、偏波変動耐力は600kHz、波長分散は20,000ps/psである。ここでは、サブキャリア数が1と4のときのみを例示しているが、サブキャリア数が2(nは0以上の整数)のとき、各サブキャリア数によって、サブキャリアボーレート、DGD耐力、偏波変動耐力、DSP33の性能によって決まる。
【0063】
図20は、机上設計によるサブキャリア数の決定結果と、第2実施形態の方法によるサブキャリア数の決定結果を比較して示す。(a)の机上設計は、伝送路のモニタなしに机上計算でサブキャリア数を決定する方法である。(b)のモニタ値による設計は、第2実施形態の方法により一定時間伝送路をモニタし、伝送路の最大DGD、最大偏波変動、波長分散に対処可能、かつ、SNR劣化を最小にする設計法である。
【0064】
机上設計では、伝送路の最大DGDが50ps、波長分散が21,000ps/nm、偏波変動を250kHzとして計算される。モニタ結果によると、最大DGDは50ps、波長分散は19,000ps/ps、最大偏波変動は250kHzである。図19のDSP性能を参照すると、サブキャリア数が1と4の双方で、50ps以上のDGD耐力をもち、250kHzを超える偏波変動耐力をもつ。しかし、サブキャリア数が1のときは伝送路の波長分散に対応できないため、必然的にサブキャリア数4が選択される。
【0065】
一方、第2実施形態のモニタ結果を用いると、サブキャリア数1、4の双方で、モニタされた最大DGD、最大偏波変動、及び波長分散に対処できる。そこで、最小のサブキャリア数である1を選択する。最小のサブキャリア数を選択することで、SNRの劣化を最小に抑えることができる。第2実施形態の方法により、互いにトレードオフの関係にある波形歪み要因に対応可能な最適なサブキャリア数が選択される。
【0066】
第2実施形態のサブキャリア数決定方法でも、図15を参照して説明したように、最小のサブキャリア数を選択することで、SNRペナルティに対するマージンを持つことができ、このマージンを伝送容量の増加に割り振ることができる。たとえば、伝送速度を600Gbpsから650Gbpsに増加することができる。
【0067】
<第3実施形態>
第3実施形態では、伝送路のDGDと偏波変動に加えて、波長分散を一定時間モニタする。まず、最大DGDに対応可能なサブキャリア数を第1候補グループとして絞り込み、第1候補グループの中で最大の波長分散値に対応可能なサブキャリア数を第2候補グループとして選択し、第2候補グループの中で、最大偏波変動に対応可能、かつ受信Q値が最も高いサブキャリア数を設定用のサブキャリア数として決定する。この方法は、長距離、低多値度伝送のときに有利である。
【0068】
図21は、サブキャリア数と、DGD耐力、偏波変動耐力、及びSNR劣化との関係を示す。図5のSNR劣化に加えて、非線形光学効果によるSNR劣化が追加されている。伝送路の光ファイバの非線形光学効果によるSNR劣化は、サブキャリア数が少ないほど大きくなる。長距離、低多値度伝送の場合に、サブキャリア数を増やすことで、非線形光学効果に対する耐力が改善される。これは、偏波変動によるSNR劣化と逆の相関関係を示している。
【0069】
伝送路の非線形光学効果を考慮したときに、最小のサブキャリア数を選んでも、最大の受信Q値が得られない可能性がある。そこで、第3実施形態では、受信Q値をモニタし、受信Q値が最も高いサブキャリア数を選択する。受信Q値は、DSP33の信号回路35の受信Q値モニタ356、及び357(図3参照)でモニタ可能である。
【0070】
図22は、第3実施形態のサブキャリア数決定方法のフローチャートである。光送受信機30は、DSP33の信号回路35の波長分散推定回路355を用いて、伝送路の波長分散値を一定時間モニタし(S31)、動的等化回路352を用いて、DGDと偏波変動速度を一定時間モニタする(S32)。光送受信機30の制御部38は、DGDと偏波変動速度のモニタ結果から、モニタ期間内のDGDの最大値と偏波変動速度の最大値を求める(S33)。一方、信号回路35の受信Q値モニタ356と357は、FEC復号前の受信Q値と、FEC復号後の受信Q値をそれぞれモニタする(S34)。
【0071】
DGDと偏波変動速度の最大値の決定(S33)と、受信Q値のモニタ(S34)は、どちらが先であってもよい。受信Q値として、FEC復号前とFEC復号後の受信Q値のいずれを用いてもよい。受信Q値のモニタは、設定用のサブキャリア数を決定するステップS37の直前に行われてもよい。
【0072】
光送受信機30に設定可能なサブキャリア数の中から、最大のDGD値に対応可能なサブキャリア数の候補グループ(A)を求める(S35)。候補グループ(A)の中から、モニタされた波長分散値に対応可能なサブキャリア数を候補グループ(B)として選択する(S36)。候補グループ(B)の中で、最大偏波変動速度に対応可能であり、かつ、受信Q値が最も高いサブキャリア数を、設定用のサブキャリア数として選択する(S37)。決定されたサブキャリア数を、対向する光送受信機30iが接続された光伝送装置10-1にOSCで通知する(S38)。
【0073】
図23は、DSP33の性能で決まる、サブキャリア数と、サブキャリアボーレート、DGD耐力、偏波変動耐力、及び波長分散の関係を示す。動作モードは、低多値度の長距離伝送を想定して、400Gbps、QPSK、128Gbaudである。サブキャリア数が1のときは、サブキャリアボーレートは128Gbaud、DGD耐力は50ps、偏波変動耐力は600kHz、波長分散は20,000ps/psである。サブキャリア数が4のときは、サブキャリアボーレートは32Gbaud、DGD耐力は180ps、偏波変動耐力は260kHz、波長分散は80,000ps/nmである。サブキャリア数が8のときは、サブキャリアボーレートは16Gbaud、DGD耐力は300ps、偏波変動耐力は100kHz、波長分散は320,000ps/nmである。
【0074】
図24は、劣化要因による受信Q値劣化のトレードオフを示す。受信Q値の劣化要因として、偏波変動と非線形光学効果がある。サブキャリア数が1のとき、50kHzの偏波変動による受信Q値の劣化は0.1dBである。非線形光学効果による受信Q値の劣化は1.6dBであり、受信Q値の劣化量の合計は1.7dBである。
【0075】
サブキャリア数が4のとき、50kHzの偏波変動による受信Q値の劣化は0.3dBである。非線形光学効果による受信Q値の劣化は、0.9dBであり、受信Q値の劣化量の合計は1.2dBである。サブキャリア数が8のとき、50kHzの偏波変動による受信Q値の劣化は0.5dBである。非線形光学効果による受信Q値の劣化は、0.2dBであり、受信Q値の劣化量の合計は0.7dBである。
【0076】
偏波変動による受信Q値の劣化は、サブキャリア数が増えるほど大きくなる。これに対し、非線形光学効果による受信Q値の劣化は、サブキャリア数が小さくなるほど、大きくなる。長距離伝送のときは、最小のサブキャリア数よりも、受信Q値の劣化量が最も小さくなる、すなわち受信Q値が最も高くなるサブキャリア数を選ぶのが望ましい。
【0077】
図25は、机上設計によるサブキャリア数の決定結果と、第3実施形態の方法によるサブキャリア数の決定結果を比較して示す。(a)の机上設計は、伝送路のモニタなしに机上計算でサブキャリア数を決定する方法である。(b)のモニタ値による設計は、第3実施形態の方法により一定時間伝送路をモニタし、伝送路の最大DGD、最大偏波変動、波長分散に対処し、かつ受信Q値の劣化を最小にする設計法である。
【0078】
机上設計では、伝送路の最大DGDが50ps、波長分散が20,000ps/nm、偏波変動が50kHzとおいて計算される。モニタ結果も、最大DGDは50ps、波長分散は20,000ps/ps、最大偏波変動は50kHzである。机上設計では、図22のDSP性能でサブキャリア数1、4,8のすべてで、設計上のDGD、波長分散、偏波変動のすべてに対応することができる。したがって、サブキャリア数1,4,8のどれを選択してもよい。
【0079】
これに対し、第3実施形態の方法では、受信Q値が最も高くなるサブキャリア数を選択する。図24を参照すると、受信Q値の劣化量の合計が最小となるサブキャリア数8が選択される。第1実施形態、及び第2実施形態と同様に、サブキャリア数8を選択することで、サブキャリア数1を選択したときと比較して、SNRペナルティに対するマージン(図15参照)を、容量増加に割り振ることができ、たとえば、600Gbpsを650Gbpsに増加することができる。
【0080】
以上、特定の構成例に基づいて実施形態を説明したが、本開示は上述した実施形態に限定されない。サブキャリア数は1、4、8に限定されず、2、16等であってもよい。適用されるシステムの動作モードに応じて、第2実施形態のサブキャリア決定法と、第3実施形態のサブキャリア決定法を使い分けてもよい。第1実施形態から第3実施形態のサブキャリア数の設定は、新たな光送受信機30iが増設されるときのみならず、既存の光送受信機が再起動される場合にも適用され得る。これにより、サブキャリア変調が適用される光伝送システムで、最適なサブキャリア数を設定することができる。
【符号の説明】
【0081】
1 光伝送システム
4、6 伝送路
10、10-1、10-2 光伝送装置
20、20U、20D ノード制御部
30、30a、30b、30i、30p、30q、30r 光送受信機
33 DSP(信号処理部)
34 信号回路(送信側)
35 信号回路(受信側)
38 制御部
39 光モジュール
351 固定等化回路
352 動的等化回路
353 FEC復号回路
355 波長分散推定回路
356、357 受信Q値モニタ
3522 適応等化フィルタ
3523 適応等化係数演算部
3524 偏波変動モニタ部
3525 ステップサイズ決定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25