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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138976
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/06 20060101AFI20241002BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
C08L27/06
C08L67/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049717
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100117400
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 政徳
(72)【発明者】
【氏名】松本 和樹
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BD031
4J002BD041
4J002CF032
4J002FD022
4J002HA09
(57)【要約】
【課題】優れたフォギング性と耐寒性を両立することができる粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリエステル系可塑剤及び塩化ビニル系樹脂を含む粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物であって、ポリエステル系可塑剤は、ゲル浸透クロマトグラフィーによる測定で求められる分子量500未満の成分の含有率が2面積%以下であることを特徴とする粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系可塑剤及び塩化ビニル系樹脂を含む粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物であって、
前記ポリエステル系可塑剤は、ゲル浸透クロマトグラフィーによる測定で求められる分子量500未満の成分の含有率が2面積%以下であることを特徴とする粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリエステル系可塑剤がポリカルボン酸化合物とグリコールからなる重合体であって、前記グリコールは、この化合物が有する1つの水酸基と結合した炭素原子から他の水酸基と結合した炭素原子までの直鎖部分の炭素数が2以上5以下である、請求項1に記載の粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリエステル系可塑剤を構成するグリコール由来の構造が、1,4-ブタンジオールと1,2-プロパンジオールに由来する構造を有する請求項1又は2に記載の粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリエステル系可塑剤の含有量が、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対し10質量部以上200質量部以下である請求項1又は2に記載の粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物からなるインストルメントパネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車製造業において、乗務員用エアバッグユニットは、乗物用内装パネル、ドアパネル、ダッシュボード、インストルメントパネル等のパネルと構造的に統合されている。この乗務員用エアバッグユニットのパネルへの構造的な統合は、剛性キャリアによって行われる。この剛性キャリアの上部に配される発泡体層は、通常、5-10mmの厚さの圧縮可能な発泡体からなり、ソフトな感触をパネルに与え、下にあるキャリアの表面のでこぼこした面を平らにする。また、発泡体層の上部に配される装飾的なスキンは、通常、1-1.5mmの厚さであり、しなやかなポリ塩化ビニル(PVC)、噴霧可能なウレタンエラストマー材料、熱可塑性エラストマー、熱可塑性オレフィン、熱可塑性ポリウレタン等から形成される。また、PVCスキンは通常、スラッシュ成形を用いて生産される。具体的には、まず、PVC化合物粒子を加熱された金型に供給し、次いで、熱い金型の表面で供給されたPVC化合物粒子を溶融させながら焼結するよう、金型を連続的にひっくり返す。PVC粒子が焼結されることによりシートが形成され、冷却された後、金型から外される。このPVC化合物のスラッシュ成形については、例えば、US-A-4,562,025号公報に開示されている。PVCスキンを生産するためのスラッシュ成形の代替としては、柔軟なPVCフォイル又はシートを所望の形状にする深絞り成形が挙げられる。
【0003】
しかし、そのようなスキンを乗物用パネルに適用するには、多くの厳格な基準を満たす必要がある。例えば、色安定性、高温及び昇温状態での長期間にわたるUV曝露下での寸法安定性、洗剤、ヒトの体液等のような幅広く様々な化学物質に対する耐性等が挙げられる。また、このスキンにとっての主要な課題は、発泡体層の下に収められた乗務員用エアバッグの速やかで清潔な開放を剛性キャリアの開口部を通じて許容するために、速やかな開放を行わなければならないことである。この開放を円滑にするため、スキンは通常、エアバッグを膨らませる力によって裂け又は破れる弱化線又はテアシームを有する。
これまで、設計基準の変更や自動車製造業に課せられるますます厳しい安全基準とともに、そのような裂け目を生産する技術は大変な進化を遂げてきた。過去において乗務員用エアバッグコンパートメントカバーは、エアバッグコンパートメントの上部に置かれる別の対象として設計されたが、現在の自動車の設計では、ビルトインエアバッグコンパートメントを伴う、滑らかで、連続した可視性の表面を有するインストルメントパネルの方向に進化した。テアシームが、時間の経過に伴い可視化可能となることを避けるため、スキンは、熱及び/又はUVに長期間さらされた場合の老化に対する優れた耐性を有する必要が生じている。
【0004】
ところで、エアバッグの弱化線又はテアシームが見えない状態を保持し、老化に耐える必要という最近の設計の要請は、スキンがエアバッグの速やかな展開を許すためミリ秒のうちに弱化線に沿って速やかで清潔に乗務員用エアバッグを開放できるようにすべきことを求める産業界に課される安全基準と天秤にかけられる。また、別の重要な安全基準は、スキン発泡体キャリアのサンドウィッチ構造は、乗物が遭遇し得るあらゆる動作状況において、エアバッグがカバーを通って破裂するとき、弱化線に沿って粒子を散乱させることなく壊れるべきというものである。スキン、発泡体又はキャリアから放出された断片が、乗務員に対して高速で飛ぶ又は向かっていくことは、全ての状況において最小限とし、一定の限度以下にとどまるべきである。このような特徴を有するスキンとして、特定の引裂促進剤を用いたスキンが、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2017/046166
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記の安全基準は、インストルメントパネル又は乗物中の任意の他のタイプのエアバッグを含むパネルについて、幅広い温度、少なくとも-35℃と80℃の間で満たされる必要がある。
さらに、前記スキンは、耐寒性だけではなく、フォギング性に優れていることも求められる。しかし、上記従来の塩化ビニル樹脂組成物をパウダースラッシュ成形してなる塩化ビニル樹脂成形体は、耐寒性、フォギング性において改善の余地があった。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、優れたフォギング性と耐寒性を両立することができる粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、可塑剤として特定のポリエステル系可塑剤を使用した塩化ビニル系樹脂組成物を粉体成形すれば、フォギング性と耐寒性を両立できることを見出した。
本発明はこれらの知見に基づいて成し遂げられたものであり、以下を要旨とする。
【0009】
[1]ポリエステル系可塑剤及び塩化ビニル系樹脂を含む粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物であって、前記ポリエステル系可塑剤は、ゲル浸透クロマトグラフィーによる測定で求められる分子量500未満の成分の含有率が2面積%以下であることを特徴とする粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物。
[2]前記ポリエステル系可塑剤がポリカルボン酸化合物とグリコールからなる重合体であって、前記グリコールは、この化合物が有する1つの水酸基と結合した炭素原子から他の水酸基と結合した炭素原子までの直鎖部分の炭素数が2以上5以下である、[1]に記載の粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物。
【0010】
[3]前記ポリエステル系可塑剤を構成するグリコール由来の構造が、1,4-ブタンジオールと1,2-プロパンジオールに由来する構造を有する[1]又は[2]に記載の粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物。
[4]前記ポリエステル系可塑剤の含有量が、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対し10質量部以上200質量部以下である[1]~[3]のいずれか1つに記載の粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物。
[5][1]~[4]のいずれか1つに記載の粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物からなるインストルメントパネル。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、フォギング性と耐寒性を両立することができる塩化ビニル系樹脂を含むパウダースラッシュ粉体として、粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。なお、本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
本発明は、塩化ビニル系樹脂を含むパウダースラッシュ粉体として用いることができる、ポリエステル系可塑剤及び塩化ビニル系樹脂を含む粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物に係る発明である。
【0013】
[粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物]
<塩化ビニル系樹脂>
本発明で用いる塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニルモノマーを含むモノマーの重合体をいい、塩化ビニルモノマー単独重合体又は塩化ビニルモノマー及び塩化ビニルモノマーと共重合可能なモノマーとの共重合体であれば、その種類は限定されない。
【0014】
前記の塩化ビニルモノマーと共重合可能なモノマーとしては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ラウリン酸ビニル等のビニルエステル類;メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアクリル酸エステル類;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類;ジブチルマレエート、ジエチルマレエート等のマレイン酸エステル類;ジブチルフマレート、ジエチルフマレート等のフマール酸エステル類;ビニルメチルエーテル、ビニルブチルエーテル、ビニルオクチルエーテル等のビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル類;エチレン、プロピレン、スチレン等のα-オレフィン類;塩化ビニリデン、臭化ビニル等の塩化ビニル以外のハロゲン化ビニリデン又はハロゲン化ビニル類;ジアリルフタレート、エチレングリコールジメタクリレート等の多官能性モノマーが挙げられるが、使用されるモノマーは、上述のものに限定されるものではない。これらのモノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
塩化ビニル系樹脂の製造において、上記の塩化ビニルモノマーと共重合可能なモノマーを用いる場合、該モノマーは塩化ビニル系樹脂の構成成分中、30質量%以下の範囲となるように用いることが好ましく、20質量%以下の範囲となるように用いることがより好ましい。30質量%より多いと、本来塩化ビニルモノマーが持っている性能が発揮されなくなる傾向がある。
【0016】
塩化ビニル系樹脂の製造方法は、特に制限されず、例えば、懸濁重合法、塊状重合法、微細懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合等の通常の方法を用いることができる。この中で特に好ましくは懸濁重合法を用いたものであり、なおかつ、グレイン構造(懸濁重合したポリ塩化ビニルに見られる特徴的な構造であり、内部にポロシティが存在する。混練を行うと、この構造は破壊されて消失する。)を維持した状態にある粉末状のものである。この状態にある塩化ビニル系樹脂は、特に液体状の化学物質を混和しやすいため、これを用いた本発明の粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物は、パウダースラッシュ粉体に適している。
【0017】
塩化ビニル系樹脂の平均重合度は、その加工性、成形性、物理特性から、JIS K6721に基づいた平均重合度が700~6,500であることが好ましく、より好ましくは1,100~4,000である。平均重合度が上記下限値以上であれば、得られる粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物の物理特性がより良好となる傾向にあり、また上記上限値以下であると加工性、成形性がより良好となる傾向にある。
【0018】
本発明において、塩化ビニル系樹脂は、1種のみを用いてもよく、共重合組成や共重合モノマーの種類、平均重合度等の異なる塩化ビニル系樹脂の2種以上を混合して用いてもよい。
なお、この塩化ビニル系樹脂は、市販のものを単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。
【0019】
<ポリエステル系可塑剤>
前記のポリエステル系可塑剤は、ポリカルボン酸化合物とポリオール化合物を縮重合することにより得られるポリエステル系重合体から構成される可塑剤である。
【0020】
前記ポリオール化合物は、少なくとも水酸基を2つ有する化合物であり、グリコールが好ましい。このグリコールとしては、この化合物が有する1つの水酸基と結合した炭素原子から他の水酸基と結合した炭素原子までの直鎖部分の炭素数が、2以上5以下が好ましい。ポリオール化合物の塩化ビニル系樹脂に対する相溶性は、この炭素数に影響を受けるので、十分な相溶性を有する観点から、前記炭素数をこの範囲内とすることが好ましい。
なお、前記した、1つの水酸基と結合した炭素原子から他の水酸基と結合した炭素原子までの直鎖部分の炭素数は、水酸基が結合した炭素を含む。
また、前記グリコール中に水酸基が3つ以上ある場合、この場合における1つの水酸基と結合した炭素原子から他の水酸基と結合した炭素原子までの直鎖部分の炭素数は、任意の2つの水酸基が結合した炭素の間の炭素数(水酸基が結合した炭素を含む)のうち、最も数の大きい炭素数とする。
【0021】
前記グリコールの例としては、1,2-エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール等が挙げられる。また、これらにメチル基、エチル基等の側鎖を有する化合物、例えば、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、3-エチル-1,5-ペンタンジオール等があげられる。これらの中でも、1,4-ブタンジオール、1,2-プロパンジオールは、塩化ビニル系樹脂との相溶がよりよいので、1,4-ブタンジオール、1,2-プロパンジオールの一方又は両方を用いることがより好ましい。
【0022】
前記ポリカルボン酸化合物は、少なくともカルボキシル基を2つ有する化合物である。このポリカルボン酸化合物の例としては、アジピン酸、セバシン酸等があげられる。
【0023】
本発明において、前記ポリエステル系可塑剤は、1種のみを用いてもよく、異なるポリエステル系可塑剤の2種以上を混合して用いてもよい。
なお、このポリエステル系可塑剤は、市販のものを単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。
【0024】
<ポリエステル系可塑剤の低分子成分の除去>
前記ポリエステル系可塑剤は、低分子成分が少ない方が好ましい。具体的には、後記するゲル浸透クロマトグラフィーによる測定で求められる分子量500未満の成分の含有率が2面積%以下であることがよく、好ましくは1.5面積%以下であり、より好ましくは、1面積%以下である。2面積%より多いと、揮発しやすい成分が多くなるため、十分なフォギング性能が得られ難くなるおそれがある。さらに、耐熱老化試験時にも揮発は生じてしまうため、十分な耐熱老化試験後の低温特性が得られなくおそれがある。
【0025】
このポリエステル系可塑剤から低分子成分を除去する方法としては、減圧・加熱処理をすることにより、低分子成分を留去する方法があげられ、この方法により、ポリエステル系可塑剤を精製することができる。
【0026】
なお、市販のポリ塩化ビニルには、一般的な可塑剤が配合されているが、この可塑剤は、ポリ塩化ビニルに吸収されているので、当該可塑剤は、本願発明には影響しない。
【0027】
<ポリエステル系可塑剤の低分子成分の含有率の確認方法>
前記のポリエステル系可塑剤の低分子成分の含有率は、液体クロマトグラフィー、具体的には、ゲル浸透クロマトグラフィーによる測定方法を用いて確認することができる。
具体的には、カラムとしてサイズ排除クロマトグラフィー用カラムを用い、移動相としてテトラヒドロフラン(THF)を用い、検出器として示差屈折(RI)検出器を用い、検出波長254nm条件下で測定し、得られるグラフの面積を計算し、低分子量成分(分子量500以下)の含有率(面積比率)を算出する。なお、分子量500未満のポリエステル又はポリエステル重合体のグラフの面積は、500前後の分子量のポリエステル又はポリエステル重合体からなるピーク位置を確認して分子量500のピーク位置を設定し、その位置より低分子量側のグラフの面積を、分子量500未満のポリエステル又はポリエステル重合体の面積とした。なお、分子量は、ポリスチレン換算である。
【0028】
<粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物におけるポリエステル系可塑剤の含有割合>
粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物におけるポリエステル系可塑剤の含有割合は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、10質量部以上がよく、好ましくは20質量部以上であり、より好ましくは30質量部以上である。また、200質量部以下がよく、好ましくは150以下質量部であり、より好ましくは110質量部以下である。可塑剤の含有量が上記下限以上であれば、可塑剤を含有することによる柔軟性付与効果を十分に発揮させることができ、上記上限以下であれば引張特性を付与することができる。
【0029】
<添加物>
この発明に係る粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物には、前記の塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系可塑剤以外に、必要に応じて、熱安定剤や滑剤等の添加剤を加えることができる。前記熱安定剤としては、過塩素酸塩、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)等の光安定剤、初着防止剤、軽質炭酸カルシウム、ゼオライト、フェノール系酸化防止剤、ジンクステアレート等があげられる。前記滑剤としては、ヒドロキシステアリン酸カルシウム、シリコーンオイルがあげられる。
【0030】
この発明に係る粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物に熱安定剤を含有させる場合、その熱安定剤の含有量は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対し0.1~20質量部がよく、好ましくは0.2~15質量部であり、より好ましくは0.3~10質量部である。熱安定剤の含有量が上記下限以上であれば、熱安定性を十分に発揮させることができ、上記上限以下であれば添加剤の滲み出てくる(ブルーム、ブリード)のを抑制することができる。
【0031】
この発明に係る粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物に滑剤を含有させる場合、その滑剤の含有量は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対し0.1~5質量部がよく、好ましくは0.3~3質量部であり、より好ましくは0.5~1質量部である。滑剤の含有量が上記下限以上であれば、十分な滑性が得ることができ、上記上限以下であれば添加剤の滲み出てくる(ブルーム、ブリード)のを十分に抑制することが可能となるという特徴を発揮することができる。
【0032】
[用途]
この発明にかかる粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂を含むパウダースラッシュ粉体として、パウダースラッシュ成形に供与することができ、スラッシュ成形体を得ることができる。このスラッシュ成形体としては、インストルメントパネル、ドアトリム等を挙げることができる。
【実施例0033】
以下、実施例を用いて本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限または下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限または下限の値と、下記実施例の値または実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0034】
[測定方法]
<LC(液体クロマトグラフィー)による低分子量の可塑剤の測定>
下記の条件で、液体クロマトグラフィー(ゲル浸透クロマトグラフィー)で得られたグラフより、全体の面積及び低分子量の可塑剤の面積を測定し、低分子量の可塑剤の割合(面積比)を算出した。
・カラム:サイズ排除クロマトグラフィー用カラムTSK-GEL G3000H、
・移動相:THF(流速1mL/min)、
・カラムオーブン温度:40℃、
・検出器:示差屈折(RI)検出器、温度…40℃、検出波長…254nm
なお、既知の可塑剤であるフタル酸ジウンデシル(DUP)(分子量:475)をこの条件にて測定したところ、19.5分の位置にピークが出た。分子量500付近の他の可塑剤でもほぼ、19.5分の位置にピークが出たので、19.5分以降の面積比を分子量(ポリスチレン換算)500未満の成分として算出した。
【0035】
<フォギング試験>
下記のパウダースラッシュ成形にて得られた塩化ビニル系樹脂成形スキン(厚み1mm)を直径80mmの円形に打ち抜き、DIN 75 201に準拠した装置を用いて、110℃に加熱した試験瓶の中に入れ、その上部開口部に60℃に冷却したガラス板をセットし、5時間のフォギング試験を実施した。試験完了後、ガラス板の試験前後での質量の増加率を求めた。なお、装置内において、ヒーターで110℃に加熱した空気をファンにて循環させた。
【0036】
<耐寒性試験>
下記のパウダースラッシュ成形にて得られた塩化ビニル系樹脂成形スキン(厚み1mm)を10×40mmのサイズに打ち抜き、JIS K7244―4に準拠して、周波数0.21Hz、測定温度範囲―60℃~+30℃、昇温速度2℃/分で損失弾性率のピーク温度を測定した(T1)。また、下記のウレタンフォーミング作製にて得られたサンプルについては耐熱老化試験(120℃×400h)完了後、同様に損失弾性率のピーク温度を測定した(T2)。そして、(T2-T1)/T1×100を、耐熱老化試験前後の耐寒変化率(%)とした。
【0037】
[使用原料]
以下の実施例及び比較例において用いた原料は以下の通りである。
<塩化ビニル系樹脂>
・ ポリ塩化ビニル:塩化ビニル単独重合体、平均重合度1300、信越化学工業社製:TK1300、グレイン構造を有する(走査電子顕微鏡(SEM)にて確認済)。
・ ポリ塩化ビニル:塩化ビニル系樹脂微粒子、粒形サイズ1~2μm、カネカ社製:PSM‐31。
【0038】
<ポリエステル系可塑剤>
反応容器に、下記の多価カルボン酸を100重量部、下記のグリコールを60重量部、及び末端封止剤(2-エチルヘキサノール)を30重量部混合し、エステル化触媒(テトライソプロピルチタネート)を添加し、窒素気流下で攪拌しながら200℃から230℃まで段階的に昇温させた。この変化は、30分間隔で反応系の粘度を粘度計で、酸価、水酸基価、水分を化学分析により測定し、反応の進行が遅れてきたと判断した段階で次の段階に移行させた。これにより、ポリエステル系重合体を製造した。
得られたポリエステル系重合体のうち、低分子成分を5mmHgで220℃の条件で留去処理を行った。その結果、分子量が500未満の成分が下記に示す量となった。
【0039】
〇可塑剤A…下記のLC測定において、分子量500未満の成分が2%未満であるポリエステル系可塑剤
・可塑剤A―1…重量平均分子量:7300、分子量500未満の成分:1.5%
・・ポリカルボン酸化合物:アジピン酸
・・グリコール:3-methyl-1,5-pentandiol(3MPD)
・可塑剤A―2…重量平均分子量:4700、分子量500未満の成分:1.3%
・・ポリカルボン酸化合物:アジピン酸
・・グリコール:1,4-butandiol(14BG)と1,2-propanediol(12PG)を3:2のモル比で使用
・可塑剤A―3…重量平均分子量:5100、分子量500未満の成分:1.4%
・・ポリカルボン酸化合物:アジピン酸
・・グリコール:1,4-butandiol(14BG)と2-methyl-1,3-propandiol(2MPD)を1:1のモル比で使用
【0040】
〇可塑剤B…LC測定において、分子量500未満の成分が2%以上であるポリエステル系可塑剤
・可塑剤B―1…重量平均分子量:6300、分子量500未満の成分:3.0%
・・ポリカルボン酸化合物:アジピン酸
・・グリコール:1,4-butandiol(14BG)と2,2-dimethyl-1,3-propandiol(NPG)を1:1のモル比で使用
・可塑剤B―2…重量平均分子量:5800、分子量500未満の成分:2.4%
・・ポリカルボン酸化合物:アジピン酸
・・グリコール:3-methyl-1,5-pentandiol(3MPD)
・可塑剤B―3…重量平均分子量:5100、分子量500未満の成分:3.2%
・・ポリカルボン酸化合物:アジピン酸
・・グリコール:1,4-butandiol(14BG)と2-methyl-1,3-propandiol(2MPD)を1:1のモル比で使用
【0041】
<熱安定剤>
・熱安定剤a:過塩素酸塩(協和化学工業社製:アルカマイザー5)
・熱安定剤b:ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)(ADEKA社製:LA63-P)
・熱安定剤c:初着防止剤(ADEKA社製:SP-83)
・熱安定剤d:軽質炭酸カルシウム(竹原化学工業社製:ネオライトSP)
・熱安定剤e:ゼオライト(水澤化学工業社製:ミズカライザーDS)
・熱安定剤f:フェノール系酸化防止剤(ADEKA社製:AO60)
・熱安定剤g:ジンクステアレート(日東化成社製:ZN-ST)
【0042】
<滑剤>
・滑剤h:ヒドロキシステアリン酸カルシウム(日東化成社製:CS-6CP)
・滑剤i:シリコーンオイル(東レ・ダウコーニング社製:SH200-60,000CS)
【0043】
[実施例1~3、比較例1~3]
<粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物の作製>
表1に示す塩化ビニル単独重合体、ポリエステル系可塑剤、熱安定剤及び滑剤の各成分を表1に示す割合で高速撹拌ミキサーへ投入し、樹脂温度が120℃になった時点でドライアップ完了とした。その後、ドライアップしたパウダーに表1に示す塩化ビニル系樹脂微粒子を加え、パウダースラッシュ粉体としての成形用塩化ビニル系樹脂組成物を得た。
【0044】
<パウダースラッシュ成形>
前記で得られたパウダースラッシュ粉体(成形用塩化ビニル系樹脂組成物)を、236℃に加熱した金型で溶融させて、塩化ビニル系樹脂成形スキンを作成した。
【0045】
<ウレタンフォーミング成形>
ポリオール類とイソシアネート類をミキサーに入れて、5,000rpmで5秒混合した。得られたものを、前記で得られた塩化ビニル系樹脂成形スキンを有する金型に投入し、5分放置した後にその成形品を取り出すことにより、塩化ビニル系樹脂成形スキンに発泡ポリウレタンをつけた。
【0046】
【表1】
【0047】
[評価結果]
表1に示す通り、分子量500未満の成分が2%未満であるポリエステル系可塑剤A―1,A―2,A―3を使用した実施例1,2,3について、フォギング値が1%と非常に優れた結果となった。一方で、分子量500未満の成分が2%以上であるポリエステル系可塑剤B―1,B―2,B―3を使用した比較例1,2,3については、フォギング値が5~10%と悪い傾向が見受けられた。
さらに、耐熱老化試験前後の耐寒性変化率では、分子量500未満の成分が2%未満であるポリエステル系可塑剤A―1,A―2,A―3をそれぞれ使用した実施例1,2,3について、5~9%となっているが、分子量500未満の成分が2%以上であるポリエステル系可塑剤B―1,B―2,B―3をそれぞれ使用した比較例1,2,3については、14~17%となっており、フォギング性と同様の傾向が見られた。