(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139053
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】電動車両の駆動システム
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20241002BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20241002BHJP
B60L 7/14 20060101ALI20241002BHJP
H02P 5/46 20060101ALI20241002BHJP
F16H 1/28 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
B60L15/20 S
B60L3/00 N
B60L7/14
H02P5/46 J
H02P5/46 H
F16H1/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049838
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中澤 輝彦
(72)【発明者】
【氏名】日下部 誠
(72)【発明者】
【氏名】服部 治博
(72)【発明者】
【氏名】長田 育充
(72)【発明者】
【氏名】平野 覚
【テーマコード(参考)】
3J027
5H125
5H572
【Fターム(参考)】
3J027FB02
3J027GB06
3J027GB09
3J027GC24
3J027GD04
3J027GD08
5H125AA01
5H125AC12
5H125CB02
5H125DD01
5H125EE03
5H125EE05
5H125EE09
5H125EE42
5H572AA02
5H572CC04
5H572DD05
5H572EE03
5H572LL01
5H572LL25
5H572LL29
5H572LL34
5H572MM09
5H572PP01
(57)【要約】
【課題】共通の遊星歯車機構に接続される2機の電動機を備えた電動車両の駆動システムにおいて、車両停止時に駆動システムに動作状態の診断を行う。
【解決手段】第1および第2電動機12,14が遊星歯車機構16の第1サンギヤ24および第2サンギヤ26にそれぞれ接続され、駆動輪20がキャリア28に接続されている。車両停止時(キャリア28が停止時)に、第1電動機12を駆動動作させて第2電動機を回転させ、第1および第2電動機12,14の動作状態を示すパラメータを取得する。取得したパラメータに基づき駆動システム10の動作状態の診断する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動車両の駆動システムであって、
第1電動機と、
第2電動機と、
前記第1電動機が接続された第1入力要素と、前記第2電動機が接続された第2入力要素と、駆動輪に接続された出力要素とを有する遊星歯車機構と、
前記電動車両の停止状態において、前記第1電動機を駆動動作させて前記第2電動機を回転させたときの前記第1電動機と前記第2電動機の動作状態を示すパラメータを取得し、取得した前記パラメータに基づいて当該駆動システムの状態診断を行う、制御装置と、
を含む、
電動車両の駆動システム。
【請求項2】
請求項1に記載の電動車両の駆動システムであって、
前記第2電動機が永久磁石電動機であり、
前記第2電動機の誘起電圧を検出する電圧センサをさらに含み、
前記制御装置は、前記電圧センサに検出された誘起電圧を前記パラメータとし、前記状態診断時に、前記第2電動機を連れ回り状態とし、前記電圧センサで検出された誘起電圧に基づいて前記状態診断を行う、
電動車両の駆動システム。
【請求項3】
請求項1に記載の電動車両の駆動システムであって、
前記制御装置は、前記第2電動機のトルク指令値を前記パラメータとし、前記状態診断時に、前記第1電動機と前記第2電動機の一方を所定の回転速度で駆動動作させ、他方を回生動作させ、そのときの前記第2電動機のトルク指令値に基づいて前記状態診断を行う、
電動車両の駆動システム。
【請求項4】
請求項1に記載の電動車両の駆動システムであって、
前記制御装置は、前記第2電動機のトルク指令値を前記パラメータとし、前記状態診断時に、前記第1電動機と前記第2電動機の一方を所定の回転速度で駆動動作させ、他方を回生動作させ、そのときの前記第2電動機のトルク指令値を記憶し、記憶された前記トルク指令値の変化に基づいて前記状態診断を行う、
電動車両の駆動システム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の電動車両の駆動システムであって、
当該駆動システムの温度を検出する温度センサをさらに含み、
前記制御装置は、前記温度センサの検出した温度が所定温度であるときに、前記パラメータを取得する、
電動車両の駆動システム。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか1項に記載の電動車両の駆動システムであって、
当該駆動システムの温度を検出する温度センサをさらに含み、
前記制御装置は、前記温度センサの検出した温度が所定温度となった後、前記第1電動機と前記第2電動機の一方を駆動動作させ、当該駆動動作の開始から所定時間が経過したとき、前記パラメータを取得する、
電動車両の駆動システム。
【請求項7】
請求項1から4のいずれか1項に記載の電動車両の駆動システムであって、前記制御装置は、前記電動車両が所定の場所に停車しているときに、前記パラメータの取得を行う、電動車両の駆動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両の駆動システムに関し、特に、2機の車両駆動用電動機を備えた駆動システムの故障診断に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の原動機を備えた車両駆動システムが知られている。下記特許文献1には、エンジンと2機の電動機とを備えた動力出力装置が示されている。さらに、同文献には、3機の原動機の回転速度の関係から故障箇所を判定する技術が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の動力出力装置においては、1機の電動機は、駆動輪が回転すると、一意の関係をもって回転するよう構成されている。したがって、駆動輪と共に回転する電動機の故障を車両停止時に判定をすることができない。
【0005】
本発明は、2機の電動機を備えた駆動システムにおいて、車両停止時に、2機の電動機の故障診断を行う駆動システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る電動車両の駆動システムは、第1電動機と、第2電動機と、3つの要素を有する遊星歯車機構とを備える。遊星歯車機構は、1つの要素(第1入力要素)に第1電動機が接続され、他の1つの要素(第2入力要素)に第2電動機が接続され、残りの要素(出力要素)に駆動輪が接続されている。さらに、電動車両の停止状態において、第1電動機を駆動動作させて第2電動機を回転させたときの第1電動機と第2電動機の動作状態を示すパラメータを取得し、取得した前記パラメータに基づいて当該駆動システムの状態診断を行う制御装置を含む。
【0007】
電動車両を停止した状態で電動機および遊星歯車機構の動作状態を判断することができる。
【0008】
上記の電動車両の駆動システムにおいて、第2電動機が永久磁石電動機であり、第2電動機の誘起電圧を検出する電圧センサをさらに含むものとしてよく、制御装置は、電圧センサに検出された誘起電圧を、動作状態を示すパラメータとし、状態診断時に、第2電動機を連れ回り状態とし、電圧センサで検出された誘起電圧に基づいて状態診断を行うものとしてよい。
【0009】
上記の電動車両の駆動システムにおいて、制御装置は、第2電動機のトルク指令値を、動作状態を示すパラメータとし、状態診断時に、第1電動機と第2電動機の一方を所定の回転速度で駆動動作させ、他方を回生動作させ、そのときの第2電動機のトルク指令値に基づいて状態診断を行うものとしてよい。
【0010】
上記の電動車両の駆動システムにおいて、制御装置は、第2電動機のトルク指令値を動作状態を示すパラメータとし、状態診断時に、第1電動機と第2電動機の一方を所定の回転速度で駆動動作させ、他方を回生動作させ、そのときの第2電動機のトルク指令値を記憶し、記憶されたトルク指令値の変化に基づいて状態診断を行うものとしてよい。
【0011】
上記の電動車両の駆動システムにおいて、当該駆動システムの温度を検出する温度センサを含んでよく、制御装置は、前度センサの検出した温度が所定温度であるときに、動作状態を示すパラメータを取得するものであってよい。
【0012】
上記の電動車両の駆動システムにおいて、当該駆動システムの温度を検出する温度センサをさらに含んでよく、制御装置は、温度センサの検出した温度が所定温度となった後、第1電動機と第2電動機の一方を駆動動作させ、駆動動作開始から所定時間が経過したとき、動作状態を示すパラメータを取得するものであってよい。
【0013】
上記の電動車両の駆動システムにおいて、制御装置は、電動車両が所定の位置に停車しているときに、動作状態を示すパラメータの取得を行うものであってよい。
【発明の効果】
【0014】
電動車両を停止した状態で電動機および遊星歯車機構の動作状態を判断することができ、当該電動車両の走行に影響を与えることがない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態の電動車両の駆動システムの構成を模式的に示す図である。
【
図2】磁石劣化を診断する際の駆動システムの動作を示す共線図である。
【
図3】歯車列の診断をする際の駆動システムの動作を示す共線図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を、図面に従って説明する。
図1は、この実施形態の電動車両の駆動システム10の構成を示す模式図である。駆動システム10は、それぞれ永久磁石電動機である2機の電動機12,14を備えている。2機の電動機12,14を説明において区別するために、第1電動機12および第2電動機14と記す。「第1」「第2」は、2機の電動機12,14の先後、優劣等を表すものではない。したがって、第1電動機12を第2電動機と、第2電動機14を第1電動機と読み替えることが可能である。以下に説明する構成要素について、第1電動機12に関連する要素を「第1」と記し、第2電動機14に関連する要素を「第2」と記す。また、第1電動機12および第2電動機14以外の構成要素についても、2つの構成要素の区別のためにのみ用いられ、先後、優劣等を表すものではない。第1電動機12と第2電動機14は、それぞれ遊星歯車機構16の別個の入力要素に接続されている。遊星歯車機構16の出力要素は差動装置を含む最終減速機18を介して左右の駆動輪20に接続されている。遊星歯車機構16と最終減速機18は、共通の変速機ケース22に収められてよい。
【0017】
遊星歯車機構16は、2個の入力要素として、第1電動機12が接続される第1サンギヤ24と、第2電動機14が接続される第2サンギヤ26とを有する。第2サンギヤ26は、プラネタリキャリア(以下、キャリア28と記す。)に回転可能に支持された複数の外側プラネタリピニオン30(以下、外側ピニオン30と記す。)とかみ合っている。第1サンギヤ24は、キャリア28に回転可能に支持された複数の内側プラネタリピニオン32(以下、内側ピニオン32と記す。)とかみ合っている。各内側ピニオン32は、それぞれ1個の外側ピニオン30ともかみ合っている。第1サンギヤ24、第2サンギヤ26およびキャリア28は共通の軸線周りに回動可能である。遊星歯車機構16は、出力要素としてキャリア28を有し、キャリア28は出力ギヤ34を一体に備える。この出力ギヤ34は、差動装置と一体に回転する被駆動ギヤ36と共に最終減速歯車対38を構成する。
【0018】
遊星歯車機構16は、第1サンギヤ24と外側ピニオン30と内側ピニオン32からなる第1遊星歯車列40と、第2サンギヤ26と外側ピニオン30からなる第2遊星歯車列42とを含む複合型の遊星歯車機構である。第1遊星歯車列40はダブルピニオン型の遊星歯車列であり、第2遊星歯車列42はシングルピニオン型の遊星歯車列である。
【0019】
第1サンギヤ24は第1入力歯車対44を介して第1電動機12の出力軸に接続されている。また、第1サンギヤ24を歯車対を介さず第1電動機12の出力軸に結合してもよい。第2サンギヤ26は第2入力歯車対46を介して第2電動機14の出力軸に接続されている。また、第2サンギヤ26を歯車対を介さず第2電動機14の出力軸に結合してもよい。最終減速歯車対38ならびに第1および第2入力歯車対44,46は、3つ以上の歯車から構成された歯車列としてよく、またチェーン等の他の伝達機構と代替してもよい。
【0020】
第1電動機12には、バッテリ48からの直流電力が第1インバータ50によって三相交流電力に変換されて供給される。また、第1電動機12が発電した電力が第1インバータ50を介してバッテリ48に充電される。第2電動機14には、バッテリ48からの直流電力が第2インバータ52によって三相交流電力に変換されて供給される。また、第2電動機14が発電した電力が第2インバータ52を介してバッテリ48に充電される。第1および第2インバータ50,52は、制御装置54からの指令に従った電力を第1および第2電動機12,14に供給する。制御装置54は、運転者の加速要求および走行状況などに応じて、第1および第2電動機12,14の出力トルクおよび回転速度を算出する。そして、算出した出力トルクおよび回転速度で第1および第2電動機12,14が動作するよう第1および第2インバータ50,52を制御する。制御装置54は、後述する記憶部56を含む。
【0021】
第1および第2インバータ50,52には、第1および第2電動機12,14に供給される電力および第1および第2電動機12,14で発電された電力の電圧および電流を検出するための電圧センサ58および電流センサ60が設けられている。駆動システム10の温度を検出するための手段として、第1および第2電動機12,14に温度を検出する電動機温度センサ62がそれぞれ設けられている。また、第1および第2電動機12,14には、これらの回転速度を検出する回転速度センサ64がそれぞれ設けられている。さらに、駆動システム10の温度を検出するための手段として、変速機ケース22内の温度、特に潤滑油の温度を検出する変速機温度センサ66が設けられている。
【0022】
この遊星歯車機構16は、3要素2自由度機構であり、3つの要素のうち2つの要素の回転速度が定まると、残りの1つの要素の回転速度が一意に決定する。例えば、第1サンギヤ24と第2サンギヤ26の回転速度が定まると、これに応じてキャリア28の回転速度が決定する。また、キャリア28を固定した状態で、第1サンギヤ24と第2サンギヤ26を共に回転させることができる(ただし、第1サンギヤ24と第2サンギヤの回転速度比は、第1サンギヤ24と第2サンギヤの歯数比に固定される。)。つまり、キャリア28に接続されている駆動輪20が停止した状態、すなわち車両が停止している状態で、第1および第2サンギヤ24,26に接続されている第1および第2電動機12,14を回転させることができる。したがって、この駆動システム10は、車両停止時に、第1および第2電動機12,14を動作させることができ、そのときの第1および第2電動機12,14の動作に基づき、第1および第2電動機12,14の状態を診断することができる。
【0023】
第1および第2電動機12,14の永久磁石の劣化診断について説明する。永久磁石は、温度が上昇するとともに磁束が低下する。温度が低い範囲であれば、温度上昇後、温度を低下させて元に戻せば、磁束も復帰する。しかし、より高い温度まで上昇させると、温度を戻しても磁束が復帰しない不可逆減磁が発生する。電動機の永久磁石が減磁すると、所期の性能が得られない。このため、永久磁石の劣化診断が必要になる。
【0024】
図2は、遊星歯車機構16の3つの要素の回転速度の関係を示す図、いわゆる共線図である。第1電動機12が接続された第1サンギヤ24の速度がS1軸上に表され、第2電動機14が接続された第2サンギヤ26の速度がS2軸上に表され、駆動輪が接続されたキャリア28の速度がC軸上に表されている。各要素の速度は、各軸と交差する直線の交点で表される。
【0025】
図2は、車両が停止しているとき、すなわちキャリア28の速度ωcが0(ωc=0)のときの共線図である。キャリア28が止まった状態で、第1電動機12を速度ωs1で回転させると、第2電動機14は第1電動機12により速度ωs2で回転させられる。これにより、第2電動機14のロータが回転して、第2電動機14の永久磁石とコイルが相対回転する。これにより、コイルに誘起電圧が生じる。生じた誘起電圧の値は、永久磁石の磁束と、第2電動機14の回転速度の関数となる。したがって、第2電動機14を所定の回転速度で回転させ、そのときの誘起電圧を検出することで、磁石に減磁が生じているかを判断することができる。また、磁束は、温度の影響を受けるので、測定時の温度を所定の温度とすることが望ましい。所定の温度で測定したとき、設計上の磁束が発生していなければ、減磁が生じていることが分かる。また、定期的に誘起電圧を測定し、ある時点で誘起電圧が減少すれば、不可逆的な減磁が生じたことが分かる。このために、測定された誘起電圧を記憶部56に記憶する。第2電動機14の誘起電圧は、第2インバータ52に設けられた電圧センサ58により検出することができる。また、第2電動機14の温度は、第2電動機14に設けられた電動機温度センサ62により検出することができる。
【0026】
変速機温度センサ66の検出温度を駆動システム10の温度として取得する場合、変速機温度が所定の温度になった後、第1および第2電動機12,14を所定時間駆動動作および回生動作させて暖機し、所定時間経過後に誘起電圧を検出するようにしてもよい。
【0027】
第1電動機12の永久磁石の減磁も同様に、第2電動機14で第1電動機12を回転させ、このときの誘起電圧を検出することで診断することができる。
【0028】
車両停止時に第1および第2電動機12,14が回転可能であるので、遊星歯車機構16の各歯車も回転させることができる。よって、車両停止時に回転可能な歯車列、つまり第1遊星歯車列40、第2遊星歯車列42、第1入力歯車対44および第2入力歯車対46の損傷等の異常を診断することができる。
【0029】
図3の共線図は、車両が停止している状態(キャリア速度ωc=0)で、第2電動機14をトルクTs2で駆動動作させ、第1電動機12をトルクTs1で回生動作させた状態を示している。第1電動機12で発電された電力が、第2電動機14に供給されるので、バッテリ48が満充電状態であっても、第1および第2電動機12,14を動作させることができる。第1および第2電動機12,14のトルクに見合うトルクTcを発生させるために、駆動輪には、十分なブレーキ力を作用させておく必要がある。
【0030】
歯車や軸受が損傷したり、潤滑油が不足するなどした場合、歯車列で生じる抵抗が大きくなり、第1および第2電動機12,14を所定の回転速度とするためトルクが大きくなる。したがって、第1および第2電動機12,14を所定の回転速度で回転させるための第1および第2電動機12,14へのトルク指令値が大きくなる。これに基づき、歯車列の異常診断ができる。
【0031】
第1および第2電動機12,14を所定の回転速度で回生動作および駆動動作させたときの、第1および第2電動機12,14の少なくとも一方へのトルク指令値を検出し、このトルク指令に基づき異常診断を行うことができる。また、歯車列で生じる抵抗は、温度の影響を受けるので、所定の温度条件下でトルク指令値の検出を行うことが好ましい。トルク指令値は、制御装置54自身が算出するものであり、これを利用する。また、温度は変速機温度センサ66から取得することができる。
【0032】
電動機温度センサ62の検出温度を駆動システム10の温度として取得する場合、電動機温度が所定の温度になった後、第1および第2電動機12,14を所定時間駆動動作および回生動作させて暖機し、所定時間経過後にトルク指令値を検出するようにしてもよい。
【0033】
歯車列で生じる抵抗の個体差のため、異常判定を行うためのしきい値を一律に定めることが難しい場合がある。そこで、定期的にトルク指令値を取得して、トルク指令値の変化に基づき診断を行うようにしてよい。制御装置54は、取得したトルク指令値を、取得した日時と共に記憶部56に記憶する。取得したトルク指令値を、記憶されたトルク指令値と比較して、診断を行う。
【0034】
駆動システム10の動作診断について、バスなど定期運行する車両に搭載された場合を例に挙げて説明する。
【0035】
車両が運行を終了し、次の運行まで待機しているときに駆動システム10の診断を行う。待機場所は、車庫、操作場などである。車両が待機場所に戻ると、運転者は制御装置54に運行終了を入力する。制御装置54は、運行終了に基づき動作診断モードを開始する。また、制御装置54は、車両の位置情報を取得し、待機場所に位置したら動作診断モードを開始するようにしてもよい。まず、制御装置54は、駐車ブレーキを掛けて、または掛かっていることを確認して、車両の停止を確実にする。
【0036】
動作診断モード開始後、制御装置54は、電動機温度センサ62の検出温度を監視する。第2電動機14が冷えて所定温度の温度となったら、第1電動機12を回転させ、一方、第2電動機14を第1電動機12に回転させられている状態、いわゆる連れ回り状態とする。動作診断モードの開始時点で、第2電動機14の温度が低い場合には、第1および第2電動機12,14を駆動動作および回生動作させ、第1および第2電動機12,14の温度を上昇させる。所定温度となったら、第1電動機12を所定の回転速度で回転させ、第2電動機14を連れ回り状態とする。この状態で、第2電動機14の誘起電圧を第2インバータ52に設けられた電圧センサ58から取得する。取得した電圧が磁石の劣化に対応して定められた所定値以下であれば、永久磁石が減磁しているとして異常を判定する。
【0037】
次に、第1電動機12の温度が所定温度であるかを判定し、所定温度より高ければ、温度が低くなるのを待つ。所定温度より低ければ、第1および第2電動機12,14を動作させて温度を上昇させる。第1電動機12の温度が所定温度となったら、第2電動機14を駆動して第1電動機12を連れ回りさせる。そして、第1電動機12の誘導機電圧を第1インバータ50に設けられた電圧センサ58から取得する。取得した電圧が、磁石劣化に対応して定められた所定値以下であれば、永久磁石が減磁しているとして異常を判定する。第1および第2電動機12,14の誘起電圧を記憶部56に記憶する。
【0038】
続いて歯車列の動作診断を行う。制御装置54は、遊星歯車機構16の温度を変速機温度センサ66から取得する。遊星歯車機構16の温度が高ければ冷えるまで待ち、温度が低ければ第1および第2電動機12,14を駆動動作および回生動作させて温度を上昇させる。変速機の温度が所定温度となったら、第2電動機14を歯車列診断時に対応して定められた所定の回転速度で駆動動作させ、第1電動機12を回生動作させる。第1電動機12を所定の回転速度で駆動動作させ、第2電動機14を回生動作させてもよい。制御装置54は、このときの、第1および第2電動機12,14のトルク指令値を取得する。取得されたトルク指令値が歯車列の異常に対応して定められた所定値以上であれば、歯車列に異常が生じたと判定する。また、制御装置54は、取得したトルク指令値を日時と共に記憶部56に記憶させる。
【0039】
歯車列の異常判定のためのしきい値は、過去に取得したトルク指令値に基づき定めてもよい。例えば、過去に取得したトルク指令値の平均値に対して所定の率(例えば120%)を掛けた値を異常判定のためのしきい値としてよい。制御装置54は、記憶部56に記憶されたトルク指令値から平均値を算出し、この平均値に基づいてしきい値を算出し、記憶部56に記憶する。新たに取得したトルク指令値を記憶されたしきい値と比較して、異常判定を行う。
【0040】
また、取得したトルク指令値を、固定されたしきい値と、過去のトルク指令値から求めたしきい値の両者と比較し、いずれかで異常判定がなされた場合、異常と判定するようにしてもよい。固定されたしきい値は、個体差を考慮して高めに設定する必要がある。これに対して、過去のトルク指令値から求めたしきい値は、その個体特有の値であり、固定されたしきい値より小さくすることができる。このように設定しておけば、早期に異常を発見することができる。
【0041】
制御装置54は、異常を判定したときは、インストルメントパネル等に備えられた表示部に表示して、運転者、整備担当者等に報知する。
【0042】
磁石劣化の診断と、歯車列の損傷との診断の順序は入れ替えてもよい。また、異常診断は、待機場所に戻るたびに行うのではなく、所定期間経過後、最初に待機場所に戻ったときに行うようにしてよい。
【0043】
制御装置54は、複数の処理装置から構成されてよい。また、制御装置54の一部の機能は、車両外部に設置された装置で実現されてもよい。例えば、記憶部56は車両外部、例えば運行管理センタに設置し、診断結果の情報を、無線通信、インターネット回線等を介して送受するよう構成されてよい。
【0044】
本発明に係る他の態様は、第1電動機と第2電動機を備え、さらに、第1電動機が接続された第1入力要素と、第2電動機が接続された第2入力要素と、駆動輪に接続された出力要素とを有する遊星歯車機構を備えた電動車両の駆動システムの状態を診断する方法である。まず、電動車両を停止状態とし、第1電動機を駆動動作させて第2電動機を回転させて、このときの第1電動機と第2電動機の動作状態を示すパラメータを取得する。そして、取得したパラメータに基づいて当該駆動システムの状態診断を行う。
【0045】
動作状態を示すパラメータは、第1電動機および第2電動機の誘起電圧であってよい。第1電動機と第2電動機の一方を他方により回転させて所定回転速度で連れ回り状態とし、前記の一方の電動機の誘起電圧を取得する。取得した誘起電圧に基づき異常判定を行う。例えば、誘起電圧が磁石劣化に対応して設けられた所定値より低ければ、異常と判定し、さらにこれを外部に報知する。
【0046】
動作状態を示すパラメータは、第1電動機および第2電動機を制御する際のトルク指令値であってよい。第1電動機と第2電動機を所定回転速度で回転させ、一方を所定トルクで駆動動作、他方を所定トルクで回生動作させ、第1電動機または第2電動機の制御に係るトルク指令値を取得する。取得したトルク指令値に基づき異常判定を行う。例えば、取得したトルク指令値が、歯車列の異常診断に対応して設けられた所定値より大きければ、異常と判定して、さらにこれを外部に報知する。
【0047】
<付記>
[1]
電動車両の駆動システムであって、
第1電動機と、
第2電動機と、
前記第1電動機が接続された第1入力要素と、前記第2電動機が接続された第2入力要素と、駆動輪に接続された出力要素とを有する遊星歯車機構と、
前記電動車両の停止状態において、前記第1電動機を駆動動作させて前記第2電動機を回転させたときの前記第1電動機と前記第2電動機の動作状態を示すパラメータを取得し、取得した前記パラメータに基づいて当該駆動システムの状態診断を行う、制御装置と、
を含む、
電動車両の駆動システム。
[2]
上記[1]項に記載の電動車両の駆動システムであって、
前記第2電動機が永久磁石電動機であり、
前記第2電動機の誘起電圧を検出する電圧センサをさらに含み、
前記制御装置は、前記電圧センサに検出された誘起電圧を前記パラメータとし、前記状態診断時に、第2電動機を連れ回り状態とし、前記電圧センサで検出された誘起電圧に基づいて状態診断を行う、
電動車両の駆動システム。
[3]
上記[1]項に記載の電動車両の駆動システムであって、
前記制御装置は、第2電動機のトルク指令値を前記パラメータとし、前記状態診断時に、前記第1電動機と前記第2電動機の一方を所定の回転速度で駆動動作させ、他方を回生動作させ、そのときの前記第2電動機のトルク指令値に基づいて状態診断を行う、
電動車両の駆動システム。
[4]
上記[1]項に記載の電動車両の駆動システムであって、
前記制御装置は、第2電動機のトルク指令値を前記パラメータとし、前記状態診断時に、前記第1電動機と前記第2電動機の一方を所定の回転速度で駆動動作させ、他方を回生動作させ、そのときの前記第2電動機のトルク指令値を記憶し、記憶された前記トルク指令値の変化に基づいて状態診断を行う、
電動車両の駆動システム。
[5]
上記[1]項から[4]項のいずれか1項に記載の電動車両の駆動システムであって、
当該駆動システムの温度を検出する温度センサをさらに含み、
前記制御装置は、前記温度センサの検出した温度が所定温度であるときに、前記パラメータを取得する、
電動車両の駆動装置。
[6]
上記[1]項から[4]項のいずれか1項に記載の電動車両の駆動システムであって、
当該駆動システムの温度を検出する温度センサをさらに含み、
前記制御装置は、前記温度センサの検出した温度が所定温度となった後、前記第1電動機と前記第2電動機の一方を駆動動作させ、前記駆動動作開始から所定時間が経過したとき、前記パラメータを取得する、
電動車両の駆動システム。
[7]
請求項[1]項から[6]項のいずれか1項に記載の電動車両の駆動システムであって、前記制御装置は、前記電動車両が所定の場所に停車しているときに、前記パラメータの取得を行う、電動車両の駆動装置。
【符号の説明】
【0048】
10 駆動システム、12 第1電動機、14 第2電動機、16 遊星歯車機構、20 駆動輪、22 変速機ケース、24 第1サンギヤ、26 第2サンギヤ、28 キャリア(プラネタリキャリア)、48 バッテリ、50 第1インバータ、52 第2インバータ、54 制御装置、56 記憶部、58 電圧センサ、60 電流センサ、62 電動機温度センサ、64 回転速度センサ、66 変速機温度センサ。