(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139054
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】軟磁性合金板、該軟磁性合金板の製造方法、該軟磁性合金板を用いた鉄心および回転電機
(51)【国際特許分類】
H01F 1/147 20060101AFI20241002BHJP
H01F 1/16 20060101ALI20241002BHJP
H01F 1/22 20060101ALI20241002BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20241002BHJP
C22C 1/04 20230101ALI20241002BHJP
H01F 27/245 20060101ALI20241002BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
H01F1/147
H01F1/16
H01F1/22
C22C38/00 303S
C22C1/04 H
C22C1/04 N
H01F27/245 150
H01F41/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049839
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】能島 雅史
(72)【発明者】
【氏名】寺田 尚平
(72)【発明者】
【氏名】田畑 智弘
(72)【発明者】
【氏名】浅利 裕介
【テーマコード(参考)】
4K018
5E041
5E062
【Fターム(参考)】
4K018AA25
4K018BA16
4K018BB04
4K018BC12
4K018FA09
4K018FA42
4K018KA43
5E041AA05
5E041AA19
5E041BD01
5E041CA02
5E041CA04
5E041HB11
5E041HB15
5E041NN01
5E041NN06
5E041NN17
5E041NN18
5E062AA06
5E062AC15
(57)【要約】
【課題】電磁純鉄板よりも高い磁気特性を有し、かつパーメンジュールよりも低コスト化が可能な軟磁性鉄合金板、該軟磁性鉄合金板を用いた鉄心および回転電機を提供する。
【解決手段】本発明に係る軟磁性鉄合金板は、平均組成が、5~25原子%のCoと、0~1原子%のVと、0.2~5原子%Nと、0~5原子%のCと、を含み、残部がFeおよび不純物からなり、前記Coおよび前記Nの含有率が互いに異なる第一相および第二相を有し、前記第一相は、前記Coの含有率が前記第二相よりも相対的に高く、前記第二相は、前記Nの含有率が前記第一相よりも相対的に高く、前記第二相の結晶粒が前記軟磁性鉄合金板の厚さ方向に複数個連結している領域を有し、かつ該領域が前記軟磁性鉄合金板の厚さの半分以上であることを特徴とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性鉄合金板であって、
平均組成は、5原子%以上25原子%以下のコバルトと、0原子%以上1原子%以下のバナジウムと、0.2原子%以上5原子%以下の窒素と、0原子%以上5原子%以下の炭素と、を含み、残部が鉄および不純物からなり、
前記コバルトおよび前記窒素の含有率が互いに異なる第一相および第二相を有し、
前記第一相は、前記コバルトの含有率が前記第二相よりも相対的に高く、
前記第二相は、前記窒素の含有率が前記第一相よりも相対的に高く、
前記第二相の結晶粒が前記軟磁性鉄合金板の厚さ方向に複数個連結している領域を有し、かつ該領域が前記軟磁性鉄合金板の厚さの半分以上である、ことを特徴とする軟磁性鉄合金板。
【請求項2】
請求項1に記載の軟磁性鉄合金板において、
前記第一相は、5原子%超40原子%以下のコバルトと、0原子%以上0.2原子%未満の窒素とを含み、
前記第二相は、0原子%以上5原子%以下のコバルトと、0.5原子%以上10原子%以下の窒素とを含む、ことを特徴とする軟磁性鉄合金板。
【請求項3】
請求項1に記載の軟磁性鉄合金板において、
前記第一相の平均粒径および前記第二相の平均粒径が、それぞれ45μm以下であることを特徴とする軟磁性鉄合金板。
【請求項4】
請求項2に記載の軟磁性鉄合金板において、
前記第一相の平均粒径および前記第二相の平均粒径が、それぞれ45μm以下であることを特徴とする軟磁性鉄合金板。
【請求項5】
請求項1に記載の軟磁性鉄合金板において、
前記第一相の体積率が、50体積%以上95体積%以下であり、
前記第二相の体積率が、50体積%以下5体積%以上である、ことを特徴とする軟磁性鉄合金板。
【請求項6】
請求項2に記載の軟磁性鉄合金板において、
前記第一相の体積率が、50体積%以上95体積%以下であり、
前記第二相の体積率が、50体積%以下5体積%以上である、ことを特徴とする軟磁性鉄合金板。
【請求項7】
請求項3に記載の軟磁性鉄合金板において、
前記第一相の体積率が、50体積%以上95体積%以下であり、
前記第二相の体積率が、50体積%以下5体積%以上である、ことを特徴とする軟磁性鉄合金板。
【請求項8】
請求項4に記載の軟磁性鉄合金板において、
前記第一相の体積率が、50体積%以上95体積%以下であり、
前記第二相の体積率が、50体積%以下5体積%以上である、ことを特徴とする軟磁性鉄合金板。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載の軟磁性鉄合金板において、
飽和磁化が222 emu/g以上であることを特徴とする軟磁性鉄合金板。
【請求項10】
請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載の軟磁性鉄合金板の製造方法であって、
5原子%超40原子%以下のコバルトと0原子%以上1.2原子%以下のバナジウムとを含む鉄-コバルト系合金からなる第一粉末と、0原子%以上5原子%以下のコバルトを含む鉄基金属からなる第二粉末と、を所定の比率で混合して出発材料を用意する出発材料用意工程と、
前記出発材料を用いて、成形および焼結を行って焼結体を形成する成形・焼結工程と、
前記焼結体に窒素原子を侵入・拡散させる熱処理を行った後に、急冷してマルテンサイト相を生成させるマルテンサイト相生成工程と、
前記マルテンサイト相生成工程で急冷した焼結体を更に0℃以下に冷却するサブゼロ処理工程と、を有する、
ことを特徴とする軟磁性鉄合金板の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の軟磁性鉄合金板の製造方法において、
前記出発材料用意工程における前記所定の比率は、前記第二粉末を5質量%以上50質量%以下とすることを特徴とする軟磁性鉄合金板の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の軟磁性鉄合金板の製造方法において、
前記出発材料用意工程における前記第一粉末および前記第二粉末の平均粒径は、それぞれ1μm以上45μm以下であり、
前記第一粉末の平均粒径と前記第二粉末の平均粒径との比は、1以上10以下である、ことを特徴とする軟磁性鉄合金板の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の軟磁性鉄合金板の製造方法において、
前記マルテンサイト相生成工程における前記熱処理は、500℃以上の温度になってからアンモニアガスを含む雰囲気に調整し、オーステナイト相生成温度領域まで昇温した後、アンモニアガスを含む雰囲気とアンモニアガスを含まない雰囲気とを交互に切り替えるプロセスを有する、ことを特徴とする軟磁性鉄合金板の製造方法。
【請求項14】
軟磁性鉄合金板の積層体からなる鉄心であって、
前記軟磁性鉄合金板が請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載の軟磁性鉄合金板であることを特徴とする鉄心。
【請求項15】
鉄心を具備する回転電機であって、
前記鉄心が請求項14に記載の鉄心であることを特徴とする回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性材料の技術に関し、特に、電磁純鉄板よりも高い磁気特性を有する軟磁性合金板、該軟磁性合金板の製造方法、該軟磁性合金板を用いた鉄心および回転電機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回転電機や変圧器の鉄心として、電磁純鉄板や電磁鋼板(例えば、厚さ0.01~3 mm)などの軟磁性材料を複数枚積層成形した積層鉄心が広く利用されている。それら回転電機や変圧器において、小型化・高出力化が近年強く求められており、鉄心の磁気特性の向上は緊急の課題のうちの一つである。
【0003】
鉄心では電気エネルギーと磁気エネルギーとの変換効率が高いことが重要であり、高い磁束密度や高い磁化は重要な磁気特性となる。鉄心の磁束密度/磁化を高めるには材料の飽和磁束密度Bs/飽和磁化Msが高いことが望ましく、Bs/Msが高い鉄系材料としては例えばFe-Co系合金材料やFe-N系マルテンサイト材料が知られている。
【0004】
Fe-Co系合金材料では、パーメンジュール(49Fe-49Co-2V 質量%=50Fe-48Co-2V 原子%)が現在商用化されている軟磁性バルク材料の中で最も高いMs(239 emu/g)を有する材料である。ただし、Coの材料コストは、市況による変動はあるが、Feの材料コストの100~200倍高いことから、パーメンジュールは材料コストが高いという弱点がある。また、パーメンジュールは、加工性にやや難点があり、加工コストが高くなり易いという弱点もある。Co含有率を下げればその分だけ材料コストを下げることができ加工性も改善するが、最大の特長であるMsが低下してしまう。
【0005】
一方、Fe-N系マルテンサイト材料では、例えば特許文献1(特開2020-132894)に、高飽和磁束密度を有する板状又は箔状である軟磁性材料であって、鉄、炭素及び窒素を含み、炭素及び窒素を含有するマルテンサイト及びγ-Feを含み、前記γ-Feには窒素を含有する相が形成されている軟磁性材料、が開示されている。特許文献1によると、純鉄を超える飽和磁束密度を有しかつ熱安定性を有する軟磁性材料を低コストで製造し、これを用いて電動機等の磁気回路の特性を高め、電動機等の小型化、高トルク化等を実現することができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
鉄心において電気/磁気エネルギーの変換効率を高めるためには、高いBs/高いMsに加えて、鉄損Piを抑制することも重要である。Piはヒステリシス損失と渦電流損失との和であり、ヒステリシス損失の低減には保磁力Hcが小さいことが望ましい。市販の電磁純鉄板の磁気特性は、Bs≒2.1 T、Ms≒215 emu/g、Hc≒80 A/mと言われている。電磁純鉄板を用いた鉄心は、高いBs、高いMsおよび低い材料コストの利点があるが、Hcが比較的高いためPiが大きくなり易いという弱点がある。
【0008】
現在広く利用されているFe-Si系電磁鋼板は、電磁純鉄板よりもPiが小さい利点があるが、Fe-Si系電磁鋼板のBs/Msは電磁純鉄板のBs/Msよりも小さいという弱点がある。また、特許文献1の軟磁性材料は、電磁純鉄板よりも高いBsを有する利点があるが、Hcが増加し易いという弱点がある。
【0009】
なお、近年、回転電機や変圧器における高トルク化/高出力化設計の要求が非常に強くなっており、鉄心のBs/Msの向上がより強く求められている。言い換えると、鉄心のBs/Msの向上がより優先され、Bs/Msの向上度合が大きければ、ある程度のPi増加は許容される傾向にある。
【0010】
一方、鉄心のコスト低減は当然のことながら重要な課題のうちの一つであり、期待・要求される磁気特性を満たしながら、パーメンジュールよりも低コストで安定して製造できる軟磁性材料が求められている。
【0011】
したがって、本発明の目的は、電磁純鉄板よりも高い磁気特性を有し、かつパーメンジュールよりも低コスト化が可能な軟磁性鉄合金板、該軟磁性合金板の製造方法、該軟磁性鉄合金板を用いた鉄心および回転電機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(I)本発明の一態様は、軟磁性鉄合金板であって、
平均組成は、5原子%以上25原子%以下のコバルト(Co)と、0原子%以上1原子%以下のバナジウム(V)と、0.2原子%以上5原子%以下の窒素(N)と、0原子%以上5原子%以下の炭素(C)と、を含み、残部が鉄(Fe)および不純物からなり、
前記Coおよび前記Nの含有率が互いに異なる第一相および第二相を有し、
前記第一相は、前記Coの含有率が前記第二相よりも相対的に高く、
前記第二相は、前記Nの含有率が前記第一相よりも相対的に高く、
前記第二相の結晶粒が前記軟磁性鉄合金板の厚さ方向に複数個連結している領域を有し、かつ該領域が前記軟磁性鉄合金板の厚さの半分以上である、ことを特徴とする軟磁性鉄合金板、を提供するものである。
【0013】
本発明は、上記の軟磁性鉄合金板(I)において、以下のような改良や変更を自由に組み合わせながら加えることができる。
(i)前記第一相は、5原子%超40原子%以下のCoと、0原子%以上0.2原子%未満のNとを含み、前記第二相は、0原子%以上5原子%以下のCoと、0.5原子%以上10原子%以下のNとを含む。
(ii)前記第一相の平均粒径および前記第二相の平均粒径がそれぞれ45μm以下である。
(iii)前記第一相の体積率が50体積%以上95体積%以下であり、前記第二相の体積率が50体積%以下5体積%以上である。
(iv)飽和磁化が222 emu/g以上である。
【0014】
なお、本発明において、軟磁性鉄合金板における平均粒径とは、微細組織観察(例えば、走査型電子顕微鏡観察)により観察された結晶粒の等価面積円の直径の平均とする。また、粉末の平均粒径は、レーザ回折・散乱式粒子径分布測定装置等を用いて測定される体積基準の平均粒径(D50)とする。
【0015】
(II)本発明の他の一態様は、上記の軟磁性鉄合金板の製造方法であって、
5原子%超40原子%以下のコバルトと0原子%以上1.2原子%以下のバナジウムとを含む鉄-コバルト系合金からなる第一粉末と、0原子%以上5原子%以下のコバルトを含む鉄基金属からなる第二粉末と、を所定の比率で混合して出発材料を用意する出発材料用意工程と、
前記出発材料を用いて、成形および焼結を行って焼結体を形成する成形・焼結工程と、
前記焼結体に窒素原子を侵入・拡散させる熱処理を行った後に、急冷してマルテンサイト相を生成させるマルテンサイト相生成工程と、
前記マルテンサイト相生成工程で急冷した焼結体を更に0℃以下に冷却するサブゼロ処理工程と、を有する、
ことを特徴とする軟磁性鉄合金板の製造方法、を提供するものである。
【0016】
本発明は、上記の軟磁性鉄合金板の製造方法(II)において、以下のような改良や変更を自由に組み合わせながら加えることができる。
(v)前記出発材料用意工程における前記所定の比率は、前記第二粉末を5質量%以上50質量%以下とする。
(vi)前記出発材料用意工程における前記第一粉末および前記第二粉末の平均粒径は、それぞれ1μm以上45μm以下であり、前記第一粉末の平均粒径と前記第二粉末の平均粒径との比は、1以上10以下である。
(vii)前記マルテンサイト相生成工程における前記熱処理は、500℃以上の温度になってからアンモニアガスを含む雰囲気に調整し、オーステナイト相生成温度領域まで昇温した後、アンモニアガスを含む雰囲気と、アンモニアガスを含まない雰囲気とを交互に切り替えるプロセスを有する。
【0017】
(III)本発明の他の一態様は、軟磁性鉄合金板の積層体からなる鉄心であって、
前記軟磁性鉄合金板が上記の本発明に係る軟磁性鉄合金板であることを特徴とする鉄心、を提供するものである。
【0018】
(IV)本発明の更に他の一態様は、鉄心を具備する回転電機であって、
前記鉄心が上記の本発明に係る鉄心であることを特徴とする回転電機、を提供するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、電磁純鉄板よりも高い磁気特性を有し、かつパーメンジュールよりも低コスト化が可能な軟磁性鉄合金板、該軟磁性合金板の製造方法、該軟磁性鉄合金板を用いた鉄心および回転電機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係る軟磁性鉄合金板を製造する方法の一例を示す工程図である。
【
図2A】回転電機の固定子の一例を示す斜視模式図である。
【
図2B】固定子のスロット領域の拡大横断面模式図である。
【
図3】実施例1の断面観察における成分面分析の一例であり、(a)Fe成分マッピングおよび(b)Co成分マッピングの結果である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[本発明の基本思想]
本発明者等は、前述の目的を達成するために、パーメンジュールよりもCo含有率を減少させて材料コストを低減し、Co含有率の減少による磁気特性(Bsおよび/またはMs)の低下分をFe-N系マルテンサイト相の生成で補うことを考えた。また、Fe-C系マルテンサイト相を生成させることにより、Bs/Msを低下させることなくPiの増加を抑制することができると考えた。
【0022】
しかしながら、Fe-Co系合金材料は、N原子やC原子が侵入・拡散しにくくFe-N系マルテンサイト相やFe-C系マルテンサイト相の生成が難しいとされている。言い換えると、Fe-Co系合金材料にN原子やC原子を単純に侵入・拡散させることは容易ではない。
【0023】
一方、Fe-N系マルテンサイト相を生成させるために、Fe-Co系合金材料にN原子やC原子の侵入・拡散を促進する元素を単純に添加すると、非磁性の非金属粒子を生成し易くなり、生成した非磁性粒子が磁化反転時の磁壁移動を妨げるピンニング点として作用する。非磁性粒子の生成はBsおよび/またはMsの低下につながり、磁壁のピンニング点はPiの増大につながるという別の問題が生じる。
【0024】
そこで、本発明者等は、Fe-Co系合金材料自体の磁気特性を維持・継承しながら、軟磁性鉄合金板の内部までN原子やC原子を効果的に侵入・拡散させる方法について鋭意研究を行った。その結果、磁気特性に優れるFe-Co系合金からなる第一相の粉末と、N原子やC原子の侵入・拡散が比較的容易なFe基金属からなる第二相の粉末とを混合・焼結した後に、浸窒熱処理または浸窒・浸炭熱処理を行うという方法を考案した。第二相がN原子やC原子の侵入・拡散経路となることにより、軟磁性鉄合金板の内部までN原子やC原子を侵入・拡散させて効果的にFe-N系マルテンサイト相、またはFe-N系およびFe-C系マルテンサイト相を生成させることができる。本発明は、当該知見に基づいて完成されたものである。
【0025】
なお、本発明者等の数多くの実験から、比較対象の軟磁性材料よりも0.03 T以上のBs向上または3 emu/g以上のMs向上が実現すれば、明確な特性向上/有意差と言えることが判明している。このことから、本発明の軟磁性鉄合金板は、少なくとも2.17 T以上のBsまたは218 emu/g以上のMsを示す必要がある。回転電機における近年の高トルク化/高出力化要求の観点からは、2.21 T以上のBsまたは222 emu/g以上のMsがより望ましい。
【0026】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。ただし、本発明はここで取り上げた実施形態に限定されることはなく、発明の技術的思想を逸脱しない範囲で、公知技術と適宜組み合わせたり公知技術に基づいて改良したりすることが可能である。
【0027】
[軟磁性鉄合金板]
図1は、本発明に係る軟磁性鉄合金板を製造する方法の一例を示す工程図である。
図1に示したように、本発明の軟磁性鉄合金板の製造方法は、概略的に、出発材料用意工程S1と成形・焼結工程S2とマルテンサイト相生成工程S3とサブゼロ処理工程S4とを有する。本発明では、目的を達成する軟磁性鉄合金板を得るために成形・焼結工程S2で得られる焼結体の構造を制御し、該焼結体の構造を制御するために出発材料用意工程S1で用意する出発材料の構成を制御する。
【0028】
以下、各工程をより具体的に説明する。
【0029】
出発材料用意工程S1は、5原子%超40原子%以下のCoと0原子%以上1.2原子%以下のVとを含むFe-Co系合金からなる第一粉末と、0原子%以上5原子%以下のCoを含むFe基金属からなる第二粉末と、を所定の比率で混合して出発材料を用意する工程である。V成分は、後の成形・焼結工程S2において成形性向上に寄与する成分であるが、必須成分ではない(すなわち、含有させてもよいし含有させなくてもよい)。
【0030】
また、第一粉末および/または第二粉末は、0原子%以上5原子%以下のC成分を含んでいてもよい(言い換えると、C成分も必須成分ではない)。なお、後の成形・焼結工程S2の後に、必要に応じてC成分を侵入・拡散させる浸炭熱処理を行ってC成分を添加することもできる。
【0031】
第一粉末と第二粉末との混合比率は、出発材料全体の平均組成が、5原子%以上25原子%以下のCo、0原子%以上1原子%以下のV、および0原子%以上5原子%以下のCを含み、残部がFeおよび不純物となるように制御することが好ましい。
【0032】
また、後の成形・焼結工程S2において、第二粉末を元にする結晶粒が複数個連結している領域が形成され、かつ当該領域の長さ(特に焼結体の厚さ方向長さ)が焼結体の厚さの少なくとも半分以上となるように制御することが好ましい。それを達成するため、第一粉末と第二粉末との混合比率は、第二粉末を5質量%以上50質量%以下(第一粉末を95質量%以下50質量%以上)の範囲で制御することが好ましく、第二粉末を10質量%以上50質量%以下(第一粉末を90質量%以下50質量%以上)の範囲で制御することがより好ましい。
【0033】
第一粉末および第二粉末の平均粒径に特段の限定はないが、後の成形・焼結工程S2における焼結体の形状制御性の観点から、それぞれ1μm以上45μm以下が好ましい。第一粉末の平均粒径と第二粉末の平均粒径との比にも特段の限定はないが、例えば1以上10以下の範囲で制御することが好ましい。
【0034】
平均粒径の異なる二種類の粉末を混合・成形した場合、基本的に、平均粒径が大きい方の粉末が成形体の骨格を形成し易く、平均粒径が小さい方の粉末が該骨格の隙間を埋めるように配置される傾向がある。この傾向は、平均粒径の比が大きくなるほど(例えば5以上になると)強くなる。言い換えると、平均粒径の比が大きい場合、平均粒径が小さい方の粉末は海島構造の島になり易くなる。
【0035】
前述したように、後の成形・焼結工程S2で得られる焼結体において、第二粉末を元にする結晶粒同士が複数個連結している領域が形成され、かつ当該領域の長さ(焼結体の厚さ方向長さ)が焼結体の厚さの少なくとも半分以上となるように制御することが好ましい。この構造を得るための出発材料の構成としては、複数種類が考えられる。例えば「二種類の粉末の平均粒径の比を小さくする(例えば2以下にする)」、「第一粉末の平均粒径よりも第二粉末の平均粒径を大きくして、第二粉末の混合比率を低め(例えば20質量%以下)に設定する」、「第一粉末の平均粒径よりも第二粉末の平均粒径を小さくして、第二粉末の混合比率を高め(例えば30質量%以上)に設定する」などがある。
【0036】
成形・焼結工程S2は、前工程S1で用意した出発材料を用いて、成形および焼結を行って焼結体を形成する工程である。本発明における工程S2は、成形および焼結の順序を問わないものとする。すなわち、成形した後に焼結を行ってもよいし、仮成形・焼結した後に本成形を行ってもよいし、成形と焼結とを同時に行ってもよい。
【0037】
成形方法および焼結方法は、緻密な焼結体を得られる限り特段の限定はなく、金属材料に対する粉末冶金手法における従前の技術を適宜利用できる。例えば、冷間静水圧プレス(CIP)、熱間静水圧プレス(HIP)、ホットプレス(HP)、ガス圧焼結、ミリ波焼結、マイクロ波焼結、電場補助焼結、フラッシュ焼結、放電プラズマ焼結(SPS)などを好適に利用できる。緻密な焼結体としては、断面観察を行ったときに、空孔率が7面積%以下となることが好ましく、5面積%以下がより好ましく、3面積%以下が更に好ましい。一例として、放電プラズマ焼結を利用する場合には、加熱温度1100℃以下、最高面圧50 MPaにて焼結することが好ましい。
【0038】
本工程S2によって得られる焼結体は、第一粉末を元にする結晶粒の領域と、第二粉末を元にする結晶粒同士が複数個連結している領域とを有し、かつ第二粉末を元にする領域の長さ(焼結体の厚さ方向長さ)が焼結体の厚さの少なくとも半分以上である、という構造的特徴を有する。
【0039】
マルテンサイト相生成工程S3は、前工程S2で形成した焼結体にN原子を侵入・拡散させる浸窒熱処理を行った後に、急冷してマルテンサイト相を生成させる工程である。浸窒熱処理において、N原子は、第二粉末を元にする結晶粒に優先して侵入・拡散する。所望のN含有率まで浸窒を行った後に、100℃未満まで急冷する焼入れを行うことによってマルテンサイト相が生成する。
【0040】
浸窒熱処理は、500℃以上の温度(例えば、オーステナイト相(γ相)生成温度領域)および所定のアンモニア(NH3)ガス雰囲気の環境下で、焼結体の表面から(特に、第二粉末を元にする結晶粒同士が複数個連結している領域の表面から)N原子を侵入拡散させる。NH3ガス雰囲気としては、NH3ガス単体の他、NH3ガスとN2ガスとの混合ガスや、NH3ガスとArガスとの混合ガスや、NH3ガスとH2ガスとの混合ガスを好適に利用できる。
【0041】
NH3ガスの導入は、500℃以上の温度になってから行うことが好ましい。これは、フェライト相(α相)の安定温度領域で積極的にNH3ガスを導入すると、望ましい正方晶構造のFe-N相(Fe8N相(α’相)および/またはFe16N2相(α”相))よりも、望まないFe-N相(例えば、Fe4N相(γ’相)やFe3N相(ε相))が生成し易くなるためである。
【0042】
焼結体中(特に、第二粉末を元にする結晶粒同士が複数個連結している領域中)のN含有率の制御は、熱処理温度、NH3ガス分圧および/またはNH3ガス供給時間の制御によって行うことができる。焼結体の厚さ方向でのN含有率の分布制御は、NH3ガスを含む雰囲気とNH3ガスを含まない雰囲気とを交互に切り替えることによって行うことができる。
【0043】
浸窒熱処理後の急冷によって、オーステナイト相(γ相)の大部分をマルテンサイト組織に変態させることができるが、一部のγ相が残存することがある(残留γ相)。γ相は非磁性であるため、磁気特性の観点から残留γ相の体積率は5%以下にすることが好ましい。
【0044】
必須の工程ではないが、C成分を添加する浸炭熱処理を行う場合、上記の浸窒熱処理に引き続いて(例えば、浸窒熱処理の後で急冷の前に)浸炭熱処理を行ってもよい。浸炭熱処理の方法に特段の限定はなく、従前の方法を適宜利用できる。例えば、浸窒熱処理に引き続いて雰囲気ガスをアセチレン(C2H2)ガスまたは一酸化炭素(CO)ガスに変更するかたちで行うことができる。
【0045】
また、浸炭熱処理は、浸窒熱処理と同時に行ってもよい。その場合、500℃以上の温度になってからNH3ガスに加えてC2H2ガスまたはCOガスを導入し、当該ガス環境下でγ相生成温度領域まで昇温して、焼結体の表面から(特に、第二粉末を元にする結晶粒同士が複数個連結している領域の表面から)N原子およびC原子を侵入拡散させる。
【0046】
C含有率の制御は、N含有率の制御と同様に、熱処理温度、ガス分圧および/またはガス供給時間の制御によって行うことができる。焼結体の厚さ方向でのC含有率の分布制御は、C2H2またはCOガスを含む雰囲気と当該ガスを含まない雰囲気とを交互に切り替えることによって行うことができる。
【0047】
マルテンサイト相生成工程S3に引き続いて、残留γ相をマルテンサイト組織に変態させるためサブゼロ処理工程S4を行うことは好ましい。サブゼロ処理とは、0℃以下に冷却する処理であり、ドライアイスを使用した普通サブゼロ処理や、液体窒素を使用した超サブゼロ処理を好ましく利用できる。
【0048】
工程S3によるFe-N系マルテンサイト相(本明細書ではこの相を第二相と称する)のN含有率は、0.5原子%以上10原子%以下が好ましい。N含有率を0.5原子%以上とすることにより、有意な量のFe-N系マルテンサイト相が生成してBs向上/Ms向上に寄与する。N含有率を10原子%以下とすることにより、望まないFe-N相の生成を抑制することができる。第二相のN含有率の下限は、1原子%以上がより好ましく、1.5原子%以上が更に好ましい。また、N含有率の上限は、8原子%以下がより好ましく、6原子%以下が更に好ましい。第一粉末を元にする結晶粒の領域は、本明細書の第一相となる。
【0049】
軟磁性鉄合金板全体の平均組成は、5原子%以上25原子%以下のCoと、0原子%以上1原子%以下のVと、0.2原子%以上5原子%以下のNと、0原子%以上5原子%以下のCとを含み、残部がFeおよび不純物となる。
【0050】
必須の工程ではないが、サブゼロ処理工程S4を経た焼結体(軟磁性鉄合金板)に靭性を与える目的で、100℃以上210℃以下の焼戻し工程S5を更に行ってもよい(
図1中には図示せず)。
【0051】
以上の工程により、パーメンジュールよりもCo含有率を減少させて材料コストを低減しながら、Co含有率の減少による磁気特性の低下分をFe-N系マルテンサイト相の生成で補った軟磁性鉄合金板を得ることができる。
【0052】
[鉄心および回転電機]
図2Aは回転電機の固定子の一例を示す斜視模式図であり、
図2Bは固定子のスロット領域の拡大横断面模式図である。なお、横断面とは、回転軸方向に直交する断面(法線が軸方向と平行の断面)を意味する。回転電機では、
図2A~
図2Bの固定子の径方向内側に回転子(図示せず)が配設される。
【0053】
図2A~
図2Bに示したように、固定子20は、積層鉄心10の内周側に形成された複数の固定子スロット11に、固定子コイル21が巻装されたものである。固定子スロット11は、積層鉄心10の周方向に所定の周方向ピッチで配列形成されるとともに軸方向に貫通形成された空間であり、最内周部分には軸方向に延びるスリット12が開口形成されている。隣り合う固定子スロット11の仕切る領域は積層鉄心10のティース13と称され、ティース13の内周側先端領域でスリット12を規定する部分はティース爪部14と称される。
【0054】
固定子コイル21は、通常、複数のセグメント導体22から構成される。例えば、
図2A~
図2Bにおいて、固定子コイル21は、三相交流のU相、V相、W相に対応する3本のセグメント導体22から構成されている。また、セグメント導体22と積層鉄心10との間の部分放電、および各相(U相、V相、W相)間の部分放電を防止する観点から、各セグメント導体22は、通常、その外周を電気絶縁材23(例えば、絶縁紙、エナメル被覆)で覆われる。
【0055】
本発明に係る回転電機とは、本発明の積層鉄心10を利用した回転電機である。本発明の積層鉄心10は、従来の電磁純鉄板や電磁鋼板からなる積層鉄心よりも高いBs/高いMsを有することから、回転電機の高トルク化/高出力化につながる。また、本発明の積層鉄心10は、パーメンジュール板からなる積層鉄心よりも低コスト化が可能であることから、回転電機の過度なコスト上昇を抑制することができる。
【実施例0056】
以下、種々の実験により本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実験に記載された構成・構造に限定されるものではない。
【0057】
[実験1]
(出発材料用意工程による出発材料1~3および参照材料1の用意)
はじめに、平均粒径約30μmのFe-30原子%Co粉末(原料A)、平均粒径約30μmのFe-25原子%Co粉末(原料B)、平均粒径約30μmのFe-20原子%Co粉末(原料C)、平均粒径約30μmのFe-5原子%Co粉末(原料D)、平均粒径約30μmの純Fe粉末(原料E)、および平均粒径約4μmの純Fe粉末(原料F)を用意した。
【0058】
第一粉末として原料Aを用い、第二粉末として原料Fを用い、「原料A:原料F=67質量%:33質量%」となるようによく混合して出発材料1を用意した。第一粉末として原料Aを用い、第二粉末として原料Eを用い、「原料A:原料E=67質量%:33質量%」となるようによく混合して出発材料2を用意した。第一粉末として原料Bを用い、第二粉末として原料Dを用い、「原料B:原料D=67質量%:33質量%」となるようによく混合して出発材料3を用意した。
【0059】
出発材料1~3は、出発材料全体の平均Co含有率が約20原子%になる。すなわち、市販のパーメンジュールよりも材料コストを大幅に低減することができる。
【0060】
これらに対し、参照材料1では原料Cのみを用いて用意した。
【0061】
[実験2]
(成形・焼結工程による発明焼結体1~3および参照焼結体1の形成)
実験1で用意した出発材料1~3および参照材料1から、それぞれ適量をサンプリングし、放電プラズマ焼結(SPS)法を用いて発明焼結体1~3および参照焼結体1(それぞれ、直径20 mm×厚さ0.1 mm)の試料を形成した。焼結条件は、真空引き:10 Pa、焼結温度:1000℃、保持時間:5分間とした。焼結体試料はそれぞれ複数枚ずつ作製した。
【0062】
[実験3]
(マルテンサイト相生成工程およびサブゼロ処理工程による実施例1~3および参照例1の作製)
実験2で形成した発明焼結体1~3および参照焼結体1の試料から、それぞれ試験片(10 mm×9.5 mm×0.1 mm)を切り出し、マルテンサイト相生成工程を行った。
【0063】
浸窒熱処理は、N2ガス雰囲気(0.8×105 Pa)で500℃まで昇温後に、NH3ガス雰囲気(1×105 Pa)に入れ替えて1000℃まで昇温し、1000℃を保持しながらNH3ガス雰囲気(0.5×105 Pa)とN2ガス雰囲気(0.4×105 Pa)とを交互に切り替えて、N原子侵入量(N含有率)とN含有率の焼結体厚さ方向分布とを制御する方法で行った。所望量の浸窒素が完了した後、油焼入れ(60℃)を行ってマルテンサイト変態させた。
【0064】
油焼入れ後、直ちに超サブゼロ処理を行って残留γ相もマルテンサイト変態させた。これらにより、軟磁性鉄合金板の実施例1~3および参照例1の試料を作製した。
【0065】
[実験4]
(実施例1~3および参照例1の性状調査)
得られた各試料の表面に対して、X線回折装置(株式会社リガク製、Rint-Ultima III)を用いてCu-Kα線による広角X線回折測定(WAXD)を行って結晶相の同定を行った。
【0066】
その結果、実施例1~3では、α相(フェライト相)を主相とし、α’相および/またはα”相(正方晶構造のFe-N相)の生成が確認され、γ相(オーステナイト相)およびγ’相(Fe4N相)は確認されなかった。一方、参照例1では、α相のみが確認された。参照例1の結果は、WAXD測定で検出できるレベル/量でα’相および/またはα”相が生成されなかったことを意味する。
【0067】
得られた各試料の断面に対して、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA、日本電子株式会社製、JXA-8530F)を用いて微細組織観察を行い、空孔率の調査と成分分析とを行った。
【0068】
空孔率の調査では、微細組織写真を画像解析して空孔の面積率を求めたところ、実施例1~3および参照例1の全てにおいて、3面積%以下の空孔率であることが確認された。
【0069】
図3は、実施例1の断面観察における成分面分析の一例であり、(a)Fe成分マッピングおよび(b)Co成分マッピングの結果である。実施例1は、原料A(Fe-30原子%Co粉末、平均粒径約30μm)と原料F(純Fe粉末、平均粒径約4μm)とを混合・焼結した試料である。
【0070】
Fe成分は観察視野全体に一様に分布している(
図3(a)参照)。一方、Co成分は明確に偏在している(
図3(b)参照)。これらの結果から、原料Aが骨格を形成し、原料Bが該骨格の隙間を埋めながら網目状に連結していることが判る。
【0071】
原料Aに基づく領域および原料Bに基づく領域に対して、それぞれ50点ずつN濃度のスポット測定を行って定量分析を行った。その結果、原料Bに基づく領域では、1.2~1.5原子%のN濃度が計測された。一方、原料Aに基づく領域では、0~0.1原子%のN濃度が計測された。
【0072】
これらのことから、原料Bに基づく領域(Fe基金属の領域)がN原子の侵入・拡散経路となってFe-N系マルテンサイト相を生成して第二相の領域を構成すること、および原料Aに基づく領域(Fe-Co系合金の領域)ではN原子が侵入・拡散しにくくFe-N系マルテンサイト相の生成が難しいことが確認される。
【0073】
また、図示は省略するが、EPMAによる元素分布の観察結果から、第二相の結晶粒が軟磁性鉄合金板の厚さ方向に複数個連結している領域を有すること、かつその領域が軟磁性鉄合金板の厚さの半分以上であることを確認した。
【0074】
さらに、図示は省略するが、実施例2~3においても実施例1と同様の結果が得られることを確認した。参照例1は、試料全体がFe-Co系合金の領域であり、N原子が侵入・拡散しにくくFe-N系マルテンサイト相の生成が難しいことを確認した。
【0075】
振動試料型磁力計(理研電子株式会社製、BHV-525H)を用いて、各試料の磁気特性を調査した。磁界1.6 MA/m、温度20℃の条件下で試料の磁化(単位:emu)測定し、試料質量から飽和磁化Ms(単位:emu/g)を求めた。また、BHループアナライザ(株式会社IFG製、IF-BH550)および縦型ヨーク単板試験機を用いたHコイル法(JIS C 2556:2015に準拠)により、磁束密度1.0 T、400 Hz、温度20℃の条件下で試料の鉄損Pi-1.0/400(単位:W/kg)を測定した。結果を表1に示す。
【0076】
【0077】
表1に示したように、実施例1~3は、平均組成として同じCo含有率を有する参照例1に比して、飽和磁化Msで5~7%の向上が確認された。また、実施例1の鉄損Pi-1.0/400=25 W/kgは、電磁鋼板の鉄損に匹敵するような十分に低い鉄損と言える。
【0078】
上述した実施形態や実験は、本発明の理解を助けるために説明したものであり、本発明は、記載した具体的な構成のみに限定されるものではない。例えば、実施形態の構成の一部を当業者の技術常識の構成に置き換えることが可能であり、また、実施形態の構成に当業者の技術常識の構成を加えることも可能である。すなわち、本発明は、本明細書の実施形態や実験の構成の一部について、発明の技術的思想を逸脱しない範囲で、削除・他の構成に置換・他の構成の追加をすることが可能である。