(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139057
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】炭素系製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/532 20060101AFI20241002BHJP
【FI】
C04B35/532
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049842
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】秋田 将志
(72)【発明者】
【氏名】柴田 賢一
(57)【要約】
【課題】 アチェソン炉を用いた黒鉛化(加熱)だけでなく、製造プロセス全体でリードタイム短縮、熱エネルギーのロス低減に貢献できる炭素系製品の製造方法を提供する。
【解決手段】 原ブロックが一対の電極間に配置され、前記原ブロックの周囲を囲む詰粉が配置された詰粉領域と、さらに前記詰粉領域を囲む断熱層と、を有する加熱炉を準備し、前記電極に電流を流し、前記原ブロックを加熱する加熱工程を含む炭素系製品の製造方法であって、前記原ブロックは炭素質粒子と、前記炭素質粒子を互いに結合する炭素前駆体からなるバインダと、からなり、前記詰粉領域は、前記電極に電流を流す方向である通電方向に前記原ブロックと隣り合う第1の領域と、前記通電方向の軸に沿って前記原ブロック及び前記第1の領域を囲む第2の領域と、からなり、前記加熱工程の初期段階において、ρ1>ρ2であり前記第1の領域よりも前記第2の領域の方が体積当たりの発熱量が大きいことを特徴とする炭素系製品の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原ブロックが一対の電極間に配置され、前記原ブロックの周囲を囲む詰粉が配置された詰粉領域と、さらに前記詰粉領域を囲む断熱層と、を有する加熱炉を準備し、
前記電極に電流を流し、前記原ブロックを加熱する加熱工程を含む炭素系製品の製造方法であって、
前記原ブロックは炭素質粒子と、前記炭素質粒子を互いに結合する炭素前駆体からなるバインダと、からなり、
前記詰粉領域は、
前記電極に電流を流す方向である通電方向に前記原ブロックと隣り合う第1の領域と、
前記通電方向の軸に沿って前記原ブロック及び前記第1の領域を囲む第2の領域と、
からなり、
前記加熱工程の初期段階において、ρ1>ρ2であり前記第1の領域よりも前記第2の領域の方が体積当たりの発熱量が大きいことを特徴とする炭素系製品の製造方法。
ρ1:原ブロックの固有抵抗
ρ2:詰粉領域の固有抵抗
【請求項2】
前記原ブロックの前記加熱工程の過程でρ1<ρ2となり前記第2の領域よりも前記第1の領域の方が体積当たりの発熱量が大きくなることを特徴とする請求項1に記載の炭素系製品の製造方法。
【請求項3】
前記炭素系製品の水銀圧入法における累積細孔容積が全細孔容積の50%となる細孔径は、50~500μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の炭素系製品の製造方法。
【請求項4】
前記原ブロックは、前記炭素質粒子と前記バインダとが2次粒子を形成し、前記2次粒子の平均粒子径は50~1000μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の炭素系製品の製造方法。
【請求項5】
前記原ブロックは直方体であり最も長い方向を前記通電方向に向けて配置することを特徴とする請求項1又は2に記載の炭素系製品の製造方法。
【請求項6】
前記記載の炭素系製品の製造方法は、
前記炭素質粒子と前記バインダとを混錬し、炭素前駆体を得る混錬工程と、
前記炭素前駆体を成形し前記原ブロックを得る成形工程と、
前記原ブロックを加熱する請求項1又は2に記載の加熱工程と、
からなることを特徴とする炭素系製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素系製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
黒鉛材料をはじめとする炭素製品は、製品の製造段階で高温の熱処理を必要とする。黒鉛材料においては、炭素前駆体の成形体を焼成し、さらに3000℃前後で黒鉛化するため、非常に大きなエネルギーを必要とし、原価低減や、リードタイムの短縮が課題となっている。
特に黒鉛化工程では、詰粉の加熱に多大の投入電力を要し、高温処理後における大量の詰粉の排除、処分処理を要し、連続化による稼動性向上の障害となっている。
【0003】
特許文献1には、このような望ましくない現象の原因となる詰粉の充填を取り止めて黒鉛化工程の原価低減およびリードタイム短縮を行うことのできる黒鉛ブロックの製造方法として、少なくとも炭素材料骨材とバインダとを含有して形成された原ブロックを通電可能にして電極間に保持し、大気よりも酸素の少ない雰囲気中で、かつ前記原ブロックおよび電極の周囲に詰粉不存在の下で原ブロックに通電加熱を行って黒鉛化処理を行い、以って黒鉛ブロックを形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
黒鉛ブロックは、骨材であるコークスとバインダであるピッチを混錬したのち、適宜粉砕し、成形、焼成および黒鉛化のプロセスを経て製造される。特許文献1に記載された発明は、黒鉛化工程のみの原価低減、リードタイム短縮に関する発明であり、焼成以前の工程を含め、総合的に原価低減やリードタイムを短縮することが考慮されていない。
【0006】
本発明では、アチェソン炉を用いた黒鉛化(加熱)だけでなく、製造プロセス全体でリードタイム短縮、熱エネルギーのロス低減に貢献できる炭素系製品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための本発明の炭素系製品の製造方法は、以下の通りである。
【0008】
(1)原ブロックが一対の電極間に配置され、前記原ブロックの周囲を囲む詰粉が配置された詰粉領域と、さらに前記詰粉領域を囲む断熱層と、を有する加熱炉を準備し、
前記電極に電流を流し、前記原ブロックを加熱する加熱工程を含む炭素系製品の製造方法であって、
前記原ブロックは炭素質粒子と、前記炭素質粒子を互いに結合する炭素前駆体からなるバインダと、からなり、
前記詰粉領域は、
前記電極に電流を流す方向である通電方向に前記原ブロックと隣り合う第1の領域と、
前記通電方向の軸に沿って前記原ブロック及び前記第1の領域を囲む第2の領域と、
からなり、
前記加熱工程の初期段階において、ρ1>ρ2であり前記第1の領域よりも前記第2の領域の方が体積当たりの発熱量が大きいことを特徴とする炭素系製品の製造方法。
ρ1:原ブロックの固有抵抗
ρ2:詰粉領域の固有抵抗
【0009】
また、本発明の炭素系製品の製造方法は、以下の態様であることが好ましい。
【0010】
(2)前記原ブロックの前記加熱工程の過程でρ1<ρ2となり前記第2の領域よりも前記第1の領域の方が体積当たりの発熱量が大きい。
【0011】
(3)前記炭素系製品の水銀圧入法における累積細孔容積が全細孔容積の50%となる細孔径は、50~500μmである。
【0012】
(4)前記原ブロックは、前記炭素質粒子と前記バインダとが2次粒子を形成し、前記2次粒子の平均粒子径は50~1000μmである。
【0013】
(5)前記原ブロックは直方体であり最も長い方向を前記通電方向に向けて配置する。
【0014】
(6)前記記載の炭素系製品の製造方法は、
前記炭素質粒子と前記バインダとを混錬し、炭素前駆体を得る混錬工程と、
前記炭素前駆体を成形し前記原ブロックを得る成形工程と、
前記原ブロックを加熱する加熱工程と、からなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の、炭素系製品の製造方法によれば、加熱工程の初期段階において、ρ1>ρ2であるとき第1の領域よりも第2の領域の方が体積当たりの発熱量が大きくなり、第2の領域から原ブロックをゆっくり加熱することができる。
また、原ブロックが徐々に焼成されると、炭化によって原ブロックの導電性が高くなり、通常のアチェソン炉と同様にさらに高温の加熱工程(黒鉛化工程)に移行することができる。すなわち、焼成工程と黒鉛化工程を1つのプロセスで行うことができる。
このため焼成後に原ブロックを冷却する工程及び黒鉛化時の再加熱工程が不要になり、エネルギーのロスを削減することができる。また従来の焼成工程と、黒鉛化工程を1つのプロセスで実施することができるので、詰粉の詰め替え作業が不要にもなる。このため製造プロセス全体でリードタイムを短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態1の炭素系製品の製造方法に使用するアチェソン炉の内部の平面図である。
【
図2】
図2は、
図1の原ブロック周辺の一繰り返し単位の拡大図である。
【
図3】
図3(a)は、加熱工程の初期段階の電流の流れを示す説明図であり、
図3(b)は、加熱工程の終了段階の電流の流れを示す説明図である。
【
図4】
図4(a)は、
図2の原ブロックと原ブロック周辺の斜視図であり、
図4(b)は、通電方向に沿って見た断面図であり、
図4(c)は、通電方向の横側から見た断面図である。
【
図5】
図5は、
図2の原ブロック周辺の等価回路を示す回路図である。
【
図6】
図6(a)は、本発明の実施の形態1の炭素系製品の製造方法の工程を示すフロー図であり、
図6(b)は、従来の炭素系製品の製造方法の工程を示すフロー図である。
【
図7】
図7(a)は、本発明の実施の形態2の炭素系製品の製造方法に使用するアチェソン炉の内部の平面図であり、
図7(b)は、本発明の実施の形態3の炭素系製品の製造方法に使用するアチェソン炉の内部の平面図であり、
図7(c)は、本発明の実施の形態4の炭素系製品の製造方法に使用するアチェソン炉の内部の平面図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施の形態1における原ブロックの組織の断面図である。
【
図9】
図9は、本発明の実施の形態1における原ブロックの加熱温度と、固有抵抗の関係を示す散布図である。
【
図10】
図10は、実施例の炭素系製品の製造方法で実施したアチェソン炉の内部の斜視図である。
【
図11】
図11は、実施例で得られた炭素系製品の外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明において、炭素系製品とは、主に炭素からなる製品であれば特に限定されない。例えば、3000℃程度で加熱する黒鉛化工程を経た黒鉛質の製品のほか、1000℃程度で加熱し炭化する焼成工程を経た炭素質の製品、およびこの中間の温度域で熱処理された各種炭素系製品が含まれる。
【0018】
本発明において、原ブロックを構成する炭素質粒子は特に限定されない。ガラス状炭素となる樹脂系の炭素系粒子のほか、黒鉛化が進行しやすいコークス系の炭素系粒子、黒鉛の炭素系粒子などが利用できる。コークス系の炭素系粒子としては、ニードルコークス、石油系および石炭系のコークスなどが利用できる。また本発明において、液状あるいは加熱して軟化する有機材料であれば炭素前駆体からなるバインダとして利用することができる。バインダは、ピッチ、樹脂などが利用できる。炭素質粒子をバインダで結合することにより原材料を調整し、成形することによって原ブロックが得られる。
原ブロックは、炭素質粒子とバインダとが2次粒子を形成し、2次粒子の平均粒子径は50~1000μmであることが好ましい。2次粒子の平均粒子径が50μm以上であると、加熱工程で発生する熱分解ガスを速やかに原ブロックの外に排出でき、膨れや割れを防止することができる。2次粒子の平均粒子径が1000μm以下であると、2次粒子間の接続箇所を十分に確保できるので、強度が高く加熱工程で割れにくくすることができる。
2次粒子の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定器で測定することができる。
【0019】
原ブロックを本発明の加熱工程により加熱すると、有機成分が縮合し、低分子量の炭化水素、水分、硫黄含有成分、窒素含有成分が脱離して、炭素質または黒鉛質の製品が得られる。
以下、本発明について、実施の形態に基づいて説明する。
【0020】
《実施の形態1》
本発明の実施の形態1は、混錬工程、成形工程、加熱工程とからなる。工程フローを
図6(a)に示す。従来の炭素系製品の製造方法(
図6(b))では、混錬工程、成形工程、焼成工程、黒鉛化工程を経て炭素系製品が得られているのに対し、本実施の形態では、焼成工程、黒鉛化工程を加熱工程としてまとめて実施することができる。
【0021】
<混錬工程>
原ブロックは、石炭系のコークス粉と、石炭系のピッチを混錬して得た原材料を成形して得ることができる。ピッチは常温では固形であるので、加熱し溶融させてニーダーを用いてコークス粉と混錬することができる。
【0022】
使用するコークス粉の平均粒子径は、特に限定されないが、例えば5~500μmである。また、使用するコークス粉の種類は特に限定されないが、例えば、石油系コークス、石炭系コークス、ニードルコークスなどが利用できる。
【0023】
使用するピッチの軟化点は特に限定されない。例えば50~200℃の軟化点のピッチを使用することができる。ピッチの軟化点が200℃以下であると、混錬に必要な温度が低く混錬時の加熱によって生じる重縮合反応の速度を遅くすることができ、混錬を安定させることができる。また、軟化点が50℃以上であると、揮発成分が少ないので炭化歩留まりを高くすることができ、加熱工程後にバインダ成分が十分残り、強度の高い炭素系製品を得ることができる。
【0024】
混錬時の温度は、特に限定されないが、バインダであるピッチを溶融させるため、ピッチの軟化点より高いことが好ましい。例えば100℃以上が好ましく、150℃以上がさらに好ましい。混錬時の温度の上限は特に限定されないが、ピッチを過度に重縮合させないよう350℃以下が好ましく、300℃以下がさらに好ましい。
【0025】
混錬工程では、ニーダーがコークス粉とピッチを混錬することによって造粒作用が働く。混錬工程を進めるにつれ、ピッチ中の揮発分が抜けるとともに重縮合反応が進行し、結着力が増大し粒子が粗大化する(
図8)。
図8には、バインダ70と炭素質粒子80を模式的に示している。
混錬工程で造粒された粒子を次の成形工程でそのまま原材料として成形してもよいし、適宜粉砕して粒度調整して原材料として成形してもよい。
【0026】
<成形工程>
成形工程では、混錬工程で得られた原材料を成形して原ブロックを得ることができる。成形方法は特に限定されないが、型押し成形、CIP成形、押出成形などの方法で実施することができる。
【0027】
成形工程は、室温で成形する冷間成形でもよいが、原材料などを温めて成形する熱間成形でもよい。熱間成形の温度は、特に限定されないが70℃より高いことが好ましい。また、原材料の重縮合を過度に進行させないよう300℃以下が好ましく、250℃以下がさらに好ましい。熱間成形を行うことにより、原料の粘着性を高め、低い圧力で成形することができる。
【0028】
<加熱工程>
本実施の形態の加熱工程では、成形工程で得られた原ブロックを加熱炉に詰めて通電することにより、加熱することができる。加熱の温度は特に限定されないが、炭素系製品の用途に応じて適宜調整することができる。
本実施の形態の加熱工程では、加熱工程に先立ち、原ブロックが一対の電極間に配置され、原ブロックの周囲を囲む詰粉が配置された詰粉領域と、さらに詰粉領域を囲む断熱層と、を有する加熱炉を準備する。
【0029】
図1は、本発明の実施の形態1の炭素系製品の製造方法に使用するアチェソン炉の内部の平面図である。
加熱炉であるアチェソン炉100には、原ブロック10、詰粉20、断熱層30、電極40が配置されている。原ブロック10、詰粉20、断熱層30はアチェソン炉100の筐体50の内部に配置され、電極40は外部から通電するために筐体50から表面が露出している。詰粉20はその配置される領域によって第1の領域21と第2の領域22に区別される。
【0030】
図2は、
図1の原ブロック周辺の一繰り返し単位の拡大図である。
図2には、詰粉20に埋まった原ブロック10の一繰り返し単位を示している。詰粉領域の第1の領域21は、通電方向に原ブロック10と隣り合っている。第2の領域22は、通電方向の軸に沿って、原ブロック及び第1の領域を囲んでいる。通電方向に沿って見た断面図(
図4(b)の方向の断面図)において原ブロック10の断面積と、電極40の断面積は同等である。
【0031】
アチェソン炉100には、原ブロック10が一対の電極40間に配置され、原ブロック10の周囲を囲む詰粉20が配置された詰粉領域と、さらに詰粉領域を囲む断熱層30と、が配置され、電極40に電流を流すことにより原ブロック10を加熱することができる。
【0032】
図4(a)は、
図2の原ブロックと原ブロック周辺の斜視図であり、
図4(b)は、通電方向に沿って見た断面図であり、
図4(c)は、通電方向の横側から見た断面図である。
炭素質の詰粉は、適度な抵抗値を有しているので、電極から電流を流すことにより抵抗発熱させることができる。電極間の抵抗値は、詰粉と原ブロックの固有抵抗と配置から決定される。
【0033】
なお、原ブロックの固有抵抗は、焼成の進行とともに低下する。このため、原ブロックの固有抵抗の変化に合わせて電流が流れる部位が変わる。加熱工程の初期段階では、原ブロックの固有抵抗が高く、電流は主に第2の領域を流れる(
図3(a))。炉の温度が上昇し、原ブロックの炭化が進むにつれて、電流は原ブロック及び第1の領域を流れるようになる。(
図3(b))
なお、
図3(a)及び
図3(b)には、一対の電極40の間に原ブロック10を1つ示しており、第1の領域を流れる電流i
1、第2の領域を流れる電流i
2の量を模式的に矢印の太さで示している。
【0034】
図4(a)、
図4(b)、
図4(c)にそれぞれ示すように、通電方向に直交する原ブロック10の断面積をS
1、詰粉20の第2の領域22の断面積をS
2、通電方向に沿って、原ブロック10の長さをL
1、詰粉20の第1の領域21の長さをL
2、原ブロック10の固有抵抗をρ
1、詰粉20の固有抵抗をρ
2とする。詰粉20に埋まった原ブロック10の一繰り返し単位における第1の領域21の抵抗値をR
1、第2の領域22の抵抗値をR
2、原ブロック10の抵抗値をR
Bとする。
【0035】
図5は、
図2の原ブロック周辺の等価回路を示す回路図である。
R
1、R
2、R
Bを用いて一繰り返し単位の等価回路は、
図5のように設定した。なお、原ブロックと断熱層間に十分な距離があるので第1の領域及び原ブロックから第2の領域の間に流れる電流は無いものとして設定した。
等価回路の全抵抗R
totalは以下の通りである。
【数1】
また、全電流(i
1+i
2)に占めるi
1側の電流比、i
2側の電流比は、
【数2】
【数3】
となる。
また、各要素の抵抗、発熱量、体積当たりの発熱量は、以下の通りとなる。
【表1】
【0036】
第1の領域の体積(V
1)当たりの発熱量は、以下の通りである。
【数4】
ここで、(Aは正の数)
【数5】
とおくと、
【数6】
となる。
【0037】
第2の領域の体積(V
2)当たりの発熱量は、
【数7】
【数8】
となる。
【0038】
原ブロックの体積(V
B)当たりの発熱量は、
【数9】
【数10】
となる。
【0039】
また、第2の領域と、第1の領域の体積当たりの発熱量の差は、
【数11】
であり、ρ
1とρ
2の大きさで第2の領域と、第1の領域の体積当たりの発熱量の差の大小関係が決定される。
すなわち、ρ
1>ρ
2のとき、第1の領域よりも第2の領域の方が体積当たりの発熱量が大きくなり、第2の領域から原ブロックをゆっくり加熱することができる。
また、ρ
1<ρ
2のとき、第2の領域よりも第1の領域の方が体積当たりの発熱量が大きくなる。第1の領域は原ブロックに挟まれているので、熱が炉の外部に拡散しにくく、効率よく原ブロックを高温まで加熱することができる。
【0040】
本実施の形態の初期段階(原ブロックの焼成前)では、原ブロックの固有抵抗が圧倒的に大きく、
図3(a)のように第2の領域22を通過する電流が支配的であり、第2の領域22の詰粉20の抵抗によって発熱し、原ブロック10を少しずつ温めることができる。
【0041】
原ブロック10に詰粉20の熱が伝わり、原ブロック10の炭素化が進むにつれて原ブロック10の固有抵抗は、詰粉20の固有抵抗よりも低くなり、
図3(b)のように第1の領域21および原ブロック10を通過する電流が支配的となり、第1の領域21の詰粉20の抵抗によって発熱し、原ブロック10を加熱するようになる。この段階で通常黒鉛化を行うアチェソン炉と同様に加熱し炭素系製品を得ることができる。
【0042】
断熱層30は、特に限定されないが、耐熱性、断熱性が高く、同じ炭素質材料で不純物にも当たらないのでカーボンブラックを用いることが好ましい。
【0043】
加熱炉に配置される原ブロックは、1個でもよいが、複数個配置されていてもよい。電極と、原ブロックに挟まれた第1の領域及び複数の原ブロックに挟まれた第1の領域に炭素質の詰粉が配置されている。原ブロックの側面の断熱層との間である第2の領域には、第1の領域と同様に炭素質の詰粉が配置されている。
【0044】
アチェソン炉に通電するための電源は、電圧、電流ともに定格値がある。電圧は、1次電圧とトランスの巻き線比によって供給できる最大電圧が決定され、実際に加わる電圧は、電源や配線の内部抵抗を差し引きした電圧となる。定格電流は、一般に制御用の半導体の電流容量で決定される。
【0045】
アチェソン炉に最も大きなエネルギーを投入できるのは、電源の内部抵抗を差し引いた実際に電極間に加わる電圧と電流の積が最大値になったときであり、電極間の抵抗値が、[実際に電極間に加わる電圧]/[電流]となったときに電源の能力を最大に活用することができる。このため、高い温度に製品を加熱しようとする場合には、原ブロックの間隔を調整し、主に第1の領域の詰粉の厚みを調整することにより電極間の抵抗値の調整が行われる。
【0046】
炭素質の詰粉の平均粒子径は特に限定されないが、例えば1~20mmが好ましい。炭素質の詰粉の材質は特に限定されないが、コークス、黒鉛などが好ましい。黒鉛は、固有抵抗が低く、電気を流しやすく、原ブロック周囲に配置されることにより、発熱し加熱を促進することができる。黒鉛に代えてコークスを用いてもよい。コークスはアチェソン炉で加熱する際に黒鉛化が進行し、黒鉛になり、黒鉛の詰粉と同様に加熱を促進することができる。
断熱層に使用するカーボンブラックの平均粒子径は特に限定されないが、2~1000nmが好ましい。カーボンブラックは、極めて粒子径が小さいこと、球状で同心円状に結晶が配向し、粒子内では電気伝導性がよい一方、粒子間の抵抗は高くなることより、断熱層側ではほとんど電流が流れず、詰粉側に電流を集中させ、断熱層側の発熱を抑制することができる。
【0047】
本発明の炭素系製品の製造方法で得られた炭素系製品の水銀圧入法における累積細孔容積が全細孔容積の50%となる細孔径(Pore Diameter)は、50~500μmであることが好ましい。
炭素系製品の水銀圧入法における累積細孔容積が全細孔容積の50%となる細孔径が、50μm以上であると、加熱工程で発生する分解ガスを速やかに原ブロックの外に排出できるので、膨れや割れのない炭素系製品を得ることができる。炭素系製品の水銀圧入法における累積細孔容積が全細孔容積の50%となる細孔径が、500μm以下であると、2次粒子間の接続箇所を十分に確保できるので、強度が高く加熱工程で割れにくくすることができる。なお、水銀圧入法では水銀の加圧圧力7kPa~220MPaの範囲で測定を行う。加圧圧力7kPaは細孔径211μm、220MPaは6.8nmに相当する。
【0048】
《実施の形態2》
図7(a)は、本発明の実施の形態2の炭素系製品の製造方法に使用するアチェソン炉の内部の平面図である。
実施の形態2では、実施の形態1の加熱工程において、原ブロック10よりも大きな断面積の大きな電極40を配置している。
原ブロックよりも断面積の大きな電極を配置しているので、第2の領域にも偏ることなく電流を送ることができ、局部発熱などが起きにくく加熱工程で原ブロックを割れにくくすることができる。
【0049】
《実施の形態3》
図7(b)は、本発明の実施の形態3の炭素系製品の製造方法に使用するアチェソン炉の内部の平面図である。
実施の形態3では、実施の形態1の加熱工程において、電極40と原ブロック10との間に通電方向に直交する原ブロック10より断面積の大きな黒鉛からなるダミー電極60を配置している。
原ブロックよりも断面積の大きなダミー電極を配置しているので、第2の領域にも偏ることなく電流を送ることができ、局部発熱などが起きにくく加熱工程で原ブロックを割れにくくすることができる。
また、さらに電極のサイズを小さくすることができるので、電極を通して炉の外部に拡散する熱を少なくすることができる。
【0050】
《実施の形態4》
図7(c)は、本発明の実施の形態4の炭素系製品の製造方法に使用するアチェソン炉の内部の平面図である。
実施の形態4では、直方体の原ブロック10を使用し、直方体の最も長い方向を通電方向に複数列配置している。この形態であると、加熱工程の初期段階において、熱を受ける面積が大きくなり、第2の領域から効率よく熱を受けることができ、初期段階の割れを防止することができる。なお、ここで、原ブロック10に挟まれ通電方向に挟まれた詰粉領域は、第2の領域22となる。このため、複数配列された原ブロック10を厚さ方向の両面から加熱できるため、内部の温度差を緩和でき割れにくくすることができる。
【0051】
本明細書には以下の事項が開示されている。
【0052】
本開示(1)は、原ブロックが一対の電極間に配置され、前記原ブロックの周囲を囲む詰粉が配置された詰粉領域と、さらに前記詰粉領域を囲む断熱層と、を有する加熱炉を準備し、
前記電極に電流を流し、前記原ブロックを加熱する加熱工程を含む炭素系製品の製造方法であって、
前記原ブロックは炭素質粒子と、前記炭素質粒子を互いに結合する炭素前駆体からなるバインダと、からなり、
前記詰粉領域は、
前記電極に電流を流す方向である通電方向に前記原ブロックと隣り合う第1の領域と、
前記通電方向の軸に沿って前記原ブロック及び前記第1の領域を囲む第2の領域と、
からなり、
前記加熱工程の初期段階において、ρ1>ρ2であり前記第1の領域よりも前記第2の領域の方が体積当たりの発熱量が大きいことを特徴とする炭素系製品の製造方法である。
ρ1:原ブロックの固有抵抗
ρ2:詰粉領域の固有抵抗
【0053】
本開示(2)は、前記原ブロックの前記加熱工程の過程でρ1<ρ2となり前記第2の領域よりも前記第1の領域の方が体積当たりの発熱量が大きくなることを特徴とする本開示(1)に記載の炭素系製品の製造方法である。
【0054】
本開示(3)は、前記炭素系製品の水銀圧入法における累積細孔容積が全細孔容積の50%となる細孔径は、50~500μmであることを特徴とする本開示(1)又は(2)に記載の炭素系製品の製造方法である。
【0055】
本開示(4)は、前記原ブロックは、前記炭素質粒子と前記バインダとが2次粒子を形成し、前記2次粒子の平均粒子径は50~1000μmであることを特徴とする本開示(1)~(3)のいずれかに記載の炭素系製品の製造方法である。
【0056】
本開示(5)は、前記原ブロックは直方体であり最も長い方向を前記通電方向に向けて配置することを特徴とする本開示(1)~(4)のいずれかに記載の炭素系製品の製造方法である。
【0057】
本開示(6)は、前記記載の炭素系製品の製造方法は、
前記炭素質粒子と前記バインダとを混錬し、炭素前駆体を得る混錬工程と、
前記炭素前駆体を成形し前記原ブロックを得る成形工程と、
前記原ブロックを加熱する請求項1又は2に記載の加熱工程と、
からなることを特徴とする本開示(1)~(5)のいずれかに記載の炭素系製品の製造方法である。
【実施例0058】
《混錬工程》
平均粒子径350μmの石炭系コークス75重量部と、軟化点130℃のピッチ25重量部とを270℃に加熱しニーダーを用いて混錬した。混錬とともに粒状に造粒された炭素前駆体を調整した。造粒された粒子の平均粒子径は200μmであった。
【0059】
《成形工程》
混錬工程で得られた炭素前駆体を加熱された金型に充填し、プレス成形して原ブロックを得た。金型の開口部のサイズは、610mm×320mm、金型の温度は100℃、プレス成形の面圧は、1MPaであった。なお混錬工程と成形工程は連続して行ったので、炭素前駆体は温かいまま使用し、成形に際して再加熱することはなかった。
得られた原ブロックのサイズは、610mm×320mm×80mm、重量は、20kgであった。
【0060】
《加熱工程》
図10は、実施例の炭素系製品の製造方法で実施したアチェソン炉の内部の斜視図である。
原ブロック4個をアチェソン炉に詰め、並べた原ブロックの両端に配置された電極から通電することにより、原ブロックを加熱した。なお、原ブロックは厚み方向に積層し電極間に並べられた。原ブロックと電極の間には、電流に偏りが生じないように原ブロックとの間にダミー電極を2枚(両側で4枚)配置した。この場合、サイズの小さな電極を使用できるので、電極を通して拡散する熱を少なくでき熱効率を向上できる。
詰粉領域の断面は、幅800mm、高さ750mm、原ブロックの断面は幅320mm、高さ610mmであり、原ブロックの断面積S
1は0.195m
2、詰粉領域の断面積S
2は0.6m
2であった。
電極と原ブロックの間及び原ブロック間の間隔は70mm(0.07m)であった。通電方向の繰り返し単位の長さは0.15m(150mm)、原ブロックの長さは、0.08m(80mm)である。
また、ダミー電極は、400mm×400mm×100mmであり、原ブロックの上側210mmだけはみ出す位置関係で炉詰めされた(
図10参照)。
詰粉の固有抵抗ρ
2は0.002Ωmであった。別途測定した原ブロックの熱履歴に対する固有抵抗ρ
1を
図9に示す。加熱前(混錬時の熱履歴のみ)は5Ωm、700℃では360μΩm、900℃では100μΩm、2500℃では15μΩmであった。原ブロックの固有抵抗をもとに、各温度域の各要素の抵抗値を算出した。
【0061】
【表2】
さらに、各温度域の全電流に対する電流比を算出した。
【0062】
【表3】
各電流比と、抵抗値に基づいて、各抵抗要素の発熱量を算出した。なお電流比を用いているので、電流値は無次元化されている。
【0063】
各抵抗要素の抵抗値に無次元化された電流値の二乗を乗じ、発熱量を算出した。実際の発熱量は、各数値と電流(i
1+i
2)
2との積が実際の発熱量となる。
【表4】
さらに、各温度域の各抵抗要素の発熱量比を算出した。
【0064】
【表5】
各温度域の各抵抗要素の体積当たりの発熱量を算出した。
【0065】
【表6】
加熱前には、第2の領域の体積当たりの発熱量が大きく、第2の領域から原ブロックを加熱する。700℃までに原ブロックの焼成が進み、固有抵抗ρ
1が減少する。原ブロックの固有抵抗ρ
1の減少に伴って、体積当たりの発熱量は、第1の領域の方が大きくなり、通常の抵抗加熱によるアチェソン炉の通電に移行することができる。
【0066】
本実施例では、1230℃で加熱工程を終了した。
図11は、実施例で得られた炭素系製品の外観写真である。得られた炭素系製品は、焼成が行われていた。炭素系製品は、ダミー電極と対向する部分、はみ出す部分があり、
境界部分でクラックが確認された。ダミー電極から一様な電流が流れている部分においては、割れることなく焼成できていることが確認できた。
【0067】
得られた炭素系製品を、水銀圧入法で気孔分布を測定した。累積細孔容積が全細孔容積の50%となる細孔径は、76μmであった。
かさ密度は、1.23g/cm3、固有抵抗は97μΩmであった。
本実施例の原ブロックは、十分な大きさの気孔を有しているので、アチェソン炉を用いて初期段階を第2の領域の詰粉の抵抗加熱を用いて加熱しても、分解ガスが容易に拡散され、加熱処理を行うことができた。