(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139099
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】イオンビーム照射方法及びイオンビーム照射装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/317 20060101AFI20241002BHJP
【FI】
H01J37/317 B
H01J37/317 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049894
(22)【出願日】2023-03-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2021年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「省エネエレクトロニクスの製造基盤強化に向けた技術開発事業/半導体製造装置の高度化に向けた開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】302054866
【氏名又は名称】日新イオン機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(74)【代理人】
【識別番号】100227673
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 光起
(72)【発明者】
【氏名】内田 裕也
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 裕章
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA25
5C101BB01
5C101CC02
5C101EE22
5C101EE25
5C101EE48
5C101FF02
5C101FF36
5C101FF56
5C101GG13
5C101GG15
5C101GG33
(57)【要約】
【課題】低エネルギーのイオンビームを使用したいという要望に応えつつも、ウェハ等の被処理物へのパーティクルの付着を低減する。
【解決手段】被処理物WにイオンビームIBを照射する処理ステップS3と、処理ステップS3よりも前に、被処理物Wを照射位置Pから退避させた状態において、その照射位置Pの後方にある後方部材ZにイオンビームIBを照射する先行照射ステップS1と、後方部材Zの手前で回収用部材Xを走査させることで、後方部材ZにイオンビームIBが照射されることにより生じるパーティクルを回収する回収ステップS2と、を備えるようにした。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物にイオンビームを照射する処理ステップと、
前記処理ステップよりも前に、前記被処理物を照射位置から退避させた状態において、その照射位置の後方にある後方部材にイオンビームを照射する先行照射ステップと、
前記後方部材の手前で回収用部材を走査させることで、前記後方部材にイオンビームが照射されることにより生じるパーティクルを回収する回収ステップと、を備えることを特徴とする、イオンビーム照射方法。
【請求項2】
前記先行照射ステップにおいて前記後方部材に照射されるイオンビームの照射エネルギーは前記処理ステップにおいて照射されるイオンビームの照射エネルギー以上である請求項1に記載のイオンビーム照射方法。
【請求項3】
イオンビームに含まれるイオン種の質量と、該イオンビームの照射エネルギーとを乗じた値を前記イオンビームの照射指標値とする場合に、
前記先行照射ステップにおいて前記後方部材に照射するイオンビームの前記照射指標値が、前記処理ステップにおいて前記被処理物に照射する前記照射指標値以上であることを特徴とする請求項1記載のイオンビーム照射方法。
【請求項4】
前記処理ステップにおいて前記被処理物に照射されるイオンビームの照射エネルギーが20keV以下であることを特徴とする請求項1記載のイオンビーム照射方法。
【請求項5】
前記先行照射ステップにおいて、前記後方部材にイオンビームを加速させる加速電圧を印加することを特徴とする請求項1記載のイオンビーム照射方法。
【請求項6】
前記回収用部材が、前記被処理物とは異種のものであることを特徴とする請求項1記載のイオンビーム照射方法。
【請求項7】
前記回収ステップにおいて、前記回収用部材を走査方向に対して傾けることを特徴とする請求項1記載のイオンビーム照射方法。
【請求項8】
前記先行照射ステップにおいて、前記後方部材の前記イオンビームに照射される領域が変更可能であることを特徴とする請求項1記載のイオンビーム照射方法。
【請求項9】
被処理物にイオンビームを照射する処理ステップを実行するイオンビーム照射装置であって、
前記処理ステップよりも前に、前記被処理物を照射位置から退避させた状態において、その照射位置の後方にある後方部材にイオンビームを照射し、
前記後方部材の手前で回収用部材を走査させることで、前記後方部材にイオンビームが照射されることにより生じるパーティクルを回収するように構成されていることを特徴とするイオンビーム照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、イオンビーム照射方法及びイオンビーム照射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イオンビーム照射装置(例えば、特許文献1)を用いてウェハにイオンビームを照射する場合、その照射処理を始める前にビーム電流を測定することがある。
【0003】
この際、ウェハはイオンビームが照射される照射位置から退避されており、イオンビームは、照射位置の後方にある部材(以下、後方部材ともいう)に照射されることになる。なお、後方部材は、処理室の内壁であってもよく、安全にビームを遮蔽するためのビームダンプ等であってもよい。
【0004】
従来、この後方部材は堆積物が溜まりにくい箇所であった。これは、イオン源から生成されたイオンビームが通過するビームラインの中で、後方部材がイオン源から最も離れた場所に位置していることから、イオンビームの原料となるガス(BF3ガスやPH3ガス等)が後方部材の表面でそもそも凝縮されにくく、かつ、イオンビームによって運ばれてきたパーティクルが後方部材に付着しても、イオンビームの照射エネルギーが比較的高いことから、続いて照射されるイオンビームによってすぐに後方部材からはじき出されていたことによるものと考えられる。また、このようにはじき出されたパーティクルは、処理室の内壁や処理室内に配置されたウェハ走査機構、またはウェハ表面に付着することになる。
【0005】
近年では材料改質を目的として、従来と比べて照射エネルギーが低いイオンビームをウェハに照射したいという要望が増えてきている。ここでいう低エネルギーとは具体的には20keV以下のエネルギーを指す。
【0006】
そして、この照射エネルギーが低いイオンビームが長時間後方部材に照射されることで、照射された領域に多量の堆積物が生成されることが観測された。この堆積物は低エネルギーイオンによって生成された薄膜や、イオンビームのビームポテンシャルによって運ばれてきたビームライン中の材質であると考えられる。観測された堆積物は、これらの物質が後方部材に付着した後、イオンビームの照射エネルギーが低いために、続いて照射されるイオンビームによってはじき出されることなく、堆積していったことによるものと考えられる。
【0007】
そして、あるタイミングで後方部材に照射されたイオンビームによって後方部材の堆積物からパーティクルがはじき出されると、後方部材の手前でこのパーティクルが多量に浮遊することになる。このタイミングとは、例えば、エネルギーの異なるイオンビームに切り替えた後や、同一エネルギーのイオンビームであっても堆積物が剥離しやすくなったときにイオンビームが照射された場合である。
【0008】
その後、ウェハの処理を開始すると、パーティクルが浮遊する空間を処理ウェハが通り抜けることになり、静電気力やファンデルワールス力によって表面にパーティクルが付着することになる。
【0009】
なお、こうしたパーティクルの浮遊は、上述したビーム電流の測定時のみならず、イオンビームの照射エネルギーを低くする場合において共通して生じ得るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで本発明は、上述した問題を解決するべくなされたものであり、イオンビームの照射エネルギーを低くしたいという要望に応えつつも、ウェハ等の被処理物へのパーティクルの付着を低減することをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明に係るイオンビーム照射方法は、被処理物にイオンビームを照射する処理ステップと、前記処理ステップよりも前に、前記被処理物を照射位置から退避させた状態において、その照射位置の後方にある部材(以下、後方部材という)にイオンビームを照射する先行照射ステップと、前記後方部材の手前で回収用部材を走査させることで、前記後方部材にイオンビームが照射されることにより生じるパーティクルを回収する回収ステップと、を備えることを特徴とする方法である。
【0013】
このような方法によれば、先行照射ステップにおいて後方部材からパーティクルをはじき出し、回収ステップにおいて後方部材の手前に浮遊するパーティクルを回収するので、イオンビームの照射エネルギーを低くしたいという要望に応えつつも、処理ステップにおける被処理物へのパーティクルの付着を低減することができる。
【0014】
ところで、先行照射ステップにおける照射エネルギーが低すぎるとはじき出されたパーティクルが回収基板を走査する領域まで到達せずに、パーティクルを十分に回収することができないことが想定される。
そこで、前記先行照射ステップにおいて前記後方部材に照射されるイオンビームの照射エネルギーは、前記処理ステップにおいて照射されるイオンビームの照射エネルギー以上であることが好ましい。
これならば、先行照射ステップにおいて、より多くのパーティクルをはじき出して回収することができる。
【0015】
また、イオンビームに含まれるイオン種の質量と、該イオンビームの照射エネルギーとを乗じた値を前記イオンビームの照射指標値とすると、この照射指標値が高いほど、パーティクルはより遠くにはじき出される。
そこで、前記先行照射ステップにおいて前記後方部材に照射するイオンビームの前記照射指標値が、前記処理ステップにおいて前記被処理物に照射する前記照射指標値以上であることが好ましい。
これならば、先行照射ステップにおいて、パーティクルを例えばビーム電流の測定時と同等又はそれ以上遠くにはじき出すことができるので、処理ステップで付着し得るパーティクルの多くを回収することができる。
【0016】
本願発明の作用効果がより顕著に発揮される実施態様としては、前記処理ステップにおいて前記被処理物に照射されるイオンビームの照射エネルギーが20keV以下である態様を挙げることができる。
これならば、イオンビームの照射エネルギーを低くしたいという要望をかなえつつ、被処理物へのパーティクルの付着を低減することができる。
【0017】
前記先行照射ステップにおいて、前記後方部材にイオンビームを加速させる加速電圧を印加することが好ましい。
これならば、イオン源側の設定を変えることなく、後方部材に照射されるイオンビームの照射エネルギーを大きくすることができるので、作業性の向上を図れる。
【0018】
回収用部材として安価なものを用いるための実施態様としては、前記回収用部材が、前記被処理物とは異種のものである態様を挙げることができる。
【0019】
前記回収ステップにおいて、前記回収用部材を走査方向に対して傾けることが好ましい。
これならば、回収用部材が一度の走査で通過する領域を大きくなり、一度の走査でより多くのパーティクルを回収することができるので、パーティクルの回収効率の向上を図れる。
【0020】
ところで、低エネルギーで大電流のイオンビームでは空間電荷効果によってイオンビームは広がりやすくウェハ面より下流の後方部材に照射される面積は大きくなる。一方で照射エネルギーが大きくなるにつれ、イオンビームは絞られ、後方部材に照射される領域が狭くなり、パーティクルがはじき出される領域が限られてしまう。
【0021】
そこで、前記先行照射ステップにおいて、前記後方部材の前記イオンビームに照射される領域が変更可能であることが好ましい。
これならば、後方部材のより広い領域に照射エネルギーの大きいイオンビームを照射することができ、より多くのパーティクルを回収することができる。
【0022】
本発明に係るイオンビーム照射装置は、被処理物にイオンビームを照射する処理ステップを実行するものであって、前記処理ステップよりも前に、前記被処理物を照射位置から退避させた状態において、その照射位置の後方にある部材(以下、後方部材という)にイオンビームを照射し、前記後方部材の手前で回収用部材を走査させることで、前記後方部材にイオンビームが照射されることにより生じるパーティクルを回収するように構成されていることを特徴とするものである。
【0023】
このような装置であれば、上述したイオンビーム照射方法と同様の作用効果を奏し得る。
【発明の効果】
【0024】
このように構成した本発明によれば、イオンビームの照射エネルギーを低くしたいという要望に応えつつも、被処理物へのパーティクルの付着を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】一実施形態におけるイオンビーム照射装置の全体構成を示す模式図。
【
図3】同実施形態のイオンビーム照射方法のフロー図。
【
図4】同実施形態の先行照射ステップを説明するための模式図。
【
図5】同実施形態の回収ステップを説明するための模式図。
【
図6】その他の実施形態における先行照射ステップを説明するための模式図。
【
図7】その他の実施形態における回収ステップを説明するための模式図。
【
図8】その他の実施形態における回収ステップを説明するための模式図。
【
図9】その他の実施形態における先行照射ステップを説明するための模式図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に係るイオンビーム照射方法及びイオンビーム照射装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0027】
本実施形態のイオンビーム照射装置は、例えば、半導体製造工程で使用され、ウェハ等の被処理物にイオンビームを照射して、その被処理物の表面改質などをするために用いられるものである。なお、イオンビーム照射装置の用途は表面改質に限らず、例えばエッチングなどであっても構わない。
【0028】
このイオンビーム照射装置100は、
図1に示すように、イオンビームIBを発生させるイオン源1と、イオン源1から引き出されたイオンビームIBを質量分析する質量分析器2と、被処理物WにイオンビームIBを照射する処理室3とを備える。
【0029】
より具体的に説明すると、イオンビーム照射装置100は、
図2に示すように、処理室3内に設けられて被処理物Wを保持する基板ホルダ4と、基板ホルダ4を走査する走査機構5とを備えている。
【0030】
かかる構成において、被処理物WにイオンビームIBを照射する処理ステップでは、イオンビームIBが照射される位置である照射位置P(
図1における被処理物Wの位置)を被処理物Wが複数回通過するように、走査機構5が基板ホルダ4を走査する。
【0031】
本実施形態では、
図2に示すように、イオンビームIBは、例えば断面が鉛直方向の上下に延びる長尺状をなすものであり、走査機構5による基板ホルダ4の走査方向は、イオンビームIB断面の長手方向とイオンビームIBの進行方向との双方に直交する方向である。
【0032】
本実施形態のイオンビーム照射装置100は、処理ステップにおいて、低エネルギーのイオンビームIBを被処理物Wに照射するように構成されており、具体的には、照射エネルギーが20keV以下のイオンビームIBを被処理物Wに照射するものである。なお、照射エネルギーとは、被処理物Wに照射される際のイオンビームIBのエネルギーである。
【0033】
このように低エネルギーのイオンビームIBを用いることにより、背景技術においても説明した通り、照射位置Pの後方にある部材(以下、後方部材Zともいう)の手前にパーティクルが浮遊する問題が生じる。なお、ここでいう手前とは、イオンビームIBの進行方向における上流側である。また、後方部材Zの一例としては、処理室の壁面、ファラデーカップ等のビーム電流を測定するための測定機器、又は、イオンビームIBを安全に遮蔽するためのビームダンプ等の部材などを挙げることができる。
【0034】
従来、後方部材Zに堆積物が溜まりにくかった理由のひとつとしては、照射エネルギーの高いイオンビームが照射されることで後方部材の温度が上昇して、後方部材とパーティクルとの結合力が弱まってパーティクルがはじき出されていた可能性も考えられる。従来の照射エネルギーの高いイオンビームが後方部材に照射された場合には、後方部材の表面温度が比較的高温になるため、分子の熱運動エネルギーが大きくなり、後方部材表面にパーティクルがそもそも凝集しにくかったとも考えられる。これに対し、20keV以下の低エネルギーのイオンビームが後方部材に照射された場合には、後方部材の表面温度が従来ほど高温にはならず、その結果、後方部材にパーティクルが付着しやすくなったこともパーティクルが堆積しやすくなった要因の1つと考えられる。
【0035】
そこで、本実施形態のイオンビーム照射装置100は、
図3に示すように、上述した処理ステップS3の前に、先行照射ステップS1と、回収ステップS2とを実行できるように構成されている。なお、先行照射ステップS1、回収ステップS2、及び、処理ステップS3は、図示しない制御装置が自動的に進めても良いし、オペレータが手動で切り替えながら進めても良い。
【0036】
まず、先行照射ステップS1について説明する。
先行照射ステップS1は、
図4に示すように、処理ステップS3よりも前に、被処理物Wを照射位置Pから退避させた状態において、その照射位置Pの後方にある後方部材ZにイオンビームIBを照射する工程である。なお、この先行照射ステップS1においては、被処理物Wは基板ホルダ4にも載置されておらず、例えば処理室3に隣接する待機室などに収容されている。
【0037】
この先行照射ステップS1は、後方部材ZにイオンビームIBを照射することにより、後方部材Zからパーティクルをはじき出す工程ともいうことができ、言い換えれば、パーティクルをはじき出すことのできる程度の大きさの照射エネルギーを有するイオンビームIBを後方部材Zに照射する工程である。
【0038】
具体的には、先行照射ステップS1において後方部材Zに照射されるイオンビームIBの照射エネルギーは、処理ステップS3において後方部材Zに照射されるイオンビームIBの照射エネルギー以上である。
ただし、先行照射ステップS1における照射エネルギーが高すぎる場合、後方部材Zへイオンが入り込む現象(イオン注入のような現象)がメインになるので、このことに鑑みれば、先行照射ステップS1において後方部材Zに照射されるイオンビームIBの照射エネルギーは、イオンビームIBに含まれるイオン種等に応じて適宜設定されることが好ましい。
【0039】
本実施形態では、先行照射ステップS1と処理ステップS3とで、イオンビームIBに含まれるイオン種は変えることなく、例えばイオン源1を構成する引出電極に印加する電圧を変更することにより、先行照射ステップS1にいて後方部材Zに照射される照射エネルギーを、処理ステップS3にいて後方部材Zに照射される照射エネルギーよりも大きくしている。
【0040】
ただし、先行照射ステップS1と処理ステップS3とで、イオンビームIBに含まれるイオン種は異なっていても良い。
【0041】
また、先行照射ステップS1のイオンビームIBに含まれるイオン種と処理ステップS3のイオンビームIBに含まれるイオン種とが等しくてもよく、先行照射ステップS1において後方部材Zに照射されるイオンビームIBの照射エネルギーが、処理ステップS3において後方部材Zに照射されるイオンビームIBの照射エネルギーと等しくても良い。
この場合は、先行照射ステップS1において、上述したファラデーカップ等の測定機器によりイオンビームIBのビーム電流を測定しても良い。
【0042】
次に、回収ステップS2について説明する。
回収ステップS2は、
図5に示すように、後方部材Zの手前で回収用部材Xを走査させることで、後方部材ZにイオンビームIBが照射されることにより生じるパーティクルを回収する工程である。なお、回収ステップS2においては、イオン源1からイオンビームIBが引き出されていても良いし、イオン源1を停止させていても良い。
【0043】
回収用部材Xとしては、被処理物Wとは異種のものであり、具体的には、材質、大きさ、又は、形状の少なくとも1つが被処理物Wと異なる例えば平板状のものである。ただし、回収用部材Xとして、被処理物Wと同種のもの、すなわち材質、大きさ、及び、形状が同じものを用いても構わない。
【0044】
この回収ステップS2は、上述した先行照射ステップS1の後に始まり、処理ステップS3より前に終わる工程であり、本実施形態では、被処理物Wとは別の回収用部材Xを基板ホルダ4に保持させるとともに、その基板ホルダ4を走査機構5により走査することにより行われる。
【0045】
つまり、本実施形態の回収ステップS2において、回収用部材Xは、処理ステップS3における被処理物Wの走査経路に沿って走査されることとなり、上述した照射位置Pを1又は複数回通過する。なお、回収用部材Xの走査距離は、被処理物Wの走査距離と等しくても良いし、被処理物Wの走査距離よりも長く或いは短くしても良い。
【0046】
具体的にこの回収用部材Xの走査方向は、被処理物Wの走査方向と同様、イオンビームIBの長手方向と進行方向との双方に直交する方向であり、回収用部材Xは、表面及び裏面が走査方向と平行な状態で走査される。
【0047】
上述した回収ステップS2において、後方部材Zの手前に浮遊するパーティクルは、回収用部材Xの表面及び裏面に付着する。
【0048】
この回収ステップS2が終了した後、本実施形態では、処理ステップS3で用いられるイオンビームIBのビーム電流を測定する測定ステップ(不図示)を行い、その測定値が所定条件を満たした場合に、上述した処理ステップS3が開始される。なお、上述したように、先行照射ステップS1においてビーム電流が測定されていれば、ここでの測定ステップは省略しても構わない。
【0049】
このようなイオンビーム照射方法によれば、先行照射ステップS1において後方部材Zからパーティクルをはじき出し、回収ステップS2において後方部材Zの手前に浮遊するパーティクルを回収するので、イオンビームIBの照射エネルギーを低くしたいという要望に応えつつも、処理ステップS3における被処理物Wへのパーティクルの付着を低減することができる。
【0050】
また、先行照射ステップS1において後方部材Zに照射されるイオンビームIBの照射エネルギーが、処理ステップS3において後方部材Zに照射されるイオンビームIBの照射エネルギー以上であるので、先行照射ステップS1において、例えばビーム電流の測定時と同等又はそれ以上遠くにパーティクルをはじき出すことができ、処理ステップS3で付着し得るパーティクルの多くを回収することができる。
【0051】
なお、先行照射ステップS1においては、処理ステップS3よりも高い照射エネルギーのイオンビームが後方部材Zに照射されることで、後方部材Zの温度が上昇し、後方部材Zとパーティクルの結合力が弱まってパーティクルがはじき出されやすくなっている可能性がある。
【0052】
さらに、回収用部材Xが被処理物Wとは異種のものであるので、回収用部材Xとして安価なものを用いることができる。
【0053】
なお、本願発明は、前記実施形態に限られるものではない。
【0054】
例えば、先行照射ステップS1において、
図6に示すように、後方部材ZにイオンビームIBを加速させる加速電圧を印加しても良い。より具体的な態様としては、イオンビームIBに含まれるイオンが陽イオンであれば、後方部材Zに負電圧をかけることにより、照射位置Pを通過する回収用部材Xと後方部材Zとの間に例えば10kV程度の電位差を生じさせる態様を挙げることができる。
これならば、後方部材Zの手前でイオンビームIBを加速させることができるので、イオン源1側の設定を変えることなく、後方部材Zに照射されるイオンビームIBの照射エネルギーを大きくすることができ、イオン源1側の例えば印加電圧を変えるときよりも作業性の向上を図れる。
【0055】
また、
図7に示すように、回収ステップS2において、回収用部材Xを走査方向に対して傾けてもよい。
これならば、回収用部材Xが一度の走査で通過する領域を大きくなり、一度の走査でより多くのパーティクルを回収することができるので、パーティクルの回収効率の向上を図れる。
【0056】
さらに、回収用部材Xとしては、平板状のものに限らず、ブロック体形状などのものを用いて、パーティクルを付着させる表面積の拡大を図って良い。
【0057】
また、前記実施形態では、被処理物Wを走査する走査機構5を用いて回収用部材Xを走査していたが、
図8に示すように、走査機構5とは別の第2の走査機構Cを用いて回収用部材Xを走査しても良い。
これならば、回収用部材Xの走査経路を被処理物Wの走査経路とは別に設定することができるので、回収用部材Xを所望の位置に通過させることができる。
【0058】
ところで、先行照射ステップS1においては、パーティクルをはじき出すべく、照射エネルギーが大きいほど好ましい。(ただし大きすぎてもいけない。パーティクルがはじきだされる程度の大きさであることは必要。)
一方で、照射エネルギーが大きいほど、イオンビームIBが絞られてしまい、後方部材Zに照射される領域が狭くなる。
【0059】
そこで、先行照射ステップS1において、
図9に示すように、例えば、イオンビームIBを後方部材Zの表面上で走査方向に振るようにして、後方部材ZのイオンビームIBに照射される領域が変更可能にしてもよい。
具体的には、例えば質量分析器2を調整して、イオンビームIBを後方部材Zの表面上で被処理物Wの走査方向に沿って往復移動させても良い。また、イオンビーム照射装置100がイオンビームIBを走査させる走査機構を備えている場合には、当該走査機構を用いて、イオンビームIBを後方部材Zの表面上で被処理物Wの走査方向に沿って走査させても良い。または、質量分析器2と処理室3の間にビーム偏向器を設けることによってイオンビームIB走査してもよい。
これならば、後方部材Zの広範囲に照射エネルギーの大きいイオンビームIBを照射することができ、より多くのパーティクルを回収することができる。
【0060】
ところで、イオンビームIBの照射エネルギーが同じ場合、そのイオンビームIBに含まれるイオン種の質量が大きいほど、そのイオン種は、運動量が大きくなり、且つ、後方部材Zの表面に注入されにくくなるところ、後方部材Zの表面の物質との相互作用しやすくなる。従って、イオンビームIBに含まれるイオン種の質量が大きいほど、パーティクル除去としての効果が高まると推測される。
そこで、本発明に係るイオンビーム照射方法としては、イオンビームに含まれるイオン種の質量と、該イオンビームの照射エネルギーとを乗じた値をイオンビームの照射指標値とする場合に、先行照射ステップS1において後方部材Zに照射するイオンビームの照射指標値が、処理ステップS3において被処理物Wに照射する照射指標値以上であっても良い。
【0061】
また、先行照射ステップS1において、イオンビームIBの照射エネルギーを段階的又は連続的に変えても良い。
【0062】
さらに、回収ステップS2において、複数枚の回収用部材Xを用いてパーティクルを回収しても良い。
【0063】
そのうえ、先行照射ステップS1及び回収ステップS2を複数回繰り返した後に処理ステップS3に進んでも良い。
なお、回収ステップS2におけるウェハ走査速度は処理速度と異なってもよい。また、回収ステップS2におけるウェハ走査領域は処理ステップS3と異なってもよい。
【0064】
加えて、イオンビーム照射装置100の運転終了前に、先行照射ステップS1及び回収ステップS2を実行しても良い。この場合、これらのステップ直後に処理ステップS3が行われなくても、処理室3内に浮遊するパーティクルを回収しておくことができるので、次回の本装置100の運転時の処理ステップS3における被処理物Wへのパーティクルの付着を低減することができる。
【符号の説明】
【0065】
100・・・イオンビーム照射装置
W ・・・被処理物
IB ・・・イオンビーム
1 ・・・イオン源
2 ・・・質量分析器
3 ・・・処理室
4 ・・・基板ホルダ
5 ・・・走査機構
Z ・・・後方部材
X ・・・回収用部材
S1 ・・・先行照射ステップ
S2 ・・・回収ステップ
S3 ・・・処理ステップ