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特開2024-139101六価クロム固定化剤及びそれを含む地盤改良材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139101
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】六価クロム固定化剤及びそれを含む地盤改良材
(51)【国際特許分類】
   C09K 17/06 20060101AFI20241002BHJP
   C09K 17/10 20060101ALI20241002BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20241002BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20241002BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20241002BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20241002BHJP
   E02D 3/12 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
C09K17/06 P
C09K17/10 P
C09K3/00 S
C04B28/02
C04B22/14 Z
C04B18/14 A
E02D3/12 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049897
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【弁理士】
【氏名又は名称】村地 俊弥
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 翔
(72)【発明者】
【氏名】森 喜彦
(72)【発明者】
【氏名】野崎 隆人
(72)【発明者】
【氏名】早川 隆之
【テーマコード(参考)】
2D040
4G112
4H026
【Fターム(参考)】
2D040AA01
2D040AB05
2D040CA01
2D040CA03
2D040CA04
2D040CA10
2D040CB03
4G112MB11
4G112PA29
4H026CA01
4H026CA04
4H026CB03
4H026CB07
4H026CC02
4H026CC05
4H026CC06
(57)【要約】
【課題】セメント系固化材と共に地盤改良材の材料として用いるための六価クロム固定化剤であって、地盤改良材を含むスラリーによって改良された地盤の六価クロム固定性能を向上させることができ、かつ、該スラリーのポンプ圧送性、及び、該スラリーによって改良された地盤の強度(例えば、一軸圧縮強度)について、優れた物性を与えることのできる六価クロム固定化剤を提供する。
【解決手段】化学式がCaS(ただし、xは1以上の整数である。)であるカルシウム含有化合物、及び、上記カルシウム含有化合物100質量部に対して0.03~0.28質量部の量のSrOを含む六価クロム固定化剤。六価クロム固定化剤、及び、セメント系固化材(例えば、セメント、石膏、及び、必要に応じて配合される高炉スラグ微粉末を含むもの)を含む地盤改良材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式がCaS(ただし、xは1以上の整数である。)であるカルシウム含有化合物、及び、上記カルシウム含有化合物100質量部に対して0.03~0.28質量部の量のSrOを含むことを特徴とする六価クロム固定化剤。
【請求項2】
請求項1に記載の六価クロム固定化剤、及び、セメント系固化材を含むことを特徴とする粉状の地盤改良材。
【請求項3】
上記セメント系固化材が、セメント及び石膏を含む請求項2に記載の粉状の地盤改良材。
【請求項4】
上記セメント系固化材が、高炉スラグ微粉末を含まない、または、上記セメント及び上記石膏との合計量中の割合で40質量%以下の量の高炉スラグ微粉末を含む請求項3に記載の粉状の地盤改良材。
【請求項5】
請求項2~4のいずれか1項に記載の粉状の地盤改良材を製造するための方法であって、上記粉状の地盤改良材100質量部に対して60質量部の量の水を用いて、上記粉状の地盤改良材と上記水とからなるスラリーを調製した場合に、調製時から90分経過後の時点における上記スラリーの粘度(ただし、該粘度は、「JIS Z 8803:2011(液体の粘度測定方法)」の「11 振動粘度計による粘度測定方法」に準拠して、20℃の温度下で測定される値である。)が18.0mPa・s以下となるように、上記粉状の地盤改良材を構成する材料の種類及び量を定めることを特徴とする粉状の地盤改良材の製造方法。
【請求項6】
六価クロム固定化剤として用いる可能性がある組成物として、化学式がCaS(ただし、xは1以上の整数である。)であるカルシウム含有化合物を含む組成物を準備する組成物準備工程と、
上記組成物準備工程で準備した上記組成物について、SrOの量を測定する測定工程と、
上記測定工程で得られた上記SrOの量が、上記カルシウム含有化合物100質量部に対して0.03~0.28質量部の範囲内である場合、上記組成物を六価クロム固定化剤として選択し、上記測定工程で得られた上記SrOの量が、上記カルシウム含有化合物100質量部に対して0.03質量部未満または0.28質量部を超える場合、上記組成物を六価クロム固定化剤として選択しない選択工程と、
上記選択工程において六価クロム固定化剤として選択された上記組成物と、セメント系固化材と、水を混合して、スラリー状の地盤改良材を得る混合工程、
を含むことを特徴とするスラリー状の地盤改良材の製造方法。
【請求項7】
請求項2~4のいずれか1項に記載の粉状の地盤改良材を用いた地盤改良方法であって、
改良対象物である地盤に、上記粉状の地盤改良材及び水を含むスラリーを注入することを特徴とする地盤改良方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、六価クロム固定化剤及びそれを含む地盤改良材に関する。
【背景技術】
【0002】
軟弱地盤等を改良する方法として、セメント系固化材を含むスラリー(セメントミルク)を地盤内に注入して混合撹拌することによって、改良(固化)後の地盤の強度(例えば、一軸圧縮強さ)を増大させる方法が知られている。
一方、セメント系固化材を用いて地盤の改良(固化)を行った場合、セメントに微量の有害な重金属等(例えば、六価クロム)が含まれていることがある等の理由によって、改良後の地盤から有害な重金属等が溶出する可能性があるという問題がある。
この問題を解消するために、従来、種々の重金属等固定化剤が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1に、石膏からなる材料中に含まれる重金属の溶出防止に用いる重金属固定化材であって、スラグ微粉末を主成分とする重金属固定化材が、記載されている。
特許文献2に、酸化マグネシウムと硫化物とを含む有害重金属類汚染土壌用の処理組成物であって、酸化マグネシウムと硫化物との総量に対して、酸化マグネシウムを95~5質量%、硫化物を5~95質量%含むことを特徴とする処理組成物が、記載されている。
また、特許文献2に、上記硫化物が、硫化カルシウム、多硫化カルシウム、硫化ナトリウム、多硫化ナトリウム及び鉄鋼スラグから選択される1種以上であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-169816号公報
【特許文献2】特開2007-105549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、セメント系固化材と共に地盤改良材の材料として用いるための六価クロム固定化剤であって、地盤改良材を含むスラリーによって改良された地盤の六価クロム固定性能を向上させることができ、かつ、該スラリーのポンプ圧送性、及び、該スラリーによって改良された地盤の強度(例えば、一軸圧縮強度)について、優れた物性を与えることのできる六価クロム固定化剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、化学式がCaS(ただし、xは1以上の整数である。)であるカルシウム含有化合物100質量部及びSrO(酸化ストロンチウム)0.03~0.28質量部を含む六価クロム固定化剤によれば、上記目的を達成することができることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
本発明は、以下の[1]~[7]を提供するものである。
[1] 化学式がCaS(ただし、xは1以上の整数である。)であるカルシウム含有化合物、及び、上記カルシウム含有化合物100質量部に対して0.03~0.28質量部の量のSrOを含むことを特徴とする六価クロム固定化剤。
[2] 上記[1]に記載の六価クロム固定化剤、及び、セメント系固化材を含むことを特徴とする粉状の地盤改良材。
[3] 上記セメント系固化材が、セメント及び石膏を含む、上記[2]に記載の粉状の地盤改良材。
[4] 上記セメント系固化材が、高炉スラグ微粉末を含まない、または、上記セメント及び上記石膏との合計量中の割合で40質量%以下の量の高炉スラグ微粉末を含む、上記[3]に記載の粉状の地盤改良材。
[5] 上記[2]~[4]のいずれかに記載の粉状の地盤改良材を製造するための方法であって、上記粉状の地盤改良材100質量部に対して60質量部の量の水を用いて、上記粉状の地盤改良材と上記水とからなるスラリーを調製した場合に、調製時から90分経過後の時点における上記スラリーの粘度(ただし、該粘度は、「JIS Z 8803:2011(液体の粘度測定方法)」の「11 振動粘度計による粘度測定方法」に準拠して、20℃の温度下で測定される値である。)が18.0mPa・s以下となるように、上記粉状の地盤改良材を構成する材料の種類及び量を定めることを特徴とする粉状の地盤改良材の製造方法。
[6] 六価クロム固定化剤として用いる可能性がある組成物として、化学式がCaS(ただし、xは1以上の整数である。)であるカルシウム含有化合物を含む組成物(ただし、該組成物の種類は、1つでも、2つ以上でもよい。)を準備する組成物準備工程と、上記組成物準備工程で準備した上記組成物(種類が2つ以上の場合、これら2つ以上の種類の各々の組成物)について、SrOの量を測定する測定工程と、上記測定工程で得られた上記SrOの量が、上記カルシウム含有化合物100質量部に対して0.03~0.28質量部の範囲内である場合、上記組成物(例えば、種類が3つである場合、その中の1つ)を六価クロム固定化剤として選択し、上記測定工程で得られた上記SrOの量が、上記カルシウム含有化合物100質量部に対して0.03質量部未満または0.28質量部を超える場合、上記組成物(例えば、種類が3つである場合、その中の2つ)を六価クロム固定化剤として選択しない選択工程と、上記選択工程において六価クロム固定化剤として選択された上記組成物と、セメント系固化材と、水を混合して、スラリー状の地盤改良材を得る混合工程、を含むことを特徴とするスラリー状の地盤改良材の製造方法。
[7] 上記[2]~[4]のいずれかに記載の粉状の地盤改良材を用いた地盤改良方法であって、改良対象物である地盤に、上記粉状の地盤改良材及び水を含むスラリーを注入することを特徴とする地盤改良方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の六価クロム固定化剤は、セメント系固化材と共に地盤改良材の材料として用いた場合に、地盤改良材を含むスラリーによって改良された地盤の六価クロム固定性能を向上させることができ、かつ、該スラリーのポンプ圧送性、及び、該スラリーによって改良された地盤の強度(例えば、一軸圧縮強度)について、優れた物性を与えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の六価クロム固定化剤は、化学式がCaS(ただし、xは1以上の整数である。)であるカルシウム含有化合物(以下、「カルシウム含有化合物」と略すことがある。)、及び、カルシウム含有化合物100質量部に対して0.03~0.28質量部の量のSrO(酸化ストロンチウム)を含む。
【0010】
本発明で用いるカルシウム含有化合物は、化学式がCaS(ただし、xは1以上の整数である。)で表されるものである。
xは、好ましくは1~6である。
xが1である場合、該化合物は、硫化カルシウムと称される。
xが2以上である場合、該化合物は、多硫化カルシウムと称される。
多硫化カルシウムの市販品は、通常、xが5である化合物を主成分(特に、農薬としての有効成分)として含むものである。
本発明において、複数の種類のカルシウム含有化合物を併用してもよい。例えば、xが1である硫化カルシウムと、xが5である多硫化カルシウムを任意の配合比で併用することができる。
【0011】
SrO(酸化ストロンチウム)の量は、カルシウム含有化合物100質量部に対して、0.03~0.28質量部、0.03~0.27質量部、好ましくは0.04~0.26質量部、特に好ましくは0.05~0.25質量部である。該量が0.03~0.28質量部の範囲外では、六価クロムの溶出量が大きくなる。
特に、カルシウム含有化合物が、硫化カルシウムである場合、SrOの量は、六価クロムの溶出量を小さくする観点から、カルシウム含有化合物100質量部に対して、好ましくは0.03~0.15質量部、好ましくは0.04~0.12質量部、特に好ましくは0.05~0.10質量部である。
【0012】
また、カルシウム含有化合物が、多硫化カルシウムである場合、SrOの量は、六価クロムの溶出量を小さくする観点から、カルシウム含有化合物100質量部に対して、好ましくは0.10~0.28質量部、好ましくは0.12~0.26質量部、特に好ましくは0.15~0.24質量部である。
SrO(酸化ストロンチウム)は、例えば、原料であるストロンチアン石(主成分:炭酸ストロンチウム)を加熱することなどによって得ることができる。
なお、SrOは、市販品である試薬として入手することができる。
【0013】
本発明の六価クロム固定化剤の一例として、SrOを不純物として含むカルシウム含有化合物(硫化カルシウムまたは多硫化カルシウム)の市販品が挙げられる。このような市販品は、例えば、複数の種類の市販品を準備し、これら複数の種類の市販品の各々について、SrOの含有率を測定し、本発明で規定する範囲内の量のSrOを含むものを、本発明の六価クロム固定化剤として選択することによって、得ることができる。
本発明の六価クロム固定化剤の他の例として、SrOの含有率が非常に小さい高純度のカルシウム含有化合物(硫化カルシウムまたは多硫化カルシウム)とSrO(例えば、SrOからなる粉状物の市販品)の混合物が挙げられる。
【0014】
次に、本発明の六価クロム固定化剤を含む粉状の地盤改良材(以下、本発明の粉状の地盤改良材という。)について、説明する。
本発明の粉状の地盤改良材は、上述の六価クロム固定化剤、及び、セメント系固化材を含む。
なお、本発明において、六価クロム固定化剤が液状である場合であっても、セメント系固化材(粉状物)に対する六価クロム固定化剤(液状物)の質量比が非常に小さいため、六価クロム固定化剤とセメント系固化材とからなる組成物全体としては、粉状とみなすこととする。
また、本発明において、六価クロム固定化剤とセメント系固化材とは、地盤改良材としての使用時に互いに組み合わせて用いるものであればよく、例えば、液状の六価クロム固定化剤と水を混合して液状物を得た後に、該液状物とセメント系固化材を混合して、スラリー状の地盤改良材を調製してもよい。この場合においても、液状の六価クロム固定化剤及びセメント系固化材は、これらの組み合わせの全体として、本発明の粉状の地盤改良材に該当するものとする。
セメント系固化材は、セメント、石膏(セメントに含まれる石膏に対して、追加で配合されるもの)、及び、必要に応じて配合される高炉スラグ微粉末を含む。
セメントの例としては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメントや、高炉セメント、フライアッシュセメント等の混合セメントや、エコセメント等が挙げられる。
【0015】
セメントのブレーン比表面積は、好ましくは2,500~6,000cm/gである。該値が2,500cm/g以上であると、地盤改良材の強度発現性がより向上する。該値が6,000cm/g以下であると、セメント製造時の粉砕の手間が過大にならない。
石膏の例としては、無水石膏、二水石膏、及び、半水石膏が挙げられる。
石膏のブレーン比表面積は、好ましくは2,000~7,000cm/gである。該値が2,000cm/g以上であると、石膏の反応性がより向上する。該値が7,000cm/g以下であると、地盤改良材の強度発現性がより向上する。
【0016】
本発明において、高炉スラグ微粉末を用いることによって、本発明の六価クロム固定化剤の量を削減しても、本発明の優れた効果(六価クロム固定性能の向上と、優れたポンプ圧送性と、地盤の優れた強度の3つを兼ね備えること)を十分に得ることができる。
高炉スラグ微粉末を用いる場合、高炉スラグ微粉末のブレーン比表面積は、好ましくは3,000~10,000cm/gである。該値が3,000cm/g以上であると、地盤改良材の強度発現性がより向上する。該値が10,000cm/g以下であると、材料の入手が容易であり、コストが過大にならない。
【0017】
本発明において、高炉スラグ微粉末を用いなくても、本発明の六価クロム固定化剤を適当な量で用いることによって、本発明の優れた効果(六価クロム固定性能の向上と、優れたポンプ圧送性と、地盤の優れた強度の3つを兼ね備えること)を十分に得ることができる。
本発明において、セメントと石膏(無水物換算)と高炉スラグ微粉末の合計量100質量部中のセメントの量は、好ましくは55~95質量部、より好ましくは58~93質量部、特に好ましくは61~91質量部である。該量が55質量部以上であると、地盤改良材の強度発現性がより向上する。該値が95質量部以下であると、石膏の量が大きくなるので、地盤改良材の強度発現性がより向上する。
【0018】
セメントと石膏(無水物換算)と高炉スラグ微粉末の合計量100質量部中の石膏(無水物換算;CaSO)の量(セメントに含まれる石膏を除く量)は、好ましくは3~18質量部、より好ましくは5~15質量部、特に好ましくは7~13質量部である。該量が3~18質量部であると、地盤改良材の強度発現性がより向上する。
セメントと石膏(無水物換算)と高炉スラグ微粉末の合計量100質量部中の高炉スラグ微粉末の量は、好ましくは40質量部以下、より好ましくは35質量部以下、特に好ましくは30質量部以下である。該量が40質量部以下であると、地盤改良材の強度発現性がより向上する。
高炉スラグ微粉末を用いる場合、セメントと石膏(無水物換算)と高炉スラグ微粉末の合計量100質量部中の高炉スラグ微粉末の量は、高炉スラグ微粉末を配合することによる六価クロム溶出抑制効果を高める観点からは、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、さらに好ましくは15質量部以上、特に好ましくは20質量部以上である。
【0019】
本発明において、六価クロム固定化剤に含まれているカルシウム含有化合物(硫化カルシウムまたは多硫化カルシウム)の量は、セメント系固化材(セメント、石膏、及び、必要に応じて配合される高炉スラグ微粉末からなるもの)100質量部に対して、好ましくは0.05~1.5質量部である。該量が0.05質量部以上であると、六価クロム溶出抑制効果をより高めることができる。該量が1.5質量部以下であると、ポンプ圧送性をより高めることができる。
特に、硫化カルシウムの量は、セメント系固化材100質量部に対して、好ましくは0.1~1.5質量部、より好ましくは0.15~1.2質量部、特に好ましくは0.2~0.9質量部である。
多硫化カルシウムの量は、セメント系固化材100質量部に対して、好ましくは0.05~1.0質量部、より好ましくは0.08~0.8質量部、特に好ましくは0.12~0.6質量部である。
【0020】
本発明の粉状の地盤改良材を構成する材料の種類(例えば、セメントの種類)及び量(例えば、セメントの量)は、粉状の地盤改良材100質量部に対して60質量部の量の水を用いて、粉状の地盤改良材と水とからなるスラリーを調製した場合に、調製時から90分経過後の時点におけるスラリーの粘度(ただし、該粘度は、「JIS Z 8803:2011(液体の粘度測定方法)」の「11 振動粘度計による粘度測定方法」に準拠して、20℃の温度下で測定される値である。)が、18.0mPa・s以下となるように定めることが、好ましい。
【0021】
本発明の粉状の地盤改良材を用いた地盤改良方法の好ましい例は、改良対象物である地盤に、粉状の地盤改良材及び水を含むスラリーを注入するものである。
地盤改良の形態としては、地盤にスラリーを注入して混合撹拌するものでもよいし、地盤内の空隙にスラリーを注入するもの(地盤改良材をグラウト材として用いるもの)でもよい。
改良対象である地盤を構成する土壌の種類としては、本発明では六価クロムの溶出の抑制を目的としているので、六価クロムが溶出し易い土壌が、好ましい。該土壌の例としては、火山灰土が挙げられる。火山灰土の例としては、赤ボク土、黒ボク土等が挙げられる。
【0022】
地盤(土壌)の単位体積(1m)当たりの粉状の地盤改良材の量は、好ましくは50~500kg、より好ましくは100~400kgである。該量が50kg以上であると、改良地盤の強度(例えば、一軸圧縮強さ)をより大きくすることができる。該量が500kg以下であると、コストが過大になるのを避けることができる。
地盤改良方法で用いる水の量は、粉状の地盤改良材100質量部に対して、好ましくは45~135質量部、より好ましくは50~110質量部、さらに好ましくは55~100質量部、特に好ましくは60~80質量部である。該量が45質量部以上であると、ポンプ圧送性がより向上する。該量が135質量部以下であると、改良地盤の強度(例えば、一軸圧縮強さ)をより大きくすることができる。
【実施例0023】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[A.使用材料]
(a)土壌の試料
表1に示す2種類の火山灰土(赤ボク土、黒ボク土)を用いた。
【0024】
【表1】
【0025】
(b)セメント
普通ポルトランドセメント(ブレーン比表面積:3,450cm/g)を用いた。
(c)石膏
無水石膏(ブレーン比表面積:4,850cm/g)を用いた。
(d)高炉スラグ微粉末
ブレーン比表面積が4,330cm/gの市販品(デイ・シイ社製のセメント混和材;製品名:セラメント)を用いた。
【0026】
(e)六価クロム固定化剤(硫化カルシウムを含むもの)
硫化カルシウムを含む六価クロム固定化剤として、以下の六価クロム固定化剤A~Dを用いた。
(e-1)六価クロム固定化剤A
高純度化学研究所社製の硫化カルシウム粉末(硫化カルシウムの含有率:99質量%)
(e-2)六価クロム固定化剤B
中国産の硫化カルシウム粉末(硫化カルシウムの含有率:99質量%)
(e-3)六価クロム固定化剤C
富士フイルム和光純薬社製の硫化カルシウム粉末(硫化カルシウムの含有率:99質量%以上)
(e-4)六価クロム固定化剤D
インド産の硫化カルシウム粉末(硫化カルシウムの含有率:99質量%)
【0027】
六価クロム固定化剤A~Dの各々における「硫化カルシウム100質量部当たりのSrOの量」を、表2に示す。表2中、「部」は、質量部を示す。
なお、表2中のSrOの量は、粉末である六価クロム固定化剤と水を混合して、水溶液を調製した後、この水溶液中のSrの量を、ICP発光分析法によって測定し、得られた値を、硫化カルシウム100質量部に対する酸化物換算の質量に換算することによって得たものである。
【0028】
【表2】
【0029】
(f)六価クロム固定化剤(多硫化カルシウムを含むもの)
多硫化カルシウムを含む六価クロム固定化剤として、以下の六価クロム固定化剤E~Gを用いた。
(f-1)六価クロム固定化剤E
宮内硫黄合剤社製の石灰硫黄合剤(液状;多硫化カルシウムの含有率:27.5質量%)
(f-2)六価クロム固定化剤F
さくら化興社製の石灰硫黄合剤(液状;多硫化カルシウムの含有率:27.5質量%)
(f-3)六価クロム固定化剤G
OATアグリオ社製の石灰硫黄合剤(液状;多硫化カルシウムの含有率:27.5質量%)
【0030】
六価クロム固定化剤E~Gの各々における「多硫化カルシウム100質量部当たりのSrOの量」を、表3に示す。表3中、「部」は、質量部を示す。
なお、表3中のSrOの量は、液状である六価クロム固定化剤(石灰硫黄合剤)中のSrの量を、ICP発光分析法によって測定し、得られた値を、多硫化カルシウム100質量部に対する酸化物換算の質量に換算することによって得たものである。
【0031】
【表3】
【0032】
[B.硫化カルシウムを用いた実験例]
[実施例1]
セメント65質量部、石膏10質量部、及び、高炉スラグ微粉末25質量部(以上の合計100質量部)を混合して、セメント系固化材を調製した。
得られたセメント系固化材100質量部に、0.2質量部の量の六価クロム固定化剤A(硫化カルシウム100質量部に対して0.06質量部のSrOを含むもの;表1参照)を添加して混合し、粉状の地盤改良材を調製した。
得られた地盤改良材に対して、水/地盤改良材の質量比が0.60となる量の水を加えて、スラリーを調製した。
このスラリーについて、調製時から90分経過後の時点で、「JIS Z 8803:2011(液体の粘度測定方法)」の「11 振動粘度計による粘度測定方法」に準拠して、20℃の温度下で、粘度を測定した。
粘度は、16.5mPa・s(ポンプ圧送性:良好)であった。
ポンプ圧送性は、粘度が18.0mPa・s以下の場合に良好であり、粘度が18.0mPa・sを超える場合に不良であるとして評価した。
【0033】
一方、調製したスラリーを、赤ボク土(表1参照)に150kg/mの量(ただし、質量は、水を除く地盤改良材の質量である。)で添加して混合し、模擬の改良地盤を得た。この模擬の改良地盤について、材齢28日における一軸圧縮強さを、「JIS A 1216:2020(土の一軸圧縮試験方法)」に準拠して測定した。
一軸圧縮強さは、297kN/mであった。
さらに、この模擬の改良地盤について、材齢28日の時点で、平成15年3月6日環境省告示第18号「土壌溶出量調査に係る測定方法を定める件」に記載されている方法に準拠して六価クロム化合物の溶出試験を行い、六価クロム化合物の溶出量を測定した。
六価クロム化合物の溶出量は、0.02mg/リットル(溶出抑制効果:良好)であった。
六価クロム溶出抑制効果は、該溶出量が、環境基準である「0.05mg/リットル以下」を満たしている場合に良好であり、該溶出量が、0.05mg/リットルを超える場合に不良であるとして評価した。
【0034】
[実施例2~4、比較例1~4]
表4に示すように地盤改良材(セメント系固化材、六価クロム固定化剤)の材料の種類及び量を変えた以外は実施例1と同様にして、実験を行った。
以上の結果を表4に示す。表4中、「固化材」は、セメント系固化材を示す。「高炉スラグ」は、高炉スラグ微粉末を示す。「六価クロムの溶出量」は、六価クロム化合物の溶出量を示す。
【0035】
【表4】
【0036】
表4から、SrOの量が本発明で規定する0.03~0.28質量部の範囲内である六価クロム固定化剤A~Bを用いた実施例1~4では、粘度が18.0mPa・s以下であり、ポンプ圧送性が良好であることがわかる。また、一軸圧縮強さについても、291kN/m以上の値を得ており、地盤を固化させる性能についても、優れていることがわかる。さらに、六価クロム化合物の溶出量が0.01~0.04mg/リットルであり、環境基準値(六価クロム化合物:0.05mg/リットル以下)を満たしていることがわかる。
【0037】
一方、SrOの量が0.01質量部である六価クロム固定化剤Cを用いた比較例1では、六価クロム化合物の溶出量が0.06mg/リットルであり、六価クロム抑制効果が不良であることがわかる。
SrOの量が0.33質量部である六価クロム固定化剤Dを用いた比較例2では、粘度が18.0mPa・sを超えており、ポンプ圧送性が劣り、また、一軸圧縮強さについても、212kN/mという小さな値を得ており、地盤を固化させる性能が劣ることがわかる。
六価クロム固定化剤を用いていない比較例3では、六価クロム化合物の溶出量が0.08mg/リットルであり、六価クロム抑制効果が不良であることがわかる。
高炉スラグ微粉末の量が50質量部であり、かつ、六価クロム固定化剤を用いていない比較例4では、一軸圧縮強さが145kN/mであり、地盤を固化させる性能が非常に劣ることがわかる。
【0038】
[C.多硫化カルシウムを用いた実験例]
[実施例5~6、比較例5~8]
表5のように地盤改良材(セメント系固化材、六価クロム固定化剤)の材料の種類及び量を変え、かつ、以下の点を変更した以外は実施例1と同様にして、実験を行った。
模擬の改良地盤は、調製したスラリー(地盤改良材と水とからなるもの)を、黒ボク土(表1参照)に250kg/mの量(ただし、質量は、水を除く地盤改良材の質量である。)で添加して混合することによって得た。
また、六価クロム固定化剤(多硫化カルシウムを主成分として含む石灰硫黄合剤)は、液状であるため、水と混合した後に、セメント系固化材と混合し、スラリーを調製した。
結果を表5に示す。
表5中、「固化材」、「高炉スラグ」及び「六価クロムの溶出量」の各語については、表4と同様である。
「六価クロム固定化剤の量(部)」は、液状物である石灰硫黄合剤の量(質量部)を示す。実施例5における六価クロム固定化剤の量(1.5質量部)は、多硫化カルシウムの量に換算すると、0.41質量部である。実施例6における六価クロム固定化剤の量(0.5質量部)は、多硫化カルシウムの量に換算すると、0.14質量部である。
【0039】
【表5】
【0040】
表5から、SrOの量が本発明で規定する0.03~0.28質量部の範囲内である六価クロム固定化剤Eを用いた実施例5~6では、粘度が18.0mPa・s以下であり、ポンプ圧送性が良好であることがわかる。また、一軸圧縮強さについても、291kN/m以上の値を得ており、地盤を固化させる性能についても、優れていることがわかる。さらに、六価クロム化合物の溶出量が0.02~0.04mg/リットルであり、環境基準値(六価クロム化合物:0.05mg/リットル以下)を満たしていることがわかる。
一方、SrOの量が0.69質量部である六価クロム固定化剤Fを用いた比較例5では、一軸圧縮強さが225kN/mであり、地盤を固化させる性能が劣ることがわかる。
SrOの量が1.05質量部である六価クロム固定化剤Gを用いた比較例6では、粘度が18.0mPa・sを超えており、ポンプ圧送性が劣ることがわかる。
六価クロム固定化剤を用いていない比較例7では、六価クロム化合物の溶出量が0.07mg/リットルであり、六価クロム抑制効果が不良であることがわかる。
高炉スラグ微粉末を用いておらず、かつ、六価クロム固定化剤を用いていない比較例8では、六価クロム化合物の溶出量が0.15mg/リットルであり、六価クロム抑制効果が不良であることがわかる。