(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139123
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】推定方法、印刷方法、および印刷装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20241002BHJP
【FI】
B41J2/01 201
B41J2/01 103
B41J2/01 451
B41J2/01 401
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049929
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】山家 暢
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA07
2C056EB27
2C056EC77
2C056FA13
(57)【要約】
【課題】印刷基材の表裏両面にインクを吐出する印刷装置において、入稿データに応じた印刷基材の歪み量を、印刷前に推定できる技術を提供する。
【解決手段】この印刷装置は、長尺帯状の印刷基材を搬送する搬送機構10、印刷基材の第1面に第1入稿データD31を印刷する第1印刷部20、印刷基材の第2面に第2入稿データD32を印刷する第2印刷部30、および推定部84を備える。推定部84は、第1入稿データD31および第2入稿データD32の印刷前に、未印刷状態に対する両面印刷状態における第1面の歪み量を推定した第1推定結果D71と、片面印刷状態に対する両面印刷状態における第2面の歪み量を推定した第2推定結果D72とを取得する。これにより、推定結果D71,D72を考慮して、入稿データD31,D32を印刷できる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺帯状の印刷基材を長手方向に搬送しつつ、前記印刷基材の第1面および第2面に順にインクを吐出する印刷装置において、前記印刷基材の歪み量を推定する推定方法であって、
a)前記第1面に印刷すべき画像データである第1入稿データと、前記第2面に印刷すべき画像データである第2入稿データとを取得するデータ取得工程と、
b)前記第1入稿データおよび前記第2入稿データの印刷よりも前に、前記第1入稿データおよび前記第2入稿データに基づいて、インクによる前記第1面の歪み量を推定した第1推定結果と、前記第2面の歪み量を推定した第2推定結果とを取得する推定工程と、
を含み、
前記第1推定結果は、前記第1面および前記第2面への印刷前の未印刷状態に対する、前記第1面に前記第1入稿データが印刷され、かつ、前記第2面に前記第2入稿データが印刷された後の両面印刷状態における、前記第1面の歪み量を推定したものであり、
前記第2推定結果は、前記第1面に前記第1入稿データが印刷され、かつ、前記第2面への印刷前の片面印刷状態に対する、前記両面印刷状態における、前記第2面の歪み量を推定したものである、推定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の推定方法であって、
c)前記印刷装置において前記第1面に学習用の画像データである第1学習用データを印刷し、かつ、前記第2面に学習用の画像データである第2学習用データを印刷した後に、前記第1面の歪み量である第1歪み量と、前記第2面の歪み量である第2歪み量とを計測する歪み量計測工程と、
d)前記第1学習用データおよび前記第2学習用データを入力変数とし、前記第1歪み量および前記第2歪み量を教師データとして、機械学習により、前記両面印刷状態における前記印刷基材の歪み量を推定可能な推定モデルを生成する学習工程と、
をさらに含み、
前記推定工程では、前記推定モデルに前記第1入稿データおよび前記第2入稿データを入力し、前記推定モデルから前記第1推定結果および前記第2推定結果が出力される、推定方法。
【請求項3】
請求項2に記載の推定方法であって、
前記第1学習用データおよび前記第2学習用データはそれぞれ、
本体画像と、
前記本体画像の前面において、間隔をあけて配列された複数のマークと、
を含む画像データであり、
前記学習工程では、前記印刷装置において前記第1学習用データを前記第1面に印刷し、前記第2学習用データを前記第2面に印刷したときの前記印刷基材上の前記マークの位置に基づいて、前記教師データとなる前記第1面および前記第2面の歪み量を計測する、推定方法。
【請求項4】
請求項3に記載の推定方法であって、
前記マークは、
第1の色で形成されたベース図形と、
前記ベース図形と重なる位置に、前記第1の色とは異なる第2の色で形成されたマーク図形と、
を含む、推定方法。
【請求項5】
請求項4に記載の推定方法であって、
前記第1の色は、白色であり、
前記第2の色は、黒色である、推定方法。
【請求項6】
請求項3に記載の推定方法であって、
前記第1歪み量は、前記第1面における隣り合う前記マークの間隔の変化を示し、
前記第2歪み量は、前記第2面における隣り合う前記マークの間隔の変化を示す、推定方法。
【請求項7】
請求項3に記載の推定方法であって、
前記第1歪み量は、前記第1面における前記マークのそれぞれの変位量を示し、
前記第2歪み量は、前記第2面における前記マークのそれぞれの変位量を示す、推定方法。
【請求項8】
請求項3から請求項7までのいずれか1項に記載の推定方法であって、
前記第1学習用データおよび前記第2学習用データの前記本体画像は、濃度値または印字率が異なる複数の領域を含む、推定方法。
【請求項9】
請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の推定方法を用いた印刷方法であって、
前記工程a)および前記工程b)の後に、
e)前記第1推定結果に基づいて前記印刷基材に対するインクの吐出位置を補正しつつ、前記第1面にインクを吐出して前記第1入稿データを前記第1面に印刷する工程と、
f)前記第2推定結果に基づいて前記印刷基材に対するインクの吐出位置を補正しつつ、前記第2面にインクを吐出して前記第2入稿データを前記第2面に印刷する工程と、
を実行する、印刷方法。
【請求項10】
長尺帯状の印刷基材の第1面に印刷すべき画像データである第1入稿データと、前記印刷基材の第2面に印刷すべき画像データである第2入稿データとを取得するデータ取得部と、
前記印刷基材を所定の搬送経路に沿って長手方向に搬送する搬送機構と、
前記搬送機構により搬送される前記印刷基材の前記第1面にインクを吐出する第1印刷部と、
前記第1印刷部よりも前記搬送経路の下流側において、前記搬送機構により搬送される前記印刷基材の前記第2面にインクを吐出する第2印刷部と、
前記第1入稿データおよび前記第2入稿データの印刷よりも前に、前記第1入稿データおよび前記第2入稿データに基づいて、インクによる前記第1面の歪み量を推定した第1推定結果と、前記第2面の歪み量を推定した第2推定結果とを取得する推定部と、
前記搬送機構、前記第1印刷部および前記第2印刷部を制御する動作制御部と、
を備え、
前記第1推定結果は、前記第1面および前記第2面への印刷前の未印刷状態に対する、前記第1面に前記第1入稿データが印刷され、かつ、前記第2面に前記第2入稿データが印刷された後の両面印刷状態における、前記第1面の歪み量を推定したものであり、
前記第2推定結果は、前記第1面に前記第1入稿データが印刷され、かつ、前記第2面への印刷前の片面印刷状態に対する、前記両面印刷状態における、前記第2面の歪み量を推定したものであり、
前記動作制御部は、
前記第1印刷部に、前記第1推定結果に基づいて前記印刷基材に対するインクの吐出位置を補正しつつ、前記第1面にインクを吐出して前記第1入稿データを前記第1面に印刷させ、
前記第2印刷部に、前記第2推定結果に基づいて前記印刷基材に対するインクの吐出位置を補正しつつ、前記第2面にインクを吐出して前記第2入稿データを前記第2面に印刷させる、印刷装置。
【請求項11】
請求項10に記載の印刷装置であって、
前記第1印刷部および前記第2印刷部よりも前記搬送経路の下流側において、前記第1面および前記第2面を撮影するカメラと、
前記カメラの撮影画像に基づいて、前記第1面の歪み量である第1歪み量と、前記第2面の歪み量である第2歪み量とを計測する歪み量計測部と、
学習用の画像データである第1学習用データおよび第2学習用データを入力変数とし、前記第1学習用データを前記第1面に印刷し、前記第2学習用データを前記第2面に印刷したときの前記第1歪み量および前記第2歪み量を教師データとして、機械学習により、前記印刷基材の歪み量を推定可能な推定モデルを生成する学習部と、
をさらに備え、
前記推定部において、前記推定モデルに前記第1入稿データおよび前記第2入稿データを入力し、前記推定モデルから前記第1推定結果および前記第2推定結果が出力される、印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺帯状の印刷基材を長手方向に搬送しつつ、印刷基材の表裏両面にインクを吐出する印刷装置において、印刷基材の歪みを推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、長尺帯状の印刷基材を長手方向に搬送しつつ、複数のヘッドからインクを吐出することにより、印刷基材に画像を印刷するインクジェット方式の印刷装置が知られている。インクジェット方式の印刷装置は、複数のヘッドから、それぞれ異なる色のインクを吐出する。そして、各色のインクにより形成される単色画像の重ね合わせによって、印刷基材の表面に多色画像を印刷する。
【0003】
この種の印刷装置では、印刷基材がインクを吸収する時、または、印刷基材上のインクが乾燥する時に、印刷基材が僅かに伸縮する。その結果、印刷基材の表面に形成される印刷画像に、歪みが生じる。また、印刷基材の歪みにより、複数のヘッドから吐出されるインクの位置がずれる場合がある。このような印刷基材の歪みによる印刷品質の低下を抑制するために、印刷基材の歪み量を印刷前に推定する方法が模索されている。印刷基材の歪み量を推定する方法は、例えば、特許文献1に記載されている。
【0004】
特許文献1に記載された印刷装置では、機械学習によって得られた推定モデルを用いて、印刷前に、入稿データに基づいて印刷後の印刷基材の伸縮状態(歪み量)を推定している。これにより、印刷前に、当該推定結果に基づいて入稿データを補正することにより、印刷基材の伸縮による印刷結果のずれを抑制し、印刷品質を向上することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、印刷基材の表裏両面にインクを吐出する印刷装置においては、表面の印刷による印刷基材の伸縮と、裏面の印刷による印刷基材の伸縮の2段階の印刷基材の伸縮が生じる。このような場合に、表面の印刷処理と、裏面の印刷処理とのそれぞれに、特許文献1に記載の補正方法を単に当てはめた場合、先に印刷された表面の印刷像が、その後の裏面の印刷処理による伸縮で歪む場合がある。また、裏面の印刷処理においても、表面の印刷処理によって既に印刷基材の伸縮が生じているため、裏面の印刷処理によって生じる印刷基材の歪み量は、片面のみの印刷処理によって生じるものとは異なる場合がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、印刷基材の表裏両面にインクを吐出する印刷装置において、入稿データに応じた印刷基材の歪み量を、印刷前に推定できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、長尺帯状の印刷基材を長手方向に搬送しつつ、前記印刷基材の第1面および第2面に順にインクを吐出する印刷装置において、前記印刷基材の歪み量を推定する推定方法であって、a)前記第1面に印刷すべき画像データである第1入稿データと、前記第2面に印刷すべき画像データである第2入稿データとを取得するデータ取得工程と、b)前記第1入稿データおよび前記第2入稿データの印刷よりも前に、前記第1入稿データおよび前記第2入稿データに基づいて、インクによる前記第1面の歪み量を推定した第1推定結果と、前記第2面の歪み量を推定した第2推定結果とを取得する推定工程と、を含み、前記第1推定結果は、前記第1面および前記第2面への印刷前の未印刷状態に対する、前記第1面に前記第1入稿データが印刷され、かつ、前記第2面に前記第2入稿データが印刷された後の両面印刷状態における、前記第1面の歪み量を推定したものであり、前記第2推定結果は、前記第1面に前記第1入稿データが印刷され、かつ、前記第2面への印刷前の片面印刷状態に対する、前記両面印刷状態における、前記第2面の歪み量を推定したものである。
【0009】
本願の第2発明は、第1発明の推定方法であって、c)前記印刷装置において前記第1面に学習用の画像データである第1学習用データを印刷し、かつ、前記第2面に学習用の画像データである第2学習用データを印刷した後に、前記第1面の歪み量である第1歪み量と、前記第2面の歪み量である第2歪み量とを計測する歪み量計測工程と、d)前記第1学習用データおよび前記第2学習用データを入力変数とし、前記第1歪み量および前記第2歪み量を教師データとして、機械学習により、前記両面印刷状態における前記印刷基材の歪み量を推定可能な推定モデルを生成する学習工程と、をさらに含み、前記推定工程では、前記推定モデルに前記第1入稿データおよび前記第2入稿データを入力し、前記推定モデルから前記第1推定結果および前記第2推定結果が出力される。
【0010】
本願の第3発明は、第2発明の推定方法であって、前記第1学習用データおよび前記第2学習用データはそれぞれ、本体画像と、前記本体画像の前面において、間隔をあけて配列された複数のマークと、を含む画像データであり、前記学習工程では、前記印刷装置において前記第1学習用データを前記第1面に印刷し、前記第2学習用データを前記第2面に印刷したときの前記印刷基材上の前記マークの位置に基づいて、前記教師データとなる前記第1面および前記第2面の歪み量を計測する。
【0011】
本願の第4発明は、第3発明の推定方法であって、前記マークは、第1の色で形成されたベース図形と、前記ベース図形と重なる位置に、前記第1の色とは異なる第2の色で形成されたマーク図形と、を含む。
【0012】
本願の第5発明は、第4発明の推定方法であって、前記第1の色は、白色であり、前記第2の色は、黒色である。
【0013】
本願の第6発明は、第3発明の推定方法であって、前記第1歪み量は、前記第1面における隣り合う前記マークの間隔の変化を示し、前記第2歪み量は、前記第2面における隣り合う前記マークの間隔の変化を示す。
【0014】
本願の第7発明は、第3発明の推定方法であって、前記第1歪み量は、前記第1面における前記マークのそれぞれの変位量を示し、前記第2歪み量は、前記第2面における前記マークのそれぞれの変位量を示す。
【0015】
本願の第8発明は、第3発明から第7発明までのいずれか一発明の推定方法であって、前記第1学習用データおよび前記第2学習用データの前記本体画像は、濃度値または印字率が異なる複数の領域を含む。
【0016】
本願の第9発明は、第2発明から第7発明までのいずれか一発明の推定方法を用いた印刷方法であって、前記工程a)および前記工程b)の後に、e)前記第1推定結果に基づいて前記印刷基材に対するインクの吐出位置を補正しつつ、前記第1面にインクを吐出して前記第1入稿データを前記第1面に印刷する工程と、f)前記第2推定結果に基づいて前記印刷基材に対するインクの吐出位置を補正しつつ、前記第2面にインクを吐出して前記第2入稿データを前記第2面に印刷する工程と、を実行する。
【0017】
本願の第10発明は、長尺帯状の印刷基材の第1面に印刷すべき画像データである第1入稿データと、前記印刷基材の第2面に印刷すべき画像データである第2入稿データとを取得するデータ取得部と、前記印刷基材を所定の搬送経路に沿って長手方向に搬送する搬送機構と、前記搬送機構により搬送される前記印刷基材の前記第1面にインクを吐出する第1印刷部と、前記第1印刷部よりも前記搬送経路の下流側において、前記搬送機構により搬送される前記印刷基材の前記第2面にインクを吐出する第2印刷部と、前記第1入稿データおよび前記第2入稿データの印刷よりも前に、前記第1入稿データおよび前記第2入稿データに基づいて、インクによる前記第1面の歪み量を推定した第1推定結果と、前記第2面の歪み量を推定した第2推定結果とを取得する推定部と、前記搬送機構、前記第1印刷部および前記第2印刷部を制御する動作制御部と、を備え、前記第1推定結果は、前記第1面および前記第2面への印刷前の未印刷状態に対する、前記第1面に前記第1入稿データが印刷され、かつ、前記第2面に前記第2入稿データが印刷された後の両面印刷状態における、前記第1面の歪み量を推定したものであり、前記第2推定結果は、前記第1面に前記第1入稿データが印刷され、かつ、前記第2面への印刷前の片面印刷状態に対する、前記両面印刷状態における、前記第2面の歪み量を推定したものであり、前記動作制御部は、前記第1印刷部に、前記第1推定結果に基づいて前記印刷基材に対するインクの吐出位置を補正しつつ、前記第1面にインクを吐出して前記第1入稿データを前記第1面に印刷させ、前記第2印刷部に、前記第2推定結果に基づいて前記印刷基材に対するインクの吐出位置を補正しつつ、前記第2面にインクを吐出して前記第2入稿データを前記第2面に印刷させる、印刷装置である。
【0018】
本願の第11発明は、第10発明の印刷装置であって、前記第1印刷部および前記第2印刷部よりも前記搬送経路の下流側において、前記第1面および前記第2面を撮影するカメラと、前記カメラの撮影画像に基づいて、前記第1面の歪み量である第1歪み量と、前記第2面の歪み量である第2歪み量とを計測する歪み量計測部と、学習用の画像データである第1学習用データおよび第2学習用データを入力変数とし、前記第1学習用データを前記第1面に印刷し、前記第2学習用データを前記第2面に印刷したときの前記第1歪み量および前記第2歪み量を教師データとして、機械学習により、前記印刷基材の歪み量を推定可能な推定モデルを生成する学習部と、をさらに備え、前記推定部において、前記推定モデルに前記第1入稿データおよび前記第2入稿データを入力し、前記推定モデルから前記第1推定結果および前記第2推定結果が出力される。
【発明の効果】
【0019】
本願の第1発明~第10発明によれば、印刷基材の表裏両面にインクを吐出する印刷装置において、表裏両面に対する入稿データに応じた印刷基材の歪み量を、印刷前に推定することができる。これにより、表裏それぞれの歪み量の推定結果を考慮して、入稿データを印刷することができる。
【0020】
特に、本願の第2発明によれば、機械学習を使用することにより、条件の変化に容易に対応できる。
【0021】
特に、本願の第3発明によれば、学習用データに組み込まれた複数のマークにより、教師データとなる印刷基材の伸縮状態を、容易に得ることができる。
【0022】
特に、本願の第4発明によれば、背景となる本体画像の色にかかわらず、マーク図形を識別できる。
【0023】
特に、本願の第6発明によれば、教師データは、領域ごとに局所的な歪み量を表すものとなる。累積された変位量を表すものではないため、機械学習において取り扱いやすい。
【0024】
特に、本願の第7発明によれば、教師データは、印刷基材の各部の座標位置の変化を表すものとなる。この場合、推定モデルから出力される推定結果も、印刷基材の各部の座標位置の変化を表すものとなる。したがって、当該推定結果に基づいて、印刷基材に吐出されるインクの座標位置を容易に補正できる。
【0025】
特に、本願の第8発明によれば、濃度値または印字率に応じた印刷基材の伸縮量を学習することができる。
【0026】
特に、本願の第9発明および第10発明によれば、表裏それぞれの歪み量の推定結果を考慮して、インクの吐出位置を補正しつつ、印刷することができる。
【0027】
特に、本願の第11発明によれば、機械学習を使用することにより、条件の変化に容易に対応できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図2】印刷部の付近における印刷装置の部分上面図である。
【
図3】印刷装置の各部とコンピュータとの接続を示したブロック図である。
【
図4】コンピュータの機能を概念的に示したブロック図である。
【
図5】学習処理の流れを示すフローチャートである。
【
図10】印刷基材の歪み量の計測方法の一例を示した図である。
【
図11】印刷基材の歪み量の計測方法の他の例を示した図である。
【
図12】印刷処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0030】
<1.印刷装置の構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る印刷装置1の構成を示した図である。この印刷装置1は、長尺帯状の印刷基材9を搬送しつつ、印刷部20,30において印刷基材9へ向けてインクの液滴を吐出することにより、印刷基材9の表裏両面に画像を印刷する装置である。以下では、印刷基材9の一方側の面を第1面91、他方側の面を第2面92と称する。印刷基材9は、印刷用紙であってもよく、あるいは、樹脂製のフィルムであってもよい。また、印刷基材9は、金属箔や、ガラス製の印刷基材であってもよい。
図1に示すように、印刷装置1は、搬送機構10、第1印刷部20、第2印刷部30、撮像部40、およびコンピュータ80を備える。
【0031】
搬送機構10は、印刷基材9をその長手方向に沿う搬送方向に搬送する機構である。本実施形態の搬送機構10は、巻き出し部11、巻き取り部12、反転部13、および複数の搬送ローラ100を有する。印刷基材9は、巻き出し部11から繰り出され、複数の搬送ローラ100により構成される搬送経路に沿って搬送される。各搬送ローラ100は、搬送方向に対して垂直な方向に延びる軸を中心として回転することにより、印刷基材9を搬送経路の上流側から下流側へと案内する。また、印刷基材9には、搬送方向の張力が掛けられている。これにより、搬送中における印刷基材9の弛みや皺が抑制される。
【0032】
反転部13は、搬送経路の途中において、印刷基材9の表裏を反転する装置である。反転部13は、搬送経路上において、第1印刷部20と第2印刷部30との間に配置される。巻き出し部11から繰り出された印刷基材9は、はじめ、第1面91を上側として搬送される。そして、第1面91を上面とした状態で、第1印刷部20によって第1面91に対して印刷処理がなされる。反転部13は、第1面91に印刷処理がなされた印刷基材9の表裏の上下方向を反転する。このため、反転部13よりも搬送方向下流側においては、印刷基材9は、第2面92を上側として搬送される。そして、第2面92を上面とした状態で、第2印刷部30によって第2面92に対して印刷処理がなされる。その後、第1面91および第2面92の両面に印刷処理がなされた印刷基材9は、巻き取り部12へ回収される。
【0033】
第1印刷部20は、搬送機構10により搬送される印刷基材9の第1面91に対して、インクの液滴(以下「インク滴」と称する)を吐出する。本実施形態の第1印刷部20は、第1ヘッド21、第2ヘッド22、第3ヘッド23、および第4ヘッド24を有する。第1ヘッド21、第2ヘッド22、第3ヘッド23、および第4ヘッド24は、印刷基材9の上方において、印刷基材9の搬送方向に沿って、間隔をあけて配列されている。印刷基材9は、第1印刷部20の4つのヘッド21~24の下方を、印刷面である第1面91を上方に向けた状態で搬送される。
【0034】
図2は、第1印刷部20の付近における印刷装置1の部分上面図である。
図2中に破線で示したように、各ヘッド21~24の下面には、印刷基材9の幅方向と平行に配列された複数のノズル201が設けられている。各ヘッド21~24は、複数のノズル201から印刷基材9の上面へ向けて、多色画像の色成分となるK(ブラック)、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)の各色のインク滴を、それぞれ吐出する。
【0035】
すなわち、第1ヘッド21は、搬送経路上の第1印刷位置P1において、印刷基材9の上面に、K色のインク滴を吐出する。第2ヘッド22は、第1印刷位置P1よりも下流側の第2印刷位置P2において、印刷基材9の上面に、C色のインク滴を吐出する。第3ヘッド23は、第2印刷位置P2よりも下流側の第3印刷位置P3において、印刷基材9の上面に、M色のインク滴を吐出する。第4ヘッド24は、第3印刷位置P3よりも下流側の第4印刷位置P4において、印刷基材9の上面に、Y色のインク滴を吐出する。
【0036】
なお、第1印刷部20は、ヘッド21~24の搬送方向下流側であって反転部13よりも搬送方向上流側に、印刷基材9の第1面91にインクを定着させる定着部をさらに有していてもよい。定着部は、例えば、印刷基材9へ向けて加熱された気体を吹き付けて、印刷基材9に付着したインクを乾燥させる乾燥部であってもよい。また、定着部は、UV硬化性のインクに紫外線を照射することにより、インクを硬化させる紫外線照射部であってもよい。
【0037】
第2印刷部30は、搬送機構10により搬送される印刷基材9の第2面92に対して、インクの液滴(以下「インク滴」と称する)を吐出する。本実施形態の第2印刷部30は、第1ヘッド31、第2ヘッド32、第3ヘッド33、および第4ヘッド34を有する。印刷基材9は、第2印刷部30の4つのヘッド31~34の下方を、印刷面である第2面92を上方に向けた状態で搬送される。第2印刷部30の4つのヘッド31~34の構成は、第1印刷部20の4つのヘッド21~24と同等であるため、説明を省略する。また、第2印刷部30は、第1印刷部20と同様に、ヘッド31~34の搬送方向下流側であって撮像部40よりも搬送方向上流側に、印刷基材9の第2面92にインクを定着させる定着部をさらに有していてもよい。
【0038】
撮像部40は、第1印刷部20および第2印刷部30による印刷処理が完了した印刷基材9の両面を撮影する。撮像部40は、第1カメラ41と、第2カメラ42とを有する。第1カメラ41は、第1印刷部20および第2印刷部30よりも搬送経路の下流側において、印刷基材9の第1面91に対向して配置され、印刷基材9の第1面91を撮影する。第2カメラ42は、第1印刷部20および第2印刷部30よりも搬送経路の下流側において、印刷基材9の第2面92に対向して配置され、印刷基材9の第2面92を撮影する。第1カメラ41の搬送経路上の位置と、第2カメラ42の搬送経路上の位置は、同一または近接していることが好ましい。
【0039】
第1カメラ41および第2カメラ42には、例えば、CIS(Contact Image Sensor)やCCDやCMOS等の撮像素子が、幅方向に複数配列されたラインセンサが使用される。第1カメラ41は、印刷基材9の第1面91を撮影することにより、撮影画像を取得する。また、第2カメラ42は、印刷基材9の第2面92を撮影することにより、撮影画像を取得する。そして、第1カメラ41および第2カメラ42はそれぞれ、得られた撮影画像を、コンピュータ80へ送信する。
【0040】
コンピュータ80は、印刷装置1を制御するための情報処理装置である。
図3は、コンピュータ80と、印刷装置1の各部との接続を示したブロック図である。
図3中に概念的に示したように、コンピュータ80は、CPU等のプロセッサ801、RAM等のメモリ802、およびハードディスクドライブ等の記憶部803を有する。記憶部803には、後述する学習処理および印刷処理を実行するためのコンピュータプログラムPgが、記憶されている。
【0041】
図3に示すように、コンピュータ80は、上述した搬送機構10、第1印刷部20のヘッド21~24、第2印刷部30のヘッド31~34、および、撮像部40のカメラ41,42と、それぞれ通信可能に接続されている。また、コンピュータ80は、外部記憶装置であるサーバ70と、通信可能に接続されている。サーバ70には、基準データD11,D12、多数の学習用データD21,D22、および、入稿データD31,D32が記憶されている。
【0042】
基準データD11,D12および学習用データD21,D22は、後述する学習処理に使用されるデータである。また、入稿データD31,D32は、製品としての印刷物を得るために、印刷装置1において印刷すべき画像データである。コンピュータ80は、サーバ70からこれらの基準データD11,D12、学習用データD21,D22、および、入稿データD31,D32から必要なデータを取得し、当該データに基づいて、搬送機構10、第1印刷部20および第2印刷部30を動作制御する。これにより、印刷装置1において、基準データD11,D12、学習用データD21,D22、および、入稿データD31,D32に基づいた印刷像を印刷基材9に印刷することができる。
【0043】
<2.コンピュータの機能について>
この印刷装置1の第1印刷部20では、4つのヘッド21~24が、インク滴を吐出することによって、印刷基材9の第1面91に、それぞれ単色画像を印刷する。そして、4つの単色画像の重ね合わせにより、印刷基材9の第1面91に、多色画像が形成される。したがって、仮に、4つのヘッド21~24から吐出されるインク滴の印刷基材9上における位置が相互にずれていると、印刷物の画像品質が低下する。このような、印刷基材9上における単色画像の相互の位置ずれ(見当ずれ)を許容範囲内に抑えることが、高品質な印刷物を得るための重要な要素となる。
【0044】
また、印刷基材9にインクが吸収されるとき、または、印刷基材9上のインクが乾燥するときには、印刷基材9が不均一に伸縮する。このような印刷基材9の伸縮が生じると、印刷面に形成される印刷画像が歪む。また、印刷基材9の伸縮が生じると、上記の見当ずれも生じやすくなる。
【0045】
この印刷装置1では、第1印刷部20による印刷基材9の第1面91への印刷の後に、第2印刷部30によって印刷基材9の第2面92への印刷を行う。このように印刷基材9の表裏両面にインクを吐出する印刷装置1においては、第1面91の印刷による印刷基材9の伸縮と、第2面の印刷による印刷基材9の伸縮の2段階の印刷基材9の伸縮により、印刷基材9に歪みが生じる。
【0046】
そこで、この印刷装置1のコンピュータ80は、基準データD11,D12および学習用データD21,D22を用いて、両面印刷による印刷基材9の歪み量を推定するための推定モデルM1,M2を、機械学習によって生成する。これにより、コンピュータ80は、入稿データD31,D32に基づいて、推定モデルM1,M2も用いて印刷基材9の歪み量を印刷前に推定し、その推定結果を利用して、インク滴の吐出位置を補正しつつ印刷を行う機能を有する。
図4は、コンピュータ80の当該機能を、概念的に示したブロック図である。
【0047】
図4に示すように、コンピュータ80は、データ取得部81、歪み量計測部82、学習部83、推定部84、補正値算出部85、および動作制御部86を有する。データ取得部81、歪み量計測部82、学習部83、推定部84、補正値算出部85、および動作制御部86の各機能は、コンピュータ80のプロセッサ801が、コンピュータプログラムPgに従って動作することにより、実現される。
【0048】
データ取得部81は、基準データD11,D12、学習用データD21,D22、および入稿データD31,D32を取得するための処理部である。データ取得部81は、サーバ70から、基準データD11,D12、学習用データD21,D22、および入稿データD31,D32を読み出す。データ取得部81は、読み出した基準データD11,D12を歪み量計測部82および動作制御部86へ引き渡す。データ取得部81は、読み出した学習用データD21,D22を学習部83および動作制御部86へ引き渡す。また、データ取得部81は、入稿データD31,D32を推定部84および動作制御部86へ引き渡す。
【0049】
歪み量計測部82は、カメラ41,42から送信される撮影画像に基づいて、印刷基材9の歪み量を計測するための処理部である。具体的には、歪み量計測部82は、第1カメラ41から入力される第1基準画像D41および第1学習用画像D51と、第2カメラ42から入力される第2基準画像D42および第2学習用画像D52とが入力される。
【0050】
歪み量計測部82は、第1基準画像D41および第1学習用画像D51に基づいて、第1学習用画像D51に撮影されている印刷基材9の第1面91の歪み量である第1歪み量D61を計測する。また、歪み量計測部82は、第2基準画像D42および第2学習用画像D52に基づいて、第2学習用画像D52に撮影されている印刷基材9の第2面92の歪み量である第2歪み量D62を計測する。印刷基材9の歪み量の計測方法については、後述する。歪み量計測部82は、計測された印刷基材9の歪み量D61,D62を、学習部83へ入力する。
【0051】
学習部83は、印刷基材9に印刷される画像データと、その画像データの印刷後の印刷基材9の歪み量との関係を学習し、推定モデルM1,M2を生成するための処理部である。この印刷装置1は、製品となる印刷物を得るための入稿データD31,D32の印刷よりも前に、学習部83による学習処理を行う。
【0052】
学習処理時には、上述した動作制御部86と、学習部83とに、基準データD11,D12および学習用データD21,D22が入力される。動作制御部86は、基準データD11,D12および学習用データD21,D22に基づいて、搬送機構10および印刷部20,30を動作制御する。これにより、印刷基材9の第1面91に第1基準データD11が印刷されるとともに、印刷基材9の第2面92のうち、第1基準データD11が印刷された部分の裏側の部分に、第2基準データD12が印刷される。また、印刷基材9の第1面91に第1学習用データD21が印刷されるとともに、印刷基材9の第2面92のうち、第1学習用データD21が印刷された部分の裏側の部分に、第2学習用データD22が印刷される。
【0053】
また、学習処理時には、第1カメラ41が、第1基準データD11および第2基準データD12を印刷した印刷基材9の第1面91を撮影して第1基準画像D41を取得し、第2カメラ42が、第1基準データD11および第2基準データD12を印刷した印刷基材9の第2面92を撮影して第2基準画像D42を取得する。また、学習処理時には、第1カメラ41が、第1学習用データD21および第2学習用データD22を印刷した印刷基材9の第1面91を撮影して第1学習用画像D51を取得し、第2カメラ42が、第1学習用データD21および第2学習用データD22を印刷した印刷基材9の第2面92を撮影して第2学習用画像D52を取得する。
【0054】
学習部83は、教師あり機械学習アルゴリズムにより学習処理を行い、第1推定モデルM1および第2推定モデルM2を生成する。具体的には、学習部83は、第1学習用データD21および第2学習用データD22を入力変数とし、歪み量計測部82において計測された第1歪み量D61を教師データとして、教師あり機械学習アルゴリズムにより、学習処理を行う。また、学習部83は、第1学習用データD21および第2学習用データD22を入力変数とし、歪み量計測部82において計測された第2歪み量D62を教師データとして、教師あり機械学習アルゴリズムにより、学習処理を行う。学習部83は、このような学習処理を、所定の終了条件を満たすまで繰り返す。これにより、学習部83は、入力された画像データに基づいて、印刷基材9の第1面91における歪み量を示す推定結果を出力できる第1推定モデルM1と、印刷基材9の第2面92における歪み量を示す推定結果を出力できる第2推定モデルM2とを生成する。学習処理の詳細については、後述する。
【0055】
学習部83は、機械学習アルゴリズムとして、例えば、ディープラーニング(多層ニューラルネットワーク)を使用する。ただし、学習部83が使用する機械学習アルゴリズムは、ディープラーニングに限定されるものではない。ディープラーニングに代えて、マルコフ確率場(MRF)やボルツマンマシンなど他の機械学習アルゴリズムを使用してもよい。
【0056】
推定部84は、入稿データD31,D32に基づいて、その入稿データD31,D32を印刷したときの印刷基材9の歪み量を推定するための処理部である。推定部84は、学習部83により生成された推定モデルM1,M2を使用して、推定処理を行う。
【0057】
推定部84は、データ取得部81が取得した第1入稿データD31および第2入稿データD32を、第1推定モデルM1へ入力する。すると、第1推定モデルM1から、入稿データD31,D32に対応する印刷基材9の第1面91の歪み量が出力される。推定部84は、この第1推定モデルM1から出力された第1面91の歪み量を、第1推定結果D71とする。
【0058】
また、推定部84は、データ取得部81が取得した第1入稿データD31および第2入稿データD32を、第2推定モデルM2へ入力する。すると、第2推定モデルM2から、入稿データD31,D32に対応する印刷基材9の第2面92の歪み量が出力される。推定部84は、この第2推定モデルM2から出力された第2面92の歪み量を、第2推定結果D72とする。推定部84は、こうして得られた第1推定結果D71および第2推定結果D72を補正値算出部85へと引き渡す。
【0059】
補正値算出部85は、第1推定結果D71および第2推定結果D72に基づいて、第1入稿データD31および第2入稿データD32を補正するための処理部である。補正値算出部85は、推定結果D71,D72が示す印刷基材9の歪み量をキャンセルする方向の補正値D81,D82を算出する。具体的には、補正値算出部85は、第1推定結果D71が示す印刷基材9の第1面91の歪み量をキャンセルする方向の第1補正値D81と、第2推定結果D72が示す印刷基材9の第2面92の歪み量をキャンセルする方向の第2補正値D82とを算出する。そして、補正値算出部85は、算出した補正値D81,D82を、動作制御部86へと引き渡す。
【0060】
動作制御部86は、搬送機構10、第1印刷部20および第2印刷部30の各部を動作制御するための処理部である。動作制御部86は、基準データD11,D12を印刷する場合には、基準データD11,D12に基づく指令値を、搬送機構10、第1印刷部20および第2印刷部30へ出力する。これにより、搬送機構10、第1印刷部20および第2印刷部30を動作させて、印刷基材9の第1面91に第1基準データD11、第2面92に第2基準データD12を印刷する。
【0061】
また、動作制御部86は、学習用データD21,D22を印刷する場合には、学習用データD21,D22に基づく指令値を、搬送機構10、第1印刷部20および第2印刷部30へ出力する。これにより、搬送機構10、第1印刷部20および第2印刷部30を動作させて、印刷基材9の第1面91に第1学習用データD21、第2面92に第2学習用データD22を印刷する。
【0062】
一方、動作制御部86は、入稿データD31,D32を印刷する場合には、入稿データD31,D32に基づく指令値を、それぞれ、補正値D81,D82により補正する。すなわち、動作制御部86は、第1入稿データD31に基づく指令値を第1補正値D81により補正し、第2入稿データD32に基づく指令値を第2補正値D82により補正する。そして、動作制御部86は、補正後の指令値を、搬送機構10、第1印刷部20および第2印刷部30へ出力する。これにより、搬送機構10、第1印刷部20および第2印刷部30を動作させて、印刷基材9の第1面91に第1入稿データD31を、第2面92に第2入稿データD32を印刷する。
【0063】
<3.学習処理について>
続いて、上述した印刷装置1において実行される学習処理について、説明する。
図5は、学習処理の流れを示すフローチャートである。この学習処理は、製品としての印刷物を得るための入稿データD31,D32の印刷よりも前に、実行される。
【0064】
図5に示すように、学習処理を行うときには、まず、データ取得部81が、サーバ70から第1基準データD11および第2基準データD12を読み出す。そして、データ取得部81は、歪み量計測部82と動作制御部86とに、第1基準データD11および第2基準データD12を入力する(ステップS101)。
【0065】
図6は、基準データD11,D12の例を示した図である。
図6のように、基準データD11,D12は、複数のグリッドマーク51のみを有する画像データである。
【0066】
グリッドマーク51は、基準データD11,D12および学習用データD21,D22の所定の座標位置を示すマークである。このため、第1基準データD11におけるグリッドマーク51の位置と、第1学習用データD21におけるグリッドマーク51の位置とは一致する。また、第2基準データD12におけるグリッドマーク51の位置と、第2学習用データD22におけるグリッドマーク51の位置とは一致する。グリッドマーク51は、基準データD11,D12および学習用データD21,D22の全体に亘って配列されている。また、複数のグリッドマーク51は、印刷基材9の搬送方向および幅方向に沿って、互いに間隔をあけて配列されている。
【0067】
図7は、黒色の背景501上に配置されたグリッドマーク51と、白色の背景502上に配置されたグリッドマーク51を拡大して示した図である。
図7に示すように、本実施形態のグリッドマーク51は、ベース図形511とマーク図形512とで構成されている。ベース図形511は、白色(濃度値0%)に塗り潰された矩形の図形である。マーク図形512は、ベース図形511の前面側に重なる黒色(濃度値100%)の十字状の図形である。
図7の上側の領域に示すように、黒色の背景501の上にグリッドマーク51が配置された場合、背景501とマーク図形512とは、同じ黒色であるが、マーク図形512は、白色のベース図形511上にあるため、マーク図形512を識別できる。また、
図7の下側の領域に示すように、白色の背景502の上にグリッドマーク51が配置された場合、ベース図形511と背景502は、同じ白色であるため境界が識別できないが、黒色のマーク図形512は識別できる。
【0068】
このように、本実施形態では、グリッドマーク51が、白色のベース図形511と、ベース図形511の前面側に重なる黒色のマーク図形512とで構成されるため、背景となる画像の色にかかわらず、マーク図形512を識別することができる。
【0069】
また、このような構成により、グリッドマーク51の印刷時には、白色のベース図形511部分へのインクの吐出を行わない。このため、グリッドマーク51の印刷時には、黒色のマーク図形512部分へのみインクが吐出される。マーク図形512は、細い縦線と細い横線とを組み合わせた十字状の図形であるため、インクの吐出領域が2次元的に連続しない。このため、マーク図形512の印刷によって、インクを原因とした印刷基材9の伸縮が生じにくい。このため、グリッドマーク51のみで構成される基準データD11,D12の印刷時には、印刷基材9の伸縮は殆ど生じない。すなわち、基準データD11,D12の印刷時には、印刷基材9の歪みは殆ど生じない。
【0070】
動作制御部86は、第1基準データD11および第2基準データD12に基づいて、搬送機構10、第1印刷部20および第2印刷部30の動作を制御する。これにより、印刷基材9の第1面91に第1基準データD11を印刷するとともに、第2面92に第2基準データD12を印刷する(ステップS102)。すなわち、印刷基材9の両面のそれぞれに、複数のグリッドマーク51が印刷される。
【0071】
また、第1カメラ41は、第1基準データD11が印刷された印刷基材9の第1面91を撮影し、第1基準画像D41を取得する。第2カメラ42は、第2基準データD12が印刷された印刷基材9の第2面92を撮影し、第2基準画像D42を取得する(ステップS103)。撮影により得られた基準画像D41,D42は、カメラ41,42からコンピュータ80へ送信されて、歪み量計測部82へ入力される。
【0072】
そして、歪み量計測部82は、第1基準画像D41および第2基準画像D42からグリッドマーク51の位置を抽出する(ステップS104)。そして、それらのグリッドマーク51の位置を、グリッドマーク51の基準位置とする。この基準位置は、印刷基材9の歪みが生じていない場合のグリッドマーク51の位置として用いられる。
【0073】
続いて、データ取得部81が、サーバ70から第1学習用データD21および第2学習用データD22を読み出す。そして、データ取得部81は、学習部83と動作制御部86とに、学習用データD21,D22を引き渡す(ステップS105)。
【0074】
図8および
図9は、学習用データD21,D22の例を示した図である。
図8および
図9のように、学習用データD21,D22は、絵柄やパターン等の本体画像52に、複数のグリッドマーク51が組み込まれた画像データである。第1学習用データD21に含まれる複数のグリッドマーク51の位置は、第1基準データD11の複数のグリッドマーク51の位置と同じである。また、第2学習用データD22に含まれる複数のグリッドマーク51の位置は、第2基準データD12の複数のグリッドマーク51の位置と同じである。
【0075】
学習用データD21,D22において、複数のグリッドマーク51は、本体画像52の前面において、間隔を空けて配列されている。グリッドマーク51は本体画像52の前面に配置されているため、グリッドマーク51が配置された領域においては、本体画像52は欠けている。複数の第1学習用データD21は、互いに異なる本体画像52を有するものとされる。また、複数の第2学習用データD22は、互いに異なる本体画像52を有するものとされる。
【0076】
印刷基材9の歪み量は、印刷基材9に吐出されるインクの量により異なる。このため、学習用データD21,D22の本体画像52は、濃度値または印字率が異なる複数の領域を含む画像であることが望ましい。これにより、濃度値または印字率に応じた印刷基材9の歪み量を学習することができる。学習用データD21,D22の本体画像52は、
図8のように、濃度値の異なる複数の領域を含むテストパターンであってもよい。また、学習用データD21,D22の本体画像52には、
図9のように、任意の風景画や風景写真、その他の任意の画像を用いることができる。例えば、本体画像52として、製品としての印刷物の画像データである入稿データD31,D32や、これら近似した画像を用いてもよい。
【0077】
動作制御部86は、第1学習用データD21および第2学習用データD22に基づいて、搬送機構10、第1印刷部20および第2印刷部30の動作を制御する。これにより、印刷基材9の第1面に第1学習用データD21を印刷するとともに、第2面92に第2学習用データD22を印刷する(ステップS106)。すなわち、印刷基材9の両面に、学習用データD21,D22が印刷される。
【0078】
また、第1カメラ41は、第1学習用データD21が印刷された印刷基材9の第1面91を撮影し、第1学習用画像D51を取得する。第2カメラ42は、第2学習用データD22が印刷された印刷基材9の第2面92を撮影し、第2学習用画像D52を取得する(ステップS107)。撮影により得られた学習用画像D51,D52は、カメラ41,42からコンピュータ80へ送信されて、歪み量計測部82へ入力される。
【0079】
歪み量計測部82は、第1学習用画像D51および第2学習用画像D52に基づいて、印刷基材9の歪み量である第1歪み量D61および第2歪み量D62を計測する(ステップS108:歪み量計測工程)。具体的には、歪み量計測部82は、第1学習用画像D51から、印刷基材9の第1面91における複数のグリッドマーク51の位置を抽出する。そして、歪み量計測部82は、それらのグリッドマーク51の位置と、ステップS104で得られたグリッドマーク51の基準位置とを比較して、印刷基材9の第1面91における歪み量である第1歪み量D61を計測する。
【0080】
また、歪み量計測部82は、第2学習用画像D52から、印刷基材9の第2面92における複数のグリッドマーク51の位置を抽出する。そして、歪み量計測部82は、それらのグリッドマーク51の位置と、ステップS104で得られたグリッドマーク51の基準位置とを比較して、印刷基材9の第2面92における歪み量である第2歪み量D62を計測する。
【0081】
上述の通り、グリッドマーク51は、白色のベース図形511と、黒色のマーク図形512とで構成される。このため、背景となる本体画像52の色や濃度にかかわらず、第1学習用画像D51および第2学習用画像D52内の全てのグリッドマーク51の位置を認識できる。したがって、印刷基材9の歪み量D61,D62を精度よく計測できる。
【0082】
図10は、印刷基材9の歪み量の計測方法の一例を示した図である。
図10の例では、歪み量計測部82は、第1学習用画像D51中の隣り合うグリッドマーク51の間隔を計測する。そして、計測されたグリッドマーク51の間隔と、第1基準画像D41における基準位置のグリッドマーク51の間隔との差を、第1歪み量D61として算出する。歪み量計測部82は、同様に、第2学習用画像D52中の隣り合うグリッドマーク51の間隔を計測する。そして、計測されたグリッドマーク51の間隔と、第2基準画像D42における基準位置のグリッドマーク51の間隔との差を、第2歪み量D62として算出する。
【0083】
すなわち、
図10の方法では、隣り合うグリッドマーク51の間隔の変化を計測する。歪み量計測部82は、このような歪み量の計測を、学習用画像D51,D52中の全ての隣り合うグリッドマーク51について行う。その結果、印刷基材9の第1面91および第2面92のそれぞれにおける歪み量の分布を示すヒートマップが得られる。
【0084】
印刷基材9が伸縮した場合、印刷基材9上の各領域の変位量は、その領域の伸縮量だけではなく、他の領域の伸縮量も影響する。このため、印刷基材9の各位置での歪み量は、それらの伸縮量が累積した値となる。しかしながら、
図10の計測方法により得られるヒートマップは、印刷基材9の領域ごとの局所的な歪み量を表すものとなる。したがって、当該ヒートマップは、後述するステップS109において、教師データとして取り扱いやすい。
【0085】
図11は、印刷基材9の歪み量の計測方法の他の例を示した図である。
図11の例では、歪み量計測部82は、第1学習用画像D51中の各グリッドマーク51の位置を計測する。具体的には、第1学習用画像D51中の特定のグリッドマーク51を原点として、当該原点に対する他のグリッドマーク51の座標位置を、それぞれ計測する。そして、計測された座標位置と、第1基準画像D41における基準位置のグリッドマーク51の座標位置との差を、第1歪み量D61として算出する。
【0086】
歪み量計測部82は、同様に、第2学習用画像D52中の各グリッドマーク51の位置を計測する。具体的には、第2学習用画像D52中の特定のグリッドマーク51を原点として、当該原点に対する他のグリッドマーク51の座標位置を、それぞれ計測する。そして、計測された座標位置と、第2基準画像D42における基準位置のグリッドマーク51の座標位置との差を、第2歪み量D62として算出する。
【0087】
すなわち、
図11の方法では、印刷基材9における各グリッドマーク51の変位量を計測する。歪み量計測部82は、このような歪み量の計測を、学習用画像D51,D52中の全てのグリッドマーク51について行う。その結果、印刷基材9の第1面91および第2面92のそれぞれにおける歪み量の分布を示すベクトルマップが得られる。
【0088】
図11の計測方法により得られるベクトルマップは、印刷基材9の各部の座標位置の変位量を表すものとなる。この場合、後述する推定モデルM1,M2から出力される推定結果D71,D72も、印刷基材9の各部の座標位置の変位量を表すものとなる。このため、
図11の計測方法を採用すれば、補正値算出部85において、印刷基材9に吐出されるインクの座標位置を補正する際に、推定結果を利用しやすくなる。
【0089】
なお、第1学習用画像D51中に撮影された第1学習用データD21は、第1面91および第2面92への印刷前の未印刷状態の印刷基材9の第1面91に対して印刷が行われたものである。また、第1学習用画像D51の撮影時には、第1面91に第1学習用データD21が印刷され、第2面92に第2学習用データD22が印刷された後の両面印刷状態であった。このため、第1学習用画像D51から得られる第1歪み量D61は、未印刷状態に対する両面印刷状態における印刷基材9の第1面91の歪み量を示すものとなる。
【0090】
また、第2学習用画像D52中に撮影された第2学習用データD22は、第1面91に第1学習用データD21が印刷された後、かつ、第2面92への印刷前の片面印刷状態の印刷基材9の第2面92に対して印刷が行われたものである。また、第2学習用画像D52の撮影時には、第1面91に第1学習用データD21が印刷され、第2面92に第2学習用データD22が印刷された後の両面印刷状態であった。このため、第2学習用画像D52から得られる第2歪み量D62は、片面印刷状態に対する両面印刷状態における印刷基材9の第2面92の歪み量を示すものとなる。
【0091】
歪み量計測部82は、得られたヒートマップまたはベクトルマップを、印刷基材9の歪み量D61,D62として、学習部83へ入力する。
【0092】
学習部83は、2つの画像データに基づいて印刷基材9の歪み量の推定するための2つの推定モデルM1,M2を生成するために、教師有り機械学習プログラムにより、機械学習を行う(ステップS109:学習工程)。
【0093】
学習部83は、予め、第1推定モデルM1および第2推定モデルM2を用意する。第1推定モデルM1は、入力された2つの画像データに基づいて、印刷基材9の第1面91の歪み量を推定するための推定モデルである。第2推定モデルM2は、入力された2つの画像データに基づいて、印刷基材9の第2面92の歪み量を推定するための推定モデルである。
【0094】
学習部83は、第1推定モデルM1に対して、第1学習用データD21および第2学習用データD22を入力変数とし、ステップS108で計測された印刷基材9の第1歪み量D61を教師データとして、教師あり機械学習プログラムにより、機械学習を行う。学習部83は、第1推定モデルM1から出力される推定結果が、教師データである第1歪み量D61に近づくように、第1推定モデルM1のパラメータを調整する。
【0095】
また、学習部83は、第2推定モデルM2に対して、第1学習用データD21および第2学習用データD22を入力変数とし、ステップS108で計測された印刷基材9の第2歪み量D62を教師データとして、教師あり機械学習プログラムにより、機械学習を行う。学習部83は、第2推定モデルM2から出力される推定結果が、教師データである第2歪み量D62に近づくように、第2推定モデルM2のパラメータを調整する。
【0096】
その後、学習部83は、所定の終了条件を満たすか否かを判定する(ステップS110)。終了条件は、例えば、推定結果と教師データとの差が、予め設定された閾値よりも小さくなること、とすればよい。また、終了条件は、ステップS105~S109の繰り返し回数が、予め設定された閾値に到達すること、としてもよい。終了条件を満たしていない場合(ステップS110:No)、コンピュータ80は、上述したステップS105~S109の処理を繰り返す。その際、学習用データD21,D22として、異なる学習用データD21,D22を使用する。このとき、既に使用した第1学習用データD21と第2学習用データD22とを、組み合わせを異ならせて使用してもよい。
【0097】
ステップS105~S109の学習処理が繰り返されることにより、第1推定モデルM1および第2推定モデルM2の推定精度が向上する。やがて、終了条件が満たされると(ステップS110:Yes)、学習部83は、学習処理を終了する。これにより、入力された2つの画像データに基づいて、その2つ画像データを表裏に印刷したときの印刷基材9の歪み量を精度よく推定できる、学習済みの第1推定モデルM1および第2推定モデルM2が生成される。学習部83は、生成された推定モデルM1,M2を、推定部84へ提供する。
【0098】
このようにして生成された第1推定モデルM1に第1入稿データD31および第2入稿データD32を入力すると、第1推定モデルM1は、第1推定結果D71を出力する。第1推定結果D71は、第1面91および第2面92への印刷前の未印刷状態に対する、第1面91に第1入稿データD31が印刷され、かつ、第2面92に第2入稿データD32が印刷された後の両面印刷状態における、印刷基材9の第1面91の歪み量を推定したものである。
【0099】
また、このようにして生成された第2推定モデルM2に第1入稿データD31および第2入稿データD32を入力すると、第2推定モデルM2は、第2推定結果D72を出力する。第2推定結果D72は、第1面91に第1入稿データD31が印刷され、かつ、第2面92への印刷前の片面印刷状態に対する、両面印刷状態における、印刷基材9の第2面92の歪み量を推定したものである。
【0100】
なお、ステップS110において、第1推定モデルM1および第2推定モデルM2の一方のみの終了条件が満たされた場合、当該推定モデルに対する学習処理を終了し、他方の推定モデルに対してのみ、ステップS105~S109の学習処理を繰り返すようにしてもよい。これにより、推定モデルM1,M2に対する過学習を抑制できる。
【0101】
<4.印刷処理について>
続いて、上述した学習処理の後に、印刷装置1において実行される印刷処理について、説明する。
図12は、印刷処理の流れを示すフローチャートである。
【0102】
図12に示すように、印刷処理を行うときには、まず、印刷すべき第1入稿データD31および第2入稿データD32を取得する(ステップS201:データ取得工程)。具体的には、データ取得部81が、サーバ70から第1入稿データD31および第2入稿データD32を読み出す。そして、データ取得部81は、推定部84と動作制御部86とに、入稿データD31,D32を入力する。
【0103】
推定部84は、学習部83により生成された第1推定モデルM1および第2推定モデルM2のそれぞれに、第1入稿データD31および第2入稿データD32を入力する。そうすると、第1推定モデルM1は、印刷基材9の第1面91の歪み量を推定した第1推定結果D71を出力する。また、第2推定モデルM2は、印刷基材9の第2面92の歪み量を推定した第2推定結果D72を出力する(ステップS202:推定工程)。推定部84は、得られた推定結果D71,D72を、補正値算出部85へ出力する。
【0104】
補正値算出部85は、推定部84から出力された推定結果D71,D72に基づいて、補正値D81,D82を算出する(ステップS203)。具体的には、補正値算出部85は、第1推定結果D71に基づいて、第1面91への第1入稿データD31の印刷に用いる第1補正値D81を算出する。また、補正値算出部85は、第2推定結果D72に基づいて、第2面92への第2入稿データD32の印刷に用いる第2補正値D82を算出する。
【0105】
これらの補正値D81,D82は、印刷基材9に対するインク滴の吐出位置を微調整するための制御値である。補正値算出部85は、推定結果D71,D72が示す印刷基材9の歪みをキャンセルする方向に、補正値D81,D82を設定する。例えば、印刷基材9の伸縮により、印刷基材9のある部分が幅方向の一方側へ変位すると推定される場合、補正値算出部85は、インク滴の吐出位置を幅方向の他方側へ補正するように、補正値D81,D82を算出する。そして、補正値算出部85は、算出された補正値D81,D82を、動作制御部86へ入力する。
【0106】
その後、動作制御部86は、データ取得部81から取得した第1入稿データD31および第2入稿データD32と、補正値算出部85から取得した第1補正値D81および第2補正値D82とに基づいて、搬送機構10、第1印刷部20および第2印刷部を動作制御する。このとき、動作制御部86は、第1入稿データD31により指定されるインクの吐出位置を、第1補正値D81に従って補正する。この補正は、例えば、第1入稿データD31のピクセルごとに行う。そして、印刷基材9の第1面91の補正後の吐出位置に、インク滴を吐出する。これにより、印刷基材9の第1面91に、第1入稿データD31が印刷される。また、同様に、動作制御部86は、第2入稿データD32により指定されるインクの吐出位置を、第2補正値D82に従って補正する。これにより、印刷基材9の第2面92に、第2入稿データD32が印刷される(ステップS204:印刷工程)。
【0107】
以上のように、この印刷装置1では、第1入稿データD31および第2入稿データD32の印刷よりも前に、入稿データD31,D32に基づいて、インクによる印刷基材9の第1面91の歪み量と、第2面92の歪み量をそれぞれ推定する。その推定結果である第1推定結果D71では、未印刷状態に対する両面印刷状態における第1面91の歪み量が推定される。また、第2推定結果D72では、片面印刷状態に対する両面印刷状態における第2面92の歪み量が推定される。
【0108】
このため、第1入稿データD31の印刷後に生じる、第1入稿データD31および第2入稿データD32の印刷によって生じる印刷基材9の歪みを考慮して、第1印刷部20による第1入稿データD31の印刷を行うことができる。また、第2入稿データD32の印刷前に生じる、第1入稿データD31の印刷によって生じる印刷基材9の伸縮による歪みと、第2入稿データD32の印刷後に生じる、第2入稿データD32の印刷によって生じる印刷基材9の伸縮による歪みと、を考慮して、第2印刷部30による第2入稿データD32の印刷を行うことができる。その結果、両面印刷を行う場合であっても、印刷画像の歪みが小さく、見当ずれも少ない、高品質な印刷物を得ることができる。
【0109】
<5.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
【0110】
上記の実施形態では、グリッドマーク51が、白色のベース図形511と、黒色のマーク図形512とで構成されていた。しかしながら、ベース図形511の色は、必ずしも白色に限定されるものではない。また、マーク図形512の色は、必ずしも黒色に限定されるものではない。例えば、ベース図形511が黒色で、マーク図形512が白色であってもよい。また、ベース図形511およびマーク図形512は、他の色であってもよい。すなわち、グリッドマーク51は、ベース図形511が第1の色で形成され、マーク図形512が、第1の色とは異なる第2の色で形成されていればよい。また、ベース図形511およびマーク図形512の形状も、上記の実施形態とは異なる形状であってもよい。
【0111】
また、上記の実施形態では、学習処理において、推定モデルM1,M2に入力される情報は、画像データである学習用データD21,D22のみであった。しかしながら、学習用データD21,D22に加えて、印刷装置1内の各種のセンサの検出値や、印刷基材9の種類などの付加的な情報を、推定モデルM1,M2に入力してもよい。その場合、印刷処理においても、推定モデルM1,M2に対して、入稿データD31,D32に加えて、上記の付加的な情報を入力するとよい。このようにすれば、推定モデルM1,M2は、付加的な情報も考慮して、より精度の高い推定結果D71,D72を出力することが可能となる。
【0112】
また、上記の実施形態では、学習処理において、学習用画像D51,D52における学習用データD21,D22が印刷された印刷基材9上のグリッドマーク51の位置を、基準画像D41,D42における基準データD11,D12が印刷された印刷基材9上のグリッドマーク51の位置と比較することにより、印刷基材9の歪み量を計測した。しかしながら、学習用画像D51,D52の両面印刷後の歪み量を計測するための比較対象として、基準データD11,D12を用いなくてもよい。その場合、学習用画像D51,D52に写された印刷基材9上のグリッドマーク51の位置と、学習用データD21,D22におけるグリッドマーク51の位置とを比較することにより、印刷基材9の歪み量を計測してもよい。
【0113】
また、上記の実施形態では、推定部84において、第1面91の歪み量を推定した第1推定結果D71を出力する第1推定モデルM1と、第2面92の歪み量を推定した第2推定結果D72を出力する第2推定モデルM2との2つの推定モデルが用いられた。しかしながら、第1入稿データD31および第2入稿データD32を入力すると、第1推定結果D71および第2推定結果D72の双方を出力する単一の推定モデルが用いられてもよい。
【0114】
そのような単一の推定モデルを用いる場合、当該推定モデルの学習工程においては、第1学習用データD21および第2学習用データD22を入力変数とするとともに、第1歪み量D61および第2歪み量D62を教師データとして、機械学習を行う。
【0115】
また、上記の実施形態では、
図2のように、印刷部20,30ではそれぞれ、各ヘッド21~24,31~34において、ノズル201が幅方向に一列に配置されていた。しかしながら、各ヘッド21~24,31~34において、ノズル201が2列以上に配置されていてもよい。
【0116】
また、上記の実施形態の印刷装置1は、印刷部20,30ではそれぞれ、4つのヘッド21~24,31~34を備えていた。しかしながら、印刷部20,30がそれぞれ備えるヘッドの数は、1~3つ、あるいは5つ以上であってもよい。例えば、印刷部20,30はそれぞれ、K,C,M,Yの各色に加えて、特色のインクを吐出するヘッドを備えていてもよい。
【0117】
また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0118】
1 印刷装置
9 印刷基材
10 搬送機構
20 第1印刷部
30 第2印刷部
41 第1カメラ
42 第2カメラ
51 グリッドマーク
52 本体画像
80 コンピュータ
81 データ取得部
82 歪み量計測部
83 学習部
84 推定部
85 補正値算出部
86 動作制御部
91 第1面
92 第2面
511 ベース図形
512 マーク図形
D11 第1基準データ
D12 第2基準データ
D21 第1学習用データ
D22 第2学習用データ
D31 第1入稿データ
D32 第2入稿データ
D41 第1基準画像
D42 第2基準画像
D51 第1学習用画像
D52 第2学習用画像
D61 第1歪み量
D62 第2歪み量
D71 第1推定結果
D72 第2推定結果
D81 第1補正値
D82 第2補正値
M1 第1推定モデル
M2 第2推定モデル