IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 太平洋セメント株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-焼成物の製造方法 図1
  • 特開-焼成物の製造方法 図2
  • 特開-焼成物の製造方法 図3
  • 特開-焼成物の製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139141
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】焼成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/28 20060101AFI20241002BHJP
   G21F 9/30 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
G21F9/28 Z
G21F9/30 517A
G21F9/30 511A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049952
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小松 浩平
(72)【発明者】
【氏名】明戸 剛
(72)【発明者】
【氏名】石田 泰之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 崇幸
(72)【発明者】
【氏名】中村 朋道
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 務
(57)【要約】
【課題】ダスティングが抑制された焼成物の製造方法を提供すること。
【解決手段】土壌と、カルシウム源と、リン源を含む混合材料を焼成する工程を含む焼成物の製造方法であって、
混合材料中のリン源として(A)リン酸カルシウム及び(B)リン含有廃棄物を含み、(A)リン酸カルシウムと、(B)リン含有廃棄物との質量比[(B)/(A)]が、P25換算したときに5/95~50/50であり、
混合材料中のリン源の含有量が、当該焼成物のリン含有量をP25換算したときに0.7質量%以上となる量である、
焼成物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌と、カルシウム源と、リン源を含む混合材料を焼成する工程を含む焼成物の製造方法であって、
混合材料中のリン源として(A)リン酸カルシウム及び(B)リン含有廃棄物を含み、(A)リン酸カルシウムと、(B)リン含有廃棄物との質量比[(B)/(A)]が、P25換算したときに、5/95~50/50であり、
混合材料中のリン源の含有量が、当該焼成物のリン含有量をP25換算したときに、0.7質量%以上となる量である、
焼成物の製造方法。
【請求項2】
混合材料中のリン源は、平均粒子径が600μm以下である、請求項1記載の焼成物の製造方法。
【請求項3】
焼成温度が、1200~1550℃である、請求項1記載の焼成物の製造方法。
【請求項4】
リン含有廃棄物が、下水汚泥廃棄物、農水産系リン含有廃棄物、工業系リン含有廃棄物及び食品系リン含有廃棄物から選択される1以上を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の焼成物の製造方法。
【請求項5】
土壌と、カルシウム源と、リン源を含む混合材料を焼成する工程を含む焼成物のダスティングの抑制方法であって、
混合材料中のリン源として(A)リン酸カルシウム及び(B)リン含有廃棄物を含み、(A)リン酸カルシウムと、(B)リン含有廃棄物との質量比[(B)/(A)]が、P25換算したときに、5/95~50/50であり、
混合材料中のリン源の含有量が、当該焼成物のリン含有量をP25換算したときに、0.7質量%以上となる量である、
焼成物のダスティングの抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所の大きな事故により、放射性セシウムが外部の環境中に広範囲に放出され、堆積した。この放射性セシウムは、セシウム134とセシウム137が1:1の割合で放出されたとされているが、特にセシウム137においては、半減期が30年であり、長期間に亘って人体に悪影響を与えうる。そこで、人の健康及び生活環境に及ぼす影響を低減するために、堆積した放射性セシウムが付着した土壌等の放射性セシウム汚染廃棄物から放射性セシウムを除去することが求められている。
【0003】
従来、放射性セシウム汚染土壌中の放射性セシウムの除去方法として、例えば、放射性セシウム汚染土壌と、特定の粒度分布を有するカルシウム源を混合して混合材料を得た後、該混合材料を焼成して土壌中の放射性セシウムを揮発させる方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-128174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した混合材料の焼成により生成する焼成物は、主成分がケイ酸カルシウム(2CaO・SiO2)に少量のAl23やFe23が固溶したビーライトと呼ばれる鉱物であり、このビーライトの結晶層には、α型、α‘ 型、β型、γ型といった多形が存在する。この多形は、焼成時の高温域ではα型であるが、冷却によりα‘型→β型→γ型へと相転移が起こりやすく、特にα‘型又はβ型からγ型へ相転移すると、急激な体積膨張を伴うため、粉状化する現象(以下、「ダスティング」と称する)が生じることが知られている。このようなダスティングが起こると、ハンドリング性が悪化し、またダストが気流に乗って逆流し、装置に目詰まりを生じる等の悪影響により安定した操業が困難になる。
そこで、本発明者らは、このような問題を解決すべく検討した結果、前記混合材料中にリン源としてリン酸カルシウムを、焼成後に得られる焼成物中のリン含有量をP25換算したときに少なくとも2質量%となる量で含有させることにより、ダスティングを抑制できることを見出した(参考例)。しかし、リン酸カルシウム試薬を使用することから、製造コストの増大が避けられないという課題が生じた。
本発明の課題は、ダスティングが抑制された焼成物の製造方法及び焼成物のダスティングの抑制方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、前記混合材料を調製する際に、リン源として(A)リン酸カルシウムと(B)リン含有廃棄物とを組み合わせたうえで、P25換算したときの両者の量比、及び焼成後に得られる焼成物中のリン含有量のP25換算値を指標に混合材料中のリン源の含有量を制御することにより、混合材料中のSiO2との反応性が向上し、焼成後に焼成物を冷却したとしてもγ型への相転移が起こり難く、安定なα型のビーライトが維持されるため、焼成物のダスティングを抑制できることを見出した。しかも、リン源の含有量を大幅に低減したとしても焼成物のダスティングを充分抑制できるため、コストを大きく低減できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔5〕を提供するものである。
〔1〕土壌と、カルシウム源と、リン源を含む混合材料を焼成する工程を含む焼成物の製造方法であって、
混合材料中のリン源として(A)リン酸カルシウム及び(B)リン含有廃棄物を含み、(A)リン酸カルシウムと、(B)リン含有廃棄物との質量比[(B)/(A)]が、P25換算したときに、5/95~50/50であり、
混合材料中のリン源の含有量が、当該焼成物のリン含有量をP25換算したときに、0.7質量%以上となる量である、
焼成物の製造方法。
〔2〕混合材料中のリン源は、平均粒子径が600μm以下である、前記〔1〕記載の焼成物の製造方法。
〔3〕焼成温度が、1200~1550℃である、前記〔1〕又は〔2〕記載の焼成物の製造方法。
〔4〕リン含有廃棄物が、下水汚泥廃棄物、農水産系リン含有廃棄物、工業系リン含有廃棄物及び食品系リン含有廃棄物から選択される1以上を含む、前記〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の焼成物の製造方法。
〔5〕土壌と、カルシウム源と、リン源を含む混合材料を焼成する工程を含む焼成物のダスティングの抑制方法であって、
混合材料中のリン源として(A)リン酸カルシウム及び(B)リン含有廃棄物を含み、(A)リン酸カルシウムと、(B)リン含有廃棄物との質量比[(B)/(A)]が、P25換算したときに、5/95~50/50であり、
混合材料中のリン源の含有量が、当該焼成物のリン含有量をP25換算したときに、0.7質量%以上となる量である、
焼成物のダスティングの抑制方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、γ型への相転移が起こり難く、安定なα型のビーライトが維持されるため、ダスティングが抑制された焼成物を製造することができる。しかも、リン源の含有量を大幅に低減したとしてもダスティングを充分抑制できるため、低コストで焼成物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例3で使用した焼成前の成型物(混合材料)の外観写真である。
図2】実施例3で得られた焼成物の外観写真である。
図3】比較例1で得られた焼成物の外観写真である。
図4】比較例2で得られた焼成物の外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の焼成物の製造方法は、土壌と、カルシウム源と、リン源を含む混合材料を焼成する工程を含むものであり、混合材料中のリン源として(A)リン酸カルシウムと(B)リン含有廃棄物とを組み合わせたうえで、P25換算したときの両者の量比、及び焼成後に得られる焼成物中のリン含有量のP25換算値を指標に混合材料中のリン源の含有量を制御することを特徴とする。このように制御することで、混合材料中のSiO2との反応性が向上して置換固溶が促進され、安定なα型のビーライトが生成するため、ダスティングを抑制することができる。なお、α型のビーライトは、γ型へ相転移しないことから、急激な体積膨張によるダスティングが抑えられる。
【0011】
(土壌)
土壌としては特に限定されないが、例えば、建設発生土、汚染土壌を挙げることができる。
建設発生土としては、例えば、建設現場の掘削、土木工事の浚渫等によって発生する土壌や残土、山地や丘陵の切土によって発生する土壌を挙げることができる。
汚染土壌としては、例えば、重金属(砒素、クロム等)、有機物(有機塩素化合物、揮発性有機化合物等)、又は放射性物質(セシウム、ヨウ素等)で汚染された土壌を挙げることができる。また、化学工業や冶金関連の工場跡地等から掘削された土壌等も挙げられる。なお、放射性セシウムで汚染された土壌は、がれき等の災害廃棄物が含まれていても構わない。ここで、本明細書において「放射性セシウム」とは、セシウムの放射性同位体であるセシウム134及びセシウム137を意味する。
土壌は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0012】
(カルシウム源)
カルシウム源としては、例えば、生石灰(CaO)、消石灰(Ca(OH)2)、炭酸カルシウム(CaCO3)を挙げることができる。ここで、本明細書において「炭酸カルシウム」とは、工業的に生産された炭酸カルシウム及び天然の石灰石を含む概念である。
カルシウム源は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、より一層のダスティング抑制の観点から、生石灰(CaO)を含むことが好ましい。
【0013】
(リン源)
リン源は、リン酸カルシウム及びリン含有廃棄物を含有するものである。
リン酸カルシウムは、リン酸(H3PO4)とカルシウム(Ca)とが化学的に結び付いてできたものであれば、第一リン酸カルシウム(Ca(H2PO42)、第二リン酸カルシウム(CaHPO4)及び第二リン酸カルシウム(Ca3(PO42)のいずれでもよく、これら3種のうちの2以上の混合物であっても構わない。また、リン酸カルシウムは、水和物の形態であってもよい。
リン含有廃棄物としては、リンを含有する廃棄物であれば特に限定されないが、例えば、下水汚泥廃棄物、農水産系リン含有廃棄物、工業系リン含有廃棄物、食品系リン含有廃棄物を挙げることができる。リン含有廃棄物は、焼却物でも構わない。
下水汚泥廃棄物としては、例えば、一般下水汚泥の他、工業用下水汚泥を挙げることができる。農水産系リン含有廃棄物としては、例えば、家畜や魚類の肉骨粉、麦わら、家畜排泄物を挙げることができる。工業系リン含有廃棄物としては、例えば、リン酸亜鉛化成処理工程排出スラッジ、電子部品及びプリント基板の加工、脱脂工程等の洗浄液を挙げることができる。食品系リン含有廃棄物としては、例えば、おから、醤油かす、残飯を挙げることができる。
リン含有廃棄物は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
リン源は、混合材料中のSiO2との反応性向上、置換固溶の促進の観点から、細粒であることが好ましい。より具体的には、リン源の平均粒子径は、600μm以下が好ましく、300μm以下がより好ましく、100μm以下が更に好ましい。リン源の平均粒子径の下限値は特に限定されないが、製造効率の観点から、5μm以上が好ましく、15μm以上がより好ましく、20μm以上が更に好ましい。ここで、本明細書において「平均粒子径」とは、レーザー回折式測定装置(例えば、マイクロトラック社製、MT3300EXII)を用いて粒子の粒子径を測定し、その測定された粒子の粒子径に基づいて得られた体積累積分布50%における粒子径(メディアン径;d50)をいう。なお、体積累積分布とは、全粒子を体積順に小さい側から積算して累積していった分布をいい、体積累積分布50%における粒子径(メディアン径;d50)とは、体積累積分布値において50%の累積比率に対する粒子の直径をいう。
【0015】
リン源の粒度を調整するために、リン源を粉砕してもよい。
リン源の粉砕には、粉砕機を使用することができる。粉砕機としては、工業用の装置であれば特に限定されないが、例えば、ロールミル、エッジランナーミル、遠心ローラーミル、ディスクミルを挙げることができる。
リン源の粉砕は、リン酸カルシウム及びリン含有廃棄物を個別に粉砕しても、両者を混合してから粉砕してもよい。
【0016】
リン源を粉砕する前に、リン酸カルシウム及びリン含有廃棄物のそれぞれについて水分含有量を調整してもよい。
水分含有量の調整方法は、例えば、土間乾燥、加熱乾燥を挙げることができる。中でも、セメント製造工程から排出される排ガスを抽気して加熱乾燥することが好ましい。加熱乾燥する場合の温度は、好ましくは20~300℃であり、更に好ましくは75~110℃である。
水分調整後のリン源の水分含有量は、製造効率の観点から、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下が更に好ましい。なお、水分含有量の下限値は特に限定されず、0質量%であっても構わない。ここで、本明細書において「水分含有量」とは、試料1kgを105℃で恒量になるまで乾燥し、質量減少量から算出した値をいう。
【0017】
リン源中の(A)リン酸カルシウムと、(B)リン含有廃棄物との質量比[(B)/(A)]は、P25換算したときに、5/95~50/50であるが、混合材料中のSiO2との反応性向上、置換固溶の促進の観点から、6/94~40/60が好ましく、7/93~30/70がより好ましく、8/92~25/75が更に好ましく、13/87~25/75がより更に好ましい。中でも、質量比[(B)/(A)]が、好ましくは8/92~25/75、更に好ましくは13/87~25/75の範囲内であると、混合材料中のリン源の含有量を、焼成後に得られる焼成物のリン含有量のP25換算値が1質量%程度と大幅に低減したとしても、ダスティング抑制効果を充分に発現することができる。なお、リン酸カルシウムが水和物の形態である場合、水和水を除いたリン酸カルシウムの質量に基づいて算出するものとする。
【0018】
(混合材料)
混合材料の調製は、土壌と、カルシウム源と、リン源を含む材料を混合すればよい。
各材料の混合方法は特に限定されないが、例えば、ブレンダーを用いて各材料を混合する方法等が挙げられる。また、後述するロータリーキルンを用いて焼成する場合、ロータリーキルン内で各材料が回転混合されるので、各材料の全部又は一部を、そのままロータリーキルンの窯尻に投入してもよい。
また、各材料の混合順序は特に限定されず、土壌、カルシウム源、リン源及び他の材料を同時に混合しても、各材料を任意の順序で混合してもよい。
【0019】
土壌とカルシウム源との混合割合は、混合材料中のSiO2を指標として混合割合を定めることができる。例えば、カルシウム源がCaOを含む場合、混合材料中のSiO2とCaOとの質量比(CaO/SiO2)が、好ましくは1.0~3.7、より好ましくは1.2~3.5、更に好ましくは1.4~3.3、更に好ましくは1.6~2.7、より更に好ましくは1.8~2.55となるように土壌とカルシウム源とを混合すればよい。このような質量比(CaO/SiO2)とすることで、混合材料中のSiO2との反応性が向上して置換固溶の促進されるため、安定なα型のビーライトを形成しやすくなる。
【0020】
また、混合材料中のSiO2との反応性向上、置換固溶の促進の観点から、混合材料中のSiO2と、Al23及びFe23の合計量との質量比〔SiO2/(Al23+Fe23)〕を制御してもよい。かかる質量比〔SiO2/(Al23+Fe23)〕は、2.0以上が好ましく、2.2以上がより好ましく、2.4以上が更に好ましい。なお、質量比〔SiO2/(Al23+Fe23)〕の上限値は、通常5.0以下であり、好ましくは4.5以下である。
【0021】
混合材料中のリン源の含有量は、焼成物中のリン含有量をP25換算したときに通常0.7質量%以上となる量であるが、混合材料中のSiO2との反応性向上、置換固溶の促進の観点から、0.9質量%以上が好ましく、1.2質量%以上がより好ましく、1.7質量%以上が更に好ましい。なお、混合材料中のリン源の含有量の上限値は、コスト低減の観点から、焼成物中のリン含有量をP25換算したときに、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下が更に好ましい。
【0022】
土壌として放射性セシウムで汚染された土壌を使用する場合、放射性セシウムの揮発を促進し、かつ、放射性セシウムの除去において発生する放射性廃棄物の量をより少なくする観点から、塩素源を含有することができる。
塩素源としては塩素を含む化合物であれば特に限定されないが、例えば、塩化カルシウム(CaCl2)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)を挙げることができる。中でも、塩化カルシウムが好ましい。
塩素源は、混合材料中の塩素とカリウムとのモル比(Cl/K)が、好ましくは1.4以下、より好ましくは0.01~1.3、更に好ましくは0.1~1.2になる量を用いる。かかるモル比(Cl/K)が1.4以下であると、カリウムやナトリウムが揮発せずに放射性セシウムがより多く揮発するため、放射性セシウムの除去において発生する放射性廃棄物の量をより少なくすることができる。
【0023】
(焼成)
混合材料の焼成は、連続式及びバッチ式のいずれでも構わない。
連続式で行う場合、焼成装置として、例えば、ロータリーキルンを使用することができる。バッチ式で行う場合、焼成装置としては、例えば、焼却炉、電気炉、マイクロ波加熱装置を挙げることができる。中でも、ロータリーキルンを用いて連続式で行うことが好ましい。ロータリーキルンを用いることで、各材料が転動して接触率が大きくなり、熱伝導率も良くなるため、混合材料中のSiO2との反応性が向上して置換固溶を促進され、安定なα型のビーライトを形成しやすくなる。
【0024】
混合材料の焼成温度は、1200~1550℃が好ましく、1240~1450℃がより好ましく、1260~1350℃が更に好ましく、1280~1340℃がより更に好ましい。このような温度で焼成することで、混合材料中のSiO2との反応性が向上して置換固溶が促進されるため、安定なα型のビーライトを形成しやすくなる。
【0025】
焼成時間は、混合材料中のSiO2との反応性向上、置換固溶の促進の観点から、15分間以上が好ましく、30分間以上が更に好ましい。焼成時間の上限は特に限定されないが、180分間以下が好ましく、120分間以下が更に好ましい。
【0026】
(冷却)
焼成後、焼成物を冷却する。例えば、焼成後、20~40分以内に焼成物の温度を1000℃以下になるように冷却することで、安定なα型のビーライトを形成しやすくなる。
【0027】
なお、焼成時に生じた排ガスには、揮発したアルカリ金属や、加熱時に飛散した材料(主に、カルシウムやシリカ成分)が含まれているため、通常冷却されて固体になった後、集塵機又はスクラバー等で回収される。回収物は、必要により粗粉と微粉とに分級してもよい。
また、土壌として放射性セシウムで汚染された土壌を使用した場合、排ガスから回収された放射性セシウムは、必要に応じて水洗、吸着等により、更なる減容化処置をした後、コンクリート製の容器等に密閉して保管される。これにより、放射性廃棄物を外部に漏洩することなく、減容化し、保管することができる。
【0028】
焼成物は、必要に応じて粉砕し、セメント混合材、骨材(コンクリート用骨材、アスファルト用骨材)、土木資材(埋め戻し材、盛り土材、路盤材等)等として利用することができる。
【実施例0029】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。但し、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0030】
(使用材料)
(1)使用材料は、以下に示すとおりである。
(i)土壌:真砂土を使用した。
(ii)カルシウム源:生石灰を使用した。
(iii)リン源:
(A)リン酸カルシウムとして第一リン酸カルシウム試薬を使用した。
(B)リン含有廃棄物として旭川浄化センターから発生した下水汚泥焼却灰を使用した。
なお、レーザー回折式測定装置(マイクロトラック社製、MT3300EXII)を用いて測定されたリン源の粒子径(d50)は、いずれも600μm以下であった。
(iv)塩素源:塩化カルシウム試薬を使用した。
(2)各材料の分析
(i)強熱減量
JIS R 5202に準拠し、電気炉にて950℃±25℃で1時間焼成した値を用いた。
(ii)化学組成
土壌及びリン源の化学組成は、ブリケットを作製し蛍光X線分析装置(リガク社製ZSX Primus II)を用いてFP法による半定量分析を実施した。
カルシウム源については、蛍光X線分析装置を使用して生石灰の標準試料を用いた検量線法による定量分析を実施した。
塩素源の塩分濃度は、吸光光度法によって測定した。
(3)分析結果
分析結果を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
実施例1~3
下記の割合の土壌、生石灰及び塩化カルシウムを袋内で攪拌混合した。
・混合材料中のSiO2とCaOとの質量比(CaO/SiO2)が2.0
・混合材料中の塩素とカリウムとのモル比(Cl/k)が1.1
・混合材料中のSiO2と、Al23及びFe23の合計の質量比〔SiO2/(Al23+Fe23)〕が2.42
次に、この混合物にリン源を、焼成物のリン含有量をP25換算したときに2.0質量%、1.5質量%又は1.0質量%となるように添加し、袋内で撹拌混合して混合材料を調製した。なお、リン源は、(A)リン酸カルシウムと(B)リン含有廃棄物との質量比[(B)/(A)]が、P25換算したときに10/90となる割合で含むものである。 表2に各材料の混合比率を示す。
次に、混合材料を、ディスクミルを用いて微粉砕した。微粉砕物をペレット抜出成型機(岩田工業社製)を用いて直径30mm×高さ18mmに成型した後、成型物を白金るつぼに入れ、箱型電気炉を用いて1300℃にて1時間焼成した。
焼成後、25~35分程掛けて電気炉内で1000℃まで冷却した後、焼成物を取り出して外観の観察を行った。なお、本実験においては全てn=2で実施し、外観の再現性を確認した。焼成前の成型物(混合材料)の外観写真を図1に示し、実施例3で得られた焼成物の外観写真を図2に示す。なお、図2は、ダスティングが生じていない焼成物の外観写真である。
【0033】
比較例1
混合物にリン源を焼成物のリン含有量がP25換算量で0.5質量%となるように添加し、袋内で撹拌混合して混合材料を調製したこと以外は、実施例1と同様の操作により焼成物を得た。そして、実施例1と同様に焼成物の外観観察を行った。なお、本実験においては全てn=2で実施し、外観の再現性を確認した。比較例1で得られた焼成物の外観写真を図3示す。なお、図3は、一部にダスティングが発生した焼成物の外観写真である。
【0034】
参考例1
リン源として(A)リン酸カルシウムのみを使用(質量比[(B)/(A)]=0)し、それを混合物に焼成物のリン含有量のP25換算量が2.0質量%となるように添加し、袋内で撹拌混合して混合材料を調製したこと以外は、実施例1と同様の操作により焼成物を得た。そして、実施例1と同様に焼成物の外観観察を行った。なお、本実験においては全てn=2で実施し、外観の再現性を確認した。
【0035】
比較例2~4
リン源として(A)リン酸カルシウムのみを使用(質量比[(B)/(A)]=0)し、それを混合物に焼成物のリン含有量のP25換算量が1.5質量%、1.0質量%又は0.5質量%となるように添加し、袋内で撹拌混合して混合材料を調製したこと以外は、実施例1と同様の操作により焼成物を得た。そして、実施例1と同様に焼成物の外観観察を行った。なお、本実験においては全てn=2で実施し、外観の再現性を確認した。比較例2で得られた焼成物の外観写真を図4示す。なお、図4は、ダスティングが発生した焼成物の外観写真である。
【0036】
実施例4~6
リン源として(A)リン酸カルシウムと(B)リン含有廃棄物との質量比[(B)/(A)]が、P25換算したときに20/80となる割合で含むものを使用し、それを混合物に焼成物のリン含有量のP25換算量が2.0質量%、1.5質量%又は1.0質量%となるように添加し、袋内で撹拌混合して混合材料を調製したこと以外は、実施例1と同様の操作により焼成物を得た。そして、実施例1と同様に焼成物の外観観察を行った。なお、本実験においては全てn=2で実施し、外観の再現性を確認した。
【0037】
実施例1~6、比較例1~4及び参考例1で使用した混合材料の配合比率及び外観観察の結果を表2に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
表2から、リン源として(A)リン酸カルシウムと(B)リン含有廃棄物とを組み合わせたうえで、P25換算したときの両者の量比、及び焼成後に得られる焼成物中のリン含有量のP25換算値を指標に混合材料中のリン源の含有量を制御することにより、焼成物のダスティングを抑制できることがわかる。
図1
図2
図3
図4