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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139160
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】導電材分散液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20241002BHJP
   C08J 3/215 20060101ALI20241002BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20241002BHJP
   H01B 1/24 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
C08J3/215 CEP
H01B13/00 Z ZNM
H01B1/24 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049978
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】阿部 寛史
(72)【発明者】
【氏名】早川 敬之
【テーマコード(参考)】
4F070
5G301
5H050
【Fターム(参考)】
4F070AA02
4F070AB02
4F070AC04
4F070AC12
4F070AE28
4F070FA05
4F070FC03
5G301DA18
5G301DA42
5G301DD01
5G301DD02
5G301DE01
5H050AA19
5H050BA17
5H050CB08
5H050DA10
5H050DA18
5H050EA08
5H050EA09
5H050EA23
5H050FA16
5H050FA17
5H050GA10
5H050GA29
5H050HA10
(57)【要約】
【課題】 導電材を溶媒に分散して導電材分散液を製造する際、品質値の制御された導電材分散液を取得する方法を提供する。
【解決手段】 少なくとも導電材及び溶媒を含む導電材混合液を分散機に連続的に供給して分散し、得られた導電材分散液を分散機から連続的に排出する導電材分散液の製造方法であって、
分散機の出口ラインに設置したセンサーを用いて分散機から排出される導電材分散液の品質値を所定時間間隔で計測し、
直近複数点の品質値計測値から品質値の増減傾向を算出し、
算出された増減傾向に応じて分散機への導電材混合液の供給速度及び/又は分散機の動力を調整することを特徴とする導電材分散液の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも導電材及び溶媒を含む導電材混合液を分散機に連続的に供給して分散し、得られた導電材分散液を分散機から連続的に排出する導電材分散液の製造方法であって、
分散機の出口ラインに設置したセンサーを用いて分散機から排出される導電材分散液の品質値を所定時間間隔で計測し、
直近複数点の品質値計測値から品質値の増減傾向を算出し、
算出された増減傾向に応じて分散機への導電材混合液の供給速度及び/又は分散機の動力を調整する
ことを特徴とする導電材分散液の製造方法。
【請求項2】
前記品質値が粘度である請求項1に記載の導電材分散液の製造方法。
【請求項3】
前記導電材がカーボンナノチューブである請求項1に記載の導電材分散液の製造方法。
【請求項4】
前記導電材がカーボンナノチューブと平板状のグラファイトの組み合わせである請求項1に記載の導電材分散液の製造方法。
【請求項5】
前記導電材がグラフェンである請求項1に記載の導電材分散液の製造方法。
【請求項6】
前記分散液がさらにセルロースナノファイバーを含有する請求項1に記載の導電材分散液の製造方法。
【請求項7】
分散機から排出される導電材分散液の品質値の計測、計測された品質値からの増減傾向の算出、算出された増減傾向に応じた分散機への導電材混合液の供給速度及び/又は分散機の動力の調整、からなる一連の操作を自動化された装置を用いて連続的に行う、請求項1~6のいずれか一項に記載の導電材分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも導電材及び溶媒を含む導電材分散液の製造方法に関する。本発明で製造される導電材分散液は、リチウムイオン二次電池極板用スラリーとして利用できる。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池極板用スラリーの製造方法、リチウムイオン二次電池用カーボンブラック分散液の製造方法として種々の方法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、リチウムイオン二次電池用正極活物質、結着材、導電材及び有機溶媒を含むリチウムイオン二次電池用正極スラリーの製造方法であって、次の工程(1):リチウムイオン二次電池用正極活物質の少なくとも一部と結着剤の少なくとも一部と有機溶媒の少なくとも一部とを最初に混合し始める時から少なくともリチウムイオン二次電池用正極活物質の全部と結着剤の全部とを混合し終わる時までの間、結着材及び有機溶媒を含む貯蔵弾性応力測定用結着材溶液の貯蔵弾性応力が所定低減域を満足する所定温度で、少なくともリチウムイオン二次電池用正極活物質と結着材と有機溶媒とを混合する工程、を含む
ことを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極スラリーの製造方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、カーボンブラック、N-メチル-2-ピロリドン、ポリフッ化ビニリデン系ポリマーおよび分散剤を含んでなる電池用カーボンブラック分散液の製造方法であって、カーボンブラックの含有量が分散液100質量部に対して10~30質量部、分散剤の含有量がカーボンブラック100質量部に対して1~6質量部、ポリフッ化ビニリデン系ポリマーの含有量xが、カーボンブラック100質量部に対して20質量部以下、かつ、x=a/Mw(ただし、aは、11×10≦a≦22×10の範囲内である数、Mwはポリフッ化ビニリデン系ポリマーの重量平均分子量)であって、分散液の粘度がせん断速度1/s以上100/s未満の範囲内で0.1~3Pa・sの粘度の極小値を示すようにせん断型分散機を用いて分散させる電池用カーボンブラック分散液の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-174535号公報(特許請求の範囲、他)
【特許文献2】特開2017-135062号公報(特許請求の範囲、他)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
微粒子を水に分散させるためには、分散剤を使用して撹拌機を用いて撹拌することが一般に行われるが、導電材を含有する混合液は、粘性を有していて分散が容易でない。特に、混合液が高濃度になると、高性能の撹拌機を用いても均質な分散液を継続して生産することは容易ではない。
【0007】
微粒子の分散液を得るための工程において、目的の物性に到達させるために、分散液組成、実験、経験などに基づいて工程の機器の稼働条件を調整し、最終的に出来た分散液の物性を測定して確認を行うことが一般的に行われる。しかしながら、最終的に出来た分散液の物性が目的のものと一致しないことがあり、製造と並行して分散液の物性を制御することが求められる。
【0008】
また、分散液が高粘度であると、送液が困難であり、低速での送液による製造(分散)を強いられることとなり、品質の制御が著しく難しくなる。無理に短時間で分散を完遂させようとすると、工程の機器全体に過剰な圧力や動力面の負荷がかかり、故障などのリスクが高くなり、好ましくない。
【0009】
分散液が高粘度かつ高濃度で固化し易い場合であると、このような確認方法では正確な測定自体が困難であるので、閉鎖密封された工程から分散液を出さずに測定・確認が可能な方法を採らなければならないという課題もある。
【0010】
本発明の解決すべき課題は、導電材を溶媒に分散して導電材分散液を製造する際、品質値の制御された導電材分散液を取得する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、工程内、特に分散機の出口ラインに品質値を計測するセンサーを設け、出口ライン内で分散液の品質値の計測を為し、計測された品質値から、分散液が目標品質に漸近する時間を正確に予測できることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0012】
すなわち、本発明は、少なくとも導電材及び溶媒を含む導電材混合液を分散機に連続的に供給して分散し、得られた導電材分散液を分散機から連続的に排出する導電材分散液の製造方法であって、
分散機の出口ラインに設置したセンサーを用いて分散機から排出される導電材分散液の品質値を所定時間間隔で計測し、
直近複数点の品質値計測値から品質値の増減傾向を算出し、
算出された増減傾向に応じて分散機への導電材混合液の供給速度及び/又は分散機の動力を調整する
ことを特徴とする導電材分散液の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
分散機を用いて導電材を溶媒に分散して導電材分散液を製造する際、本発明の方法を採用することによって、品質値の制御された導電材分散液を継続して取得することができる。
特に、品質値として導電材分散液の粘度を採用した場合、導電材分散液の分散状態を良好に制御することができ、当該導電材分散液から得られる電池材料の物理特性を好適に制御することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明においては、少なくとも導電材及び溶媒を含む導電材混合液を分散機に連続的に供給して分散して、導電材分散液を得る。導電材混合液は、少なくとも導電材及び溶媒がディスパーまたはプラネタリーミキサー等の混合機によって簡易に混合された混合物である。導電材混合液は、ポンプ等を用いて分散機に連続的に供給されて、分散機の作用により細かく分散される。分散機による分散は、密閉系で行うことが好ましい。
【0015】
分散機としては、高速回転下でのホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、超音波分散処理機、プラネタリーミキサー、コンビミックス、ニーダー、自転公転ミキサー、ヘンシェルミキサー、ボールミル、ビーズミル、薄膜旋回型高速撹拌機、スクリュー型ミキサー、パドルミキサー、ディスパー型ミキサー、タービン型ミキサー、プロペラミキサー、ブレンダー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル、ペブルミル、ビーター、ディスク型レファイナー、コニカル型レファイナー、ダブルディスク型レファイナー、グラインダー等の強力で叩解能力のある装置を使用することができる。このような分散機により、導電材と溶媒との親和と並行して導電材の解繊や解砕が行われるので好ましい。
また、2種類以上の分散機を組み合わせて用いても差し支えない。
【0016】
本発明においては、分散機による分散を通して得られる導電材分散液を分散機から連続的に排出し、排出された導電材分散液を出口ラインを通して貯槽又は次工程装置に導く。導電材分散液を排出する操作は、分散液流量の制御が可能なポンプ等を用いて行うことが好ましい。また、排出操作は、導電材分散液を暴露することなく、導電材分散液が密閉された状態で行うことが好ましい。
【0017】
前記排出操作においては、分散機から排出された導電材分散液を出口ラインに設置したセンサーを用いて導電材分散液の品質値を所定時間間隔で計測する。
導電材分散液の品質値を連続的に計測し、所定時間間隔ごとに計測値を採取しても良い。測定する間隔は、導電材分散液の分散機内での滞留時間Tの1/100を目安にする。そして、直近の複数点の計測値から導電材分散液の品質値の増減傾向を算出する。算出に使用する計測値は、直近の5点以上とすることができる。
【0018】
次いで、算出された増減傾向に応じて分散機への導電材及び溶媒の供給速度を調整する。特に、計測から滞留時間Tの2~4倍時間経過後の品質値が目標値に近づくようにする。これにより、導電材分散液が分散機を通過するまでの分散機内での滞留時間が制御される。
あるいは、これに加えてもしくはこれに代えて分散機の動力、例えば、分散機の撹拌翼の回転速度を調整する。分散機の動力を上げると、撹拌翼の回転速度が上昇して導電材分散液の分散が増大する。これにより、分散機の作用による導電材分散液の分散性が制御される。
【0019】
分散機から排出される導電材分散液の品質値の計測、計測された品質値からの増減傾向の算出、算出された増減傾向に応じた分散機への導電材分散液の供給速度の調整、からなる一連の操作を自動化された装置を用いて連続的に行うことが好ましい。
あるいは、これに加えてもしくはこれに代えて、分散機から排出される導電材分散液の品質値の計測、計測された品質値からの増減傾向の算出、算出された増減傾向に応じた分散機の動力の調整、からなる一連の操作を自動化された装置を用いて連続的に行うことが好ましい。
【0020】
当該自動制御装置は、分散機から排出される導電材分散液の品質値を計測するステップ、計測された品質値から品質値の増減傾向を算出するステップ、算出された増減傾向に応じて分散機への導電材混合液の供給速度を調整するステップ、を少なくとも含む。
【0021】
あるいは、当該自動制御装置は、これに加えてもしくはこれに代えて、分散機から排出される導電材分散液の品質値を計測するステップ、計測された品質値から品質値の増減傾向を算出するステップ、算出された増減傾向に応じて分散機の動力を調整するステップ、を少なくとも含む。
これにより、導電材分散液の品質管理を好適に行うことができる。
【0022】
導電材分散液の品質値としては、種々の物理特性が含まれるが、特に、粘度を採用することが好ましい。以下、品質値として粘度を採用した場合について説明する。
【0023】
粘度を計測する装置としては、インライン型粘度センサーが好適に使用される。インライン型粘度センサーは、導電材分散液の出口ラインに設置され、導電材分散液の粘度を計測する。インライン型粘度センサーとして、MV型インライン粘度センサー(メイク株式会社製)が例示される。
【0024】
粘度の計測は所定時間間隔で行われる。粘度を連続的に計測し、所定時間間隔ごとに計測値を採取しても良い。粘度を計測する間隔は、導電材分散液の分散機内での滞留時間の約1/100を目安にする。そして、直近の複数点の粘度計測値から導電材分散液の粘度の増減傾向を算出する。算出に使用する粘度計測値は、直近の5点以上とすることができる。
【0025】
次いで、算出された増減傾向に応じて、分散機への導電材混合液の供給速度及び/又は分散機の動力を調整する。これにより、導電材分散液が分散機を通過するまでの分散機内での滞留時間が制御される。
【0026】
具体的には、導電材分散液の粘度が増加傾向であれば、導電材混合液の供給速度を下げるか、又は/及び分散機の動力を上げるかして導電材分散液の分散機内での滞留時間を長く又は/及び導電材分散液へエネルギーを大きくする。その結果、導電材分散液の分散機による分散作用が増加して導電材分散液の粘度が低下する。
【0027】
逆に、導電材分散液の粘度が減少傾向であれば、導電材混合液の供給速度を上げるか、又は/及び分散機の動力を下げるかして導電材分散液の分散機内での滞留時間を短く又は/及び導電材分散液へエネルギーを小さくする。その結果、導電材分散液の分散機による分散作用が減少して導電材分散液の粘度が上昇する。
以上により、導電材分散液の粘度を制御することができる。
【0028】
分散機から排出される導電材分散液の粘度をインライン粘度計で計測し、その粘度推移から分散機への導電材分散液の供給速度をポンプにより自動的に調整する工程を例に、導電材分散液の粘度制御方法を説明する。
【0029】
導電材混合液を薄膜旋回型高速撹拌機等の撹拌機にて分散する工程において、撹拌機の出口ラインに配置したインライン粘度計から取得される分散液の品質値である粘度を一定時間間隔で計測する。このとき、直近の複数の粘度計測値から分散液の粘度の推移の傾きa(例えばmPa・s/sec)及び切片b(最新の粘度値)を求め、所定時間後の粘度予測値Yが粘度の目標値に近づく様に混合液の供給速度を調整する。
【0030】
目標値よりも予測値Yが大きい場合、混合液の供給速度を小さくし、又は、分散機の回転速度の周速を上げることにより、導電材分散液の分散をより進行させて粘度を下げるようポンプを調整する。また、逆に目標値よりも予測値Yが小さい場合、混合液の供給速度を大きくし、又は、分散機の回転速度の周速を下げることにより、導電材分散液の分散を抑制して粘度を上げるようポンプを調整する。目標値と予測値Yの乖離が大きいほど、混合液の供給速度の変更量は大きくなる。
【0031】
粘度計測値から所定時間後の粘度予測値Yを算出する操作をプログラム化し、分散液を供給するポンプにフィードバックすることで、分散液の粘度の調整を自動化することができる。混合液の供給速度を変更する量の判断基準として、直近の分散液の粘度推移の傾きを算出する際の相関係数を用いることもできる。これにより、ノイズ等により計測値にばらつきが大きくなった場合に、分散液の粘度制御の精度を上げることが可能となる。
【0032】
これにより、導電材分散液の分散状態を制御することができ、分散機に供給する混合液の混合状態が変動しても、導電材分散液の粘度その他の物理特性を制御できる。本発明の方法は、分散機内での導電材混合液の滞留時間及び/又は導電材混合液へ与える機械力による分散機の分散作用を導電材分散液の粘度を指標として制御するものである。
【0033】
導電材としては、カーボンナノチューブ、又はカーボンナノチューブと平板上のグラファイトの組み合わせ、グラフェン等が使用される。導電材は、流動性のある媒体と予備的に混合された混合液として分散機に供給することが好ましい。
【0034】
<カーボンナノチューブ>
本発明に用いるカーボンナノチューブ(CNT)としては、実質的にグラファイトの1枚面を巻いて筒状にした形状を有するものであれば特に限定されず、グラファイトの1枚面を1層に巻いた単層CNT、二層又は三層以上の多層に巻いた多層CNTのいずれも用いることができる。
【0035】
また、カーボンナノチューブの形態としては、例えば、グラファイトウィスカー、フィラメンタスカーボン、グラファイトファイバー、極細炭素チューブ、カーボンチューブ、カーボンフィブリル、カーボンマイクロチューブ及びカーボンナノファイバーを挙げることができるが、これらに限定されず、これらを各単独又は二種以上組み合わせ(以下、単に「少なくとも1種」という)であってもよい。
【0036】
更に、カーボンナノチューブの平均外径は、分散液の粘度、導電性、安定性の点から、1nm以上90nm以下であることが好ましく、3nm以上30nm以下であることがより好ましく、3nm以上15nm以下であることがさらに好ましい。
【0037】
本発明において、カーボンナノチューブの平均外径とは、透過型電子顕微鏡の10万倍以上の倍率の画像を用いて測定した十分なn数の外径の算術平均値をいう。
また、本発明に用いるカーボンナノチューブの純度は、90~100質量%が好ましく、特に95~100質量%が好ましい。なお、カーボンナノチューブの純度は、JIS K 1469やJIS K 6218に準拠して測定した灰分を不純物とし、その不純物量に基づき算出される。
【0038】
具体的に用いることができるカーボンナノチューブとしては、例えば、Nanocyl社製のNC7000(平均外径10nm)、バイエル社製のBaytubesC150P(平均外径11nm)、Cnano社製のFloTube9000(平均外径19nm)、FloTube7320(平均外径9nm)、FloTube7010(平均外径9nm)、FloTube6810(平均外径8nm)、FloTube6120(平均外径8nm)、FloTube6100(平均外径8nm)、FloTube2020(平均外径4nm)、名城ナノカーボン社製のMEIJOeDIPS EC2.0(平均外径2.0nm)、KORBON社製のKORBON-A7(平均外径1.2nm)、高圧ガス工業社製のNFT-7(平均外径30nm)、高圧ガス工業社製のNFT-15(平均外径30nm)、などの少なくとも1種を用いることができる。
【0039】
本発明の分散液における溶媒は、水、水溶性溶媒又はそれらの混合溶液を用いることができる。水としては、水道水、蒸留水、イオン交換水等を用いることができる。
【0040】
水溶性溶媒としては、例えば、エチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2,5-ヘキサンジオール、3-メチル1,3-ブタンジオール、2メチルペンタン-2,4-ジオール、3-メチルペンタン-1,3,5-トリオール、1,2,3-ヘキサントリオール等のアルキレングリコール類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類、グリセロール、ジグリセロール、トリグリセロール等のグリセロール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル等のグリコールの低級アルキルエーテル、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダリジノンの少なくとも一種を用いることができる。
【0041】
その他にも、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類、アセトン等のケトン類等の水溶性溶媒を使用することもできる。
水と水溶性溶媒を混合する場合、水溶性溶媒の含有量は、分散液の保存安定性の点から、混合溶媒全量に対して0.1~10質量%が好ましく、0.5~5質量%が更に好ましい。
【0042】
分散液におけるカーボンナノチューブの含有量は、用途に応じて、好適な含有量を設定することができる。
導電ペースト、二次電池用電極ペースト、二次電池用電極などに用いる場合は、高い安定性と導電性能を両立する点、分散液製造時の粘度の点から、カーボンナノチューブの含有量は、分散液全量に対して、0.1~15.0質量%とすることが好ましく、より好ましくは0.1~10.0質量%、さらに好ましくは0.5~8.0質量%、特に好ましくは1.0~6.0質量%、最も好ましくは2.0~5.0質量%とする。本発明は、このような濃度のカーボンナノチューブの分散液に対して好適に適用できる。
【0043】
カーボンナノチューブの含有量を分散液全量に対して0.1質量%以上とすることにより、電池とした際の良好な導電性を確保でき、一方、15.0質量%以下とすることにより、分散液の安定性を確保することができる。
【0044】
カーボンナノチューブに平板状のグラファイトを組み合わせることもできる。その場合、平板状のグラファイトの配合量は、カーボンナノチューブの配合量に対して10質量%以上とすることにより、カーボンナノチューブとの相乗効果が得られ、200質量%以下とすることにより、分散液の安定性を確保することができる。
【0045】
本発明の分散液には、さらにセルロースナノファイバー(CeNF)を配合してもよい。セルロースナノファイバーとして、セルロースをTEMPO酸化することによりカルボキシル化された酸化セルロースナノファイバーを、カーボンナノチューブの分散剤として好ましく使用することができる。
【0046】
用いる酸化セルロースナノファイバーは、セルロースI型結晶を有することが好ましい。酸化セルロースナノファイバーは、好ましくは、X線回折法で測定した際の結晶化度が70%未満である。結晶化度は、より好ましくは25%以上70%未満である。
結晶化度が70%未満であれば、適度な酸化処理と解繊が行われ、カーボンナノチューブの分散性が良好なものとなる。結晶化度が70%を超えると、カーボンナノチューブ等の解繊や解砕不足となりやすく、分散性も不十分となる。
【0047】
分散液に配合される酸化セルロースナノファイバーの繊維長は、50nm~250nmであるものが全体の85%以上を占めることが好ましく、100nm~150nmであるものが全体の30%以上を占めることがより好ましい。
また、カーボンナノチューブ分散液に配合される酸化セルロースナノファイバーは、数平均繊維長Lが100nm~150nmで、数平均繊維長Lと長さ加重平均繊維長Llの比(Ll/L)が1.0~1.4であることが好ましい。
【0048】
酸化セルロースナノファイバーの繊維長が前記範囲にあると、カーボンナノチューブの分散性が良い。その機構は明らかではないが、酸化セルロースナノファイバーのカーボンナノチューブへの浸透性に関係するものと推定される。
【0049】
さらに、用いる酸化セルロースナノファイバーは、アルコール性水酸基がある一定量残存していることで、分子同士がより強く水素結合し、構造復元性が得られる。また、分散液を塗工した際、塗工中は粘度が下がり均一に塗工しやすく、塗工後には粘度が回復し、その後も均一な状態を維持できる。また塗工後に粘度が回復する(高くなる)ことで乾燥時に材料が凝集しにくく反りにくくなる。アルコール性水酸基は、赤外分光スペクトルによって検出される。
【0050】
本発明の分散液には、グラフェンを配合してもよい。グラフェンは、1原子の厚さのsp結合炭素原子のシート状物質で、炭素原子とその結合からできた蜂の巣のような六角形格子構造をとっている。
【0051】
本発明においては、分散機から排出される導電材分散液の品質値の計測、計測された品質値からの増減傾向の算出、算出された増減傾向に合わせた分散機への導電材混合液の供給速度及び/又は分散機の動力の調整、からなる一連の操作を行う。当該一連の操作を自動化された装置を用いて行うことが好ましい。
その場合も、管理する品質値が粘度である導電材分散液の製造方法であることが好ましい。
【実施例0052】
実施例1~9
<導電材分散液の調製>
導電材、分散剤、イオン交換水を表1実施例1~9に示す組成及び比率で合わせ、混合機(コンビミックス;プライミクス社製)で1時間攪拌し、混合液とした。次に、前記の混合液を容量1.5Lのダイノ―ミル(ウィリー・エ・バッコーフェン社製、ビーズミル;ジルコニアビーズφ1.0mm)に投入し、回転ディスクの周速10m/sにて分散した。さらに、流量制御が可能な定量ポンプを用いて混合液を分散機に連続的に供給及び排出した。混合液のビーズミル滞留時間すなわち分散処理時間の初期条件を15分間とした。
【0053】
その際、分散機の出口ラインに設置したインライン粘度センサー(FEM-1000V-ST、セコニック社製)を用いて、分散機から排出された導電材分散液の粘度を1秒間隔で計測し、直近の20点の計測値から導電材分散液の粘度推移の傾きをa(mPa・s/sec)とし、最新の粘度値を切片bとしたとき、200秒後の粘度予測値Y(=200×a+b)が粘度の目標値となる様に、ポンプの周波数を調整して導電材混合液の分散機への供給速度を制御した。
【0054】
粘度の目標値よりも予測値Yが大きい場合、混合液の供給速度を小さくし、又は、分散機の回転速度の周速を上げることにより、導電材分散液の分散をより進行させて粘度を下げるよう調整した。また、粘度の目標値よりも予測値Yが小さい場合は、混合液の供給速度を大きくし、又は、分散機の回転速度の周速を下げることにより、導電材分散液の分散を抑制して粘度を上げるよう調整した。以上の操作を、プログラムを組んで自動的に制御した。
【0055】
算出された粘度の増減傾向に対応して、実施例1~2及び実施例5~9においては導電材混合液の供給流量を、製造例4においては分散機の回転速度の周速を、製造例3においてはその両方をそれぞれリアルタイムで自動制御した。
以上の手順により、分散機に供給する混合液の混合状態が時々変化して混合液の粘度が変動したにも関わらず、製造初期から終了時まで、粘度がほぼ一定した均質な導電材分散液が継続して得られた。
【0056】
<負極スラリーの作製>
活物質として球状黒鉛、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト(鱗片状)、グラフェンから選ばれる少なくとも1種の導電材を含有する実施例1~9の導電材分散液、結着材(バインダー)としてカルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレンブダジエンゴム(SBR)を表2実施例1~9の割合で用意した。プラネタリーミキサーを用いて球状黒鉛、CMCを混合の後、導電材分散液を混錬に適した固さまで添加し、3時間混錬の後、残りの導電材分散液を少しずつ添加し、均一になり流動性が得られたところでSBRを添加し、負極スラリーを作製した。
【0057】
<負極電極の作製>
以上の方法で得られた負極スラリーを、ダイコータ―により、厚さ20μmの銅箔上に塗工量4.0mg/cmにて塗布した後、熱風乾燥してシート状の負極電極を得た。得られた負極電極のシートを用いて、下記評価を実施した。結果を表2に示す。
【0058】
<電極評価>
電極復元性評価
負極電極のシートをプレス機を用いて塗膜の密度が1.60g/cmになるようにプレスした。大気圧下、常温にて7日間放置した後、密度を測定し、下記基準で評価した。密度は膜厚より算出した。
◎:密度1.55g/cm未満
〇:密度1.55g/cm以上1.60g/cm未満
×:密度1.60g/cmのまま
【0059】
出力特性・電池特性均一性評価
負極電極のシートからランダムに20個の円盤を打ち抜き、20個のコインセル(CR2032)を作製した。各コインセルを用いて直流抵抗を測定し、出力特性を下記基準で評価した。また、直流抵抗の測定値の標準偏差を求め、電池特性均一性を下記の基準で評価した。結果を表1に示す。
出力特性
◎:コインセル20個の直流抵抗平均値が30Ω未満
○:コインセル20個の直流抵抗平均値が30Ω以上40Ω未満
×:コインセル20個の直流抵抗平均値が40Ω以上
電池特性均一性
〇:コインセル20個の直流抵抗測定値の標準偏差が0.5Ω未満
×:コインセル20個の直流抵抗測定値の標準偏差が0.5Ω以上
【0060】
比較例1~4
<導電材分散液の調製>
分散液の成分を表1比較例1~4に示す組成と比率で合わせ、分散機への導電材混合液の供給速度の調整及び分散機の動力の調整のいずれも行わず、オフラインにおける測定値により手動制御を行った他は実施例1と同様にして導電材分散液を得た。
【0061】
<負極スラリーの作製>
活物質として球状黒鉛、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト(鱗片状)、グラフェンから選ばれる少なくとも1種の導電材を含有する比較例1~4の導電材分散液、結着材(バインダー)としてカルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレンブダジエンゴム(SBR)を表2比較例1~4の割合で用意した。プラネタリーミキサーを用いて球状黒鉛、CMCを混合の後、導電材分散液を混錬に適した固さまで添加し、3時間混錬の後、残りの導電材分散液を少しずつ添加し、均一になり流動性が得られたところでSBRを添加し、負極スラリーを作製した。
【0062】
<負極電極の作製>
以上の方法で得られた負極スラリーを用いて、実施例1と同様にして負極電極のシートを得た。得られた負極電極のシートについて、電極復元性、出力特性及び電池特性均一性を上記の基準で評価した。結果を表2に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の導電材分散液の製造方法により、リチウムイオン二次電池極板用スラリーとして利用可能な導電材分散液が継続的に製造される。