(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139161
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】活物質分散液の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20241002BHJP
H01M 4/04 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049979
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】阿部 寛史
(72)【発明者】
【氏名】早川 敬之
(72)【発明者】
【氏名】橋本 剛
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB08
5H050GA10
5H050GA28
5H050HA05
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】 活物質を溶媒に分散して活物質分散液を製造する際、品質値の制御された活物質分散液を取得する方法を提供する。
【解決手段】 少なくとも活物質及び溶媒を含む活物質混合液を分散機に連続的に供給して分散し、得られた活物質分散液を分散機から連続的に排出する活物質分散液の製造方法であって、
分散機の出口ラインに設置したセンサーを用いて分散機から排出される活物質分散液の品質値を所定時間間隔で計測し、
直近複数点の品質値計測値から品質値の増減傾向を算出し、
算出された増減傾向に応じて分散機への活物質混合液の供給速度及び/又は分散機の動力を調整することを特徴とする活物質分散液の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも活物質及び溶媒を含む活物質混合液を分散機に連続的に供給して分散し、得られた活物質分散液を分散機から連続的に排出する活物質分散液の製造方法であって、
分散機の出口ラインに設置したセンサーを用いて分散機から排出される活物質分散液の品質値を所定時間間隔で計測し、
直近複数点の品質値計測値から品質値の増減傾向を算出し、
算出された増減傾向に応じて分散機への活物質混合液の供給速度及び/又は分散機の動力を調整する
ことを特徴とする活物質分散液の製造方法。
【請求項2】
前記品質値が、粒子分布のメディアン径である請求項1に記載の活物質分散液の製造方法。
【請求項3】
前記粒子分布のメディアン径が、レーザー回折法により測定される請求項2に記載の活物質分散液の製造方法。
【請求項4】
前記粒子分布のメディアン径の測定を、分散機から排出される活物質分散液の一部を分散機からの出口ラインにて試料として採取し、採取された試料をレーザー回折装置に投入することにより行う請求項3に記載の活物質分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも活物質及び溶媒を含む活物質分散液の製造方法に関する。本発明で製造される活物質分散液は、リチウムイオン二次電池極板用スラリーとして利用できる。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池極板用スラリーの製造方法、リチウムイオン二次電池用カーボンブラック分散液の製造方法として種々の方法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、リチウムイオン二次電池用正極活物質、結着材、導電材及び有機溶媒を含むリチウムイオン二次電池用正極スラリーの製造方法であって、次の工程(1):リチウムイオン二次電池用正極活物質の少なくとも一部と結着剤の少なくとも一部と有機溶媒の少なくとも一部とを最初に混合し始める時から少なくともリチウムイオン二次電池用正極活物質の全部と結着剤の全部とを混合し終わる時までの間、結着材及び有機溶媒を含む貯蔵弾性応力測定用結着材溶液の貯蔵弾性応力が所定低減域を満足する所定温度で、少なくともリチウムイオン二次電池用正極活物質と結着材と有機溶媒とを混合する工程、を含む
ことを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極スラリーの製造方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、カーボンブラック、N-メチル-2-ピロリドン、ポリフッ化ビニリデン系ポリマーおよび分散剤を含んでなる電池用カーボンブラック分散液の製造方法であって、カーボンブラックの含有量が分散液100質量部に対して10~30質量部、分散剤の含有量がカーボンブラック100質量部に対して1~6質量部、ポリフッ化ビニリデン系ポリマーの含有量xが、カーボンブラック100質量部に対して20質量部以下、かつ、x=a/Mw(ただし、aは、11×105≦a≦22×106の範囲内である数、Mwはポリフッ化ビニリデン系ポリマーの重量平均分子量)であって、分散液の粘度がせん断速度1/s以上100/s未満の範囲内で0.1~3Pa・sの粘度の極小値を示すようにせん断型分散機を用いて分散させる電池用カーボンブラック分散液の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-174535号公報(特許請求の範囲、他)
【特許文献2】特開2017-135062号公報(特許請求の範囲、他)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
微粒子を水に分散させるためには、分散剤を使用して撹拌機を用いて撹拌することが一般に行われるが、活物質を含有する混合液は、粘性を有していて分散が容易でない。特に、混合液が高濃度になると、高性能の撹拌機を用いても均質な分散液を継続して生産することは容易ではない。
【0007】
微粒子の分散液を得るための工程において、目的の物性に到達させるために、分散液組成、実験、経験などに基づいて工程の機器の稼働条件を調整し、最終的に出来た分散液の物性を測定して確認を行うことが一般的に行われる。しかしながら、最終的に出来た分散液の物性が目的のものと一致しないことがあり、製造と並行して分散液の物性を制御することが求められる。
【0008】
また、分散液が高粘度であると、送液が困難であり、低速での送液による製造(分散)を強いられることとなり、品質の制御が著しく難しくなる。無理に短時間で分散を完遂させようとすると、工程の機器全体に過剰な圧力や動力面の負荷がかかり、故障などのリスクが高くなり、好ましくない。
【0009】
分散液が高粘度かつ高濃度で固化し易い場合であると、このような確認方法では正確な測定自体が困難であるので、閉鎖密封された工程から分散液を出さずに測定・確認が可能な方法を採らなければならないという課題もある。
【0010】
本発明の解決すべき課題は、活物質を溶媒に分散して活物質分散液を製造する際、品質値の制御された活物質分散液を取得する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、工程内、特に分散機の出口ラインに品質値を計測するセンサーを設け、出口ライン内で分散液の品質値の計測を為し、計測された品質値から、分散液が目標品質に漸近する時間を正確に予測できることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0012】
すなわち、本発明は、少なくとも活物質及び溶媒を含む活物質混合液を分散機に連続的に供給して分散し、得られた活物質分散液を分散機から連続的に排出する活物質分散液の製造方法であって、
分散機の出口ラインに設置したセンサーを用いて分散機から排出される活物質分散液の品質値を所定時間間隔で計測し、
直近複数点の品質値計測値から品質値の増減傾向を算出し、
算出された増減傾向に応じて分散機への活物質混合液の供給速度及び/又は分散機の動力を調整する
ことを特徴とする活物質分散液の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
分散機を用いて活物質を溶媒に分散して活物質分散液を製造する際、本発明の方法を採用することによって、品質値の制御された活物質分散液を継続して取得することができる。
特に、品質値として活物質分散液の粒子径分布を採用した場合、活物質分散液の分散状態を良好に制御することができ、当該活物質分散液から得られる電池材料の物理特性を好適に制御することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明においては、少なくとも活物質及び溶媒を含む活物質混合液を分散機に連続的に供給して分散して、活物質分散液を得る。活物質混合液は、少なくとも活物質及び溶媒がディスパーまたはプラネタリーミキサー等の混合機によって簡易に混合された混合物である。活物質混合液は、ポンプ等を用いて分散機に連続的に供給されて、分散機の作用により細かく分散される。分散機による分散は、密閉系で行うことが好ましい。
【0015】
分散機としては、高速回転下でのホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、超音波分散処理機、プラネタリーミキサー、コンビミックス、ニーダー、自転公転ミキサー、ヘンシェルミキサー、ボールミル、ビーズミル、薄膜旋回型高速撹拌機、スクリュー型ミキサー、パドルミキサー、ディスパー型ミキサー、タービン型ミキサー、プロペラミキサー、ブレンダー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル、ペブルミル、ビーター、ディスク型レファイナー、コニカル型レファイナー、ダブルディスク型レファイナー、グラインダー等の強力で叩解能力のある装置を使用することができる。このような分散機により、活物質と溶媒との親和と並行して活物質の解砕が行われるので好ましい。
また、2種類以上の分散機を組み合わせて用いても差し支えない。
【0016】
本発明においては、分散機による分散を通して得られる活物質分散液を分散機から連続的に排出し、排出された活物質分散液を出口ラインを通して貯槽又は次工程装置に導く。活物質分散液を排出する操作は、分散液流量の制御が可能なポンプ等を用いて行うことが好ましい。また、排出操作は、活物質分散液を暴露することなく、活物質分散液が密閉された状態で行うことが好ましい。
【0017】
前記排出操作においては、分散機から排出された活物質分散液を出口ラインに設置したセンサーを用いて活物質分散液の品質値を所定時間間隔で計測する。
活物質分散液の品質値を連続的に計測し、所定時間間隔ごとに計測値を採取しても良い。測定する間隔は、活物質分散液の分散機内での滞留時間Tの1/100を目安にする。そして、直近の複数点の計測値から活物質分散液の品質値の増減傾向を算出する。算出に使用する計測値は、直近の5点以上とすることができる。
【0018】
次いで、算出された増減傾向に応じて分散機への活物質及び溶媒の供給速度を調整する。特に、計測から滞留時間Tの2~4倍時間経過後の品質値が目標値に近づくようにする。これにより、活物質分散液が分散機を通過するまでの分散機内での滞留時間が制御される。
あるいは、これに加えてもしくはこれに代えて分散機の動力、例えば、分散機の撹拌翼の回転速度を調整する。分散機の動力を上げると、撹拌翼の回転速度が上昇して活物質分散液の分散が増大する。これにより、分散機の作用による活物質分散液の分散性が制御される。
【0019】
分散機から排出される活物質分散液の品質値の計測、計測された品質値からの増減傾向の算出、算出された増減傾向に応じた分散機への活物質分散液の供給速度の調整、からなる一連の操作を自動化された装置を用いて連続的に行うことが好ましい。
あるいは、これに加えてもしくはこれに代えて、分散機から排出される活物質分散液の品質値の計測、計測された品質値からの増減傾向の算出、算出された増減傾向に応じた分散機の動力の調整、からなる一連の操作を自動化された装置を用いて連続的に行うことが好ましい。
【0020】
当該自動制御装置は、分散機から排出される活物質分散液の品質値を計測するステップ、計測された品質値から品質値の増減傾向を算出するステップ、算出された増減傾向に応じて分散機への活物質混合液の供給速度を調整するステップ、を少なくとも含む。
【0021】
あるいは、当該自動制御装置は、これに加えてもしくはこれに代えて、分散機から排出される活物質分散液の品質値を計測するステップ、計測された品質値から品質値の増減傾向を算出するステップ、算出された増減傾向に応じて分散機の動力を調整するステップ、を少なくとも含む。
これにより、活物質分散液の品質管理を好適に行うことができる。
【0022】
活物質分散液の品質値としては、種々の物理特性が含まれるが、特に、活物質分散液に含まれる粒子径分布を採用することができる。以下、品質値として粒子径分布を採用した場合について説明する。
粒子径分布として、メディアン径が好適に採用される。粒子のメディアン径とは、活物質分散液における全粒子のうち半分がこの粒子径より大きく、残りの半分がこの粒子径より小さくなる値すなわち中央値(D50)である。
【0023】
粒子径分布の評価対象となるのは、分散液中に分散して存在するすべての固体粒子である。測定される当該固体粒子には、少なくとも活物質の他、導電材が含まれる。
【0024】
粒子径分布は、レーザー回折法により測定できる。レーザー回折法は、分散液にレーザー光を照射し、粒子により散乱される光の強度の角度依存性を測定することにより分散液に含まれる粒子の粒子径分布を測定する方法で、一般に知られた評価手法である。レーザー回折法測定装置として、SALD-2300(株式会社島津製作所製)などの市販の製品を用いることができる。
【0025】
粒子径分布の計測は所定時間間隔で行われる。粒子径分布を連続的に計測し、所定時間間隔ごとに計測値を採取しても良い。粒子径分布を計測する間隔は、活物質分散液の分散機内での滞留時間の約1/100を目安にする。そして、直近の複数点の粒子径分布計測値から活物質分散液のメディアン径の増減傾向を算出する。算出に使用する粒子径分布計測値は、直近の5点以上とすることができる。
【0026】
次いで、算出されたメディアン径の増減傾向に応じて、分散機への活物質混合液の供給速度及び/又は分散機の動力を調整する。これにより、活物質分散液が分散機を通過するまでの分散機内での滞留時間が制御される。
【0027】
具体的には、活物質分散液のメディアン径が増大傾向であれば、活物質混合液の供給速度を下げるか、又は/及び分散機の動力を上げるかして活物質分散液の分散機内での滞留時間を長く又は/及び活物質分散液へエネルギーを大きくする。その結果、活物質分散液の分散機による分散作用が増大して活物質分散液のメディアン径が低下する。
【0028】
逆に、活物質分散液のメディアン径が減少傾向であれば、活物質混合液の供給速度を上げるか、又は/及び分散機の動力を下げるかして活物質分散液の分散機内での滞留時間を短く又は/及び活物質分散液へエネルギーを小さくする。その結果、活物質分散液の分散機による分散作用が減少して活物質分散液のメディアン径が上昇する。
以上により、活物質分散液の粒子径分布を制御することができる。
【0029】
分散液は、出口ラインの配管上部にボールバルブを設け、採取時にバルブを開放し、ロッドをボールの開口部を通して配管内部に差し込んで分散液をロッドに付着させることによって採取することができる。又は、ピペットもしくはシリンジの先端をボールの開口部を通して配管内部に差し込んで分散液を吸い上げることによって採取することができる。採取された分散液は、粒子径測定装置に投入して粒子径分布を分析する。
【0030】
粒子径分布の計測は所定時間間隔で行われる。粒子径分布を計測する間隔は、活物質分散液の分散機内での滞留時間Tの1/100を目安にする。算出に使用するメディアン径計測値は、直近の5点以上とすることができる。
具体的には、直近の複数のメディアン径計測値から分散液のメディアン径の推移の傾きa(例えばmPa・s/sec)及び切片b(最新のメディアン径値)を求め、所定時間後のメディアン径予測値Yがメディアン径の目標値に近づく様に混合液の供給速度を調整する。
【0031】
目標値よりも予測値Yが大きい場合、混合液の供給速度を小さくし、又は、分散機の回転速度の周速を上げることにより、活物質分散液の分散をより進行させてメディアン径を下げるようポンプを調整する。また、逆に目標値よりも予測値Yが小さい場合、混合液の供給速度を大きくし、又は、分散機の回転速度の周速を下げることにより、活物質分散液の分散を抑制してメディアン径を上げるようポンプを調整する。目標値と予測値Yの乖離が大きいほど、混合液の供給速度の変更量は大きくなる。
【0032】
粒子径分布計測値から所定時間後のメディアン径予測値Yを算出する操作をプログラム化し、分散液を供給するポンプにフィードバックすることで、分散液の粒子径の調整を自動化することができる。混合液の供給速度を変更する量の判断基準として、直近の分散液のメディアン径推移の傾きを算出する際の相関係数を用いることもできる。これにより、ノイズ等により計測値にばらつきが大きくなった場合に、分散液の粒子径制御の精度を上げることが可能となる。
【0033】
これにより、活物質分散液の分散状態を制御することができ、分散機に供給する混合液の混合状態が変動しても、活物質分散液の粒子径その他の物理特性を制御できる。本発明の方法は、分散機内での活物質混合液の滞留時間及び/又は活物質混合液へ与える機械力による分散機の分散作用を活物質分散液の粒子径分布を指標として制御するものである。
【0034】
活物質としては、リチウムイオンを可逆的に出入りさせる性質を有するリチウムイオン電池の正極に使用可能な正極活物質又はリチウムイオン電池の負極に使用可能な負極活物質が使用できる。
【0035】
正極用活物質としては、例えば、リチウム-ニッケル複合酸化物、リチウム-コバルト複合酸化物、リチウム-マンガン複合酸化物、リチウム-ニッケル-マンガン複合酸化物、リチウム-ニッケル-コバルト複合酸化物、リチウム-ニッケル-アルミニウム複合酸化物、リチウム-ニッケル-コバルト-アルミニウム複合酸化物、リチウム-ニッケル-マンガン-コバルト複合酸化物、リチウム-ニッケル-マンガン-アルミニウム複合酸化物、リチウム-ニッケル-コバルト-マンガン-アルミニウム複合酸化物等のリチウムと遷移金属との複合酸化物、TiS2、FeS、MoS2等の遷移金属硫化物、MnO、V---2O5、V6O13、TiO2等の遷移金属酸化物、オリビン型リチウムリン酸化物等が挙げられる。
【0036】
オリビン型リチウムリン酸化物は、例えば、Mn、Cr、Co、Cu、Ni、V、Mo、Ti、Zn、Al、Ga、Mg、B、Nb、およびFeよりなる群のうちの少なくとも一種の元素と、リチウムと、リンと、酸素とを含んでいる。これらの化合物はその特性を向上させるために一部の元素を部分的に他の元素に置換したものであってもよい。
【0037】
好ましい正極用活物質としては、リチウム-ニッケル複合酸化物が挙げられ、更に好ましくは、該リチウム-ニッケル複合酸化物が、式:LiNiXM1YM2ZO2(M1およびM2は、Al、B、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属の元素のうち少なくとも一種以上の金属元素、0.8≦X≦1.0、0≦Y≦0.2、0≦Z≦0.2)で表されるリチウム-ニッケル複合酸化物が挙げられる。
これらの正極用活物質は、一種のみを単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
本発明の正極用分散液において、上記正極用活物質の含有量は、正極用分散液全量に対して、電池容量を確保する点、分散液の流動性を確保する点から、50~70質量%が好ましく、50~63質量%が更に好ましい。
【0039】
本発明の正極用分散液は、カーボンナノチューブ及び正極用活物質を含むと共に、必要に応じて、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、ドライポリマー電解質、ゲルポリマー電解質、疑似固体電解質等の固体電解質を含有することができる。
【0040】
負極用活物質としては、黒鉛の他、特に制限なく用いることができ、導電性を有しないものであれば、例えば金属酸化物系活物質粒子、シリコン系活物質粒子、特に金属酸化物系負極活物質粒子を用いることができる。
【0041】
金属酸化物系負極活物質粒子としては、例えば、チタン酸化物を使用できる。チタン酸化物としては、リチウムを吸蔵放出可能なものであれば特に限定されるものではないが、例えば、スピネル型チタン酸リチウム、ラムスデライト型チタン酸リチウム、チタン含有金属複合酸化物、単斜晶系の結晶構造を有する二酸化チタン(TiO2(B))、並びにアナターゼ型二酸化チタンなどを用いることができる。
【0042】
スピネル型チタン酸リチウムとしては、Li4+xTi5O12(xは充放電反応により-1≦x≦3の範囲で変化する)などが挙げられる。ラムスデライト型チタン酸リチウムとしては、Li2+yTi3O7(yは充放電反応により-1≦y≦3の範囲で変化する)などが挙げられる。TiO2(B)及びアナターゼ型二酸化チタンとしては、Li1+zTiO2(zは充放電反応により-1≦z≦0の範囲で変化する)などが挙げられる。
【0043】
チタン含有金属複合酸化物としては、TiとP、V、Sn、Cu、Ni及びFeよりなる群から選択される少なくとも一種類の元素とを含有する金属複合酸化物などが挙げられる。TiとP、V、Sn、Cu、Ni及びFeよりなる群から選択される少なくとも一種類の元素を含有する金属複合酸化物としては、例えば、TiO2-P2O5、TiO2-V2O5、TiO2-P2O5-SnO2、TiO2-P2O5-MeO(MeはCu、Ni及びFeよりなる群から選択される少なくとも一種類の元素)などを挙げることができる。
【0044】
このような金属複合酸化物は、結晶性が低く、結晶相とアモルファス相とが共存しているか、又は、アモルファス相が単独で存在しているミクロ構造であることが好ましい。ミクロ構造であることにより、サイクル性能を更に向上させることができる。
【0045】
本発明の分散液における溶媒は、水、水溶性溶媒又はそれらの混合溶液を用いることができる。水としては、水道水、蒸留水、イオン交換水等を用いることができる。
【0046】
水溶性溶媒としては、例えば、エチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2,5-ヘキサンジオール、3-メチル1,3-ブタンジオール、2メチルペンタン-2,4-ジオール、3-メチルペンタン-1,3,5-トリオール、1,2,3-ヘキサントリオール等のアルキレングリコール類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類、グリセロール、ジグリセロール、トリグリセロール等のグリセロール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル等のグリコールの低級アルキルエーテル、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダリジノンの少なくとも一種を用いることができる。
【0047】
その他にも、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類、アセトン等のケトン類等の水溶性溶媒を使用することもできる。
水と水溶性溶媒を混合する場合、水溶性溶媒の含有量は、分散液の保存安定性の点から、混合溶媒全量に対して0.1~10質量%が好ましく、0.5~5質量%が更に好ましい。
【0048】
活物質分散液における活物質の含有量は、電池の容量及び活物質分散液の流動性を確保する点から、活物質分散液全量に対して、30~60質量%が好ましく、35~55質量%がより好ましい。
【0049】
本発明の活物質分散液には、導電材を添加することが好ましい。導電材としては、カーボンナノチューブ、グラファイト、セルロースナノファイバーが挙げられ、これらからなる群から選ばれた一種または二種以上を使用することが好ましい。導電材は、流動性のある媒体と予備的に混合された混合液として分散機に供給することが好ましい。
【0050】
導電材の配合量は、正極用分散液全量に対して、固形分量で、0.5~10質量%が好ましく、0.5~7質量%が更に好ましい。導電材の配合量は、負極用分散液全量に対して、固形分量で0.5~10質量%が好ましく、0.5~5質量%がより好ましい。
【0051】
本発明に用いる導電材としては、実質的にグラファイトの1枚面を巻いて筒状にした形状を有するカーボンナノチューブ(CNT)が好ましく、グラファイトの1枚面を1層に巻いた単層CNT、二層又は三層以上の多層に巻いた多層CNTのいずれをも用いることができる。
【0052】
カーボンナノチューブの平均外径は、分散液の粘度、導電性、安定性の点から、1nm以上90nm以下であることが好ましく、3nm以上30nm以下であることがより好ましく、3nm以上15nm以下であることがさらに好ましい。ここで、カーボンナノチューブの平均外径とは、透過型電子顕微鏡の10万倍以上の倍率の画像を用いて測定した十分なn数の外径の算術平均値をいう。
【0053】
また、カーボンナノチューブの形態としては、例えば、グラファイトウィスカー、フィラメンタスカーボン、グラファイトファイバー、極細炭素チューブ、カーボンチューブ、カーボンフィブリル、カーボンマイクロチューブ及びカーボンナノファイバーを挙げることができるが、これらに限定されず、これらを各単独又は二種以上組み合わせ(以下、単に「少なくとも一種」という)であってもよい。
【0054】
本発明に用いるカーボンナノチューブの純度は、90~100質量%が好ましく、特に95~100質量%が好ましい。なお、カーボンナノチューブの純度は、JIS K 1469やJIS K 6218に準拠して測定した灰分を不純物とし、その不純物量に基づき算出される。
【0055】
具体的に用いることができるカーボンナノチューブとしては、例えば、Nanocyl社製のNC7000(平均外径10nm)、バイエル社製のBaytubesC150P(平均外径11nm)、Cnano社製のFloTube9000(平均外径19nm)、FloTube7320(平均外径9nm)、FloTube7010(平均外径9nm)、FloTube6810(平均外径8nm)、FloTube6120(平均外径8nm)、FloTube6100(平均外径8nm)、FloTube2020(平均外径4nm)、株式会社名城ナノカーボン製のMEIJOeDIPS EC2.0(平均外径2.0nm)、KORBON社製のKORBON-A7(平均外径1.2nm)、高圧ガス工業株式会社製のNFT-7(平均外径30nm)、高圧ガス工業株式会社製のNFT-15(平均外径30nm)、などの少なくとも一種を用いることができる。
【0056】
カーボンナノチューブの含有量は、分散液全量に対して、0.1~15.0質量%とすることが好ましく、より好ましくは0.1~10.0質量%、さらに好ましくは0.5~8.0質量%、特に好ましくは1.0~6.0質量%、最も好ましくは2.0~5.0質量%とする。カーボンナノチューブの含有量を分散液全量に対して0.1質量%以上とすることにより、電池とした際の良好な導電性を確保でき、一方、15.0質量%以下とすることにより、分散液の安定性を確保することができる。
【0057】
カーボンナノチューブと平板状のグラファイトとを組み合わせて使用することもできる。その場合、平板状のグラファイトの配合量は、カーボンナノチューブの配合量に対して10質量%以上とすることにより、カーボンナノチューブとの相乗効果が得られ、200質量%以下とすることにより、分散液の安定性を確保することができる。
【0058】
本発明の分散液には、グラフェンを配合してもよい。グラフェンは、1原子の厚さのsp2結合炭素原子のシート状物質で、炭素原子とその結合からできた蜂の巣のような六角形格子構造をとっている。
【0059】
本発明の分散液には、さらにセルロースナノファイバー(CeNF)を配合してもよい。セルロースナノファイバーとして、セルロースをTEMPO酸化することによりカルボキシル化された酸化セルロースナノファイバーを、カーボンナノチューブの分散剤として好ましく使用することができる。
【0060】
用いる酸化セルロースナノファイバーは、セルロースI型結晶を有することが好ましい。酸化セルロースナノファイバーは、好ましくは、X線回折法で測定した際の結晶化度が70%未満である。結晶化度は、より好ましくは25%以上70%未満である。
結晶化度が70%未満であれば、適度な酸化処理と解繊が行われ、カーボンナノチューブの分散性が良好なものとなる。結晶化度が70%を超えると、カーボンナノチューブ等の解繊や解砕不足となりやすく、分散性も不十分となる。
【0061】
分散液に配合される酸化セルロースナノファイバーの繊維長は、50nm~250nmであるものが全体の85%以上を占めることが好ましく、100nm~150nmであるものが全体の30%以上を占めることがより好ましい。
また、分散液に配合される酸化セルロースナノファイバーは、数平均繊維長Lが100nm~150nmで、数平均繊維長Lと長さ加重平均繊維長Llの比(Ll/L)が1.0~1.4であることが好ましい。
【0062】
酸化セルロースナノファイバーの繊維長が前記範囲にあると、カーボンナノチューブの分散性が良い。その機構は明らかではないが、酸化セルロースナノファイバーのカーボンナノチューブへの浸透性に関係するものと推定される。
【0063】
さらに、用いる酸化セルロースナノファイバーは、アルコール性水酸基がある一定量残存していることで、分子同士がより強く水素結合し、構造復元性が得られる。また、分散液を塗工した際、塗工中は粘度が下がり均一に塗工しやすく、塗工後には粘度が回復し、その後も均一な状態を維持できる。また塗工後に粘度が回復する(高くなる)ことで乾燥時に材料が凝集しにくく反りにくくなる。アルコール性水酸基は、赤外分光スペクトルによって検出される。
【0064】
前記負極用分散液には、さらに、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、ドライポリマー電解質、ゲルポリマー電解質、疑似固体電解質等の固体電解質を含有させることができる。
上記正極用分散液又は負極用分散液を用いることにより、二次電池用電極を得ることができる。
【0065】
本発明においては、分散機から排出される活物質分散液の品質値の計測、計測された品質値からの増減傾向の算出、算出された増減傾向に合わせた分散機への活物質混合液の供給速度及び/又は分散機の動力の調整、からなる一連の操作を行う。当該一連の操作を自動化された装置を用いて行うことが好ましい。
その場合も、管理する品質値が粒子径分布である活物質分散液の製造方法であることが好ましい。
【実施例0066】
実施例1~9
<導電材分散液の調製>
導電材、分散剤、イオン交換水を表1実施例1~9に示す組成及び比率で合わせ、混合機(コンビミックス;プライミクス社製)で1時間攪拌し、混合液とした。次に、前記の混合液を容量1.5Lの薄膜旋回型高速分散機(ウィリー・エ・バッコーフェン社製、ビーズミル;ジルコニアビーズφ1.0mm)に投入し、回転ディスクの周速10m/sにて分散した。さらに、流量制御が可能な定量ポンプを用いて混合液を分散機に連続的に供給及び排出した。混合液のビーズミル滞留時間すなわち分散処理時間の初期条件を15分間とした。
【0067】
その際、分散機の出口ラインに設置したインライン粘度センサー(FEM-1000V-ST、セコニック社製)を用いて、分散機から排出された導電材分散液の粘度を1秒間隔で計測し、直近の20点の計測値から導電材分散液の粘度推移の傾きをa(mPa・s/sec)とし、最新の粘度値を切片bとしたとき、200秒後の粘度予測値Y(=200×a+b)が粘度の目標値となる様に、ポンプの周波数を調整して導電材混合液の分散機への供給速度を制御した。
【0068】
粘度の目標値よりも予測値Yが大きい場合、混合液の供給速度を小さくし、又は、分散機の回転速度の周速を上げることにより、導電材分散液の分散をより進行させて粘度を下げるよう調整した。また、粘度の目標値よりも予測値Yが小さい場合は、混合液の供給速度を大きくし、又は、分散機の回転速度の周速を下げることにより、導電材分散液の分散を抑制して粘度を上げるよう調整した。以上の操作を、プログラムを組んで自動的に制御した。
【0069】
算出された粘度の増減傾向に対応して、実施例1~2及び実施例5~9においては導電材混合液の供給流量を、実施例4においては分散機の回転速度の周速を、実施例3においてはその両方をそれぞれリアルタイムで自動制御した。
以上の手順により、分散機に供給する混合液の混合状態が時々変化して混合液の粘度が変動したにも関わらず、製造初期から終了時まで、粘度がほぼ一定した均質な導電材分散液が継続して得られた。
【0070】
<負極スラリーの作製>
活物質として球状黒鉛、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト(鱗片状)、グラフェンから選ばれる少なくとも一種の導電材を含有する実施例1~9の導電材分散液、結着材(バインダー)としてカルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレンブダジエンゴム(SBR)を表2実施例1~9の割合で用意した。プラネタリーミキサーを用いて球状黒鉛、CMCを混合の後、導電材分散液を混錬に適した固さまで添加し、3時間混錬の後、残りの導電材分散液を少しずつ添加し、均一になり流動性が得られたところでSBRを添加し、負極スラリーを作製した。
【0071】
<負極電極の作製>
以上の方法で得られた負極スラリーを、ダイコータ―により、厚さ20μmの銅箔上に塗工量4.0mg/cm2にて塗布した後、熱風乾燥してシート状の負極電極を得た。得られた負極電極のシートを用いて、下記評価を実施した。結果を表2に示す。
【0072】
<電極評価>
電極復元性評価
負極電極のシートをプレス機を用いて塗膜の密度が1.60g/cm3になるようにプレスした。大気圧下、常温にて7日間放置した後、密度を測定し、下記基準で評価した。密度は膜厚より算出した。
◎:密度1.55g/cm3未満
〇:密度1.55g/cm3以上1.60g/cm3未満
×:密度1.60g/cm3のまま
【0073】
出力特性・電池特性均一性評価
負極電極のシートからランダムに20個の円盤を打ち抜き、20個のコインセル(CR2032)を作製した。各コインセルを用いて直流抵抗を測定し、出力特性を下記基準で評価した。また、直流抵抗の測定値の標準偏差を求め、電池特性均一性を下記の基準で評価した。結果を表1に示す。
出力特性
◎:コインセル20個の直流抵抗平均値が30Ω未満
○:コインセル20個の直流抵抗平均値が30Ω以上40Ω未満
×:コインセル20個の直流抵抗平均値が40Ω以上
電池特性均一性
〇:コインセル20個の直流抵抗測定値の標準偏差が0.5Ω未満
×:コインセル20個の直流抵抗測定値の標準偏差が0.5Ω以上
【0074】
比較例1~4
<導電材分散液の調製>
分散液の成分を表1比較例1~4に示す組成と比率で合わせ、分散機への導電材混合液の供給速度の調整及び分散機の動力の調整のいずれも行わず、オフラインにおける測定値により手動制御を行った他は実施例1と同様にして導電材分散液を得た。
【0075】
<負極スラリーの作製>
活物質として球状黒鉛、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト(鱗片状)、グラフェンから選ばれる少なくとも1種の導電材を含有する比較例1~4の導電材分散液、結着材(バインダー)としてカルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレンブダジエンゴム(SBR)を表2比較例1~4の割合で用意した。プラネタリーミキサーを用いて球状黒鉛、CMCを混合の後、導電材分散液を混錬に適した固さまで添加し、3時間混錬の後、残りの導電材分散液を少しずつ添加し、均一になり流動性が得られたところでSBRを添加し、負極スラリーを作製した。
【0076】
<負極電極の作製>
以上の方法で得られた負極スラリーを用いて、実施例1と同様にして負極電極のシートを得た。得られた負極電極のシートについて、電極復元性、出力特性及び電池特性均一性を上記の基準で評価した。結果を表2に示す。
【0077】
【0078】