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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139173
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】接着方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/16 20060101AFI20241002BHJP
【FI】
B41J2/16 503
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050000
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】501167725
【氏名又は名称】エスアイアイ・プリンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142837
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 則彰
(74)【代理人】
【識別番号】100166305
【弁理士】
【氏名又は名称】谷川 徹
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 遼
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF93
2C057AG45
2C057AN01
2C057AP25
2C057BA14
(57)【要約】
【課題】ヘッドチップの接着時に起きる位置ズレおよび接着剤のはみだしUPを抑制する
【解決手段】本開示に係る液体噴射ヘッドの部材間の接着方法は、流路部材52に形成されている第1部材接着面72と、第1部材接着面72と貼り合わせる、アクチュエータプレート54に形成されている第2部材接着面73の、少なくとも一方に接着剤を塗布する接着剤塗布工程S2と、第1部材接着面72及び第2部材接着面73同士の位置合わせを行い、貼り合わせを行う仮接着工程S4と、仮接着工程S4の後において、レーザ照射を第1部材接着面72及び第2部材接着面73の接合面75に照射することによって、接着剤Uを硬化させる接着剤硬化工程S6と、接着剤Uの未硬化部分UPを除去する未硬化接着剤除去工程S7とを含む。接着剤硬化工程S6では、レーザ照射は流路部材52を透過する。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体噴射ヘッドの部材間の接着方法であって、
第1の部材に形成されている第1の接着面と、前記第1の接着面と貼り合わせる、第2の部材に形成されている第2の接着面の、少なくとも一方に接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、
前記第1の接着面及び前記第2の接着面同士の位置合せを行い、貼り合わせを行う仮接着工程と、
前記仮接着工程の後において、レーザ照射を前記第1の接着面及び第2の接着面の接合面に照射することによって、前記接着剤を硬化させる接着剤硬化工程と、
前記接着剤の未硬化部分を除去する未硬化接着剤除去工程と、
を含み、
前記接着剤硬化工程では、前記レーザ照射は前記第1の部材を透過する、
接着方法。
【請求項2】
前記レーザ照射で用いるレーザの波長が780nm以下であり、
前記接着剤は、光硬化接着剤である、
請求項1に記載の接着方法。
【請求項3】
前記レーザ照射で用いるレーザの波長が780nmより長く、
前記接着剤は、熱硬化接着剤あるいは光硬化接着剤であり、
前記第2の部材は、前記レーザ照射を吸収する材料から構成されている、
請求項1に記載の接着方法。
【請求項4】
前記第1の部材及び前記第2の部材のいずれか一方はノズルプレートである、
請求項1又は2に記載の接着方法。
【請求項5】
前記接着剤硬化工程では、前記接合面の外縁部を硬化したのち、前記外縁部よりも内側の領域を硬化させる、
請求項1~3のいずれか1項に記載の接着方法。
【請求項6】
前記接着剤除去工程では、洗浄液のシャワーリングによって前記接着剤の前記未硬化部分を除去する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の接着方法。
【請求項7】
前記接着剤除去工程では、超音波洗浄によって前記接着剤の前記未硬化部分を除去する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の接着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッドの部材間の接着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドでは、アクチュエータプレート、ノズルプレートの2層を積層したヘッドチップと呼ばれる部品が組み込まれている場合がある。ここで、液体の流路としての機能および圧電体を駆動させ、液体を噴射する機能を持つ板状部材をアクチュエータプレートと呼ぶ。
【0003】
ヘッドチップのアクチュエータプレートの一部では、液体を所定の箇所で流すための流路機能と、圧力を加えて液体を吐出するための駆動機能との2つの機能をもつ、圧力室という構造が備わっている場合がある。ここで、圧力室を構成する部材は、電界を印加することにより駆動する材料からなる圧電体である必要がある(例えば、特許文献1参照)が、液体流路は圧電体である必要がない。
【0004】
しかしアクチュエータプレート上では、液体に圧力を加える圧電体としての機能を使う領域は全体のうちごく一部で、その他領域は液体が通る流路としてのみの機能となる。そこで、圧力が必要な領域以外を圧電体ではない部材に置き換えることで、単なる流路の部材と比較して高価な圧電体の使用量を減らすことができるため、アクチュエータプレートの部材のコストダウンを実現することができる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-50669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
液体噴射ヘッドでは、部材同士の接着に熱硬化性の接着剤を用いる場合がある。溝や孔が加工されている接着面に熱硬化性接着剤を塗布し、接着した後の複合部材を加熱槽に投入して全体加熱により硬化させる。その場合、接着剤は加熱の過程で全体的に一度粘度が低下し、流動した後に硬化する。
【0007】
圧電体が必要な領域と圧電体が必要ない領域間では、接着での貼り合わせが必要な場合がある。この貼り合わせでは、2部材間で1つの液体流路を形成することが必要になる場合がある。この場合、互いの溝を連通させるため、これら溝の側壁面および底面が面一になっており、高い位置合わせの精度が要求される場合がある。しかし、硬化の過程で一度接着剤は流動するため、硬化の前に位置合わせを行っていても、貼り合わせの位置ズレが起きてしまう場合がある。この位置ズレが起きると、液体の吐出速度がばらつく、吐出が困難になるなど、ヘッドチップの、ひいては液体噴射ヘッドの歩留まりの低下を招く場合がある。
【0008】
また、流動した接着剤の溝や孔へのはみだしが起きてしまい、電極の導通の阻害や、液体流路の断面積の低下、あるいは脱落した場合には異物として残留するなどにより、ヘッドチップの歩留まりの低下を招く場合がある。
【0009】
本開示は、上記課題に鑑みてなされたものであり、ヘッドチップの接着時に起きる位置ズレおよび接着剤のはみだしを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本開示は以下の態様を採用した。
(1)本開示の一態様に係る液体噴射ヘッドの部材間の接着方法は、第1の部材に形成されている第1の接着面と、前記第1の接着面と貼り合わせる、第2の部材に形成されている第2の接着面の、少なくとも一方に接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、前記第1の接着面及び前記第2の接着面同士の位置合わせを行い、貼り合わせを行う仮接着工程と、前記仮接着工程の後において、レーザ照射を前記第1の接着面及び第2の接着面の接合面に照射することによって、前記接着剤を硬化させる接着剤硬化工程と、前記接着剤の未硬化部分を除去する未硬化接着剤除去工程を含み、前記接着剤硬化工程では、前記レーザ照射は前記第1の部材を透過する、接着方法である。
【0011】
本態様によれば、アクチュエータプレートと流路部材を接着したときの複合部材間の位置ズレが好ましくないような、溝や孔などの形状が形成されている第1の接着面と第2の接着面間を接着する際に有効である。すなわち、接着剤の硬化をレーザ照射により局所的に行い、接合面の外縁部を先に硬化させることで、接着剤を加熱した際の接着剤の一時的な粘度低下による流動が起きる投影面積を小さく抑制できる。このため、接着剤の流動による接合面の外側の領域への接着剤のはみだしや、部材の位置ズレを抑制させることができ、ヘッドチップの歩留まりを向上させることができる。
【0012】
(2)本開示の態様で使用するレーザ照射で用いるレーザの波長は、780nm以下であってもよい。またこの場合、使用する接着剤は、光に反応し、重合反応により硬化する光硬化接着剤であってもよい。
【0013】
本態様によれば、熱硬化接着剤と比較し、可視光~紫外光の範囲のレーザ照射を用いる光硬化接着剤では、短時間での硬化が可能であるため、接着時間を短縮することができる。その結果、生産効率を向上させることができる。
【0014】
(3)本開示の態様によれば、レーザ照射で用いるレーザは780nmより長い波長であってもよい。またこの場合、使用する接着剤は、加熱によって硬化する熱硬化接着剤あるいは光照射によって硬化する光硬化接着剤であってもよい。さらにこの場合では、第2の部材は、前記レーザ照射を吸収する材料から構成されていてもよい。
【0015】
本態様によれば、レーザ照射時に、第2の接着面において熱が発生するため、効果的に熱硬化接着剤を硬化させることができる。また、光硬化接着剤は、波長が短く、エネルギーが大きい紫外線のような光によって、重合反応を起こし、接着剤樹脂を硬化させる。そのため、基本的に赤外光のレーザ照射では硬化できないが、熱硬化接着剤であれば第2の接着面に発生する熱により硬化させることができる。その結果、光硬化、熱硬化どちらの接着剤でもレーザによって効果的に接着することができる。
【0016】
(4)本開示の態様によれば、前記第1の部材及び前記第2の部材のいずれか一方はノズルプレートであってもよい。
【0017】
ノズルプレートの接着面にはノズル孔が開口している。このノズル孔に接着剤が入り込むと、ノズル孔の径が小さくなり、液体の吐出速度や角度にばらつきが生じてしまう。そこで本態様によれば、ノズル孔への接着剤のはみだしによる不良を低減することができ、その結果、ヘッドチップの歩留まりが向上する。
【0018】
(5)本開示の態様によれば、前記接着剤硬化工程では、前記接合面の外縁部を硬化したのち、前記外縁部よりも内側の領域を硬化させてもよい。
【0019】
本態様によれば、外縁部を先に硬化させることで、接着剤を加熱した際の接着剤の一時的な粘度低下による流動が起きる投影面積を小さく抑制できる。また、接合面中心部の接着剤を硬化させる際に起きる流動で接着剤が接合面の外側にはみ出そうとしても、先に硬化させた外縁部が壁となり、接着剤のはみだしを抑制できる。その結果、接着剤のはみだしによるノズル孔などの機能の低下を抑制でき、ヘッドチップの歩留まりを向上させることができる。
【0020】
(6)本開示の態様によれば、前記接着剤除去工程では、洗浄液のシャワーリングによって前記接着剤の前記未硬化部分を除去してもよい。
【0021】
本態様によれば、従来接着剤のはみだし除去に適用していたプラズマでのアッシングによる除去よりも、簡易かつ部材を痛めることなく、接着剤の未硬化部分を除去することができる。
【0022】
(7)本開示の態様によれば、前記接着剤除去工程では、超音波洗浄によって前記接着剤の前記未硬化部分を除去してもよい。
【0023】
本態様によれば、洗浄液や有機溶剤などに浸し、超音波洗浄することでシャワーリングによる洗浄よりも微細な未硬化樹脂を洗浄することができる。その結果、ヘッドチップの歩留まりをさらに向上させることができる。
【発明の効果】
【0024】
本開示によれば、接着剤の流動による接合面の外側の領域への接着剤のはみだしや、部材の位置ズレを抑制させることができ、ヘッドチップの歩留まりを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本開示の実施形態に係るインクジェットプリンタの概略構成図である。
図2】本開示の実施形態に係るインクジェットヘッド及びインク循環機構の概略構成図である。
図3】本開示の実施形態に係るヘッドチップの分解斜視図である。
図4】本開示の実施形態に係るアクチュエータプレートおよび流路部材の平面図である。
図5図4のV-V線に対応する、アクチュエータプレートの断面図である。
図6A】本開示の実施形態における、アクチュエータプレートおよび流路部材間の接着を説明する図である。
図6B】本開示の実施形態における、接合面から外側に接着剤がはみでる様子である。
図7】本開示の実施形態に係る、レーザを接合面に照射する工程を説明する図である。
図8】本開示の実施形態に係る、接着剤硬化工程を説明する図である。
図9】本開示の実施形態に係る接着方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本開示に係る実施形態について図面を参照して説明する。以下で説明する実施形態や変形例において、対応する構成については同一の符号を付して説明を省略する場合がある。以下の説明において、例えば「平行」や「直交」、「中心」、「同軸」等の相対的又は絶対的な配置を示す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差や同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。以下の実施形態では、インク(液体)を利用して被記録媒体に記録を行うインクジェットプリンタ(以下、単にプリンタという)を例に挙げて説明する。以下の説明に用いる図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0027】
(実施形態)
<プリンタ1>
図1はプリンタ1の概略構成図である。
図1に示すプリンタ(液体噴射記録装置)1は、一対の搬送機構2,3と、液体タンク4と、インクジェットヘッド(液体噴射ヘッド)5と、液体循環機構6と、走査機構7と、を備えている。
【0028】
以下の説明では、必要に応じてX,Y,Zの直交座標系を用いて説明する。この場合、X方向は被記録媒体P(例えば、紙等)の搬送方向(副走査方向)に一致している。Y方向は走査機構7の走査方向(主走査方向)に一致している。Z方向は、X方向及びY方向に直交する高さ方向(重力方向)を示している。以下の説明では、X方向、Y方向及びZ方向のうち、図中矢印側をプラス(+)側とし、矢印とは反対側をマイナス(-)側として説明する。本明細書において、+Z側は重力方向の上方に相当し、-Z側は重力方向の下方に相当する。
【0029】
搬送機構2,3は、被記録媒体Pを+X側に搬送する。搬送機構2,3は、例えばY方向に延びる一対のローラ11,12をそれぞれ含んでいる。液体タンク4には、例えばイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色の液体が各別に収容されている。各インクジェットヘッド5は、接続された液体タンク4に応じてイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色の液体をそれぞれ吐出可能に構成されている。
【0030】
図2は、インクジェットヘッド5及び液体循環機構6の概略構成図である。
図1図2に示すように、液体循環機構6は、液体タンク4とインクジェットヘッド5との間で液体を循環させる。具体的に、液体循環機構6は、液体供給管21及び液体排出管22を有する循環流路23と、液体供給管21に接続された加圧ポンプ24と、液体排出管22に接続された吸引ポンプ25と、を備えている。
【0031】
加圧ポンプ24は、液体供給管21内を加圧し、液体供給管21を通してインクジェットヘッド5に液体を送り出している。これにより、インクジェットヘッド5に対して液体供給管21側は正圧となっている。吸引ポンプ25は、液体排出管22内を減圧し、液体排出管22内を通してインクジェットヘッド5から液体を吸引している。これにより、インクジェットヘッド5に対して液体排出管22側は負圧となっている。液体は、加圧ポンプ24及び吸引ポンプ25の駆動により、インクジェットヘッド5と液体タンク4との間を、循環流路23を通して循環可能となっている。
【0032】
図1に示すように、走査機構7は、インクジェットヘッド5をY方向に往復走査させる。走査機構7は、Y方向に延びるガイドレール28と、ガイドレール28に移動可能に支持されたキャリッジ29と、を備えている。
【0033】
<インクジェットヘッド5>
インクジェットヘッド5は、キャリッジ29に搭載されている。図示の例では、複数のインクジェットヘッド5が、一つのキャリッジ29にY方向に並んで搭載されている。インクジェットヘッド5は、ヘッドチップ50(図3参照)と、液体循環機構6及びヘッドチップ50間を接続する液体供給部(不図示)と、ヘッドチップ50に駆動電圧を印加する制御部(不図示)と、を備えている。
【0034】
<ヘッドチップ50>
図3は、ヘッドチップ50の分解斜視図である。図3に示すヘッドチップ50は、液体タンク4との間で液体を循環させるとともに、後述する圧力室61における延在方向(Y方向)の中央部から液体を吐出する、いわゆる循環式サイドシュートタイプのヘッドチップ50である。
【0035】
本実施形態のヘッドチップ50は、ノズルプレート51と、流路部材52と、アクチュエータプレート54と、を備えている。流路部材52は、入口側流路52Aと出口側流路52Bの2部材から構成されている。以下の説明では、Z方向のうち、ノズルプレート51からアクチュエータプレート54に向かう方向(+Z側)を上側とし、アクチュエータプレート54からノズルプレート51に向かう方向(-Z側)を下側として説明する場合がある。
【0036】
ヘッドチップ50は+Z方向に向かって、ノズルプレート51と、流路部材52およびアクチュエータプレート54と、カバープレートとが積層された構造となっている。流路部材52とアクチュエータプレート54は後述するように側面接着されており、同一の層に構成されている。
【0037】
図5に示すように、アクチュエータプレート54は、第1アクチュエータプレート54Aおよび第2アクチュエータプレート54Bの2枚のプレートを積層した、いわゆる積層プレートとされている。なお、アクチュエータプレート54は、積層プレートに限らず、1枚のプレートで構成してもよい。
【0038】
第1アクチュエータプレート54Aおよび第2アクチュエータプレート54Bは、共に厚さ方向に分極処理された圧電基板、例えばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)セラミックス基板であり、互いの分極方向を反対に向けた状態で接合されている。
【0039】
図4に示すように、アクチュエータプレート54には、液体が収容される複数の圧力室61と液体が収容されない複数の空気室68が、所定の間隔を空けて並ぶようにX方向に交互に形成されている。圧力室61および空気室68は、アクチュエータプレート54Z-方向に開口している。したがって、アクチュエータプレート54のうち、隣り合う圧力室61および空気室68間に位置する部分は、これらをX方向に仕切る駆動壁57を構成している。各圧力室61および空気室68は、Y方向に直線状に延びる溝状に形成されている。各圧力室61および空気室68の溝は、Y+およびY―方向どちらの方向にもアクチュエータプレート54の第2部材接着面73側に開口している。
【0040】
圧力室61の内壁面のうち側壁面には、不図示の共通電極が形成されている。この共通電極は、圧力室61に沿って、アクチュエータプレート54上に形成された不図示の共通端子に導通している。
【0041】
一方、非吐出溝68の内壁面のうち側壁面には、不図示の個別電極がそれぞれ形成されている。これら個別電極は、空気室68に沿って延び、アクチュエータプレート54上に形成された不図示の個別端子に導通している。
【0042】
このような構成のもと、フレキシブル基板(不図示)を介して制御回路(不図示)が共通端子および個別端子を通じて、共通電極と個別電極との間に駆動電圧を印加すると、駆動壁57が圧電効果により変形する。そして、圧力室61内に充填された液体に圧力変動が生じる。これにより、圧力室61内の液体をノズル孔71より吐出することができ、被記録媒体Pに文字や図形等の各種情報を記録することが可能となる。
【0043】
流路部材52は、Z方向を厚さ方向とした板状部材である。流路部材52は、液体耐性を有する材料により形成されている。このような材料として、例えば金属や金属酸化物、ガラス、樹脂、セラミックス等が採用可能である。また流路部材52には、例えば使用する接着剤が光で硬化する場合、波長によって、接着剤波長780nm以下の可視光あるいは紫外領域のレーザを透過する部材を採用する。上述では780nm以下のレーザを透過するとしたが、熱硬化型の接着剤を使用する場合、780nmより長い波長の赤外領域のレーザを透過する部材を採用してもよい。流路部材52には、液体が流通する流路60が形成されている。流路60は、流路部材52をZ-方向に開口している。
【0044】
流路部材52は流路60として、入口側共通流路64と、入口側連通路65と、出口側共通流路66と、出口側連通路67と、を含んでいる。
【0045】
入口側連通路65と、出口側連通路67は、アクチュエータプレート54に接合したときに、アクチュエータプレート54のそれぞれの圧力室61に連通するように形成されている。
【0046】
流路部材52は、入口側流路52Aと出口側流路52Bがアクチュエータプレート54を挟むように、それぞれの側面において接着剤Uによって接着されている。この際、入口側連通路65および出口側連通路67は、アクチュエータプレート54のY方向に開口している圧力室61に連通する。
【0047】
入口側共通流路64は、流路部材52のうち各圧力室61に対して+Y側に位置する部分をX方向に延びている。入口側共通流路64における-X側端部は、入口ポート(不図示)に接続される。入口ポートは、液体供給管21(図2参照)に直接的又は間接的に接続されている。すなわち、液体供給管21内を流れる液体は、入口ポートを通じて入口側共通流路64に供給される。
【0048】
入口側連通路65は、入口側共通流路64と各圧力室61との間をそれぞれ接続している。具体的に、各入口側連通路65は、入口側共通流路64のうちX方向から見て各圧力室61と重なり合う部分から、-Y側に向けてそれぞれ分岐している。入口側連通路65における-Y側端部は、圧力室61に接続されている。
【0049】
出口側共通流路66は、流路部材52のうち各圧力室61に対して-Y側に位置する部分をX方向に延びている。出口側共通流路66における+X側端部は、出口ポート(不図示)に接続される。出口ポートは、液体排出管22(図2参照)に直接的又は間接的に接続されている。すなわち、出口側共通流路66内を流れる液体は、出口ポートを通じて液体排出管22に供給される。
【0050】
出口側連通路67は、出口側共通流路66と各圧力室61との間をそれぞれ接続している。具体的に、各出口側連通路67は、出口側共通流路66のうちX方向から見て各圧力室61と重なり合う部分から、+Y側に向けてそれぞれ分岐している。出口側連通路67における+Y側端部は、圧力室61に接続されている。
【0051】
入口側連通路65および出口側連通路66は、不図示のバイパス流路によって、圧力室61を介さずに、直接的に連通していてもよい。バイパス流路により、インクジェットヘッド5における、液体の循環量を調整することができる。
【0052】
図3に示すように、ノズルプレート51は、流路部材52の下面に接着等によって固定されている。ノズルプレート51は、平面視外形が流路部材52とアクチュエータプレート54からなる複合部材と同等になっている。したがって、ノズルプレート51は、流路60及び圧力室61の下端開口部を閉塞している。本実施形態において、ノズルプレート51は、ポリイミド等の樹脂材料により厚さが数十~百数十μm程度に形成されている。但し、ノズルプレート51は、樹脂材料の他、金属材料(SUSやNi-Pd等)、ガラス、シリコン等による単層構造、又は積層構造であってもよい。
【0053】
ノズルプレート51には、ノズルプレート51をZ方向に貫通する複数のノズル孔71が形成されている。各ノズル孔71は、X方向に間隔をあけて配置されている。各ノズル孔71は、対応する圧力室61それぞれに対し、X方向及びY方向の中央部で連通している。本実施形態において、各ノズル孔71は、例えば上方から下方に向かうに従い内径が漸次縮小するテーパ状に形成されている。本実施形態では、複数の圧力室61及び複数のノズル孔71がX方向に一列に並んだ構成について説明したが、この構成に限られない。X方向に並んだ複数の圧力室61及び複数のノズル孔71をノズル列とすると、ノズル列がY方向に間隔をあけて複数列設けられていてもよい。この場合、ノズル列の列数をnとすると、一のノズル列におけるノズル孔71(圧力室61)のY方向における配列ピッチは、一のノズル列に隣り合う他のノズル列におけるノズル孔71の配列ピッチに対して1/nピッチ毎にずれて配列されていることが好ましい。
【0054】
(液体噴射ヘッドの部材間の接着方法)
次に、インクジェットヘッド5に含まれるヘッドチップ50の部材間の接着方法について、図6図9を参照して説明する。図6図8は、部材同士を接着する工程を示す図である。また図9は、本実施形態に係る接着方法を示すフローチャートである。
【0055】
<溝形成工程S1>
まず、例えばPZT製の薄板に圧力室61、空気室68の溝を形成し、アクチュエータプレート54を作製する。さらに、例えばポリフェニレンサルファイド(PPS)製の薄板1対それぞれに入口側共通流路64と、入口側連通路65と、出口側共通流路66と、出口側連通路67を形成し、流路部材52(入口側流路52A、出口側流路52B)を作製する(溝形成工程S1)。例えば圧力室61、空気室68、入口側連通路65、出口側連通路67の形成にはダイシングソーを使用し、入口側共通流路64、出口側共通流路66の形成にはサンドブラスト加工を使用する。ここで、アクチュエータプレート54および流路部材52はそれぞれ、本開示の「第1の部材」および「第2の部材」に相当する。
【0056】
<接着剤塗布工程S2>
次に、本実施形態では、アクチュエータプレート54の圧力室61と、流路部材52の入口側連通路65あるいは出口側連通路67が図6Aに示すようにY方向に接続するようにしたときに向かい合う部材の側面のうち、アクチュエータプレート54側に接着剤Uを塗布する(接着剤塗布工程S2)。本実施形態では、アクチュエータプレート54側に接着剤を塗布したが、流路部材52側に接着剤を塗布してもよいし、両方に接着剤を塗布してもよい。
【0057】
アクチュエータプレート54の接着剤Uを塗布する面を第2部材接着面73とする。また、第2部材接着面73と接着させる流路部材52の面を第1部材接着面72とする。ここで、第1部材接着面72および第2部材接着面73はそれぞれ、本開示の「第1の接着面」および「第2の接着面」に相当する。さらに、これら72、73を接合して接着させた接合面75が本開示の「接合面」に相当する。また、塗布する接着剤Uは、本実施形態では光硬化接着剤である。
【0058】
<第1治具固定工程S3~仮接着工程S4>
接着剤Uを第2部材接着面73に塗布したのち、アクチュエータプレート54または流路部材52いずれか一方あるいは両方を不図示の位置合わせ用の治具に固定(第1治具固定工程S3)する。そして、治具に固定しながら、図6Aのアクチュエータプレート54のX方向に垂直な圧力室61の壁面と流路部材52のX方向に垂直な入口側連通路65あるいは出口側連通路67の壁面が面一になり、かつ、アクチュエータプレート54のZ方向に垂直な圧力室61の底面と流路部材52のZ方向に垂直な入口側連通路65あるいは出口側連通路67の底面が面一になるように、アクチュエータプレート54と流路部材52の位置決めを行う(仮接着工程S4)。この時、図6Bに示すように、アクチュエータプレート54あるいは流路部材52を他方に押し付けて仮接着を行うため、接着面に塗布した接着剤Uは、接着面から外側に流動し押し出される。その結果、接着面の外側に接着剤のはみだしUPが生じる場合がある。
【0059】
<第2治具固定工程S5>
第1治具固定工程S3で位置合わせ用の治具に固定した状態で、アクチュエータプレート54と流路部材52からなる複合部材の位置決めを行った後、固定した状態で不図示のレーザ照射装置の治具にセットする(第2治具固定工程S5)。
【0060】
<接着剤硬化工程S6>
レーザ照射装置に複合部材をセットした状態で、図7に示すように複合部材の側面から第2部材接着面73に対してY方向にレーザを照射し、接着剤Uを硬化させる(接着剤硬化工程S6)。このとき、レーザのスポット径は図8に示す第2部材接着面73内に収まるように調整する。本実施形態では、まず第2部材接着面73の外縁部U1にレーザを垂直に照射し、接着剤Uを硬化させる。次に上記外縁部の内側の領域U2にレーザを垂直に照射し、接着剤Uを硬化させる。一方で、レーザの照射角度は垂直に限らなくてもよく、斜方からレーザを照射してもよい。例えば、レーザの波長は780nm以下の可視光~紫外光の領域である。
【0061】
<未硬化接着剤除去工程S7>
上記のとおりレーザにより接着剤Uを硬化すると、接合面75の外縁部U1の外側の領域に接着剤のはみだしUPが生じるが、未硬化の状態となっている。この状態で、複合部材をレーザ照射装置の治具、位置合わせ用の治具から外す。その後、接着剤除去のための洗浄液を不図示のシャワーノズルから噴射し、接着剤のはみだしUPを洗い流すシャワーリング洗浄を行う(未硬化接着剤除去工程S7)。なおここで、接着剤のはみだしUPは、本開示の「接着剤の未硬化部分」に相当する。
【0062】
以上により、アクチュエータプレート54と流路部材52を接着することができる。
【0063】
本実施形態によれば、圧力室61、入口側連通路65あるいは出口側連通路67のような接着剤Uのはみだしや複合部材間の位置ズレが好ましくないような形状が形成されている第1部材接着面72と第2部材接着面73を接着する際に有効である。すなわち、接着剤Uの硬化をレーザ照射による局所的に行い、部材の接合面75外縁部U1を先に硬化させることで、接着剤Uを加熱した際の接着剤Uの一時的な粘度低下による流動が起きる投影面積を小さく抑制できる。さらに、外縁部U1、内側の領域U2の順に硬化させることで、内側の領域U2の接着剤Uが硬化する際に流動した接着剤Uが外縁部U1の硬化されている接着剤Uにせき止められることで、接着剤Uはみだしを抑制できる。このため、接着剤Uの流動による接合面75外縁部の外側の領域への接着剤のはみだしUPや、部材間の位置ズレを抑制させることができ、ヘッドチップ50の歩留まりを向上させることができる。
【0064】
また、本実施形態によれば、硬化させなかった接合面75外縁部U1の外側の領域にはみだした未硬化状態の接着剤は洗浄により除去することが可能である。その結果、接着剤Uのはみだしによる電極の導通の阻害や部材の位置ズレによる液体の吐出速度のばらつきを抑制でき、ヘッドチップ50の歩留まりを向上させることができる。
【0065】
また、本実施形態において、レーザ照射で用いるレーザの波長が780nm以下の可視光~紫外光の領域であり、かつ接着剤は光硬化接着剤を使用した。この態様によれば、熱硬化接着剤を使用する場合と比較して、接着時間を短縮することができる。その結果、生産効率を向上させることができる。
【0066】
また、本実施形態において、未硬化状態の接着剤の除去は、洗浄液によるシャワーリング洗浄によって行った。この態様によれば、従来のアッシングによる除去よりも、簡易かつ部材を痛めることなく、接着剤のはみだしUPを除去することができる。
【0067】
(変形例)
以下に上述の実施形態の変形例を示す。
【0068】
上記実施形態では、レーザの波長は780nm以下であり、接着剤Uは光硬化接着剤であったが、それ以外の構成であってもよい。例えば、レーザの波長が780nmより長く、接着剤には熱硬化接着剤又は光硬化接着剤を用いてもよい。
【0069】
この場合、レーザ照射時に、第2部材接着面73において熱が発生するため、効果的に熱硬化接着剤を硬化させることができる。また、光硬化接着剤は基本的に赤外のレーザ照射では硬化できないが、熱硬化接着剤であれば第2部材接着面73に発生する熱により硬化させることができる。その結果、光硬化、熱硬化どちらの接着剤Uでもレーザによって効果的に接着することができる。
【0070】
また、上記実施形態では、貼り合わせる部材(第1の部材および第2の部材)は、流路部材52およびアクチュエータプレート54であったが、貼り合わせる部材の一方がノズルプレート51であり、より具体的には、ノズルプレート51と流路部材52を貼り合わせてもよい。
【0071】
この場合、ノズル孔71への接着剤のはみだしUPによる吐出不良を低減することができる。その結果、ヘッドチップ50の歩留まりが向上する。
【0072】
さらに、上記実施形態では、接着剤のはみだしUPの除去方法は洗浄液のシャワーリング洗浄であったが、洗浄液や有機溶剤などに複合部材を浸した状態で、超音波洗浄することによって接着剤のはみだしUPを除去してもよい。
【0073】
この場合、シャワーリングによる洗浄よりも微細な未硬化樹脂をさらに効果的に洗浄することができる。その結果、ヘッドチップ50の歩留まりを向上することができる。
【0074】
また、上記実施形態では、流路部材52あるいはアクチュエータプレート54からなる複合部材は、図3に示すようにZ+方向に貫通していないが、流路60、圧力室61、空気室68等の少なくとも一部をZ+方向に貫通させてもよい。その上で、複合部材のZ+方向を向く上面に、複合部材とは別部材であるカバープレート(不図示)を接着してもよい。一例として、カバープレートは、Z方向を厚さ方向とした板状部材であり、アクチュエータプレート54および流路部材52の上面に接着等により固定されている。カバープレートにより、流路60や圧力室61等に流通する液体が外部に漏れ出すことを防止することができる。カバープレートは、例えば絶縁性を有する材料(例えば、金属酸化物、ガラス、樹脂、セラミックス等)により形成されている。
【0075】
この場合、複合部材とカバープレートを別の部材にすることが可能になり、複合部材とは異なる機能を有する材料を複合材料とカバープレートの間の層に挟むことも可能になる。その結果、ヘッドチップ50の機能を向上させることが可能になる。
【0076】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上述した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上述した各変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0077】
1 プリンタ(液体噴射記録装置)
5 インクジェットヘッド(液体噴射ヘッド)
50 ヘッドチップ
51 ノズルプレート
52 流路部材(第1の部材)
54 アクチュエータプレート(第2の部材)
72 第1部材接着面(第1の接着面)
73 第2部材接着面(第2の接着面)
75 接合面
U 接着剤
UP 接着剤のはみだし(接着剤の未硬化部分)
L レーザ
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9