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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139199
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】溶接電源装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/10 20060101AFI20241002BHJP
【FI】
B23K9/10 Z
B23K9/10 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050032
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【弁理士】
【氏名又は名称】小淵 景太
(72)【発明者】
【氏名】田島 弘恒
(72)【発明者】
【氏名】彦坂 征太
(72)【発明者】
【氏名】宮部 浩一
(72)【発明者】
【氏名】下菊 秀記
【テーマコード(参考)】
4E082
【Fターム(参考)】
4E082AA01
4E082DA01
4E082GA02
(57)【要約】
【課題】安全性に配慮しつつ、電極先端および被加工物の表面状態に関わらず、電極先端と被加工物との接触を精度よく検出できる溶接電源装置を提供する。
【解決手段】溶接電源装置A1において、1対の出力端子a,bと、1対の出力端子a,bの間に溶接電圧を印加する溶接電源部1と、1対の出力端子a,bの間に、被加工物を検出するための検出電圧を印加する補助電源部2(検出電圧印加回路5)と、を備えた。補助電源部2(検出電圧印加回路5)は、検出電圧として第1電圧を出力する第1状態と、検出電圧として第1電圧より高い第2電圧を出力する第2状態とで切り替わる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1対の出力端子と、
前記1対の出力端子の間に溶接電圧を印加する溶接電源部と、
前記1対の出力端子の間に、被加工物を検出するための検出電圧を印加する補助電源部と、
を備え、
前記補助電源部は、前記検出電圧として第1電圧を出力する第1状態と、前記検出電圧として前記第1電圧より高い第2電圧を出力する第2状態とで切り替わる、
溶接電源装置。
【請求項2】
前記第1電圧は25V以下であり、
前記第2電圧は50V以上であり、60V以下である、
請求項1に記載の溶接電源装置。
【請求項3】
前記1対の出力端子の間の電圧を安定させるためのブリーダ抵抗をさらに備え、
前記補助電源部は、前記第1状態および前記第2状態に加えさらに、前記検出電圧を出力しない第3状態にも切り替わる、
前記ブリーダ抵抗は、前記第3状態においては前記1対の出力端子の間に接続された状態になり、前記第1状態および前記第2状態においては前記1対の出力端子の間に接続されない状態になる、
請求項1または2に記載の溶接電源装置。
【請求項4】
巻線を有するトランスをさらに備え、
前記巻線は、第1端と、第2端と、前記第1端と前記第2端との間に配置されたセンタタップとを備え、
前記1対の出力端子は、第1出力端子および第2出力端子を含み、
前記補助電源部は、第1スイッチないし第4スイッチを備え、
前記第1端は、前記第2出力端子に導通接続され、
前記第2端は、前記第1スイッチおよび前記第2スイッチを介して前記第1出力端子に導通接続され、
前記センタタップは、前記第3スイッチを介して前記第1出力端子に導通接続され、
前記ブリーダ抵抗の一端は、前記第2出力端子に導通接続され、
前記ブリーダ抵抗の他端は、前記第4スイッチを介して、前記第1スイッチと前記第2スイッチとを導通接続する接続線に導通接続され、
前記第1状態においては、前記第3スイッチおよび前記第4スイッチが閉鎖され、前記第1スイッチおよび前記第2スイッチが開放され、
前記第2状態においては、前記第1スイッチおよび前記第2スイッチが閉鎖され、前記第3スイッチおよび前記第4スイッチが開放され、
前記第3状態においては、前記第2スイッチおよび前記第4スイッチが閉鎖され、前記第1スイッチおよび前記第3スイッチが開放される、
請求項3に記載の溶接電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接電源装置は、溶接のための溶接電力を供給する溶接電源部とは別に、補助電源部を備えている。補助電源部は、溶接電源装置の各部で必要とされる電圧を供給するために用いられる。また、補助電源部は、被加工物を検出するために、溶接電源装置の出力端子間に無負荷電圧より低い検出電圧を印加するための電源としても用いられる。例えば、検出電圧は、ロボットを備える溶接システムにおいて、出力端子間に印加されて、溶接トーチの電極の先端と被加工物との接触を検知することで溶接開始位置を検知するために用いられる。また、検出電圧は、TIG溶接や被覆アーク溶接(手棒溶接)において、電撃防止機能を備えつつ、溶接トーチの電極の先端が被加工物に接触したことを検知して溶接を開始するためにも用いられる。特許文献1には、補助電源回路からの補助電圧を、被覆アーク溶接棒の先端と被加工物との接触を検知するために用いる溶接電源装置が開示されている。補助電源部が溶接電源装置の出力端子間に印加する検出電圧は、電撃防止のために、人体が感知できない程度の25V以下に抑えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-104040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、被加工物の表面が錆びている場合や黒皮などの酸化物に覆われている場合、または、電極先端にスラグが付着している場合などの絶縁抵抗が高い状態では、25V以下に抑えられた検出電圧では、電極先端と被加工物との接触を検知できない場合がある。
【0005】
本発明は上記した事情のもとで考え出されたものであって、安全性に配慮しつつ、電極先端および被加工物の表面状態に関わらず、電極先端と被加工物との接触を精度よく検出できる溶接電源装置を提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0007】
本発明の溶接電源装置は、1対の出力端子と、前記1対の出力端子の間に溶接電圧を印加する溶接電源部と、前記1対の出力端子の間に、被加工物を検出するための検出電圧を印加する補助電源部と、を備え、前記補助電源部は、前記検出電圧として第1電圧を出力する第1状態と、前記検出電圧として前記第1電圧より高い第2電圧を出力する第2状態とで切り替わる。
【0008】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記第1電圧は25V以下であり、前記第2電圧は50V以上であり、60V以下である。
【0009】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記1対の出力端子の間の電圧を安定させるためのブリーダ抵抗をさらに備え、前記補助電源部は、前記第1状態および前記第2状態に加えさらに、前記検出電圧を出力しない第3状態にも切り替わる、前記ブリーダ抵抗は、前記第3状態においては前記1対の出力端子の間に接続された状態になり、前記第1状態および前記第2状態においては前記1対の出力端子の間に接続されない状態になる。
【0010】
本発明の好ましい実施の形態においては、巻線を有するトランスをさらに備え、前記巻線は、第1端と、第2端と、前記第1端と前記第2端との間に配置されたセンタタップとを備え、前記1対の出力端子は、第1出力端子および第2出力端子を含み、前記補助電源部は、第1スイッチないし第4スイッチを備え、前記第1端は、前記第2出力端子に導通接続され、前記第2端は、前記第1スイッチおよび前記第2スイッチを介して前記第1出力端子に導通接続され、前記センタタップは、前記第3スイッチを介して前記第1出力端子に導通接続され、前記ブリーダ抵抗の一端は、前記第2出力端子に導通接続され、前記ブリーダ抵抗の他端は、前記第4スイッチを介して、前記第1スイッチと前記第2スイッチとを導通接続する接続線に導通接続され、前記第1状態においては、前記第3スイッチおよび前記第4スイッチが閉鎖され、前記第1スイッチおよび前記第2スイッチが開放され、前記第2状態においては、前記第1スイッチおよび前記第2スイッチが閉鎖され、前記第3スイッチおよび前記第4スイッチが開放され、前記第3状態においては、前記第2スイッチおよび前記第4スイッチが閉鎖され、前記第1スイッチおよび前記第3スイッチが開放される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、補助電源部は、1対の出力端子の間に印加する検出電圧を第1電圧と第2電圧とで切り替える。したがって、通常の被加工物を検出する場合には、安全性を優先して、低い第1電圧を印加でき、表面が錆びや黒皮などの酸化被膜に覆われている被加工物を検出する場合には、検出の精度を高めるために、高い第2電圧を印加できる。これにより、本発明に係る溶接電源装置は、安全性に配慮しつつ、電極先端および被加工物の表面状態に関わらず、電極先端と被加工物との接触を精度よく検出できる。
【0012】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態に係る溶接電源装置を説明するための図であり、溶接システムの全体構成を示すブロック図である。
図2】検出電圧印加回路の第1状態、第2状態、および第3状態を説明するための回路図である。
図3】検出電圧印加回路の変形例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、本発明に係る熱加工用電源装置が溶接電源装置である場合を例として、図面を参照して具体的に説明する。
【0015】
〔第1実施形態〕
図1は、第1実施形態に係る溶接電源装置A1を説明するための図であり、溶接システムの全体構成を示すブロック図である。
【0016】
図1に示す溶接システムは、溶接電源装置A1、パワーケーブルCa,Cb、ワイヤ送給装置D、および溶接トーチTを備えている。溶接電源装置A1の一方の出力端子aは、パワーケーブルCaを介して、ワイヤ送給装置Dに接続されている。ワイヤ送給装置Dは、ワイヤ電極を溶接トーチTに送り出して、ワイヤ電極の先端を溶接トーチTの先端から突出させる。溶接トーチTの先端に配置されているコンタクトチップにおいて、パワーケーブルCaとワイヤ電極とは電気的に接続されている。溶接電源装置A1の他方の出力端子bは、パワーケーブルCbを介して、被加工物Wに接続されている。溶接電源装置A1は、溶接トーチTの先端から突出するワイヤ電極の先端と、被加工物Wとの間にアークを発生させ、アークに電力を供給する。溶接システムは、当該アークの熱で被加工物Wの溶接を行う。なお、溶接システムの構成は限定されない。たとえば、溶接システムは、ワイヤ送給装置Dを備えず、溶接トーチTが非消耗式の電極を備える構成であってもよい。また、溶接システムは、溶接トーチTがロボットによって移動される構成であってもよい。
【0017】
溶接電源装置A1は、アーク溶接のための溶接電力を溶接トーチTに供給する。溶接電源装置A1は、溶接電源部1、補助電源部2、および制御部7を備えている。
【0018】
溶接電源部1は、アーク溶接のための溶接電力を生成し、出力端子aと出力端子bとの間に溶接電圧を印加する。溶接電源部1は、整流平滑回路11、インバータ回路12、トランス13、および整流平滑回路14を備えている。
【0019】
整流平滑回路11は、商用電源Bから入力される交流電力を直流電力に変換して出力する。整流平滑回路11は、交流電流を整流する整流回路と、平滑する平滑コンデンサとを備える。なお、整流平滑回路11の構成は限定されない。
【0020】
インバータ回路12は、例えば、単相フルブリッジ型のPWM制御インバータであり、4つのスイッチング素子を備える。インバータ回路12は、制御部7から入力される駆動信号によってスイッチング素子をスイッチングさせることで、整流平滑回路11から入力される直流電力を高周波電力に変換して出力する。なお、インバータ回路12は直流電力を高周波電力に変換するものであればよく、例えばハーフブリッジ型であってもよいし、その他の構成のインバータ回路であってもよい。
【0021】
トランス13は、インバータ回路12が出力する高周波電圧を変圧して、整流平滑回路14に出力する。トランス13は、一次巻線の各入力端子がインバータ回路12の各出力端子にそれぞれ接続され、二次巻線の各出力端子が整流平滑回路14の各入力端子にそれぞれ接続されている。インバータ回路12の出力電圧は、一次巻線と二次巻線の巻数比に応じて変圧されて、整流平滑回路14に入力される。二次巻線は一次巻線に対して絶縁されているので、商用電源Bから入力される電流が二次側の回路に流れることを防止できる。なお、トランス13の構成は限定されない。
【0022】
整流平滑回路14は、トランス13から入力される高周波電力を直流電力に変換して出力する。整流平滑回路14は、高周波電圧を整流する半波整流回路を備える。整流平滑回路14の各出力端子は、出力端子aまたは出力端子bに接続されている。なお、整流平滑回路14の構成は限定されない。
【0023】
補助電源部2は、溶接電力以外の、溶接電源装置A1で使用される電力を生成する。補助電源部2は、直流電源回路3、制御電源回路4、検出電圧印加回路5、および溶接回路制御電源部6を備えている。
【0024】
直流電源回路3は、補助電源部2で使用される直流電力を生成する。直流電源回路3は、例えば、商用電源Bから入力される交流電力を整流平滑回路で直流電力に変換して出力する。なお、直流電源回路3による直流電力の生成方法は限定されないし、直流電源回路3に供給される電力源も限定されない。例えば、直流電源回路3は、溶接電源部1の整流平滑回路11とインバータ回路12との間で直流電力を取得して出力してもよい。また、直流電源回路3は、溶接電源部1のトランス13の二次側に追加された巻線から入力される交流電力を整流することで直流電力を生成してもよい。
【0025】
制御電源回路4は、図示しない冷却ファン、および、ワイヤ送給装置Dの図示しない送給モータやガス電磁弁などに供給するための制御電力を生成する。本実施形態では、制御電源回路4は、フォワードコンバータを備えている。フォワードコンバータは、一次巻線42および二次巻線43を有するトランス41を備えている。制御電源回路4は、直流電源回路3から入力される電圧を各部で用いられる電圧に変換して出力する。なお、制御電源回路4の内部構成は限定されない。
【0026】
検出電圧印加回路5は、被加工物Wを検出するための検出電圧を生成して、出力端子aと出力端子bとの間に印加する。検出電圧は、溶接トーチTの先端から突出するワイヤ電極の先端が被加工物Wに接触したことを検出するために、出力端子aと出力端子bとの間に印加される電圧である。出力端子aと出力端子bとの間に検出電圧が印加されても、ワイヤ電極の先端が被加工物Wから離れているときには電流が流れない。一方、ワイヤ電極の先端が被加工物Wに接触したときに電流が流れる。これにより、電流の有無を検出することで、ワイヤ電極の先端が被加工物Wに接触したことを検出できる。検出電圧印加回路5は、検出電圧として、第1電圧V1と第2電圧V2とを切り替えて出力可能に構成されている。第1電圧V1は、本実施形態では15Vである。なお、第1電圧V1は限定されず、人体が感知できない程度の電圧であればよく、25V以下であるのが望ましい。以下では、検出電圧印加回路5が検出電圧として第1電圧V1を出力する状態を「第1状態」とする。第2電圧V2は、第1電圧V1より高く、本実施形態では55Vである。第2電圧V2は、被加工物Wの表面が錆びや黒皮などの酸化被膜に覆われている場合でも、電極先端と被加工物Wとの接触を精度よく検出できる電圧であり、25Vより大きく、50V以上であるのが望ましい。また、第2電圧V2は、人体が感知できるが感電にて人体に影響を及ぼさないと考えられる60V以下に設定される。第2電圧V2は、安全性と検出精度に基づいて設定される。以下では、検出電圧印加回路5が検出電圧として第2電圧V2を出力する状態を「第2状態」とする。
【0027】
また、検出電圧印加回路5は、溶接作業時には、検出電圧を出力せず、代わりに出力端子aと出力端子bとの間にブリーダ抵抗を接続する。ブリーダ抵抗は、無負荷時または軽負荷時において出力電圧を安定させるために、また、出力電圧の検出においてノイズの影響を少なくするために、出力端子間に接続される抵抗である。一般的な溶接電源装置においては、出力端子aと出力端子bとの間に、ブリーダ抵抗が常時接続されている。しかし、検出電圧を出力する際にブリーダ抵抗が接続されていると、ブリーダ抵抗によって検出電圧が降下する。これを防ぐために、検出電圧印加回路5は、検出電圧を出力する場合には、ブリーダ抵抗を切り離す。第1状態および第2状態とは異なり、検出電圧印加回路5が検出電圧を出力せず、出力端子aと出力端子bとの間にブリーダ抵抗を接続した状態を、以下では、「第3状態」とする。つまり、検出電圧印加回路5は、第1状態および第2状態では、出力端子aと出力端子bとの間にブリーダ抵抗を接続しない状態にする。
【0028】
また、検出電圧印加回路5は、常時、溶接回路制御電源部6に、第1電圧V1を出力する。溶接回路制御電源部6は、検出電圧印加回路5から入力された第1電圧V1をそのまま、または降圧して、制御部7内のアナログ制御回路およびマイクロコンピュータなどに供給する。
【0029】
検出電圧印加回路5は、2個のダイオードD1,D2、2個のコンデンサC1,C2、4個のスイッチ51,52,53,54、およびブリーダ抵抗59を備えている。スイッチ51,52,53,54は、制御部7から入力される制御信号に基づいて開閉される。本実施形態では、スイッチ51,52,53,54はリレー接点である。スイッチ51およびスイッチ53は常開接点(a接点)であり、スイッチ52およびスイッチ54は常閉接点(b接点)である。また、スイッチ51とスイッチ54とは連動しており、互いに反対の接続状態になる。すなわち、制御信号が入力されない場合、スイッチ51は開放され、スイッチ54は閉鎖される。一方、制御信号が入力されている場合、スイッチ51は閉鎖され、スイッチ54は開放される。同様に、スイッチ52とスイッチ53とは連動しており、互いに反対の接続状態になる。すなわち、制御信号が入力されない場合、スイッチ53は開放され、スイッチ52は閉鎖される。一方、制御信号が入力されている場合、スイッチ53は閉鎖され、スイッチ52は開放される。スイッチ51とスイッチ54、および、スイッチ51とスイッチ54はそれぞれ、切替接点であってもよい。なお、スイッチ51,52,53,54は上記に限定されず、それぞれ個別に制御されてもよいし、例えば半導体スイッチであってもよい。
【0030】
制御電源回路4のフォワードコンバータのトランス41は、三次巻線44を有する。三次巻線44は、第1端44aおよび第2端44bを備えている。また、三次巻線44は、第1端44aと第2端44bとの間に配置されたセンタタップ45を備えている。三次巻線44は、第1端44aと第2端44bとから第2電圧V2を出力し、第1端44aとセンタタップ45とから第1電圧V1を出力するように、巻き数およびセンタタップ45の配置が設定されている。
【0031】
三次巻線44の第1端44aは、出力端子bに導通接続されている。三次巻線44の第2端44bは、ダイオードD1、スイッチ51、およびスイッチ52を介して出力端子aに導通接続されている。ダイオードD1は、アノード端子が第2端44bに接続され、カソード端子がスイッチ51に接続されている。ダイオードD1は、第2端44bから出力される電流の半波整流を行う。センタタップ45は、ダイオードD2およびスイッチ53を介して出力端子aに導通接続されている。ダイオードD2は、アノード端子がセンタタップ45に接続され、カソード端子がスイッチ53に接続されている。ダイオードD2は、センタタップ45から出力される電流の半波整流を行う。ブリーダ抵抗59の一端は出力端子bに導通接続され、他端はスイッチ54を介して、スイッチ51とスイッチ52とを導通接続する接続線に導通接続されている。コンデンサC1は、ダイオードD1のカソード端子と出力端子bとの間に接続されている。コンデンサC1は、ダイオードD1が整流した電流の平滑化を行う。コンデンサC2は、ダイオードD2のカソード端子と出力端子bとの間に接続されている。コンデンサC2は、ダイオードD2が整流した電流の平滑化を行う。なお、図1に示す検出電圧印加回路5の内部回路は一例であり、検出電圧印加回路5の内部回路はこれに限定されない。
【0032】
検出電圧印加回路5は、制御部7から入力される制御信号に基づいて、4個のスイッチ51,52,53,54を切り替えることで、第1状態、第2状態、および第3状態で切り替わる。各状態の切り替えについての詳細は後述する。
【0033】
制御部7は、溶接電源装置A1の各種制御を行い、例えばアナログ制御回路およびマイクロコンピュータなどを含んで実現されている。制御部7は、溶接電源装置A1の出力電流が設定電流になるように、溶接電源部1のインバータ回路12に駆動信号を出力する。また、制御部7は、検出電圧印加回路5に制御信号を出力することで、検出電圧印加回路5を第1状態、第2状態、および第3状態に切り替える。
【0034】
図2は、検出電圧印加回路5の第1状態、第2状態、および第3状態を説明するための回路図である。図2(a)は第1状態を示し、図2(b)は第2状態を示し、図2(c)は第3状態を示している。各図において導通しない部分を破線で示している。
【0035】
制御部7は、スイッチ51,54に制御信号を出力せず、スイッチ52,53に制御信号を出力することで、検出電圧印加回路5を第1状態にする。この場合、図2(a)に示すように、スイッチ53およびスイッチ54が閉鎖され、スイッチ51およびスイッチ52が開放される。これにより、三次巻線44の第1端44aとセンタタップ45とから出力される第1電圧V1が、出力端子aと出力端子bとの間に印加される。また、ブリーダ抵抗59は、出力端子aと出力端子bとの間に接続されない。第1電圧V1は、溶接回路制御電源部6にも出力される。
【0036】
制御部7は、スイッチ52,53に制御信号を出力せず、スイッチ51,54に制御信号を出力することで、検出電圧印加回路5を第2状態にする。この場合、図2(b)に示すように、スイッチ51およびスイッチ52が閉鎖され、スイッチ53およびスイッチ54が開放される。これにより、三次巻線44の第1端44aと第2端44bとから出力される第2電圧V2が、出力端子aと出力端子bとの間に印加される。また、ブリーダ抵抗59は、出力端子aと出力端子bとの間に接続されない。一方、三次巻線44の第1端44aとセンタタップ45とから出力される第1電圧V1は、溶接回路制御電源部6に出力される。
【0037】
制御部7は、スイッチ51,54およびスイッチ52,53のいずれにも制御信号を出力しないことで、検出電圧印加回路5を第3状態にする。この場合、図2(c)に示すように、スイッチ52およびスイッチ54が閉鎖され、スイッチ51およびスイッチ53が開放される。これにより、ブリーダ抵抗59が出力端子aと出力端子bとの間に接続され、検出電圧印加回路5から出力端子aと出力端子bとの間に電圧は印加されない。一方、三次巻線44の第1端44aとセンタタップ45とから出力される第1電圧V1は、溶接回路制御電源部6に出力される。
【0038】
以上のように、制御部7は、検出電圧印加回路5を第1状態、第2状態、および第3状態に切り替える。制御部7は、操作者による図示しない操作部の操作などに基づいて、第1状態、第2状態、および第3状態を切り替える。制御部7は、通常の被加工物Wを検出する場合、検出電圧印加回路5を第1状態に切り替え、表面が錆びや黒皮などの酸化被膜に覆われている被加工物Wを検出する場合、検出電圧印加回路5を第2状態に切り替える。一方、制御部7は、被加工物Wを検出するとき以外は、検出電圧印加回路5を第3状態に切り替える。また、検出電圧印加回路5は、第1状態、第2状態、および第3状態のいずれであっても、第1電圧V1を溶接回路制御電源部6に出力する。
【0039】
次に、溶接電源装置A1の作用効果について説明する。
【0040】
本実施形態によると、補助電源部2の検出電圧印加回路5は、出力端子aと出力端子bとの間に印加する検出電圧として第1電圧V1を出力する第1状態と、第1電圧V1より高い第2電圧V2を出力する第2状態とで切り替わる。したがって、通常の被加工物Wを検出する場合には、安全性を優先して、低い第1電圧V1を印加でき、表面が錆びや黒皮などの酸化被膜に覆われている被加工物Wを検出する場合には、検出の精度を高めるために、高い第2電圧V2を印加できる。これにより、溶接電源装置A1は、安全性に配慮しつつ、被加工物Wの表面が錆びや黒皮などの酸化被膜に覆われていても精度よく検出できる。
【0041】
また、本実施形態によると、第1電圧V1は25V以下であり、第2電圧V2は50V以上60V以下である。したがって、検出電圧印加回路5は、第1状態ではより安全性の高い電圧を印加でき、第2状態では安全性に配慮しつつ、精度の良い検出を可能にする。
【0042】
また、本実施形態によると、検出電圧印加回路5は、第1状態および第2状態とは異なり、検出電圧を出力せず、出力端子aと出力端子bとの間にブリーダ抵抗59を接続した第3状態にも切り替わる。したがって、溶接電源装置A1は、被加工物Wを検出する場合にはブリーダ抵抗59による検出電圧の降下を防止でき、被加工物Wを検出しない場合には、出力電圧の安定化が可能である。
【0043】
また、本実施形態によると、三次巻線44は、第1端44aが出力端子bに導通接続され、第2端44bがスイッチ51およびスイッチ52を介して出力端子aに導通接続され、センタタップ45がスイッチ53を介して出力端子aに導通接続されている。また、ブリーダ抵抗59の一端は出力端子bに導通接続され、他端はスイッチ54を介して、スイッチ51とスイッチ52とを導通接続する接続線に導通接続されている。これにより、制御部7は、スイッチ51,52,53,54に制御信号を出力することで、検出電圧印加回路5を第1状態、第2状態、および第3状態に切り替えることができる。
【0044】
また、本実施形態によると、スイッチ51とスイッチ54とは連動しており、互いに反対の接続状態になる。また、スイッチ52とスイッチ53とは連動しており、互いに反対の接続状態になる。したがって、制御部7は、検出電圧印加回路5に出力する制御信号を、スイッチ51,54に出力する制御信号と、スイッチ52,53に出力する制御信号との2種類とすることができる。これにより、溶接電源装置A1は、スイッチ51,52,53,54にそれぞれ個別に制御信号を出力する場合と比較して、制御部7が検出電圧印加回路5に出力する制御信号のための制御線の数を削減できる。
【0045】
なお、本実施形態では、溶接電源装置A1が、ワイヤ送給装置Dを備える半自動の溶接システムに用いられた場合について説明したが、これに限定されない。溶接電源装置A1は、さらにロボットや自動機を備えた全自動の溶接システムに用いられてもよいし、被覆アーク溶接(手棒溶接)に用いられてもよい。また、溶接電源装置A1は、ワイヤ送給装置Dを備えないTIG溶接に用いられてもよい。また、溶接電源装置A1は、これらの溶接方法で切り替えて使用可能なマルチタイプの溶接電源装置であってもよい。
【0046】
また、本実施形態では、溶接電源装置A1が溶接電力として直流電力を出力する場合について説明したが、これに限定されない。溶接電源装置A1は、溶接電源部1において整流平滑回路14の後段にさらにインバータ回路を備えて、溶接電力として交流電力を出力してもよい。
【0047】
図3は、検出電圧印加回路5の変形例を示すブロック図である。なお、図3においては、補助電源部2以外の記載を省略している。また、図3において、図1と同一または類似の要素には、同一の符号を付して、重複する説明を省略している。
【0048】
本変形例では、検出電圧印加回路5は、4個のスイッチ51,52,53,54の代わりに、3個のスイッチ55,56,57を備えている。スイッチ55,56,57は、制御部7から入力される制御信号に基づいて開閉されるリレー接点である。スイッチ55およびスイッチ56は常開接点(a接点)であり、スイッチ57は常閉接点(b接点)である。なお、スイッチ55,56,57は上記に限定されない。三次巻線44の第1端44aは、出力端子bに導通接続されている。三次巻線44の第2端44bは、ダイオードD1、スイッチ55を介して出力端子aに導通接続されている。センタタップ45は、ダイオードD2およびスイッチ56を介して出力端子aに導通接続されている。ブリーダ抵抗59の一端は出力端子bに導通接続され、他端はスイッチ57を介して、出力端子aに導通接続されている。
【0049】
本変形例では、制御部7は、スイッチ55に制御信号を出力せず、スイッチ56,57に制御信号を出力することで、検出電圧印加回路5を第1状態にする。また、制御部7は、スイッチ56に制御信号を出力せず、スイッチ55,57に制御信号を出力することで、検出電圧印加回路5を第2状態にする。さらに、制御部7は、スイッチ55,56,57のいずれにも制御信号を出力しないことで、検出電圧印加回路5を第3状態にする。
【0050】
本変形例から理解されるように、検出電圧印加回路5の内部回路は限定されず、制御部7からの制御信号に基づいて、第1状態、第2状態、および第3状態を切り替えられる構成であればよい。
【0051】
本発明に係る溶接電源装置は、上記した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る溶接電源装置の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0052】
A1:溶接電源装置、1:溶接電源部、2:補助電源部、41:トランス、44:巻線、44a:第1端、44b:第2端、45:センタタップ、51~54:スイッチ、55:ブリーダ抵抗、a,b:出力端子
図1
図2
図3