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特開2024-139206推定方法、推定プログラム、推定装置、および合成樹脂改質剤
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  • 特開-推定方法、推定プログラム、推定装置、および合成樹脂改質剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139206
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】推定方法、推定プログラム、推定装置、および合成樹脂改質剤
(51)【国際特許分類】
   G16C 20/70 20190101AFI20241002BHJP
【FI】
G16C20/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050044
(22)【出願日】2023-03-27
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PYTHON
(71)【出願人】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】藤井 淳介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 春馬
(57)【要約】
【課題】好適な性能を発現する合成樹脂改質剤を推定する。
【解決手段】合成樹脂改質剤の特性を推定する推定方法であって、合成樹脂改質剤の製造条件を示す説明変数と、当該合成樹脂改質剤の特性を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて、前記説明変数から前記目的変数を推定する学習済みモデルを生成するモデル生成工程と、前記学習済みモデルを用いて、特性を推定する対象とする合成樹脂改質剤の製造条件を示す説明変数から、当該合成樹脂改質剤の特性を示す目的変数の推定値を出力する推定工程と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂改質剤の特性を推定する推定方法であって、
合成樹脂改質剤の製造条件を示す説明変数と、当該合成樹脂改質剤の特性を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて、前記説明変数から前記目的変数を推定する学習済みモデルを生成するモデル生成工程と、
前記学習済みモデルを用いて、特性を推定する対象とする合成樹脂改質剤の製造条件を示す説明変数から、当該合成樹脂改質剤の特性を示す目的変数の推定値を出力する推定工程と、を備えることを特徴とする推定方法。
【請求項2】
前記説明変数が、
合成樹脂改質剤に含まれる化合物の化学種により決定づけられる化学種情報と、
前記化合物のそれぞれの含有割合を特定する割合情報と、を含む請求項1に記載の推定方法。
【請求項3】
前記化学種情報が、前記化合物の分子記述子を含む請求項2に記載の推定方法。
【請求項4】
前記目的変数が、合成樹脂改質剤に含まれる高分子の、数平均分子量、重量平均分子量、分子量分布、融点、ガラス転移点、HLB、SP値、pH、曇点、接触角、静的表面張力、動的表面張力、液安定性、塗布性、撥水性、形状、一次粒子径、細孔容積、および吸油量、からなる群から選択される請求項1~3のいずれか一項に記載の推定方法。
【請求項5】
前記目的変数が、合成樹脂改質剤を含む成形体の、透明性、アンチブロッキング性、剥離性、解反性、シール性、帯電防止性、滑性、防曇性、流滴性、耐擦傷性、表面ブリード量、および表面ブリード率、からなる群から選択される請求項1~3のいずれか一項に記載の推定方法。
【請求項6】
合成樹脂改質剤の製造条件を示す説明変数を複数生成する生成工程と、
合成樹脂改質剤の製造条件を示す説明変数と、当該合成樹脂改質剤の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて生成された学習済みモデルを用いて、前記生成工程において生成した複数の説明変数から推定される複数の目的変数を出力する推定工程と、
前記推定工程において出力された複数の目的変数のうちの所定の基準を満たす目的変数を特定し、前記生成工程において生成された複数の説明変数のうちの、当該所定の基準を満たす目的変数を出力する際に用いられた説明変数を解として出力する出力工程と、を備えることを特徴とする推定方法。
【請求項7】
前記生成工程および前記推定工程が複数回実行され、
二回目以降の前記生成工程において、当該生成工程より前に実行された前記生成工程および前記推定工程の結果を利用する最適化アルゴリズムを用いて複数の説明変数を生成する請求項6に記載の推定方法。
【請求項8】
前記出力工程において解として出力された説明変数と、当該説明変数が示す製造条件により製造される合成樹脂改質剤の性能を示す目的変数と、の組を教師データに加えて、前記学習済みモデルを再生成するモデル再生成工程をさらに含む請求項6または7に記載の推定方法。
【請求項9】
合成樹脂改質剤の性能を推定する推定プログラムであって、
コンピュータによって実行されたときに、当該コンピュータに、
合成樹脂改質剤の製造条件を示す説明変数と、当該合成樹脂改質剤の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて、前記説明変数から前記目的変数を推定する学習済みモデルを生成するモデル生成機能と、
前記学習済みモデルを用いて、性能を推定する対象とする合成樹脂改質剤の製造条件を示す説明変数から、当該合成樹脂改質剤の性能を示す目的変数の推定値を出力する推定機能と、を実現させることを特徴とする推定プログラム。
【請求項10】
コンピュータによって実行されたときに、当該コンピュータに、
合成樹脂改質剤の製造条件を示す説明変数を複数生成する生成機能と、
合成樹脂改質剤の製造条件を示す説明変数と、当該合成樹脂改質剤の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて生成された学習済みモデルを用いて、前記生成機能によって生成した複数の説明変数から推定される複数の目的変数を出力する推定機能と、
前記推定機能によって出力された複数の目的変数のうちの所定の基準を満たす目的変数を特定し、前記生成機能によって生成された複数の説明変数のうちの、当該所定の基準を満たす目的変数を出力する際に用いられた説明変数を解として出力する出力機能と、を実現させることを特徴とする推定プログラム。
【請求項11】
演算装置および記憶装置を備える推定装置であって、
前記記憶装置が、推定プログラムを記憶しており、
前記推定プログラムが、前記演算装置によって実行されたときに、当該演算装置に、
合成樹脂改質剤の製造条件を示す説明変数と、当該合成樹脂改質剤の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて、前記説明変数から前記目的変数を推定する学習済みモデルを生成するモデル生成機能と、
前記学習済みモデルを用いて、性能を推定する対象とする合成樹脂改質剤の製造条件を示す説明変数から、当該合成樹脂改質剤の性能を示す目的変数の推定値を出力する推定機能と、を実現させるプログラムであることを特徴とする推定装置。
【請求項12】
演算装置および記憶装置を備える推定装置であって、
前記記憶装置が、推定プログラムを記憶しており、
前記推定プログラムが、前記演算装置によって実行されたときに、当該演算装置に、
合成樹脂改質剤の製造条件を示す説明変数を複数生成する生成機能と、
合成樹脂改質剤の製造条件を示す説明変数と、当該合成樹脂改質剤の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて生成された学習済みモデルを用いて、前記生成機能によって生成した複数の説明変数から推定される複数の目的変数を出力する推定機能と、
前記推定機能によって出力された複数の目的変数のうちの所定の基準を満たす目的変数を特定し、前記生成機能によって生成された複数の説明変数のうちの、当該所定の基準を満たす目的変数を出力する際に用いられた説明変数を解として出力する出力機能と、を実現させるプログラムであることを特徴とする推定装置。
【請求項13】
合成樹脂改質剤の製造条件を示す説明変数を複数生成する生成工程と、
合成樹脂改質剤の製造条件を示す説明変数と、当該合成樹脂改質剤の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて生成された学習済みモデルを用いて、前記生成工程において生成した複数の説明変数から推定される複数の目的変数を出力する推定工程と、
前記推定工程において出力された複数の目的変数のうちの所定の基準を満たす目的変数を特定し、前記生成工程において生成された複数の説明変数のうちの、当該所定の基準を満たす目的変数を出力する際に用いられた説明変数を解として出力する出力工程と、
前記出力工程において解として出力された説明変数に基づいて、合成樹脂改質剤を製造する製造工程と、を備える製造方法によって製造されることを特徴とする合成樹脂改質剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂改質剤の性能を推定する推定方法、推定プログラム、および推定装置、ならびに合成樹脂改質剤に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形や押出成形などの手法で生産される樹脂成形体に、基材の樹脂が有さない特性を付与する手段として、合成樹脂改質剤が汎用されている。合成樹脂改質剤を用いることで、たとえば、帯電防止性、防曇性、滑性、接着性、離型性などの機能を樹脂成形体に付与できる。合成樹脂改質剤は、樹脂成形体に塗布される、樹脂成形体の成形時に基材樹脂に混合される、等の方法で、樹脂成形体に添加される。
【0003】
たとえば特開2022-191905号公報(特許文献1)には、半芳香性ポリアミド樹脂と高分子型帯電防止剤とを含む帯電防止性ポリアミド系樹脂組成物が開示されている。特許文献1では、基材としての半芳香性ポリアミド樹脂に対して溶融混練等の方法で高分子型帯電防止剤を混合し、帯電防止性が付与された樹脂組成物を得ている。
【0004】
また、特開2023-18749号公報(特許文献2)には、レベリング剤としてシリコーン系化合物を含む防曇剤組成物が開示されている。特許文献2では、各種の樹脂製の成形品に対して、浸漬法やフローコート法などの塗装方法を用いて防曇性組成物を塗布することにより、防曇性が付与された成形品を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-191905号公報
【特許文献2】特開2023-18749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
合成樹脂改質剤の開発は、古典的な実験科学的手法に頼らざるを得なかった。すなわち、候補となる組成物の製造と評価とを繰り返しながら、好適な性能を発現する組成物を絞り込む必要があった。しかし、合成樹脂改質剤には多数の構成成分が含まれるため、各構成成分の化学種および構成比率は多岐にわたり、無限大に存在する候補から好適な組成物を見出すことが求められた。そのため、新規の合成樹脂改質剤の開発には、膨大な工数、時間、および費用を要していた。
【0007】
そこで、好適な性能を発現する合成樹脂改質剤を推定しうる推定方法、推定プログラム、および推定装置の実現が求められる。また、当該推定方法を活用して製造された新しい合成樹脂改質剤も所望されている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る第一の推定方法は、合成樹脂改質剤の特性を推定する推定方法であって、合成樹脂改質剤の製造条件を示す説明変数と、当該合成樹脂改質剤の特性を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて、前記説明変数から前記目的変数を推定する学習済みモデルを生成するモデル生成工程と、前記学習済みモデルを用いて、特性を推定する対象とする合成樹脂改質剤の製造条件を示す説明変数から、当該合成樹脂改質剤の特性を示す目的変数の推定値を出力する推定工程と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る第一の推定プログラムは、合成樹脂改質剤の性能を推定する推定プログラムであって、コンピュータによって実行されたときに、当該コンピュータに、合成樹脂改質剤の製造条件を示す説明変数と、当該合成樹脂改質剤の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて、前記説明変数から前記目的変数を推定する学習済みモデルを生成するモデル生成機能と、前記学習済みモデルを用いて、性能を推定する対象とする合成樹脂改質剤の製造条件を示す説明変数から、当該合成樹脂改質剤の性能を示す目的変数の推定値を出力する推定機能と、を実現させることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る第一の推定装置は、演算装置および記憶装置を備える推定装置であって、前記記憶装置が、推定プログラムを記憶しており、前記推定プログラムが、前記演算装置によって実行されたときに、当該演算装置に、合成樹脂改質剤の製造条件を示す説明変数と、当該合成樹脂改質剤の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて、前記説明変数から前記目的変数を推定する学習済みモデルを生成するモデル生成機能と、前記学習済みモデルを用いて、性能を推定する対象とする合成樹脂改質剤の製造条件を示す説明変数から、当該合成樹脂改質剤の性能を示す目的変数の推定値を出力する推定機能と、を実現させるプログラムであることを特徴とする。
【0011】
これらの構成によれば、所与の製造条件により得られる合成樹脂改質剤の目的変数を、学習モデルを用いて推定するので、当該合成樹脂改質剤の性能を、製造および評価を行うことなく検証できる。これによって、好適な合成樹脂改質剤の製造条件を決定するための試行錯誤を短縮しうる。
【0012】
本発明に係る第一の推定方法は、一態様として、前記説明変数が、合成樹脂改質剤に含まれる化合物の化学種により決定づけられる化学種情報と、前記化合物のそれぞれの含有割合を特定する割合情報と、を含むことが好ましい。
【0013】
この構成によれば、合成樹脂改質剤の性能に特に影響が大きいことが多い化学種情報および割合情報を考慮した推定がなされるので、精度が高い推定結果が得られやすい。
【0014】
本発明に係る第一の推定方法は、一態様として、前記化学種情報が、前記化合物の分子記述子を含むことが好ましい。
【0015】
この構成によれば、好適な目的変数を与えうる化学種を体系的に理解できる。
【0016】
本発明に係る第一の推定方法は、一態様として、前記目的変数が、合成樹脂改質剤に含まれる高分子の、数平均分子量、重量平均分子量、分子量分布、融点、ガラス転移点、HLB、SP値、pH、曇点、接触角、静的表面張力、動的表面張力、液安定性、塗布性、撥水性、形状、一次粒子径、細孔容積、および吸油量、からなる群から選択されることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、合成樹脂改質剤の機能として特に注目される物性を評価基準として、好適な合成樹脂改質剤を導き出すことができる。
【0018】
本発明に係る第一の推定方法は、一態様として、前記目的変数が、合成樹脂改質剤を含む成形体の、透明性、アンチブロッキング性、剥離性、解反性、シール性、帯電防止性、滑性、防曇性、流滴性、耐擦傷性、表面ブリード量、および表面ブリード率、からなる群から選択されることが好ましい。
【0019】
この構成によれば、合成樹脂改質剤の機能として特に注目される物性を評価基準として、好適な合成樹脂改質剤を導き出すことができる。
【0020】
本発明に係る第二の推定方法は、合成樹脂改質剤の製造条件を示す説明変数を複数生成する生成工程と、合成樹脂改質剤の製造条件を示す説明変数と、当該合成樹脂改質剤の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて生成された学習済みモデルを用いて、前記生成工程において生成した複数の説明変数から推定される複数の目的変数を出力する推定工程と、前記推定工程において出力された複数の目的変数のうちの所定の基準を満たす目的変数を特定し、前記生成工程において生成された複数の説明変数のうちの、当該所定の基準を満たす目的変数を出力する際に用いられた説明変数を解として出力する出力工程と、を備えることを特徴とする。
【0021】
本発明に係る第二の推定プログラムは、コンピュータによって実行されたときに、当該コンピュータに、合成樹脂改質剤の製造条件を示す説明変数を複数生成する生成機能と、合成樹脂改質剤の製造条件を示す説明変数と、当該合成樹脂改質剤の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて生成された学習済みモデルを用いて、前記生成機能によって生成した複数の説明変数から推定される複数の目的変数を出力する推定機能と、前記推定機能によって出力された複数の目的変数のうちの所定の基準を満たす目的変数を特定し、前記生成機能によって生成された複数の説明変数のうちの、当該所定の基準を満たす目的変数を出力する際に用いられた説明変数を解として出力する出力機能と、を実現させることを特徴とする。
【0022】
本発明に係る第二の推定装置は、演算装置および記憶装置を備える推定装置であって、前記記憶装置が、推定プログラムを記憶しており、前記推定プログラムが、前記演算装置によって実行されたときに、当該演算装置に、合成樹脂改質剤の製造条件を示す説明変数を複数生成する生成機能と、合成樹脂改質剤の製造条件を示す説明変数と、当該合成樹脂改質剤の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて生成された学習済みモデルを用いて、前記生成機能によって生成した複数の説明変数から推定される複数の目的変数を出力する推定機能と、前記推定機能によって出力された複数の目的変数のうちの所定の基準を満たす目的変数を特定し、前記生成機能によって生成された複数の説明変数のうちの、当該所定の基準を満たす目的変数を出力する際に用いられた説明変数を解として出力する出力機能と、を実現させるプログラムであることを特徴とする。
【0023】
これらの構成によれば、所望の性能を発揮する合成樹脂改質剤が得られうる製造条件(説明変数)を、学習モデルを用いて推定するので、合成樹脂改質剤の製造および物性測定を行うことなく好適な製造条件を特定しうる。これによって、好適な合成樹脂改質剤の製造条件を決定するための試行錯誤を短縮しうる。
【0024】
本発明に係る第二の推定方法は、一態様として、前記生成工程および前記推定工程が複数回実行され、二回目以降の前記生成工程において、当該生成工程より前に実行された前記生成工程および前記推定工程の結果を利用する最適化アルゴリズムを用いて複数の説明変数を生成することが好ましい。
【0025】
この構成によれば、得られる解がより好適な範囲に絞り込まれることを期待できる。
【0026】
本発明に係る第二の推定方法は、一態様として、前記出力工程において解として出力された説明変数と、当該説明変数が示す製造条件により製造される合成樹脂改質剤の性能を示す目的変数と、の組を教師データに加えて、前記学習済みモデルを再生成するモデル再生成工程をさらに含むことが好ましい。
【0027】
この構成によれば、解の出力、解の検証、および、検証結果の学習済みモデルへのフィードバック、を経て、学習済みモデルの精度を向上できる。
【0028】
本発明に係る合成樹脂改質剤は、合成樹脂改質剤の製造条件を示す説明変数を複数生成する生成工程と、合成樹脂改質剤の製造条件を示す説明変数と、当該合成樹脂改質剤の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて生成された学習済みモデルを用いて、前記生成工程において生成した複数の説明変数から推定される複数の目的変数を出力する推定工程と、前記推定工程において出力された複数の目的変数のうちの所定の基準を満たす目的変数を特定し、前記生成工程において生成された複数の説明変数のうちの、当該所定の基準を満たす目的変数を出力する際に用いられた説明変数を解として出力する出力工程と、前記出力工程において解として出力された説明変数に基づいて、合成樹脂改質剤を製造する製造工程と、を備える製造方法によって製造されることを特徴とする。
【0029】
この構成によれば、好適な性能を発現する期待度が高い合成樹脂改質剤を、従来に比べて容易に実現できる。
【0030】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】実施例における学習済みモデルの検証結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明に係る推定方法、推定プログラム、推定装置、および合成樹脂改質剤の実施形態について説明する。
【0033】
〔合成樹脂改質剤に係る説明変数および目的変数〕
本実施形態に係る推定方法では、合成樹脂改質剤の製造条件を示す説明変数と、当該合成樹脂改質剤の性能を示す目的変数と、を取り扱う。推定方法の実施形態の説明に先立ち、説明変数および目的変数について説明する。
【0034】
(説明変数)
合成樹脂改質剤は、合成樹脂を改質して機能を付与する組成物である。合成樹脂改質剤を適用する対象の合成樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレートなどの熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂などの熱硬化性樹脂が例示される。
【0035】
合成樹脂改質剤は、たとえば界面活性剤(アニオン性、カチオン性、両性、非イオン性)、無機ゾル(コロイダルシリカ、コロイダルアルミナなど)、金属石鹸(オレイン酸ナトリウムなど)、樹脂バインダー(アクリル樹脂、ポリエステル樹脂など)、水溶性高分子(ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロース誘導体など)、変性シリコーン、滑剤(シリカ、タルク、ゼオライトなど)、防腐剤(ソルビン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウムなど)、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤、増粘剤、抗菌剤、溶媒(水、有機溶媒)などの成分(化合物)を含む。このうち一部または全部の成分(界面活性剤、樹脂バインダー、水性高分子、変性シリコーンなど)は、高分子でありうる。ここで、合成樹脂改質剤が含む各成分の化学種(化学種情報)、分子中における特定の官能基の数、当該分子の極性、合成樹脂改質剤に含まれる複数の成分の組み合わせ、含有割合(割合情報)、数平均分子量、重量平均分子量、分子量分散度、融点、ガラス転移点、HLB、SP値、pH、曇点、接触角、静的表面張力、動的表面張力、液安定性、塗布性、撥水性、形状、一次粒子径、細孔容積、吸油量など、は、説明変数として取り扱われうる。
【0036】
また、合成樹脂改質剤を製造する工程に係る工程条件も、合成樹脂改質剤の性能(目的変数)に影響を与えうる。したがって、たとえば、各成分を生じさせる反応における反応方法、反応温度、反応時間、反応圧力、反応容器の容量および形状、攪拌速度、触媒の有無、触媒の種類および濃度、反応雰囲気、ならびに原料を添加する順序などの諸条件や、各成分を混合する際の温度、圧力、容器の容量および形状、攪拌速度、助剤の有無、助剤の種類および濃度、ならびに原料を添加する順序などの諸条件、といった事項が、説明変数になりうる。
【0037】
さらに、合成樹脂改質剤を適用する対象の合成樹脂、および当該合成樹脂を成形して得られる成形体に係る諸条件を、説明変数とすることも可能である。この種の説明変数としては、合成樹脂の種類、成形条件(成形温度、冷却条件、巻取速度、延伸率など)、成形体の形状、などが例示される。
【0038】
なお、説明変数は、学習済みモデルを生成するために使用されるので、定量化されていることが好ましい。たとえば、合成樹脂改質剤に含まれる成分(化合物)の化学種により決定づけられる化学種情報を説明変数として取り扱う場合は、化学種の名称を示す文字列を化学種情報としてもよいが、分子記述子を化学種情報とすることが好ましい。分子記述子は、化学種の分子構造をSMILES記法、SMARTS記法、InChI記法、などの記法で表した上で、RDKit、Dragon、などの公知のツールを用いて求めることができる。また、合成樹脂の種類を説明変数として取り扱う場合も、合成樹脂の種類(化学種)を表す分子記述子を用いることが好ましい。
【0039】
(目的変数)
合成樹脂改質剤が合成樹脂を改質する目的で使用されるところ、その目的が果たされるか否かを評価した変数が、目的変数である。たとえば、合成樹脂改質剤に含まれる高分子の、数平均分子量、重量平均分子量、分子量分布、融点、ガラス転移点、HLB、SP値、pH、曇点、接触角、静的表面張力、動的表面張力、液安定性、塗布性、撥水性、形状、一次粒子径、細孔容積、および吸油量は、当該合成樹脂改質剤を使用して得られる合成樹脂成形体の性能に影響しうる因子であり、目的変数として取り扱われうる。また、合成樹脂改質剤を含む成形体の、透明性、アンチブロッキング性、剥離性、解反性、シール性、帯電防止性、滑性、防曇性、流滴性、耐擦傷性、表面ブリード量、および表面ブリード率、は、成形体の性能、すなわち合成樹脂改質剤による改質の結果を直接に表すものであり、目的変数として取り扱われうる。
【0040】
上記に例示した項目を含む目的変数を特定する方法は、当該目的変数を一義的に特定できる方法である限りで、特に限定されない。たとえば、JIS規格、ASTM規格、ISO規格等の工業規格や、取引者間で独自に定めた規格、などが存在する項目を目的変数とする場合は、これらの規格に従って特定される物性値を目的変数とすることができる。また、特に工業規格が存在しない項目であっても、当該項目を一義的に決定できるのであれば、目的変数として取り扱いうる。
【0041】
〔学習済みモデル〕
上記に説明した説明変数と目的変数との間には、相関がある。たとえば、成形体の防曇性(目的変数の例である。)は、合成樹脂改質剤に含まれる界面活性剤における特定の官能基の数、HLB、接触角など(説明変数の例である。)と相関があることが知られている。この例のように、説明変数と目的変数との関係は、理論的または経験的に、知られているか、または予測可能である部分がある。しかし、本実施形態において取扱対象とする合成樹脂改質剤は、多くの場合において数多くの成分の混合物であり、その説明変数は多岐にわたる。そのため、合成樹脂改質剤に係る説明変数と目的変数との相関を人が特定することは非現実的であるか、または非常に困難である。そこで本実施形態では、説明変数と目的変数との複数の組を教師データとして用いて、説明変数から目的変数を推定する学習済みモデルを生成し、これを活用する。
【0042】
教師データから学習済みモデルを生成する際に使用するアルゴリズムは、特に限定されない。たとえば、サポートベクタマシン(回帰、分類)、決定木、ランダムフォレスト、勾配ブースティング、ロジスティック回帰、ニューラルネットワーク(単純パーセプトロン、多層パーセプトロン)、ガウス過程回帰、ベイジアンネットワーク、k近傍法、ラッソ回帰、重回帰分析、リッジ回帰、エラスティックネット、部分的最小二乗回帰、などが例示されるが、これらに限定されない。
【0043】
〔第一の実施形態〕
第一の実施形態に係る推定方法は、合成樹脂改質剤の性能を推定する推定方法であって、モデル生成工程と推定工程とを備える。なお、第一の実施形態に係る推定方法は、コンピュータを用いて実施される。
【0044】
モデル生成工程は、説明変数から目的変数を推定する学習済みモデルを生成する工程である。第一の実施形態では、説明変数と目的変数との対応関係が実験やシミュレーションなどの方法によって明らかにされているデータ群を、教師データとして使用する。
【0045】
教師データを実験によって得る場合、まず、製造条件、すなわち説明変数が異なる合成樹脂改質剤を複数作製する。このとき、説明変数として使用する製造条件を記録しておく。次に、作製した複数の合成樹脂改質剤について、当該合成樹脂改質剤に要求される性能を表す物性値、すなわち目的変数を測定し、これを記録する。以上の操作により、説明変数と目的変数との複数の組である教師データが得られる。なお、教師データを構成する変数の一部または全部をシミュレーションによって得てもよいが、学習済みモデルを利用することなく説明変数と目的変数との関係を明らかにできるのであれば、学習済みモデルを生成する利益が小さいことに留意するべきである。
【0046】
得るべき教師データの数は、使用する説明変数と目的変数との組合せ、要求される推定の精度、学習済みモデルを生成する際に使用するアルゴリズム、などに応じて適宜決定されうる。
【0047】
モデル生成工程において、説明変数が、合成樹脂改質剤に含まれる化合物の化学種により決定づけられる化学種情報と、前記化合物のそれぞれの含有割合を特定する割合情報と、を含むことが好ましい。合成樹脂改質剤に含まれる化合物の化学種およびその含有割合は、合成樹脂改質剤の性能を決定づける要素として特に支配的だからである。また、前述のように化学種の分子構造から求められる分子記述子を化学種情報とすると、好適な目的変数を与えうる化学種を体系的に理解できるため、より好ましい。
【0048】
目的変数は、本実施形態に係る推定方法の目的に応じた物性値が選択されうる。上記に例示した物性値は、いずれも本実施形態に係る推定方法における目的変数の好ましい例である。
【0049】
得られた教師データに対して上記のアルゴリズムを適用して、学習済みモデルを得る。
典型的には、得られた教師データの一部を訓練データとして学習済みモデルを得るとともに、残りをテストデータとして得られた学習済みモデルの検証を行う。このとき、得られた学習済みモデルの妥当性が低い場合は、学習に用いる説明変数の数を変更する、説明変数に主成分分析等による次元削減を施す、教師データを追加または変更する、アルゴリズムを適用する際のパラメータを変更する、などの措置を行い、学習済みモデルの妥当性の向上を図る。なお、教師データに対して適宜前処理を加えてもよい。
【0050】
推定工程は、生成工程において生成した学習済みモデルを用いて、性能を推定する対象とする合成樹脂改質剤の製造条件(以下、所与の製造条件と称する。)を示す説明変数から、当該合成樹脂改質剤の性能を示す目的変数の推定値を出力する工程である。
【0051】
従来は、所与の製造条件により得られる合成樹脂改質剤の性能を検証するためには、実際に合成樹脂改質剤および成形体を製造して物性値を測定する必要があった。一方、本実施形態によれば、所与の製造条件により得られる合成樹脂改質剤の目的変数を、学習モデルを用いて推定するので、当該合成樹脂改質剤の性能を、合成樹脂改質剤および成形体の製造および物性測定を行うことなく検証できる。これによって、好適な合成樹脂改質剤の製造条件を決定するための試行錯誤を短縮しうる。
【0052】
なお、上記の生成工程および推定工程に対応する機能をコンピュータに実現させうる推定プログラムも、本発明の一つの実施形態である。また、この推定プログラムを記憶している記憶装置、および、この推定プログラムを実行する演算装置、を備える推定装置も、本発明の一つの実施形態である。
【0053】
〔第二の実施形態〕
第二の実施形態に係る推定方法は、複数の説明変数の候補の中から、所定の基準を満たす合成樹脂改質剤を得るための製造条件に係る説明変数を解として出力する推定方法であって、生成工程、推定工程、および出力工程を備える。なお、第二の実施形態に係る推定方法は、コンピュータを用いて実施される。
【0054】
第二の実施形態に係る推定方法では、生成済みの学習済みモデルを使用する。ここでは、第一の実施形態に係る推定方法のモデル生成工程において生成された学習済みモデルを使用するものとして説明する。
【0055】
生成工程は、合成樹脂改質剤の製造条件を示す説明変数を複数生成する工程である。本実施形態に係る推定方法では、最終的に、所定の基準を満たす合成樹脂改質剤を得るための製造条件に係る説明変数を解として出力することになるが、生成工程ではその候補群となる説明変数を生成する。
【0056】
生成工程において説明変数を複数生成する方法、および生成される説明変数の数は特に限定されない。ただし、生成工程において生成する説明変数が多いほど、推定工程および出力工程における演算処理量が増加する一方で、好適な解が得られる可能性が高くなる。
説明変数の生成は、人為的な方法により、または演算処理により実施されうるが、これらに限定されない。
【0057】
推定工程は、学習済みモデルを用いて、生成工程において生成した複数の説明変数から推定される複数の目的変数を出力する工程である。第一の実施形態における推定工程と比較すると、学習済みモデルに与えられる説明変数の出自に差があるが、学習済みモデルに説明変数を与えて目的変数の推定値を得る、という手順自体は同一である。
【0058】
出力工程は、所定の基準を満たす合成樹脂改質剤を得るための製造条件に係る説明変数を解として出力する工程である。所定の基準は、たとえば、合成樹脂改質剤に望まれる性能に基づいて決定される基準である。出力工程において出力される解は、一例として、単数または複数の所定の物性値が所定の基準値を超える説明変数、所定の物性値についての順位が所定の基準値を超える説明変数、などの基準で選択された説明変数でありうる。
【0059】
出力工程では、まず、推定工程において出力された複数の説明変数のうち、所定の基準を満たす目的変数を特定する。次に、特定された目的変数について、その目的変数を出力するために学習済みモデルに入力された説明変数を特定する。そして、ここで特定された説明変数が、解として出力される。
【0060】
従来は、所望の性能を発揮する合成樹脂改質剤を得るためには、種々の製造条件による種々の合成樹脂改質剤および成形体を製造して物性値を測定し、製造条件と性能との相関を明らかにして、好適な製造条件を特定する必要があった。一方、本実施形態によれば、所望の性能を発揮する合成樹脂改質剤が得られうる製造条件(説明変数)を、学習モデルを用いて推定するので、合成樹脂改質剤および成形体の製造および物性測定を行うことなく好適な製造条件を特定しうる。これによって、好適な合成樹脂改質剤の製造条件を決定するための試行錯誤を短縮しうる。
【0061】
なお、上記の生成工程、推定工程、および出力工程に対応する機能をコンピュータに実現させうる推定プログラムも、本発明の一つの実施形態である。また、この推定プログラムを記憶している記憶装置、および、この推定プログラムを実行する演算装置、を備える推定装置も、本発明の一つの実施形態である。さらに、上記の生成工程、推定工程、および出力工程に加えて、出力工程において解として出力された説明変数に基づいて合成樹脂改質剤を製造する製造工程を備える製造方法によって合成樹脂改質剤が製造された場合、その合成樹脂改質剤も本発明の一つの実施形態である。
【0062】
(変形例1:最適化アルゴリズムの利用)
より好適な解を得るためには、生成工程および推定工程を複数回実行することが好ましい。一例として、遺伝的アルゴリズム(最適化アルゴリズムの一例である。)を用いる方法を説明する。
【0063】
一回目の生成工程および推定工程の手順は、上記の説明の通りである。ここで、一回目の生成工程において生成された説明変数の群を第一世代の説明変数群といい、一回目の推定工程において出力された目的変数の群を第一世代の目的変数群ということにする。ここで、第一世代の目的変数群のうち、出力工程における所定の基準への適応度が上位にある所定数の目的変数を特定し、特定された目的変数を与える説明変数の群を特定する。これを、第一世代の解ということにする。なお、以降もn回目に生成される説明変数群、目的変数群、および解について、第n世代の用語を用いる。
【0064】
第一世代の解は、第一世代の説明変数群のうち好適な性能(目的変数)の合成樹脂改質剤を与える説明変数の群であるから、第一世代の解が得られている時点で、好適な製造条件がある程度絞り込まれているといえる。その一方で、第一世代の解は、あくまで第一世代の説明変数群から選択された好適範囲であり、取りうる説明変数群の全体に対する好適範囲ではない。そのため、第一世代の説明変数群自体が好適な範囲を大きく外れている場合は、第一世代の解は、取りうる説明変数群の全体の中では、それほど好適な範囲だと言えない可能性がある。また、第一世代の解の中においても、最適化の余地が残されている場合がある。
【0065】
そこで、二回目の生成工程では、第一世代の解に基づいて再び説明変数群(第二世代の説明変数群)を複数生成する。具体的には、第一世代の解を中心として探索範囲を広げる形で、説明変数群を生成する。すなわち、第一世代の説明変数群が、手がかりがない、または手がかりが乏しい状態で取りうる説明変数群の全体から網羅的に抽出された説明変数の候補であるのに対し、第二世代の説明変数群は、第一世代の解という一応の指針に基づいて絞り込まれた範囲から抽出された説明変数の候補である。したがって、第二世代の説明変数群は、第一世代の説明変数群に比べて、より好適な解を含む期待度が高いといえる。
【0066】
このように生成された第二世代の説明変数群を用いて二回目の推定工程を実施すると、第二世代の目的変数群が得られる。また、一回目と同様に、第二世代の解も得られる。以下同様に、生成工程と推定工程とを繰り返して、第三世代、第四世代と順次世代を重ねていくと、得られる解がより好適な範囲に絞り込まれることを期待できる。
【0067】
なお、ここまで最適化アルゴリズムの一例として遺伝的アルゴリズムを適用した例を説明したが、利用可能な最適化アルゴリズムは遺伝的アルゴリズムに限定されない。たとえば、ベイズ最適化、最急降下法なども、利用可能な最適化アルゴリズムの例である。
【0068】
(変形例2:学習済みモデルの再生成)
上記のように生成工程、推定工程、および出力工程を実施すると、解(第一の解と称する。)として説明変数が出力される。ここで出力される説明変数は、好適な性能(目的変数)の合成樹脂改質剤の製造条件を示すことが期待されるものではあるが、実際に当該製造条件により製造された合成樹脂改質剤が、実際には好適な性能を発現しない場合がある。この場合は、学習済みモデルの精度に改善の余地があるといえる。
【0069】
そこで、モデル再生成工程をさらに実施することが好ましい。モデル再生成工程は、第一の解として出力された説明変数と、当該説明変数が示す製造条件により製造される合成樹脂改質剤の性能を示す目的変数と、の組を教師データに加えて、学習済みモデルを再生成する工程である。すなわち、第一の解として出力された説明変数に対する実際の評価(典型的には実験的な実証)を加えて、その結果を反映して学習済みデータを再生成(更新)するのである。
【0070】
なお、再生成工程を実施して学習済みモデルを再生成したのちは、生成工程、推定工程、および出力工程を再度実施して、再び解(第二の解と称する。)を得てもよい。再生成工程を経て学習済みモデルを再生成しているので、第二の解は、第一の解とは異なる可能性がある。そして、再生成工程を経て学習済みモデルの精度が向上していることが期待されるので、第二の解は、第一の解に比べてより好適な解であることが期待される。
【0071】
なお、第二の解によっても満足な性能が得られない場合は、第二の解として出力された説明変数と、当該説明変数が示す製造条件により製造される合成樹脂改質剤の性能を示す目的変数と、の組を用いてモデル再生成工程を再び行えばよい。すなわち、解の出力、解の検証、および、検証結果の学習済みモデルへのフィードバック、を繰り返して、学習済みモデルの精度を向上できる。
【0072】
第一の変形例(最適化アルゴリズムの利用)と第二の変形例(学習済みモデルの再生成)とは、同時に適用されうる。この場合は、たとえば、生成工程、推定工程、および出力工程の組を複数世代繰り返して解を得る段階と、得られた解を用いて再生成工程を行なって学習済みモデルを更新する段階と、を交互に繰り返す。
【0073】
〔その他の実施形態〕
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【実施例0074】
以下では、実施例を示して本発明をさらに説明する。ただし、以下の実施例は本発明を限定しない。
【0075】
〔実施例〕合成樹脂改質剤の最適組成の推定
(教師データ作成用試料)
それぞれ異なる条件(説明変数)で23種類のフイルム(成形体の一例である。)を作製した。試料間で変更した説明変数は、合成樹脂改質剤に含まれる成分の化学種情報および割合情報、ならびに、合成樹脂の種類、成形温度、冷却条件、巻取速度、および延伸率、とした。
【0076】
(表面ブリード率の評価)
上記の23種類のフイルムのそれぞれについて、次の手順で表面ブリード率を評価した。まず、フイルム製造時に原料として用いた合成樹脂と合成樹脂改質剤との質量比を算出した。次に、測定試料として1mのフイルムを切り出して質量を測定し、当該測定値および合成樹脂と合成樹脂改質剤との質量比に基づいて、測定試料に含まれる合成樹脂改質剤の質量aを特定した。続いて、測定試料をメタノールで洗浄し、洗浄後の測定試料をよく乾燥した。乾燥後の測定試料の質量を測定し、洗浄前の質量から減少した質量bを特定した。表面ブリード率を質量aに対する質量bの百分率として特定した。
【0077】
(教師データ)
以上の試料作製および測定により、合成樹脂改質剤に含まれる成分の化学種情報および割合情報、ならびに、合成樹脂の種類、成形温度、冷却条件、巻取速度、および延伸率を説明変数とし、表面ブリード率を目的変数とする教師データを得た。なお、化学種情報には分子記述子が含まれており、分子記述子はSMILES記法で表した各化合物の分子構造から、Python環境下でケモインフォマティクスツールRDKitを用いて求めた。
【0078】
〔学習済みモデルの生成および検証〕
Python環境下で機械学習ライブラリscikit-learnを用いて、上記の教師データを用いた学習済みモデルの生成および検証を行った。学習済みモデルの生成に使用するアルゴリズムの候補を、ラッソ回帰、リッジ回帰、エラスティックネット回帰、サポートベクタ回帰、およびランダムフォレストの5種類とし、クロスバリデーションのフォールド数5以上15以下および使用する説明変数の個数5以上15以下を探索範囲として複数の学習済みモデルを生成した。生成した学習済みモデルのうち、決定係数Rが最も大きくなる学習済みモデルを採用した。採用された学習済みモデルにおける説明変数のうち重要度が高いものは、たとえば、MolLogP(オクタノール/水分配係数)およびfr_ether(分子中のエステル基の数)だった。
【0079】
採用された学習済みモデルの妥当性を検証した結果を図1に示す。図1に示したグラフは、教師データを構成する各データについて、表面ブリード率の実測値を横軸に取り、採用された学習済みモデルを用いて説明変数から推定された表面ブリード率の推定値を縦軸に取ったものである。採用された学習済みモデルの決定係数Rは0.63であり、実用上十分な予測精度を有することを確認した。
【0080】
〔説明変数群の生成〕
次に、好適な合成樹脂改質剤を得るための製造条件を解として得る推定に供する説明変数群の生成を行った。説明変数の生成は、Python環境下で進化計算フレームワークDEAPを用いた遺伝的アルゴリズムによって実施した。それぞれの説明変数について範囲をあらかじめ設定し、この範囲内で各条件がランダムで決定されるようにして初期集団を生成した。適応度は、上記の学習済みモデルを用いて推定される表面ブリード率が大きい順に適応度が高いと評価した。次世代に残す個体の選択は、エリート保存戦略によることとした。終了条件は、発生世代数が100に達した時とした。
【0081】
〔好適な製造条件の推定および検証〕
上記の説明変数群に含まれる各説明変数について、上記の学習済みモデルを用いて表面ブリード率を推定した。得られた表面ブリード率の推定値のうち、大きい順に二つの推定値を与える説明変数を候補として選択した。第一候補の説明変数から推定される表面ブリード率は15.6%であり、第二候補の説明変数から推定される表面ブリード率は15.3%だった。いずれの候補においても、推定された表面ブリード率は従来技術に比して高い値だとは言い難く、学習済みモデルに改善の余地があることがわかった。
【0082】
次に、第一候補および第二候補の説明変数によって示される製造条件に従って合成樹脂改質剤を実際に製造し、得られた合成樹脂改質剤を配合して製造したフイルムの表面ブリード率を実際に測定した。表面ブリード率の実測値は、第一候補の製造条件について15.2%であり、第二候補の製造条件について14.5%だった。
【0083】
〔学習済みモデルの改善〕
続いて、第一候補および第二候補について得られた説明変数と実測の表面ブリード率との組を用いて、学習済みモデルの再生成を行った。さらに、再生成した学習済みモデルを用いて、Python環境下で進化計算フレームワークDEAPを用いた遺伝的アルゴリズムによる説明変数の生成を行なった。適応度、次世代に残す個体の選択、および終了条件は、一回目の説明変数群の生成と同様にした。
【0084】
新たな説明変数群に含まれる各説明変数について、再生成した学習済みモデルを用いて表面ブリード率を推定した。一回目の推定と同様に大きい順に二つの推定値を与える説明変数を候補として選択し、第三候補および第四候補とした。第三候補の説明変数から推定される表面ブリード率は17.8%であり、第四候補の説明変数から推定される表面ブリード率は17.6%だった。いずれの候補においても、推定された表面ブリード率は従来技術に比して高い値であり、好適な合成樹脂改質剤を得るための製造条件を解として与えうる学習済みモデルが生成されていることが期待された。
【0085】
第三候補および第四候補についても同様に、合成樹脂改質剤の製造、フイルムの製造、および表面ブリード率の測定を行った。表面ブリード率の実測値は、第三候補について17.7%であり、第四候補について17.4%だった。再生成した学習済みモデルを用いた推定において表面ブリード率の推定値と実測値とがよい一致を示したことから、学習済みモデルの妥当性が示された。また、好適な合成樹脂改質剤を得るための製造条件を解として与えうる学習済みモデルが生成されているとの期待の正しさが、あわせて示されたといえる。
【0086】
なお、従来の実験的手法により表面ブリード率の最大化を試みたところ、教師データを得たところを出発点としてさらに54点の実験(合成樹脂改質剤の製造、フイルムの製造、および表面ブリード率の測定)を要した。また、従来の実験的手法を経て得られた対照試料では表面ブリード率が17.2%であり、第三候補および第四候補と同等の水準だった。第三候補および第四候補では、従来の実験的手法により求められる解と同水準の合成樹脂改質剤の製造条件を、わずか4点の実測を経て特定できた。すなわち、本発明によって、従来の実験的手法により得られうる水準の解に大規模な実験を伴うことなくたどり着くことができたといえる。これによって、新規の合成樹脂改質剤の開発に要する工数、時間、および費用を低減しうると期待される。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、たとえば合成樹脂改質剤の性能の推定および好適な合成樹脂改質剤を与える製造条件の推定に利用できる。
図1