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特開2024-139212電波シールド材及び電波シールドシート
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  • 特開-電波シールド材及び電波シールドシート 図1
  • 特開-電波シールド材及び電波シールドシート 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139212
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】電波シールド材及び電波シールドシート
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20241002BHJP
   D06M 11/74 20060101ALI20241002BHJP
   D06M 11/11 20060101ALI20241002BHJP
   D06M 11/55 20060101ALI20241002BHJP
   D06M 11/65 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
H05K9/00 W
D06M11/74
D06M11/11
D06M11/55
D06M11/65
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050054
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】近藤 樹理
(72)【発明者】
【氏名】菅原 一臣
(72)【発明者】
【氏名】染谷 佳之
【テーマコード(参考)】
4L031
5E321
【Fターム(参考)】
4L031AA14
4L031AA18
4L031AB34
4L031BA02
4L031BA12
5E321AA50
5E321BB34
5E321BB41
5E321GG05
5E321GH10
(57)【要約】
【課題】 電波シールド性の向上に寄与する新規の電波シールド材を提供することを主な課題とする。
【解決手段】 酸が担持された活性炭からなる電波シールド材及び当該電波シールド材を含む、電波シールドシート。前記酸が、硫酸、リン酸、塩酸、硝酸、及び芳香族アミノ酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であること、前記電波シールド材の比表面積が50~2000m/gであること、前記活性炭が繊維状活性炭であること、が好ましい。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸が担持された活性炭からなる電波シールド材。
【請求項2】
前記酸が、硫酸、リン酸、塩酸、硝酸、及び芳香族アミノ酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の電波シールド材。
【請求項3】
前記電波シールド材の比表面積が50~2000m/gである、請求項1に記載の電波シールド材。
【請求項4】
前記活性炭が繊維状活性炭である、請求項1に記載の電波シールド材。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の電波シールド材を含む、電波シールドシート。
【請求項6】
前記電波シールドシートが不織布形状である、請求項5に記載の電波シールドシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波シールド材及び電波シールドシートに関する。
【背景技術】
【0002】
電波の反射・吸収又は多重反射によって電波エネルギーを滅衰させる電波シールド材が知られている。例えば、炭素繊維前駆体からなる基材上に荷電紡糸で形成されたナノファイバーシートを炭化・賦活して得られるカーボンナノファイバーシートを用いた電磁波吸収体が知られている(例えば特許文献1参照。)。当該電磁波吸収体によれば、薄くて緻密ではあるが、空隙も十分存在するカーボンナノファイバーシートを電磁波の吸収に用いることで、電磁波がシート内を透過しやすく、かつ繊維との衝突による熱エネルギーへの変換も生じやすくなり、電磁波吸収特性を向上することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-218859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の電磁波吸収体はカーボンナノファイバーシートを用いるものであるためコストが高いものとなる。そこで、本発明は、電波シールド性の向上に寄与する新規の電波シールド材を提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等が上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、酸が担持された活性炭からなる電波シールド材とすることにより、上記課題を解決できることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1.酸が担持された活性炭からなる電波シールド材。
項2.前記酸が、硫酸、リン酸、塩酸、硝酸、及び芳香族アミノ酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である、項1に記載の電波シールド材。
項3.前記電波シールド材の比表面積が50~2000m/gである、項1に記載の電波シールド材。
項4.前記活性炭が繊維状活性炭である、項1に記載の電波シールド材。
項5.項1~4のいずれか1項に記載の電波シールド材を含む、電波シールドシート。
項6.前記電波シールドシートが不織布形状である、項5に記載の電波シールドシート。
【発明の効果】
【0007】
本発明の電波シールド材によれば、酸が担持された活性炭からなることから、電波シールド性の向上に寄与する新規の電波シールド材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例における電波シールドシートの電波シールド性の評価結果を示すグラフであり、0.2~0.5THzの減衰量(dB)を測定したグラフである。
図2】実施例における電波シールドシートの電波シールド性の評価結果を示すグラフであり、0.5~2.0THzの減衰量(dB)を測定したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<電波シールド材>
本発明の電波シールド材は、酸が担持された活性炭からなる。以下、詳細に説明する。
【0010】
本発明の電波シールド材において、活性炭の形態は特に限定されないが、例えば、粒状活性炭、粉末状活性炭、繊維状活性炭等が挙げられる。後述するシート状により加工しやすいという観点からは、繊維状活性炭とすることがより好ましい。なお、繊維状活性炭の平均繊維径としては、好ましくは30μm以下、より好ましくは1~20μm程度、さらに好ましくは10~20μm程度が挙げられる。なお、本発明における平均繊維径は、JIS K 1477:2007 7.3.1に準じ、反射顕微鏡によって測定及び算出をする。また、粒状活性炭及び粉末状活性炭の粒径としては、レーザー回折/散乱式法で測定した積算体積百分率D50が0.01~5mmが挙げられる。
【0011】
活性炭前駆体の原料種及び形態としては特に制限されるものではない。活性炭前駆体の原料種の例としては、不融化或いは炭素化した有機質材料、フェノール樹脂等の硬化性樹脂等が挙げられ、該有機質材料としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ピッチ、ポリビニルアルコール、セルロース等が挙げられる。また、オガ屑、木材チップ、木材、ピート、木炭、ヤシ殻、石炭、オイル、炭素質物質(石油コークス、石炭コークス、石油ピッチ、石炭ピッチ、コールタールピッチ、及びこれらの複合物など)、合成樹脂(フェノール樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド、フラン樹脂など)、セルロース系繊維(紙、綿繊維など)、及びこれらの複合物(紙-フェノール樹脂積層板など)、フラーレンなどが挙げられる。これらの中でも、炭素化時の理論炭素化収率の点で、ピッチであることが好ましく、石炭ピッチであることがより好ましい。活性炭前駆体の形態の例としては、粒状、粉末状、繊維状等が挙げられる。
【0012】
本発明の電波シールド材に用いる活性炭を得る方法としては、特に制限されないが、例えば、上記活性炭前駆体を、水蒸気や二酸化炭素を賦活ガスとして用いて、賦活温度、賦活時間を調整して比表面積を調整し得る方法が挙げられる。
【0013】
本発明の電波シールド材において、酸が担持される前の活性炭の比表面積としては、電波の吸収効率をより優れたものとする観点から、500~3500m/gが好ましく、900~2500m/gがより好ましく、1200~2000m/gがさらに好ましい。活性炭の比表面積は、JIS K1477に記載されたBET法(1点法)により求めた値である。
【0014】
本発明の電波シールド材は、活性炭に酸が担持されてなる。これにより、本発明の電波シールド材は電波シールド性の向上に寄与することができる。本発明の電波シールド材が活性炭に酸が担持されてなることにより電波シールド性に優れる作用機序については必ずしも明らかではないが、本発明の電波シールド材に入射した電波が一旦酸によって減衰され、当該減衰した電波を活性炭によって吸収等がされることにより、電波シールド性に優れると推測される。
【0015】
本発明において、「酸が担持された」とは、下記測定方法で測定される電波シールド材酸性度(mmol/g)が正の値であるもの(0を超えるもの)をいう。
(電波シールド材酸性度の測定方法)
電波シールド材0.5gを115℃にて1時間以上乾燥し、重量を測定する。重量を測定した電波シールド材を0.1N-水酸化ナトリウム水溶液50mLに入れ、25℃で30分振とうした後、30分以上静置する。その後、溶液をろ過して電波シールド材を除去する。ろ液10mLを、滴定装置を使用し0.1N-塩酸水溶液で滴定する。同一条件で電波シールド材を水酸化ナトリウム水溶液に入れないブランクの状態においても滴定する。そして下記計算式により、電波シールド材酸性度を算出する。
(式)電波シールド材酸性度(mmol/g)=0.1×(B-A)×(50/10)×(1/乾燥重量)
A:電波シールド材を水酸化ナトリウムに入れた場合の、pH=4.3時の塩酸の滴定量[mL]
B:ブランクのpH=4.3時の塩酸の滴定量[mL]
【0016】
本発明の電波シールド材において、前記酸としては、無機酸又は有機酸が挙げられる。無機酸としては、硫酸、リン酸、塩酸及び硝酸からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられ、中でも、硫酸が好ましい。また、有機酸としては、例えば、シュウ酸、リンゴ酸、マロン酸、クエン酸、芳香族アミノ酸が挙げられ、芳香族アミノ酸が好ましい。芳香族アミノ酸としては、o-アミノ安息香酸、m-アミノ安息香酸、p-アミノ安息香酸、3-アミノサリチル酸、4-アミノサリチル酸、5-アミノサリチル酸、o-アミノベンゼンスルホン酸、m-アミノベンゼンスルホン酸、p-アミノベンゼンスルホン酸が挙げられ、中でも、o-アミノ安息香酸、m-アミノ安息香酸、又はp-アミノ安息香酸がより好ましい。また、無機酸及び有機酸を併用してもよい。併用する場合の好ましい組み合わせとしては、硫酸及び/又はリン酸と芳香族アミノ酸との組み合わせが挙げられる。
【0017】
本発明の電波シールド材の、前述した電波シールド材酸性度としては、例えば、1.0mmol/g以上が挙げられ、1.0~10.0mmol/gが好ましく挙げられ、1.0~5.0mmol/gがより好ましく挙げられる。
【0018】
本発明の電波シールド材は、電波の吸収効率をより優れたものとする観点から、比表面積が50~2000m/gであることが好ましく、200~1000m/gが好ましく、300~800m/gがより好ましい。本発明において、電波シールド材の比表面積は、JIS K1477に記載されたBET法(1点法)により求めた値である。
【0019】
本発明の電波シールド材は、酸が担持される前の活性炭の比表面積に対する、電波シールド材の比表面積の割合(電波シールド材の比表面積/活性炭の比表面積×100)としては、例えば、5~60%が挙げられ、10~40%が好ましく挙げられ、30~40%がより好ましく挙げられる。
【0020】
<電波シールド材の製造方法>
本発明の電波シールド材の製造方法としては特に制限されないが、例えば次のような方法が挙げられる。
【0021】
まず、活性炭を準備する。当該活性炭を得る方法としては、前述のとおりである。次に、酸と、水とを含有した処理液を調製する。処理液における酸の仕込み量としては、適宜調整すればよいが、例えば、後に浸漬する活性炭100質量部に対して、10~90質量部程度とすることが挙げられる。
【0022】
次に、この処理液中に準備した活性炭を浸漬して、酸を担持させる。例えば、活性炭を処理液中に均一に分散させ、その後、十分な時間に亘ってこの分散液を静置する。活性炭を処理液中に浸漬させる時間は、例えば約1時間以上とする。活性炭の質量と処理液の体積との比は、例えば5~50g/Lの範囲内とすることが挙げられる。
【0023】
次いで、活性炭を処理液から引き上げ、乾燥させる。この乾燥には、例えば、自然乾燥、通風乾燥、熱風乾燥、マイクロ波加熱乾燥、間接加熱乾燥などを利用することができる。乾燥は、雰囲気温度が、例えば70~130℃、好ましくは80~115℃に維持されるように行う。以上のようにして、本発明の電波シールド材を製造することができる。
【0024】
<電波シールドシート>
本発明の電波シールドシートは、上記の本発明の電波シールド材を用いたものであり、本発明の電波シールド材を含む。具体的には、本発明の電波シールドシートは、例えば、上記の電波シールド材がシート状に成形されたものである。電波シールドシートの形態としては、特に限定されないが、不織布が好ましく挙げられる。不織布の形態としては、特に制限されないが、例えば、湿式抄紙不織布等の湿式不織布、ニードルパンチ不織布等の乾式不織布が挙げられる。本発明の電波シールドシートは、上記の電波シールド材をシート状に成形することなどを目的として、必要に応じてバインダーを含んでいてもよい。バインダーとしては、電波シールド材を構成する活性炭同士を接着できるものであれば特に制限されず、例えば、繊維状バインダーが挙げられ、繊維状バインダーの市販品としてはユニチカ株式会社製商品名メルティなどを使用することができる。
【0025】
本発明の電波シールドシートがバインダーを含む場合、バインダーと、本発明の電波シールド材との質量比(バインダー/電波シールド材)としては、好ましくは5/95~50/50程度が挙げられ、10/90~30/70程度が好ましく挙げられる。また、本発明の電波シールドシートの質量(g/m)に対する、本発明の電波シールド材の含有量(g/m)の割合(電波シールド材の含有量/電波シールドシートの質量×100)としては、40~90質量%が挙げられ、50~90質量%が好ましく挙げられる。また、本発明の電波シールドシートの質量(g/m)に対する、バインダーの含有量(g/m)の割合(バインダーの含有量/電波シールドシートの質量×100)としては、5~30質量%が挙げられ、10~30質量%が好ましく挙げられる。
【0026】
また、本発明の電波シールドシートは、酸が担持されていない活性炭を含むことができる。酸が担持されていない活性炭の形態は特に限定されないが、例えば、粒状活性炭、粉末状活性炭、繊維状活性炭等が挙げられる。シート状により加工しやすいという観点からは、繊維状活性炭とすることがより好ましい。なお、繊維状活性炭の平均繊維径としては、好ましくは30μm以下、より好ましくは1~20μm程度が挙げられる。また、酸が担持されていない活性炭の酸性度としては、0.0mmol/gがより好ましく挙げられる。
【0027】
本発明の電波シールドシートにおいて、上記酸が担持されていない活性炭の活性炭前駆体の原料種及び形態としては特に制限されるものではない。活性炭前駆体の原料種の例としては、不融化或いは炭素化した有機質材料、フェノール樹脂等の硬化性樹脂等が挙げられ、該有機質材料としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ピッチ、ポリビニルアルコール、セルロース等が挙げられる。また、オガ屑、木材チップ、木材、ピート、木炭、ヤシ殻、石炭、オイル、炭素質物質(石油コークス、石炭コークス、石油ピッチ、石炭ピッチ、コールタールピッチ、及びこれらの複合物など)、合成樹脂(フェノール樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド、フラン樹脂など)、セルロース系繊維(紙、綿繊維など)、及びこれらの複合物(紙-フェノール樹脂積層板など)、フラーレンなどが挙げられる。これらの中でも、炭素化時の理論炭素化収率の点で、ピッチであることが好ましく、石炭ピッチであることがより好ましい。活性炭前駆体の形態の例としては、粒状、粉末状、繊維状等が挙げられる。
【0028】
本発明の電波シールドシートにおいて、上記酸が担持されていない活性炭を得る方法としては、特に制限されないが、例えば、上記活性炭前駆体を、水蒸気や二酸化炭素を賦活ガスとして用いて、賦活温度、賦活時間を調整して比表面積を調整し得る方法が挙げられる。
【0029】
本発明の電波シールドシートにおいて、上記酸が担持されていない活性炭の比表面積としては、電波の吸収効率をより優れたものとする観点から、500~2000m/gが好ましく、500~1500m/gがより好ましく、500~1000m/gがさらに好ましい。
【0030】
本発明の電波シールドシートにおいて、上記酸が担持されていない活性炭を含む場合、本発明の電波シールド材との質量比(酸が担持されていない活性炭/電波シールド材)としては、10/90~40/60が挙げられ、20/80~35/65が好ましく挙げられる。また、本発明の電波シールドシートの質量(g/m)に対する、上記酸が担持されていない活性炭の含有量(g/m)の割合(上記酸が担持されていない活性炭の含有量/電波シールドシートの質量×100)としては、10~30質量%が挙げられ、15~25質量%が好ましく挙げられる。
【0031】
本発明の電波シールドシートの質量としては、特に制限されないが、例えば、30~300g/mが挙げられる。上記質量は、JIS L 1913:2010 6.2に準じて求めた単位面積当たりの質量(g/m)とする。また、本発明の電波シールドシートの厚さとしては、特に制限されないが、例えば0.2~3.0mmが挙げられ、0.3~1.5mmが好ましく挙げられる。上記厚さは、株式会社ミツトヨ製シネックスゲージを用いて任意の場所について3点測定した値の平均値をシートの厚さ(mm)とする。また、本発明の電波シールドシートの、上記質量と厚さから求められる見かけ密度としては、例えば、0.05~0.4g/cmが挙げられ、0.05~0.25g/cmが好ましく挙げられる。
【0032】
本発明の電波シールドシートの製造方法としては、公知の方法にておこなうことができる。例えば、乾式不織布のうち、ニードルパンチ不織布とする場合は、本発明の電波シールド材及びバインダーを含む構成材料をカーディングして薄いウェブを形成し、当該ウェブにニードルパンチ加工を施し、バインダーが溶融できる温度で熱処理した後に、冷却することで、本発明の電波シールドシートを得ることができる。また、湿式抄紙不織布とする場合は、本発明の電波シールド材を含む溶液を、パルパー、ビーター、リファイナーなどの装置を用いて混合、せん断し、均一に分散したスラリーを作製し、得られたスラリーをワイヤー上に流し、脱水、乾燥することで、本発明の電波シールドシートを得ることができる。
【0033】
<電波シールドシートの電波周波数領域及び電波シールド性能>
本発明の電波シールドシートを用いてシールドする電波の周波数の領域としては、特に制限されないが、例えば、0.2~2.0THzが挙げられ、0.2~0.5THz及び/又は0.5~2.0THzが挙げられる。また、本発明の電波シールドシートが備える好ましい電波シールド性能としては、下記測定方法にて測定したときの0.2~0.5THzの減衰量の平均値が-60~-20dBが挙げられ、-60~-40dBが好ましく挙げられる。また、また、本発明の電波シールドシートが備える好ましい電波シールド性能として、下記測定方法にて測定したときの0.5~2.0THzの減衰量の平均値が-60~-15dBが挙げられ、-60~-28dBが好ましく挙げられる。
<測定方法>
電波シールドシートを2cm×2cmの正方形にカットして測定サンプルとし、テラヘルツ時間領域分光法(日邦プレシジョン株式会社製テラヘルツ分光装置商品名Tera Prospector)にて透過測定をおこなう。なお、試料室はドライエアでパージし、リファレンスはサンプルのない状態(ドライエア)とする。
【実施例0034】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されない。
【0035】
[評価方法]
(1)酸が担持される前の活性炭の比表面積、電波シールド材の比表面積及び電波シールドシートに含まれる、酸が担持されていない活性炭の比表面積(m/g)
JIS K1477に記載されたBET法(1点法)により求めた。
【0036】
(2)電波シールド材の平均繊維径、及び電波シールドシートに含まれる酸が担持されていない活性炭の平均繊維径(μm)
JIS K 1477:2007 7.3.1に準じ、反射顕微鏡によって測定及び算出をした。
【0037】
(3)電波シールド材酸性度(mmol/g)
電波シールド材0.5gを115℃にて1時間以上乾燥し、重量を測定した。重量を測定した電波シールド材を0.1N-水酸化ナトリウム水溶液50mLに入れ、25℃で30分振とうした後、30分以上静置した。その後、溶液をろ過して電波シールド材を除去した。ろ液10mLを、滴定装置を使用し0.1N-塩酸水溶液で滴定した。同一条件で電波シールド材を水酸化ナトリウム水溶液に入れないブランクの状態においても滴定した。そして下記計算式により、電波シールド材酸性度を算出した。
(式)電波シールド材酸性度(mmol/g)=0.1×(B-A)×(50/10)×(1/乾燥重量)
A:電波シールド材を水酸化ナトリウムに入れた場合の、pH=4.3時の塩酸の滴定量[mL]
B:ブランクのpH=4.3時の塩酸の滴定量[mL]
【0038】
(4)電波シールドシートに含まれる、酸が担持されていない活性炭の酸性度(mmol/g)
電波シールドシートに含まれる、酸が担持されていない活性炭0.5gを115℃にて1時間以上乾燥し、重量を測定した。重量を測定した当該活性炭を0.1N-水酸化ナトリウム水溶液50mLに入れ、25℃で30分振とうした後、30分以上静置した。その後、溶液をろ過して当該活性炭を除去した。ろ液10mLを、滴定装置を使用し0.1N-塩酸水溶液で滴定した。同一条件で当該活性炭を水酸化ナトリウム水溶液に入れないブランクの状態においても滴定した。そして下記計算式により、電波シールドシートに含まれる、酸が担持されていない活性炭の酸性度を算出した。
(式)電波シールドシートに含まれる、酸が担持されていない活性炭の酸性度(mmol/g)=0.1×(B-A)×(50/10)×(1/乾燥重量)
A:当該活性炭を水酸化ナトリウムに入れた場合の、pH=4.3時の塩酸の滴定量[mL]
B:ブランクのpH=4.3時の塩酸の滴定量[mL]
【0039】
(5)電波シールドシートの電波シールド性の評価
得られた電波シールドシートを用いて電波シールド性の評価をおこなった。具体的には、電波シールドシートを2cm×2cmの正方形にカットして測定サンプルとし、
テラヘルツ時間領域分光法(日邦プレシジョン株式会社製テラヘルツ分光装置商品名Tera Prospector)にて透過測定を行った。なお、試料室はドライエアでパージし、リファレンスはサンプルのない状態(ドライエア)とした。なお、減衰量は、数値が低いほど(負の値の絶対値が大きいほど)電波シールド性に優れることを示す。
【0040】
(6)電波シールドシートの質量(g/m)及び厚さ(mm)
電波シールドシートの質量は、JIS L 1913:2010 6.2に準じて求めた。また、電波シールドシートの厚さは株式会社ミツトヨ製シネックスゲージを用いて任意の場所について3点測定した値の平均値をシートの厚さ(mm)とした。
【0041】
[試験例A]
(実施例1)
(1)電波シールド材の製造
(1-1)活性炭の準備
粒状石炭ピッチを、溶融押出機に供給し、溶融温度320℃で溶融混合し、吐出量20g/minで紡糸することによりピッチ繊維を得た。得られたピッチ繊維を空気中常温から354℃まで1~30℃/分の割合で54分間昇温することにより不融化処理をおこない、不融化されたピッチ繊維である活性炭前駆体を得た。得られた活性炭前駆体を、HO濃度が100容量%のガスを賦活炉内に連続的に導入し、雰囲気温度875℃で50分間熱処理することにより賦活をおこない、繊維状活性炭を得た。なお、酸が担持される前の活性炭の比表面積は当該繊維状活性炭を用いて測定した。
【0042】
(1-2)本発明の電波シールド材に含まれる酸の溶液の調製
無機酸として、75質量%の濃度で硫酸を含有した硫酸水溶液を調製した。この硫酸水溶液を65℃の温度で撹拌して、芳香族アミンとしてp-アミノ安息香酸を水溶液に加え、完全に溶解させたのち、活性炭の質量と処理液の体積との比が20g/Lとなるように水を加え、処理液を得た。なお、硫酸及び芳香族アミンの仕込み量は、活性炭100質量部に対して30.0質量部となるようにした。なお、硫酸の当該仕込み量(質量部)は、硫酸水溶液中の、純水を除いた硫酸のみの量(質量部)を示す。
【0043】
(1-3)活性炭への本発明の電波シールド材に含まれる酸の担持
次に、準備した溶液に、上記得られた活性炭100質量部を浸漬した。続いて、この溶液を10分間に亘って撹拌して、活性炭を溶液中に均一に分散させた。その後、この分散液を静置した。1時間以上静置した後、活性炭を溶液から引き上げ、乾燥機を用いて80℃で3時間に亘って乾燥させ、実施例1の電波シールド材を得た。得られた電波シールド材の物性について表1に示す。
【0044】
(2)電波シールドシートの製造
得られた電波シールド材と、鞘部に共重合PET、芯部にPETを配した芯鞘型のバインダー繊維(Huvis製商品名LMF2 DENIER、芯部の融点265℃、鞘部の融点110℃、繊度2.2dtex、平均繊維長51mm)とを、表1の質量割合となるように混綿し、カーディング法により不織布ウェブを形成した。得られた不織布ウェブを表1に記載の質量となるよう複数枚積層し、ニードルパンチングにより繊維を交絡させたのち、温度110℃で加熱してバインダー繊維を溶融させ、バインダー繊維と電波シールド材とを融着させて、質量150g/m、厚さ1.1mm、見かけ密度0.14g/cmの不織布形状の電波シールドシートを得た。得られた電波シールドシートの物性について表1に示す。
【0045】
(3)電波シールド性の評価
得られた電波シールドシートを用いて電波シールド性の評価をおこなった。具体的には、電波シールドシートを2cm×2cmの正方形にカットして測定サンプルとし、テラヘルツ時間領域分光法(日邦プレシジョン株式会社製テラヘルツ分光装置商品名Tera Prospector)にて透過測定を行った。なお、試料室はドライエアでパージし、リファレンスはサンプルのない状態(ドライエア)とした。0.2~0.5THzの減衰量(単位:dB)の結果を図1に、得られた各周波数の減衰量の平均値を表2に示す。なお、減衰量は、数値が低いほど(負の値の絶対値が大きいほど)電波シールド性に優れることを示す。
【0046】
(実施例2)
(1)電波シールド材の製造
実施例1で準備した電波シールド材を準備した。当該電波シールド材の物性を表1に示す。
【0047】
(2)酸が担持されていない活性炭の準備
粒状石炭ピッチを、溶融押出機に供給し、溶融温度320℃で溶融混合し、吐出量20g/minで紡糸することによりピッチ繊維を得た。得られたピッチ繊維を空気中常温から354℃まで1~30℃/分の割合で54分間昇温することにより不融化処理をおこない、不融化されたピッチ繊維である活性炭前駆体を得た。得られた活性炭前駆体を、HO濃度が100容量%のガスを賦活炉内に連続的に導入し、雰囲気温度875℃で30分間熱処理することにより賦活をおこない、酸が担持されていない繊維状活性炭を得た。得られた繊維状活性炭の比表面積は825m/g、平均繊維径は17μmであった。当該酸が担持されていない活性炭の物性を表1に示す。
【0048】
(3)電波シールドシートの製造
準備した電波シールド材と、鞘部に共重合PET、芯部にPETを配した芯鞘型のバインダー繊維(Huvis製商品名LMF 2 DENIER、芯部の融点265℃、鞘部の融点110℃、繊度2.2dtex、平均繊維長51mm)と、準備した酸が担持されていない繊維状活性炭を、表1の質量割合となるように混綿し、カーディング法により不織布ウェブを形成した。得られた不織布ウェブを表1に記載の質量となるよう複数枚積層し、ニードルパンチングにより繊維を交絡させたのち、温度110℃で加熱してバインダー繊維を溶融させ、バインダー繊維と電波シールド材及び酸が担持されていない繊維状活性炭とを融着させて、質量150g/m、厚さ1.1mm、見かけ密度0.14g/cmの不織布形状の電波シールドシートを得た。得られた電波シールドシートの物性について表1に示す。
【0049】
(4)電波シールド性の評価
得られた電波シールドシートを用いて電波シールド性の評価をおこなった。具体的には、電波シールドシートを2cm×2cmの正方形にカットして測定サンプルとし、
テラヘルツ時間領域分光法(日邦プレシジョン株式会社製テラヘルツ分光装置商品名Tera Prospector)にて透過測定を行った。なお、試料室はドライエアでパージし、リファレンスはサンプルのない状態(ドライエア)とした。0.2~0.5THzの減衰量(単位:dB)の結果を図1に、また、得られた各周波数の減衰量の平均値を表2に示す。
【0050】
(実施例3)
(1)電波シールド材の製造
実施例1で準備した電波シールド材を準備した。当該電波シールド材の物性を表1に示す。
【0051】
(2)酸が担持されていない活性炭の準備
実施例2で準備した、酸が担持されていない活性炭を準備した。当該酸が担持されていない活性炭の物性を表1に示す。
【0052】
(3)電波シールドシートの製造
準備した電波シールド材と、鞘部に共重合PET、芯部にPETを配した芯鞘型のバインダー繊維(Huvis製商品名LMF 2 DENIER、芯部の融点265℃、鞘部の融点110℃、繊度2.2dtex、平均繊維長51mm)と、準備した酸が担持されていない繊維状活性炭を、表1の質量割合となるように混綿し、カーディング法により不織布ウェブを形成した。得られた不織布ウェブを表1に記載の質量となるよう複数枚積層し、ニードルパンチングにより繊維を交絡させたのち、温度110℃で加熱してバインダー繊維を溶融させ、バインダー繊維と電波シールド材及び酸が担持されていない繊維状活性炭とを融着させて、質量60g/m、厚さ0.5mm、見かけ密度0.12g/cmの不織布形状の電波シールドシートを得た。得られた電波シールドシートの物性について表1に示す。
【0053】
(4)電波シールド性の評価
得られた電波シールドシートを用いて電波シールド性の評価をおこなった。具体的には、電波シールドシートを2cm×2cmの正方形にカットして測定サンプルとし、
テラヘルツ時間領域分光法(日邦プレシジョン株式会社製テラヘルツ分光装置商品名Tera Prospector)にて透過測定を行った。なお、試料室はドライエアでパージし、リファレンスはサンプルのない状態(ドライエア)とした。0.2~0.5THzの減衰量(単位:dB)の結果を図1に、また、得られた各周波数の減衰量の平均値を表2に示す。
【0054】
(実施例4)
(1)電波シールド材の製造
(1-1)活性炭の準備
粒状石炭ピッチを、溶融押出機に供給し、溶融温度320℃で溶融混合し、吐出量20g/minで紡糸することによりピッチ繊維を得た。得られたピッチ繊維を空気中常温から354℃まで1~30℃/分の割合で54分間昇温することにより不融化処理をおこない、不融化されたピッチ繊維である活性炭前駆体を得た。得られた活性炭前駆体を、HO濃度が100容量%のガスを賦活炉内に連続的に導入し、雰囲気温度875℃で50分間熱処理することにより賦活をおこない、繊維状活性炭を得た。なお、酸が担持される前の活性炭の比表面積は当該繊維状活性炭を用いて測定した。
【0055】
(1-2)本発明の電波シールド材に含まれる酸の溶液の調製
無機酸として、50質量%の濃度でリン酸を含有したリン酸水溶液を調製した。調製したリン酸水溶液に、活性炭の質量と処理液の体積との比が30g/Lとなるように水を加え、処理液を得た。
【0056】
(1-3)活性炭への本発明の電波シールド材に含まれる酸の担持
次に、準備した溶液に、上記得られた活性炭100質量部を浸漬した。続いて、この溶液を10分間に亘って撹拌して、活性炭を溶液中に均一に分散させた。その後、この分散液を静置した。1時間以上静置した後、活性炭を溶液から引き上げ、乾燥機を用いて80℃で3時間に亘って乾燥させ、実施例1の電波シールド材を得た。得られた電波シールド材の物性について表1に示す。
【0057】
(2)電波シールドシートの製造
得られた電波シールド材と、鞘部に共重合PET、芯部にPETを配した芯鞘型のバインダー繊維(Huvis製商品名LMF 2 DENIER、芯部の融点265℃、鞘部の融点110℃、繊度2.2dtex、平均繊維長51mm)とを、表1の質量割合となるように混綿し、カーディング法により不織布ウェブを形成した。得られた不織布ウェブを表1に記載の質量となるよう複数枚積層し、ニードルパンチングにより繊維を交絡させたのち、温度110℃で加熱してバインダー繊維を溶融させ、バインダー繊維と電波シールド材とを融着させて、質量84g/m、厚さ0.40mm、見かけ密度0.21g/cmの不織布形状の電波シールドシートを得た。得られた電波シールドシートの物性について表1に示す。
【0058】
(3)電波シールド性の評価
得られた電波シールドシートを用いて電波シールド性の評価をおこなった。具体的には、電波シールドシートを2cm×2cmの正方形にカットして測定サンプルとし、テラヘルツ時間領域分光法(日邦プレシジョン株式会社製テラヘルツ分光装置商品名Tera Prospector)にて透過測定を行った。なお、試料室はドライエアでパージし、リファレンスはサンプルのない状態(ドライエア)とした。0.2~0.5THzの減衰量(単位:dB)の結果を図1に、また、得られた各周波数の減衰量の平均値を表2に示す。
【0059】
(比較例1)
(1)酸が担持されていない活性炭の準備
粒状石炭ピッチを、溶融押出機に供給し、溶融温度320℃で溶融混合し、吐出量20g/minで紡糸することによりピッチ繊維を得た。得られたピッチ繊維を空気中常温から354℃まで1~30℃/分の割合で54分間昇温することにより不融化処理をおこない、不融化されたピッチ繊維である活性炭前駆体を得た。得られた活性炭前駆体を、HO濃度が100容量%のガスを賦活炉内に連続的に導入し、雰囲気温度875℃で50分間熱処理することにより賦活をおこない、酸が担持されていない繊維状活性炭を得た。得られた繊維状活性炭の比表面積は1731m/g、平均繊維径は16μmであった。当該酸が担持されていない活性炭の物性を表1に示す。
【0060】
(2)電波シールドシートの製造
鞘部に共重合PET、芯部にPETを配した芯鞘型のバインダー繊維(Huvis製商品名LMF 2 DENIER、芯部の融点265℃、鞘部の融点110℃、繊度2.2dtex、平均繊維長51mm)と、準備した酸が担持されていない繊維状活性炭を、表1の質量割合となるように混綿し、カーディング法により不織布ウェブを形成した。得られた不織布ウェブを表1に記載の質量となるよう複数枚積層し、ニードルパンチングにより繊維を交絡させたのち、温度110℃で加熱してバインダー繊維を溶融させ、バインダー繊維と酸が担持されていない活性炭とを融着させて、質量60g/m、厚さ0.4mm、見かけ密度0.15g/cmの不織布形状の電波シールドシートを得た。得られた電波シールドシートの物性について表1に示す。
【0061】
(3)電波シールド性の評価
得られた電波シールドシートを用いて電波シールド性の評価をおこなった。具体的には、電波シールドシートを2cm×2cmの正方形にカットして測定サンプルとし、テラヘルツ時間領域分光法(日邦プレシジョン株式会社製テラヘルツ分光装置商品名Tera Prospector)にて透過測定を行った。なお、試料室はドライエアでパージし、リファレンスはサンプルのない状態(ドライエア)とした。0.2~0.5THzの減衰量(単位:dB)の結果を図1に、また、得られた各周波数の減衰量の平均値を表2に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
図1及び表2から、実施例1~4の電波シールド材によれば、酸が担持された活性炭からなることから、電波シールドシートとしたときの電波シールド性が向上することが明らかとなった。
【0065】
[試験例B]
得られた実施例1~4の電波シールドシートを用いて電波シールド性の評価をおこなった。具体的には、電波シールドシートを2cm×2cmの正方形にカットして測定サンプルとし、テラヘルツ時間領域分光法(日邦プレシジョン株式会社製テラヘルツ分光装置商品名Tera Prospector)にて透過測定を行った。なお、試料室はドライエアでパージし、リファレンスはサンプルのない状態(ドライエア)とした。0.5~2.0THzの減衰量(単位:dB)の結果を図2に、また、得られた各周波数の減衰量の平均値を表3に示す。
【0066】
【表3】
【0067】
図2及び表3から、実施例1~4の電波シールド材及び電波シールドシートは、0.5~2.0THzという高周波数領域においても電波シールド性に優れるものであった。
図1
図2