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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139230
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】液滴吐出ヘッド
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20241002BHJP
【FI】
B41J2/14 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050079
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】水野 泰介
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF01
2C057AF23
2C057AF55
2C057AG02
2C057AG09
2C057AG44
2C057AG48
2C057AP22
2C057AP23
2C057AP31
2C057AQ02
2C057AQ06
2C057BA04
2C057BA14
(57)【要約】
【課題】高い駆動周波数で、圧電素子に付与する駆動電圧を低くする。
【解決手段】プリンタは、ノズルとノズルに連通する圧力室とを含む個別流路を有する流路部材と、圧力室内のインクに圧力を付与してノズルからインク滴を吐出させる圧電素子とを備えている。個別流路の固有周波数Frは200kHz以上である。さらに、ノズルの直径Dとノズルのテーパー角度θとは、θ≧-2.3×D+65,θ>1.9×Dを満たす。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルと前記ノズルに連通する圧力室とを含む流路を有する流路部材と、
前記流路部材に固定され、前記圧力室内の液体に圧力を付与して前記ノズルから液滴を吐出させる圧電素子と、を備え、
前記流路の固有周波数Frが200kHz以上であり、
前記ノズルの直径D[μm]と前記ノズルのテーパー角度θ[°]とがθ≧-2.3×D+65,θ>1.9×Dを満たすことを特徴とする、液滴吐出ヘッド。
【請求項2】
前記圧電素子は薄膜圧電素子であることを特徴とする、請求項1項に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
前記薄膜圧電素子の厚みが5μm以下であることを特徴とする、請求項2に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項4】
前記ノズルは、シリコン部材で画定され、矩形状の開口を有することを特徴とする、請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項5】
前記圧力室は、シリコン部材で画定されることを特徴とする、請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項6】
前記圧力室の幅が300μm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項7】
前記圧力室の長さが350μm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項8】
前記テーパー角度θが45°未満であることを特徴とする、請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項9】
前記テーパー角度θが35°を超えることを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の液滴吐出ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ノズルから液滴を吐出させる液滴吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、25~40kHz程度の駆動周波数で記録ヘッド(液滴吐出ヘッド)を駆動する場合の、ノズルのテーパー角度及びノズルの直径の数値が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-279865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高速記録を行うため、駆動周波数をより高くすることが考えられる。駆動周波数を高めるための手段の1つは、流路の固有周波数Frを高めることである。
【0005】
しかしながら、固有周波数Frが高いと、ノズルのテーパー角度及びノズルの直径によっては、ノズルから所定量の液滴を吐出させるために、圧電素子に高い駆動電圧を付与する必要がある。
【0006】
圧電素子に高い駆動電圧を付与すると、ジュール熱の法則に基づいて、圧電素子の発熱量が増大する。圧電素子の熱が流路内の液体に伝わると、液体の粘度が低くなる。液体の粘度が低いほど、ノズルから吐出される液滴のサイズが大きい。ノズルから吐出される液滴のサイズが大きいと、その液滴により形成される画像の濃度が高い。
【0007】
本開示の目的は、高い駆動周波数で、圧電素子に付与する駆動電圧を低くできる、液滴吐出ヘッドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る液滴吐出ヘッドは、ノズルと前記ノズルに連通する圧力室とを含む流路を有する流路部材と、前記流路部材に固定され、前記圧力室内の液体に圧力を付与して前記ノズルから液滴を吐出させる圧電素子と、を備え、前記流路の固有周波数Frが200kHz以上であり、前記ノズルの直径D[μm]と前記ノズルのテーパー角度θ[°]とがθ≧-2.3×D+65,θ>1.9×Dを満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本願発明者が求める高い駆動周波数で液滴吐出ヘッドを駆動するには、固有周波数Frが200kHz以上であることが望ましい。固有周波数Frが200kHz以上であるという要件を満たすには、ノズルの直径D及びノズルのテーパー角度θの最適化が必要であり、後述の解析結果のとおり、ノズルの直径D[μm]とノズルのテーパー角度θ[°]とがθ≧-2.3×D+65を満たす必要がある。さらに、ノズルの直径D[μm]とノズルのテーパー角度θ[°]とがθ>1.9×Dを満たすことにより、圧電素子に付与する駆動電圧を低くできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本開示の第1実施形態に係るヘッド1を含むプリンタ100の平面図である。
図2図2は、プリンタ100の電気的構成を示すブロック図である。
図3図3は、ヘッド1の平面図である。
図4図4は、図3のIV-IV線に沿ったヘッド1の断面図である。
図5図5は、ノズルの直径D及びノズルのテーパー角度θと、個別流路の固有周波数Frとの関係を示すグラフである。
図6図6は、本開示の第2実施形態に係るヘッドの個別流路12Bを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第1実施形態>
図1に示すように、プリンタ100は、本開示の第1実施形態に係るヘッド1を有する。
【0012】
プリンタ100は、筐体100Aと、ヘッドユニット1Xと、プラテン3と、搬送機構4と、制御部5とを備えている。ヘッドユニット1X、プラテン3、搬送機構4及び制御部5は、筐体100A内に配置されている。
【0013】
プリンタ100は、さらに、筐体100Aの外面に配置されたボタンを備えている。
【0014】
ヘッドユニット1Xの紙幅方向の長さは、ヘッドユニット1Xの搬送方向の長さよりも長い。紙幅方向は、用紙9の幅に沿った方向であり、鉛直方向と直交する。ヘッドユニット1Xは、筐体100Aに固定されている。ヘッドユニット1Xの種類は、ライン式である。
【0015】
ヘッドユニット1Xは、4つのヘッド1を含む。4つのヘッド1は、紙幅方向に千鳥状に配置されている。ヘッド1の紙幅方向の長さは、ヘッド1の搬送方向の長さよりも長い。
【0016】
プラテン3は、鉛直方向と直交する平面に沿った板であり、ヘッドユニット1Xの下方に配置されている。プラテン3の上面に用紙9が支持される。
【0017】
搬送機構4は、2つのローラを有するローラ対41と、2つのローラを有するローラ対42と、図2に示す搬送モータ43とを含む。搬送方向において、ヘッドユニット1X及びプラテン3が、ローラ対41とローラ対42との間に配置されている。搬送方向は、鉛直方向及び紙幅方向と直交する。
【0018】
制御部5の制御により搬送モータ43が駆動されると、ローラ対41,42のローラが回転する。ローラ対41,42のローラが回転することによって、ローラ対41,42のローラに挟持された用紙9が搬送方向に搬送される。
【0019】
制御部5は、図2に示すように、CPU51と、ROM52と、RAM53とを含む。
【0020】
CPU51は、外部装置又は上記ボタンから入力されたデータに基づいて、ROM52やRAM53に記憶されているプログラム及びデータにしたがい、各種制御を実行する。外部装置は、例えばpersonal computer (PC)である。
【0021】
ROM52には、CPU51が各種制御を行うためのプログラム及びデータが格納されている。RAM53は、CPU51がプログラムを実行する際に用いるデータを一時的に記憶する。
【0022】
次いで、ヘッド1の構成について説明する。
【0023】
ヘッド1は、図4に示すように、流路部材12と、アクチュエータ部材13とを含む。
【0024】
流路部材12の上面には、図3に示すように、供給口121及び帰還口122が開口している。供給口121及び帰還口122は、チューブを介してインクタンクと連通している。
【0025】
流路部材12は、共通流路12Aと、複数の個別流路12Bとを有する。
【0026】
共通流路12Aは、紙幅方向に延びている。共通流路12Aにおける紙幅方向の一端に、供給口121が接続されている。共通流路12Aにおける紙幅方向の他端に、帰還口122が接続されている。共通流路12Aは、供給口121及び帰還口122を介してインクタンクに連通し、かつ、複数の個別流路12Bに連通している。
【0027】
個別流路12Bは、ノズル12Nと、ノズル12Nに連通する圧力室12Pと、ノズル12Nと圧力室12Pとを接続する接続路12Dとを含む。個別流路12Bは、本開示の「流路」に該当する。
【0028】
流路部材12は、複数のプレートを含む。複数のプレートのうち最も下にあるノズル12Nを有するプレートは、金属プレートである。流路部材12の金属プレートの下面に複数のノズル12Nが開口し、流路部材12の上面に複数の圧力室12Pが開口している。ノズル12Nの開口は円形状であり、圧力室12Pの開口は略矩形状である。
【0029】
本実施形態のノズル12Nは、金属部材で画定され、レーザー加工又はパンチング加工により形成されたものである。
【0030】
圧力室12Pの幅Wは、300μm以下である。圧力室12Pの長さLは、350μm以下である。幅Wは紙幅方向の長さであり、長さLは搬送方向の長さである。圧力室12Pの幅Wは、例えば225μmである。圧力室12Pの長さLは、例えば330μmである。
【0031】
ノズル12Nは、図3に示すように、紙幅方向に千鳥状に配置され、2つのノズル列R1,R2を構成している。ノズル列R1は、紙幅方向に並ぶ複数のノズル12Nで構成されている。ノズル列R2は、紙幅方向に並ぶ複数のノズル12Nで構成されている。
【0032】
ノズル12Nは、図4に示すように、下方に向かって先細りの形状を有する。ノズル12Nの下端は、ノズル12Nの開口である。ノズル12Nの下端の直径は、ノズル12Nの上端の直径よりも小さい。本実施形態において、ノズル12Nを画定する側壁は、鉛直方向に対して傾斜している。ノズル12Nのテーパー角度θは、ノズル12Nを画定する側壁の鉛直方向に対する鋭角側の角度である。ノズル12Nのテーパー角度θは、35°を超え、かつ、45°未満である。
【0033】
接続路12Dは、図4に示すように、圧力室12Pの搬送方向の一端と、ノズル12Nの上端とを接続している。接続路12Dは、円柱状である。接続路12Dの直径は、ノズル12Nの上端の直径よりも大きい。
【0034】
インクタンク内のインクは、制御部5の制御により図2に示すポンプ10が駆動されることで、供給口121を介して共通流路12Aに供給され、共通流路12Aから複数の個別流路12Bに分配される。
【0035】
後述する圧電素子13Xの駆動により圧力室12Pの容積が減少すると、圧力室12P内のインクに圧力が付与される。圧力が付与されたインクは、接続路12Dを通って、ノズル12Nからインク滴として吐出される。
【0036】
供給口121を介して共通流路12Aに供給されたものの個別流路12Bへ分配されなかったインクは、帰還口122を通じてインクタンクに戻る。
【0037】
アクチュエータ部材13は、図4に示すように、流路部材12の上面に固定されている。アクチュエータ部材13は、金属製の振動板13Aと、圧電層13Bと、複数の個別電極13Cとを含む。
【0038】
アクチュエータ部材13において圧力室12Pと鉛直方向に重なる部分が、圧電素子13Xとして機能する。圧電素子13Xは、個別電極13Cに付与される電位に応じて独立して変形可能である。
【0039】
圧電素子13Xは、薄膜圧電素子である。薄膜圧電素子の厚みTは、5μm以下である。本実施形態では、厚みTは、例えば3μmである。薄膜圧電素子とは、いわゆるmicro electro mechanical systems(MEMS)である。圧電素子13Xは、振動板13Aの上面に圧電層13Bとなる薄膜と個別電極13Cとなる薄膜とを順に形成したものである。
【0040】
振動板13Aは、流路部材12の上面に、複数の圧力室12Pを覆うように配置されている。圧電層13Bは、振動板13Aの上面に配置されている。個別電極13Cは、圧電層13Bの上面に、圧力室12Pと鉛直方向に重なるように配置されている。
【0041】
振動板13A及び複数の個別電極13Cは、ドライバIC14と電気的に接続されている。ドライバIC14は、振動板13Aの電位をグランド電位に維持する一方、個別電極13Cの電位を変化させる。振動板13Aは、複数の圧電素子13Xに共通の電極である共通電極として機能する。
【0042】
ドライバIC14は、制御部5からの制御信号に基づいて駆動信号を生成し、当該駆動信号を個別電極13Cに供給する。駆動信号は、個別電極13Cの電位を所定の駆動電位とグランド電位との間で変化させる。
【0043】
次いで、本願発明者が行った解析について説明する。
【0044】
本願発明者は、ノズル12Nの開口の直径Dとノズル12Nのテーパー角度θとが、個別流路12Bの固有周波数Frに影響することに着眼し、直径D及びテーパー角度θが異なる複数のヘッド1について、固有周波数Frを求めた。ここで、直径D及びテーパー角度θ以外の個別流路12Bの構成は、複数のヘッド1において共通である。図5に、本願発明者が行った解析の結果を示す。図5から、固有周波数Frと、直径D及びテーパー角度θとに、相関関係があることがわかる。
【0045】
図5から、ノズル12Nの直径D[μm]とノズル12Nのテーパー角度θ[°]とがθ≧-2.3×D+65を満たす場合に、固有周波数Frが200kHz以上であることが分かる。一方、本願発明者が求める駆動周波数でヘッド1を駆動するには、固有周波数Frが200kHz以上であることが望ましい。したがって、本実施形態のヘッド1において、ノズル12Nの直径D[μm]とノズル12Nのテーパー角度θ[°]とがθ≧-2.3×D+65を満たすと、本願発明者が求める駆動周波数でヘッド1を駆動することができる。
【0046】
さらに、本願発明者は、以下の事項を知見している。ノズル12Nの直径Dが大きくなるにつれて、ノズル12Nから所定量のインク滴を吐出させるために圧電素子13Xに付与する駆動電圧を高くする必要がある。また、ノズル12Nのテーパー角度θが小さいほど、接続路12Dの直径とノズル12Nの上端の直径との差が大きい。その差が大きいと、接続路12Dを流れるインクは、ノズル12Nの上端に至る際に大きな抵抗を受ける。すると、圧電素子13Xがインクに付与した圧力が当該抵抗によって減衰し、ノズル12Nから吐出されるインクの量に影響する。ノズル12Nから所定量のインク滴を吐出させるためには、ノズル12Nのテーパー角度θが小さいほど、圧電素子13Xに付与する駆動電圧を高くして、圧力が減衰する影響を打ち消す必要がある。そこで、本願発明者は、固有周波数Frが200kHz以上であり、かつ、高すぎない駆動電圧を圧電素子13Xへ付与するためには、ノズル12Nの直径D[μm]とノズル12Nのテーパー角度θ[°]とがθ>1.9×Dを満たすことが適切であることを知見した。
【0047】
θ≧-2.3×D+65,θ>1.9×Dを満たす領域Aを、図5に破線で示す。
【0048】
以上に述べたように、ノズル12Nの直径D[μm]とノズル12Nのテーパー角度θ[°]とがθ≧-2.3×D+65を満たすようにヘッド1を構成することで、個別流路12Bの固有周波数Frは200kHz以上となる。さらに、ノズル12Nの直径D[μm]とノズル12Nのテーパー角度θ[°]とがθ>1.9×Dを満たすようにヘッド1を構成することで、低い駆動電圧で圧電素子13Xを駆動しても、高い駆動周波数で十分な量のインクがノズル12Nから吐出される。
【0049】
圧電素子13Xに高い駆動電圧を付与すると、ジュール熱の法則に基づいて、圧電素子13Xの発熱量が増大する。圧電素子13Xの熱が個別流路12B内のインクに伝わると、インクの粘度が低くなる。インクの粘度が低いほど、ノズル12Nから吐出されるインク滴のサイズが大きい。ノズル12Nから吐出されるインク滴のサイズが大きいと、そのインク滴により形成される画像の濃度が高い。
【0050】
また、駆動する圧電素子13Xと駆動しない圧電素子13Xとがあると、複数の個別流路12Bを流れるインクの粘度にばらつきが生じる。複数の個別流路12Bを流れるインクの粘度にばらつきが生じると、各個別流路12Bのノズル12Nから吐出されるインク滴のサイズにもばらつきが生じることで、画質が悪化する。
【0051】
この点、本実施形態では、圧電素子13Xに付与する駆動電圧を低くできるため、圧電素子13Xの抵抗によるジュール熱が小さくなり、圧電素子13Xの発熱が抑えられる。圧電素子13Xの発熱が抑えられることで、インクの粘度が所定の粘度よりも低くならず、かつ、複数の個別流路12Bを流れるインクの粘度にばらつきが生じない。その結果、良好な画質が得られる。
【0052】
一般に、インクの粘度が高くなるにつれて、ノズル12Nから所定量のインク滴を吐出させるために必要な、圧電素子13Xの変形量が大きくなる。圧電素子13Xの変形量を大きくするには、圧電素子13Xに高い駆動電圧を付与する必要がある。この点、本実施形態では、ノズル12Nの直径D[μm]とノズル12Nのテーパー角度θ[°]とがθ>1.9×Dを満たすことにより、圧電素子13Xの所定の変形量を得るための、圧電素子13Xに付与する駆動電圧を低くできる。そのため、高粘度のインクを用いる場合に、圧電素子13Xの変形量を大きくする必要があっても、圧電素子13Xに付与する駆動電圧を低くできる。
【0053】
なお、固有周波数Frが200kHz以上であること、及び、圧電素子13Xに付与する駆動電圧が低いことを実現するため、ノズル12Nの直径D及びテーパー角度θを最適化する代わりに、圧力室12Pの幅W及び長さLを最適化することが考えられる。しかしながら、圧力室12Pの幅W及び長さLを最適化するには、圧力室12Pとアクチュエータ部材13との双方を考慮して最適化する必要がある。本実施形態では、ノズル12Nの直径D及びテーパー角度θを最適化するため、ノズル12Nだけを考慮して最適化すればよい。
【0054】
圧電素子13Xが変形すると、圧力室12Pの形状が変化する。圧力室12Pは、圧電素子13Xの変形を吸収するダンパとして機能する。圧力室12Pの容積が小さいほど、圧力室12Pを構成する流路部材12の剛性が大きい。流路部材12の剛性が大きいほど、個別流路12Bの固有周波数Frが高い。ここで、本実施形態の圧電素子13Xは、薄膜圧電素子である。薄膜圧電素子は、厚みTが小さいため、変形し易く、圧力室12Pが小さくても十分に変形できる。したがって、圧電素子13Xが薄膜圧電素子である場合、圧力室12Pを小さくすることで固有周波数Frを高めて固有周波数Frが200kHz以上という要件を満たすことができる。さらに、厚みTが小さい薄膜圧電素子は変形し易いため、低い駆動電圧で圧電素子13Xを十分に変形させることができる。
【0055】
薄膜圧電素子の厚みTは、5μm以下である。薄膜圧電素子の厚みTが5μm以下の場合、圧力室12Pを小さくすることで固有周波数Frを高めて固有周波数Frが200kHz以上という要件を満たすことと、低い駆動電圧で圧電素子13Xを十分に変形させることとを、より確実に実現できる。
【0056】
圧力室12Pの幅Wは、300μm以下である。圧力室12Pの幅Wが小さいほど、圧力室12Pを構成する流路部材12の剛性が大きい。流路部材12の剛性が大きいほど、個別流路12Bの固有周波数Frが高い。本実施形態では、圧力室12Pの幅Wが300μm以下と小さいため、固有周波数Frが200kHz以上という要件をより確実に満たすことができる。
【0057】
圧力室12Pの長さLは、350μm以下である。圧力室12Pの長さLが小さいほど、圧力室12Pを構成する流路部材12の剛性が大きい。流路部材12の剛性が大きいほど、個別流路12Bの固有周波数Frが高い。本実施形態では、圧力室12Pの長さLが350μm以下と小さいため、固有周波数Frが200kHz以上という要件をより確実に満たすことができる。
【0058】
テーパー角度θは、45°未満である。テーパー角度θが45°以上であると、ノズル12Nを画定する側壁の勾配が大きすぎることで、ノズル12Nの開口にあるメニスカスがノズル12Nの上端に向かって移動し、メニスカスが壊れ易い。この点、本実施形態では、テーパー角度θが45°未満であるため、ノズル12Nの開口にあるメニスカスがノズル12Nの上端に向かって移動し難く、メニスカスが壊れ難い。
【0059】
テーパー角度θは、35°を超える。テーパー角度θが小さいほど、接続路12Dの直径とノズル12Nの上端の直径との差が大きい。その差が大きいと、接続路12Dを流れるインクは、ノズル12Nの上端に至る際に大きな抵抗を受ける。すると、圧電素子13Xがインクに付与した圧力が当該抵抗によって減衰し、ノズル12Nから吐出されるインクの量に影響する。ノズル12Nから所定量のインク滴を吐出させるためには、ノズル12Nのテーパー角度θが小さいほど、圧電素子13Xに付与する駆動電圧を高くして、圧力が減衰する影響を打ち消す必要がある。この点、本実施形態では、テーパー角度θが35°を超えるため、接続路12Dの直径とノズル12Nの上端の直径との差が小さい。したがって、上記のような圧力の減衰が生じず、圧電素子13Xに付与する駆動電圧を低くできる。
【0060】
<第2実施形態>
第1実施形態では、図3に示すとおり、ノズル12Nの開口が円形状である。これに対し、第2実施形態では、図6に示すとおり、ノズル212Nの開口が矩形状である。第2実施形態のようにノズル212Nの開口が矩形状の場合、当該矩形と同じ面積の円の直径をノズルの直径Dとする。
【0061】
第1実施形態のノズル12Nは、金属部材で画定され、レーザー加工又はパンチング加工で形成される。これに対し、第2実施形態のノズル212Nは、シリコン部材で画定され、エッチング加工で形成される。圧力室212Pも、シリコン部材で画定され、エッチング加工で形成される。例えば、流路部材は、複数のプレートを含む。複数のプレートのうちノズル212N及び圧力室212Pを有するプレートは、シリコンプレートである。
【0062】
レーザー加工又はパンチング加工で図3に示すような円形状の開口を有するノズル12Nを形成するときの加工精度は、レーザー加工又はパンチング加工で図6に示すような矩形状の開口を有するノズル212Nを形成するときの加工精度よりも高い。一方、エッチング加工で図6に示すような矩形状の開口を有するノズル212Nを形成するときの加工精度は、エッチング加工で図3に示すような円形状の開口を有するノズル12Nを形成するときの加工精度よりも高い。
【0063】
加工精度が高いことで、ノズル212Nの直径Dを所望の値にすることができる。また、複数のノズル212N間での直径Dのばらつきがなくなる。
【0064】
シリコン材料に対して適用されるエッチング加工では、金属材料に対して適用されるレーザー加工又はパンチング加工よりも、微細な加工ができる。ここで、本実施形態では、ノズル212Nだけでなく、圧力室212Pも、シリコン材料で画定され、エッチング加工で形成される。この場合、エッチングの微細な加工によって、圧力室212Pの容積を小さくできる。圧力室212Pの容積が小さいと、圧力室212Pを構成する流路部材の剛性を大きく、個別流路212Bの固有周波数Frを高くできる。また、容積が小さい圧力室21P2に対し、変形し易い薄膜圧電素子を設けることで、駆動電圧を低くできる。
【0065】
<変形例>
以上、本開示の好適な実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限られるものではない。本開示は、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な設計変更が可能なものである。
【0066】
上述の実施形態において、圧電素子を構成する電極は、個別電極及び共通電極を含む2層構成であるが、3層構成であってもよい。例えば、3層構成とは、高電位及び低電位が選択的に付与される駆動電極と、高電位に保持される高電位電極と、低電位に保持される低電位電極とを含む構成である。
【0067】
本開示の液滴吐出ヘッドの種類は、ライン式に限定されず、シリアル式であってもよい。
【0068】
液滴を吐出する対象は、用紙に限定されない。例えば、液滴を吐出する対象は、布、基板又はプラスチックであってもよい。
【0069】
ノズルから吐出される液滴は、インク滴に限定されない。例えば、液滴は、インク中の成分を凝集又は析出させる処理液の液滴であってもよい。
【0070】
本開示は、プリンタに限定されず、ファクシミリ、コピー機及び複合機にも適用可能である。また、本開示は、画像の記録以外の用途で使用される液滴吐出装置にも適用可能である。例えば、本開示は、基板に導電性の液体を吐出して導電パターンを形成する液滴吐出装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 ヘッド(液滴吐出ヘッド)
12 流路部材
12B;212B 個別流路(流路)
12N;212N ノズル
12P;212P 圧力室
13X 圧電素子
100 プリンタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6